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特表2024-541285バイモーダルまたはマルチモーダルセルロース材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】バイモーダルまたはマルチモーダルセルロース材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/36 20060101AFI20241031BHJP
   D01F 8/02 20060101ALI20241031BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B29C41/36
D01F8/02
C08J5/18 CEP
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526738
(86)(22)【出願日】2022-11-04
(85)【翻訳文提出日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 FI2022050725
(87)【国際公開番号】W WO2023079213
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】20216144
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512068592
【氏名又は名称】テクノロギアン トゥトキムスケスクス ヴェーテーテー オイ
【氏名又は名称原語表記】TEKNOLOGIAN TUTKIMUSKESKUS VTT OY
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】ピア ウィルベルグ キーリライネン
(72)【発明者】
【氏名】ジャルモ ロッポネン
(72)【発明者】
【氏名】アリ ハーリン
【テーマコード(参考)】
4F071
4F205
4L041
【Fターム(参考)】
4F071AA09
4F071AA81
4F071AC03A
4F071AE19A
4F071AF15Y
4F071AF20Y
4F071AF21
4F071AG34
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F205AA01
4F205AC05
4F205AG01
4F205GA07
4F205GB01
4F205GC06
4F205GF01
4F205GN29
4L041AA05
4L041BA02
4L041BA05
4L041CA57
4L041EE01
(57)【要約】
本発明の例示的な態様によると、異なる平均分子量分布および/または側鎖長を有するセルロース系原料の利点を組み合わせた、フィルムおよびフィラメントなどのバイモーダルおよび/またはマルチモーダルセルロース材料を製造する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイモーダルまたはマルチモーダルセルロースフィルムおよび/またはフィラメントを製造する方法であって、この方法は、少なくとも以下のステップ、すなわち、
- 少なくとも2つの異なる平均分子量または分子量分布および/または側鎖長を有する熱可塑性セルロース誘導体を混合するステップと、
- 混合した前記熱可塑性セルロース誘導体を溶媒に溶解し、溶液を形成するステップと、および
- ソルベントキャスト法により、前記溶液をフィルムまたは随意的にフィラメントにするステップと、
を備えることを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、50~200kDaの少なくとも2つの異なる平均分子量を有する前記熱可塑性セルロース誘導体を、一緒に混合することを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、C8~C16の少なくとも2つの異なる側鎖長を有する前記熱可塑性セルロース誘導体を一緒に混合することを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法において、少なくとも2つの前記熱可塑性セルロース誘導体をクロロホルムに溶解することを特徴とする、方法。
【請求項5】
少なくとも100MPaの弾性率、少なくとも6MPaの引張強度、および少なくとも40%の伸びを有することを特徴とする、バイモーダルまたはマルチモーダルセルロースフィルム。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法により製造されることを特徴とする、請求項5に記載の前記バイモーダルまたは前記マルチモーダルセルロースフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性セルロース材料の加工性および機械的性能の改善、およびそのような特性を有するバイモーダルまたはマルチモーダル熱可塑性セルロースフィルムの製造方法に関する。この場合におけるバイモーダル様態(Bimodality)またはマルチモーダル様態(multimodality)とは、セルロース溶解を介して異なる平均分子量(またはモル質量)を有するセルロース系パルプを組み合わせることに関する。
【背景技術】
【0002】
合成原料の代替を目指すセルロースフィルムに関連する、最近のおよび部分的に関連するいくつかの刊行物が存在する。例えば、特許文献1(WO2018/228744A1)は、フィルムまたはフォイルの製造に使用することができる、セルロース系ポリマーの組み合わせを含む組成物を開示する。開示されたセルロースベースの組成物は、化石原料をベースとし、包装材料または包材として使用されるフィルムまたはフォイルに取って代わる可能性がある。しかし、特許文献1に記載されているセルロース系ポリマーは、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートおよびエチルセルロースよりなる群から選択されるものであり、例えば分子量制御されたセルロースまたは、ヘミセルロースまたはリグニンのような、再生プロセスのために必要な微量成分を含むか否かにかかわらず、天然に存在するセルロース系材料ではない。
【0003】
特許文献2(WO2019/073370A1)は、酸素バリア特性に悪影響を与えることなく、多量の微細繊維化セルロース(MFC:microfibrillated cellulose)からなるフィルムの延伸性を改善するためのプロセスに関する。本開示によると、フィルムは、広範なサイズ分布を有するミクロフィブリル化セルロースを含む懸濁液から形成される。しかし、特許文献2に記載された方法は、セルロースの溶解または熱可塑性セルロースの使用には当てはまらない。
【0004】
一方、特許文献3(US2018/0371211A1)は、バイモーダルのフィブリル分布を有するセルロース系材料を製造する方法を開示する。この組成物は、成分のレオロジー特性を改変するために使用することができる。しかし、この特許文献3は、例えば溶解によるセルロースフィルムの調製方法または熱可塑性セルロース製品の調製方法に関するものではない。さらに、フィブリル分布は粒子サイズおよび形態に反映されるが、ここで意図される分子量分布は、分子サイズおよび任意のタイプのみを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/228744号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2019/073370号パンフレット
【特許文献3】米国出願公開第2018/0371211号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Willberg-Keyrilainen P., Talja R.,Asikainen S, Harlin A, Ropponen J., The effect of cellulose molar mass on the properties of palmitate ester, Carbohydrate Polymers, Vol. 151, pp 988-995, 2016, doi: 10.1016/j.carbpol.2016.06.048.
【非特許文献2】Willberg-Keyrilainen P., Vartiainen J., Harlin A, Ropponen J., The effect of side-chain length of cellulose fatty acid esters, Cellulose, 24, pp 505-517, 2017, doi: 10.1007/s10570-016-1165-x.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高分子量セルロース溶液の加工性は悪いが、セルロースフィルムの機械的特性は通常良好であることは当業者に知られている。低分子量セルロースの溶液は、溶液粘度が低いため操作は容易であるが、調製されたセルロースフィルムの機械的特性は低い。同様に、高モル質量分子は、希薄溶液中で、ある限度まで加工可能であるが、この手法には限界があり、大量の溶媒を取り扱うことになり、その後、プロセスおよびその経済性に課題が生じる。したがって、溶解セルロース溶液の良好な加工性および熱可塑性セルロース製品の良好な機械的性能の両方を兼ね備えた熱可塑性セルロースフィルム、繊維などを実現するための新規技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特許請求の範囲における独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの具体的な実施形態は、従属請求項に定義される。
【0009】
本発明の一態様によると、バイモーダルまたはマルチモーダル熱可塑性セルロースフィルムおよび/またはフィラメントを製造し、それにより少なくとも加工性および機械的性能の点で異なる熱可塑性セルロース誘導体および/または側鎖長の利点を組み合わせる方法を提供する。
【0010】
この態様および他の態様は、公知の解決策に対するその利点とともに、以下に記載し請求するように、本発明によって達成される。
【0011】
本発明の方法は、請求項1の特徴部分に記載されていることを主な特徴とする。
【0012】
そのバイモーダルまたはマルチモーダルフィルムは、請求項5の特徴部分に記載されていることを主な特徴とする。
【0013】
本発明により、かなりの利点が得られる。例えば、熱可塑性セルロース材料の加工性および機械的特性を、最終製品の要求に応じて所望の方法で改善し、純粋に制御することができる。より優れた機械的特性は、加工および最終用途の観点から有益である。このコンセプトにより、低分子量セルロースを添加することで加工に魅力的なレオロジー特性に到達し、高分子量セルロースを添加することで高い引張弾性率を維持し、高伸長で側鎖の短い材料であっても、そのような特性に到達することができる。さらに、改善された機械的特性は、セルロース誘導体(変性長鎖脂肪酸)の有用性を高め、本発明コンセプトの商業化を可能にする。
【0014】
次に、特定の実施形態を参照して、本技術をより詳細に説明する。
【0015】
本発明の技術は、低分子量セルロース誘導体および高分子量セルロース誘導体および/または異なる側鎖長を組み合わせることにより、バイモーダルまたはマルチモーダル熱可塑性セルロース誘導体の、改良および制御された加工性および機械的特性を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】バイモーダルおよびマルチモーダル分子量分布セルロース材料の、基本的な考え方を説明する概略図である。
図2】熱可塑性セルロースフィルムに関する弾性率に対するモル質量の影響を説明するチャートである。例えば、16H90_16L10の標識は、熱可塑性セルロース誘導体混合物が、側鎖長C16の高分子量熱可塑性セルロース誘導体90%および側鎖長C16の低分子量熱可塑性セルロース誘導体10%からなることを意味する。図2~7においても、同じタイプの標識を使用する。
図3】熱可塑性セルロースフィルムに関する弾性率に対する側鎖長の影響を説明するチャートである。
図4】熱可塑性セルロースフィルムに関する引張強度に対するモル質量の効果を説明するチャートである。
図5】熱可塑性セルロースフィルムに関する引張強度に対する側鎖長の効果を説明するチャートである。
図6】熱可塑性セルロースフィルムに関する伸びに対するモル質量の効果を説明するチャートである。
図7】熱可塑性セルロースフィルムに関する伸びに対する側鎖長の効果を説明するチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
熱可塑性セルロース誘導体の現在の文脈では、低分子量(Mw)セルロースは、例えば1/3(低/高)のように、高Mwセルロースよりも本質的に低いものであれば何でもよい。
【0018】
熱可塑性セルロース誘導体の現在の文脈では、高分子量(Mw)セルロースは、例えば1.5~2倍高い(高/低)ように、低Mwセルロースよりも本質的に高いものであれば何でもよい。
【0019】
置換度(DS)とは、塩基または単量体単位あたりに結合する置換基の平均数のことである。
【0020】
本発明の一実施形態によると、バイモーダルまたはマルチモーダルセルロースフィルムおよび/またはフィラメントを製造する方法であって、この方法は、少なくとも以下のステップ、すなわち、
- 少なくとも2つの異なる平均分子量または分子量分布および/または側鎖長を有する熱可塑性セルロース誘導体を混合するステップと、
- 混合した前記熱可塑性セルロース誘導体を溶媒に溶解し、溶液を形成するステップと、および
- ソルベントキャスト法により、前記溶液をフィルムまたは随意的にフィラメントにするステップと、
を備える。
【0021】
本発明の一実施形態によると、50~200kDaの少なくとも2つの異なる平均分子量を有する前記熱可塑性セルロース誘導体を一緒に混合することが好ましい。
【0022】
本発明の一実施形態によると、C8~C16の少なくとも2つの異なる側鎖長を有する前記熱可塑性セルロース誘導体を一緒に混合することが好ましい。
【0023】
本発明の可能な一実施態様によると、少なくとも2つの前記熱可塑性セルロース誘導体をクロロホルムに溶解する。
【0024】
少なくとも100MPaの弾性率、少なくとも6MPaの引張強度、および少なくとも40%の伸びを有する、バイモーダルまたはマルチモーダルセルロースフィルムも、本発明の範囲に属する。
【0025】
本明細書全体を通して、一実施形態または一実施形態への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な場所で「一実施形態において(in one embodiment)」または「或る実施形態において(in an embodiment)」という表現が現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。例えば、約(about)または実質的に/ほぼ(substantially)などの用語を用いて数値に言及する場合、正確な数値も開示する。
【0026】
本明細書で使用する場合、複数の項目、構造要素、構成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストで示すことがある。しかし、これらのリストは、リストの各メンバーが別個および固有の要素として個別に識別されているかのように解釈されるべきである。上述した実施例は、1つまたは複数の特定の用途における本発明の原理を例示するものであるが、形態、使用法、および実施の詳細において、発明能力を行使することなく、本発明の原理および概念から逸脱することなく、多数の改変を行うことができることは、当業者には明らかであろう。したがって、以下に記載する特許請求の範囲による以外は、本発明を限定することを意図していない。
【0027】
本明細書では、「備える/含む(to comprise)」および「含む(to include)」という動詞は、引用されていない特徴の存在を除外することも要求することもない開放的な限定として使用する。従属請求項に記載された特徴は、特に明示しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
最終的には既存の合成材料と競合し、それに取って代わることができるように、異なるセルロース系原料の優れた特性を組み合わせ、新規で競争力のある解決策を提供し、バイモーダルおよびマルチモーダル系をセルロース系材料に適用することは有利であり、工業的に魅力的である。
【実施例
【0029】
概念実証 - 熱可塑性セルロース試料:
【表1】
【0030】
熱可塑性セルロース試料は、ウィルベルク・ケイリレイネン(Willberg-Keyrilainen)氏ら(2016および2017)が提示したホモジニアス法を用いて調製した。出発パルプの分子量および最終生成物の置換度(DS)を変化させた。
【0031】
熱可塑性セルロース試料から、ソルベントキャスト法によりフィルムを作製した。2種類のグレードの熱可塑性セルロースをクロロホルムに溶かし、シャーレ(直径50~100mm)に流し込んだ。フィルム形成の前に、室温で溶媒を空気中で蒸発させた。
【0032】
熱可塑性セルロースフィルムの引張特性は、再生セルロースフィルムに関して、上に示したのと同様に測定した。結果を図2-7に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】