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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】時計のムーブメントのためのてん輪
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
G04B17/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531705
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2022084457
(87)【国際公開番号】W WO2023110502
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21214801.9
(32)【優先日】2021-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】シャルボン,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ミニョー,ジャン-ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラルド,マルコ
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのアーム(4)によってフェロー(3)に接続されたハブ(2)を含むてん輪(1)に関し、フェローは、比透磁率が1.01未満であり、密度が6.5を超え、電気絶縁性の材料で作られていることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアーム(4)によってフェロー(3)に接続されたハブ(2)を含むてん輪であって、少なくとも前記フェローは、比透磁率が1.01未満であり、密度が6.5を超え、電気絶縁性である材料から作られるてん輪と、前記てん輪を受け入れるように配置された中心軸であって、前記中心軸は、比透磁率が1.01未満であり、密度が6.5を超え、電気絶縁性である材料から作られる中心軸とを備える、アセンブリ。
【請求項2】
前記材料は、好ましくは2.5MS/m以下、より好ましくは1.5MS/m未満の導電率を有することを特徴とする、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記材料は、金属、金属合金、セラミック、セラミックおよび金属からなる複合体、または非磁性硬質金属から選択されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記材料は、鉄、クロム、ニッケル、および/またはコバルトを主成分として含む合金から作られることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記材料は、面心立方晶構造を有することを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記材料は、オーステナイト系合金であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のアセンブリ。
【請求項7】
前記オーステナイト系合金は、10%を超える、好ましくは15%を超えるクロム含有量を有することを特徴とする、請求項6に記載のアセンブリ。
【請求項8】
前記オーステナイト系合金は、316L鋼、904L鋼、フィノックス、またはMP35Nから選択されることを特徴とする、請求項6または請求項7に記載のアセンブリ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のアセンブリを備えるムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器のためのてん輪、および中心軸/てん輪アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
計時器の調整部材は、通常、てん輪と称されるフライホイールを含む。この部品は、計時器の動作の品質を決定する。より具体的には、てん輪とヒゲゼンマイとを組み合わせて、ムーブメントを特定の周波数で調整する振動子を形成する。
【0003】
現在、腕時計のムーブメントのてん輪では、フェローおよびアームは、銅ベースの合金、特に銅ベリリウムから、真鍮から、洋白から、またはデクラフォルから作られている。主に使用される銅ベリリウムは、特に非磁性、優れた化学的安定性、および十分な機械的特徴を含む品質の有利な組合せを提供する。これら合金の密度は、通常は、8を超える。
【0004】
磁場によって引き起こされる問題は、腕時計製造者によく知られており、遭遇することがますます多くなっている。磁場は、日常生活の中でますます蔓延しており、機械式腕時計の動作に支障をきたし、機械式腕時計の大きなドリフトを引き起こす。
【0005】
この問題を解決するために、これまでに考えられている解決策はすべて、ヒゲゼンマイ(SiまたはNb基合金)、枢動点(てん輪中心軸、アンクルレバーステム、脱進機ピニオン)、ホイールプレート、およびアンクルレバープレートのための非磁性材料を中心に展開している。
【0006】
てん輪フェローのために使用される材料は、通常、真鍮、洋白、または銅ベリリウムなど非磁性であるが、これらは優れた導電性も有している。
【0007】
これら非磁性材料のすべての組合せにも関わらず、ムーブメントは、依然として、磁場中で大きくドリフトする。
【0008】
このドリフトは、たとえばヒゲゼンマイのスタッドや巻真など、脱進機および振動子以外のムーブメントの構成要素における強磁性要素の存在によるものであると一般に認められている。
【0009】
したがって、たとえこれらの部品が、強磁性要素を含まない材料で作られた部品で置き換えられたとしても、このレートでのドリフトは依然として観察される。
【0010】
発明者らは、このドリフトが渦電流の影響に起因する可能性があることを発見した。渦電流は、導電性材料が、磁場勾配内で移動している場合、またはてん輪が、てん輪のフェローに平行な一定磁場内で回転している場合に発生し、てん輪のレートにも影響を及ぼす。
【0011】
一部の腕時計製造者は、少なくとも、フェローがセラミック材料またはダイヤモンド材料で作られたてん輪も製造している。しかしながら、これら材料は非磁性であるが、てん輪へ機械加工するのが非常に難しく、製造コストが非常に高くなる。
【0012】
したがって、本発明の1つの目的は、非磁性であり、渦電流の影響を受けず、てん輪を、所与のムーブメントのために利用できる空間に組み込むことができる6.5を超える密度を有する特定の合金を使用することによって、既知の制限のないてん輪を提供することである。セラミックの場合によくあることであるが、密度が低すぎると、てん輪が、所与の慣性に対して大きくなり過ぎて、ムーブメントに収容できなくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、6.5を超える密度を有する非磁性の電気絶縁性の材料から作られたてん輪を提供することによって、前述の欠点を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために、本発明は、少なくとも1つのアームによってフェローに接続されたハブを含むてん輪に関し、少なくともフェローは、比透磁率が1.01未満であり、密度が6.5を超え、導電性ではない材料で作られる。
【0015】
本発明の他の有利な代替実施形態によれば、
- 材料は、好ましくは2.5MS/m以下、より好ましくは1.5MS/m未満の導電率を有し、
- 材料は、金属または金属合金、セラミック、セラミックおよび金属からなる複合体、非磁性硬質金属から選択され、
- 材料は、クロム、鉄、ニッケル、および/またはコバルトを、主成分として含む合金であり、
- 材料は、面心立方晶構造を有し、
- 材料は、オーステナイト系合金であり、
- オーステナイト系合金は、好ましくは10%を超える、好ましくは15%を超えるクロム含有量を有し、
- オーステナイト系合金は、316L鋼、904L鋼、フィノックス、またはMP35Nから選択される。
【0016】
本発明は、本発明によるてん輪と、前記てん輪を受け入れるように配置された中心軸とを備えるアセンブリに関し、前記中心軸はまた、比透磁率が1.01未満であり、密度が6.5を超え、電気絶縁性の材料で作られる。
【0017】
本発明はさらに、本発明によるてん輪を備える時計ムーブメントに関する。
【0018】
本発明はさらに、本発明によるてん輪を設けられたムーブメントを備えた腕時計に関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、非磁性材料で作られた中心軸を含むてん輪に関する。中心軸は、フェローと、フェローと一体に作られた少なくとも1つのアームとを備えたてん輪を支持している。てん輪の中心にあるハブからアームが伸びており、その中で、中心軸は、肩部に押し付けられる。従来、中心軸は、ヒゲゼンマイを取り付けるためのコレットも支持している(図示せず)。
【0020】
本発明によれば、フェローは、密度が、6.5を超える非磁性の電気絶縁性の材料で作られる。
【0021】
本発明の目的上、非磁性材料は、比透磁率が1.01未満の材料を意味すると理解される。
【0022】
電気絶縁性の材料は、導電率が低い、または非常に低い材料を意味すると理解される。
【0023】
本発明によれば、フェローを作る材料は、2.5MS/m以下の導電率、好ましくは、1.5MS/m以下の導電率を有する。そのような導電性により、渦電流の影響を制限することができるため、腕時計が磁場にある場合のレートのドリフトが可能になる。
【0024】
てん輪は、金属と、金属合金と、酸化イッテルビウム、酸化ユウロピウム(III)、酸化ジスプロシウム、酸化セリウム(IV)、もしくは酸化ネオジムなどのセラミックと、セラミックおよび金属からなる複合体と、またはニッケルバインダを使用した炭化タングステンなどの非磁性硬質金属とから選択される材料から作られる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、てん輪は、鉄、クロム、ニッケル、および/またはコバルトを主成分として含む合金から作られ、面心立方晶構造を有する。
【0026】
さらにより好ましくは、てん輪は、316L鋼、904L鋼、フィノックス、またはMP35Nから選択されるオーステナイト系合金から作られる。当業者であれば、同様の特性を有する他のオーステナイト系合金を、特に困難なく使用できることは明らかである。
【0027】
そのようなオーステナイト系合金は、好ましくは10%を超える、好ましくは15%を超えるクロム(Cr)含有量を有する。
【0028】
たとえば、てん輪を作るために使用される合金は、最大0.02%の炭素(C)、最大1%の珪素(Si)、最大2%のマンガン(Mn)、最大0.04%のリン(P)、最大0.03%の硫黄(S)、16%から18%のクロム(Cr)、2%から2.5%のモリブデン(Mo)、および10.5%から13%のニッケル(Ni)からなる316L鋼である。
【0029】
当業者のニーズに応じて、てん輪は、電気メッキ、PVD、またはCVDによって、層、特に装飾層でコーティングされる。
【0030】
本発明はさらに、てん輪を受け入れる中心軸が、てん輪が作られる材料と同じタイプの材料、すなわち、比透磁率が1.01未満であり、密度が6.5を超え、電気絶縁性である材料から作られる、中心軸とてん輪とのアセンブリに関する。たとえば、316L鋼のてん輪を、904L鋼の中心軸に取り付けることができる。
【0031】
中心軸は、その特性、特にその硬度と、摩耗および摩擦に対する耐性とを改善するために、層、特に化学的NiPまたはNiBでコーティングすることができる。
【0032】
本発明はさらに、本発明によるてん輪を設けられた時計用ムーブメントおよび計時器に関する。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのアーム(4)によってフェロー(3)に接続されたハブ(2)を含むてん輪であって、少なくとも前記フェローは、比透磁率が1.01未満であり、密度が6.5を超え、電気絶縁性である材料から作られるてん輪と、前記てん輪を受け入れるように配置された中心軸であって、前記中心軸は、比透磁率が1.01未満であり、密度が6.5を超え、電気絶縁性である材料から作られる中心軸とを備える、アセンブリ。
【請求項2】
前記材料は、好ましくは2.5MS/m以下、より好ましくは1.5MS/m未満の導電率を有することを特徴とする、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記材料は、金属、金属合金、セラミック、セラミックおよび金属からなる複合体、または非磁性硬質金属から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記材料は、鉄、クロム、ニッケル、および/またはコバルトを主成分として含む合金から作られることを特徴とする、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記材料は、面心立方晶構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記材料は、オーステナイト系合金であることを特徴とする、請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項7】
前記オーステナイト系合金は、10%を超える、好ましくは15%を超えるクロム含有量を有することを特徴とする、請求項6に記載のアセンブリ。
【請求項8】
前記オーステナイト系合金は、316L鋼、904L鋼、フィノックス、またはMP35Nから選択されることを特徴とする、請求項6に記載のアセンブリ。
【請求項9】
請求項1に記載のアセンブリを備えるムーブメント。
【国際調査報告】