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特表2024-541368がんの治療で使用するための薬剤組み合わせ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】がんの治療で使用するための薬剤組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20241031BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 31/739 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 31/736 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 31/223 20060101ALI20241031BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K45/06
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K31/7088
A61K31/739
A61K31/736
A61K31/223
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528499
(86)(22)【出願日】2022-11-03
(85)【翻訳文提出日】2024-07-16
(86)【国際出願番号】 CZ2022050115
(87)【国際公開番号】W WO2023083396
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/279,212
(32)【優先日】2021-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524180026
【氏名又は名称】バイオカニム エー.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ゼンカ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】フレイルラホバ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】レンコヴァ ラドカ
(72)【発明者】
【氏名】ウーハー オンドレイ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA20
4C084MA02
4C084MA55
4C084NA05
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA41
4C086EA01
4C086EA16
4C086EA20
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA55
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA75
4C206NA05
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明の目的は、少なくとも1つのTLRリガンド、免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物、および少なくとも1つの抗CD40抗体、ならびにさらに少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を含む活性物質の薬剤組み合わせである。薬剤組み合わせの使用は、がんの治療、特に膵臓腺がんなどの固形腫瘍の治療のためのものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの治療法で使用するための活性物質の薬剤組み合わせであって、少なくとも1つのTLRリガンド、免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物、少なくとも1つの抗CD40抗体、およびさらに少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を含む薬剤組み合わせ。
【請求項2】
前記TLRリガンドが、レシキモド、酸形態または塩形態のポリイノシン酸:ポリシチジル酸、酸形態または塩形態のリポテイコ酸を含む群から選択される物質である、請求項1に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項3】
前記TLRリガンドが、レシキモド、酸形態または塩形態のポリイノシン酸:ポリシチジル酸、酸形態または塩形態のリポテイコ酸から選択される少なくとも2つの物質の組み合わせである、請求項1または2に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項4】
自然免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する前記化合物が、デクチン-1、MR、MBL、CR3、CR4受容体、ならびにスカベンジャー受容体のSR-A1、SR-A2、およびMARCOまたはマンナン-BAMのリガンドからなる群から選択される細胞の貪食受容体のリガンドである、請求項1に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項5】
自然免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する前記化合物がマンナン-BAMである、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項6】
前記グルタミン代謝阻害剤が、アザセリン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、5-ジアゾ-4-オキソ-L-ノルバリン、アシビシン、アゾトマイシン、ビス-2-(5-フェニルアセトアミド-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)エチルスルフィド、エブセレン、チェレリスリン、アポモルフィン、2-(ピリジン-2-イル)-N-(5-(4-(6-(2-(3-(トリフルオロメトキシ)フェニル)アセトアミド)ピリダジン-3-イル)ブチル)-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)アセトアミドを含む群から選択される、請求項1に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項7】
レシキモド、遊離酸形態または塩形態のポリイノシン酸:ポリシチジル酸、遊離酸形態または塩形態のリポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体、および少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項8】
レシキモド、遊離酸形態または塩形態のポリイノシン酸:ポリシチジル酸、遊離酸形態または塩形態のリポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体、および6-ジアゾ-5-オキソ-ノルロイシンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項9】
腹腔内、皮下、または腫瘍が存在する組織に腫瘍内投与する、請求項1~8のいずれか一項に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項10】
少なくとも1つのTLR(Toll様受容体)リガンド、免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物、および少なくとも1つの抗CD40抗体を含む免疫療法のための活性物質の混合物を腫瘍内に投与し、前記混合物の前に、少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を投与する、請求項1~9のいずれか一項に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項11】
レシキモド、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸、リポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体からなる活性物質の混合物を腫瘍内に投与し、前記混合物の前に、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシンを腫瘍内または全身に投与する、請求項10に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項12】
少なくとも1つのTLR(Toll様受容体)リガンド、免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物、および少なくとも1つの抗CD40抗体を含む免疫療法のための活性物質の混合物を腫瘍内に投与し、前記混合物に続いて、少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を投与する、請求項1~9のいずれか一項に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項13】
レシキモド、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸、リポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体からなる活性物質の混合物を腫瘍内に投与し、前記混合物に続いて、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシンを腫瘍内または全身に投与する、請求項12に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項14】
少なくとも1つのTLRリガンド、免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物、少なくとも1つの抗CD40抗体を含む免疫療法のための活性物質の混合物と、少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を同時に投与する、請求項1~9のいずれか一項に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項15】
レシキモド、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸、リポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体からなる活性物質の混合物を腫瘍内に投与し、同時に6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシンを腫瘍内または全身に投与する、請求項14に記載の薬剤組み合わせ。
【請求項16】
がん治療のための請求項1~15のいずれか一項に記載の薬剤組み合わせの使用。
【請求項17】
前記がんが固形腫瘍である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記がんが膵臓腺がんである、請求項16または17に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤組み合わせ、およびがんの治療、特に固形腫瘍の治療のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍の免疫抵抗性は複数の通常独立した細胞内機構および微小環境機構からなる非常に複雑な過程である。免疫抵抗性の強い腫瘍の一例が膵臓腺がんである。膵臓腺がんは、高密度の間質、低突然変異荷重、および免疫抑制機構といった独特の腫瘍微小環境を有する。間質環境は、免疫細胞や他の細胞に対する重要な生物物理学的障壁を形成し、疾患の侵攻性や薬剤耐性の増強の一因となっている。低突然変異荷重と免疫抑制性の微小環境は、腫瘍細胞の認識を妨げ、抗腫瘍免疫を抑制する。このように、臨床転帰が不良であることから、この診断を受けた患者に希望をもたらす新たな革新的治療法の開発が急務とされている。
【0003】
現在、我々はがん免疫療法の分野で著しい進歩を目の当たりにしている。最も研究されている領域はチェックポイント阻害剤の使用である。また、CAR-Tリンパ球の使用にも注目が集まっている。チェックポイント阻害剤の分野では、抗CTLA-4抗体から、PD-1/PD-L1への介入、ならびにチェックポイント阻害剤と他の免疫、化学、および放射線療法との併用に焦点が移りつつある。しかし、チェックポイント阻害剤の使用が有効な患者は、限られた数の診断のうち約20%にすぎない。チェックポイント阻害剤の有効性が低い主な理由は、免疫攻撃に対する腫瘍の防御が非常に複雑で、たいていは独立したいくつかの機構で構成されているためである。チェックポイント阻害剤とCAR-Tが解決するのは、このモザイクの一部の問題のみである。
【0004】
本発明者らは以前の研究において、TLR(Toll様受容体)リガンドと、自然免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する化合物とを含む免疫療法組成物を開発した。この治療用混合物は、メラノーマの治療において良好な結果を示している(非特許文献1、2)。治療が非常に困難な膵臓腺がんや褐色細胞腫の治療では、自然免疫と適応免疫の両方を促進する作用薬、抗CD40抗体を治療混合物に加えると非常に有益であることがわかっている(非特許文献3)。
【0005】
この免疫療法は非常に効果的だが、一定の限界と欠点がある。この治療法で大きな腫瘍や大きな転移を完全に除去することは困難または不可能である。したがって、この免疫療法のさらなる改良が求められていた。
【0006】
これまでに知られている免疫療法を改善しようと、この免疫療法に適合し、相乗的に作用する他の治療法が模索されてきた。化学療法や放射線療法といった治療選択肢の多くは免疫系を抑制するため、自然免疫の機能を後押しする免疫療法との併用は逆効果となることから、好適な治療法を見つけることは非常に困難であった。
【0007】
本発明の目的は、治療に使用した場合には進行性の皮下腫瘍を完全に除去でき、さらに長期的な免疫記憶をもたらす、がんの治療で使用するための薬剤組み合わせを開発することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Caisova V,Vieru A,Kumzakova Z et al.,Innate immunity-based cancer immunotherapy:B16-F10 murine melanoma model,BMC Cancer,p.1-11,2016
【非特許文献2】Caisova V,Uher O,Nedbalova P et al.,Effective cancer immunotherapy based on combination of TLR agonists with stimulation of phagocytosis,Int Immunopharmacol.,p.86-96,2018
【非特許文献3】Caisova V,Li L,Gupta G et al.,The significant reduction or complete eradication of subcutaneous and metastatic lesions in a pheochromocytoma mouse model after immunotherapy using mannan-BAM,TLR ligands,and-anti-CD40,Cancers,p.1-21,2019
【非特許文献4】Janotova T,Jalovecka M,Auerova et al.,The use of anchored agonists of phagocytic receptors for cancer immunotherapy:B16-F10 murine melanoma model,PLoS ONE,p.1-14,2014
【非特許文献5】Caisova V,Uher O, Nedbalova P et al.,Effective cancer immunotherapy based on combination of TLR agonists with stimulation of phagocytosis,Int Immunopharmacol.,p.86-96,2018
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、免疫療法のための活性物質をがんの治療で使用するための薬剤組み合わせの開発によって達成され、前記組み合わせは、少なくとも1つのTLR(Toll様受容体)リガンド、免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物、および少なくとも1つの抗CD40抗体を含み、さらに少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を含む。これらの活性物質は、同時または連続投与が可能である。グルタミンは腫瘍の増殖にとって非常に重要であり、一般的に腫瘍で大量消費される。グルタミンはエネルギーの生成に使用され、核酸やいくつかのアミノ酸の合成における窒素源として機能する。また、細胞の酸化還元ホメオスタシスの調節にも関与している。グルタミナーゼ活性によりグルタミンから生成されたグルタミン酸塩は、さらにα-ケトグルタル酸塩に代謝され、トリカルボン酸の非常に重要なサイクルの炭素源となる。
【0010】
TLRリガンドは、自然免疫細胞による腫瘍の浸潤とその活性化に関与する物質である。さらに、TLRリガンドはTh1抗腫瘍環境の形成に寄与し、共刺激分子の形成を促進する。このように、TLRリガンドは、効率的な抗原提示と適応免疫の関与を促進する。好ましい実施形態では、TLRリガンドは、レシキモド(R-848)、遊離酸形態または塩形態のポリイノシン酸:ポリシチジル酸(poly(I:C))、遊離酸形態または塩形態のリポテイコ酸(LTA)を含む群から選択される物質であり、より好ましくは、それらの物質の少なくとも2つの組み合わせである。本明細書において酸塩は、酸と、薬学的に許容されるカチオン、特にアルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、およびアンモニウムカチオンとの塩を示す。
【0011】
好ましい実施形態では、自然免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する化合物は、主に食細胞受容体のリガンド、例えば、デクチン-1、MR、MBL、CR3、CR4受容体、ならびにスカベンジャー受容体のSR-A1、SR-A2、およびMARCOのリガンドである。自然免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する化合物は、好ましくはマンナン-生体適合性膜アンカー(マンナン-BAM)複合体である。これらの化合物は腫瘍細胞に結合し、自然免疫細胞攻撃の標的として標識する。自然免疫細胞には、好中球、単球、マクロファージ、樹状細胞、およびNK細胞がある。
【0012】
抗CD40抗体は自然免疫と適応免疫の両方を促進する。
【0013】
好ましい実施形態では、グルタミン代謝阻害剤は、アザセリン、DONと呼ばれる6-ジアゾ-5-オキソ-ノルロイシン、L-DONVと呼ばれる5-ジアゾ-4-オキソ-L-ノルバリン、アシビシン、アゾトマイシン、BPTESと呼ばれるビス-2-(5-フェニルアセトアミド-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)エチルスルフィド、エブセレン、チェレリスリン、アポモルフィン、CB-839と呼ばれる2-(ピリジン-2-イル)-N-(5-(4-(6-(2-(3-(トリフルオロメトキシ)フェニル)アセトアミド(ピリダジン-3-イル)ブチル)-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)アセトアミドを含む群から選択される。これらの物質はプロドラッグの形態で投与し得る。プロドラッグは、生体内で反応して活性物質を形成する。本明細書では、プロドラッグも用語「グルタミン代謝阻害剤」に含まれる。
【0014】
好ましくは、本発明は、レシキモド、遊離酸形態または塩形態のポリイノシン酸:ポリシチジル酸、遊離酸形態または塩形態のリポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体、および少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を含む薬剤組み合わせを提供する。
【0015】
好ましい実施形態では、本発明は、レシキモド、遊離酸形態または塩形態のポリイノシン酸:ポリシチジル酸、遊離酸形態または塩形態のリポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体、および6-ジアゾ-5-オキソ-ノルロイシン、またはこれらのプロドラッグを含む薬剤組み合わせを提供する。
【0016】
好ましい実施形態では、薬剤組み合わせは、腹腔内、皮下、または腫瘍が存在する組織に腫瘍内投与する。
【0017】
本発明の目的は、がんの治療、特に固形腫瘍の治療、最も好ましくは膵臓腺がんの治療のための医薬組成物の使用であって、少なくとも1つのTLR(Toll様受容体)リガンド、免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物、少なくとも1つの抗CD40抗体、およびさらに少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を含む免疫療法のための活性物質の薬剤組み合わせを、そのような治療を必要とするヒトまたは動物の被験体に投与するステップを含む使用によってさらに達成される。
【0018】
好ましい実施形態では、レシキモド、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸、リポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体からなる活性物質の薬剤組み合わせを腫瘍内に投与し、前記混合物の前に、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシンを腫瘍内または全身に投与する。
【0019】
好ましい実施形態では、少なくとも1つのTLR(Toll様受容体)リガンド、免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物、および少なくとも1つの抗CD40抗体を含む免疫療法のための活性物質の薬剤組み合わせを腫瘍内に投与し、前記混合物に続いて、少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を投与する。
【0020】
好ましい実施形態では、レシキモド、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸、リポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体からなる活性物質の薬剤組み合わせを腫瘍内に投与し、前記混合物に続いて、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシンを腫瘍内または全身に投与する。
【0021】
好ましい実施形態では、少なくとも1つのTLRリガンド、免疫細胞攻撃の標的として腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物、少なくとも1つの抗CD40抗体を含む免疫療法のための活性物質の薬剤組み合わせと、少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤を同時に投与する。
【0022】
好ましい実施形態では、レシキモド、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸、リポテイコ酸、マンナン-BAM、抗CD40抗体からなる活性物質の薬剤組み合わせを腫瘍内に投与し、同時に6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシンを腫瘍内または全身に投与する。
【0023】
本発明で使用する物質は市販されている。個々の物質またはその部分的組み合わせは当技術分野ですでに知られているが、現在驚くべきことに、これらの活性物質の組み合わせが、すなわち、対応する作用機序の関与に基づく免疫代謝治療が相乗効果をもたらし、腫瘍の増殖を停止、または減少させ、大きな進行性の固形腫瘍であっても生存期間を延長させることが見いだされている。
【0024】
がんの治療で使用するための薬剤組み合わせの利点は、治療に使用した場合には進行性の皮下腫瘍を完全に除去でき、さらに長期的な免疫記憶をもたらすことである。
【0025】
以下に図を用いて本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A図1A~1Cは薬剤組み合わせを使用した膵臓腺がんマウスの免疫代謝治療の結果を示す図であり、図1Aは腫瘍増殖の抑制を示す。
図1B図1A~1Cは薬剤組み合わせを使用した膵臓腺がんマウスの免疫代謝治療の結果を示す図であり、図1Bは腫瘍増殖の抑制を示す。
図1C図1A~1Cは薬剤組み合わせを使用した膵臓腺がんマウスの免疫代謝治療の結果を示す図であり、図1Cはマウスの生存期間の延長を示す。
図2A図2Aおよび2Bは薬剤組み合わせを使用した、非常に進行した膵臓腺がんマウスの免疫代謝治療の結果を示す図であり、図2Aは腫瘍増殖の抑制を示す。
図2B図2Aおよび2Bは薬剤組み合わせを使用した、非常に進行した膵臓腺がんマウスの免疫代謝治療の結果を示す図であり、図2Bはマウスの生存期間の延長を示す。
図3A図3Aおよび3Bは薬剤組み合わせを使用した膵臓腺がんマウスの免疫代謝治療の結果を示す図であり、図3Aは腫瘍増殖の抑制を示す。
図3B図3Aおよび3Bは薬剤組み合わせを使用した膵臓腺がんマウスの免疫代謝治療の結果を示す図であり、図3Bはマウスの生存期間の延長を示す。
図4A図4A~4Cは両側Panc02モデルにおいて、2つのタイミングで腫瘍内MBTA療法とグルタミン拮抗薬(DON)i.p.投与の薬剤組み合わせを使用した結果を示す図であり、図4Aは腫瘍増殖の抑制を示す。
図4B図4A~4Cは両側Panc02モデルにおいて、2つのタイミングで腫瘍内MBTA療法とグルタミン拮抗薬(DON)i.p.投与の薬剤組み合わせを使用した結果を示す図であり、図4Bは腫瘍増殖の抑制を示す。
図4C図4A~4Cは両側Panc02モデルにおいて、2つのタイミングで腫瘍内MBTA療法とグルタミン拮抗薬(DON)i.p.投与の薬剤組み合わせを使用した結果を示す図であり、図4Cはマウスの生存期間の延長を示す。
図5A図5A~5Cは両側Panc02モデルにおいて、異なる用量でDONをs.c.投与した結果を示す図であり、図5Aは腫瘍増殖の抑制を示す。
図5B図5A~5Cは両側Panc02モデルにおいて、異なる用量でDONをs.c.投与した結果を示す図であり、図5Bは腫瘍増殖の抑制を示す。
図5C図5A~5Cは両側Panc02モデルにおいて、異なる用量でDONをs.c.投与した結果を示す図であり、図5Cはマウスの生存期間の延長を示す。
図6A図6A図6Cは両側Panc02モデルにおけるDONのi.t.投与とi.p.投与の比較の結果を示す図であり、図6Aは腫瘍増殖の抑制を示す。
図6B図6A図6Cは両側Panc02モデルにおけるDONのi.t.投与とi.p.投与の比較の結果を示す図であり、図6Bは腫瘍増殖の抑制を示す。
図6C図6A図6Cは両側Panc02モデルにおけるDONのi.t.投与とi.p.投与の比較の結果を示す図であり、図6Cはマウスの生存期間の延長を示す。
図7A図7A~7Fは両側Panc02モデルにおけるMBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との組み合わせの結果(副作用の評価)を示す図であり、図7Aは腫瘍増殖の抑制を示す。
図7B図7A~7Fは両側Panc02モデルにおけるMBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との組み合わせの結果(副作用の評価)を示す図であり、図7Bは腫瘍増殖の抑制を示す。
図7C図7A~7Fは両側Panc02モデルにおけるMBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との組み合わせの結果(副作用の評価)を示す図であり、図7Cはマウスの生存期間の延長を示す。
図7D図7A~7Fは両側Panc02モデルにおけるMBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との組み合わせの結果(副作用の評価)を示す図であり、図7Dは摂食量を示す。
図7E図7A~7Fは両側Panc02モデルにおけるMBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との組み合わせの結果(副作用の評価)を示す図であり、図7Eは飲水量を示す。
図7F図7A~7Fは両側Panc02モデルにおけるMBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との組み合わせの結果(副作用の評価)を示す図であり、図7Fはマウスの体重を示す。
図8】左側MBTA未治療並行膵臓腺がん腫瘍(両側Panc02モデル)の免疫細胞浸潤に対するDONの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
薬剤組み合わせ
がんの治療法、特に膵臓腺がんなどの固形腫瘍の治療法における活性の試験について以下に説明する薬剤組み合わせは、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(poly(I:C))およびリポテイコ酸のナトリウム塩形態の2つのTLRリガンド、抗CD40抗体、マンナン-BAMの形態の腫瘍細胞を標識する1つの化合物、ならびに6-ジアゾ-5-オキソ-ノルロイシンの形態の、またはDONと呼ばれる1つのグルタミン代謝阻害剤を含有していた。別の図示しない実施形態では、薬剤組み合わせは、レシキモド、酸形態または塩形態のポリイノシン酸:ポリシチジル酸、酸形態または塩形態のリポテイコ酸の群から選択される、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのTLRリガンドからなる。別の図示しない実施形態では、薬剤組み合わせは、デクチン-1、マンノース受容体、マンナン結合レクチン、補体受容体3、補体受容体4、およびスカベンジャー受容体クラスAリガンドの群から選択される、腫瘍細胞を標識する少なくとも1つの化合物からなる。これらの貪食刺激リガンドの数が多いと、腫瘍環境への浸透に関して、および腫瘍細胞の表面への固定に関して最適な分子を選択できる可能性が得られる。別の図示しない実施形態では、薬剤組み合わせは、アザセリン、5-ジアゾ-4-オキソ-L-ノルバリン、アシビシン、アゾトマイシン、ビス-2-(5-フェニルアセトアミド-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)エチルスルフィド、エブセレン、チェレリスリン、アポモルフィン、2-(ピリジン-2-イル)-N-(5-(4-(6-(2-(3-(トリフルオロメトキシ)フェニル)アセトアミド)ピリダジン-3-イル)ブチル)-1,3,4-チアジアゾール-2-イル)アセトアミドの群から選択される少なくとも1つのグルタミン代謝阻害剤からなる。考えられるグルタミン代謝阻害剤の範囲により、治療ウィンドウが広い物質の特定、すなわち治療上最適な濃度と副作用を引き起こす濃度の区別が可能となる。
【0028】
材料
組織培地、培地補充物、出芽酵母由来のマンナン、枯草菌由来のリポテイコ酸(LTA)、およびポリイノシン酸:ポリシチジル酸(poly(I:C))のナトリウム塩は、Sigma-Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から入手した。レシキモド(R-848)はTocris Bioscience(英国ブリストル)から供給を受けた。生体適合性細胞膜アンカー(BAM、Mw4000)はNOF EUROPE(ベルギー、グロッベンドンク)から入手した。抗CD40モノクローナル抗体(ラットIgG2a、クローンPGK4.5/PGK45)は、BioXCell(米国ニューハンプシャー州ウェスト・レバノン)から供給を受けた。6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン(DON)は、プラハの有機化学・生化学研究所(UOCHB)から入手したが、市販品の購入も可能である。
【0029】
細胞株とマウス
マウス膵臓腺がん株Panc02は、ラルス・イヴォ・パルテック教授(ドイツ、グライフスヴァルト)から提供を受けた。細胞は、10%加熱不活性化ウシ胎仔血清と抗生物質(PAA、オーストリア、パシング)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で維持した。細胞は、5%の二酸化炭素を含む水蒸気飽和雰囲気中、37℃で培養した。
【0030】
特定病原体除去C57BL/6雌マウス(SPF C57BL/6マウス(雌)とも呼ぶ)は、Charles River Laboratories(ドイツ、ズルツフェルト)から入手した。体重18~20gのマウスを特定病原体除去環境のバリア施設に収容し、無菌の餌と水を自由に摂取できるようにした。光周期は12時間明/12時間暗とした。
【0031】
マンナン-BAMの合成
マンナン-BAMの合成は、以前に説明されている通りに実施した(非特許文献4)。
【0032】
腫瘍移植
皮下移植:マウスに、DMEM 0.1mL中の4×10個のPanc02細胞またはRPMI 1640培地 0.1mL中の4×10個のB16-F10細胞を無添加で、あらかじめ剃毛した鼠径部(右側または左右両方)に皮下注射した。
【0033】
頭蓋内移植:まず、ケタミン(Narkamon、Bioveta、チェコ共和国、100mg/kg)とキシラジン(Rometar、Bioveta、チェコ共和国、5mg/kg)の混合液をマウスに腹腔内注射して麻酔した。続いて、無添加のDMEM 0.03mL中1×10個のPanc02細胞をマウスの頭蓋内に注射した。
【0034】
治療およびその評価
MBTA免疫療法:0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、および26日目に、0.5mgのR-848(HCl形態)+0.5mgのpoly(I:C)、0.5mgのLTA、およびPBS中0.2mMマンナン-BAM 1mL当たり0.4mgの抗CD40からなる治療混合物50μLを腫瘍内に投与した。以下、R-848、poly(I:C)、LTA、マンナン-BAM、および抗CD40抗体の組み合わせを「MBTA」と呼ぶ。両側Panc02腫瘍モデルの場合、MBTA療法は常に右側の皮下腫瘍にのみ注射した。
【0035】
DON代謝介入:100μLのDON溶液(リン酸緩衝食塩水、いわゆるPBS 1mL当たり4mgのDON)を、後述するように、腹腔内(i.p.)投与した。実施例3では、200μLのDON溶液(4mg DON/1mL PBS)の皮下(s.c.)投与も行った。さらに、実施例で概説するように、後述の用量およびスケジュールで腫瘍内(i.t.)投与を検討した。
【0036】
治療ワクチン:Panc02-MBTAワクチンでは、Panc02細胞を、非加熱不活性化ウシ胎仔血清および0.02mMマンナン-BAMを含有するDMEM培地に再懸濁した。37℃で2時間培養した後、Panc02細胞を洗浄し、0.5mgのR-848(HCl形態)、0.5mgのpoly(I:C)、0.5mgのLTA、およびPBS中0.2mMマンナン-BAM 1mL当たり0.4mgの抗CD40からなる治療混合液に再懸濁した(治療混合液1mL当たり4×10個のPanc02細胞)。Panc02-PBSワクチンでは、Panc02細胞をPBSに再懸濁した(PBS 1mLあたり4×10個のPanc02細胞)。続いて、Panc02-MBTAおよびPanc02-PBSワクチン用のPanc02細胞を凍結融解サイクルで死滅させ、細胞の生存率をバイタル染色によって決定した。0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、および26日目に、50μLのワクチンを、あらかじめ剃毛した下背部(右側腹部)の皮下(s.c.)にパルス投与した。
【0037】
治療の評価:腫瘍の大きさはデジタルノギスを用いて1日おきに測定した。式V=(π/6)AB(Aは最大腫瘍サイズ、Bは最小腫瘍サイズ)を用いて腫瘍体積を算出した。
【0038】
腫瘍浸潤白血球のフローサイトメトリー解析
腫瘍浸潤白血球の解析は、非特許文献5に記載の通りに実施した。簡単に説明すると、腫瘍をLiberase DLおよびDnase I(ともにRoche Diagnostics、ドイツ)で消化した。以下のモノクローナル抗体(eBioscience、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を使用した。a)全白血球-抗マウスCD45 PerCP-Cy5.5、クローン30-F11;b)Tリンパ球-抗マウスCD3e FITC、クローン145-2C11;c)CD4+ Tリンパ球-抗マウスCD4 APC、クローンGK1.5;d)CD8+ Tリンパ球-抗マウスCD8a、クローン53-6.7;e)Bリンパ球-抗マウスCD19APC、クローンeBio1D3;f)NK細胞-抗マウスNK1.1PE、クローンPK136;g)顆粒球-抗マウスGr-1 Alexa Fluor700、クローンRB68C5;h)マクロファージ-抗マウスF4/80抗原PE-Cy7、クローンBM8。解析はBD FACSCanto IIフローサイトメーター(BD Biosciences、米国カリフォルニア州サンノゼ)とBD FACSDivaソフトウェア6.1.3.(BD Biosciences、米国カリフォルニア州サンノゼ)を用いて行った。
【0039】
統計解析
曲線下面積(AUC)を計算して腫瘍増殖を評価した。得られた値は、一元配置分散分析と不等分散の事後検定(unequal post hoc test)により統計学的に評価した。カプランマイヤー生存曲線はログランク検定を用いて評価した。すべての統計的評価にSTATISTICA12ソフトウェア(StatSoft,Inc.、米国オクラホマ州タルサ)を使用した。エラーバーは平均値の標準誤差(SEM)を表す。
【実施例1】
【0040】
MBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との相乗効果-膵臓腺がん(Panc02)の2腫瘍マウスモデル
薬剤組み合わせを、最悪の腫瘍疾患に属すると考えられている膵臓腺がんの治療用として試験した。進行した腫瘍が2つあるマウスの一方(右側)の腫瘍にMBTAを腫瘍内投与し、同時にグルタミン代謝阻害剤(この場合は6-ジアゾ-5-オキソ-ノルロイシン(DON)を使用)を腹腔内投与することで治療した。
【0041】
C57BL/6マウスに、0.1mLのDMEM中の4×10個のマウス膵臓腺がん細胞Panc02を、左右鼠径部の剃毛部位に皮下接種した。腫瘍細胞移植の14日後、原発腫瘍の平均体積が100.7±42.1mm、遠隔腫瘍が104.8±43.2mmとなった時点で、マウスを6匹ずつの群に無作為に分け、直ちに治療を開始した。MBTA混合液(50μLのMBTA混合液:0.5mgのR-848+0.5mgのpoly(I:C)+0.5mgのLTA+0.4mgの抗CD40/mL PBS中0.2mMマンナン-BAM)(対照:PBS)を右側の腫瘍内にパルス投与(0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、26日目)した。5、13、21、29、37日目にDON(4mg DON/mL PBSの100μL溶液)(対照:PBS)を腹腔内投与した。
【0042】
MBTAとDONの免疫代謝的組み合わせが、腫瘍増殖の抑制(図1A、B)とマウスの生存期間延長(図1C)の両方で相乗効果を示したのに対し、他の群では腫瘍のない状態が持続したマウスはなかった。この実験を2回行ったが、結果は同等であった。
【0043】
図1A、B:左右の腫瘍の増殖。統計解析は、一元配置分散分析とテューキーの事後検定を使用し、AUC(曲線下面積)値を算出して実施した。*=p<0.05、**=p<0.01、図1C:生存期間解析、ログランク検定、*=p<0.05。
【実施例2】
【0044】
MBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との相乗効果-非常に進行した膵臓腺がん(Panc02)、マウスモデル
薬剤組み合わせを、非常に進行した膵臓腺がんの治療用として試験した。
【0045】
C57BL/6マウスに、0.1mLのDMEM中の4×10個のマウス膵臓腺がん細胞Panc02を右鼠径部の剃毛部位に皮下接種した。腫瘍細胞移植の20日後、腫瘍が大きくなった(140.8±46.8mm、範囲:37.4~247.0mm)時点で、マウスを6匹ずつの群に無作為に分け、直ちに適切な治療を開始した。MBTA混合液(50μLのMBTA混合液:0.5mgのR-848+0.5mgのpoly(I:C)+0.5mgのLTA+0.4mgの抗CD40/mL PBS中0.2mMマンナン-BAM)(対照:PBS)を腫瘍内にパルス投与(0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、26日目)した。0、7、14、21、28日目にDON(4mg DON/mL PBSの100μL溶液)を腹腔内投与した。
【0046】
MBTA療法のみで治療したマウスとMBTA療法にDONを併用したマウスの腫瘍増殖の抑制は同等であった(図2A)。しかし、MBTA療法のみで治療したマウスでは腫瘍のない状態が持続したのが1匹(1/6)のみであったのに対し、MBTA療法にDONを追加したマウスでは生存期間が改善した(3/6)(図2B)。
【0047】
さらに、MBTA/DON群で生き残った3匹のマウスに、続いて1×10個のPanc02細胞を頭蓋内投与した(頭蓋内投与はPanc02細胞の初回接種から174日後に行った)。3匹すべて、この再移植に完全に抵抗性があった。一方、対照群のすべてのマウス(n=8)が、Panc02頭蓋内移植の11~14日後に死亡した(データは示さず)。頭蓋内腫瘍移植に対する抵抗性は、この併用療法に、中枢神経系のような免疫特権部位においても長期間持続する全身性免疫記憶を誘導する能力があることを実証した。
【0048】
図2A:腫瘍の増殖。統計解析は、一元配置分散分析とテューキーの事後検定を使用し、AUC(曲線下面積)値を算出して実施した。**=p<0.01、図1B:生存期間解析、ログランク検定、*=p<0.05、**=p<0.01。
【実施例3】
【0049】
MBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との相乗効果-膵臓腺がん(Panc02)、マウスモデル、ワクチン接種
薬剤組み合わせを、膵臓腺がんの治療用として試験した。進行性腫瘍を左側に有するマウスに、MBTA中のPanc02死細胞懸濁液を皮下注射(右側腹部)し、同時にグルタミン代謝阻害剤DONを腹腔内/皮下投与した。
【0050】
C57BL/6マウスに、0.1mLのDMEM中の4×10個のマウス膵臓腺がん細胞Panc02を左鼠径部の剃毛部位に皮下接種した。腫瘍細胞移植の14日後、マウスを6匹ずつの群に無作為に分け、直ちに適切な治療を開始した。凍死Panc02細胞のMBTA懸濁液(50μLのMBTA/PBS懸濁液:4milのPanc02死細胞+0.5mgのR-848+0.5mgのpoly(I:C)+0.5mgのLTA+0.4mgの抗CD40/mL PBS中0.2mMマンナン-BAM)(対照:PBS)を右鼠径部の剃毛部位の皮下にパルス投与(0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、26日目)した。DONを腹腔内(i.p.)(4mg DON/mL PBSの100μL溶液)および皮下(s.c.)(4mg DON/mL PBSの200μL溶液)に、いずれも5、13、21、29、37日目に投与した。
【0051】
MBTAとDONの薬剤組み合わせは、腫瘍増殖の抑制に相乗効果を示し(図3A)、DONの皮下投与では、マウスの生存期間の延長にも相乗効果が認められた(図3B)。
【0052】
図3A:腫瘍の増殖。統計解析は、一元配置分散分析とテューキーの事後検定を使用し、AUC(曲線下面積)値を算出して実施した。*=p<0.05、****=p<0.001、*****=p<0.0005、図3B:生存期間解析、ログランク検定、*=p<0.05。
【実施例4】
【0053】
両側Panc02モデルにおける2つのタイミングでの腫瘍内MBTA療法とグルタミン拮抗薬(DON)のi.p.投与の組み合わせ
MBTA/DON併用療法の治療成績を向上させるため、DONの腹腔内投与と腫瘍内MBTA療法の組み合わせを試験した。DONの総量(2mg/マウス/治療)は、後述する2種類の治療計画で投与した。
【0054】
C57BL/6マウスの左右側腹部両方にPanc02細胞をs.c.接種した。12日後、マウスを次の4群(n=6/群)に無作為に分けた:右側腫瘍にPBSを投与して治療した群、右側腫瘍にMBTAを投与して治療した群、右側腫瘍にMBTAを投与し、DONをi.p.投与して治療した群(13回投与)、右側腫瘍にMBTAを投与し、DONをi.p.投与して治療した群(5回投与、赤)。MBTA(対照群:PBS)は0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、および26日目にパルス投与した。DONは5、13、21、29、37日目(400μg)および1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25日目(154μg)にそれぞれi.p.投与した。
【0055】
図4A、Bに示すように、DON投与を行った治療計画の両方で、腫瘍増殖の抑制に同様の効果が示された。両方の治療計画でマウスの生存期間の延長(図4C)は明らかであったが、統計的に有意ではなかった。しかし、2番目の治療計画(DONを1日おきに投与)では攻撃的すぎることがわかり、3匹のマウスが早期に死亡した。
【0056】
図4A、B:左右の腫瘍の増殖。統計解析は、一元配置分散分析とテューキーの事後検定を使用し、AUC(曲線下面積)値を算出して実施した。(*p<0.05、****p<0.001、*****p<0.0005)、図4C:生存期間解析。
【実施例5】
【0057】
両側Panc02モデルにおける異なる投与量でのDONのs.c.投与
DONの皮下投与と腫瘍内MBTA療法の組み合わせを試験した。DONは2種類の濃度で試験した。1番目の治療計画では、実施例4と同量のDON(2mg/マウス/治療)を、MBTA療法(400μg/マウス/注射)と並行して5回皮下注射した。2番目の治療計画では、低用量(80μg/マウス/注射)で同じタイミングとした。
【0058】
C57BL/6マウスの左右側腹部両方にPanc02細胞をs.c.接種した。12日後、マウスを次の4群(n=6/群)に無作為に分けた:右側腫瘍にPBSを投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与し、低用量のDONをs.c.投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与し、高用量のDONをs.c.投与した群。MBTA(対照群:PBS)は0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、および26日目にパルス投与した。DON(それぞれ80μgおよび400μg用量)は1、9、17、25、33日目にs.c.投与した。
【0059】
図5A、Bに示すように、腫瘍増殖の抑制は、DONのi.p.投与(実施例4、図4A、B)に比べてあまり明らかではなかった。治療マウスの早期死亡は観察されなかった(図5C)。
【0060】
図5A、B:左右の腫瘍の増殖。統計解析は、一元配置分散分析とテューキーの事後検定を使用し、AUC(曲線下面積)値を算出して実施した。(*p<0.05、*****p<0.0005)、図5C:生存曲線解析(*p<0.05)。
【実施例6】
【0061】
両側Panc02モデルにおけるDONのi.t.およびi.p.投与の比較
1番目はDONを遠位のMBTA未治療腫瘍に注射する治療、2番目はDONを腹腔内投与する治療の2つの治療計画を比較した。
【0062】
C57BL/6マウスの左右側腹部両方にPanc02細胞をs.c.接種した。12日後、マウスを次の4群(n=6/群)に無作為に分けた:右側腫瘍にPBSを投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与し、左側腫瘍にDONを投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与し、DONをi.p.投与した群。MBTA(対照群:PBS)は0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、および26日目にパルス投与した。DON(400μg)は1、8、15、22、29日目にi.t.またはi.p.投与した。
【0063】
DONの腫瘍内投与は、治療マウスの生存期間を有意に延長したi.p.投与とは対照的に、治療効果を改善しなかった(図6A、B、C)。
【0064】
図6A、B:左右の腫瘍の増殖。統計解析は、一元配置分散分析とテューキーの事後検定を使用し、AUC(曲線下面積)値を算出して実施した。(**p<0.01、クラスカル・ウォリス検定)、図6C:生存曲線解析(*p<0.05)。
【実施例7】
【0065】
両側Panc02モデルにおけるMBTA免疫療法とDONによるグルタミン代謝阻害との組み合わせ-副作用の評価
実施例4~6から、DONの最適な投与方法は、各投与間に十分な間隔をあけたi.p.投与であることが示された。この治療計画では治療マウスの早期死亡は観察されなかったが、この投与が治療マウスの健康状態に影響を与えないことを確認したかった。
【0066】
C57BL/6マウスの左右側腹部両方にPanc02細胞をs.c.接種した。12日後、マウスを次の3群(n=6/群)に無作為に分けた:右側腫瘍にPBSを投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与し、DONをi.p.投与した群。MBTA(対照群:PBS)は0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、および26日目にパルス投与した。DON(400μg)は1、8、15、22、29日目にi.p.投与した。
【0067】
MBTA療法とDONのi.p.投与の組み合わせは、図7D~Fに示すように、DON投与が、治療マウスの飲水量と摂食量および体重に影響を与えることなく両方の腫瘍の増殖を抑制し、治療マウスの生存期間を有意に延長した(図7A~C)。
【0068】
図7A、B:左右の腫瘍の増殖。統計解析は、一元配置分散分析とテューキーの事後検定を使用し、AUC(曲線下面積)値を算出して実施した。(*p<0.05)、図7C:生存曲線解析(*p<0.05)、図7D、E、F:実験中のマウスの摂食量と飲水量および体重変化の評価。
【実施例8】
【0069】
左側MBTA未治療並行膵臓腺がん腫瘍の免疫細胞浸潤に対するDONの効果、両側Panc02モデル
DON投与の副作用の可能性を検討しつつ、DONが遠位腫瘍の浸潤に悪影響を及ぼすかどうかを検討した。
【0070】
C57BL/6マウスの左右側腹部両方にPanc02細胞をs.c.接種した。14日後、マウスを次の4群(n=16/群)に無作為に分けた:右側腫瘍にPBSを投与し、PBSをi.p.投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与し、PBSをi.p.投与した群、右側腫瘍にPBSを投与し、DONをi.p.投与した群、右側腫瘍にMBTAを投与し、DONをi.p.投与した群。MBTA(対照群:PBS)は0、1、2、8、9、10、16、17、18、24、25、および26日目にパルス投与した。DON(400μg)は5、13、21、29日目にi.p.投与した。7、15、23、31日目にフローサイトメトリー解析を実施した。
【0071】
図8に示すように、唯一の例外(23日目の顆粒球数)を除き、MBTA療法にDONを加えたことによる有意な変化は観察されなかった。
【0072】
図8:両側Panc02モデルにおける左側MBTA未治療並行膵臓腺がん腫瘍の免疫細胞浸潤に対するDON投与の効果。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によるがんの治療で使用するための薬剤組み合わせは、がんの治療、特に転移性マウス膵臓腺がんのような固形腫瘍の治療に使用できる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8
【国際調査報告】