(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】量子処理ユニット、量子コンピューティングシステム、およびキュービットの状態を読み出すための方法
(51)【国際特許分類】
G06N 10/40 20220101AFI20241031BHJP
【FI】
G06N10/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024528554
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 FI2021050773
(87)【国際公開番号】W WO2023084143
(87)【国際公開日】2023-05-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519394241
【氏名又は名称】アイキューエム フィンランド オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】キャスパー・オッケルーン-コルッピ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンネス・ヘインソー
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・サースビー
(72)【発明者】
【氏名】パシ・ラハテーンマキ
(57)【要約】
量子処理ユニットは、複数のキュービットと読み出し共振器とを備える。各キュービットは、量子コンピューティング演算の結果として、量子状態を取得するように構成されている。第1のキュービットは、前記読み出し共振器の最も近くに位置する。量子処理ユニットは、それぞれのスワップゲート制御信号に応答して、キュービットのそれぞれの対の間でスワップゲートを選択的に実行して、そのようなキュービットの状態を入れ替えるように構成された複数のカプラを備える。カプラは、前記スワップゲートを繰り返し実行することによって、各キュービットの取得された量子状態を前記第1のキュービットに順番に出現させるように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子処理ユニットであって、複数のキュービットと読み出し共振器とを備え、
前記複数のキュービットの各々が、量子コンピューティング演算の結果として、そのキュービットに固有の量子状態を取得するように構成され、
前記複数のキュービットのうちの第1のキュービットが、前記読み出し共振器の最も近くに位置する、量子処理ユニットにおいて、
前記量子処理ユニットが、複数のカプラを備え、前記カプラが、それぞれのスワップゲート制御信号に応答して、前記複数のキュービットのそれぞれの対の間でスワップゲートを選択的に実行して、前記それぞれの対の前記キュービットの状態を入れ替えるように構成され、
前記カプラが、前記スワップゲートを繰り返し実行することによって、前記複数のキュービットの各々の前記取得された量子状態を前記第1のキュービットに順番に出現させるように構成されていることを特徴とする、量子処理ユニット。
【請求項2】
前記複数のキュービットには、10を超えるキュービット、好ましくは100を超えるキュービット、最も好ましくは1000を超えるキュービットが存在する、請求項1に記載の量子処理ユニット。
【請求項3】
前記カプラが、前記複数のキュービットの各々の前記取得された量子状態を前記第1のキュービットに出現させる順序を制御可能に変更するように構成されている、請求項1または2のいずれか一項に記載の量子処理ユニット。
【請求項4】
前記複数のキュービットが、前記量子処理ユニット内のすべてのキュービットの第1のサブセットを構成し、
前記量子処理ユニットが、キュービットの1つまたは複数の他のサブセットを含み、
前記量子処理ユニットが、複数の読み出し共振器を備え、そのうちの少なくともそれぞれの1つが、キュービットの各前記サブセット専用として利用可能である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の量子処理ユニット。
【請求項5】
前記カプラが、キュービットのサブセットに対する、前記複数の読み出し共振器のうちの読み出し共振器の割り当てを制御可能に変更するように構成されている、
請求項4に記載の量子処理ユニット。
【請求項6】
前記量子処理ユニットが、基板上の2次元エリアを含み、
キュービットの前記サブセットが、前記2次元エリアにわたって広がっている、
請求項4または5のいずれか一項に記載の量子処理ユニット。
【請求項7】
前記複数の読み出し共振器が、前記2次元エリアの1つまたは複数の端部に位置する、請求項6に記載の量子処理ユニット。
【請求項8】
前記複数の読み出し共振器の少なくとも一部が、前記2次元エリアにわたって分布している、請求項6に記載の量子処理ユニット。
【請求項9】
前記第1のサブセットが、調整されたキュービット、および交互パターンでパークキュービットまたは固定周波数キュービットのいずれかを含み、パークキュービットが、それぞれの共振周波数に保持されたキュービットであり、
前記交互パターンにおける前記パークキュービットまたは前記固定周波数キュービットの共振周波数が、3つの異なる周波数の回転パターンに従い、
第2のサブセットが、調整されたキュービット、および交互パターンでパークキュービットまたは固定周波数キュービットのいずれかを含み、前記交互パターンにおける前記パークキュービットまたは前記固定周波数キュービットの共振周波数が、前記第1のサブセットと同じ、3つの異なる周波数の回転パターンに従い、
前記第1のサブセットおよび前記第2のサブセットの前記調整されたキュービットおよび前記パークキュービットまたは前記固定周波数キュービットが、六角形グリッドの頂点に位置し、前記グリッド内の各パークキュービットまたは固定周波数キュービットの3つの最近傍が、調整されたキュービットであり、前記グリッド内の各調整されたキュービットの3つの最近傍が、パークキュービットまたは固定周波数キュービットであり、その各々が、前記3つの異なる周波数のうちの一意のものを有する、
請求項6から8のいずれか一項に記載の量子処理ユニット。
【請求項10】
量子コンピューティングシステムであって、
請求項1から9のいずれか一項に記載の量子処理ユニットと、
制御装置と、
前記量子処理ユニットと前記制御装置との間の複数の信号経路と
を備え、
前記制御装置が、前記量子処理ユニット内の前記カプラに前記スワップゲート制御信号を提供するように構成されている、
量子コンピューティングシステム。
【請求項11】
前記制御装置が、
前記量子処理ユニットにおける前記複数のキュービットの少なくとも一部の読み出し順序を動的に決定し、
前記動的に決定された読み出し順序に従って、前記カプラに前記スワップ制御信号を供給して、前記複数のキュービットの前記少なくとも一部の各々の前記取得された量子状態を、前記決定された読み出し順序で前記第1のキュービットに出現させる
ように構成されている、請求項10に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項12】
前記量子処理ユニット内の前記複数のキュービットが、計算キュービットおよびアンシラキュービットを含み、
前記制御装置が、前記計算キュービットによって取得された前記状態を読み出す前に、前記アンシラキュービットの少なくとも一部の前記状態を複数回読み出すように構成されている、
請求項10または11のいずれか一項に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項13】
前記計算キュービットが、前記量子処理ユニットの表面上で第1の行列パターンを構成し、前記アンシラキュービットが、前記量子処理ユニットの前記表面上で前記第1の行列パターンと絡み合った第2の行列パターンを構成する、請求項12に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項14】
量子コンピューティングシステムにおけるキュービットの状態を読み出すための方法であって、
複数のキュービットの間でスワップゲートを繰り返し実行して、量子コンピューティング演算の結果として、前記複数のキュービットの各々によって取得された状態を、前記複数のキュービットのうちの第1のキュービットに順番に出現させるステップと、
前記第1のキュービットに対して読み出し動作を繰り返し実行し、それにより、前記第1のキュービットに順番に出現させられた前記複数のキュービットの各々の前記取得された状態を順次読み出すステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子コンピューティングの技術分野に関する。特に、本発明は、量子処理ユニットにおける複数のキュービットの状態の読み出しに関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピューティングの基本的な機能単位はキュービットであり、量子処理ユニット上には多数のキュービットが存在する可能性がある。本明細書の全体にわたって、量子処理ユニットという用語およびその頭字語であるQPUは、その少なくとも一部が量子コンピューティングに適しており、量子コンピューティングのために設計されている複数の回路素子が、量子コンピューティングに必要な極低温冷却環境で動作するのに適した物理的形式で存在するハードウェアを指す。量子回路という用語は、量子計算中に実行される量子ゲートの構成可能な抽象化を指す。量子コンピューティングシステムという用語は、1つまたは複数のQPU、極低温冷却環境の外部にある制御装置、およびそれら2つの間の信号経路を含む、より大きいエンティティを指す。
【0003】
量子計算に使用される各キュービットは、2つの基底状態の重ね合わせを想定している。簡潔な参照のために、重ね合わせは、キュービットの量子状態、または単にキュービットの状態と呼ばれることが多い。一般に、マルチキュービットシステムは、マルチキュービットの固有状態の重ね合わせにある。
【0004】
量子計算の有用な結果を取得するためには、読み出し動作を行わなければならない。読み出し動作は、単一のキュービットの量子状態を、可能な基底状態のうちの1つに崩壊させ、その結果、デジタル1またはデジタル0として表現できる古典的な状態が得られる。任意の量子回路の代表的な特性はコヒーレンス時間であり、量子状態によって表される情報の損失を回避するために、その間に読み出し動作を行わなければならない。
【0005】
キュービットの読み出しを行う既知の方法は、読み出し共振器の使用を伴う。キュービットは隣接する読み出し共振器と弱く結合されており、キュービット内のエネルギーは、キュービットの非線形性によって、キュービットおよび読み出し共振器からなる結合システムの散乱パラメータに小さいシフトを引き起こす。このシフトは、読み出し共振器と共鳴するマイクロ波パルスである、いわゆる読み出し信号の送信によって検出することができる。
【0006】
キュービットがトランスモンであると仮定すると、キュービットの状態と読み出し共振器に注入された読み出し信号との間の相互作用により、送信された信号の振幅および位相に観察可能な効果が生じる。この効果は、読み出し動作で観察される古典的な状態を示している。読み出し共振器からは、取得された古典的な状態を、量子処理ユニットが存在する極低温冷却環境から最終的に転送する信号経路がさらに存在する。
【0007】
読み出し共振器は、状態が読み取られるキュービットの近くに位置していなければならない。極低温冷却環境にある読み出し共振器と、周囲の室温環境にある処理電子機器との間の信号経路を構築することは、適切なフィルタリングとクライオスタット内の低温物体への熱的固定を備えた、ギガヘルツ周波数で動作可能な伝送線路が必要となるため、簡単なことではない。実際には、周波数多重化を利用して、約10個の読み出し共振器間で共通の伝送線路を共有することができるが、その限界はゲート速度および利用可能な帯域幅に関係する。ハードウェアとソフトウェアがサポートしている場合、ゲートが遅いほど、より多くのチャンネルを周波数多重化することができるが、ゲートが遅いと、キュービットの限られたコヒーレンス時間を最大限に活用するという全体的な目標に反する。量子処理ユニットが少数のキュービットのみを含むシステムでは、これらは大きい問題ではない。しかしながら、量子処理ユニットのキュービット数が増加するにつれて、既知の読み出しシステムの物理的なスペース要件、ならびに大量の配線に関連する伝導熱およびコストが法外に大きくなる可能性があることがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
読み出し関連回路に大きいスペースを必要とせずに、複数のキュービットの状態を読み出すことを可能にする量子処理ユニット、量子コンピューティングシステム、および方法を提示することが目的である。別の目的は、多数のキュービットを有するシステムにおいて、特定のニーズに合わせて読み出し動作を調整することができる量子処理ユニット、量子コンピューティングシステム、および方法を提示することである。さらなる目的は、量子コンピューティングシステムの配線に関連する伝導熱の量およびコストを削減することである。
【0010】
これらおよび他の有利な目的は、そのほとんどが読み出し共振器から遠く離れた複数のキュービットを順次読み出すために使用することができる読み出し共振器を提供することによって達成される。スワップゲートは、各キュービットの量子状態を共通の読み出し共振器に最も近い位置に順番に転送するために利用される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様によれば、複数のキュービットと読み出し共振器とを備える量子処理ユニットが提供される。前記複数のキュービットの各々が、量子コンピューティング演算の結果として、そのキュービットに固有の量子状態を取得するように構成され、前記複数のキュービットのうちの第1のキュービットが、前記読み出し共振器の最も近くに位置する。量子処理ユニットは、複数のカプラを備え、これらのカプラは、それぞれのスワップゲート制御信号に応答して、前記複数のキュービットのそれぞれの対の間でスワップゲートを選択的に実行して、前記それぞれの対のキュービットの状態を入れ替えるように構成されている。前記カプラは、前記スワップゲートを繰り返し実行することによって、前記複数のキュービットの各々の取得された量子状態を前記第1のキュービットに順番に出現させるように構成されている。
【0012】
一実施形態によれば、前記複数のキュービットには、10を超えるキュービット、好ましくは100を超えるキュービット、最も好ましくは1000を超えるキュービットが存在する。これは特に、この特定の読み出し方式の有利な特性がますます明らかになるという利点を伴い、その理由は、キュービットの数の増加とともに適用すると、スペース、製造コスト、ハードウェアの複雑さ、極低温冷却機器の熱負荷がより実質的に節約されるからである。
【0013】
一実施形態によれば、前記カプラは、前記複数のキュービットの各々の取得された量子状態を前記第1のキュービットに出現させる順序を制御可能に変更するように構成されている。これは特に、キュービットの取得された量子状態が読み出される順序を、実行される量子計算演算作の要件に動的に適合させることができるという利点を伴う。
【0014】
一実施形態によれば、前記複数のキュービットは、前記量子処理ユニット内のすべてのキュービットの第1のサブセットを構成し、量子処理ユニットは、キュービットの1つまたは複数の他のサブセットを含む。次いで、量子処理ユニットは、複数の読み出し共振器を備え得、そのうちの少なくともそれぞれの1つが、キュービットの各前記サブセット専用として利用可能である。これは特に、非常に多くのキュービットであっても、より多くの時間を費やすことなく、許容可能な程度を超えた忠実度を失うことなく読み出すことができるという利点を伴う。
【0015】
一実施形態によれば、前記カプラは、キュービットのサブセットに対する、前記複数の読み出し共振器のうちの読み出し共振器の割り当てを制御可能に変更するように構成されている。これは特に、キュービットの取得された量子状態が読み出される、キュービットのグループ化を、実行される量子計算演算の要件に動的に適合できるという利点を伴う。
【0016】
一実施形態によれば、量子処理ユニットは、基板上の2次元エリアを含み、キュービットの前記サブセットが、前記2次元エリアにわたって広がっている。これは特に、非常に多くのキュービットを実装し、それらの取得された量子状態を適切なスペースで読み出すことができるという利点を伴う。
【0017】
一実施形態によれば、前記複数の読み出し共振器は、前記2次元エリアの1つまたは複数の端部に位置する。これは特に、読み出し共振器への配線が比較的簡単であり、読み出し共振器が2次元エリアの中央部分からスペースを取らないという利点を伴う。
【0018】
一実施形態によれば、前記複数の読み出し共振器の少なくとも一部は、前記2次元エリアにわたって分布している。これは特に、キュービットのグループ化をより自由に決めることができるという利点を伴う。
【0019】
一実施形態によれば、前記第1のサブセットは、調整されたキュービット、および交互パターンでパークキュービット(parked qubit)または固定周波数キュービットのいずれかを含み、パークキュービットがそれぞれの共振周波数に保持されたキュービットである。前記交互パターンにおけるパークキュービットまたは固定周波数キュービットの共振周波数は、3つの異なる周波数の回転パターンに従い得る。第2のサブセットは、次いで、調整されたキュービット、および交互パターンでパークキュービットまたは固定周波数キュービットのいずれかを含み得、前記交互パターンにおけるパークキュービットまたは固定周波数キュービットの共振周波数が、第1のサブセットと同じ、3つの異なる周波数の回転パターンに従う。前記第1のサブセットおよび第2のサブセットの調整されたキュービット、およびパークキュービットまたは固定周波数キュービットが、六角形グリッドの頂点に位置し得、前記グリッド内の各パークキュービットまたは固定周波数キュービットの3つの最近傍が、調整されたキュービットであり、前記グリッド内の各調整されたキュービットの3つの最近傍が、パークキュービットまたは固定周波数キュービットであり、その各々が、前記3つの異なる周波数のうちの一意のものを有する。これは特に、隣接するサブセットのキュービット間で不要な干渉を引き起こす危険性なしに、比較的単純な読み出し方式を実装できるという利点を伴う。
【0020】
第2の態様によれば、上記で紹介した何らかの種類の量子処理ユニット、ならびに制御装置、および前記量子処理ユニットと前記制御装置との間の複数の信号経路を備える量子コンピューティングシステムが提供される。前記制御装置は、前記量子処理ユニット内のカプラに前記スワップゲート制御信号を提供するように構成されている。
【0021】
一実施形態によれば、前記制御装置は、量子処理ユニットにおける複数のキュービットの少なくとも一部の読み出し順序を動的に決定し、動的に決定された読み出し順序に従って、カプラに前記スワップ制御信号を供給して、複数のキュービットの前記少なくとも一部の各々の取得された量子状態を、決定された読み出し順序で前記第1のキュービットに出現させるように構成されている。これは特に、量子コンピューティングシステムの動作を、実行される量子コンピューティングタスクごとに柔軟に最適化できるという利点を伴う。
【0022】
一実施形態によれば、量子処理ユニット内の複数のキュービットは、計算キュービットおよびアンシラキュービット(ancilla qubit)を含む。次いで、制御装置は、計算キュービットによって取得された状態を読み出す前に、前記アンシラキュービットの少なくとも一部の状態を複数回読み出すように構成され得る。これは特に、システムのいかなる他の有利な特性も犠牲にすることなく、効果的な誤り検出を可能にするという利点を伴う。
【0023】
一実施形態によれば、前記計算キュービットは、量子処理ユニットの表面上で第1の行列パターンを構成し、前記アンシラキュービットは、量子処理ユニットの前記表面上で前記第1の行列パターンと絡み合った第2の行列パターンを構成する。これは特に、すべての計算キュービット、または少なくとも計算キュービットの大部分を、アンシラキュービットを使用して誤り訂正にかけることができるという利点を伴う。
【0024】
第3の態様によれば、量子コンピューティングシステムにおいてキュービットの状態を読み出すための方法が提供される。この方法は、複数のキュービットの間でスワップゲートを繰り返し実行して、量子コンピューティング演算の結果として、前記複数のキュービットの各々によって取得された状態を、前記複数のキュービットのうちの第1のキュービットに順番に出現させるステップを含む。この方法はまた、前記第1のキュービットに対して読み出し動作を繰り返し実行し、それにより、第1のキュービットに順番に出現させられた前記複数のキュービットの各々の取得された状態を順次読み出すステップを含む。
【0025】
添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書の一部を構成し、本発明の実施形態を示し、説明とともに本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】読み出しおよびスワップゲートの動作シーケンスの一例を示す図である。
【
図4】量子処理ユニットにおけるキュービットの可能な読み出し順序を示す図である。
【
図5】量子処理ユニットにおけるキュービットの可能な読み出し順序を示す図である。
【
図6】量子処理ユニットにおけるキュービットの可能な読み出し順序を示す図である。
【
図7】アンシラキュービットの使用の一例を示す図である。
【
図8】量子コンピューティングシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、量子処理ユニット101の簡略化された概略図である。これは複数のキュービットを含み、ここでは0から9までの番号が付けられた角が丸い矩形として示されている。加えて、量子処理ユニット101は、読み出し共振器102を備える。複数のキュービットの各々は、量子コンピューティング演算の結果として、そのキュービットに固有の量子状態を取得するように構成されている。量子コンピューティング演算から有用な結果を取得するために、各キュービットまたは少なくとも選択されたキュービット群に対して読み出し動作を行う必要がある。
【0028】
複数のキュービットのうち、1つのキュービットが読み出し共振器102の最も近くに位置する。この最も近いキュービットを第1のキュービットと呼ぶことができるが、第1、第2などの数字表記は、必ずしも何らかの幾何学的な、または他の定義された順序を示すことなく、明確な参照のためだけに使用されていることに留意されたい。
図1の図式では、第1のキュービットは、番号0の最左のものである。
【0029】
加えて、量子処理ユニットは、複数のカプラを備え、そのうちの最左のキュービットおよびすぐ隣の左から2番目のキュービットに隣接して位置するカプラ103が一例として示されている。カプラは、それぞれのスワップゲート制御信号104に応答して、キュービットのそれぞれの対の間でスワップゲートを選択的に実行するように構成されている。1対のキュービット間のスワップゲートとは、これら2つのキュービットの量子状態を入れ替える動作である。
図1の最左のカプラ103にもたらされるスワップゲート制御信号104は、
図1の最左のキュービットおよび左から2番目のキュービットの状態を入れ替える。
【0030】
特に、カプラは、前記スワップゲートを繰り返し実行することによって、複数のキュービットの各々の取得された量子状態を、
図1の第1(すなわち最左)のキュービットに順番に出現させるように構成されている。このようにして、量子処理ユニット101内の10個のキュービットの状態を読み出すのに必要なすべての読み出し動作を実行するのに必要な読み出し共振器は1つで済む。
【0031】
一例として、
図1における第1(最左)のキュービットの取得された状態は、いかなるスワップゲートも実行することなく、読み出し共振器102を用いて読み出すことができる。その後、カプラ103を使用して単一のスワップゲートが実行され得、左から2番目のキュービットによって最初に取得された量子状態を、読み出し共振器102を用いた読み出しのために第1のキュービットに出現させることができる。次に、左から2番目および最左のカプラを使用して2つのスワップゲートが順番に実行され得、その後、左から3番目のキュービットによって最初に取得された量子状態が、読み出しのために第1のキュービットに出現する、など以下同様である。
【0032】
Rxが
図1のx'番目のキュービットの状態を読み出すことを意味する表記が採用され得る。読み出し共振器102が0番目のキュービットにのみ隣接しているので、この例ではx=0である。同様に、採用された表記Syz(y∈[0,8],z=y+1)は、y'番目とz'番目のキュービット間のスワップゲートを意味する。この表記を使用して、読み出しおよびスワップゲート動作の連続サイクルを
図2の表のように示すことができる。
【0033】
図2では、表セルのハッチングされた端部が読み出し動作を強調している。行番号0では、0から9の連続した数字が、
図1の例示的な10キュービット量子処理ユニットにおけるキュービットの取得された量子状態を示している。R0を実行すると、すなわち0番目のキュービットの量子状態を読み出すと、それを古典的な状態に崩壊させる。これは、
図2では2行目以降0'として示されている。表の行番号1は、スワップゲートS01を実行することにより、最左の2つのキュービットの状態をどのように入れ替えるかを示しており、その結果、1番目のキュービットの取得された量子状態1が最左のキュービットに現れ、0番目のキュービットの崩壊した古典的な状態0'が次に左から2番目のキュービットに現れる。行番号2では、読み出し動作R0が1番目のキュービットの量子状態1を読み出し、それを古典的な状態1'に崩壊させる。同じ行で、スワップゲートS12は、左から2番目と左から3番目のキュービットの状態を入れ替える。同様の動作が続き、したがって、各量子状態が最左のキュービットに転送され、順番に読み出される。結果として得られる古典的な状態は、キュービットの列において右側に移動し始める。
【0034】
図2の表の行番号10は、古典的な状態1'および0'が右端の2つのキュービットにどのように移動したかを示している。行番号10の演算R0-S12-S34-S56-S78は行番号8と同じであることに留意されたい。表は、行番号11は行番号7の演算を繰り返し、行番号12は行番号6の演算を繰り返すなど、単純に継続することができる。合計18行の後、すべてのキュービットによって以前に取得された量子状態が読み出され、結果として得られる古典的な状態は、表の行番号0を基準としてミラーリングされた順序でキュービットに現れることになる。
【0035】
図1の単一行のキュービットは、より大きい量子処理ユニット内のキュービットのサブセットを表すと考えることができる。一例として、1024個のキュービットが32行32列の矩形アレイに配置され、アレイの端部には各行に行固有の読み出し共振器があると考え得る。さらに、周波数多重化によって8つの共振器間で共通の伝送路を共有できると仮定すると、1024個のキュービットすべてを読み出すには、スワップゲートを実行するのに必要な制御ラインに加えて、4本の入力ラインおよび4本の出力ラインのみが必要になる。
【0036】
さらに、すべての行を読み出し、すべてのスワップゲートを並列に実行できると仮定すると、読み出しに必要な時間を見積もることができる。
図2の表のように、単一行の読み出しシーケンスを表にすると、32行が読み出し動作とスワップゲートの両方を含み、さらに32行がスワップゲートのみを含む表を意味する。スワップゲートを50ナノ秒で実行することができ、読み出し動作に100ナノ秒かかる場合、表の32+32行は4.8マイクロ秒で実行することができる。このテキストの執筆時点までに100マイクロ秒程度のコヒーレンス時間が実証されていることを考えると、これは読み出しを行うには十分すぎる速さである。
【0037】
上記の例では、行の最後のキュービットの取得された量子状態は、読み出し前に32回のスワップゲートを受けることになる。スワップゲートあたりの忠実度を99.95パーセントと仮定すると、これは、最悪の忠実度の損失が2パーセント未満程度(0.9995^32≒0.9841)になることを意味する。
【0038】
上述したように、提案された読み出し方法で達成される利点は、量子処理ユニットにおけるキュービット数が多いときに最も顕著になる。量子処理ユニットには、10を超えるキュービット、100を超えるキュービット、または1000を超えるキュービットが存在し得る。
【0039】
最も好ましくは、スワップゲートを実行するように構成されたカプラは、各キュービットの取得された量子状態を読み出し共振器に隣接するキュービットに出現させる順序を制御可能に変更するように構成されている。すなわち、スワップゲートが実行される順序を選択することによって、共通の読み出し共振器を共有するキュービットを所望の順序で読み出し動作にかけることができる。簡単な例として、
図1の最初の4つのキュービット(キュービット0、1、2、および3)を0-3-1-2の順番で読み出すとすると、演算R0、S01-S23、S12、S01-S23、R0、S01、R0-S12、S01、R0を実行することができる。
【0040】
32×32アレイの1024個のキュービットの例ですでに示したように、キュービットの最初のサブセットおよび1つまたは複数の他のサブセットが存在する可能性がある。次いで、量子処理ユニットは、複数の読み出し共振器を備え得、そのうちの少なくともそれぞれの1つが、キュービットの各サブセット専用に使用可能である。各サブセットが矩形アレイ内のキュービットの行であり、専用のサブセット固有の読み出し共振器が行の一端にある例は、説明のためのものにすぎない。以下に、サブセットと読み出し共振器を幾何学的に配置するためのさらなる例を示す。
【0041】
カプラは、キュービットのサブセットに対する読み出し共振器の割り当てを制御可能に変更するように構成され得る。これは、キュービットのチェーンは、取得された量子状態が読み出しのために特定のキュービットに至り、異なる時点で異なる可能性があることを意味する。非常に単純な例では、
図1の量子処理ユニットには、キュービットの行の両端に1つずつ2つの読み出し共振器があり得る。ある時点で、カプラは、スワップゲートを繰り返し実行することによって、たとえば第0、第1、第2、第3、および第5の取得された量子状態を第0のキュービットに順番に出現させ、第4、第6、第7、第8、および第9のキュービットの取得された量子状態を第9のキュービットに順番に出現させることができる。また別の時点で、サブセットへのこの分割が別の方法で行われる可能性がある。
【0042】
図3は、基板301上の2次元エリアを含む量子処理ユニットの一例を示す。キュービットのサブセットは2次元エリアにわたって広がる。この実施形態では、キュービットは矩形アレイを形成する。
図3では、図を見やすくするために、カプラは示されていない。複数の読み出し共振器302は、2次元エリアの一端に位置する。この実施形態では、第2の複数の読み出し共振器303は、2次元エリアの第2の端部に位置する。
【0043】
図3に示す原理は、キュービットのサブセットに対する読み出し共振器の割り当てを制御可能に変更するのによく適している。たとえば、ある時点で、
図3の左端にある読み出し共振器302のうちの1つに専用のキュービットのサブセットは、キュービット100、101、102、103、104などのようなキュービットの行を含み得る。他の時点で(あるいは同じ時に)、
図3の上端にある読み出し共振器303のうちの1つに専用のキュービットのサブセットは、キュービット001、101、201、301、401などのようなキュービットの列を含み得る。
【0044】
キュービットは、基板の表面に矩形アレイを形成する必要はない。たとえそうであったとしても、キュービットのサブセットを行または列などの線形サブセットとして定義する必要はない。
図4は、キュービットのサブセットが4×4アレイの16のキュービットを含み、読み出し共振器401がアレイの左上隅のキュービット402に隣接して位置する例を示す。
図4では、図を見やすくするために、カプラは示されていない。しかしながら、カプラは存在し、スワップゲートを繰り返し実行することによって、16個のキュービットの各々の取得された量子状態を、左上のキュービット402に順番に出現させるように構成されている。読み出しが行われる順序は、
図4の矢印のジグザグパターンに従う。たとえば、右下のキュービットの取得された量子状態を読み出すために、まず前記量子状態を1キュービット左に入れ替え、次いで斜め右上に入れ替え、次いで真上に入れ替え、次いで斜め左下に入れ替える、などである。
【0045】
図5は、それ自体は互いに独立しており、他の原理と組み合わせて同様に適用することができる、いくつかの例示的な原理を示している。まず、
図5のキュービットは矩形アレイではなく、何らかの他の、ここでは六角形のアレイを形成している。したがって、キュービットをいかなる種類の規則的なアレイにもする必要はない。第2に、複数の読み出し共振器の少なくとも一部は、キュービットが広がる2次元エリアにわたって分布している。読み出し共振器は模式的に円形で表されており、たとえば読み出し共振器501を参照されたい。個々の読み出し共振器は、たとえば市松模様状の配置、または一般に量子処理ユニットの中央の領域に存在することができ、各読み出し共振器を対象とするキュービットのサブセットは、通常、そのような読み出し共振器の直近の周辺エリアに位置する。
【0046】
第3に、キュービットの(デフォルトの)サブセットは線形ではなく、専用の読み出し共振器の周囲にコンパクトな(ここでは正六角形の)パターンを形成する。第4に、サブセットへのキュービットの分割は一定である必要はなく、たとえば、
図5のキュービット502は、カプラ(図を明瞭にするために
図5には示されていない)によって実行されるスワップゲートを適切に制御することによって、実線の矢印で示されるように下のサブセットの一部として読み出されたり、破線の矢印で示されるように右上のサブセットの一部として読み出されたりする可能性がある。
【0047】
図6は、キュービットの半分が調整されたキュービットであり、残りの半分がパークキュービットまたは固定周波数キュービットである駆動の実施形態の一例を示している。パークキュービットは、その構造および関連する回路によって、異なる共振周波数に調整することができるが、当面はそれぞれの共振周波数に維持されるキュービットである。ここでは、パークキュービットには3つの異なる周波数があり、それぞれA、B、Cでマークされている。固定周波数キュービットは、単一の固定共振周波数A、B、またはCを有するキュービットである。固定周波数キュービットの使用は、よりシンプルな構造および電気設計においていくつかの利点を伴い、一方、パークドキュービットの使用は、あらかじめ定められた周波数にこだわる必要がないという利点を伴う。
【0048】
調整されたキュービットはXでマークされている。キュービット601の第1のサブセットは、破線の楕円で強調されている。前記第1のサブセットは、キュービットのチェーンで形成され、調整されたキュービット、および交互パターンでパークキュービットまたは固定周波数キュービットを含み、したがって、2つおきのキュービットが調整されたキュービットであり、他のキュービットがパークキュービットまたは固定周波数キュービットである。パークキュービットまたは固定周波数キュービットの共振周波数は、A-B-C-A-B-C...という回転パターンに従うので、全体としてキュービット601の第1のサブセットはA-X-B-X-C-X-A-X-B-X-C-X...のようになる。
【0049】
キュービットの第2のサブセットは、
図6の第1のサブセットに似ている。言い換えれば、第2のサブセットは、調整されたキュービット、および交互パターンでパークキュービットまたは固定周波数キュービットを含み、前記交互パターンにおけるパークキュービットまたは固定周波数キュービットの共振周波数が、第1のサブセットと同じ3つの異なる周波数の回転パターンに従う。
【0050】
図6の実施形態では、第1および第2のサブセット(ならびにさらなるサブセット)の調整されたキュービットおよびパークキュービットまたは固定周波数キュービットは、六角形グリッドの頂点に位置する。特に、前記グリッド内の各パークキュービットまたは固定周波数キュービットの3つの最近傍は調整されたキュービットであり、前記グリッド内の各調整されたキュービットの3つの最近傍がパークキュービットまたは固定周波数キュービットであり、その各々が3つの異なる周波数A、B、およびCのうちの一意のものを有する。
【0051】
調整されたキュービットおよびパークキュービットまたは固定周波数キュービットのこの配置により、調整されたキュービットの連続的な調整ステップによって、各瞬間に適切なパークキュービットと共鳴させるスキームが可能になる。たとえば、調整されたキュービット602を考慮すると、同じサブセット601内の右上の共振周波数Cのパークキュービットまたは固定周波数キュービットと共鳴するように調整され得る。その後、調整されたキュービット602は、同じサブセット601内のその下にある共振周波数Aのパークキュービットまたは固定周波数キュービットと共鳴するように調整され得る。これらの調整ステップのいずれも、左上の共振周波数Bのパークキュービットまたは固定周波数キュービットである、異なるサブセットの最も近いパークキュービットまたは固定周波数キュービット603との不要な共鳴を引き起こさない。磁束とドライブを組み合わせることによって、この方式では、1024のキュービットのグリッドに対して1024の制御ラインと、それらをすべて読み出すための8本のラインが必要になる(32個のキュービットを同時に読み出すために、4本の入力ラインと4本の出力ラインで8倍の周波数多重化を想定する)。
【0052】
図6のような実施形態、あるいは実際に任意の実施形態において、WO2021/156542として公開された同時継続中の特許出願で説明されている付加的制御原理を適用することによって、スワップゲートを実行するために必要な制御ラインの数を効率的に低減することができる。要するに、付加的制御原理は、量子処理ユニットの制御ラインのアレイを通して弱い制御信号を送ることを伴う。ある弱い制御信号だけでは、その制御ラインに近いキュービット(あるいは他の制御可能な回路素子)に大きな影響を与えることはない。しかしながら、その近くを通過する2本以上の制御ラインを有するキュービット(または他の制御可能な回路素子)は、弱い制御信号が前記2本以上の制御ラインの各々を同時に伝搬し、それらの制御信号の複合効果を経験し、意図されたとおりの影響を受ける。たとえば、キュービットの32×32の矩形グリッドを想定すると、64本の制御ライン(キュービットの行に沿って32本、列に沿って32本)で十分である可能性がある。簡単にするために、この計算では、終端は除外している。前述したように、読み出し用に合計8ラインを追加すれば十分であり得る(32個の読み出し共振器と8倍の周波数多重化を想定)。
【0053】
キュービット間でのスワップゲートの繰り返しは、忠実度のわずかな劣化しか引き起こさないが、そのような劣化を完全に回避することはできない。しかしながら、上記で説明した読み出し方式は、極低温冷却環境と室温環境との間に一定数の信号経路のみを許可する量子コンピューティングシステムに、さらに多くのキュービットを組み込むことを可能にする。このように多くのキュービットを適切に使用することによって量子誤り訂正を行うことは、忠実度の低下によって引き起こされる潜在的な誤りの原因を十分に上回る可能性がある。
【0054】
図7は、実際の計算キュービットだけでなく、いわゆるアンシラキュービットを含む量子処理ユニットの一例を示している。この技術分野でよく知られているように、アンシラキュービットは量子誤り訂正の一部としてパリティ測定に使用できる。
図7の実施形態では、アンシラキュービットおよび計算キュービットは、
図7に網掛で示すように、キュービットが1つおきにアンシラキュービットである市松模様のパターンを形成する。言い換えれば、計算キュービットは、量子処理ユニットの表面上で第1の行列パターンを構成し、アンシラキュービットは、量子処理ユニットの前記表面上で前記第1の行列パターンと絡み合った第2の行列パターンを構成する。
【0055】
アンシラキュービットは頻繁に読み出す必要のあるものであるが、計算キュービットは量子計算の最後に読み出すだけでよい。アンシラキュービットを読み出しても、計算キュービットの量子状態に存在する実際のデータを乱すことはない。量子処理ユニットは、可能な限り高速に読み出すために、アンシラキュービット用の専用の読み出し共振器を備え得る。代替として、アンシラキュービットの比較的小さいサブセットが存在し得、そのような比較的小さいサブセットは各々専用の読み出し共振器を持つ。量子計算の最後に、スワップゲートが実行され、計算キュービットの状態が、読み出し共振器を有するアンシラキュービットに最終的に出現し得る。
【0056】
図8は、量子コンピューティングシステムを概略的に示している。それは、上述の任意の種類のものであり得る、量子処理ユニット801を備える。量子処理ユニット801は、極低温冷却環境802に位置する。量子コンピューティングシステムは、極低温冷却環境802の外部に(少なくとも部分的に)位置する制御装置803を備える。加えて、量子コンピューティングシステムは、量子処理ユニット801と制御装置803との間に複数の信号経路804を備える。上記の説明に従って、制御装置803は、各サブセット内のキュービットの取得された量子状態を、最も近い読み出し共振器の十分近くに位置するサブセット固有のキュービットに出現させるために、量子処理ユニット801内のカプラにスワップゲート制御信号を提供するように構成されている。
【0057】
制御装置803は、量子処理ユニット801における複数のキュービットの少なくとも一部の読み出し順序を動的に決定するように構成され得る。量子計算が進むにつれ、様々なキュービットの状態を読み出す様々な必要性が出てくる可能性があるが、読み出し順序を動的に決定することで、そのような必要性を考慮した柔軟性が得られる。次いで、制御装置803は、動的に決定された読み出し順序に従って、量子処理ユニット801内の結合器に前記スワップ制御信号を供給するように構成され得る。これにより、キュービットの各々(または少なくともキュービットの所望の一部)の取得された量子状態が、決定された読み出し順序で1つまたは複数の「読み出しキュービット」に出現する。
【0058】
量子処理ユニット801が計算キュービットおよびアンシラキュービットを有する場合、制御装置は、計算キュービットによって取得された状態を読み出す前に、前記アンシラキュービットの少なくとも一部の状態を複数回読み出すように構成され得る。上記で説明したように、アンシラキュービットの状態を頻繁に読み出すことで、計算キュービットの量子状態に存在する情報を乱すことなく、量子誤り訂正を行うのに役立ち得る。
【0059】
量子コンピューティングシステムは、その動作のローカル制御のためのユーザインターフェース805と、他のシステムと情報を交換するための、その動作のリモート制御のための外部接続806の少なくとも一方を備え得る。
【0060】
図9は、量子コンピューティングシステムにおいてキュービットの状態を読み出すための方法を示す。この方法は、複数のキュービットの間でスワップゲートを繰り返し実行して、量子コンピューティング演算の結果として、前記複数のキュービットの各々によって取得された状態を、前記複数のキュービットのうちの第1のキュービットに順番に出現させるステップを含む。加えて、この方法は、前記第1のキュービットに対して読み出し動作を繰り返し実行し、それにより、第1のキュービットに順番に出現させられた前記複数のキュービットの各々の取得された状態を順次読み出すステップを含む。
図9の図式では、ステップ903でスワップゲートが実行され、ステップ901で読み出し動作が実行される。これらの繰り返しは、サブセット内のすべての所望のキュービットの状態がすでに読み出されているかどうかがチェックされる決定ステップ902から生じる。ステップ901、902、および903からなるループは、ステップ902で肯定的な所見が得られるまで繰り返され、そこで方法は終了に進む。
【0061】
技術の進歩に伴い、本発明の基本概念を様々な方法で実施できることは、当業者には明らかである。したがって、本発明およびその実施形態は、上述の例に限定されず、代わりに、特許請求の範囲内で変更することができる。
【符号の説明】
【0062】
101 量子処理ユニット
102 読み出し共振器
103 カプラ
104 スワップゲート制御信号
301 基板
302 読み出し共振器
303 第2の複数の読み出し共振器
401 読み出し共振器
402 キュービット
501 読み出し共振器
502 キュービット
601 キュービット
602 調整されたキュービット
603 固定周波数キュービット
801 量子処理ユニット
802 極低温冷却環境
803 制御装置
804 信号経路
805 ユーザインターフェース
806 外部接続
【手続補正書】
【提出日】2024-07-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子処理ユニットであって、
第1のキュービットと、複数の
他のキュービットと
、読み出し共振器とを備え、
前記第1のキュービットおよび前記複数の
他のキュービットの各々が、量子コンピューティング演算の結果として、そのキュービットに固有の量子状態を取得するように構成され、
前記第1のキュービットが、
前記複数の他のキュービットのうちのいずれよりも前記読み出し共振器
の近くに位置する、量子処理ユニットにおいて、
前記量子処理ユニットが、複数のカプラを備え、前記カプラが、それぞれのスワップゲート制御信号に応答して、
前記第1のキュービットおよび前記複数の
他のキュービットの
うちのそれぞれの対の間でスワップゲートを選択的に実行して、前記それぞれの対の前記キュービットの状態を入れ替えるように構成され、
前記カプラが、前記スワップゲートを繰り返し実行することによって、前記複数の
他のキュービットの各々の前記取得された量子状態を前記第1のキュービットに順番に出現させるように構成されていることを特徴とする、量子処理ユニット。
【請求項2】
前記第1のキュービットおよび前記複数の
他のキュービットには、10を超えるキュービット、好ましくは100を超えるキュービット、最も好ましくは1000を超えるキュービットが存在する、請求項1に記載の量子処理ユニット。
【請求項3】
前記カプラが、前記複数の
他のキュービットの各々の前記取得された量子状態を前記第1のキュービットに出現させる順序を制御可能に変更するように構成されている、請求項1または2のいずれか一項に記載の量子処理ユニット。
【請求項4】
前記第1のキュービットおよび前記複数の
他のキュービットが、前記量子処理ユニット内のすべてのキュービットの第1のサブセットを構成し、
前記量子処理ユニットが、キュービットの1つまたは複数の他のサブセットを含み、
前記量子処理ユニットが、複数の読み出し共振器を備え、そのうちの少なくともそれぞれの1つが、キュービットの各前記サブセット専用として利用可能である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の量子処理ユニット。
【請求項5】
前記カプラが、キュービットのサブセットに対する、前記複数の読み出し共振器のうちの読み出し共振器の割り当てを制御可能に変更するように構成されている、
請求項4に記載の量子処理ユニット。
【請求項6】
前記量子処理ユニットが、基板上の2次元エリアを含み、
キュービットの前記サブセットが、前記2次元エリアにわたって広がっている、
請求項4または5のいずれか一項に記載の量子処理ユニット。
【請求項7】
前記複数の読み出し共振器が、前記2次元エリアの1つまたは複数の端部に位置する、請求項6に記載の量子処理ユニット。
【請求項8】
前記複数の読み出し共振器の少なくとも一部が、前記2次元エリアにわたって分布している、請求項6に記載の量子処理ユニット。
【請求項9】
前記第1のサブセットが、調整されたキュービット、および交互パターンでパークキュービットまたは固定周波数キュービットのいずれかを含み、パークキュービットが、それぞれの共振周波数に保持されたキュービットであり、
前記交互パターンにおける前記パークキュービットまたは前記固定周波数キュービットの共振周波数が、3つの異なる周波数の回転パターンに従い、
第2のサブセットが、調整されたキュービット、および交互パターンでパークキュービットまたは固定周波数キュービットのいずれかを含み、前記交互パターンにおける前記パークキュービットまたは前記固定周波数キュービットの共振周波数が、前記第1のサブセットと同じ、3つの異なる周波数の回転パターンに従い、
前記第1のサブセットおよび前記第2のサブセットの前記調整されたキュービットおよび前記パークキュービットまたは前記固定周波数キュービットが、六角形グリッドの頂点に位置し、前記グリッド内の各パークキュービットまたは固定周波数キュービットの3つの最近傍が、調整されたキュービットであり、前記グリッド内の各調整されたキュービットの3つの最近傍が、パークキュービットまたは固定周波数キュービットであり、その各々が、前記3つの異なる周波数のうちの一意のものを有する、
請求項6から8のいずれか一項に記載の量子処理ユニット。
【請求項10】
量子コンピューティングシステムであって、
請求項1から9のいずれか一項に記載の量子処理ユニットと、
制御装置と、
前記量子処理ユニットと前記制御装置との間の複数の信号経路と
を備え、
前記制御装置が、前記量子処理ユニット内の前記カプラに前記スワップゲート制御信号を提供するように構成されている、
量子コンピューティングシステム。
【請求項11】
前記制御装置が、
前記量子処理ユニットにおける前記複数の
他のキュービットの少なくとも一部の読み出し順序を動的に決定し、
前記動的に決定された読み出し順序に従って、前記カプラに前記スワップ制御信号を供給して、前記複数の
他のキュービットの前記少なくとも一部の各々の前記取得された量子状態を、前記決定された読み出し順序で前記第1のキュービットに出現させる
ように構成されている、請求項10に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項12】
前記量子処理ユニット内の
前記キュービットが、計算キュービットおよびアンシラキュービットを含み、
前記制御装置が、前記計算キュービットによって取得された前記状態を読み出す前に、前記アンシラキュービットの少なくとも一部の前記状態を複数回読み出すように構成されている、
請求項10または11のいずれか一項に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項13】
前記計算キュービットが、前記量子処理ユニットの表面上で第1の行列パターンを構成し、前記アンシラキュービットが、前記量子処理ユニットの前記表面上で前記第1の行列パターンと絡み合った第2の行列パターンを構成する、請求項12に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項14】
量子コンピューティングシステムにおけるキュービットの状態を読み出すための方法であって、
第1のキュービットおよび複数の他のキュービットを含むセット内のキュービットの対の間でスワップゲートを繰り返し実行して、量子コンピューティング演算の結果として、前記複数の
他のキュービットの各々によって取得された状態
を前記第1のキュービットに順番に出現させるステップと、
前記第1のキュービットが前記複数のキュービットのうちのいずれよりも近い、読み出し共振器を使用して、前記第1のキュービットに対して読み出し動作を繰り返し実行し、それにより、前記第1のキュービットに順番に出現させられた前記複数の
他のキュービットの各々の前記取得された状態を順次読み出すステップと
を含む、方法。
【国際調査報告】