(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】炭素担持電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20241029BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20241029BHJP
H01M 8/0234 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M8/10 101
H01M8/0234
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024529628
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 US2022050224
(87)【国際公開番号】W WO2023091557
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591131338
【氏名又は名称】ザ ルブリゾル コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コリガン, トーマス エス.
(72)【発明者】
【氏名】ペテク, タイラー
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
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5H018BB08
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5H018DD08
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5H018EE18
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5H126GG05
5H126GG18
5H126GG19
5H126JJ05
5H126JJ06
(57)【要約】
開示される技術は、膜電極集合体の層内に可逆有機抑制剤を含むことによって、膜電極集合体の触媒層中の炭素担体の腐食を軽減するための組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)炭素質化合物、(a)(ii)アイオノマー、又は(a)(iii)(a)(i)及び(a)(ii)の混合物と、(b)可逆有機抑制剤と、を含む、組成物。
【請求項2】
前記アイオノマーが、イオン伝導性ポリマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アイオノマーが、スルホン酸部分を含むポリマーを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アイオノマーが、ペルフルオロスルホン酸ポリマーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アイオノマーの前記スルホン酸部分に対して0.2~25モル%の前記可逆有機抑制剤を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アイオノマーの前記スルホン酸部分に対して0.2~10モル%の前記可逆有機抑制剤を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
炭素質化合物を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記炭素質化合物に対して1~50phrを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記炭素質化合物に対して5~34phrを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
触媒を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
非イオン伝導性材料を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
溶媒を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記触媒が、貴金属を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記触媒が、白金を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記触媒が、遷移金属を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記触媒が、鉄を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記触媒が、ニッケルを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記触媒が、前述のうちのいずれかの合金を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記触媒が、非金属触媒を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記可逆有機抑制剤が、RHEと対比して炭素電極上で0.5~1.4Vの範囲内の可逆酸化/還元電位を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記可逆有機抑制剤が、RHEと対比して炭素電極上で0.9~1.2Vの範囲内の可逆酸化/還元電位を有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記可逆抑制剤が、ヒドロキノン又はキノンを含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記可逆有機抑制剤が、1,2-ジヒドロキシベンゼン-3,4-ジスルホン酸ナトリウム塩、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジシアノヒドロキノン、又は3,4-ジヒドロキシ安息香酸を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記可逆有機抑制剤が、過酸化物を分解する物質を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
前記可逆有機抑制剤が、ラジカル捕捉剤を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記可逆有機抑制剤が、電気化学的還元によって再生される、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記可逆有機抑制剤が、カソードでの電気化学的還元によって再生される、請求項1~26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
炭素質化合物を更に含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
(i)電解質膜と、(ii)触媒層と、を含む、触媒被覆膜(「CCM」)であって、前記触媒層が、炭素質化合物と、可逆有機抑制剤と、を含む、CCM。
【請求項30】
(iii)炭素質化合物及び多孔質結合剤を含む微孔質層と、(iv)炭素基質と、を含む、ガス拡散層(「GDL」)であって、要素(iii)及び(iv)のいずれか一方又は両方が、可逆有機抑制剤を含む、GDL。
【請求項31】
(ii)炭素質化合物を含む触媒層と、(iii)炭素質化合物及び多孔質結合剤を含む微孔質層、並びに(iv)炭素基質のうちの少なくとも1つと、を含む、ガス拡散電極(「GDE」)であって、要素(ii)、(iii)、及び(iv)のうちの少なくとも1つが、可逆有機抑制剤を含む、GDE。
【請求項32】
(i)電解質膜と、(ii)触媒層と、(iii)微孔質層と、(iv)炭素基質と、を含む、燃料電池であって、要素(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)のうちの少なくとも1つが、可逆有機抑制剤を含む、燃料電池。
【請求項33】
燃料電池の触媒層中の炭素質化合物に対する腐食を防止する方法であって、燃料電池の少なくとも1つの層に可逆有機抑制剤を含むことと、燃料電池を動作させることと、を含む、方法。
【請求項34】
燃料電池膜の寿命を延長する方法であって、前記燃料電池の少なくとも1つの層に可逆有機抑制剤を含むことと、前記燃料電池を動作させることと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される技術は、膜電極集合体の層内に可逆有機抑制剤を含むことによって、膜電極集合体の触媒層中の炭素担体の腐食を軽減するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜燃料電池(proton exchange membrane fuel cell、PEMFC)は、重量車両用途のドライブトレインの多様化を可能にし、従来の燃焼機関に代わるクリーンな燃料を提供するための有望な技術である。触媒分解は、燃料電池が、エネルギー省(Department of Energy、DOE)によって設定された10%未満の性能損失を伴って、軽量車両については8,000時間(150,000マイル)又は重量車両については25,000時間(1,000,000マイル)の動作時間というそれらの最終目標に達することを制限する、主な要因のうちの1つである。
【0003】
燃料電池触媒層(PEMFC、AFC、DMFC/DEFCにかかわらず)は、層内の炭素担体の腐食を通して分解することが知られている。炭素担体は、活性触媒のための機械的担体として作用し、また、電子の輸送のための導電性を提供する、大面積導電性材料である。触媒における炭素腐食は、触媒接合性の破壊、電極細孔構造の崩壊、疎水性特性の喪失、及びPt含有触媒の場合にはPt粒径の増加につながり、これらは全て、燃料電池システムの効率に悪影響を及ぼす。
【0004】
炭素担体がPEMFCにおいて分解する主な機構は、電気化学的酸化(C+2H2O→CO2+4H++4e-)である。この酸化反応は、RHE(本明細書の目的のために、水性電解質中の0.1モル濃度の遊離プロトンにおいて測定される「可逆水素電極(reversible hydrogen)」)と対比して0.207Vで起こり始める。しかしながら、局所的領域が、一時的に水素が欠乏しているとき(「燃料欠乏」としても知られる)、又は水素-酸素(若しくは空気)ガスフロントが、電池を通して移動するとき(始動及び動作停止中に頻繁に遭遇される)、RHEと対比して最大1.44Vの界面電位、又は炭素酸化反応の速度が数時間以内に炭素担体の全てを消費するために十分である場合を上回る界面電位につながる。
【0005】
始動-動作停止事象中に、水素-酸素ガスフロントが、正常動作中に電池のアノード側であるものを通して移動することができるとき、カソードが正常動作中に酸化電位を受ける、「逆電流機構」が続いて起こり得る。通常はカソードであるものの上の高電極電位のこの期間中、カソード上の炭素が、腐食し得る一方で、プロトンは、正常な燃料電池動作電流の流れとは反対に、アノードに向かって往復させられる。水素燃料がアノードにわたって連続状態に達すると、電流及びイオン束は、正常な機構に戻り、カソードは、正常に動作する(すなわち、酸素を電気化学的に還元する)。
【0006】
水素燃料欠乏事象中に、通常は電池のカソード側であるものの上に依然として酸素が存在するが、通常は電池のアノード側であるものへの水素供給が不十分であるとき、アノード電位は、炭素をかなりの速度で腐食させるために十分な電位が達成されるまで増加し得る。
【0007】
高度黒鉛化炭素の使用などの炭素担体の耐久性を延長するためのいくつかの材料及び工学軽減方略が調査又は実装されているが、それらのより低い白金利用率が、広範な使用を妨げている。他の調査された方略は、カソード出口サイズの最適化を通した電圧制限及びスタックシャントを含む。
【0008】
上記のうちのいずれも、特に動作の始動及び動作停止期間中に炭素腐食を軽減するために十分な解決策であるとは証明されていない。
【0009】
触媒分解に加えて、膜分解は、燃料電池がエネルギー省(DOE)によって設定された最終目標に達することを制限する別の重要な要因である。
【0010】
PEMFCに課される寿命要件及び高い需要は、重要なPEMFC成分であるポリマー電解質膜(polymer electrolyte membrane、PEM)の早期故障につながる。経時的に、PEMFCの正常動作中に産生されるフリーラジカル種及び過酸化物は、PEMと化学的に反応し、機械的完全性及びプロトン伝導性を減少させることによってシステム性能を損なう。
【0011】
この問題に対処するための現在の方略は、ペルフルオロスルホン酸(perfluorosulfonic acid、PFSA)ポリマーの末端基フッ素化及び懸濁金属酸化防止剤(Ce又はMn)の使用のある組み合わせを利用する。残念ながら、結合していない金属酸化防止剤は、プロトン伝導性の望ましくない減少、及び燃料電池の他の層内への浸出を引き起こし、膜を化学分解及び触媒の被毒にさらす。これらの同じ問題は、アニオン交換膜において起こり得る。代替的方略は、酸化防止剤をイオン交換膜として使用されるポリマーに共有結合することによって酸化防止剤を固定化しようとするものであるが、このアプローチは、化学変換を必要とし、しばしば、追加の連結基を伴う。更に、イオン交換膜が成型されるポリマーを変更することによって、そのようなアプローチは、結果として生じる膜の機械的特性及び電気的特性を変化させる。最後に、いくつかの酸化防止剤をPEMFCに組み込むことは、当該PEMFCによって産生されるプロトン伝導性及び電圧に害を及ぼし得るが、現在のアプローチは、望ましい特性及び望ましくない特性を有する酸化防止剤が区別され得る基準を識別することができない。
【0012】
したがって、燃料電池電極中の炭素担体の耐久性を延長し、かつ化学分解に対するPEMの寿命を延ばすための新しい方略の必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示される技術は、膜電極集合体組成物の少なくとも1つの層内に酸化還元活性分子を採用することによって、電極中の炭素担体の分解及び膜の化学分解の問題を解決する。
【0014】
したがって、本技術は、一態様では、炭素質化合物及び可逆有機抑制剤を含む組成物を提供する。本組成物は、燃料電池炭素担体層、微孔質層、又は触媒層の組成物であり得る。
【0015】
触媒層として、組成物は、触媒、並びにアイオノマー及び任意選択的な非イオン伝導性材料を更に含むことができる。
【0016】
一実施形態では、可逆抑制剤は、炭素質化合物上又は膜層中に固定化される。
【0017】
本発明の別の態様では、本技術は、アイオノマー及び可逆有機抑制剤を含む組成物を包含する。一実施形態では、可逆有機抑制剤は、アイオノマー上に固定化することができる。
【0018】
アイオノマー組成物は、炭素質化合物、触媒、及び任意選択的な非イオン伝導性材料と混合されて、燃料電池のための触媒層を調製し得る。
【0019】
組成物のうちいずれかはまた、組成物が定位置に被覆されることを可能にするために、溶媒中に希釈された「インク」として送達することもできる。
【0020】
また、(i)電解質膜触媒層、及び(ii)可逆有機抑制剤を含む触媒層を含む、触媒被覆膜(catalyst coated membrane、「CCM」)も、本技術によって包含される。
【0021】
本技術の別の態様は、(iii)微孔質層、及び(iv)炭素基質を有する、燃料電池のためのガス拡散層(gas diffusion layer、「GDL」)であり、層のいずれか一方又は両方は、可逆有機抑制剤を含む。
【0022】
本技術の更なる態様は、(ii)触媒層、(iii)微孔質層、及び(iv)炭素基質を有する、燃料電池のためのガス拡散電極(gas diffusion electrode、「GDE」)を含み、層のうちの少なくとも1つは、可逆有機抑制剤を有する。
【0023】
本技術のなおも更なる態様は、(i)電解質膜、(ii)触媒層、(iii)微孔質層を含むがこれに限定されない、触媒層と電気的に接触する任意の他の層、及び(iv)炭素基質中に可逆抑制剤を有する燃料電池であり、少なくとも1つの層は、可逆有機抑制剤を含む。
【0024】
本技術はまた、燃料電池の少なくとも1つの層に可逆有機抑制剤を含み、燃料電池を動作させることによって、燃料電池の触媒層中の炭素質化合物に対する腐食を防止する方法も包含する。
【0025】
本技術はまた、燃料電池の少なくとも1つの層に可逆有機抑制剤を含み、燃料電池を動作させることによって、過酸化水素又はラジカル種などの酸化剤の化学的攻撃による燃料電池の膜の分解を防止する方法を包含する。
【0026】
上記に記載される電気化学的炭素腐食及び膜化学酸化事象の両方は、以降では「酸化分解事象」と称される。
【0027】
開示される技術は、膜電極集合体の触媒層中の炭素担体の腐食を軽減するため、かつ膜電極集合体の層内に可逆有機抑制剤を含むことによって膜層の分解を軽減するための組成物及び方法を提供し、改良された燃料電池を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】燃料電池カソードにおける3,4-ジヒドロキシ安息香酸のCVである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
様々な好ましい特徴及び実施形態を、非限定的な例示により以下に説明する。
【0030】
特に明記しない限り、成分の全ての部レベルは、「phr」として略称される、100重量部の本開示の文脈によって決定される炭素質化合物、膜アイオノマー、又はそれらの組み合わせに基づく。
【0031】
燃料電池膜電極集合体(membrane electrode assembly、MEA)は、一般に、炭素基質層、微孔質層、及び触媒層を含むがこれらに限定されない、いくつかの層を含み、全ては膜層を取り囲む。本明細書で使用されるとき、「MEA」という用語は、触媒層によって取り囲まれ、順に微孔質層によって取り囲まれ、最後に炭素基質層によって取り囲まれたイオン伝導性ポリマー膜層を含む、集合体を意味する。
【0032】
「微孔質層」はまた、本明細書では「microporous layer、MPL」とも称され得、炭素基質上に直接被覆された炭素及びポリマー(一般にPTFE)を含有する多孔質層である。
【0033】
「炭素基質」は、MEAを担持することに役立つ層である。
【0034】
炭素基質及びMPLの組み合わせは、本明細書では「ガス拡散層」又は「GDL」と称される。
【0035】
触媒層は、炭素基質、若しくはMPLが採用されるGDL上、又は膜層上のいずれかに被覆することができる。触媒層が炭素基質又はGDL上に被覆されるとき、それは、本明細書では「ガス拡散電極」又は「GDE」と称される。触媒層が膜上に被覆されるとき、それは、本明細書では「触媒被覆膜」又は「CCM」と称される。
【0036】
膜層は、しばしば、本質的にポリマーであり、イオンの輸送並びにアノード及びカソードの分離を含む複数の機能を果たす、固体イオン伝導性媒体からなる。
【0037】
前述の命名法の全ては、当技術分野及び文献に共通であり、当業者に周知されるであろう。
【0038】
炭素基質層、微孔質層、及び触媒層の各々は、単に炭素質化合物とも称される、導電性炭素質化合物を含有する。層の各々がともに挟持され、接触しているため、炭素質化合物は、膜のそれぞれの側のGDEの全ての層の全体を通して電気を伝導することができる。
【0039】
炭素質化合物は、例えば、「アセチレンブラック」若しくは「ファーネスブラック」などの導電性カーボンブラック、又は任意の商用グレードの伝導性カーボンブラックを含むことができ、アセチレンブラックは、伝導性ブレンドを産生することに優れている。
【0040】
黒鉛もまた、周知の炭素質化合物であり、黒鉛が導電性である限り、天然又は合成、結晶又は非晶質を含む、その様々な形態のうちのいずれかにおいて本技術で採用され得る。
【0041】
炭素質化合物はまた、導電性炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブを含むこともできる。
【0042】
炭素質化合物の種類は、担体材料が含有される層、例えば、炭素質化合物が炭素基質の一部であるか、又は触媒のホストであるかどうかに応じて変化するであろう。
【0043】
炭素基質は、例えば、Torayカーボン紙、Freudenbergカーボン紙、及びSigracet製のSGLカーボン紙を含むことができる、織成炭素繊維、炭素繊維マット、又は炭素フェルトの形態である炭素質化合物を含むことができる。以下で更に議論されるように、炭素基質を、必須成分として可逆有機抑制剤を用いて調製することができるか、又は炭素基質を商業的に購入することができ、可逆有機抑制剤をその上に被覆することができる。
【0044】
微孔質層は、炭素基質とは対照的に、大表面積である炭素質化合物及び/又は黒鉛炭素を含むことができる。MPLはまた、非炭素質材料も含有し、これは、2~200phrの個々の成分範囲を有するPTFE又は他の添加剤を含むことができる。以下で更に議論されるように、微孔質層を、必須成分として可逆有機抑制剤を用いて調製することができるか、又は微孔質層を商業的に購入することができ、可逆有機抑制剤をその上に被覆することができる。
【0045】
触媒層は、例えば、同様に大表面積炭素である炭素質化合物を含むことができ、これは、例えば、Vulcanカーボンブラック又はKetjenブラックなどのカーボンブラック材料を含むことができる。ここで再度、以下で更に議論されるように、触媒層を、必須成分として可逆有機抑制剤を用いて調製することができるか、又は触媒層を商業的に購入することができ、可逆有機抑制剤をその上に被覆することができる。
【0046】
可逆酸化還元抑制剤は、膜成型前のアイオノマー分散液への添加又は事前製造された膜内への吸収を含むがこれらに限定されない、任意の手段によって膜層に組み込まれ得る。添加剤は、イオン相互作用又は共有結合性相互作用をもたらす合成修飾を介して膜アイオノマーに非共有結合又は化学的に結合され得る。
【0047】
本技術は、炭素質化合物又はMEA層のうちのいずれかに、酸化して燃料電池酸化分解事象を防止する犠牲材料として作用する可逆有機抑制剤を導入することによって、改良された炭素担持電極又はポリマー電解質膜を可能にする組成物を提供する。可逆有機抑制剤の酸化は、電場又は酸化剤との化学反応によって駆動され得る。
【0048】
可逆有機抑制剤は、その可逆的な電気化学的酸化還元電位に基づいて炭素腐食を軽減することができる化合物である。抑制剤の可逆的な電気化学的酸化還元電位は、炭素酸化が著しく有害になる電位(すなわち、RHEと対比して1.2V)を下回るが、正常動作条件下での燃料電池電極の実用的動作電位(例えば、RHEと対比して-0.2~1.0V)を上回る電位で、抑制剤が酸化されることを可能にする。可逆有機抑制剤がカソード触媒層中の炭素質化合物と電気的に接触し、局所的な界面電位が可逆有機抑制剤の酸化電位に一致するか、又はそれを超える値に達するとき(一般に、燃料電池の始動/動作停止又は燃料欠乏事象中に)、可逆有機抑制剤は、炭素質化合物に優先して酸化され、それによって、触媒層の完全性を保つ。
【0049】
可逆有機抑制剤は、化学酸化剤による膜材料の有害な酸化、例えば、動作中、特に低過電圧(すなわち、開回路付近)での動作中に形成され得る過酸化物ラジカルによる酸化的攻撃を軽減することができる化合物である。化学酸化剤が形成されるとき、可逆有機抑制剤を、膜材料の代わりに化学的に酸化することができる。
【0050】
換言すれば、酸化事象中に、可逆有機抑制剤は、炭素質化合物又は膜材料の有害な酸化の代わりに、酸化還元活性種に酸化される。
【0051】
可逆有機抑制剤は、水性環境にある間に、RHEと対比して0.5~1.4Vの範囲内の酸化還元電位を有することができる。可逆有機抑制剤の例は、水性環境において、RHEと対比して0.6~1.3V、又は更にRHEと対比して0.7若しくは0.8~1.2Vの範囲内の酸化還元電位を有する化合物である。
【0052】
可逆有機抑制剤はまた、活性触媒を被毒させてはならない、すなわち、酸素還元に向けた触媒の活性を有害な効果まで低減してはならない。
【0053】
可逆有機抑制剤の酸化(化学的又は電気化学的)はまた、分子の酸化が、燃料電池酸化事象(炭素腐食又は膜)の前にかなりの速度で起こり(すなわち、過電圧によって制限されず)、元の状態へのその後続の還元が、更なる後続の酸化が必要とされる前に起こるように、容易な動態を有していなければならない。正常動作に戻り、正常電流及び電極電位に戻ると、次いで、酸化還元活性種は、酸化事象前のその状態に戻って還元され、後続の酸化事象中に再び酸化されるように保護可逆有機抑制剤を再生する。
【0054】
加えて、可逆有機抑制剤は、電気化学的に還元され、可逆酸化還元抑制剤の保護状態を再生するために、導電性炭素材料と接触しなければならない。明確にするために、可逆抑制剤は、炭素含有層、すなわち、炭素基質層、微孔質層、及び/又は触媒層若しくは膜のうちのいずれかに、炭素質化合物とともに含むことができる。更に、各層は、1つの可逆有機抑制剤、又は2つ以上の可逆有機抑制剤の混合物を含有することができる。
【0055】
前述の基準を満たす、現在知られている可逆有機抑制剤の例としては、多くのヒドロキノン/キノン、例えば、1,4-ヒドロキノンスルホン酸カリウム、2,5-ジヒドロキシ安息香酸メチル、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジメトキシベンゾニトリル、3,6-ジヒドロキシフタロニトリル、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノンが挙げられる。
【0056】
当業者は、本明細書に記載される技術に従って、前述の基準に基づいて可逆有機抑制剤を構成する化合物について容易に試験することができるであろう。全てのそのような可逆有機抑制剤が、本開示の下で企図される。
【0057】
酸化還元電位を評価する1つの方法は、最初に、炭素又は白金炭素、ペルフルオロスルホン酸アイオノマーなどのプロトン伝導性アイオノマー、可逆酸化還元抑制剤、並びに水及びイソプロパノールなどの担体溶媒の混合物を含有するインクを調製することである。このインクは、高せん断混合、超音波処理、又はボールミル粉砕などの技術を使用して均質化される。次いで、結果として生じたインクは、炭素電極上に堆積され、担体溶媒は、蒸発させられる。これらのインク及び後に形成される電極の製法及び形成は、一般的に公知である技術で詳細に記載されている。次いで、結果として生じる電極は、3電極セルで使用され、酸化還元プロファイルを取得するためにサイクリックボルタンメトリーなどの従来の電気化学的技術を介して酸性水性電解質中で様々な電位窓を通して循環させられ得る。サイクリックボルタモグラムはまた、電気化学的インピーダンス分光法などの他の電気化学的技術とともに、酸化還元事象が起こる運動速度を推測するために使用され得る。これらのサイクリックボルタンメトリー実験から、各分子の酸化還元活性は、100mV/sで観察され、Ag/AgClと対比して-0.28~1.0Vで実行された。分子のEoとして記載される、複合還元及び酸化反応の測定された電位は、第3のサイクル中に100mV/sの走査速度で行われたサイクリックボルタンメトリー中に観察されたピーク酸化及びピーク還元電流の平均として計算される。
【0058】
一実施形態では、本技術は、炭素質化合物及び可逆有機抑制剤を含有する組成物を提供する。炭素質化合物及び可逆有機抑制剤は、単にともに混合され、物理的に接触し得るか、又は可逆有機抑制剤は、炭素質化合物上に固定化され得る。固定化は、例えば、有機組成物を炭素組成物に共有結合するための当技術分野で公知の方法による、炭素質化合物への可逆有機抑制剤の共有結合によるものであり得る。そのような共有結合技術には、例えば、アリールジアゾニウム塩又はアリールヨードニウム塩の分解から形成されるアリールラジカルのグラフトを介した炭素官能化が含まれる。別の選択肢は、酸化プロセスを介した酸素、窒素、硫黄、又は他の原子の組み込みを介した炭素質材料の事前官能化、及び酸化炭素質材料及び可逆抑制剤の更なる共有結合形成反応である。
【0059】
可逆有機抑制剤の量は、特定の層に存在するとき、手近な特定の層の総炭素含有量に基づいて1phr~50phr、又は手近な特定の層の総炭素含有量に基づいて2phr~40phr、又は手近な特定の層の総炭素含有量に基づいて3phr~37phr、又は手近な特定の層の総炭素含有量に基づいて4phr~35phr、又は手近な特定の層の総炭素含有量に基づいて5phr~34phrの範囲であり得る。
【0060】
MEA層の各々は、層を形成するために何らかの様式で堆積される必要がある。層が被覆を可能にする一貫性であることを可能にするために、溶媒が、「インク」を取得するために炭素質化合物及び可逆有機抑制剤の混合物に添加される。最も単純な実施形態では、層を「インク」として堆積させることができ、これは、採用される被覆技術に依存する最終堆積層に対する流動性前駆体を意味するために本明細書で使用される。インクは、電極の全ての成分を含有することができる。例えば、インクは、炭素質化合物、アイオノマー、追加の種類の結合剤(例えば、ポリマー材料、可逆有機抑制剤、及び溶媒を含有することができる。このインクが堆積され、溶媒が蒸発させられて、炭素質化合物、アイオノマー、及び有機抑制剤の選択された層を残す。
【0061】
例えば、上記で議論されるように、微孔質層は、炭素基質層上に被覆され得る。MPLインクが炭素基質上に被覆され、溶媒が蒸発させられて、MPL炭素質化合物及び抑制剤を残す。
【0062】
MPLと同様に、触媒層をインクとして塗布することができる。ここで再度、インクを適切な基質(例えば、GDL又は膜のいずれか)上に被覆し、溶媒を蒸発させて、触媒層を残すことができる。
【0063】
「インク」で使用するために好適な溶媒は、例えば、1-プロパノール、2-プロパノール、水、又は触媒材料の分散のために好適な他の溶媒の任意の組み合せを含むことができ、これはまた、選択された被覆方法にも適しており、当業者にとって容易に識別できるであろう。
【0064】
各層はまた、他の添加剤を含むこともできる。例えば、MPLは、既に参照されたように、PTFEなどの結合剤を含むことができる。
【0065】
触媒層はまた、燃料電池の電気化学的反応が促進される、金属又は非金属触媒を含むこともできる。金属触媒は、貴金属若しくは遷移金属、又はそれらのうちのいずれかの合金であり得る。そのような金属の例としては、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、銀、銅、レニウム、水銀、鉄、コバルト、及びニッケルが挙げられる。一実施形態では、金属触媒は、白金又は白金合金である。
【0066】
触媒層はまた、アイオノマーポリマー結合剤を含むこともできる。アイオノマーは、プロトン(すなわち、H+)を燃料電池内の反応部位へ、及び反応部位から輸送することができ、電極成分を分散させることに役立つことができる、ポリマーである。「反応部位」とは、電子(例えば、導電性炭素を介して)、プロトン(例えば、イオン伝導性ポリマーを介して)、及び反応ガスを全て、活性触媒へ、及び活性触媒から輸送することができる、電極層中の部位を意味する。任意のプロトン伝導性ポリマーを、アイオノマーとして採用することができる。アイオノマーとして一般的に採用され、本発明において好適なプロトン伝導性ポリマーの例は、スルホン酸ポリマーである。スルホン酸ポリマーは、文献において広く議論されており、ここでは特に限定されない。スルホン酸ポリマーの例としては、任意のスルホネートイオン交換ポリマー、すなわちスルホン酸部分を含有するポリマーが挙げられる。スルホン酸ポリマーは、限定されないが、例として、ペルフルオロスルホン酸ポリマー、スルホン化ポリ(ベンズイミダゾール)ポリマー、スルホン化ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)ポリマー、スルホン化ポリ塩化ビニル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(2-acrylamido-2-methylpropane sulfonic acid、AMPS)、及びポリ(スチレンスルホネート)(ブロックコ)ポリマーを含むことができるが、スルホン酸は、現在知られている又は将来開発される任意の他のスルホン酸ポリマーであり得る。アイオノマーの他の例としては、スルホン化ポリベンズイミダゾールポリマー、カルボン酸ポリマー、ホスホン酸ポリマー、リン酸でドープされたポリマー、及び同等物を挙げることができる。アイオノマーポリマー結合剤は、限定されず、現在知られている又は将来開発される任意のプロトン伝導性ポリマーであり得る。
【0067】
触媒層はまた、触媒層の完全性を維持することに役立つための非イオン伝導性材料を含むこともできる。非イオン伝導性材料の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、官能化ポリエチレンオキシド、官能化ポリプロピレンオキシドなどのポリマー、熱可塑性ポリウレタンを挙げることができる。ここで再度、非イオン伝導性材料は、限定されず、触媒層の完全性を維持することに役立つための現在知られている又は将来開発される任意の材料であり得る。
【0068】
特に触媒に関して、最初に炭素質化合物及び可逆有機抑制剤を調製することの代替実施形態が存在する。代替実施形態では、可逆有機抑制剤は、アイオノマー上に官能化し、続いて、官能化アイオノマーを炭素質化合物、触媒、及び任意選択的に非イオン伝導性材料と混合することによって、固定化することができる。混合物全体が、同様にインクを調製するために溶媒と混合され得る。
【0069】
一実施形態では、本技術は、アイオノマー添加剤組成物を提供する。アイオノマー添加剤組成物は、アイオノマー、任意選択的な非イオン伝導性材料、可逆有機抑制剤、及び溶媒を含むことができる。
【0070】
アイオノマー添加剤組成物は、触媒インクを調製するために炭素質化合物上触媒堆積組成物と混合され得る。炭素質化合物上触媒堆積組成物に関して、しばしば、還元剤が、炭素質化合物上に触媒の酸性溶液を還元するために採用される。しかしながら、触媒を炭素質化合物上に堆積させることができることは、当技術分野では周知であり、そのような堆積プロセスは、本技術の範囲内ではなく、炭素質化合物上に触媒を堆積させるための任意の方法が本明細書に含まれ得ると言えば十分である。
【0071】
アイオノマー添加剤組成物及び炭素質化合物上触媒堆積組成物は、ともに混合して、触媒インクを形成することができる。混合の例は、物理的撹拌、高せん断混合、超音波処理、又は任意の他の種類の混合の任意の組み合わせであり得る。次いで、調製される触媒インクは、(a)炭素質化合物、(b)金属又は非金属触媒、(c)可逆有機抑制剤、(d)アイオノマー、(e)任意選択的な非イオン伝導性材料を、全て(f)溶媒に含有する。前述の成分の濃度は、上記に記載されるように、最終電極において所望される濃度に依存する。一般に、触媒は、約5~約150phr、又は約20~約130phr、又は約40~約110phr、又は更に約60~約90phrで存在し得る。
【0072】
インク組成物は、40~99.9%の溶媒及び0.1~60%の固体からなり得、固体は、炭素質化合物上の触媒、アイオノマー、及び可逆酸化還元抑制剤の混合物からなる。インク中の炭素質材料は、触媒含有インク又はMPLインクのいずれかにおいて全固体の25~70重量%の範囲であり得る。触媒インク中のイオン伝導性ポリマーは、全固体の20~60重量%の範囲であり得る。触媒インク中のORRを実施するための触媒は、全固体の1~40重量%の範囲であり得る。MPLインク中の非イオン伝導性結合剤は、全固体の20~70重量%の範囲であり得る。ポリマー添加剤は、MPL中の非イオン伝導性材料又は触媒インク中のイオン伝導性材料に加えて、MPL又は触媒インクのいずれかにおいて全固体の0~25重量%の範囲であり得る。最後に、可逆有機炭素腐食抑制剤は、MPL又は触媒インクのいずれかにおいて全固体の1~25重量%の範囲で存在することができる。
【0073】
炭素担持電極は、例えば、スプレー被覆、デカール被覆、スクリーン印刷、インクジェット印刷などの既知の被覆若しくは印刷技術、又はロールツーロール転写、ドクターブレード、コランダーローリング、若しくは任意の他の既知の方法などの他の方法などの既知の方法によって、触媒インクから調製することができる。
【0074】
また、触媒被覆膜(又はCCM)を形成するために2つの触媒層の間に間置又は挟持された電解質膜を含む、燃料電池も本技術に包含され、2つの触媒層は、燃料電池の動作中にアノード及びカソードとして作用する。燃料電池は、2つのガス拡散(又はGDL)層の間に間置された、又は再度挟持されたCCMを更に含むことができ、GDL層は各々、炭素基質上に被覆された微孔質層を含む。
【0075】
本技術はまた、燃料電池の炭素含有層のうちの少なくとも1つの層に可逆有機抑制剤を含み、燃料電池を動作させることによって、燃料電池内の炭素担持触媒層における炭素の腐食を防止する方法も可能にする。
【0076】
開示される技術は、膜電極集合体組成物の少なくとも1つの層内に酸化還元活性分子を採用することによって、電極中の炭素担体の分解の問題を解決する。
【0077】
記載される各化学成分の量は、別段の指示がない限り、市販の物質中に慣習的に存在し得るあらゆる溶媒又は希釈油を除いて、すなわち、活性化学物質基準で表される。しかしながら、別段の指示がない限り、本明細書で言及される各化学物質又は組成物は、異性体、副生成物、誘導体、及び商用グレードで存在すると通常理解される他のそのような物質を含有し得る商用グレードの物質であると解釈されるべきである。
【0078】
上記に記載される材料のうちのいくつかは、最終配合物中で相互作用し得るため、最終配合物の成分は、最初に添加されたものとは異なり得ることが知られている。例えば、金属イオンは他の分子の他の酸性又はアニオン性部位に移動する可能性がある。それによって形成される生成物は、その意図された用途において本発明の組成物を採用する際に形成される生成物を含めて、容易に説明することができない場合がある。それにもかかわらず、全てのそのような修飾及び反応生成物は、本発明の範囲内に含まれる。本発明は、上記に記載される成分を混合することによって調製される組成物を包含する。
【実施例】
【0079】
上記に記載されるように、電極インクに分子を含むことによって、候補分子の酸化還元電位及び活性を測定し、次いで、このインクを、公開された文献に見出されるものと同様の3電極セル構成における回転円盤電極上で試験した。酸化還元活性を具体的に精査するためにこれらの試験に利用されたインクは、7.6mgのXC-72炭素、40μLのNafion D2020溶液、2.6mLのイソプロパノール、及び7.4mLの脱イオン水からなり、1.5mgの分子を試験した。これらのインクを、氷浴中で16分間超音波処理することによって分散させた。超音波処理後、10μLの結果として生じるインクを、Pine Research製の0.196cm2ガラス状炭素電極の先端上に堆積させた。ガラス状炭素電極を、0.05μmアルミナ研磨媒体で研磨し、インク堆積の前に窒素下で乾燥させた。インクをガラス状炭素電極の表面上に堆積させた後、電極を700RPMで回転させることによって、インクを乾燥させた。インクが乾燥すると、電極を、脱イオン水中の0.1モル過塩素酸を充填したガラスセル中に沈めた。乾燥したインクを含むガラス炭素電極を1600RPMで回転させながら、窒素ガスを溶液に30分間吹き込んだ。その後、窒素ガス供給を、セル内のヘッドスペースに窒素を供給するように変更した。この3電極セル構成では、対電極は、Pine Researchによって供給される白金ワイヤコイルであり、参照電極は、BASiによって提供される3モル塩化ナトリウム中で平衡化されたAg/AgCl電極である。参照電極を、主溶液体積中にフリットを有するフリット付きリザーバに入れ、リザーバを0.1M過塩素酸で充填した。活性窒素ブランケット及び1600PRMで回転するガラス状炭素電極を用いて、後続の電気化学的試験を実施した。
【0080】
多重サイクリックボルタンメトリー試験を、Ag/AgCl電極と対比して-0.28~+1.0ボルトの電位範囲にわたってインクの各々に行った。各サイクリックボルタンメトリー試験を、60~90kHzで測定された実際のインピーダンスの90%にIR補正した。これらのサイクリックボルタンメトリー実験から、各分子の酸化還元活性が100mV/sで観察された。以下の表は、第3のサイクル中に100mV/sの走査速度で行われたサイクリックボルタンメトリー中に観察されたピーク電流の平均として計算された、分子のEoとして記載される複合還元及び酸化反応の測定された電位を示す。以下の表で報告されるEo値は、これらの実験からの観察された目的の酸化還元対のものである。Eo値のうちの1つのみが以下の表で報告されているが、例えば、酸化還元対が比較的小さいピーク電流を有する(より低い活性を示す)か、又はこれらの用途のための目的の窓の外側にあった場合、各分子について本明細書で報告されていない他の酸化還元対が存在し得る。表で報告される電位は、可逆水素電極電位と対比している。これらの目的のために、Ag/AgCl参照電極は、RHE電極の+0.28V正であると仮定される。
【0081】
【0082】
可逆有機抑制剤を触媒層に添加した実施形態について、触媒インクを、Pt/C燃料電池触媒、アイオノマー、イソプロパノール、及び水から調製した。更に、カソードインクの場合には、可逆有機抑制剤である。次いで、インクをガス拡散基質上に被覆して、ガス拡散電極を調製した。次いで、高温プレスプロセスを用いて、市販のアイオノマー膜をアノードガス拡散電極とカソードガス拡散電極との間に挟持した。Pt/Cの代わりに炭素のみが使用されたとき、可逆有機抑制剤の酸化還元プロファイルを、燃料電池CVにおいて明確に見ることができた。
図1は、上記の実施例で行われたRDEベンチ試験を使用して測定された酸化還元電位と一致する、燃料電池集合体からの3,4-ジヒドロキシ安息香酸の観察された可逆酸化還元電位を示す。燃料電池集合体からの3,4-ジヒドロキシ安息香酸の酸化還元電位もまた、以下の表1に表される。このデータは、可逆有機抑制剤が、動作中の燃料電池においてOCV又はその付近で酸化還元を有し、燃料電池において酸化状態を循環させることができることを確認し、再生機構が可能であることを示唆する。燃料電池における酸化還元活性の更なる含意は、カソードの動作電位を変化させる能力であり、可逆酸化還元抑制剤の酸化還元電位が酸素還元のためのOCV付近ではない場合、潜在的な負の結果を伴う。
【0083】
【0084】
可逆有機抑制剤を膜層中で燃料電池に添加した実施形態について、アイオノマーをイソプロパノール及び水の溶液に分散させ、所望の可逆有機抑制剤をこの溶液に添加した。次いで、溶液を平面上で成型した。溶媒を蒸発させて、15~20ミクロンの厚さを有するフィルムを残した。多くの実施形態では、5~10ミクロンのePTFE層を使用して膜を支持した。
【0085】
膜電極集合体を、成型された膜から製造した。50平方センチメートルの膜(「活性領域」)が露出される一方で、膜の外側縁が保護ガスケットによって覆われるように、各膜を、各々1ミルである2つの保護ガスケットの間に配置した。膜の片側では、活性領域をアノードと接触させて配置した一方で、膜の反対側では、活性領域をカソードと接触させて配置した。各電極は、膜のその側面上の活性領域の全体に接触することに加えて、保護ガスケットの一部も覆い、1.85mm重複した。保護ガスケットの残りの部分を、通常のガスケットによって覆った。順に、各電極を、通常のガスケットによってその外側縁上で境界されたガス拡散層によって覆った。白金炭素触媒が、両方の電極上に、1立方センチメートル当たり0.1~0.3mgの白金の荷重を伴って存在した。
【0086】
各膜から作製された膜電極集合体は、電流の非存在下、並びに過酸化水素及びそのラジカル分解生成物の顕著な濃度の存在下での集合体の最大動作電圧を測定するために、開回路電圧(open circuit voltage、OCV)加速応力試験を受けた。25℃で、初期試験を実施して、水素クロスオーバー、OCV、及びサイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry、CV)の読み取りが正常であることを確認した。次に、寿命初期(beginning-of-life、BOL)特性評価を実施し、高周波抵抗(high frequency resistance、HFR)/電気化学的インピーダンス分光法(electrochemical impedance spectroscopy、EIS)を用いて、95%相対湿度(relative humidity、RH)、150kPa、及び80℃で、水素クロスオーバー、CV、及びVIを測定した。次いで、水素クロスオーバー、0.2A/cm2でのEIS、及びOCVの試験初期(beginning-of-test、BOT)測定を実施した。OCV条件は、30%RH、90℃、150kPa、及び700/1750sccm H2/空気であった。BOT特性評価後、化学分解試験を実施した。OCVをBOTと同じ条件で測定し、0.2A/cm2でのEISを24時間毎に実施した。化学分解試験は、OCVの突然の低下を特徴とするピンホール形成などの故障事象が起こるまで、又はOCV読み取りが0.8Vを下回るまで継続した。この試験は、OCVがエネルギー省によって定義されたベンチマークである少なくとも500時間維持された場合に成功したとみなされた。次に、試験終了時(end-of-test、EOT)特性評価を実施した。この試験は、BOT特性評価と同じ条件で、OCV、EIS、及び水素クロスオーバーを含んだ。最後に、サイクル及びコンディショニング後の分極曲線を取得した。水素クロスオーバー、CV、及びVIを、BOL試験と同じ様式で測定した。表3で報告されるデータは、最初に厚さ15~20μmの膜に対応する。膜の全ては、厚さ5μmのePTFE担体を有する。
【0087】
OCV試験の結果は、0.9Vを超える酸化還元電位を有するものである、酸化還元再生添加剤を含む膜電極集合体のみが、それらの電圧を少なくとも500時間維持することを示す。
【0088】
【0089】
流出水の収集を実施して、燃料電池によって排出された廃水の内容を分析した。アイオノマーへの可逆有機抑制剤3,4-ジヒドロキシ安息香酸の添加は、流出水中に存在するペルフルオロ化アイオノマーの分解生成物であるフッ化物イオンの濃度を減少させた。
【0090】
【0091】
【0092】
実施例を除いて、又は他に明示的に示される場合を除いて、材料の量、反応条件、分子量、炭素原子の数、及び同等物を特定する本説明における全ての数量は、「約」という語によって修飾されるものとして理解されるべきである。本明細書に記載される量、範囲、及び比の上限及び下限は、独立して組み合わされ得ることが理解されるべきである。同様に、本発明の各要素についての範囲及び量は、他の要素のうちのいずれかについての範囲又は量と一緒に使用することができる。
【0093】
本明細書で使用される場合、「含む(including)」、「含有する」、又は「を特徴とする」と同義である「含む(comprising)」という移行用語は、包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されていない要素又は方法ステップを除外しない。しかしながら、本明細書における「含む」の各記載において、この用語がまた、代替実施形態として、「から本質的になる」及び「からなる」という句を包含することも意図され、「からなる」は、特定されていない任意の要素又はステップを排除し、「から本質的になる」は、考慮中の組成物又は方法の本質的又は基本的かつ新規特徴に実質的に影響を及ぼさない追加の記載されていない要素又はステップの包含を許容する。
【0094】
(a)(i)炭素質化合物、(a)(ii)アイオノマー、又は(a)(iii)(a)(i)及び(a)(ii)の混合物と、(b)可逆有機抑制剤と、を含む、組成物。
【0095】
(a)アイオノマーと、(b)可逆有機抑制剤と、を含む、組成物。
【0096】
(a)炭素質化合物と、(b)可逆有機抑制剤と、を含む、組成物。
【0097】
(a)炭素質化合物と、(b)可逆有機抑制剤と、溶媒と、を含む、組成物。
【0098】
(a)炭素質化合物と、(b)可逆有機抑制剤と、多孔質結合剤と、を含む、組成物。
【0099】
(a)炭素質化合物と、(b)可逆有機抑制剤と、多孔質結合剤と、溶媒と、を含む、組成物。
【0100】
(a)炭素質化合物と、(b)可逆有機抑制剤と、(c)触媒と、(d)アイオノマーと、を含む、組成物。
【0101】
(a)炭素質化合物と、(b)可逆有機抑制剤と、(c)触媒と、(d)アイオノマーと、溶媒と、を含む、組成物。
【0102】
(a)炭素質化合物と、(b)可逆有機抑制剤と、(c)触媒と、(d)アイオノマーと、(e)非イオン伝導性材料と、を含む、組成物。
【0103】
(a)炭素質化合物と、(b)可逆有機抑制剤と、(c)触媒と、(d)アイオノマーと、(e)非イオン伝導性材料と、溶媒と、を含む、組成物。
【0104】
アイオノマーと、可逆有機抑制剤と、を含む、組成物。
【0105】
アイオノマーと、可逆有機抑制剤と、溶媒と、を含む、組成物。
【0106】
可逆有機抑制剤が、アイオノマー上に固定化されている、前文に記載の組成物。
【0107】
可逆有機抑制剤が、炭素質化合物上に固定化されている、任意の前文に記載の組成物。
【0108】
(i)電解質膜と、(ii)触媒層と、を含む、触媒被覆膜(「CCM」)であって、触媒層が、炭素質化合物と、可逆有機抑制剤と、を含む、CCM。
【0109】
(iii)炭素質化合物及び多孔質結合剤を含む微孔質層と、(iv)炭素基質と、を含む、ガス拡散層(「GDL」)であって、要素(iii)及び(iv)のいずれか一方又は両方が、可逆有機抑制剤を含む、GDL。
【0110】
微孔質層が、可逆有機抑制剤を含む、前段落に記載のGDL。炭素基質が、可逆有機抑制剤を含む、前段落に記載のGDL。
【0111】
(ii)炭素質化合物を含む触媒層と、(iii)炭素質化合物及び多孔質結合剤を含む微孔質層と、(iv)炭素基質と、を含む、ガス拡散電極(「GDE」)であって、要素(ii)、(iii)、及び(iv)のうちの少なくとも1つが、可逆有機抑制剤を含む、GDE。
【0112】
触媒層が、可逆有機抑制剤を含む、前段落に記載のGDE。微孔質層が、可逆有機抑制剤を含む、前段落に記載のGDE。炭素基質が、可逆有機抑制剤を含む、前段落に記載のGDE。
【0113】
(i)電解質膜と、(ii)触媒層と、(iii)微孔質層と、(iv)炭素基質と、を含む、燃料電池であって、要素(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)のうちの少なくとも1つが、可逆有機抑制剤を含む、燃料電池。
【0114】
燃料電池の触媒層中の炭素質化合物に対する腐食を防止する方法であって、燃料電池の少なくとも1つの層に可逆有機抑制剤を含むことと、燃料電池を動作させることと、を含む、方法。
【0115】
本発明を例解する目的で、ある特定の代表的な実施形態及び詳細を示してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更及び修正を行うことができることが当業者には明らかであろう。これに関して、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】