(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】外科用装置、座屈ワイヤを予備曲げするための装置、軟組織に対して移植物をフェルティングするための方法、および座屈ワイヤを予備曲げするための方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/04 20060101AFI20241031BHJP
A61B 17/06 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61B17/04
A61B17/06 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518917
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 EP2022083491
(87)【国際公開番号】W WO2023099409
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523174653
【氏名又は名称】ツリメト・テヒノロジース・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】ZURIMED TECHNOLOGIES AG
(74)【代理人】
【識別番号】110003926
【氏名又は名称】弁理士法人イノベンティア
(72)【発明者】
【氏名】バンツェット, ポール
(72)【発明者】
【氏名】グラフ, レト
(72)【発明者】
【氏名】バッハマン, エリアス
(72)【発明者】
【氏名】リー, シャン
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160BB01
4C160BB11
(57)【要約】
本発明は、対象の軟組織に移植物をフェルティングするための外科用装置(10)に関する。装置は、往復運動するように構成された少なくとも1つのフェルト針(1)を備える。この装置は、少なくとも1つのフェルト針が、往復運動中に剛性構造体との接触によって損傷するのを防止するための針保護機構を備える。針保護機構は、往復運動をアクチュエータから少なくとも1つのフェルト針に伝達するように構成された座屈ワイヤ(3)を備える。座屈ワイヤは、少なくとも1つのフェルト針が、座屈ワイヤが軸方向に圧縮されるように剛性構造体に接触する場合に、座屈するように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の軟組織に対して移植物をフェルティングするための外科用装置(10)であって、往復運動するように構成された少なくとも1つのフェルト針(1)を含み、前記装置は、前記往復運動中に前記少なくとも1つのフェルト針が剛性構造体との接触によって損傷を受けることを防止するための針保護機構を含み、前記針保護機構は、前記往復運動をアクチュエータから前記少なくとも1つのフェルト針に伝達する座屈ワイヤ(3)を含み、前記少なくとも1つのフェルト針が前記剛性構造体と接触して前記座屈ワイヤが軸方向に圧縮される場合、前記座屈ワイヤが座屈するように構成される、外科用装置。
【請求項2】
前記座屈ワイヤの座屈荷重が、前記針が前記軟組織を貫通する荷重よりも大きく、前記少なくとも1つのフェルト針を損傷するのに必要な荷重、特に、前記少なくとも1つのフェルト針を、曲げ、破損させ、および/または折るのに必要な荷重よりも小さいように、ワイヤが寸法決めされる、請求項1に記載の外科用装置。
【請求項3】
前記座屈荷重が0.1~40N、好ましくは2.5~10N、最も好ましくは4.5~7Nである、請求項2に記載の外科用装置。
【請求項4】
前記座屈ワイヤは、形状記憶合金、特にニチノールまたはニチノール合金、または弾性軟質プラスチックを含むか、またはそれから作製され、かつ/または該ワイヤは、チューブ形状を有し、かつ/または切り欠きを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の外科用装置。
【請求項5】
前記装置は、前記アクチュエータから前記少なくとも1つのフェルト針に前記往復運動を伝達する、1または複数のさらなる座屈ワイヤを備え、前記1または複数のさらなる座屈ワイヤは、前記少なくとも1つのフェルト針が前記剛性構造体に接触する場合、座屈するように構成される、請求項1から4のいずれか1項に記載の外科用装置。
【請求項6】
前記1または複数のさらなる座屈ワイヤは、前記座屈ワイヤと機械的に直列または並列であり、および/または、互いに機械的に直列または並列である、請求項5に記載の外科用装置。
【請求項7】
前記座屈ワイヤは、前記座屈ワイヤの最大軸方向圧縮が、前記少なくとも1つのフェルト針の最大貫通深さの少なくとも4分の1、好ましくは少なくとも2分の1または少なくとも4分の3、より好ましくは最大貫通深さ以上であるように、寸法決めされる、請求項1から6のいずれか1項に記載の外科用装置。
【請求項8】
前記最大軸方向圧縮は、1mm超、好ましくは4mm超または6mm超、より好ましくは8,5mm以上、12mm以上であり、および/または前記最大軸方向圧縮は、30mm未満、20mm未満または15mm未満である、請求項1から7のいずれか1項に記載の外科用装置。
【請求項9】
前記座屈ワイヤは、予備曲げされる、請求項1から8のいずれか1項に記載の外科用装置。
【請求項10】
前記装置は、座屈チャンバ(6)を備え、その中で前記座屈ワイヤは座屈可能であり、前記ワイヤおよび前記チャンバは、前記ワイヤが前記チャンバ内で制限されずに座屈可能であるように構成される、請求項1から9のいずれか1項に記載の外科用装置。
【請求項11】
前記装置は、座屈チャンバ(5)を備え、その中で前記座屈ワイヤは座屈可能であり、前記ワイヤおよび前記チャンバは、前記軸方向圧縮が制限されるように、座屈時に前記ワイヤが前記チャンバの壁に接触するように構成される、請求項1から10のいずれか1項に記載の外科用装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つのフェルト針および前記座屈ワイヤは、一体的に形成され、好ましくは単一のワイヤによって一体的に形成される、請求項1から11のいずれか1項に記載の外科用装置。
【請求項13】
・往復運動を行うよう、請求項1から11のいずれか1項に記載の外科用装置のフェルト針を作動する工程、
・剛性構造体と前記フェルト針とが接触する工程、
・前記剛性構造体に接触すると、前記剛性構造体との接触による損傷から針を保護するように、前記座屈ワイヤを軸方向に圧縮する工程、
を含む、対象の軟組織に移植物をフェルティングするための方法。
【請求項14】
・前記ワイヤが形状記憶合金からなることが好ましい、前記座屈ワイヤを提供する工程、
・座屈ワイヤを少なくとも2つの保持セクション(21、22、23)に取り付ける工程、
・前記保持セクションの一方を他方に向かって移動させることによって、前記少なくとも2つの保持セクションの間の前記座屈ワイヤのセクションを、繰り返し、好ましくは少なくとも5回、少なくとも10回、少なくとも20回、少なくとも30回または少なくとも40回、座屈させる工程、および
・好ましくは、予備曲げされたワイヤを、対象の軟組織に移植物をフェルティングするための外科用装置に差し込む工程、
を含む、対象の軟組織に移植物をフェルティングするための外科用装置のための座屈ワイヤを予備曲げするための方法。
【請求項15】
対象の軟組織に移植物をフェルティングするための外科用装置のための座屈ワイヤを予備曲げするための装置であって、座屈ワイヤ(3)を保持するための少なくとも2つの保持セクション(21、22、23)を含み、前記保持セクションの少なくとも1つは、前記少なくとも2つの保持セクションの間の座屈ワイヤ(3)のセクションが繰り返し座屈されてもよいように移動可能である、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科用装置、座屈ワイヤを予備曲げするための装置、軟組織に対して移植物をフェルティングするための方法、および座屈ワイヤを予備曲げするための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、近年、生体力学的に有利な移植物の埋め込みを可能にする外科用フェルティング装置(surgical felting device)を開発した。開発された装置は、従来の縫合技術と比較して、改善された固定を可能にする。そのような外科用フェルティング装置の一例は、PCT/CH2019/000015に開示されている。外科用フェルティング装置は、外科用フェルト(surgical felt)を通って組織内に繰り返し移動する針を含む。組織の内側にフェルトのストランドを埋め込む(embedding)ことによって、針は、フェルトと組織との間に、強く、広く分布した機械的結合を作り出す。従来の縫合と比較して、この技術は速く対応でき、かつ縫合糸の「チーズワイヤリング(cheesewiring)」などの悪影響、すなわち、局所応力ピークを介して起こり得る、縫合糸が組織に食い込むことを軽減する。
【0003】
しかしながら、外科用フェルティング装置は手動で取り扱われ、針は高速で移動するので、針損傷の危険性が高い。損傷は、針と、骨または他の外科用ツールなどの剛性構造体(rigid structure)との間の衝突から生じ得る。このような衝突は、機能に悪影響を及ぼす針の部分的な破壊(塑性屈曲、針折れ、または破損)を招く可能性がある。さらに、針の一部が対象の体内で失われ、健康上の危険をもたらすことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の上記の欠点を克服することが、客観的な技術的課題である。特に、作動者(operator)および対象(patient)に安全に使用できる外科用フェルティング装置を提供することが、客観的な技術的課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
目的とする技術的課題は、独立クレームの特徴によって解決される。本発明の一態様は、対象(特にヒト)の軟組織に対して移植物をフェルティングするための外科用装置に関する。本明細書で使用されるフェルティングとは、組織繊維(tissue fibers)および移植物繊維(implant fibers)の織り込み(interwining)および/または絡み合い(entangling)として理解され得る。フェルト針の例およびそれらの特性は、PCT/CH2019/000015、PCT/EP2020/081887、PCT/EP2020/081891、およびPCT/EP2020/081881に記載されている。装置は、往復運動するように構成された少なくとも1つのフェルト針を備える。フェルト針は、1または複数のとげ(barbs)を有する針であってもよい。とげは、針が移植物を通って軟組織内に押しだされると、繊維状の移植物材料の個々の繊維を内側に(inwards)押すように構成されてもよい。往復運動は、前後運動として理解することができる。たとえば、針は、線に沿って動作し、または、ある角度で軸を中心に回転する。移植物は、外科用装置と共に提供されてもよく、および/または軟組織にフェルティングされるのに適した繊維状移植物材料を含んでもよい。移植物はまた、外科装置とは別個に提供されてもよい。例示的な材料および例示的な移植物は、例えば、PCT/CH2019/000015、PCT/EP2020/081887、PCT/EP2020/081891、およびPCT/EP2020/081881に示される。さらに、PCT/CH2019/000015、PCT/EP2020/081887、PCT/EP2020/081891、およびPCT/EP2020/081881は、本明細書の以下で説明される針保護機構と組み合わせて使用することができる外科用装置を示す。
【0006】
軟組織は、骨および歯のような骨化または石灰化のプロセスによって硬化されない体内のすべての組織として理解され得る。移植物をフェルティングすることができる軟組織の例は、軟部結合組織、腱、骨格筋および心筋、皮膚、筋膜、靭帯、線維軟骨、特に腱板腱、アキレス腱、椎間板、および半月板である。往復運動の適切な振幅(すなわち、少なくとも1つの針の最大貫通深さ)は、1~30mm、より好ましくは6~15mmであってもよい。特定の例では、振幅は、8.5mm、または12mmである。針の露出した先端(とげを含む)は、前述の振幅に対応する長さを有してもよい。少なくとも1つのフェルト針は、移植物の厚さプラス少なくとも2mmの長さを有してもよい。いくつかの実施形態では、針は、少なくとも4mm、少なくとも6mm、少なくとも8mm、または少なくとも10mmの長さを有してもよい。
【0007】
さらに、外科用装置は、少なくとも1つの針を往復運動で作動させるためのアクチュエータを備えてもよい。アクチュエータは、電気、機械、油圧および/または空気圧モータであってもよい。
【0008】
この装置は、少なくとも1つのフェルト針が、往復運動中に剛性構造体との接触によって損傷するのを防止するための針保護機構を備える。針保護機構は座屈ワイヤを備え、前記座屈ワイヤは、アクチュエータからの往復運動を、少なくとも1つのフェルト針に伝達するように構成される。
【0009】
少なくとも1つのフェルト針が剛性構造体に接触して、座屈ワイヤが軸方向に圧縮する場合、座屈ワイヤは座屈するように構成される。これにより、座屈ワイヤは、屈曲によって針に作用する圧縮力を吸収し、針が剛性構造体に当たった場合に針が折れるのを防止する。これは、例えば、針が対象の骨(軟組織の中または下に位置する骨)に接触する場合、または他の外科用器具などの任意の他の硬質材料に接触する場合に起こり得る。
【0010】
好ましい実施形態では、座屈ワイヤの座屈荷重(buckling force)は、少なくとも1つのフェルト針の座屈荷重よりも小さい。これにより、座屈ワイヤが軸方向の荷重(axis forces)を吸収することが確保される。
【0011】
好ましい実施形態では、座屈ワイヤの座屈荷重が、少なくとも1つのフェルト針がヒトの軟組織を貫通する荷重よりも高い値であり、少なくとも1つのフェルト針が損傷するのに必要な荷重よりも小さい値であるように、座屈ワイヤは寸法決めされる(dimensioned)。少なくとも1つのフェルト針に対する潜在的な損傷は、少なくとも1つのフェルト針の曲げ(bending)、破損(splintering)、および/または折れ(breaking)が含まれてもよい。これにより、座屈ワイヤを繰り返し使用できることが確保される。さらに、これによりフェルト針の悪化(harm)から保護される。ワイヤを適切に寸法決めするために、適切な機械的特性(座屈荷重、ヤング率)および寸法(特に直径および長さ)を有するワイヤを選択することができる。
【0012】
座屈ワイヤの座屈荷重は、次式を用いて推定することができる:
【0013】
【数1】
ここで、F
座屈は、ワイヤが座屈し始めたときの限界的荷重(critical force)であり、
Eはワイヤの弾性係数、Iはワイヤの断面の慣性モーメント(二次モーメント)、Lはワイヤの支持されていない長さ(unsupported length)である。この式は、ワイヤの両端が固定されていることを前提としている。あるいは、座屈ワイヤの端部の一方又は両方をヒンジ止めし、自由に回転させることができる。
【0014】
特に好ましくは、座屈荷重は0.1~14N、好ましくは2~5~10N、最も好ましくは4.5~7Nである。これらの座屈荷重により、座屈ワイヤおよびフェルト針の損傷を回避すると同時に、フェルト針による軟組織の貫通を可能にするので、特に有利である。座屈荷重は、弾性率Eを変更することによって(例えば、適切な材料を選択することによって)、ワイヤの断面を変化させることによって(例えば、円形または角度のある断面、例えば、正方形、五角形、または六角形断面を選択することによって)、および座屈ワイヤの長さを変化させることによって調節することができる。
【0015】
例えば、弾性率(Young's Modulus)は、41~75GPaの範囲であってもよい。他の実施形態では、弾性率は200GPaであってもよい。断面は、0.1~0.5mm、0.1~1mm、0.1~5mm、0.1~10mmまたは0.1~20mmであってもよい。ワイヤの長さは、10~150mm、好ましくは10~50、より好ましくは15~40mmとすることができる。
【0016】
好ましい実施形態では、座屈ワイヤは、形状記憶合金または弾性軟質プラスチックを含むか、またはそれから作製される。例えば、座屈ワイヤは、ニチノールまたは金属合金またはゴムを含むか、またはそれから作製される。プラスチック材料の例は、PE、PET、ナイロン、PTFE、シリコーンゴムのようなゴム様材料である。これらの材料は、座屈ワイヤの長寿命化を可能にし、反復した座屈性を可能にし、剛体が最初に接触したときに座屈ワイヤが破断することを防止する。形状記憶合金は、例えば40サイクル後に、プラトー(plateau)である高歪みでの低サイクル変形を示してもよい。これらのサイクルの間、変形が一定になるプラトーに達するまで、ワイヤは漸増的により曲げられてもよい。ワイヤの残留曲げ(residual bend)が増加するため、低サイクル変形中に座屈荷重は減少する。
【0017】
好ましい実施形態では、ワイヤは、チューブ形状を有し、および/または切り欠き(cut-out)を含む。切り欠きの存在により、ワイヤが望ましくない場所で破断するのを防止することができ、また、ワイヤの迅速な交換を可能にするために、事前に定義された破断点を画定することができる。チューブ形状は、つぶれ(collapsing)および座屈(buckling)を可能にする。ワイヤは、予め決定された弱点としてチューブ形状を有するセクションを有することができるだろう。追加的または代替的に、座屈挙動は、ワイヤをねじることによって制御することができる。
【0018】
好ましい実施形態では、装置は、アクチュエータから少なくとも1つのフェルティング(felting)に往復運動を伝達する、1つまたは複数のさらなる座屈ワイヤを含む。前記少なくとも1つのフェルト針(felting needle)が剛性構造体に接触する場合、前記1つまたは複数のさらなる座屈ワイヤが座屈するように構成される。好ましい実施形態では、前記1または複数のさらなる座屈ワイヤは、前記座屈ワイヤと機械的に直列または平行に配設され、および/または、互いに対して機械的に直列または平行に配設されている。複数の座屈ワイヤを有することにより、製造誤差を平均的な値にすることができ、または複数の座屈ワイヤのうちの1つが故障した場合に、フェイルセーフ(failsafe)とすることができるので、より正確に設計された座屈荷重を可能にする。
【0019】
好ましい実施形態では、座屈ワイヤは、座屈ワイヤの最大軸方向圧縮が、少なくとも1つのフェルト針の最大貫通深さの少なくとも4分の1、好ましくは少なくとも2分の1、または少なくとも4分の3、より好ましくは最大貫通深さ以上となるように、寸法決めされる。これにより、少なくとも1つの針の貫通深さを減少させ、針が損傷されるのを防止する。
【0020】
好ましい実施形態では、最大軸方向圧縮は1mmを超える。好ましくは、最大軸方向圧縮は、4mmを超え、または6mmを超え、より好ましくは8.5mm以上であり、12mm以上である。追加的または代替的に、最大軸方向圧縮は、30mm未満、20mm未満、または15mm未満である。これらの範囲により、快適なフェルティングが可能になると同時に、より安定したワイヤの座屈が可能になる。
【0021】
好ましい実施形態では、座屈ワイヤは、予備曲げされる。予備曲げとは、使用前に予め座屈ワイヤを座屈させる(buckled)ことと理解される。製作中に座屈ワイヤを予備曲げすることにより、前記プラトー値に近づくこと、または達することが既にできるため、有益である。典型的には、初めて座屈ワイヤを曲げるには、それ以降に曲げるよりも高い座屈荷重を必要とする。したがって、座屈ワイヤは、製造中および販売される前に座屈させてもよく、すなわち、複数回、例えば、20~40回、変形サイクルを加えることによって、製造中および販売される前に座屈させてもよい。予備曲げの間、ワイヤはわずかに塑性的に変形し、これは、座屈ワイヤにおける曲線部および/または内部塑性変形によって観察することができる。
【0022】
好ましい実施形態では、装置は、座屈チャンバ(buckling chamber)を含み、その中において座屈ワイヤを座屈させることができる。座屈チャンバは、汚染物質などの外部の影響から座屈装置を保護する。座屈ワイヤは、チャンバ内で無制限に座屈するように構成されてもよく、または、軸方向の圧縮といった座屈が制限されるよう、座屈ワイヤはチャンバの壁に接触してもよい。無制限に座屈する場合、荷重応答の予測性を向上することができる。一方で座屈が制限される場合は、よりコンパクトな設計が実現できる。
【0023】
好ましい実施形態では、少なくとも1つのフェルト針および座屈ワイヤは、特に単一のワイヤによって一体的に形成される。この実施形態では、針先端およびとげは、超弾性ワイヤから直接切り出されてもよい。これは、特に単純な設計を提供する。さらなる利点は、少なくとも1つのフェルト針および座屈ワイヤをユニットとして置き換えることができ、これにより、コンパクトな設計が可能となる。
【0024】
本発明のさらなる態様は、対象の軟組織に移植物をフェルティングするための方法に関する。本方法は、
・上述したような外科用装置のフェルト針を、往復運動で作動させる工程、
・剛性構造体と前記フェルト針とが接触する工程、
・前記剛性構造体に接触すると、前記剛性構造体との接触による損傷から針を保護するように、前記座屈ワイヤを軸方向に圧縮する工程、を含む。
【0025】
本発明のさらなる態様は、対象の軟組織に移植物をフェルティングするための外科用装置のための座屈ワイヤを予備曲げするための方法に関する。本方法は、
・前記座屈ワイヤ(好ましくは形状記憶合金からなる前記ワイヤ)を提供する工程、
・前記座屈ワイヤを少なくとも2つの保持セクション(21、22、23)に取り付ける工程、
・前記保持セクションの一方を他方に向かって移動させることによって、前記少なくとも2つの保持セクションの間にある前記座屈ワイヤのセクションを、繰り返し、好ましくは少なくとも5回、少なくとも10回、少なくとも20回、少なくとも30回または少なくとも40回、座屈させる工程、および
-好ましくは、予備曲げされたワイヤを、対象の軟組織に移植物をフェルティングするための外科用装置に差し込む(insert)工程、を含む。
【0026】
別の態様は、座屈ワイヤを予備曲げするための装置に関し、この装置は、前記座屈ワイヤを取り付けるための少なくとも2つの保持セクションを備えた装置であって、前記保持セクションのうち少なくとも1つは、前記少なくとも2つのクランプ間の座屈ワイヤセクションを座屈させることができるように、移動可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明の非限定的な実施形態は、添付の図面に関して、例としてのみ記載される。
【
図3A】
図3Aは、第1のチャンバおよび対応する座屈荷重を有する
図1の外科用装置を示す。
【
図3B】
図3Bは、第1のチャンバおよび対応する座屈荷重を有する
図1の外科用装置を示す。
【
図4A】
図4Aは、第2のチャンバおよび対応する座屈荷重を有する
図1の外科用装置を示す。
【
図4B】
図4Bは、第2のチャンバおよび対応する座屈荷重を有する
図1の外科用装置を示す。
【
図5】
図5は、座屈ワイヤの塑性変形および座屈荷重のダイヤグラムを示す。
【
図6】
図6は、座屈ワイヤを予備曲げするための装置を示す。
【
図8】
図8は、ワイヤを事前に曲げるための一連の工程を示す。
【
図9】
図9は、予備曲げされたワイヤを有する
図1の外科用装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、外科用装置10を示す。この装置は、フェルト針1と、遠位シャフト2と、座屈ワイヤ3と、近位シャフト4と、スライドヨーク5とを含む。遠位シャフト2および近位シャフト4は、中空であり、管状形状を有する。フェルト針の1つのセクションは、遠位シャフト2と近位シャフト4との間で露出される。この部分が座屈ワイヤ3を形成する。スライドヨーク5はモータに連結され、フェルト針1の軸方向に沿って前後に移動する。この前後運動の間、シャフト2、4はフェルト針1を案内する。シャフト2及び4は、フェルト針1及び座屈ワイヤ3を形成するワイヤに対して固定的に取り付けられている。座屈ワイヤ3およびフェルト針1は、代わりに各シャフトに取り付けられ、個々に形成されてもよい。通常の動作では、スライドヨーク5と少なくとも1本のフェルト針が(座屈ワイヤ3と共に)一緒に移動する。
【0029】
図2は、少なくとも1つのフェルト針が剛性物体と衝突するときに生じる一連の工程を示す。この場合、針に荷重11が加えられる。荷重11は、通常の動作中の軸荷重(axial forces)より大きく、すなわち軟組織に移植物をフェルティングする間の軸荷重よりも大きい。この軸荷重は、フェルト針1の先端を介して座屈ワイヤ3に伝わる。第2工程で分かるように、座屈ワイヤ3は、座屈によって反応し、衝突からの力を吸収する。ヨークが後退すると、衝突からの力が減少するため、座屈ワイヤが緩和する。障害物が残っている限り、座屈ワイヤ3は、破断することなく、
図2の矢印12及び13によって示されるように座屈及び弛緩することができる。座屈ワイヤ3は、硬い表面、即ち、座屈荷重よりも高い貫通力を有する表面にぶつかると、近位シャフトの直線作動運動(translational actuating motion)から、遠位シャフト及びフェルト針を効果的に切り離す。
【0030】
図3Aは、追加的に配設することができる第1の座屈チャンバ6を示す。座屈チャンバは、座屈ワイヤが自由に座屈できるように、座屈ワイヤの周囲に空間を形成する。
図3Aは球形チャンバを示しているが、他の形状、例えば、円筒形またはキュービクル形(cubicle)チャンバも好ましい。ワイヤが最大に座屈したときに、座屈ワイヤが壁に接触しないよう、チャンバは設計される。ワイヤの最大の延長状態は、特に実験的に見出すことができ、例えば、フェルト針の先端をその後退位置に保持することによって、見出すことができる。
【0031】
図3Bは、座屈荷重(すなわち、座屈ワイヤを圧縮するのに必要な荷重)と軸方向の変形(すなわち、座屈ワイヤの軸方向圧縮)との間の関係を示す。
図3Bから分かるように、座屈の開始には最大荷重が必要である。この限界荷重、例えば4.5~7Nに達する前には、座屈ワイヤは座屈しない。そのため、組織への移植物のフェルティングは、座屈ワイヤによって妨げられない。限界荷重に達すると、ワイヤは座屈し始める。しかし、
図3Bからも分かるように、ワイヤを座屈させるのに必要な荷重は、座屈が大きくなるにつれてさらに減少する。これにより、少なくとも1つのフェルト針の針先端への負荷が軽減され、対象の体内での破損、または別の手術器具との衝突による破損が防止される。
【0032】
図4Aは、第2の座屈チャンバを示す。第2の座屈チャンバは、座屈ワイヤの周囲に空間を形成し、座屈中に座屈ワイヤが拘束されるように形成される。例えば、第2の座屈チャンバは、フェルト針1、遠位シャフト2、座屈ワイヤ3、及び近位シャフト4が配置されたチューブ7によって形成することができる。なお、本実施の形態では、座屈ワイヤ3が座屈し始めると、座屈ワイヤの一部が第2の座屈チャンバの内壁に接触してもよい。この構成は、軟組織に到達するのが困難な場合に使用することができる、より細い装置をもたらす。
【0033】
図4Bは、
図4Aに示す制限された座屈に対する座屈荷重(すなわち、座屈ワイヤを圧縮するために必要な荷重)と軸方向の変形(すなわち、座屈ワイヤの軸方向圧縮)との関係を示す。図からわかるように、この制限、すなわち座屈チャンバの内壁との座屈ワイヤの接触によって、第2のピークがもたらされる。これらの場合、ワイヤ3の限界座屈荷重は、前記接触によりもたらされるピークであってもよい。
【0034】
出願人は、最大座屈荷重は、プラトーに達する前に経時的に減少することに注目した。特に、座屈ワイヤ3がはじめて座屈するときは、ワイヤが3回目または5回目に座屈するときの座屈荷重よりも大きな座屈荷重が必要である。これに束縛されることなく、座屈荷重の減少は座屈ワイヤ内の塑性変形で説明できる可能性がある。ただし、座屈を多数繰り返すと、座屈荷重はプラトーに、(凡そ)達する。これを模式的に
図5のグラフに示す。変形サイクル数をx軸上に示す。1回の変形サイクルは、座屈ワイヤの1回の座屈プロセスおよび緩和プロセスで説明される。左のグラフは、座屈中の塑性変形(plastic deformation)がサイクル数に依存することを示しており、右のグラフは、座屈ワイヤを軸方向に圧縮するのに必要な座屈荷重がサイクル数に依存することを示している。ワイヤが緩和されると、塑性変形が残留屈曲(remaining curvature)として観察される可能性がある。
図5の右側に見られるように、座屈荷重は減少するものの、座屈荷重が一定のままで、所定のプラトーに達する。プラトーに達するまでの
図5に示す変形サイクル数Nは、5回、10回、20回、30回または40回であってもよい。
【0035】
対象に使用する前に、座屈ワイヤを予備曲げすること、例えば、複数の変形サイクルにより座屈ワイヤを繰り返し座屈させることが提案される。それによって、作動者は、一定の特性を有する外科用装置/フェルト針を受け取ることになる。
図6~
図9を用いて、ワイヤ3を予備曲げする装置について説明する。
【0036】
図6は、複数の座屈ワイヤ3を予備曲げするための装置20の斜視図を示す。
図7は、
図6の装置の断面を示し、
図8は、装置の概略図を示し、座屈ワイヤ3を予備曲げする方法を説明している。
【0037】
装置20は、本体28と、装置を作動させるためのハンドル24とを含む。ハンドル24はレバー25に接続されている。レバー25は、一端がハンドル24に接続され、他端が駆動軸26に接続されている。駆動軸26は、軸受34で本体28に回転可能に接続される。駆動軸26の他端は偏心部(eccentric)27に接続する。軸受34の周りでハンドル24を回転させることによってハンドル24が作動すると、偏心部27が作動(すなわち回転)する。
【0038】
装置20は、第1の保持セクション21と、第2および第3の保持セクション22および23を有するスライド35とを含む。第2および第3の保持セクションは、棒で互いに固定的に接続される。スライド35は本体28内のトラック29上で長手方向に沿って前後に動くことができる。また、スライド35の第3の保持セクション23は、ピン33を含む。ピン33は偏心部27の外面に恒久的に接触している。第1の保持セクション21は本体28に固定され、スライド35および第1保持セクション21は、互いに弾性要素(例えばバネ30)を介して接続される。ばねは、スライド35が偏心部27に向かって恒久的に押されるようにバイアスをかけられる。
【0039】
ユーザがハンドル24で装置を作動させると、偏心部27が回転する。偏心部27が回転することにより、バネ30が偏心部27の外面に対してスライド35を恒久的に押すため、スライド35を前後に駆動する。本実施形態では、偏心部35は、丸みを帯びた縁を有する正方形状(quadratic shape)を有する。しかしながら、任意の他の適切な偏心形状を使用することができる。本実施形態では、ハンドル35を1回回転させると、スライドが4回前後にスライドする。さらに、本体28は、取り外し可能なバックプレート36を含む。
【0040】
装置20はハンドル24を含むが、本実施形態では、装置は、当技術分野で公知のように、モータによって駆動することもできる。
【0041】
図6から分かるように、装置20は、
図1に示される複数の外科用装置10を受け入れることができる。本実施形態では、ヨーク5は除去される。装置10が挿入される前(または代替的な実施形態では挿入された後)に、フェルト針および装置20のユーザを保護するために、フェルト針は、先端カバー31で保護されてもよい。外科用装置10が挿入される前に、背面プレート36が除去される。次いで、外科用装置10は、外科用装置10の近位端(シャフト4の近位端)が保持セクションに接触するまで、バックプレートの側から第1の保持セクション21および第2の保持セクション22を介して挿入されてもよい。いくつかの実施形態では、保持セクション21、22、23のいずれか1つ、2つ、またはすべてが、外科用装置10を固定する(clamp)ための追加の手段を備えてもよい。あるいは、
図6に示されるように、複数の外科用装置10は、保持セクション21、22、および23によってゆるやかに(loosely)案内されてもよい。外科用装置が完全に挿入されると、バックプレート36は閉じられ、チップカバー31は、外科用装置10の遠位端でバックプレートと接触する。すると、外科用装置10は、その長手方向に沿って移動することができない。
【0042】
ハンドル24が作動され、スライド35が動き始めると、第3の保持セクション23は、バックプレート36に向かって装置の近位シャフト4を押す。座屈セクション3の座屈荷重が超過すると、座屈セクション3は、
図8に見られるように座屈を開始し、このプロセスは、例えば
図5に示されるように座屈荷重がプラトーに達するまで、複数回(例えば40回)繰り返される。外科用装置10が予備曲げされた後、座屈ワイヤ3には
図9に見られるような曲線部が残っていてもよい。
【国際調査報告】