(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】細胞の機械的力を検出するシステム、方法、装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20241031BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G01N21/17 Z
G01N33/483 C
G01N33/483 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518977
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 CN2022121338
(87)【国際公開番号】W WO2023046166
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】202111126875.2
(32)【優先日】2021-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524114847
【氏名又は名称】瑞新(福州)科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ruixin (Fuzhou) Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】Room 910 and 912, 9/F, North Building, Medical Industrial Science and Technology Building, No.26-1, Wulong Jiangnan Avenue, Nanyu Town, Minhou County, Fuzhou , Fujian 350109, China
(74)【代理人】
【識別番号】100185270
【氏名又は名称】原田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】林 哲
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045BB20
2G045CB01
2G045FA01
2G045FA11
2G045FA16
2G045FA19
2G045GC01
2G045GC05
2G045JA01
2G045JA03
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE02
2G059FF05
2G059GG01
2G059HH01
2G059JJ13
2G059KK01
(57)【要約】
現有技術の不足を克服し、顕微鏡を必要とせず、リアルタイムで、ハイスループット且つ低コストの細胞機械力の定量測定及びモニタリング方案を提供するために、発明者は、細胞機械力を検出する装置を提供した。それは、基底と、前記基底上に設置され、細胞機械力により変形可能な複数のマイクロピラーからなるマイクロピラーアレイとを含み、前記マイクロピラーの頂部または柱面の上部に光反射層を有する。発明者はまた、上述の装置を含む細胞機械力を検出するシステム、上述の装置を用いて細胞機械力の検出を行う検出方法、及び上述の装置の製造方法を同時に提供した。従来技術と比較して、上述の技術案は、ハイスループット性及び低コスト性、単一細胞分解能、リアルタイムモニタリング、高感度、細胞微小環境のシミュレーション、細胞外マトリックスの組成及び形態のシミュレーションなどの利点を有し、より豊富な技術ニーズシーンに対応することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の機械的力を検出する装置であって、
基底と、
前記基底上に設置され、細胞の機械的力により変形可能な複数のマイクロピラーからなるマイクロピラーアレイとを含み、前記マイクロピラーの頂部または/および柱面の上部に光反射層を有することを特徴とする、細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項2】
前記基底が透光性の基底であり、前記マイクロピラーの柱体が光を透過可能であり、前記マイクロピラーの頂部に光反射層を有することを特徴とする、請求項1に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項3】
前記マイクロピラーの柱面が反射防止層を有することを特徴とする、請求項2に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項4】
前記光反射層が、金属箔層、金属酸化物または金属塩、超微粒子ビーズまたは微小プリズム、有機反射材料の一種またはそれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項5】
前記マイクロピラーアレイの全てまたは一部のマイクロピラーの頂部端面に、細胞接着作用を有する物質が配置されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項6】
前記細胞接着作用を有する物質は、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エラスチンを含む細胞外マトリックス分子と、RGD接着配列を含むポリペプチドを含む細胞外マトリックスの模倣物質と、ポリリジンを含む細胞接着を促進する物質と、細胞表面受容体と相互作用する物質とのうちの一種または複数種を含むことを特徴とする、請求項5に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項7】
一部のマイクロピラーの頂部端面に細胞接着作用を有する物質のマイクロピラー群からなる予め定められたパターンが配置されていることを特徴とする、請求項5に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項8】
前記マイクロピラーアレイの予め定められた領域の一部のマイクロピラーの頂部端面上に、細胞接着抑制作用を有する物質が配置されていることを特徴とする、請求項7に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項9】
前記マイクロピラーの横断面形状が円形、楕円形、または多角形であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項10】
前記マイクロピラー及びマイクロピラーアレイのサイズ範囲が、マイクロピラーの高さが10nmから500μmまで、マイクロピラー間隔が10nmから50μmまで、マイクロピラーの上面直径が50nmから50μmまでであることを特徴とする、請求項1に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項11】
細胞制御機構をさらに含み、前記細胞制御機構は、一つまたは複数の制限面を含み、前記制限面は、前記基底の位置する平面に垂直に配置され、前記基底に接続されるか、または前記基底と一体成形された平面または曲面であり、かつ前記制限面の高さはマイクロピラーよりも高く、予め定められた数のマイクロピラーを包囲することを特徴とする、請求項1に記載の細胞の機械的力を検出する装置。
【請求項12】
細胞の機械的力を検出するシステムであって、請求項1から11のいずれか1項に記載の細胞の機械的力を検出する装置、光信号発生装置及び光信号検出装置を含み、
前記光信号発生装置は光源を有し、前記光源から発せられた光が入射光路を通じてマイクロピラーの光反射層に照射され、
前記光信号検出装置は、マイクロピラーの光反射層から反射された光を検出するためのものであり、該光反射層から反射された光は反射光路を通じて光信号検出装置に入ることを特徴とする、細胞の機械的力を検出するシステム。
【請求項13】
前記細胞の機械的力を検出する装置の基底が透光性の基底であり、前記マイクロピラーの柱体が光を透過可能であり、前記マイクロピラーの頂部に光反射層を有し、
前記光源から発せられた光が入射光路を通じて細胞の機械的力を検出する装置の基底からマイクロピラーの光反射層に照射され、
前記光信号検出装置は、マイクロピラーの頂部の光反射層から反射された光を検出するためのものであり、前記光反射層から反射された光が反射光路を通じて光信号検出装置に入ることを特徴とする、請求項12に記載の細胞の機械的力を検出するシステム。
【請求項14】
光信号を分析するための光信号分析装置をさらに含むことを特徴とする、請求項12に記載の細胞の機械的力を検出するシステム。
【請求項15】
細胞の機械的力を検出する方法であって、
請求項12から14のいずれか1項に記載の細胞の機械的力を検出するシステムにおける光信号発生装置を使用して光を発生させるステップと、
請求項12から14のいずれか1項に記載の細胞の機械的力を検出するシステムにおける光信号検出装置を使用して、前記細胞の機械的力を検出する装置の作用後の光を検出するステップとを含むことを特徴とする、細胞の機械的力を検出する方法。
【請求項16】
光信号分析装置を使用して、前記細胞の機械的力を検出する装置と被検細胞との間で発生した細胞の機械的力の作用前後の反射光を比較分析し、細胞の機械的力情報を取得するステップをさらに含み、前記細胞の機械的力情報は、細胞の機械的力の大きさ、方向または変化頻度を含むことを特徴とする、請求項15に記載の細胞の機械的力を検出する方法。
【請求項17】
細胞の状態を検出する方法であって、請求項12から14までのいずれか1項に記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは請求項15または16に記載の細胞の機械的力を検出する方法を通じて細胞の機械的力情報を取得し、前記細胞の機械的力情報に基づいて細胞状態を分析し確定するステップを含み、
前記細胞状態は、細胞接着、細胞活性、細胞分化/活性化、細胞増殖および/または細胞移動を含むことを特徴とする、細胞状態を検出する方法。
【請求項18】
細胞識別の方法であって、
請求項12から14までのいずれか1項に記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは請求項15または16に記載の細胞の機械的力を検出する方法を通じて細胞の機械的力情報を取得し、前記細胞の機械的力情報に基づいて細胞種を区別するステップを含むことを特徴とする、細胞識別の方法。
【請求項19】
細胞の機械的力を検出する装置の製造方法であって、
マイクロピラーの頂部または上半部の柱面に反射層を一層設け、頂部または上半部の柱面に反射層を有するマイクロピラーを得るステップを含むことを特徴とする、細胞の機械的力検出装置の製造方法。
【請求項20】
「マイクロピラーの頂部または上半部の柱面に反射層を一層設ける」というステップの前に、
マイクロピラー全体に反射防止層を均一にコーティングするステップと、
頂部または上半部の柱面の反射防止層を除去するステップとをさらに含むことを特徴とする、請求項19に記載の細胞の機械的力を検出する装置の製造方法。
【請求項21】
前記「マイクロピラーの頂部または上半部の柱面に反射層を一層設け、頂部または上半部の柱面に反射層を有するマイクロピラーを得る」というステップは、具体的には、マイクロピラーの頂部または上半部の柱面に反射性金属を均一にスパッタリングし、頂部または上半部の柱面に金属光反射層を有するマイクロピラーを得ることであることを特徴とする、請求項19または20に記載の細胞の機械的力を検出する装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に属し、特に細胞の機械的力を検出するシステム、細胞の機械的力を検出する方法、細胞の機械的力を検出する装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は周囲のマイクロ環境に微小な機械的力を及ぼす。細胞の機械的力は、接着、移動、増殖、分化、アポトーシスなどの過程において重要な役割を果たし、また他の生化学シグナルと共に、胚発生、幹細胞分化、免疫過程、創傷治癒、がん転移などの過程において極めて重要な調節作用を有し、多くの疾患の治療標的にもなっている。例えば、これまでの研究では、正常細胞、良性腫瘍細胞及び悪性腫瘍細胞の最大細胞機械力には大きな差異が存在することが分かっており、したがって、細胞機械力をハイスループットかつ正確に測定することが、多くのバイオメディカル応用のコア技術になる。しかし、最大細胞機械力を測定することの意義は限定的であり、高解像度、リアルタイムで、ハイスループットな力覚センサーが次世代の細胞機械力測定ツールの中核的なニーズになる。
【0003】
現在、細胞機械力を測定する主な技術的方法には、「機械力顕微鏡」、マイクロ/ナノカンチレバー及びマイクロピラーアレイが含まれる。主な原理は、細胞が弾性基板に及ぼす力によって引き起こされる基板の変形を測定することにより、細胞の機械力を計算することである。現在のところ、細胞牽引力顕微鏡(TFM)は最も広く使われている細胞機械力測定技術方法であり、その原理は連続弾性基板(例えば、しわになりやすいシリコン薄膜や蛍光ビーズを埋め込んだポリアクリルアミドPAゲル)に基づいている。弾性基板上で細胞を培養すると、細胞は基板に機械力を及ぼし、基板を変形させ、変形過程において、蛍光ビーズが対応する変位を生ずる。蛍光顕微鏡などの方法を用いて蛍光ビーズの運動軌跡を追跡し、画像処理などの方法により基板の歪み情報を得る。基板の弾性が既知の場合、力学モデルを通じて細胞の機械力を逆算することができる。しかし、この測定方法には以下の欠点がある。第一に、蛍光顕微鏡撮影に依存し、複雑な計算を必要とするため、プロセスが複雑でスループットが低く、コストが高い。第二に、TFMの原理は、細胞の機械力を直接測定するのではなく、基板中の蛍光ビーズの位置変化を観察することにより、細胞の機械力を逆算するものである。特殊な工程によって、大部分の粒子が表面に沈着することを保証できるが、長時間の浸漬後、粒子が放出されたり沈降したりして、最終的に表面蛍光粒子の密度が低下する可能性がある。蛍光顕微鏡の焦点深度は通常大きいため、異なる平面にある粒子を撮影する可能性があり、その結果、後の変異計算にずれを生じさせ、測定結果の不正確さにつながる可能性がある。さらに、長時間培養液に浸すとゲルの弾性率が変化し、必然的に細胞機械力の計算の正確性に影響を与えるため、測定過程においてゲルの弾性率を検査し校正する必要があり、作業量が大幅に増える。また、長時間のレーザー照射は細胞に光毒性を引き起こし、蛍光ビーズの光退色も引き起こすため、TFMは細胞機械力の長期連続測定には不適である。一方、細胞の成長、分化及び薬物への反応過程の研究には通常、より長期間のモニタリングが必要とされるため、上述したTFMの欠点は、その生物医学分野における応用を大きく制限している。
【0004】
TFMと比べると、マイクロ/ナノセンサー(例えば、マイクロカンチレバーアレイ及びマイクロピラーアレイ)も細胞機械力を直接測定するのに使用できる。例えばマイクロピラーアレイにおいて、細胞はマイクロピラーの上面に接着し、顕微鏡でマイクロピラーの底部と頂部の画像を撮影するだけで、マイクロピラーの曲げ変形を解くことができ、それによってその点における細胞機械力の大きさと方向を逆算することができる。TFMと同様に、マイクロ/ナノセンサーも、顕微鏡による高解像度撮影に依存しているため、装置への要求が高く、また撮影過程で誤差が生じやすく、結果の不正確さにつながりやすい。さらに、顕微鏡で撮影された画像は複雑な画像処理を経る必要があり、力学モデルに基づいて細胞機械力の大きさを計算する必要がある。操作が複雑で時間がかかり、リアルタイム性、ハイスループット性、低コスト性、及び細胞の長期的な検出を実現することが困難である。したがって、現在の技術のほとんどはバイオメカニクス分野の科学研究に限定されており、実用化が困難である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、既存技術の不足を克服し、顕微鏡を必要とせず、リアルタイムで、ハイフラックスかつ低コストで細胞の機械的力を定量的に測定及び監視する方案を提供することを目的とする。
【0006】
次世代の細胞の機械的力測定ツールの核心要求を解決するため、本発明者は以下を含む細胞の機械的力を検出する装置を提供する。
【0007】
それは、
基底と、
前記基底上に設置され、細胞の機械的力により変形可能な複数のマイクロピラーからなるマイクロピラーアレイとを含み、前記マイクロピラーの頂部または/および柱面の上部に光反射層を有することを特徴とする、細胞の機械的力を検出する装置。
【0008】
さらに、前記細胞の機械的力を検出する装置において、前記基底は透光性の基底であり、前記マイクロピラーの柱体は光を透過可能であり、前記マイクロピラーの頂部に光反射層を有する。
【0009】
さらに、前記細胞の機械的力を検出する装置において、前記マイクロピラーの柱面は反射防止層を有する。
【0010】
さらに、前記細胞の機械的力を検出する装置において、前記光反射層は、金属箔層、金属酸化物または金属塩、超微粒子ビーズまたは微小プリズム、有機反射材料の一種またはそれらの組み合わせである。
【0011】
さらに、前記細胞の機械的力を検出する装置において、前記マイクロピラーアレイの全てまたは一部のマイクロピラーの頂部端面上に、細胞接着作用を有する物質が設けられている。
【0012】
さらに、前記細胞の機械的力を検出する装置において、前記細胞接着作用を有する物質は、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エラスチンなどを含む細胞外マトリックス分子と、RGD接着配列を含むポリペプチドを含む細胞外マトリックスの模倣物質と、ポリリジンを含む細胞接着を促進する物質と、細胞表面受容体と相互作用する物質とのうちの一種または複数種を含む。
【0013】
さらに、本発明の細胞の機械的力を検出する装置において、前記マイクロピラーアレイの予定された領域の一部のマイクロピラーの頂部端面には細胞接着作用を有する物質が設けられている。
【0014】
さらに、本発明の細胞の機械的力を検出する装置において、前記マイクロピラーアレイの頂部端面に細胞接着作用を有する物質が設けられていないマイクロピラーの頂部端面には細胞接着抑制作用を有する物質が設けられている。
【0015】
さらに、前記細胞の機械的力を検出する装置において、前記マイクロピラーの横断面形状は、円形、楕円形、または多角形である。
【0016】
さらに、前記細胞の機械的力を検出する装置において、前記マイクロピラー及びマイクロピラーアレイのサイズ範囲は、マイクロピラーの高さが10nmから500μmまで、マイクロピラー間隔が10nmから50μmまで、マイクロピラーの上面直径が50nmから50μmまでを含む。
【0017】
さらに、前記細胞の機械的力を検出する装置は、細胞制御機構をさらに含む。前記細胞制御機構は、一つまたは複数の制限面を含み、前記制限面は、前記基底の位置する平面に垂直に配置され、前記基底に接続されるか、または前記基底と一体成形された平面または曲面であり、かつ前記制限面の高さはマイクロピラーよりも高く、予め定められた数のマイクロピラーを包囲する。
【0018】
発明者はまた、細胞の機械的力を検出するシステムを提供した。それは、上述した細胞の機械的力を検出する装置、光信号発生装置及び光信号検出装置を含む。
前記光信号発生装置は光源を有し、前記光源から発せられた光は入射光路を通じてマイクロピラーの光反射層に照射され、
前記光信号検出装置は、マイクロピラーの光反射層から反射された光を検出するためのものであり、前記光反射層から反射された光は反射光路を通じて光信号検出装置に入る。
【0019】
さらに、前記細胞の機械的力を検出するシステムにおいて、前記細胞の機械的力を検出する装置の基底は透光性の基底であり、前記マイクロピラーの柱体は光を透過可能であり、前記マイクロピラーの頂部に光反射層を有し、
前記光源から発せられた光は入射光路を通じて細胞の機械的力を検出する装置の基底からマイクロピラーの光反射層に照射され、
前記光信号検出装置は、マイクロピラーの頂部の光反射層から反射された光を検出するためのものであり、前記光反射層から反射された光が反射光路を通じて光信号検出装置に入る。
【0020】
さらに、前記細胞の機械的力を検出するシステムは、光信号を分析するための光信号分析装置をさらに含む。
【0021】
本発明者は、上述した技術方案に記載の細胞の機械的力を検出する方法も提供する。
その方法には、上述した技術方案に記載の細胞の機械的力を検出するシステムにおける光信号発生装置を使用して光を発生させるステップと、上述した技術方案に記載の細胞の機械的力を検出するシステムにおける光信号検出装置を使用して細胞の機械的力を検出する装置の作用後の光を検出するステップとを含む。
【0022】
さらに、前記細胞の機械的力を検出する方法は、光信号分析装置を使用して、前記細胞の機械的力を検出する装置と被検細胞との間で発生した細胞の機械的力の作用前後の反射光を比較分析し、細胞の機械的力情報を取得するステップをさらに含む。
【0023】
発明者はさらに、細胞状態を検出する方法を提供した。それは、上述したいずれかの実施例の細胞の機械的力を検出するシステムまたは上述したいずれかの実施例の細胞の機械的力を検出する方法を採用して細胞の機械的力情報を取得し、前記細胞の機械的力情報に基づいて細胞状態を分析し確定するステップを含む。
前記細胞状態は、具体的には細胞接着、細胞活性、細胞分化/活性化、細胞増殖または/および細胞移動を含む。
【0024】
さらに、前記細胞状態は、静止細胞状態またはリアルタイム細胞状態である。
【0025】
発明者はさらに、細胞識別の方法を提供した。それは、上述したいずれかの実施例の細胞の機械的力を検出するシステムまたは上述したいずれかの実施例の細胞の機械的力を検出する方法を採用して細胞の機械的力情報を取得し、前記細胞の機械的力情報に基づいて異なる細胞種を区別するステップを含む。
【0026】
さらに、前記細胞識別の方法において、「上述したいずれかの実施例の細胞の機械的力を検出するシステムまたは上述したいずれかの実施例の細胞の機械的力を検出する方法を採用して細胞の機械的力情報を取得し、前記細胞の機械的力情報に基づいて異なる細胞種を区別する」というステップは、具体的には以下のステップを含む。
細胞情報を取得するステップ。前記細胞情報は、細胞の機械的力を検出する装置に基づいて取得した細胞のある点における細胞の機械的力情報を含み、前記細胞の機械的力情報は、その点における細胞の機械的力の大きさを含む。
細胞情報に前処理を行い、構造化細胞情報を形成するステップ。前記構造化細胞情報は、細胞数、細胞特徴数及び各細胞特徴の特徴情報を含む。
構造化細胞情報を入力データとして用い、教師あり学習、教師なし学習または半教師あり学習の機械学習により細胞特徴モデルを構築し、前記細胞特徴モデルを未知のタイプまたは未知の状態の細胞の分類またはクラスタリングに適用するステップ。
【0027】
さらに、前記細胞識別の方法において、前記細胞の機械的力情報はその点における細胞の機械的力の方向をさらに含む。
【0028】
さらに、前記細胞識別の方法において、前記細胞の機械的力情報はその点における細胞の機械的力の大きさまたは方向の一定時間間隔内の変化をさらに含む。
【0029】
さらに、前記細胞識別の方法において、前記細胞情報は細胞形態情報をさらに含む。
【0030】
発明者はさらに、細胞の機械的力検出装置の製造方法を提供した。それは、以下のステップを含む。マイクロピラーの頂部または上半部の柱面に反射層を一層設け、頂部または上半部の柱面に反射層を有するマイクロピラーを得る。
【0031】
さらに、前記細胞の機械的力検出構造の製造方法において、「マイクロピラーの頂部または上半部の柱面に反射層を一層設ける」というステップの前に、
マイクロピラー全体に反射防止層を均一にコーティングするステップと、
頂部または上半部の柱面の反射防止層を除去するステップとをさらに含む。
【0032】
さらに、前記細胞の機械的力検出構造の製造方法において、前記「マイクロピラーの頂部または上半部の柱面に反射層を一層設け、頂部または上半部の柱面に反射層を有するマイクロピラーを得る」というステップは、具体的には、マイクロピラーの頂部または上半部の柱面に反射性金属を均一にスパッタリングし、頂部または上半部の柱面に金属光反射層を有するマイクロピラーを得ることである。
【0033】
さらに、上述したいずれかの実施例において、細胞は単一細胞であってもよいし、2個以上の細胞が形成するいかなる形態の多細胞集合体であってもよい。本発明は、単一細胞または2個以上の多細胞が形成するさまざまな形態を限定しない。
【発明の効果】
【0034】
従来技術と比較して、上述の技術案は以下の利点を有する。
第一に、ハイスループット性及び低コスト性である。従来のTFM及び通常のマイクロピラーアレイと比較して、本発明の技術案は顕微鏡への依存から解放され、操作フローが大幅に簡略化される。なぜなら、顕微鏡による高解像度撮影が不要で、反射光の強度を監視するだけで、細胞のハイスループットモニタリングを実現できる。
第二に、単一細胞分解能である。分解能が高く、各細胞をリアルタイムでモニタリングすることができ、他の単一細胞分析技術と組み合わせることで、薬物に対する細胞反応の不均一性を測定することができる。リアルタイムモニタリングが可能で、蛍光を必要とせず、レーザーによる細胞への光毒性を回避できるため、長期モニタリングに適しており、薬物に対する細胞の長期的な反応の研究に用いることができる。高感度で、反射信号によってマイクロピラーの変形信号を増幅し、変形モニタリングの感度を高めることができる。マイクロ/ナノピラーの曲げ変形の検出は、通常、光学系(顕微鏡など)に依存しているが、マイクロピラーのサイズが小さいほど、光学系の精度と解像度への要求が高くなる。例えば、幅2μm、高さ6μmのマイクロピラーの場合、20倍以上の対物レンズと共焦点システムを組み合わせて初めて効果的に観察することができる。一方、本発明では、鏡面反射の原理を利用して反射光の減衰を検出することで、実質的にマイクロピラーの変形信号を増幅することができ、実験によって、同じ信号が5倍の対物レンズの下で観察可能であることが確認されている。特殊な読み取りシステムと組み合わせることで、高倍率の光学対物レンズに頼ることなく、マイクロ/ナノピラーの変形を効果的に検出することができ、システムのコストを大幅に削減し、スループットを効果的に向上させることができる。
第三に、細胞微小環境をシミュレートすることができる。細胞外マトリックスの組成と形態をシミュレートすることができ、より豊富な技術ニーズシーンに対応することができる。
第四に、多層細胞、腫瘍ポリマーなどの細胞の機械力を検出することができ、薬物スクリーニング、再生医療、遺伝子編集、精密医療、臓器発生、疾病モデリングなど、多細胞集合体の特性評価が必要なシーンに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の第一実施例の細胞の機械的力を検出する装置の構造概略図である。
【
図2】本発明の第一実施例の細胞の機械的力を検出する装置のマイクロピラー(実物)の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図2aは細胞の機械的力検出装置の平面図であり、
図2bは細胞の機械的力検出装置の側面図である。
【
図3】本発明の第九実施例に関連する細胞の機械的力を検出するシステムの構造概略図である。
【
図4】本発明の第十実施例に関連する細胞の機械的力を検出するシステムの構造概略図である。
【
図5】頂部位置に光反射層(金)を有するマイクロピラー(ポリジメチルシロキサン)の走査型電子顕微鏡像である。
図5aはマイクロピラーの走査型電子顕微鏡像であり、
図5bはマイクロピラー頂部領域の元素特性図であり、
図5cはマイクロピラー側面領域(頂部領域以外)の元素特性図である。
【
図6a】細胞が、頂部にフィブロネクチンを有するマイクロピラー群からなる所定のパターンに接着した蛍光撮影像である。
【
図6b】頂部にフィブロネクチンを有するマイクロピラー上で測定された光反射信号から解析された細胞力分布図である。
【
図7a】OKT3抗体を細胞接着作用を有する物質として使用した試験の概略図である。
【
図7b】上部の画像は、細胞がそれぞれ頂部にOKT3抗体、フィブロネクチンを有するマイクロピラーの頂部に接着した蛍光撮影像である。
【
図7b】下部の画像は、マイクロピラー上で測定された光反射信号(細胞の機械的力の大きさを反映)の分布図である。
【
図7c】それぞれOKT3抗体、フィブロネクチンをコーティングした表面で測定された力の大きさの比較図である。
【
図7d】T細胞をOKT3抗体表面(マイクロピラーの頂部)に播種した後に発生した細胞力学の動的変化図である。
【
図8】細胞制御機構を有する細胞の機械的力を検出する装置の構造概略図aである。
【
図9】細胞制御機構を有する細胞の機械的力を検出する装置の構造概略図bである。
【
図10a】シリコン薄膜を細胞制御機構として用いた細胞の機械的力を検出する装置の実物図である。
【
図10b】光反射下でシリコン薄膜を細胞制御機構として用いた細胞の機械的力を検出する装置の蛍光顕微鏡像である。
【
図11】第十一実施例の細胞の機械的力を検出するシステムによる細胞の機械的力監視の蛍光顕微鏡像である。
【
図12a】第十二実施例の細胞の機械的力検出システムの構造概略図である。
【
図12b】第十二実施例の光信号検出装置が取得した細胞の機械的力検出装置の光反射信号の画像である。
【
図12c】第十二実施例の光信号分析装置により処理された力の大きさ及び分布の可視化効果図である。
【
図13a】流体がオンになる前後のマイクロ流体環境における細胞の機械的力検出装置の構造概略図である。
【
図13b】流体がオンになる前のマイクロピラーの明視野顕微鏡像、反射光信号分布図及び両者の重ね合わせ効果の比較図である。重ね合わせ効果図とは、マイクロピラーの明視野顕微鏡像と反射光信号分布図を重ね合わせて得られた効果図を指す。
【
図13c】流体がオンになった後のマイクロピラーの明視野顕微鏡像、反射光信号分布図及び両者の重ね合わせ効果図の比較図である。重ね合わせ効果図とは、マイクロピラーの明視野顕微鏡像と反射光信号分布図を重ね合わせて得られた効果図を指す。
【
図13d】流体がオンになる前後の光反射信号の強度値である。
【
図13e】光反射信号の減衰とマイクロピラー頂部の変位の線形区間である。
【
図14a】細胞の機械的力を検出する装置のマイクロピラーと細胞が接触する前後の構造概略図である。
【
図14b】光信号検出装置が取得した反射光信号の分布図である。
【
図14d】細胞移動過程における反射光信号の分布図である。
【
図15a】健康細胞と非小細胞肺がん細胞の混合系の蛍光撮影像である。
【
図15b】光信号検出装置により取得された細胞の機械的力検出装置の光反射信号分布図である。
【
図15c】光信号分析装置により処理された力の大きさ及び分布の可視化効果図である。
【
図15d】
図15cにおける健康細胞と非小細胞肺がん細胞の代表的な単一細胞の細胞力分布の拡大図である。
【
図15e】健康細胞と非小細胞肺がん細胞の細胞形態の比較図である。
【
図15f】健康細胞、非小細胞肺がん細胞及びこれら2種類の細胞を異なる比率で混合した後の反射信号強度の比較図である。
【
図15g】
図15cを構造化処理した後、構造化細胞情報に基づいて処理して得られたクラスタリング分析図である。
【
図16a】細胞活性検出方法の操作フロー概略図である。
【
図16b】A549細胞を異なる投与量の5FUで24時間処理した後、MTT法により測定された細胞活性及び細胞の機械的力により反映された細胞活性の比較図である。
【
図16c】A549細胞を異なる投与量の5FUで異なる時間処理した後、MTT法により測定された細胞活性及び細胞の機械的力により反映された細胞活性の比較図である。
【
図17b】M0マクロファージがM1状態に分化した蛍光顕微鏡像である。
【
図17c】M0マクロファージがM2状態に分化した蛍光顕微鏡像である。
【
図17d】M0マクロファージ、M1状態及びM2状態の細胞接着面積の比較図である。
【
図17e】M0マクロファージ、M1状態及びM2状態の細胞円形度の比較図である。
【
図17f】M0マクロファージ、M1状態及びM2状態の機械力の比較図である。
【
図18a】第一の形態の腫瘍細胞ポリマーが5-Fuの作用の有無下で特性評価された図である。図中、左から右に向かって、細胞膜蛍光と反射信号の混合像(1)、光反射信号(2)、細胞核(3)、細胞膜(4)及び光信号分析装置(ImageJ)により処理された細胞力の可視化像(5)をそれぞれ示す。
【
図18b】第二の形態の腫瘍細胞ポリマーが5-Fuの作用の有無下で特性評価された図である。図中、左から右に向かって、細胞膜蛍光と反射信号の混合像(1)、光反射信号(2)、細胞核(3)、細胞膜(4)及び光信号分析装置(ImageJ)により処理された細胞力の可視化像(5)をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0036】
1…細胞の機械的力を検出する装置、2…光信号発生装置、3…光信号検出装置、4…光信号分析装置、5…ビームスプリッター、11…基底、12…マイクロピラー、13…光反射層、15…窪み空間、16…制限面。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明の技術内容、構造的特徴、達成目的及び効果を詳細に説明する。
第一実施例細胞の機械的力を検出する装置
【0038】
図1を参照されたい。これは、細胞の機械的力を検出する装置の構造概略図aであり、図に示すように、細胞の機械的力を検出する装置は、透光性の基底11と、基底11上に設置され、細胞の機械的力により変形可能なマイクロピラー12とを含み、マイクロピラー12の頂部に光反射層13が設けられており、光反射層13の厚さは5nmである(他のいくつかの実施例では、光反射層13の厚さは5nmから20nmまでの間であってもよい。これは、塗布材料に関連し、同じ塗布材料を用いる場合、塗布層の厚さの選択は、透光性を保証し、マイクロピラーの柱体の安定性を保証し、マイクロピラーの柱体との接続が剥離しないことを限度とすべきである)。マイクロピラー12の柱体は光を透過可能であり、図中の逆方向の矢印群は入射光線と反射光線を表す。(注意:本実施例では「塗布層」という言葉を用いたが、これは本実施例における光反射層13が塗布工程により製造され得ることを表すだけであり、光反射層13が必ずしも塗布工程により製造されなければならないことを限定するものではない)。
【0039】
図2を参照されたい。これは、本実施例の細胞の機械的力検出装置のマイクロピラー12(実物)の走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、
図2aは細胞の機械的力検出装置の平面図であり、
図2bは細胞の機械的力検出装置の側面図である。
図2から分かるように、この細胞の機械的力検出装置のマイクロピラーのマイクロ構造は整然として均一であり、サイズが制御可能であり、従来の細胞の機械的力検出装置と比べて、本実施例に基づく細胞の機械的力検出装置により測定された力学値はより正確である。
【0040】
本実施例で述べた細胞の機械的力を検出する装置1が使用に投入されるとき、マイクロピラー12の数は1つだけではない。
図3を参照されたい。これは、本発明の第九実施例に関連する細胞の機械的力を検出するシステムの構造概略図であり、
図3は本実施例を理解するために用いることができる。
図3に示すシステムは、本実施例で説明した細胞の機械的力を検出する装置1に関連するだけでなく、基底11の下方に設置された光源を有する光信号発生装置2及び光信号検出装置3にも関連する。前記光源から発せられた光線は、入射光路を通じて細胞の機械的力を検出する装置1の透光性の基底11からマイクロピラー12の光反射層に照射される。前記光信号検出装置3は、マイクロピラーの頂部の光反射層13から反射された光線を検出するためのものであり、光反射層13から反射された光線は、反射光路を通過し、ビームスプリッター5の作用を経た後、光信号検出装置3に入る。反射光信号を得た後、光信号分析装置4により、細胞の機械的力を検出する装置1と被検細胞との間で発生した細胞の機械的力の作用前後の反射光線を比較分析し、細胞の機械的力情報を得ることができる。マイクロピラー12が力を受けていない場合、マイクロピラーは直立状態を維持しているはずであり、それによって探知光を最大限に反射することができる。一方、マイクロピラー12が細胞と接触すると、細胞の機械的力の作用下で、マイクロピラー12が曲がり、光の反射レベルが低下する。したがって、細胞の機械的力が大きいほど、得られる光反射信号は小さくなるはずであり、このようにして光反射信号強度の観測により、その点における細胞の機械的力の大きさを容易に逆算することができる。
【0041】
また、本実施例の技術案における測定光源は、一定の強度の赤外レーザーを採用することもできる。従来の技術案におけるマイクロピラーの測定では、高解像度の画像を撮影する必要があるが、その過程でレーザーを使用すると、細胞に光毒性を引き起こしたり、サンプルの蛍光が消光したりしやすい。一方、本技術案では、反射信号のみを測定する必要があるため、一定の光強度以内の赤外レーザーが細胞に与える影響は基本的に無視できるため、細胞の長期監視に適している。
第二実施例細胞の機械的力を検出する装置
【0042】
第一実施例との相違点は、前記マイクロピラー12は頂部端面に光反射層13を有するだけでなく、マイクロピラー12の柱面(すなわち、柱体の2つの端面を連結する曲面)の上半部にも光反射層13が設けられていることである。実際、他のいくつかの実施例では、マイクロピラー12の側柱面の下半部に光反射層13を設置する方案は、実際の効果が良好でないため採用されないが、光反射層13をマイクロピラー12の側面の上半部に設置する限り、本発明が達成しようとする検出効果を実現することができる。つまり、他のいくつかの実施例では、光反射層13は、上半側柱面の任意の局所位置または頂部の局所位置に設けられていてもよく、必ずしも上半柱面全体または頂部端面全体に設ける必要はなく、予期の目的を達成することができるが、得られるデータと後の計算効果には差がある可能性がある。
【0043】
また、本発明の第一実施例及び第二実施例では、マイクロピラーの「柱面」及び「端面」の定義が現れたが、つまり、通常我々が理解している独立した柱体は、2つの端面及び2つの端面を連結する曲面(柱面)を有しているはずであるが、本発明のマイクロピラーは、基底の存在により、1つの端面、すなわち頂端面しか有しておらず、もう一方の端は基底に固定されているか、または基底と一体成形されている。しかし、他のいくつかの実施例では、頂部の端面が柱面と一体の滑らかに連結された曲面である可能性があり、必ずしも第一実施例または第二実施例に示すように交線または明らかな境界線を有している必要はない。この場合、光反射層13の設置位置も柱体の上半部分と理解すべきであり、「端面」または「柱面」に限定されるべきではない。
第三実施例細胞の機械的力を検出する装置
【0044】
図4を参照されたい。
図4は、本発明の第十実施例の細胞の機械的力を検出するシステムの構造概略図であり、本実施例の細胞の機械的力を検出する装置1を説明するために用いられる。本実施例と第一実施例及び第二実施例との相違点は、前記基底11及び前記マイクロピラーアレイのマイクロピラー12の柱体の透光性能に要求を課さないことである。すなわち、透光性を有してもよいし、透光性を有さなくてもよいし、半透光性を有してもよい。この場合、光信号発生装置2及び光信号検出装置3の位置を変更するだけで、それらを基底11の上方に設置することができる。このようにして、マイクロピラーが曲がるたびに、光信号検出装置3が受信する光信号は、マイクロピラー12が直立して変形しないときと比べて変化するはずであり、前後の光信号の変化状況を分析することにより、同様に細胞の機械的力の相対的な大きさの状況を得ることができ、標準値と校正した後、細胞の機械的力の絶対的な大きさの数値を得ることができる。
第四実施例細胞の機械的力を検出する装置
【0045】
本実施例と第一実施例乃至第三実施例との相違点は、マイクロピラー12の表面において、光反射層13が設けられた領域以外の領域に、光線に対する反射防止層が設けられていることである。このような設計により、柱体表層がもたらす可能性のある反射光信号の干渉を減少させ、S/N比を向上させ、検出結果をより正確にすることができる。
【0046】
いくつかの実施例では、前記光反射層13は金箔層であってもよい。他の実施例では、光反射層13は、光反射機能を有する他の金属層または他の反射材料であってもよい。異なる材料がもたらす反射効果、反射層の製造の難易度及びコストなどには差異がある可能性があり、実際の操作では具体的な条件に基づいて考慮し選択することができる。
【0047】
第一実施例乃至第四実施例では、前記マイクロピラー12の横断面形状は円形である。他の実施例では、前記マイクロピラー12の横断面形状は、楕円形または多角形であってもよい。本発明の様々な異なる具体的な状況の実施例では、横断面の相違により異なる目的を達成することができる。例えば、円形横断面は等方性の特徴を有しており、すなわちマイクロピラー自体の力学特性は方向に敏感ではない。一方、横断面が楕円形の場合は異方性であり、すなわちマイクロピラー自体の力学特性は方向に敏感であり、これにより異なる方向の力場に対する感度を制御し、ある程度細胞の向性を調節することができる(大部分の細胞の幾何学的形態は実際には非対称である。本発明において、細胞の向性とは、細胞が示す形態上の非対称性、極性または方向性を指す。例えば、楕円を用いて細胞投影の形状をフィッティングする場合、楕円の長軸は細胞が有する方向であると考えることができる)。というのも、横断面が楕円形の場合、横断面は長軸と短軸を有するため、短軸に沿ってマイクロピラーを押すほうが長軸に沿って押すよりもはるかに容易であり、相対的な力の条件下では変形も大きくなるからである。いくつかの拡張実施例では、このようなマイクロピラー上に細胞を播種すると、細胞とマイクロピラーの間に異方性の力学的相互作用が存在し、細胞がある側に沿って生長するようになる。一方、流体に応用する場合は、流体の方向を測定するために用いることができる。
【0048】
第一実施例乃至第四実施例では、前記マイクロピラーアレイのサイズは、柱の高さ10nmから500μmまで、柱間隔10nmから50μmまで、柱の上面直径50nmから50μmまでである。このサイズ範囲内のマイクロピラーは、センサーとして使用するマイクロピラーの基本的な使用条件、すなわち少なくとも変形可能で倒れないという条件を満たすことができる。この基礎の上に、異なるマイクロピラーアレイサイズの調整により、以下の機能を実現することもできる。例えば、マイクロピラーのアスペクト比(マイクロピラーのレベルでは、高さと横断面直径/辺長/長径の比と理解することができる)を調整することにより、ある程度のマイクロピラーの変形性能を調整し、それにより体内の器官組織環境(例えば、硬度の異なる骨組織と神経組織)をよりよくシミュレートすることができる。
【0049】
また、アレイ全体の規格、つまり一定面積の基底11上のマイクロピラー12の数も、リガンド密度(Ligand Density)、すなわち細胞が表面で見つけることができる接着点の数に影響を与える。マイクロピラー12のアレイが疎であるほど、細胞が見つけることができる接着点が少なくなり、細胞の挙動に少なからぬ影響を与える。
【0050】
マイクロピラーの形状における断面積の大きさも、細胞接着挙動に影響を与える。なぜなら、細胞接着によって形成される接着斑(Focal Adhesion)は一定の面積を必要とするからである。ナノマイクロピラーの場合、マイクロピラーの断面積が小さいため、Focal Adhesionの形成に影響を与える。
【0051】
要するに、材料自体の特性と一定のマイクロピラーアレイのサイズを組み合わせることで、より要求に合った細胞支持効果、チップの安定性、測定精度を達成することができる。マイクロピラーアレイの分布を調整することで、ある程度、細胞の接着状態を調整し影響を与えることもできる。
【0052】
第一実施例乃至第四実施例では、前記マイクロピラー12の材質はポリジメチルシロキサン(PDMS)である。本発明の主要実施例の他のいくつかでは、マイクロピラー12の材質は、他のいくつかの高分子材料、例えばシリコーン系高分子ポリマー、フォトレジスト高分子材料、導電性高分子材料、温度感応性高分子材料などであってもよい。本発明の主要実施例が主に高分子材料を採用する理由は、現在、高分子材料が本発明の応用に比較的適した変形特性を有しているためであるが、本発明の実施はマイクロピラーの材質を高分子材料に限定する必要はなく、完全に相応の変形特性を有するすべての材料に拡張することができ、いずれも本発明の発明思想を実現することができる。簡単に言えば、マイクロピラーの材質が満たさなければならない条件は、一定の力学的変形特性を有することであり、また、いくつかの実施例では、一定の透光性を有する必要がある。後者は、すべての実施例の必要条件ではなく、透光性の制限がある材料でマイクロピラーを製造する場合、光信号発生装置と光信号検出装置の位置を適切に設定するだけで、同様に本発明の発明思想を実現することができる。
【0053】
全体的に見て、マイクロピラー12の硬度(変形可能性)は、実際のニーズに応じて、サイズ(主にアスペクト比)、材料の種類の選択、及び高分子材料の架橋度の制御、化学的又は物理的表面処理など、複数の技術的側面から調整することができる。
図5を参照されたい。
図5は、頂部位置に光反射層(金)を有するマイクロピラー(ポリジメチルシロキサン)の走査型電子顕微鏡像である。その中で、
図5aはマイクロピラーの走査型電子顕微鏡像であり、
図5bはマイクロピラー頂部領域の元素マッピング図であり、
図5cはマイクロピラー側面領域(頂部領域以外)の元素マッピング図である。
図5の走査型電子顕微鏡像によりマイクロピラーの物質組成を特性評価することで、マイクロピラーの頂部位置にAu元素が存在し、マイクロピラーの他の位置にSi元素が存在することを確認できる。
第五実施例細胞の機械的力を検出する装置
【0054】
本実施例と第一実施例乃至第四実施例との相違点は、マイクロピラーアレイの一部のマイクロピラー12の頂部端面上に、細胞接着作用を有する物質が設けられていることである。本実施例ではコラーゲンを採用しているが、他の実施例ではコラーゲンを含む細胞外マトリックス分子の中から1種類または複数種類を組み合わせて採用することもできる。例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エラスチンなどである。他のいくつかの実施例では、マイクロピラーアレイ12の全部または一部のマイクロピラーの頂部端面上に、他の種類の細胞接着作用を有する物質を設けることもできる。例えば、細胞外マトリックスの模倣物質(RGD接着配列を含むポリペプチドなど)、細胞接着促進機構を有する物質(ポリリジンなど)、または細胞表面受容体と相互作用する物質などである。
【0055】
マイクロピラー12の頂部端面上にこのような細胞接着作用を有する物質を設けることで、細胞のマイクロピラー12への接着を効果的に促進し、それにより細胞の接着、増殖、移動、状態、分化などを調整することができる。さらに、マイクロピラーアレイの所定領域の一部のマイクロピラーの頂部端面上に細胞接着作用を有する物質(フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質)を設けると、これらのマイクロピラーが一定の形状を構成することができる。それにより、細胞は特定の位置と形状のマイクロピラー上に接着しやすくなり、細胞の大きさ、形状、向性特性を制御しながらハイスループットの力学測定を行うことができる。
第六実施例細胞の機械的力を検出する装置
【0056】
本実施例と第五実施例との相違点は、第五実施例で述べたように、マイクロピラーアレイの一部のマイクロピラー12の頂部端面上に細胞接着作用を有する物質が設けられているのに対し、本実施例では、前記頂部端面上に細胞接着作用を有する物質が設けられていない部分のマイクロピラー12の柱面(端面または側面)に、細胞接着抑制作用を有する物質(F-127など)が更に設けられていることである。それにより、細胞はより特定の位置と形状のマイクロピラー上に接着しやすくなり、細胞の大きさ、形状、向性特性を制御しながらハイスループットの力学測定を行うことができる。
第七実施例細胞の機械的力を検出する装置
【0057】
本実施例と第一実施例乃至第四実施例との相違点は、マイクロピラーアレイ12の頂部端面上に細胞接着作用を有する物質を有するマイクロピラーが所定のパターンを構成していることである。具体的には、マイクロコンタクトプリント技術を通じて、特定のパターンの細胞接着分子層を印刷し、これらの領域における細胞の接着を促進することができる。所定のパターンは、三角形、四角形、多角形、円形、楕円形などの形状であってもよく、所定のパターンの役割は、まず、これらの細胞接着作用を有する物質で構成されるパターンを通じて細胞と細胞間の接触を制御し、ハイスループットのデータ取得の要求を実現しやすくすることである。次に、細胞の形状を統一することで、データ処理における次元削減の効果を達成し、分析の難易度を下げることができる。さらに、細胞の接着領域を制限することで、細胞のサイズ、形状、向性、分化状態などを制御することができ、さらにはアクチンフィラメントを制御することで細胞の力学状態を調整し、ある特殊な技術的要求シーンの要求を満たすこともできる。
【0058】
本実施例と大まかに類似する別の実施例では、印刷されていない前記所定のパターンの部分に、BSA(ウシ血清アルブミン)やF127(高分子非イオン性界面活性剤)などの細胞接着抑制作用を有する物質を用いて、これらの領域における細胞の接着を抑制し、それにより指向性接着、細胞形態の制御、または特定の細胞微小環境のシミュレーションを実現することができる。
【0059】
他のいくつかの実施例では、細胞接着作用を有する物質として、フィブロネクチン(Fibronectin、FN)を例示的に説明するが、本発明の実施例を限定するものではない。四角形及び長方形のパターンが突出した表面を有するポリジメチルシロキサンのマイクロスタンプをそれぞれ使用し、マイクロスタンプ表面にフィブロネクチンを接着させ、マイクロコンタクトプリンティングの方式を採用して、スタンプの突出部分のフィブロネクチンをマイクロピラーの頂端の金属反射層上に転写する。次に、マイクロピラーをF-127溶液に浸漬し、フィブロネクチンが設けられていない部分が細胞接着を抑制する効果を有するようにする。最後に、マイクロピラーを生理食塩水で十分に洗浄した後、細胞膜が染色された線維芽細胞をマイクロピラー表面に播種し、細胞の蛍光撮影を行う(
図6aに示すように)。同時に、細胞内の力場を高分解能で測定する(
図6bに示すように)。
図6a及び
図6bを参照されたい。
図6aは、頂部にフィブロネクチンを有するマイクロピラー群からなる所定のパターンに細胞が接着した蛍光撮影像であり、細胞の接着範囲がフィブロネクチンを有する領域に限定されていることがわかる。これにより、所定のパターンを通じて細胞の接着領域を制限し、細胞のサイズ、形状、向性、分化状態などを制御しながら細胞の力学モニタリングを行うことができる。
図6bは、マイクロピラー上で測定された光反射信号から解析された細胞の機械的力の大きさの分布図である。
【0060】
他のいくつかの実施例では、細胞接着作用を有する物質として、OKT3抗体(細胞表面受容体と相互作用する物質)またはフィブロネクチン(Fibronectin、FN)を例示的に説明するが、本発明の実施例を限定するものではない。
図7aから
図7dまでを参照されたい。
図7aは、OKT3抗体を細胞接着作用を有する物質として使用した試験の概略図である。
図7bの上部分の画像は、細胞がそれぞれ頂部にOKT3抗体、フィブロネクチンを有するマイクロピラーの頂部に接着した蛍光撮影像である。
図7bの下部分の画像は、マイクロピラー上で測定された光反射信号(細胞の機械的力の大きさを反映)の分布図である。
図7cは、OKT3抗体、フィブロネクチンをコーティングした表面でそれぞれ測定された力の大きさの比較図である。
図7dは、T細胞をOKT3抗体表面(マイクロピラーの頂部)に播種した後に発生した細胞力学の動的変化図である。具体的には、上記の試験は、同一の細胞の機械的力検出装置または異なる細胞の機械的力検出装置の一部のマイクロピラーの頂端にOKT3抗体またはフィブロネクチンをコーティングし、T細胞を細胞の機械的力検出装置の細胞接着作用を有する物質の表面に播種することができる。
図7aから
図7dまでから、マイクロピラー表面に細胞表面受容体と相互作用する物質(OKT3抗体など)またはフィブロネクチン(Fibronectin、FN)をコーティングした細胞の機械的力検出装置は、その物質の細胞に対する機械的力の影響及び相互作用をリアルタイムでモニタリングするのに用いることができることがわかる。
第八実施例細胞の機械的力を検出する装置
【0061】
本実施例と第一実施例乃至第七実施例との相違点は、前記細胞の機械的力を検出する装置が、更に細胞制御機構を含むことである。前記細胞制御機構は、一つまたは複数の制限面16を含み、前記制限面16は、基底11の位置する平面に垂直で、基底11に接続されるか、または基底11と一体成形された平面または曲面であり、かつ前記制限面16の高さはマイクロピラー12よりも高く、所定数のマイクロピラー12を囲んでいる。
【0062】
本実施例で設置された細胞制御機構の役割は、単一細胞の隔離検出、すなわち検出時に細胞と細胞との間に接触または接着が存在することを避け、細胞の形態を制限し、それによりハイスループット試験を容易にすることである。異なる要求に応じて、細胞位置限定機構に含まれる制限面16の数または囲む形状は異なる場合がある。例えば、細胞位置限定機構に含まれる制限面16は、一つの円柱面であってもよいし、先端と末端が接続して三角形の断面形状を形成し、一定数のマイクロピラーを囲む3つの平面であってもよいし、互いに垂直で先端と末端が接続して矩形の形状を形成し、一定数のマイクロピラーを囲む4つの平面であってもよいし、先端と末端が接続して包囲するN角形のN個の平面であってもよいし、または横断面が類円形の一つの曲面などであってもよい。つまり、制限面16が構成する横断面形状は制御可能な閉形状であり、かつその面積(またはその空間内に収容可能なマイクロピラーの数と理解することができる)も制御可能である。
【0063】
実際の実施例では、制作工程の相違により、細胞制御機構はまた以下の形式で出現することができる。
A.
図8を参照されたい。
図8は、細胞制御機構を有する細胞の機械的力を検出する装置の構造概略図aであり、図中、前記細胞制御機構は基底11と一体成形されている。すなわち、細胞制御機構を形成する物質に複数の窪み空間15があり、その窪み空間15の壁面が制限面16であり、窪み空間15の深さが制限面16の高さであり、窪み空間15の底部が基底11であり、各窪み空間15内に複数のマイクロピラー12がある。
B.
図9を参照されたい。
図9は、細胞制御機構を有する細胞の機械的力を検出する装置の構造概略図bであり、図中、制限面16は基底11に接着された構造である。
第九実施例細胞の機械的力を検出する装置
【0064】
本実施例と第八実施例との相違点は、本実施例における細胞制御機構がシリコン薄膜であることである。
【0065】
具体的には、
図10aから
図10cまでを参照されたい。
図10aは、シリコン薄膜を細胞制御機構として用いた細胞の機械的力を検出する装置の実物図であり、
図10aにおいて、シリコン薄膜はレーザー穴あけ後、基底に接着され、各穴にはマイクロピラーが設けられており、シリコン薄膜を通じて細胞の形態と移動を制限し、同時に細胞と細胞との間の接触または接着を制御する。
図10bは、光反射下でシリコン薄膜を細胞制御機構として用いた細胞の機械的力を検出する装置の蛍光顕微鏡像であり、
図10cは
図10bの拡大図である。いくつかの実施例では、シリコン薄膜の各穴のサイズを単一細胞のサイズに適合するように設定し、単一細胞の接着に適し、それにより細胞の接触、細胞の形態及びその移動範囲を制限することができる。
第十実施例細胞の機械的力を検出するシステム
【0066】
細胞の機械的力を検出するシステムであって、第一実施例または第二実施例に記載の細胞の機械的力を検出する装置1、光信号発生装置2及び光信号検出装置3を含み、前記光信号発生装置2及び光信号検出装置3はいずれも前記細胞の機械的力を検出する装置1の基底11の下方に位置し、前記光信号発生装置2は光源を有し、前記光源から発せられた光線は入射光路(連続して透光性の基底及び透光性のマイクロピラー柱体を通過する)を通じてマイクロピラー12の光反射層13に照射され、反射が発生し、反射光は反射光路(連続して透光性のマイクロピラー柱体及び透光性の基底を通過する)を通じて光信号検出装置3に入る。光信号検出装置3はマイクロピラー12と細胞が接触する前後の反射光信号を取得することができる。他のいくつかの実施例では、このような細胞の機械的力を検出するシステムは、更に光信号分析装置4を含み、マイクロピラー12と細胞が接触する前後の反射光信号を比較、分析、計算することにより、細胞の機械的力情報(細胞の機械的力の大きさ、方向、一定の時間範囲内の変化状況など)を得ることができる。
第十一実施例細胞の機械的力を検出するシステム
【0067】
図4を参照されたい。
図4は、本発明の第十一実施例に関連する細胞の機械的力を検出するシステムであり、第三実施例に記載の細胞の機械的力を検出する装置1、光信号発生装置2及び光信号検出装置3を含み、前記光信号発生装置2及び光信号検出装置3はいずれも前記細胞の機械的力を検出する装置1の基底11の上方に位置し、前記光信号発生装置2は光源を有し、前記光源から発せられた光線は入射光路を通じて光反射層13に照射され、反射が発生し、光信号検出装置3はマイクロピラー12と細胞が接触する前後の反射光信号を取得することができる。
【0068】
本発明の実施例では、光信号検出装置は、顕微鏡、電荷結合素子CCD、相補型金属酸化膜半導体CMOS、光電子増倍管PMT及び光電変換器PT、フィルム、またはその他同様の機能を有する光信号検出素子であってもよく、本発明はこれを具体的に限定しない。説明する必要があるのは、本発明のいくつかの実施例では、顕微鏡を光信号検出装置として採用する場合、独立の光信号発生装置を設置する必要はなく、本発明の細胞の機械的力検出装置を直接顕微鏡のステージ上に置き、顕微鏡の光源を光信号発生装置として、顕微鏡の対物レンズ(5倍の対物レンズで十分であり、高倍率の光学対物レンズに依存する必要はない)を光信号検出装置として使用することができる。他の光信号検出装置、例えば電荷結合素子CCDを採用する場合は、独立の光信号発生装置を設置する必要がある。本発明の実施例では、光信号発生装置は、LED、ハロゲンランプ、レーザー(例えば、赤外レーザー)、またはその他の光源、またはこれらの光源を有するその他の装置であってもよく、本発明はこれを具体的に限定しない。
【0069】
以下、本実施例に関連する細胞の機械的力を検出するシステムを用いた細胞の機械的力モニタリングの可視化プロセスについて具体的に紹介する。
【0070】
図11を参照されたい。
図11は、本実施例の細胞の機械的力検出システムによる細胞の機械的力モニタリングの蛍光顕微鏡像である。具体的には、細胞(例えば、本実施例では線維芽細胞Fibroblastを採用)を細胞の機械的力検出装置のマイクロピラー上に置き、光信号検出装置(例えば、本実施例では顕微鏡を採用)は細胞の機械的力情報を光学信号に変換し、画像を形成して可視化観測を行うことができ、かつ細胞の機械的力の変化をリアルタイムにフィードバックすることができる。
第十二実施例細胞の機械的力を検出するシステム
【0071】
図4を参照されたい。
図4は、本発明の第十二実施例に関連する細胞の機械的力を検出するシステムであり、第三実施例に記載の細胞の機械的力を検出する装置1、光信号発生装置2、光信号検出装置3及び光信号分析装置4を含む。前記光信号発生装置2及び光信号検出装置3はいずれも前記細胞の機械的力を検出する装置1の基底11の上方に位置する。前記光信号発生装置2は光源を有し、前記光源から発せられた光線は入射光路を通じて光反射層13に照射され、反射が発生する。ビームスプリッター5は、半透過半反射またはその他の等価な光学素子であってもよく、主な目的は光路の設計を簡素化することである。光信号検出装置3はマイクロピラー12と細胞が接触する前後の反射光信号を取得することができる。光信号分析装置4は、マイクロピラー12と細胞が接触する前後の反射光信号を比較、分析、計算することにより、細胞の機械的力情報(細胞の機械的力の大きさ、方向、一定の時間範囲内の変化状況など)を得ることができる。
【0072】
本発明の実施例では、光信号分析装置は、光学画像分析ソフトウェアImageJ、Matlab、Fluoview、Python、またはその他同様の機能を有する光学画像分析素子、またはこれらの分析ソフトウェアの組み合わせ使用であってもよく、本発明はこれを具体的に限定しない。
【0073】
以下、本実施例に関連する細胞の機械的力を検出するシステムの検出、分析プロセスについて具体的に紹介する。
【0074】
図12aから
図12cまでを参照されたい。
図12aは、細胞の機械的力検出システムの構造概略図である。
図12bは、光信号検出装置により取得された細胞の機械的力検出装置の光反射信号の画像である。
図12cは、力の大きさ及び分布の可視化効果図である。
【0075】
図12aに示すように、細胞の機械的力検出装置において、各マイクロピラーの頂部には金属反射層が設けられ、側面には反射防止層が設けられている。細胞がない場合、光線は下方からマイクロピラーを照射し、完全に反射され、光信号検出装置(例えばCCDカメラ)により完全に受光される。しかし、細胞がマイクロピラーに接着すると、細胞の移動により生じる細胞力によってマイクロピラーが傾斜し、反射信号が低下する。光反射信号の分析を経て、細胞力の強度を計算することができる。
【0076】
さらに、光信号検出装置(例えばCCDカメラ)により細胞の機械的力検出装置の光反射信号の画像及び局所的な細胞接着領域の拡大画像を収集する(
図12bに示すように)。次に、光信号分析装置により
図12bの画像をさらに処理し、より直観的な力の大きさ及び分布の可視化効果
図12cに変換する。
【0077】
具体的な処理プロセスは以下の通りである。まず、
図12bに基づいて、明視野反射信号図(I、細胞上に焦点を合わせる)を得る。次に、画像をフーリエ変換した後、高周波信号をフィルタリングし、逆フーリエ変換操作を行うことにより、偏移のない状況下でのマイクロピラー反射信号画像(I0)を計算して得る。次に、I及びI0画像をさらに処理し、反射信号図をより直観的な細胞力学図(I0信号値からI信号値を引く)に変換した後、標準化することにより、より直観的な細胞の機械的力強度図jを得る。
第十三実施例機械力の計算方法、力学と光反射信号の相互関係
【0078】
本実施例は、第十実施例乃至第十二実施例のいずれか一つに記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは第十四実施例に記載の細胞の機械的力を検出する方法と組み合わせて、本発明の実施例における機械力の計算方法を説明し、流体を外力として利用して、力学と光反射信号の相互関係を検証する。
【0079】
図13を参照されたい。
図13において、
図13aは、流体がオンになる前後のマイクロ流体環境における細胞の機械的力検出装置の構造概略図である。
図13b及び12cは、流体がオンになる前後のマイクロピラーの明視野顕微鏡像、反射光信号分布図及び両者の重ね合わせ効果図の比較図である。
図13dは、流体がオンになる前後の光反射信号強度図である。
図13eは、光反射信号とマイクロピラーの偏移の線形関係図である。ここで、重ね合わせ効果図とは、マイクロピラーの明視野顕微鏡像と反射光信号分布図を重ね合わせて得られた効果図を指す。
【0080】
まず、
図13に示すように、細胞の機械的力検出装置をマイクロ流体チャネルに統合し、外部流速が増加すると、マイクロピラーが変位し、同時にマイクロピラー表面の反射層の角度が変化する(
図13aから
図13cまで)。
図13dから、流体がオンになる前後において、光反射信号が強から弱に変化することがわかる。具体的には、流速の強弱を利用してマイクロピラーの偏移量を変化させ、共焦点顕微鏡を使用してマイクロピラーの頂部のマイクロピラーの底部に対する変位を撮影し、以下の式を通じて各マイクロピラーが受ける機械力を計算することができる。
【0081】
【0082】
ここで、Fはマイクロピラーをδ角度偏向させる機械力を表し、Eはヤング率を表し、kbendは孤立ナノピラーの理想的なバネ定数を表し、Dはマイクロピラーの直径を表し、Lはマイクロピラーの高さを表す。
【0083】
同時に、マイクロピラーの頂部の光反射信号を記録し、光反射信号とマイクロピラーの偏移量を
図13eにプロットすることにより、光反射信号(細胞の機械的力を反映)とマイクロピラーの偏移の線形関係図及び線形範囲を得ることができる。
第十四実施例細胞の機械的力を検出する方法
【0084】
細胞の機械的力を検出する方法であって、以下のステップを含む。
第十実施例乃至第十二実施例のいずれか一つに記載の細胞の機械的力を検出するシステムの光信号発生装置2から光線を発する。
第十実施例乃至第十二実施例のいずれか一つに記載の細胞の機械的力を検出するシステムの光信号検出装置3を用いて、細胞の機械的力を検出する装置1の作用後の光線を検出する。前記光信号検出装置3は、細胞の機械的力を検出する装置1のマイクロピラー12と細胞が接触する前後の反射光信号を取得することができる。他のいくつかの実施例では、細胞の機械的力を検出するシステムの光信号分析装置4は、マイクロピラー12と細胞が接触する前後の反射光信号を比較、分析、計算することにより、細胞の機械的力情報(細胞の機械的力の大きさ、方向、一定の時間範囲内の変化状況など)を得ることができる。
【0085】
図14aから
図14dまでを参照されたい。
図14a及び
図14bは、細胞の機械的力を検出する装置のマイクロピラーと細胞が接触する前及び接触した後の構造概略図である。
図14bは、光信号検出装置(CCD電子受光素子)により取得された反射光信号であり、細胞周辺の力場が大きい領域では、明らかな反射信号の減衰が見られる。
図14cは、細胞移動過程の監視図(細胞膜を染色した後、蛍光光源で励起し、CCD電子受光素子でその移動過程を記録する)である。
図14dは、細胞移動過程における反射光信号分布図(CCD電子受光素子でその移動過程における反射光信号の変化を記録する)である。
図14c及び
図14dから、細胞が力を加えている部分では、反射光信号が明らかに減衰していることがわかる。
図14dは、細胞移動過程においてリアルタイムに監視された反射光信号を示しており、反射光信号を通じて移動過程における機械力をリアルタイムにフィードバックすることにより、光信号検出装置による細胞移動過程における反射光信号の監視は、細胞移動過程における細胞の機械的力の変化をリアルタイムにフィードバックすることができることがわかる。
第十五実施例細胞の機械的力検出装置の製造方法
【0086】
細胞の機械的力検出装置の製造方法であって、以下のステップを含む。
マイクロピラー12の頂部または上半柱面に光反射層13を一層設ける。これにより、頂部または上半柱面に反射層を有するマイクロピラー12を得る。
第十六実施例細胞の機械的力検出装置の製造方法
【0087】
細胞の機械的力検出装置の製造方法であって、以下のステップを含む。
マイクロピラー12全体に反射防止層を均一にコーティングする。
頂部または上半柱面の反射防止層を除去する。
マイクロピラー12の頂部または上半柱面に光反射層13を一層設ける。
第十七実施例細胞の機械的力検出装置の製造方法
【0088】
本実施例と第十五実施例及び第十六実施例との相違点は、前記「マイクロピラー12の頂部または上半柱面に光反射層13を一層設ける」というステップが具体的には次の通りであることである。マイクロピラーの頂部または上半柱面に反射金属を均一にスパッタリングすることにより、頂部または上半柱面に金属光反射層を有するマイクロピラーを得る。
第十八実施例細胞識別の方法
【0089】
本実施例は、細胞識別の方法を提供する。その方法は、上述の任意の実施例に記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは上述の任意の実施例に記載の細胞の機械的力を検出する方法を用いて細胞の機械的力情報を取得し、前記細胞の機械的力情報に基づいて異なる細胞種を区別するステップを含む。
【0090】
いくつかの実施例では、前記細胞識別の方法において、「上述の任意の実施例に記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは上述の任意の実施例に記載の細胞の機械的力を検出する方法を用いて細胞の機械的力情報を取得し、前記細胞の機械的力情報に基づいて異なる細胞種を区別する」というステップは、具体的には以下のステップを含む。
S1、細胞情報を取得する。前記細胞情報は、細胞の機械的力を検出する装置に基づいて取得した細胞のある点における細胞の機械的力情報を含み、前記細胞の機械的力情報は、その点における細胞の機械的力の大きさを含む。具体的には、光信号検出装置(または光信号分析装置と組み合わせて使用)を用いて、細胞の機械的力を検出する装置上の複数の細胞に対して細胞情報を収集する。その中には、各細胞の複数の点における細胞の機械的力の大きさ情報の収集が含まれ、それにより複数の細胞の複数の点における細胞の機械的力の大きさのデータを取得する。
S2、取得した細胞情報に前処理を行い、構造化細胞情報を形成する。前記構造化細胞情報は、細胞数、細胞特徴数及び各細胞特徴の特徴情報を含む。この時、構造化細胞情報は、二次元のフィーチャーマトリックスとみなすことができ、ここでNは細胞数であり、Pは細胞特徴数であり、ここではP=1であり、すなわち細胞特徴は細胞の機械的力の大きさである。
S3、構造化細胞情報を入力データとして用い、教師あり学習、教師なし学習または半教師あり学習の機械学習により細胞特徴モデルを構築し、前記細胞特徴モデルを未知のタイプまたは未知の状態の細胞の分類またはクラスタリングに適用する。
【0091】
他のいくつかの実施例では、前記細胞識別の方法において、前記細胞の機械的力情報は、その点における細胞の機械的力の方向も含む。
【0092】
他のいくつかの実施例では、前記細胞識別の方法において、前記細胞の機械的力情報は、その点における細胞の機械的力の大きさまたは方向の一定時間間隔内の変化も含む。
【0093】
他のいくつかの実施例では、前記細胞識別の方法において、前記細胞情報は、細胞形態情報も含む。
第十九実施例細胞識別の方法(可視化定性識別、及び正確な定性的、定量的識別を含む)
【0094】
本実施例は、第十実施例乃至第十二実施例のいずれか一つに記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは第十四実施例に記載の細胞の機械的力を検出する方法により取得された細胞の機械的力情報を、細胞識別に応用する方法を具体的に提供する。
【0095】
図15aから
図15gまでを参照されたい。
図15aは、健康細胞と非小細胞肺がん細胞の混合系の蛍光撮影像である。
図15bは、光信号検出装置により取得された細胞の機械的力検出装置の光反射信号分布図である。
図15cは、力の大きさ及び分布の可視化効果図である。
図15dは、
図15cにおける健康細胞と非小細胞肺がん細胞の代表的な単一細胞の細胞力分布の拡大図である。
図15eは、健康細胞と非小細胞肺がん細胞の細胞形態の比較図である。
図15fは、健康細胞、非小細胞肺がん細胞及びこれら2種類の細胞を異なる比率で混合した後の反射信号強度の比較図である。
図15gは、
図15cを構造化処理した後、構造化細胞情報に基づいて処理して得られたクラスタリング分析図である。
【0096】
具体的には、本実施例では、健康細胞(Normal)と非小細胞肺がん細胞株(Cancer)を検出対象として、2種類の異なる蛍光染料(Dil&DIO)を用いて健康細胞と肺がん細胞の細胞膜を予め染色し、一定の比率で混合した後、同一の細胞の機械的力検出装置(他のいくつかの実施例では、異なる独立した細胞の機械的力検出装置に添加することもできる)に添加する。
【0097】
さらに、光信号検出装置(本実施例では顕微鏡を使用)により細胞の機械的力検出装置の光反射信号の画像を収集する(
図15bに示すように)。そして、2種類の細胞内の高分解能の力場分布が光信号検出装置により直接レンダリングされ、読み取り可能な光強度減衰信号(細胞力強度を反映)に変換され、画像内に表示される(
図15cに示すように)。
図15cに表示された2種類の細胞の光減衰程度の差異に基づいて、肉眼観察により2種類の細胞を直観的に区別することができる(定性分析)。
【0098】
さらに、光信号分析装置により
図15cの光反射信号をさらに処理する。具体的には、本実施例では、光信号分析装置(本実施例ではImageJ及びPython分析ソフトウェアを使用し、他の実施例では他の画像分析ソフトウェアを使用することもできる)により、取得した細胞力場の
図15cに対して情報収集を行う。その中には、各細胞の複数の点における細胞の機械的力の大きさ情報の収集が含まれ、それにより複数の細胞の複数の点における細胞の機械的力の大きさのデータを取得する。取得した細胞の機械的力の大きさ情報に前処理を行い、構造化細胞情報を形成する。構造化細胞情報に基づいて分析を行うことにより、健康細胞と非小細胞肺がん細胞の細胞形態の比較結果図(
図15eに示すように)を得る。
【0099】
前記構造化細胞情報は、細胞数、細胞特徴数及び各細胞特徴の特徴情報(例えば、本実施例における細胞接着面積及び細胞円形度)を含む。この時、構造化細胞情報は、特徴マトリックス(Feature Matrix)の二次元マトリックスとみなすことができ、ここでNは細胞数であり、Pは細胞特徴数であり、ここではP=2であり、すなわち細胞特徴は、細胞の機械的力の大きさ及び細胞の機械的力の細胞内での分布である。
【0100】
さらに、上述の構造化細胞情報を入力データとして用い、教師あり学習(2種類の細胞株に対して異なる細胞膜染料(Dil&DIO)による予め染色を行い、比較を行う)による機械学習により細胞特徴モデルを構築し、大量の細胞の構造化細胞情報を用いて前記細胞特徴モデルをトレーニングし、
図15gに示すようなクラスタリング分析図を得た後、得られた細胞特徴モデルを未知のタイプまたは未知の状態の細胞の分類識別に適用する。これにより、構造化された細胞特徴データ(細胞の機械的力の大きさ、細胞の機械的力の細胞内での分布)を入力データとして用いることにより、光信号分析装置(本実施例ではImageJ及びPython分析ソフトウェアを使用し、他の実施例では他のクラスタリング分析ソフトウェアを使用することもできる)により、正常な健康細胞及びがん細胞のクラスタリング及び分類を行うことができ、それにより未知の細胞種の識別を実現することができることがわかる。
【0101】
図15eは、異なる細胞の形態(細胞接着面積、細胞円形度などの形態情報を含む)には統計学的に有意な明らかな差異がないことを示している。
図15fは、正常細胞及び腫瘍細胞の反射信号強度(細胞力を反映)の明らかな差異、並びに正常細胞及び腫瘍細胞を一定の比率で混合した後の反射信号強度と混合比率との一定の線形関係を示している。これにより、細胞の他の特徴(例えば、
図15eにおける細胞接着面積、細胞円形度などの形態情報)と比較して、本発明の細胞の機械的力検出装置により測定された細胞力学特徴は、細胞の状態及びタイプをより直観的かつ正確に識別することができる(定量的及び定性的分析)ことがわかる。
【0102】
また、
図15d及び
図15fのデータから、腫瘍細胞は正常細胞と比べてより高い機械力の大きさを示し、かつ分布がより不均一であることがわかる。細胞の機械的力が画像方式で可視化された後、異なる細胞の力場特徴が明らかな差異を有することを肉眼で直観的に見ることができる。さらに、画像分析ソフトウェアにより異なる細胞の各点の力場の大きさに対して構造化処理を行った後、
図15eの細胞形態情報、
図15fの反射信号強度(細胞力を反映)及び
図15gのクラスタリング分析図を総合的に分析することにより、本発明は、細胞の各点の力場の構造化情報の総合分析を通じて、異なる細胞(例えば、本実施例における健康細胞及び非小細胞肺がん細胞)のクラスタリング及び定量分析を行うことができ、それにより細胞種の正確な識別を実現することができる。
【0103】
上述のように、本発明の細胞の機械的力検出装置に基づいて、肉眼による直観的区別により定性分析を行うことができるだけでなく、測定された細胞力学特徴に基づいて、細胞の状態及びタイプをより直観的かつ正確に識別することができる(定量的及び定性的分析)。また、細胞力場をマーカーとして用いることにより、細胞のタイプをよりよく区別することができることを証明した。
第二十実施例細胞活力を検出する方法
【0104】
本実施例は、第十実施例乃至第十二実施例のいずれか一つに記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは第十四実施例に記載の細胞の機械的力を検出する方法により取得された細胞の機械的力情報を、細胞の活力のモニタリングに応用する具体的な方法を提供する。
【0105】
図16aから
図16cまでを参照されたい。
図16aは、細胞活力検出方法の操作フロー概略図である。
図16bは、A549細胞を異なる投与量の5FUで24時間処理した後、MTT法により測定された細胞活力及び本発明の装置またはシステムまたは方法により測定された細胞の機械的力の比較図である。
図16cは、A549細胞を異なる投与量の5FUで異なる時間処理した後、MTT法により測定された細胞活力及び本発明の装置またはシステムまたは方法により測定された細胞の機械的力の比較図である。
【0106】
具体的には、本実施例では、非小細胞肺がん細胞A549を複数の細胞の機械的力検出装置上で培養し、細胞増殖を抑制する薬物5-フルオロウラシル(5-FU)をそれぞれ異なる投与量で添加して処理し、第十実施例乃至第十二実施例のいずれか一つに記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは第十四実施例に記載の細胞の機械的力を検出する方法を通じて異なる時点の細胞の機械的力をモニタリングし、CCK-8試薬キットを通じて異なる時点の細胞増殖及び細胞毒性をモニタリングし、同時にMTT測定法により測定された細胞活力を対照群として、
図16b及び
図16cのデータを得た。
【0107】
図16b及び
図16cに示すように、従来のMTT測定法及び本発明に記載の装置またはシステムまたは方法による測定後、MTT測定法により測定された細胞活力及び細胞の機械的力により反映された細胞活力はいずれも投与量依存的に徐々に低下する傾向を示し、すなわち細胞の機械的力と細胞活力は正の相関関係にある。
【0108】
また、
図16bに示すように、異なる投与量の5FUで24時間処理した後、対照群であるDMSOと比較して、機械力により細胞活力の低下をより大きな低下幅で反映することができ、それにより細胞活力をより直観的に評価することができる。
図16cに示すように、5FUで12時間処理した場合、MTT法により測定された細胞活力の変化は明らかではない。一方、機械力を測定することにより、MTT法により細胞代謝活性の低下が検出される前のより早い時点で細胞の機械的力の低下を観察することができ、具体的には0.5μMの処理投与量では6時間で明らかな低下傾向が現れ、1μMの処理投与量では3時間で明らかな低下傾向が現れ、それにより細胞活力の低下をよりセンシティブに表現することができる。
【0109】
上述のように、本実施例では、細胞の機械的力検出装置により細胞の機械的力を直接検出することは、細胞の薬物反応活力を評価するための高度にセンシティブかつ有効な方法であることがわかる。
第二十一実施例細胞状態を検出する方法
【0110】
本実施例は、第十二実施例に記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは第十四実施例に記載の細胞の機械的力を検出する方法により取得された細胞の機械的力情報を、細胞状態の分析及び確定に応用する具体的な方法を提供する。
【0111】
図17aから
図17fまでを参照されたい。
図17aは、細胞状態検出方法の操作過程図である。
図17bは、M0マクロファージがM1状態に分化した蛍光顕微鏡像である。
図17cは、M0マクロファージがM2状態に分化した蛍光顕微鏡像である。
図17dは、M0マクロファージ、M1状態及びM2状態の細胞接着面積の比較図である。
図17eは、M0マクロファージ、M1状態及びM2状態の細胞円形度の比較図である。
図17fは、M0マクロファージ、M1状態及びM2状態の機械力の比較図である。
【0112】
具体的には、本実施例ではマクロファージを検出対象とし、それらをそれぞれ異なる独立した細胞の機械的力検出装置のマイクロピラー上に添加し、それぞれエンドトキシンLPS及びインターロイキンIL4を用いてマクロファージをM0からM1及びM2状態に分化誘導し、M0状態を対照群とする。細胞分化後、光信号検出装置(本実施例では顕微鏡を採用)により
図17b及び
図17cを収集し、光信号分析ソフトウェア(ImageJ及びPython)により
図17b及び
図17cをさらに画像処理及びデータ分析し、それらを構造化情報に変換し、分析を行って
図17dから
図17fまでのデータを作成する。
図17aから図fまでのデータから、直観的な観察(
図17b及び
図17c)または構造化データの定量的処理(
図17dから
図17fまで)のいずれにおいても、M0マクロファージ及び分化後のM1及びM2状態の間には明らかな差異が存在することがわかる。
第二十二実施例多細胞重合体を検出する方法
【0113】
本実施例は、第十二実施例に記載の細胞の機械的力を検出するシステムまたは第十四実施例に記載の細胞の機械的力を検出する方法により取得された細胞の機械的力情報を、細胞状態の分析及び確定に応用する具体的な方法を提供する。
【0114】
具体的には、本実施例では、多細胞重合体を複数の方式で細胞の機械的力検出装置上に結合させて提供する。本実施例ではその中の2つの具体的な結合方式を提供する。
第一の結合方式:細胞の機械的力検出装置のマイクロピラー上に培養基を設置し、細胞をマイクロピラー上の培養基中に移植して培養することにより、多細胞重合体を得る。他のいくつかの実施例では、この結合方式において、細胞の機械的力情報が可視化された形式で出力される下で、細胞の培養過程をリアルタイムでモニタリングすることができ、培養基、薬物などの化学的、生物学的及び物理的な外部刺激が細胞の成長に与える影響に応用することができる。
第二の結合方式:培養済みの多細胞重合体を直接細胞の機械的力検出装置のマイクロピラー上に接着させて、検出を行う。
【0115】
さらに具体的には、本実施例は、細胞の機械的力検出装置上で培養された腫瘍細胞ポリマーを薬物感受性試験に応用する方法を提供する。以下のステップを含む。
S1、腫瘍細胞ポリマーの生成:細胞の機械的力検出装置のマイクロピラーの頂部にFN 50μg/mLを塗布し、紫外線で30分間殺菌する。乳がん細胞MCF-7(約1×105から9×105まで個)を細胞の機械的力検出装置のマイクロピラー(マイクロピラーの数に制限なし)の頂部表面に播種し、細胞の機械的力モニタリング装置を3d GROTM Spheroid Medium (S3077)培養液中に浸漬して3日以上培養し、腫瘍細胞ポリマーの生成を誘導する。
S2、上記で生成された腫瘍細胞ポリマーを5-Fuの薬物感受性試験に応用する:上記の腫瘍細胞ポリマーに200μMの5-Fuを添加し、1日培養する。試験では、5-Fu添加前及び5-Fu添加後1日培養した細胞の機械的力検出装置(腫瘍細胞ポリマーが生成され、培養液と一緒にすることができる)を、光信号検出装置(CCD受光素子)により光反射信号を取得し、光信号分析装置(Image J)を用いて細胞力分布画像を得る。
図18に示すようである。
【0116】
図18aと
図18bを参照されたい。
図18aは、第一の形態の腫瘍細胞ポリマーの5-Fuの作用の有無下での特性評価図である。
図18bは、第二の形態の腫瘍細胞ポリマーの5-Fuの作用の有無下での特性評価図である。左から右に向かって、それぞれ細胞膜蛍光及び反射信号の混合画像(1)、光反射信号(2)、細胞核(3)、細胞膜(4)及び光信号分析装置(ImageJ)により処理された細胞力可視化画像(5)を示す。細胞は異質性を有し、腫瘍細胞は各々異なるため、細胞ポリマーも様々な形態を有し、したがって細胞ポリマーは異なる形態で一緒に接着する。本実施例では、細胞形態検出のために代表的な2つの形態を選択する。前記第一の形態とは、比較的大きな2つの細胞が一緒に接着した細胞形態を指す。前記第二の形態とは、一群の小さな細胞が一緒に接着した細胞形態を指す。
【0117】
図18aと
図18bから、抗腫瘍薬物で処理することにより細胞の活力が低下した後、反射信号が明らかに弱くなることがわかる。また、5-Fuの作用前後の細胞の機械的力の変化から、2種類の異なる形態の腫瘍細胞ポリマーの薬物感受性にも明らかな差異があることがわかる。これにより、本発明の細胞の機械的力検出装置は、多細胞重合体(例えば腫瘍ポリマー)の細胞の機械的力を測定することができ、細胞の機械的力を通じて細胞ポリマーの活力状態をモニタリングするのに用いることができ、異なる細胞形態を区別することができることがわかる。
【0118】
本発明の定義では、細胞ポリマーとは以下を指す。
細胞は生物体の基本的な構造及び機能単位であり、細胞は通常増殖または分化して2個以上の細胞が一緒に集合し、細胞群体、すなわち多細胞重合体を形成する。多細胞重合体には、腫瘍ポリマーなどの体外または体内培養により得られた細胞団体が含まれる。
【0119】
上述のように、本発明の細胞検出装置を用いた細胞の機械的力の検出、細胞識別、細胞状態検出、細胞活力検出は、非常に高い感度及び有効性を有し、かつリアルタイムモニタリングを実現することができ、薬物処理下での細胞の薬物に対する反応状況に応用することができる。
【0120】
従来技術と比較して、上述の技術案は以下の利点を有する。
第一に、ハイスループット性及び低コスト性である。従来のTFM及び通常のマイクロピラーアレイと比較して、本発明の技術案は顕微鏡への依存から解放され、操作フローが大幅に簡略化される。なぜなら、顕微鏡による高解像度撮影が不要で、反射光の強度を監視するだけで、細胞のハイスループットモニタリングを実現でき、コストも低いからである。
第二に、単一細胞分解能である。分解能が高く、各細胞をリアルタイムでモニタリングすることができ、他の単一細胞分析技術と組み合わせることで、薬物に対する細胞反応の不均一性を測定することができる。リアルタイムモニタリングが可能で、蛍光を必要とせず、レーザーによる細胞への光毒性を回避できるため、長期モニタリングに適しており、薬物に対する細胞の長期的な反応の研究に用いることができる。高感度で、反射信号によってマイクロピラーの変形信号を増幅し、変形モニタリングの感度を高めることができる。マイクロ/ナノピラーの曲げ変形の検出は、通常、光学系(顕微鏡など)に依存しているが、マイクロピラーのサイズが小さいほど、光学系の精度と解像度への要求が高くなる。例えば、幅2μm、高さ6μmのマイクロピラーの場合、20倍以上の対物レンズと共焦点システムを組み合わせて初めて効果的に観察することができる。一方、本発明では、鏡面反射の原理を利用して反射光の減衰を検出することで、実質的にマイクロピラーの変形信号を増幅することができ、実験によって、同じ信号が5倍の対物レンズの下で観察可能であることが確認されている。特殊な読み取りシステムと組み合わせることで、高倍率の光学対物レンズに頼ることなく、マイクロ/ナノピラーの変形を効果的に検出することができ、システムのコストを大幅に削減し、スループットを効果的に向上させることができる。
第三に、細胞微小環境をシミュレートすることができる。細胞外マトリックスの組成と形態をシミュレートすることができ、より豊富な技術ニーズシーンに対応することができる。
【0121】
説明する必要があるのは、本文では上述の各実施例について詳細に説明したが、本発明の専利保護範囲を限定するものではない。したがって、本発明の創造的な理念に基づいて、本文で述べた実施例に対して行われる変更及び修正、または本発明の明細書及び添付図面の内容を利用して行われる等価な構造または等価のプロセスの変換は、直接的または間接的に上記の技術案を他の関連する技術分野に応用することを含め、いずれも本発明の専利保護範囲に含まれる。
【国際調査報告】