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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】量子磁場受信デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/12 20230101AFI20241031BHJP
【FI】
H10N60/12 D ZAA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024527267
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 AU2022051343
(87)【国際公開番号】W WO2023081970
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】2021903616
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524171943
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ アデレード
(71)【出願人】
【識別番号】524170463
【氏名又は名称】ジャゾット,フランチェスコ
(71)【出願人】
【識別番号】524170474
【氏名又は名称】アタナコビック,ピーター,ビー.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【弁理士】
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】ジャゾット,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】アタナコビック,ピーター,ビー.
(72)【発明者】
【氏名】テッタマンジ,ジュゼッペ,カルロ
(72)【発明者】
【氏名】ナコーネ,イサーク
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AC09
4M113AC46
(57)【要約】
本発明は、超伝導量子干渉デバイス(SQUID)または超伝導量子干渉フィルタ(SQIF)と、該SQUIDまたはSQIFのジョセフソン接合に静電場を印加するように構成された静電ゲーティング回路とを含む量子磁場受信でバイスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導量子干渉デバイス(SQUID)および静電ゲーティング回路を含む量子磁場受信デバイスであって:
前記超伝導量子干渉デバイス(SQUID)は:
第2のアームから離間した第1のアームを含む超伝導ループと;
前記第1のアームにおける第1のジョセフソン接合と;
前記第2のアームにおける第2のジョセフソン接合と;
前記第1のアームと前記第2のアームとを電気的に接続する第3のアームと;
前記第3のアームにおける第3のジョセフソン接合とを含み、それら3つのジョセフソン接合のそれぞれは接合材料を有し;
前記静電ゲーティング回路は、前記第1のジョセフソン接合に第1の静電場を印加し、前記第2のジョセフソン接合に第2の静電場を印加するように構成されており、
前記第1のジョセフソン接合の前記接合材料の第1の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第1のゲート電圧によってもたらされる前記第1の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、前記第2のジョセフソン接合の前記接合材料の第2の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第2のゲート電圧によってもたらされる前記第2の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、
前記第1の臨界超電流は、前記第2の超電流と実質的に等しくなるように調整されて、前記量子磁場受信デバイスの磁束対電圧応答の線形性を改善する、
量子磁場受信デバイス。
【請求項2】
前記SQUIDは、Bi-SQUIDである、請求項1に記載の量子磁場受信デバイス。
【請求項3】
前記第1の臨界超電流および前記第2の臨界超電流は、前記第3のジョセフソン接合の前記接合材料の第3の臨界超電流に対して調整される、請求項1または2に記載の量子磁場受信デバイス。
【請求項4】
前記第3の臨界超電流に対する前記第1の臨界超電流および第2の臨界超電流の比が0.5~1.5である、請求項3に記載の量子磁場受信デバイス。
【請求項5】
前記第3のジョセフソン接合の前記接合材料の前記第3の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第3のゲート電圧によってもたらされる第3の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能である、請求項3に記載の量子磁場受信デバイス。
【請求項6】
前記第1のアームにおけるインダクタンスは、前記第2のアームにおけるインダクタンスと実質的に等しくなるように前記静電ゲーティング回路によって調整される、請求項1に記載の量子磁場受信デバイス。
【請求項7】
前記第1のアームにおけるインダクタンスおよび前記第2のアームにおけるインダクタンスは、前記量子磁場受信デバイスのスプリアス・フリー・ダイナミックレンジを最適化するよう、前記静電ゲーティング回路によって調整される、請求項1に記載の量子磁場受信デバイス。
【請求項8】
前記スプリアス・フリー・ダイナミックレンジの最適化された値は、100dBに近い、請求項7に記載の量子磁場受信デバイス。
【請求項9】
超伝導量子干渉フィルタ(SQIF)および静電ゲーティング回路を含む量子磁場受信デバイスであって、
前記超伝導量子干渉フィルタ(SQIF)は:
第2のアームから離間した第1のアームをそれぞれが含む2つ以上の超伝導ループであって、第1の超伝導ループの第2のアームが第2の超伝導ループの第1のアームをなす、2つ以上の超伝導ループと;
前記第1の超伝導ループの前記第1のアームにおける第1のジョセフソン接合と;
前記第2の超伝導ループの前記第1のアームをなす前記第1の超伝導ループの前記第2のアームにおける第2のジョセフソン接合と;
第2の超伝導ループの前記第2のアームにおける第3のジョセフソン接合とを含み、
前記ジョセフソン接合のそれぞれは、接合材料を有し;
前記静電ゲーティング回路は、前記第1のジョセフソン接合に第1の静電場を印加し、前記第2のジョセフソン接合に第2の静電場を印加し、前記第3のジョセフソン接合に第3の静電場を印加するように構成されており、
前記第1のジョセフソン接合の前記接合材料の第1の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第1のゲート電圧によってもたらされる前記第1の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、前記第2のジョセフソン接合の前記接合材料の第2の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第2のゲート電圧によってもたらされる前記第2の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、前記第3のジョセフソン接合の前記接合材料の第3の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第3のゲート電圧によってもたらされる前記第3の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、
前記第1の臨界超電流、前記第2の臨界超電流および前記第3の臨界超電流は、実質的に等しくなるように調整されて、前記量子磁場受信デバイスの磁束対電圧応答の線形性を改善する、
量子磁場受信デバイス。
【請求項10】
前記第1の超伝導ループの前記第1のアームにおけるインダクタンスは、前記第1の超伝導ループの前記第2のアームにおけるインダクタンスと実質的に等しくなるように、前記静電ゲーティング回路によって調整される、請求項9に記載の量子磁場受信デバイス。
【請求項11】
前記第1のアームにおけるインダクタンスおよび前記第2のアームにおけるインダクタンスは、前記量子磁場受信デバイスのスプリアス・フリー・ダイナミックレンジを最適化するように前記静電ゲーティング回路によって調整される、請求項9に記載の量子磁場受信デバイス。
【請求項12】
前記スプリアス・フリー・ダイナミックレンジの最適化された値は、100dBに近い、請求項11に記載の量子磁場受信デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導量子干渉デバイス(superconducting quantum interference device、SQUID)または超伝導量子干渉フィルタ(superconducting quantum interference filter、SQIF)と、該SQUIDまたはSQIFのジョセフソン接合に静電場を印加するように構成された静電ゲーティング回路とを含む量子磁場受信でバイスに関する。
【0002】
具体的には、これに限られるものではないが、ジョセフソン接合は、各ジョセフソン接合の接合材料に静電場をそれぞれ印加することによって調整可能であり、ジョセフソン接合の臨界超電流を調整して量子磁場受信デバイスの磁束対電圧応答の線形性を改善することができる。
【背景技術】
【0003】
ジョセフソン接合、SQUID、およびSQIFは、量子受信機構成で使用されるとき、超伝導マイクロ電子デバイスの基本構成要素として使用されうる。大規模または超大規模集積回路のためのものなどの超伝導デバイスは、典型的には、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術で使用されるものと同様の集積回路製造技術を使用して製造される。すなわち、デバイスの所望の機能を得るために、異なる形状の材料のいくつかの超伝導層層、金属層、および絶縁層が、典型的には積み重ねられる。これらのデバイスの製造は、数千ではないにしても、数百の異なるステップを必要とすることがある。これらのステップの数および複雑さは、そのようなデバイスの製造を非常に困難にする。
【0004】
よって、これらのデバイスを製造する科学は、デバイスのすべての異なるステップおよび個々の部分の組み合わされた挙動を予測することが完全に可能ではないので、しばしば経験的科学である。CMOS技術に基づく回路がモデル化され、その挙動を予測することができるが、これは超伝導素子に基づく回路については当てはまらない。さらに、超伝導材料の物理は極めて複雑であり、このことは、ジョセフソン接合などの超伝導素子を含む回路の挙動を確実に予測することができるモデルを開発することを非常に困難にする可能性がある。
【0005】
ジョセフソン接合は、超伝導技術における、半導体技術のトランジスタ・デバイスに対する実用上の等価物であると考えられうる。バルク超伝導体材料が絶縁材料の薄いバリアによって、または超伝導特性が劣る伝導材料のセクションによって遮断されるたびに、ジョセフソン接合(JJ)が形成される。
【0006】
2つのJJを超伝導体材料の閉ループとの関連で使用して、超伝導量子干渉デバイス(DC-SQUID)を形成することができる。このDC-SQUIDデバイスは、磁場が超伝導材料のループによって反発されるので、たとえば、高性能干渉計として使用されうる。よって、DC-SQUIDは、量子感知(すなわち、受信)デバイスのバックボーンを形成することができる。あるいはまた、JJは、超伝導量子干渉フィルタ(SQIF)において同様の仕方で使用することができる。SQIFデバイスは、別の超伝導デバイス技術である。SQIFは、N個の超伝導ループのアレイから形成されるので、DC-SQUIDの直接的な派生である。
【0007】
図1は、2つのJJ、すなわちJJ1およびJJ2をループの2つの対称的な位置に封入する超伝導材料の閉ループを有する従来技術のDC-SQUIDの概略図を示す。多くのDC-SQUIDをアレイに組み込むことによって、非常に感度の高い量子磁場受信機を製造することができる。この技術を使用することによって、非常に高い信号対雑音比(SNR)を観察することが可能である。実際に、DC-SQUIDは、10-15T/√Hzまでの感度および約10-28Jsの単位帯域幅当たりのエネルギー感度を有する、高度な高性能電磁センサーとして多くの既存の用途に利用されてきた。よって、DC-SQUIDは優れたセンサーを形成することができる。しかしながら、それらは量子干渉計として当然ながら量子レジームで量子干渉計として動作するので、DC-SQUIDデバイスの磁束-電圧応答は、図5の破線の曲線で示されるように、本来的に周期的であり、ほぼ正弦波である。
【0008】
よって、DC-SQUIDを利用するデバイスは、一般に、非常に非線形なレジームで動作する。これは、いくつかの量子感知(quantum sensing、QS)スキームのためのコンポーネントなどでの用途におけるそれらの使用を困難にする。多くのQSスキームについて、最も重要な要件のいくつかは、それらのスキームで使用されるセンサーの磁束対電圧応答出力における線形性に直接関連する。すなわち、応答の線形性は、磁束対電圧応答の曲線が理想的な直線にどのくらい近いかを示す。これがQSスキームにとって重要なのは、応答のこの線形性こそが、最終的に、センサーがどれくらい速く動作することができるか、および、背景雑音から効率的に弁別され、受信機によって確実に取得されることができる最も速い信号は何かを決定するからである。
【0009】
理想的な世界では、量子受信または感知デバイスは、可能な限り最も速い信号を捕捉することができ、アナログ‐デジタル変換デバイスとの関連で可能な限り速く動作することができなければならない。DC-SQUIDの線形性に関する限界を克服するために使用される典型的な解決策は、各DC-SQUIDに制御回路を付随させることである。しかしながら、これは、そのようなデバイスのサイズ重量および電力(Size Weight and Power、SWaP)を大幅に増加させ、最終的に、その性能を劣化させる。余分な回路は、特に、そのようなデバイスの帯域幅(BW)性能に大きく影響し、そのため、量子感知用途にあまり好適ではないになる。
【0010】
上述の制限の少なくともいくつかを克服するために、Bi-SQUIDの概念が導入されている。図2に示すような既存のBi-SQUIDの例は、基本的に、DC-SQUIDを、2つの離間したアームを接続する第3のJJ、JJ3を含む第3のアームによって中断したものからなる。Bi-SQUIDに関しては、もとのDC-SQUIDループの(すなわち、JJ1とJJ2との間の干渉計の)非線形性と、第3のアームの(すなわち、単一の接合JJ3の)非線形性とが、互いに対抗するように作用して、最終的に、磁束対電圧応答の線形性に関して非常に良好な性能を提供する。線形性は、図5の実線での三角形状の磁束対電圧応答において示される。
【0011】
実際、理想的に工作された場合、Bi-SQUIDを利用するデバイスは、帯域幅、SWaP、およびSNRの点でその性能を劣化させる余分な回路を必要とせずに、線形性の点で優れた性能を発揮することができる。しかしながら、そのような性能を得るために、デバイスは、もとのDC-SQUIDループにおけるJJの臨界電流の値の間で良好な制御度および対称性を有するように工作されなければならず、これは、製造中に常に可能であるとは限らない。さらに、線形性の点で最良の性能を得るために、Bi-SQUIDの第3のJJにおける臨界電流の値、すなわちIc(JJ3)を他のJJにおける臨界電流に揃えることも重要である。JJの臨界超電流の値は、数百ナノアンペアから数百マイクロアンペアのオーダーでありえ、その値は、JJの形状および超伝導材料に依存する。製造の複雑さを考えると、実際にこれらの理想的なJJ臨界電流値を達成することは非常に困難であることが当業者には理解されよう。
【0012】
先行技術として与えられる特許文献または他の事項に対する本明細書における言及は、その文献または事項が公知であったこと、またはそれが含む情報が、本明細書における開示または特許請求の範囲のいずれかの優先日において技術常識の一部であったことを認めるものと解釈されるべきではない。本明細書における従来技術のこのような議論は、本発明者の知識および経験の観点から本発明のコンテキストを説明するために含まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のある側面によれば、超伝導量子干渉デバイス(SQUID)および静電ゲーティング回路を含む量子磁場受信デバイスが提供される。前記超伝導量子干渉デバイス(SQUID)は:第2のアームから離間した第1のアームを含む超伝導ループと;前記第1のアームにおける第1のジョセフソン接合と;前記第2のアームにおける第2のジョセフソン接合と;前記第1のアームと前記第2のアームとを電気的に接続する第3のアームと;前記第3のアームにおける第3のジョセフソン接合とを含み、それら3つのジョセフソン接合のそれぞれは接合材料を有し;前記静電ゲーティング回路は、前記第1のジョセフソン接合に第1の静電場を印加し、前記第2のジョセフソン接合に第2の静電場を印加するように構成されており、前記第1のジョセフソン接合の前記接合材料の第1の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第1のゲート電圧によってもたらされる前記第1の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、前記第2のジョセフソン接合の前記接合材料の第2の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第2のゲート電圧によってもたらされる前記第2の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、前記第1の臨界超電流は、前記第2の超電流と実質的に等しくなるように調整されて、前記量子磁場受信デバイスの磁束対電圧応答の線形性を改善する。
【0014】
好ましくは、SQUIDはBi-SQUIDである。しかしながら、当業者には、第1のアームと第2のアームとを電気的に接続して3つの超伝導ループを形成する第4のアームを有するデバイスなど、超伝導量子干渉デバイスの他の構成を使用できることが理解されよう。
【0015】
上述のように、これらのデバイスの製造中に臨界電流の値を制御することは非常に困難である。よって、静電ゲーティング回路を有する上記の量子磁場受信デバイスは、デバイスの製造後および動作中に、ジョセフソン接合の臨界電流を制御する能力を有する。量子磁場受信デバイスは、ジョセフソン接合に静電場を印加することによってジョセフソン接合を調整するために、電圧ゲーティング効果を利用する。このデバイスは、このように、理論的な理想的線形応答により近い、改善された線形応答を有する。
【0016】
よって、基本構成要素として上記の量子磁場受信デバイスを使用して、改良された超伝導マイクロ電子デバイスが製造されうる。これらのデバイスは、非常に高感度の量子感知用途に適していることがありうる。実際に、量子磁場受信デバイスの動作の迅速性は、アナログ‐デジタル変換の速度にも直接影響を与え、よって、この変換中に転送されうる情報の量は、デバイスの応答の線形性に直接結びつけられる。
【0017】
すなわち、上記の量子磁場受信デバイスは、その性能が最適化されうるように、製造後にその電気的特性を修正する能力を有する。上述のように、製造中にデバイスの回路を完全に制御することは完全には可能ではない。よって、製造後に電圧ゲーティングを使って外部電場を用いてデバイス特性の一部を修正できることは、このデバイスにとって重要な利点である。
【0018】
しばしば、ジョセフソン接合は、金属超伝導ワイヤまたはデイエム(Dayem)ブリッジを使用して製造される。ジョセフソン接合のこれらの実装は、しばしば、超伝導弱リンクとして記述される。このようにして製造されたジョセフソン接合の臨界電流は、バックゲート、または超伝導弱リンクに容量結合された近くのスプリットゲート電極のいずれかにDC電圧バイアスを印加することによって制御できる。そのようなゲート電圧によって、超伝導体を完全に抵抗状態にすることができる。臨界電流制御を実現するために必要とされるゲート電圧値は、数ボルトから数十ボルトまでの範囲にあり、主にゲート電極と超伝導弱結合との間の空間ギャップに依存する。
【0019】
ある実施形態では、前記第1の臨界超電流および前記第2の臨界超電流は、前記第3のジョセフソン接合の前記接合材料の第3の臨界超電流に対して調整される。前記第3の臨界超電流に対する前記第1の臨界超電流および第2の臨界超電流の比は0.5~1.5である。 該実施形態において、前記第3のジョセフソン接合の前記接合材料の前記第3の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第3のゲート電圧によってもたらされる第3の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能である。
【0020】
ある実施形態では、前記第1のアームにおけるインダクタンスは、前記第2のアームにおけるインダクタンスと実質的に等しくなるように前記静電ゲーティング回路によって調整される。別の実施形態では、前記第1のアームにおけるインダクタンスおよび前記第2のアームにおけるインダクタンスは、前記量子磁場受信デバイスのスプリアス・フリー・ダイナミックレンジを最適化するよう、前記静電ゲーティング回路によって調整される。好ましくは、前記スプリアス・フリー・ダイナミックレンジの最適化された値は、100dBに近い。
【0021】
本発明の別の側面によれば、超伝導量子干渉フィルタ(SQIF)および静電ゲーティング回路を含む量子磁場受信デバイスが提供される。前記超伝導量子干渉フィルタ(SQIF)は:第2のアームから離間した第1のアームをそれぞれが含む2つ以上の超伝導ループであって、第1の超伝導ループの第2のアームが第2の超伝導ループの第1のアームをなす、2つ以上の超伝導ループと;前記第1の超伝導ループの前記第1のアームにおける第1のジョセフソン接合と;前記第2の超伝導ループの前記第1のアームをなす前記第1の超伝導ループの前記第2のアームにおける第2のジョセフソン接合と;第2の超伝導ループの前記第2のアームにおける第3のジョセフソン接合とを含み、前記ジョセフソン接合のそれぞれは、接合材料を有し;前記静電ゲーティング回路は、前記第1のジョセフソン接合に第1の静電場を印加し、前記第2のジョセフソン接合に第2の静電場を印加し、前記第3のジョセフソン接合に第3の静電場を印加するように構成されており、前記第1のジョセフソン接合の前記接合材料の第1の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第1のゲート電圧によってもたらされる前記第1の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、前記第2のジョセフソン接合の前記接合材料の第2の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第2のゲート電圧によってもたらされる前記第2の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、前記第3のジョセフソン接合の前記接合材料の第3の臨界超電流は、前記静電ゲーティング回路によって提供される第3のゲート電圧によってもたらされる前記第3の静電場を前記接合材料に印加することによって調整可能であり、前記第1の臨界超電流、前記第2の臨界超電流および前記第3の臨界超電流は、実質的に等しくなるように調整されて、前記量子磁場受信デバイスの磁束対電圧応答の線形性を改善する。
【0022】
静電ゲーティング回路を有するこの量子磁場受信デバイスは、上述したのと同じ手法を用いて、製造後および動作中にSQIFのジョセフソン接合の臨界電流を制御する。応答の線形性が改善され、SWaP、BW、およびSNRが改善された、そのような量子磁場受信デバイスからも、非常に感度の高い量子感知デバイスが製造できる。よって、SQIFは、製造後および動作中に、それらの回路における一部または全部のジョセフソン接合の臨界電流を制御することができる能力からも大いに利益を得る。
【0023】
ある実施形態では、前記第1の超伝導ループの前記第1のアームにおけるインダクタンスは、前記第1の超伝導ループの前記第2のアームにおけるインダクタンスと実質的に等しくなるように、前記静電ゲーティング回路によって調整される。別の実施形態では、前記第1のアームにおけるインダクタンスおよび前記第2のアームにおけるインダクタンスは、前記量子磁場受信デバイスのスプリアス・フリー・ダイナミックレンジを最適化するように前記静電ゲーティング回路によって調整される。好ましくは、前記スプリアス・フリー・ダイナミックレンジの最適化された値は、100dBに近い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の好ましい実施形態を、これから、添付の図面を参照して説明する。
【0025】
図1】DC-SQUIDの概略図である。
【0026】
図2】Bi-SQUIDの概略図である。
【0027】
図3】本発明のある実施形態による量子磁場受信デバイスの概略図である。
【0028】
図4】Bi-SQUID RSJモデルの概略図である。
【0029】
図5】DC-SQUIDおよびBi-SQUIDの磁束対電圧応答のグラフである。
【0030】
図6】RSJモデルを用いて得られた図5の結果から抽出されたBi-SQUIDの、磁束対電圧応答の線形性を、正規化されたループ・インダクタンスに対して示すグラフである。
【0031】
図7】RSJモデルを用いて得られた、DC-SQUIDと比較した、異なる臨界電流を有するBi-SQUIDの磁束対電圧応答の線形性における理論的改善を示すグラフである。
【0032】
図8】本発明の別の実施形態による量子磁場受信デバイスの概略図である。
【0033】
図9】本発明のある実施形態による量子磁場受信デバイスの画像である。
【0034】
図10図9の量子磁場受信デバイスの、磁束対電圧応答の線形性を、正規化されたループ・インダクタンス値に対して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明のある実施形態による量子磁場受信デバイス10が図3に示されている。デバイス10は、第1のアーム16と、第1のアーム16から離間した第2のアーム18と、第1のアーム16と第2のアーム18とを電気的に接続する第3のアーム20とを含む超伝導ループ14を含む超伝導量子干渉デバイス(Bi-SQUID)12を含む。
【0036】
Bi-SQUID 12は、第1のアーム16内の第1のジョセフソン接合JJ1と、第2のアーム18内の第2のジョセフソン接合JJ2と、第3のアーム20内の第3のジョセフソン接合JJ3とを含む。3つのジョセフソン接合JJ1、JJ2、JJ3のそれぞれは、上述のように、絶縁材料または超伝導特性が劣る伝導材料の薄いバリアなどの接合材料を有する。当業者には、超伝導ループ14は、超伝導材料の臨界温度より低い温度で動作するときに超伝導特性を有する材料で作られることが理解されよう。
【0037】
デバイス10は、第1の静電場を第1のジョセフソン接合JJ1に、第2の静電場を第2のジョセフソン接合JJ2に、第3の静電場を第3のジョセフソン接合JJ3に印加するように構成された静電ゲーティング回路22をさらに含む。
【0038】
出願人は、このデバイス10を、Tettamanzi-Giazotto-Nakone Bi-SQUIDと称する。これは、新規な量子磁場受信デバイスである。
【0039】
よって、第1のジョセフソン接合JJ1の接合材料の第1の臨界超電流Ic1は、静電ゲーティング回路22によって提供される第1のゲート電圧によってもたらされる第1の静電場を接合材料に印加することによって調整可能であり、第2のジョセフソン接合JJ2の接合材料の第2の臨界超電流Ic2は、静電ゲーティング回路22によって提供される第2のゲート電圧によってもたらされる第2の静電場を接合材料に印加することによって調整可能である。Ic1およびIc2の値は、ナノアンペアとマイクロアンペアとの間でありうる。
【0040】
ある実施形態では、第3のジョセフソン接合JJ3の接合材料の第3の臨界超電流Ic3も、静電ゲーティング回路22によって提供される第3のゲート電圧によってもたらされる第3の静電場を接合材料に印加することによって調整可能である。Ic3の値は、ナノアンペアとマイクロアンペアとの間でありうる。
【0041】
第1の臨界超電流Ic1は、第2の超電流Ic2と実質的に等しくなるように調整され、量子磁場受信デバイスの磁束対電圧応答の線形性を改善する。上述のように、理想的に製造されたBi-SQUIDを有するデバイスについての磁束対電圧応答の線形性は、図5において実線で示されている。
【0042】
また、図4に示されるRSJモデルを使用して得られた、異なる臨界電流についての磁束対電圧応答の線形性の理論的予測が図7に示されている。これらの予測は、磁束対電圧応答の線形性を改善するために臨界電流を調整することによって、製造後にBI-SQUIDの性能を改善することがどのようにして可能であるかを示す。より具体的には、図7は、デバイス10のJJの異なる臨界電流に対する制御が、デバイス10の磁束対電圧応答の線形性において、どのようにX倍の改善(X>1)をもたらすことができるかを示す。
【0043】
ゲート‐ジョセフソン接合ギャップは、標準的な電子ビーム・リソグラフィー技術を用いて10~15nm程度に小さくすることができ、そのため、デバイス10についてゲート電圧のかなりの低減を使用することができる。また、電気的なゲーティングは、真性超伝導体および近接効果による超伝導体(proximitized superconductor)の両方について非常に効果的であり、超伝導相関が非超伝導金属内で確立されるときはいつでも、超伝導性を抑制し、臨界電流を調整することが可能である。結果として、超伝導量子受信デバイス10のジョセフソン接合は、完全に調整可能な応答を有する。
【0044】
さらに、異なる臨界温度(Tc)によって特徴付けられる元素超伝導体に対して行われた実験において、チタン(Ti、Tc~4K)、アルミニウム(Al、Tc~1.4K)、バナジウム(V、Tc~4K)、およびニオブ(Nb、Tc~9K)に対して効果的な調整可能性が実証されている。NbBまたはNbTiNなどのより大きな臨界温度を有する超伝導体も同様に利用することができる。
【0045】
臨界電流Ic1(JJ1について)およびIc2(JJ2について)の値を調整できるため、デバイス10は、理想的な条件でBi-SQUIDを動作させることができる。よって、デバイス10は、Ic1(JJ1)およびIc2(JJ2)とIc3(JJ3)との間の比を調整することができる。第1および第2の臨界超電流Ic1、Ic2と第3の臨界超電流Ic3との比は、好ましくは0.5~1.5である。さらに、デバイス10は、このようにして、第1のアーム16におけるインダクタンスを第2のアーム18におけるインダクタンスと実質的に等しくなるように調整する。したがって、デバイス10は、磁束対電圧応答において「原理的に」無限に高い線形性で、かつBWおよびSNR(感度)に関して最良の性能で動作する可能性を有する。出願人は、従来の超伝導(たとえば、低温超伝導体)が、いわゆるスピン一重項超伝導の効果の下で生じることに注目する。すなわち、超伝導性が材料の臨界温度より低い温度で活性である場合、電子は量子粒子としてのその個性を失い、材料中のすべての電子の挙動を制御する組み合わされた多体スピン一重項波動関数を形成する。この物理的機構は、臨界電流Ic1、Ic2、Ic3に対する電気的制御を達成するために、デバイス10の静電ゲーティング回路22によって利用される。
【0046】
外部ゲート電圧によって影響を受けるスピン一重項超伝導機構は、完全に説明されるには到底至っていない。いくつかの理論は、表面軌道分極の役割に焦点を当てることによって、薄膜が外場によってどのように影響されうるかを研究している。これらは、以下のように要約することができる。
【0047】
スクリーニング効果に起因する金属状態の多軌道記述を想定すると、電場は、表面電位の強度を修正することによって作用し、非自明な軌道ラシュバ結合をもたらす。表面およびその近傍で帰結する軌道分極は、超伝導性に劇的な影響を及ぼすことが示されている。これは、電場の強度を変化させることによって、超伝導相が抑制される、すなわち通常の金属になるか、または0‐π遷移を受けることができるという事実によって実証でき、ここで、π相は、異なるバンド間の超伝導秩序パラメータの非自明な符号変化によって特徴付けられる。これらの発見は、超伝導軌道工学(orbitronics)効果を有するヘテロ構造の設計を可能にする。ジョセフソン接合の場合、出願人は、超伝導金属(たとえば、アルミニウム)ナノブリッジが、静電ゲーティングを介して臨界超電流の完全な抑制を有する状態に駆動されうることを提案する。
【0048】
静電ゲーティングの存在下で面内および面外の両方の磁場応答を探査することにより、超伝導電場効果を主に引き起こす機構を明らかにすることができる。出願人は、磁場が、その配向とは無関係に、超伝導状態から臨界超電流が消滅する相への遷移を特定する臨界電場に対して弱い影響しか及ぼさないことを見出した。この観察は、渦生成を介した2π位相スリップまたは電場と超伝導秩序パラメータの振幅との間の直接結合の不在を示す。
【0049】
静電ゲーティングの存在下で観察される磁場効果は、空間的に均一なバンド間π位相が電場によって安定化される微視的シナリオ内でよく記述される。そのような内在的な超伝導相の再配列は、臨界磁場の、電場への弱い依存性を説明するとともに、超伝導電流の抑制を説明することができる。
【0050】
上述のように、超伝導材料の挙動を完全に予測することは極めて複雑である。これは、超伝導材料から作られたデバイスについてはなおさらである。これは、超伝導性が微視的な多体効果の結果として生じ、よって、これらのシステムの電磁応答を精密に記述するために使用できるモデルがないためである。いくつかの超伝導材料、たとえばYBCOなどの高臨界温度材料については、どの微視的機構がその効果を引き起こしているかについての合意すらない。超伝導材料から作られたデバイスの挙動を予測するために使用できるいくつかの利用可能な仕方のうちの1つは、集中素子アプローチを利用することによるものである。超伝導デバイスについては、このアプローチは、抵抗性シャント・ジョセフソン接合(Resistive Shunted Josephson Junction、RSJ)モデルである。
【0051】
図4は、RSJモデルで使用されるような例示的なBi-SQUIDの概略図を示す。各Xは、臨界電流i1またはi2またはi3を有するジョセフソン接合を表し、Lは、ループの各半分についての理想的な自己インダクタンスである。
【0052】
この例として、図4のBi-SQUIDのRSJモデルに関して、近似に従ってモデル化できる。この集中素子アプローチの主な条件を以下に説明する。
A)各ループおよび各ノードにおいてキルヒホッフの法則およびオームの法則を使用する。
B)接合1および2における臨界電流は、ic1=ic2=icであると仮定する。
C)インダクタンスの値が対称的であると仮定する。
D)ジョセフソン接合の理想的な動的応答を記述する(ジョセフソン接合の動作の基本的な量子機構に関連する)式、すなわち、i(t)=sinφ(t)+dφ(t)/dtを使用する。ここで、φ(t)は接合における位相である。
【0053】
dφ(t)/dtは、各接合についての取得された電位の差ΔVに結びつけられる。一方、φ(t)は、各外部磁場の磁束(すなわち、Φe)に結びつけられることができる。結果として、以下の式が、標準的な正規化された値に関して表現されうる。Φoは、量子磁束の値である。
【数1】
【0054】
最終的に、これらの方程式は、1階の連立非線形微分方程式を与える。これらの方程式を解くことができ、よって、Bi-SQUID(および多くの他の種類の超伝導デバイス)の電圧応答のダイナミックを、すべての外部磁場に直接結びつけられる正規化された磁場(=∫SBexternal・dS)であるΦeに対して抽出することが可能である(Φeoに対するVout)。
【0055】
BI-SQUIDについてのこれらの種類のモデルについての典型的な結果が図5に示されている。図5は、Bi-SQUID電圧の、正規化された磁束に対する依存性を示す。図5から、完璧に対称的なデバイス、すなわちic1=ic2=icであり、インダクタンスが完璧に対称的であるという仮定の状況において、そのようなデバイスは、きわめて高い直線性を示す、Vout対Φeoの応答曲線を有することができることがわかる。
【0056】
図6は、応答の線形性を、出力信号の異なる振幅に対して示す。ここで、臨界電流とバイアス電流Ib=2IcおよびIc3における正規化されたループ・インダクタンスLの値とは、最適値に固定されたままにされる。定性的には、直線性は、曲線がどれだけまっすぐである(線形である)かの指標である。定量的には、Vout対Φeo曲線の線形性は、dBの単位でスプリアス・フリー・ダイナミックレンジ(Spurious Free Dynamic Range、SFDR)を使用することによって抽出できる。
【0057】
デバイス10の静電ゲーティング回路22は、第1のアーム16におけるインダクタンスと第2のアーム18におけるインダクタンスとを調整して、量子磁場受信デバイスのSFDRを最適化するために使用されうる。SFDRは、この種の量子受信デバイスによって取得される信号がデバイス10によってどれだけ歪められるかの指標である。線形性が高いほど、信号が歪むことが少なくなり、より多くの量の情報/信号を(より高速に)デバイス10を介して処理することができる。最終的には、図6は、理想的には100dBを超える線形性が得られることを示す。出願人は、この値が、他のいかなる固体技術で得られる値よりも高いことに注目し、これは、非常に速く変化する電磁場について得ることができるので、特に重要である。
【0058】
図5に示されるモデリング結果は、a)ジョセフソン接合JJ1およびJJ2における臨界電流がIc1=Ic2=Icであり、b)回路の左側および右側のインダクタンスの値が完全に対称的であるとされると想定することによって得られた。上述のように、条件a)およびb)は、現実のデバイス回路においてはとても容易に達成できないものであり、このことは、現実のBi-SQUIDデバイスにおいて観察される線形性が、線形性性能の点で、その完全な理想的な可能性に決してマッチしえないことを意味する。
【0059】
出願人は、これらの条件は、デバイス10がジョセフソン接合を調整するためにその静電ゲーティング回路22とともに使用されるのでない限り、理論的にしか見出すことができないことに注目する。一例として、上記のモデルが、デバイス・パラメータについての、より現実的な(かつ、はるかに対称性の低い)値で実行される場合、応答における線形性は、30~40dBを超えることができない。これは、超伝導デバイスに基づく多くの他の量子受信機よりも良好でありうるが、依然として、最良の理論的予測がこの技術について予期しているものの3分の1にすぎない。線形性はdBで表され、各dBは1桁の改善に関連するので、dBの3倍の改善は、数桁の非常に大きな改善を表すことに留意されたい。
【0060】
図7は、JJ2またはJJ3の臨界電流とJJ1の臨界電流との間の比を変化させることによって、Bi-SQUIDの磁束対電圧応答の線形性の理論的性能がどのように大幅に改善できるかを実証する。すなわち、図7は、SFDRとして表される典型的なDC-SQUID応答と比較して、Bi-SQUID応答の線形性のX倍の改善を示し、ここで、Xは1より大きく5より小さい。第1の臨界超電流ic1が第2の超電流ic2に実質的に等しいときに、SFDRの最大の改善が見られることがわかる。上述のように、これはBi-SQUIDの製造中に達成することは非常に難しいので、デバイス10は、製造後に臨界電流を制御するために静電ゲーティング回路22を利用する。
【0061】
したがって、デバイス10の静電ゲーティング回路22を使用して、上記のような仕方で臨界電流を変化させ、制御することができ、Bi-SQUID 14の一部の自己インダクタンスを変化させ、制御することができる。よって、デバイス10の静電ゲーティング回路22を使用することによって、製造されたBi-SQUIDをその理想的な動作条件に戻すことが可能である。すなわち、Bi-SQUIDの製造後にICの値および自己インダクタンスの値を変更する可能性を利用することによって、デバイス10のVout対Φeo応答における非常に高い線形性を達成することが可能である。
【0062】
超伝導量子干渉フィルタ(SQIF)24を含む別の量子磁場受信デバイス20が図8に示されている。SQIF 24は、たとえば量子感知用途における応答の線形性を改善するために、上述したものと同じアプローチを用いる。すなわち、SQIFは、DC-SQUIDの直接的な派生であり、製造後および動作中にそれらの回路におけるジョセフソン接合の一部または全部の臨界電流を制御できる能力から大いに利益を得る別のデバイス技術を表す。SQIF 26に組み込まれたJJの全部または一部の臨界電流に対するこの制御は、その線形性、SWaP、BWおよびSNRの観点で、デバイス24の性能を改善する。
【0063】
図8のSQIF 26は、N個の超伝導ループ、Loop1,2,…Nを含み、各ループは、第2のアーム30から離間した第1のアーム28を含む。第1の超伝導ループLoop1の第2のアーム30は、第2の超伝導ループLoop2の第1のアームを形成し、以下同様である。第1の超伝導ループLoop1の第1のアーム28は、第1のジョセフソン接合JJ1を有する。第1の超伝導ループLoop1の第2のアーム30は、第2のジョセフソン接合JJ2を有し、以下同様に、第NのループLoopNは、その第1のアームにおいて第Nのジョセフソン接合JJNを有し、その第2のアームにおいて第N+1のジョセフソン接合JJN+1を有する。
【0064】
上記のように、ジョセフソン接合JJ1…JN+1のそれぞれは接合材料を有し、デバイス24は、ジョセフソン接合に静電場を印加するように構成された静電ゲーティング回路32を有する。たとえば、第1の静電場が第1のジョセフソン接合JJ1に印加され、第2の静電場が第2のジョセフソン接合JJ2に印加され、第Nの静電場が第Nのジョセフソン接合JJNに印加され、第N+1の静電場が第N+1のジョセフソン接合JJN+1に印加される。また、上述のように、SQIF 26は、超伝導材料の臨界温度より低い温度で動作するときに超伝導特性を有する材料で作られることが理解されるであろう。
【0065】
よって、第1のジョセフソン接合JJ1の接合材料の第1の臨界超電流は、静電ゲーティング回路32によって提供される第1のゲート電圧によってもたらされる第1の静電場を接合材料に印加することによって調整可能である。第2のジョセフソン接合JJ2の接合材料の第2の臨界超電流は、静電ゲーティング回路32によって提供される第2のゲート電圧によってもたらされる第2の静電場を接合材料に印加することによって調整可能である。第3のジョセフソン接合JJ3の接合材料の第3の臨界超電流は、静電ゲーティング回路32によって提供される第3のゲート電圧によってもたらされる第3の静電場を接合材料に印加することによって調整可能であり、以下同様である。第1、第2、第3ないし第N+1の臨界超電流はみな、このように、この量子磁場受信デバイス24の磁束対電圧応答の線形性を改善するように、静電ゲーティング回路32によって調整される。
【0066】
量子磁場受信デバイス100の実施形態が、本発明者らによって製造され、図9に示されている。本発明者らは、デバイス100を使用して、超伝導材料に基づいて製作された量子受信機のジョセフソン接合が、各ジョセフソン接合の接合材料にそれぞれ静電場を印加することによって調整可能である場合、デバイス100の磁束対電圧応答の線形性を改善するようにジョセフソン接合の臨界超電流が調整されうることを実証した。製造されたデバイス100は、静電ゲーティング回路22に接続された第3のジョセフソン接合JJ3を有していない点で、図3に示されたデバイス10とは異なる。
【0067】
製造されたデバイス100は、異なる堆積角度で酸化ケイ素表面上に堆積された金属材料の2つの異なる層を有する。一方の層はアルミニウム(Al)であり、他方の層は銅(Cu)である。図9は、デバイス100の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。デバイス100は、上述のように、BI-SQUIDデバイスであり、これは、上述のような合計3つのジョセフソン接合(JJ1、JJ2、およびJJ3)を含む超伝導材料(1K未満で動作するときに超伝導になるAl)の2つのループによって製造される。
【0068】
BI-SQUIDデバイス100の実装では、3つのジョセフソン接合のうちの2つ(J1およびJ2)のみが、ジョセフソン接合の材料に静電場を印加することによって調整されうる。Cu層は、厚さが約20nmであり、Al層は、厚さが約100nmであり、幅が約250nmである。各ジョセフソン接合のCu部分は、すべて約320nmの長さであり、J1およびJ2のCu部分は、約130nmの幅であり、J3のCu部分は、70nmである。ジョセフソン接合JJ1およびJJ2の臨界超電流を調整するために使用されるゲート電極は、それぞれ、J1(V1)について約80nm、J2(V2)について約50nm離れている。JJ1およびJJ2を含むループBは、JJ1を含む他のループAよりも小さい。このデバイス100では、ループAとBの面積の比は13に等しい。このようにして、デバイス100の磁場変調応答は、Aを貫通する磁束によって支配され、これは、これらのデバイスの性能を改善するために使用されうる本質的な特徴である。
【0069】
図10において、本発明者らは、1つのゲートの値(V2)を変更することによって、量子センサーの電圧‐磁束応答における最大線形性の値をほぼ2倍にすることが可能であることを実証した。この図10は、図7においてIc3の値を固定し、Ic2/Ic1を変化させる方向に切断したものと等価であることに留意されたい。図7の理論的予測はよりシャープな効果を暗示していたが、図10で観察された効果は理論的に予測された結果と同等である。図10は、単一のBI-SQUIDセルに基づいて、デバイス100が、そのような高い(~50dB)線形性で動作することができることを示している。文献で観察される典型的な最良の数は、少なくとも数百のBI-SQUIDセルのアレイについて45dBを超えることはない。
【0070】
結論として、図9のデバイス100は、図示された幾何形状で製造され、超伝導材料に基づく量子受信機のジョセフソン接合が、各ジョセフソン接合の接合材料に静電場を印加することによって調整可能であり、これにより、磁束対電圧応答の線形性を改善するようジョセフソン接合の臨界超電流の調整が可能になることを実証する。
【0071】
最後に、本発明は、限られた数の実施形態との関連で説明されたが、前述の説明に照らして、多くの代替、修正、および変形が可能であることが、当業者によって理解されるであろう。よって、本発明は、開示された本発明の精神および範囲内に含まれうるようなすべての代替、修正および変形を包含することが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】