(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】低下したTGF-ベータ受容体シグナル伝達を有する遺伝子操作されたT細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20241029BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20241029BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20241029BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20241029BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241029BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241029BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241029BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20241029BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20241029BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20241029BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/09 100
C12N15/09 110
A61K35/17
A61P35/00
A61P37/04
C12N15/12
C07K19/00
C07K16/28
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529251
(86)(22)【出願日】2022-11-14
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 EP2022081759
(87)【国際公開番号】W WO2023084073
(87)【国際公開日】2023-05-19
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522014792
【氏名又は名称】ネオジン セラピューティクス ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァネッサ エム.タブ
(72)【発明者】
【氏名】イェルン ダブリュ.ジェイ.ファン ヘイスト
(72)【発明者】
【氏名】ギャビン エム.ベンドル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
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4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
TGFBR2遺伝子の遺伝子操作されたゲノム修飾を含むT細胞が提供される。ゲノム修飾は、受容体表面発現を低下させ、且つ/又はTGF-β誘発性シグナル伝達を低下させることができ、及びそのようなTGFBR2破壊を有するT細胞が生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下でも増殖し続け、且つ標的腫瘍細胞を死滅させ続けることを可能にする。好ましい実施形態では、T細胞は、CAR又は外来性TCRを発現するように更に遺伝子操作される。遺伝子操作されたT細胞を作製する方法、そのようなT細胞の集団を含む医薬組成物及び治療方法も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGFBR2遺伝子の遺伝子操作されたゲノム修飾を含むT細胞であって、前記遺伝子操作されたゲノム修飾は、対応する対照細胞上の表面発現TGFBR2のレベルの約20%~約60%である、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分のレベルをもたらす、T細胞。
【請求項2】
CD8+αβ T細胞、CD4+αβ T細胞又はγδ T細胞である、請求項1に記載のT細胞。
【請求項3】
ヒトT細胞である、請求項1又は2に記載のT細胞。
【請求項4】
前記表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分は、TGF-βに結合することができるが、TGFBR1をリン酸化することができない、請求項1~3のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項5】
生理学的に適切なレベルのTGF-βとの前記T細胞の接触に応じて、Smad2/3を通して有効にシグナル伝達することができない、請求項1~4のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項6】
前記遺伝子操作されたゲノム修飾は、(i)TGFBR2遺伝子プロモーターにおける挿入及び/又は欠失、(ii)前記TGFBR2遺伝子のエキソンにおけるフレームシフト挿入及び/又は欠失、(iii)前記TGFBR2遺伝子のコード領域の全体ではなく一部の欠失、(iv)天然の終止コドンの上流のエキソン中に終止コドンを作り出す置換、挿入及び/又は欠失、並びに(v)前記TGFBR2遺伝子内の1つ以上のドナー及び/又はアクセプター部位であるRNAスプライス部位を修飾する置換、挿入及び/又は欠失の1つ以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項7】
前記ゲノム修飾は、前記TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるものである、請求項1~6のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項8】
前記ゲノム修飾は、前記TGFBR2遺伝子のエキソン4(配列番号2)の塩基294及び295、389及び390、543及び544、547及び548又は674及び675間のRNAガイドヌクレアーゼによる切断によって引き起こされるフレームシフトである、請求項7に記載のT細胞。
【請求項9】
外来性TCR又はCAR、好ましくは外来性TCRを発現する、請求項1~8のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項10】
外来性TCRを発現する、請求項9に記載のT細胞。
【請求項11】
前記外来性TCRは、腫瘍抗原、好ましくは腫瘍ネオ抗原を認識する、請求項10に記載のT細胞。
【請求項12】
前記腫瘍抗原は、ネオ抗原である、請求項11に記載のT細胞。
【請求項13】
前記腫瘍抗原は、共通の腫瘍ネオ抗原である、請求項12に記載のT細胞。
【請求項14】
前記腫瘍抗原は、非共通の腫瘍ネオ抗原である、請求項12に記載のT細胞。
【請求項15】
標的細胞への少なくとも2回の曝露イベント後、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、前記外来性TCR又はCARによって認識される前記抗原を発現する前記標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する、請求項9~14のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項16】
生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、少なくとも約72、80、90、100、110、120、130、140、144、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280又は288時間にわたり、前記外来性TCR又はCARによって認識される前記抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する、請求項9~15のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項17】
TGFBR2遺伝子の遺伝子操作されたゲノム修飾を含むT細胞であって、前記修飾は、切断型である表面発現TGFBR2をもたらす、T細胞。
【請求項18】
CD8+αβ T細胞、CD4+αβ T細胞又はγδ T細胞である、請求項17に記載のT細胞。
【請求項19】
ヒトT細胞である、請求項17又は18に記載のT細胞。
【請求項20】
前記切断型表面露出TGFBR2は、TGF-βに結合することができるが、TGFBR1をリン酸化することができない、請求項17~19のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項21】
生理学的に適切なレベルのTGF-βとの前記T細胞の接触に応じて、Smad2/3を通して有効にシグナル伝達することができない、請求項17~20のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項22】
前記遺伝子操作されたゲノム修飾は、(i)前記TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるフレームシフト挿入及び/又は欠失、(ii)任意選択で、エキソン4の全体的又は部分的な欠失と合わせた前記TGFBR2遺伝子のエキソン5~7の欠失、並びに(iii)未成熟終止コドンを作り出す、エキソン4における置換、挿入及び/又は欠失の1つ以上を含む、請求項17~21のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項23】
前記ゲノム修飾は、前記TGFBR2遺伝子のエキソン4(配列番号2)の塩基294及び295、389及び390、543及び544、547及び548又は674及び675間のRNAガイドヌクレアーゼによる切断によって引き起こされるフレームシフトである、請求項22に記載のT細胞。
【請求項24】
外来性TCR又はCAR、好ましくは外来性TCRを発現する、請求項17~23のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項25】
外来性TCRを発現する、請求項24に記載のT細胞。
【請求項26】
前記外来性TCRは、腫瘍抗原、好ましくは腫瘍ネオ抗原を認識する、請求項25に記載のT細胞。
【請求項27】
前記腫瘍抗原は、ネオ抗原である、請求項26に記載のT細胞。
【請求項28】
前記腫瘍抗原は、共通の腫瘍ネオ抗原である、請求項27に記載のT細胞。
【請求項29】
前記腫瘍抗原は、非共通の腫瘍ネオ抗原である、請求項27に記載のT細胞。
【請求項30】
標的細胞への少なくとも2回の曝露イベント後、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、前記外来性TCR又はCARによって認識される前記抗原を発現する前記標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する、請求項24~29のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項31】
生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、少なくとも約72、80、90、100、110、120、130、140、144、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280又は288時間にわたり、前記外来性TCR又はCARによって認識される前記抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する、請求項24~30のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項32】
請求項1~31のいずれか一項に記載のT細胞及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項33】
静脈内注入による投与に適合されている、請求項32に記載の医薬組成物。
【請求項34】
腫瘍内投与に適合されている、請求項32に記載の医薬組成物。
【請求項35】
T細胞を遺伝子操作する方法であって、T細胞ゲノム中のTGFBR2遺伝子を修飾することを含み、遺伝子修飾後、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分のレベルは、対応する対照細胞上の表面発現TGFBR2のレベルの約20%~約60%である、方法。
【請求項36】
前記T細胞は、CD8+αβ T細胞、CD4+αβ T細胞又はγδ T細胞である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記T細胞は、ヒトT細胞である、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
前記表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分は、TGF-βに結合することができるが、TGFBR1をリン酸化することができない、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記修飾は、前記T細胞が、生理学的に適切なレベルのTGF-βとの前記T細胞の接触に応じて、Smad2/3を通して有効にシグナル伝達することを妨げる、請求項35~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記修飾は、(i)TGFBR2遺伝子プロモーターにおける挿入及び/又は欠失、(ii)前記TGFBR2遺伝子のエキソンにおけるフレームシフト挿入及び/又は欠失、(iii)前記TGFBR2遺伝子のコード領域の全体ではなく一部の欠失、(iv)天然の終止コドンの上流のエキソン中に終止コドンを作り出す置換、挿入及び/又は欠失、並びに(v)前記TGFBR2遺伝子内の1つ以上のドナー及び/又はアクセプターRNAスプライス部位を修飾する置換、挿入及び/又は欠失の1つ以上である、請求項35~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記修飾は、前記TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるものである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
修飾することは、RNAガイドヌクレアーゼ及び少なくとも1つのRNAガイドを前記T細胞に導入することを含む、請求項35~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記RNAガイドヌクレアーゼは、前記TGFBR2遺伝子のエキソン4(配列番号2)の塩基294及び295、389及び390、543及び544、547及び548又は674及び675間を切断する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記少なくとも1つのガイドRNAの少なくとも1つは、配列番号8~12の配列を有する、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記所望のゲノム修飾を有するT細胞を選択する後続のステップを更に含む、請求項35~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記TGFBR2遺伝子を修飾する前又は後に、外来性TCR又はCAR、好ましくは外来性TCRを発現するように前記T細胞を遺伝子操作するステップを更に含む、請求項35~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記T細胞は、外来性TCRを発現するように遺伝子操作される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記外来性TCRは、腫瘍抗原、好ましくは腫瘍ネオ抗原を認識する、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記腫瘍抗原は、ネオ抗原である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記腫瘍抗原は、共通の腫瘍ネオ抗原である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記腫瘍抗原は、非共通の腫瘍ネオ抗原である、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記T細胞は、標的細胞への少なくとも2回の曝露イベント後、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、前記外来性TCR又はCARによって認識される前記抗原を発現する前記標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する、請求項35~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、少なくとも約72、80、90、100、110、120、130、140、144、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280又は288時間にわたり、前記外来性TCR又はCARによって認識される前記抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する、請求項35~52のいずれか一項に記載のT細胞。
【請求項54】
T細胞を遺伝子操作する方法であって、T細胞ゲノム中のTGFBR2遺伝子を修飾することを含み、前記修飾は、エキソン4内のものであり、且つ切断型である表面発現TGFBR2をもたらす、方法。
【請求項55】
前記T細胞は、CD8+αβ T細胞、CD4+αβ T細胞又はγδ T細胞である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記T細胞は、ヒトT細胞である、請求項54又は55に記載の方法。
【請求項57】
前記表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分は、TGF-βに結合することができるが、TGFBR1をリン酸化することができない、請求項54~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記修飾は、前記T細胞が、生理学的に適切なレベルのTGF-βとの前記T細胞の接触に応じて、Smad2/3を通して有効にシグナル伝達することを妨げる、請求項54~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記切断型表面発現TGFBR2は、無修飾T細胞に存在するTGFBR2の量以上のレベルで存在する、請求項54~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記切断型表面発現TGFBR2は、無修飾T細胞に存在するTGFBR2のレベルの約20%~60%のレベルで存在する、請求項54~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記遺伝子操作されたゲノム修飾は、(i)前記TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるフレームシフト挿入及び/又は欠失、(ii)任意選択で、エキソン4の全体的又は部分的な欠失と合わせた前記TGFBR2遺伝子のエキソン5~7の欠失、並びに(iii)未成熟終止コドンを作り出す、エキソン4における置換、挿入及び/又は欠失の1つ以上を含む、請求項54~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
修飾することは、RNAガイドヌクレアーゼ及び少なくとも1つのガイドRNAを前記T細胞に導入することを含む、請求項54~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記RNAガイドヌクレアーゼは、前記TGFBR2遺伝子のエキソン4(配列番号2)の塩基294及び295、389及び390、543及び544、547及び548又は674及び675間を切断する、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記少なくとも1つのガイドRNAの少なくとも1つは、配列番号8~12の配列を有する、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記所望のゲノム修飾を有するT細胞を選択する後続のステップを更に含む、請求項54~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記TGFBR2遺伝子を修飾する前又は後に、外来性TCR又はCAR、好ましくは外来性TCRを発現するように前記T細胞を遺伝子操作するステップを更に含む、請求項54~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記T細胞は、外来性TCRを発現するように遺伝子操作される、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記外来性TCRは、腫瘍抗原、好ましくは腫瘍ネオ抗原を認識する、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記腫瘍抗原は、ネオ抗原である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記腫瘍抗原は、共通の腫瘍ネオ抗原である、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記腫瘍抗原は、非共通の腫瘍ネオ抗原である、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
前記T細胞は、標的細胞への少なくとも2回の曝露イベント後、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、前記外来性TCR又はCARによって認識される前記抗原を発現する前記標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する、請求項54~71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記T細胞は、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、少なくとも約72、80、90、100、110、120、130、140、144、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280又は288時間にわたり、前記外来性TCR又はCARによって認識される前記抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する、請求項35~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
請求項35~73のいずれか一項に記載の方法によって産生される遺伝子操作されたT細胞。
【請求項75】
請求項74に記載の遺伝子操作されたT細胞及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項76】
患者を治療する方法であって、治療有効量の、請求項1~31のいずれか一項に記載の遺伝子操作されたT細胞又は請求項32若しくは75に記載の医薬組成物を患者に投与することを含む方法。
【請求項77】
前記外来性TCR又はCARは、部位特異的な統合を使用して前記T細胞に遺伝子操作されている、請求項9~16若しくは24~31のいずれか一項に記載のT細胞又は請求項74に記載の遺伝子操作されたT細胞。
【請求項78】
部位特異的な統合は、CRISPR、任意選択でCRISPR-Cas9で行われる、請求項77に記載のT細胞又は遺伝子操作されたT細胞。
【請求項79】
前記外来性TCR又はCARは、前記T細胞又は遺伝子操作されたT細胞のゲノム中の定められた場所に統合される、請求項9~16若しくは24~31のいずれか一項に記載のT細胞又は請求項74に記載の遺伝子操作されたT細胞。
【請求項80】
請求項77~79のいずれか一項に記載のT細胞又は遺伝子操作されたT細胞及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項81】
静脈内注入による投与に適合されている、請求項80に記載の医薬組成物。
【請求項82】
腫瘍内投与に適合されている、請求項80に記載の医薬組成物。
【請求項83】
前記外来性TCR又はCARは、前記T細胞のゲノム中の定められた場所に統合される、請求項46~53又は66~72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
前記統合は、CRISPR、任意選択でCRISPR-Cas9を使用して行われる、請求項83に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
キメラ抗原受容体(「CAR」)の発現又は外来性T細胞受容体(TCR)の発現のいずれかを通して、腫瘍細胞上に発現される抗原を認識するようにリダイレクトされたヒトT細胞は、特定の血液癌を治療するのに有効であることが証明された。しかしながら、これまで、CAR-T及びTCR-Tアプローチは、免疫抑制性の腫瘍微小環境の存在が一因で固形腫瘍に対してより乏しい有効性を示した。固形癌の抑制性の腫瘍微小環境を克服することが可能である改善されたCAR-T及びTCR-T細胞アプローチが必要とされている。
【0002】
トランスフォーミング増殖因子ベータ(「TGF-β」)は、進行した転移性の固形癌など、いくつかの固形癌の腫瘍微小環境内に見出される免疫抑制性サイトカインである。状況により、TGF-βは、抗腫瘍免疫応答を制限し得る。TGF-βの影響について考えられる1つのメカニズムは、T細胞の細胞傷害性、増殖及びサイトカイン産生を含むT細胞の機能の抑制である。本発明を限定することなく、現在、TGF-βは、トランスフォーミング増殖因子ベータ受容体2(「TGFBR2」)の細胞外ドメインに結合し、TGFBR1とTGFBR2との二量体化を促進すると考えられている。受容体二量体化後、TGFBR2キナーゼドメインは、TGFBR1をトランスリン酸化し、SMAD2及びSMAD3の下流のリン酸化並びにTGF-β応答遺伝子の後続の発現をもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明者らは、ここで、TGFBR2遺伝子の標的破壊が受容体表面発現を低下させ、且つ/又はTGF-β誘発性シグナル伝達を低下させることができ、及びそのようなTGFBR2破壊を有するTCR-T細胞が生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下でも増殖し続け、且つ標的腫瘍細胞を死滅させ続けることを可能にすることを発見した。
【0004】
したがって、第1の態様では、本開示は、TGFBR2遺伝子の遺伝子操作されたゲノム修飾を含むT細胞であって、遺伝子操作されたゲノム修飾は、対応する対照細胞上の表面発現TGFBR2のレベルの約20%~約60%である、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分のレベルをもたらす、T細胞を提供する。いくつかの実施形態では、ゲノム修飾は、TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるものである。いくつかの実施形態では、T細胞は、外来性TCR又はCAR、好ましくは外来性TCRを発現する。
【0005】
別の態様では、TGFBR2遺伝子の遺伝子操作されたゲノム修飾を含むT細胞であって、修飾は、切断型である表面発現TGFBR2をもたらす、T細胞が提示される。いくつかの実施形態では、ゲノム修飾は、TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるものである。いくつかの実施形態では、T細胞は、外来性TCR又はCAR、好ましくは外来性TCRを発現する。いくつかの実施形態では、TCR又はCARは、T細胞のゲノム中の定めされた場所に統合される。特定の実施形態では、統合は、CRISPR、任意選択でCRISPR-Cas9を使用して行われる。
【0006】
別の態様では、そのような遺伝子操作されたT細胞を作製する方法が提供される。別の態様では、そのような遺伝子操作されたT細胞を含む医薬組成物が提供される。更なる態様では、患者を治療する方法であって、治療有効量の、遺伝子操作されたT細胞又はそのような遺伝子操作されたT細胞を含む医薬組成物を患者に投与することを含む方法が提供される。
【0007】
本発明のこれら及び他の特徴、態様及び利点は、以下の説明及び添付の図面を考慮することでよりよく理解されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ヒトTGF-β受容体2遺伝子(「TGFBR2」)のエキソン構造を表す概略図を提供する。ヒトTGFBR2遺伝子は、N末端からC末端に、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及びキナーゼドメインをコードする7つのエキソンを含む。RNAガイドヌクレアーゼをそれぞれエキソン1(TGFBR2 gRNA1~gRNA7)及びエキソン4(TGFBR2 gRNA15~gRNA22)に向けるために使用したガイドRNA(「gRNA」)に対する結合部位を示す。gRNA標的配列を表2に提示する。
【
図2A】TGFBR2遺伝子を破壊するRNAガイドヌクレアーゼ編集により、T細胞が、TGF-βによって誘発されるホスホSmad2/3アップレギュレーションに抵抗するようになることを示すデータを提示する。健康なドナーヒトT細胞を、1G4 TCRを発現するように遺伝子操作し、次いで種々のTGFBR2 gRNA RNP複合体によりエレクトロポレーションした。1G4 TCR発現TGFBR2編集T細胞を次いで30分間、二通り、TGF-β(20ng/mL)の存在下又は非存在下で培養し、次いでリン酸化されたSmad2/3タンパク質を検出する抗体により細胞内を染色した。
図2Aは、TGF-βあり(灰色)又はなし(黒色)での処理後のホスホSmad2/3発現を表すフローサイトメトリーヒストグラムを提示する。ピークサイズは、曲線ごとに最頻値に対して標準化した。
【
図2B】TGFBR2遺伝子を破壊するRNAガイドヌクレアーゼ編集により、T細胞が、TGF-βによって誘発されるホスホSmad2/3アップレギュレーションに抵抗するようになることを示すデータを提示する。健康なドナーヒトT細胞を、1G4 TCRを発現するように遺伝子操作し、次いで種々のTGFBR2 gRNA RNP複合体によりエレクトロポレーションした。1G4 TCR発現TGFBR2編集T細胞を次いで30分間、二通り、TGF-β(20ng/mL)の存在下又は非存在下で培養し、次いでリン酸化されたSmad2/3タンパク質を検出する抗体により細胞内を染色した。
図2Bは、TGF-β処理に応じたホスホSmad2/3蛍光強度中央値(「MFI」)における変化倍数をまとめたものである。エラーバーは、二通りの標準偏差を示す。
【
図3】RNAガイドヌクレアーゼ編集によってT細胞におけるTGFBR2遺伝子を破壊することがTGFBR2表面発現の低下をもたらすことを示すデータを提示する。健康なドナーヒトT細胞を、1G4 TCRを発現するように遺伝子操作し、次いでTGFBR2の細胞外ドメイン(「ECD」)(gRNA1及び4~7)又は細胞内キナーゼドメイン(「ICD」)(gRNA15~17、20及び22)を標的にする種々の臨床グレードTGFBR2 gRNA RNP複合体をエレクトロポレーションした。編集の4日後、TGFBR2表面発現を抗TGFBR2抗体による表面染色によって解析した。TGFBR2発現は、TGFBR2遺伝子編集なしで1G4 TCRを発現するように遺伝子操作したT細胞におけるTGFBR2蛍光強度中央値に対して標準化する。エラーバーは、二通りの標準偏差を示す。
【
図4A】TGFBR2遺伝子におけるヌクレアーゼ媒介性の破壊を有するT細胞がTGF-βの存在下で反復腫瘍細胞チャレンジ後に優れた細胞傷害機能を有することを示すデータを提示する。1G4 TCR発現T細胞(対照)及びTGFBR2遺伝子に対する種々の編集された破壊を有する1G4 TCR発現T細胞を、IncuCyteプラットフォームを使用する反復細胞傷害性アッセイにかけた。T細胞は、回収して、合計4回にわたって新しいA375-GFP
+細胞と再培養する前に、約72時間にわたり外来性TGF-β(20ng/mL)の存在下又は非存在下において5:1のエフェクター対標的の比でA375-GFP
+標的細胞と培養した。A375-GFP
+細胞死滅は、2時間毎に10×対物レンズを使用して画像化し、培養物中に残っているGFP
+細胞をカウントすることによって定量化した。
図4Aは、A375-GFP
+標的細胞を、外来性1G4 TCRを欠き、且つTGFBR2遺伝子に対するいかなる編集もないT細胞(「非編集」)、TGFBR2遺伝子に対する編集を欠いている1G4発現T細胞(「1G4 TCRのみ」)及びT細胞なし(「T細胞なし」)の存在下において、TGF-βあり又はなしで培養したときのA375-GFP
+細胞数を示す。
【
図4B】TGFBR2遺伝子におけるヌクレアーゼ媒介性の破壊を有するT細胞がTGF-βの存在下で反復腫瘍細胞チャレンジ後に優れた細胞傷害機能を有することを示すデータを提示する。1G4 TCR発現T細胞(対照)及びTGFBR2遺伝子に対する種々の編集された破壊を有する1G4 TCR発現T細胞を、IncuCyteプラットフォームを使用する反復細胞傷害性アッセイにかけた。T細胞は、回収して、合計4回にわたって新しいA375-GFP
+細胞と再培養する前に、約72時間にわたり外来性TGF-β(20ng/mL)の存在下又は非存在下において5:1のエフェクター対標的の比でA375-GFP
+標的細胞と培養した。A375-GFP
+細胞死滅は、2時間毎に10×対物レンズを使用して画像化し、培養物中に残っているGFP
+細胞をカウントすることによって定量化した。
図4Bは、A375-GFP
+標的細胞を、外来性1G4 TCRを発現し、且つTGFBR2遺伝子がエキソン1ターゲティングgRNA(TGFBR2-1~TGFBR2-7)を使用して破壊されたT細胞の存在下において、TGF-βあり又はなしで培養したときのA375-GFP
+細胞数を示す。
【
図4C】TGFBR2遺伝子におけるヌクレアーゼ媒介性の破壊を有するT細胞がTGF-βの存在下で反復腫瘍細胞チャレンジ後に優れた細胞傷害機能を有することを示すデータを提示する。1G4 TCR発現T細胞(対照)及びTGFBR2遺伝子に対する種々の編集された破壊を有する1G4 TCR発現T細胞を、IncuCyteプラットフォームを使用する反復細胞傷害性アッセイにかけた。T細胞は、回収して、合計4回にわたって新しいA375-GFP
+細胞と再培養する前に、約72時間にわたり外来性TGF-β(20ng/mL)の存在下又は非存在下において5:1のエフェクター対標的の比でA375-GFP
+標的細胞と培養した。A375-GFP
+細胞死滅は、2時間毎に10×対物レンズを使用して画像化し、培養物中に残っているGFP
+細胞をカウントすることによって定量化した。
図4Cは、A375-GFP
+標的細胞を、外来性1G4 TCRを発現し、且つTGFBR2遺伝子がエキソン4ターゲティングgRNA(TGFBR2-15、TGFBR2-16、TGFBR2-17、TGFBR2-20、TGFBR2-22)を使用して破壊されたT細胞の存在下において、TGF-βあり又はなしで培養したときのA375-GFP
+細胞数を示す。エラーバーは、三通りの標準偏差を示す。
【
図4D】TGFBR2遺伝子におけるヌクレアーゼ媒介性の破壊を有するT細胞がTGF-βの存在下で反復腫瘍細胞チャレンジ後に優れた細胞傷害機能を有することを示すデータを提示する。1G4 TCR発現T細胞(対照)及びTGFBR2遺伝子に対する種々の編集された破壊を有する1G4 TCR発現T細胞を、IncuCyteプラットフォームを使用する反復細胞傷害性アッセイにかけた。T細胞は、回収して、合計4回にわたって新しいA375-GFP
+細胞と再培養する前に、約72時間にわたり外来性TGF-β(20ng/mL)の存在下又は非存在下において5:1のエフェクター対標的の比でA375-GFP
+標的細胞と培養した。A375-GFP
+細胞死滅は、2時間毎に10×対物レンズを使用して画像化し、培養物中に残っているGFP
+細胞をカウントすることによって定量化した。
図4Dは、4回のチャレンジ後のA375-GFP
+細胞数を集計するヒストグラムである。エラーバーは、三通りの標準偏差を示す。
【
図5】TGFBR2遺伝子にヌクレアーゼ媒介性の破壊を有するT細胞がTGF-βの存在下でその増殖能を維持することを実証するデータを提示する。TGFBR2破壊1G4 TCR発現T細胞を、外来性TGF-β(20ng/mL)の存在下又は非存在下でImmunoCult(10μL/mL)を使用する反復再刺激にかけた。T細胞増殖を、毎週、T細胞をカウントすることによって定量化した。エラーバーは、二通りの標準偏差を示す。
【
図6】TGFBR2遺伝子のヌクレアーゼ媒介性の破壊が外来性TCRの発現を改変しないことを実証するデータを提示する。細胞を、内在性TCR(「huTCR」)又はmur6エピトープ(「mur6」)によりマークした外来性TCRを検出する抗体により染色した。ノックインTCRのFACSプロットは、エレクトロポレーション後の7日間並びにエレクトロポレーション及びTCR修復テンプレートを含有する細胞の選択後の14日間、3つの異なる破壊部位間で同様であった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
4.1.定義
「対応する対照細胞」は、科学的に妥当な比較を行うために科学的に許容され且つ実際に使用できるほど修飾細胞と厳密に同一である細胞である。比較の対象であるゲノム修飾以外は、適切な対照細胞は、同じ細胞型、同じ増殖条件及び/又は同じ他の修飾を有していなければならない。当業者は、どのような変数、パラメーター及び条件が、ゲノム修飾に起因するあらゆる差(例えば、表面発現のレベルにおける変化)を決定するために、あらゆる与えられた状況で関係があるのかを理解する。本出願の内容は、特定の状況における適切な対照細胞の例を提供する。
【0010】
4.2.TGFBR2遺伝子の遺伝子操作されたゲノム修飾を含むT細胞
第1の態様では、TGFBR2遺伝子の遺伝子操作されたゲノム修飾を含むT細胞が提供される。遺伝子操作されたゲノム修飾は、対応する対照細胞上の表面発現TGFBR2のレベルの約20%~約60%である、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分のレベルをもたらす。
【0011】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたゲノム修飾は、対応する対照細胞上の表面発現TGFBR2のレベルの約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%又は60%である、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分のレベルをもたらす。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたゲノム修飾は、対応する対照細胞上の表面発現TGFBR2のレベルの約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%又は60%以下である、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分のレベルをもたらす。
【0012】
いくつかの実施形態では、T細胞は、CD8+αβ T細胞、CD4+αβ T細胞又はγδ T細胞である。いくつかの実施形態では、T細胞は、ヒトT細胞である。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、癌患者から得られる。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、健康な対象から得られる。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、癌患者から得られる又は健康な対象から得られるT細胞の子孫細胞である。
【0013】
いくつかの実施形態では、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分は、TGF-βに結合することが可能であるが、TGFBR1をリン酸化することができない。いくつかの実施形態では、T細胞は、生理学的に適切なレベルのTGF-βとのT細胞の接触に応じて、Smad2/3を通して有効にシグナル伝達することができない。
【0014】
種々の実施形態では、遺伝子操作されたゲノム修飾は、(i)TGFBR2遺伝子プロモーターにおける挿入及び/又は欠失、(ii)TGFBR2遺伝子のエキソンにおけるフレームシフト挿入及び/又は欠失、(iii)TGFBR2遺伝子のコード領域の全体ではなく一部の欠失、(iv)天然の終止コドンの上流のエキソン中に終止コドンを作り出す置換、挿入及び/又は欠失、並びに(v)TGFBR2遺伝子内の1つ以上のドナー及び/又はアクセプターRNAスプライス部位を修飾する置換、挿入及び/又は欠失の1つ以上を含む。
【0015】
特定の実施形態では、ゲノム修飾は、TGFBR2遺伝子のエキソン1、TGFBR2遺伝子のエキソン2、TGFBR2遺伝子のエキソン3、TGFBR2遺伝子のエキソン4、TGFBR2遺伝子のエキソン5、TGFBR2遺伝子のエキソン6又はTGFBR2遺伝子のエキソン7におけるものである。特定の実施形態では、ゲノム修飾は、TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるものである。
【0016】
種々の実施形態では、ゲノム修飾は、RNAガイドヌクレアーゼによって遂行される。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、二本鎖切断誘発ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、一本鎖切断誘発ヌクレアーゼ(ニッカーゼ)である。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、第2の酵素に融合される。特定の実施形態では、第2の酵素は、逆転写酵素である。
【0017】
特定の実施形態では、ゲノム修飾は、TGFBR2遺伝子のエキソン4(配列番号2)の塩基294及び295、389及び390、543及び544、547及び548又は674及び675間のRNAガイドヌクレアーゼによる切断によって引き起こされるフレームシフトである。
【0018】
いくつかの実施形態では、T細胞は、外来性TCR又はCARを発現する。特定の実施形態では、TCRは、ウイルスによる方法を使用してT細胞に導入される。特定の実施形態では、TCRは、T細胞のゲノム中の特異的な部位に外来性TCRを発現するための遺伝子を統合する方法(例えばCRISPR-Cas9又は他のCRISPR酵素)を使用してT細胞に導入される。
【0019】
特定の好ましい実施形態では、T細胞は、外来性TCRを発現する。特定の実施形態では、T細胞は、その内在性TCRを発現し続ける。特定の実施形態では、T細胞は、その内在性TCRを発現しない。
【0020】
特定の実施形態では、T細胞は、CARを発現する。特定の実施形態では、CARは、第一世代CARである。いくつかの実施形態では、CARは、第二世代CARである。いくつかの実施形態では、CARは、米国特許第10,703,794号明細書に記載されるものに類似するCARであり、この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、CARは、国際公開第2021/058563号パンフレットに記載されるNKG2DベースのCARであり、この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
いくつかの実施形態では、外来性TCR又はCARは、腫瘍抗原を認識する。当業者によって理解されるように、TCRによって認識される「抗原」は、ペプチド-HLA複合体(pHLA)である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、非腫瘍細胞によっても発現される腫瘍関連抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、癌/精巣抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、ネオ抗原である。特定の実施形態では、ネオ抗原は、共通の、すなわち広く知られている腫瘍ネオ抗原である。特定の実施形態では、ネオ抗原は、非共通の、すなわち個々のネオ抗原である。
【0022】
いくつかの実施形態では、T細胞は、標的細胞への少なくとも2回の曝露イベント後、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、外来性TCR又はCARによって認識される抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する。いくつかの実施形態では、T細胞は、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、少なくとも約72、80、90、100、110、120、130、140、144、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280又は288時間にわたり、外来性TCR又はCARによって認識される抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する。
【0023】
別の態様では、TGFBR2遺伝子の遺伝子操作されたゲノム修飾を含むT細胞が提供される。修飾は、切断型である表面発現TGFBR2をもたらす。
【0024】
いくつかの実施形態では、T細胞は、CD8+αβ T細胞、CD4+αβ T細胞又はγδ T細胞である。いくつかの実施形態では、T細胞は、ヒトT細胞である。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、癌患者から得られる。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、健康な対象から得られる。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、癌患者から得られる又は健康な対象から得られるT細胞の子孫細胞である。
【0025】
いくつかの実施形態では、表面発現切断型TGFBR2は、TGF-βに結合することが可能であるが、TGFBR1をリン酸化することができない。いくつかの実施形態では、T細胞は、生理学的に適切なレベルのTGF-βとのT細胞の接触に応じて、Smad2/3を通して有効にシグナル伝達することができない。
【0026】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたゲノム修飾は、(i)TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるフレームシフト挿入及び/又は欠失、(ii)任意選択で、エキソン4の全体的又は部分的な欠失と合わせたTGFBR2遺伝子のエキソン5~7の欠失、並びに(iii)未成熟終止コドンを作り出す、エキソン4における置換、挿入及び/又は欠失の1つ以上を含む。
【0027】
特定の実施形態では、ゲノム修飾は、TGFBR2遺伝子のエキソン1、TGFBR2遺伝子のエキソン2、TGFBR2遺伝子のエキソン3、TGFBR2遺伝子のエキソン4、TGFBR2遺伝子のエキソン5、TGFBR2遺伝子のエキソン6又はTGFBR2遺伝子のエキソン7におけるものである。特定の実施形態では、ゲノム修飾は、TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるものである。
【0028】
種々の実施形態では、ゲノム修飾は、RNAガイドヌクレアーゼによって遂行される。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、二本鎖切断誘発ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、一本鎖切断誘発ヌクレアーゼ(ニッカーゼ)である。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、第2の酵素に融合される。特定の実施形態では、第2の酵素は、逆転写酵素である。
【0029】
特定の実施形態では、ゲノム修飾は、TGFBR2遺伝子のエキソン4(配列番号2)の塩基294及び295、389及び390、543及び544、547及び548又は674及び675間のRNAガイドヌクレアーゼによる切断によって引き起こされるフレームシフトである。
【0030】
いくつかの実施形態では、T細胞は、外来性TCR又はCARを発現する。特定の実施形態では、TCRは、ウイルスによる方法を使用してT細胞に導入される。特定の実施形態では、TCRは、T細胞のゲノム中の特異的な部位に外来性TCRを発現するための遺伝子を統合する方法(例えばCRISPR-Cas9又は他のCRISPR酵素)を使用してT細胞に導入される。
【0031】
特定の好ましい実施形態では、T細胞は、外来性TCRを発現する。特定の実施形態では、T細胞は、その内在性TCRを発現し続ける。特定の実施形態では、T細胞は、その内在性TCRを発現しない。
【0032】
特定の実施形態では、T細胞は、CARを発現する。特定の実施形態では、CARは、第一世代CARである。いくつかの実施形態では、CARは、第二世代CARである。いくつかの実施形態では、CARは、米国特許第10,703,794号明細書に記載されるものに類似するCARであり、この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、CARは、国際公開第2021/058563号パンフレットに記載されるNKG2DベースのCARであり、この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0033】
いくつかの実施形態では、T細胞は、腫瘍抗原を認識する外来性TCR又はCARを発現する。当業者によって理解されるように、TCRによって認識される「抗原」は、ペプチド-HLA複合体(pHLA)である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、非腫瘍細胞によっても発現される腫瘍関連抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、癌/精巣抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、ネオ抗原である。特定の実施形態では、ネオ抗原は、共通の、すなわち広く知られている腫瘍ネオ抗原である。特定の実施形態では、ネオ抗原は、非共通の、すなわち個々のネオ抗原である。
【0034】
いくつかの実施形態では、T細胞は、標的細胞への少なくとも2回の曝露イベント後、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、外来性TCR又はCARによって認識される抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する。いくつかの実施形態では、T細胞は、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、少なくとも約72、80、90、100、110、120、130、140、144、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280又は288時間にわたり、外来性TCR又はCARによって認識される抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する。
【0035】
いくつかの実施形態では、T細胞は、T細胞によって発現されるTCRによって認識される抗原を提示する腫瘍又は他の細胞株への接触又は曝露後、増強されたサイトカイン応答を有する。特定の実施形態では、サイトカインは、インターフェロン-γ、インターロイキン-2又は腫瘍壊死因子-αである。
【0036】
4.3.医薬組成物
別の態様では、本明細書に記載されるT細胞及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が提供される。好ましい実施形態では、T細胞は、外来性TCR又はCARを発現する。
【0037】
種々の実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載されるT細胞の集団を含む。特定の実施形態では、T細胞は、外来性TCR又はCARを発現する。特定の実施形態では、集団におけるT細胞のすべては、同じ外来性TCRを発現する。特定の実施形態では、集団におけるT細胞のすべては、同じCARを発現する。特定の実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載されるT細胞を含み、集団におけるT細胞は、複数のCARを集団で発現する。
【0038】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、静脈内注入による投与に適合されている。いくつかの実施形態では、組成物は、腫瘍内投与に適合されている。
【0039】
4.4.T細胞を遺伝子操作する方法
別の態様では、本明細書に記載されるTGFBR2修飾T細胞を作製する方法が提供される。いくつかの実施形態では、方法は、T細胞ゲノム中のTGFBR2遺伝子を修飾することを含み、遺伝子修飾後、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分のレベルは、対応する対照細胞上の表面発現TGFBR2のレベルの約20%~約60%である。
【0040】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたゲノム修飾は、対応する対照細胞上の表面発現TGFBR2のレベルの約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%又は60%である、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分のレベルをもたらす。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたゲノム修飾は、対応する対照細胞上の表面発現TGFBR2のレベルの約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%又は60%以下である、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分のレベルをもたらす。
【0041】
いくつかの実施形態では、T細胞は、CD8+αβ T細胞、CD4+αβ T細胞又はγδ T細胞である。いくつかの実施形態では、T細胞は、ヒトT細胞である。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、癌患者から得られる。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、健康な対象から得られる。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、癌患者から得られる又は健康な対象から得られるT細胞の子孫細胞である。
【0042】
いくつかの実施形態では、表面発現TGFBR2又はその検出可能な部分は、TGF-βに結合することが可能であるが、TGFBR1をリン酸化することができない。いくつかの実施形態では、T細胞は、生理学的に適切なレベルのTGF-βとのT細胞の接触に応じて、Smad2/3を通して有効にシグナル伝達することができない。
【0043】
いくつかの実施形態では、修飾は、(i)TGFBR2遺伝子プロモーターにおける挿入及び/又は欠失、(ii)TGF-βIIR遺伝子のエキソンにおけるフレームシフト挿入及び/又は欠失、(iii)TGFBR2遺伝子のコード領域の全体ではなく一部の欠失、(iv)天然の終止コドンの上流のエキソン中に終止コドンを作り出す置換、挿入及び/又は欠失、並びに(v)TGFBR2遺伝子内の1つ以上のドナー及び/又はアクセプターRNAスプライス部位を修飾する置換、挿入及び/又は欠失の1つ以上である。特定の実施形態では、修飾は、TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるものである。
【0044】
いくつかの実施形態では、修飾することは、RNAガイドヌクレアーゼ及び少なくとも1つのRNAガイドをT細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、二本鎖切断誘発ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、一本鎖切断誘発ヌクレアーゼ(ニッカーゼ)である。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、第2の酵素に融合される。特定の実施形態では、第2の酵素は、逆転写酵素である。
【0045】
いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、TGFBR2遺伝子のエキソン4(配列番号2)の塩基294及び295、389及び390、543及び544、547及び548又は674及び675間を切断する。特定の実施形態では、少なくとも1つのガイドRNAは、配列番号8~12の配列を有する。
【0046】
いくつかの実施形態では、方法は、所望のゲノム修飾を有するT細胞を選択する後続のステップを更に含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、方法は、TGFBR2遺伝子を修飾する前又は後に、CAR又は外来性TCRを発現するようにT細胞を遺伝子操作するステップを更に含む。特定の実施形態では、T細胞は、外来性TCRを発現するように遺伝子操作される。特定の実施形態では、TCRは、ウイルスによる方法を使用してT細胞に導入される。特定の実施形態では、TCRは、T細胞のゲノム中の特異的な部位に外来性TCRを発現するための遺伝子を統合する方法(例えばCRISPR-Cas9又は他のCRISPR酵素)を使用してT細胞に導入される。いくつかの実施形態では、T細胞は、その内在性TCRを並行して発現する。いくつかの実施形態では、T細胞は、その内在性TCRを発現しないように、更に遺伝子操作されている。
【0048】
いくつかの実施形態では、外来性TCR又はCARは、腫瘍抗原を認識する。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、非腫瘍細胞によっても発現される腫瘍関連抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、癌/精巣抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、ネオ抗原である。特定の実施形態では、ネオ抗原は、共通の、すなわち広く知られている腫瘍ネオ抗原である。特定の実施形態では、ネオ抗原は、非共通の、すなわち個々のネオ抗原である。
【0049】
種々の実施形態では、TGFBR2遺伝子の修飾及び更にCAR又は外来性TCRを発現するようにT細胞を遺伝子操作した後、T細胞は、標的細胞への少なくとも2回の曝露イベント後、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、外来性TCR又はCARによって認識される抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する。いくつかの実施形態では、T細胞は、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、少なくとも約72、80、90、100、110、120、130、140、144、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280又は288時間にわたり、外来性TCR又はCARによって認識される抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する。
【0050】
別の態様では、本明細書に記載されるTGFBR2修飾T細胞を作製する方法であって、修飾は、エキソン4内のものであり、且つ切断型である表面発現TGFBR2をもたらす、方法が提供される。
【0051】
いくつかの実施形態では、T細胞は、CD8+αβ T細胞、CD4+αβ T細胞又はγδ T細胞である。いくつかの実施形態では、T細胞は、ヒトT細胞である。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、癌患者から得られる。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、健康な対象から得られる。いくつかのヒトT細胞の実施形態では、T細胞は、癌患者から得られる又は健康な対象から得られるT細胞の子孫細胞である。
【0052】
いくつかの実施形態では、表面発現切断型TGFBR2は、TGF-βに結合することが可能であるが、TGFBR1をリン酸化することができない。いくつかの実施形態では、T細胞は、生理学的に適切なレベルのTGF-βとのT細胞の接触に応じて、Smad2/3を通して有効にシグナル伝達することができない。
【0053】
いくつかの実施形態では、切断型表面発現TGFBR2は、無修飾T細胞に存在するTGFBR2の量以上のレベルで存在する。いくつかの実施形態では、切断型表面発現TGFBR2は、無修飾T細胞に存在するTGFBR2のレベルの約20%~60%のレベルで存在する。
【0054】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたゲノム修飾は、(i)TGFBR2遺伝子のエキソン4におけるフレームシフト挿入及び/又は欠失、(ii)任意選択で、エキソン4の全体的又は部分的な欠失と合わせたTGFBR2遺伝子のエキソン5~7の欠失、並びに(iii)未成熟終止コドンを作り出す、エキソン4における置換、挿入及び/又は欠失の1つ以上を含む。
【0055】
いくつかの実施形態では、修飾することは、RNAガイドヌクレアーゼ及び少なくとも1つのRNAガイドをT細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、二本鎖切断誘発ヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、一本鎖切断誘発ヌクレアーゼ(ニッカーゼ)である。いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、第2の酵素に融合される。特定の実施形態では、第2の酵素は、逆転写酵素である。
【0056】
いくつかの実施形態では、RNAガイドヌクレアーゼは、TGFBR2遺伝子のエキソン4(配列番号2)の塩基294及び295、389及び390、543及び544、547及び548又は674及び675間を切断する。特定の実施形態では、少なくとも1つのガイドRNAは、配列番号8~12の配列を有する。
【0057】
いくつかの実施形態では、方法は、所望のゲノム修飾を有するT細胞を選択する後続のステップを更に含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、方法は、TGFBR2遺伝子を修飾する前又は後に、CAR又は外来性TCRを発現するようにT細胞を遺伝子操作するステップを更に含む。特定の実施形態では、T細胞は、外来性TCRを発現するように遺伝子操作される。特定の実施形態では、TCRは、ウイルスによる方法を使用してT細胞に導入される。特定の実施形態では、TCRは、T細胞のゲノム中の特異的な部位に外来性TCRを発現するための遺伝子を統合する方法(例えばCRISPR-Cas9又は他のCRISPR酵素)を使用してT細胞に導入される。いくつかの実施形態では、T細胞は、その内在性TCRを並行して発現する。いくつかの実施形態では、T細胞は、その内在性TCRを発現しないように、更に遺伝子操作されている。
【0059】
いくつかの実施形態では、外来性TCR又はCARは、腫瘍抗原を認識する。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、非腫瘍細胞によっても発現される腫瘍関連抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、癌/精巣抗原である。いくつかの実施形態では、腫瘍抗原は、ネオ抗原である。特定の実施形態では、ネオ抗原は、共通の、すなわち広く知られている腫瘍ネオ抗原である。特定の実施形態では、ネオ抗原は、非共通の、すなわち個々のネオ抗原である。
【0060】
種々の実施形態では、TGFBR2遺伝子の修飾及び更にCAR又は外来性TCRを発現するようにT細胞を遺伝子操作した後、T細胞は、標的細胞への少なくとも2回の曝露イベント後、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、外来性TCR又はCARによって認識される抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する。いくつかの実施形態では、T細胞は、生理学的に適切なレベルのTGF-βの存在下において、少なくとも約72、80、90、100、110、120、130、140、144、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280又は288時間にわたり、外来性TCR又はCARによって認識される抗原を発現する標的細胞の集団をインビトロで死滅させる能力を維持する。
【0061】
別の態様では、本明細書に記載される方法によって産生される遺伝子操作されたT細胞が提供される。
【0062】
4.5.疾患を治療する方法
別の態様では、方法は、治療を必要とする対象を治療するために提供される。典型的な実施形態では、対象は、ヒト患者である。方法は、治療有効量の本明細書に記載される遺伝子操作されたT細胞又は本明細書に記載される、そのような遺伝子操作されたT細胞を含む医薬組成物を対象、典型的にヒト患者に投与することを含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、治療されることになっている患者から得られるT細胞から又は患者から得られるT細胞の子孫から遺伝子操作される(自家治療)。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、治療されることになっている患者以外の1人以上の個人から得られるT細胞から又はその1人以上の個人から得られるT細胞の子孫から遺伝子操作される(同種異系治療)。
【0064】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、静脈内注入によって投与される。いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、腫瘍内投与によって投与される。
【0065】
いくつかの実施形態では、遺伝子操作されたT細胞は、T細胞によって発現されるTCRによって認識される抗原を提示する腫瘍又は他の細胞株への接触又は曝露後、増強されたサイトカイン応答を有する。特定の実施形態では、サイトカインは、インターフェロン-γ又は腫瘍壊死因子-αである。
【実施例】
【0066】
4.6.1.実施例1:TGFBR2破壊TCR発現T細胞はTGF-βシグナル伝達に抵抗する
本実施例は、外来性TCRを発現するように更に遺伝子操作されるT細胞でTGFBR2遺伝子を破壊することにより、TGFBR2の表面発現を低下させ、T細胞がTGF-βシグナル伝達に抵抗するようになることを示す。
【0067】
ヒトTGFBR2エキソン1(TGFBR2の細胞外ドメイン)又はエキソン4(TGFBR2のキナーゼドメイン)における種々の部位に遺伝子編集ヌクレアーゼを向けるgRNAを合成した。
図1は、各gRNAによって誘導されるヌクレアーゼ切断部位の位置を示す概略図である。エキソン1及び4の配列を下記の表1に提示する。エキソン配列は、Ensembl canonical transcript ENST00000295754.10から抽出する。gRNAの標的配列を下記の表2に提示するが、TGFBR2 gRNA標的配列は、(5’-3’)で示し、予測される切断部位は(|)、PAM部位は太字で表す。表2は、標的がTGFBR2遺伝子のセンス(+)鎖又はアンチセンス(-)鎖上にあるかどうかを更に指定する。
【0068】
【0069】
【0070】
健康なドナーヒトT細胞を、Lonza 4D nucleofector装置、プログラムEH-115を使用して1μM TGFBR2ターゲティングRNP(CRISPR-Cas9 gRNAリボ核タンパク質)をエレクトロポレーションする前に、48時間、3:1の比(ビーズ:CD3+細胞)で抗CD3/CD28ビーズ Thermo Fisher、#40203Dにより活性化した。同時に、内在性TCRをノックアウトし、外来性TCR(1G4)の発現を誘発した。5%ヒト血清Sigma-Aldrich、#H4522、1%glutamax Thermo Fisher、#35050061、5μg/mLゲンタマイシン Thermo Fisher、#15750037、IL-7(5ng/mL)Peprotech、#200-07及びIL-15(5ng/mL)Peprotech、#200-15を含有するAIM-V培地 Thermo Fisher、#A3830801で7日間、T細胞を増やした後、T細胞を、リン酸化されたSMAD2/3タンパク質 BD Bioscience、#562696を検出する抗体により細胞内を染色する前に、TGF-β(20ng/mL)R&D systems、#240-B-010/CFあり又はなしで30分間処理した。
【0071】
図2A及び2Bに示されるように、TGFBR2編集及び1G4 TCR発現の両方を欠いているT細胞(「非編集」)並びにTGFBR2編集を欠いているが、外来性1G4 TCRを発現しているT細胞(「1G4のみ」)は、TGF-β処理後、リン酸化されたSMAD2/3における増加を見せたのに対して、TGFBR2破壊1G4 TCR発現T細胞の多くは、いかなる増加も実証しなかった。TGFBR2エキソン1編集1G4 TCR発現T細胞のいくつか及びTGFBR2エキソン4編集1G4 TCR発現T細胞のすべては、TGF-βシグナル伝達に完全に抵抗した。
【0072】
図3に示されるように、gRNA 4及び7は、1G4 TCR発現T細胞上のTGFBR2表面発現を低下させることに非効率的であった、TGFBR2遺伝子に対する編集を導いた。試験した他のすべてのTGFBR2 gRNAは、エキソン4を標的にするすべてのgRNAを含め、TGFBR2表面発現の低下をもたらした(
図3)。細胞内キナーゼドメイン(エキソン4)を標的にするTGFBR2 gRNAは、すべて対照細胞と比較してTGFBR2の表面発現を低下させたが、エキソン4編集T細胞は、表面発現の低下に成功したエキソン1(細胞外ドメイン)編集細胞(gRNA TGFBR2-1、TGFBR2-5及びTGFBR2-6)と比較してTGFBR2表面発現が多い傾向を示した。表面発現データを下記の表3に提示する。
【0073】
【0074】
4.6.2.実施例2:TGFBR2破壊TCR発現T細胞はTGF-βの存在下で優れた機能を呈する
本実施例は、複数回の抗原曝露を通して細胞傷害活性を維持するTGFBR2破壊T細胞の能力を示す。
【0075】
1G4 TCR発現TGFBR2破壊T細胞を、実施例1のように健康なヒトドナーから産出した。5%ヒト血清Sigma-Aldrich、#H4522、1%glutamax Thermo Fisher、#35050061、5μg/mLゲンタマイシン Thermo Fisher、#15750037、IL-7(5ng/mL)Peprotech、#200-07及びIL-15(5ng/mL)Peprotech、#200-15を含有するAIM-V培地 Thermo Fisher、#A3830801で14日間、T細胞を増やした後、T細胞を、IncuCyteプラットフォームを使用する反復細胞傷害性アッセイにかけた。
【0076】
T細胞をおよそ72時間、外来性TGF-β(20ng/mL)R&D systems、#240-B-010/CFの存在下又は非存在下において、1G4 TCR同種抗原、NY-ESO-1及びHLA-A*02:01のペプチドHLA(pHLA)複合体を発現するGFP発現A375細胞と5:1のエフェクター対標的比で共培養した。T細胞を次いで回収し、合計4回の腫瘍チャレンジのために新しいA375-GFP+細胞と共培養した。画像を、2時間毎に10×対物レンズを使用して得て、T細胞の細胞傷害性を、共培養物中に残っているGFP+A375細胞の数を測定することによって決定した。
【0077】
第1ラウンド中、すべての1G4 TCR発現T細胞は、TGF-βの存在下又は非存在下でA375-GFP
+細胞増殖を制御することができた(
図4A~4D)。
【0078】
第2ラウンド中、非TGFBR2破壊1G4発現T細胞(「1G4 TCRのみ」)は、TGF-βの存在下でA375-GFP
+細胞の増殖をもはや制御することができなかった(
図4A)。TGFBR2発現が低下し、且つTGF-βシグナル伝達能力が低下したTGFBR2破壊T細胞は、腫瘍細胞チャレンジの第2及び後続のラウンド中、TGF-βが存在するかどうかに関係なく、A375-GFP
+細胞を死滅させ続けることができた(
図4B、エキソン1破壊;
図4C、エキソン4破壊)。いくらかの機能的なTGF-βシグナル伝達をまだ保持していたTGFBR2 gRNA4編集T細胞及びTGFBR2 gRNA7編集T細胞(
図2)は、第2ラウンドの死滅の初めに、TGF-βの存在下でA375-GFP
+細胞増殖を制御する能力が低下していた(
図4B)。
【0079】
外来性TGF-βの非存在下において、1G4 TCRのみのT細胞は、第3及び第4ラウンドの腫瘍細胞チャレンジ中にその細胞傷害機能をなくしたが、TGFBR2破壊T細胞は、TGF-βの非存在下でA375-GFP
+細胞の増殖を制御し続けた(
図4A、4B及び4C)。最後の第4ラウンドのA375-GFP
+細胞数を
図4Dに示す。
【0080】
これらのデータは、TGFBR2破壊T細胞が、細胞傷害機能のTGF-β媒介性の抑制に抵抗し、外来性TGF-βの存在下又は非存在下で抗原陽性腫瘍細胞を死滅させるのにより強力であることを示す。
【0081】
4.6.3.実施例3:TGFBR2破壊TCR発現T細胞はTGF-βの存在下で増殖能を維持する
本実施例は、TGFBR2破壊T細胞がTGF-βの存在下で増殖の継続が可能であることを示す。
【0082】
1G4 TCR発現TGFBR2破壊T細胞を、TGF-β(20ng/mL)R&D systems、#240-B-010/CFの存在下又は非存在下において、ImmunoCult(抗CD3/CD28/CD2)Stem Cell Technologies、#10990を使用する反復再刺激にかけた。T細胞増殖を、毎週、T細胞をカウントすることによって定量化した(
図5)。1G4 TCRのみのT細胞は、TGF-βの存在下で増加することができなかったが、TGFBR2破壊T細胞は、TGF-βの非存在下と同じ程度に増殖するその能力を維持した。いくらかの機能的なTGF-βシグナル伝達をまだ保持していたTGFBR2 gRNA4編集T細胞及びTGFBR2 gRNA-7編集T細胞(
図2)は、他のTGFBR2破壊T細胞と比較して、TGF-βの存在下でよりゆっくりと増加した。
【0083】
このデータは、TGFBR2 KO T細胞が増殖のTGF-β媒介性の抑制に抵抗し、TGF-βの存在下でその増殖能を維持し得ることを示す。
【0084】
4.6.4.実施例4:TGFBR2破壊TCR発現T細胞は同様のレベルのTCR発現を有する。
本実施例は、TGFBR2破壊T細胞が非破壊細胞と同様のレベルの外来性TCRを発現することを示す。
【0085】
TCRノックインTGFBR2破壊T細胞は、TGFBR2、TRAC及びTRBCターゲティングCas9-gRNAリボ核タンパク質複合体(RNP)並びにTRAC遺伝子座に挿入するための相同なアームと、メトトレキサートに対して耐性である突然変異DHFR遺伝子及びCβドメイン中にmur6エピトープを含有する外来性TCR(その全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願第17/557,514号明細書に記載される)をコードする相同組換え修復DNAテンプレートを同時にエレクトロポレーションすることによって遺伝子操作した。
【0086】
細胞は、エレクトロポレーション後7日間増やし、次いで米国特許出願公開第2022/0041999号明細書(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載される方法に従ってメトトレキサートを使用して選択した。内在性TCRの発現は、ヒトTCRαβ複合体を認識する抗体(抗体クローンIP26)により染色することによって決定した。外来性TCRの発現は、mur6エピトープを認識する抗体(H57)により検出した。
【0087】
エレクトロポレーションの7日後、T細胞は、エレクトロポレーションの7日後の選択前及びエレクトロポレーションの14日後の選択後の両方で、試験したすべての条件(TGFBR2破壊なし、3つの異なるターゲティング配列によるTGFBR2破壊及びAAVS1対照KO)において同等のレベルで外来性TCRを発現した(
図5)。
【0088】
このデータは、TGFBR2 KO T細胞が、外来性TCRを発現する能力を損なわなかったことを示す。
【0089】
5.均等物及び参照による組み込み
本発明は、特に好ましい実施形態及び様々な代替の実施形態に関して示され、記載されたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更形態がなされ得ることが当業者によって理解される。
【0090】
本明細書の本文中で引用された参考文献、発行済み特許及び特許出願のすべては、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】