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▶ イノヴィン ユーロップ リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20241031BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20241031BHJP
   C08F 214/06 20060101ALI20241031BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K3/26
C08F214/06
C08F220/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527349
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 EP2022081096
(87)【国際公開番号】W WO2023083794
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】21207833.1
(32)【優先日】2021-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523176129
【氏名又は名称】イノヴィン ユーロップ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】エルマン トーマス
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BD05W
4J002BD09W
4J002DA096
4J002DA106
4J002DA116
4J002DE266
4J002DE276
4J002DE286
4J002DJ046
4J002FD016
4J002FD176
4J002FD206
4J002HA09
4J100AA00Q
4J100AC03P
4J100AE00Q
4J100AG01Q
4J100AL03Q
4J100CA04
4J100DA16
4J100EA05
4J100GB05
4J100GC25
(57)【要約】
本発明は、組成物、特に、a.塩化ビニル及び第2のモノマーを含むポリ塩化ビニル含有コポリマーであって、第2のモノマーは、そのホモポリマーが82℃より低いガラス転移温度Tgを有するモノマーである、ポリ塩化ビニル含有コポリマー、及びb.最大で10質量%のハイドロタルサイト化合物を含み、ハイドロタルサイト化合物が20.5質量%以下のマグネシウムを有する、組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.塩化ビニル及び第2のモノマーを含むポリ塩化ビニル含有コポリマーであって、第2のモノマーが、そのホモポリマーが82℃より低いガラス転移温度Tgを有するモノマーである、ポリ塩化ビニル含有コポリマー、及び
b.最大で10質量%のハイドロタルサイト化合物
を含有し、ハイドロタルサイト化合物が20.5質量%以下のマグネシウムを有する、組成物。
【請求項2】
ポリ塩化ビニル含有コポリマーが、カルボン酸ビニル、ビニルエーテル、オレフィン及びアルキル(メタ)アクリレートから選択される、好ましくはカルボン酸ビニル、特に酢酸ビニル、及びアルキル(メタ)アクリレートから選択される第2のモノマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
第2のモノマーがアルキル(メタ)アクリレートである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
a.塩化ビニル及びアルキル(メタ)アクリレートを含むポリ塩化ビニル含有コポリマー、及び
b.最大で10質量%のハイドロタルサイト化合物
を含有し、ハイドロタルサイト化合物が20.5質量%以下のマグネシウムを有する、組成物。
【請求項5】
アルキル(メタ)アクリレートがC2-C8アルキル基を含む、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項6】
アルキル(メタ)アクリレートがアクリル酸エチルヘキシル又はアクリル酸n-ブチルである、請求項3~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
ポリ塩化ビニル含有コポリマーがポリ塩化ビニル-アクリル酸ブチルコポリマーである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
コポリマーが、少なくとも60質量%の塩化ビニル、好ましくは少なくとも70質量%の塩化ビニルを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
ハイドロタルサイト化合物が、20質量%以下のマグネシウム、例えば14質量%~20質量%のマグネシウムを有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
ハイドロタルサイト化合物が、少なくとも0.2質量%、好ましくは少なくとも1質量%の、Sn、Pb、Ca、Ba、Zn及びCdから選択される少なくとも1種の金属を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1種の金属がZn又はCaであり、好ましくは少なくとも1種の金属がZnである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
ハイドロタルサイト化合物が、少なくとも10質量%の亜鉛を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
ハイドロタルサイト化合物が、2.2以下のMg/Alのモル比を有し、好ましくはハイドロタルサイト化合物が1.50~2.00のMg/Alのモル比を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
塩化ビニル及び第2のモノマーを含むポリ塩化ビニル含有コポリマーを含む組成物の固結を低減させるためのハイドロタルサイトの使用であって、第2のモノマーは、そのホモポリマーが82℃より低いガラス転移温度Tgを有するモノマーであり、ハイドロタルサイト化合物は20.5質量%以下のマグネシウムを有する、前記使用。
【請求項15】
ポリ塩化ビニル含有コポリマー及び/又はハイドロタルサイトが請求項1~13のいずれか1項に記載の通りである、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、特に、塩化ビニル含有コポリマーを含み、保管後も良好な粉体流動特性を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル(PVC)は、現在、市場で最も重要な熱可塑性材料の1つである。その非常に良好な機械的及び物理的特性から、ポリ塩化ビニルは多数の用途に使用されている。
PVCの製造には、幾つかの方法が知られている。例えば、PVCは、懸濁液において、懸濁剤の存在下、塩化ビニルの懸濁重合によって製造することができる。これにより、PVC粒子のスラリー(又は懸濁液)が生成し、典型的には100~200μm程度の粒径である。結果として得られるPVCのスラリーは、次いで通常は遠心分離、続いて流動層乾燥によって乾燥され、多孔質(すなわち、吸着性)のPVCをもたらす。懸濁法により製造されるPVCは、「S-PVC」と称される。S-PVCは可塑剤を吸収し、乾燥混合物を生成することができる。
PVCはまた、ペースト又は乳化重合法として一般に知られる方法で製造することもできる。乳化重合法は、重合によって、S-PVC法に対して比較的小さな粒径、典型的には0.1~5μmのポリマー粒子のラテックスが生成されることを特徴とし得る。ラテックスは、例えば噴霧乾燥によって乾燥され、凝集体の形態のPVC粒子が生成される。乾燥したPVCポリマー粒子は、懸濁PVC法で生成された乾燥粒子より典型的には格段に小さい。
異なる用途に好適にするためにPVCに添加剤を添加することが知られている。また、塩化ビニルモノマーをコモノマーの存在下で重合させ、特性を改善させることも知られている。PVCにとって最も一般的なコモノマーは、酢酸ビニルである。
【0003】
PVCポリマーは、乾燥した粉末の形態で製造され、保管されることが多い。粉末は保管され、必要な場合には「緩い」形態で出荷され、例えばサイロで保管され、タンクローリーで出荷されることができる。PVCはまた、袋に入れて保管されることもある(そして出荷されてもよい)。保管の間、粉末は凝集することがあり、そのために材料が塊を有したり、完全に圧密になることさえある。これを防ぐために、添加剤を粉末に添加してもよい。このような添加剤は、一般的に「固結防止剤」又は「流動性改善剤」として知られる。当技術分野でPVC粉末のための固結防止剤として知られる化合物には、炭酸カルシウム及びシリカが挙げられる(「流動性」はこの意味では、粉体の流動性を指し、融解したPVCの流動性又は流動度の尺度である「メルトフロー」などの特性を指すのではないことに留意すべきである)。
【0004】
PVCのホモポリマー自体は、一般的にかなり剛性である。PVCに可塑剤を添加し、より可撓性にすることが知られている。これらの物質は、低揮発性である液体又は固体であり得る。しかし、全体としては、そのような製品の可撓性は長期に持続するものではない。PVCの可撓性を改善する代替的な方法は、塩化ビニルモノマーを、可撓性を改善させるコモノマーの存在下で重合させることにより、「事前可塑化」することである。特に好ましいコモノマーは、アクリレート及びメタクリレートである。国際公開第2015/090657号は、例えば、ハロゲン化ビニルと第2のモノマー、好ましくはアクリレートとを反応させ、各モノマーの量が制御された一連のステップにおいて重合を準備する、ポリマーの調製のための方法を説明している。この文書では、最終生成物におけるモノマーの割合を正しくすれば、追加的な可塑剤を添加する必要はないとされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは今回、特定のクラスのハイドロタルサイトが固結防止剤として有用であることを見出した。特に、ハイドロタルサイトは、熱安定剤及び/又は充填剤として作用するようPVCに添加されることが知られている。しかし、本発明者らは、特定のクラスのハイドロタルサイトは、顕著に長い期間にわたっても非常に有効な固結防止剤となり得ることを見出した。これは、「従来からの」固結防止剤及び他のハイドロタルサイト化合物も、この目的では有効ではないことが見出されていたため、特に驚くべきである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、比較例1の試験結果を示す。
図2図2は、比較例2の試験結果を示す。
図3図3は、比較例3の試験結果を示す。
図4A-4B】図4Aは、比較例4の振動を加える前の試料の試験結果を示し、図4Bは、比較例4のより激しい振動手順後の試料の試験結果を示す。
図5A-5B】図5Aは、比較例5の振動を加える前の試料の試験結果を示し、図5Bは、比較例5のより激しい振動手順後の試料の試験結果を示す。
図6図6は、実施例1の振動を加える前の試料の試験結果を示す。
図7図7は、実施例2の振動を加える前の試料の試験結果を示す。
図8図8は、実施例3の振動を加える前の試料の試験結果を示す。
図9図9は、実施例4の振動を加える前の試料の試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
したがって、本発明の第1の態様は、
a.塩化ビニル及び第2のモノマーを含むポリ塩化ビニル含有コポリマーであって、第2のモノマーが、そのホモポリマーが82℃より低いガラス転移温度Tgを有するモノマーである、ポリ塩化ビニル含有コポリマー、及び
b.最大で10質量%のハイドロタルサイト化合物
を含み、ハイドロタルサイト化合物が20.5質量%以下のマグネシウムを有する、組成物を提供する。
第1の成分として、組成物は、ポリ塩化ビニル含有コポリマーを含む。コポリマーは、塩化ビニル及び第2のモノマーを含む。第2のモノマーは、そのホモポリマーが82℃より低いガラス転移温度Tgを有するモノマーである。そのようなモノマーは当技術分野で公知であり、実際、「ソフトモノマー」と一般的に呼ばれている。したがって、本発明のコポリマー成分における第2のモノマーに特に好ましいモノマーの例には、カルボン酸ビニル、ビニルエーテル、オレフィン及びアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。特に好ましい第2のモノマーは、カルボン酸ビニル、特に酢酸ビニル、及びアルキル(メタ)アクリレートである。
好ましい実施形態では、第2のモノマーは、そのホモポリマーが70℃より低い、例えば50℃より低いガラス転移温度Tgを有するモノマーである。好ましい第2のモノマーは、そのホモポリマーが20℃より低い、又はさらに0℃より低いガラス転移温度を有するモノマーであってもよい。ポリ(酢酸ビニル)のガラス転移温度は、例えば、30℃であるが、C1-C10アルキル基を有するポリ(アクリル酸アルキル)は、一般に0℃より低いガラス転移温度を有する。ポリ(アクリル酸ブチル)のガラス転移温度は、例えば、-53℃である。
【0008】
ポリマーのガラス転移温度は、教科書及びデータ表において見出すことのできる周知のパラメーターであり、実験的に測定することもできる。本発明では、ガラス転移温度Tgは、ASTM E1640-18「Standard Test Method for Assignment of the Glass Transition Temperature by Dynamic Mechanical Analysis」に設定された条件下でDynamic Mechanical Analysisによって得られた値である。
コポリマーは、懸濁重合法及び乳化重合法を含む、塩化ビニルモノマーと第2のモノマーとが共重合するあらゆる好適な共重合法によって製造することができる。そのような方法は当技術分野において周知である。
コポリマーは、典型的には、少なくとも40質量%の塩化ビニルと、最大で60質量%の第2のモノマーとを含む。しかし、コポリマーが少なくとも50質量%の塩化ビニル、例えば少なくとも60質量%の塩化ビニルを含むことが好ましい。
【0009】
塩化ビニル及び第2のモノマーに加えて、他のモノマーも存在してもよい。特に、そして疑問を回避するために、本明細書で使用する場合、「コポリマー」という用語は2種以上のモノマーを含むポリマーを包含する。これは、2種類のみのモノマー、すなわち塩化ビニル及び第2のモノマーを有するポリマー、並びにまた、3種以上のモノマー、すなわち塩化ビニル、第2のモノマー及び1種又は複数の他のモノマーを含むポリマーをも含む(3種のモノマーを含むポリマーはまた、ターポリマーと称されることがあり、そのようなものは本明細書のコポリマーの定義の中に含まれる)。あらゆる他の存在するモノマーも(すなわち、塩化ビニル及び第2のモノマーに加えて)、そのホモポリマーが82℃より低いガラス転移温度Tgを有するモノマーであってよく、一部の好ましい実施形態では、第2のモノマーの好ましい特徴に合致する場合もある。しかしそれらはまた、一部の実施形態では、そのホモポリマーが82℃以上のガラス転移温度Tgを有するモノマーであってもよい。塩化ビニル以外の2種以上のモノマー(以下、2種以上の「コモノマー」)がある全ての場合において、第2のモノマーは、好ましくは存在するコモノマー全体の少なくとも50モル%存在する(この場合、例えば、2種以上のコモノマーがあり、両方が第2のモノマーの要件を満たすならば、最大の量で存在するものが特許請求の範囲では第2のモノマーとなる)。
【0010】
好ましい実施形態では、第2のモノマーはアルキル(メタ)アクリレートである。この実施形態では、コポリマーは、典型的には少なくとも40質量%の塩化ビニルと、最大で60質量%のアルキル(メタ)アクリレートとを含む。しかし、コポリマーが少なくとも50質量%の塩化ビニル、例えば少なくとも60質量%の塩化ビニルを含むことが好ましい。塩化ビニル及びアルキル(メタ)アクリレートに加えて、他のコモノマーも、既に定義したような1種以上の他の第2のモノマーも含め、存在していてもよい。
コポリマーは、最も好ましくは少なくとも70質量%の塩化ビニルと、最大で30質量%のアルキル(メタ)アクリレートとを含む。本発明の第1の成分について特に好ましいポリ塩化ビニル-アルキル(メタ)アクリレートコポリマーは、少なくとも90質量%の塩化ビニルと、最大で10質量%のアルキル(メタ)アクリレートとを含んでもよい。
「アルキル(メタ)アクリレート」という用語は本明細書では、アクリル酸アルキル及びメタクリル酸アルキルを指すための省略形として用いられる。例えば、ブチル(メタ)アクリレートは、メタクリル酸ブチル及びアクリル酸ブチルを指す。
好ましい実施形態では、コポリマーは、ポリ塩化ビニル-アクリル酸アルキルコポリマーである。しかし、以下に説明される場合、本発明の実施形態は、アクリレートコポリマーのみが言及される場合でも、文脈が明らかに異なる指示をしていない限り、同等のメタクリレートコポリマーを含め、他の第2のモノマーと形成されたコポリマーにも等しく言及が適用される。
【0011】
アルキル(メタ)アクリレートは、好ましくはC1-C10アルキル基を含む。好ましいアルキル基は、C2-C6アルキルを含む。本発明の組成物のコポリマー成分における好ましいアルキル(メタ)アクリレートは、既に述べたとおり、メタクリル酸アルキルよりアクリル酸アルキルである。特に好ましいアルキル(メタ)アクリレートは、アクリル酸エチルヘキシル及びアクリル酸n-ブチルであり、アクリル酸n-ブチルが最も好ましい。
第2の成分として、組成物は最大で10質量%のハイドロタルサイト化合物を含み、ハイドロタルサイト化合物は20.5質量%以下のマグネシウムを有する。
ハイドロタルサイトは、一般には、マグネシウム、アルミニウム、炭酸アニオン及び水酸化物アニオンを含む層状複水酸化物である。非修飾ハイドロタルサイトは、一般式Mg6Al2CO3(OH)16・4H2Oの層状複水酸化物(LDH)である。この材料は、24.14質量%のマグネシウム含有量を有する。しかし、ハイドロタルサイトは、式Mg6Al2CO3(OH)16・4H2Oで与えられるものと比較して異なる組成を有するものが周知である。例えば、ハイドロタルサイトは、部分的に異なる金属又は異なるアニオンで置換されていてもよい。そのようなハイドロタルサイトは、一般には「修飾ハイドロタルサイト」と考えられ、「修飾ハイドロタルサイト」という用語は、マグネシウム、アルミニウム、炭酸アニオン及び水酸化物アニオンを含む層状複水酸化物であるが、式Mg6Al2CO3(OH)16・4H2Oとは異なる式を有するハイドロタルサイトを指す。
【0012】
したがって、本発明において使用されるハイドロタルサイトは、一般的な条件では修飾ハイドロタルサイトであり、より具体的な条件では20.5質量%以下の低減したマグネシウム含有量を有する修飾ハイドロタルサイトである。
したがって、本発明で使用される20.5質量%以下のマグネシウム含有量を有するハイドロタルサイトに適用される場合、用語「ハイドロタルサイト」及び「修飾ハイドロタルサイト」は同義語である。
本発明のハイドロタルサイトは、非修飾ハイドロタルサイトと比較して、著しく低減したマグネシウム含有量を有する。本発明のハイドロタルサイトにおける低減したマグネシウム含有量は、構造の合成中又は合成後の処理によって、構造中のマグネシウムを除去若しくは置換することで典型的には達成される。これは、当技術分野では公知のあらゆる好適な方法によって達成され得る。
いくつかの修飾ハイドロタルサイト化合物が市販されている。本発明者らは、マグネシウム含有量の著しい低減につながるように修飾されたハイドロタルサイトが、ポリ塩化ビニル-アルキル(メタ)アクリレートコポリマーにとって固結防止剤として特に有効であることを見出した。対照的に、マグネシウム含有量がより大きいことを除けば類似している材料は、有効ではない。これは、下記に提供する実施例において示す。
【0013】
本発明の好ましい組成物では、ハイドロタルサイト化合物は20質量%以下のマグネシウムを有する。典型的には、ハイドロタルサイト化合物は、少なくとも10質量%のマグネシウムを有する。一部の実施形態では、ハイドロタルサイトは、少なくとも18質量%のマグネシウム、例えば18質量%~20質量%のマグネシウムを含んでよい。他の実施形態では、ハイドロタルサイトは、18質量%のマグネシウム、例えば16質量%以下のマグネシウム、例えば14質量%~16質量%のマグネシウムを含んでよい。
さらに好ましい組成物では、ハイドロタルサイト化合物は、Sn、Pb、Ca、Ba、Zn及びCdから選択される少なくとも1種の金属を含み、かつ好ましくは、Sn、Pb、Ca、Ba、Zn及びCdから選択される少なくとも1種の金属を、少なくとも0.2質量%含む。より好ましくは、ハイドロタルサイト化合物は、Sn、Pb、Ca、Ba、Zn及びCdから選択される少なくとも1種の金属を、少なくとも1質量%含む。
特に好ましい実施形態では、少なくとも1種の金属はZn又はCaであり、最も好ましくは、少なくとも1種の金属はZnである。
【0014】
亜鉛が存在する場合、好ましい組成物は、ハイドロタルサイト化合物が少なくとも10質量%の亜鉛を含む組成物である。そのような化合物は、それらを含む組成物を長期に保管した後でさえ、固結防止剤としての特に良好な効果を示した。
既に述べた好ましい選択肢と組み合わせてもよい他の実施形態では、ハイドロタルサイト化合物は150(質量)ppm未満の硫黄、好ましくは100(質量)ppm未満の硫黄を含むことが好ましい。
低減されたマグネシウム含有量のため、本発明の組成物におけるハイドロタルサイト化合物は、非修飾ハイドロタルサイトより低いMg/Al比を有する傾向がある。好ましい実施形態では、ハイドロタルサイト化合物は、2.2以下、例えば2.0以下のMg/Alモル比を有する。Mg/Al比は、例えば1.50~2.00、例えば1.50~1.90であってよい。
本発明の組成物は、ポリ塩化ビニル含有コポリマーとハイドロタルサイト化合物とを組み合わせることによるあらゆる好適な方式で形成することができる。特に好ましい方法では、ハイドロタルサイトを、コポリマーが重合反応器で生成した後であるが完全に乾燥する前に、ポリ塩化ビニル含有コポリマーに導入する。特に、ポリ塩化ビニル含有コポリマーは乾燥中に凝集し始めることがあり、これを緩和するためには乾燥前に「従来からの」固結防止剤を添加することが知られている。本発明のハイドロタルサイト化合物は、この場合、乾燥中にも有効な固結防止剤として作用し(すなわち、より従来からの固結防止剤の代わりに)、見出されたより長期間の固結防止効果も与えることができる。
【0015】
対照的に、「従来からの」固結防止剤は、乾燥中は有効であるが、保管中など、著しく長い期間にわたっては有効でないことが見出された。
したがって、第2の態様では、塩化ビニル及び第2のモノマーを含むポリ塩化ビニル含有コポリマーを含む組成物の固結を低減させるためのハイドロタルサイトの使用であって、第2のモノマーは、そのホモポリマーが82℃より低いガラス転移温度Tgを有するモノマーであり、ハイドロタルサイト化合物は20.5質量%以下のマグネシウムを有する、使用が提供される。
この第2の態様でのコポリマー及びハイドロタルサイトは、好ましくは第1の態様で定義されたものである。
【実施例
【0016】
実験手順
1)ポリ塩化ビニル含有コポリマーの調製
94Lの容量を有し撹拌機を備えた重合反応器中の、54Kgの水、加水分解度72.5%を有し、水中で25.75gr/Kgの3197grのポリビニルアルコール溶液、加水分解度88%を有し、水中で30.15gr/Kgの682grのポリビニルアルコール溶液、30grの消泡剤、水中で30gr/Kgの30grの緩衝溶液(ヘキサメタリン酸ナトリウム-NaHP)、500gr/Kg、水中での分散液である50grの熱安定剤(ステアリン酸カルシウム)、及び5grの連鎖移動剤(1-ドデカンチオール)。
反応器を閉じたら、撹拌速度を70rpmに設定し、吸引2サイクルに続いて窒素パージを施し、最後に吸引を施した。その後、4470grのアクリル酸ブチルに続き、5215grの塩化ビニルを投入し、撹拌速度を300rpmに設定した。
ダブルジャケットを用いて重合温度を70℃に上げた。300gr/Kgの濃度を有するアジピン酸ジオクチル中のジエチルペルオキシジカーボネートの溶液9.0gの導入を重合温度(70℃)で投入し、重合を開始する。300gr/Kgの濃度を有するアジピン酸ジオクチル中のジエチルペルオキシジカーボネートの溶液13grの第2の導入をCR>5%で、及び300gr/Kgの濃度を有するアジピン酸ジオクチル中のジエチルペルオキシジカーボネートの溶液15grの第3の導入をCR>10%で投入する。反応は、アクリル酸ブチルの変換率が80%より高い値に達するまでこれらの条件下に保った。その後、水中で10gr/Kgの阻害剤(KI)の溶液30grを添加し、重合温度を45℃より低い温度に冷却する。
次いで、5948grの塩化ビニルに続き、水中で31.65gr/Kg、加水分解度80%である434grのポリビニルアルコールの溶液、最後に300gr/Kgの濃度のアジピン酸ジオクチル中のジエチルペルオキシジカーボネートの溶液30grを投入した。反応は、塩化ビニルの総変換率が63.7%に達するまでこれらの条件下に保った。その後、水中で220gr/Kgの阻害剤(苛性ソーダ-NaOH)の溶液30gr及び消泡剤30grを、重合媒体に添加した。未反応の塩化ビニルは、反応器を脱圧することで除去した。次いで、懸濁液を濾過により分離した。
【0017】
第1の部分を分離し、流動層乾燥機中60℃で空気により乾燥させて、ポリ塩化ビニル含有コポリマー生成物を得た。乾燥前の揮発分は約11質量%であった。乾燥後、揮発分は0.3質量%未満であり、アクリル酸ブチルモノマー残量は12ppmであった。
1H NMRにより決定したコポリマー中のアクリル酸ブチル含有量は38.6質量%であった。嵩密度は0.567g/cm3であり、平均粒径は236μmであった。
それぞれの場合において乾燥に先立って4phr(百分率)の固結防止剤を添加した以外は同様に、さらなる部分を乾燥させた。固結防止剤の詳細は下記に示す。
全ての場合において、固結防止剤の添加は、乾燥ステップの後、自由に流動する粉末試料をもたらした。
【0018】
2)圧密の手順及び流動性評価
上記で調製した試料は、それぞれ以下の手順に供した。
おおよそ20gの試料を直径3cmの円柱状の型に入れ、Industrial Concept and Assistance社、Bierges、Belgium製の圧縮強度測定器に配した。
次いで試料を型内で、10重量kg(98.1N)から100重量kg(981N)まで段階的に力を増して軸方向に圧縮した。
この圧密化は、PVC粉末保管中に生じ得る長期的な圧密化を、短期間で模倣するように設計されている。
試験の終わりには、圧縮された試料を含有する型は、一辺1.8cmの正方形の開口部を備えた、ビーカーの基部にあるステンレス鋼グリッドの19cm上に位置している。
【0019】
第1段階では、試料を型から押して、グリッド上に落とす。次いでビーカーを2回、穏やかに叩く。試料は、圧密が無く、穏やかに叩く前又は後のこの段階でグリッドを完全に通過すれば「優れた」流動性を有すると考えられる。
試料が全て又は部分的に圧密化し、一部の粉末が第1段階の後にグリッド上に残る場合、ビーカーを穏やかに5~10回振動させ、試料を再評価する。試料がその際、グリッドを通って完全に流れていれば、それは良好な流動性を有すると考えられる。
試料がなおも全て又は部分的に比較されている場合、試料をさらに、特により激しく15~20回振動させる。試料がこの時、グリッドを通って完全に流れていれば、それは流動性を有するが、「低い」流動性と考えられる。全てではないが一部がグリッド上に残る場合、流動性は非常に低いとみなされ、当初の全ての試料が圧密化した円柱として、全て又は大部分が残る場合、試料は流動性を有しない(「無し」)と考えられる。
【0020】
要約する。
【表1】
【0021】
(比較例1)
この比較例では、試料は固結防止剤が添加されなかったものである。
試験の結果は図1に示す。試料は完全に圧密化し、上に述べた基準では流動性を有しない。
【0022】
(比較例2)
この例では、D-マンニトール4phrを乾燥前に試料に添加した。D-マンニトールは、Sigma-Aldrich社より供給され、食品工業において使用される公知の固結防止剤である。
試験の結果は図2に示す。試料は完全に圧密化し、上に述べた基準では流動性を有しないと考えられる。
(比較例3)
この例では、4phrのハイドロタルサイト(「ハイドロタルサイト1」)を乾燥前に試料に添加した。ハイドロタルサイト1は市販のハイドロタルサイトであり、Mg含有量は22.8質量%である。
試験の結果は図3に示す。試料は大半が依然として圧密化しており、上に述べた基準では流動性を有しないと考えられる。
(比較例4)
この例では、4phrの異なるハイドロタルサイト(「ハイドロタルサイト2」)を乾燥前に試料に添加した。ハイドロタルサイト2は市販のハイドロタルサイトであり、Mg含有量は20.8質量%である。
試験の結果は図4A及び4Bに示され、図4Aは振動を加える前の試料を示し、図4Bはより激しい振動手順後の試料を示している。試料は、上に述べた基準では「低い」流動性を有すると考えられる。
【0023】
(比較例5)
この例では、4phrの異なるハイドロタルサイト(「ハイドロタルサイト3」)を乾燥前に試料に添加した。ハイドロタルサイト3は市販のハイドロタルサイトであり、Mg含有量は22.3質量%である。
試験の結果は図5A及び5Bに示され、図5Aは振動を加える前の試料を示し、図5Bはより激しい振動手順後の試料を示している。試料は、上で述べた基準では「低い」流動性を有すると考えられる。
【0024】
(実施例1)
この実施例では、4phrの異なるハイドロタルサイト(「ハイドロタルサイト4」)を乾燥前に試料に添加した。ハイドロタルサイト4は市販のハイドロタルサイトであり、Mg含有量は20.0質量%である。
試験の結果は図6に示され、図6は振動を加える前の試料を示し、試料がグリッドを完全に通過したことを示している。試料は、上に述べた基準では優れた流動性を有すると考えられる。
【0025】
(実施例2)
この実施例では、4phrの異なるハイドロタルサイト(「ハイドロタルサイト5」)を乾燥前に試料に添加した。ハイドロタルサイト5は市販のハイドロタルサイトであり、Mg含有量は15.1質量%である。
試験の結果は図7に示され、図7は振動を加える前の試料を示し、試料がグリッドを完全に通過したことを示している。試料は、上に述べた基準では優れた流動性を有すると考えられる。
(実施例3)
この実施例では、4phrの異なるハイドロタルサイト(「ハイドロタルサイト6」)を乾燥前に試料に添加した。ハイドロタルサイト6は市販のハイドロタルサイトであり、Mg含有量は19.9質量%である。
試験の結果は図8に示され、図8は振動を加える前の試料を示し、試料がグリッドを完全に通過したことを示している。試料は、上に述べた基準では優れた流動性を有すると考えられる。
【0026】
(実施例4)
この実施例では、4phrの異なるハイドロタルサイト(「ハイドロタルサイト7」)を乾燥前に試料に添加した。ハイドロタルサイト7は市販のハイドロタルサイトであり、Mg含有量は14.3質量%である。
試験の結果は図9に示され、図9は振動を加える前の試料を示し、試料がグリッドを完全に通過したことを示している。試料は、上に述べた基準では優れた流動性を有すると考えられる。
【0027】
結果は、添加剤の幾つかの他の特性の詳細と共に、表2に要約する。
【表2】
【0028】
比較例1は、PVCのコポリマーは圧縮後、強く圧密化していることを示している。
D-マンニトールは、従来からの添加剤であるが、圧密試験の後に流動性の生成物をもたらさない。
ハイドロタルサイト1、2及び3は、それぞれが20.5質量%より多いマグネシウムを有するハイドロタルサイト材料であり、結果として得られる材料の流動性は最良でも「低い」である。
実施例1~4は、対照的に、20.5質量%より少ないマグネシウムを有するハイドロタルサイト材料は、各場合において圧密試験の後でさえ生成物に優れた流動性をもたらすことを示す。
図1
図2
図3
図4A-4B】
図5A-5B】
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】