(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】耐候性が良好な高強度鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241029BHJP
C22C 38/46 20060101ALI20241029BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20241029BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20241029BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20241029BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20241029BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/46
C22C38/50
C21D8/06 A
C21D9/00 C
B21B1/22 M
B22D11/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529744
(86)(22)【出願日】2022-08-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 CN2022115498
(87)【国際公開番号】W WO2023087833
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111382933.8
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ, スーシン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, チォンチュエン
【テーマコード(参考)】
4E002
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4E002AD07
4E002BD09
4E002CB01
4K032AA01
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4K042DC03
4K042DD02
4K042DD05
4K042DE02
4K042DE03
(57)【要約】
本開示は鋼を開示する。90質量%以上のFe及び不可避不純物に加えて、上記鋼はさらに質量パーセントで以下の化学元素:C:0.22~0.33%、Si:0.1~1.0%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.2~1.6%、Ni:2.2~3.8%、Mo:0.1~0.7%、Cu:0.02~0.3%、Al:0.01~0.045%、V:0.01~0.25%、及びN≦0.013%を含む。本開示はさらに、以下を含む上記鋼を製造する方法を開示する:(1)製錬及び鋳造;(2)鍛造又は圧延:1ヒート圧延プロセス又は2ヒート圧延プロセスにより鋳造ブランクを完成品サイズに加工することを含む;及び(3)焼き入れ及び焼き戻し:焼き入れの加熱温度は860~1000℃、保持時間は2~6時間であり、焼き入れ後に水冷を行う;焼き戻し温度は400~600℃、保持時間は1~4時間であり、焼き戻し後に室温まで空冷を行う。本開示の鋼は、強度が高く、靭性と塑性との釣り合いが良く、耐候性が良好であるため、応用の見込みが良好である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで以下の化学元素:
C:0.22~0.33%、Si:0.1~1.0%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.2~1.6%、Ni:2.2~3.8%、Mo:0.1~0.7%、Cu:0.02~0.3%、Al:0.01~0.045%、V:0.01~0.25%、及びN≦0.013%からなり、残部がFe及び不可避不純物であり、
上記鋼中のC、Mn、Ni、Cr、Mo、及びSiの質量パーセントでの含有量が、2.5≦(12×C+0.3×Mn+Ni)/(Cr+2Mo+2Si)≦3.2(式中、化学元素を示す記号は、その化学元素に対応する質量パーセントでの含有量のパーセント記号の前の数値を表す)を満たすことを特徴とする鋼。
【請求項2】
さらにNb及び/又はTiを含み、0<Nb≦0.04%及び0<Ti≦0.03%であることを特徴とする請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
上記不可避不純物の質量パーセントでの含有量が、P≦0.015%、S≦0.01%、及びO≦0.002%を満たすことを特徴とする請求項1に記載の鋼。
【請求項4】
耐候性指数Iが10.0以上であり、ここで、I=26.01×Cu+3.88×Ni+1.20×Cr+1.49×Si+17.28×P-7.29×Cu×Ni-9.10×Ni×P-33.39×Cu
2(式中、化学元素を示す記号は、その化学元素に対応する質量パーセントでの含有量のパーセント記号の前の数値を表す)であることを特徴とする請求項1に記載の鋼。
【請求項5】
ミクロ組織が、焼き戻しマルテンサイト+焼き戻しベイナイト+ラメラ間に拡散分布したラメラ間炭化物であることを特徴とする請求項1に記載の鋼。
【請求項6】
降伏強度R
p0.2が1100MPa以上、引張強度R
mが1250MPa以上、伸びAが14%以上、絞りが50%以上、室温でのシャルピー衝撃エネルギーA
kvが80J以上、-20℃でのシャルピー衝撃エネルギーA
kvが70J以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋼。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の鋼を製造する方法であって、
(1)溶鋼を製錬及び鋳造して鋳造ブランクを製造する工程;
(2)上記鋳造ブランクを鍛造又は圧延する工程であって、上記鋳造ブランクを1ヒート圧延プロセス又は2ヒート圧延プロセスにより鍛造又は圧延する、工程;及び
(3)焼き入れ及び焼き戻しを行って完成鋼を製造する工程であって、上記焼き入れプロセスでは、860~1000℃で2~6時間加熱を行い、水冷により冷却を行い;その後に上記焼き戻しを行い、上記焼き戻しプロセスでは、焼き戻し温度が400~600℃、保持時間が1~4時間であり;上記焼き戻し後に、空冷を行って上記鋼を室温に冷却する、工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
工程(1)において、製錬された溶鋼をダイカスト又は連続鋳造により上記鋳造ブランクに鋳造し、好ましくは、上記鋳造ブランクを24時間以上徐冷し;上記ダイカストを用いる場合、インゴット鋳型のベーキング温度が200℃以上であり;上記連続鋳造を用いる場合、タンディッシュのベーキング温度が1100℃以上、ベーキング時間が3.5時間以上であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(2)において、上記鋳造ブランクを上記1ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに直接加工し、上記鋳造ブランクの加熱温度が1150~1250℃、保持時間が3~12時間であり;初期圧延温度又は初期鍛造温度が1050℃以上、最終圧延温度又は最終鍛造温度が900℃以上であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
工程(2)において、上記鋳造ブランクを上記2ヒート圧延プロセスによりまず中間スラブに加工し、次いで上記中間スラブを完成品サイズに加工し、上記鋳造ブランクの加熱温度が1150~1250℃、保持時間が3~12時間、初期圧延温度又は初期鍛造温度が1050℃以上、最終圧延温度又は最終鍛造温度が950℃以上であり;上記中間スラブの加熱温度が1120~1200℃、保持時間が3~10時間、上記中間スラブの初期圧延温度が1050℃以上、上記中間スラブの最終圧延温度が860℃以上であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は鋼及びその製造方法に関し、特に高強度耐候性鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐候性鋼は、大気中での耐食性が良好な低合金高強度鋼の一種である。一般に、耐候性鋼の耐候性は通常の炭素鋼の倍以上である。耐候性鋼は、優れた性能を有し、広範な応用が見込まれ、大気曝露下で使用される様々な高強度構造部材の製造に一般的に用いられており、高強度構造部材の耐用年数を延長することができる。
【0003】
現在、国家標準“GB/T4171-2008”に準拠する耐候性鋼の中で、強度が最も高い耐候性鋼グレードはQ550NHであり、Q550NHは、化学組成がC≦0.16%;Si≦0.65%;Mn≦2.0%;P≦0.025%;S≦0.030%;Cu:0.20~0.55%;Cr:0.30~1.25%;Ni:0.12~0.65%であり、降伏強度が550MPa以上、引張強度が620~780MPa、破断後伸びが16%以上である。
【0004】
しかしながら、近年、中国の関連産業における省エネルギーや環境保護及び軽量化の要求に伴い、市場からは耐候性鋼の強度及び耐候性に対する新たな要望が出されている。既存の鋼製品は、現在の市場の要望を満たせなくなってきている。したがって、強度を高めた新たな耐候性鋼製品の開発が急務である。
【0005】
中国特許CN103266274B(2015年12月2日公開、名称は「超高強度冷間圧延耐候性鋼プレート及びその製造方法」)には、重量パーセントで以下の化学元素:C:0.05~0.16%;Mn:1.00~2.20%;Al:0.02~0.06%;Cu:0.20~0.40%;Cr:0.40~0.60%;Ti:0.015~0.035重量%;P≦0.03%を含み、残部がFe及び他の不可避不純物であって、0.19%<C+Mn/16<0.23%である高強度冷間圧延耐候性鋼プレートが開示されている。この技術的解決手段により、降伏強度が700MPaを超え、引張強度が1000MPaを超える鋼を、製錬、加熱及び保温、熱間圧延、巻取り、酸洗、冷間圧延、連続焼鈍、及びレベリングというプロセスフローによって得ることができる。
【0006】
中国特許出願CN111378896A(2020年7月7日公開、名称は「建築橋梁用の高強度耐候性鋼プレート及びその製造方法」)には、建築橋梁用の高強度耐候性鋼プレートが開示されている。上記鋼プレートの化学組成は、C:0.03~0.09%、Si:0.05%~0.55%、Mn:1.10%~2.00%、P≦0.012%、S≦0.003%、Cr:0.50%~1.00%、Cu:0.30%~0.50%、Ni:0.20%~1.20%、Als:0.015%~0.050、Ti:0.002%~0.030%、V:0.002%~0.08%、Mo:0.01%~0.80%、B:0.0001%~0.0025%を含み、残部がFeであって、CEV≦0.65%、Pcm≦0.28、大気腐食耐性指数I≧6.5である。この出願により製造される鋼は、降伏強度が620MPa以上、引張強度が730MPa~850MPa、破断後伸びAが16%以上、-40℃における衝撃エネルギーKV2が120J以上である。
【0007】
中国特許出願CN106756476A(2017年5月31日公開、名称は「高強度耐高温高湿性海洋大気環境用耐候性鋼及びその製造方法」)には、高強度耐高温高湿性海洋大気環境用耐候性鋼が開示されている。上記鋼の化学組成(重量%)は、C:0.01~0.03、Si:0.30~0.50、Mn:0.60~0.80、Cu:0.90~1.10、Ni:2.80~3.20、Mo:0.20~0.40、Sn:0.25~0.35、Sb:0.05~0.10、Cr≦0.03、Nb≦0.02、P≦0.01、S≦0.01、RE:0.03~0.05を含み、残部がFeである。この出願では、Cu-Ni-Mo合金系に基づいてSn、Sb、Nb、及びRE等の各種微量合金元素を添加することで、耐候性鋼のCr含有量を著しく減少させており、製造された鋼は、降伏強度が650MPa以上、引張強度が750MPa以上であり、30℃におけるハーフサイズ衝撃エネルギーが65Jに達する。
【0008】
上記従来技術からわかるように、既存の高強度耐候性鋼製品のほとんどは降伏強度が600~800MPaであり、降伏強度が1000MPaを超える高強度耐候性鋼製品はわずかである。
【0009】
このような状況を鑑みて、1000MPa以上の高強度を有しながら、靭性と塑性との釣り合いが良く、耐候性に優れる新たな耐候性鋼の開発が必要である。このような新たな耐候性鋼は、高性能産業用チェーンの製造に使用可能であろうし、既存の鋼の耐用年数が強度、靭性及び塑性、並びに耐候性の不釣り合いによって影響されるという問題をうまく解決できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、耐候性が良好な高強度鋼を提供することを目的とする。該鋼は、1000MPa以上の高強度を有し、靭性と塑性との釣り合いが良く、耐候性が良好であり、特に高強度耐候性構造部材、及び鉱業や係留等の用途のための産業用チェーン製品の製造に好適であり、建設機械、鉱業、及び海洋工学など、腐食性媒体が大量に存在する状況に広く適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本開示は鋼を提供するが、該鋼は、90質量%以上のFe及び不可避不純物に加えて、質量パーセントで以下の化学元素:C:0.22~0.33%、Si:0.1~1.0%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.2~1.6%、Ni:2.2~3.8%、Mo:0.1~0.7%、Cu:0.02~0.3%、Al:0.01~0.045%、V:0.01~0.25%、及びN≦0.013%を含む。
【0012】
本開示の鋼は、質量パーセントで以下の化学元素:C:0.22~0.33%、Si:0.1~1.0%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.2~1.6%、Ni:2.2~3.8%、Mo:0.1~0.7%、Cu:0.02~0.3%、Al:0.01~0.045%、V:0.01~0.25%、及びN≦0.013%からなり、残部がFe及び不可避不純物であることが好ましい。
【0013】
本開示の鋼において、各化学元素の設計原理は次の通りである。
【0014】
C:本開示の鋼において、Cは、鋼の強度を確保するために必要な元素である。鋼中のC含有量を増加させると、鋼の非平衡組織変態能が高まることで、鋼の強度が著しく向上する。加えて、本開示では、焼き入れ及び焼き戻し熱処理プロセスによって、鋼中のC元素拡散を抑制してせん断マルテンサイト変態を生じさせることで、鋼の強度を大幅に向上させることができる。
【0015】
しかしながら、本開示の鋼中のC元素含有量は高すぎるべきではない。これは、C含有量が高すぎると、鋼の塑性及び靭性に悪影響を及ぼし、材料の炭素当量が著しく増加して、鋼の溶接性能を悪化させるためである。したがって、本開示の鋼中のC元素含有量は、0.22~0.33%に制御される。
【0016】
Si:本開示の鋼において、Si元素は鋼中で固溶して、固溶強化の役割を果たすことができる。Si元素は、鋼の降伏強度、疲労強度、及び硬度を著しく向上させることができる。しかしながら、Siはセメンタイト中の溶解性が非常に低く、鋼中のSi元素含有量は高すぎるべきではないことに留意すべきである。鋼中のSi元素含有量が高すぎると、炭化物を含まないベイナイト組織が形成されるだけではなく、鋼の脆性も高くなる。したがって、本開示の鋼中のSi元素含有量は、0.1~1.0%に制御される。
【0017】
Mn:本開示の鋼において、Mn元素は、鋼中のオーステナイトの安定性を向上させるとともに、鋼の焼き入れ性を高めることもできる。加えて、Mnは、固溶強化により鋼中のマルテンサイトの強度を向上させることで、鋼の強度を向上させることもできる。しかしながら、鋼中のMn元素含有量は高すぎるべきではないことに留意すべきである。鋼中のMn元素含有量が高すぎると、焼き入れ加熱時にオーステナイト結晶粒が成長しやすいため、粒界で有害元素が偏析しやすくなる。したがって、本開示の鋼中のMn元素含有量は、0.3~1.5%に制御される。
【0018】
Cr:本開示の鋼において、適切な量のCr元素を添加することで、鋼の焼き入れ性を向上させることができ、二次硬化効果があり、鋼の強度向上に有益である硬化したマルテンサイト組織を形成できる。加えて、Cr炭化物は、溶接継手の熱影響部において結晶粒の成長を遅らせることができ、鋼の溶接に非常に有益である。適切な量のCr元素及びNi元素を鋼に添加することは、鋼の耐候性を向上させるために有益である。しかしながら、鋼中のCr元素含有量は高すぎるべきではない。鋼中のCr元素含有量が高すぎると、大量の炭化物が生じて粒界で凝集し、これにより、材料の靭性が低下し、炭素当量が著しく増加し、鋼の溶接性能が悪化する。したがって、本開示の鋼中のCr元素含有量は、0.2~1.6%に制御される。
【0019】
Ni:本開示の鋼において、Niはオーステナイト形成元素である。Niは、主な強化元素の1つとして、鋼中に固溶体の形態で存在でき、鉄と無限に固溶できる。加えて、Ni元素とCr元素とを併用する場合、鋼の焼き入れ性を大幅に向上させることもできる。
【0020】
適切な量のNi元素を鋼に添加することで、共析点でのC含有量を効果的に低減させ、フェライトを強化し、パーライトを微細化及び増加させることができ、これにより、鋼の塑性に著しく影響を与えずに鋼の強度を向上させることができる。加えて、Ni元素は、鋼の耐疲労性を向上させ、鋼の切欠き感度を低下させ、鋼の低温脆性遷移温度を低下させ、鋼の衝撃靭性を向上させることができる。Ni元素は、他の合金元素に比べて、鋼の靭性及び塑性等の特性をさほど損なうことなく鋼強度を向上させることができる。
【0021】
したがって、Ni元素の有益な効果を発揮しつつ鋼のコストを最小限に抑えるために、本開示の鋼中のNi元素含有量は、2.2~3.8%に制御される。
【0022】
Mo:本開示の鋼において、Mo元素は、主に鋼中に固溶体の形態で存在する。Moは、鋼の焼き入れ性を向上させるのに有益な固溶強化効果を有し、焼き入れ時に鋼中にマルテンサイトを形成させる。しかしながら、鋼中のMo元素含有量は高すぎるべきではない。鋼中のMo元素含有量が高すぎると、材料の炭素当量が著しく増加して、鋼の溶接性能に不利となる。加えて、Moは貴重な合金元素であり、過剰量のMo元素を添加すると、合金コストが増加する。したがって、本開示の鋼中のMo元素含有量は、0.1~0.7%に制御される。
【0023】
Cu:本開示の鋼において、適切な量のCu元素を添加することで、鋼の耐候性を大幅に向上させ、鋼の水素誘起割れ感受性を低下させることができる。しかしながら、Cu含有量が高すぎると鋼の溶接性能に不利であり、また、銅脆化現象が生じやすくなって、鋼の表面特性が悪化することに留意すべきである。したがって、本開示の鋼中のCu元素含有量は、0.02~0.3%に制御される。
【0024】
Al:本開示の鋼において、Alは脱酸と窒素固定という主な機能を有し、AlとNが結合して形成されるAlNは、結晶粒を効果的に微細化できる。しかしながら、鋼中のAl元素含有量は高すぎるべきではないことに留意すべきである。鋼中のAl元素含有量が高すぎると、鋼の注湯性が影響を受け、鋼の靭性が悪化する。したがって、本開示の鋼中のAl元素含有量は、0.01~0.045%に制御される。
【0025】
V:本開示の鋼において、Vは、強力な炭化物形成元素として、分散析出の形態で鋼の強度を大幅に向上させることができる。しかしながら、鋼中のV元素添加量が多すぎると、鋼の靭性及び溶接性能が低下することに留意すべきである。したがって、本開示の鋼中のV元素含有量は、0.01~0.25%に制御される。
【0026】
N:本開示の鋼において、Nはオーステナイト形成元素であり、かつMX系析出物形成元素でもある。鋼中でのN元素の富化を避けるため、鋼に過剰量のNを添加すべきではない。したがって、N元素含有量は厳密に制御しなくてはならず、本開示の鋼中のN元素含有量は、0.013%を超えないよう制御される。
【0027】
本開示では、本発明者らは、鋼の組成及び鋼中の各化学元素の含有量を合理的に設計し、合金元素自体及びそれらの相互作用がミクロ組織及び最終特性に及ぼす影響を利用することにより、本開示の鋼のミクロ組織を精密に制御する。これにより、焼き戻しマルテンサイト+焼き戻しベイナイト+ラメラ間に拡散分布した炭化物という混合多相組織が本開示の鋼中に形成されることが保証される。このようなミクロ組織を有することで、本開示の鋼は、強度が高く、靭性と塑性との釣り合いが良く、耐候性、耐摩耗性及び耐疲労性が良好である。
【0028】
本開示の鋼は、さらにNb及び/又はTiを含み、0<Nb≦0.04%及び0<Ti≦0.03%であることが好ましい。
【0029】
Nb:Nbは強力な炭化物形成元素である。適切な量のNbを鋼に添加することで、鋼の再結晶化を抑制できるだけでなく、結晶粒を効果的に微細化できる。しかしながら、鋼中のNb元素含有量が高すぎると、高温の焼き戻し条件下でNbC粗粒子が形成されて、鋼の低温衝撃エネルギーが悪化することに留意すべきである。したがって、本開示では、Nb元素添加量は、0<Nb≦0.04%を満たすよう制御されることが好ましい。
【0030】
Ti:鋼に適切な量で添加されたTi元素は、微細なTi(C,N)析出物を形成でき、これにより、鋼の溶接時に組織の粗大化を効果的に防止し、溶接品質を向上させることができる。しかしながら、鋼中のTi元素含有量は高すぎるべきではない。鋼中のTi元素含有量が高すぎると、製錬時に角があるTiN粗粒子が形成されて、鋼の衝撃靭性及び疲労性能が低下する。したがって、本開示では、Ti元素添加量は、0<Ti≦0.03%を満たすよう制御されることが好ましい。
【0031】
本開示の鋼において、C、Mn、Ni、Cr、Mo、及びSiの質量パーセントでの含有量が、2.5≦(12×C+0.3×Mn+Ni)/(Cr+2Mo+2Si)≦3.2(式中、化学元素を示す記号は、その化学元素に対応する質量パーセントでの含有量のパーセント記号の前の数値を表す)も満たすことが好ましい。
【0032】
鋭意検討の結果、本発明者らは、鋼中の主な強化元素C、Mn、Ni、Cr、Mo、及びSiの含有量が2.5≦(12×C+0.3×Mn+Ni)/(Cr+2Mo+2Si)≦3.2を満たすよう制御されると、さらに強度と靭性及び塑性との釣り合いが最適となることを見出した。
【0033】
鋼において、(12×C+0.3×Mn+Ni)/(Cr+2Mo+2Si)比が2.5未満であると、鋼のオーステナイト域が比較的減少し、オーステナイト安定性が低下し、焼き入れ時に形成されやすいベイナイトの含有量が比較的高くなり、マルテンサイト含有量が比較的低くなり、焼き戻し時にラメラ間に析出する炭化物粒子のサイズが比較的大きくなり、量が比較的少なくなる。このため、強度と靭性及び塑性との釣り合いを最適とすることが難しくなる。
【0034】
鋼において、(12×C+0.3×Mn+Ni)/(Cr+2Mo+2Si)比が3.2より大きいと、鋼のオーステナイト域が拡大し、オーステナイト安定性が向上し、焼き入れ及び焼き戻し熱処理時の拡散相変態が抑制され、焼き入れ時に得られるマルテンサイト組織のラメラ間隔が大きくなり、焼き戻し時にラメラ間に多量の分散炭化物が析出し、鋼の強度が高くなり、靭性及び塑性が比較的低くなる。このため、強度と靭性及び塑性との釣り合いを最適とすることが難しくなる。
【0035】
本開示では、P元素、S元素、及びO元素は全て鋼中の不純物元素である。性能及び品質がより良好な鋼を得るために、技術的条件が許す限り、材料中の不純物元素含有量をできるだけ低減すべきである。
【0036】
本開示の鋼において、不可避不純物の質量パーセントでの含有量が、P≦0.015%、S≦0.01%、及びO≦0.002%を満たすことが好ましい。
【0037】
本開示の鋼において、P元素及びS元素はいずれも鋼中の不可避的有害不純物元素であり、鋼の特性を悪化させる。Pは鋼の耐候性を向上させ得るものの、全体としてはその副作用のほうが大きい。したがって、本開示では、P元素は、P≦0.015%を満たすよう制御され、S元素は、S≦0.01%を満たすよう制御される。
【0038】
本開示では、不純物元素Oは、鋼中のAl等の脱酸元素とともに酸化物や複合介在物を形成することがあり、これらは鋼の特性に不利である。したがって、本開示では、O元素は、O≦0.0015%を満たすよう制御される。
【0039】
他のいくつかの実施形態では、As、Pb、Sn、Sb、及びBi等の他の有害元素が鋼中に存在することがある。これらの有害元素の含有量は、国の法律、規制、及び基準の要件のもと、できる限り低減すべきである。
【0040】
本開示の鋼は、耐候性指数Iが10.0以上であることが好ましく、ここで、I=26.01×Cu+3.88×Ni+1.20×Cr+1.49×Si+17.28×P-7.29×Cu×Ni-9.10×Ni×P-33.39×Cu2(式中、化学元素を示す記号は、その化学元素に対応する質量パーセントでの含有量のパーセント記号の前の数値を表す)である。
【0041】
本開示の鋼には、多量のNi、Mn、及びCu元素が添加されている。これらの元素は、鋼の耐候性指数Iを効果的に向上させることで、鋼が高い強靭性だけではなく良好な耐候性も有することを保証する。本開示の鋼の耐候性指数Iを10.0以上に制御することにより、鋼の耐環境腐食性が良好となることを保証でき、これにより、本開示の鋼が使用時に腐食破壊しにくくなり、耐用年数が向上することがさらに保証される。
【0042】
本開示の鋼は、ミクロ組織が、焼き戻しマルテンサイト+焼き戻しベイナイト+ラメラ間に拡散分布した炭化物であることが好ましい。
【0043】
本開示の鋼は、以下の特性を有することが好ましい:降伏強度Rp0.2≧1100MPa、引張強度Rm≧1250MPa、伸びA≧14%、絞り(percentage reduction of area)≧50%、室温でのシャルピー衝撃エネルギーAkv≧80J、及び-20℃でのシャルピー衝撃エネルギーAkv≧70J。
【0044】
本開示の別の目的は、上記鋼を製造する方法を提供することである。本開示の製造方法は、プロセスが単純であり、得られる鋼は、高い強靭性に優れ、耐候性が良好で、降伏強度Rp0.2≧1100MPa、引張強度Rm≧1250MPa、伸びA≧14%、絞り≧50%、室温でのシャルピー衝撃エネルギーAkv≧80J、及び-20℃でのシャルピー衝撃エネルギーAkv≧70Jを有する。
【0045】
上記目的を達成するために、本開示は上記鋼を製造する方法を提供する。該方法は、以下の工程を順に含む。
(1)溶鋼を製錬及び鋳造して鋳造ブランクを製造する工程;
(2)上記鋳造ブランクを鍛造又は圧延する工程であって、上記鋳造ブランクを1ヒート圧延プロセス又は2ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工する、工程;及び
(3)焼き入れ及び焼き戻しを行って完成鋼を製造する工程であって、上記焼き入れプロセスでは、860~1000℃で2~6時間加熱を行った後に水冷を行い;上記焼き入れ後に上記焼き戻しを行い、上記焼き戻しプロセスでは、焼き戻し温度が400~600℃、保持時間が1~4時間であり、上記焼き戻し後に、空冷を行って上記鋼を室温に冷却して、上記完成鋼を製造する、工程。
【0046】
本発明者らは、焼き入れ及び焼き戻し熱処理における鋼の組成中のC、Si、Mn、Ni、Cr、及びMo等の主な強化元素の役割について詳細な研究を行った。
【0047】
本発明者らは、合金元素の比率を合理的に設計し、最適に設計された焼き入れ及び焼き戻し熱処理プロセスと組み合わせて、焼き入れ及び焼き戻し熱処理後の鋼のミクロ組織に対する合金元素自体及びそれらの相互作用の効果を利用することで、本開示の鋼のミクロ組織を精密に制御できることを見出した。焼き入れ及び焼き戻し熱処理後に、焼き戻しマルテンサイト、焼き戻しベイナイト、及びラメラ間に分散した炭化物という混合多相組織が形成されることで、本開示の鋼の特性が確保される。
【0048】
本発明者らは、工程(3)の焼き入れ及び焼き戻し熱処理を最適に設計した。焼き入れ時、鋼を加熱温度860~1000℃で2~6時間加熱して、鋼を完全にオーステナイト化させる。鋼中のCr、Mo、Nb、V、Ti、及びAl等の元素の炭化物又は窒化物粒子は、オーステナイトに部分的に溶解する。溶解しなかった炭化物及び炭化物粒子は、オーステナイト粒界をピン止めし続けることで、オーステナイト結晶粒の成長を抑制する。焼き入れ時のプロセスパラメータを最適に設計することで、マルテンサイトやベイナイト等のより微細な非平衡組織を鋼中に形成でき、これにより、本開示の鋼の強度が高まることが保証される。
【0049】
焼き戻し時、焼き戻し温度400~600℃で1~4時間保温を行う。このプロセスにおいて、鋼の焼き入れ中に形成された高密度転位が部分的に消滅し、鋼中の非平衡組織中に固溶した過飽和のC、Cr、及びMo元素が、マルテンサイト又はベイナイトのラメラの中央に炭化物の形態で再析出できる。この時、析出時の温度が低いため、析出粒子は成長しにくく、その結果、析出粒子はより微細に分散する。
【0050】
したがって、本開示の焼き入れ及び焼き戻し熱処理において、転位の消滅、並びに炭化物及び窒化物の析出により、内部応力が低下し、鋼の塑性及び靭性が向上し、これにより、鋼の強度が高まり、塑性と靭性との釣り合いが良好となることが保証される。
【0051】
本開示の製造方法では、工程(1)において、製錬された溶鋼をダイカスト又は連続鋳造により鋳造ブランクに鋳造することが好ましい。ダイカストを用いる場合、インゴット鋳型のベーキング温度が200℃以上である。連続鋳造を用いる場合、タンディッシュのベーキング温度が1100℃以上であり、ベーキング時間が3.5時間以上である。
【0052】
好ましくは、上述した本開示の製造方法の工程(1)において、溶鋼は、電気炉又は転炉で製錬し、LF及びVD又はRH真空精錬処理に供し、その化学組成が本開示の設計要件を満たした後、出鋼して鋳造を行うことができる。鋳造プロセスにおいて、精錬された溶鋼をダイカスト又は連続鋳造プロセスにより鋳造ブランクに鋳造できる。ダイカストを用いる場合、インゴット鋳型のベーキング温度は200℃以上に制御できる。連続鋳造を用いる場合、タンディッシュのベーキング温度は1100℃以上に制御でき、ベーキング時間は3.5時間以上に制御できる。鋳造ブランクのホットチャージ又はオフライン徐冷時間は24時間以上に制御することが好ましい。
【0053】
本開示の製造方法では、工程(2)において、1ヒート圧延プロセスを用いる場合、鋳造ブランクを完成品サイズに直接圧延又は鍛造し、鋳造ブランクの加熱温度が1150~1250℃、保持時間が3~12時間、初期圧延温度又は初期鍛造温度が1050℃以上、最終圧延温度又は最終鍛造温度が900℃以上であることが好ましい。
【0054】
本開示の製造方法では、工程(2)において、2ヒート圧延プロセスを用いる場合、鋳造ブランクをまず中間スラブに鍛造又は圧延し、次いで中間スラブを完成品サイズに鍛造又は圧延し、鋳造ブランクの加熱温度が1150~1250℃、保持時間が3~12時間、初期圧延温度又は初期鍛造温度が1050℃以上、最終圧延温度又は最終鍛造温度が950℃以上であり;中間スラブの加熱温度が1120~1200℃、保持時間が3~10時間、中間スラブの初期圧延温度が1050℃以上、中間スラブの最終圧延温度が860℃以上であることが好ましい。
【0055】
好ましくは、本開示の製造方法では、工程(2)において、鍛造又は圧延時に、鋳造ブランクを1ヒート圧延プロセス又は2ヒート圧延プロセスにより完成品のサイズに加工してもよく、完成品のサイズは、Φ26~150mmの範囲の仕様であってもよい。
【0056】
本明細書中、1ヒート圧延プロセスとは、鋳造ブランクの鍛造又は圧延時に、鋳造ブランクを最終完成品のサイズに直接鍛造又は圧延することを意味する。2ヒート圧延プロセスとは、鋳造ブランクをまず所定サイズの中間スラブに鍛造又は圧延し、その後、中間スラブを最終完成品のサイズに鍛造又は圧延することを意味する。
【0057】
本開示の工程(2)では、1ヒート圧延プロセス又は2ヒート圧延プロセスのいずれを採用する場合であっても、鋳造ブランクを1150~1250℃で加熱する必要があることに留意すべきである。加熱プロセス時には、鋳造ブランクの析出相の溶解とオーステナイト結晶粒成長が起こる。
【0058】
鋳造ブランク中に形成されたCr、Mo、Nb、V、Ti、Al等の析出物は、高温加熱時にオーステナイト中に部分的又は完全に溶解する。溶解していない析出物はオーステナイト粒界をピン止めし、オーステナイト結晶粒が過剰に成長するのを抑制する。この時、このような高い温度(すなわち、1150~1250℃)で一定時間保温することで、偏析した元素が鋼中で拡散しやすくなり、鋳造ブランク中の元素分布がより均一になる。
【0059】
したがって、圧延及び冷却の際、温度の低下とともに、鋼中のTi、Nb、及びAl等の元素が鋼から再析出して微細分散した粒子を形成することで、再結晶粒の成長を抑制し、組織を微細化する。鋼中に固溶したCr及びMo等の合金元素は、冷却時の拡散相変態を抑制し、ベイナイトやマルテンサイト等の中低温変態組織を形成することで、鋼の強度を向上させる。
【0060】
加えて、工程(2)において、鍛造又は圧延の開始前に、まず鋳造ブランクを制御して加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供することができ;鍛造又は圧延後、空冷又は徐冷により冷却を行ってもよいことに留意すべきである。
【0061】
従来技術と比べて、本開示の鋼及びその製造方法は以下の利点と有益な効果を有する。
【0062】
本開示では、C、Si、Mn、Ni、Cr、及びMo等の主な強化元素が鋼中に最適設計されている。合理的な元素比率を採用し、焼き入れ及び焼き戻し熱処理プロセスと組み合わせることで、焼き入れ冷却中の本開示の鋼におけるマルテンサイト及びベイナイト組織の変態、及び焼き戻し中の炭化物の析出を制御できる。そのため、鋼のミクロ組織を焼き戻しマルテンサイト+焼き戻しベイナイト+ラメラ間に拡散分布した炭化物となるよう制御できるので、本開示の鋼の強度と靭性及び塑性との釣り合いが最適となることが保証される。
【0063】
加えて、本開示のいくつかの好ましい実施形態では、鋼の耐候性指数Iの値をさらに高めることができ、これにより、鋼の耐候性がより良好となることで、過酷な環境下における鋼の耐用年数が大幅に延長されることに留意すべきである。
【0064】
本開示の鋼は化学組成とプロセス設計が合理的であり、プロセスウィンドウが広く、大量商業生産が実現できる。
【0065】
本開示の鋼は、高い強靭性に優れ、耐候性が良好であり、高強度耐候性構造部材や、鉱業チェーン及び係留チェーン等の高性能産業用チェーンに製造することができ、建設機械、鉱業、及び海洋工学など、高強度かつ高靭性の鋼が要求される状況に広く適用される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】顕微鏡(5000X)下で観察された実施例1の鋼のミクロ組織の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本開示の鋼及びその製造方法について、具体的な例を参照して以下でさらに説明及び例示する。しかしながら、かかる説明及び例示は、本開示の技術的解決手段に対する不当な限定を構成するものではない。
【0068】
実施例1~10及び比較例1~3
実施例1~10の鋼を以下の工程により製造した。
(1)下記表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って溶鋼を製錬及び連続鋳造して鋳造ブランクを製造した。製錬は電気炉又は転炉を用いて行い、LF精錬及びVD又はRH真空処理を行い、組成が要件を満たした後に出鋼した。次いで、製錬された溶鋼をダイカスト又は連続鋳造により鋳造ブランクに鋳造し、ここで、鋳造ブランクのホットチャージ又はオフライン徐冷は24時間以上に制御した。ダイカストを用いる場合、インゴット鋳型のベーキング温度は200℃以上に制御した。連続鋳造を用いる場合、タンディッシュのベーキング温度は1100℃以上に制御し、ベーキング時間は3.5時間以上に制御した。
【0069】
(2)鋳造ブランクを鍛造又は圧延した。鋳造ブランクは、1ヒート圧延プロセス又は2ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工したが、ここで、完成品のサイズはΦ26~150mmの範囲である。
【0070】
1ヒート圧延プロセスを用いる場合、鋳造ブランクの加熱温度は1150~1250℃に制御し、保持時間は3~12時間に制御し、初期圧延温度又は初期鍛造温度は1050℃以上に制御し、最終圧延温度又は最終鍛造温度は900℃以上に制御した。2ヒート圧延プロセスを用いる場合、鋳造ブランクの加熱温度は1150~1250℃に制御し、保持時間は3~12時間に制御し、初期圧延温度又は初期鍛造温度は1050℃以上に制御し、最終圧延温度又は最終鍛造温度は950℃以上に制御した。中間スラブの加熱温度は1120~1200℃に制御し、保持時間は3~10時間に制御し、中間スラブの初期圧延温度は1050℃以上に制御し、中間スラブの最終圧延温度は860℃以上に制御した。
【0071】
(3)焼き入れと焼き戻しを行って完成鋼を製造した。焼き入れプロセスにおいて、加熱温度は860~1000℃、保持時間は2~6時間であった。焼き入れ後に水冷を行った。次いで、焼き戻しを行った。焼き戻しプロセスにおいて、焼き戻し温度は400~600℃、保持時間は1~4時間であった。焼き戻し後、空冷を行って鋼を室温まで冷却して、完成鋼を製造した。
【0072】
本開示では、実施例1~10の鋼の化学組成及び関連するプロセスパラメータはすべて本開示の設計仕様要件を満たしている。
【0073】
対照的に、比較例1~3の鋼は、様々なメーカーによる完成鋼であり、それらの化学組成を下記表1-1及び表1-2に示す。比較例1~3の鋼も上述したプロセス工程を用いて製造されるものの、比較例1~3の鋼の化学組成及び製造プロセスパラメータの少なくとも1つは、本開示の要件を満たしていない。
【0074】
表1-1及び表1-2に、実施例1~10及び比較例1~3の鋼の化学組成を示す。
【0075】
【0076】
【0077】
注:I=26.01×Cu+3.88×Ni+1.20×Cr+1.49×Si+17.28×P-7.29×Cu×Ni-9.10×Ni×P-33.39×Cu2;上記表1-2中、式中の各化学元素記号には、その化学元素に対応する質量パーセントでの含有量のパーセント記号の前の数値が代入される。
【0078】
実施例1~10の鋼の具体的な製造プロセス操作は以下の通りである。
【0079】
実施例1
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って電気炉製錬を行った。LF精錬及びRH真空処理を行った後、鋳造して連続鋳造ブランクを得た。連続鋳造時、タンディッシュのベーキング温度は1150℃に制御し、ベーキング時間は5時間に制御し;鋳造ブランクの徐冷時間は35時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを2ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。まず、連続鋳造ブランクを1150℃に加熱して12時間保持した。次いで、鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、サイズが280×280mmの中間スラブを製造したが、ここで、初期圧延温度は1090℃に制御し、最終圧延温度は950℃に制御した。次いで、得られた中間スラブを1120℃に加熱して10時間保持した後、炉から排出して高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ75mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1050℃に制御し、最終圧延温度は880℃に制御した。圧延後、空冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は940℃に制御し、保持時間は4時間に制御し、焼き戻しの温度は450℃に制御し、保持時間は3時間に制御した。その後、水冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0080】
実施例2
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って電気炉製錬を行った。LF精錬及びRH真空処理を行った後、鋳造して連続鋳造ブランクを得た。連続鋳造時、タンディッシュのベーキング温度は1100℃に制御し、ベーキング時間は6時間に制御し;鋳造ブランクの徐冷時間は30時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを2ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。まず、連続鋳造ブランクを1220℃に加熱して4時間保持した。次いで、連続鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、サイズが260×260mmの中間スラブを製造したが、ここで、初期圧延温度は1120℃に制御し、最終圧延温度は980℃に制御した。次いで、得られた中間スラブを1130℃に加熱して6時間保持した後、炉から排出して高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ60mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1060℃に制御し、最終圧延温度は890℃に制御した。圧延後、空冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は990℃に制御し、保持時間は3時間に制御し、焼き戻しの温度は420℃に制御し、保持時間は2時間に制御した。その後、空冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0081】
実施例3
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って電気炉製錬を行った。LF精錬及びRH真空処理を行った後、鋳造して連続鋳造ブランクを得た。連続鋳造時、タンディッシュのベーキング温度は1250℃に制御し、ベーキング時間は4.5時間に制御し;鋳造ブランクの徐冷時間は28時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを2ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。まず、連続鋳造ブランクを1240℃に加熱して3時間保持した。次いで、連続鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、サイズが220×220mmの中間スラブを製造したが、ここで、初期圧延温度は1110℃に制御し、最終圧延温度は970℃に制御した。次いで、得られた中間スラブを1150℃に加熱して8時間保持した後、炉から排出して高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ42mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1075℃に制御し、最終圧延温度は910℃に制御した。圧延後、空冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は910℃に制御し、保持時間は2.5時間に制御し、焼き戻しの温度は530℃に制御し、保持時間は1.5時間に制御した。その後、水冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0082】
実施例4
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って電気炉製錬を行った。LF精錬及びVD真空処理を行った後、鋳造して連続鋳造ブランクを得た。連続鋳造時、タンディッシュのベーキング温度は1200℃に制御し、ベーキング時間は3.5時間に制御し;鋳造ブランクの徐冷時間は24時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを1ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。連続鋳造ブランクを1200℃に加熱して6時間保持した。次いで、連続鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ150mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1100℃に制御し、最終圧延温度は960℃に制御した。圧延後、パイリング徐冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は880℃に制御し、保持時間は6時間に制御し、焼き戻しの温度は570℃に制御し、保持時間は4時間に制御した。その後、空冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0083】
実施例5
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って電気炉製錬を行った。LF精錬及びVD真空処理を行った後、鋳造して連続鋳造ブランクを得た。連続鋳造時、タンディッシュのベーキング温度は1300℃に制御し、ベーキング時間は4時間に制御し;鋳造ブランクの徐冷時間は26時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを1ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。連続鋳造ブランクを1170℃に加熱して8時間保持した。次いで、連続鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ130mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1070℃に制御し、最終圧延温度は930℃に制御した。圧延後、パイリング徐冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は960℃に制御し、保持時間は5時間に制御し、焼き戻しの温度は600℃に制御し、保持時間は3時間に制御した。その後、空冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0084】
実施例6
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って転炉製錬を行った。LF精錬及びRH真空処理を行った後、ダイカストにより鋳造して鋳造ブランクを得た。ダイカスト時、インゴット鋳型のベーキング温度は200℃に制御し、鋳造ブランクの徐冷時間は48時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを1ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。鋳造ブランクを1180℃に加熱して10時間保持した。次いで、鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ100mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1050℃に制御し、最終圧延温度は900℃に制御した。圧延後、空冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は900℃に制御し、保持時間は6時間に制御し、焼き戻しの温度は580℃に制御し、保持時間は3時間に制御した。その後、空冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0085】
実施例7
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って転炉製錬を行った。LF精錬及びRH真空処理を行った後、ダイカストにより鋳造して鋳造ブランクを得た。ダイカスト時、インゴット鋳型のベーキング温度は240℃に制御し、鋳造ブランクの徐冷時間は40時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを1ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。鋳造ブランクを1220℃に加熱して5時間保持した。次いで、鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ75mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1100℃に制御し、最終圧延温度は950℃に制御した。圧延後、空冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は950℃に制御し、保持時間は5時間に制御し、焼き戻しの温度は480℃に制御し、保持時間は2.5時間に制御した。その後、水冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0086】
実施例8
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って転炉製錬を行った。LF精錬及びRH真空処理を行った後、ダイカストにより鋳造して鋳造ブランクを得た。ダイカスト時、インゴット鋳型のベーキング温度は220℃に制御し、鋳造ブランクの徐冷時間は44時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを1ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。鋳造ブランクを1160℃に加熱して11時間保持した。次いで、鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ110mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1060℃に制御し、最終圧延温度は920℃に制御した。圧延後、空冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は980℃に制御し、保持時間は3時間に制御し、焼き戻しの温度は550℃に制御し、保持時間は3.5時間に制御した。その後、水冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0087】
実施例9
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って転炉製錬を行った。LF精錬及びRH真空処理を行った後、ダイカストにより鋳造して鋳造ブランクを得た。ダイカスト時、インゴット鋳型のベーキング温度は270℃に制御し、鋳造ブランクの徐冷時間は42時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを2ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。まず、鋳造ブランクを1190℃に加熱して9時間保持した。次いで、鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、サイズが220×220mmの中間スラブを製造したが、ここで、初期圧延温度は1080℃に制御し、最終圧延温度は960℃に制御した。次いで、得られた中間スラブを1190℃に加熱して4時間保持した後、炉から排出して高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ26mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1080℃に制御し、最終圧延温度は860℃に制御した。圧延後、空冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は860℃に制御し、保持時間は2時間に制御し、焼き戻しの温度は500℃に制御し、保持時間は1時間に制御した。その後、空冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0088】
実施例10
表1-1及び表1-2に示す化学組成に従って転炉製錬を行った。LF精錬及びRH真空処理を行った後、ダイカストにより鋳造して鋳造ブランクを得た。ダイカスト時、インゴット鋳型のベーキング温度は300℃に制御し、鋳造ブランクの徐冷時間は38時間に制御した。本実施例では、鋳造ブランクを2ヒート圧延プロセスにより完成品サイズに加工した。鋳造ブランクを1210℃に加熱して7時間保持した。次いで、鋳造ブランクを加熱炉から排出し、高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、サイズが250×250mmの中間スラブを製造したが、ここで、初期圧延温度は1120℃に制御し、最終圧延温度は990℃に制御した。得られた中間スラブを1200℃に加熱して3時間保持した後、炉から排出して高圧水スケール除去に供した。その後、圧延を行って、仕様がΦ48mmである鋼を製造したが、ここで、初期圧延温度は1100℃に制御し、最終圧延温度は900℃に制御した。圧延後、空冷を行った。次いで、焼き入れ及び焼き戻し熱処理を行ったが、ここで、焼き入れの加熱温度は930℃に制御し、保持時間は3時間に制御し、焼き戻しの温度は460℃に制御し、保持時間は2.5時間に制御した。その後、水冷を行って鋼を室温まで冷却した。
【0089】
実施例1~10の鋼と異なり、比較例1~3の鋼は様々なメーカーによる完成鋼である。比較例1~3の鋼の加工プロセスは、実施例1~10の鋼のものとは異なる。比較例1~3で採用された具体的なプロセスパラメータを下記表2-1及び表2-2に示す。
【0090】
表2-1及び表2-2に、上述したプロセス工程における実施例1~10及び比較例1~3の鋼の具体的なプロセスパラメータを示す。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
実施例1~10及び比較例1~3の完成鋼の特性を試験して、実施例及び比較例の完成鋼の性能パラメータを得た。
【0095】
実施例1~10及び比較例1~3の鋼をそれぞれ引張試験及び衝撃性能試験に供した。実施例及び比較例の試験結果を表3に示す。
【0096】
関連する引張試験及び衝撃試験の具体的な試験方法を以下に記載する。
【0097】
引張試験:国家標準GB/T2975-2018に従って実施例及び比較例の鋼をサンプリングして引張試験片を作製した。国家標準GB/T228.1-2010に従って試験片の引張特性を試験して、実施例1~10及び比較例1~3の鋼の降伏強度Rp0.2、引張強度Rm、伸びA、及び絞りを測定した。
【0098】
衝撃試験:国家標準GB/T2975-2018に従って実施例及び比較例の鋼をサンプリングして衝撃試験片を作製した。国家標準GB/T229-2020に従って試験片の衝撃特性を試験して、実施例1~10及び比較例1~3の鋼の室温でのシャルピー衝撃エネルギーAkv及び-20℃でのシャルピー衝撃エネルギーAkvを測定した。
【0099】
表3に、実施例1~10及び比較例1~3の鋼の性能パラメータを示す。
【0100】
【0101】
表3からわかるように、本開示の実施例1~10の鋼は総合性能に優れている。実施例1~10の鋼は、降伏強度Rp0.2が1125~1300MPa、引張強度Rmが1277~1440MPa、伸びAが14~18.5%、絞りが52~68%、室温でのシャルピー衝撃エネルギーAkvが85~125J、-20℃でのシャルピー衝撃エネルギーAkvが76~112Jである。
【0102】
したがって、表3から、本開示の実施例1~10の鋼の総合性能は、比較例1~3の鋼よりも著しく優れていることがわかる。
【0103】
表1~3からわかるように、比較例1は耐候性指数Iが6.43の23MnNiMoCr54鋼であるが、本開示の実施例1~10の鋼の耐候性指数Iよりも著しく低く、比較例1の鋼の耐候性が本開示の実施例の鋼よりも劣ることが示されている。加えて、比較例1の鋼は、元素含有量比(12×C+0.3×Mn+Ni)/(Cr+2Mo+2Si)も実施例1~10の鋼より低く、比較例1の鋼の機械的特性及び衝撃エネルギーも実施例1~10の鋼より低い。
【0104】
比較例2の鋼は、多量のNi、Mn、及びCu合金元素が添加されており、耐候性指数I=13.33である。比較例2の鋼の耐候性は、実施例1~10の鋼と同等である。しかしながら、比較例2の鋼の元素含有量比(12×C+0.3×Mn+Ni)/(Cr+2Mo+2Si)は本開示の範囲内ではないため、比較例2の鋼は、強度はより高いものの、実施例1~10の鋼よりも伸び及び衝撃エネルギーが低い。このことは、本開示の実施例1~10の鋼は、比較例2と比べて、強度と靭性及び塑性とがバランスよく向上していることを示す。
【0105】
比較例3の鋼は、強度が本開示の実施例1~10の鋼よりもはるかに低く、耐候性指数も本開示の実施例1~10の鋼よりも低い。このことは、本開示の実施例1~10の鋼は、比較例3と比べて、強度及び耐候性が大幅に向上していることを示す。
【0106】
要約すると、本開示では、合理的な化学組成設計と最適化されたプロセスとの組み合わせによって、優れた性能を有する鋼が得られることがわかる。本開示の鋼は、総合性能に優れ、強度が高く、靭性と塑性との釣り合いが良く、溶接性能及び耐候性に優れる。本開示の鋼は、高強度耐候性構造部材や、鉱業チェーン及び係留チェーン等の高性能産業用チェーンに製造することができ、建設機械、鉱業、及び海洋工学など、高強度かつ高靭性の鋼が要求される状況に広く適用され、既存の鋼の耐用年数が強度、靭性及び塑性、溶接性能、並びに耐候性の不釣り合いによって影響されるという問題をうまく解決できる。
【0107】
図1は、顕微鏡(5000X)下の実施例1の鋼のミクロ組織の写真である。
【0108】
図1に示す通り、本開示において、焼き入れ及び焼き戻しの加熱処理プロセスを完了した実施例1の鋼のミクロ組織は、焼き戻しマルテンサイト+焼き戻しベイナイト+ラメラ間に拡散分布した炭化物を含む。このように、本開示では、鋼の組成比を最適化し、焼き入れ及び焼き戻しの適切な加熱処理プロセスと組み合わせることにより、微細帯状マルテンサイト組織のラメラに拡散分布した炭化物を得ることができ、これにより、鋼の靭性及び塑性を向上させることができるため、実施例1の鋼は優れた総合機械的特性を有することがわかる。
【0109】
本開示における技術的特徴の組み合わせは、本開示の特許請求の範囲に記載された組み合わせ、又は具体的な実施形態に記載された組み合わせに限定されず、本開示に記載されたすべての技術的特徴は、各技術的特徴間に矛盾がない限り、あらゆる方法で自由に組み合わせるか又は組み込むことができることに留意すべきである。
【0110】
また、上に列挙した実施形態は、本開示の具体例に過ぎないことに留意すべきである。当然のことながら、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、これに応じてなされる同様の変更又は変形は、当業者によって本開示の内容から直接導き出されるか又は容易に想到され得るものであり、すべて本開示の保護範囲に含まれる。
【国際調査報告】