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特表2024-541143抵抗増強用ナノ構造のキャリア輸送層を有するペロブスカイト-結晶シリコン積層電池
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  • 特表-抵抗増強用ナノ構造のキャリア輸送層を有するペロブスカイト-結晶シリコン積層電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-07
(54)【発明の名称】抵抗増強用ナノ構造のキャリア輸送層を有するペロブスカイト-結晶シリコン積層電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/57 20230101AFI20241030BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20241030BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20241030BHJP
   H10K 30/86 20230101ALI20241030BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20241030BHJP
   H10K 71/12 20230101ALI20241030BHJP
【FI】
H10K30/57
H10K30/40
H10K30/85
H10K30/86
H10K85/50
H10K71/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529743
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(85)【翻訳文提出日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 CN2022094410
(87)【国際公開番号】W WO2023087646
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111370294.3
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522400560
【氏名又は名称】隆基緑能科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】LONGI GREEN ENERGY TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】解 俊杰
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲チェン▼
(72)【発明者】
【氏名】李 子峰
(72)【発明者】
【氏名】▲ティアオ▼ 一凡
(72)【発明者】
【氏名】呉 兆
(72)【発明者】
【氏名】孫 朱行
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
5F251AA02
5F251AA03
5F251AA11
5F251CB13
5F251CB14
5F251CB15
5F251DA11
5F251DA15
5F251DA18
5F251FA02
5F251FA04
5F251GA14
5F251XA01
5F251XA51
(57)【要約】
本願は、順次積層して設けられた結晶シリコン電池、直列構造層、第1キャリア輸送層、ペロブスカイト光吸収層、第2キャリア輸送層、及び上部透明電極層を含むペロブスカイト-結晶シリコン積層電池を提供し、そのうち、前記第1キャリア輸送層は、キャリア輸送層のベース層及び前記キャリア輸送層のベース層上に離散的に分布する前記キャリア輸送層のベース層と一体的に形成された抵抗増強用ナノ構造を含み、前記抵抗増強用ナノ構造は、前記キャリア輸送層のベース層から前記ペロブスカイト光吸収層内に延伸する。本願のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池は、キャリア輸送材料のキャリア収集及び伝導の能力を強化するとともに、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池のエネルギー変換効率を大幅に向上させることができる。また、ペロブスカイト-結晶シリコン積層型太陽電池の光閉じ込め効果を高め、電池変換効率をさらに向上させることができる。ペロブスカイト成分を柔軟に調整することができ、エネルギー変換効率を大幅に向上させることができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
順次積層して設けられた結晶シリコン電池、直列構造層、第1キャリア輸送層、ペロブスカイト光吸収層、第2キャリア輸送層、及び上部透明電極層を含み、前記第1キャリア輸送層は、キャリア輸送層のベース層及び前記キャリア輸送層のベース層上に離散的に分布する前記キャリア輸送層のベース層と一体的に形成された抵抗増強用ナノ構造を含み、前記抵抗増強用ナノ構造は、前記キャリア輸送層のベース層から前記ペロブスカイト光吸収層内に延伸する、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項2】
前記第1キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層に対向する側の表面はテクスチャ構造を有する、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項3】
前記抵抗増強用ナノ構造のそれぞれは繊維状構造、棒状構造又はナノチューブ構造である、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項4】
前記抵抗増強用ナノ構造の長さは50~1500nmである、請求項3に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項5】
前記抵抗増強用ナノ構造の直径は100~1000nmである、請求項4に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項6】
前記キャリア輸送層のベース層の表面における前記抵抗増強用ナノ構造の被覆率は5~70%であり、好ましくは10~60%である、請求項1から5のいずれか1項に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項7】
前記キャリア輸送層のベース層の厚さは10~200nmである、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項8】
第1キャリア輸送層は、TiO、SnO、ZnOから選ばれる1つであるか、又はPEDOT、PEDOT:PSS、PHT、POHT、PODDT、PTAA、NiOから選ばれる1つであり、前記導電性ボスの表面にフラックスをスプレーする、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項9】
前記ペロブスカイト光吸収層は、前記第1キャリア輸送層を覆い、前記第1キャリア輸送層の抵抗増強用ナノ構造の間隙内に充填される、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項10】
前記直列構造層は導電材料層又はトンネル接合層である、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項11】
結晶シリコン電池の1つの表面に直列構造層を形成するステップと、
前記直列構造層の前記結晶シリコン電池とは反対の表面に第1キャリア輸送層を製造するステップと、
前記第1キャリア輸送層の前記直列構造層とは反対の表面にペロブスカイト光吸収層を塗布するステップと、
前記ペロブスカイト光吸収層の前記第1キャリア輸送層とは反対の面に第2キャリア輸送層を製造するステップと、
前記第2キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層とは反対の面に上部透明電極層を形成するステップと、を含み、
第1キャリア輸送層を製造する前記ステップは、キャリア輸送層のベース層を製造すること、及び、前記キャリア輸送層のベース層上に前記キャリア輸送層のベース層と一体的に形成された離散的に分布する抵抗増強用ナノ構造を製造することを含む、請求項1から10のいずれか1項に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の製造方法。
【請求項12】
前記第1キャリア輸送層は、1段階のコンフォーマル製造法又は2段階のコンフォーマル製造法により実現される、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1キャリア輸送層は、気相法又は電気メッキ法により製造される、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、太陽電池の技術分野に関し、具体的には、抵抗増強用ナノ構造のキャリア輸送層を有するペロブスカイト-結晶シリコン積層電池に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、2021年11月18日に中国特許局に提出された、出願番号202111370294.3、発明の名称「抵抗増強用ナノ構造のキャリア輸送層を有するペロブスカイト-結晶シリコン積層電池」の中国特許出願の優先権を主張し、その全ては参照によって本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
単接合の結晶シリコン電池の最高エネルギー変換効率は現在26.7%であり、理論上の上限である29.4%に近づいており、効率向上の余地は非常に限られている。ペロブスカイト電池は、ここ数十年で最も注目されている新しい太陽電池として、効率が初期の3.8%から現在の25.5%に向上し、応用の将来性が高い。ペロブスカイト電池の理論上の上限も30%前後であり、その効率向上の余地も非常に限られている。
【0004】
しかし、ペロブスカイト(~1.4-1.8eV)と結晶シリコン(1.14eV)材料のバンドギャップ差を利用して、ペロブスカイト-結晶シリコン積層型太陽電池を構築すると、より効率の高い太陽電池を得ることができる。理論計算によれば、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の効率は40%以上に達することができるが、現在実験室で実現されている変換効率は29.5%に過ぎず、大きな効率向上の余地がある。
【0005】
現在、ペロブスカイト電池は主に溶液法を用いて製造されている。溶液法は、コストが低く、製造が簡単で、ペロブスカイト成分及びバンドギャップが調整しやすい等の多くの利点により、様々な高効率ペロブスカイト電池の製造方法となっている。しかし、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池を製造する時、高効率結晶シリコン電池の表面はテクスチャ光閉じ込め構造を有するが、溶液法では、結晶シリコンテクスチャ上に厚さが均一な高品質のペロブスカイト吸収層を得ることが困難である。
【0006】
図1に示すように、図において、1は結晶シリコン電池であり、4は溶液法で製造されたペロブスカイト薄膜である。溶液法を用いてテクスチャ結晶シリコン上にペロブスカイト薄膜を製造する時、溶液の添加量が少ないと、図1a)に示すように、薄膜が薄くなりすぎて、一部のテクスチャピラミッドの頂部はペロブスカイト薄膜で覆うことができないため、薄膜が不連続となり、上層の電池が短絡しやすくなる。ピラミッドの先端が薄膜で覆われるように溶液の塗布量を増やすと、図1b)に示すように、ピラミッド底部領域のペロブスカイト薄膜が厚くなりすぎる。吸収層が厚すぎると、光生成キャリアの遷移距離が長くなりすぎ、電池効率に影響を与える。
【0007】
また、現在商用されている結晶シリコン電池のテクスチャピラミッドのサイズは通常1~5ミクロンであり、高効率ペロブスカイト電池の吸収層の厚さは通常1ミクロン以下である。吸収層が厚すぎると光生成キャリアの再結合が激しくなり、電池効率が低下する。したがって、一部のピラミッドの先端が吸収層で覆われていない図1a)の場合でも、ほとんどのピラミッド底部領域の吸収層の厚さが1ミクロンを超えたため、キャリアの再結合が激しくなり、これもペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の効率向上を制限する重要な原因の1つである。
【0008】
したがって、テクスチャ結晶シリコン電池上に、完全に覆い且つ厚さが均一で制御可能なペロブスカイト薄膜を溶液塗布の方法によって製造できることで、ペロブスカイト-結晶シリコン積層型太陽電池のエネルギー変換効率を大幅に向上させることは、現在早急に解決すべき重要な技術問題である。
【発明の概要】
【0009】
従来技術に存在する問題について、本願は、抵抗増強用ナノ構造のキャリア輸送層を有するペロブスカイト-結晶シリコン積層電池を提供する。具体的には、本願は次の態様に関する。
【0010】
ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池であって、前記ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池は、順次積層して設けられた結晶シリコン電池、直列構造層、第1キャリア輸送層、ペロブスカイト光吸収層、第2キャリア輸送層、及び上部透明電極層を含み、前記第1キャリア輸送層は、キャリア輸送層のベース層及び前記キャリア輸送層のベース層上に離散的に分布する前記キャリア輸送層のベース層と一体的に形成された抵抗増強用ナノ構造を含み、前記抵抗増強用ナノ構造は、前記キャリア輸送層のベース層から前記ペロブスカイト光吸収層内に延伸する。
【0011】
任意選択で、前記第1キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層に対向する側の表面はテクスチャ構造を有する。
【0012】
任意選択で、前記抵抗増強用ナノ構造のそれぞれは繊維状構造、棒状構造又はナノチューブ構造である。
【0013】
任意選択で、前記抵抗増強用ナノ構造の長さは50~1500nmである。
【0014】
任意選択で、前記抵抗増強用ナノ構造の直径は100~1000nmである。
【0015】
任意選択で、前記キャリア輸送層のベース層の表面における前記抵抗増強用ナノ構造の被覆率は5~70%であり、好ましくは10~60%である。
【0016】
任意選択で、前記キャリア輸送層のベース層の厚さは10~200nmである。
【0017】
任意選択で、第1キャリア輸送層は、TiO、SnO、ZnOから選ばれる1つであるか、又はPEDOT、PEDOT:PSS、PHT、POHT、PODDT、PTAA、NiOから選ばれる1つである。
【0018】
任意選択で、前記ペロブスカイト光吸収層は、前記第1キャリア輸送層を覆い、前記第1キャリア輸送層の抵抗増強用ナノ構造の間隙内に充填される。
【0019】
任意選択で、前記直列構造層は導電材料層又はトンネル接合層である。
【0020】
本願は、上記ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の製造方法をさらに提供し、前記製造方法は、
結晶シリコン電池の1つの表面に直列構造層を形成するステップと、
前記直列構造層の前記結晶シリコン電池とは反対の表面に第1キャリア輸送層を製造するステップと、
前記第1キャリア輸送層の前記直列構造層とは反対の表面にペロブスカイト光吸収層を塗布するステップと、
前記ペロブスカイト光吸収層の前記第1キャリア輸送層とは反対の面に第2キャリア輸送層を製造するステップと、
前記第2キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層とは反対の面に上部透明電極層を形成するステップと、を含み、
第1キャリア輸送層を製造する前記ステップは、キャリア輸送層のベース層を製造すること、及び前記キャリア輸送層のベース層上に前記キャリア輸送層のベース層と一体的に形成された離散的に分布する抵抗増強用ナノ構造を製造することを含む。
【0021】
任意選択で、前記第1キャリア輸送層は、1段階のコンフォーマル製造法又は2段階のコンフォーマル製造法により実現される。
【0022】
任意選択で、前記第1キャリア輸送層は、気相法又は電気メッキ法により製造される。
【0023】
本願は、抵抗増強用ナノ構造のキャリア輸送層を有するペロブスカイト-結晶シリコン積層電池を提供し、該キャリア輸送層は、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の上層の電池に用いられ、キャリア輸送層としてキャリア輸送材料のキャリア収集及び伝導の能力を強化できるとともに、ペロブスカイト前駆体溶液が結晶シリコン電池のテクスチャピラミッド構造上に厚さが均一で、完全に覆う薄膜を形成するようにすることができ(ナノ構造の毛細管効果に基づく)、これによりピラミッドの先端と底部のペロブスカイト厚さはほぼ一致となり、ピラミッド底部の吸収層が厚すぎ、ピラミッドの先端が完全に覆われにくいという問題を回避したため、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池のエネルギー変換効率を大幅に向上させた。また、ペロブスカイト-結晶シリコン積層型太陽電池の光閉じ込め効果を高め、電池変換効率をさらに向上させることができる。ペロブスカイト成分を柔軟に調整することができ、エネルギー変換効率を大幅に向上させることができる。
【0024】
以上は本願の技術的解決手段を概略的に説明したが、本開示の技術的手段をより明瞭に理解して明細書の内容に基づいて実施できるように、且つ本開示の上記及び他の目的、特徴及びメリットをより分かりやすくするために、以下において、本開示の具体的な実施形態を挙げる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本開示の実施例又は関連技術における技術的解決手段をより明瞭に説明するために、以下において、実施例又は関連技術の説明に用いられる図面について簡単に説明するが、当然ながら、以下に記載する図面は本開示の実施例の一部であり、当業者であれば、創造的な労力を要することなく、これらの図面に基づいて他の図面に想到し得る。
図面は本願をより好適に理解するためのものであり、本願を不適切に限定する意図がない。
図1】従来技術におけるペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の構造模式図である。
図2】本願のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の構造模式図である。
図3】抵抗増強用ナノ構造を有する(図3a)/抵抗増強用ナノ構造を有さない(図3b)キャリア輸送層の表面に溶液法によってペロブスカイト薄膜を塗布する模式図である。
図4】本願の抵抗増強用ナノ構造の構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示の実施例の目的、技術的解決手段及び利点をより明確にするために、以下に本開示の実施例における図面を参照し、本開示の実施例における技術的解決手段を明確に、完全に説明し、当然ながら、説明される実施例は本開示の実施例の一部に過ぎず、全ての実施例ではない。本開示における実施例に基づき、当業者が創造的な労力を要することなく得られた他の全ての実施例は、いずれも本開示の保護範囲に属する。
【0027】
他に定義されない限り、本明細書における技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。実験又は実際の応用において本明細書に記載されているものと類似又は同等の方法及び材料を使用することができるが、方法及び材料については下記に説明する。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書が優先する。また、材料、方法、及び例は、単に説明的なものであって、限定を意図したものではない。以下において、具体的な実施例により本願をさらに説明するが、本願の範囲を限定するものではない。
【0028】
従来技術に存在する問題について、本願は、抵抗増強用ナノ構造のキャリア輸送層を有するペロブスカイト-結晶シリコン積層電池を提供する。具体的には、前記ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の構造は図2に示すように、順次積層して設けられた結晶シリコン電池1、直列構造層2、第1キャリア輸送層31、ペロブスカイト光吸収層32、第2キャリア輸送層33、及び上部透明電極層34を含む。そのうち、結晶シリコン電池1は下層の電池であり、第1キャリア輸送層31、ペロブスカイト光吸収層32、第2キャリア輸送層33及び上部透明電極層34は共に上層の電池を構成する。
【0029】
結晶シリコン電池1のタイプは、単結晶シリコン、多結晶シリコン太陽電池であってもよく、その基板シリコン材料のドーピングタイプは限定されず、表面PN接合又は裏面PN接合構造であってもよく、片面又は両面構造であってもよい。結晶シリコン電池1は、従来技術で知られている方法により製造されてもよく、又は例えばP-PERC単結晶シリコン電池、HIT電池、Topcon電池等のような商業化された結晶シリコン電池としてもよい。
【0030】
具体的な一実施形態において、結晶シリコン電池1の前記直列構造層2に向かう面はピラミッドテクスチャを有する。つまり、結晶シリコン電池1は、図1に示す構造を有し、直列構造層2に向かう面は連続して配列されたピラミッド構造を有する。
【0031】
直列構造層2は、結晶シリコン電池1と第1キャリア輸送層31の間に位置し、前記上層の電池と前記下層の電池を直列接続するために用いられる。直列構造層2は、導電材料層、トンネル接合層、又は他の直列構造層であってもよい。ここで、導電材料は、酸化インジウムスズ(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等の透明導電性半導体材料であってもよく、又は金属材料、多種の金属の混合材料等であってもよい。導電材料は、完全な層であってもよいし、導電材料が充填された開孔や溝を有する構造としてもよい。
【0032】
第1キャリア輸送層31の構造は、図2図4に示すように、キャリア輸送層のベース層311及びキャリア輸送層のベース層311上に離散的に分布する前記キャリア輸送層のベース層と一体的に形成された抵抗増強用ナノ構造312を含み、抵抗増強用ナノ構造312は、キャリア輸送層のベース層311からペロブスカイト光吸収層32内に延伸する。一体形成とは、キャリア輸送層のベース層311と抵抗増強用ナノ構造312が一体的に形成され、シームレスに接続されていることを意味し、抵抗増強用ナノ構造312はキャリア輸送層のベース層311の末端構造である。
【0033】
抵抗増強用ナノ構造とキャリア輸送層のベース層の一体化構造は、不必要な界面抵抗を低減でき、且つ抵抗増強用ナノ構造は、ペロブスカイト光吸収層を固定するとともに、キャリア輸送の末端構造としてペロブスカイト光吸収層に深く入り、キャリアの輸送をさらに強化することができる。また、抵抗増強用ナノ構造は、光閉じ込め作用を生じることもできる。さらに、前記第1キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層に対向する側の表面がテクスチャ構造を有する時、光閉じ込め作用をさらに強化することができる。
【0034】
ここで、第1キャリア輸送層31は、有機ポリマー材料であってもよく、金属酸化物材料であってもよい。有機ポリマーの場合、1段階のコンフォーマル製造法を用いて製造することができ、金属酸化物材料の場合、2段階のコンフォーマル製造法を用いて製造することができる。
【0035】
第1キャリア輸送層31は、電子輸送材料で作られてもよいし、正孔輸送材料で作られてもよい。ここで、電子輸送材料は、TiO、SnO、ZnO、BBL:PEI(ポリ(ベンゾイミダゾベンゾフェナントロリン)-ポリエチレンイミン)等であってもよい。正孔輸送材料は、PEDOT、PEDOT:PSS、PHT、POHT、PODDT、PTAA及びNiO等であってもよい。抵抗増強用ナノ構造312を有する第1キャリア輸送層31は、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の上層の電池に用いられ、キャリア輸送層として用いられるとともに、ペロブスカイト前駆体溶液が結晶シリコン電池のテクスチャピラミッド構造上に厚さが均一で、完全に覆う薄膜を形成するようにすることもできる。抵抗増強用ナノ構造312の具体的な作用原理は図3に示す通りであり、そのうち、図3aは、抵抗増強用ナノ構造を有するキャリア輸送層の表面に溶液法によってペロブスカイト薄膜を塗布する模式図であり、図3bは、抵抗増強用ナノ構造を有さないキャリア輸送層の表面に溶液法によってペロブスカイト薄膜を塗布する模式図である。
【0036】
図3aでは、キャリア輸送層のベース層311上に抵抗増強用ナノ構造312を設け、ピラミッドテクスチャ、即ち結晶シリコン電池1上にペロブスカイト溶液を塗布した後、ナノ構造の毛細管作用により、ペロブスカイト前駆体溶液をナノ構造間の間隙に吸着・固定し、ナノ構造の表面に均一な被覆層を形成することができる(液面の張力作用)。溶液塗布後、熱処理してペロブスカイト光吸収層薄膜を得る前に、ピラミッドテクスチャ谷部領域の余分な溶液を除去するために一定の措置を取り、その後湿った膜を熱処理すれば、図3aに示す抵抗増強用ナノ構造312を有するキャリア輸送層を均一に覆うペロブスカイト光吸収層32を得ることができ、ペロブスカイト光吸収層32は、離散的に分布している複数の抵抗増強用ナノ構造312の間隙内に十分に充填することができ、これによりキャリア輸送材料のキャリア収集及び伝導の能力をさらに強化する。
【0037】
一方、図3bに示すように、抵抗増強用ナノ構造312を有さない場合、溶液法を用いてペロブスカイト光吸収層を製造すると、図に示す状況が発生しやすく、つまり、ピラミッドテクスチャ谷部の領域に大量の溶液が堆積するため、ペロブスカイト光吸収層が厚すぎ、一方、ピラミッドの先端領域ので、溶液が付着しにくいため、吸収層が薄すぎて、尖端が露出してしまうことさえある。
【0038】
したがって、本願の抵抗増強用ナノ構造312を使用することによって、ピラミッドの先端と底部のペロブスカイト厚さがほぼ一致となり、ピラミッド底部の吸収層が厚すぎ、ピラミッドの先端が完全に覆われにくいという問題を回避したため、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池のエネルギー変換効率を大幅に向上させる。
【0039】
キャリア輸送層のベース層311は結晶シリコン電池1の上面に設けられ、厚さは10~200nmとしてもよく、例えば、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、110nm、120nm、130nm、140nm、150nm、160nm、170nm、180nm、190nm、200nmであってもよい。キャリア輸送層のベース層311は主に、キャリアの横方向収集及び輸送の作用を果たし、つまり、吸収層によって生じたキャリアを横方向に輸送して直列構造層に収集する。したがって、この厚さは厚すぎても薄すぎてもよくない。ベース層が厚すぎると、直列構造までの縦方向の輸送距離が長すぎて、輸送抵抗が大きすぎる。ベース層が薄すぎると、薄膜の断面積が小さすぎ、横方向の輸送抵抗が大きすぎ、吸収層におけるキャリアの横方向収集及び輸送に不利である。
【0040】
図2図4に示すように、抵抗増強用ナノ構造312は、繊維状構造、棒状構造又はナノチューブ構造であってもよく、キャリア輸送層のベース層311上に略鋸歯状又は櫛形の構造が形成される。
【0041】
抵抗増強用ナノ構造312は短すぎても長すぎてもよくない。短すぎると、毛細管作用が弱すぎ、抵抗増強の作用が明らかでない。長すぎると、吸収層が厚すぎて、上層の電池効率の向上に不利である他に、ナノ構造の根元へのペロブスカイト前駆体溶液の充填が難しくなり、根元にいくつかの空隙が発生して、電池効率に影響を与える。通常、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池において、上層のペロブスカイト電池の吸収層の厚さは1600nm以下である。上層のペロブスカイト電池の吸収層の具体的な厚さは、電流適合の原則に基づき、下層の結晶シリコン電池の電流に応じて決定する必要がある。したがって、抵抗増強用ナノ構造の上限は吸収層の厚さを超えないことが望ましく、抵抗増強用ナノ構造が上層のペロブスカイト電池の吸収層の厚さを超えると、対向するキャリア輸送層との接触により短絡現象が発生し、電池効率が低下する。したがって、抵抗増強用ナノ構造を超える吸収層の部分の厚さの変動を考慮すると、本願の抵抗増強用ナノ構造の長さは≦1500nmとする。
【0042】
また、上層のペロブスカイト電池の吸収層が量子ドットで構成される場合、抵抗増強用ナノ構造は量子ドットのサイズより大きくする必要があり、そうでなければ抵抗増強用ナノ構造は微々たるものである。一般的に、量子ドットのサイズが<50nmであるため、本願の抵抗増強用ナノ構造の長さは≧50nmとする。
【0043】
具体的な一実施形態において、抵抗増強用ナノ構造312の長さは50~1500nmであり、例えば、50nm、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、1100nm、1200nm、1300nm、1400nm、1500nmであってもよい。ここで、抵抗増強用ナノ構造の長さとは、抵抗増強用ナノ構造の末端から、キャリア輸送層のベース層のペロブスカイト光吸収層に向かう表面までの距離を意味する。
【0044】
抵抗増強用ナノ構造312の直径は、抵抗増強効果、ナノ構造内の充填効果及びナノ構造自体の強度を考慮する必要がある。また、抵抗増強用ナノ構造の直径は、結晶シリコンテクスチャピラミッド構造の特殊なサイズを考慮する必要もある。一般的に、既存の商用テクスチャ結晶シリコン表面のピラミッド構造は1000nm以上である。したがって、抵抗増強用ナノ構造の直径は一般に1000nm以下である。直径が大きすぎると、抵抗増強用ナノ構造自体がテクスチャ構造を埋めてしまい、「コンフォーマル」を実現することができず、テクスチャの光閉じ込め効果を維持できない。また、ナノ構造の直径が小さすぎると、ナノ構造自体の強度が不足して、倒れたり破損しやすい他に、抵抗増強効果が得られない。ナノ材料の分野では、100nm以上のナノ構造は強度と長期安定性の点で優れた性能を持っていると一般に考えられている。
【0045】
具体的な一実施形態において、抵抗増強用ナノ構造312の直径は100~1000nmであり、例えば、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nmであってもよい。ここで、抵抗増強用ナノ構造の直径とは、抵抗増強用ナノ構造横断面の平均直径をいう。
【0046】
抵抗増強用ナノ構造312の長さ及び抵抗増強用ナノ構造312の直径と同じ影響要因を考慮すると、キャリア輸送層のベース層311の表面における抵抗増強用ナノ構造312の被覆率は5~70%であり、好ましくは10~60%であり、例えば、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%であってもよい。ここで、キャリア輸送層のベース層311の表面における抵抗増強用ナノ構造312の被覆率とは、キャリア輸送層のベース層311の表面における抵抗増強用ナノ構造312の面積とキャリア輸送層のベース層311の面積との比をいう。
【0047】
本願の抵抗増強用ナノ構造のキャリア輸送層を有するペロブスカイト-結晶シリコン積層電池は、上述したペロブスカイト-結晶シリコン積層電池のエネルギー変換効率を大幅に向上させるという利点に加えて、さらに以下の技術的効果を有する。
【0048】
(1)ペロブスカイト薄膜は結晶シリコンテクスチャ上にほぼコンフォーマルに成長するため、結晶シリコンのテクスチャ光閉じ込め構造は上層の電池内に保たれ、ペロブスカイト-結晶シリコン積層型太陽電池の光閉じ込め効果を高め、電池変換効率をさらに向上させることができる。
【0049】
(2)蒸着法は厚さが均一で、形態コンフォーマルなペロブスカイト薄膜を得ることができるが、蒸着法によるペロブスカイト薄膜製造の時、ペロブスカイト成分を制御することが困難であり、これにより、ペロブスカイト層のバンドギャップの制御は困難であり、積層電池の上層の電池の吸収層には不利である。本願に記載の技術的解決手段を採用すると、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の上層の電池の吸収層はコンフォーマルに成長できるとともに、バンドギャップを柔軟に調整することができ、エネルギー変換効率を大幅に向上させることができる。
【0050】
本願は、上記ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の製造方法をさらに提供し、前記製造方法は、
結晶シリコン電池の1つの表面に直列構造層を形成するステップと、
前記直列構造層の前記結晶シリコン電池とは反対の表面に第1キャリア輸送層を製造するステップと、
前記第1キャリア輸送層の前記直列構造層とは反対の表面にペロブスカイト光吸収層を塗布するステップと、
前記ペロブスカイト光吸収層の前記第1キャリア輸送層とは反対の面に第2キャリア輸送層を形成するステップと、
前記第2キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層とは反対の面に上部透明電極層を形成するステップと、を含み、
ここで、第1キャリア輸送層を製造する前記ステップは、キャリア輸送層のベース層を製造すること、及び前記キャリア輸送層のベース層上に前記キャリア輸送層のベース層と一体的に形成された離散的に分布する抵抗増強用ナノ構造を製造することを含む。第1キャリア輸送層31の製造方法は、液相塗布の方法を使用することができず、液相塗布法で製造する時、テクスチャピラミッドにおける塗布ムラの問題が依然として存在し、本願の技術的問題を完全に解決することができないからである。
【0051】
したがって、第1キャリア輸送層31の製造方法は、コンフォーマル成長の特徴を有する必要がある。
【0052】
「コンフォーマル成長」とは、特定の表面形態特徴を有する基板上にコーティング層又は薄膜を製造した後、前記薄膜が基板本来の形態に沿って成長することをいう。コーティング層又は薄膜を有する「基板+薄膜の組み合わせ」は、基板本来の表面と同じ「表面形態特徴」を有する。
【0053】
具体的には、31の製造方法は次の2つの方法を採用することができる。
【0054】
(1)1段階のコンフォーマル製造法
1段階のコンフォーマル製造法で使用できる材料は有機ポリマー材料であり、本分野で知られている気相法を採用することができる。
【0055】
気相法は、本特許に記載の抵抗増強用ナノ構造を有する有機ポリマーによる第1キャリア輸送層を一工程で合成することができる。
【0056】
具体的には、まず基板を準備し、物理気相成長の方法で、ポリマーモノマーの重合反応に必要な触媒層を基板上に堆積する。次に、触媒が堆積された基板をポリマーモノマーの蒸気中に置き、モノマー蒸気が基板上の触媒と接触し、2つの相の界面で重合反応が起こる。
【0057】
形態制御の原理は次の通りである。a、反応容器内のモノマーの蒸気圧が大きい場合、モノマー蒸気が凝結して霧滴となり、霧滴が触媒層と接触すると、接触領域で反応が起こり、霧滴との接触がない領域で、モノマーがなく、重合反応が起こらず、この場合、ナノ構造が形成される。b、反応容器内のモノマーの蒸気圧が小さい場合、モノマー蒸気が反応容器のキャビティ内に均一に分布し、モノマーが触媒と均一に接触し、基板上に均一なポリマー薄膜が形成される。
【0058】
上記重合反応の過程において、初期段階でモノマーの蒸気圧を制御して飽和させて液滴を形成することで、抵抗増強用ナノ構造312が形成され、後期段階で蒸気圧が低く、表面全体で反応して、均一なベース層311が形成される。311と312が連続して一度に形成されるため、311と312が一体に接続され、キャリアの輸送により有利である。
【0059】
(2)2段階のコンフォーマル製造法
2段階のコンフォーマル製造法で使用できる材料は、金属酸化物材料である。
【0060】
第1ステップでは、コンフォーマル特徴を有する必要があり(必要条件)、物理気相成長法、電気メッキ法等を用いることができる。「金属酸化物」に対応する金属単体薄膜を基板上に堆積又は電気メッキする。
【0061】
第2ステップでは、陽極電気化学酸化法によって金属単体層を金属酸化物に酸化する。
【0062】
形態制御の原理は次の通りである。陽極酸化時に電流、電解液溶媒のタイプ、溶質濃度等のパラメータを制御し、酸化反応が局所的に起こる場合は、抵抗増強用ナノ構造312が形成され、酸化反応が表面で起こる場合は、ベース層311が形成される。
【0063】
上記した金属酸化の過程が中断されなければ、312と311は一体に接続される。
【0064】
ペロブスカイト光吸収層32は、有機-ハイブリッドハロゲン化物ペロブスカイト、全無機ハロゲン化物ペロブスカイトであってもよく、無鉛ペロブスカイト、ダブルペロブスカイト等の他のペロブスカイト構造の光吸収材料であってもよい。
【0065】
第2キャリア輸送層33は、電子輸送材料又は正孔輸送材料で製造され得るが、第1キャリア輸送層31とは逆の導電型を有する。つまり、第1キャリア輸送層31が電子輸送材料で製造された場合、第2キャリア輸送層33は正孔輸送材料で製造され、第1キャリア輸送層31が正孔輸送材料で製造された場合、第2キャリア輸送層33は電子輸送材料で製造される。
【0066】
上部透明電極層34は、例えば、FTO、ITO、AZO等の従来技術で一般的に使用されている透明電極であってもよい。
【0067】
実施例
実施例1
N型シリコンウェハによるHJT(ヘテロ接合)太陽電池を下層の電池として準備した。
【0068】
N型シリコンウェハによるHJT(ヘテロ接合)太陽電池の表面に、マグネトロンスパッタリング法を用いて直列構造層を製造し、ITOを使用し、厚さは200nmであった。
【0069】
直列構造層の表面に第1キャリア輸送層を製造し、ここで第1キャリア輸送層は、抵抗増強用ナノ構造を有する正孔輸送層であり、気相法で合成されたPEDOTを使用し、キャリア輸送層のベース層の厚さは50nmで、抵抗増強用ナノ構造は繊維状で、長さが500nm、直径が150nmであり、キャリア輸送層のベース層における抵抗増強用ナノ構造の表面被覆率は40%であった。ここで、抵抗増強用ナノ構造の形態、長さ、直径は、電子顕微鏡観察により得ることができ、表面被覆率は、比表面積分析装置により得ることができる。
【0070】
前記第1キャリア輸送層の前記直列構造層とは反対の表面にペロブスカイト光吸収層を塗布し、ここでペロブスカイト光吸収層はMAPbIペロブスカイトを使用し、厚さが800nmである。ペロブスカイト塗布の方法は、ディップコーティング法を使用し、第1キャリア輸送層で覆われた結晶シリコン電池を濃度1.5MのMAPbIペロブスカイトのDMF溶液に浸漬し、20mm/minの速度で引き上げた。引き上げが終了した後、100℃で10分間乾燥させ、MAPbIペロブスカイト光吸収層を得た。
【0071】
蒸着法を用いて、前記ペロブスカイト光吸収層の前記第1キャリア輸送層とは反対の面に電子輸送層である第2キャリア輸送層を製造し、電子輸送層の材料としてC60を使用し、厚さは50nmであった。
【0072】
マグネトロンスパッタリング法を用いて、前記第2キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層とは反対の面に上部透明電極層を形成し、ここで上部透明電極としてITOを使用し、厚さは300nmであった。
【0073】
ここで、第1キャリア輸送層は気相法で合成され、具体的なステップは次の通りである。物理的気相成長法を使用して基板上に20nmの酸化鉄層を堆積し、ガラス反応器内に12μLの濃塩酸、60μLの濃度1.56Mのピロールのクロルベンゼン溶液を入れ、130℃の条件で1.5h反応させ、最終的にはFeCl不純物含有のPEDOT薄膜と櫛形構造を得、その後、6MHClで洗浄し、最終的には抵抗増強用ナノ構造を有するPEDOT正孔輸送層を得た。
【0074】
本実施例のペロブスカイト-PERC結晶シリコン積層電池の効率は28.1%であった。
【0075】
実施例2
N型シリコンウェハによるHJT(ヘテロ接合)太陽電池を下層の電池として準備した。
【0076】
マグネトロンスパッタリング法を用いて、N型シリコンウェハによるHJT(ヘテロ接合)太陽電池の表面に直列構造層を製造し、ITOを使用し、厚さは200nmであった。直列構造層の表面に第1キャリア輸送層を製造し、ここで第1キャリア輸送層は、抵抗増強用ナノ構造を有する電子輸送層であり、陽極酸化法で製造されたTiOアレイを使用し、キャリア輸送層のベース層の厚さは20nmであり、抵抗増強用ナノ構造は棒状構造で、長さが400nm、直径が150nmであり、キャリア輸送層のベース層における抵抗増強用ナノ構造の被覆率は60%であった。
【0077】
前記第1キャリア輸送層の前記直列構造層とは反対の表面にペロブスカイト光吸収層を塗布し、ここでペロブスカイト光吸収層はFAPbIペロブスカイト材料を使用し、厚さが700nmであった。ペロブスカイト塗布の方法は、ディップコーティング法を使用し、第1キャリア輸送層で覆われた結晶シリコン電池を濃度1.3MのFAPbIペロブスカイト溶液(溶媒はDMF:DMSO=4:1の混合溶媒)に浸漬し、25mm/minの速度で引き上げた。引き上げが終了した後、120℃で15分間乾燥させ、FAPbIペロブスカイト光吸収層を得た。
【0078】
前記ペロブスカイト光吸収層の前記第1キャリア輸送層とは反対の面に正孔輸送層である第2キャリア輸送層を製造し、Spiro-TTBを使用し、厚さは100nmであり、蒸着法を用いて製造された。
【0079】
前記第2キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層とは反対の面に上部透明電極を形成し、ここで上部透明電極はITOを使用し、厚さは350nmであり、マグネトロンスパッタリング法を用いて製造された(従来技術)。
【0080】
ここで、第1キャリア輸送層は陽極酸化法で製造され、具体的なステップは次の通りである。基板上に100nmの金属Ti薄膜を蒸着法により蒸着し、次にTi膜でコーティングされた基板を陽極とし、Ptシートを陰極とし、0.5wt%NHF水溶液の電解液(PH=4~5)中に18Vの電圧下で4時間酸化し、抵抗増強用ナノ構造を有するTiO電子輸送層を得た。
【0081】
本実施例のペロブスカイト-HJT結晶シリコン積層電池の効率は27.6%であった。
【0082】
実施例3
本実施例と実施例1の違いは、本実施例の抵抗増強用ナノ構造の長さが300nmである点である。
得られた積層電池の効率は26.8%であった。
【0083】
実施例4
本実施例と実施例1の違いは、本実施例の抵抗増強用ナノ構造の被覆率が5%である点である。
得られた積層電池の効率は25.1%であった。
【0084】
実施例5
本実施例と実施例1の違いは、本実施例の抵抗増強用ナノ構造の被覆率が70%である点である。
得られた積層電池の効率は24.9%であった。
【0085】
実施例6
本実施例と実施例1の違いは、本実施例の抵抗増強用ナノ構造の長さが50nmである点である。
得られた積層電池の効率は27.5%であった。
【0086】
実施例7
本実施例と実施例1の違いは、本実施例の抵抗増強用ナノ構造の長さが1100nmである点である。
得られた積層電池の効率は26.9%であった。
【0087】
比較例1
本実施例と実施例1の違いは、第1キャリア輸送層がベース層のみを含み、抵抗増強用ナノ構造を含まない点である。
得られた積層電池の効率は24.1%であった。
【0088】
比較例2
N型シリコンウェハによるHJT(ヘテロ接合)太陽電池を下層の電池として準備した。
【0089】
マグネトロンスパッタリング法を用いて、N型シリコンウェハによるHJT(ヘテロ接合)太陽電池の表面に直列構造層を製造し、ITOを使用し、厚さは200nmであった。マグネトロンスパッタリングの方法を使用して、直列構造層に厚さ50nmの緻密SnO薄膜を第1キャリア輸送層として製造し、ここで下層の電池頂部の表面、直列構造層、第1キャリア輸送層はいずれも模造ピラミッドテクスチャを有し、模造ピラミッドテクスチャを有する第1キャリア輸送層の表面にTiO抵抗増強用ナノ材料を製造する。
【0090】
具体的には、次の方法に従って製造する。1)、TiOナノ懸濁粒子含有の懸濁液を調製し、ここで、TiOナノ粒子のサイズは10~150nmであった。TiO懸濁粒子の体積と懸濁液総体積との比は1:1000であった。2)、尖端がくさび形のブラシを用いて、模造ピラミッドテクスチャを有する第1キャリア輸送層の表面に厚さ2000nmのTiO懸濁液を均一に塗布した。3)、200℃に置いて高速乾燥して水分を除去し、第1キャリア輸送層上に平均間隔100nmのTiO抵抗増強用ナノ材料を得た。ここで、第1キャリア輸送層におけるTiO抵抗増強用ナノ材料の被覆率は40%であった。4)、分散状態のナノ粒子を有する模造ピラミッドテクスチャを高温500℃に置いて10minアニール処理し、TiOナノ粒子と第1キャリア輸送層との結合強度を高め、表面にナノスケールの凸起を有するTiO抵抗増強用ナノ材料による第1キャリア輸送層を得た。
【0091】
前記したTiO抵抗増強用ナノ材料で覆われた第1キャリア輸送層の表面にペロブスカイト光吸収層を塗布し、ここでペロブスカイト光吸収層は、FAPbIペロブスカイト材料を使用し、厚さが700nmであった。ペロブスカイト塗布の方法は、ディップコーティング法を使用し、第1キャリア輸送層で覆われた結晶シリコン電池を濃度1.3MのFAPbIペロブスカイト溶液(溶媒はDMF:DMSO=4:1の混合溶媒)に浸漬し、25mm/minの速度で引き上げた。引き上げが終了した後、120℃で15分間乾燥させ、FAPbIペロブスカイト光吸収層を得た。
【0092】
前記ペロブスカイト光吸収層の前記第1キャリア輸送層とは反対の面に正孔輸送層である第2キャリア輸送層を製造し、Spiro-TTBを使用し、厚さは100nmであり、蒸着法を用いて製造された。
【0093】
前記第2キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層とは反対の面に上部透明電極層を形成し、ここで上部透明電極層はITOを使用し、厚さが350nmであり、マグネトロンスパッタリング法を用いて製造された(従来技術)。
【0094】
ここで、31は陽極酸化法で製造され、具体的なステップは次の通りである。基板上に100nmの金属Ti薄膜を蒸着法により蒸着し、次にTi膜でコーティングされた基板を陽極とし、Ptシートを陰極とし、0.5wt%NHF水溶液の電解液(PH=4~5)中に18Vの電圧下で4時間酸化し、抵抗増強用ナノ構造を有するTiO電子輸送層を得た。
【0095】
本実施例のペロブスカイト-HJT結晶シリコン積層電池の効率は24.8%であった。
【0096】
上記各実施例と比較例の具体的な条件を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
本願の実施例1、4、5を比較することにより、本願の抵抗増強用ナノ構造について、第1キャリア輸送層に対する被覆率が5%である場合は被覆率40%の場合に比べて、効率増加が低いことが分かり、その原因は、抵抗増強用ナノ構造が非常にまばらで、抵抗増強効果が限られているとともに、キャリア吸収及び伝導性能の改善も小さく、効率向上が限られていることにあり、したがって、抵抗増強用ナノ構造の被覆率が5%を下回るべきではない。第1キャリア輸送層に対する抵抗増強用ナノ構造の被覆率が70%である場合は被覆率40%の場合に比べて、効率増加が低く、その原因は、被覆率が大きすぎることにより、第1キャリア輸送層の粗さが大きすぎ、高品質のペロブスカイト吸収層薄膜の形成に不利になったが、吸収層薄膜の品質が電池効率に重要な役割を果たしていることにある。したがって、被覆率が増加し続けると、その電池効率が急激に低下するため、抵抗増強用ナノ構造の被覆率は70%を超えるべきではない。
【0099】
本願の実施例1~7の積層電池の効率試験と比較例1、2の積層電池の効率試験とを比較することにより、本願の技術的解決手段は、抵抗増強用ナノ材料を有さない積層電池又は一般的な方式で抵抗増強用ナノ材料を形成した積層電池に比べて、電池効率が大幅に向上したことが分かる。ここで、比較例2ではTiO抵抗増強用ナノ材料を使用したが、第1キャリア輸送層とTiO抵抗増強用ナノ材料が異なる導電材料であり、且つ物理的界面のみを介して互いに接触するため、互いの接触界面には大きな接触抵抗が生じる。第1キャリア輸送層の表面におけるTiO抵抗増強用ナノ材料の被覆率が40%に達した場合、上記接触抵抗が第1キャリア輸送層とペロブスカイト光吸収層との間のキャリア輸送障害を引き起こすだけでなく、TiO抵抗増強用ナノ材料自体が第1キャリア輸送層とペロブスカイト光吸収層との間に分布して、少数のキャリア再結合中心が形成する可能性があるため、電池の変換効率が著しく低下する。
【0100】
以上、図面を参照しながら本願の実施形態を説明したが、本願は上記具体的な実施形態及び応用分野に限定されるものではなく、上記の具体的な実施形態は例示的、指導的なものに過ぎず、限定的なものではない。本明細書の示唆をもとに、当業者が本願の特許請求の保護範囲から逸脱することなくなし得る多くの形態は、いずれも本願の保護範囲に属する。
【符号の説明】
【0101】
1 結晶シリコン電池
2 直列構造層
31 第1キャリア輸送層
311 キャリア輸送層のベース層
312 抵抗増強用ナノ構造
32 ペロブスカイト光吸収層
33 第2キャリア輸送層
34 上部透明電極層
4 ペロブスカイト薄膜
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-05-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
順次積層して設けられた結晶シリコン電池、直列構造層、第1キャリア輸送層、ペロブスカイト光吸収層、第2キャリア輸送層、及び上部透明電極層を含み、前記第1キャリア輸送層は、キャリア輸送層のベース層及び前記キャリア輸送層のベース層上に離散的に分布する前記キャリア輸送層のベース層と一体的に形成された抵抗増強用ナノ構造を含み、前記抵抗増強用ナノ構造は、前記キャリア輸送層のベース層から前記ペロブスカイト光吸収層内に延伸する、ペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項2】
前記第1キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層に対向する側の表面はテクスチャ構造を有する、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項3】
前記抵抗増強用ナノ構造のそれぞれは繊維状構造、棒状構造又はナノチューブ構造である、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項4】
前記抵抗増強用ナノ構造の長さは50~1500nmである、請求項3に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項5】
前記抵抗増強用ナノ構造の直径は100~1000nmである、請求項4に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項6】
前記キャリア輸送層のベース層の表面における前記抵抗増強用ナノ構造の被覆率は5~70%であり、好ましくは10~60%である、請求項に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項7】
前記キャリア輸送層のベース層の厚さは10~200nmである、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項8】
第1キャリア輸送層は、TiO、SnO、ZnOから選ばれる1つであるか、又はPEDOT、PEDOT:PSS、PHT、POHT、PODDT、PTAA、NiOから選ばれる1つであ、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項9】
前記ペロブスカイト光吸収層は、前記第1キャリア輸送層を覆い、前記第1キャリア輸送層の抵抗増強用ナノ構造の間隙内に充填される、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項10】
前記直列構造層は導電材料層又はトンネル接合層である、請求項1に記載のペロブスカイト-結晶シリコン積層電池。
【請求項11】
結晶シリコン電池の1つの表面に直列構造層を形成するステップと、
前記直列構造層の前記結晶シリコン電池とは反対の表面に第1キャリア輸送層を製造するステップと、
前記第1キャリア輸送層の前記直列構造層とは反対の表面にペロブスカイト光吸収層を塗布するステップと、
前記ペロブスカイト光吸収層の前記第1キャリア輸送層とは反対の面に第2キャリア輸送層を製造するステップと、
前記第2キャリア輸送層の前記ペロブスカイト光吸収層とは反対の面に上部透明電極層を形成するステップと、を含み、
第1キャリア輸送層を製造する前記ステップは、キャリア輸送層のベース層を製造すること、及び、前記キャリア輸送層のベース層上に前記キャリア輸送層のベース層と一体的に形成された離散的に分布する抵抗増強用ナノ構造を製造することを含むペロブスカイト-結晶シリコン積層電池の製造方法。
【請求項12】
前記第1キャリア輸送層は、1段階のコンフォーマル製造法又は2段階のコンフォーマル製造法により実現される、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1キャリア輸送層は、気相法又は電気メッキ法により製造される、請求項11に記載の製造方法。
【国際調査報告】