IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インヴィスタ テキスタイルズ(ユー.ケー.)リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】車両用エアバッグ布
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/235 20060101AFI20241031BHJP
   D01F 6/60 20060101ALI20241031BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20241031BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20241031BHJP
   D03D 1/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B60R21/235
D01F6/60 311A
D01F6/60 311J
D03D15/283 ZAB
D03D15/20 100
D03D1/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525683
(86)(22)【出願日】2023-01-06
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 IB2023050112
(87)【国際公開番号】W WO2023131904
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】63/298,148
(32)【優先日】2022-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】317013603
【氏名又は名称】インヴィスタ テキスタイルズ(ユー.ケー.)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】バーンズ,ジョン アラン
(72)【発明者】
【氏名】オット,ジェンナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスワナス,アナンド
【テーマコード(参考)】
3D054
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
3D054CC26
3D054FF18
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE08
4L035EE20
4L035FF01
4L035GG00
4L048AA24
4L048AA34
4L048AA48
4L048AA56
4L048AC09
4L048AC10
4L048CA01
4L048CA02
4L048DA25
(57)【要約】
車両用エアバッグ布は、横糸及び縦糸を含む。横糸は、1重量%以上~100重量%以下の再生ポリマー材料を含有し、1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(dpf)、65~80cN/texのテナシティ、及び糸の100万リニアメーター当たり150以下の毛羽の毛羽含有量を有する。縦糸は、横糸と等しいか又はそれより少ない単位重量当たりの再生ポリマー材料を含有し、1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(dpf)を有し、横糸の毛羽含有量よりも少ない毛羽含有量を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用エアバッグ布であって、
(a)1重量%以上~100重量%以下の再生ポリマー材料を含有する横糸であって、
(i)1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(dpf)、例えば2以上~4以下のフィラメント当たりデニール(dpf)を有し、
(ii)65~80cN/texのテナシティを有し、
(ii)糸の100万リニアメーター当たり150以下の毛羽の毛羽含有量を有する、横糸と、
(b)前記横糸と等しいか又はそれより少ない単位重量当たりの再生ポリマーを含有する、縦糸と、を含み、
(i)前記縦糸が、1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(dpf)、例えば2以上~4以下のフィラメント当たりデニール(dpf)を有し、
(ii)前記縦糸が、前記横糸の毛羽含有量より少ない毛羽含有量を有する、車両用エアバッグ布。
【請求項2】
前記縦糸と前記横糸とが、テナシティにおいて10%以下異なる、請求項1に記載の布。
【請求項3】
車両用エアバッグ布であって、
(a)1重量%以上~100重量%以下の再生ポリマー材料を含有する横糸であって、
(i)65~80cN/texのテナシティを有する、横糸と、
(b)前記横糸と等しいか又はそれより少ない単位重量当たりの再生ポリマーを含有する、縦糸と、を含み、
(i)前記縦糸のテナシティが、前記横糸のテナシティの±10%以内であり、
(ii)前記縦糸が、前記横糸よりも少ない100万リニアメーター当たりの毛羽を有する、車両用エアバッグ布。
【請求項4】
前記横糸が、1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(dpf)、例えば2以上~4以下のフィラメント当たりデニール(dpf)を有する、請求項3に記載の布。
【請求項5】
前記縦糸が、1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(dpf)、例えば2以上~4以下のフィラメント当たりデニール(dpf)を有する、請求項3又は請求項4に記載の布。
【請求項6】
前記横糸が、20重量%以上~60重量%以下の再生ポリマー材料を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の布。
【請求項7】
前記横糸が、30重量%以上~50重量%以下の再生ポリマー材料を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の布。
【請求項8】
前記横糸が、糸の100万リニアメーター当たり50以下の毛羽、例えば5以下の毛羽の毛羽含有量を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の布。
【請求項9】
前記再生ポリマー材料が、それを再生材料として識別する化学マーカーを含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の布。
【請求項10】
前記化学マーカーが、着色剤、蛍光剤、金属及びハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項9に記載の布。
【請求項11】
前記縦糸及び前記横糸が、少なくとも部分的にナイロンから構成される、請求項1~10のいずれか一項に記載の布。
【請求項12】
前記再生ポリマー材料が、少なくとも部分的にナイロンから構成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両エアバッグを製造するのに好適であり、再生ポリマー材料を含有する布に関する。
【背景技術】
【0002】
膨張式エアバッグは、車両安全システムの主要構成要素である。エアバッグは、典型的には、ナイロン又はポリエステル糸などの織られた合成繊維から作製される。世界中の多くの他の産業と同様に、自動車製造において、正味のカーボンニュートラル及び他の持続可能性の努力がますます求められている。この高まる必要性に対処する1つの手段は、エアバッグ繊維製造プロセスにおいて再生ポリマーを使用することである。再生ポリマーを使用して製造された繊維は、典型的には所望の最終用途に好適な品質ではないので、歴史的に、エアバッグは、典型的には、未使用の、又は新たに製造されたポリマーから作製されてきた。
【0003】
ポリマーは、機械的再粉砕及び再溶融及び/又はポリマー鎖を化学的に分解してモノマー成分に戻すことを含む、異なる手段によってリサイクルされ得る。再生ポリマー供給原料の供給源及びそれらのそれぞれの品質は、サプライチェーンにおけるステップに基づいて変化し得る。典型的な供給源としては、ポリマー及び/又は繊維製造プロセスからのスクラップ、布製織及び/又は裁断プロセスからのスクラップ、及び使用停止されたエアバッグモジュールからの布(いずれも展開前又は展開後)を挙げることができる。最終製品の品質に加えて、リサイクルポリマーの使用を通じて導入される他の課題としては、トレーサビリティ、一貫性、及びプロセス効率が挙げられる。トレーサビリティは、品質管理のためにプロセス全体を通して維持されなければならない。再生供給原料の一貫性は、最終繊維製品に要求される物性目標及び一貫性を達成するために重要である。
【0004】
プロセスの様々なステップにおいて潜在的に導入される汚染物質は、ポリマーの品質を低下させ、破断フィラメント又は「毛羽」の含有量の増加をもたらすので、繊維紡糸プロセスにおいて課題を生じる。機械的再生を通して処理されるポリマーの追加の熱履歴はまた、熱分解生成物の形成に起因して、繊維紡糸における毛羽含有量の増加をもたらし得る。製品が必要な最終用途に好適であることを確実にするために、縦糸及び横糸における許容可能な毛羽含有量に関する制限が設けられており、これは、製織の機械的応力及び引張応力に耐えることができ、下流処理における効率の許容可能なレベルを維持することができることを意味する。供給原料の品質、繊維製造プロセス、及び所望の布特性は、商業的なエアバッグ製織における使用に好適な品質の最終製品を達成するために最適化されなければならない。
【0005】
欧州特許第2687628(B1)号は、車両エアバッグを形成する際に使用するための布を開示しており、この布では、糸のうちの少なくともいくつか、特に緯糸が、部分的に又は全体的に再生ポリマー材料から形成されている。しかしながら、欧州特許第2687628(B1)号は、最終的なエアバッグの性能の損失を最小限に抑えながら、再生ポリマー材料がエアバッグ布にうまく組み込まれることを可能にし得る可能な制御パラメータについて言及していない。本開示は、この問題に対処しようとするものである。
【発明の概要】
【0006】
本開示によれば、そのテナシティ及びフィラメント当たりデニール(DPF)を、再生ポリマー材料をエアバッグ布の少なくとも横糸にうまく組み込むための制御パラメータとして使用できることが今や見出された。開示された布のいくつかの実施形態では、再生ポリマー材料は、エアバッグ布の縦糸及び横糸の両方に組み込まれ得る。
【0007】
したがって、一態様では、本出願は、車両用エアバッグ布であって、
(a)1重量%以上~100重量%以下の再生ポリマー材料を含有する横糸であって、
(i)1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(denierper filament、dpf)、例えば2以上~4以下のフィラメント当たりデニール(dpf)を有し、
(ii)65~80cN/texのテナシティを有し、
(iii)糸の100万リニアメーター当たり150以下の毛羽の毛羽含有量を有する、横糸と、
(b)横糸と等しいか又はそれより少ない単位重量当たりの再生ポリマーを含有する、縦糸と、を含み、
(i)縦糸が、1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(dpf)、例えば2以上~4以下のフィラメント当たりデニール(dpf)を有し、
(ii)縦糸が、横糸の毛羽含有量より少ない毛羽含有量を有する、車両用エアバッグ布を提供する。
【0008】
更なる態様では、本出願は、車両用エアバッグ布であって、
(a)1重量%以上~100重量%以下の再生ポリマー材料を含有する横糸であって、
(i)65~80cN/texのテナシティを有する、横糸と、
(b)横糸と等しいか又はそれより少ない単位重量当たりの再生ポリマーを含有する、縦糸と、を含み、
(i)縦糸のテナシティが、横糸のテナシティの±10%以内であり、
(ii)縦糸が、横糸よりも少ない100万リニアメーター当たりの毛羽を有する、車両用エアバッグ布を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
縦糸及び横糸を含む車両用エアバッグ布であって、横糸の少なくとも一部、場合によっては縦糸の少なくとも一部が再生ポリマー材料を含有する、車両用エアバッグ布が開示される。横糸及び縦糸の両方の残りは、未使用のポリマー材料から構成される。一般に、横糸及び縦糸の各々の未使用のポリマーは、ナイロン6,6などのナイロンから少なくとも部分的に構成される。同様に、再生ポリマー材料の少なくとも一部は、ナイロン6,6などのナイロンから構成される。
【0010】
一実施形態では、本明細書に開示される車両用エアバッグ布は、
(a)1重量%以上~100重量%以下の再生ポリマー材料を含有する横糸であって、
(i)1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(dpf)、例えば2以上~4以下のフィラメント当たりデニール(dpf)を有し、
(ii)65~80cN/texのテナシティを有し、
(iii)糸の100万リニアメーター当たり150以下の毛羽の毛羽含有量を有する、横糸と、
(b)横糸と等しいか又はそれより少ない単位重量当たりの再生ポリマーを含有する、縦糸と、を含み、
(i)縦糸が、1以上~6以下のフィラメント当たりデニール(dpf)、例えば2以上~4以下のフィラメント当たりデニール(dpf)を有し、
(ii)縦糸が、横糸の毛羽含有量より少ない毛羽含有量を有する。
【0011】
更なる実施形態では、本明細書に開示される車両用エアバッグ布は、
(a)1重量%以上~100重量%以下の再生ポリマー材料を含有する横糸であって、
(i)65~80cN/texのテナシティを有する、横糸と、
(b)横糸と等しいか又はそれより少ない単位重量当たりの再生ポリマーを含有する、縦糸と、を含み、
(i)縦糸のテナシティが、横糸のテナシティの±10%以内であり、
(ii)縦糸が、横糸よりも少ない100万リニアメーター当たりの毛羽を有する。
【0012】
本明細書で使用するとき、用語「毛羽」は、糸又は布の表面上に見える繊維束中の不連続フィラメントを意味する。本明細書に開示されるように、「毛羽」は光学的検出によって測定される。毛羽濃度は、繊維の100万リニアメーター当たりの視覚的に観察可能な不連続部(「毛羽」)の数として表される。毛羽は、製造プロセス効率を著しく低下させ、最終的な布の品質を不適切にする可能性がある。特に、100万リニアメーター当たり150毛羽閾値を超えると、横糸の品質は、製織プロセスの走行性及び効率に悪影響を及ぼし、かつ/又は布欠陥の生成を通じて布特性及び/又は品質を劣化させることが分かっている。一般に、100万リニアメーター当たり150毛羽閾値未満の毛羽レベル、例えば100万リニアメーター当たり50以下の毛羽、更に100万リニアメーター当たり5以下の毛羽などが、横糸に好ましい。縦糸の毛羽レベルは、横糸の毛羽レベル以下に維持され、好ましくは100万リニアメーター当たり5以下の毛羽以下である。
再生ポリマー材料
【0013】
リサイクルポリマー材料は、バッチ重合廃棄物から車両寿命の終わりに回収されたエアバッグモジュールまでの範囲のサプライチェーンの様々なステップを通じて供給されてもよい。更に、使用できる利用可能な再生ポリマー材料の非エアバッグ供給源が存在する。清浄な供給原料供給源(未展開対スクラップ展開エアバッグからの布など)の使用は、汚染物質の悪影響を最小限にする。再生ポリマー材料供給原料は、産業後及び消費者後の経路を介して供給することができ、従来のナイロン-6,6に対する他の代替物を含むことができる。
【0014】
異なるレベル及び品質の再生ポリマー材料を、繊維に紡糸するために、製造されたままのナイロン-6,6(未使用のポリマー)に組み込むことができる。再生ポリマー材料中の不純物としては、ほんの数例を挙げると、水分、紡糸仕上げ剤、炭素、及び初期製造/加工中に意図的に導入された添加剤を挙げることができる。不純物レベルは、再生ポリマー材料供給原料の供給源に応じて広く変動し得る。本明細書に開示される特定の範囲の水分、紡糸仕上げ剤、及び炭素は、最終製品のテナシティ、DPF、及び再生ポリマー材料の割合を調整して、糸の100万リニアメーター当たり0以上~150以下の毛羽を有する混合-未使用の再生ポリマー材料繊維を提供することによって、再生ポリマー材料及び混合-未使用の再生ポリマー材料において許容され得る。一般に、再生ポリマー材料中の強化化合物の含有量を最小限に抑えることが望ましく、例えば、再生ポリマー材料中のガラス繊維の含有量を最小限に抑えることが望ましい。
【0015】
再生ポリマーは、化学的又は機械的再生などの異なる手段によって処理することができる。適切な解重合方法が利用可能である場合、投入材料を解重合してその構成モノマーに戻す化学的再生を使用することができる。スクラップ材料が再粉砕及び再押出によって処理される機械的再生が、より一般的に使用される。このプロセスでは、汚染物質除去を改善するために、押出材料の濾過速度を制御することが重要である。更に、任意の繊維製造プロセスと同様に、汚染物質の更なる導入を回避するために押出機の清浄度を制御すること、押出プロセスにおける熱分解種の形成を制御すること(プロセス温度を制御すること、適切なプロセス剪断速度及び滞留時間を維持すること、コールドゾーンを排除することなど)を含めて、再押出プロセス自体の影響を制御することが重要である。ペレットサイズの一貫性及び水分含有量も制御されるべきである。特定の状況では、RV又は熱安定剤などの添加剤を使用して、再生ポリマー材料の特定のパラメータを最適化することができる。
繊維製造プロセス
【0016】
実施形態では、再生ポリマーの繊維製造プロセスへの導入は、最終製品の品質を改善するために最適化される。再生ポリマー材料は、一貫したポリマー特性及び品質を保証するために、未使用のポリマーと適切にブレンドされるべきである。更に、再生ポリマー材料は、追加の熱曝露ステップを回避するために、未使用のポリマーとブレンドされる場合、側流を通してポリマー再溶融プロセスに導入されてもよい。未使用のポリマーと実質的に同じ粒子形状及び粒径分布を有する再生ポリマー材料を提供することが望ましい。均一な形状及び分布は、再生ポリマー材料の最終混合-未使用の再生ポリマー組成物への均一な混合及び組み込みを促進することが分かっている。
【0017】
混合-未使用の再生ポリマー組成物の押出後、得られた糸は、延伸前に急冷(冷却)される。急冷プロセスは、可変デニールなどの最終繊維特性と毛羽形成とのバランスをとるように最適化されるべきである。一般に、より穏やかな急冷プロセス(より低い急冷空気流、遅延急冷)は、より低い毛羽形成をもたらすことが分かっている。
【0018】
最終製品の品質を改善するために、製造速度(繊維製造プロセスにおけるポリマー処理量)も最適化されるべきである。処理量は、改善された毛羽レベルを達成するために低減され得る。
【0019】
理想的には、ポリマーが再生された回数は既知であり、制御されるべきである。より多くの再生反復は、サプライチェーンの真円度を可能にし、利用される未使用材料の量を低減するので、全体的な持続可能性の観点から望ましい。しかしながら、ポリマーが再生される回数は、その増加した熱履歴によってバランスがとられなければならない。
【0020】
再生ポリマー材料含有量のパーセンテージは、最終製品の品質を改善するために変更することができる。毛羽レベルを改善するために、より低いパーセンテージの再生ポリマー材料含有量を使用することができる。再生ポリマー材料含有量の好適な範囲としては、以下が挙げられる:
1重量%以上~100重量%以下の横糸、
20重量%以上~60重量%以下の横糸、及び
30重量%以上~50重量%以下の横糸である。
【0021】
典型的には、縦糸は、横糸と等しいか又はそれより少ない単位重量当たりの再生ポリマーを含有する。
【0022】
糸のテナシティの増加は、繊維紡糸プロセス中の延伸の増加によって達成されるが、毛羽含有量の増加とのトレードオフを伴う。目的は、これら2つの特性の間のバランスを最適化することである。テナシティと増加した毛羽含有量との間のトレードオフは、繊維中の再生含有量のパーセンテージ並びに再生供給原料の品質によって影響される。
【0023】
横糸におけるテナシティの好適な範囲としては、以下が挙げられる。
65cN/tex以上~80cN/tex以下、及び
70cN/tex以上~80cN/tex以下である。
【0024】
一般に、縦糸のテナシティは、横糸のテナシティの±10%以内に保持される。
【0025】
縦糸及び横糸の両方についてのフィラメント当たりデニール(dpf)の好適な範囲としては、以下が挙げられる。
1.0dpf以上~6.0dpf以下、
1.5dpf以上~4.5dpf以下、及び
2.0dpf以上~4.0dpf以下である。
紡糸の観点及び他の産業要件の両方から、フィラメント当たりデニール(dpf)が低いことが好ましい。例えば、フィラメント当たりデニール(dpf)が低い製品は、それらの高dpf対応物よりも急速に急冷することができ、その結果、球晶成長がより少なくなり、その後の紡糸プロセス中に形成される毛羽がより少なくなる。
【0026】
開示されるエアバッグ繊維は、再生ポリマー材料ポリマーを熱分解及び鎖分岐から保護するための添加剤を含むことができる。そのような添加剤としては、ホスフィネート化合物及び金属ハロゲン化物を挙げることができる。金属ハロゲン化物は、未使用のナイロンポリマー紡糸における熱保護剤として好適である。開示されたプロセスでは、金属ハロゲン化物の増加した濃度(未使用のナイロンポリマー紡糸で通常使用されるレベルを超える)は、機械的再生に伴う追加の熱曝露に対する更なる保護を提供するのに好適である。
【0027】
開示されるエアバッグ布は、それを再生材料として識別する化学マーカーを含有する再生糸を含んでもよい。好適な化学マーカーとしては、微量着色剤、顔料又は蛍光剤、金属、ハロゲン化物、分子タグ又は他の容易に検出可能な材料が挙げられる。
【0028】
汚染物質又は他の不純物の導入は、紡糸プロセスの効率及び紡糸された再生繊維の品質に悪影響を与えるので、再生ポリマー材料供給原料の品質は、制御するのに重要である。そのような汚染物質の例としては、繊維紡糸プロセスからの紡糸仕上げ剤含有量、ウォータージェット製織からの増加した又は変動する水分含有量、及び下流処理ステップからのシリコーンコーティング、並びに製織補助として作用するための経糸前処理からのポリアクリル酸サイズ又は油及び脂肪を挙げることができる。再生ポリマー材料の特性は、繊維紡糸性能を最適化するように制御することができる。好適な変数及び値の例としては、ほんの数例を挙げると、水分含有量(例えば、ポリアミドについて1500ppm未満)、金属汚染(例えば、50ppm未満)、仕上げ剤油含有量(例えば、2重量%未満)が挙げられる。再生ポリマー材料組成物を調整する1つの方法は、繊維製造及びウォータージェット製織スクラップなどの既知の「清浄な」供給源から材料を優先的に供給することである。別の方法は、リサイクル処理前の基材材料からのシリコーンコーティングの分離、紡糸仕上げ剤及び/又は残留サイズ剤又は他の製織助剤を除去し、処理前に水分含有量を制御するための洗浄及び/又は乾燥プロセスの使用、望ましくないガス状副生成物を除去するための再溶融ステップ中のベント式押出機の使用、又はこれらの何らかの組み合わせなどの、供給原料材料の追加処理によるものである。
【0029】
別の潜在的な制御パラメータは、再生ポリマー材料の相対粘度(relative viscosity、RV)変動である。再生ポリマー材料の再ペレット化プロセス中のサイズ制御は、このステップにとって重要である。更に、未使用のポリマーペレットと混合する場合、ブレンド一貫性が改善される。ペレット消費の前にブレンドすることは、未使用材料とのブレンドであっても、多くの再生ポリマー材料ペレット内であっても、ポリマー特性の変動を低減するのを助けることもできる。バッチミキサー又はフローチャネルブレンダーを使用して、このブレンドを達成することができる。
【0030】
再生ポリマー材料供給原料の供給源に起因して、再ペレット化ポリマーは、比較未使用材料よりも高いRVを有することができる。ブレンドされた(未使用及び再生ポリマー材料)ポリマーの得られるRVを制御し、再生材料の熱履歴を更に増加させることによって引き起こされる追加の熱分解を最小限に抑えるために、再生ポリマー材料ペレットを、押出前に未使用ポリマー再溶融システムに同時供給することができる。これはまた、未使用のポリマーと比較して、再生ポリマーの着色差を制御するのに役立つ。再生ポリマー材料ペレットは、任意選択で、押出前にいくらかのRV増加が所望される場合、同時供給前に未使用のポリマーペレットに対して別個のシステムにおいて調整され得る。
【0031】
機械的再生を通して処理された供給原料は、紡糸前の再ペレット化及びポリマー押出プロセスからのポリマーの更なる熱履歴に起因して、より高いレベルの分解を有する。熱分解を最小限に抑える1つの方法は、細断された再生ポリマー材料供給原料を押出機に直接供給し、再ペレット化ステップを排除することである。更に、再生ポリマー材料を熱分解及び鎖分岐から保護するために、様々な添加剤を使用することができる。そのような添加剤としては、ホスフィネート化合物及び金属ハロゲン化物を挙げることができる。金属ハロゲン化物は、未使用のナイロンポリマー紡糸において熱保護剤として既に一般的に使用されているが、機械的再生に伴う追加の熱曝露に対する更なる保護を提供するために、増加した濃度を使用することができる。上述したように、再押出プロセス自体を制御して、汚染物質の導入及び酸化分解によって形成される炭素などの他の分解種の形成を制限することができる。供給原料の品質及び再生プロセス自体の影響の両方によって影響されるポリマー品質は、下流の繊維紡糸プロセスにおいて重要である。ポリマー品質は、例えば、許容可能なパック圧力上昇率(0.25psi/kg未満)を維持するように好適に制御される。増加したパック濾過は、繊維紡糸性能を改善する(及び毛羽形成を低減する)ために使用することができる。これらの利点は、濾過パックにわたる圧力上昇率の増加に対してバランスがとれている。
【0032】
次いで、繊維は、ある割合の再生ポリマー材料含有量を含有する溶融ポリマーのフィラメントを、高温高圧で紡糸口金を通して押出すことによって形成される。次いで、フィラメントを空気中で急冷し、潤滑剤でコーティングし、加熱したゴデットの対の間で延伸し、軽くテクスチャー加工して、凝集性繊維束を作製するのに十分な絡み合いを提供し、チューブコア上に巻き取ってボビンを形成する。
【0033】
次に、織られた布は、当該技術分野で既知の製織技法を使用して縦糸及び横糸から形成され得る。製織の機械的応力及び引張応力に起因して、縦糸ボビン及び横糸ボビンの両方における繊維毛羽含有量は、好適な布の品質及び織機効率を維持するために制御されなければならない。再生ポリマー材料の使用は、再生ポリマー材料が未使用ポリマーよりも低品質であるか、又は汚染物質を含有する場合、繊維紡糸中に生成される毛羽のレベルを増加させる可能性がある。本発明のプロセスでは、紡糸プロセスが許容可能な効率で動作できるように毛羽の生成を制御するために、いくつかの解決策が使用される。そのような解決策は、紡糸プロセスのスループットを低減すること、最終繊維製品のテナシティを低減すること、紡糸プロセスにおいて使用される再生ポリマー材料含有量のレベルを操作すること、材料がリサイクルされ得る回数を制限すること、及び/又は縦糸及び横糸ボビンにおいて異なるレベルの再生ポリマー材料を使用することを含むことができる。縦糸/ビーミングの応力のために、毛羽の制限は縦糸方向においてより限定的である。特定の繊維テナシティにおいてこれらの制限を満たす一方で、布中の全体的な再生ポリマー材料含有量を最大化するために、より高い毛羽含有量が許容されるので、より多くの再生ポリマー材料含有量を横糸繊維紡糸プロセスにおいて使用することができる。
【0034】
紡糸された繊維の最小伸びを維持することは、製織プロセス中の効率を保持し、最終布の性能を保持するために重要である。ポリマー品質が低下するにつれて、熱分解及び他の汚染物質などの要因により、紡糸された繊維の伸びも低下し始める可能性がある。この問題に対する1つの解決法は、紡糸された繊維のテナシティを65~80cN/texなどに低減し、それによって伸びを維持することである。
【0035】
ポリマーが受ける反復再生ステップの数もまた、物理的特性の損失を回避し、増加した熱及び/又は酸化分解及び汚染の影響を制御するように調節されるべきである。反復再生の効果を制御するために、2回以上再生されたポリマーを、その第1の再生処理を受けるポリマーと組み合わせて使用することができる。これら2つのタイプの再生ポリマーのバランスは、紡糸性能及び/又は所望の繊維テナシティなどの要因に応じて操作することができる。
【0036】
ここで、本発明を以下の非限定的な実施例を参照してより詳細に説明し、結果を以下の表1に示す。
【0037】
実施例及び本明細書の残りの部分において、以下の試験を用いて、与えられた結果を得る。
【0038】
毛羽レベルは、オンライン光学的検出を使用して測定される。各糸線は赤外線センサを通過する。赤外線ビームの乱れは毛羽の存在を示す。次に、検出された毛羽の数を100万メーターのリニアメーター長に正規化する。
【0039】
繊維破断強度及び破断時の伸びは、ASTM D885に従って測定される。
【0040】
デニールは、ASTM D1907に従って測定される。
【0041】
テナシティは、繊維破断強度及びデニールを用いて計算される。
【0042】
構造(ファブリックカウントとしても知られる)は、ISO 7211-2(1984)に従って測定される。
【0043】
布引張強度(N)(最大力としても知られる)及び最大力での伸び(%)は、規格ISO 13934-1(2013)に従って、以下の修正を加えて試験される。
○Instronの引張試験機に設定されている初期ゲージ(クランプ)長さは、200mmである。
○Instronのクロスヘッド速度は、200mm/分に設定される。
○布試料は、最初に、サイズ350x60mmに切断されるが、次いで、長辺の糸線を50mmの試験幅にほぐすことによってほつれさせる。
○引張試験は、斜めの十字パターンで各試験布から切断された5つの縦糸方向及び5つの横糸方向の試料で行い、布地の耳の200mm内の任意の領域を避ける。
○最大力(破断力又は破断荷重としても知られる)についての報告された結果は、ニュートン(N)で試験された5つの縦糸方向試料及び(別個の)5つの横糸方向試料の最大力結果の平均である。
○最大力での伸び(伸び率又は伸び率としても知られる)について報告される結果は、試験された5つの縦糸方向試料及び(別個の)5つの横糸方向試料の最大力での伸びの結果の平均(%)である。引裂強度は、試験規格ISO 13937-2を規定するEASC 9904 0180 3.17に従って、以下の修正を加えて測定される。
○示されるように、端縁の中点から中心まで延在するスリットを伴う、区分4.07を伴う試料IAWを切断する。
【0044】
引裂強度(引裂力としても知られる)は、ISO 13937-2(2000)に従って、以下の修正を加えて測定される。
○布地試料のサイズは、150mm×200mm(幅狭端部の中点から中心まで延在する100mmのスリットを伴う。
○引裂試験は、斜めの十字パターンで各試験布地から切断された5つの縦糸方向及び5つの横糸方向の試料で行い、布地の耳の200mm内の任意の領域を避ける。
○縦糸方向の引裂結果は、引裂が縦にわたって行われる(すなわち、縦糸糸線が引き裂かれる)試験された試料から取得され、一方、横糸方向の結果は、引裂が横にわたって行われる(すなわち、横糸糸線が引き裂かれる)試験された試料から取得される。
○試料の各脚部を半分に折り畳んで、ISO13937-2の付属文書D/D.2に従ってInstronのクランプグリップに固定される。
○試験結果の評価は、ISO13937-2の項10.2「電子デバイスを使用した計算(Calculation using electronic devices)」に従う。
○縦引裂力についての報告された結果は、ニュートン(N)での5つの縦糸方向試料の引裂力結果の平均であり、一方、横引裂力については、5つの横糸方向試料の引裂力結果の平均である。
【0045】
剛性は、ASTM D4032-08(2016)に従って、以下の修正を加えて測定される。
○プランジャストローク速度は、2000mm/分である
○剛性試験は、斜めの十字パターンで各試験布地から切断された5つの縦糸方向及び5つの横糸方向の試料で行い、布地の耳の200mm内の任意の領域を避ける。
○各200×100mm試料は、試験のために機器試験プラットフォーム上に配置される前に、狭い寸法にわたって単一に折り畳まれる○縦糸剛性についての報告された結果(ニュートンでの)は、5つの縦糸方向試験片の剛性結果の平均であり、一方、横糸剛性についての結果は、5つの横糸方向試料の平均である。
○縦糸方向剛性の結果は、最長寸法(200mm)が布地縦糸方向と平行である試験された試料から取得され、一方、横糸方向の結果は、最長寸法(200mm)が布地横糸方向と平行である試験された試料から取得される。
【0046】
エッジコム抵抗(エッジ引抜き試験としても知られる)は、ニュートン(N)で測定され、標準ASTM D6479-15(2020)に従っているが、以下の修正を加えて試験される。
○エッジの距離は5mmであり、これは、試験試料の端部(試験中に試験試料ホルダ内で機械加工された狭い突起上に位置決めされた)と「引き抜き」を実行するピンの線との間の距離であり、すなわち、これは、試験中に引き抜かれた糸線セクションの長さである。
○エッジコム抵抗試験は、斜めの十字パターンで各試験布地から切断された5つの縦糸方向及び5つの横糸方向の試料で行い、布地の耳の200mm内の任意の領域を避ける。
○縦糸方向エッジコム抵抗の結果は、長寸法が縦糸と平行である試料の試験から取得され、一方、横糸方向の結果は、長寸法が横糸と平行である試料の試験から取得される。
○縦糸エッジコム抵抗についての報告された結果は、ニュートン(N)での5つの縦糸方向試料のエッジコム抵抗結果の平均であり、一方、横糸エッジコム抗については、5つの横糸方向試料の結果の平均である。
【0047】
静的空気透過率(l/dm/分)は、試験規格ISO 9237(1995)に従っているが、以下の修正を加えて試験される。
○試験面積は100cmである。
○試験圧力(部分真空)は、500Paである。
○各個々の試験値は、エッジ漏れについて補正される。
○静的空気透過率試験は、布地内の縦糸糸線及び横糸糸線の6つの別個の領域を試験するために、布地にわたる及び布地に沿ったサンプリングパターンで試験布地上の6つの部位で行われる。
○報告された静的空気透過率の結果は、l/dm/分の単位で6つの補正された測定値の平均値である。
【0048】
動的空気透過率は、試験基準ASTM D6476-12(2021)に従って、以下の修正を加えて試験される。
○測定された圧力範囲の限度(試験器具に設定されるような)は、30~70kPaである。
○開始圧力(試験器具に設定されるような)は、100+/-5kPaのピーク圧力を達成するように調節される。
○試験ヘッド容積は、指定された開始圧力をこのヘッドで達成することができない限り400cmであり、その場合、試験下の布地に適切であることが見出されるように、他の交換可能な試験ヘッド(容積100、200、800及び1600cm)のうちの1つが使用されるべきである。
○動的空気透過率試験は、布地内の縦糸糸線及び横糸糸線の6つの別個の領域を試験するために、布地にわたる及び布地に沿ったサンプリングパターンで試験布地上の6つの部位で行われる。
○報告された動的空気透過率の結果は、mm/秒の単位で6つのDAP測定値の平均値である。
比較例1
【0049】
エアバッグは、縦糸繊維及び横糸繊維の両方において、従来の100%未使用のナイロン6,6ポリマーから作製される。繊維特性は、エアバッグ製織に使用するのに好適である。結果を以下の表1の列C1に報告する。
比較例2
【0050】
エアバッグは、縦糸繊維及び横糸繊維の両方において、100%の産業後の機械的に再生されたナイロン6,6ポリマー材料から作製される。テナシティは、許容可能な伸び及び毛羽レベルを維持するために著しく低減されるが、最終布特性(引張、引裂)は、エアバッグ用途のための所望の範囲外である。結果を以下の表1の列C2に報告する。
比較例3
【0051】
最終用途への適合性を確保するためにプロセスを最適化することなく、縦糸繊維及び横糸繊維の両方において50%の産業後の機械的にリサイクルされたナイロン6,6ポリマー材料からエアバッグを作製する。テナシティは標準的な未使用のエアバッグレベルで維持され、繊維dpfは最適化されていない。その結果、繊維の伸び及び毛羽レベルは、エアバッグ布製織に使用するのに好適ではない。結果を以下の表1の列C3に報告する。
本発明の実施例1
【0052】
エアバッグは、縦糸繊維及び横糸繊維の両方において、30%の産業後の機械的に再生されたナイロン6,6ポリマー材料から作製され、縦糸繊維及び横糸繊維の両方の残りは、未使用のナイロン6,6ポリマーである。テナシティを低下させて、許容可能な繊維伸び及び毛羽レベルを維持する。得られる布特性は、エアバッグ最終用途に好適である。結果を以下の表1の列I1に報告する。
本発明の実施例2
【0053】
エアバッグは、20%の産業後の機械的に再生されたナイロン6,6ポリマー材料を含有する縦糸繊維と、50%の産業後の機械的にリサイクルされたナイロン6,6ポリマー材料を含有する横糸繊維とから作製される。縦糸及び横糸繊維の両方の残りは、未使用ナイロン6,6ポリマーである。繊維テナシティは、最終的な布特性と許容可能な伸び及び毛羽含有量とのバランスをとるように調整される。結果を以下の表1の列I2に報告する。
【表1】
【国際調査報告】