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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】基板上で触媒を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20241031BHJP
   B01J 37/025 20060101ALI20241031BHJP
   B01J 35/73 20240101ALI20241031BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20241031BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 1/55 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 9/50 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 11/087 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 11/093 20210101ALI20241031BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20241031BHJP
   H01M 4/88 20060101ALN20241031BHJP
   H01M 4/90 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
B01J37/02 301J
B01J37/025
B01J37/02 301P
B01J37/02 301N
B01J35/73
B01J23/755 M
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B1/55
C25B9/50
C25B11/052
C25B11/061
C25B11/087
C25B11/093
H01L31/04 260
H01M4/88 K
H01M4/90 X
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524386
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 AU2022051271
(87)【国際公開番号】W WO2023064997
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】2021903393
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516356608
【氏名又は名称】オーストラリアン ナショナル ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】AUSTRALIAN NATIONAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】10c East Road,Acton,Australian Capital Territory 2601,Australia
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】カルトゥリ,シヴァ クリシュナ
(72)【発明者】
【氏名】ジャガディッシュ,チェヌーパティ
(72)【発明者】
【氏名】タン,ハーク ホー
(72)【発明者】
【氏名】グプタ,ビケシュ
(72)【発明者】
【氏名】スー,ジョシュア ゼーヤン
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
5F251
5H018
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA10
4G169AA11
4G169BA17
4G169BA22B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB05A
4G169BB05B
4G169BB08C
4G169BC17B
4G169BC27B
4G169BC29C
4G169BC31A
4G169BC35A
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC59A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD05B
4G169BD12C
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA11
4G169EB15X
4G169EB15Y
4G169EC28
4G169EE06
4G169FA01
4G169FB02
4G169FB21
4G169FB23
4G169FB48
4G169FC04
4K011AA06
4K011AA22
4K011AA50
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC08
4K021DC01
4K021DC03
5F251AA08
5F251CB27
5F251FA06
5H018AA01
5H018BB07
5H018EE02
5H018EE04
5H018EE11
5H018HH03
(57)【要約】
その上に金属層を有する基板を用意すること、および当該金属層と腐食溶液を接触させて、触媒を形成すること、を含む、基板上で触媒を製造する方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上で触媒を製造する方法であって、
その上に金属層を有する基板を用意すること、および
前記金属層と腐食溶液とを接触させて、触媒を形成させること、
を含む、触媒製造方法。
【請求項2】
前記基板上に金属層を形成して、金属化基板を形成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板上に前記金属層を形成することが、前記基板上に金属を電気めっきすることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属層は、金属ハロゲン化物電解液を使用して前記基板を電気めっきすることにより、前記基板上に付与される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属層は、地球に豊富に存在する金属の塩化物溶液を含む電解液を使用して前記基板上で電気めっきすることにより、前記基板上に付与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属層は、電解液としてNi(II)塩化物溶液を用いて前記基板に電気めっきして、前記基板上にNi層を形成することにより、前記基板上に付与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属層は、電解液としてNi(II)硫酸エステル溶液を用いて前記基板に電気めっきして、前記基板上にNi層を形成することにより、前記基板上に付与される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記金属層は、例えば、Niなど、ただ一種の金属からなる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属層は、二種以上の金属を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属層は、Ni、ならびにMo、Co、Fe、Cu、MnおよびZnから選択される一種以上の金属を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基板上に金属層を形成することは、前記基板上に金属板または金属箔を付与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記金属板または前記金属箔は、例えば、Ag塗料などの接着層を使用して前記基板に付着される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属板または前記金属箔は、はんだ付けにより前記基板の背側に付着される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
シード層を前記基板に付与し、その後に前記金属層を形成することをさらに含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記基板は、電極である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記基板は、光電池である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記基板は、GaAs PVセルである、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
金属表面上で触媒を再生する方法であって、
前記金属表面から任意の廃触媒または残留触媒を取り除き、清浄化金属表面を生成すること、および
前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させて、前記清浄化金属表面に新たな触媒を再生させること、
を含む、方法。
【請求項19】
前記金属表面が、金属箔の表面からなる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記金属表面が、金属化された基板表面からなる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記触媒が、電極触媒である、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記触媒が、一種以上の金属水酸化物を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記触媒が、一種以上の遷移金属を含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記一種以上の遷移金属が、Ni、Fe、Co、MoおよびCuから選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記触媒が、少なくともニッケルを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記触媒が、NiFe水酸化物、NiCoFe水酸化物、NiMo水酸化物、NiCuFe水酸化物、および/またはそれらの組み合わせから選択される、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記金属層または前記清浄化金属表面と、腐食溶液を接触させることは、前記金属表面で酸化還元プロセスを開始させることを含み、前記酸化還元プロセスで前記金属は酸化されて、単金属性または多金属性の層状複水酸化物(LDH)触媒を形成する、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記触媒は、NiFe LDH触媒である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記腐食溶液は、ハロゲン化物溶液である、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記腐食溶液は、金属ハロゲン化物溶液である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記腐食溶液は、遷移金属ハロゲン化物溶液である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記金属ハロゲン化物または前記遷移金属ハロゲン化物は、1mMの最小濃度で溶液中に存在する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記金属ハロゲン化物または前記遷移金属ハロゲン化物は、1.5mMの最小濃度で溶液中に存在する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項34】
前記金属ハロゲン化物または前記遷移金属ハロゲン化物は、5mMの最小濃度で溶液中に存在する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項35】
前記金属ハロゲン化物または前記遷移金属ハロゲン化物は、10mMの最小濃度で溶液中に存在する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項36】
前記金属ハロゲン化物または前記遷移金属ハロゲン化物は、1Mの最大濃度で溶液中に存在する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項37】
前記金属ハロゲン化物または前記遷移金属ハロゲン化物は、0.5Mの最大濃度で溶液中に存在する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項38】
前記金属ハロゲン化物または前記遷移金属ハロゲン化物は、0.1Mの最大濃度で溶液中に存在する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項39】
前記金属ハロゲン化物または前記遷移金属ハロゲン化物は、0.05Mの最大濃度で溶液中に存在する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項40】
前記金属ハロゲン化物または前記遷移金属ハロゲン化物は、0.01Mの最大濃度で溶液中に存在する、請求項30または31に記載の方法。
【請求項41】
前記腐食溶液は、酸性pHを有する、請求項1から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記腐食溶液のpHは、7未満である、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記腐食溶液のpHは、少なくとも2である、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記腐食溶液のpHは、少なくとも2.5である、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記腐食溶液のpHは、少なくとも3である、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記腐食溶液は、一種以上の金属塩を含み得る、請求項1から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記金属塩は、一種以上の遷移金属塩を含み得る、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記腐食溶液は、一種以上の遷移金属塩化物を含む、請求項1から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記腐食溶液は、金属塩化物溶液である、請求項1から48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記腐食溶液は、一種以上の遷移金属硝酸エステルを含む、請求項1から49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記遷移金属硝酸エステルは、ニッケル硝酸エステルおよび/または鉄硝酸エステルを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記腐食溶液は、ニッケル塩化物および/または鉄塩化物を含む、請求項1から51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記腐食溶液は、Ni(II)とFe(III)の塩化物の混合物である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記腐食溶液は、Ni(II)とFe(III)の硝酸エステルの混合物である、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
Ni:Feのモル比は、少なくとも1:2である、請求項52から54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
Ni(II)とFe(III)の塩化物の混合物のモル比、またはNi(II)とFe(III)の硝酸エステルの混合物のモル比は、1:1である、請求項52から54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
Ni(II)とFe(III)の塩化物の混合物のモル比、またはNi(II)とFe(III)の硝酸エステルの混合物のモル比は、1:2である、請求項52から54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
Ni(II)とFe(III)の塩化物の混合物のモル比、またはNi(II)とFe(III)の硝酸エステルの混合物のモル比は、2:1である、請求項52から54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記金属層と前記腐食溶液を接触させる工程は、室温で実施される、請求項1から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記金属層または前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、高温で実施される、請求項1から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記金属層または前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、最低で40℃で実施される、請求項1から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記金属層または前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、最低で60℃の温度で実施される、請求項1から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記金属層または前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、最高で90℃の温度で実施される、請求項1から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記金属層または前記清浄化な金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、最高で80℃の温度で実施される、請求項1から58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記金属層または前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、最長で60分間、実施される、請求項1から64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記金属層または前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、最長で30分間、実施される、請求項1から64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
前記金属層または前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、最長で15分間、実施される、請求項1から64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
前記金属層または前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、最長で5分間、実施される、請求項1から64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記金属層または前記清浄化金属表面と腐食溶液を接触させる工程は、自身の上に金属層が備えられた基板を腐食溶液中に浸すことを含む、請求項1から68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
前記金属層または前記金属表面は、地球に豊富に存在する金属を含む、請求項1から69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記金属層または前記金属表面は、一種以上の遷移金属を含む、請求項1から70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
前記金属層または前記金属表面は、例えば、ニッケル、モリブデン、鉄、コバルト、銅、マンガン、亜鉛、および/またはそれらの組み合わせから選択される一種以上の金属を含む、請求項1から71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
請求項1から72のいずれか一項に記載の方法を用いて製造された触媒。
【請求項74】
請求項1から72のいずれか一項に記載の方法を用いて製造された触媒を含む基板。
【請求項75】
請求項1から72のいずれか一項に記載の方法を用いて製造された触媒を含む電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板上で触媒を製造する方法に関する。また本開示は、金属表面上の触媒を再生させる方法にも関連する。また本開示は、本明細書に開示される方法を用いて製造された触媒にも関連する。また本開示は、本明細書に開示される方法を用いて製造された触媒を含む基板および電極にも関連する。
【背景技術】
【0002】
気候変動がますます重要な問題となるにつれ、エネルギー生産を化石燃料から再生可能エネルギー源へと転換することがさらに緊急の課題となっている。現在のところ、断続的にしか得られない再生可能エネルギー源を、安定的で貯蔵可能な化学燃料へと転換することが、市民に再生可能エネルギーを確実に持続的に届けるための重要なキーとなっている。
【0003】
陰極と陽極で水分子がそれぞれ水素と酸素に分かれる水分解を介した水素生成は、従来の再生可能エネルギー生産法に代わる魅力的な代替手段である。燃料電池において水素が燃料として使用される場合、例えば高度な質量エネルギー密度などの多くの利点があり、効率的なエネルギー生産が可能となる。さらに水素生成は副産物として水が放出されるだけであり、環境に対して無害である。
【0004】
産業上の観点からは、アルカリ水分解(AWS:alkaline water splitting)システムは、水素生成プロセスで使用される安価で非貴金属性の触媒を含む、多種多様な触媒を使用することから、拡張や更新が比較的容易であり、汎用性が高く、特に大きな可能性を秘めている。
【0005】
したがって、太陽光による水からの水素分子の生成は、未来のクリーンな水素エコノミーにおいて重要な要素である。
【0006】
AWSに適した電極の開発における課題は未だ多様である。陰極での水素発生反応(HER:hydrogen evolution reaction)と比較して、酸素発生反応(OER:oxygen evolution reaction)の速度が相対的に遅い点を克服する必要性を考慮すると、陽極の電極触媒作用において高い性能を確保することが重要である。
【0007】
水分解セルおよび燃料電池における水、酸素および水素の電気化学反応に対する運動エネルギー障壁の克服において、触媒作用または電極触媒作用は重要な役割を果たしている。
【0008】
しかしながら、水分解プロセスの反応条件、および現行の触媒製造方法の製造条件が原因で、触媒支持材の種類は現在のところ限定的である。
【0009】
触媒支持材は、導電性であること、および水分解操作中の過酷な腐食条件に対して化学的に堅牢であることが求められる。さらに、既存の電極触媒堆積法は反応条件が高温であることから、同じ支持材に対して、温度安定性が良好であることも求められる。現在、チタンおよびスチールの基板が上記の基準の全てを満たしており、現行のAWSシステムの主要な支持材である。
【0010】
水素生成に利用可能な触媒支持材の種類に制限があることによって、産業レベルでのプロセスのスケーラビリティは深刻な影響を受けている。したがって、触媒支持材として使用することができる物質の種類を多くすることも求められている。また例えば非金属性の基板など、安価な代替品に対するニーズも存在する。
【0011】
また、水素生成を最大化することができる高度に活性で、安定的で、安価な電気化学的触媒の開発も求められている。これに関しては、比較的安価で、地球に豊富に存在する物質を利用する触媒システムに対するニーズも存在する。本明細書において、「地球に豊富に存在する」とは、1ppmを超える濃度で地殻に存在することを意味する。
【0012】
本明細書において何らかの先行技術が参照される場合、かかる参照は、当該先行技術が、オーストラリアまたは任意の他の国の当該分野において共通する一般的な知識の一部を形成することを認めるものではないことを理解されたい。
【発明の概要】
【0013】
一つの態様によると、基板上で触媒を製造する方法が提供され、当該方法は、
自身の上に金属層を有する基板を用意すること、および
当該金属層を腐食溶液と接触させて、触媒を形成させること、を含む。
【0014】
本明細書において使用される場合、「触媒」という用語は、自身は何らかの永続的な化学的変化を経ることなく、化学反応の速度を上昇させる物質に関する通常の技術的な意味を有する。
【0015】
当該方法は、基板上に金属の層を形成させ、金属化基板を形成する工程をさらに含んでもよい。
【0016】
一部の実施形態では、金属層は、地球に豊富に存在する金属を含む。金属層は、一種以上の遷移金属を含んでもよい。金属層は、例えば、ニッケル、モリブデン、鉄、コバルト、銅、マンガン、亜鉛および/またはそれらの組み合わせから選択される一種以上の金属を含んでもよい。ニッケル(Ni)およびNiを基にした物質は、例えば水分解を介した水素生成などの電気分解プロセスにおいて良好な触媒活性を示す。またNiは安価で容易に入手可能であり、酸素発生反応(OER)と水素発生反応(HER)の両方において比較的良好な触媒性能を示している。
【0017】
金属層の厚さは、所望のとおりに調整することができる。しかし厚さは、支持材の大部分に接着するのに適した構造的柔軟性を保有するのに充分であることが好ましい。さらに金属層の厚さは、溶液腐食プロセス中の完全なフィルムのエッチング/除去を予防するのに充分な厚さであることが好ましい。したがって金属層は、例えば水分解を介した水素生成などの電気化学的用途における電極としての性能を発揮するなど、目的の用途に必要とされる望ましい導電性の金属層を維持しながら、腐食プロセスが実施され、触媒が形成されるのに必要とされる量の金属を含まなければならない。
【0018】
基板は、その後の腐食工程の間に基板がまったく露出しないように、金属層によって完全に覆われていてもよい。
【0019】
一部の実施形態では、金属層は、最小で0.5μmの厚さを有する。一部の実施形態では、金属層は、最小で1.0μmの厚さを有する。一部の実施形態では、金属層は、最小で1.5μmの厚さを有する。一部の実施形態では、金属層は、最小で2ミクロンの厚さを有する。一部の実施形態では、金属層は、最小で2.5μmの厚さを有する。
【0020】
一つの実施形態では、金属層の厚さは、最大で10ミクロンである。一つの実施形態では、金属層の厚さは、最大で8ミクロンである。一つの実施形態では、金属層の厚さは、最大で7ミクロンである。一つの実施形態では、金属層の厚さは、最大で5ミクロンである。一つの実施形態では、金属層の厚さは、最大で3ミクロンである。
【0021】
触媒生成のための犠牲金属層としての作用とは別に、金属層は、下層の基板の化学的防護層としての役割も果たしている。金属層がなければ、下層の基板は、例えば電気分解操作や水分解反応の間に存在し得る過酷な化学環境下でダメージを受ける可能性がある。金属層によって、例えば電極基板の役割を果たすため、基板が化学的に安定した物質である必要性はなくなる。
【0022】
一部の実施形態では、基板上に金属層を形成することは、基板上に金属を電気めっきすることを含む。金属層は、例えば、金属ハロゲン化物の電解液を使用して基板を電気めっきすることにより、付与され得る。一つの実施形態では、金属層は、地球に豊富に存在する金属の、塩化物溶液を含む電解液を使用して、基板を電気めっきすることにより付与される。地球に豊富に存在する金属は、遷移金属であってもよい。一つの実施形態では、金属層は、電解液としてNi(II)塩化物溶液を用いて基板を金属めっきすることによって付与され、基板上にNi層が形成される。別の実施形態では、Ni(II)硫酸エステル溶液が、基板上にNi層を付与するための電解液として使用される。さらに別の実施形態では、Ni(II)酢酸エステル溶液が、基板上にNi層を付与するための電解液として使用される。
【0023】
一部の実施形態では、別の適切な金属堆積法を使用して、基板上に金属層を付与してもよい。例えば一部の実施形態では、金属層は、無電解めっき、化学蒸着または湿式化学法のうちの1つ以上によって付与される。
【0024】
堆積される金属層は、ただ一種のみの金属、例えばNiのみを含んでもよく、他の実施形態では、堆積される金属層は、二種以上の金属を含んでもよい。金属層は、ニッケルを含んでもよい。金属の組み合わせは、Mo、Co、Fe、Cu、MnおよびZnのうちの一種以上をさらに含んでもよい。金属層に存在し得る金属の組み合わせの例としては、Ni-Mo、Ni-Co、Ni-Fe、Ni-Fe-Cu、Ni-Mo-Zn、Ni-Fe-MoおよびNi-Mn-Fe-Moが挙げられる。
【0025】
一部の他の実施形態では、基板上に金属層を形成することは、基板上に金属のプレートまたは薄片を付着することを含む。一部の実施形態では、金属のプレートまたは薄片は、例えばAg塗料などの接着層を使用して基板に付着される。他の実施形態では、金属のプレートまたは薄片は、はんだ付けによって基板の背側に付着される。
【0026】
基板は、限定されないが、半導体(例えば、Siおよび/またはGaAs)、金属(例えば、銅メッシュ、銅板またはステンレススチール)、非金属およびポリマー(例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE))を含む多種多様な物質から選択され得る。
【0027】
一部の実施形態では、基板は、電極である。
【0028】
一つの実施形態では、基板は、光電池である。一つの実施形態では、基板は、GaAs PVセルである。
【0029】
本発明方法が、半導体上での触媒の製造に適用される場合、溶液誘発性の半導体の腐食を回避できることが本方法の利点である。半導体の腐食は、光電極の性能と寿命を損なう可能性がある。さらに加えて、半導体が、半導体系の光電極デバイスの一部を形成する場合において、本発明方法を実施する過程で半導体基板上に形成された金属層は、水分解操作中、半導体を防護し、それによって光電極デバイスの性能は安定化する。
【0030】
本発明方法には、基板上の金属層と、腐食溶液とを接触させて、触媒を形成することが含まれる。本明細書において使用される場合、「腐食溶液」という用語は、金属層と化学的に反応し、酸化する水溶液を意味する。
【0031】
一部の実施形態では、金属層と腐食溶液の接触には、自身の上に金属層を備えた基板を、腐食溶液中に浸すことが含まれる。
【0032】
他の実施形態では、金属層と腐食溶液の接触には、金属層に腐食溶液を噴霧すること、または別手段により付与することが含まれる。
【0033】
一部の実施形態では、腐食溶液は、ハロゲン化物溶液である。腐食溶液は、例えば、金属ハロゲン化物溶液であってもよい。ある実施形態では、腐食溶液は、遷移金属ハロゲン化物溶液である。
【0034】
金属ハロゲン化物は、1mMの最小濃度で溶液中に存在してもよい。別の実施形態では、金属ハロゲン化物は、1.5mMの最小濃度で溶液中に存在してもよい。別の実施形態では、金属ハロゲン化物は、5mMの最小濃度で溶液中に存在してもよい。別の実施形態では、金属ハロゲン化物は、10mMの最小濃度で溶液中に存在してもよい。
【0035】
金属ハロゲン化物は、1Mの最大濃度で溶液中に存在してもよい。ある実施形態では、金属ハロゲン化物は、0.5Mの最大濃度で溶液中に存在してもよい。別の実施形態では、金属ハロゲン化物は、0.1Mの最大濃度で溶液中に存在してもよい。別の実施形態では、金属ハロゲン化物は、0.05Mの最大濃度で溶液中に存在してもよい。別の実施形態では、金属ハロゲン化物は、0.01Mの最大濃度で溶液中に存在してもよい。
【0036】
腐食溶液のpHは、酸性であってもよい。pHは、7未満であってもよい。pHは、少なくとも2であってもよい。ある実施形態では、pHは、少なくとも2.5である。別の実施形態では、pHは、少なくとも3である。
【0037】
腐食溶液は、一種以上の金属塩を含んでもよい。金属塩は、一種以上の遷移金属塩を含んでもよい。
【0038】
腐食溶液は、例えば、金属塩化物溶液であってもよい。
【0039】
腐食溶液は、一種以上の遷移金属塩化物を含んでもよい。遷移金属塩化物は、ニッケル塩化物および/または鉄塩化物を含んでもよい。
【0040】
腐食溶液は、一種以上の遷移金属硝酸エステルを含んでもよい。遷移金属硝酸エステルは、ニッケル硝酸エステルおよび/または鉄硝酸エステルを含んでもよい。
【0041】
一部の実施形態では、腐食溶液は、Ni(II)とFe(III)の塩化物の混合物である。他の実施形態では、腐食溶液は、Ni(II)とFe(III)の硝酸エステルの混合物である。
【0042】
Ni:Feのモル比は、少なくとも1:2であってもよい。ある実施形態では、モル比は、最大で2:1である。一つの実施形態では、Ni(II)とFe(III)の塩化物の混合物、またはNi(II)とFe(III)の硝酸エステルの混合物のモル比は、1:1である。別の実施形態では、Ni(II)とFe(III)の塩化物の混合物、またはNi(II)とFe(III)の硝酸エステルの混合物のモル比は、1:2である。さらに別の実施形態では、Ni(II)とFe(III)の塩化物の混合物、またはNi(II)とFe(III)の硝酸エステルの混合物のモル比は、2:1である。
【0043】
腐食工程の温度は、室温でも高温でもよい。「高温」とは、室温よりも高い温度を意味する。一部の実施形態では、金属層を腐食溶液に接触させる工程は、室温で実施される。他の実施形態では、金属層を腐食溶液に接触させる工程は、最低で40℃で実施される。他の実施形態では、金属層を腐食溶液に接触させる工程は、最低で60℃で実施される。さらに他の実施形態では、金属層を腐食溶液に接触させる工程は、最高で90℃で実施される。さらに他の実施形態では、金属層を腐食溶液に接触させる工程は、最高で80℃で実施される。
【0044】
金属層は、充分な時間、腐食溶液にさらされてもよく、それによって金属の腐食が開始され、腐食生成物が形成される。腐食溶液に金属層がさらされる時間は、所望のように調整することができ、時間が長くなると、金属から触媒への転換が多くなる。最適な時間は、腐食溶液の濃度と温度を含む、多くの因子に依存する。金属層は、最長で60分間、腐食溶液にさらされてもよい。ある実施形態では、金属層は、最長で30分間、腐食溶液にさらされる。別の実施形態では、金属層は、最長で15分間、腐食溶液にさらされる。別の実施形態では、金属層は、最長で10分間、腐食溶液にさらされる。別の実施形態では、金属層は、最長で5分間、腐食溶液にさらされる。
【0045】
腐食工程の間、腐食溶液は、金属層中の金属の少なくとも一部と反応して、腐食生成物を形成する。腐食生成物は、金属層の外表面にその場で形成されてもよく、それによって、金属層の非反応金属上に腐食生成物の層が形成される。腐食生成物は、触媒を含んでもよい。
【0046】
一部の実施形態では、触媒は、電極触媒である。
【0047】
一部の実施形態では、触媒は、一種以上の金属水酸化物を含む。
【0048】
一部の実施形態では、触媒は、単金属性の水酸化物である。
【0049】
一部の実施形態では、触媒は、多金属性の水酸化物である。
【0050】
一部の実施形態では、触媒は、多金属性の層状複水酸化物(LDH:layered double hydroxide)である。
【0051】
一部の実施形態では、触媒は、一種以上の遷移金属を含む。一種以上の遷移金属は、Ni、Fe、Co、MoおよびCuから選択されてもよい。触媒は、少なくともニッケルを含んでもよい。一部の実施形態では、触媒は、NiFe水酸化物、NiCoFe水酸化物、NiMo水酸化物、NiCuFe水酸化物、および/またはそれらの組み合わせから選択される。
【0052】
ある実施形態では、金属層が腐食溶液に接触したとき、酸化還元プロセスが金属表面に発生し、そこで金属は酸化されて、単金属性または多金属性の層状複水酸化物(LDH)触媒が形成される。
【0053】
一つの実施形態では、触媒は、NiFe LDH触媒である。
【0054】
一部の実施形態では、発明方法はさらに、シード層を基板に付与し、その後、金属層を形成または付与することを含む。シード層は、金属層が基板に接着するのを促進し得る。
【0055】
一部の実施形態では、シード層は、最小で50nmの厚さを有する。
【0056】
一部の実施形態では、シード層の厚さは、およそ100nmである。
【0057】
一部の実施形態えは、シード層の組成は、Tiおよび/またはNiを含む。
【0058】
一部の実施形態では、シード層は、Ti層およびNi層のうちの少なくとも1つを含む。
【0059】
一部の実施形態では、Ti層は、最小で50nmの厚さを有する。
【0060】
一部の実施形態では、Ni層は、最小で50nmの厚さを有する。
【0061】
一部の実施形態では、基板にシード層を付与することは、電子ビーム蒸着によってシード層を堆積させることを含む。一部の他の実施形態では、基板にシード層を付与することは、熱蒸着によってシード層を堆積させることを含む。さらに一部の実施形態では、基板にシード層を付与することは、スパッタ蒸着によってシード層を堆積させることを含む。
【0062】
別の態様によると、金属表面上の触媒を再生させる方法が提供され、当該方法は、
金属表面から任意の廃触媒または残留触媒を取り除き、クリーンな金属表面を生成すること、および
クリーンな金属表面と腐食溶液を接触させて、金属表面上で新たな触媒を再生させること、を含む。
【0063】
当該方法によって、使用済みの金属または金属プレートの基板の上で触媒を再生する効果的な方法が提供され、さらに当該方法は、新たな触媒を基板上に生成する前に金属基板を置き換えるコストまたは新たな基板に再堆積させるコストを低下させる。
【0064】
一部の実施形態では、金属表面は、金属箔の表面からなる。
【0065】
他の実施形態では、金属表面は、金属化された基板表面からなる。
【0066】
一部の実施形態では、金属表面から任意の廃触媒または残留触媒を取り除くことは、金属表面をエッチング液で処理することを含む。
【0067】
一部の実施形態では、エッチング液は、鉱酸を含む。一つの実施形態では、エッチング液は、塩酸(HCl)を含む。一部の他の実施形態では、エッチング液は、硫酸(H2SO4)を含む。一部の他の実施形態では、エッチング液は、塩酸(HCl)と硫酸(H2SO4)の組み合わせを含む。
【0068】
別の態様によると、上記に検討される実施形態のいずれかに従う方法により製造された触媒が提供される。
【0069】
別の態様によると、上記に検討される実施形態のいずれかに従い製造された触媒を自身の上に含む基板が提供される。
【0070】
別の態様によると、上記に検討される実施形態のいずれかに従う方法により製造された触媒を含む電極が提供される。
【0071】
本発明方法の利点としては以下が挙げられる:
・当該方法は、安価であり得ること。
・様々な金属性表面に適応され得ること。
・当該方法は、高温を必要とせず、室温で実施することができること。
・当該方法が、金属表面で広く発生し得ること、および高温活性は必要としなくてもよいこと、を考慮すると、基板は、自身の上に適切な薄い導電性金属層を有する多種多様な組成を備えてもよいこと。
【図面の簡単な説明】
【0072】
実施形態は以下の付随する図面を参照して、例示のみを目的として記載される。
図1】本明細書に開示される製造プロセスの実施形態を示す概略図である。
図2】NiFe LDHを形成する前および後の様々な基板上に電気めっきされたNiの写真を示す。
図3(a)】Ni表面に形成されたNiFe LDHの断面域のEDSマッピング画像である。Ni、FeおよびOの参照EDSマッピング画像に関する参照を右側に示す。
図3(b)-(c)】(b)はSi表面上に電気めっきされたNiのSEM画像であり、(c)は、Ni表面上に形成されたNiFe LDHのSEM画像である。
図4(a)-(c)】NiFe LDH触媒の有無による、Ni電気めっきされたSiの性能の比較を示すグラフである。(a)は、0.01V/sでの前向きLSVスキャンであり、(b)は、RHE基準電位1.49VでのEIS Nyquistスペクトルである。(c)は、様々な基板上に堆積した、Ni上に形成されたNiFe LDH触媒の、10mA cm-2でのクロノポテンシオメトリーの結果である。
図4(d)-(e)】NiFe LDHの過電圧の測定。(d)は、様々な基板上に堆積したものを、10および50mA cm-2で測定した結果。(e)は、堆積と0.1M HClによるエッチング(基盤はSi)の回数を変えて、10mA cm-2で測定した結果。
図5(a)】太陽光発電で補助したGaAs光陽極であって、背面にNiFe LDHを堆積したものの概略図。
図5(b)-(d)】図4(a)の光陽極の、電流-電圧およびクロノアンペロメトリー特性を示すグラフ。(b)は、AM 1.5G 1太陽光照射の下で測定された、光陽極のJ-V曲線と、1.0M KOH中での太陽光エネルギー変換効率(ABPE:Applied bias photon-to-current efficiency)である。(c)は、AM 1.5G太陽スペクトルと関連付けて測定された、NiFe LDH触媒付きの、太陽光発電で補助したGaAs光電極の光電変換効率(IPCE:Incident Photon-to-current Conversion efficiency)である。(d)は、RHE基準1.3Vにおけるクロノアンペロメトリーの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下の詳細な記述において、付随する図面に対する参照がなされるが、それら図面は詳細な説明の一部を形成している。詳細な記述に記載される例示的な実施形態は、図面で表現され、請求の範囲において定義されており、限定であるとは意図されない。提示される主題の主旨および範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用してもよく、他の変更が行われてもよい。本明細書において大まかに記載され、図面において描写される本開示の態様は、多種多様な異なる構成でアレンジされ、置換され、組み合わされ、分離され、そして設計され得ることが容易に理解され、それらすべてが本開示の内にあると予期される。
【0074】
本開示は、様々な基板および/または支持材の上で触媒を製造する方法を提供する。当該方法は、(i)基板上に金属層を被覆し、金属化基板を形成する工程、および(ii)金属層を腐食溶液に接触させ、触媒層を形成する工程、を含む。
【0075】
基板上で触媒を製造する方法は、例示として、図を参照して本明細書に記載される。
【0076】
図1に図示される実施形態によると、当該方法は、シード層を基板に被覆し、その後に金属層を被覆することによって、基板への金属層の接着をシード層が促進することを含む。
【0077】
記述される実施形態において、シード層は、電子ビーム蒸着を使用して基板の一側面に堆積される。しかし任意の他の適切な堆積法を使用することもできる。例えば一部の実施形態では、シード層は、化学浴堆積法(chemical bath deposition)によって被覆される。
【0078】
記述される実施形態において、シード層の組成は、TiおよびNiを含む。特にシード層は、50nmのTi層と50nmのNi層から構成される。記述される実施形態において、Ti層は、基板上に堆積され、Ni層は、Ti層の上に堆積される。
【0079】
シード層は、下層にある基板への伝導性を改善または提供する。さらにTi層は、その後のめっき工程中の金属層(この場合ではNi層)の接着の改善に役立つ。
【0080】
しかし、シード層の組成および厚さは、所望のように選択することができ、そして触媒工程における触媒の特定の用途に対して調整することができる。
【0081】
図1に示される基板は、およそ1cm2の幾何面積を有しているが、当該方法はスケーラビリティがあり、より広い面積にも適用可能である。
【0082】
記述される実施形態によると、シード層の堆積後、電気めっきにより金属層が基板に被覆される。シード層の堆積は任意選択的であること、および一部の実施形態では金属層は基板に直接被覆されることに留意されたい。
【0083】
記述される実施形態において、Ni層は、電気めっきにより被覆される。特にNi(II)塩化物溶液を電解液として使用して、基板上にNi層が堆積される。
【0084】
電気めっきは、0.36MのNi(II)塩化物溶液を使用して20mA/cm2で実施される。
【0085】
図1に示される概略図からは明白ではないが、記述される実施形態に従う金属層の厚さは、およそ2~3ミクロンである。しかし金属層の厚さは、所望のように、および/または触媒反応の特定の要件に応じて調整することができる。
【0086】
図1によると、基板へのNi電気めっき後、腐食溶液中に基板を浸すことにより、堆積した金属の層は腐食溶液と接触する。記述される実施形態を参照して以下に詳述されるように、腐食反応は、堆積した金属の一部を、触媒物質へと転換させる。
【0087】
記述される実施形態において、基板は、1:1のモル比のNi(II)とFe(III)の塩化物の、15mMの混合溶液中に1分間浸される。溶液中の塩化物イオンが、電気めっきされたNi層の腐食工程を開始させ、フィルム表面でNiFe複水酸化物を形成させる。その後、基板は70℃で1時間乾燥される。
【実施例
【0088】
半導体(SiおよびGaAs)、金属(銅メッシュ、銅板、ステンレススチール)、およびポリマー(PET)を含む様々な物質から作製された基板を、図1に記載される方法を使用してコーティングした。特に基板の一側面(およその幾何面積:1cm2)は、電気ビーム蒸着を使用してTi/Ni層(50nm/50nm)でコーティングされ、伝導性シード層とした。
【0089】
次いで基板は、電解液として0.36MのNi(II)塩化物溶液を使用して、20mA/cm2でNiで電気めっきされた。
【0090】
Ni電気めっき後、1:1のモル比のNi(II)とFe(III)の塩化物の15mMの混合溶液中に基板が1分間浸された。溶液中の塩化物イオンが電気めっきされたNiフィルムの腐食工程を開始させ、フィルム表面にNiFe複水酸化物が形成された。
【0091】
最後に基板は70℃で1時間乾燥された。
【0092】
図2は、NiFe LDHが形成される前および後のNi電気めっきされた基板の写真を示す。電気めっき工程の後、すべての基板が基板全体にわたって均一な厚さのNiフィルムを示しており、良好な基板-フィルムの接着であった。触媒形成にはある程度のNiフィルムの腐食が必要となるが、フィルムの完全性は、図3(a)に示されるように、この工程まで損なわれずにいた。図3(a)は、Ni(II)とFe(III)の溶液混合物中に浸されたNi電気めっき基板の断面域のエネルギー分散分光法(EDS:energy-dispersive spectroscopy)の画像であり、Ni表面上に形成されたNiFe LDHを示している。EDS画像は、Niから構成される底層(10~20nmの厚さ)と、Ni層の上の特徴的なFe/O層(10~20nmの厚さ)を示している。Fe/O層は、腐食工程によるNi表面上での触媒形成が成功したことを示す。図3(a)に示されるように、Fe/O層は、Ni金属層全体には浸潤せず、その完全性と再利用性は保全されていた。
【0093】
塩化物溶液に浸す工程が完了した時点で、すべての基板において、Niフィルムの外観に目に見える変化が観察され、未処理のNiフィルムで通常みられるメタリックなグレーの外観とは対照的な、茶色の錆に似た外観が明白であった。
【0094】
図3(b)および(c)は、走査型電子顕微鏡(SEM)による上面画像であり、以前はピカピカした質感だったNiフィルム表面上に、相当に腐食した外観が認められた。このことから、表面上に薄い触媒層が形成されたことが示唆される。
【0095】
触媒の有無による、Ni電気めっきSi基板のボルタンメトリー測定を実施して、NiFe LDHによってもたらされた触媒性の改善を判定した。特に、触媒の有無によるNi電気めっきSi基板のOER性能は、1.0M KOH溶液(pH13)で、PtプレートとAg/AgClそれぞれをカウンター電極および参照電極として用いた三電極セルにおける作用電極として基板を接続することにより比較された。NiFe LDHの有無によるSi上の電気めっきされたNiのリニアスイープボルタンメトリー(LSV:linear sweep voltammetry)曲線(図4(a))は、10mA cm-2で、純粋なNi層(630mV)と比較して、二金属水酸化物触媒が存在したときに明らかに低い過電圧を示している(308mV)。
【0096】
さらに触媒の有無による、Ni電気めっきされたSi基板の電気化学的インピーダンス分光法(EIS:electrochemical impedance spectroscopy)から得られたNyquistプロット(図4(b))では、触媒支持Si基板は、電荷移動抵抗が低いことに起因して、未処理のNi電気めっきSiよりも高いOER反応速度を示した。
【0097】
安定性の観点からは、NiFe LDH触媒は、10mA cm-2で、大きく逸脱することなく24時間、必要とされる過電圧でOER活性を持続することができ(図4(c))、同様のことが、Niめっきされたステンレススチール基板およびGaAs基板でも観察された。
【0098】
OER性能検査を、図2(a)のすべての評価対象基板にまで行ったところ、10および50mA cm2で比較的一貫性のある過電圧値が示された(図4(d))。このことから、触媒の性能は、基板に依存しないことが示唆される。
【0099】
複数回の触媒の再生工程について、基板に被覆された金属層の再利用性を示すため、基板をエッチング液(0.1M 塩酸(HCl))で10分間処理することによって、NiFe LDH触媒を、触媒支持Si基板から取り除いた。その後、クリーンになった金属表面を、最初の浸漬工程と同じ浸漬条件を使用して、Ni(II)とFe(III)の塩化物の15mMの混合溶液中に浸した。エッチング-腐食工程を、4回繰り返した。各サイクル後に過電圧を測定して、触媒性能における変化をモニタリングした。
【0100】
図3(e)は、0.1Mの塩酸(HCl)中で10分間、触媒をエッチングし、続いて最初の浸漬工程と同じ浸漬条件を使用してNiFe LDHを再生させるというサイクルを複数回行う前および後の、Si基板上のNiFe LDH触媒の過電圧の測定結果を示す。4回のエッチング-腐食サイクルのそれぞれの後、触媒性能に顕著な性能の悪化はなく、比較的同等を維持した。このことから、基板上に堆積されたNi層は、複数回再使用されても、毎回基板上に新たな金属層を被覆する必要なく、触媒層を形成し得ることが示唆される。
【0101】
本開示による方法は、III-V半導体系の光電極デバイスの触媒を安定させるために使用することもできる。III-V半導体は(光起電性の)PVや水分解セルにおいて良好な性能を示すが、過酷な電解液環境下では光腐食の影響を受ける可能性がある。
【0102】
図5(a)に概略されるように、市販のシングルジャンクション型GaAs PVセルを、背面密着でNiを用いて電気めっきし、腐食溶液中に浸して、上述のように触媒層を形成した。
【0103】
図5(b)に示されるように、AM 1.5G 1太陽光照度で、光陽極デバイスはおよそ27 mA/cm2の飽和光電流密度を達成した(図5(b))。これはシングルジャンクション型GaAs PVセルの予測範囲内である。このデバイスはまた、光照射下と暗状態で生成された光電流の比較によれば、測定された電位範囲内全体で良好な光反応を示した。得られたJV曲線から、ABPEは、RHEと比較して、0.52Vでおよそ11.7%であると計算された(図5(b)を参照)。これは優れた光陽極のABPE値である。さらに500~800nmの特定域において、この光電極設計で約80%の光電変換効率(IPCE:incident photon-to-current efficiency)が実現された(図5(c))。これにより、光電極の全体的に良好な変換効率が示されたが、PVセルの照射域での封入ガラスによる吸収と反射に起因して、いくらかの損失があったことも予測される。光陽極デバイスの安定性は、飽和光電流密度の開始電位(RHE基準で1.3V)で評価され、デバイス性能は100時間持続した(図5(d))。
【0104】
上記に検討され、付随する図面に示される実験結果から、本開示による方法は、太陽光水分解のための半導体電極の構築および安定化に使用でき、記録的な光陽極効率を実現したことを示す。
【0105】
本明細書に対して何らかの先行技術の公開文献が参照される場合、かかる参照は、当該公開文献が、オーストラリアまたは任意の他の国の当該分野において共通する一般的な知識の一部を形成することを認めるものではないことを理解されたい。
【0106】
以下の請求の範囲、および前述の本発明に関する記述において、文脈上、明白な文言や必要な含意により別段であることが必要とされない限り、「含む」という用語とその語形変化は、包括的な意味で使用される。すなわち、記述される特徴の存在を明記するが、本発明の様々な実施形態においてさらなる特徴の存在または追加を除外するものではない。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)-(c)】
図4(a)-(c)】
図4(d)-(e)】
図5(a)】
図5(b)-(d)】
【手続補正書】
【提出日】2024-06-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に触媒を製造する方法であって、
基板を用意し、
前記基板にシード層を付加し、
前記シード層の上に、Ni、Mo、Co、Fe、Cu、MnおよびZnから選択した1つまたは複数の金属を含む、金属層を形成し、
前記金属層を、腐食性金属ハロゲン化物溶液と接触させて触媒を形成する
触媒製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記シード層の厚さを、少なくとも約50nmとした
触媒製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記シード層の厚さを、少なくとも約100nmとした
触媒製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記シード層はTiおよび/またはNiを含む
触媒製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の触媒製造方法であって、
前記シード層は、Ti層およびNi層のうちの少なくとも1つを含む
触媒製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記基板へのシード層の付加は、電子ビーム蒸着によって前記シード層を堆積するものである
触媒製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記基板へのシード層の付加は、熱蒸着によって前記シード層を堆積するものである
触媒製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記基板へのシード層の付加は、スパッタ蒸着によって前記シード層を堆積するものである
触媒製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記シード層の上への金属層の形成は、前記シード層の上に金属を電気めっきするものである
触媒製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記金属層の厚さは0.5μmから10μmである
触媒製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記シード層の上への金属層の形成は、Ni(II)塩化物溶液を電解液に用いて、前記シード層を電気メッキしてNiの層を形成するものである
触媒製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記金属層は、2種以上の金属を含むものである
触媒製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記シード層の上への金属層の形成は、前記シード層に金属板または金属箔を付加するものである
触媒製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記基板は、電極である
触媒製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記基板は、太陽電池である
触媒製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の触媒製造方法であって、
前記基板は、GaAs太陽電池である
触媒製造方法。
【請求項17】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記触媒は、一種以上の金属水酸化物を含む
触媒製造方法。
【請求項18】
請求項1に記載の触媒製造方法であって、
前記腐食性金属ハロゲン化物溶液は、遷移金属ハロゲン化物溶液である
触媒製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の触媒製造方法であって、
前記腐食性金属ハロゲン化物溶液は、一種以上の遷移金属塩化物を含む
触媒製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の触媒製造方法であって、
前記腐食性金属ハロゲン化物溶液は、Ni(II)塩化物溶液とFe(III)塩化物溶液の混合物である
触媒製造方法。
【国際調査報告】