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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】改変された穀類粒
(51)【国際特許分類】
   A01H 5/00 20180101AFI20241029BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20241029BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241029BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20241029BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20241029BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20241029BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20241029BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20241029BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20241029BHJP
   C12N 15/90 20060101ALN20241029BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
A01H5/00 A ZNA
A01H6/46
C12N15/29
C12N15/63 Z
C12N5/10
A23L33/115
C12N15/53
C12N9/02
A23L7/10 A
A23D9/00
A23L29/212
A23K10/30
C12N15/90 Z
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526925
(86)(22)【出願日】2022-11-04
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 AU2022051328
(87)【国際公開番号】W WO2023077199
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】2021903546
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590003283
【氏名又は名称】コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガナイゼーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,キジン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,チン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ゾンイ
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,シュエ-ロン
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B023
4B025
4B026
4B065
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150CE01
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018MA07
4B018MD49
4B018ME02
4B018ME04
4B018MF01
4B023LC08
4B023LE01
4B023LE07
4B023LE08
4B023LE30
4B023LG01
4B023LP20
4B025LD08
4B025LG02
4B026DC03
4B026DG07
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
(57)【要約】
本発明は、高いオレイン酸含有量及び改善された油安定性を有する、コメ穀粒及び外皮などの穀類粒及び外皮に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変FAD2-1遺伝子及び遺伝子改変LOX3遺伝子を含む、稔性の穀類粒であって、前記穀粒が、
i)少なくともある程度のFAD2-1タンパク質活性であって、前記FAD2-1活性が、野生型穀類粒と比較した場合、低減されている、FAD2-1タンパク質活性と、
ii)前記野生型穀類粒と比較した場合、低減されたLOX3タンパク質活性と、を含む、穀類粒。
【請求項2】
コメ穀粒である、請求項1に記載の穀粒。
【請求項3】
前記穀粒から抽出された油が、前記野生型穀類粒から抽出された油よりも安定である、請求項1又は2に記載の穀粒。
【請求項4】
前記穀粒が、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、50%~80%、55%~75%、55%~70%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項5】
前記穀粒が、合計18%、15%未満、15%~22%、又は15%~21%のパルミチン酸(w/w乾燥重量)を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項6】
前記穀粒が、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%~20%、又は5%~15%のリノール酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項7】
前記穀粒が、LOX3タンパク質活性を有しない、請求項1~6のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項8】
前記遺伝子改変LOX3遺伝子に対してホモ接合性である、請求項1~7のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項9】
前記LOX3遺伝子の前記遺伝子改変が、前記LOX3遺伝子における未成熟停止コドンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項10】
前記遺伝子改変FAD2-1遺伝子に対してホモ接合性である、請求項1~9のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項11】
前記遺伝子改変FAD2-1遺伝子に対してヘテロ接合性である、請求項1~10のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項12】
以下:
i)野生型FAD2-1アレル及びノックアウトFAD2-1アレル、
ii)野生型FAD2-1アレル、並びに低減された量のFAD2-1タンパク質を産生し、及び/若しくはFAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質をコードするFAD2-1アレル、又は
iii)低減された量のFAD2-1タンパク質を産生し、及び/若しくはFAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質をコードするFAD2-1アレル、並びにノックアウトFAD2-1アレルのうちの1つを含む、請求項11に記載の穀粒。
【請求項13】
前記遺伝子改変FAD2-1遺伝子が、変異体FAD2-1タンパク質をコードする、請求項1~12のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項14】
前記変異体FAD2-1が、野生型FAD2-1タンパク質よりも5%~95%低い、20%~80%低い、40%~70%低い、又は50%~60%低い、Δ12デサチュラーゼ活性を有する、請求項13に記載の穀粒。
【請求項15】
FAD2-1タンパク質活性が低減された前記FAD2-1タンパク質が、配列番号10又は配列番号11に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項16】
前記穀粒のゲノムにおいて他のFAD2遺伝子の野生型活性を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項17】
前記遺伝子改変の一方又は両方が、先祖の穀類植物を遺伝子編集することによって導入された、請求項1~16のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項18】
前記穀粒が、前記野生型穀類粒と比較した場合、低減されたFATB活性を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項19】
外来性dsRNAを含まない、請求項1~18のいずれか一項に記載の穀粒。
【請求項20】
遺伝子改変細胞を含む、穀類外皮であって、
i)少なくともある程度のFAD2-1タンパク質活性であって、前記FAD2-1活性が、野生型穀類外皮と比較した場合、低減されている、FAD2-1タンパク質活性と、
ii)前記野生型穀類外皮と比較した場合、低減されたLOX3タンパク質活性と、を含む、穀類外皮。
【請求項21】
請求項2~19のいずれか一項に定義される特徴のうちの1つ以上を有する、請求項20に記載の外皮。
【請求項22】
抽出された穀類粒油又は穀類外皮油であって、50%~80%、又は55%~80%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有し、110℃で20L/時間の空気流量で行われるランシマット試験によって測定して、少なくとも25時間の誘導時間を有する、穀類粒油又は穀類外皮油。
【請求項23】
請求項1に記載のi)及びii)を欠く穀類粒又は外皮から抽出された穀類油よりも安定である、抽出された穀類粒油又は穀類外皮油。
【請求項24】
コメ穀粒油又はコメ外皮油である、請求項22又は23に記載の抽出された穀類粒油又は外皮油。
【請求項25】
55%~75%、又は55%~70%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する、請求項22~24のいずれか一項に記載の抽出された穀類粒油又は外皮油。
【請求項26】
22%未満、21%未満、20%未満、18%未満、15%未満、15%~22%、又は15%~21%のパルミチン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する、請求項22~25のいずれか一項に記載の抽出された穀類粒油又は外皮油。
【請求項27】
20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%~20%、又は5%~15%のリノール酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する、請求項22~26のいずれか一項に記載の抽出された穀類粒油又は外皮油。
【請求項28】
対応する野生型FAD2-1タンパク質よりも5%~95%低い、20%~80%低い、40%~70%低い、又は50%~60%低い、Δ12デサチュラーゼ活性を有する、実質的に精製された及び/又は組換え変異体FAD2-1タンパク質。
【請求項29】
配列番号10又は配列番号11に記載のアミノ酸の配列を含む、請求項28に記載のタンパク質。
【請求項30】
請求項28又は29に記載のタンパク質をコードする、単離された及び/又は外来性ポリヌクレオチド。
【請求項31】
請求項30に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項32】
前記ポリヌクレオチドが、プロモーターに動作可能に連結されている、請求項31に記載のベクター。
【請求項33】
請求項1に定義される遺伝子改変、請求項30に記載のポリヌクレオチド、又は請求項31若しくは32に記載のベクターを含む、細胞、好ましくは、コメ細胞。
【請求項34】
コメ穀粒細胞である、請求項33に記載の細胞。
【請求項35】
コメ外皮細胞である、請求項33又は34に記載の細胞。
【請求項36】
前記ポリヌクレオチドが、前記細胞のゲノム内に組み込まれている、請求項33~35のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項37】
請求項1~19のいずれか一項に記載の穀類粒、請求項20若しくは21に記載の穀類外皮、請求項28若しくは29に記載のタンパク質、請求項30に記載のポリヌクレオチド、請求項31若しくは32に記載のベクター、又は請求項33~36のいずれか一項に記載の細胞のうちの1つ以上を含む、稔性の穀類植物、好ましくは稲体。
【請求項38】
圃場で成長する、少なくとも100個の請求項37に記載の稲体の集団。
【請求項39】
請求項33~36のいずれか一項に記載の細胞を産生する方法であって、請求項1に定義される遺伝子改変、請求項30に記載のポリヌクレオチド、又は請求項31若しくは32に記載のベクターを、細胞内に導入するステップを含む、方法。
【請求項40】
FAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質を同定する方法であって、
i)配列番号1~9のうちのいずれか1つ以上に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも99.5%同一であるが、同一ではないアミノ酸配列を有するポリペプチドを得ることと、
ii)前記ポリペプチドのFAD2-1タンパク質活性を、Δ12位でオレイン酸に二重結合を導入する前記ポリペプチドの能力を決定することによって評価することと、
iii)ある程度のFAD2-1タンパク質活性を有するが、配列番号1~9のうちのいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質よりも低いFAD2-1タンパク質活性を有する、ポリペプチドを選択することと、を含む、方法。
【請求項41】
遺伝子改変穀類植物を生産する方法であって、
i)請求項28又は29に記載のタンパク質をコードするように、遺伝子改変を穀類細胞内に導入することと、
ii)前記細胞から植物を生産することと、を含む、方法。
【請求項42】
前記植物の稔性を分析することと、稔性である植物を選択することと、を更に含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記植物若しくはその子孫の穀粒及び/又は外皮の脂肪酸組成を分析することと、請求項3~5のいずれか一項に定義される総脂肪酸含有量を有する穀粒及び/又は外皮を生産する植物を選択することと、を更に含む、請求項41又は42に記載の方法。
【請求項44】
i)前記細胞が、機能的LOX3タンパク質をコードしないか、又は
ii)前記方法が、前記植物若しくはその子孫が、その穀粒及び/若しくは外皮において機能的LOX3タンパク質をコードしないように、遺伝子改変を導入することを更に含む、請求項41~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
穀粒をステップii)の前記植物から収穫することを更に含み、前記穀粒が、前記遺伝子改変を有する、請求項41~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
遺伝子改変穀粒から1世代以上の遺伝子改変子孫植物を生産することを更に含み、前記子孫植物が、前記遺伝子改変を有する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
少なくともある程度のFAD2-1タンパク質活性を含む穀粒を有する第1の遺伝子改変親植物であって、野生型穀類粒と比較した場合、前記FAD2-1タンパク質活性が低減されている、第1の遺伝子改変親植物と、前記野生型穀類粒と比較した場合、低減されたLOX3タンパク質活性を含む穀粒を有する第2の遺伝子改変親植物とを交雑することを含む、請求項37に記載の穀類植物を生産する方法。
【請求項48】
請求項37に記載の穀類植物又は前記植物からの穀粒を選択する方法であって、
i)各々が、前駆穀類細胞、穀粒、又は植物の変異誘発処理から得られた穀類植物、穀粒、又は外皮の集団を、請求項1~21のいずれか一項に定義される穀粒若しくは外皮の生産について、又は前記遺伝子改変の存在についてスクリーニングするステップと、
ii)ステップ(i)の前記集団から、請求項1~19のいずれか一項に定義される穀粒を生産する穀類植物又は穀粒を選択するステップと、を含み、
それによって、前記穀類植物又は穀粒を選択する、方法。
【請求項49】
ステップii)が、
i)子孫植物若しくは前記子孫植物からの穀粒からのDNAを含む試料を、前記遺伝子改変について分析すること、及び/又は
ii)前記穀粒又は前記穀粒からの外皮の前記脂肪酸含有量を分析することを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
請求項37に記載の穀類植物を同定するための方法であって、
i)核酸試料を穀類植物から得るステップと、
ii)野生型穀類粒と比較した場合、植物の穀粒におけるFAD2-1タンパク質活性を低減するが、無効化しない第1の遺伝子改変、及び野生型穀類粒と比較した場合、前記植物の穀粒のLOX3タンパク質活性を低減する第2の遺伝子改変の存在又は非存在について、前記試料をスクリーニングするステップと、を含む、方法。
【請求項51】
抽出された穀類粒油及び/又は穀類外皮油を製造するプロセスであって、
i)請求項1~21のいずれか一項に記載の穀粒及び/又は外皮を穀類植物から得るステップと、
ii)前記穀粒及び/又は穀類外皮から油を抽出するステップと、を含む、プロセス。
【請求項52】
前記抽出された油が、請求項22~27のいずれか一項に定義されるようなものである、請求項51に記載のプロセス。
【請求項53】
穀類植物の一部分を生産する方法であって、
a)請求項37、穀類植物又は少なくとも100個のこのような穀類植物を圃場で成長させることと、
b)前記穀類植物の一部分を前記穀類植物又は複数の穀類植物から収穫することと、を含む、方法。
【請求項54】
前記一部分が、穀粒である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
穀粒から得られた穀類の粉、外皮、全粒粉、発芽物、デンプン、又は油を製造する方法であって、
a)請求項37に記載の植物の穀粒、又は請求項1~21のいずれか一項に記載の穀粒及び/若しくは外皮を得ることと、
b)前記穀粒を加工して、前記粉、外皮、全粒粉、発芽物デンプン、又は油を製造することと、を含む、方法。
【請求項56】
前記油が、穀類外皮油である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
請求項51又は請求項52に記載のプロセスによって得られたか又は得ることが可能な、脂質又は油。
【請求項58】
請求項37に記載の植物、又は請求項1~21のいずれか一項に記載の穀粒及び/若しくは外皮から製造された、製品。
【請求項59】
前記遺伝子改変を含む、請求項58に記載の製品。
【請求項60】
前記製品が、食品成分、飲料成分、食品製品、又は飲料製品である、請求項58又は59のいずれか一項に記載の製品。
【請求項61】
請求項60に記載の食品成分又は飲料成分を調製する方法であって、請求項37に記載の穀類植物の穀粒、請求項1~21のいずれか一項に記載の穀粒及び/若しくは外皮、又は前記穀粒からの外皮、粉、全粒粉、発芽物、デンプン、若しくは油を加工して、前記食品成分又は飲料成分を製造することを含む、方法。
【請求項62】
請求項60に記載の食品製品又は飲料製品を調製する方法であって、請求項37に記載の穀類植物の穀粒、請求項1~21のいずれか一項に記載の穀粒及び/若しくは外皮、又は前記穀粒からの外皮、粉、全粒粉、発芽物、デンプン、若しくは油を加工して、前記食品又は飲料を製造することを含む、方法。
【請求項63】
食品を調製する方法であって、請求項23~27又は57のいずれか一項に記載の穀類油中の食用物質を調理することを含む、方法。
【請求項64】
動物飼料若しくは食品としての、又は動物摂取用飼料若しくはヒト摂取用食品を製造するための、請求項37に記載の穀類植物若しくはその一部分、又は請求項1~21に記載の穀粒及び/若しくは外皮の使用。
【請求項65】
請求項28若しくは請求項29に記載のポリペプチド、請求項30に記載のポリヌクレオチド、請求項31若しくは請求項32に記載のベクター、請求項33~36のいずれか一項に記載の細胞、又は請求項23~27若しくは57のいずれか一項に記載の油のうちの1つ以上と、1つ以上の許容される担体と、を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いオレイン酸含有量及び改善された油安定性を有する、コメ穀粒及び外皮(bran)などの穀類粒及び外皮に関する。
【背景技術】
【0002】
コメ(Oryza sativa L.)は、具体的には世界全体の約90%を生産するアジアにおいて、世界人口の半分を上回る人々の最も重要な主食のうちの1つである。世界において、コメの大部分は、本質的にコメ穀粒の胚乳である「白米」として食べられており、収穫された穀粒を粉砕して外側の外皮層及び胚芽(胚及び胚盤)を除去することによって製造されている。特に暑い熱帯条件下では、「玄米」は、貯蔵時に良好な状態で維持されないことを主な理由として、除去が行われる。玄米の栄養の質及び潜在的な健康上の利点は、栄養学者、生産者、植物バイオテクノロジストからますます関心を集めている。
【0003】
コメ外皮
コメ外皮は、コメ穀粒の外側の茶色の層であり、胚、果皮、糊粉層、及び亜糊粉層を含む。コメ外皮は、ミネラル豊富であることが知られているが、タンパク質、油、粗繊維コメ外皮は、主に白米粉砕の副産物として得られる。現在、世界生産量は、およそ6600~7500万トンである。概して、コメ外皮は、14~16%のタンパク質、12~23%の脂質、及び8~10%の粗繊維で構成されている(Juliano,1985)。
【0004】
コメ外皮油
コメ外皮は、コメ外皮油(RBO)の源である。例えば、ヒトの健康上の利点が実証されているので、調理用の食用油としてのRBOへの関心は、増加している。研究は、RBO摂取が、高脂血症対象において、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)を顕著に減少させ、抗酸化能力を増加させることを示した(Bumrungpert et al 2019、Berger et al.,2005)。RBOの健康上の特徴は、他の植物油のおよそ1%の油含有量と比較して3~4.5%高い、トコフェロール、フィトステロール、テルペン、及び混合イソプレノイドなどの不けん化性の重要な微量構成要素と関連付けられている。RBOは、概して、1.8%のフィトステロール、1.2~1.7%のガンマ-オリザノール、最大0.17%のトコトリエノール、及び0.08%のトコフェロールを含有する(Pal and Pratap,2017)。これらの微量な成分は、一部が、皮膚の健康、加齢、視力、及び血中コレステロールに有益な効果を及ぼすこと、又は乳がん若しくは心血管疾患を予防することが示されているので、関心が高まっている(Theriault et al.,1999、Moghadasian and Frohlich,1999)。高コレステロール食を与えられたラットにおいて、これらの生体活性構成要素は、脂質プロファイルを改善することも示されている(Ha et al.,2005)。主に外皮に見出される別の重要な構成要素は、ビタミンA前駆体である。しかしながら、これらの栄養素及び健康上の利点は、コメの研磨及び白米の消費を通じて失われる。
【0005】
穀類中の脂肪酸生合成酵素の改変
かなりの研究が、油糧種子における脂肪酸の生合成及び改変に対して行われてきたこととは対照的に、穀類における油の改変は、比較的探索されていない。これは、おそらく、穀類粒における油のレベルがはるかに低く(約1.5~6重量%)、結果として、ヒトの食事において、穀類からの油の重要性が低いと捉えられていることに起因する。
【表1】
【0006】
コメ穀粒の外層を研磨することを通じて得られる栄養豊富な外側のコメ外皮層は、トコトリエノール、及び植物エストロゲンでもあるガンマ-オリザノールなどの抗酸化化合物を含有する優れた食物源である(Rukmini and Raghuram,1991)。コメ外皮油に存在する生体活性化合物は、ヒトにおいてコレステロールを低下させることが見出されている(Most et al.,2005)。
【0007】
全粒穀類の有用性及び貯蔵寿命を向上させ、更なる加工を必要とせずに、外皮及びRBOの酸敗を防止するために、外皮層における穀類粒脂質プロファイルを改善する必要性が存在する。健康上の利益のために油組成が改善された穀粒を生産する、コメなどの穀類変種、同時に、貯蔵時により安定であり、例えば、ヒトの食事における玄米、コメ外皮、及びRBOのより多くの使用を可能にする必要性も存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、油特徴が改善された穀類粒及び外皮を生産した。
【0009】
したがって、第1の態様では、本発明は、遺伝子改変FAD2-1遺伝子及び遺伝子改変LOX3遺伝子を含む、稔性の穀類粒であって、穀粒が、
i)少なくともある程度のFAD2-1タンパク質活性であって、FAD2-1活性が、野生型穀類粒と比較した場合、低減されている、FAD2-1タンパク質活性と、
ii)野生型穀類粒と比較した場合、低減されたLOX3タンパク質活性と、を含む、穀類粒を提供する。
【0010】
一実施形態では、穀類粒は、コメ、モロコシ、小麦、オーツ麦、ライ麦、大麦、又はトウモロコシ穀粒である。一実施形態では、穀粒は、モロコシ穀粒である。一実施形態では、穀粒は、コメ穀粒である。
【0011】
一実施形態では、穀粒から抽出された油は、野生型穀類から抽出された油よりも安定である。
【0012】
一実施形態では、穀粒は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、50%~80%、55%~75%、55%~70%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。穀粒が総脂肪酸含有量を有する一実施形態では、55%~75%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む。一実施形態では、穀粒は、55%~65%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。
【0013】
一実施形態では、穀粒は、22%未満、21%未満、20%未満、18%未満、15%未満、15%~22%、又は15%~21%のパルミチン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。一実施形態では、穀粒は、10%~15%のパルミチン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。一実施形態では、穀粒は、10%~13%のパルミチン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。
【0014】
一実施形態では、穀粒は、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%~20%、又は5%~15%のリノール酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。一実施形態では、穀粒は、15%~25%のリノール酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。
【0015】
一実施形態では、穀粒は、55%~65%のオレイン酸、10%~15%のパルミチン酸、及び15%~25%のリノール酸を含む総脂肪酸含有量を有する。
【0016】
一実施形態では、穀粒は、低減された量のFAD2-1タンパク質を産生し、並びに/又はFAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質、LOX3ノックアウト、FATB2ノックアウト、FATB3ノックアウト、及びFATB4ノックアウトをコードする、FAD2-1アレルに対してホモ接合性である。
【0017】
一実施形態では、穀粒は、低減された量のFAD2-1タンパク質を産生し、並びに/又はFAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質、LOX3ノックアウト、FATB1ノックアウト、及びFATB4ノックアウトをコードする、FAD2-1アレルに対してホモ接合性である。
【0018】
一実施形態では、穀粒は、低減された量のFAD2-1タンパク質を産生し、並びに/又はFAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質、LOX3ノックアウト、FATB1ノックアウト、FATB2ノックアウト、FATB3ノックアウト、及びFATB4ノックアウトをコードする、FAD2-1アレルに対してホモ接合性である。
【0019】
一実施形態では、穀粒は、LOX3タンパク質活性を有しない。例えば、遺伝子改変は、LOX3遺伝子における未成熟停止コドンである。
【0020】
一実施形態では、穀粒は、LOX3遺伝子における遺伝子改変に対してホモ接合性である。一実施形態では、LOX3遺伝子の遺伝子改変は、LOX3遺伝子における未成熟停止コドンである。
【0021】
一実施形態では、穀粒は、FAD2-1遺伝子における遺伝子改変に対してホモ接合性である。
【0022】
一実施形態では、穀粒は、FAD2-1遺伝子における遺伝子改変に対してヘテロ接合性である。
【0023】
一実施形態では、穀粒は、野生型FAD2-1アレル及びノックアウトFAD2-1アレルを含む。
【0024】
一実施形態では、穀粒は、野生型FAD2-1アレル、並びに低減された量のFAD2-1タンパク質を産生し、及び/又はFAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質をコードするFAD2-1アレルを含む。
【0025】
一実施形態では、穀粒は、低減された量のFAD2-1タンパク質を産生し、及び/又はFAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質をコードするFAD2-1アレル、並びにノックアウトFAD2-1アレルを含む。
【0026】
一実施形態では、遺伝子改変FAD2-1遺伝子は、変異体FAD2-1タンパク質をコードする。一実施形態では、変異体FAD2-1は、野生型FAD2-1タンパク質よりも5%~95%低い、20%~80%低い、40%~70%低い、又は50%~60%低い、Δ12デサチュラーゼ活性を有する。一実施形態では、穀粒変異体FAD2-1は、配列番号1~9のうちのいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるFAD2-1タンパク質などの野生型FAD2-1タンパク質よりも、5%~95%低い、20%~80%低い、40%~70%低い、又は50%~60%低い、Δ12デサチュラーゼ活性を有する。
【0027】
一実施形態では、FAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質は、配列番号10又は配列番号11に記載のアミノ酸配列を含むか、又はそれからなる。一実施形態では、FAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質は、改変された翻訳開始部位を有する。
【0028】
一実施形態では、穀粒は、穀粒のゲノムにおいて他のFAD2遺伝子の野生型活性を有する。例えば、本発明のコメ穀粒は、野生型FAD2-2、FAD2-3、及びFAD2-4活性を有する。
【0029】
一実施形態では、遺伝子改変のうちの1つ又は両方は、先祖の穀類植物を遺伝子編集することによって導入された。
【0030】
一実施形態では、穀粒は、野生型穀類粒と比較した場合、低減されたFATB活性を有する。一実施形態では、FATBは、FATB1である。
【0031】
一実施形態では、穀粒は、外来性dsRNAを含まない。
【0032】
更なる態様では、本発明は、遺伝子改変細胞を含む、穀類外皮であって、
i)少なくともある程度のFAD2-1タンパク質活性であって、FAD2-1活性が、野生型穀類外皮と比較した場合、低減されている、FAD2-1タンパク質活性と、
ii)野生型穀類外皮と比較した場合、低減されたLOX3タンパク質活性と、を含む、穀類外皮を提供する。
【0033】
外皮は、脂肪酸プロファイルなどの本発明の穀類粒について上に定義された関連する特徴のうちのいずれかを有し得る。例えば、一実施形態では、外皮は、コメ外皮である。
【0034】
一態様では、本発明は、抽出された穀類粒油又は穀類外皮油であって、50%~80%、又は55%~80%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有し、110℃で20L/時間の空気流量で行われるランシマット試験によって測定して、少なくとも25時間の誘導時間を有する、穀類粒油又は穀類外皮油を提供する。
【0035】
別の態様では、本発明は、本発明のi)及びii)を欠く穀類粒又は外皮から抽出された穀類油よりも安定である、抽出された穀類粒油又は穀類外皮油を提供する。一実施形態では、本態様の抽出された穀類粒油又は外皮油は、50%~80%、又は55%~80%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。
【0036】
一実施形態では、穀類油は、コメ、モロコシ、小麦、オーツ麦、ライ麦、大麦、又はトウモロコシ油である。一実施形態では、外皮油は、コメ、モロコシ、小麦、オーツ麦、ライ麦、大麦、又はトウモロコシ外皮油である。一実施形態では、油は、モロコシ穀粒油又は外皮油である。一実施形態では、油は、コメ穀粒油又は外皮油である。
【0037】
一実施形態では、本発明の抽出された穀類粒油又は外皮油は、55%~75%、又は55%~70%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。一実施形態では、本発明の抽出された穀類粒油又は外皮油は、55%~65%のオレイン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。
【0038】
一実施形態では、本発明の抽出された穀類粒油又は外皮油は、22%未満、21%未満、20%未満、18%未満、15%未満、15%~22%、又は15%~21%のパルミチン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。一実施形態では、本発明の抽出された穀類粒油又は外皮油は、10~15%のパルミチン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。一実施形態では、本発明の抽出された穀類粒油又は外皮油は、10~13%のパルミチン酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。
【0039】
一実施形態では、本発明の抽出された穀類粒油又は外皮油は、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%~20%、又は5%~15%のリノール酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。一実施形態では、本発明の抽出された穀類粒油又は外皮油は、15%~25%のリノール酸(w/w乾燥重量)を含む総脂肪酸含有量を有する。
【0040】
一実施形態では、本発明の抽出された穀類粒油又は外皮油は、55%~65%のオレイン酸、10%~15%のパルミチン酸、及び15%~25%のリノール酸を含む総脂肪酸含有量を有する。
【0041】
更なる態様では、本発明は、対応する野生型FAD2-1タンパク質よりも、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるFAD2-1タンパク質よりも、5%~95%低い、20%~80%低い、40%~70%低い、又は50%~60%低い、Δ12デサチュラーゼ活性を有する、実質的に精製された及び/又は組換変異体FAD2-1タンパク質を提供する。
【0042】
したがって、本態様は、配列番号1~9のうちのいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるものなどの野生型FAD2-1タンパク質を除外する。
【0043】
一実施形態では、変異体FAD2-1は、配列番号1~9に記載の、かつそれらのうちの1つ以上のアミノ酸配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも95.5%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0044】
一実施形態では、変異体FAD2-1は、配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも95.5%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0045】
一実施形態では、変異体FAD2-1は、配列番号6に記載のアミノ酸配列と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも95.5%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0046】
一実施形態では、タンパク質は、配列番号10又は配列番号11に記載のアミノ酸の配列を含む。
【0047】
一実施形態では、変異体は、野生型タンパク質のN末端切断である。一実施形態では、変異体は、野生型FAD2-1タンパク質の最初の6つのアミノ酸のうちの1つ以上又は全てを欠く。一実施形態では、変異体は、遺伝子改変翻訳開始部位を有するFAD2-1遺伝子によってコードされる。
【0048】
別の態様では、本発明は、本発明のタンパク質をコードする単離及び/又は外来性ポリヌクレオチドを提供する。
【0049】
別の態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0050】
一実施形態では、ポリヌクレオチドは、プロモーターに動作可能に連結されている。
【0051】
また提供されるのは、本明細書に定義される遺伝子改変、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターを含む、細胞、好ましくはコメ細胞である。
【0052】
一実施形態では、細胞は、穀類植物細胞である。本発明の穀類植物細胞の例としては、小麦、オーツ麦、ライ麦、大麦、コメ、コーン、モロコシ、又はトウモロコシ細胞が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、細胞は、モロコシ細胞である。一実施形態では、細胞は、コメ細胞である。
【0053】
好ましい実施形態では、細胞は、コメ外皮細胞などのコメ穀粒細胞である。
【0054】
一実施形態では、ポリヌクレオチドは、細胞のゲノム内に組み込まれる。
【0055】
更なる態様では、本発明は、本発明の穀類粒、本発明の穀類外皮、本発明のタンパク質、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、又は本発明の細胞のうちの1つ以上又は全てを含む、穀類植物を提供する。一実施形態では、植物は、モロコシ植物である。
【0056】
また提供されるのは、圃場で成長する、稲体などの少なくとも100個の本発明の植物の集団である。
【0057】
更に別の態様では、本発明は、本発明の細胞を産生する方法であって、本明細書に定義される遺伝子改変、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターを、細胞内に導入するステップを含む、方法を提供する。
【0058】
別の態様では、本発明は、FAD2-1タンパク質活性が低減されたFAD2-1タンパク質を同定する方法であって、
i)配列番号1~9のうちのいずれか1つ以上に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも99.5%同一であるが、同一ではないアミノ酸配列を有するポリペプチドを得ることと、
ii)ポリペプチドのFAD2-1タンパク質活性を、Δ12位でオレイン酸に二重結合を導入するポリペプチドの能力を決定することによって評価することと、
iii)ある程度のFAD2-1タンパク質活性を有するが、配列番号1~9のうちのいずれか1つに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質よりも低いFAD2-1タンパク質活性を有する、ポリペプチドを選択することと、を含む、方法を提供する。
【0059】
一実施形態では、パートi)のポリペプチドは、対応する野生型FAD2-1と比較して評価される。例えば、一実施形態では、方法は、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも99.5%同一であるが、同一ではないアミノ酸配列を有するポリペプチドを得ることと、
ii)ポリペプチドのFAD2-1タンパク質活性を、Δ12位でオレイン酸に二重結合を導入するポリペプチドの能力を決定することによって評価することと、
iii)ある程度のFAD2-1タンパク質活性を有するが、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質よりも低いFAD2-1タンパク質活性を有する、ポリペプチドを選択することと、を含む。
【0060】
一実施形態では、i)のポリペプチドは、野生型FAD2-1ポリペプチドのN末端及び/又はC末端切断である。
【0061】
別の態様では、本発明は、遺伝子改変穀類植物を生産する方法であって、
i)本発明のタンパク質をコードするように、遺伝子改変を穀類細胞内に導入することと、
ii)細胞から植物を生産することと、を含む、方法を提供する。
【0062】
一実施形態では、方法は、植物の稔性を分析することと、稔性である植物を選択することと、を更に含む。
【0063】
一実施形態では、方法は、植物又はその子孫の穀粒及び/又は外皮の脂肪酸組成を分析することと、本明細書に定義される総脂肪酸含有量を有する穀粒及び/又は外皮を生産する植物を選択することと、を更に含む。
【0064】
一実施形態では、細胞は、機能的LOX3タンパク質をコードしない。
【0065】
一実施形態では、方法は、植物又はその子孫が、その穀粒及び/又は外皮において機能的LOX3タンパク質をコードしないように、遺伝子改変を導入することを更に含む。
【0066】
一実施形態では、方法は、穀粒をステップii)の植物から収穫することを更に含み、穀粒が、遺伝子改変を有する。
【0067】
一実施形態では、方法は、遺伝子改変穀粒から1世代以上の遺伝子改変子孫植物を生産することを更に含み、子孫植物が、遺伝子改変を有する。
【0068】
別の態様では、本発明は、本発明の穀粒植物を生産する方法であって、少なくともある程度のFAD2-1タンパク質活性を含む穀粒を有する第1の遺伝子改変親植物であって、野生型穀類粒と比較した場合、FAD2-1タンパク質活性が低減されている、第1の遺伝子改変親植物と、野生型穀類粒と比較した場合、低減されたLOX3タンパク質活性を含む穀粒を有する第2の遺伝子改変親植物とを交雑することを含む、方法を提供する。
【0069】
別の態様では、本発明は、本発明の穀類植物又は植物からの穀粒を選択する方法であって、
i)各々が、前駆穀類細胞、穀粒、又は植物の変異誘発処理から得られた穀類植物、穀粒、又は外皮の集団を、本明細書に定義される穀粒若しくは外皮の生産について、又は遺伝子改変の存在についてスクリーニングするステップと、
ii)ステップ(i)の集団から、本明細書に定義される穀粒を生産する穀類植物又は穀粒を選択するステップと、を含み、
それによって、穀類植物又は穀粒を選択する、方法を提供する。
【0070】
一実施形態では、ステップii)は、
i)子孫植物若しくは子孫植物からの穀粒からのDNAを含む試料を、遺伝子改変について分析すること、及び/又は
ii)穀粒又は穀粒からの外皮の脂肪酸含有量を分析することを含む。
【0071】
別の態様では、本発明は、本発明の穀類植物を同定するための方法であって、
i)核酸試料を穀類植物から得るステップと、
ii)野生型穀類粒と比較した場合、植物の穀粒におけるFAD2-1タンパク質活性を低減するが、無効化しない第1の遺伝子改変、及び野生型穀類粒と比較した場合、植物の穀粒のLOX3タンパク質活性を低減する第2の遺伝子改変の存在又は非存在について、試料をスクリーニングするステップと、を含む、方法を提供する。
【0072】
別の態様では、本発明は、抽出された穀類粒油及び/又は穀類外皮油を製造するプロセスであって、
i)本発明の穀類植物から穀粒及び/又は外皮を得ることと、
ii)穀粒及び/又は穀類外皮から油を抽出することと、を含む、プロセスを提供する。
【0073】
一実施形態では、抽出された油は、本明細書に定義されるようなものである。
【0074】
別の態様では、本発明は、穀類植物の一部分を生産する方法であって、
a)本発明の穀類植物又は少なくとも100個のこのような穀類植物を圃場で成長させることと、
b)穀類植物の一部分を穀類植物又は複数の穀類植物から収穫することと、を含む、方法を提供する。
【0075】
一実施形態では、一部分は、穀粒である。
【0076】
別の態様では、本発明は、穀粒から得られる穀類の粉、外皮、全粒粉、発芽物、デンプン、又は油を製造する方法であって、
a)本発明の植物の穀粒、又は本発明の穀粒及び/若しくは外皮を得ることと、
b)穀粒を加工して、粉、外皮、全粒粉、発芽物デンプン、又は油を製造することと、を含む、方法を提供する。
【0077】
一実施形態では、油は、コメ外皮油などの穀類外皮油である。
【0078】
別の態様では、本発明は、本発明のプロセスによって得られるか、又は得ることが可能な脂質又は油を提供する。
【0079】
別の態様では、本発明は、本発明の植物、又は本発明の穀粒及び/若しくは外皮から製造される製品を提供する。
【0080】
一実施形態では、製品は、遺伝子改変を含む。
【0081】
一実施形態では、製品は、食品成分、飲料成分、食品製品、又は飲料製品である。
【0082】
一実施形態では、食品成分又は飲料成分は、全粒粉、粉、外皮、デンプン、発芽物、及び油からなる群から選択される。
【0083】
一実施形態では、食品製品は、動物飼料、朝食用シリアル、及びスナック食品からなる群から選択される。
【0084】
一実施形態では、飲料製品は、包装された飲料、又はエタノールを含む飲料である。
【0085】
別の態様では、本発明は、本発明の食品成分又は飲料成分を調製する方法であって、本発明の穀類植物の穀粒、本発明の穀粒及び/若しくは外皮、又は穀粒からの外皮、粉、全粒粉、発芽物、デンプン、若しくは油を加工して、食品成分又は飲料成分を製造することを含む、方法を提供する。
【0086】
更なる態様では、本発明は、本発明の食品製品又は飲料製品を調製する方法であって、本発明の穀類植物の穀粒、本発明の穀粒及び/若しくは外皮、又は穀粒からの外皮、粉、全粒粉、発芽物、デンプン、若しくは油を加工して、食品又は飲料を製造することを含む、方法を提供する。
【0087】
別の態様では、本発明は、食品を調製する方法をであって、本発明のコメ油などの、穀類油中の食用物質を調理することを含む、方法を提供する。
【0088】
また提供されるのは、動物飼料若しくは食品としての、又は動物摂取用飼料若しくはヒト摂取用食品を製造するための、本発明の穀類植物若しくはその一部分、又は本発明の穀粒及び/若しくは外皮の使用である。
【0089】
別の態様では、本発明は、本発明のポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、本発明の細胞、又は本発明の油のうちの1つ以上と、1つ以上の許容可能な担体と、を含む、組成物を提供する。
【0090】
本明細書のいずれの実施形態も、別途具体的に記載されない限り、任意の他の実施形態に準用すると解釈される。
【0091】
本発明の範囲は、本明細書に記載される具体的な実施形態によって限定されず、具体的な実施形態は、例示のみの目的で意図されている。機能的に均等な製品、組成物、及び方法は、明らかに、本明細書に記載される本発明の範囲内である。
【0092】
本明細書全体にわたって、別途具体的に記載されない限り又は文脈により別途必要とされない限り、単一ステップ、物質の組成物、ステップの群、又は物質の組成物の群への言及は、これらのステップ、物質の組成物、ステップの群、又は物質の組成物の群のうちの1つ及び複数(すなわち、1つ以上)を包含すると解釈される。
【0093】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってかつ添付の図を参照して、以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0094】
図1】コメからのOsFAD2のcDNA配列アラインメント。FAD2遺伝子におけるgRNA1及びgRNA2のガイドRNA標的配列は、標的1及び標的3のバーによって示される。
図2】pYLCRISPR_Cas9Pubi-HにおけるCRISPR遺伝子編集ベクターV1。
図3】OsFATB遺伝子とArabidopsis FATB1との、翻訳されたタンパク質配列アラインメント。アスタリスク*は、アラインメントされた配列における触媒トライアド(アスパラギン酸N-227、ヒスチジンH-229、及びシステインC-264)の部位を示す。
図4】ベクター2 FATB gRNAライゲーション産物(Golden Gate、BsaI):pYLCRISPR_Cas9Pubi-H-V2。
図5】ハーフシード脂肪酸組成。A、V1-13及びNegのT種子;B、V1-13の単一の穂からのT種子。
図6】A)系統遺伝子型キーは、以下のとおりである:KDは、fad2-1 KD/KD+lox3KO遺伝子型を指し、LOXは、FAD2WT+lox3-KO遺伝子型であり、Negは、陰性対照である。B)FAD2-KOは、ホモ接合性fad2-1 KO/KO系統であり、Negは、陰性対照を指し、FAD2-KDは、fad2-1 KD/KD+lox3KO遺伝子型を指し、FAD2-KD/KOは、fad2-1 KD/KO+lox3-KOを指し、LOX3は、FAD2-1WT+lox3 KO遺伝子型を指す。
図7】表5及び7に記載のV2変異体のハーフシード脂肪酸組成T種子。*参照を容易にするために、b1、b2、b3、及びb4は、それぞれ、FATB1、FATB2、FATB3、及びFATB4のうちの1つ以上の変異型の存在を指す。NEGは、陰性対照であり、Nipは、野生型Niponnbareを指す。
図8】高オレイン酸及び低パルミチン酸遺伝子型の総脂肪酸組成。玄米には、5つの主要脂肪酸(16:0、18:0、18:1、18:2、18:3)、並びにミリスチン酸(14:0)及び20:0などのいくらかの微量脂肪酸が存在する。
図9】ランシマット試験によるコメ外皮油抽出物の酸化安定性。A、遺伝子改変変異体及びFAD2-RNAi系統からのコメ外皮油抽出物の総脂肪酸組成。B、KDは、fad2-1 KD/KD+lox3KO遺伝子型を指し、LOXは、FAD2WT+lox3-KO遺伝子型であり、Negは、陰性対照である。C、FAD2は、FAD2-RNAiサイレント系統であり、NEGは、陰性対照である。
図10】3日間の貯蔵刺激アッセイにおける、遺伝子編集された変異体及びFAD2 RNAiサイレント系統のコメ外皮試料からのヘキサナール化合物の産生。D0(0日目)及びD3(3日目)は、貯蔵刺激の前後の試料を採取した時点を示す。A、KDは、fad2-1 KD/KD+lox3KO遺伝子型を指し、KKは、fad2-1 KD/KO+lox3KO遺伝子型を指し、LOXは、FAD2WT+lox3-KO遺伝子型であり、Negは、陰性対照である。B、FAD2は、FAD2-RNAiサイレント系統を指し、NCは、対応する陰性対照である。
図11】野生型穀類FAD2-1タンパク質のアラインメント。
図12-1】野生型穀類LOX3タンパク質のアラインメント。
図12-2】野生型穀類LOX3タンパク質のアラインメント。
【0095】
配列表の鍵
配列番号1-コメFAD2-1
配列番号2-大麦FAD2-1
配列番号3-トウモロコシFAD2-1
配列番号4-Brachypodium distachyon FAD2-1
配列番号5-Brassica napus FAD2-1
配列番号6-Glycine max FAD2-1
配列番号7-Carthamus tinctorius FAD2-1
配列番号8-Olea europaea FAD2-1
配列番号9-Setaria italica FAD2-1
配列番号10-変異体FAD2-1A
配列番号11-変異体FAD2-1B
配列番号12-コメFAD2-2
配列番号13-コメFAD2-3
配列番号14-コメFAD2-4
配列番号15-コメFAD2-1をコードするポリヌクレオチド配列
配列番号16-コメFAD2-2をコードするポリヌクレオチド配列
配列番号17-コメFAD2-3をコードするポリヌクレオチド配列
配列番号18-コメFAD2-4をコードするポリヌクレオチド配列
配列番号19-コメFATB-1
配列番号20-コメFATB-2
配列番号21-コメFATB-3
配列番号22-コメFATB-4
配列番号23-コメLOX3
配列番号24-Oryza brachyantha LOX3
配列番号25-Glycine max LOX3
配列番号26-トウモロコシLOX3
配列番号27-Avena sativa LOX3
配列番号28-大麦LOX3
配列番号29-Triticum aestivum LOX3
配列番号30~37-RNAガイド
配列ID番号38-FATBモチーフ
配列番号39-Arabidopsis FATB1
配列番号40-穀類LOX3コンセンサス配列
配列番号41~56-アミノ酸モチーフ
【発明を実施するための形態】
【0096】
一般的な技法及び定義
別途具体的に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、遺伝子編集を含む遺伝子改変、タンパク質化学、食品調製、及び生化学における)当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有すると解釈される。
【0097】
別途示されない限り、本発明で使用される組換えタンパク質、細胞培養、及び免疫学的技法は、当業者に周知の標準的な手順である。このような技法は、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(editor),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991)、D.M.Glover and B.D.Hames(editors),DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1-4,IRL Press(1995及び1996)、及びF.M.Ausubel et al.(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までの全ての更新を含む)、Ed Harlow and David Lane(editors)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,(1988)、及びJ.E.Coligan et al.(editors)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(現在までの全ての更新を含む)などの供給源の文献全体にわたって記載及び説明されている。
【0098】
「及び/又は」、例えば、「X及び/又はY」という用語は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味するものと理解され、両方の意味又はいずれかの意味に対する明示的な裏付けを提供するとみなされる。
【0099】
本明細書で使用される場合、約という用語は、反対の記載がない限り、指定値の+/-10%、より好ましくは+/-5%、より好ましくは+/-1%を指す。
【0100】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」という語、又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」などの変化形は、記載された要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群を含むことを意味するが、任意の他の要素、整数若しくはステップ、又は要素、整数若しくはステップの群の除外を意味しないと理解される。
【0101】
「遺伝子改変された」、「遺伝子改変」、又はそれらのバリアントという用語は、人間による任意の遺伝子操作を指し、形質転換又は形質導入、遺伝子編集、細胞における遺伝子の変異、及びこれらの行為が行われた細胞若しくは生物又はそれらの子孫などにおいて遺伝子の調節の変化又は変調によって遺伝子を細胞内に導入することを含む。
【0102】
本明細書で使用される場合、「油」は、主に脂質を含み、室温で液体である組成物である。例えば、本発明の油は、好ましくは、少なくとも75重量%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、又は少なくとも90重量%の脂質を含む。典型的には、精製された油は、油中の脂質のうち少なくとも90重量%のトリアシルグリセロール(TAG)を含む。ジアシルグリセロール(DAG)、遊離脂肪酸(FFA)、リン脂質、及びステロールなどの油の微量構成要素が、本明細書に記載されるように存在し得る。一実施形態では、本発明の油は、穀粒油及び/又は外皮油である。
【0103】
本明細書で使用される場合、「コメ油」という用語は、少なくとも60%(w/w)の脂質を含む稲体の穀粒/種子、又は外皮層などのそれらの一部分から得られる組成物を指す。コメ油は、典型的には、室温で液体である。脂質は、長さが少なくとも6つの炭素である脂肪酸を含む。脂肪酸は、典型的には、例えば、トリアシルグリセロール、リン脂質などのエステル化形態である。本発明のコメ油は、オレイン酸を含む。本発明のコメ油はまた、パルミチン酸、リノール酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、及び/又はリノレン酸などの少なくともある程度の他の脂肪酸を含み得る。脂肪酸は、遊離脂肪酸であり得、及び/又はトリアシルグリセロール(TAG)として見出され得る。一実施形態では、本発明のコメ油中の脂肪酸のうちの少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%が、TAGとして見出される。本発明のコメ油は、コメ穀粒/種子の一部分、又は「コメ外皮」と一緒に称される糊粉層若しくは胚/胚盤などのそれらの一部分を形成し得る。あるいは、本発明のコメ油は、コメ穀粒/種子又はコメ外皮から抽出されている。このような抽出手順の例が、実施例1に提供されている。したがって、一実施形態では、本発明の「コメ油」は、その天然状態で会合している1つ以上の他の脂質、核酸、ポリペプチド、又は他の混入分子から分離されている、「実質的に精製された」又は「精製された」コメ油である。実質的に精製されたコメ油は、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%が、コメ油が天然に会合している他の構成要素を含まないことが好ましい。好ましい実施形態では、そのままの種子/穀物又は外皮の比と比較した場合、抽出時に、オレイン酸対リノール酸、パルミチン酸対オレイン酸、及び/又はパルミチン酸対リノール酸の比が、顕著に変化していない(例えば、5%以下の変化)。更なる実施形態では、コメ油は、そのままの種子/穀粒又は外皮の比と比較した場合、オレイン酸対リノール酸、パルミチン酸対オレイン酸、及び/又はパルミチン酸対リノール酸の比を変化させ得る水素化などの手順に曝露されていない。本発明のコメ油は、限定されないが、γ-オリザノール及びステロールなどの非脂肪酸分子を更に含み得る。
【0104】
コメ油は、当該技術分野で既知の任意の方法によってコメ穀粒又は外皮から抽出され得る。これは、典型的には、ジエチルエーテル、石油エーテル、クロロホルム/メタノール、又はブタノール混合物などの非極性溶媒による抽出を含む。穀粒中のデンプンに会合する脂質は、水飽和ブタノールで抽出され得る。コメ油は、多糖を除去するために当該技術分野で既知の方法によって「脱ゴム」され得るか、又は汚染物質を除去するか、若しくは純度、安定性、若しくは色を改善するための他の方式で処理され得る。油中のトリアシルグリセロール及び他のエステルは、加水分解されて、遊離脂肪酸、又は当該技術分野で既知の水素化若しくは化学処理若しくは酵素処理された油が放出され得る。
【0105】
コメの種子又は外皮からの抽出後のコメ油は、典型的には、γ-オリザノールと呼ばれる脂質の群を含む。本明細書で使用される場合、「γ-オリザノールを含む」は、油中に少なくとも0.1%(w/w)のγ-オリザノール化合物が存在することを指す。抽出後及びTAGからの除去前のコメ油中のγ-オリザノールのレベルは、典型的には、1.5~3.5%(w/w)である。化合物は、典型的には、フェルラ酸(4-ヒドロキシ-3-メトキシシナミン酸)のステリル及び他のトリテルペニルエステルの混合物である。シクロアルテニルフェルラート、24-メチレンシクロアルタニルフェルラート、及びカンペステリルフェルラートは、オリザノール中で優勢なフェルラートであり、β-シトステリルフェルラート及びスチグマステリルフェルラートのレベルが低い。γ-オリザノールの存在は、心臓疾患及びがんなどの慢性疾患に対して、コメ油の消費者を保護するのに役立つと考えられており、したがって、γ-オリザノールの存在は有利である。
【0106】
本明細書で使用される場合、「ランシマット」法は、加速劣化に基づく周知の試験である。絶えず温度を増加させた反応容器内で、空気を試料に通して行われる。脂肪酸は、このプロセス中に酸化される。気流が測定容器に流れ込み、測定容器内で測定溶液(蒸留水)によって気流が吸収されることによって行われる試験の終了時に、揮発性二次反応生成物が形成される。継続的に記録される電気伝導率は、イオン反応生成物の吸収の結果として増加する。二次反応生成物が生じるまでの時間は、誘導時間と呼ばれる。これによって、油脂の酸化安定性を特徴評価する。
【0107】
本明細書で使用される場合、「コメ外皮」という用語は、内側の白いコメ穀粒と、コメ種子/穀粒の外側の殻との間の層(糊粉層)、並びに穀粒の胚/胚盤を指す。コメ外皮は、玄米を研磨して白米を生産することの主要な副産物である。
【0108】
本明細書で使用される場合、「Fad2タンパク質」という用語は、オレイン酸をリノール酸に変換するデサチュラーゼ反応を実行するタンパク質を指す。したがって、「Fad2タンパク質活性」という用語は、オレイン酸のリノール酸への変換を指す。本明細書で使用される場合、「Fad2-1タンパク質」という用語は、種子において典型的に発現されるFAD2-1タンパク質の進化的に保存されるサブクラスを指す。FAD2-1タンパク質の例は、配列番号1~9のうちのいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。コメには、4つのFad2ポリペプチドが存在し(Zaplin et al.,2013、WO2008/006171)、OsFAD2-1(LOC_Os02g48560)(配列番号1)、OsFAD2-2(LOC_Os07g23430)(配列番号12)、OsFAD2-3(LOC_Os07g23410)(配列番号1:3)、及びOsFAD2-4(LOC_Os07g23390)(配列番号14)と指定される(図1)。自然発生FAD2酵素は、典型的には、生化学的触媒作用で使用される二鉄-酸素複合体の形成に関与している3つのヒスチジンリッチモチーフを含む(Shanklin et al.,1998)。一実施形態では、コメFAD2-1タンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸の配列と比較した場合、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、若しくは少なくとも99.5%同一であるか、又は同一である、アミノ酸配列を有する。
【0109】
本明細書で使用される場合、「LOX」という用語又はその変形は、脂質の過酸化を触媒するリポキシゲナーゼ(LOX;EC1.13.12)を指す。リポキシゲナーゼは、現在、PLAT(ポリシスチン-1、リポキシゲナーゼ、アルファ-トキシン)ドメインとして知られているアミノ末端β-バレルと、触媒鉄を収容するはるかに大きなα-ヘリカルドメインとを有する。リポキシゲナーゼは、現在、PLAT(ポリシスチン-1、リポキシゲナーゼ、アルファ-トキシン)ドメインとして知られているアミノ末端β-バレルと、触媒鉄を収容するはるかに大きなα-ヘリカルドメインとを有する(Newcomer and Brash,2015)。LOXは、3つのタイプに分類される(Mizuno et al.,2003)。I型リポキシゲナーゼは、葉緑体に局在し、ストレス誘導性であり、II型リポキシゲナーゼは、細胞質に局在し、双子葉に由来し、ストレス誘導性ではなく、III型リポキシゲナーゼは、細胞質に局在し、単子葉に由来し、種子発芽に関連する。I型LOXは、トランジットペプチドを有するが、これは、II型及びIII型LOXには存在しない。LOXはまた、基質炭化水素骨格中の炭素9又は炭素13を優先する酵素に従って、9-LOX又は13-LOXのいずれかに分類され、9(S)-ヒドロペルオキシ-及び9(S)-ヒドロペルオキシ誘導体を生成する(Feussner and Wasternack,2002)。バイオインフォマティクス分析に基づいて、コメゲノム(rice.plantbiology.msu.edu)は、14個のLOXタンパク質遺伝子を有すると主張されている。III型LOXの3つのアイソザイム(LOX1、LOX2、及びLOX3)は、発育中のコメ種子において同定されている(Ohta et al.,1986)。それらの中でも、LOX3が、最も豊富な酵素である。LOX3タンパク質の例は、配列番号23~29のうちのいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有する。一実施形態では、コメLOX3タンパク質は、配列番号23に記載のアミノ酸の配列と比較した場合、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、若しくは少なくとも99.5%同一であるか、又は同一である、アミノ酸配列を有する。本明細書で使用される場合、「LOX3タンパク質活性」という用語は、コメ穀粒などの穀類粒における脂肪酸の過酸化を指す。
【0110】
本明細書で使用される場合、「FatBポリペプチド」という用語は、パルミトイル-ACPを加水分解して、遊離パルミチン酸を産生するタンパク質を指す。したがって、「FatB活性」という用語は、遊離パルミチン酸を産生するためのパルミトイル-ACPの加水分解を指す。本明細書で使用される場合、「FatB-1タンパク質」という用語は、種子において典型的に発現されるFATBタンパク質の進化的に保存されるサブクラスを指す。4つのコメOsFATB遺伝子が存在し、FATB1(LOC_Os06g05130)(配列番号19)、FATB2(LOC_Os11g43820)(配列番号20)、FATB3(LOC_Os02g43090)(配列番号21)、及びFATB4(LOC_Os06g39520)(配列番号22)と名付けられている(WO2008/006171)。一実施形態では、コメFATB-1タンパク質は、配列番号21に記載のアミノ酸の配列と比較した場合、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%、若しくは少なくとも99.5%同一であるか、又は同一である、アミノ酸配列を有する。
【0111】
本明細書で使用される場合、「より安定した」という語句は、相対的な用語である。安定性は、油の酸化安定性を指す。特に、「より安定した」油(本発明のコメ油など)は、同じ時間の長さの間同じ条件下で貯蔵された場合、(本発明の遺伝子改変を欠く)野生型植物からの油よりも低い程度まで酸化される。本明細書に記載されるように、安定性を改善するための1つの尺度は、ヘキサナール産生である(実施例9を参照されたい)。
【0112】
「種子」及び「穀粒」という用語は、互換的に本明細書で使用される。「穀粒」は、概して、成熟した、収穫された穀粒を指すが、文脈に従って、吸水又は発芽後の穀粒も指し得る。成熟穀粒は、一般的に、約18~20%未満の含水量を有する。
【0113】
本明細書で使用される場合、「稔性の」穀粒は、稔性の植物を生産するように発芽させることが可能である一方で、稔性の植物は、稔性の穀粒を生産することが可能である。一実施形態では、本発明の植物は、遺伝子改変を欠く対応する野生型植物と比較した場合、50%以上、又は75%以上の量の稔性の高い穀粒を生産することが少なくとも可能である。
【0114】
本明細書で使用される場合、「野生型」は、本発明に従って改変されていない細胞、組織、又は植物を指す。野生型細胞、組織、又は植物は、外来性核酸の発現のレベル、又は本明細書に記載されるように改変された細胞、組織、若しくは植物による形質改変の程度及び性質を比較するための対照として使用され得る。参照標準として好適である野生型コメ変種としては、Nipponbareが挙げられる。
【0115】
ポリペプチド
「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、概して互換的に使用される。
【0116】
「実質的に精製されたポリペプチド」又は「精製されたポリペプチド」は、概して、ポリペプチドがその天然状態で会合している脂質、核酸、他のペプチド、及び他の混入分子から分離されたポリペプチドを意味する。好ましくは、実質的に精製されたポリペプチドは、ポリペプチドが自然に会合している他の構成要素を少なくとも90%含まない。一実施形態では、本発明のポリペプチドは、自然発生FAD2-1及び/又はLOX3ポリペプチドとは異なるアミノ酸配列を有する、すなわち、アミノ酸配列バリアントである。
【0117】
本発明の植物などの遺伝子改変生物、及び宿主細胞は、本発明のポリペプチドをコードする外来性ポリヌクレオチドを含み得る。これらの事例では、植物及び細胞は、組換えポリペプチドを産生する。ポリペプチドの文脈において、「組換え」という用語は、細胞によって産生されたときに外来性ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであって、細胞又は前駆細胞内に、組換えDNA又はRNA技法、例えば、形質転換などによって導入されている、ポリペプチドを指す。典型的には、細胞は、変更された量のポリペプチドの産生を引き起こす非内在性遺伝子を含む。一実施形態では、「組換えポリペプチド」は、植物細胞内の外来性(組換え)ポリヌクレオチドの発現によって作製されるポリペプチドである。
【0118】
ポリペプチドの%同一性は、GAP(Needleman and Wunsch,1970)解析(GCGプログラム)によって、ギャップ生成ペナルティ=5及びギャップ伸長ペナルティ=0.3で判定される。クエリ配列は、少なくとも300個のアミノ酸の長さであり、GAP分析は、少なくとも300アミノ酸の領域にわたって2つの配列をアラインメントする。より好ましくは、クエリ配列は、少なくとも325個のアミノ酸の長さであり、GAP分析は、少なくとも335個のアミノ酸の領域にわたって2つの配列をアラインメントする。更に好ましくは、クエリ配列は少なくとも350個のアミノ酸の長さであり、GAP分析は少なくとも350個のアミノ酸の領域にわたって2つの配列をアラインメントする。更により好ましくは、GAP解析は、2つの配列をこれらの配列の長さ全体にわたってアラインメントする
【0119】
定義されるポリペプチドに関しては、上記で提供される%同一性数値よりも高い%同一性数値が好ましい実施形態を包含することが理解されよう。したがって、適用可能な場合、最小同一性%数値の観点から、ポリペプチドは、関連する指定される配列番号と少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%、より好ましくは、少なくとも99.1%、より好ましくは、少なくとも99.2%、より好ましくは、少なくとも99.3%、より好ましくは、少なくとも99.4%、より好ましくは、少なくとも99.5%、より好ましくは、少なくとも99.6%、より好ましくは、少なくとも99.7%、より好ましくは、少なくとも99.8%、更により好ましくは、少なくとも99.9%同一であるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0120】
本明細書に定義されるポリペプチドのアミノ酸配列変異体/バリアント、特にFAD2-1及び/又はLOX3変異体/バリアントは、核酸に適切なヌクレオチド変化を導入することによって、又は所望のポリペプチドのインビトロ合成によって調製することができる。このような変異体としては、例えば、アミノ酸配列内の残基の欠失、挿入、又は置換が挙げられる。欠失、挿入、及び置換の組み合わせは、最終ペプチド産物が所望の特徴を有する限り、最終構築物に到達するようになされ得る。好ましいアミノ酸配列変異体は、参照ポリペプチドに対して、1つ、2つ、3つ、4つ、又は10個未満のアミノ酸変化を有する。変異体/バリアントは、N末端及び/又はC末端切断されていてもよい。
【0121】
一実施形態では、活性が低減されたFAD2-1タンパク質は、最初の3つ、4つ、5つ、又は6つのN末端アミノ酸を欠くなどの、野生型配列と比較してN末端切断を有する。一実施形態では、変異体は、野生型FAD2-1タンパク質の最初の6つのアミノ酸を欠く。一実施形態では、活性が低減され、好ましくは活性がないLOX3タンパク質は、少なくとも最後の100、200、300、400、500、600個程度のC末端アミノ酸を欠くなどの、野生型配列と比較してC末端切断を有する。一実施形態では、変異体は、野生型LOX3タンパク質の最後の約500個のC末端アミノ酸を欠く。一実施形態では、遺伝子改変LOX3遺伝子は、野生型LOX3タンパク質の最初の約91個のアミノ酸のみをコードする。
【0122】
変異体(変化させた)ポリペプチドは、当該技術分野で既知のいずれかの技法を使用して、例えば、指向性進化、合理的設計戦略、又は変異誘発を使用して調製され得る(以下を参照されたい)。変異させた/変化させたDNAに由来する産物は、コメなどの植物で発現される場合、低減されたFAD2-1タンパク質活性又はLOX3タンパク質活性を付与するかを決定するために、本明細書に記載の技法を使用して容易にスクリーニングすることができる。例えば、方法は、変異させた/変化させたDNAを発現する遺伝子改変を有する植物を生産することと、植物の穀粒の稔性及び脂肪酸プロファイルを決定することと、を含み得る。
【0123】
アミノ酸配列変異体の設計において、変異部位の位置及び変異の性質は、改変される特徴に依存する。変異のための部位は、例えば、(1)まず、保存的アミノ酸選択で置換し、次いで、達成された結果に応じて、よりラジカル的な選択で置換すること、(2)標的残基を欠失させること、又は(3)位置する部位に隣接する他の残基を挿入することによって、個別に又は連続して改変することができる。
【0124】
アミノ酸配列欠失は、概して、約1~15個の残基、より好ましくは、約1~10個の残基、及び典型的には、約1~5つの連続した残基の範囲であるが、LOX3などのノックアウト変異体の場合には、更に大きい場合がある。
【0125】
置換変異体は、ポリペプチド分子内の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去されており、異なる残基がその代わりに挿入されている。ある特定の活性を維持することが望ましい場合、関連するタンパク質ファミリーにおいて高度に保存されるアミノ酸位置で、より保存的な置換を行うことが好ましい。保存的置換の例は、「例示的置換」の見出しで表2に示される。
【表2】
【0126】
一実施形態では、変異体/バリアントポリペプチドは、自然発生ポリペプチドと比較した場合、1つ、又は2つ、又は3つ、又は4つの保存的アミノ酸変化を有する。保存的アミノ酸変化の詳細が、表2に提供される。
【0127】
野生型ポリペプチドの一次アミノ酸配列は、(例えば、図11及び12に示されるように)密接に関連するポリペプチドとの比較に基づいて、そのバリアント/変異体を設計するために使用され得る。当業者が理解するであろうように、密接に関連するタンパク質のうちで高度に保存された残基は、特に非保存的な置換で、活性を低減するために変化されることが可能である可能性がより高い。
【0128】
一実施形態では、活性が低減されたFATB1は、LNHVKTAG(配列番号41)がLNHVKTCW(配列番号42)で置き換えられたアミノ酸配列を有する。一実施形態では、活性が低減されたFATB1は、FLAAEKOW(配列番号43)がFLAAENSG(配列番号44)又はFLAAEKTV(配列番号45)で置き換えられたアミノ酸配列を有する。一実施形態では、活性が低減されたFATB1は、FLAAEKOWがFLAAENSGで置き換えられたアミノ酸配列を有する。
【0129】
一実施形態では、活性が低減されたFATB2は、MIRSYEIGAD(配列番号46)がMIRSYEDWC*(配列番号47)で置き換えられたアミノ酸配列を有する。
【0130】
一実施形態では、活性が低減されたFATB3は、MIRSYEIGAD(配列番号46)がMIRSYEDWC*(配列番号47)又はMIRSYDWR*(配列番号48)で置き換えられたアミノ酸配列を有する。一実施形態では、活性が低減されたFATB3は、MIRSYEIGADがMIRSYEDWC*で置き換えられたアミノ酸配列を有する。
【0131】
一実施形態では、活性が低減されたFATB4は、GLLGDGFG(配列番号49)がGLLGDFWL(配列番号50)、GLLGDGFW(配列番号51)、GLLGDFG(配列番号52)、又はGLLFWLNA(配列番号53)で置き換えられたアミノ酸配列を有する。一実施形態では、活性が低減されたFATB4は、GLLGDGFG(配列番号49)がGLLGDFWL(配列番号50)で置き換えられたアミノ酸配列を有する。
【0132】
一実施形態では、FAD2-1ノックダウンは、N末端からMGAGGR(配列番号54)が欠失したアミノ酸配列を有する。一実施形態では、FAD2-1ノックダウンは、Aa177’PYVYHNPIG’aa185(配列番号55)がAa177’PYVYHTIG’aa184(配列番号56)で置き換えられたアミノ酸配列を有する。一実施形態では、FAD2-1ノックダウンは、N末端からMGAGGRが欠失したアミノ酸配列、及びAa177’PYVYHNPIG’aa185がAa177’PYVYHTIG’aa184で置き換えられたアミノ酸配列を有する。
【0133】
一実施形態では、本発明の穀粒、外皮、及び/又は植物は、
i)野生型LOX3タンパク質の最初の約91個のアミノ酸のみをコードするLOX3遺伝子、
ii)N末端にMGAGGRを欠き、Aa177’PYVYHTIG’aa184を含むFAD2-1ポリペプチドをコードするFAD2-1遺伝子、
iii)MIRSYEDWC*(配列番号47)で終わるポリペプチドをコードするFATB2遺伝子、
iv)MIRSYEDWC*(配列番号47)で終わるポリペプチドをコードするFATB3遺伝子、及び
v)GLLGDFWLを含むポリペプチドをコードするFATB4遺伝子に対してホモ接合性である。
【0134】
一実施形態では、本発明の穀粒、外皮、及び/又は植物は、
i)野生型LOX3タンパク質の最初の約91個のアミノ酸のみをコードするLOX3遺伝子、
ii)N末端にMGAGGRを欠き、Aa177’PYVYHTIG’aa184を含むFAD2-1ポリペプチドをコードするFAD2-1遺伝子、
iii)FLAAENSGを含むポリペプチドをコードするFATB1遺伝子、及び
iv)GLLGDFWLを含むポリペプチドをコードするFATB4遺伝子に対してホモ接合性である。
【0135】
一実施形態では、穀粒、外皮、又は植物は、野生型ホスホリパーゼD(PLD)活性を有する。
【0136】
指向性進化
指向性進化において、ランダム変異誘発は、タンパク質に適用され、選択レジームは、所望の質、例えば、減少した活性を有するバリアントを選別するために使用される。次いで、更なるラウンドの変異及び選択が適用される。典型的な指向性進化戦略は、以下の3つのステップを含む。
1)多様化:対象のタンパク質をコードする遺伝子は、遺伝子バリアントの大きなライブラリを作成するために、ランダムに変異及び/又は組換えられる。バリアント遺伝子ライブラリは、親テンプレート(Stemmer,1994a、Stemmer,1994b、Crameri et al.,1998、Coco et al.,2001)、縮重オリゴヌクレオチドから(Ness et al.,2002、Coco,2002)、又は両方の混合物から、又は更には消化されていない親テンプレートから(Zhao et al.,1998、Eggert et al.,2005、Jezequek et al.,2008)調製されたDNaseI消化断片のプールからのerror prone PCRを通じて構築することができ(例えば、Leung,1989、Cadwell and Joyce,1992を参照されたい)、通常、PCRを通じて組み立てられる。ライブラリはまた、相同又は非相同組換えのいずれかによってインビボ又はインビトロで組換えられた親配列から作製することができる(Ostermeier et al.,1999、Volkov et al.,1999、Sieber et al.,2001)。バリアント遺伝子ライブラリは、対象の遺伝子を好適なベクターにサブクローニングし、ベクターをE.coli XL-1レッド(Stratagene)などの「変異因子(mutator)」株に形質転換し、形質転換された細菌を好適な世代数増殖させることによって構築することもできる。バリアント遺伝子ライブラリはまた、Harayama(1998)によって広く説明されるように、対象の遺伝子にDNAシャッフリング(すなわち、ランダム断片化及び再構築による選択された変異体遺伝子のプールのインビトロ相同組換え)を施すことによって構築することができる。
【0137】
2)選択:スクリーニング又は選択を使用して、所望の特性を有する変異体(バリアント)の存在について、ライブラリを試験する。スクリーニングは、高性能変異体を手動で同定及び分離することを可能にし、選択中に全ての非機能的変異体が自動的に排除される。スクリーニングは、既知の保存的アミノ酸モチーフの存在についてスクリーニングすることを含み得る。代替的に、又は追加的に、スクリーニングは、宿主生物又はその一部分において変異ポリヌクレオチドを発現させ、活性レベルをアッセイすることを含み得る。
【0138】
3)増幅:選択又はスクリーニングで同定されたバリアントは、多くの倍数で複製され、研究者が、どのような変異が生じたかを理解するために、それらのDNAを配列決定することを可能にする。
【0139】
まとめると、これらの3つのステップは、指向性進化の「ラウンド」と称される。ほとんどの実験は、2回以上のラウンドを伴うであろう。これらの実験では、前のラウンドの「勝者」が次のラウンドで多様化されて、新しいライブラリが作成される。実験の終わりに、生化学的方法を使用して、全ての進化したタンパク質又はポリヌクレオチド変異体を特徴評価する。
【0140】
合理的設計
タンパク質は、タンパク質構造及び折り畳みに関する既知の情報に基づいて、合理的に設計することができる。これは、ゼロからの設計(新規設計)によって、又は天然の足場に基づいて再設計することによって達成することができる(例えば、Hellinga,1997、及びLu and Berry,Protein Structure Design and Engineering,Handbook of Proteins 2,1153-1157(2007)を参照されたい)。タンパク質設計は、典型的には、所与の構造又は標的構造へと折り畳まれる配列を同定することを含み、コンピュータモデルを使用して達成され得る。コンピュータタンパク質設計アルゴリズムは、標的構造に折り畳まれた場合にエネルギーが低い配列についての配列-コンフォメーション空間を検索する。コンピュータタンパク質設計アルゴリズムは、変異がタンパク質の構造及び機能にどのように影響するかを評価するために、タンパク質エネルギー学のモデルを使用する。これらのエネルギー関数は、典型的には、分子力学、統計的(すなわち、知識ベース)、及び他の経験的条件の組み合わせを含む。好適な利用可能なソフトウェアとしては、IPRO(Interative Protein Redesign and Optimization)、EGAD(A Genetic Algorithm for Protein Design)、Rosetta Design、Sharpen、及びAbaloneが挙げられる。
【0141】
ポリヌクレオチド及び遺伝子
本発明は、様々なポリヌクレオチドを指す。本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」、又は「核酸」、又は「核酸分子」は、DNA、又はRNA、又はそれらの組み合わせであり得るヌクレオチドのポリマーを意味し、ゲノムDNA、mRNA、cRNA、及びcDNAを含む。より好ましくないポリヌクレオチドとしては、tRNA、siRNA、shRNA、及びhpRNAが挙げられる。これは、細胞、ゲノム、又は合成起源のDNA又はRNA、例えば、自動シンセサイザにおいて作製されるDNA又はRNAであり得、本明細書に定義される特定の活性を実行するために、炭水化物、脂質、タンパク質、若しくは他の材料と組み合わされてもよく、蛍光若しくは他の基で標識されてもよく、又は固体支持体に取り付けられてもよく、あるいは当業者に周知の、自然に見出されない1つ以上の改変されたヌクレオチドを含んでもよい。ポリマーは、一本鎖であってもよく、本質的に、二本鎖であってもよく、又は部分的に、二本鎖であってもよい。本明細書で使用される場合、塩基対合は、G:U塩基対を含む、ヌクレオチド間の標準的な塩基対合を指す。「相補的」とは、2つのポリヌクレオチドが、2つのポリヌクレオチドの長さの一部分に沿って、又は一方若しくは両方の完全長に沿って塩基対合(ハイブリダイゼーション)することが可能であることを意味する。「ポリヌクレオチド」という用語は、「核酸」という用語と互換的に本明細書で使用される。本発明の好ましいポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードする。
【0142】
「単離されたポリヌクレオチド」とは、ポリヌクレオチドが自然に見出される場合、概して、ポリヌクレオチドがその天然状態で会合しているか又は連結しているポリヌクレオチド配列から分離されているポリヌクレオチドを意味する。好ましくは、単離されたポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドが自然に見出される場合、ポリヌクレオチドが自然に会合している他の構成要素を少なくとも90%含まない。好ましくは、ポリヌクレオチドは、例えば、2つのより短いポリヌクレオチド配列を、自然に見出されない様式で共有結合することによって、自然発生ポリヌクレオチドでない(キメラポリヌクレオチド)。
【0143】
本発明は、遺伝子活性の改変、並びにキメラ遺伝子の構築及び使用を含み得る。本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、タンパク質コード領域を含む又は細胞内で転写されているが翻訳されていないいずれかのデオキシリボヌクレオチド配列、及び関連する非コード領域及び調節領域を含む。このような関連する領域は、典型的には、5’及び3’末端の両方の上のコード領域又は転写された領域に隣接して、いずれの側でも約2kbの距離にわたって位置する。これに関して、遺伝子は、所与の遺伝子と自然に会合しているプロモーター、エンハンサー、終結及び/若しくはポリアデニル化シグナルなどの制御シグナル、又は異種制御シグナルを含み得、この場合、遺伝子は、「キメラ遺伝子」と称される。コード領域の5’に位置しmRNA上に存在する配列は、5’非翻訳配列と称される。コード領域の3’又は下流に位置しmRNA上に存在する配列は、3’非翻訳配列と称される。「遺伝子」という用語は、遺伝子のcDNA及びゲノム形態の両方を包含する。
【0144】
転写された領域を含有する遺伝子のゲノム形態又はクローンは、遺伝子の「エクソン」に対して相同又は異種のいずれかであり得る「イントロン」又は「介在領域」又は「介在配列」と称される非コード配列で中断され得る。本明細書で使用される場合、「イントロン」は、遺伝子のセグメントであって、一次RNA転写物の一部分として転写されているが、成熟mRNA分子内に存在しない、セグメントである。イントロンは、核又は一次転写物から除去又は「スプライシング除去」され、したがって、メッセンジャーRNA(mRNA)内に存在しない。イントロンは、エンハンサーなどの調節要素を含有し得る。本明細書で使用される場合、「エクソン」は、RNA分子が翻訳されていない場合、成熟mRNA又は成熟RNA分子内に存在するRNA配列に対応するDNA領域を指す。mRNAは、新生ポリペプチド内のアミノ酸の配列又は順序を特定するように、翻訳中に機能する。「遺伝子」という用語は、本明細書に記載される本発明のタンパク質の全て又は一部分をコードする合成又は融合分子、及び上記のうちのいずれか1つに相補的ヌクレオチド配列を含む。遺伝子は、細胞内の染色体外維持に、又は好ましくは、宿主ゲノム内への組み込みに適切なベクター内に導入され得る。
【0145】
本明細書で使用される場合、「キメラ遺伝子」は、結合していることが自然に見出されない共有結合した配列を含むいずれかの遺伝子を指す。典型的には、キメラ遺伝子は、一緒に自然に見出されない調節及び転写又はタンパク質コード配列を含む。したがって、キメラ遺伝子は、異なる供給源に由来する調節配列及びコード配列、又は同一の供給源に由来するが、自然に見出される様式とは異なる様式で編成されている調節配列及びコード配列を含み得る。一実施形態では、タンパク質コード領域は、遺伝子に異種であるプロモーター又はポリアデニル化/終結因子領域に動作可能に連結されており、それによって、キメラ遺伝子を形成する。「内在性」という用語は、調査対象の植物と同じ発育段階で、改変されていない植物内に通常存在するか又は産生される物質を指すために本明細書で使用される。「内在性遺伝子」は、生物のゲノム内の自然の位置における天然遺伝子を指す。本明細書で使用される場合、「組換え核酸分子」、「組換えポリヌクレオチド」、又はそれらの変形は、組換えDNA/RNA技術によって構築又は改変されている核酸分子を指す。「異質ポリヌクレオチド」、又は「外来性ポリヌクレオチド」、又は「異種ポリヌクレオチド」などの用語は、実験的操作によって細胞のゲノム内に導入される任意の核酸を指す。
【0146】
異質又は外来性遺伝子は、非天然生物又は細胞内に挿入される遺伝子、天然宿主内の新しい位置に導入される天然遺伝子、又はキメラ遺伝子であり得る。代替的に、異質又は外来性遺伝子は、生物若しくは細胞、又はそれらに由来する子孫のゲノムの編集の結果であり得る。「トランスジーン」は、形質転換手順によってゲノム内に導入された遺伝子である。
【0147】
更に、ポリヌクレオチド(核酸)の文脈において、「外来性」という用語は、ポリヌクレオチドを自然に含まない細胞内に存在するときのポリヌクレオチドを指す。
【0148】
ポリヌクレオチドの%同一性は、GAP(Needleman and Wunsch,1970)解析(GCGプログラム)によって、ギャップ生成ペナルティ=5及びギャップ伸長ペナルティ=0.3で判定される。クエリ配列は、少なくとも900個のヌクレオチドの長さであり、GAP分析は、2つの配列を少なくとも900個のヌクレオチドの領域にわたってアラインメントする。好ましくは、クエリ配列は、少なくとも975個のヌクレオチドの長さであり、GAP分析は、2つの配列を少なくとも975個のヌクレオチドの領域にわたってアラインメントする。更により好ましくは、クエリ配列は、少なくとも1,050個のヌクレオチドの長さであり、GAP分析は、2つの配列を少なくとも1,050個のヌクレオチドの領域にわたってアラインメントする。更により好ましくは、GAP解析は、2つの配列をこれらの配列の長さ全体にわたってアラインメントする
【0149】
定義されるポリヌクレオチドに関しては、上記で提供される%同一性数値よりも高い%同一性数値が好ましい実施形態を包含することが理解されよう。したがって、適用可能な場合、最小同一性%数値の観点から、ポリヌクレオチドは、関連する指定される配列番号と少なくとも50%、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも91%、より好ましくは、少なくとも92%、より好ましくは、少なくとも93%、より好ましくは、少なくとも94%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも96%、より好ましくは、少なくとも97%、より好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは、少なくとも99%、より好ましくは、少なくとも99.1%、より好ましくは、少なくとも99.2%、より好ましくは、少なくとも99.3%、より好ましくは、少なくとも99.4%、より好ましくは、少なくとも99.5%、より好ましくは、少なくとも99.6%、より好ましくは、少なくとも99.7%、より好ましくは、少なくとも99.8%、更により好ましくは、少なくとも99.9%同一であるポリヌクレオチド配列を含むことが好ましい。
【0150】
本発明はまた、オリゴヌクレオチドの使用、例えば、本発明のポリヌクレオチドについてのスクリーニングの方法における、又は本発明のポリペプチドをコードする方法におけるオリゴヌクレオチドの使用に関する。本明細書で使用される場合、「オリゴヌクレオチド」は、最大50個のヌクレオチドの長さのポリヌクレオチドである。このようなオリゴヌクレオチドの最小サイズは、本発明の核酸分子上のオリゴヌクレオチドと相補的配列との間の安定したハイブリッドの形成に必要とされるサイズである。これらは、RNA、DNA、又はいずれかの組み合わせ若しくは誘導体であることができる。オリゴヌクレオチドは、典型的には、10個~30個のヌクレオチド、一般的には、15個~25個のヌクレオチドの長さの比較的短い一本鎖分子である。増幅反応において、ゲノム編集のガイド、プローブ、又はプライマーとして使用される場合、このようなオリゴヌクレオチドの最小サイズは、標的核酸分子上のオリゴヌクレオチドと相補的配列との間の安定したハイブリッドの形成に必要とされるサイズである。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、少なくとも15個のヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも18個のヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも19個のヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも20個のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも22個のヌクレオチド、更により好ましくは、少なくとも25個のヌクレオチドの長さである。プローブとして使用される本発明のオリゴヌクレオチドは、典型的には、放射性同位体、酵素、ビオチン、蛍光分子、又は化学発光分子などの標識とコンジュゲートされる。
【0151】
当業者が認識するであろうように、本明細書に記載のオリゴヌクレオチドプライマーの配列は、本発明の方法に対するそれらの有用性に影響を及ぼすことなく、ある程度変動し得る。本発明の方法に有用な本明細書に開示のオリゴヌクレオチドの「バリアント」(本明細書では、その使用に応じて「プライマー」又は「プローブ」とも称される)は、本明細書に定義される特定のオリゴヌクレオチド分子のゲノムに近い、変動するサイズのゲノムの分子、及び/又はゲノムにハイブリダイゼーションすることが可能である分子を含む。例えば、バリアントは、ヌクレオチドが依然として標的領域にハイブリダイゼーションする限り、追加のヌクレオチド(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ以上)、又はより少ないヌクレオチドを含み得る。更に、いくつかのヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドが標的領域にハイブリダイゼーションする能力に影響することなく置換され得る。加えて、本明細書に定義される特定のオリゴヌクレオチドがハイブリダイゼーションするゲノムの領域の近くに(例えば、限定されないが、50個のヌクレオチド以内、又は100個のヌクレオチド内で)ハイブリダイゼーションするバリアントが、容易に設計され得る。
【0152】
本発明は、例えば、RNAガイド性エンドヌクレアーゼのガイド(例えば、配列番号30~37を参照されたい)、核酸分子を同定するためのプローブ、又は核酸分子を産生するためのプライマーとして使用され得るオリゴヌクレオチドを含む。プローブ及び/又はプライマーは、本発明のポリヌクレオチドの相同体を他の種からクローニングするために使用され得る。更に、当該技術分野で既知のハイブリダイゼーション技法もまた、ゲノム又はcDNAライブラリをこのような相同体についてスクリーニングするために使用され得る。
【0153】
本発明のポリヌクレオチドは、自然発生分子と比較した場合、ヌクレオチド残基の欠失、挿入、又は置換である、1つ以上の遺伝子改変を有する。本発明のポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドのバリアントは、本明細書に定義される参照ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドノゲノムに近い、変動するサイズのゲノムの分子、及び/又はコメ(例えば)ゲノムにハイブリダイゼーションすることが可能である分子を含む。例えば、バリアントは、ヌクレオチドが依然として標的領域にハイブリダイゼーションする限り、追加のヌクレオチド(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ以上)、又はより少ないヌクレオチドを含み得る。更に、いくつかのヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドが標的領域にハイブリダイゼーションする能力に影響することなく置換され得る。加えて、本明細書に定義される特定のオリゴヌクレオチドがハイブリダイゼーションする植物ゲノムの領域に、近くに、例えば、50個のヌクレオチド以内でハイブリダイゼーションするバリアントが、容易に設計され得る。特に、これは、同じポリペプチド又はアミノ酸配列をコードするがヌクレオチド配列が遺伝コードの冗長性によって変動するポリヌクレオチドを含む。「ポリヌクレオチドバリアント」及び「バリアント」という用語は、自然発生アレルバリアントを含む。
【0154】
核酸構築物
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む核酸構築物、並びにこれらを含有するベクター及び宿主細胞、それらの産生及び使用の方法、並びにそれらの使用を含む。本発明は、動作可能に接続又は連結されたエレメントに言及する。「動作可能に接続された」又は「動作可能に連結された」などは、機能的関係におけるポリヌクレオチドエレメントの結合を指す。典型的には、動作可能に接続された核酸配列は、連続して連結されており、2つのタンパク質コード領域を結合する必要がある場合、連続しており、読み取りフレーム内にある。RNAポリメラーゼが、2つのコード配列を単一RNA内に転写するときに、コード配列は、別のコード配列に「動作可能に接続されており」、RNAは、翻訳された場合、次いで、両方のコード配列に由来するアミノ酸を有する単一ポリペプチド内に翻訳される。コード配列は、発現された配列が最終的にプロセシングされて所望のタンパク質を産生する限り、互いに連続している必要はない。
【0155】
本明細書で使用される場合、「シス作用配列」、「シス作用エレメント」、又は「シス調節領域」若しくは「調節領域」という用語あるいは同様の用語は、発現可能な遺伝子配列に対して適切に配置され接続されたときに、遺伝子配列の発現を少なくとも部分的に調節することが可能である、ヌクレオチドのいずれかの配列を意味すると解釈される。当業者は、シス調節領域が、転写又は転写後レベルでの遺伝子配列の発現及び/又は細胞型特異性及び/又は発達特異性のレベルを活性化、サイレンシング、増強、抑制、又はそうでなければ変更することが可能であり得ることを認識している。本発明の好ましい実施形態では、シス作用配列は、発現可能な遺伝子配列の発現を増強又は刺激する活性化因子配列である。
【0156】
プロモーター又はエンハンサーエレメントを転写可能なポリヌクレオチドに「動作可能に接続する」とは、転写可能なポリヌクレオチド(例えば、タンパク質コードポリヌクレオチド又は他の転写物)をプロモーターの調節制御下に置き、次いで、プロモーターが、このポリヌクレオチドの転写を制御することを意味する。異種プロモーター/構造遺伝子組み合わせの構築において、概して、プロモーター又はそのバリアントを、転写可能なポリヌクレオチドの転写開始部位からある距離をおいて配置し、この距離は、このプロモーターと、プロモーターが自然状況で制御するタンパク質コード領域、すなわち、プロモーターが由来する遺伝子との間の距離とほぼ同じであることが好ましい。当該技術分野で既知であるように、この距離のある変動は、機能の喪失なく許容され得る。同様に、調節配列エレメント(例えば、オペレータ、エンハンサーなど)の制御下に置かれる転写可能なポリヌクレオチドに対する調節配列エレメントの好ましい配置は、エレメントの自然状況でのエレメントの配置、すなわち、エレメントが由来する遺伝子の配置によって定義される。
【0157】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」又は「プロモーター配列」は、対象の細胞内の転写の開始及びレベルを制御する、遺伝子の領域、概して、RNAコード領域の上流(5’)を指す。「プロモーター」は、TATAボックス及びCCAATボックス配列などの古典的ゲノム遺伝子の転写調節配列、並びに発達及び/若しくは環境刺激に応答して又は組織特異的若しくは細胞型特異的な様式で遺伝子発現を変更する追加の調節エレメント(すなわち、上流活性化配列、エンハンサー、及びサイレンサー)を含む。プロモーターは、通常、プロモーターが発現を調節する構造遺伝子の上流に配置されているが、必ずしもそうではない(例えば、いくつかのPolIIIプロモーター)。更に、プロモーターを含む調節エレメントは、通常、遺伝子の転写の開始部位の2kb以内に配置されている。プロモーターは、追加の特異的調節エレメントを含有し得、追加の特異的調節エレメントは、開始部位により遠位に位置して、細胞内の発現を更に増強し、かつ/又は追加の特異的調節エレメントが動作可能に接続された構造遺伝子の発現のタイミング又は誘導性を変更する。
【0158】
「構成的プロモーター」は、植物などの生物の多く又は全ての組織内の動作可能に連結された転写配列の発現を指示するプロモーターを指す。本明細書で使用される場合、構成的という用語は、遺伝子が全ての細胞型内で同じレベルで発現されることを必ずしも示さないが、レベルのある変動がしばしば検出可能であるが、遺伝子が広範囲の細胞型内で発現されることを示す。本明細書で使用される場合、「選択的発現」は、例えば、植物の、ほぼ排他的に特定の器官、例えば、胚乳、胚、葉、果実、塊茎、又は根内の発現を指す。好ましい実施形態では、プロモーターは、植物、好ましくは穀類植物の葉及び/又は茎に選択的に又は優先的に発現される。したがって、選択的発現は、植物が経験する条件の大部分又は全ての下での植物の多く又は全ての組織内の発現を指す構成的発現と対照的であり得る。
【0159】
選択的発現はまた、特定の植物組織における、器官又は成体若しくは苗木などの発育段階における遺伝子発現の産物の区画化をもたらし得る。プラスチド、サイトゾル、液胞、又はアポプラスト空間などの特定の細胞内位置における区画化は、必要とされる細胞区画への輸送に適切なシグナル、例えば、シグナルペプチドを遺伝子産物の構造内に含めることによって達成することができるか、又は半自律性オルガネラ(プラスチド及びミトコンドリア)の場合、適切な調節配列を有するトランスジーンをオルガネラゲノム内に直接組み込むことによって達成することができる。
【0160】
「組織特異的プロモーター」又は「器官特異的プロモーター」は、例えば、植物内の、多くの他の組織又は器官に対して、好ましくは、全ての他の組織又は器官ではなくてもほとんどの他の組織又は器官に対して、1つの組織又は器官内で優先的に発現されるプロモーターである。典型的には、プロモーターは、特定の組織又は器官内で、他の組織又は器官内でよりも10倍高いレベルで発現される。
【0161】
本発明によって企図されるプロモーターは、形質転換される宿主植物の原産であってもよく、又は領域が宿主植物内で機能的である代替の供給源に由来してもよい。他の供給源としては、ノパリン、オクタピン、マンノピン、又は他のオピンプロモーター、組織特異的プロモーターの生合成のための遺伝子のプロモーターなどのAgrobacterium T-DNA遺伝子(例えば、US5,459,252及びWO91/13992を参照されたい);ウイルスからのプロモーター(宿主特異的ウイルスを含む)、又は部分的若しくは全体的に合成されたプロモーターが挙げられる。単子葉植物及び双子葉植物において機能的である多数のプロモーターが、当該技術分野で周知であり(例えば、Greve,1983、Salomon et al.,1984、Garfinkel et al.,1983、Barker et al.,1983を参照されたい)、カリフラワーモザイクウイルスプロモーター(CaMV 35S、19S)などの植物及びウイルスから単離された様々なプロモーターが挙げられる。プロモーター活性を評価するための非限定的な方法は、Medberry et al.(1992、1993)、Sambrook et al.(1989、上記)、及びUS5,164,316によって開示されている。
【0162】
代替的に、又は加えて、プロモーターは、誘導性プロモーター又は発達的に調節されたプロモーターであり得、誘導性プロモーター又は発達的に調節されたプロモーターは、導入されたポリヌクレオチドの発現を、例えば、植物の適切な発育段階において駆動することが可能である。使用され得る他のシス作用配列は、転写及び/又は翻訳エンハンサーを含む。エンハンサー領域は、当業者に周知であり、ATG翻訳開始コドン及び隣接配列を含むことができる。含まれている場合、開始コドンは、配列全体が翻訳される場合には、配列全体の翻訳を確実にするために、異質又は外来性ポリヌクレオチドに関連するコード配列の読み取りフレームと一致すべきである。翻訳開始領域は、転写開始領域の供給源から、又は異質若しくは外来性ポリヌクレオチドから提供され得る。配列はまた、転写を駆動するために選択されたプロモーターの供給源に由来し得、mRNAの翻訳を増加させるように特異的に改変され得る。
【0163】
本発明の核酸構築物は、転写終結配列を含み得る約50個~1,000個のヌクレオチド塩基対の3’非翻訳配列を含み得る。3’非翻訳配列は、転写終結シグナルを含有し得、転写終結シグナルは、ポリアデニル化シグナル及びmRNAプロセシングをもたらすことが可能であるいずれかの他の調節シグナルを含み得るか、又は含まない場合がある。ポリアデニル化シグナルは、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸路の付加のために機能する。ポリアデニル化シグナルは、基準の形態5’AATAAA-3’とのホモロジーの存在によって一般的に認識されるが、変動は珍しくない。ポリアデニル化シグナルを含まない転写終結配列は、一続きの4つ以上のチミジンを含むPolI又はPolIII RNAポリメラーゼの終結因子を含む。好適な3’非翻訳配列の例は、Agrobacterium tumefaciensのオクトピンシンターゼ(ocs)遺伝子又はノパリンシンターゼ(nos)遺伝子からのポリアデニル化シグナルを含有する3’転写非翻訳領域である(Bevan et al.,1983)。好適な3’非翻訳配列はまた、リブロース-1,5-ビスホスフェートカルボキシラーゼ(ssRUBISCO)遺伝子などの植物遺伝子に由来してもよいが、当業者に既知の他の3’エレメントもまた、使用されてもよい。
【0164】
転写開始部位とコード配列の開始との間に挿入されたDNA配列、すなわち、非翻訳5’リーダー配列(5’UTR)が翻訳及び転写される場合、5’UTRは、遺伝子発現に影響し得るため、特定のリーダー配列もまた、使用され得る。好適なリーダー配列は、異質又は内在性DNA配列の最適な発現を指示するように選択される配列を含むものを含む。例えば、このようなリーダー配列は、好ましいコンセンサス配列を含み、コンセンサス配列は、例えば、Joshi(1987)によって記載されているように、mRNA安定性を増加又は維持することができ、翻訳の不適切な開始を防止することができる。
【0165】
ベクター
本発明は、遺伝子構築物の操作又は転移のためのベクターの使用を含む。「ベクター」又は「キメラベクター」とは、例えば、核酸配列が挿入又はクローニングされ得る、プラスミド、バクテリオファージ、又は植物ウイルスに由来する核酸分子、好ましくはDNA分子を意味する。ベクターは、好ましくは、二本鎖DNAであり、1つ以上の固有の制限部位を含有し、標的細胞若しくは組織又はその前駆細胞若しくは組織を含む定義される宿主細胞内での自律複製が可能であってもよく、あるいはクローニングされた配列が再現可能であるように、定義される宿主のゲノム内への組み込みが可能であってもよい。したがって、ベクターは、自律複製ベクター、すなわち、染色体外実体として存在するベクターであり得、ベクターの複製は、染色体複製、例えば、線状又は閉環状プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体、又は人工染色体とは独立している。ベクターは、自己複製を確実にするためのいずれかの手段を含有し得る。代替として、ベクターは、細胞内に導入されたときに、レシピエント細胞のゲノム内に組み込まれるベクターであって、ベクターが組み込まれた染色体と一緒に複製される、ベクターであり得る。ベクター系は、宿主細胞のゲノム内に導入される全DNAを一緒に含有する、単一ベクター若しくはプラスミド、2つ以上のベクター若しくはプラスミド、又はトランスポゾンを含み得る。ベクターの選択は、典型的には、ベクターが導入される細胞とのベクターの適合性に依存する。ベクターはまた、選択マーカー、例えば、抗生物質耐性遺伝子、除草剤耐性遺伝子、又は好適な形質転換体の選択のために使用され得る他の遺伝子を含み得る。このような遺伝子の例は、当業者に周知である。
【0166】
本発明の核酸構築物は、プラスミドなどのベクター内に導入され得る。プラスミドベクターは、典型的には、原核及び真核細胞内の発現カセットの容易な選択、増幅、及び形質転換を提供する追加の核酸配列を含み、例えば、pUC由来ベクター、pSK由来ベクター、pGEM由来ベクター、pSP由来ベクター、pBS由来ベクター、又は1つ以上のT-DNA領域を含有するバイナリベクターを含む。追加の核酸配列は、ベクターの自律複製を提供するための複製起点、選択可能なマーカー遺伝子、好ましくは、抗生物質又は除草剤耐性をコードする選択可能マーカー遺伝子、核酸構築物内でコードされた核酸配列又は遺伝子を挿入するための複数の部位を提供する固有の複数のクローニング部位、並びに原核及び真核細胞(特に植物)細胞の形質転換を増強する配列を含む。
【0167】
「マーカー遺伝子」とは、異なる表現型を、マーカー遺伝子を発現する細胞に付与し、したがって、このような形質転換された細胞が、マーカーを有しない細胞と区別されることを可能にする遺伝子を意味する。選択可能マーカー遺伝子は、選択剤(例えば、除草剤、抗生物質、放射線、熱、又は未形質転換細胞を損傷する他の処理)に対する耐性に基づく「選択」を可能にする形質を付与する。スクリーニング可能マーカー遺伝子(又はレポーター遺伝子)は、観察又は試験による、すなわち、「スクリーニング」(例えば、β-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、GFP、又は未形質転換細胞内に存在しない他の酵素活性)による同定を可能にする形質を付与する。マーカー遺伝子及び対象のヌクレオチド配列は、連結されている必要はない。
【0168】
形質転換体の同定を容易にするために、核酸構築物は、望ましくは、異質若しくは外来性ポリヌクレオチドとして又はこれに加えて、選択可能又はスクリーニング可能マーカー遺伝子を含む。マーカーが、選択の植物細胞と組み合わせて機能的(すなわち、選択的)である限り、マーカーの実際の選択は重要ではない。例えば、US4,399,216に記載されているように、非連結遺伝子の共形質転換もまた、植物形質転換における効率的なプロセスであるため、マーカー遺伝子及び対象の異質又は外来性ポリヌクレオチドは、連結されている必要はない。
【0169】
細菌選択可能マーカーの例は、アンピシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、又はテトラサイクリン耐性、好ましくは、カナマイシン耐性などの抗生物質耐性を付与するマーカーである。植物形質転換体の選択のための例示的な選択可能マーカーとしては、ハイグロマイシンB耐性をコードするhyg遺伝子、カナマイシン、パロモマイシン、G418に対する耐性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(nptII)遺伝子、例えば、EP256223に記載されているように、グルタチオン由来除草剤に対する耐性を付与するラット肝臓からのグルタチオン-S-トランスフェラーゼ遺伝子、例えば、WO87/05327に記載されているように、過剰発現の際に、ホスフィノトリシンなどのグルタミンシンターゼ阻害剤に対する耐性を付与するグルタミンシンターゼ遺伝子、例えば、EP275957に記載されているように、選択剤ホスフィノトリシンに対する耐性を付与するStreptomyces viridochromogenesからのアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、例えば、Hinchee et al.(1988)によって記載されているように、N-ホスホノメチルグリシンに対する耐性を付与する5-エノールシキミ酸(enolshikimate)-3-リン酸シンターゼ(EPSPS)をコードする遺伝子、例えば、WO91/02071に記載されているように、ビアラホスに対する耐性を付与するbar遺伝子、ブロモキシニルに対する耐性を付与するKlebsiella ozaenaeからのbxnなどのニトリラーゼ遺伝子(Stalker et al.,1988)、メトトレキサートに対する耐性を付与するジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(Thillet et al.,1988)、イミダゾリノン、スルホニルウレア、若しくは他のALS阻害化学物質に対する耐性を付与する変異型アセト乳酸シンターゼ遺伝子(ALS)(EP154,204)、5-メチルトリプトファンに対する耐性を付与する変異型アントラニル酸シンターゼ遺伝子、又は除草剤に対する耐性を付与するダラポンデハロゲナーゼ遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0170】
好ましいスクリーニング可能なマーカーは、様々な発色基質として知られているβ-グルクロニダーゼ(GUS)酵素をコードするuidA遺伝子、発色基質が既知である酵素をコードするβ-ガラクトシダーゼ遺伝子、カルシウム感受性生物発光検出において使用され得るエクオリン遺伝子(Prasher et al.,1985)、緑色蛍光タンパク質遺伝子又はその誘導体、生物発光検出を可能にするルシフェラーゼ(luc)遺伝子(Ow et al.,1986)、及び当該技術分野で既知の他のものを含むが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「レポーター分子」とは、分子の化学的性質によって、解析的に同定可能なシグナルを提供する分子であって、解析的に同定可能なシグナルが、タンパク質産物への参照によるプロモーター活性の判定を容易にする、分子を意味する。
【0171】
好ましくは、核酸構築物は、例えば、植物のゲノム内に安定して組み込まれる。したがって、核酸は、分子がゲノム内に組み込まれることを可能にする適切なエレメントを含むか、又は構築物は、植物細胞の染色体内に組み込まれ得る適切なベクター内に置かれる。
【0172】
本発明の一実施形態は、組換えベクターを含み、組換えベクターは、本発明の少なくとも1つのポリヌクレオチド分子を含み、本発明の少なくとも1つのポリヌクレオチド分子は、核酸分子を宿主細胞内に送達することが可能であるいずれかのベクター内に挿入される。このようなベクターは、異種核酸配列、すなわち、本発明の核酸分子に隣接して自然に見出されず、好ましくは、核酸分子が由来する種以外の種に由来する核酸配列を含有する。ベクターは、RNA又はDNAのいずれか、原核細胞又は真核細胞のいずれかであることができ、典型的には、ウイルス又はプラスミドである。
【0173】
植物細胞の安定したトランスフェクションに好適な、又は遺伝子改変植物の確立に好適な多数のベクターは、例えば、Pouwels et al.,Cloning Vectors:A Laboratory Manual,1985,supp.1987、Weissbach and Weissbach,Methods for Plant Molecular Biology,Academic Press,1989、及びGelvin et al.,Plant Molecular Biology Manual, Kluwer Academic Publishers,1990に記載されている。典型的に、植物発現ベクターは、例えば、5’及び3’調節配列の転写制御下の1つ以上のクローニングされた植物遺伝子、並びに顕性選択可能マーカーを含む。このような植物発現ベクターはまた、プロモーター調節領域(例えば、誘導性若しくは構成的発現、環境的若しくは発達的に調節された発現、又は細胞若しくは組織特異的発現を制御する調節領域)、転写開始部位、リボソーム結合部位、RNAプロセシングシグナル、転写終結部位、及び/又はポリアデニル化シグナルを含有することができる。
【0174】
組換え細胞
本発明の別の実施形態は、本発明の1つ以上の組換え分子で形質転換された宿主細胞、又はその子孫細胞を含む、組換え細胞を含む。細胞内への核酸分子の形質転換は、核酸分子が細胞内に挿入され得るいずれかの方法によって達成され得る。形質転換技法としては、トランスフェクション、粒子衝撃/微粒子銃、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、吸着、及びプロトプラスト融合が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、遺伝子編集は、例えば、TALEN、Cpf1、MAD7、及びCas9-CRISPRなどの標的化ヌクレアーゼ、又はそれに由来する操作されたヌクレアーゼを使用して、標的細胞を形質転換するために使用される。
【0175】
組換え細胞は、依然として単細胞であってもよいか、又は組織、器官、若しくは多細胞生物へと成長してもよい。本発明の形質転換核酸分子は、依然として染色体外であってもよいか、又は形質転換核酸分子の発現される能力が保持されるこのような様式で、形質転換(例えば、組換え)細胞の染色体内の1つ以上の部位内に組み込まれてもよい。好ましい宿主細胞は、植物細胞、より好ましくは、穀類植物の細胞、より好ましくは、コメ又はモロコシ細胞、更により好ましくは、コメ細胞である。
【0176】
ゲノム編集
エンドヌクレアーゼは、一本鎖又は二本鎖切断を、ゲノムDNAに生成するために使用され得る。真核細胞内のゲノムDNA切断は、非相同末端結合(NHEJ)又はホモロジー指向性修復(HDR)経路を使用して修復される。NHEJは、望ましくない変異をもたらす不完全な修復をもたらし得、HDRは、外来性供給修復DNAテンプレートを使用することによって、正確な遺伝子挿入を可能にすることができる。転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)及び亜鉛フィンガーヌクレアーゼが依然として有用であるが、CRISPR関連(Cas)タンパク質は、著明な関心を得ており、CRISPR-Cas系は、ゲノム改変のためのより単純な汎用性のあるより安価なツールを提供する(Doudna and Charpentier,2014)。
【0177】
CRISPR-Cas系は、様々なヌクレアーゼ又はヌクレアーゼ上の組み合わせを使用して、3つの主要な群に分類される。クラス1CRISPR-Cas系(I型、III型、及びIV型)内で、エフェクターモジュールは、多タンパク質複合体からなり、クラス2系(II型、V型、及びVI型)は、1つのエフェクタータンパク質のみを使用する(Makarova et al.,2015)。Casは、隣接するCRISPR遺伝子座に結合している又はこの近くに又はこの付近に局在する遺伝子を含む。Haft et al.(2005)は、Casタンパク質ファミリーの概説を提供する。
【0178】
ヌクレアーゼは、合成小ガイドRNA(sgRNA又はgRNA)によってガイドされ、合成小ガイドRNAは、tracRNAを含み得るか、又は含まない場合があり、tracRNAは、2つの遺伝子への、すなわち、エンドヌクレアーゼ及びsgRNAへのCRISPR-Cas系の単純化をもたらす(Jinek et al.2012)。sgRNAは、典型的には、U3又はU6小核RNAプロモーターの調節制御下にある。sgRNAは、標的化のための特定の遺伝子及び遺伝子の一部分を認識する。プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)は、ゲノム内の潜在的なCRISPR-Cas標的の数を制限する標的部位に隣接するが、ヌクレアーゼの拡大はまた、使用可能なPAMの数を増加させる。CHOPCHOP(http://chopchop.cbu.uib.no)、CRISPR設計https://omictools.com/crispr-design-tool、E-CRISP http://www.e-crisp.org/E-CRISP/、Geneious又はBenchling https://benchling.com/crisprを含む、gRNAを設計するために利用可能な多数のウェブツールが存在する。
【0179】
典型的には、RNAガイド性Streptococcus pyogenes Cas9を使用するCas9エフェクタータンパク質、又は複数の植物種における最適化配列バリアントを使用するCRISPR-Cas系は、現在のところ、真核生物の作業に最も頻繁に採用されている(Luo et al.,2016)。Luo et al.(2016)は、多数の研究の概要を述べており、これらの研究において、遺伝子は、様々な植物種内で成功裏に標的とされて、内在性遺伝子オープンリーディングフレーム及び/又はプロモーター内のindel及び機能喪失型変異体表現型を生じさせる。植物細胞上の細胞壁に起因して、細胞内へのCRISPR-Cas機構の送達及び成功裏のトランスジェニック再生は、Agrobacterium tumefaciens感染(Luo et al.,2016)、又はプラスミドDNA粒子衝撃若しくは微粒子銃送達を使用してきた。穀類形質転換に好適なベクターとしては、pCXUNcas9(Sun et al,2016)又はAddgeneから入手可能なpYLCRISPR/Cas9Pubi-H(Ma et al.,2015、受入番号KR029109.1)が挙げられる。
【0180】
代替的なCRISPR-Cas系は、ヌクレアーゼRuvCドメインを含有するが、Cas12a、Cas12b、Cas12f、Cpf1、C2c1、C2c3、及び操作された誘導体を含むCas12酵素を含むHNHドメインを含有しない、エフェクター酵素を指す。Cpf1は、二本鎖切断を、ねじれ型様式でPAM遠位位置において作製し、より小さいエンドヌクレアーゼであることは、ある特定の種について利点を提供し得る(Begemann et al.,2017)。他のCRISPR-Cas系は、Cas13、Cas13a(C2c2)、Cas13b、Cas13cを含むRNAガイド性リボヌクレアーゼを含む。
【0181】
配列挿入又は組み込み
CRISPR-Cas系は、ゲノム内への配列の挿入についての相同修復を指示するための核酸配列の提供と組み合わされ得る。植物トランスジーンの標的ゲノム組み込みは、同じ遺伝子座におけるトランスジーンの逐次的付加を可能にする。この「シス遺伝子スタッキング」は、後続の育種労力を、単一遺伝子座として遺伝する全てのトランスジーンで大きく単純化する。標的部位のCRISPR/Cas9切断と結合しているときに、トランスジーンは、隣接配列ホモロジーによって容易にされるホモロジー指向性修復によって、この遺伝子座内に組み込まれ得る。この手法は、リンケージドラッグなしで新しいアレルを迅速に導入するために、又は自然に存在しないアレルバリアントを導入するために使用され得る。
【0182】
ニッカーゼ
CRISPR-CasII系は、2つの酵素切断ドメイン、RuvC及びHNHドメインを有するCas9ヌクレアーゼを使用する。変異は、二本鎖切断を一本鎖切断に変更し、ニッカーゼ又はヌクレアーゼ不活性化Cas9と称される技術バリアントをもたらすことが示されている。RuvCサブドメインは、非相補的DNA鎖を切断し、HNHサブドメインは、gRNAに相補的なこのDNA鎖を切断する。ニッカーゼ又はヌクレアーゼ不活性化Cas9は、gRNAによって指示されるDNA結合能力を保持する。サブドメイン内の変異、例えば、D10A変異又はH840A変異を有するS.pyogenes Cas9ヌクレアーゼは、当該技術分野で既知である。
【0183】
ゲノム塩基編集又は改変
塩基エディタは、デアミナーゼをCas9ドメインと融合させることによって作製されてきた(WO2018/086623)。融合することによって、デアミナーゼは、gRNAによって指示される配列標的を利用して、DNA内のシチジンの脱アミノ化による標的シチジン(C)からウラシル(U)への変換を行うことができる。次いで、細胞のミスマッチ修復機構は、UをTで置き換える。好適なシチジンデアミナーゼとしては、APOBEC1デアミナーゼ、活性化誘導性シチジンデアミナーゼ(AID)、APOBEC3G、及びCDA1を挙げることができる。更に、Cas9-デアミナーゼ融合は、一本鎖切断を生成するためのニッカーゼ活性を有する変異型Cas9であり得る。ニッカーゼタンパク質は、ホモロジー指向性修復の促進において潜在的により効率的であったことが示唆されている(Luo et al.,2016)。
【0184】
ベクターフリーゲノム編集又はゲノム改変
より最近では、Cas9/sgRNAリボヌクレオタンパク質を使用するベクターフリー手法を使用するための方法は、オフターゲット事象を成功裏に低減することが記載されている。方法は、細胞又はプロトプラスト内に形質転換され、宿主ゲノム内に組み込まれるCas9に依存せず、それによって、Cas9遺伝子のランダム組み込みと連係する望ましくない側の切断を低減する、Cas9リボヌクレオタンパク質(RNP)のインビトロ発現を必要とする。短い隣接配列のみが、安定したCas9及びsgRNA安定したリボヌクレオタンパク質をインビトロで形成するために必要とされる。Woo et al.(2015)は、予めアセンブルされたCas9/sgRNAタンパク質/RNA複合体を産生し、Arabidopsisのプロトプラスト、コメ、レタス、及びタバコに導入し、最大45%の標的変異誘発頻度を再生植物内で観察した。RNP及びインビトロは、双子葉植物(Woo et al.,2015)、並びに単子葉トウモロコシ(Svitashev et al.,2016)及び小麦(Liang et al.,2017)を含むいくつかの種において実証された。CRISPR-Cas9インビトロ転写物又はリボヌクレオタンパク質を使用する植物のゲノム編集は、Liang et al.(2018)及びLiang et al.(2019)に完全に記載されている。
【0185】
遺伝子挿入のための方法
植物胚は、組み込みの部位を標的とするCas9遺伝子及びsgRNA遺伝子で、DNA修復テンプレートとともに衝撃され得る。DNA修復テンプレートは、合成されたDNA断片又は127量体オリゴヌクレオチドであり得、各々が、cDNA又は対象の遺伝子をコードする。微粒子銃処理された細胞は、組織培養培地上で成長する。DNAは、CTAB DNA抽出法を使用して、カルス又はT0植物の葉組織から抽出され、遺伝子組み込みを確認するためにPCRによって分析され得る。pcrが対象の遺伝子の存在を確認する場合、選択されるT1植物。
【0186】
方法は、ドナーDNA及びエンドヌクレアーゼと称される対象のDNA配列を植物細胞内に導入することを含む。エンドヌクレアーゼは、切断を標的部位内に生成し、これは、ドナーDNAのホモロジーの第1及び第2の領域が、ホモロジーのこれらの対応するゲノム領域との相同組換えを行うことを可能にする。切断されたゲノムDNAは、DNA配列のアクセプターとして作用する。ドナーとゲノムとの間のDNAの得られた交換は、植物ゲノム内の標的部位内の鎖切断内へのドナーDNAの対象のポリヌクレオチドの組み込みをもたらし、それによって、本来の標的部位を変更し、変更されたゲノム配列を産生する。
【0187】
ドナーDNAは、当該技術分野で既知のいずれかの手段によって導入され得る。例えば、標的部位を有する植物が提供される。ドナーDNAは、Agrobacterium媒介形質転換又は微粒子銃粒子衝撃を含む既知の形質転換方法によって、植物に提供され得る。RNAガイド性Cas又はCpf1エンドヌクレアーゼは、標的部位で切断し、ドナーDNAが、形質転換された植物ゲノム内に挿入される。
【0188】
相同組換えは、植物体細胞内で低頻度で発生するが、プロセスは、選択されたエンドヌクレアーゼ標的部位における二本鎖切断(DSB)の導入によって増加される/刺激されると考えられる。Cas、特にCas9、及びCas12a/Cpf1、MAD7又はCms1などのバリアント又は代替物を生成するための継続的な努力が、効率を改善し得る。
【0189】
遺伝子改変植物
本明細書で名詞として使用される場合、「植物」という用語は、植物全体を指し、植物界のいずれかのメンバーを指すが、形容詞として使用される場合、植物内に存在する、又は植物から得られる、又は植物に由来する、又は植物に関連するいずれかの物質、例えば、植物器官(例えば、葉、茎、根、花)、単一細胞(例えば、花粉)、種子、及び植物細胞などを指す。根及び苗条が出芽した小植物及び発芽した種子もまた、「植物」の意味に含まれる。本明細書で使用される場合、「植物の一部分」という用語は、植物から得られ植物のゲノムDNAを含む1つ以上の植物組織又は器官を指す。植物の一部分は、植生構造(例えば、葉、茎)、根、花器官/構造、(胚、子葉、及び種皮を含む)種子、植物組織(例えば、維管束組織、及び基本組織など)、細胞及びその子孫を含む。本明細書で使用される場合、「植物細胞」という用語は、植物から得られる又は植物内の細胞を指し、植物に由来するプロトプラスト又は他の細胞、配偶子産生細胞、及び全植物に再生する細胞を含む。植物細胞は、培養物内の細胞であり得る。「植物組織」とは、植物内の又は植物から得られる分化組織(「外植体」)、又は未成熟若しくは成熟胚に由来する未分化組織、種子、根、苗条、果実、塊茎、花粉、根頭がん腫などの腫瘍組織、及びカルスなどの、培養物内の植物細胞の様々な形態の集合体を意味する。種子における又は種子からの例示的な植物組織は、子葉、胚、及び胚軸である。したがって、本発明は、植物及び植物部分、並びにこれらを含む製品を含む。
【0190】
本明細書で使用される場合、「種子」という用語は、典型的には、圃場で商業的に収穫されるような、植物からの収穫の準備ができているか、若しくは収穫されたか、又は受精後かつ収穫前に、種子休眠が確立される前に植物内で生じる「発育中の種子」のいずれかである、植物の「成熟した種子」を指す。
【0191】
本明細書で使用される場合、「遺伝子改変植物」又はその変形は、遺伝子編集によって導入されるような、1つ以上の遺伝的変異を含有し、同じ種、変種、又は栽培品種の野生型植物に見出されない植物を指す。
【0192】
本発明の実施における使用が企図される植物としては、単子葉類及び双子葉類の両方が挙げられる。標的植物としては、穀類(例えば、小麦、大麦、ライ麦、オーツ麦、コメ、トウモロコシ、モロコシ、及び関連する穀物);ブドウ;ビート(甜菜及び飼料ビート);ナシ状果、核果、及びソフトフルーツ(リンゴ、ナシ、プラム、モモ、アーモンド、チェリー、イチゴ、ラズベリー、及びブラックベリー);豆果(豆、レンズ豆、エンドウ豆、大豆);油性植物(アブラナ又は他の西洋アブラナ、マスタード、ポピー、オリーブ、ヒマワリ、サフラワー、亜麻、ココナッツ、ヒマシ油植物、カカオ豆、落花生);キュウリ植物(マロー、キュウリ、メロン);繊維植物(綿、亜麻、ヘンプ、ジュート)、柑橘系果実(オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ミカン);野菜(ほうれん草、レタス、アスパラガス、キャベツ、ニンジン、玉ねぎ、トマト、ジャガイモ、パプリカ);クスノキ科(アボカド、シナモン、樟脳);又はトウモロコシ、タバコ、ナッツ、コーヒー、サトウキビ、茶、つる、ホップ、芝生、バナナ、及び天然ゴム植物、並びに観賞植物(花、低木、広葉樹、及び針葉樹などの常緑樹)などの植物が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、植物は、穀類植物である。一実施形態では、穀類植物は、稲体又はモロコシ植物である。一実施形態では、穀類植物は、コメである。一実施形態では、穀類植物は、トウモロコシである。一実施形態では、穀類植物は、ライ小麦である。一実施形態では、穀類植物は、オーツ麦である。一実施形態では、穀類植物は、大麦である。
【0193】
双子葉類、及び双子葉類からの種子又は外皮に関して、穀類に関する実施形態の各々は、該当する場合、本発明の双子葉類にも適用される。
【0194】
本明細書で使用される場合、「コメ」という用語は、その前駆体を含むOryza属のいずれかの種、並びに他の種との交雑によって生産されるその子孫を指す。植物は、商業的に栽培されるOryza種、例えば、Oryza sativaの株若しくは栽培品種若しくは変種、又は穀粒の商業的生産に好適であるものなどが好ましい。
【0195】
一実施形態では、遺伝子改変植物は、子孫が所望の表現型から分離しないように、導入されている各々及び全ての遺伝的変異に対してホモ接合性である。
【0196】
本明細書で使用される場合、「同質植物と比較して」という用語、又は同様の語句は、同質であるか、又は遺伝子改変植物と比較して実質的に同質であるが、遺伝的変異がない植物を指す。好ましくは、対応する同質植物は、対象の遺伝子改変植物の前駆体と同じ栽培品種又は変種のものである。本明細書で使用される場合、「野生型」又は「対応する」は、本発明に従って改変されていない細胞、組織、又は植物を指す。野生型又は対応する細胞、組織、又は植物は、変異体/バリアントタンパク質の発現のレベル、又は形質改変の程度及び性質を、本明細書に記載されるように改変された細胞、組織、又は植物と比較するための対照として使用され得る。
【0197】
本発明の文脈に定義されるように、遺伝子改変植物は、組換え技法を使用して遺伝子改変されている植物の子孫を含み、子孫が、対象の遺伝的変異を含む。このような子孫は、一次遺伝子改変植物の自家受精によって、又はこのような植物を別の同じ種の植物と交雑することによって得られ得る。これは、概して、所望の植物又は植物器官における本明細書に定義される少なくとも1つのタンパク質の産生を変調させることであろう。遺伝子改変植物の一部分は、例えば、培養組織、カルス、及びプロトプラストなどの、遺伝的変異を含む当該植物の全ての一部分及び細胞を含む。
【0198】
本発明の文脈に定義される遺伝子改変植物は、本明細書に定義される少なくとも1つのポリペプチドの産生を所望の植物又は植物器官で引き起こすための組換え技法を使用して遺伝子改変されている植物(並びに当該植物の一部分及び細胞)及びそれらの子孫を含む。遺伝子改変植物は、A.Slater et al.,Plant Biotechnology-The Genetic Manipulation of Plants, Oxford University Press(2003)、N.G.Halford,Crop Technology:Genetic Modification and genome editing,World Scientific Publ Co Pte Ltd(2018)、及びP.Christou and H.Klee,Handbook of Plant Biotechnology,John Wiley and Sons(2004)に概説されているものなどの、当該技術分野で既知の技法を使用して生産され得る。
【0199】
一実施形態では、遺伝子改変植物は、子孫が所望の表現型から分離しないように、導入されている各々及び全ての遺伝子改変に対してホモ接合性である。遺伝子改変植物はまた、例えば、ハイブリッド種子から成長したF1子孫などにおいて、導入された遺伝子改変に対してヘテロ接合性であり得る。このような植物は、当該技術分野で周知の、雑種強勢などの利点を提供し得る。
【0200】
細胞内への遺伝子の直接送達のための以下の4つの一般的な方法:(1)化学的方法(Graham et al.,1973)、(2)物理的方法、例えば、マイクロインジェクション(Capecchi,1980)、エレクトロポレーション(例えば、WO87/06614、US5,472,869、5,384,253、WO92/09696、及びWO93/21335を参照されたい)、及び遺伝子銃(例えば、US4,945,050及びUS5,141,131を参照されたい)、(3)ウイルスベクター(Clapp.1993、Lu et al.,1993、Eglitis et al.,1988)、並びに(4)受容体媒介機構(Curiel et al.,1992、Wagner et al.,1992)が記載されている。
【0201】
使用され得る加速方法は、例えば、マイクロプロジェクタイル衝撃などを含む。核酸分子を植物細胞に送達する形質転換するための方法の一例は、マイクロプロジェクタイル衝撃である。この方法は、Yang et al..Particle Bombardment Technology for Gene Transfer.Oxford Press.Oxford.England(1994)によって概説されている。核酸でコーティングされ得、推進力によって細胞内に送達され得る非生物学的粒子(マイクロプロジェクタイル)。例示的な粒子としては、タングステン、金、及び白金などから構成された粒子が挙げられる。マイクロプロジェクタイル衝撃は、単子葉植物を再現可能に形質転換する有効な手段であることに加えて、マイクロプロジェクタイル衝撃の利点は、特に、プロトプラストの単離もAgrobacterium感染の感受性も必要とされないことである。本発明での使用に好適な粒子送達システムは、ヘリウム加速PDS-1000/He銃である Bio-Rad Laboratoriesから入手可能である。衝撃のために、未成熟胚又は未成熟胚に由来する標的細胞、例えば、胚盤若しくはカルスが、固体培地上に配置され得る。
【0202】
別の代替の実施形態では、プラスチドが、安定して形質転換され得る。高等植物におけるプラスチド形質転換について開示されている方法は、選択可能マーカーを含有するDNAの微粒子銃送達、及び相同組換えによるプラスチドゲノムへのDNAの標的化を含む(US5,451,513、US5,545,818、US5,877,402、US5,932479、及びWO99/05265)。
【0203】
Agrobacterium媒介転移は、DNAが全植物組織内に導入され得、それによって、プロトプラストからの無傷の植物の再生の必要性をバイパスするため、遺伝子を植物細胞内に導入するための広く適用可能なシステムである。DNAを植物細胞内に導入するための、Agrobacterium媒介植物組み込みベクターの使用は、当該技術分野で周知である(例えば、US5,177,010、US5,104,310、US5,004,863、US5,159,135を参照されたい)。更に、T-DNAの組み込みは、少ない再編成をもたらす比較的正確なプロセスである。転移されるDNAの領域は、境界配列によって定義され、介在DNAは、通常、植物ゲノム内に挿入される。
【0204】
Agrobacterium形質転換ベクターは、E.coli並びにAgrobacteriumにおいて複製することが可能であり、記載の便利な操作を可能にする(Klee et al.,Plant DNA Infectious Agents,Hohn and Schell,(editors),Springer-Verlag,New York,(1985):179-203)。更に、Agrobacterium媒介遺伝子移入のためのベクターにおける技術的進歩は、様々なポリペプチドコード遺伝子を発現することが可能なベクターの構築を容易にするために、ベクターにおける遺伝子及び制限部位の配置を改善されている。記載のベクターは、挿入されたポリペプチドコード遺伝子の直接発現のためのプロモーター及びポリアデニル化部位に隣接する便利なマルチリンカー領域を有し、本目的に好適である。加えて、アーム型及び非アーム型の両方のTi遺伝子を含有するAgrobacteriumは、形質転換のために使用することができる。遺伝子移入の容易さ及び定義された性質を理由として、Agrobacterium媒介形質転換が効率的である植物変種では、これが選択の方法である。
【0205】
Agrobacterium形質転換法を使用して形成される遺伝子改変植物は、典型的には、単一遺伝子座を1つの染色体上に含有する。このような遺伝子改変植物は、付加遺伝子に対してヘミ接合性であると称され得る。付加構造遺伝子に対してホモ接合性である遺伝子改変植物、すなわち、2つの付加遺伝子を含有し、1つの遺伝子を染色体対の各々の染色体上の同じ遺伝子座に含有する遺伝子改変植物がより好ましい。ホモ接合性遺伝子改変植物は、単一付加遺伝子を含有する独立した分離個体遺伝子改変植物を性交配(自家交配)することと、生産された種子の一部分を発芽させることと、生じた植物を対象の遺伝子について分析することとによって得られ得る。
【0206】
また、2つの異なる遺伝子改変植物を交配/交雑して、2つの独立して分離する外来性遺伝子を含有する子孫を生産することもできることを理解されたい。適切な子孫の自家交配は、両方の外来性遺伝子に対してホモ接合性である植物を生産することができる。親植物への戻し交雑、及び非遺伝子改変植物との異系交雑もまた、栄養増殖と同様に、企図される。異なる形質及び穀物に一般的に使用される他の繁殖方法の説明は、Fehr,Breeding Methods for Cultivar Development,J.Wilcox(editor)American Society of Agronomy,Madison Wis.(1987)に見出すことができる。
【0207】
植物プロトプラストの形質転換は、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレングリコール処理、エレクトロポレーション、及びこれらの処理の組み合わせに基づく方法を使用して達成することができる。これらの系を異なる植物変種に適用することは、その特定の植物株をプロトプラストから再生する能力に依存する。プロトプラストからの穀類の再生のための例示的な方法が記載されている(Fujimura et al.,1985、Toriyama et al.,1986、Abdullah et al.,1986)。
【0208】
細胞形質転換の他の方法もまた、使用することができ、花粉への直接移入によって、植物の生殖器官へのDNAなどのポリヌクレオチドの直接注入によって、又は未成熟胚の細胞へのDNAなどのポリヌクレオチドの直接注入、続いて、乾燥させた胚の再水和によって、DNAなどのポリヌクレオチドを植物に導入することを含むが、これらに限定されない。
【0209】
単一植物プロトプラスト形質転換体からの又は様々な形質転換された外植体からの植物の再生、発育、及び栽培は、当該技術分野で周知である(Weissbach et al.,Methods for Plant Molecular Biology,Academic Press,San Diego,(1988))。この再生及び成長プロセスは、典型的には、形質転換された細胞の選択のステップ、これらの個別化された細胞を、胚発育の通常の段階にわたって、根付いた小植物段階にわたって培養するステップを含む。遺伝子改変胚及び種子は、同様に再生される。生じた発根した遺伝子改変苗条は、その後、土壌などの適切な植物成長培地に植えられる。
【0210】
異質外来性遺伝子を含有する植物の発育又は再生は、当該技術分野で周知である。好ましくは、再生された植物を自家受粉させて、ホモ接合性遺伝子改変植物を提供する。そうでなければ、再生された植物から得られた花粉が、農業的に重要な系統の採種栽培植物と交雑される。逆に、これらの重要な系統の植物からの花粉は、再生された植物を受粉するために使用される。所望の遺伝子改変を含有する本発明の遺伝子改変植物は、当業者に周知の方法を使用して栽培される。
【0211】
綿(US5,004,863、US5,159,135、US5,518,908)、大豆(US5,569,834、US5,416,011)、西洋アブラナ(US5,463,174)、ピーナッツ(Cheng et al.,1996)、及びエンドウ豆(Grant et al.,1995)についての、主にAgrobacterium tumefaciensを使用することによる、双子葉を形質転換し、遺伝子改変植物を得るための方法が公開されている。
【0212】
外来性核酸の導入によって植物に遺伝的変異を導入するための小麦及び大麦などの穀類植物の形質転換のための方法、並びにプロトプラスト又は未成熟植物胚からの植物の再生のための方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、CA2,092,588、AU61781/94、AU667939、US6,100,447、WO97/048814、US5,589,617、US6,541,257を参照されたく、かつ他の方法が、WO99/14314に記載されている。好ましくは、遺伝子改変された小麦又は大麦植物は、Agrobacterium tumefaciens媒介形質転換手順によって生産される。所望の核酸構築物を担持するベクターは、組織培養された植物若しくは外植体の再生可能な小麦細胞、又はプロトプラストなどの好適な植物系内に導入され得る。再生可能な小麦細胞は、好ましくは、未成熟胚、成熟胚、これらに由来するカルス、又は分裂組織の胚盤からのものである。
【0213】
遺伝子改変細胞及び植物において遺伝的変異の存在を確認するために、当業者に既知の方法を使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅又はサザンブロット分析が実行され得る。遺伝子改変遺伝子の発現産物は、産物の性質に応じて、様々な方法のうちのいずれかで検出され得、ウエスタンブロット及び酵素アッセイを含む。タンパク質発現を定量化し、異なる植物組織内の複製を検出するための特に有用な1つの方法は、GUSなどのレポーター遺伝子を使用することである。遺伝子改変植物が得られたら、それらを成長させて、所望の表現型を有する植物組織又は一部分を生産することができる。植物組織又は植物の一部分は、収穫され得、かつ/又は種子は、収集され得る。種子は、所望の特徴を有する組織又は部分を有する追加の植物を成長させるための供給源として機能し得る。
【0214】
マーカー支援選択
マーカー支援選択は、古典的な育種プログラムにおいて反復親と戻し交雑するときに必要とされるヘテロ接合性植物を選択する、十分認識された方法である。各々の戻し交配世代における植物の集団は、戻し交配集団において1:1の比で通常存在する対象の遺伝子に対してヘテロ接合性であり、分子マーカーが、遺伝子の2つのアレルを区別するために使用され得る。DNAを、例えば、若い苗条から抽出することと、特定のマーカーで、遺伝子移入された望ましい形質について試験することとによって、エネルギー及び資源がより少ない植物に集中しつつ、更なる戻し交雑のための植物の早期選択がなされる。戻し交雑プログラムを更に迅速化するために、未成熟種子(開花後25日目)からの胚は、完全種子成熟を可能にするのではなく、切除され、滅菌条件下で栄養培地上で成長させてもよい。
【0215】
当該技術分野で既知のいずれか分子生物学的技法を、本発明の方法において使用し得る。このような方法は、核酸増幅、核酸配列決定、好適に標識されたプローブでの核酸ハイブリダイゼーション、一本鎖高次構造解析(SSCA)、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)、ヘテロ二本鎖解析(HET)、化学的切断解析(CCM)、触媒核酸切断、又はこれらの組み合わせの使用を含むが、これらに限定されない(例えば、Lemieux,2000、Langridge et al.,2001を参照されたい)。本発明はまた、低減された活性を付与する(例えば)FAD2-1遺伝子又はLOX3遺伝子のアレルに関連する多型を検出するための分子マーカー技法の使用を含む。このような方法は、制限断片長多型(RFLP)、RAPD、増幅断片長多型(AFLP)、及びマイクロサテライト(単純配列反復、SSR)多型の検出又は解析を含む。密接に連結されたマーカーは、当該技術分野で周知の方法によって、例えば、Langridge et al.(2001)によって概説されているバルク分離個体解析などによって容易に得られ得る。
【0216】
一実施形態では、マーカー支援選択のための連結された遺伝子座は、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子から少なくとも1cM、又は0.5cM、又は0.1cM、又は0.01cM以内である。
【0217】
「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)は、複製コピーが、「上流」及び「下流」プライマーからなる「プライマーの対」又は「プライマーのセット」と、重合の触媒、例えば、DNAポリメラーゼ、及び典型的には、熱安定性ポリメラーゼ酵素と、を使用して、標的ポリヌクレオチドから作製される、反応である。PCRのための方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、「PCR」(M.J.McPherson and S.G Moller(editors),BIOS Scientific Publishers Ltd,Oxford,(2000))で教示されている。PCRは、FAD2-1遺伝子及び/又はLOX3遺伝子を発現する植物細胞から単離されたmRNAを逆転写することから得られたcDNA上で実行され得、FAD2-1遺伝子及び/又はLOX3遺伝子は、植物に変化した穀粒脂肪酸含有量を付与する。しかしながら、PCRが、植物から単離されたゲノムDNA上で実行される場合、PCRは、概して、より容易である。
【0218】
プライマーは、配列特異的な様式で標的配列にハイブリダイゼーションしPCR中に伸長することが可能であるオリゴヌクレオチド配列である。アンプリコン若しくはPCR産物、又はPCR断片若しくは増幅産物は、プライマー及び新たに合成された標的配列コピーを含む伸長産物である。マルチプレックスPCRシステムは、プライマーの複数のセットを含有し、プライマーの複数のセットは、2つ以上のアンプリコンの同時産生をもたらす。プライマーは、標的配列に完全にマッチしてもよく、又はプライマーは、特定の標的配列内への制限酵素又は触媒核酸認識/切断部位の導入をもたらし得る内部ミスマッチ塩基を含有してもよい。プライマーはまた、アンプリコンの捕捉又は検出を容易にするために、追加の配列を含有し得、かつ/又は改変若しくは標識ヌクレオチドを含有し得る。DNAの熱変性、プライマーの相補的配列へのプライマーのアニーリング、及びポリメラーゼでのアニールされたプライマーの伸長の反復サイクルは、標的配列の指数関数的増幅をもたらす。標的又は標的配列又はテンプレートという用語は、増幅された核酸配列を指す。
【0219】
ヌクレオチド配列の直接配列決定のための方法は、当業者に周知であり、例えば、Ausubel et al.,(上記)及びSambrook et al.,(上記)で見出され得る。配列決定は、任意の好適な方法、例えば、ジデオキシ配列決定、化学配列決定、又はそれらの変形によって実施され得る。直接配列決定は、特定の配列のいずれかの塩基対内の変動を判定する利点を有する。
【0220】
TILLING
本発明の植物は、TILLING(ゲノム内の誘導性局所損傷の標的化(Targeting Induced Local Lesions IN Genomes))として知られているプロセスを使用して生産され得る。第1のステップでは、新規の単一塩基対変化などの導入された変異は、種子(又は花粉)を化学的変異誘発物質で処理することと、次いで、植物を、変異を安定して遺伝する世代に進行させることとによって、植物の集団において誘導される。DNAを抽出し、集団の全てのメンバーからの種子を貯蔵して、経時的に繰り返しアクセスすることができる資源を作製する。
【0221】
TILLINGアッセイでは、PCRプライマーは、対象の単一遺伝子標的を特異的に増幅するように設計されている。標的が、遺伝子ファミリーのメンバー、又は多倍体ゲノムの一部分である場合、特異性は、特に重要である。次に、染料標識プライマーが、複数の個体のプールされたDNAからのPCR産物を増幅するために使用され得る。これらのPCR産物は、変性させ、再アニールされて、ミスマッチ塩基対の形成を可能にする。ミスマッチ又はヘテロ二本鎖は、自然発生単一ヌクレオチド多型(SNP)(すなわち、集団からのいくつかの植物が同じ多型を保有する可能性がある)及び誘導SNP(すなわち、稀な個別の植物のみが変異を示す可能性がある)の両方を表す。ヘテロ二本鎖形成後に、ミスマッチDNAを認識及び切断するCel Iなどのエンドヌクレアーゼの使用は、TILLING集団内の新規のSNPを発見するための鍵である。
【0222】
この手法を使用して、何千もの植物が、いずれかの遺伝子内又はゲノムのいずれかの特定の領域内の単一塩基変化及び小さい挿入又は欠失(1~30bp)を有するいずれかの個体を同定するためにスクリーニングされ得る。アッセイされるゲノム断片のサイズは、0.3~1.6kbの範囲であることができる。8倍プーリング、(SNP検出がノイズに起因して問題になる断片の末端を差引く)1.4kbの断片、及び1アッセイ当たり96個のレーンで、この組み合わせは、ゲノムDNAの最大100万個の塩基対が単一アッセイ当たりスクリーニングされることを可能にし、これは、TILLINGを高スループット技法にする。
【0223】
TILLINGは、Slade and Knauf(2005)及びHenikoff et al.(2004)に更に記載されている。
【0224】
変異の効率的な検出を可能にすることに加えて、ハイスループットTILLING技術は、自然多型の検出に理想的である。したがって、未知の相同DNAを既知の配列へのヘテロ二本鎖化によって調べることにより、多型部位の数及び位置が判明する。ヌクレオチド変化並びに小さい挿入及び欠失の両方が、同定され、これは、少なくともある反復数の多型を含む。これは、Ecotillingと称されている(Comai et al.,2004)。
【0225】
各々のSNPは、いくつかのヌクレオチド内のSNPのおおよその位置によって記録される。したがって、各々のハプロタイプは、ハプロタイプの移動度に基づいてアーカイブされ得る。配列データは、ミスマッチ切断アッセイのために使用される同じ増幅DNAのアリコートを使用して、比較的小さい増分労力で得られ得る。単一反応のための左又は右の配列決定プライマーは、多型への配列決定プライマーの近接度によって選択される。シークエンシャーソフトウェアは、複数のアラインメントを実行し、塩基変化を発見し、これは、各々の場合、ゲルバンドを確認した。
【0226】
Ecotillingは、ほとんどのSNP発見のために現在使用されている方法である完全配列決定よりも安価に実行され得る。変異誘発植物からのDNAのプールではなく、生態型DNAのアレイを収容するプレートがスクリーニングされ得る。検出は、ほぼ塩基対解像度を有するゲル上にあり、バックグラウンドパターンは、レーンにわたって均一であるため、同一のサイズのバンドが、マッチされ得、したがって、SNPが、単一ステップで発見及び遺伝子型判定され得る。このように、SNPの究極の配列決定は、単純かつ効率的であり、スクリーニングのために使用される同じPCR産物のアリコートがDNA配列決定に供され得るということによって、より単純かつ効率的にされる。
【0227】
植物/穀粒加工
本発明の穀粒/種子、好ましくは穀類粒、及びより好ましくはコメ若しくはモロコシ穀粒、又は本発明の他の植物の一部分は、当該技術分野で既知のいずれかの技法を使用して、食品成分、食品又は非食品製品を製造するために加工され得る。
【0228】
当該技術分野で日常的に実施される技法を使用して、本発明の細胞、植物、種子、外皮などによって生産される油を抽出、加工、及び分析することができる。典型的には、植物種子は、調理され、プレスされ、抽出されて、粗油が生産され、これらは次いで、脱ガム化され、精製され、漂白され、脱臭される。コメは、典型的には、殻を除去するために粉砕され、白米から外皮層を除去するために研磨される。概して、種子及び外皮を破砕するための技法は、当該技術分野で既知である。例えば、種子に水を噴霧して、含水率を例えば8.5%まで上昇させ、0.23~0.27mmのギャップ設定を有する滑らかなローラーを使用して薄片を剥がすことによって調節することができる。種子のタイプに応じて、破砕前に水を添加しなくてもよい。コメ外皮は、100℃以上の蒸気によって加熱され得る。熱の適用は、酵素を不活性化し、細胞の更なる破裂を促進し、油滴を結合させ、タンパク質粒子を凝集させ、これらの全てが抽出プロセスを促進する。
【0229】
コメ外皮は、コメ粉砕中に分離される。外皮は、通常、熱又は照射を適用することによって安定化され得、次いで、コメ外皮油が、記載の化学的及び/又は物理的方法を使用して回収される。コメ外皮及びコメ外皮油の考察については、Rice Bran and Rice Bran Oil Chemistry,Processing and Utilization AOCS Press,(2019)Editor(s):Ling-Zhi Cheong,Xuebing Xu,ISBN9780128128282を参照されたい。脱脂コメ外皮は、ヒト食品及び動物飼料に好適である栄養豊富な食事を提供する。コメ外皮油又は食事から貴重な脂肪酸、デンプン、又はフィチン酸塩を単離するための更なる加工が実行され得る。代替的に、コメ外皮は、発酵され得る。
【0230】
一実施形態では、油の大部分は、スクリュープレスを通る通路によって放出される。次いで、スクリュープレスから排出されたケーキを、例えば、ヘキサンで、熱トレーシングカラムを使用して溶媒抽出する。代替的に、プレス操作によって生産された粗油を、スロット付きワイヤ排水トップを有する沈降タンクに通過させて、固体を除去し、プレス操作中に固体は油を絞り出され得る。清澄化させた油を、プレート及びフレームフィルターに通過させて、残留している微細な固体粒子を除去することができる。必要な場合、抽出プロセスから回収された油を、清澄化させた油と合わせて、ブレンド粗油を生産することができる。
【0231】
溶媒が粗油から除去されると、プレスされ抽出された一部分を合わせ、通常の油加工手順を施す。本明細書で使用される場合、本発明の油に関連して使用される場合、「精製された」という用語は、典型的には、抽出された脂質又は油が、脂質/油構成要素の純度を増加させる1つ以上の加工ステップを施されていることを意味する。例えば、精製ステップは、抽出された油の脱ガム化、脱臭、脱色、乾燥、及び/又は分画からなる群のうちの1つ以上又は全てを含み得る。
【0232】
脱ガム化は、油の精製の初期ステップであり、その主な目的は、抽出された総脂質のおよそ1~2%として存在し得る、リン脂質の大部分を油から除去することである。通常リン酸を含有する約2%の水を粗油に70~80℃で添加すると、微量金属及び顔料を伴うリン脂質の大部分が分離される。除去される不溶性材料は、主にリン脂質とトリアシルグリセロールとの混合物であり、レシチンとしても知られている。脱ガム化は、濃リン酸を粗種油に添加して、水和可能ではないホスファチドを水和可能な形態に変換し、存在する微量金属をキレートすることによって実行され得る。ガムは、遠心分離によって土壌から分離される。
【0233】
アルカリ精製は、時折、中和とも称される、粗油を処理するための精製プロセスのうちの1つである。通常は脱脂に続き、漂白に先立つ。脱脂後、十分な量のアルカリ溶液を添加して、脂肪酸及びリン酸の全てを滴定し、このようにして形成された石鹸を除去することによって、油を処理することができる。好適なアルカリ性材料には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、及び水酸化アンモニウムが挙げられる。このプロセスは、通常、室温で行われ、遊離脂肪酸分画を除去する。石鹸は、遠心分離又は石鹸用溶媒への抽出により除去し、中和した油を水で洗浄する。必要に応じて、油中の任意の過剰なアルカリを、塩酸又は硫酸などの好適な酸を用いて中和することができる。
【0234】
漂白は、90~120℃で10~30分間、漂白アース(0.2~2.0%)の存在下かつ酸素の不在下で、窒素、又は蒸気、又は真空中での操作によって、油を加熱する精製プロセスである。油加工におけるこのステップは、不要な色素(カロテノイド、クロロフィル、ゴシポールなど)を除去するように設計されており、このプロセスはまた、酸化生成物、微量金属、硫黄化合物、及び微量の石鹸を除去する。
【0235】
脱臭は、高温(200~260℃)かつ低圧(0.1~1mm Hg)での油及び脂肪の処理である。これは典型的には、約0.1ml/分/100mlの油の速度で油中に蒸気を導入することによって達成される。約30分間スパージした後、オイルを真空下で冷却する。油は、典型的にはガラス容器に移され、冷蔵下で貯蔵される前にアルゴンでフラッシュされる。この処理は、油の色を改善し、残りの任意の遊離脂肪酸、モノアシルグリセロール、及び酸化生成物を含む揮発性物質又は臭気化合物の大部分を除去する。
【0236】
冬季化は、周囲温度以下での結晶化によって、油及び脂肪を固体(ステアリン)及び液体(オレイン)画分に分離するための、油の商業的生産で時折使用されるプロセスである。このプロセスは、元来、固体を含まない製品を製造するために、綿実油に適用されていた。典型的には、油の飽和脂肪酸含有量を減少させるために使用される。
【0237】
トランスエステル化は、最初に、遊離脂肪酸又は脂肪酸エステル、通常は脂肪酸メチルエステル又はエチルエステルのいずれかとしてTAGから脂肪酸を放出することによって、TAG内及びTAG間で脂肪酸を交換するか、又は脂肪酸を別のアルコールに移してエステルを形成するプロセスである。分画プロセスと組み合わせた場合、脂質の脂肪酸組成を改変するために、トランスエステル化が使用され得る。トランスエステル化は、化学的(例えば、強酸又は塩基触媒による)又は酵素的手段のいずれかを使用することができ、後者は、TAG上の脂肪酸に対して位置特異的(sn-1/3又はsn-2特異的)であり得るか、又は他のものよりも一部の脂肪酸を優先するリパーゼを使用する。油中のLC-PUFAの濃度を増加させるための脂肪酸分画は、例えば、凍結結晶化、尿素を使用する複合体形成、分子蒸留、超臨界流体抽出、及び銀イオン錯体形成などの当該技術分野で既知の方法のうちのいずれかによって達成することができる。尿素との複合体形成は、油中の飽和脂肪酸及び一価不飽和脂肪酸のレベルを低減する際のその単純性及び効率のための好ましい方法である。最初に、油のTAGは、多くの場合、脂肪酸エステルの形態で、酸又は塩基触媒反応条件のいずれか下での加水分解によって、それらの構成脂肪酸に分割され、それによって、1モルのTAGが、形成されたアルキルエステルと、同じく形成されるグリセロールとの分離を可能にするために使用される過剰のアルコールと、少なくとも3モルのアルコール(例えば、エチルエステルの場合はエタノール、又はメチルエステルの場合はメタノール)と、又はリパーゼによって反応する。これらの遊離脂肪酸又は脂肪酸エステルは、通常、処理によって脂肪酸組成物中で変更されず、次いで、複合体形成のために尿素のエタノール溶液と混合され得る。
【0238】
一実施形態では、製品は、全穀粒粉、例えば、超微細製粉された全穀粒粉、又は穀粒の約100%から作製される粉などである。全穀粒粉は、精粉構成物(精粉又は精粉)、及び粗分(超微細製粉された粗分)を含む。
【0239】
精粉された粉は、例えば、洗浄されたコメ又はモロコシ穀粒などの穀粒を粉砕及びふるい分けすることによって調製される粉であり得る。精粉の粒子サイズは、98%以上が、「212マイクロメートル(U.S.金網70)」と指定される織金網の開口よりも大きくない開口を有する布を通過する粉として記載される。粗分は、ふすま及び胚芽のうちの少なくとも1つを含む。例えば、胚芽は、穀粒内に見出される胚植物である。胚芽は、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラル、及び植物栄養素、例えば、フラボノイドを含む。ふすまは、いくつかの細胞層を含み、顕著な量の脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラル、及び植物栄養素、例えば、フラボノイドを有する。更に、粗分は、アリューロン層を含み得、アリューロン層もまた、脂質、繊維、ビタミン、タンパク質、ミネラル、及び植物栄養素、例えば、フラボノイドを含む。アリューロン層は、技術的には胚乳の一部分と考えられるが、ふすまと同じ特徴のうちの多くを示し、したがって、典型的には、製粉プロセス中に、ふすま及び胚芽とともに除去される。アリューロン層は、タンパク質、ビタミン、及び植物栄養素、例えば、フェルラ酸を含有する。
【0240】
更に、粗分は、精粉構成物とブレンドされ得る。粗分は、全穀粒粉を形成するために、精粉構成物と混合され得、したがって、精粉と比較して増加した栄養価、繊維含有量、及び抗酸化能を有する全穀粒粉を提供する。例えば、粗分又は全穀粒粉は、精粉又は全穀粒粉に取って代わる様々な量で、ベイクド食品、スナック製品、及び食品製品において使用され得る。本発明の全穀粒粉(すなわち、超微細製粉された全穀粒粉)はまた、消費者に、消費者の自家製ベイクド製品における使用のために直接市販され得る。例示的な実施形態では、全穀粒粉の顆粒化プロファイルは、全穀粒粉の粒子の98重量%が、212マイクロメートル未満である、顆粒化プロファイルである。
【0241】
更なる実施形態では、全穀粒粉及び/又は粗分のふすま及び胚芽内に見出される酵素は、全穀粒粉及び/又は粗分を安定化するために不活性化される。安定化は、蒸気、熱、放射線、又は他の処理を使用して、ふすま及び胚芽層内に見出される酵素を不活性化するプロセスである。安定化された粉は、粉の調理特徴を保持し、より長い貯蔵寿命を有する。
【0242】
追加の実施形態では、全穀粒粉、粗分、又は精粉は、食品製品の構成要素(成分)であり得、食品製品を製造するために使用され得る。例えば、食品製品は、ベーグル、ビスケット、パン、バンズ、クロワッサン、ダンプリング、イングリッシュマフィン、マフィン、ピタパン、クイックブレッド、冷蔵/冷凍生地製品、生地、ベイクドビーンズ、ブリトー、チリ、タコス、タマレス、トルティーヤ、ポットパイ、準備済みシリアル、準備済み食品、スタッフィング、電子オーブン加熱可能食品、ブラウニー、ケーキ、チーズケーキ、コーヒーケーキ、クッキー、デザート、ペーストリ、スイートロール、キャンディーバー、パイクラスト、パイフィリング、ベビーフード、ベーキングミックス、バッター、ブレッディング、グレービーミックス、肉増量剤、肉代用品、調味料ミックス、スープミックス、グレービー、ルー、サラダドレッシング、スープ、サワークリーム、ヌードル、パスタ、ラーメンヌードル、チャーメンヌードル、ローミーヌードル、アイスクリーム含有物、アイスクリームバー、アイスクリームコーン、アイスクリームサンドイッチ、クラッカー、クルトン、ドーナッツ、エッグロール、押し出しスナック、果物及び穀粒バー、電子オーブン加熱可能スナック製品、栄養バー、パンケーキ、パーベイクドベーカリー製品、プレッツェル、プディング、グラノーラベースの製品、スナックチップ、スナックフード、スナックミックス、ワッフル、ピザクラスト、動物食品又はペットフードであり得る。
【0243】
代替の実施形態では、全穀粒粉、精粉、又は粗分は、栄養補助食品の構成要素であり得る。例えば、栄養補助食品は、食事に付加される製品であり得、1つ以上の追加の成分を含有し、典型的には、ビタミン、ミネラル、ハーブ、アミノ酸、酵素、抗酸化物質、ハーブ、スパイス、プロバイオティクス、エキス、プレバイオティクス、及び繊維を含む。本発明の全穀粒粉、精粉、又は粗分は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、酵素、及び繊維を含む。例えば、粗分は、濃縮された量の食物繊維、並びに他の必須栄養素、例えば、保健食に必須であるB-ビタミン、セレン、クロム、マンガン、マグネシウム、及び抗酸化物質を含有する。例えば、22グラムの本発明の粗分は、繊維の個体の1日推奨摂取量の33%を送達する。栄養補助食品は、個体の全体的な健康を支援するいずれかの既知の栄養成分を含み得、例として、ビタミン、ミネラル、他の繊維構成要素、脂肪酸、抗酸化物質、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ルテイン、リボース、オメガ3脂肪酸、及び/又は他の栄養成分が挙げられるが、これらに限定されない。補助食品は、以下の形態:インスタント飲料ミックス、準備済み飲料、栄養バー、ウエハース、クッキー、クラッカー、ゲルショット、カプセル、チュー、チュアブル錠、及びピルで送達され得るが、これらに限定されない。一実施形態は、繊維補助食品を、風味付きシェイク又は発芽物タイプ飲料の形態で送達するが、この実施形態は、小児のための繊維補助食品として特に魅力的であり得る。
【0244】
追加の実施形態では、製粉プロセスは、多穀粒粉又は多穀粒粗分を作製するために使用され得る。例えば、1つのタイプの穀粒からのふすま及び胚芽は、粉砕され、別のタイプの穀類の粉砕された胚乳又は全穀粒穀粉とブレンドされ得る。代替として、1つのタイプの穀粒のふすま及び胚芽は、粉砕され、別のタイプの穀粒の粉砕された胚乳又は全穀粒粉とブレンドされ得る。本発明は、1つ以上の穀粒のふすま、胚芽、胚乳、及び全穀粒粉のうちの1つ以上のいずれかの組み合わせを混合することを包含することが企図される。この多穀粒手法は、カスタム粉を作製するために、かつ複数のタイプの穀物粒の質及び栄養含有量を利用して1つの粉を作製するために使用され得る。
【0245】
本発明の全穀粒粉、粗分、及び/又は穀粒製品は、当該技術分野で既知のいずれかの製粉プロセスによって製造され得ることが企図される。例示的な実施形態は、穀粒を、単一の流れで、穀粒の胚乳、ふすま、及び胚芽を別個の流れに分離することなく粉砕することを含む。洗浄及びテンパリングされた穀粒は、第1の通過粉砕機、例えば、ハンマミル、ローラーミル、ピンミル、インパクトミル、ディスクミル、エアーアトリションミル、又はギャップミルなどに搬送される。粉砕後に、穀粒は、排出され、ふるいに搬送される。更に、本発明の全穀粒粉、粗分、及び/又は穀粒製品は、多数の他のプロセス、例えば、発酵、インスタンタイジング、押し出し、カプセル封入、トースティング、又は焙煎などによって改変又は増強され得ることが企図される。
【0246】
発芽物製造
本発明によって提供される発芽物ベースの飲料は、発芽物の出発材料の一部分又は全体として発芽物を使用することによって製造されるアルコール飲料(蒸留飲料を含む)及び非アルコール飲料を含む。例としては、ビール、発泡酒(低発芽物ビール飲料)、ウイスキー、低アルコール発芽物ベースの飲料(例えば、1%未満のアルコールを含有する発芽物ベースの飲料)、及び非アルコール飲料が挙げられる。
【0247】
発芽物製造は、大麦及び小麦穀粒などの穀粒の、制御された浸漬及び発芽に乾燥が続くプロセスである。この一連の事象は、穀粒改変を引き起こす多数の酵素の合成にとって重要であり、主に死んだ胚芽細胞壁を解重合し、穀粒栄養素を分離するプロセスである。その後の乾燥プロセスでは、化学的褐変反応に起因して、風味及び色が生成される。発芽物の主な使用は、飲料製造用であるが、例えば、パン産業における酵素源として、又は食品産業における香料及び着色剤として、例えば、発芽物若しくは発芽物粉として、又は間接的に発芽物シロップなどとして、他の産業プロセスにおいても利用され得る。
【0248】
一実施形態では、本発明は、発芽物組成物を生成する方法に関する。方法は、好ましくは、
(i)本発明の大麦又は小麦穀粒などの穀粒を提供するステップと、
(ii)当該穀粒を浸漬するステップと、
(iii)浸漬させた穀粒を所定の条件下で発芽させるステップと、
(iv)当該発芽した穀粒を乾燥させるステップと、を含む。
【0249】
例えば、発芽物は、Hoseney(Principles of Cereal Science and Technology,Second Edition,1994:American Association of Cereal Chemists,St.Paul,Minn.)に記載の方法のうちのいずれかによって製造され得る。しかしながら、限定されないが、発芽物を焙煎する方法を含む、特殊な発芽物を製造するための方法などの、発芽物を製造するための任意の他の好適な方法も、本発明とともに使用され得る。
【0250】
発芽物は、主にビールの醸造に使用されるが、蒸留酒の製造にも使用される。醸造は、麦汁の製造、主発酵及び二次発酵、並びに後処理を含む。まず、発芽物を粉砕し、水中で撹拌し、加熱する。発芽物製造中に活性化された酵素は、この「マッシング」中に、種子のデンプンを発酵可能な糖に分解する。製造された麦汁を清澄化し、酵母を添加し、混合物を発酵させ、後処理を実行する。
【実施例
【0251】
実施例1-材料及び方法
変異体の生成
gRNA設計
コメFAD2、LOX3、及びFATBのDNA配列のインシリコ分析、DNA配列アノテーション及びアラインメント、ベクター設計、並びにタンパク質配列予測を、Geneius Prime 2019.1.1(www.geneious.com)を使用して実行した。gRNAを設計するために、コメOsFAD2-1、OsLOX3、及びOsFATB1、2、3、4遺伝子配列をRice Genome Annotation Project(rice.plantbiology.msu.edu/)から得た。全てのgRNAは、GCリッチであり、長さが19bp又は20bpであり、カノニカルなPAM(5’-NGG-3’)に連結させた。遺伝子編集ベクターV1は、OsFAD2-1、OsLOX3、及びOsFATB1を標的とし、遺伝子編集ベクターV2は、OsFATB1、2、3、及び4を標的とした。ベクターV1において、gRNA-1は、第2のインフレームATG(CDSのnt19~21)をカバーする、CDSのnt3~22(20bp)に対応するLOC_OS02g48560(OsFAD2-1)のnt3317~3336を標的とした。gRNA-2は、OsFAD2-1 CDSのnt532~551に対応するLoc_OS02g48560のnt3846~3865を標的とした。gRNA-3は、第1のエクソンの#31~#50領域に設計し、gRNA-4は、#467と#486との間の20bpに、OsLOX3の第1のイントロン及び第2のエクソンにわたって設計した。gRNA-5は、OsFATB1の第2のエクソン(#523~542)の開始点に設計した。V2において、gRNA-6は、OsFATB1の第1のエクソンの#323~342を標的とした。gRNA-7は、OsFATB2及び3の両方の第2のエクソンの#451~470の保存領域に設計した。gRNA-8は、OsFATB4の第2のエクソンの#624~643の間の20bpを標的とした。
【0252】
ベクター構築
gRNA-1~5をそれぞれ駆動する2つのOsU3プロモーター及び3つのOsU6プロモーター(OsU6a、OsU6b、OsU6c)からなるマルチgRNA発現カセットを、GeneArt(Thermo Fisher Scientific、Regensburg,Germany)で商業的に合成した。各カセットは、GeneArtによってpMA-RQのBsaI制限部位にクローニングした。次いで、pMA-RQの発現カセットを、Ma et al.(2015)による記載に従って、BsaIでの同時消化及びGolden Gateクローニングシステムでのライゲーションによって、pYLCRISPR/Cas9Pubi-Hにクローニングした。
【0253】
15μLの反応において、50ngの各gRNA発現カセット及びベクターを、BsaI、T4リガーゼ、及びライゲーション緩衝液と混合した。ライゲーション反応を、PCRマシンにおいて37℃で3分及び16℃で4分の25サイクル、並びに50℃で5分及び80℃で5分の1サイクルで設定した。次いで、生成物を4℃で保持した後、Agrobacteriumに形質転換した。生じた陽性クローン(V1及びV2、クローンの詳細については実施例2を参照されたい)を、PCRマーカー(プライマーSP1及びSP2)を使用して、gRNAカセットを含有するプラスミドDNA断片を増幅することによって確認した。V1及びV2のPCR産物の分子サイズは、それぞれ、3143bp及び1739bpであった。V1及びV2ベクターを使用して、Agrobacterium媒介形質転換によって、コメを形質転換した。
【0254】
コメのAgrobacterium媒介形質転換
ベクターV1又はV2を、わずかに改変させて、コメ形質転換のためにAgrobacterium株AGL1に形質転換した(Toki et al.,2006)。Nipponbare cv.の成熟種子から殻を除去した。次いで、種子を75%のエタノール及び25%の漂白剤で連続して滅菌し、続いてMilliQ水で8回洗浄した。種子を、pH5.8のN6D固体培地(ビタミンを含むCHU[N6]基礎培地3.99g/L、ミオイノシトール100mg/L、ペプトン(粗タンパク質)300mg/L、プロリン2.9g/L、スクロース30g/L、及び2ml/Lの2,4-D(1mg/ml))に移して、紫色及び青色光下の25℃の成長室で24時間、カルスを誘導した。
【表3】

【表4】
【0255】
カルスを、誘導の4~6週間後に収集し、V1又はV2を有するAGL1と、2N6-AS液体培地中で、室温の暗所で3日間共栽培した。次いで、カルスを、チメンチン(150mg/L)を含有する滅菌水で洗浄し、濾紙で吸い取って乾燥させた。室温の暗所で3~4週間、チメンチン(150mg/L)及び抗生物質ハイグロマイシン(35mg/L)を含有するN6D培地プレート上で、形質転換したカルスを選択した。耐性のあるカルスを、ハイグロマイシンを含有する再生培地に移して発根させ、室温の成長室で3~4週間インキュベートした。成長室での更なる植物発育のために、再生した小植物を、チメンチン及びハイグロマイシンを含有するMS培地に移した。
【表5】
【0256】
次いで、形質転換した稲体を、汎用の鉢植えミックスを含む鉢に移植し、成長室内に保持した(光周期12時間、明所で30℃、暗所で24℃)。鉢植え植物を温室に移す耕作段階まで、植物に3日ごとに水を与えた。
【0257】
稲体における標的変異の決定
14個のトランスジェニック系統のT~T植物を、CSIRO Black Mountain Scientific Innovation Park(Canberra,ACT,Australia)の人工気象室で、22℃~26.5℃の自然光下で成長させた。各植物の葉組織からゲノムDNA試料(100ng/μL)を調製した。葉組織を液体窒素中で迅速に凍結させ、2mLチューブ内で箸を使用して粉砕した。約600μLの抽出緩衝液(100mMのTris-HCl pH8.0、50mMのEDTA、1.25%のSDS)を各試料に添加して、振盪によって懸濁させた。試料を65℃のオーブン内で少なくとも1時間インキュベートした。冷却後、300μLの冷たい6Mの酢酸アンモニウムを各試料に添加して、4℃で沈殿させた。上清を遠心分離によって収集し、300μLのイソプロパノールを添加して、DNAを沈殿させた。ペレットを遠心分離によって収集し、250μLの70%エタノールで洗浄した。約50μLのMili-Q水を添加し、試料を室温で一晩維持して、DNAを溶解させた。NanoDrop分光光度計(モデルND-1000、NanoDrop)を使用して、DNAの濃度を測定した。
【0258】
gRNA標的領域をカバーするDNA断片を増幅するために、Geneius Prime2019.1.1を使用して、PCRプライマーを設計したPCR混合物は、2μLの5倍のTaqポリメラーゼ緩衝液、0.5μLの各プライマー(10nM)、100ngのテンプレートDNA、及び0.07μLのMyTaqポリメラーゼ(Thermo)を含有し、最終体積を10μLにした。増幅には、以下のPCRプログラムを使用した:95℃で2分、95℃で15秒、58℃で15秒、及び72℃で32秒、続いて72℃で5分、及び12℃で保持の34サイクル。PCR産物を10倍希釈し、37℃で15分間、80℃で15分間、2.5:1(v/v)の比のShrimp Alkaline Phosphatase(SAP)で洗浄した。洗浄したDNA産物(2.8μL)を、0.3μLの順方向プライマー又は逆方向プライマー、及びBigDye緩衝液と混合し、最終体積を20μlにした。PCRを、以下の条件下で実施した:94℃で5分、96℃で10秒、50℃で5秒、及び60℃で4分、並びに12℃で保持の30サイクル。BigDye産物を、2μLの3MのNaOAc(pH4.8~5)及び50μLの氷冷100%エタノールと混合して、-80℃で30分間沈殿させた。沈殿物を、200μLの70%エタノールで洗浄し、真空回転乾燥機で乾燥させた後、サンガー配列決定サービス(Australian National University(ANU)施設、Canberra Australia)に提出した。
【0259】
脂肪酸メチルエステルの調製
成熟後、種子を収穫し、37℃で約2週間乾燥させ、次いで手動で脱穀した。次いで、3MのESPE CapMax(商標)ホモジナイザー(ESPE、Seefeld,Germany)を使用して、玄米の単一/複数の穀粒(スクリーニング用に単一/半分の穀類、ホモ接合体の表現型の特徴評価用に複数の穀粒)を粉へと粉砕した。Zaplin et al.(2013)によって記載された手順に従って、脂肪酸メチルエステル(FAME)を調製するために、単一/複数の穀粒からの約3~5mgの粉試料を使用した。
【0260】
葉、根、及び葯組織は、植物の一部分を凍結乾燥機(BencheTop Pro Model BTP-8ZLEVX、SP Scientific)で乾燥させた。乾燥させた植物の一部分をはさみによって切断し、各反復用の5~10mgの試料を、2mLバイアル内で秤量した。各バイアルに、600μLの1NメタノールHClを添加し、キャップをしっかりと閉じた状態で、試料を80℃で2時間メチル化した。バイアルを室温まで冷却した後、300μLの0.9%NaCl及び300μLのヘキサンを添加し、振盪器(Ratek Model MTV1、Ratek Instruments Pty Ltd、Australia)内で5分間混合した。試料を1700gで5分間遠心分離した(Model2-6E、Sigma)。FAMEを含有する上部ヘキサン相のおよそ280μLを円錐形のガラスインサートに移し、窒素下で5~10分間蒸発させた。FAMEを50μLのヘキサンに再溶解させた。
【0261】
ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸プロファイルの分析
本質的に記載されるように(Zhou et al.,2011)、50:1スプリットでSGE BPX70カラム(直径0.25mm、長さ30m、膜厚2.5μm、Agilent)を装着したガスクロマトグラフィー(7890A GC;Agilent Technologies、Santa Clara,CA)によってFAMEを分析した。初期温度として1分間150℃保持でカラム温度をプログラムし、これを3℃/分で210℃まで上昇させ、次いで更に50℃/分で240℃まで上昇させ、1.4分間保持した。17.334psiのカラムヘッド圧力及び30cm/秒の平均速度のキャリアガスは、ヘリウムであった。ピークをAgilent Technologies ChemStationソフトウェア(RevB.04.03)と統合することによって、脂肪酸プロファイルを分析し、各試料における全体のパーセンテージとして、総脂肪酸組成を計算した。
【0262】
コメ外皮揮発性化合物のSPME GC-MS分析
玄米穀粒を研磨する間に、コメ外皮(全粒穀物重量の10%)をTP-3000PEARLEST Grain Polisher(Kett、USA)から収集した。固着を避けるために、外皮試料を直ちに-80℃で貯蔵した。自動オートサンプラーのために、50/30μmのジビニルベンゼン-カルボキセン-ポリジメチルシロキサン(DVB/CAR/PDMS)Stableflex繊維(Supelco、USA)10mm長を使用するヘッドスペース(HS)-SPME GC-MSを、揮発性化合物を分析した。繊維は、使用前に270℃で30分間予め調整した。
【0263】
試料の分析のために、100mgの試料を含有する10mLのヘッドスペース磁気キャップバイアルを、抽出前に60℃で5分間予めインキュベートした。Combi-PalオートサンプラーHTX PAL(CTC Analytics)を使用して、60℃の撹拌下で60分間、揮発物を抽出した。スプリットレスモードで1分間、250℃のインジェクター温度で、試料を脱着した。試料のキャリーオーバーを低減するために、試料の脱着の前後に、250℃で5分間、ヘリウム流を用いる針ヒーター内で繊維を調整した。Shimadzu Stabilwax-DAカラム(30m×0.25mm×0.25μm)を装備したShimadzu QP2010 Plus GC-MSによって、繊維から脱着された揮発性化合物を分析した。キャリアガスは、1mL/分の一定の流量のヘリウムであった。オーブンランピングプログラムは、45℃を5.5分間保持で開始し、3℃/分の速度で170℃まで加熱し、7℃/分で250℃の最終温度までランピングし、2分間保持した。イオン断片化は、70eVのEIモード下で取得し、35~350m/zのフルスキャンモードで走査した。NIST質量スペクトルライブラリ及び線形保持指標較正標準(n-アルカンC10-C40でも)を比較することによって、揮発性物質を同定した。異なる化合物クラスから購入した真正標準物質及びブランク(空のHSバイアル、10ngの内部標準物質2,4,6-トリメチルピリジンを含む)も、分析精度制御のために分析した。最低80%の類似性指数でのみ、質量スペクトルの一致とみなした。
【0264】
実施例2-コメからのFAD2遺伝子の同定及び単離
OsFAD2遺伝子によってコードされるΔ12-デサチュラーゼ(脂肪酸デサチュラーゼ2)は、Δ12位の18:1脂肪酸への二重結合の導入を担う。コメのOsFAD2遺伝子ファミリーには、OsFAD2-1(LOC_Os02g48560)、OsFAD2-2(LOC_Os07g23430)、OsFAD2-3(LOC_Os07g23410)、及びOsFAD2-4(LOC_Os07g23390)と指定される4つのメンバーが存在した(Zaplin et al.,2013)。これらのOryza sativa FAD2のゲノム配列を、Genbankから取得した。cDNA配列を導出し、Fad2 cDNA配列のアラインメントを示す図1に示す。OsFAD2-1アイソフォームは、翻訳開始コドンATGの後にフレーム内ATGコドン(nt19~21)を有する。OsFAD2-1のCRISPR編集のために設計されたgRNAは、以下に概説するように、この第2のATG(図1)を含んでいた。
【0265】
形質転換に使用するT-DNAバイナリベクターの概略図を図2に示す。停止コドンの位置は、表3の系統V1-13の改変FAD2アミノ酸配列にアスタリスクによって示す。
【0266】
gRNA及びV1及びV2のベクター設計
CRISPR-Cas9編集では、gRNA又は単一ガイドRNAの塩基対は、切断の特異性及び切断の部位を制御する。ガイドRNA設計を、実施例1に記載されるように行った。穀粒中の油に対するFAD2-1遺伝子の寄与を評価するために、nt3~22位を標的とするgRNA-1(GGGTGCCGGCGGCAGGATGA)(配列番号30)、及びnt532~551位を標的とするgRNA-2(TACGTGTACCACAACCCGAT)(配列番号31)を設計した。FAD2-1は、2つのgRNA領域内の3つの他のメンバーと低い相同性を共有する。gRNA-1は、第2のATGをカバーする開始コドンの末端から20bpを標的とし、gRNA-2は、FAD2-1の開始コドンの532bp下流を標的とし、実施例5のV1のベクター設計及び実施例6のベクター設計V2で使用される。
【0267】
実施例3-コメからのLOX3遺伝子の同定及び単離
コメリポキシゲナーゼ(LOX;EC1.13.11.12)は、脂質の過酸化を触媒する。タンパク質配列によれば、LOXは、3つのタイプに分類される(Mizuno et al.,2003)。I型リポキシゲナーゼは、葉緑体に局在し、ストレス誘導性であり、II型リポキシゲナーゼは、細胞質に局在し、双子葉に由来し、ストレス誘導性ではなく、III型リポキシゲナーゼは、細胞質に局在し、単子葉に由来し、種子発芽に関連する。I型LOXは、トランジットペプチドを有するが、これは、II型及びIII型LOXには存在しない。LOXはまた、基質炭化水素骨格中の炭素9又は炭素13を優先する酵素に従って、9-LOX又は13-LOXのいずれかに分類され、9(S)-ヒドロペルオキシ-及び9(S)-ヒドロペルオキシ誘導体を生成する(Feussner and Wasternack,2002)。バイオインフォマティクス分析に基づいて、コメゲノム(rice.plantbiology.msu.edu)は、14個のLOXタンパク質遺伝子を有すると主張されている。タンパク質アラインメントは、LOX配列が比較的良好に保存されていることを示している(Umate,2011)。
【0268】
リノール酸及びリノレン酸を含む多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、種子において、異なるLOXの一般的な基質である。コメ穀粒中に存在するLOXは、膜又は貯蔵脂質中の脂肪酸過酸化において重要な役割を果たすと考えられる。コメ種子におけるLOX活性は、貯蔵されたコメ種子における、新鮮ではないか又は鼻を突く異臭の主要構成要素であるn-ヘキサナールなどの、脂質過酸化に由来する揮発性化合物の生成に関連付けられる。
【0269】
III型LOXの3つのアイソザイム(LOX1、LOX2、及びLOX3)は、発育中のコメ種子において同定されている(Ohta et al.,1986)。それらの中でも、LOX3が、最も豊富な酵素である(Ida et al.,1983)。LOX3酵素を精製し、9-LOXとして特徴評価した(Ohta et al.,1986)。タイ米変種DawDamは、LOX3遺伝子の翻訳の早期停止を引き起こし、ヌル変異体コメ変種をもたらす点変異を含有する(Suzuki et al.,1993、Suzuki and Matsukura,1997)。変異は、コメ穀粒貯蔵中の新鮮ではない風味の発生の低減と関連付けられる(Suzuki et al.,1999)。Xu et al.(2015)は、RNAiサイレンシングを使用して、トランスジェニック実験植物においてLOX3活性を低減し、種子貯蔵性が改善された穀粒をもたらした。逆に、Ma et al.(2015)は、TALENを使用して、LOX3を標的とし、下方調節し、種子の劣化が複雑なプロセスであることを確認した。彼らは、コメ穀粒中のLOX1、LOX2、及びLOX3アイソエンザイム間の主張されている機能的冗長性に起因して、LOX3種子寿命効果は、脂肪酸の過酸化とは無関係であり得ることを提唱した。LOX3欠損は、コメの主な農学的形質に影響を及ぼすとは示されていないが(Ma et al.,2015)、コメ中のLOX1、LOX2、及びLOX3アイソエンザイムの全てをサイレンシングすることは、DawDam変種で観察されるように、好ましくない農学的挙動を有する植物をもたらすであろうことが認識される(RoyChowdury et al.,2016)。
【0270】
コメ穀粒貯蔵の質を効果的に改善するには、栄養含有量及び農学的形質を損なうことなく、LOX活性の不活性化を達成する必要がある。コメ外皮又は外皮油の脂質酸化安定性に対するLOX3遺伝子の寄与を評価するために、gRNA-3(GACGAGCTCCGCAACCTGCG)(配列番号32)及びgRNA-4(CGTGCGTGCAGATCCGGACT)(配列番号33)を、実施例5のベクターV1及び実施例6のベクターV2に設計した。gRNA-3は、第1のエクソンを標的とし、gRNA-4は、LOX3の第1のイントロン(nt30~50)及び第2のエクソン(nt467~486)にまたがる20bpを標的とするように設計した。
【0271】
実施例4-コメからのFATB遺伝子の同定及び単離
FATB遺伝子は、アシル-アシル担体タンパク質から16個以下の炭素の長さを有する脂肪酸を優先的に放出する活性を有する酵素パルミトイル-ACPチオエステラーゼをコードする。推定されるコメFATB配列を、Arabidopsis AtFATB配列AtACPTE32(NCBIアクセス番号AF213480)を用いた相同性ベースの検索を使用して同定した。使用したプログラムは、NCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)でデフォルトパラメータを用いて利用可能なMegablastであった。ArabidopsisのAF213480との相同性に基づいて、同定されたコメからの最も類似した配列は、Rice Genome Annotation Project Database(http://rice.plantbiology.msu.edu/)(Ouyang et al.2007)の4つのOsFATB遺伝子であった。4つのOsFATB遺伝子は、FATB1(LOC_Os06g05130)、FATB2(LOC_Os11g43820)、FATB3(LOC_Os02g43090)、及びFATB4(LOC_Os06g39520)と名付けた。各コメFATB遺伝子は、6つのエクソンを含む。
【0272】
コメFATB配列を、対応するコード配列(図3)からアミノ酸配列に翻訳し、保存モチーフの存在を調べた。AtFATB配列に必須であるとみなされるアミノ酸残基は、概して、触媒トライアドとして知られているシステイン264、アスパラギン227、及びヒスチジン229である。AtFATB1と一致して、触媒トライアド(アスパラギン酸N-227、ヒスチジンH-229、及びシステインC-264)は、図2に示されるFATBのC末端に位置する(Yuan et al.,1996、Mayer and Shanklin,2005)。FATB1及びFATB2は、3つ全ての触媒アミノ酸残基を含有し、FATB4は、FATB1及びFATB2配列に見出される保存モチーフNQHVNN(配列番号38)の3つの触媒アミノ酸(N-227及びH-229)のうちの2つを含有する。しかしながら、3つ全ての触媒アミノ酸残基及びNQHVNN(配列番号38)は、FATB3には存在しない。
【0273】
配列比較のために、デフォルトパラメータを用いるプログラムCLUSTALを使用した。コード配列全体にわたるFATB1(LOC_Os06g05130)とFATB4(LOC_Os06g39520)との間のヌクレオチド配列同一性は、64.6%であり、それらの推定されるアミノ酸配列間では54.3%であった。FATB1、FATB2、FATB3、及びFATB4から推定されるタンパク質は、それぞれ、427、425、298、及び357アミノ酸のアミノ酸配列に対応することが知られている。
【0274】
FATBの遺伝子編集
コメ穀粒中のパルミチン酸含有量に対するFATB1遺伝子の寄与を評価するために、gRNA-5は、OsFATB1の第2のエクソンの開始点(CTGAACCATGTGAAAACTGC)を標的とし、ベクターV1に含めた(実施例1を参照されたい)。他のFATBメンバーの機能は、これまでのところ特徴評価されていない。したがって、穀粒中のC16:0含有量に対する各FATB遺伝子の寄与を、遺伝子編集によって更に特徴評価した。遺伝子編集ベクターV2は、gRNA-6~gRNA-8を含有する(実施例1を参照されたい)。gRNA-6(TCCTGGCAGCTGAGAAGCAG)(配列番号35)及びgRNA-8(GGGCTGCTAGGAGATGGTTT)(配列番号36)は、FATB1及びFATB4を編集するために設計し、gRNA-7(ATGATTCGGTCCTACGAGAT)(配列番号37)は、保存領域においてFATB2とFATB3との両方を同時に標的とした。
【0275】
実施例5-ベクターV1を用いたコメFAD2-1、LOX3、及びFATB1の遺伝子編集
いくつかの遺伝子を同時に編集することによる植物改善の導入遺伝子を用いない方法を提供する潜在性を理由として、Ma et al.(2016)によって実証され、Zafar et al.(2020)によって考察された、コメにおける多重ゲノム編集方法が急速に開発されている。しかしながら、コメの外皮層の脂質プロファイルを変化させて、全粒コメの有用性及び貯蔵寿命を向上させ、更なる加工を必要とせずに外皮及びRBOの酸敗を防止するためのコメ遺伝子工学は、うまく達成されていない。
【0276】
gRNA及びV1のベクター設計
遺伝子編集ベクターV1を構築するために、本発明者らは、実施例2、3、及び4に記載されるように、FAD2-1を標的とする2つのgRNA(LOC_Os02g48560)、LOX3を標的とする2つのgRNA(LOC_Os03g49350)、及びFATB1を標的とする1つのgRNA(LOC_Os06g05130)を設計した。ベクターは、Ma et al.(2015)によって記載された方法に従って生成した。各gRNAは、コメプロモーター、U3プロモーターによって駆動されるFAD2-1を標的とするgRNA、U6aプロモーターによって駆動されるLOX3を標的とするgRNA、及びU6cプロモーターによって駆動されるFATB1を標的とするgRNAの制御下にあった。
【0277】
CRISPR遺伝子編集のためのT-DNAバイナリベクターV1を、図2に示す。gRNA-1は、第2のATGをカバーする開始コドンの末端から20bp(nt3~22)を標的とし、gRNA-2は、FAD2-1の開始コドンのnt532~551下流を標的とした。gRNA-3は、第1のエクソンのnt31~50領域で、gRNA-4は、LOX3の第1のイントロン及び第2のエクソンにわたる20bp(nt467~486)で設計した。gRNA-5は、FATB1の第2のエクソン(nt523~542)の開始点に設計した。図2に、複数のgRNA発現カセットの概略図を示し、詳細なプラスミドマップを示す。
【0278】
コメ形質転換
実施例1に従って、改変を伴うToki et al.(2006)によって記載された方法に従って、コメ形質転換のためにAgrobacterium株AGL1に、V1ベクターを形質転換した。
【0279】
Nipponbare cvから生成した形質転換カルスの組織培養後に、ハイグロマイシン耐性遺伝子を担持する合計14個のTトランスジェニック系統を得た。葉組織を使用して、各トランスジェニック系統からDNA試料を調製した。実施例1に記載されるように、DNAにPCR増幅を施し、PCR産物を配列決定した。
【0280】
編集されたアレル
3つの候補遺伝子の対応するゲノムDNAから増幅したPCR産物のサンガー配列決定によって、4つの編集された系統を同定した。うまく編集された植物は、本明細書では、V1-4、V1-7、V1-12、及びV1-13(表3)と称する。
【0281】
系統V1-4は、gRNA-5領域に編集されたfatb1の1つの変異アレルを有し、1つのヌクレオチドが挿入されて、フレームシフトがもたらされ、これによって、未成熟停止コドンが導入されたが、FAD2-1及びLOX3は変化しなかった。T植物は、正常に成長したが、稔性は低減された。
【0282】
系統V1-12は、LOX3遺伝子に変異(gRNA-3では-7/+1、gRNA-4では+1/+1)を担持する二アレル編集されているが、FAD2-1及びFATB1遺伝子は変化しなかった。gRNA-3の標的部位における系統V1-12のlox3変異は全て、下流の未成熟停止コドンをもたらした。

【表6-1】


【表6-2】

【0283】
系統V1-7及びV1-13は、FAD2-1及びLOX3遺伝子座の二アレルヘテロ接合体であり、FAD2-1及びLOX3の両方が編集されたことを意味するが、FATB1配列は、野生型と確認された。V1-7 fad2における変異は、gRNA-1領域におけるアレル1の挿入及びアレル2の14bp欠失(gRNA-1で+1/-14)、並びにgRNA-2標的領域におけるアレル1のヌクレオチド置換及びアレル2の43bp欠失(gRNA-2でA->C/-43)をもたらした。遺伝子編集は、FAD2-1のgRNA-1領域の下流に未成熟停止コドンをもたらした。V1-7 T植物は正常に成長したが、不稔性とみなされた。以前、Zaplin et al.(2013)は、RNAi抑制が、野生型と比較してより高いオレイン酸コメをもたらす組織特異的な様式でFAD2-1発現をうまく抑制することができることを示した。最近、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を使用してAbe et al.(2018)によって生成された高オレイン酸コメFAD2-1ノックアウト(KO)変異体において、顕著な農学的欠陥は報告されなかったが、しかしながら、裏付ける植物成長データは提示されなかった。対照的に、Camelina sativa FAD2-1、FAD2-2、及びFAD2-3をノックアウトすることによって、顕著な植物成長欠陥が示された(Morineau et al.,2017)。我々の観察によれば、コメFAD2-1遺伝子における完全なノックアウト(KO)変異は、以下に考察されるように、葯におけるC18:3n3の欠如に起因する可能性が最も高い、T植物の不稔性を誘発した。
【0284】
V1-13系統におけるFAD2-1編集は、gRNA1領域(gRNA-1で-4/+1)並びにgRNA2領域(gRNA-2で-3/+1)におけるアレル1の小さな欠失及びアレル2の単一ヌクレオチド挿入をもたらし、fad2-1のgRNA-1領域の下流に1~10個のアミノ酸の欠失をもたらし、これをfad2ノックダウン(KD)又はfad2-KDと指定した。生じたfad2-KDは、切断タンパク質をコードし、N末端から最初の6つのアミノ酸残基が(gRNA1編集から)欠失する。加えて、gRNA2編集によって、N182/P183からT182への変異が生じた。
【0285】
子孫のfad2-1及びlox3の編集されたアレルを分離する目的で、V1-12及びV1-13を自家受粉させた。単一遺伝子KO変異体においてlox3、アレル1及びアレル2(表3)に対してホモ接合性であった植物を、V1-12のT及びT子孫から得た。アレル又は「Al」は、同じ遺伝子座における編集されたアレルを指す。fad2-1 KDに対してホモ接合性であった植物を、lox3-アレル5又はアレル6と組み合わせたV1-13のT及びT子孫において同定した。一方、サンガー配列決定によって、fad2-1アレル2のみが見出され、fad2-1アレル1は、V1-13のヘテロ接合体子孫において見出された。
【表7-1】


【表7-2】


【表8】
【0286】
成長表現型
V1-13自家交配系統の稔性を、穂不稔性によって評価した。lox3-KOの効果を考慮するために、V1-12自家交配系統も含めた。ほとんどの小花が発育した穂を選択し、各植物にラベル付けした。植物で種子が成熟した後、穂を収集し、37℃で乾燥させた。不稔性の小花の数を記録し、小花の総数によって除算することによるパーセンテージとして、不稔性を計算した。植物を、26℃/22℃の昼/夜の温度の温室内で成長させた。穂不稔性は、fad2-1KOを有する系統でより高かった(表5)。種子の物理的特徴及び外観に関して、顕著な差は観察されなかった。
【0287】
実施例6-ベクターV2による多重FATB遺伝子編集
gRNA及びV2のベクター設計
以前の結果は、FATB(脂肪酸アシル-ACPチオエステラーゼB)アイソフォームをコードする遺伝子が、植物組織におけるそれらの機能及び有病率において異なることを示した(Zaplin et al.,2013)。種子油含有量及び組成に対する各FATB遺伝子の寄与を評価するために、V2ベクターを設計した。V2ベクターは、対応する標的遺伝子において変異を作製するように以下のように設計した:FATB1(LOC_Os06g05130)、FATB2(LOC_Os11g43820)、FATB3(LOC_Os02g43090)、及びFATB4(LOC_Os06g39520)。V2ベクターは、gRNA6、gRNA7、及びgRNA8を含み、gRNA7は、実施例1及び4に記載されるように、保存的共通領域でFATB2及びFATB3の両方を同時に標的とする。生じた植物においてそれぞれのFATB酵素活性をノックアウトすることを試みるために、実験を行った。
【0288】
Ma et al.(2015)に記載の方法に従ってベクターを生成し、実施例1に記載されるように改変した。各gRNAをコメプロモーターの制御下に置き、U3プロモーターを使用してgRNA6発現を駆動し、U6aプロモーターを使用してgRNA7発現を駆動し、U6bプロモーターをgRNA8に使用した。形質転換のためのT-DNAバイナリベクター及びプラスミドマップの概略図を図4に示す。
【0289】
コメ形質転換
実施例1に従って、改変を伴うToki et al.(2006)によって記載された方法に従って、コメ形質転換のためにAgrobacterium株AGL1に、V2ベクターを形質転換した。
【0290】
遺伝子編集TV2系統を、実施例1及び5に記載されるように、サンガー配列決定によって、V2変異体集団において同定した。複数の稔性の植物が観察され、分析のために4つの系統V2-2、V2-8、V2-12、及びV2-26を選択した。TV2系統を温室で成長させ、T世代まで自家受粉させた(表4)。4つの系統の子孫は、(表6)に示されるように、4つのOsFATB KOアレルの6つの異なる組み合わせを担持すると同定した。全てのFATBアイソフォームが、うまく編集された。
【表9】
【0291】
考察
概して、変異は、フレームシフト変異をもたらした1又は2塩基対の挿入又は欠失であったことが観察された。編集が3塩基対の挿入又は欠失を引き起こした場合、これは、タンパク質中で1つのアミノ酸の付加又は欠失をもたらした(例えば、系統V2-8-4.1-3を参照されたい)。アミノ酸の欠失又は挿入は、3D構造又は酵素活性に影響を及ぼす必須領域に発生しない限り、酵素活性に影響を及ぼす可能性は低いと予想された。不稔性の発生率は、子孫のうちのいずれもfatb1/2ホモ接合体として同定されていないという観察に起因して、fatb1/2遺伝子型に関連付けられるように思われた。
【0292】
実施例7-遺伝子編集稲体の脂肪酸プロファイル
脂肪酸組成に対する遺伝子編集の影響を分析するために、全脂質を、V1形質転換稲体及び陰性分離対照系統V2-8-4.1-3(「Neg」)の穀粒、葯、葉、及び根試料から単離した。実施例1に記載されるようにGC-FIDによって各脂質抽出物について、脂肪酸組成を決定した。結果を表6に提示し、そのデータのうちのいくつかを図5に図によって提示する。各脂肪酸の割合を、実施例1に記載されるようにGCによって決定して、穀粒の種子油中の総脂肪酸のパーセンテージとして表した。
【表10】
【0293】
概して、編集されたfad2-1アレルを担持する変異体は、変化した脂肪酸組成を呈したことが観察された。しかしながら、脂肪酸組成は、陰性対照(Neg)と比較した場合、lox3のみを編集した変異体では比較的変化しなかった。成熟種子において、C18:1の増加は、Negと比較して、全てのfad2-1変異体においてC18:2及びC16:0を犠牲にしていることが観察された。C18:1の最も顕著な増加は、fad2-1 KO/lox3 KO系統で見出され(54%増加)、fad2-1 KD/lox3 KO系統で最小の増加(27%増加)であり、fad2-1 KO/KD(40%増加)は、2つの油プロファイルの間で観察された。注目すべきことに、C18:2は、fad2-1KO/lox3-KOにおいて1%未満に減少し、fad2-1 KD/KO系統において4倍の低減が観察された。驚いたことに、fad2変異系統におけるC18:3n3の割合は、fad2-1KO及びfad2-1 KO/KD系統における総FFAの1%未満まで低減されたが、対照と比較した場合、fad2-1 KDホモ接合性系統では比較的変化しなかった。
【0294】
対照Nipponbare cvの葯は、およそ50%のC18:3n3、26%のC16:0、9%のC18:2、及び11%のC18:0を含有することが見出された。種子組織と比較して、より高いC18:1を含有する植物からの葯及び葉の油含有量は、fad2-1変異体のC18:3n3及びC18:2において大きなトレードオフを有した。例えば、fad2-1 KO系統の葯からの脂肪酸組成は、およそ62%のC18:1であり、C18:2及びC18:3n3において劇的な低減を呈した。fad2-1 KO/KDでは、C18:1の変動は、あまり顕著ではなかったが、それぞれC18:3n3及びC18:2を犠牲にして、葯では依然として18%増加し、葉では6%増加した。一方、fad2-1 KDは、対照と比較して、脂肪酸組成においてわずかな差異しか示さなかった。
【0295】
根組織では、fad2-1 KO/KD系統の油は、対照よりも5倍高い著しく高いレベルのC18:1を含有し、C16:0及びC18:2の両方が低減された(7%及び21%)。fad2-1 KDに由来する油組成の変化は、あまり顕著ではなく、C18:2を犠牲にして、C18:1がより少なく増加した。全ての組織タイプにおいて、FAD2 WT/lox3KOの脂肪酸組成は、陰性対照と同等であることが見出された。
【0296】
V1-13のT3単一種子の総脂肪酸組成
更なる世代にわたり自家交雑させたV1-13系統から、変異体V1-13のC18:1及びC18:2含有量並びに脂肪酸比における表現型変化の遺伝を調査するために、ハーフシードFACを実施した。全てのV1-13系統及び子孫は、変異LOX3遺伝子(KO)を含有し、LOX3タンパク質の発現をもたらさなかった。種子ごとのC18:1及びC18:2の比の変動が、fad2-1KO/KDの種子で観察された。
【0297】
個々の種子のC18:1及びC18:2含有量は、fad2-1遺伝子型にかかわらず高度に相関していることが明らかになった(図5)。C18:2のレベルは、35%からほぼゼロまで低減し、C18:1の含有量は、約30%から70%まで増加した。この観察は、以前に綿、Arabidopsis、及びコメのFAD2 RNAiトランスジェニック植物で報告され(Chapman et al.,2001、Zaplin et al.,2013、Stoutjesdijk et al.,2002)、抑制の程度の変動とみなされた。CRISPR変異体におけるFAD2-1遺伝子発現の操作なしに、我々の結果は、何らかの理由で、種子発育中のヘテロ接合体においてFAD2酵素活性がある程度不安定であり得ることを示唆している。70%を超えるC18:1を含有する種子は、数百のT1~種子にほとんど見出されなかったことから、fad2-1 KOホモ接合体は、稔性が劣り、農学的にあまり有用ではない場合があることが更に示された。V1-13 T植物の1つの穂における43個の小花のうち、3つの小花は、種子発育ができず、40個は、生存可能な種子に発育し、その比(C18:1/C18:2)は、20個の試料採取種子で8~13個、他の20個の種子で2~4個であった(図5)。系統のfad2-1の対応する遺伝子型は、それぞれ、fad2-1 KO/KD及びfad2-1 KD/KDと確認した。
【0298】
発芽率
種子稔性に対するFAD2遺伝子の変異の効果を分析するために、回収された種子を実施例1に従って鉢で成長させた。
【0299】
植物が成熟し、乾燥させた後、fad2-1KD+lox3-KO、FAD2-WT+lox3-KO、及び野生型Nipponbare(Neg)の各々からの穂を、温室内で水に2週間浸した。fad2-KD+lox3-KOの穂上の種子は、FAD2-WT+lox3-KO及びNEGと比較して、より高い発芽率及び活力を呈した。発芽率は、以下のように観察された。
【表11】
【0300】
成長習性を観察するために、種子を、実施例1に記載されるように、鉢で成長させた。fad2-1 KO/KOアレルを担持する変異体系統は、種子発芽及び植物発育において遅延を呈した(図6)。ホモ接合性fad2-1 KO/KO変異体は、通常の成長条件下では生存することが不可能であった。比較すると、ヘテロ接合性及びホモ接合性KD変異体は、明らかな農学的差異を有さずに、成熟し、種子をつけることが可能であった。fad2-1 KD/KOの植物の高さは、他の変異体及び陰性対照と比較して、わずかに短かった。
【0301】
考察
様々な組織における細胞の膜脂質は、植物が環境ストレスに対処することを可能にする細胞機能の維持のための脂肪酸バランスを満たすために、不飽和脂肪酸(UFA)を必要とする(He and Ding,2020)。脂質及びそれらの誘導体(脂肪酸、ワックス、及びリン脂質)は、花粉壁の成熟及び生存率に重要である(Shi et al.,2015)。最近の研究は、葯ワックス及びクチン中のリノール酸が著しく低減されたことを理由として、GhFAD2-3の下方制御は、綿の雄不稔性をもたらし得ることを報告した(Liu et al.,2019)。葯発育は、縮小した異常な外面によって損なわれた(Liu et al.,2019)。V13子孫の葯の脂肪酸組成は、対応するfad2変異体遺伝子型において、オレイン酸の著しい増加、並びに異なるレベルでのパルミチン酸及びリノレン酸の低減を示した(表7)。
【0302】
単一の穂における不稔率は、変異体系統の子孫において変動し、そのうちのいくつかは、陰性対照の率の2倍超であった。種子の結実も変動し、いくつかの系統が陰性対照よりも多くの種子を生産し、他の系統が陰性対照よりも少ない種子を生産した。
【0303】
本研究では、発明者らは、不稔性と相関するfad2アレル分離パターンを観察した。fad2 KO及びKDアレルを、脂肪酸のオレイン酸含有量に影響するV1-13子孫に分離した(表7)。V1-13子孫の種子の中で、fad2-KO/KD系統は、約68%超のオレイン酸を含有し、fad2-KD遺伝子型をもたらす残りの子孫は、約55%のオレイン酸を含有することが見出された。fad2-KOホモ接合性遺伝子型を有する1つの回収した系統は、82%超のオレイン酸を含有した(表7)。これは、FAD2遺伝子をノックアウトすることが、コメにおいて高い不稔性をもたらすことを示唆している。
【0304】
実施例8-V2変異体のT単一種子の総脂肪酸組成
コメ中のFATBアイソフォームをコードする遺伝子の以前の分析は、FATB1(LOC_Os06g05130)及びFATB2(LOC_Os11g43820)が、他の2つの遺伝子よりも穀粒においてより高く発現したことを示した。脂肪酸組成に対する遺伝子編集の効果を分析するために、健康な回収したV2系統をT集団に増殖させた。総脂質を、V2形質転換稲体及び陰性対照系統V2-8-2.2の穀粒から単離した。実施例1に記載されるようにGC-FIDによって各脂質抽出物について、脂肪酸組成を決定した。データを表8に提示し、そのデータのうちのいくつかを図7に図によって提示する。各脂肪酸の相対割合を、実施例1に記載されるようにGCによって決定して、穀粒の種子油中の総脂肪酸のパーセンテージとして表した。

【表12】

【0305】
6つの選択したV2変異体のC16:0(パルミチン酸)含有量を比較すると、陰性対照と比較して、fatb2/3系統において顕著な60%の低減、及びFatb2/3/4系統において55%の低減が示されたことは驚きである。同様に、陰性対照と比較すると、陰性対照での約26.6%と比較して、約17.5%のパルミチン酸FACを含有するfatb1/2 HE変異体でも、パルミチン酸含有量の顕著な低減(約32%)が観察された(図7)。陰性対照(Neg)と比較した場合、fatb4、fatb1、及びfatb1/4 HE間のC16:0%含有量の変動は、顕著ではなかった。この結果は、fatb4ノックアウトが、種子のパルミチン酸含有量に直接寄与していなかったことを示唆している。fatb1ノックアウトは、fatb4変異と組み合わせた場合、種子におけるパルミチン酸含有量の顕著ではない低減をもたらした。各FATB遺伝子メンバーの機能は、本研究以前のコメでは明らかではなかった。このデータは、FATB2遺伝子が、種子のC16:0含有量に寄与するFATBファミリー内の主要な遺伝子であることを実証している。
【0306】
実施例9-変異体コメ系統による育種
V1及びV2系統は、有害な農学的効果を有さず、改善された栄養組成及び改善された貯蔵寿命を含有するコメ穀粒の利益を有する、遺伝的に多様な遺伝的背景又は種質を開発するために使用することができる。(i)インディカ米における遺伝的背景を開発するため、及び(ii)V1及びV2変異体を組み合わせるための、2つの独立した実験を行った。
【0307】
インディカ
低C18:2がインディカ変種の不稔性に影響を及ぼしたかどうかを試験するために、fad2-1 KO/KD及びlox3 KO変異の両方を含有する変異体V1-13を、インディカコメ変種IR36aeと交雑した。
【0308】
子孫にいくつかの稔性の系統が観察され、種子を収集した。2つのF1種子を成長させ、植物を成熟させ、これらのF1系統からは少数の種子しか収集されなかったことに留意した。総脂肪酸組成を、実施例1に記載されるように試験した。系統ae1.5-1及びae1.5-2は、それぞれ、74.6%及び72.8%のC18:1含有量を含み、劇的に低減された1.6%及び1.8%のC18:2含有量を含むことが見出された。パルミチン酸含有量は、実験系統ae1.5-1及びae1.5-2において、それぞれ、16.5%及び17.4%と比較して、陰性対照において21.1%から低減された。インディカ米が、超高オレイン酸変異コメの望ましい背景であるかどうかを調べるための更なる研究が進行中である。
【0309】
V1-13とV2-12との交雑
V1-13とV2-12 T0植物との間で交雑を実行して、子孫におけるOsFAD2-1、OsLOX3、及びOsFatBの編集したアレルを組み合わせた。V1-13は、OsFad2-KO/KD及びOsLox3-KO変異遺伝子型の両方を含有し、V2-12は、変異FatB2/3/4遺伝子型を含んだ。V1-13の穂を、交雑のために開花の1日前にランダムに選択した。はさみを使用して、花弁の上部1/3を除去することによって、小花を切り開いた。柱頭を損傷することなく、鉗子を使用して、各小花の葯を除去した。次いで、混入を避けるために、穂を植物上の封筒に封入した。翌日、葯が花弁から伸び出て、花粉を落としたときに、V2-12の2~5つの葯を鉗子で収集した。次いで、穏やかに振盪させながら、V1-13小花に葯に入れた。穂上の全ての小花に対して、3日間連続して実施を繰り返した。
【0310】
LFFと名付けたF1植物が、V2-12 T植物からのOsFAD2-1-KD、OsLOX3-KO、OsFatB1-KO、OsFatB2-KO、OsFatB4-KOを担持すると、サンガー配列決定によって確認した。交雑の子孫において、OsFAD2-1-KOの新しいタイプ(表9)が同定された。新しいOsFAD2-1-KOは、gRNA1で22bp欠失、gRNA2で17bp欠失を含有した。新しいアレルの存在は、OsFAD2-1遺伝子座を標的として新しい編集を作成する、V1 CRISPR-Cas9が依然として存在し、かつ活性のままであることを示した。LFFからのF2種子のハーフシード脂肪酸組成分析は、V1及びV2集団からの種子脂質の異なるプロファイルを提示した(図8)。OsFAD2-KD/KO+OsFatB2-KO及びOsFAD2-KD+OsFatB2-KOは、OsFAD2-KD/KO及びOsFAD2-KDから、C16:0の更なる約5~10%の低減、C18:1の8~13%の増加、及びC18:2の4~5%の減少を示した。驚くべきことに、FAD2 KD/KOとFATB2-KOとの組み合わせは、V1 FAD2-KO系統と同様のオレイン酸(C18:1)レベルを達成したが、FATB2-KOの組み合わせからのパルミチン酸(C16:0)含有量の更なる低減及びC18:2の総FFAのほぼ4%への低減から改善した。
【0311】
実施例1に記載されるように、PCR及びサンガー配列決定を使用して、F2集団を遺伝子型判定した。OsFAD2-1-KDを有するが、新しいOsFAD2-1-KOが分離され、OsLOX3-KO、OsFatB1-KO、OsFatB2-KO、OsFatB4-KOのいずれかを有する子孫を選択し、F3種子での更なる分析のためにLEF-KD1、LEF-KD3、及びLEF-KD5と指定した。KD1及びKD3の遺伝子型は、OsFAD2-1-KD、OsLOX3-KO、FatB1-KO、FatB4-KOであり、KD5は、OsFAD2-1-KD、OsLOX3-KO、FatB2-KO、FatB3-KO、FatB4-KOであった。F3植物を再び成長させて、F4種子を分析した。F4のプール種子及び単一種子の両方についての脂肪酸プロファイル分析を実行した。結果(表10)は、LEF-KD1、LEF-KD3、及びLEF-KD5が、F4種子においてホモ接合性であり得ることを示唆した。
【表13】

【表14-1】

【表14-2】
【0312】
実施例9-コメ外皮及びコメ外皮油の酸化安定性
加速酸敗試験は、高温(40℃)で貯蔵された穀粒のヘッドスペースにおける揮発性物質を検出するためにサンプラーを使用するGCを含む。野生型植物及び遺伝子編集植物の貯蔵時の揮発性物質、特にヘキサナールの生成の比較、及び交雑から生じた子孫。これは、穀粒の貯蔵及びまたコメ外皮の貯蔵のためのコメ産業における重要な質の問題である。
【0313】
玄米から単離したコメ外皮を0.5mmのふるいに通し、次いで、加速貯蔵シミュレーションに続いてヘッドスペース分析に使用した。300mgのコメ外皮を含有するバイアルを、キャップを閉じた状態で、37℃のオーブン内でインキュベートした。バイアルを異なる時点(0日目、2日目、4日目、及び8日目)でオーブンから取り出し、-80℃で貯蔵した後にHS-SPME分析を行った。80℃で加熱することによって、又は自然拡散によってのいずれかで外皮から放出されたガス試料は、バイアルのヘッドスペース内で得ることができる。ヘッドスペース内の揮発性物質構成要素を、GC-MSマシンへの直接注入によって分析した(Suzuki et al.,1999)。次いで、芳香化合物の脱着を熱的に行い、捕捉された分子をGCによって分析し、標準物質を使用して同定する。インビトロでのリノール酸からのヘキサナールの生成は、Nielsen et al.(2004)によって実証されている。
【0314】
ランシマットは、試料を熱及び増加した空気量に曝露することによって作成した加速劣化プロセスによって、脂肪及び油の酸化安定性を測定するための標準化された試験である。酸化が起こるまでの経過時間は、酸化安定性指数である。コメの試料を、Primary Industries New South Wales(DPI NSW)に提供した。コメ外皮油を、DPI NSW ISO659法によって抽出した。ランシマット試験に、約1.8gのコメ外皮油を使用した。総脂肪酸組成の変動を、遺伝子編集変異体及び貯蔵したRNAi系統からのコメ外皮抽出物において決定した(表11)(WO2008/006171)。DPI NSWサービスラボによるランシマット試験を、標準ISO法110℃、空気流20L/時間に従って実施した。
【表15】
【0315】
油の誘導時間は、酸化安定性の質を示すために食用油産業によって使用されている。図9に示されるように、fad2-1 KD+lox3 KO系統からのコメ外皮油の酸化安定性を39.86時間と測定し、これは、18.00時間で陰性対照の2倍超の誘導時間であった。FAD2-1 WT+lox3 KO変異体系統は、陰性対照と比較した場合、約1時間長い、19.09時間のわずかな増加を示した。比較すると、FAD2-RNAi油導入時間は、12.37時間であり、その陰性対照(7.28時間)と比較して1.7倍の増加を示した。これは、油中のfad2-1 KD+lox3 KO及びFAD2-RNAi系統からのコメ外皮油中のC18:2レベルのより低い含有量パーセントが、それらのそれぞれの対照と比較して、これらの系統においてより高い酸化安定性に寄与したことを示唆した。我々の分析では、fad2-1 KD/KD+lox3 KOとFAD2-RNAiサイレント系統との間のC18:2含有量に8%の差があり、これは、2つの系統間のコメ外皮油安定性の変動に寄与したであろう。これは、fad2-1 KD/KD+lox3 KOからのコメ外皮は、以前に公開されたFAD2-RNAi系統よりも改善された油組成を有するだけでなく、コメ穀粒及びコメ外皮自体のより高い安定性及びより長い貯蔵寿命を提供するという我々の結論を強く支持する。fad2-1 KD変異と組み合わせたLOX3のノックアウトは、C18:2が粉砕後及び油が抽出される前の貯蔵中の酸化を防止することができ、陰性対照と比較して、改善された酸化安定性に寄与した。ここで、試験したFAD2変異タンパク質の低減された活性を実施例10に示す。それにもかかわらず、RNAi及び遺伝子編集試料は、異なる収穫年を理由として、直接比較に入れるのに好適ではない場合があることが留意されるべきである。
【0316】
ヘキサナール
ヘッドスペース結果は、40℃で3日間の刺激貯蔵処理中に各試料中でヘキサナール化合物の蓄積が増加することを示した。ヘキサナールの全体的な量は、全ての試料において増加したが、異なるペースで、異なる開始濃度から増加した(図10)。
【0317】
貯蔵刺激の前に、ヘキサナールの量は、約100~200ng/gで、fad2-1 KO/KD+lox3KO、fad2-1KD/KD+lox3KO、又はFAD2WT+lox3KOを有する変異体系統間で匹敵していたが、測定されたヘキサナールレベルは、陰性対照において700ng/g超であった。これは、リノール酸の過酸化が、粉砕プロセス中又は直後のいずれかに既に開始されている場合があることを示した。貯蔵刺激後、試験期間にわたり、陰性対照において最も顕著なヘキサナール生成の増加、ほぼ2.5倍の増加が観察され、試験終了時に1700ng/gを上回る結果となった。ヘキサナールの最低量は、fad2-1 KO/KD+lox3KO及びfad2-1KD/KD+lox3KOにおいておよそ400~500ng/gであった。lox3系統(すなわち、FAD2WT+lox3KO)は、約650ng/gに達する、生成されたヘキサナールの量の4倍を上回る増加を示した。
【0318】
FAD2-RNAiにおけるヘキサナールの量と比較するために、対照のパーセントを計算した。FAD2-RNAiは、その陰性対照系統と比較して、約44%のヘキサナールを生成した。対照的に、fad2-1 KO/KD+lox3KO及びfad2-1KD/KD+lox3KO、並びにFAD2WT+lox3KOは、それらの陰性対照の29%、25%、及び37%であった。fad2-1 KO/KD+lox3KO及びfad2-1KD/KD+lox3KOによって生成されたヘキサナールが、FAD2WT+lox3KOよりも低かったという事実は、高オレイン酸背景においてLOX3をノックアウトすることが、ヘキサナールを生成する能力によって測定したC18:2過酸化及び過酸化の速度を更に低減することができることを示している。lox3変異体はまた、0日目により低いヘキサナール生成レベルを有した。全ての変異体は、陰性対照の0日目の試料よりも3日目のヘキサナール蓄積のレベルが低いことを示した。lox3 KOをFAD2-1の発現の低減と組み合わせた場合、ヘキサナールレベルは、単にLOX3単独の発現をノックアウトするよりも15~20%低減することができる。
【0319】
実施例10-FAD2変異体の活性
FAD2-1 WT、fad2-1 KD、及びfad2-1 KDバリアントを合成し、酵母発現ベクターpYES2にクローニングして、それぞれ、pXZP1101及びpXZP1102を生成した。選択のためにプラスミドを酵母株S288Cに形質転換し、形質転換体をSD-Ura(glu)プレート上で選択した。次いで、30℃の3mLのSD-Ura(glu)中で一晩細胞培養するために、各形質転換体の少なくとも3つの陽性単一コロニーを選択した。細胞を遠心分離によって収集し、次いで、滅菌HOで洗浄し、5mLの酵母最小培地SD-Ura(gal)に接種するよりも、3mLのSD-Ura(gal)中でOD0.1まで再懸濁させた。2~3日間の細胞培養後、細胞を採取し、HOで洗浄し、FAME調製のために凍結乾燥させ、続いて総脂肪酸組成のGC分析を行った。C18:2/(C18:1+C18:2)間の比によって測定した変換率を使用して、酵母形質転換体におけるFAD2-1酵素活性を評価した。ベクター対照細胞において、C18:2は、かろうじて検出可能であり、内在性FAD2がS288Cに存在しないことを示している(表12)。FAD2-1 WTは、約48%のC18:2変換率を示したが、しかしながら、変異fad2-1 KD酵素は、野生型のおよそ60%~62%である対照野生型酵素と比較して、30%のみ低減された変換、ほぼ20%低減された活性を示した。fad2-1 KDにおける変換率の変動は、N末端での6つのアミノ酸切断に起因して、酵素活性が低減されたことを示唆した。
【表16】
【0320】
他の好適な変異体を同定するために、fad2-1 KD酵素変異体を酵母系において発現させた。バリアントを、表13に示す。FAD2-WT活性は、モデルにおける約100%の変換を提示する。示されるように、更なる変異体は、いくらかの変換効率を有して示され、例えば、M3変異体は、野生型活性の約4%を保持している。
【0321】
FAD2は、ホモ二量体酵素として機能し、FAD2の非機能的変異体の発現は、非機能的ヘテロ二量体の形成を通じて、その活性の阻害を引き起こし得る。本研究で使用されるCas9/sgRNA構築物は、開始コドンを標的とし、標的FAD2遺伝子の5’領域においてフレームシフト変異を引き起こし、N末端FAD2ドメインを破壊した。本発明者らは、酵母モデルにおけるフレームシフト変異から生じる活性の低減を示した。
【表17】
【0322】
MSUのRice Genome Annotation Database(http://rice.plantbiology.msu.edu/index.shtml)では、FAD2-1について6つの代替的なオープンリーディングフレーム(ORF)が見出され、そのうちの4つは、開始コドン(第2のATG)から開始した。一方、ORF1及びORF6は、それぞれ、イントロンの第1のATG及びエクソンの5末端の第3のATGから開始した。おそらく、ORFの全ては、FAD2-1アイソフォームのタンパク質をコードすることができる。fad2-1 KDアレルの4bp欠失は、5つの可能なORFでフレームシフトを誘導したが、第6の代替的なORFでは誘導しなかった。対応するタンパク質は、変異に起因してミスコードされ、未成熟停止コドンをもたらし、翻訳を中止した。4bp欠失が第3のATGの直前に生じたことを理由として、ORF6は中断されなかったと予測される。予測されたORF6は、切断酵素、FAD2-KDをコードし、6つのアミノ酸残基がN末端から除去された。この実施例に示されるように、FAD2-KDタンパク質の酵素活性は、野生型酵素FAD2-1の約2/3まで低減された。したがって、KD変異を担持する変異コメ系統におけるより高いC18:1含有量は、野生型ORF及び/又は5つの代替的なORF全てのノックアウトに起因し得、ORF6の保持は、残基酵素活性に寄与した。FAD2-1の発現及び/又は活性を安定的に低減するための代替的な編集戦略は、当該技術分野で一般的に利用可能なツールを使用して作製することができる。
【0323】
本出願は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年11月5日に出願されたAU2021/903546からの優先権を主張する。
【0324】
具体的な実施形態に示されるように、広範に記載される本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、本発明に多数の変形及び/又は修正が本発明になされてもよいことが、当業者には理解されよう。したがって、本実施形態は、全ての点で例示的なものであり、限定的ではないとみなされるべきである。
【0325】
本明細書で考察及び/又は参照される全ての刊行物は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0326】
本明細書に含まれる文書、行為、材料、装置、又は物品などのいずれの考察も、本発明のための文脈を提供する目的のみである。これらの事項のうちのいずれか又は全てが、本出願の各々の請求項の優先日よりも前に存在したように、先行技術基礎の一部分を形成する、又は本発明に関連する分野における一般的知識であったということを認めるとして解釈されるべきでない。
【0327】
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図1
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図5
図6
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図11
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【配列表】
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【国際調査報告】