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特表2024-541317進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/025 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
G02F1/025
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024527347
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 SG2021050692
(87)【国際公開番号】W WO2023086009
(87)【国際公開日】2023-05-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521305136
【氏名又は名称】アドバンスド マイクロ ファウンドリー ピーティーイー.リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ADVANCED MICRO FOUNDRY PTE.LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】リー チャン
(72)【発明者】
【氏名】ルオ シエンシュー
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB04
2K102BC04
2K102CA00
2K102CA05
2K102CA06
2K102CA28
2K102DA05
2K102DD03
2K102EA03
2K102EA08
2K102EA12
2K102EA21
(57)【要約】
進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器。高効率及び高帯域幅光変調のための進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器が開示される。進行波電極を備えたIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器は進行波変調器となる。進行波変調器は、III-V化合物半導体層と、シリコン層と、III-V化合物半導体層とシリコン層との間の酸化物層とを含む。進行波変調器は、少なくとも1つの第1の金属層と、少なくとも1つの第2の金属層と、半導体層とを含む。インピーダンスと速度の整合を達成するために、各第2の金属層の電極トレース幅及び隣接する第2の金属層の間の間隔を調整する。進行波電極は、順方向及び逆方向バイアス下でIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器と集積するように設計される。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器であって、
前記進行波電極として機能する第1及び第2の金属層と、
III-V族化合物半導体層及びシリコン層と、
前記III-V族化合物半導体層と前記シリコン層との間の酸化物層と、を備え、
前記酸化物層の厚さは、前記変調器のインピーダンスと速度の整合を可能にするように設計される、変調器。
【請求項2】
少なくとも1つの第1のコネクタ及び少なくとも1つの第2のコネクタをさらに備える、請求項1に記載の変調器。
【請求項3】
前記進行波電極は、シリーズ-プッシュ-プル(SPP)駆動方式によって駆動される、請求項1に記載の変調器。
【請求項4】
前記第1の金属層は、互いに離れた3つの第1の金属部分を備える、請求項1に記載の変調器。
【請求項5】
前記第2の金属層は、互いに離れた2つの第2の金属部分を備える、請求項1に記載の変調器。
【請求項6】
前記第2の金属部分の各々は、隣接する第2の金属部分間の間隔が約5μm~約60μmである、請求項5に記載の変調器。
【請求項7】
前記酸化物層の厚さは、約5nm~約50nmである、請求項1に記載の変調器。
【請求項8】
前記III-V族化合物半導体層は、InGaAsP、InP、または強い光電気効果を有する他のIII-V族化合物材料を含む、請求項1に記載の変調器。
【請求項9】
進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器の製造方法であって、
III-V族化合物半導体層とシリコン層とを製造する工程であって、酸化物層が前記III-V族化合物半導体層と前記シリコン層との間にある工程と、
前記半導体層に接続された少なくとも1つの第1のコネクタを製造する工程と、
少なくとも1つの前記第1のコネクタに接続された第1の金属層を製造する工程と、
前記第1の金属層に接続された少なくとも1つの第2のコネクタを製造する工程と、
少なくとも1つの前記第2のコネクタに接続された第2の金属層を製造する工程と、を備え、
前記酸化物層の厚さは、前記変調器のインピーダンスと速度の整合を可能にするように設計される、方法。
【請求項10】
前記進行波電極は、シリーズ-プッシュ-プル(SPP)駆動方式によって駆動される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の金属層は、互いに分離した3つの第1の金属部分を備える、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の金属層は、互いに離れた2つの第2の金属部分を備える、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の金属部分の各々は、約5μmから約60μmの隣接する第2の金属部分間の間隔を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化物層の厚さは、約5nmから約50nmである、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、進行波電極を有するIII-V族化合物半導体及びシリコン(Si)ハイブリッド金属-酸化物-半導体(Metal-Oxide-Semiconductor)(MOS))光変調器に関する。進行波変調器は、高速変調のための大きな容量の影響を緩和するために、シリーズ-プッシュ-プル(SPP)駆動方式を使用する。
【背景技術】
【0002】
III-V族化合物半導体は、周期表のIII族及びV族の元素を含む合金である。III-V族半導体の中には窒化物半導体の部分集合がある。III-V/Siハイブリッド金属-酸化物-半導体(MOS)光変調器は、高効率、低エネルギー、高速光変調に有望である。しかし、MOS光変調器は酸化物容量が大きく、インピーダンスと速度の整合が困難であるため、進行波電極を用いたIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器の実証は行われていない。
【0003】
変調効率と変調帯域幅の間にはトレードオフの関係がある。現在、MOS型光変調器は集中電極を備えたものが主流である。特に順方向バイアス下では、大きな酸化物容量によって変調帯域幅が制限される。変調帯域幅が30GHzに達すると、金属パッド及び基板からの寄生効果が顕著になり、実現可能な変調帯域幅がさらに制限される。また、大きな酸化物容量は、過大な負荷容量では速度とインピーダンスの整合を実現することが困難であるため、進行波電極の設計においても課題となっている。
【0004】
現在の技術分野及び公表文献では、以下の変調器が開示されている。
・金属酸化物半導体容量を用いた高速シリコン光変調器。この従来技術では、変調器はPoly-Si/Si MOS構造、電極は集中型、帯域幅は約1GHz、移相器長は2.5mmである。
・多結晶シリコンの固相結晶化を用いた高速・高効率MOS接合Si光変調器と、光配線用の高性能MOS容量型Si光変調器及び面照射型Ge光検出器。変調器はPoly-Si/Si MOS構造、電極は集中型、帯域幅は約4GHzから7GHz、移相器長は200μmである。
・高帯域容量効率シリコンMOS変調器、変調器はPoly-Si/Si MOS構造、電極は集中型、帯域幅は35GHz以上、移相器長は200μmである。
・低消費電力の300mmシリコンフォトニクスプラットフォームにSiGe強化Si容量変調器を集積したものである。変調器はPoly-Si/SiGe MOS構造を有し、電極は集中型であり、帯域幅は約4GHz、移相器長は700μmである。
・30GHzの異種集積容量InP-on-Siマッハツェンダ変調器である。この従来技術では、変調器はInP/Si MOS構造を有し、電極は集中型であり、帯域幅は約11(30)GHz、移相器長は500(200)μmである。
・異種集積III-V/Si MOS容量マッハツェンダ変調器である。この従来技術では、変調器はInGaAsP MOS構造を有し、電極は集中型であり、帯域幅は約2.2GHz、移相器長は250μmである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このため、従来の酸化物容量の大きなMOS光変調器では、変調帯域幅が制限される。変調周波数が30GHzを超えると、金属パッド及び基板の寄生効果が大きくなり、変調帯域幅がさらに制限される。
【0006】
そこで、高い変調効率と大きな変調帯域幅を同時に実現できる進行波電極を用いたIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の要約は、開示された実施形態に特有の革新的な特徴のいくつかの理解を容易にするために提供され、完全な説明を意図するものではない。本明細書に開示された実施形態の様々な態様の完全な理解は、全体として、明細書、特許請求の範囲、図面及び要約を考慮することによって得ることができる。
【0008】
本開示の第1の態様では、III-V/SiハイブリッドMOS光変調器は、進行波電極として機能する第1及び第2の金属層を含む進行波電極と、III-V化合物半導体層、シリコン層、及びIII-V化合物半導体層とシリコン層との間の酸化物層と、を備え、酸化物層の厚さは、変調器のインピーダンスと速度の整合を可能にするように設計される。
【0009】
本開示の第1の態様によれば、少なくとも1つの第1のコネクタ及び少なくとも1つの第2のコネクタをさらに含む。
【0010】
本開示の第1の態様によれば、進行波電極は、シリーズ-プッシュ-プル(SPP)駆動方式によって駆動される。
【0011】
本開示の第1の態様によれば、第1の金属層は、互いに離れた3つの金属部分を含む。
【0012】
本開示の第1の態様によれば、第2の金属層は、互いに離れた2つの金属部分を含む。
【0013】
本開示の第1の態様によれば、各第2の金属部分は、隣接する第2の金属部分間の間隔が約5μm~約60μm程度である。
【0014】
本開示の第1の態様によれば、酸化物層の厚さは、約5nm~約50nm程度である。
【0015】
本開示の第1の態様によれば、III-V族化合物半導体層は、InGaAsP、InP、または強い光電気効果を有する他のIII-V族化合物材料からなる。
【0016】
本開示の第2の態様では、進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器を製造するための設計パラメータを得る方法は、III-V化合物半導体層及びシリコン層を製造する工程であって、酸化物層がIII-V化合物半導体層とシリコン層との間にある工程と、半導体層に接続する第1のコネクタを製造する工程と、第1のコネクタに接続する第1の金属層を製造する工程と、第1の金属層に接続する第2のコネクタを製造する工程と、第2のコネクタに接続する第2の金属層を製造する工程と、を備え、酸化物層の厚さは、変調器のインピーダンスと速度の整合を可能にするように設計される。酸化物層の厚さは、得られる変調効率及び帯域幅に影響を及ぼす。すなわち、酸化物層が薄すぎたり厚すぎたりすると、インピーダンスと速度の整合を達成できなくなる。
【0017】
本開示の第2の態様によれば、進行波電極は、シリーズ-プッシュ-プル(SPP)駆動方式によって駆動される。
【0018】
本開示の第2の態様によれば、第1の金属層は、互いに離れた3つの第1の金属部分を含む。
【0019】
本開示の第2の態様によれば、第2の金属層は、互いに離れた2つの第2の金属部分を含む。
【0020】
本開示の第2の態様によれば、各第2の金属部分は、隣接する第2の金属部分間の間隔が約5μmから約60μmである。
【0021】
本開示の第2の態様によれば、酸化物層の厚さは、約5nmから約50nmである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】進行波電極とSPP駆動方式を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器の概略図である。
【0023】
図2】III-V/SiハイブリッドMOS光変調器の進行波電極の設計パラメータを得るためのシミュレーションに含まれる種々の要素及びプロセスを示すブロック図である。
【0024】
図3】順方向バイアス下で動作するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器の概略図である。
【0025】
図4】逆方向バイアス下で動作するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器の概略図である。
【0026】
図5A】順方向バイアス下でのキャリア収容中に、X軸に沿って電極間隔をとり、Y軸に沿って電極トレース幅をとって描画した特性インピーダンスグラフである。
【0027】
図5B】順方向バイアス下でのキャリア収容中に、X軸に沿って電極間隔をとり、Y軸に沿って電極トレース幅をとって描画したマイクロ波屈折率グラフである。
【0028】
図6A】逆方向バイアス下でのキャリア空乏中に、X軸に沿って電極間隔をとり、Y軸に沿って電極トレース幅をとって描画した特性インピーダンスグラフである。
【0029】
図6B】逆方向バイアス下でのキャリア空乏中に、X軸に沿って電極間隔をとり、Y軸に沿って電極トレース幅をとって描画したマイクロ波屈折率グラフである。
【0030】
図7A】順方向バイアス下でのキャリア収容中に、X軸に沿って周波数をとり、Y軸に沿ってS-21応答をとって描画したシミュレート変調帯域幅グラフである。
【0031】
図7B】順方向バイアス下でのキャリア収容中に、X軸に沿って周波数をとり、Y軸に沿ってS-21応答をとって描画した別のシミュレート変調帯域幅グラフである。
【0032】
図7C】逆バイアスでのキャリア空乏化中にX軸に沿って音響レベルをとり、Y軸に沿って周波数をとって描画したシミュレーション変調帯域幅グラフを示す。
【0033】
図7D】逆バイアスでの空乏化中にX軸に沿って周波数をとり、Y軸に沿ってS-21応答をとって描画した別のシミュレーション変調帯域幅グラフを示す。
【0034】
図8】III-V/SiハイブリッドMOS光変調器で使用される進行波電極を製造するための設計パラメータを得る例示的なプロセスのフローチャートを示す。
【0035】
図9】進行波変調器のインピーダンスと速度の整合を実現するための電極幅及び間隔設計を達成する例示的なプロセスのフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
上記の要約、ならびに例示的な実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むとよりよく理解される。本開示を説明する目的で、開示の例示的な構成を図面に示す。しかしながら、本開示は、本明細書に開示される特定の方法及び手段に限定されない。さらに、当業者は、図面が正確な縮尺ではないことを理解するであろう。可能な限り、同様の要素は同一の番号で示されている。
【0037】
以下の説明で議論される特定の構成は、変更可能な非限定的な例であり、少なくとも1つの実施形態を説明するためだけに引用され、その範囲を限定することを意図していない。
【0038】
図1は、シリーズ-プッシュ-プル(SPP)方式によって駆動される進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器の概略図を示す。断面図100は、所望の特性及び特性を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器に使用される進行波電極を提供する際の、様々な層及び互いに対するコンポーネントの配向の例示的な設計パラメータを示す。本明細書に開示される提供される変調器は、進行波変調器と呼ぶこともできる。
【0039】
一実施形態では、本明細書に開示される変調器は、図1に示すように所定の態様で配置された少なくとも1つの半導体層112、少なくとも1つの第1の金属層108及び少なくとも1つの第2の金属層102を含むことができる。少なくとも1つの第1のコネクタ110は、第1の金属層108及び半導体層112を接続することができる。少なくとも1つの第2のコネクタ104は、第1の金属層108及び第2の金属層102を接続することができる。
【0040】
半導体層112は、シリコン層103、酸化物層126及びIII-V化合物半導体層101を含むことができ、酸化物容量を形成する。第1の金属層108、第2の金属層102及び半導体層112は、進行波変調器のインピーダンスと速度の整合が同時に達成されるように配置及び構成することができる。
【0041】
一実施形態では、酸化物層126は、III-V半導体層101及びシリコン層103を分離し、それによって、本明細書に開示された変調器は、III-V半導体層101とシリコン層103との間の空間またはギャップを埋めるために酸化物で充填され、酸化物層126を提供することができる。
【0042】
一実施形態では、第1の金属層108は、互いに離れた3つの第1の金属部分108a、108b、108cを含むことができる。2つの遠位の金属部分108a、108cは、半導体層112の両端に、重なり合う部分を設けて配置され、それに接続することができる。残りの金属部分108bは、半導体層112に対して近位及び中央に配置されることができる。この実施形態では、3つのコネクタ110を使用して、第1の金属層108の3つの金属部分を半導体層112に接続することができる。
【0043】
一実施形態では、第2の金属層102は、互いに離れた2つの第2の金属部分102a、102bを含むことができる。2つの金属部分102a、102bの各々は、遠位金属部分108a、108cの1つと重なり合うように配置され、それらに接続することができる。この実施形態では、2つのコネクタ104を使用して、第2の金属層102の2つの金属部分を第1の金属層108の2つの遠位金属部分に接続することができる。
【0044】
一実施形態では、第2の金属部分102a、102bは、トレース幅120、124及び隣接する第2の金属部分間の間隔122を有することができる。
【0045】
MOS進行波光変調器のインピーダンスと速度の整合を達成するために、III-V半導体層101とシリコン層103との間の幅120、124、間隔122及び酸化物層(すなわちギャップ)126の厚さは、考慮すべき重要な要素である。測定値120、122及び124は、それぞれ、酸化物層126の厚さによって決定される酸化物容量に応じて、20μmから130μmまで変化させることができる。一実施形態では、間隔122は、5μmから60μmの範囲とすることができる。一実施形態では、間隔122は、約20μm、30μm、40μmまたは50μmから選択することができる。酸化物層の厚さが45nmのキャリア蓄積モードの場合、間隔122が20μmから50μmに増加すると、幅120及び124は、46.7μmから126.7μmに直線的に変化する。酸化物層の厚さが10nmのキャリア空乏モードの場合、間隔122が20μmから50μmに増加すると、幅120及び124は、27.1μmから119.5μmに線形に変化する。
【0046】
酸化物層の厚さは、インピーダンスと速度の整合を可能にするのに十分な厚さとすることができる。酸化物層126の厚さ(すなわち101から103の間のギャップ)は、5nmから100nmまで、好ましくは5nmから50nmまで変化させることができる。逆バイアスを用いるキャリア空乏モードの一実施形態では、酸化物層の厚さは、約10nmである。順バイアスを用いるキャリア蓄積モードの一実施形態では、酸化物層の厚さは、約45nmである。
【0047】
シリーズ-プッシュ-プル(SPP)駆動方式100を用いて、各第2の金属部分(102a及び102b)のトレース幅120及び/または124、及び隣接する第2の金属部分間の間隔122は、第1のコネクタ110及び第2のコネクタ104の位置を変更することによって調整することができる。中央の第1の金属部分108bは、108bの左側及び右側のIII-V/SiハイブリッドMOS光移相器に電気バイアスを与えるために使用することができる。第2の金属部分102a、102bにマイクロ波変調信号を印加することにより、2つのIII-V/SiハイブリッドMOS光移相器に変調信号を均等に分配することができる。2つのIII-V/SiハイブリッドMOS光移相器を直列に接続することにより、総等価容量を半分にすることができる。所定の構造により、進行波変調器のインピーダンスと速度の整合が可能となる。本発明の一実施形態では、進行波変調器のインピーダンスと速度の整合を可能にするSPP駆動を用いることにより、大きな酸化物容量を半分にする。インピーダンスと速度の整合により、小さなバイアス電圧で60GHzを超える変調帯域幅が得られる。したがって、進行波電極の間隔とトレース幅は重要な設計パラメータである。
【0048】
本明細書に開示されているIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器は、コネクタと金属層の間の距離、ドーピング領域111a及び111bの幅、同じ第2の金属層内の隣接する第2の金属部分の間隔122を考慮して設計することができる。この点に関して、ドーピング領域は103のシリコン領域内にあり、それによってドーピング領域111a及び111bの幅は3μmから6μmにすることができる。コネクタと金属層の間の距離及び隣接する金属部分の間隔は、製造に使用されるリソグラフィによって制限され、1から90μmの範囲であり得る。第2の金属層内の間隔及びトレース幅、ならびに酸化物層の厚さは、インピーダンスと速度の整合を達成するように設計することができる。SPP駆動方式により静電容量が半分に減少し、インピーダンスと速度の整合が可能となった。
【0049】
図2は、III-V/SiハイブリッドMOS光変調器の進行波電極の設計パラメータを得るためのシミュレーションに含まれる様々な要素及びプロセスを示すブロック図200を示す。HFSSシミュレーションプロセスは、ステップ202で開始し、HFSSを用いて、異なる間隔及び幅を有する様々な電極設計をシミュレーションする。ステップ206で、減衰、屈折率、Z及びSパラメータが得られる。次に、ステップ206からのデータを用いて、ステップ214でRLGCモデルを構築する。ステップ208におけるように、Silvacoシミュレーションを実行して、ステップ218におけるように、III-V/SiハイブリッドMOS光移相器のRCモデルを得る。このステップは、ステップ212におけるように、数値計算によって実行することもできる。無負荷のRLGCモデルに、III-V/SiハイブリッドMOS移相器のRCモデルを負荷する。ステップ220と222におけるように、負荷されたRLGCモデルは、Zとnを一致させるための電極設計を生成する。ステップ224と226におけるように、III-V/SiハイブリッドMOS光変調器のフルスタックHFSSシミュレーションを実行し、対応する3-dB変調帯域幅を得る。このシミュレーションフローは、電極幅と間隔を変えることによって、異なる特性インピーダンスZと屈折率nを与える。インピーダンスと速度の整合条件は、Zが50Ωに近く、nが光学群屈折率である3.7に近いときに達成される。インピーダンスと速度の整合条件では、3-dBの変調帯域幅が大きいことが期待される。このシミュレーションフローを用いて、変調器のインピーダンスと速度の整合を可能にする電極幅と間隔の関係が得られる。
【0050】
図3は、順方向バイアス下で動作する図1の変調器と一致するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器300の概略図を示す。図3及び図4には、n-III-V材料302、p-Si材料304及び酸化物層303が示されている。図3は、順方向バイアス下(電界E308)の変調器を示す。306及び310は、それぞれn-III-V材料及びp-Si材料における電子及び正孔である。順方向バイアス下のIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器は、III-V材料における効率的な自由キャリア分散効果により、高い変調効率(酸化物厚に依存してVπL<0.1Vcm)を示した。
【0051】
図4に示すように、変調器300は逆方向バイアス下で駆動される。なお、本発明は、光変調にキャリア空乏化及びF-K効果を利用した逆方向バイアス(電界E308)だけでなく、キャリア蓄積を利用した順方向バイアス下でも動作可能である。本発明は、高速変調のための大容量の影響を緩和するSPP駆動方式の進行波電極の設計を提供する。図3及び図4は、自由キャリアによる変調メカニズムを説明するものであり、進行波電極の設計に直接関係しないことに留意されたい。
【0052】
図5Aは、キャリア収容時のX軸に沿った電極間隔をとり、Y軸に沿った電極トレース幅をとって描いた順方向バイアス下のIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器の特性インピーダンスグラフ402を示す。図5Aは、Si導波路幅=500nm及び酸化物層厚tox=45nmのIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器のシミュレーション結果を示す。図5Bは、順方向バイアス下のキャリア収容時のX軸に沿った電極間隔をとり、Y軸に沿った電極トレース幅をとって描いた順方向バイアス下のIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器のマイクロ波インデックスグラフ404を示す。インピーダンスと速度の整合を可能にする電極間隔(S)と幅(W)との関係は、W=2.667×S-6.67である。領域401及び403は、インピーダンスと速度の整合が同時に達成される位置を示す。
【0053】
図6Aは、キャリア空乏時のX軸に沿った電極間隔をとり、Y軸に沿った電極トレース幅をとって描いた逆方向バイアス下のIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器の特性インピーダンスグラフ502を示す。図6Aは、Si導波路幅=500nm及び酸化物層厚tox=10nmを有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器のシミュレーション結果を示す。図6Bは、キャリア空乏時のX軸に沿った電極間隔をとり、Y軸に沿った電極トレース幅をとって描いた逆方向バイアス下のIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器のマイクロ波インデックスグラフ504を示す。インピーダンスと速度の整合を可能にする電極間隔(S)と幅(W)の関係は、W=3.08×S-34.47である。領域501及び503は、インピーダンスと速度の整合が同時に達成される位置を表す。
【0054】
図7Aは、酸化物層厚45nm、VπL=0.6Vcmの順方向バイアスにおけるキャリア収容時に、X軸に沿って周波数をとり、Y軸に沿ってS-21応答を取って描画された変調帯域幅のシミュレーショングラフ602を示す。このグラフは、移相器長=0.5mm、Vπ=12V、Vpp=4.8Vで、3-dB変調帯域幅が57GHzであることを示す。Vπはπ位相シフトに必要な電圧であり、Vppは変調信号の電圧スイングである。グラフ603、604、605及び606は、Gap20、Gap30、Gap40、及びGap50で描画される。Gap20、Gap30、Gap40、及びGap50は、それぞれ電極間隔20μm、30μm、40μm、及び50μmに対応する。
【0055】
図7Bは、酸化物層厚45nm、VπL=0.6Vcmの順方向バイアスでのキャリア収容中に、X軸に沿って周波数をとり、Y軸に沿ってS-21応答をとって描画された別のシミュレートされた変調帯域幅グラフ612を示す。グラフは、3-dB変調帯域幅が移相器長=1mm、Vπ=6V、及びVpp=2.4Vで31GHzであることを示す。グラフ613、614、615及び616は、Gap20、Gap30、Gap40、及びGap50で描画される。
【0056】
図7Cは、酸化物層厚10nm、及びVπL=0.15Vcmの逆方向バイアスでのキャリア空乏化中に、X軸に沿って周波数をとり、Y軸に沿ってS-21応答をとって描画されたシミュレートされた変調帯域幅グラフ622を示す。グラフは、3-dB変調帯域幅が移相器長=0.5mm、Vπ=3V、及びVpp=1.2Vで63GHzであることを示す。グラフ623、624、625及び606は、Gap20、Gap30、Gap40、及びGap50で描画される。
【0057】
図7Dは、酸化物層厚45nm、VπL=0.6Vcmの逆バイアスでの空乏化中に、X軸に沿って周波数をとり、Y軸に沿ってS-21応答をとって描いた別のシミュレーション変調帯域幅グラフ632を示している。グラフは、移相器長=1mm、Vπ=1.5V、Vpp=0.6Vでの3-dB変調帯域幅が35GHzであることを示している。グラフ633、634、635及び636は、Gap20、Gap30、Gap40、及びGap50で描かれている。
【0058】
図8は、III-V/SiハイブリッドMOS光変調器に使用される進行波電極を製造するための構造を達成するための例示的なプロセス800のフローチャートを示している。ステップ802におけるように、まず半導体層を製造する。このステップでは、III-V層とSi層との間の酸化物層の厚さを制御して、設計された容量を得る。ステップ804におけるように、半導体層に接続された第1のコネクタを製造する。次に、ステップ806におけるように、第1のコネクタに接続された第1の金属層を製造する。次に、ステップ808におけるように、第1の金属層に接続された第2のコネクタを製造する。ステップ810におけるように、第2のコネクタに接続された第2の金属層を製造する。第2の層における第2の金属部分の幅及び第2の層における隣接する第2の金属部分間の間隔は、シミュレーションによって決定される。シリーズ-プッシュ-プル(SPP)駆動方式は、インピーダンスと速度の整合を可能にする大きな酸化物容量を半分にする。
【0059】
図9は、進行波変調器のインピーダンスと速度の整合を達成するための電極設計を得るための例示的なプロセス850のフローチャートを示す。ステップ852におけるように、少なくとも一つの電極設計が、無負荷の抵抗、インダクタンス、コンダクタンス及び容量(RLGC)モデルに入力される。次に、ステップ854におけるように、RLGCモデルが、III-V/SiハイブリッドMOS移相器の抵抗-キャパシタンス(RC)モデルで負荷される。次に、ステップ856におけるように、進行波電極を製造するための少なくとも一つの設計パラメータが得られる。ステップ858におけるように、設計パラメータを用いて、高周波構造シミュレータでフルスタック構造がシミュレーションされる。ステップ860におけるように、変調器の3-dB変調帯域幅が得られる。
【0060】
III-V/Siハイブリッド金属-酸化物-半導体(MOS)光変調器は、高効率、低エネルギー、高速光変調用として有望である。しかしながら、この種の変調器では、インピーダンスと速度の整合を困難にする大きな酸化物容量のために進行波電極が実証されていない。本発明は、III-V/SiハイブリッドMOS光変調器のための進行波電極の設計を開示する。シリーズ-プッシュ-プル(SPP)構成と異なるバイアス方式を用いることにより、インピーダンスと速度の整合を達成し、小さなバイアス電圧で60GHz以上の変調帯域幅を実現した。
【0061】
III-V/SiハイブリッドMOS光変調器の高い変調効率は、低い駆動電圧で短い光移相器長を可能にする。短い移相器長は、低いRF損失と高い変調帯域幅をもたらす。SPP駆動方式は、素子容量を半分に減らし、インピーダンスと速度の整合を可能にする。
【0062】
特に、進行波電極は、順方向(キャリア蓄積)及び逆方向(キャリア空乏)バイアス条件下でIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器と一体化するように設計された。次の表1は、順方向及び逆方向バイアス条件下での進行波電極の各種パラメータを示す。以下の表1において、EOTは酸化膜厚、Lは移相器長、Vπはπ移相器に必要な電圧、VπLはVπとLの積、Vppは駆動ピークツーピーク電圧、f3dBは3-dB変調帯域幅である。電極配線幅と金属電極間隔を所定の値に調整し、他のパラメータ及びバイアス方式とともに、進行波変調器のインピーダンスと速度を整合させる構造を実現した。
【表1】
表1

【0063】
本発明は、III-V/SiハイブリッドMOS光変調器の進行波電極の設計について説明する。提案された技術は、SiGe/SiまたはポリSi/Siなどの金属-酸化物-半導体(MOS)または半導体-絶縁体-半導体(SIS)キャパシタに基づく他の光変調器にも適用可能である。本発明のIII-V材料は、強い光-電気効果を有するInGaAsP、InPまたは他のIII-V化合物材料に限定されない。III-V/SiハイブリッドMOS光変調器用に設計された進行波電極は、より大きな変調帯域幅を可能にし、集中電極によってもたらされるRC制限を克服する。500mmの短い移相器により、60GHzを超える帯域幅が予測される。
【0064】
上記開示の変形及び他の特徴及び機能、またはそれらの代替物は、望ましくは、他の多くの異なるシステムまたは用途に組み合わせることができることが理解されよう。また、現在予期されていないまたは予期されていない様々な代替物、修正、変形または改良が、その後、当業者によって行われる可能性があり、それらはまた、以下の請求項によって包含されることを意図している。
【0065】
本開示の実施形態は、可能な態様をカバーするためにかなり詳細に包括的に説明されているが、当業者は、本開示の他のバージョンも可能であることを認識するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2022-05-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器であって、
進行波電極として機能する第1および第2の金属層と、
III-V化合物半導体層およびシリコン層と、
III-V化合物半導体層とシリコン層との間の酸化物層と、を備え、
前記酸化物層の厚さは、前記変調器のインピーダンスと速度の整合を可能にするように設計される、変調器。
【請求項2】
少なくとも1つの第1のコネクタおよび少なくとも1つの第2のコネクタをさらに備える、請求項1に記載の変調器。
【請求項3】
前記進行波電極は、シリーズ-プッシュ-プル(SPP)駆動方式によって駆動される、請求項1に記載の変調器。
【請求項4】
前記第1の金属層は、互いに分離した3つの第1の金属部分を備える、請求項1に記載の変調器。
【請求項5】
前記第2の金属層は、互いに離れた2つの第2の金属部分を含む、請求項1に記載の変調器。
【請求項6】
前記第2の金属部分は、隣接する第2の金属部分間の間隔が約5μm~60μmである、請求項5に記載の変調器。
【請求項7】
前記酸化物層の厚さは、約5nm~50nmである、請求項1に記載の変調器。
【請求項8】
前記III-V化合物半導体層は、InGaAsP、InP、または光電気効果を有する他のIII-V化合物材料を含む、請求項1に記載の変調器。
【請求項9】
進行波電極を有するIII-V/SiハイブリッドMOS光変調器の製造方法であって、
酸化物層がIII-V化合物半導体層とシリコン層との間にある前記III-V化合物半導体層と前記シリコン層とを製造する工程と、
前記III-V化合物半導体層に接続する少なくとも1つの第1コネクタを製造する工程と、
少なくとも1つの前記第1コネクタに接続する第1の金属層の金属部分を製造する工程であって、前記第1の金属層は複数の金属部分を含む工程と、
前記第1の金属層の複数の金属部分からの別の金属部分に接続する少なくとも1つの第2コネクタを製造する工程と、
少なくとも1つの前記第2コネクタに接続する第2の金属層を製造する工程と、を備え、
前記酸化物層の厚さは、前記変調器のインピーダンスと速度の整合を可能にするように設計される、方法。
【請求項10】
前記進行波電極は、シリーズ-プッシュ-プル(SPP)駆動方式によって駆動される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の金属層は、互いに離れた3つの第1の金属部分を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の金属層は、互いに離れた2つの第2の金属部分を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
各第2の金属部分は、約5μmから60μmの隣接する第2の金属部分間の間隔を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化物層の厚さは、約5nmから50nmである、請求項9に記載の方法。
【国際調査報告】