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特表2024-541207新しい沈殿重合プロセスを使用した高分子量のVDF含有(コ)ポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】新しい沈殿重合プロセスを使用した高分子量のVDF含有(コ)ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 14/22 20060101AFI20241031BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241031BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20241031BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20241031BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20241031BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20241031BHJP
   C08F 4/30 20060101ALI20241031BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241031BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241031BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241031BHJP
【FI】
C08F14/22
C08K3/22
C08K3/04
C08L27/16
C08F214/22
C08F2/18
C08F4/30
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523542
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 US2022047652
(87)【国際公開番号】W WO2023076214
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】63/273,201
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カイピン・リン
(72)【発明者】
【氏名】ウエンシェン・ホー
(72)【発明者】
【氏名】チアシン・ジェイソン・コー
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J015
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J002BD141
4J002DA037
4J002DE056
4J002FD117
4J002FD206
4J002GQ00
4J002GQ02
4J011AA05
4J011JB22
4J011JB26
4J015BA02
4J100AC24P
4J100AJ02Q
4J100AL08Q
4J100BA15Q
4J100BA16Q
4J100CA01
4J100CA03
4J100CA04
4J100DA09
4J100DA24
4J100EA05
4J100EA09
4J100EA11
4J100FA03
4J100FA21
4J100FA28
4J100FA29
4J100GB05
4J100GC25
4J100JA43
4J100JA45
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA28
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
5を超えるベータ相強度比を有するフッ化ビニリデン(コ)ポリマー、及びフッ化ビニリデン系ポリマー又はコポリマーを製造するための重合プロセスが開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
165℃~175℃、好ましくは168℃~174℃の溶融温度を有し、ラズベリーの形態を持ち、5を超えるβ相強度比(Iβ(200/110)/[Iα(020)+Iγ(020)])を有することを特徴とするポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項2】
100s-1で53~150KPoise、4s-1で900~3500KPoiseの溶融粘度を有する、請求項1に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項3】
NMP中の9重量%における溶液粘度(3.36/sで測定)が少なくとも7000cP、好ましくは9000cPより大きい、請求項1に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項4】
デルタH(第1の熱)が58J/gより大きい、請求項1に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項5】
前記ポリマーが少なくとも97重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を含む、請求項1に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項6】
前記ポリマーがホモポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項7】
少なくとも1つの非フッ素化モノマーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項8】
少なくとも1つの非フッ素化モノマーが、アクリル酸(AA)、アクリル酸カルボキシエチル(CEA)、及びコハク酸アクリロイルオキシエチル(AES)のうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項9】
前記ポリマーが、50μm~2500μm、好ましくは100μm~2200μmの範囲の平均サイズを有する平均沈殿粒径を有する沈殿粒子の形態である、請求項7に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項10】
前記強度比が6より大きい、請求項9に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項11】
β相を有するPVDFを製造するための沈殿重合方法であって、以下のステップ:
反応器に水を供給し、酸素を除去するために前記反応器をガスでパージし、前記反応器を加熱し、所望の圧力に達するまで前記反応器にフッ化ビニリデン及び任意の非フッ素化モノマーを充填し、開始剤溶液を前記反応器に充填し、任意選択で重合速度中に開始剤溶液を連続的に供給し、ここで、重合反応の温度は50℃~70℃の間で一定に保たれ、反応中、圧力は280~40,000kPaに維持され、圧力を維持するためにモノマーを供給し、VDFの消費量が設定レベルに達するまで重合反応を継続し、余剰ガスを排出し、重合反応中に沈殿した固体を収集することによって沈殿したポリマーを回収すること
を含み、
重合に使用される開始剤の量は少なくとも2000ppmである、方法。
【請求項12】
前記開始剤水溶液が無機過硫酸塩を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記開始剤が、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、又は過硫酸アンモニウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記温度範囲が53℃~69℃、好ましくは58℃~68℃である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
開始剤の量が、全モノマーの重量に基づいて2000ppm~10000ppm、好ましくは3000~8000ppmである、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
界面活性剤が反応器に添加されない、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記非フッ素化モノマーが反応の開始時及び/又は反応中に供給される、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
添加される非フッ素化モノマーの量が、使用される全モノマーに基づいて0.05~5重量パーセント、好ましくは0.1~3重量パーセントである、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記非フッ素化モノマーは、アクリル酸(AA)、カルボキシエチルアクリレート(CEA)、及びアクリロイルオキシエチルコハク酸(AES)からなる群から選択される少なくとも1つの非フッ素化モノマーを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1に記載のポリフッ化ビニリデン重合体、電極活物質、非水溶媒、並びに任意選択で導電性付与添加剤及び/又は粘度調整剤を含む、リチウムイオン電池製造用スラリー組成物。
【請求項21】
以下を含む、請求項20に記載のスラリー組成物:
(a):(a)+(b)+(c)の総重量に対して0.5~5重量%、好ましくは0.5~3重量%の量のポリフッ化ビニリデンポリマー;
(b):(a)+(b)+(c)の総重量に対して0.5~5重量%、好ましくは0.5~3重量%の量の導電性付与添加剤;
(c):90~99重量%、好ましくは95~99重量%の量の電極活物質。
【請求項22】
請求項21に記載のスラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥して得られるリチウムイオン電池用電極。
【請求項23】
請求項22に記載の電極を有するリチウムイオン電池。
【請求項24】
請求項1に記載のポリフッ化ビニリデンポリマーを含む物品。
【請求項25】
以下のステップを含む、電池電極の製造方法:
i)ポリフッ化ビニリデンポリマーが50μm~2500μmの平均粒径を有する沈殿粒子の形態である、請求項1に記載のポリフッ化ビニリデンポリマーを提供し、
ii)工程i)の前記ポリフッ化ビニリデンポリマーを、溶媒及び電極材料と組み合わせて電極形成組成物を提供し、ここで、前記ポリフッ化ビニリデンポリマーは溶媒に溶解しており、
iii)前記電極形成組成物を導電性基板の少なくとも一方の表面上に塗布し、及び
iv)前記電極形成組成物中の溶媒を蒸発させて、前記導電性基板上に複合電極層を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高分子量のVDF含有(コ)ポリマー及びそのポリマーの製造方法が開示される。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデンポリマー又はコポリマーは、いくつかの異なる重合プロセスによって製造される溶融加工可能なポリマーである。
【0003】
フッ化ビニリデン系ポリマーは、結晶領域と非晶質領域の両方を含む半結晶性ポリマーである。非晶質領域と結晶領域の関係、及び結晶相と異なる結晶相の量は、ポリマーの特性に影響を与え、特定の樹脂組成物の最終用途を決定する。分子量が増加すると、溶融強度と、靱性や耐化学ストレスクラック性などの機械的特性が向上する。
【0004】
従来技術において、乳化重合によって高分子量PVDFを得ることが知られており、例えば米国特許第9202638号は、4s-1で900~1200kPoiseの溶融粘度を有するPVDFが開示している。米国特許第10559828号は、232℃の温度及び100s-1のせん断速度で測定した、前記フッ素含有ポリマーの10~100kPoise溶融粘度を開示しており、米国特許第8785580号は、35kpを超える溶融粘度を有するPVDFコポリマー(例としては56kPoise及び52kPoiseの溶融粘度を有するものがある)を開示している。
【0005】
PVDFは、α、β、γ、δ、及びε相として示されるいくつかの結晶相を有し、これらは異なる処理方法/条件によって得ることができる。PVDFは通常、溶融状態からα相を形成する。α相では、PVDFチェーンは極性を持ち、チェーンは逆平行にスタックする。逆平行積層により、α相結晶の無極性がもたらされる。β相結晶は、通常、α相結晶を冷間引抜加工することにより形成される。β相結晶では、PVDFチェーンが極性を持ち、平行に積み重なっている。その結果、β相結晶は最大の双極子モーメントを持ち、強誘電体や他の多くの用途に使用される。通常のγ相結晶は、α相結晶を熱処理することにより生成される。γ相結晶はβ相結晶と同様の極性を持っている。PVDFベータ結晶相は、その圧電特性により多くの関心を集めている。PVDF中の高い割合のβ相は、フッ化ビニリデンとフッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのコモノマーとの共重合に基づいてポリマーチェーンを調整することによって、あるいは、温度、圧力、冷却速度などの二次処理プロセスや後処理技術を介したり、せん断力を加えたりすることによって調製される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ラテックスPVDFを噴霧乾燥すると、1μm~30μmの粒径を得ることができる。しかし、これらの粒子には有意な量のβ相が含まれていない。対照的に、本発明は、主にベータ相を有する50~2500μmの平均沈殿粒径を有する粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、新規なPVDFポリマー、及びフッ化ビニリデン系ポリマー又はコポリマーを製造するための沈殿重合プロセスについて説明する。PVDFポリマーは主にベータ相(ベータ相結晶ピーク強度比で測定:Iβ(200/110)/[Iα(020)+Iγ(020)]が5を超える)を持ち、融点が高く(165℃以上)、ラズベリーの形態を持っている。このポリマーは、リチウムイオン電池の部品の製造に有用である。
【0008】
本発明の態様
【0009】
態様1:165℃~175℃、好ましくは168℃~174℃の溶融温度を有し、ラズベリーの形態を持ち、5を超えるベータ相強度比(Iβ(200/110)/[Iα(020)+Iγ(020)])を有することを特徴とするポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0010】
態様2:100s-1で53~150KPoise、4s-1で900~3500KPoiseの溶融粘度を有する、態様1に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0011】
態様3:NMP中の9重量%における溶液粘度(3.36/sで測定)が少なくとも7000cP、好ましくは9000cPより大きい、態様1又は2のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0012】
態様4:デルタH(第1の熱)が58J/gより大きい、態様1~3のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0013】
態様5:前記ポリマーが少なくとも97重量%のフッ化ビニリデンモノマー単位を含む、態様1~4のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0014】
態様6:前記ポリマーがホモポリマーである、態様1~5のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0015】
態様7:少なくとも1つの非フッ素化モノマーを含む、態様1~5のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0016】
態様8:少なくとも1つの非フッ素化モノマーが、アクリル酸(AA)、アクリル酸カルボキシエチル(CEA)、及びコハク酸アクリロイルオキシエチル(AES)のうちの少なくとも1つを含む、態様7に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0017】
態様9:前記ポリマーが、50μm~2500μm、好ましくは100μm~2200μmの範囲の平均サイズを有する平均沈殿粒径を有する沈殿粒子の形態である、態様1~8のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0018】
態様10:前記強度比が6より大きい、態様1~9のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマー。
【0019】
態様11:β相を有するPVDFを製造するための沈殿重合方法であって、以下のステップ:
反応器に水を供給し、酸素を除去するために前記反応器をガスでパージし、前記反応器を加熱し、所望の圧力に達するまで前記反応器にフッ化ビニリデン及び任意の非フッ素化モノマーを充填し、開始剤溶液を前記反応器に充填し、任意選択で重合速度中に開始剤溶液を連続的に供給し、ここで、重合反応の温度は50℃~70℃の間で一定に保たれ、反応中、圧力は280~40,000kPaに維持され、圧力を維持するためにモノマーを供給し、VDFの消費量が設定レベルに達するまで重合反応を継続し、余剰ガスを排出し、重合反応中に沈殿した固体を収集することによって沈殿したポリマーを回収すること
を含み、
重合に使用される開始剤の量は少なくとも2000ppmである、方法。
【0020】
態様12:前記開始剤水溶液が無機過硫酸塩を含む、態様11に記載の方法。
【0021】
態様13:前記開始剤が、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、又は過硫酸アンモニウムのうちの少なくとも1つを含む、態様11又は12のいずれか一項に記載の方法。
【0022】
態様14:前記温度範囲が53℃~69℃、好ましくは58℃~68℃である、態様11~13のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
態様15:開始剤の量が、全モノマーの重量に基づいて2000ppm~10000ppm、好ましくは3000~8000ppmである、態様11~14のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
態様16:界面活性剤が反応器に添加されない、態様11~15のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
態様17:前記非フッ素化モノマーが反応の開始時及び/又は反応中に供給される、態様11~16のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
態様18:添加される非フッ素化モノマーの量が、使用される全モノマーに基づいて0.05~5重量パーセント、好ましくは0.1~3重量パーセントである、態様11~17のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
態様19:前記非フッ素化モノマーは、アクリル酸(AA)、カルボキシエチルアクリレート(CEA)、及びアクリロイルオキシエチルコハク酸(AES)からなる群から選択される少なくとも1つの非フッ素化モノマーを含む、態様11~18のいずれか一項に記載の方法。
【0028】
態様20:態様1~10のいずれか1項に記載のポリフッ化ビニリデン重合体、電極活物質、非水溶媒、並びに任意選択で導電性付与添加剤及び/又は粘度調整剤を含む、リチウムイオン電池製造用スラリー組成物。
【0029】
態様21:以下を含む、態様20に記載のスラリー組成物:
(a):(a)+(b)+(c)の総重量に対して0.5~5重量%、好ましくは0.5~3重量%の量のポリフッ化ビニリデンポリマー;
(b):(a)+(b)+(c)の総重量に対して0.5~5重量%、好ましくは0.5~3重量%の量の導電性付与添加剤;
(c):90~99重量%、好ましくは95~99重量%の量の電極活物質。
【0030】
態様22:態様21に記載のスラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥して得られるリチウムイオン電池用電極。
【0031】
態様23:態様22に記載の電極を有するリチウムイオン電池。
【0032】
態様24:態様1~10のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマーを含む物品。
【0033】
態様25:以下のステップを含む、電池電極の製造方法:
i)ポリフッ化ビニリデンポリマーが50μm~2500μmの平均粒径を有する沈殿粒子の形態である、態様1~10のいずれか一項に記載のポリフッ化ビニリデンポリマーを提供し、
ii)工程i)の前記ポリフッ化ビニリデンポリマーを、溶媒及び電極材料と組み合わせて電極形成組成物を提供し、ここで、前記ポリフッ化ビニリデンポリマーは溶媒に溶解しており、
iii)前記電極形成組成物を導電性基板の少なくとも一方の表面上に塗布し、及び
iv)前記電極形成組成物中の溶媒を蒸発させて、前記導電性基板上に複合電極層を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】典型的な乳化プロセスからの噴霧乾燥された粉末粒子である。
図2】典型的な懸濁プロセスからの粉末粒子である。
図3】沈殿プロセスから収集された粒子である。
図4】典型的な乳化プロセスからの一次粒子である。
図5】ラズベリーの形態を示す沈殿プロセスからの一次粒子である。
図6】典型的な乳化重合からのFTIRスペクトル(アルファ型)である。
図7】沈殿重合からのFTIRスペクトル(ベータ型)である。
図8】典型的な乳化重合による広角X線回折(アルファ型)である。
図9】沈殿重合による広角X線回折(ベータ型)である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本出願に列挙されたすべての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。別段の指示がない限り、組成物中のパーセントはすべて重量パーセントである。
【0036】
「ポリマー」という用語は、ホモポリマーとコポリマーの両方を意味するために使用される。「コポリマー」は、2つ以上の異なるモノマー単位を有するポリマーを意味するために使用される。ポリマーは、直鎖状、分岐状、星型、櫛型、ブロック型、架橋型、又はその他の構造であってもよい。ポリマーは均一でも不均一でもよく、コモノマー単位の分布が勾配を有し得る。
【0037】
「ポリビニリデンフルオロポリマー」及び「PVDF」という用語は、少なくとも1つのフッ化ビニリデンモノマーの重合によって形成されるポリマーを意味し、これには、本質的に熱可塑性であるホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、及び高級ポリマーが含まれ、すなわち、これらは、成形や押出プロセスで行われるように、熱を加えて流動させることによって有用な部品に成形することができる。
【0038】
本発明は、新規なPVDFポリマー、及び沈殿重合プロセスを介してフッ化ビニリデン系ポリマーを製造する方法について記載する。沈殿重合プロセス/技術は、沈殿したポリマー粒子のポリマー凝集体の形成に依存している。得られたポリマーは、拡大(SEM)で観察できるように凝集した非多孔質一次粒子からなる多孔質粒子の形態である(本明細書では「沈殿粒子」と呼ぶ)。本発明のいくつかの実施形態では、ポリマーは、高い融解温度(DSCにより165℃を超える)及び予想外に高い融解粘度、高い融点、及びWAXD(広角X線回折)によって検出される主にβ相を有するフッ化ビニリデンホモポリマーである。ホモポリマー及びコポリマーは、本発明の方法を使用して製造することができる。本発明は、電極及び/又はセパレータの電池用途に使用することができる。本発明のポリマーは、カソードバインダーにおいて優れた剥離接着力を提供する。このポリマーを使用して作られた正極は、リチウムイオン電池の一部として使用できる。
【0039】
沈殿重合反応
本発明で使用される沈殿重合は、連続相中の均一系として最初に始まり、開始後に形成されたポリマーが不溶性となり沈殿する不均一重合プロセスである。沈殿は重合反応の一部として発生し、重合後のステップではない。沈殿を開始するために添加剤は加えられない。
【0040】
沈殿重合プロセスでは、一般に次の手順が行われる。反応器に最初に脱イオン水、場合により連鎖移動剤、及び場合により防汚剤が添加され、続いて脱酸素(酸素の除去)が行われる。反応器が所望の温度に達した後、モノマー(フッ化ビニリデン及び場合により非フッ素化モノマー)を反応器に添加して所定の圧力に達する。所望の反応圧力に達したら、開始剤溶液又は開始剤溶液の組み合わせを添加して、重合反応を開始及び維持する。所望のレベルのモノマーを供給した後、モノマーの供給を停止する。ただし、開始剤の充填を停止することも、未反応モノマーを消費するために継続することもできる。開始剤の充填を停止した後、反応器を冷却し、撹拌を停止することができる。ポリマーは重合プロセス中に沈殿する。未反応のモノマーは排出することができ、沈殿したポリマーは排出口又は他の収集手段を通じて収集することができる。
【0041】
沈殿重合プロセスは、バッチ、半バッチ又は連続重合プロセスであり得る。
【0042】
重合に使用する反応器は加圧重合反応器である。反応器には通常、撹拌機及び熱制御手段が装備されている。撹拌は一定であってもよく、重合の過程でプロセス条件を最適化するために変化させてもよい。
【0043】
重合温度は、使用する開始剤の特性に応じて変化し得るが、典型的には50~70℃である。重合温度は、好ましくは53~69℃、より好ましくは58~68℃である。重合圧力は、反応装置の能力、選択した開始剤系、及びモノマーの選択に応じて、280~40,000kPaの範囲で変化し得る。重合圧力は、2,000~20,000kPaが好ましく、3,500~11,000kPaが最も好ましい。
【0044】
界面活性剤
本発明の方法は、界面活性剤の非存在下で行われる。
【0045】
CTA
生成物の分子量を調節するために、連鎖移動剤(chain-transfer agent、「CTA」)を任意に重合に添加してもよい。連鎖移動剤は、反応の開始時に一度に重合に添加してもよいし、反応全体を通じて段階的に又は連続的に添加してもよい。連鎖移動剤の添加量及び添加方法は、使用する特定の連鎖移動剤の活性、及びポリマー生成物の所望の分子量に依存する。CTAは重合に必要ではないが、CTAが使用される場合、重合反応に添加される連鎖移動剤の量は、反応混合物に加えたモノマーの総重量に基づいて、好ましくは約0.05~約5重量パーセント、より好ましくは約0.1~約2重量パーセントである。本発明において有用な連鎖移動剤の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:アルコール、カーボネート、ケトン、エステル、エーテルなどの酸素化化合物、ハロカーボン、ヒドロハロカーボン(クロロカーボン、ヒドロクロロカーボン、クロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボンなど);エタン、プロパン。好ましくは、連鎖移動剤はプロパン又は酢酸エチルである。
【0046】
望ましい場合、パラフィン防汚剤を使用してもよいが、それは好ましくない。また、任意の長鎖の飽和炭化水素ワックス又は油を使用してもよい。パラフィンの反応器充填量は、使用されるモノマー総重量の0.01重量%から0.3重量%であってよい。
【0047】
開始剤
反応は、有機過酸化物、無機過酸化物、及び過酸化水素を含むフッ素化モノマーの重合に知られている任意の適切な開始剤を添加することによって開始及び維持することができる。典型的な無機過酸化物の例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、又は過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が挙げられる。
【0048】
沈殿重合に必要な開始剤の量は、その活性と重合に使用される温度に関係する。典型的な無機過硫酸塩の例には、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウムが含まれ、これらは65℃から105℃の温度範囲で有用な活性を有する。ラジカル重合では、重合を起こすために最初に十分なラジカル生成(ラジカルフラックス)が必要である。開始剤の総量は、一般に、重合に使用される総モノマー重量の0.2重量%~5.0重量%であり、反応温度、連鎖移動剤及び開始剤の効率に依存する。初期電荷を増加させて遅い重合反応速度を相殺することは、本発明で使用される方法である。本発明では、0.20~2.0%、好ましくは0.25~1.0%の高い開始剤使用量が使用される。上述のような1つ以上の開始剤の混合物を使用して、望ましい速度で重合を行うことができる。典型的には、反応を開始するために十分な量の開始剤が最初に添加され、その後、任意選択で追加の開始剤が添加されて、好都合又は所望の速度で重合を維持することができる。
【0049】
モノマー
本発明は、フッ化ビニリデンポリマーの製造に関する。本発明で使用される主要なモノマー(ポリマーの97重量%以上を意味する)はフッ化ビニリデン(「VDF」)である。 他の非フッ素化エチレン性不飽和モノマーが存在してもよい(「非フッ素化モノマー」)。フッ化ビニリデンと任意選択で非フッ素化モノマーの重合によって形成されるポリマーには、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、及び本質的に熱可塑性である高級ポリマーが含まれ、すなわち、これらは、成形や押出プロセスで行われるように、熱を加えて流動させることによって有用な部品に成形することができる。
【0050】
フルオロポリマーは、少なくとも97重量パーセント、好ましくは少なくとも98重量パーセント、より好ましくは少なくとも99重量パーセントのフッ化ビニリデンを含有し、熱可塑性である。熱可塑性ポリマーは、示差走査熱量測定(DSC)によって測定される結晶融点を示す。
【0051】
非フッ素化モノマーは、重合反応の開始時及び/又は重合反応中に添加することができる。
【0052】
本発明のポリマーは、非フッ素化モノマー単位を含んでもよい。好ましくは、ポリマーは、ヒドロキシル基、カルボン酸官能基又はカルボキシル官能基を有する非フッ素化モノマーを任意に含んでもよく、最も好ましくは、非フッ素化モノマーはカルボン酸官能基を含む。非フッ素化モノマーは、VDFと組み合わせて使用することができ、以下の式の非フッ素化モノマーのうちの1つ以上を含むが、これらに限定されない:
【化1】
式中:
R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水素、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基又は炭素数1~8のシクロアルキル基である;
R4及びR6はそれぞれ独立して結合であり、R4及びR6は独立して、結合、又は分子量500以下で主鎖の原子数が1~18の原子団である;R4又はR6が水素である場合には、それぞれのR5又はR7は存在しない;
R4とR6が水素ではない場合、R5とR7はそれぞれ、次のいずれかである:カルボン酸(C(O)OH)、カルボン酸アルカリ金属塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)、ジアルキルアミド(C(O)NAlk2)、スルホン酸(S(O)(O)OH)、アルカリ金属スルホン酸塩(S(O)(O)O-+)、スルホン酸アンモニウム塩(S(O)(O)O-NH4 +)、アルキルアンモニウムスルホン酸塩(S(O)(O)O-N(Alk)4 +)、ケトン(C(O))、又はアセチルアセトナート(C(O)-CH2-C(O))、又はホスホネート(P(O)(OH)2)、アルカリ金属又はホスホン酸アンモニウム、好ましくはR5及びR7は、独立して、カルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、カルボン酸アンモニウム塩(COO-NH4 +)、カルボン酸アルキルアンモニウム塩(COO-N(Alk)4 +)、アルコール(OH)、アミド(C(O)NH2)である;最も好ましくは、R5及びR7は、独立して、カルボン酸(C(O)OH)、アルカリ金属カルボン酸塩(COO-+)、アンモニウムカルボン酸塩(COO-NH4+)、アルコール(OH)のうちの1つである。
【0053】
非フッ素化モノマーの例としては、以下が挙げられる:アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2-カルボキシエチル「CEA」、コハク酸アクリロイルオキシプロピル「APS」、コハク酸アクリロイルオキシエチル「AES」、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸アルキルエステルなど)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなど);アクリルアミド、メタクリルアミド、6-アクリルアミドヘキサン酸。
【0054】
有用な非フッ素化モノマーとしては、国際公開第2019199753号パンフレット(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているものが挙げられる。
【0055】
緩衝剤
重合反応混合物は、重合反応全体を通じて制御されたpHを維持するために緩衝剤を任意に含有してもよい。製品の望ましくない発色を最小限に抑えるために、pHは約2から約8の範囲内に制御されることが好ましい。
【0056】
緩衝剤は、約4~約10、好ましくは約4.5~約9.5の範囲の少なくとも1つのpKa値及び/又はpKb値を有する、有機酸もしくは無機酸もしくはそのアルカリ金属塩、又はそのような有機酸もしくは無機酸の塩基もしくは塩を含み得る。本発明の実施において好ましい緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤及び酢酸緩衝剤が挙げられる。「リン酸緩衝液」は、リン酸水素二カリウムなどのリン酸の塩である。「酢酸緩衝液」とは、酢酸ナトリウムなどの酢酸の塩である。
【0057】
PVDFポリマーの特性
新規な重合方法により、新規なポリマー組成物が提供される。組成物はPVDFポリマーを含む。本発明のPVDFポリマーは、165℃~175℃、好ましくは168℃~174℃の溶融温度を有し、ラズベリー形態を有することを特徴とする。
【0058】
本発明は、β相結晶ピーク強度比:Iβ(200/110)/[Iα(020)+Iγ(020)]によって測定される、5を超える(好ましくは、実施例に記載されているように、WAXDを使用して6を超える)ような、主にβ相結晶化度を有するポリマーを提供する。
【0059】
一実施形態では、ポリマーは、100s-1で53~150kPoise、4s-1で900~3500kPoiseの溶融粘度を有する。9%NMP溶液における本発明のポリマーの溶液粘度(cP)(3.36/sで測定)は、少なくとも7000cPであり、好ましくは9000cPより大きい。
【0060】
PVDFポリマーは熱可塑性であり、溶融加工可能である。
【0061】
PVDFポリマーは、少なくとも97重量%、好ましくは少なくとも99重量%のVDFを含む。PVDFポリマーは、最大100重量パーセントのVDFを含む。好ましくは、ポリマー中に存在する唯一のフッ素化モノマーはVDF(フッ化ビニリデン)である。
【0062】
非フッ素化モノマーが使用される場合、PVDFポリマー中の非フッ素化モノマーの量は0.001~3重量パーセント、好ましくは0.01~1.5重量パーセントである。これは、19F NMR及び1H NMRを使用して測定できる。
【0063】
予想外の高いデルタH。DSC測定におけるΔHは、従来のα相PVDFからのΔHよりも高く、従来のα相の代わりにβ相構造が発達したことを示している。好ましくは、ΔH(溶融)(J/g)(1回目の加熱)は58以上である。
【0064】
沈殿重合プロセスからのPVDFポリマーの一次粒径は、数平均粒径で測定すると、100nm~800nm、好ましくは100nm~700nm、好ましくは200nm~600nmの範囲の広いサイズ分布を有する。沈殿重合では、一次粒子が重合プロセス中に凝集して、「沈殿粒子」として沈殿するのに十分な大きさに成長する。平均沈殿粒径は50μm~2500μm、好ましくは100μm~2200μm、より好ましくは200μm~1600μmである。
【0065】
ポリマーを凝固させるために後重合プロセスは使用されない。
【0066】
懸濁重合は沈殿重合とは異なる。懸濁重合はポリマー粒子の製造に適した技術である。懸濁重合では、モノマー相はスターラーと適切な安定剤によって小さな液滴の形で重合媒体中に懸濁され、開始剤とモノマーの両方が重合媒体に不溶である一方、開始剤はモノマーに可溶であり、重合はモノマー液滴中で起こる。懸濁重合によるサイズ50~500μmの球状ポリマー粒子。本発明において、一次粒径は100nm~800nmであり、沈殿粒子は50μm~2500μm、好ましくは100μm~2200μm、より好ましくは200μm~1600μmである。
【0067】
沈殿粒子の形態は、やはり不規則な形状を有する凝集した一次粒子からなる不規則な表面トポグラフィー(「ラズベリー」)を有する一方、乳化プロセスでは、SEMで確認できるように滑らかな表面を持つ一次粒子が得られる。図1~4は、乳化重合プロセスと沈殿重合プロセスの間の粒子形態の違いを示している。図1は、標準的な乳化ラテックスを噴霧乾燥することによって得られた、1~30μm程度の平均粉末粒径を示している。対照的に、図3の沈殿重合から回収された平均粒径は、50~2200μmのオーダーである。図2は、典型的な懸濁液からの粉末粒子を示している。図4図5は一次粒子の形態の違いを示している。標準的な乳化プロセスから得られる一次ラテックス粒子は、100~500nmの範囲の狭いサイズ分布を持つ丸い粒子(図4に示すように)を生成する。沈殿重合により、相互に結合して凝集した、ラズベリーの形態を持つ広範囲の一次粒径で構成される沈殿粒子が生成される(図5を参照)。
【0068】
本発明のポリマー又はコポリマーは、濾過又は遠心分離などの標準的な方法を使用して単離することができ、その後、その後の適用又は使用のためにオーブン乾燥することができる。
【0069】
好ましくは、PVDFモノマー及び得られるポリマー以外にフッ素化分子は重合プロセスに添加されない。
【0070】
本発明のポリマーは、リチウムイオン電池用のアノード、カソード及び/又はセパレータの製造に使用することができる。
【0071】
本発明のポリマーは、カソードのバインダーとして使用され、以下に説明する修正を加えてASTM D903によって測定されるように改良された接着性を提供する。剥離接着強度は、対照(溶融粘度50kP(100s-1)での乳化重合によるPVDFホモポリマー)の120%、好ましくは対照の150%、より好ましくは対照の200%と高い。いくつかの実施形態では、剥離は、150N/mを超え、好ましくは160N/mを超え、好ましくは175N/mを超えることができる。
【0072】
カソードの典型的な配合は、活物質/導電性材料/結合剤である:活物質は全体の90~99.5重量%と大部分を占め、結合剤の配合量は通常0.5~5重量%の範囲で、導電性材料と結合剤の比は4:1~1:4である。配合の一例は、乾燥重量ベースで97/1.5/1.5の活性材料/導電性材料/結合剤であり得る。
【0073】
一般に、結合剤(本発明のポリマー)は、典型的には5~10重量%の濃度で溶媒(例えば、NMP又は他の適切な溶媒など)に予め溶解される。導電性カーボン添加剤は、まず活物質(リチウムイオン電池での使用が知られているリチウム含有金属酸化物化合物)と乾式混合される。バインダー溶液を導電性カーボンと活物質の乾燥混合物と混合して、濃厚で均一なペーストを形成する。あるいは、導電性カーボンをバインダー及び溶媒と混合し、その後活物質を添加してペーストを形成することもできる。いずれの場合も、追加量の溶剤をペーストに加えて混合し、スラリーの固形分と粘度を徐々に下げる。この希釈ステップは、スラリー粘度がコーティングに適切なレベル、通常は1/sのせん断速度で3,000~15,000cPに達するまで複数回繰り返される。
【0074】
次に、当技術分野で知られている手段を使用して、カソードスラリーを集電体上にキャストしてカソードを形成する。カソードの典型的な面積質量負荷は、100~300g/m2、好ましくは180~220g/m2である。
【0075】
アノード及びセパレータは、本発明のポリマーを結合剤として使用し、当技術分野で知られている方法に従って同様に製造することができる。
【実施例
【0076】
特徴付け方法/条件:
樹脂の溶融粘度測定は、ASTM-D3835に従って、232℃、100s-1及び4s-1でのキャピラリーレオメトリーにより実施した。
【0077】
示差走査熱量測定DSC、粉末サンプルによって測定された融解温度。融点及びデルタHを含む熱特性は、TA InstrumentsのDSC Q2000とLNCSを使用してASTM D3418に従って測定した。本発明に従って製造されたポリマーは、(DSC)実験における結晶融点の存在によって示されるような、測定可能なレベルの結晶性ポリフッ化ビニリデンを含む。融解温度は、2番目のサイクルの吸熱のピークに割り当てられる。融解熱は最初のサイクルで決定される。DSCの実行は3つのステップサイクルで実行される。サイクルは-20℃で開始され、その後10℃/minで210℃まで上昇し、10分間保持される。その後、サンプルは10℃/minの速度で-20℃まで冷却され、その後10℃/minで210℃まで加熱する。
【0078】
粒径(数平均)の結果は、走査型電子顕微鏡(SEM)測定に基づいている。SEMは、Hatachi SU8010 SEMで実行した。SEM用のポリマーサンプルはすべて室温で乾燥させ、イメージング前にサンプルをコーティングした。
【0079】
強度比及び広角X線回折実験は、Riraku SmartLab回折プラットフォーム(CuKα1.5418Å、40kV、40mA)で実施した。サンプルは、反射モードでのWAXS分析のために低バックグラウンドホルダーにロードされる。WAXS分析に使用される回折計は、線焦点で40kV及び40mAに設定された銅X線管(CuKα1.5418Å)を備えたRiraku SmartLabである(X線ビームは線焦点で使用され、寸法は長さ12mm、幅1mm)。実験は、平行ビーム光学系(曲面放物面多層ミラー、自然に発散するX線ビームを、発散が非常に低い平行X線ビームに変換する)を備えたシータ-シータ(反射)幾何学構造で行われる。1D反射モード。入射スリット(IS)は口径1mm、長さ制限スリットは口径10mm、2つの受光スリット(RS1及びRS2)は口径3mmに設定される。検出器は、1Dモードで使用されるRigaku Hypix3000である。データは、連続モードで5.0°~80.0°2θ、0.02°ステップ、スキャン速度0.5°/minで収集される。α-PVDF及び/又はγ-PVDFに対するβ-PVDFの比を強度比として計算した。β-PVDF(200)とβ-PVDF(110)の合計を、α-PVDF(020)とγ-PVDF(020)の合計で割る。Iβ(200/110)/[Iα(020)+Iγ(020)]=強度比。
【0080】
溶液粘度は、Brookfield DVII粘度計SC4-25スピンドルを使用し、3.36s-1でBrookfield粘度計を使用して25℃で測定される。溶液粘度サンプルの調製:PVDF樹脂を9重量%で1-メチル-2-ピロリジノンに溶解する。樹脂/溶媒混合物をロールミキサーで室温で最低72時間混合し、完全に溶解させた。
【0081】
実施例1~3
実験は、1000gの水を加えた1.7Lのステンレス鋼反応器内で実施した。反応器を窒素ガスでパージした。反応器を密閉し、72RPMで撹拌を開始した。反応全体を通して撹拌を維持した。反応器を表1に示す所望の温度まで加熱した。反応器にフッ化ビニリデンを充填して、所望の圧力約4481kPa(650psi)に達した。加圧後、反応器に開始剤溶液を充填した。開始剤溶液は、1%過硫酸カリウムの開始剤水溶液(EMD Chemicals製、ACSグレード)であった。適切な重合速度を得るために、開始剤水溶液の連続供給を反応に加えた。必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することにより、反応温度を所望の温度に維持し、反応圧力を4481kPa(650psi)に維持した。消費されたVDFの量が所望のレベルに達したとき、VDFの供給を停止した。30分間、撹拌を続け、温度を維持した。その後、撹拌と加熱を中止した。室温まで冷却した後、余剰ガスを排出した。反応によって生成されたすべての固体物質を適切な受容器に集めた。反応器からの固体材料を対流式オーブンで乾燥させた。
【0082】
比較例1は、73℃で実施すること以外は実施例1と同じである。比較例2及び3は、典型的な乳化重合によって製造された商用グレードのPVDFホモポリマーである。
【0083】
【表1A】
【0084】
【表1B】
【0085】
実施例4~6
実験手順は、実施例1~4で説明したものと非常に似ている。1.7Lのステンレス鋼反応器に、1000gの水を加えた。反応器を窒素ガスでパージした。反応器を密閉し、72RPMで撹拌を開始し、反応器を63℃に加熱した。反応器にフッ化ビニリデンを充填して、所望の圧力4481kPa(650psi)に達した。加圧後、反応器に開始剤溶液を充填した。開始剤溶液は、1%過硫酸カリウムの開始剤水溶液(EMD Chemicals製、ACSグレード)であった。適切な重合速度を得るために、開始剤水溶液の連続供給を反応に加えた。1%の溶液として調製したコモノマーを反応中に添加した。必要に応じてフッ化ビニリデン及び場合により非フッ素化モノマーを添加することにより、反応温度を63℃に維持し、反応圧力を4481kPa(650psi)に維持した。消費されたVDFの量が所望のレベルに達したとき、モノマーの供給を停止した。30分間、撹拌を続け、温度を維持した。その後、撹拌と加熱を中止した。室温まで冷却した後、余剰ガスを排出し、反応によって生成したポリマー材料を適切な受容器に収集した。
【0086】
【表2】
【0087】
CEAは2-カルボキシエチルアクリレートである。
【0088】
AAはアクリル酸である。
【0089】
本発明のPVDFポリマーは、電池電極又は電池セパレータを製造するために使用することができる。乾燥したポリマーは、カソードスラリーの調製に使用される。
【0090】
カソードの配合及び製造
ここでは、実験室規模での正極スラリー調製手順の2つの例を説明する。プロセス#1は、最初にカーボンブラックを結合剤溶液と混合し、次に活物質と混合する。プロセス#2は、カーボンブラックと活物質を乾燥粉末として混合し、その後バインダー溶液と混合する。どちらのプロセスもリチウムイオン電池産業で使用される。以下の手順は、乾燥ベースでNMC622(リチウム活物質)/SuperP(カーボンブラック)/バインダー=97/1.5/1.5の目標配合を使用した実験室規模のものである。
【0091】
スラリープロセス#1:0.36gの導電性カーボン添加剤、TimcalのSuperP-Liを4.50gの8.0%バインダー溶液に添加し、遠心プラネタリーミキサーThinky AR-310を使用して、2000rpmで120秒を3回繰り返し、間に1分間空冷して混合した。導電性カーボンがバインダー溶液に分散したら、23.28gの活物質であるCelcore(登録商標)NMC622(Umicore)と少量のNMP(0.5g)を混合物に加え、典型的には2000rpmで60秒間混合して、濃厚で均一なペーストを形成した。次いで、少量のNMP(0.5g)をペーストに添加し、60秒/2000rpmで混合して、スラリー固形分及び粘度を徐々に低下させた。この希釈ステップは、スラリー粘度がコーティングに適切なレベル、通常は1/sのせん断速度で3,000~15,000cPに達するまで複数回繰り返される。通常、NMC622/SuperP/バインダー=97/1.5/1.5配合物の最終固形分レベルは約80重量%である。
【0092】
スラリープロセス#2:TimcalのSuperP-Liなどの導電性カーボン添加剤0.36gを、まずCelcore(登録商標)NMC622(Umicore)などの活物質23.28gと、遠心プラネタリーミキサーThinky AR-310を使用し、1500rpmで60秒を2回繰り返して乾式混合した。次に、4.50gの8%結合剤溶液を加えて混合し、通常2000rpmで60秒間、濃厚で均一なペーストを形成した。次いで、少量のNMP(0.5g)をペーストに添加し、60秒/2000rpmで混合して、スラリー固形分及び粘度を徐々に低下させた。この希釈ステップは、スラリー粘度がコーティングに適切なレベル、通常は1/sのせん断速度で3,000~15,000cPに達するまで複数回繰り返される。
【0093】
電極のキャスティングと乾燥:次に、自動フィルムアプリケーター(Elcometer4340)の調整可能なドクターブレードを使用し、コーティング速度0.3m/minで、カソードスラリーをアルミニウムフォイル(集電体、厚さ15μm)上にキャストした。ドクターブレードのギャップは、乾燥厚さが約80μmになるように、又は質量負荷が約200g/m2になるように経験的に調整された。次に、湿った鋳造物を対流式オーブンに移し、120℃で30分間乾燥させた。乾燥後、ロールミル(Hohsen製HSTK-1515H)を使用して電極をカレンダー加工した。NMC622ベースの電極の最終密度は通常約3.4g/cm3である。
【0094】
剥離接着力データは、以下に説明する剥離試験方法から得たものである。剥離試験では、本発明のポリマーを使用して作製したカソードサンプルを、幅1インチ、長さ5~8インチのストライプに切断した。サンプルは真空オーブン内で約85℃で一晩乾燥され、乾燥室で保管された。カソードの剥離強度は、ASTM D903にいくつかの変更を加えた180°剥離試験によって得られた。最初の変更は、使用した伸張速度が50mm/分(剥離速度が25mm/分)ということであった。2番目の修正は、周囲湿度への曝露の変動が剥離結果に大きな影響を与える可能性があるため、剥離試験の前に試験サンプルを乾燥させ(上記のように)、剥離試験を乾燥室内で実施した。幅1インチのテストストライプは、3Mの410M両面紙テープを介してアライメントプレートに接着され、フレキシブルアルミニウムフォイル集電体は試験機のグリップで剥がされた。機械試験機は、10Nロードセルを備えたInstron3343モデルであった。剥離結果はN/mで報告される。
【0095】
【表3】
【0096】
比較例2は、Arkema Inc.から入手可能な、100s-1での溶融粘度が50kPoiseのPVDFホモポリマーである。
【0097】
新規なVDF含有ポリマーは、実証されたように非常に良好な剥離結果を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】