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特表2024-541301トリブロック共重合体、その製造方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】トリブロック共重合体、その製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/02 20060101AFI20241031BHJP
   C08G 63/91 20060101ALI20241031BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20241031BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241031BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08G63/02
C08G63/91
A61L27/18
A61L27/58
A61K47/34
A61K9/48
A61P29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527101
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2022080298
(87)【国際公開番号】W WO2023078808
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】21383008.6
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524169238
【氏名又は名称】アーティフィシャル、ネイチャー、ソシエダッド、リミターダ
【氏名又は名称原語表記】ARTIFICIAL NATURE S.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】アルフレド、マルティネス、クティージャス
(72)【発明者】
【氏名】セジン、オ
(72)【発明者】
【氏名】アンチョン、マルティネス、デ、イラルドゥヤ
(72)【発明者】
【氏名】シャビエル、マリン、ロドリゲス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4J029
【Fターム(参考)】
4C076AA58
4C076AA64
4C076FF67
4C081AB00
4C081BA16
4C081CA171
4C081CC02
4J029AA07
4J029AB01
4J029AB04
4J029AB07
4J029AC03
4J029AD01
4J029AD10
4J029AE06
4J029AE18
4J029BA05
4J029EG10
4J029EH01
4J029GA82
4J029HA01
4J029HE01
4J029JB171
4J029JE161
4J029JF371
4J029KA03
4J029KB02
4J029KB03
4J029KB16
4J029KD02
4J029KE03
4J029KE08
4J029KE09
4J029KE15
4J029KH01
4J029KH05
4J029KH06
(57)【要約】
本発明は、「ポリ乳酸(PLA)-X-ポリ乳酸(PLA)」の構造を含むトリブロック共重合体に関するものであり、ここで、Xは不飽和ポリマクロラクトン(PML)であるか、またはPMLとポリエステルとを含む共重合体である。本発明はさらに、前記トリブロック共重合体を得るための方法およびその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造(I):
ポリ乳酸(PLA)-X-ポリ乳酸(PLA) (I)
[式中、
Xは、不飽和ポリマクロラクトン(PML)であるか、またはPMLとポリエステルとを含む共重合体である。]
を含むトリブロック共重合体。
【請求項2】
以下の構造(I):
ポリ乳酸(PLA)-X-ポリ乳酸(PLA) (I)
[式中、
Xは、不飽和ポリマクロラクトン(PML)であるか、またはPMLとポリエステルとを含む共重合体である。]
からなる、請求項1に記載のトリブロック共重合体。
【請求項3】
前記PMLが、ポリグロバリド(PGL)、ポリ(アンブレットリド)(PAmb)、ポリ(6-ω-ヘキサデセンラクトン)(P6HDL)およびそれらの組み合わせから選択される、請求項1または2に記載のトリブロック共重合体。
【請求項4】
前記ポリエステルが、ポリペンタデカラクトン(PPDL)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(パラジオキサノン)およびそれらの組み合わせから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のトリブロック共重合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の、以下の構造(I):
ポリ乳酸(PLA)-X-ポリ乳酸(PLA) (I)
[式中、
Xは、不飽和ポリマクロラクトン(PML)であるか、またはPMLとポリエステルとを含む共重合体である。]
を含むトリブロック共重合体を製造する方法であって、
(a)ジオールを開始剤として使用して、対応する不飽和マクロラクトン(ML)の開環重合(ROP)により不飽和ポリマクロラクトン(PML)を調製する工程;
ここで、XがPMLとポリエステルとを含む共重合体である場合、前記工程(a)の後、かつ次の工程(c)の前に、以下の工程:
(b-i)ポリエステルが環状エステルモノマーに由来する場合、前記工程(a)で得られた不飽和PMLをマクロ開始剤として使用して、環状エステルモノマーの開環重合(ROP)によりPMLとポリエステルとを含む共重合体を調製する工程;または、
(b-ii)ポリエステルが非環状エステルモノマーに由来する場合、前記工程(a)で得られた不飽和PMLをコモノマーとして使用して、非環状エステルモノマーの重縮合によりPMLとポリエステルとを含む共重合体を調製する工程;
からなる追加の工程(b)が存在し、
(c)前記工程(a)で得られた不飽和ポリマクロラクトンまたは前記工程(b)で得られた共重合体をマクロ開始剤として使用し、スズ(II)2-エチルヘキサノエートを触媒として、開環重合(ROP)によりラクチドを重合する工程、
を含む、トリブロック共重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の、以下の構造(I):
ポリ乳酸(PLA)-X-ポリ乳酸(PLA) (I)
[式中、
Xは、PMLとポリエステルとを含む共重合体である。]
を有するトリブロック共重合体を得る方法であって、
(1a)ジオールを開始剤として使用して、対応する不飽和マクロラクトン(ML)と環状エステルとの開環重合(ROP)によりPMLとポリエステルとの共重合体を調製する工程;または、
(1b)コモノマーが環状エステルでない場合は、対応するMLとジオールとジカルボン酸または誘導体との重縮合によりPMLとポリエステルとの共重合体を調製する工程;
(2)前記工程(1a)または(1b)で得られた不飽和ポリマクロラクトンをマクロ開始剤として使用して、スズ(II)2-エチルヘキサノエートを触媒として、開環重合(ROP)によりラクチドを重合する工程、
を含む、方法。
【請求項7】
-トリブロック共重合体が末端官能化されている場合、トリブロック共重合体のヒドロキシル(-OH)末端基をカルボジイミド化学によってカルボキシル(-COOH)基またはアミン(-NH)基と反応させる工程;または、
-トリブロック共重合体がグラフト化されている場合、PMLブロックの二重結合をチオール含有分子とチオール-エン「クリック」化学反応によって反応させる工程;または、
-トリブロック共重合体が架橋されている場合、PMLブロックの二重結合をそれ同士で、またはその他の架橋分子と反応させる工程、
をさらに含む、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記PMLが、ポリグロバリド(PGL)、ポリ(アンブレットリド)(PAmb)、ポリ(6-ω-ヘキサデセンラクトン)(P6HDL)およびそれらの組み合わせから選択される、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリエステルが、ポリペンタデカラクトン(PPDL)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(パラジオキサノン)およびそれらの組み合わせから選択される、請求項5~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ラクチドが、L-ラクチドまたはL-ラクチドとD-ラクチドとの混合物である、請求項5の工程(c)または請求項6の工程(2)または請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程が、触媒を用いて行われる、請求項5の工程(a)または請求項6の工程(1a)もしくは(1b)または請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程が、120~190℃の不活性雰囲気下においてバルクで行われる、請求項5の工程(c)または請求項6の工程(2)または請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記スズ(II)2-エチルヘキサノエートの濃度が0.025~0.10重量%である、請求項5~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
各重合の終了時に、未反応モノマーが除去され、触媒が除去または不活性化される、請求項5~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか一項に記載のトリブロック共重合体の使用であって、
a)組織再生用医療機器、
b)薬物送達システム用医療機器、
c)ラボオンチップおよび臓器チップデバイス、
d)健康およびスマート農業用途のハイドロゲル、
e)センサー、バイオセンサーおよび電極、
f)電子機器、
g)包装フィルムおよびトレイ、
h)繊維および合成皮革、
i)コーティングおよび表面保護溶液、または、
j)マスターバッチまたはブレンド相溶性化用の添加剤
の作製のための、前記トリブロック共重合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマーの技術に関する。特に、本発明は、トリブロック共重合体、特に、官能性ポリマクロラクトン(PML)が中間ブロックに位置し、ポリ乳酸が外側ブロックに位置するトリブロック共重合体、その製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸(PLA)は、バイオベースの、生体適合性かつ生分解性のポリエステルであり、包装、農業または医療など、さまざまな用途に対する優れた特性を有する有望なポリマーである。しかしながら、これらの分野に実際に影響を与えるためには、改善しなければならない欠点もある。第一に、PLAには官能基がなく、特に生物医学や電子工学などの先進分野での応用がかなり制限される。例えば、官能基は生物活性分子や薬剤と結合し、薬剤送達システムとして使用される。別の例としては、生分解率を高める親水性分子の組み込みが挙げられる。したがって、官能部位を追加すると、PLAの性能が大幅に向上し、その適用範囲が拡大する。第二に、機械的特性に関して言えば、PLAは硬くて脆い材料である。つまり、中程度の力には耐えられるが、破損する前にほとんど変形しない(10%未満)。これらは優れた特性であるが、用途によっては、破損する前に、材料が塑性変形したり柔軟な挙動を示したりすることが要求される場合がある。例えば、生物医学の一時的なインプラントの設計には、体内で小さな破片に崩壊する可能性のある脆い材料ではなく、強靭で変形可能な材料が必要とされる。
【0003】
したがって、官能性部位を付与し機械的特性を改善することは、先進的なPLAの研究開発において不可欠な課題となっている。実際、文献においてPLAの特性を変更するための複数の解決策が提案されている。
【0004】
PLAに新しい官能基を付与するためのいくつかの戦略が提案された。一般に、これらの戦略は、開始剤としての官能性コモノマーの使用、または官能性分子とPLA末端鎖基との反応に基づいている。前者のアプローチでは、前述のように、目的とする特性を持つ官能性モノマーまたは開始剤の使用が必要となる。例えば、分解速度が向上したPLAの親水性スキャフォールドを得るために、ラクチド重合の開始剤としてPEGが使用されている(Zhu, X.; Zhong, T.; Huang, R.; Wan, A. Preparation of Hydrophilic Poly(Lactic Acid) Tissue Engineering Scaffold via (PLA)-(PLA-b-PEG)-(PEG) Solution Casting and Thermal-Induced Surface Structural Transformation. J. Biomater. Sci. Polym. Ed. 2015, 26, 1286-1296.)。その他の戦略としては、親水性分子または生物活性分子のPLAへのグラフト化があり、多くの場合、末端鎖基により表面にグラフト化される。例えば、PLAは、親水性と生物医学的性能を向上させるために、アミン末端構造(anorkar, A. V.; Fritz, E.W.; Burg, K.J.L.; Metters, A.T.; Hirt, D.E. Grafting Amine-Terminated Branched Architectures from Poly(L-Lactide) Film Surfaces for Improved Cell Attachment. J. Biomed. Mater. Res. - Part B Appl. Biomater. 2007, 81, 142-152.)または骨誘導成長因子(Edlund, U.; Danmark, S.; Albertsson, A.C. A Strategy for the Covalent Functionalization of Resorbable Polymers with Heparin and Osteoinductive Growth Factor. Biomacromolecules 2008, 9, 901-905.)とグラフト化されてきた。
【0005】
同様に、PLAの機械的特性の変更についても、すでに対処されている。よく知られている戦略は、熱可塑性エラストマー(TPE)の合成であり、これは、典型的にはトリブロック構造を持つ。この解決策は、分離されたブロックミクロ相によって誘発される物理的な架橋により、軟質ポリマーのゴムのような挙動、ハードセグメントの機械的強度、および熱可塑性プラスチックの容易な加工性を組み合わせるものである。文献には、より柔らかく柔軟性の高いポリエステルと共重合したPLAの例がいくつかある。例としては、ポリブチレンサクシネート(PBS)(Jia, L.; Yin, L.; Li, Y.; Li, Q.; Yang, J.; Yu, J.; Shi, T.; Fang, Q.; Cao, A. New Enantiomeric Polylactide-Block-Poly(Butylene Succinate)-Block- Polylactides: Syntheses, Characterization and in Situ Self-Assembly. Macromol. Biosci. 2005, 5, 526-538.)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)(Ding, Y.; Lu, B.; Wang, P.; Wang, G.; Ji, J. PLA-PBAT-PLA Tri-Block Copolymers: Effective Compatibilizers for Promotion of the Mechanical and Rheological Properties of PLA / PBAT Blends. Polym. Degrad. Stab. 2018, 147, 41-48.)、ラクトン、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)(Maglio, G.; Migliozzi, A.; Palumbo, R. Thermal Properties of Di- and Triblock Copolymers of Poly(l-Lactide) with Poly(Oxyethylene) or Poly(ε-Caprolactone). Polymer (Guildf). 2002, 44, 369-375.)、ポリ(δ-バレロラクトン)(Jing, Z.; Shi, X.; Zhang, G. Synthesis and Properties of Biodegradable Supramolecular Polymers Based on Polylactide- Block-Poly(δ-Valerolactone)-Block-Polylactide Triblock Copolymers. Polym. Int. 2017, 66, 1487-1497.)またはポリ(ε-デカラクトン)(Olsen, P.; Borke, T.; Odelius, K.; Albertsson, A.-C. ε-Decalactone: A Thermoresilient and Toughening Comonomer to Poly(l-Lactide). Biomacromolecules 2013, 14, 2883-2890.)が挙げられる。しかしながら、これらの解決策の多くは、飽和した長い骨格を持つ高結晶性ポリマーを含んでおり、ポリマーの生分解が困難となる可能性がある。さらに、PLAもこれらの共重合体も、末端鎖に2つを超える官能基を持たない。これは、さらなる変更が必要な場合に大きな制限となる。例えば、最終用途によっては、分解速度を上げたり、新しい機能性分子(生物活性、導電性、バリア性など)を追加したりすることが必要になる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のことから、本発明が解決しようとする課題は、トリブロック共重合体の形態であって、複数の官能基化部位を有するバイオベースで生体適合性の合成ポリマーを提供することであり、これにより、調整可能な生分解挙動および機械的特性を有するポリマーを調製することができる。幅広い官能基化により、ポリマーを、生物医学、包装、電子工学、農業などの多くの分野に適用できる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは驚くべきことに、これまでの欠点を克服するトリブロック共重合体を発見した。このトリブロック共重合体は、バイオベースで生分解性のセグメントA(PLLAまたはPDLLA)とバイオベースで生分解性の不飽和ソフトセグメントB(PML)のABA構造を有する。驚くべきことに、ラクチド開環重合(ROP)において不飽和PMLをマクロ開始剤として使用することにより、PLAの官能基化と調整可能な機械的特性を持つTPEの合成を、単一の戦略で組み合わせることの相乗効果が達成された。さらに、本発明のトリブロック共重合体を得るための合成経路と製造方法は、費用効果が高く、工業的規模に容易に移行可能である。
【0008】
第1の態様において、本発明は、以下の構造(I):
ポリ乳酸(PLA)-X-ポリ乳酸(PLA) (I)
[式中、
Xは、不飽和ポリマクロラクトン(PML)であるか、またはPMLとポリエステルとを含む共重合体である。]
を含む、または、からなるトリブロック共重合体に関する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるトリブロック共重合体を得るための方法に関する。
【0010】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によるトリブロック共重合体の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、グロバリドと6-ω-ヘキサデセンラクトンのバルクe-ROPによって得られたPMLの反応スキームを示す。
図2図2は、PMLをマクロ開始剤として使用したバルクROPによるPLA-PML-PLAトリブロック共重合体の反応スキームを示す。
図3図3は、PLLA174-PGL63-PLLA174トリブロック共重合体のH NMRスペクトルとピークの同定を示す。
図4図4は、PLLA174-PGL63-PLLA174トリブロック共重合体の13C NMRスペクトルとカルボニル領域の詳細を示す。
図5図5は、引張荷重下でのPLLA(濃い線)とPDLLA104-PGL106-PLLA104(薄い線)の応力-歪み曲線を示す。
図6図6は、PLLA、PGLおよびトリブロック共重合体の、10℃/分におけるDSCの冷却(a)および加熱(b)トレースを示す。
図7図7は、COOH-PEG24-COOHとの官能基化前(薄い線)と官能基化後(濃い線)の、PDLLA139-PGL85-PDLLA139H NMRスペクトルの比較を示す。
図8図8は、多孔質PDLLA139-PGL85-PDLLA139およびCOOH-PEG24-PDLLA139-PGL85-PDLLA139-PEG24-COOHスキャフォールドの、粗表面における静置水滴の変化を示す。
図9図9は、引張荷重下でのPDLLA139-PGL85-PDLLA139(薄い線)とCOOH-PEG24-PDLLA139-PGL85-PDLLA139-PEG24-COOH(濃い線)の応力-歪み曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の態様において、本発明は、以下の構造(I):
ポリ乳酸(PLA)-X-ポリ乳酸(PLA) (I)
[式中、
Xは、不飽和ポリマクロラクトン(PML)であるか、またはPMLとポリエステルとを含む共重合体である。]
を含むトリブロック共重合体に関する。
【0013】
特定の実施形態において、本発明は、以下の構造(I):
ポリ乳酸(PLA)-X-ポリ乳酸(PLA) (I)
[式中、
Xは、不飽和ポリマクロラクトン(PML)であるか、またはPMLとポリエステルとを含む共重合体である。]
からなるトリブロック共重合体に関する。
【0014】
本開示および特許請求の範囲において、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「含有する(containing)」および「有する(having)」などの用語は、オープンエンドの用語であり、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」などを意味し得る。一方、「からなる(consisting of)」または「からなる(consists of)」などの用語は、これらの用語の後に言及される要素を指し、言及されていないその他の用語は除外される。
【0015】
別途説明がない限り、ここで使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を持つ。単数形の用語「a」、「an」、「the」は、文脈上明らかにそうでないことが示されていない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「不飽和ポリマクロラクトン(an unsaturated polymacrolactone)」または「PML(the PML)」には、1つの不飽和ポリマクロラクトンのオプションと、2つ以上の同一または異なる不飽和ポリマクロラクトンのオプションが含まれる。同様に、「コポリマー(a copolymer)」には、1つのコポリマーのオプションと、2つ以上の同一または異なるコポリマーのオプションが含まれ、このコポリマーには、1つまたは2つ以上の同一または異なるPMLと、1つまたは2つ以上の同一または異なるポリエステルが含まれる。したがって、構造(I)では、PMLとして作用する異なるPML分子の組み合わせ、およびポリエステルとして作用する異なるポリエステル分子の組み合わせを有するオプションがある。同様に、「または(or)」という単語は、文脈上明らかにそうでないことが示されていない限り、「および(and)」を含むことが意図される。
【0016】
第1の態様の好ましい実施形態において、PMLは、ポリグロバリド(PGL)、ポリ(アンブレットリド)(PAmb)、ポリ(6-ω-ヘキサデセンラクトン)(P6HDL)、およびそれらの組み合わせから選択される。第2の態様の別の好ましい実施形態において、PMLは、ポリグロバリド(PGL)、ポリ(アンブレットリド)(PAmb)およびポリ(6-ω-ヘキサデセンラクトン)(P6HDL)のいずれかの組み合わせである。
【0017】
第1の態様の別の好ましい実施形態において、ポリエステルは、ポリペンタデカラクトン(PPDL)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGA)およびポリ(パラジオキサノン)から選択される。第1の態様の別の好ましい実施形態において、ポリエステルは、ポリペンタデカラクトン(PPDL)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGA)およびポリ(パラジオキサノン)のいずれかの組み合わせである。
【0018】
別の好ましい実施形態において、構造(I)中の「X」は、PMLとポリエステルとからなる共重合体である。
【0019】
第1の態様の別の好ましい実施形態において、トリブロック共重合体は、ヒドロキシル(-OH)、カルボキシル(-COOH)またはアミン(-NH)部分を含む分子と、PML二重結合を介して末端官能基化またはグラフト化される。
【0020】
第1の態様の別の好ましい実施形態において、トリブロック共重合体は、PML二重結合の自己架橋反応によって、またはPML二重結合とその他の架橋分子、例えば、チオール、アミン、マレイミド、ビニルスルホンまたはアクリレートとの架橋反応によって架橋される。
【0021】
第2の態様において、本発明は、第1の態様によって定義される、すなわち、以下の構造(I):
ポリ乳酸(PLA)-X-ポリ乳酸(PLA) (I)
[式中、
Xは、不飽和ポリマクロラクトン(PML)であるか、またはPMLとポリエステルとを含む共重合体である。]
を有するトリブロック共重合体を得るためのプロセスに関し、以下の工程:
(a)ジオールを開始剤として使用して、対応する不飽和マクロラクトン(ML)の開環重合(ROP)により不飽和ポリマクロラクトン(PML)を調製する工程;
ここで、XがPMLとポリエステルとを含む共重合体である場合、工程(a)の後、かつ次の工程(c)の前に、以下の工程:
(b-i)ポリエステルが環状エステルモノマーに由来する場合、工程(a)で得られた不飽和PMLをマクロ開始剤として使用して、環状エステルモノマーの開環重合(ROP)によりPMLとポリエステルとを含む共重合体を調製する工程;または、
(b-ii)ポリエステルが非環状エステルモノマーに由来する場合、工程(a)で得られた不飽和PMLをコモノマーとして使用して、非環状エステルモノマーの重縮合によりPMLとポリエステルとを含む共重合体を調製する工程;
からなる追加の工程(b)が存在し、
(c)工程(a)で得られた不飽和ポリマクロラクトンまたは工程(b)で得られた共重合体をマクロ開始剤として使用し、スズ(II)2-エチルヘキサノエートを触媒として、開環重合(ROP)によりラクチドを重合する工程
を含む。
【0022】
別の実施形態において、式(I)中のXが共重合体である場合、第1の態様によって定義される、すなわち、以下の構造(I)を有するトリブロック共重合体を得るためのプロセスは、以下の工程:
(1a)ジオールを開始剤として使用して、対応する不飽和マクロラクトン(ML)と環状エステルとの開環重合(ROP)によりPMLとポリエステルとの共重合体を調製する工程;または、
(1b)コモノマーが環状エステルでない場合は、対応するMLとジオールとジカルボン酸または誘導体との重縮合によりPMLとポリエステルとの共重合体を調製する工程;
(2)工程(1a)または(1b)で得られた不飽和ポリマクロラクトンをマクロ開始剤として使用して、スズ(II)2-エチルヘキサノエートを触媒として、開環重合(ROP)によりラクチドを重合する工程
を含む。
【0023】
さらなる実施形態において、ラクチドの重合工程(すなわち、プロセスの実施形態に応じて工程(c)または工程(2))の後に、以下の工程:
-トリブロック共重合体が末端官能化されている場合、トリブロック共重合体のヒドロキシル(-OH)末端基をカルボジイミド化学によってカルボキシル(-COOH)基またはアミン(-NH)基と反応させる工程;または、
-トリブロック共重合体がグラフト化されている場合、PMLブロックの二重結合をチオール含有分子とチオール-エン「クリック」化学反応によって反応させる工程;または、
-トリブロック共重合体が架橋されている場合、PMLブロックの二重結合をそれ同士で、またはその他の架橋分子、例えば、チオール、アミン、マレイミド、ビニルスルホンまたはアクリレートと反応させる工程
を含む追加の工程が存在する。
【0024】
第2の態様の好ましい実施形態において、PMLは、ポリグロバリド(PGL)、ポリ(アンブレットリド)(PAmb)およびポリ(6-ω-ヘキサデセンラクトン)(P6HDL)から選択される。第2の態様の別の好ましい実施形態において、PMLは、ポリグロバリド(PGL)、ポリ(アンブレットリド)(PAmb)およびポリ(6-ω-ヘキサデセンラクトン)(P6HDL)のいずれかの組み合わせである。
【0025】
第2の態様の別の好ましい実施形態において、ポリエステルは、ポリペンタデカラクトン(PPDL)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGA)およびポリ(パラジオキサノン)から選択される。第2の態様の別の好ましい実施形態において、ポリエステルは、ポリペンタデカラクトン(PPDL)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコール酸(PGA)およびポリ(パラジオキサノン)のいずれかの組み合わせである。
【0026】
別の好ましい実施形態において、工程(c)または工程(2)で使用されるラクチドは、L-ラクチドまたはL-ラクチドとD-ラクチドとの混合物である。
【0027】
別の好ましい実施形態において、工程(a)または工程(1a)もしくは(1b)は、不活性雰囲気下においてバルクで行われる。
【0028】
別の好ましい実施形態において、工程(a)または工程(1a)もしくは(1b)は、触媒を用いて行われる。さらに好ましい実施形態において、前記触媒はカンジダ アンタルクティカ リパーゼB(Candida Antarctica Lipase B)(CALB)酵素である。
【0029】
別の好ましい実施形態において、工程(b-i)または(b-ii)は、不活性雰囲気下においてバルクで行われる。
【0030】
別の好ましい実施形態において、工程(b-i)または(b-ii)は、触媒を用いて行われる。さらに好ましい実施形態において、前記触媒はカンジダ アンタルクティカ リパーゼB(CALB)酵素である。
【0031】
別の好ましい実施形態において、工程(c)または工程(2)は、120~190℃の不活性雰囲気下においてバルクで行われる。
【0032】
別の好ましい実施形態において、スズ(II)2-エチルヘキサノエートの濃度は、0.025~0.10重量%である。
【0033】
別の好ましい実施形態において、マクロ開始剤PMLまたはPMLとポリエステルとからなる共重合体の濃度は、10~50モル%である。
【0034】
別の好ましい実施形態において、各重合の終了時に、未反応モノマーが除去され、触媒が除去または不活性化される。このような除去または不活性化を実施するにはいくつかの方法がある。さらに好ましい実施形態において、前記除去は、反応混合物を溶媒(例えば、クロロホルム)に溶解し、冷メタノール中で沈殿させることによって実施される。しかしながら、反応物質を大量に使用する場合(例えば、1kg)、前記除去/不活性化は、溶媒を使用せず真空下で実施することができる。
【0035】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様によって定義されるトリブロック共重合体の、a)組織再生用医療機器、b)薬物送達システム用医療機器、c)ラボオンチップおよび臓器チップデバイス、d)健康およびスマート農業用途のハイドロゲル、e)センサー、バイオセンサーおよび電極、f)電子機器、g)包装フィルムおよびトレイ、h)繊維および合成皮革、i)コーティングおよび表面保護溶液、または、j)マスターバッチまたはブレンド相溶化用の添加剤の調製における使用に関する。
【0036】
ブロック共重合体、特にジブロックおよびトリブロック構造を有するものは、非混和性ポリマーブレンドの相溶化剤として頻繁に使用される。ポリマーブレンドの非混和性は、成分間の高い界面張力によって生じ、不十分な界面接着性は相分離に繋がり、分離された成分と比較して物理化学的特性が劣る。ブロック共重合体は、分離した相の界面に配置することで界面張力を低減し、界面接着性を向上させることができるため、非混和性ブレンドの相溶化において重要な役割を果たす。コポリマーの各ブロックは、むしろ分離された相の1つに集中しており、それらの間の物理的な結合として機能する。その結果、相溶化されたブレンドは特性が向上する。
【0037】
さらに、この官能性のトリブロック共重合体は、組織再生のスキャフォールドや薬物送達システムを作製するための生物医学分野に向けられる可能性がある。各ブロックの長さ、組成および分子量を制御することで、短期または長期の医療機器の作製が可能になる。さらに、末端基またはPMLの二重結合によるトリブロック共重合体の官能基化により、PEGなどの親水性で非汚染性の分子の追加が可能になる。これらのPEG含有トリブロック共重合体の両親媒性構造は薬剤のカプセル化を容易にし、PEGの非汚染性はインプラント型医療機器における体の炎症反応を軽減する。さらに、PMLブロックの不飽和性により、薬剤やその他の生物活性分子をトリブロック共重合体に共有結合させることも可能である。
【0038】
さらに、PLAは包装業界用のバイオベースのソリューションとして広く研究されてきた。しかし、ニート(neat)なPLAは、PETやPEなどの現在の標準ポリマーと競合できるほどの特性を備えていない。機械的特性、バリア特性および透明性が、主な制約となる。本発明で提案されるトリブロック共重合体は、優れたバリア特性を有する柔軟な材料を得ることを可能にする一方で、ポリマーの結晶性を低下させるためのPML二重結合の官能基化によって、透明性も達成することができる。
【0039】
前述のように、提案されたトリブロック共重合体は、調整可能な機械的および物理的特性を備えているだけでなく、生体適合性でもある。したがって、電子産業や繊維産業で従来使用されているその他のポリマー基板に対して競争上の優位性を提供する。例えば、ブロック長比(A/B)を調整することで、本発明のトリブロック共重合体は、電子機器に使用されるための柔軟性の要件を満たし、この柔軟性は、バイオベースの生体適合性ポリマーに関しては未解決の要求事項である。これにより、家庭用電子機器の基板として、またはセンサーやバイオセンサー開発用の基板として使用可能である。実際、PLAは臓器チップなどのマイクロ流体デバイスにおいて高度な特性を提供し(Ongaro, A.E.; Di Giuseppe, D.; Kermanizadeh, A.; Miguelez Crespo, A.; Mencattini, A.; Ghibelli, L.; Mancini, V.; Wlodarczyk, K.L.; Hand, D.P.; Martinelli, E.; et al. Polylactic Is a Sustainable, Low Absorption, Low Autofluorescence Alternative to Other Plastics for Microfluidic and Organ-on-Chip Applications. Anal. Chem. 2020, 92, 6693-6701.)、PDMSの特性を向上させることが示されている。
【0040】
本発明のトリブロック共重合体の特性は、繊維分野など、繊維が必要とされる分野にも適合する。さらに、本発明のトリブロック共重合体は複数の官能基化部位を有するため、スポーツウェアや、あらゆる生物、人間、動物または植物に関連するその他の技術的用途(スマートアグロ)など、付加価値の高い製品を提供することが可能である。
【0041】
本発明の第1または第2の態様による製品または製造方法に関して本明細書に開示された実施形態はいずれも、文脈上そうでないことが示されていない限り、単独で使用することも、本明細書に開示されたその他の実施形態と組み合わせて使用することも可能であることに留意されたい。
【0042】
以下にいくつかの実施例を示すが、これらは本発明を説明することを意図しており、添付の特許請求の範囲によって確立される本発明の範囲を決して制限するものではない。
【実施例
【0043】
[一般的な合成手順]
トリブロック共重合体を2つの工程で合成した。まず、1,4-ブタンジオールを開始剤として使用し、マクロラクトン(ML)をバルクで酵素開環重合(e-ROP)することによってPMLを得た。次に、第2工程では、スズ(II)2-エチルヘキサノエートを触媒とするバルクでのラクチドのROPのマクロ開始剤として、PMLを使用した。あるいは、PMLとポリエステルとのランダムまたはブロック共重合体は、ROPまたは重縮合法によって、単一または連続重合でそれぞれ製造することもできる。さらに、トリブロック共重合体は、ヒドロキシル(-OH)、カルボキシル(-COOH)またはアミン(-NH)部分で官能基化され得る。官能基化は、カルボジイミド化学を用いて末端基に、またはチオール-エン「クリック」化学反応によってPMLブロックの二重結合に実施することができる。
【0044】
[ポリマクロラクトン]
グロバリド(GL)や6-ω-ヘキサデセンラクトン(6HDL)などの不飽和MLから、10~25kg/molの分子量(Mn)を有するPMLが得られた。図1は両方のPMLを得るための合成経路である。e-ROPは不活性雰囲気下においてバルクで実施した。触媒はカンジダ アンタルクティカ リパーゼB(CALB)酵素であり、開始剤は1,4-ブタンジオールであった。酵素量はすべての実験において5重量%で一定としたが、開始剤量は目的とするMnに応じて変更した。あるいは、PMLとポリエステルとを含むランダム共重合体は、ROPまたは重縮合によって単一の工程で調製することも可能である。
【0045】
[PLA-PML-PLAトリブロック共重合体]
一連のトリブロック共重合体を、図2に示す単一の反応経路に従って合成した。PGLまたはP6HDLのいずれかをマクロ開始剤として使用し、L-ラクチドまたはラセミ混合物(L-ラクチド+D-ラクチド)をコモノマーとして使用した。ラクチドのROPは、触媒として0.05重量%のスズ(II)2-エチルヘキサノエートを用いて、不活性雰囲気下、180℃においてバルクで行った。さらに、PMLとラクチドの組成を変化させることで、幅広い特性を備えるさまざまなポリマーが得られた。あるいは、マクロ開始剤は、PGLまたはP6HDLのいずれかとポリエステルとからなるランダムまたはブロック共重合体であってもよい。ランダム共重合体のマクロ開始剤は、GLまたは6HDLと環状エステルのROPによって調製するか、GLまたは6HDL、ジオールおよびジカルボン酸誘導体の重縮合によって調製することができる。一方、ブロック共重合体のマクロ開始剤は、マクロ開始剤としてPGLまたはP6HDLを使用した環状エステルのROP、またはコモノマーとしてPGLまたはP6HDLを使用したカルボン酸誘導体の重縮合によって調製することができる。さらに、トリブロック共重合体は、カルボジイミド化学を用いた末端基によって、またはチオール-エン「クリック」化学反応を用いた二重結合によって官能基化され得る。官能基化には、PEGやペプチドなどの親水性分子または生物活性分子の使用を含んでいても良い。
【0046】
[精製]
各重合の終了時に、反応混合物をクロロホルムに溶解し、冷メタノールで沈殿させて未反応モノマーと触媒を除去した。次に、沈殿物を濾過し、新たな溶媒で繰り返し洗浄し、真空下で48時間乾燥させた。
【0047】
以下に、L-ラクチド、D,L-ラクチド、グロバリドおよび6-ω-ヘキサデセンラクトンを含む非限定的な合成例を3つ記載する。
【0048】
実施例1(PLLA104-PGL106-PLLA104トリブロック共重合体の調製)
共重合体を2つの工程で調製した。まず、シュレンク管内で、80℃におけるバルクの酵素開環重合(e-ROP)により、ポリグロバリド(PGL)を合成した。磁気撹拌機を備えたチューブにNガスを流して不活性雰囲気とした。反応器を80℃に加熱し、5w/w%のカンジダ アンタルクティカ リパーゼB(CALB)酵素と0.95mol%の1,4-ブタンジオールを添加した。チューブをセプタムで閉じ、Nガスを止めた後、モノマーのグロバリド(2g)を注入して重合を開始した。総反応時間は5時間であった。その後、反応生成物をクロロホルムに溶解し、濾過して酵素を除去した。次いで、濾過物を過剰のメタノールで沈殿させ、新たな溶媒で繰り返し洗浄した。最後に、室温で48時間真空乾燥させた。得られたPGLの分子量は、H NMRで測定して24.6kg/molに達した。DSC調査の結果、融点は48℃、結晶化温度は32℃であった。
【0049】
次に、PGLをラクチドROPのマクロ開始剤として使用した。機械式攪拌機を備えた50mLの三口反応器を80℃に加熱し、20mbarで15分間真空引きした。次に、不活性雰囲気を維持するためにNガスで補助し、PGL(2.5g)とL-ラクチド(1.5g)を反応器に供給した。50mbarの真空を再度15分間適用した。圧力を1barに戻し、180℃に昇温した。その温度で、ラクチドに対して0.05w/w%のオクタン酸スズを添加して共重合を開始した。総反応時間は2時間であった。得られたポリマーをクロロホルムに溶解し、過剰のメタノールで沈殿させた。沈殿した共重合体を真空下で48時間乾燥させた。トリブロックの形成を、H NMRによって確認した。GPCで測定したところ、数平均分子量(Mn)は34.2kg/mol、重量平均分子量(Mw)は66.5kg/molであった。DSCで、共重合体は46.0℃(PGLブロック)と159.8℃(PLLAブロック)の2つの融解ピークを示した。PGLブロックは27.4℃と-7.2℃で結晶化したが、PLLAブロックは融解状態から結晶化できなかった。共重合体は引張試験で弾性挙動を示し、破断伸びは250%に達し、弾性率は158MPa、最大引張強度は4.58MPaであった。
【0050】
実施例2(PDLLA139-PGL85-PLLA139トリブロック共重合体の調製)
共重合体を2つの工程で調製した。まず、シュレンク管内で、80℃におけるバルクの酵素開環重合(e-ROP)により、ポリグロバリド(PGL)を合成した。磁気撹拌機を備えたチューブにNガスを流して不活性雰囲気とした。反応器を80℃に加熱し、5w/w%のカンジダ アンタルクティカ リパーゼB(CALB)酵素と1.18mol% の1,4-ブタンジオールを添加した。チューブをセプタムで閉じ、Nガスを止めた後、モノマーのグロバリド(2g)を注入して重合を開始した。総反応時間は5時間であった。その後、反応生成物をクロロホルムに溶解し、濾過して酵素を除去した。次いで、濾過物を過剰のメタノールで沈殿させ、新たな溶媒で繰り返し洗浄した。最後に、室温で48時間真空乾燥させた。得られたPGLの分子量は、H NMRで測定して21.5kg/molに達した。
【0051】
次に、PGLをラクチドROPのマクロ開始剤として使用した。機械式攪拌機を備えた50mLの3口反応器を80℃に加熱し、20mbarで15分間真空引きした。次に、不活性雰囲気を維持するためにNガスで補助し、PGL(2.0g)とD,L-ラクチド(2.0g)を反応器に供給した。50mbarの真空を再度15分間適用した。圧力を1barに戻し、180℃に昇温した。その温度で、ラクチドに対して0.05w/w%のオクタン酸スズを添加して共重合を開始した。総反応時間は2時間であった。得られたポリマーをクロロホルムに溶解し、過剰のメタノールで沈殿させた。沈殿した共重合体を真空下で48時間乾燥させた。トリブロックの形成を、H NMRによって確認した。GPCで測定したところ、数平均分子量(Mn)は37.0kg/mol、重量平均分子量(Mw)は65.4kg/molであった。共重合体は、PGLブロックによる41.0℃の融解ピークを1つだけ示し、これは23.1℃と-3.9℃の2段階で結晶化した。PDLLAブロックは非晶質であった。共重合体は引張試験で弾性挙動を示し、破断伸びは230%に達し、弾性率は553MPa、最大引張強度は11.9MPaであった。
【0052】
実施例3(PLLA208-P6HDL42-PLLA208トリブロック共重合体の調製)
共重合体を2つの工程で調製した。まず、シュレンク管内で、80℃におけるバルクの酵素開環重合(e-ROP)により、ポリグロバリド(PGL)を合成した。磁気撹拌機を備えたチューブにNガスを流して不活性雰囲気とした。反応器を80℃に加熱し、5w/w%のカンジダ アンタルクティカ リパーゼB(CALB)酵素と2.36mol%の1,4-ブタンジオールを添加した。チューブをセプタムで閉じ、Nガスを止めた後、モノマーの6-ω-ヘキサデセンラクトン(2g)を注入して重合を開始した。総反応時間は5時間であった。その後、反応生成物をクロロホルムに溶解し、濾過して酵素を除去した。次いで、濾過物を過剰のメタノールで沈殿させ、新たな溶媒で繰り返し洗浄した。最後に、室温で48時間真空乾燥させた。得られたP6HDLの分子量は、H NMRで測定して10.5kg/molに達した。
【0053】
次に、P6HDLをラクチドROPのマクロ開始剤として使用した。機械式攪拌機を備えた50mLの3口反応器を80℃に加熱し、20mbarで15分間真空引きした。次に、不活性雰囲気を維持するためにNガスで補助し、P6HDL(1.0g)とL-ラクチド(3.0g)を反応器に供給した。50mbarの真空を再度15分間適用した。圧力を1barに戻し、180℃に昇温した。その温度で、ラクチドに対して0.05w/w%のオクタン酸スズを添加して共重合を開始した。総反応時間は2時間であった。得られたポリマーをクロロホルムに溶解し、過剰のメタノールで沈殿させた。沈殿した共重合体を真空下で48時間乾燥させた。トリブロックの形成を、H NMRによって確認した。GPCで測定したところ、数平均分子量(Mn)は43.0kg/mol、重量平均分子量(Mw)は68.0kg/molに達した。コポリマーは、44.5℃(P6HDLブロック)と1636℃(PLLAブロック)の2つの融解ピークを示した。PGLブロックは-10.4℃で結晶化したが、PLLAブロックは99.8℃で結晶化した。コポリマーは引張試験で弾性挙動を示し、破断伸びは34%に達し、弾性率は491MPa、最大引張強度は25.5MPaであった。
【0054】
実施例4(COOH-PEG24-PDLLA139-PGL85-PDLLA139-PEG24-COOトリブロック共重合体の合成)
PEG官能基化トリブロック共重合体を、トリブロック共重合体とカルボキシル末端PEG(COOH-PEG24-COOH)とのエステル化によって調製した。一例として、実施例2に記載のとおり調製したトリブロック共重合体PDLLA139-PGL85-PDLLA139(3.00g、0.075mmol)と5倍過剰のカルボキシル末端PEG(Mn=約1,000g/mol、0.75g、0.75mmol)を含む混合物を、磁気攪拌機を備えた丸底フラスコに添加した。混合物を20mLのDCMで30分間溶解した。次に、DCC(0.774g、3.75mmol)とDMAP(0.018g、0.15mmol)を溶液に添加し、室温で24時間反応を進行させた。次に、反応混合物を過剰量の冷メタノールに注いだ。沈殿物を濾過し、新たなメタノールで繰り返し洗浄し、メタノールを除去するために冷ジエチルエーテル(-18℃)で洗浄し、真空下で48時間乾燥させ、次に使用するまでデシケーター内に保管した。
【0055】
カルボキシル末端PEGとトリブロック共重合体のエステル化は、H NMRで測定したところ95%の収率であった。数平均分子量と重量平均分子量は、それぞれMn=37kg/mol、Mw=65kg/molであった。PEG官能基化トリブロック共重合体の接触角は、PEG添加により90°から86°に低下した。さらに、PEGにより破断伸びが230%から380%に増加し、一方で、極限引張強度と弾性率は、それぞれ11.9MPaから4.4MPa、553MPaから140MPaに減少した。
【0056】
[その他の実施例と結果]
実施例1、実施例2および実施例3の記載と同じ方法に従って、最大12回の合成を実施し、トリブロック共重合体の特性を検証した。表1に、合成したすべてのトリブロック共重合体を、PLAおよびPMLの組成別にグループ化して示す。
【0057】
【表1】
【0058】
いずれの場合も、モノマーからポリマーへの添加率は90%を超え、トリブロック共重合体が高収率(85%超)で回収された。理想的な反応における理論上の分子量は40kg/molを目標とした。さらに、異なるPLA/PML組成の共重合体を計画したため、PLA(セグメントA)とPML(セグメントB)のブロック長は比例的に調整した。トリブロック共重合体の組成と分子量は、H NMRとGPCによって計算した。表1は、PLA組成が50~90mol%の範囲内の共重合体が得られたことを示す。さらに、分子量は30~40kg/molであった。分子量がわずかに低いサンプルもあったが、これはおそらく、反応系内に望まないヒドロキシル基またはカルボキシル基の開始種が存在したことによる。一方、PLA組成の偏差は、反応開始前の逆昇華によるラクチドの損失に起因するものであった。その損失(ミリグラム単位)はほぼ一定であったが、より低いラクチド含有量を使用すると、損失はより顕著になった。
【0059】
それにもかかわらず、トリブロック構造は、Hおよび13C NMRによって確認された。図3は、PLLA174-PGL63-PLLA174H NMRスペクトルを示す。ピークの同定により、PMLとラクチド間の反応と、トリブロック構造が確認された。PLAブロックのメタン(i)、メチル(h)および-(CH)CH-OH末端基(h’)濃度は、それぞれ1.59、5.17、4.35ppmで検出された。長いメチレン配列(e)、メチン(d、d’)、不飽和周囲のメチレン(c、c’)、エステル基に隣接するメチレン(a、g)、およびその次のメチレン基(b、f)は、それぞれ1.28、5.40、2.01、4.07、2.29および1.69で検出された。さらに、図4に示されている13Cスペクトルは、重合中にエステル交換反応もラセミ化反応も起こらなかったことを示した。カルボニル領域(169~175ppm)に現れるPLLAおよびPMLのピークはシングレットであり、これは各ポリエステルのブロックが明確であることを意味した。
【0060】
表2は、トリブロック共重合体の機械的特性を示す。これらの結果は、ブロックの長さが重要な役割を果たしていることを証明した。共重合体の分子量(40kg/mol)を再現したニートなPLLAのフィルムは脆すぎて、試験用の試料を採取することもできなかった。一方、PMLが9~10mol%ほどの共重合体でも、PLLAに比べて機械的性能が向上した。一般的に、破断点伸び(ε)はPMLの増加とともに明らかに向上したが、同時に極限引張強度(σmax)と弾性率(E)は低下した。したがって、PLA/PML組成を調整するだけで、剛性から延性まで調整可能な特性を有するPLAベースの材料を調製することができた。
【0061】
【表2】
【0062】
分子量40kg/molを有するニートなPLLAは脆すぎて試験できなかったため、より高い分子量(Mn=72kg/mol、Mw=144kg/mol)のPLLAを合成した。図5は、高分子量PLLAとトリブロック共重合体PDLLA104-PGL106-PDLLA104に対して実施された引張強度テストの結果を示す。中間ブロックにPMLを含むトリブロック構造は、延性挙動を示した。
【0063】
トリブロック構造の組成は、共重合体の融点(T)にも影響した。表3は、トリブロック共重合体の熱特性をまとめたものである。PMLまたはPLAのいずれかの組成が増加すると、それぞれのブロックのTも増加した。Tの差は約10℃であった。対照的に、Tg、5%での劣化開始温度(°Td,5%)および残留重量(R)には顕著な変化はなかった。
【0064】
【表3】
【0065】
熱特性評価によってもトリブロック構造が確認された。図6は、サンプルの熱履歴を除去した後の、10℃/分でのDSCの最初の冷却および加熱トレースを示す。各ポリエステルは熱挙動を維持し、それにより各ブロックのTとTが同定された。
【0066】
PDLLA139-PGL85-PDLLA139のPEG官能基化に成功した。図7に示すH NMRスペクトルの比較により、COOH-PEG-COOHとトリブロック共重合体のエステル化が確認された。未反応の過剰のCOOH-PEG24-COOHはメタノール中で沈殿させることによって除去され、トリブロック共重合体に結合したPEG鎖のみが残った。トリブロック共重合体に結合したPEG繰り返し単位の数は、H NMRスペクトルのピーク(c)の積分から計算した。それらは、提供者によって示された繰り返し単位の数(24)と一致したため、実質的に完全なエステル化が達成された。さらに、数平均分子量と重量平均分子量は、それぞれMn=37kg/molとMw=65kg/molであった。これらの値は、トリブロック共重合体PDLLA139-PGL85-PDLLA139で得られた値とほぼ同じであった。PEGの分子量は約1kg/molであり、これは妥当な値であった。
【0067】
PEG官能基化トリブロック共重合体の接触角は、PEGの添加により90°から86°に低下した。接触角のわずかな低下は、トリブロック共重合体の表面を比較的疎水性(90°以上)から親水性(90°未満)に変化させるのに不可欠であった。粗さによって、平らな表面の疎水性または親水性が強まるため、粗い表面を比較した場合は、その小さな変化の影響がより顕著になった。図8は、PEG官能基化前後のトリブロック共重合体スキャフォールドの粗い表面における水滴の変化を比較したものである。比較的疎水性のトリブロック共重合体の接触角は、粗さの増加により90°から114°に上昇した。さらに、水滴は120秒間の実験中、動かなかった。反対に、親水性PEG官能基化共重合体のスキャフォールドは、平坦なフィルムと比較して接触角が86°から74°に低下した。実際、水滴は時間の経過とともに接触角を徐々に低下させ、スキャフォールド表面から事実上消失した。
【0068】
機械的特性に関しては、PEG官能化共重合体は、ニートなトリブロック共重合体と比較して、より延性と柔軟性に優れた特性を示した。図9は、PEG官能基化前後のPDLLA139-PGL85-PDLLA139の引張荷重下における代表的な応力-歪み曲線を示す。PEG鎖の可塑化効果により、破断伸度は230%から380%に増加した。同時に、弾性係数と極限引張強度は、それぞれ553MPaから140MPa、11.9MPaから4.4MPaに低下した。
【0069】
特性評価
合成したすべてのPLA-PML-PLAは、以下の技術を使用して分析した。
核磁気共鳴(NMR):
Hおよび13Cスペクトルは、25℃で、Bruker AMX-300を使用して、それぞれ300.1MHzおよび75.5MHzの周波数で得た。Hスペクトルでは64回のスキャンを実施し、13Cスペクトルでは1,000~10,000回のスキャンを実施した。ポリマーサンプル(Hスペクトルに10mg、13Cスペクトルに50mg)を重水素化クロロホルム(CDCl)に溶解した。内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を使用した。さらに、場合によっては、等核H-H(COSY)や異種核相関H-13C(HETCOR)などの2次元分光法を適用した。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC):
分子量は、ウォーターズの装置を使用したGPCによって決定した。ポリマーサンプルに応じて、2つのカラムと2つの異なる溶出液を使用した。溶出液はヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)とテトラヒドロフラン(THF)であった。分子量は、HFIP中のポリメチルメタクリレート(PMMA)およびTHF標準中のポリスチレン(PS)と比較して計算した。サンプルは、1mgのポリマーを1mLの溶媒に溶かして調製した。測定は35℃で実施した。
示差走査熱量測定法(DSC):
熱遷移は、Perkin-Elmer Pyris 1およびDSC 8500で実施した熱量測定スキャンによって評価した。20mL/分の連続窒素フラックス下で、4~6mgのポリマーからサーモグラムを記録した。温度とエンタルピーの校正に使用した標準は、インジウムと亜鉛であった。
熱重量分析(TGA):
ポリマーの熱安定性を50~600℃の温度範囲で試験した。分析は、Mettler-Toledo TGA/DSC 1 Starシステムで、窒素フラックスを使用し、加熱速度10℃/分で実施した。
引張試験:
機械試験は、Zwick Roell社の500N zwicki装置で実施した。引張および伸びのデータは、testXpert(登録商標)IIIソフトウェアによって記録した。試験は、ポリマーフィルムから得た5B標準試験片を使用して、ISO 527-2規格に従い実施した。
接触角(CA):
静置水滴による液滴形状解析は、OCA 20(DataPhysics Instruments GmbH、Filderstadt)およびSCA20ソフトウェアによって実施した。CAは、3×1cmのフィルムサンプルに、0.500μLの蒸留水を室温で滴下してから5秒後に測定した。左と右のCAの値を測定し平均化した。3つの異なるフィルムポリマーサンプルで、少なくとも10回の測定を実施した。予定された時間に水滴の写真を撮影することで、動的CAの測定も実施した。
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【国際調査報告】