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特表2024-541378ラマン分光法を使用した試料中のウイルス力価の決定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ラマン分光法を使用した試料中のウイルス力価の決定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/70 20060101AFI20241031BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C12Q1/70
G01N21/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528579
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 US2022050543
(87)【国際公開番号】W WO2023091740
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】63/281,441
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(71)【出願人】
【識別番号】514137997
【氏名又は名称】オハイオ・ステイト・イノベーション・ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】バルス,カリン,エム.
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ,ザッカリー
(72)【発明者】
【氏名】モーダー,コートニー,ジェイ.
【テーマコード(参考)】
2G043
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA06
2G043BA17
2G043CA04
2G043EA03
2G043JA01
2G043KA01
2G043KA02
2G043KA09
2G043LA01
2G043NA01
4B063QA01
4B063QQ10
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
ラマン分光法を使用して試料中のウイルス力価を定量化する方法が開示される。この方法は、試料を提供することと、試料中のウイルス力価を決定するためのモデルを提供することと、試料を光源で照射することと、試料のラマンスペクトルを取得することと、を含む。方法は、ラマンスペクトルのウイルス成分を、ウイルス力価を決定するためのモデルに適用することによって、試料のウイルス力価を定量化することを更に伴う。本開示の他の態様は、試料中のウイルス力価を定量化するのに好適なモデルを生成するための方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光法を使用して試料中のウイルス力価を定量化する方法であって、前記方法が、
試料を提供することと、
前記試料中のウイルス力価を決定するためのモデルを提供することと、
前記試料を光源で照射することと、
前記試料のラマンスペクトルを取得することと、
前記ラマンスペクトルのウイルス成分を、ウイルス力価を決定するための前記モデルに適用することによって、前記試料の前記ウイルス力価を定量化することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記試料が、1つ以上のウイルス粒子型を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が、2つ以上のウイルス粒子型を含有する流体試料であり、前記型が、1つ以上の遺伝要素によって異なる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上の遺伝要素が、ウイルス粒子ゲノムへの遺伝子挿入、置換、又は欠失を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上の遺伝要素が、前記ウイルス粒子ゲノムへの外来性遺伝子挿入を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルス粒子が、レトロウイルス粒子、レトロウイルス様粒子、アデノウイルス粒子、アデノウイルス様粒子、アデノ随伴ウイルス粒子、アデノ随伴ウイルス様粒子、単純ヘルペスウイルス粒子、及び単純ヘルペスウイルス様粒子から選択される、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ウイルス粒子が、レトロウイルス粒子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記レトロウイルス粒子が、レンチウイルス粒子である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ラマン分光法が、表面増強ラマン(SER)分光法である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記SER分光法が、金属基板を使用して実施され、前記金属が、金、銀、銅、及び白金、並びにそれらの合金から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記SER分光法が、金基板上で実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記光源が、550~1064nmの波長を有する狭帯域幅レーザーである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記SER分光法が、銀基板を使用して実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記光源が、400~1064nmの波長を有する狭帯域幅レーザーである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ラマンスペクトルから前記ウイルス成分のスコアを抽出することと、
前記試料の前記ラマンスペクトルから抽出された前記スコアを前記モデルに適用して、前記試料中の前記ウイルス力価を定量化することと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記モデルが、ウイルス粒子型特異的較正曲線であり、ウイルス粒子型特異的成分のスコアが、抽出され、前記モデルに適用されて、前記試料中のウイルス粒子型特異的力価が定量化される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
試料中のウイルス力価を定量化するのに好適なモデルを生成するための方法であって、前記方法が、
2つ以上の試料を提供することであって、各試料が、既知のウイルス型及び既知の力価を含有する、2つ以上の試料を提供することと、
各試料をラマン分光法に供して、各既知のウイルス型及び力価についての参照スペクトルを生成することと、
前記参照スペクトルからウイルス型特異的成分を特定することと、
既知のウイルス型及び既知の力価の各試料についての前記成分のスコアを決定することと、
前記スコアに基づいてウイルス力価を定量化するための前記モデルを生成することと、
を含む、方法。
【請求項18】
各試料についての前記参照スペクトルが、前記試料の2つ以上のスペクトルを分析することによって生成される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記特定することの前に、前記参照スペクトルからバックグラウンドスペクトルを減算することを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記特定することが、
計量化学分析を、前記2つ以上の試料から生成された前記参照スペクトルに適用して、前記参照スペクトル間の変動の1つ以上の成分を特定することと、
異なる既知の力価を有する各既知のウイルス型の2つ以上の試料からのスペクトル中の特定された前記1つ以上の成分のスコアを評価することと、
前記評価することに基づいて、前記ウイルス型特異的成分として既知のウイルス力価と相関する前記成分を選択することと、
を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記計量化学分析が、多変量曲線分析である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
生成された前記モデルが、ウイルス型特異的較正曲線である、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記2つ以上の試料が、少なくとも2つの異なるウイルス型を含み、前記ウイルス型が、1つ以上の遺伝要素によって異なる、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記1つ以上の遺伝要素が、ウイルスゲノムへの遺伝子挿入、置換、又は欠失を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記1つ以上の遺伝要素が、前記ウイルスゲノムへの外来性遺伝子挿入を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ウイルスが、レトロウイルス粒子、レトロウイルス様粒子、アデノウイルス粒子、アデノウイルス様粒子、アデノ随伴ウイルス粒子、アデノ随伴ウイルス様粒子、単純ヘルペスウイルス粒子、及び単純ヘルペスウイルス様粒子から選択される、請求項17~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ウイルスが、レトロウイルス粒子である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記レトロウイルス粒子が、レンチウイルス粒子である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ラマン分光法が、表面増強ラマン(SER)分光法である、請求項17に記載の方法。
【請求項30】
前記SER分光法が、金属基板を使用して実施され、前記金属が、金、銀、銅、及び白金、並びにそれらの合金から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記SER分光法が、金基板を使用して実施される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記供することが、各試料を、550~1064nmの波長を有する狭帯域幅レーザーで照射することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記波長が、約785nmである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記供することが、約250msの曝露時間および約1.50mWでスペクトルを取得することを更に含む、請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記SER分光法が、銀基板を使用して実施される、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記供することが、各試料を、400~1064nmの波長を有する狭帯域幅レーザーで照射することを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記波長が、約532nmである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記供することが、約250msの曝露時間および約0.6mWでスペクトルを取得することを更に含む、請求項35~37のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月19日に出願された米国仮特許出願第63/281,441号の優先権の利益を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、国立衛生研究所によって与えられたR01 GM109988の下で政府支援で行われた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
本開示は、ラマン分光法を使用して試料中のウイルス力価を決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
レンチウイルス力価を迅速に特定及び決定する能力は、遺伝子編集から医薬品及びワクチン開発まで、多くの生物医学的課題にとって重要である。レンチウイルスは、細胞を再プログラム化するための遺伝情報を効率的に送達することが示されているエンベロープウイルスであり、これは、免疫療法において特に有用である(Kalos et al.,“T Cells with Chimeric Antigen Receptors Have Potent Antitumor Effects and Can Establish Memory in Patients with Advanced Leukemia,”Science Translational Medicine 3(95):95ra73(2011)、Brentjens et al.,“Eradication of Systemic B-Cell Tumors by Genetically Targeted Human T Lymphocytes Co-Stimulated by CD80 and Interleukin-15,”Nature Medicine 9(3):279-286(2003)、Zuffere et al.,“Multiply Attenuated Lentiviral Vector Achieves Efficient Gene Delivery In Vivo,”Nat.Biotechnol.15(9):871-875(1997))。療法のためにこれらのウイルスを産生する場合、レンチウイルスは、細胞を修飾し、意図しない感染を予防するためにウイルスの複製も予防するために必要な情報を含有するように改変される(Zuffere et al.,“Multiply Attenuated Lentiviral Vector Achieves Efficient Gene Delivery In Vivo,”Nat.Biotechnol.15(9):871-875(1997)、Wang et al.,“Clinical Manufacturing of CAR T Cells:Foundation of a Promising Therapy,”Molecular Therapy-Oncolytics 3:16015(2016))。これは、各形質転換ウイルスが、1つの細胞のみを形質転換することができることを意味する。したがって、形質転換ウイルスの有効な力価を知ることは、療法のための用量及び期待値を知るのに重要である。
【0005】
ウイルスを特性評価し、ウイルス力価を決定する現在の方法としては、ELISA(Wu et al.,“Digital Single Virus Electrochemical Enzyme-Linked Immunoassay for Ultrasensitive H7N9 Avian Influenza Virus Counting,”Analytical Chemistry 90(3):1683-1690(2018))、PCR(Carr et al.,“Development of a Real-Time RT-PCR for the Detection of Swine-lineage Influenza A(H1N1)Virus Infections,”Journal of Clinical Virology 45(3):196-199(2009)、Pivert et al.,“A First Experience of Transduction for Differentiated HepaRG Cells using Lentiviral Technology,”Scientific Reports 9(1):12910(2019))、及びcell culture(Gueret et al.,“Rapid Titration of Adenoviral Infectivity by Flow Cytometry in Batch Culture of Infected HEK293 Cells,”Cytotechnology 38(1-3):87-97(2002))が挙げられる。これらの方法は、ウイルスの検出及び定量化に信頼性が高いが、いくつかの欠点がある。これらの方法は、多くの場合、既知の数の細胞を感染させ、次いでPCRなどの分析を実施して、成功した再プログラム化を決定することを伴う。アッセイ及び細胞培養は、インキュベーション時間を考慮する場合、時間がかかり、かなりの試料調製を必要とする可能性がある。これは、これらの方法が、結果を提供するために数日から数週間かかる可能性があることを意味する。これらのウイルスを迅速に特性評価する能力は、医薬品及びワクチン開発において重要である。
【0006】
SERSは、プラズモン金属ナノ構造を利用して分析物のラマン信号を増強し、したがって、分析物の振動モードに基づいて分子フィンガープリントを提供する(Kneipp et al.,“Ultrasensitive Chemical Analysis by Raman Spectroscopy,”Chemical Reviews 99(10):2957-2976(1999)、Moskovits,M.,“Surface-Enhanced Spectroscopy,”Reviews of Modern Physics 57(3):783-826(1985)、Stiles et al.,“Surface-Enhanced Raman Spectroscopy,”Annual Review of Analytical Chemistry 1(1):601-626(2008))。SERSは、ウイルス粒子を検出し、ウイルスの組成に基づいて分子フィンガープリントを提供する能力を示した(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)、Lim et al.,“Identification of Newly Emerging Influenza Viruses by Surface-Enhanced Raman Spectroscopy,”Analytical Chemistry 87(23):11652-11659(2015)、Dardir et.,“SERS Nanoprobe for Intracellular Monitoring of Viral Mutations,”Journal of Physical Chemistry C 124(5):3211-3217(2020)、Paul et al.,“Bioconjugated Gold Nanoparticle Based SERS Probe for Ultrasensitive Identification of Mosquito-Borne Viruses Using Raman Fingerprinting,”Journal of Physical Chemistry C 119(41):23669-23675(2015)、Verduin et al.,“RNA-Protein Interactions and Secondary Structures of Cowpea Chlorotic Mottle Virus for In Vitro Assembly,”Biochemistry 23(19):4301-4308(1984))。異なるインフルエンザ株は、ウイルスのエンベロープ上の異なる表面タンパク質から生じるSERSスペクトルの差により区別されてきた(Lim et al.,“Identification of Newly Emerging Influenza Viruses by Surface-Enhanced Raman Spectroscopy,”Analytical Chemistry 87(23):11652-11659(2015))。SERSはまた、各ウイルスを構成する異なる核酸及びアミノ酸から生じる信号変化に基づいて、アデノウイルス、HIV、及びライノウイルス粒子を区別することができる(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006))。ウイルスの多くのSERS研究は、ウイルスを標的とするために、アプタマー(Dardir et.,“SERS Nanoprobe for Intracellular Monitoring of Viral Mutations,”Journal of Physical Chemistry C 124(5):3211-3217(2020)、Negri et al.,“Identification of Virulence Determinants in Influenza Viruses,”Analytical Chemistry 86(14):6911-6917(2014))、又は抗体(Paul et al.,“Bioconjugated Gold Nanoparticle Based SERS Probe for Ultrasensitive Identification of Mosquito-Borne Viruses Using Raman Fingerprinting,”Journal of Physical Chemistry C 119(41):23669-23675(2015)、Driskell et al.,“Low-Level Detection of Viral Pathogens by a Surface-Enhanced Raman Scattering Based Immunoassay,”Analytical Chemistry 77(19):6147-6154(2005))を用いて、ナノ構造を官能化することによるSERSベースのアッセイの開発を伴う。
【0007】
本開示は、ウイルス力価の決定における現在の欠陥を克服することを対象とする。
【発明の概要】
【0008】
本開示の第一の態様は、ラマン分光法を使用して試料中のウイルス力価を定量化する方法を対象とする。この方法は、試料を提供することと、試料中のウイルス力価を決定するためのモデルを提供することと、試料を光源で照射することと、試料のラマンスペクトルを取得することと、を含む。方法は、ラマンスペクトルのウイルス成分を、ウイルス力価を決定するためのモデルに適用することによって、試料のウイルス力価を定量化することを更に伴う。
【0009】
本開示の別の態様は、試料中のウイルス力価を定量化するのに好適なモデルを生成するための方法を対象とする。この方法は、2つ以上の試料を提供することであって、各試料が、既知のウイルス型及び対応する力価を含有する、提供することと、各試料をラマン分光法に供して、各既知のウイルス型及び力価についての参照スペクトルを生成することと、参照スペクトルからウイルス型特異的成分を特定することと、既知のウイルス型及び既知の力価の各試料についての当該成分のスコアを決定することと、を含む。方法は、当該スコアに基づいてウイルス力価を定量化するためのモデルを生成することを更に伴う。
【0010】
ウイルス力価を決定するためのより単純かつ迅速なアプローチを提供するために、SERSの使用を調査した。SERSを使用して、製剤培地中のウイルス粒子を検出及び区別した。2つのウイルス粒子型(1つは挿入遺伝子を含有し、1つはその遺伝子を有しない)を、様々な濃度で分析した。次いで、多変量曲線分解(MCR)を使用して、スペクトルを区別し、挿入遺伝子を有する粒子のウイルス力価を決定した。これを、異なる励起波長での銀基板及び金基板の両方を使用して溶液中で実施した。異なる基板及び励起波長の使用から生じるスペクトル差も調査した。
【0011】
添付の実施例に示されるように、SERSは、現在の方法よりも少ない試料調製でウイルス力価を決定するための迅速なアプローチを提供する。SERSは、ウイルス型及び株を区別することが既に示されているが、本明細書に記載される方法論は、直接的なSERS測定を使用してウイルス力価を決定することを可能にする。結果は、レンチウイルス粒子を用いて提示されるが、この同じ方法論を他のウイルス型に適用することができる。この技術はまた、ウイルスゲノムに対する修飾を定量化するために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実験設定の概略図である。2つのウイルス粒子型をSERSによって分析した。1つの粒子は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするベクターを含有し、1つは含有しない。SERSスペクトルを、多変量曲線分解(MCR)を使用して分析して、GFPベクターから生じる成分スペクトルを決定した。次いで、この成分を使用して、GFPコード粒子のウイルス力価を決定した。
図2A】金基板上50,000TU/mLでの、GFPを有する(灰色)及びGFPを有しない(黒色)LentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルス(図2A)、並びに異なる濃度のGFPを有するLentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルス(図2B)について取得されたSERSスペクトルを示す。網掛け領域は、各濃度で得られた全てのスペクトルにわたる標準偏差を示す。
図2B】金基板上50,000TU/mLでの、GFPを有する(灰色)及びGFPを有しない(黒色)LentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルス(図2A)、並びに異なる濃度のGFPを有するLentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルス(図2B)について取得されたSERSスペクトルを示す。網掛け領域は、各濃度で得られた全てのスペクトルにわたる標準偏差を示す。
図3】様々な濃度のGFPを有しないLentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルスのSERSスペクトルを示すグラフである。網掛け領域は、金基板上で取得された全てのスペクトルにわたる標準偏差を示す。
図4】標準偏差が概説された、金基板上で取得されたLV-MAX培地の平均SERSスペクトルを示すグラフである。
図5A】500TU/ml、5,000TU/mL、及び50,000TU/mLで取得されたスペクトルを使用して開発されたGFPを有するLentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルスのMCRモデルを示す。モデルを、10,000TU/mLのスペクトルを使用して検証した。MCR分析の前に、各濃度から水のスペクトルを減算した。図5Aは、モデルの3つの成分負荷のスペクトルを示すグラフである。
図5B図5Bは、成分3に対してプロットされた成分2での各スペクトルのスコアを示すグラフである。成分2でのスコアは、ウイルス力価との関係を示す。
図5C図5Cは、ウイルス力価に対してプロットされた各濃度の平均スコアを示すグラフである。
図5D図5Dは、GFPを有しない粒子の平均スコア(50,000TU/mL)と比較してプロットされた、GFPを有しないレンチウイルス粒子の成分2での平均スコア(50,000TU/mL)及び粒子の保存培地の棒グラフである。
図6】GFPを有するレンチウイルス粒子の最高濃度の平均SERSスペクトル(黒色)、及びGFPを有する粒子を定量化するために使用されるMCRモデルの成分スペクトル(灰色)を示すグラフである。
図7】細胞蛍光によるウイルス力価の決定を示すグラフである。差し込み図は、分析された各濃度で明視野画像上にオーバーレイされた蛍光画像を示す。
図8A】銀SERS基板及び532nmレーザー励起を使用した、GFPを有する及び有しないLentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルスの分析を示す。図8Aは、50,000TU/mLでのGFPを有する(灰色)及び有しない(黒色)レンチウイルスの平均SERSスペクトルを示すグラフである。
図8B】この濃度で取得された全てのスペクトルを使用して、3成分MCRモデルを開発した。図8Bは、このMCRモデルの成分負荷を示すグラフである。
図8C図8Cは、3つの成分の各々についてのスコアの3次元プロットである。GFPスコアを含有する粒子のスペクトルのみが、成分3で高いスコアを得る。
図8D図8Dは、銀(黒色)及び金(灰色)の基板を使用して取得されたGFPベクターから生じる成分スペクトルの比較を示すグラフである。
図9】GFPをコードするレンチウイルス粒子(上)、同一であるがGFP遺伝子を有しないレンチウイルス粒子(中央)、及びキャプシド内にRNAを有しないレンチウイルス粒子(空のキャプシド、下)から収集されたSERSスペクトルを示すグラフである。ウイルス中に存在する遺伝子含有量と相関し得る分光学的差が観察される。全てのスペクトルは、金のSERS基板を用いた785nmの励起を使用して収集される。
図10A】JLV1に指定された修飾レンチウイルス粒子の評価のためのMCRモデルを示す。図10Aは、異なる濃度のJLV1についての平均SERSスペクトルを示すグラフである。
図10B図10Bは、JLV1試料の3つの成分の各々についてのスコアの3次元プロットである。
図10C図10Cは、このMCRモデルの成分負荷を示すグラフである。
図10D図10Dは、成分1での各試料についての平均スコア(10~10TU/mL)を示す。
図10E図10Eは、10~10TU/mLの範囲にわたるJLV1のウイルス力価を決定するための較正曲線である。
図10F図10F~Hは、互いに対してプロットされた2つの成分を有するJLV1試料についてのスペクトル成分スコアの比較を示すグラフである:成分1対成分2(図10F)、成分1対成分3(図10G)、及び成分2対成分3(図10H)。
図10G図10F~Hは、互いに対してプロットされた2つの成分を有するJLV1試料についてのスペクトル成分スコアの比較を示すグラフである:成分1対成分2(図10F)、成分1対成分3(図10G)、及び成分2対成分3(図10H)。
図10H図10F~Hは、互いに対してプロットされた2つの成分を有するJLV1試料についてのスペクトル成分スコアの比較を示すグラフである:成分1対成分2(図10F)、成分1対成分3(図10G)、及び成分2対成分3(図10H)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本方法を説明する前に、本発明は、記載される特定の方法論に限定されず、これらは変化し得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定のバージョン又は実施形態のみを記述するためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される本明細書の実施形態の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の方法及び材料を、本明細書の実施形態の実施形態の実践又は試験に使用することができるが、好ましい方法、デバイス、及び材料をここで説明する。本明細書で言及された全ての刊行物は、参照によりその全体が組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本明細書の実施形態が、先行発明によってそのような開示に先行する権利を有しないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0014】
本明細書で使用される場合、及び添付の特許請求の範囲において、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の言及を含むことに留意されたい。
【0015】
別段の記載がない限り、本明細書に記載される濃度又は濃度範囲などの任意の数値は、どの場合においても用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、数値は、典型的には、列挙された値の±10%、又はより具体的には、列挙された値の±5%、又は列挙された値の±3%、±2%、若しくは±1%を含む。例えば、1mg/mLの濃度が、0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、1%~10%(w/v)の濃度範囲は、0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。本明細書で使用される場合、数値範囲の使用には、文脈が別途明確に示さない限り、全ての可能性のある部分範囲、その範囲内の整数、及び値の端数を含む、その範囲内の全ての個々の数値が明示的に含まれる。
【0016】
別段の示唆がない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、一連の要素の中の全ての要素を指すと理解されるべきである。当業者は、単に通常の実験のみを使用して、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの同等物を認識するか、又は確認することができるであろう。このような同等物は、本発明によって包含されることが意図される。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「含む」、「含んでいる」、「含まれる」、「含まれている」、「有する」、「有している」、「含有する」、「含有している」、又はそれらの任意の他の変形は、指定された整数若しくは整数の群を含めるが、任意の他の整数若しくは整数の群を除外しないことを暗示するものと理解され、非排他的又は無制限なものとして意図される。例えば、要素のリストを含む、組成物、混合物、プロセス、方法、物品、又は装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されず、明示的に列挙されていない、又はこのような組成物、混合物、プロセス、方法、物品、又は装置に固有の他の要素を含むことができる。更に、反対の趣旨に明示的に言及されない限り、「又は」は、排他的又は、ではなく、包括的又は、を指す。例えば、条件A又は条件Bは、以下のいずれか1つによって満たされる:Aが真(又は存在)であり、Bが偽(又は存在せず)であり、Aが偽(又は存在せず)であり、Bが真(又は存在)であり、かつA及びBの両方が真(又は存在)である。本明細書で使用される場合、複数の列挙された要素の間の結合用語「及び/又は」は、個々の選択肢及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」によって結合される場合、第1の選択肢は、第2の要素なしに第1の要素の適用可能性を指す。第2の選択肢は、第1の要素なしに第2の要素の適用可能性を指す。第3の選択肢は、第1及び第2の要素を併せた適用可能性を指す。これらの選択肢のうちのいずれか1つが、その意味の範囲内にあると理解され、したがって、本明細書で使用される場合、用語「及び/又は」の要件を満たす。複数の選択肢の同時適用性もまた、意味のうちに含まれ、したがって、用語「及び/又は」の要件を満たすと理解される。
【0018】
本明細書で使用される場合、本明細書及び特許請求の範囲全体を通して使用される、用語「からなる(consists of)」、又は「からなる(consist of)」若しくは「からなること(consisting of)」などの変形は、任意の列挙された整数又は整数の群を含むことを示すが、指定された方法、構造、又は組成物に、追加の整数又は整数の群を追加することはできないことを示す。
【0019】
本明細書で使用される場合、本明細書及び特許請求の範囲全体を通して使用される、用語「から本質的になる(consists essentially of)」、又は「から本質的になる(consist essentially of)」若しくは「から本質的になること(consisting essentially of)」などの変形は、任意の列挙された整数又は整数の群を含むことを示し、かつ指定された方法、構造、又は組成物の基本特性又は新規な特性を実質的に変化させない任意の列挙された整数又は整数の群を含むことを示す。
【0020】
また、好ましい発明の構成要素の寸法又は特性を指す際に、本明細書で使用される用語「約」、「およそ」、「概して」、「実質的に」などの用語は、当業者によって理解されるように、記載される寸法/特性が厳密な境界又はパラメータではなく、機能的に同じ又は類似の軽微な変動を排除しないことを示すことも理解されるべきである。少なくとも、数値パラメータを含むこのような参照は、当技術分野で受け入れられている数学的及び産業的原理(例えば、丸め、測定、又は他の系統的誤差、製造公差など)を使用して、最小の有効桁を変化させない変動が含まれる。
【0021】
試料中のウイルス力価を定量化する方法
本開示の第一の態様は、ラマン分光法を使用して試料中のウイルス力価を定量化する方法を対象とする。この方法は、試料を提供することと、試料中のウイルス力価を決定するためのモデルを提供することと、を含む。試料は、光源で照射され、試料のラマンスペクトルが取得される。方法は、ラマンスペクトルのウイルス成分を、ウイルス力価を決定するためのモデルに適用することによって、試料のウイルス力価を定量化することを更に伴う。
【0022】
ウイルスは、別の生物の生細胞内部でのみ複製することができる超顕微鏡的な感染因子である(典型的には細菌よりも小さい)。ウイルスは、RNA又はDNAベースのゲノムを有し得る。本明細書に記載される方法に従って、ウイルスは、任意の自然発生的ウイルス、修飾ウイルス、又はウイルスベクターを包含する。したがって、任意の野生型ウイルスのウイルス力価は、本開示に従って評価され得るが、本明細書に開示される方法の有用性は、変異又は修飾ウイルス(例えば、野生型若しくは自然発生的ウイルスと比較して1つ以上の核酸置換、挿入、欠失、若しくは転座を含むウイルス、又はウイルスタンパク質をコードする遺伝物質の大部分が存在しない)あるいはウイルスベクターのウイルス力価の評価にまで及ぶことが理解されるであろう。
【0023】
本明細書に開示される方法に従って決定されるウイルス力価は、ウイルス粒子の検出との関連で記載される。ウイルス粒子(virus particle)又はウイルス粒子(viral particle)は、その宿主とは独立した(すなわち、細胞中には見られない)ウイルスであるが、ウイルスゲノム及びウイルスキャプシド(又はウイルスの外皮)を含む。本明細書に記載される方法はまた、ウイルス様粒子の力価を決定するのに好適である。ウイルス様粒子は、ウイルスの外皮からのある特定のタンパク質を含有するが、ウイルスからの遺伝物質のいずれも又は全てを含有せず、感染を引き起こすことができない小粒子である。ウイルス様粒子(VLP)は、自然発生的であり得るか、又はウイルス様構造に自己集合するウイルス構造タンパク質の個々の発現によって合成され得る。合成ウイルス様粒子はまた、ウイルスタンパク質、例えば、ウイルス構造タンパク質を提示及び/又は含有するように修飾されたリポソーム又はポリマー粒子を含み得る。本開示の目的で、ウイルス粒子の力価を決定することに言及される場合、これは、ウイルス粒子、及びウイルス様粒子の全ての形態、すなわち、自然発生的VLP、合成VLP、リポソームベースのVLP、ポリマー粒子VLPなどの力価を決定することを包含することが理解されるべきである。
【0024】
いくつかの実施形態では、試料のウイルス力価は、1つ以上のウイルス粒子型を含む試料中で決定される。いくつかの実施形態では、試料は、2つ以上のウイルス粒子型、例えば、2つのウイルス粒子型、3つのウイルス粒子型、4つのウイルス粒子型、5つのウイルス粒子型、又は6つ以上のウイルス粒子型を含有する。
【0025】
いずれの実施形態でも、2つ以上のウイルス粒子型は、1つ以上の遺伝要素によって異なる。例えば、試料中の2つ以上のウイルス粒子型は、ウイルス粒子ゲノム中の1つ以上の遺伝子挿入、置換、転座、又は欠失によって異なり得る。いくつかの実施形態では、2つ以上のウイルス粒子は、遺伝子挿入、例えば、ウイルス粒子ゲノムへの外来性遺伝子又はその一部の挿入によって異なる。ウイルス粒子型間で1つ以上のタンパク質の差も生じさせ得る1つ以上の遺伝的差は、本明細書に記載されるように、ウイルス力価を定量化するのに有用なウイルス型特異的成分を特定するための基礎を提供する。
【0026】
本明細書に開示される方法はまた、試料中のウイルスベクターの力価を決定するのに好適である。ウイルスベクターは、標的細胞(例えば、治療用途の遺伝子)に遺伝物質を導入するために一般的に使用されるウイルスの修飾された非感染型である。したがって、ウイルスベクターは、例えば、遺伝子療法、細胞療法、又は他の分子用途など、特定の有用性があり、それらの産生は、遺伝子療法及び細胞療法産業の中心である。いくつかの実施形態では、試料のウイルス力価は、1つ以上のウイルスベクターを含む試料中で決定される。いくつかの実施形態では、試料は、2つ以上のウイルスベクター、例えば、2つのウイルスベクター、3つのウイルスベクター、4つのウイルスベクター、5つのウイルスベクター、又は6つ以上のウイルスベクターを含有する。
【0027】
任意の実施形態では、パッケージング細胞株によって産生されるウイルスベクターの力価は、本明細書に開示される方法によって監視又は評価され得る。遺伝子療法及び細胞療法分野では、例えば、産生細胞株からの産生などの産生プロセスが正確に監視及び管理され得るように、産生された力価を高感度で測定することができることが特に重要である。したがって、ウイルスは、本明細書に開示される方法によって監視又は評価されるのに十分に機能的又は野生型である必要はない。
【0028】
「ウイルス力価」という用語は、所与の体積中に存在するウイルス(すなわち、ウイルス粒子、VLP、及び/又はウイルスベクター)の量を指す。任意のタイプのウイルス力価が本発明で評価され得、例えば、物理的ウイルス力価、機能的ウイルス力価(感染性ウイルス力価とも称される)、又は形質導入ウイルス力価が評価され得る。
【0029】
特定の実施形態では、物理的ウイルス力価が評価され得る。物理的ウイルス力価は、試料中のウイルス粒子の濃度の尺度であり、通常、ウイルスタンパク質又はウイルス核酸、すなわち、ウイルス成分の存在に基づく。物理的力価は、1mL当たりのウイルス粒子(VP/mL)、1mL当たりのウイルスゲノム(vg/mL)、1mL当たりのウイルスコピー、又は1mL当たりのRNAコピーとして表され得、本明細書に記載される方法を使用して決定され得る。物理的力価測定は、空のウイルス粒子又は欠陥ウイルス粒子と、細胞に感染することができる粒子とを必ずしも区別するわけではない。したがって、物理的ウイルス力価は、どれだけの産生された粒子が細胞に感染することができるかを判断する機能的力価又は感染性力価、及びどれだけの機能的ウイルス粒子が目的の遺伝子を含有するかを判断する形質導入ウイルス力価(例えば、ウイルスベクターの産生については、形質導入ウイルス力価が関連し得る)と区別され得る。したがって、物理的力価の決定は、試料中の全ての粒子が機能的でない限り、機能的力価の決定と同等ではない。実際に、機能的力価は、多くの場合、物理的力価よりも100~1000倍低い。
【0030】
あるいは、機能的力価又は感染性力価は、本発明で測定又は評価され得、機能的力価又は感染性力価は、標的細胞に感染することができる特定の体積中に存在するウイルス粒子の量の尺度である。機能的力価は、1mL当たりのプラーク形成単位(pfu/mL)、1mL当たりの感染単位(ifu/mL)、又は1mL当たりのトランスフェクション単位(TU/mL)として表され得る。
【0031】
形質導入力価は、標的細胞に感染することができ、かつ目的の遺伝子を含む、特定の体積中に存在するウイルス粒子の量の尺度である。形質導入力価は、形質導入単位/mLとして表され得、本明細書に記載されるアッセイを使用して評価され得る。当業者は、機能的力価又は形質導入力価が、物理的力価について得られた任意の値をスケールダウンすることによって決定され得ることを理解するであろう。上述のように、物理的力価と機能的力価又は形質導入力価との間の倍率差は、当該技術分野で十分理解されている。したがって、本発明の一態様では、機能的力価又は形質導入力価は、本発明の方法によって間接的に決定され得る(例えば、物理的力価について得られた値をスケールダウンすることを通して)。したがって、本発明の方法は、物理的力価の決定をスケールダウンして、機能的力価又は形質導入力価を決定する追加の工程を含み得る。
【0032】
本発明の方法は、ウイルス力価を監視又は評価することができる。したがって、本発明の方法は、ウイルス力価、例えば、試料中に存在するウイルス粒子のレベル、量、又は濃度を決定することができる。したがって、方法は特に、ウイルスのレベル、量、又は濃度が(例えば、同一又は同等の時点でアッセイされた)異なる試料と比較して、(例えば、異なる時点で試料をアッセイすることによって)経時的に増加する若しくは横ばい状態になるかどうか、又は変動する(例えば、増加する、減少する、若しくは同等である)かどうかを判断することができる。このようにして、本明細書に開示される方法は、例えば、ウイルスの生産方法の効率を評価するために使用され得るか(例えば、高レベルのウイルスの検出若しくは決定が、効率的な方法を示し得、低レベルのウイルスが、準最適な産生方法を示し得る)、又は例えば、他の改変された産生方法(同一の若しくは異なるウイルスについて)で測定されたウイルス力価との比較によって測定されるウイルス力価との比較によって、ウイルスの産生方法における特定の因子の重要性を決定するために使用され得る。
【0033】
本発明の方法はまた、ウイルス産生プロセスの下流の任意のプロセスを評価するために、例えば、任意のそのようなプロセスがウイルス力価に影響を与えたかどうかを判断するために使用され得る。いずれの実施形態でも、本明細書に開示される方法は、精製方法を評価するのに好適であり、これは、そのような精製方法が力価に対して何らかの影響を有したかどうか、例えば、精製前の試料中に存在するウイルス力価と比較して、そのような精製後に力価が増加した、減少した、又は同等のままであったかどうかを判断するために用いられ得る。本明細書に開示される方法は、ウイルスの、例えば、ウイルス粒子、VLP、又はウイルスベクターの大規模製造を評価するために更に使用され得、これは、遺伝子療法のためのウイルス粒子又はベクターの製造に特に重要であり得る。
【0034】
本明細書に開示される方法は、別の試料に対するある試料のウイルス力価の増加又は減少を決定することができる。任意の実施形態では、本明細書に開示される方法は、測定が比較されているウイルス力価の約1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%の増加、及び測定が比較されているウイルス力価の約1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%の減少を決定するのに好適である。同等のウイルス力価は、測定が比較されているウイルス力価の5%以内であり得る。
【0035】
これに関して、一部の目的で、ウイルス力価に何らかの変化又は変動が生じたかどうかを判断するために、方法を実施する前、並びに方法の後及び/又は最中にウイルス力価を評価することが望ましい場合があることが理解されるであろう。本明細書に開示される方法は、ウイルス力価の、例えば(同等の若しくは異なる時点での)異なる試料内の、又は異なる時点での同じ試料内のウイルス力価との比較工程を更に含み得る。別の実施形態では、方法は、対象におけるウイルス感染の程度を決定するために、例えば、感染がうまく治療されている又は低減されているかどうかを判断するために使用され得る。そのような方法では、試料、例えば、異なる時点での対象からの同じ型の試料中のウイルス力価を比較して、ウイルス力価が経時的に増加する、減少する、又は同等なままであるかどうかを判断することが望ましい場合がある。代替的又は追加的に、個体からの試料中のウイルス力価を、ある状態について以前に得られており、かつ例えば、感染段階及び/又は予後を示し得るウイルス力価測定値と比較することが望ましい場合がある。
【0036】
代替的に、本明細書に開示される方法は、試料中のウイルスの実際の量、レベル、又は濃度を決定しなくてもよいが、その量、レベル、又は濃度が許容可能な閾値を上回っている又は下回っているかどうかを判断し得、例えば、産生方法について、閾値は、試料内に許容可能なレベルのウイルス粒子が存在するかどうかを判断し得る。本明細書に開示される方法は、ウイルス力価のレベルが以前にアッセイされた試料に対して増加する、減少する、又は同等であるかどうかを判断し得、したがって、特定の用途では、実際のウイルス力価(例えば、存在するウイルスの量又は濃度)を決定する必要がない場合があることが理解されるであろう。
【0037】
本明細書に記載される試料中のウイルス力価を決定する方法に従って、好適な試料は、1つ以上のウイルス粒子、VLP、又はウイルスベクターを含有する、又は含有すると予想される任意の試料を含む。試料中のウイルス力価は、ラマン分光法によってin situで、リアルタイムで測定され得るか、又はex situで、試料上で実施され得る。
【0038】
「in situ」とは、ウイルス粒子を産生することができる培養物中のラマン散乱光の強度を得るための測定が、ウイルス粒子が生成される一次培養環境から行われ、一次培養環境から抽出された試料からではないことを意味する。したがって、測定を「in situ」で行うことによって、液体取り扱い工程の必要性はない。したがって、その環境からの試料の除去は、本発明の特定の用途に必要とされない場合があり、試料のin situ測定が好ましい場合がある。試料のin situ測定は、試料の一部分が除去される実際の試料採取工程を必要とせずに、試料中のウイルス力価の定期的な評価を可能にし得る。この点におけるウイルス力価評価は、コスト及び誤差をもたらし得る追加の工程を必要とせずに、リアルタイムで正確かつ高感度で測定され得る。
【0039】
あるいは、本明細書に開示される方法は、ex situで、試料上で実施され得る。「ex situ」とは、ウイルス粒子を産生することができる培養物中のラマン散乱光の強度を得るための測定が、ウイルス粒子が1つ以上の液体取り扱い工程の後に産生される一次培養環境から抽出された試料から行われることを意味する。特定の実施形態では、本明細書に開示される方法は、試料採取の工程を含み得る。
【0040】
本明細書に記載される方法で使用される試料の起源は、ウイルスが産生されている細胞培養物であり得る。したがって、試料は、培養培地(例えば、任意選択的に血清、L-グルタミン、及び/又は他の成分を含む、DMEM、MEM、SFII、LVMAX、Texmacs、又はPBS)のうちの1つであり得、これは、例えば、ウイルス産生プロセス中に採取された場合、パッケージング細胞を追加的に含み得る。代替的に、試料は、ウイルス回収中に得られた、部分的に精製された試料又は細胞を含まない試料であり得る。試料は、例えば、マーケティング、販売、又は使用前に品質検査を必要とする、医学的使用のための試料ウイルスであり得る。試料は更に、ウイルスによって感染している疑いがある対象(例えば、ヒト又は哺乳動物対象)由来の試料であり得る。したがって、試料は、血液、唾液、痰、血漿、血清、脳脊髄液、尿、又は糞便試料などの生物学的試料であり得る。他の試料供給源には、開放水又は公共用水の供給由来のものが含まれる。
【0041】
本明細書に記載される試料中のウイルス力価を決定する方法は、試料を光源で照射することと、試料のラマンスペクトルを取得することと、を伴う。ラマン分光法は、試料によって散乱した単色光の波数の変化を測定して、それらの化学組成、物理的状態、及び環境に関する情報を提供する。これは、入射光量子が、試料を含む分子中に存在する振動モードと相互作用する方法のために可能である。これらのモードは、所与の物理的条件のセットの下で特定の振動周波数及び散乱強度を有し、これにより、所与の目的の分析物の量を定量化することが可能になる。広帯域光源からの異なるエネルギーの光の吸収が測定される赤外吸収分光法とは異なり、ラマン分光法では、散乱光に対する単色入射光のエネルギーの差が測定され、これは、ラマンシフトとして知られている。
【0042】
ラマンスペクトルは、分子の振動状態についての情報を提供することによって、試料の定性的及び定量的な分析を可能にする「分子フィンガープリント」を提供する。多くの分子は、多くの振動状態で存在することができる原子結合を有する。そのような分子は、その許容される振動状態のうちの2つの間の移行に一致する入射放射を吸収し、かつその後に放射線を放出することができる。最も頻繁に、吸収された放射は、レイリー又は弾性散乱と指定されたプロセスである同じ波長で再放射される。いくつかの事例では、再放射された放射は、吸収された放射よりもわずかに多い又はわずかに少ないエネルギーを含有することができる(分子の許容可能な振動状態並びに初期及び最終の振動状態に依存する)。入射放射と再放射された放射との間のエネルギー差の結果は、入射放射と再放射された放射との間の波長のシフトとして現れ、差の程度は、波数(逆の長さ)の単位で測定されるラマンシフト(RS)に指定される。入射光がレーザー源を使用する場合のように実質的に単色(単一波長)である場合、周波数が異なる散乱光は、レイリー散乱光とより容易に区別され得る。
【0043】
任意の実施形態では、本明細書に開示される方法に従って利用されるラマン分光法は、表面増強ラマン分光法(SERS)である。SERSは、粗い金属表面(例えば、粗い銀若しくは金の表面)上に吸着された分子によって、又は基板上のプラズモン-磁気シリカナノチューブなどのナノ構造によって、ラマン散乱を増強する表面感受性技術である。
【0044】
任意の実施形態では、本明細書に記載されるウイルス力価を決定する方法におけるSERSの適用は、シリコン、石英、又はガラス基板などの平面(又は平坦)基板を使用して実施される。平面基板はまた、半導体(例えば、Si、GaAs、GaAsP、及びGe)、酸化物(例えば、SiO、Al)、並びにポリマー(例えば、ポリスチレン、ポリアセチレン、ポリエチレンなど)を含むがこれらに限定されない材料で作製され得る。別の実施形態では、基板は、円筒形又は円錐形の基板(例えば、光ファイバー又はピペットチップ)などの非平面基板である。基板は、ドットアレイ、ラインアレイ、若しくはウェルアレイなどのマイクロパターン又は類似のナノパターンなどの規則的なアレイを有する基板など、マイクロ加工又はナノ加工された基板であり得る。一実施形態では、本明細書に記載される方法に従ったSERSは、金属基板を使用して実施され、金属は、金、銀、銅、及び白金、並びにそれらの合金から選択される。一実施形態では、ウイルス力価を決定するためのSERSは、金基板上で実施される。別の実施形態では、ウイルス力価を決定するためのSERSは、銀基板を使用して実施される。
【0045】
任意の実施形態では、本明細書に開示される方法におけるSERSの適用は、ナノ構造を含有するように修飾された基板を使用して実施される。好適なナノ構造としては、ナノロッド、ナノワイヤ、ナノチューブ、ナノスパイラル、ナノスフェア、ナノトライアングル、ナノスター、それらの組み合わせなど、及び各々の均一なアレイが挙げられるが、これらに限定されない。(上記のタイプの)ナノ構造は、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属炭化物、ドープ材料、ポリマー、多成分化合物、化合物(例えば、化合物若しくは前駆体化合物、又は有機若しくは無機化合物)、及びそれらの組み合わせなどであるがこれらに限定されない、1つ以上の材料で製造され得る。金属としては、銀、ニッケル、アルミニウム、ケイ素、金、白金、パラジウム、チタン、銅、コバルト、亜鉛、他の遷移金属、それらの複合物、それらの酸化物、それらの窒化物、それらのケイ化物、それらのリン化物、それらの酸窒化物、それらの炭化物、及びそれらの組み合わせが挙げられ得るが、これらに限定されない。任意の実施形態では、材料は、銀又は金である。任意の実施形態では、ナノ構造の組成は、基板材料の組成と同じである。任意の実施形態では、ナノ構造の組成は、基板材料とは異なる。
【0046】
Silmeco ApS(Copenhagen,Denmark)、Horiba Scientific(Piscataway,NJ)、Ocean Optics(Orlando,FL)、Ato ID(Vilnius,Lithuania)、Enhanced Spectrometry(San Jose,CA)、及びSERSitive(Warsaw,Poland)から入手可能な様々なSERS基板を含むがこれらに限定されない、多くの市販のSERS基板が、本開示の方法を実施する際に使用され得る。代替的に、当業者であれば当然のことながら、カスタマイズされたSERS基板が代替的に使用され得、これらが、ナノ構造化材料、並びにウイルス粒子結合/配向を促進する任意の表面結合試薬に関してカスタマイズされ得ることを理解するであろう。
【0047】
本開示の方法は、ウイルス力価に関する情報が必要とされる試料を提供することと、試料を基板又は基板上のナノ構造上に導入することと、試料を光源で照射することと、試料中のウイルス力価を決定するために使用される試料のラマンスペクトルを取得することと、を伴う。上述のように、及び実施例において、試料は、未希釈形態で、1つ以上の希釈(10倍、100倍などの連続希釈を含む)を使用して、又は両方で評価されるものとする。
【0048】
任意の実施形態では、試料を照射するために利用される光源は、狭帯域幅レーザーである。好適な波長としては、300~1200nm、350~1100nm、400~1100nm、400~1064nm、450~1064nm、500~1064nm、550~1064nm、600~1064nm、650~1064nm、700~1064nm、450~1100nm、又は500~1100nmの波長が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、光源は、550~1064nmの波長を有する狭帯域幅レーザーである。一実施形態では、光源は、400~1064nmの波長を有する狭帯域幅レーザーである。
【0049】
任意の実施形態では、光源は、約800nm、約785nm、約750nm、約725nm、約700nm、約675nm、約650nm、約625nm、約600nm、約575nm、約550nm、約532nm、約525nm、又は約500nmの波長を有する狭帯域幅レーザーである。好ましくは、光源は、約785nm、約640(例えば、638nm)、又は約532nmの波長を有する狭帯域幅レーザーである。
【0050】
任意の実施形態では、本明細書に記載される方法に従って試料からラマンスペクトルを取得する工程は、約100ms、150ms、200ms、250ms、300ms、350ms、400ms、450ms、500ms、550ms、600ms、650ms、700ms、750ms、800ms、850ms、900ms、950ms、1000ms、又は1000ms超の曝露時間でスペクトルを取得することを含む。任意の実施形態では、ラマンスペクトルは、約250msの曝露時間を使用して取得される。
【0051】
ラマン信号強度は、試料を励起するために使用されるラマンレーザーの出力に正比例する。利用されるレーザー出力が大きいほど、ラマン信号はより大きくなり、利用される特定のレーザー出力は、特定の試料のために最適化され得る。しかしながら、任意の実施形態では、ウイルスを含有する試料のスペクトルは、約1.9mW、約1.8mW、約1.7mW、約1.6mW、約1.50mW、約1.4mW、約1.3mW、約1.2mW、約1.1mW、約1mW、約0.9mW、約0.8mW、約0.7mW、0.6mW、又は0.5mWの出力を有するラマンレーザーを使用して取得され得る。任意の実施形態では、スペクトルは、約1.50mWの出力を有するラマンレーザーで取得される。任意の実施形態では、スペクトルは、0.6mWの出力を有するラマンレーザーで取得される。
【0052】
続いて、試料を光源で照射することから得られたラマンスペクトルが分析され、ラマンスペクトルからのウイルス成分についてのスコアが、抽出される。特定の波長で、特定のラマンスペクトルについて得られるピークは、ウイルス粒子特異的アミノ酸(例えば、キャプシドタンパク質などに存在する)又は核酸(例えば、ウイルス粒子によって封入されたRNA若しくはDNA)に対応し得るか、あるいは非ウイルス性(例えば、培養物中の代謝物)であるが、その中のウイルスの存在から生じる分子/化合物に対応し得る。このようにして、ラマン分光法を利用して、試料中のウイルスの存在を直接又は間接的に検出することができ、その後、これをスコアリングし、試料中のウイルス力価を決定するために利用される対応するモデルに適用することができる。例えば、本明細書に記載されるように、本明細書に記載される方法に従ってウイルス力価を決定するための好適なモデルは、ウイルス粒子特異的較正曲線を含む。したがって、モデルを生成するために利用されるウイルス粒子特異的成分は、実験試料(すなわち、未知のウイルス力価を含有する試料)から得られたラマンスペクトルから分析及びスコアリングされたウイルス成分である。ウイルス粒子特異的成分についてのスコアがラマンスペクトルから抽出されると、これはモデルに適用されて、ウイルス粒子特異的力価が定量化される。
【0053】
本開示の別の態様は、試料中のウイルス力価を定量化するのに好適なモデルを生成するための方法を対象とする。この方法は、2つ以上の試料を提供することであって、各試料は、既知のウイルス型及び対応する力価を含有する、提供することと、各試料をラマン分光法に供して、各既知のウイルス型及び力価についての参照スペクトルを生成することと、を含む。方法は、参照スペクトルからウイルス型特異的成分を特定することと、既知のウイルス型及び既知の力価の各試料についての当該成分のスコアを決定することと、を更に伴う。方法は、決定されたスコアに基づいてウイルス力価を定量化するためのモデルを生成することを更に伴う。
【0054】
試料中のウイルス力価を定量化するのに好適なモデルを生成するために、既知のウイルス型及び既知の量の対応するウイルス力価を含有するいくつかの試料が、ラマン分光法、特にSERSを使用して分析される。一部のモデルについて、2つ以上の試料がラマン分光法を使用して分析される。他のモデルを生成するために、3つ以上の試料、4つ以上の試料、5つ以上の試料、6つ以上の試料、7つ以上の試料、8つ以上の試料、9つ以上の試料、10個以上の試料、15個以上の試料、又は20個以上の試料が必要とされる。
【0055】
既知のウイルス型及び既知の量の対応するウイルス力価を含有する各試料についての1つ以上のラマンスペクトルが収集される。いくつかの実施形態では、1つ以上のスペクトルは、これらの試料の各々について収集される。例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、10個以上、20個以上、30個以上、40個以上、50個以上、60個以上、70個以上、80個以上、90個以上、100個以上、200個以上、300個以上、400個以上、又は500個以上のスペクトルが、これらの試料の各々について収集される。
【0056】
本開示のこの態様に従って、試料は、上記のようにラマン分光法に供される。任意の実施形態では、ラマン分光法は、上記のような表面増強ラマン分光法であり、スペクトルは、上記のような金属基板(例えば、金若しくは銀)及び/又はナノ構造上の試料から得られる。
【0057】
任意の実施形態では、試料を照射して参照スペクトルを得るために利用される光源は、狭帯域幅レーザーである。好適な波長としては、300~1200nm、350~1100nm、400~1100nm、400~1064nm、450~1064nm、500~1064nm、550~1064nm、600~1064nm、650~1064nm、700~1064nm、450~1100nm、又は500~1100nmの波長が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、光源は、550~1064nmの波長を有する狭帯域幅レーザーである。一実施形態では、光源は、400~1064nmの波長を有する狭帯域幅レーザーである。
【0058】
任意の実施形態では、各試料をラマン分光法に供して、各既知のウイルス型及び力価についての参照スペクトルを生成する工程は、約250msの曝露時間でスペクトルを取得することを含む。いくつかの実施形態では、スペクトルは、約1.9mW、約1.8mW、約1.7mW、約1.6mW、約1.5mW、約1.4mW、約1.3mW、約1.2mW、約1.1mW、約1mW、約0.9mW、約0.8mW、約0.7mW、約0.6mW、約0.5mW、約0.4mW、約0.3mW、約0.2mW、又は約0.1mWで取得される。
【0059】
任意の実施形態では、各試料をラマン分光法に供して、各既知のウイルス型及び力価についての参照スペクトルを生成する工程は、約100ms、150ms、200ms、250ms、300ms、350ms、400ms、450ms、500ms、550ms、600ms、650ms、700ms、750ms、800ms、850ms、900ms、950ms、1000ms、又は1000ms超の曝露時間でスペクトルを取得することを含む。任意の実施形態では、ラマンスペクトルは、約250msの曝露時間を使用して取得される。
【0060】
任意の実施形態では、各試料をラマン分光法に供して、各既知のウイルス型及び力価についての参照スペクトルを生成する工程は、約1.9mW、約1.8mW、約1.7mW、約1.6mW、約1.50mW、約1.4mW、約1.3mW、約1.2mW、約1.1mW、約1mW、約0.9mW、約0.8mW、約0.7mW、約0.6mW、約0.5mW、約0.4mW、約0.3mW、約0.2mW、又は約0.1mWの出力を有するラマンレーザーを使用して、スペクトルを取得することを含む。任意の実施形態では、スペクトルは、約1.50mW以下の出力を有するラマンレーザーで取得される。任意の実施形態では、スペクトルは、0.6mW以下の出力を有するラマンレーザーで取得される。
【0061】
次いで、既知のウイルス型及び既知の量の対応するウイルス力価を含有する試料から収集されたラマンスペクトルが分析されて、参照スペクトルからウイルス型特異的成分が特定される。いくつかの実施形態では、各試料についての参照スペクトルは、当該試料の2つ以上のスペクトルを分析することによって生成される。代替的に、各試料についての参照スペクトルは、当該試料の3つ以上、4つ以上、5つ以上、10個以上、20個以上、30個以上、40個以上、50個以上、60個以上、70個以上、80個以上、90個以上、100個以上のスペクトル、200個以上、300個以上、400個以上、又は500個以上のスペクトルを分析することによって生成される。
【0062】
いくつかの実施形態では、1つ以上のバックグラウンドラマンスペクトルが収集される。そのようなバックグラウンドスペクトルは、対照試料、すなわち、組成物中のウイルス試料に対応するが、ウイルスを含有しない試料から収集され得る。例えば、好適なバックグラウンドスペクトルは、水、培養培地、又は組成物中のウイルス含有試料と一致するが、ウイルスを含まない他の緩衝液の試料から得られ得る。いくつかの実施形態では、バックグラウンドからの2つ以上のスペクトルが平均化されて、バックグラウンドラマンスペクトルが生成される。いくつかの実施形態では、バックグラウンドスペクトルは、ウイルス含有試料からのスペクトルが分析される前に、参照スペクトルの各々から減算される。
【0063】
いくつかの実施形態では、試料から収集されたスペクトルは、分析される前に切断される。好ましくは、スペクトルは、例えば、300cm-1~2000cm-1、300cm-1~1900cm-1、300cm-1~1800cm-1、300cm-1~1700cm-1、300cm-1~1600cm-1、300cm-1~1500cm-1、350cm-1~1700cm-1、350cm-1~1600cm-1、400cm-1~1700cm-1、400cm-1~1600cm-1、450cm-1~1700cm-1、450cm-1~1600cm-1、500cm-1~1700cm-1、500cm-1~1600cm-1、550cm-1~1700cm-1、550cm-1~1600cm-1、600cm-1~1700cm-1、又は600cm-1~1600cm-1のスペクトル範囲まで切断される。より好ましくは、スペクトルは、500cm-1~1600cm-1のスペクトル範囲まで切断される。
【0064】
参照スペクトル(すなわち、既知のウイルス型及び既知の力価の試料からのスペクトル)からウイルス型特異的成分を特定するために、計量化学分析を使用して、2つ以上の試料の各々から生成された2つ以上の参照スペクトルを分析(分解)する。この計量化学分析を使用して、参照スペクトル間の変動の1つ以上の成分が特定され、各成分についてのスコアが評価される。試料から生成された参照スペクトルを分析するために利用され得る好適な計量化学分析は、当該技術分野で既知であり、限定されるものではないが、多変量曲線分解、主成分分析、判別分析(例えば、線形判別分析、部分最小二乗判別分析)、K平均クラスタリング、ニューラルネットワーク分析、回帰分析(例えば、主成分回帰分析、部分最小二乗回帰分析)、及びクラスモデリング方法(例えば、クラス類似性のソフト独立モデリング)が挙げられる(例えば、Biancolillo and Marini,“Chemometric Methods for Spectroscopy-Based Pharmaceutical Analysis,”Front.Chem.6:576(2018)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。これらの分析に基づいて、特定のウイルス型と相関する1つ以上のスペクトル成分(すなわち、ウイルス型特異的成分)が特定及びスコアリングされる。
【0065】
既知のウイルス型及び既知の量の対応するウイルス力価を含有する各試料についてのウイルス型特異的成分のスコアを使用して、試験試料又は実験試料中の未知のウイルス力価のウイルス力価を定量化するのに好適なモデルを調製する。任意の実施形態では、生成されたモデルは、ウイルス型特異的較正曲線又は標準曲線である。したがって、1つのウイルス粒子特異的成分を別のウイルス粒子特異的成分に対して選択するための基準は、成分が目的のものではないウイルス粒子又は空のキャプシドを、目的のもの並びにウイルス粒子が存在する培地と区別する能力に依存する。また、目的のウイルス粒子、空のキャプシド、又は遺伝物質の特徴(すなわち、特異性)である特徴について成分を調べて、得られたスペクトルが目的のウイルス粒子若しくは空のキャプシドの参照スペクトルのように見えること、又は予想された特徴を有することを確実にすることが重要である。
【0066】
試料中のウイルス力価を定量化するのに好適なモデルを開発するために利用される参照スペクトルは、好ましくは、既知の目的のウイルス型を含む2つ以上の試料から生成される。いくつかの実施形態では、2つ以上の試料は、2つ以上の異なるウイルス型、例えば、1つ以上の遺伝要素(例えば、遺伝子挿入、欠失、置換、又は転座)によって異なるウイルス型を含む。例えば、試料中のウイルス力価を定量化するのに好適なモデルが、外来性遺伝子挿入を含むレンチウイルスを特定するのに好適である場合、モデルを開発するために利用される参照スペクトルは、既知の量の目的の修飾レンチウイルスを含む試料、及び任意選択的に、既知の量の野生型レンチウイルスを含む試料から収集される。これにより、野生型レンチウイルスと比較して修飾レンチウイルスに特異的であるスペクトル成分の特定、及び試料中の修飾レンチウイルスの力価を決定するために特異的な較正曲線の生成が可能となる。
【0067】
上記のように、試料中のウイルス力価を定量化するのに好適なモデルを生成する方法は、既知の型及び量の任意のウイルス型を含む試料を利用して実施される。例えば、好適な試料としては、レトロウイルス粒子、レトロウイルス様粒子、アデノウイルス粒子、アデノウイルス様粒子、アデノ随伴ウイルス粒子、アデノ随伴ウイルス様粒子、単純ヘルペスウイルス粒子、及び単純ヘルペスウイルス様粒子を含有する試料が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、ウイルスは、レンチウイルス粒子などのレトロウイルス粒子である。
【実施例
【0068】
以下の実施例は、本開示の実施形態の実施を例示することを意図しているが、決してその範囲を限定することを意図するものではない。
【0069】
実施例1及び2のための材料及び方法
材料及び試薬:金及び銀のSERS基板をSilmecoから購入した(SERStrate)。超純水(18.2MΩcm)をMilli-Qシステムから取得した。内径75.9μm及び外径150.0μmの溶融シリカキャピラリーを、Polymicro Technologiesから購入した。塩酸、LV-MAX産生培地、ウシ胎児血清(FBS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、イーグル最小必須培地(EMEM)、並びに緑色蛍光タンパク質(GFP)を有する及びGFPを有しないヒト非標的化、LentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルスを、ThermoFisher Scientificから購入した。ヒトHT-1080線維肉腫細胞(ATCC CCL-121)を、American Type Culture Collection(ATCC)から得た。ポリブレン及びイソプロパノールを、Sigma Aldrichから購入した。Orange Tough樹脂を、Prusa Researchから購入した。
【0070】
試料調製:全てのウイルス溶液をLV-MAX産生培地中で調製した。SERS較正のために、各々500TU/mL~50,000TU/mLの範囲の濃度で、GFPを有する及びGFPを有しないヒト非標的化、LentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルスの溶液を調製した。
【0071】
3Dプリント:3DプリントされたSERS基板ホルダーを、金基板と使用するためにOriginal Prusa SL1を使用して生成した。銀基板については、3Dプリントされたフローセルを開発及び使用した。CAD設計は、Autodesk Fusion 360で生成し、次いで、PrusaSlicerソフトウェアを使用してスライスした。Orange Tough樹脂を全てのプリントされた物体に使用した。次いで、物体をイソプロパノール中で10分間洗浄し、2分間乾燥させ、Original Prusa CW1 Curing and Washing Machineで2分間硬化させた。次いで、物体をMilli-Q水ですすいだ。
【0072】
SERSフローセル調製:銀及び金の基板をホットプレート上で175℃において10分間加熱した。金のSilmeco基板を、上部に溶融シリカキャピラリーが固定された、3DプリントされたSERS基板ホルダーに入れた。次いで、この基板ホルダーを、ガラススライドの代わりに前述のシース流SERSセルに入れた(Negri et al.,“Ultrasensitive Surface-Enhanced Raman Scattering Flow Detector Using Hydrodynamic Focusing,”Analytical Chemistry 85(21):10159-10166(2003)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。銀のSilmeco基板を3Dプリントされたフローセルに入れ、次いでこれを、透明なGorillaグルーを使用して一緒に接着した。ラマン検出の前に、0.1MのHClを銀基板上に流して、表面上に残ったいかなる汚染物質も洗い流した。水をフローセルに通して、ラマン測定前に銀表面及び金表面の両方をすすいだ。
【0073】
ラマン測定:ラマン分光法を、自家製機器を使用して実施した。785nm又は532nmのレーザー(Oxxius)を、40×水浸漬対物レンズ(NA=0.8)を使用してSERS基板上に集束させた。ラマン散乱を、同じ対物レンズを通して収集し、ProEM:1600 eXcelon 3 CCD検出器(Princeton Instruments)を備えたIsoplane SCT-320分光器に向けた。スペクトルを、試料において250msの曝露時間及び1.50mW(785nm)又は0.60mW(532nm)のレーザー出力で取得した。取得毎に240個のスペクトルを連続して取得した。金基板を使用した実験のために、ウイルス試料を、ウォーターシース流体を用いて溶融シリカキャピラリーを通して注入した。SERSスペクトル取得の前及び最中に、シース及び試料の流れを停止させた。スペクトル取得後、シース流を再開し、試料流を水に切り替えて表面を洗浄した後、次の試料を注入した。
【0074】
データ分析:全てのスペクトルを、Matlab R2018b(Mathworks)を使用して処理した。MatlabでPLS Toolbox(Eigenvector Research Inc.)を使用して、多変量曲線分解(MCR)を実施した。MCR分析の前に、SERS基板上の水のバックグラウンドスペクトルを、各レンチウイルススペクトルから減算し、次いで、スペクトルを、500cm-1~1600cm-1のスペクトル範囲まで切断した。成分2での平均スコアを濃度に対してプロットして、較正曲線を作成した。
【0075】
レンチウイルス形質導入:HT-1080細胞を、10%FBSを補充したEMEM中で培養した。10,000個の細胞を、96ウェルプレートにおいて1ウェル当たり100μLの培養培地中に播種し、5%COの加湿雰囲気及び37℃の温度で一晩インキュベートした。GFPを有するヒト非標的化、LentiArray(商標)CRISPR陰性対照レンチウイルスを、氷上で1時間解凍した後、形質導入した。形質導入培地は、FBSを補充したEMEMにポリブレンを8μg/mLの最終濃度まで添加することによって調製した。ウイルス溶液を形質導入培地に連続希釈することによって、4対数連続希釈物を3連で調製した。培地を細胞から除去し、100μLの各希釈物をウェルに添加した。プレートを5分間旋回させてウイルスを分布させた。次いで、細胞を24時間インキュベートした。次に、レンチウイルス形質導入培地を、10%FBSを補充したEMEMで置き換え、次いで、細胞を更に24時間インキュベートした。次いで、培地を細胞から除去し、撮像前にPBSで置き換えた。
【0076】
蛍光撮像:細胞を、励起のためのGFPフィルターキューブ及び青色LED(Thorlabs)を使用して、直立型Olympus顕微鏡で撮像した。ImageJを使用して明視野及び蛍光の画像のデータ分析を実施し、細胞カウンタープラグインを使用して細胞をカウントした。次いで、レンチウイルス力価を、以下の式1を使用して計算した。
【数1】
【0077】
実施例1:金のSERS基板を使用したレンチウイルス粒子の検出及び区別
実験設計は、図1に示される。GFP遺伝子をコードする又は有しないのいずれかのレンチウイルス粒子からのSERSスペクトルを、LV-MAXウイルス産生培地で取得した。各ウイルス型をSERS基板に培地中で注入し、流れなしで測定した。培地中で測定することによって、必要な試料の前処理は最小限である。追加的に、水性環境は、励起されたナノ構造からの熱放散を改善し、これは、試料又は基板への熱損傷なしに改善された信号生成を可能にすることが示されている(Zeng et al.,“Photothermal Microscopy of Coupled Nanostructures and the Impact of Nanoscale Heating in Surface Enhanced Raman Spectroscopy,”J.Phys.Chem.C 121(21):11623-11631(2017)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。
【0078】
粒子のSERS測定から得られたスペクトルを使用して、GFP遺伝子を含有する粒子の数を表す多変量曲線分解(MCR)モデルを生成した。SERS取得の前に、フローセルを水ですすぎ、表面及びキャピラリーを洗浄し、次いで、ウイルス試料を、キャピラリーを通して注入し、シース及び試料の流れの両方を停止させた。SERS取得後、基板の表面を、水を使用して洗浄した。基板上の水のスペクトルを、各濃度を分析する前に取得し、次いで、基板のバックグラウンド信号を説明するために、分析前にSERSスペクトルから減算した。
【0079】
レンチウイルス試料を、金基板を有するシース流SERSセルに注入することによって取得されたウイルス粒子のSERSスペクトルが、図2A~2Bに示される。図2Aは、分析された最高濃度での、GFP遺伝子を有する及び有しないウイルスから取得された平均SERSスペクトルを比較する。ウイルス粒子の各型のスペクトルは、アミノ酸及び核酸に関連するラマンバンドを示す。2つの型の粒子間で共有された共通のピークは、RNA中のリン酸骨格伸長に関連する813cm-1(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、チロシンに割り当てられた851cm-1(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、フェニルアラニンに割り当てられた1007cm-1(Ashton et al.,“pH-Induced Conformational Transitions in α-Lactalbumin Investigated with Two-Dimensional Raman Correlation Variance Plots and Moving Windows,”Journal of Molecular Structure 974(1-3):132-138(2010)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、シトシンに割り当てられた1046cm-1(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)、Negri et al.,“Detection of Genetic Markers Related to High Pathogenicity in Influenza by SERS,”The Analyst 138(17):4877-4884(2013)(これらは、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる))、アミドIII伸長から生じる1242cm-1(Ashton et al.,“pH-Induced Conformational Transitions in α-Lactalbumin Investigated with Two-Dimensional Raman Correlation Variance Plots and Moving Windows,”Journal of Molecular Structure 974(1-3):132-138(2010)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、並びにグルタミン酸及びアスパラギン酸のCHはさみ振動に関連する1475cm-1(Negri et al.,“Online SERS Detection of the 20 Proteinogenic l-Amino Acids Separated by Capillary Zone Electrophoresis,”The Analyst 139(22):5989-5998(2014)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))のバンドを含む。2つの異なるウイルス粒子の類似の構造にもかかわらず、図2Aはまた、SERS信号に差があることを示す。スペクトルの顕著な差は、GFPを有する粒子について、リン酸骨格(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、及びアデニン(Suh et al.,“Surface-Enhanced Raman Spectroscopy of Amino Acids and Nucleotide Bases Adsorbed on Silver,”J.Am.Chem.Soc.108(16):4711-4718(1986)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)から生じる812及び921cm-1の強いピークを含む。これらの追加のバンドは、GFPを有しないものと比較して、これらの粒子中の追加のRNAに起因して生じ得る。また、フェニルアラニン及びトリプトファンから生じる1164cm-1のショルダーを有する1141cm-1の強いバンドが、GFPを有する粒子のスペクトルにおいて観察される(Negri et al.,“Online SERS Detection of the 20 Proteinogenic l-Amino Acids Separated by Capillary Zone Electrophoresis,”The Analyst 139(22):5989-5998(2014)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。追加的に、それぞれアルギニン、ヒスチジン、及びフェニルアラニン/チロシンから生じる1280、1410、及び1567cm-1のバンドは、GFPを含有する粒子のスペクトルにおいて強く見られる(Negri et al.,“Online SERS Detection of the 20 Proteinogenic l-Amino Acids Separated by Capillary Zone Electrophoresis,”The Analyst 139(22):5989-5998(2014)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。これらの差は、SERSが、50,000TU/mLの濃度でウイルス粒子内の遺伝物質の修飾を検出することができることを示す。
【0080】
様々な濃度でのGFPを有するウイルス粒子のスペクトルが、標準偏差がその周囲で網掛けされて図2Bに示される。ウイルス粒子の構造が複雑であるため、同じ粒子型について得られた平均信号に変動がある。トリプトファン(Negri et al.,“Online SERS Detection of the 20 Proteinogenic l-Amino Acids Separated by Capillary Zone Electrophoresis,”The Analyst 139(22):5989-5998(2014)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、及びアミドIII伸長(Ashton et al.,“pH-Induced Conformational Transitions in α-Lactalbumin Investigated with Two-Dimensional Raman Correlation Variance Plots and Moving Windows,”Journal of Molecular Structure 974(1-3):132-138(2010)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))から生じる1164及び1259cm-1のピークが、4つ全ての濃度で検出された。813cm-1(リン酸骨格)(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、923cm-1(アデニン)(Suh et al.,“Surface-Enhanced Raman Spectroscopy of Amino Acids and Nucleotide Bases Adsorbed on Silver,”J.Am.Chem.Soc.108(16):4711-4718(1986)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、1095cm-1(リン酸骨格)(Negri et al.,“Detection of Genetic Markers Related to High Pathogenicity in Influenza by SERS,”The Analyst 138(17):4877-4884(2013)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、1475cm-1(グルタミン酸/アスパラギン酸)(Negri et al.,“Online SERS Detection of the 20 Proteinogenic l-Amino Acids Separated by Capillary Zone Electrophoresis,”The Analyst 139(22):5989-5998(2014)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、及び1575cm-1(トリプトファン)(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)のピークは、最高濃度における強度の最大の増加を示した。平均で一貫して示されるピークは、ウイルス粒子の表面又はキャプシド上に見られるタンパク質から生じる可能性が高い。一方、強度の増加を示すピークの大部分は、キャプシド内の遺伝物質の核酸及びリン酸骨格から生じる。ウイルス粒子は、遺伝物質を含有するキャプシドを包囲するタンパク質及び脂質をそれらの表面上に含有する。予想どおり、キャプシド内の分子からよりも、ウイルスの表面上の分子から生じるモードが、より多く観察された。これは、ウイルスの表面がSERS基板と直接相互作用することに起因する。しかしながら、芳香族核酸は、SERSによって検出される基板に十分に近いことが予想される。異なる濃度のウイルス粒子についての平均信号の差は、SERS活性表面上の粒子の異なる配向、又はホットスポット内にあるウイルスの異なる分子成分から生じ、見られる振動モードの異なる増強につながり得る。分析されたウイルス粒子は、球状から楕円形であり、直径が80~100nmであり、SERS基板上のホットスポットに関連するおよそ1nmの体積よりもはるかに大きいサイズであり、したがって、ウイルス粒子の一部分のみが、所与のホットスポット内にある。各濃度についての平均スペクトルは、観察されたバンドの差を示し、濃度依存性を決定する単変量分析の使用を複雑にする。GFPを有しないレンチウイルス粒子の各濃度についての平均SERSスペクトルが、図3に示され、同様の傾向を示す。
【0081】
レンチウイルス粒子を希釈し、LV-MAX産生培地中に保存した。純粋なLV-MAX培地をフローセルに注入し、取得されたスペクトルが、図4に示される。培地は、653cm-1及び1030cm-1のピークを示し、したがって、レンチウイルス粒子について得られた信号は、培地ではなくウイルス粒子自体から生じる。
【0082】
ウイルス力価を決定するために、多変量曲線分解(MCR)を実施して、GFPベクターと相関する成分を抽出した。図5A~5Dは、500TU/mL、5,000TU/mL、及び50,000TU/mLの濃度での、GFPを有するレンチウイルス粒子から取得されたスペクトルを使用して開発された3つの成分モデルを示す。このモデルは、データにおける分散の95.47%を捕捉した。10,000TU/mLのGFP粒子スペクトルを使用して、このモデルを検証した。モデルは、成分2でのスコアとGFPを有するレンチウイルスの濃度との間の線形関係を示す(図5B)。次いで、各濃度についての成分2での平均スコアをウイルス力価に対してプロットして、ウイルス力価を決定するための較正を生成した(図5C)。この曲線上のエラーバーは、測定値の標準偏差を表す。
【0083】
成分2についての負荷は、分析された最高濃度でGFPベクターを含有するレンチウイルス粒子と類似したスペクトルを示す(図6)。成分2で観察されたSERSバンドについてのピーク割り当てが、表1に示される。この成分スペクトルが、GFPを有する粒子から生じることを更に確認するために、50,000TU/mLの濃度でのGFPを有しない粒子のスペクトルをモデルで試験した。これらのスペクトルは、同じ濃度でのGFPを有する粒子よりも成分2で低く、差は、統計的に有意である。これは更に、この成分が、GFPベクターに関連していることを示唆する。図4に示されるLV-MAX培地のスペクトルもモデルで試験し、成分2でのこれらのスペクトルについてのスコアは、両方のレンチウイルス粒子型よりもはるかに低い。図5Dに示される棒グラフは、これらの試料の各々についてのスコアを比較し、SERSが、挿入遺伝子を有する及び有しないウイルス粒子を区別することができることを示す。GFPを有しない粒子のスコアは、成分2で平均2500を有し、これは、5,000及び10,000TU/mLの濃度でのGFPを有する粒子についてのスコアと同等である。これは、定量化を妨げる可能性があるGFP遺伝子を有しない粒子からの高レベルの散乱に起因する。しかしながら、一般的に使用されるウイルス力価は、10TU/mL以上であり、これは、この研究で示される力価よりも大きい(Pivert et al.,“A First Experience of Transduction for Differentiated HepaRG Cells using Lentiviral Technology,”Scientific Reports 9(1):12910(2019)、Lim et al.,“Identification of Newly Emerging Influenza Viruses by Surface-Enhanced Raman Spectroscopy,”Analytical Chemistry 87(23):11652-11659(2015)、Bagnall et al.,“Quantitative Dynamic Imaging of Immune Cell Signalling Using Lentiviral Gene Transfer,”Integrative Biology 7(6):713-725(2015)、Guerreiro et al.,“Detection and Quantification of Label-Free Infectious Adenovirus Using a Switch-On Cell-Based Fluorescent Biosensor,”ACS Sensors 4(6):1654-1661(2019)(これらは、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる))。
【表1】
【0084】
蛍光撮像を使用して、SERSによって決定されたウイルス力価を検証した。HT-1080線維肉腫細胞を、GFPをコードするレンチウイルスで形質導入した。用量応答曲線(図7)を、蛍光であった細胞の割合及び形質導入に使用されたレンチウイルス粒子の量の対数を使用して生成した。これらの結果は、SERS実験に使用されたウイルス力価を確認する。また、これらの画像は、使用されたレンチウイルスが、10TU/mLを超える濃度で高度に感染性であることを示し、これらの濃度は、2つの粒子型を区別するためにSERSを使用した濃度と類似している。
【0085】
実施例2:銀SERS基板を使用したレンチウイルス粒子の検出及び区別
レンチウイルス粒子を検出及び区別するSERS法を、銀SERS基板及び532nm励起も使用して実施した。以前に研究したのと同じレンチウイルスを使用して、50,000TU/mLの濃度での各粒子型についての参照スペクトルを収集した。GFP遺伝子を有する及び有しないレンチウイルス粒子の収集された生スペクトルが、図8Aに示される。3成分MCRモデルを、各粒子について収集された全てのスペクトル、各型について合計740個のスペクトルを使用して構築した。このモデルについての負荷スペクトルが、図8Bに示され、各成分についてのスコアが、図8Cに示される。このモデルでは、成分1、2、及び3は、それぞれ、データの総分散の53.67%、44.74%、及び1.29%を占めた。成分3で高いスコアを得る唯一のスペクトルは、GFPを有するレンチウイルス粒子からのスペクトルである。これらのスペクトルは、GFPを有しないレンチウイルス粒子のスペクトルから分離され得るため、この成分は、GFPベクターに関連し得る。スペクトルの大部分は、成分1及び2で同様のスコアを有し、したがって、挿入遺伝子の検出が、レンチウイルス自体からのバックグラウンド信号によって複雑になり得ることを示している。ウイルス粒子の大規模かつ複雑な分子構造は、多くの光を散乱させ、複雑なSERS信号を生成し得る。したがって、これらの信号は、挿入遺伝子を示すスペクトルを複雑にし、この遺伝子の検出及び定量化をより困難にし得る。両方のレンチウイルスについてのスペクトルの大部分は、成分1及び2で同様のスコアを有するが、成分3を利用して、挿入遺伝子を検出することができる。
【0086】
銀及び金の基板上のGFP遺伝子に関連する成分スペクトルが、図8Dに示される。これらの成分スペクトルは、多くのスペクトル差を示し、同じ周波数であるが強度が異なる3つのピークのみを共有する。ピークは、それぞれアミドIII伸長(Ashton et al.,“pH-Induced Conformational Transitions in α-Lactalbumin Investigated with Two-Dimensional Raman Correlation Variance Plots and Moving Windows,”Journal of Molecular Structure 974(1-3):132-138(2010)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、アルギニン(Negri et al.,“Online SERS Detection of the 20 Proteinogenic l-Amino Acids Separated by Capillary Zone Electrophoresis,”The Analyst 139(22):5989-5998(2014)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、及びトリプトファン(Ashton et al.,“pH-Induced Conformational Transitions in α-Lactalbumin Investigated with Two-Dimensional Raman Correlation Variance Plots and Moving Windows,”Journal of Molecular Structure 974(1-3):132-138(2010)(これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる))に対応する1260、1281、及び1354cm-1である。ピーク割り当ての全リストが、表1及び表2に示される。銀基板上のスペクトルは、金基板と比較して、アミノ酸よりも核酸に関連するより多くのバンドを示す。
【表2】
【0087】
実施例1及び2の考察:
結果は、SERSが、GFP遺伝子の挿入によってのみ異なる単一のウイルス粒子型を検出及び定量化することができることを示す。これらの結果は、既存の技術よりも少ない試料調製で、特定の遺伝子をコードするようにうまく形質転換されたウイルス粒子を定量化する、有意により迅速な方法を提供する。これらの粒子の定量化は、SERS活性基板の表面上のホットスポットと相互作用するウイルス粒子に依存する。観察されたスペクトルは、ホットスポットと相互作用するウイルスの配向及び特定の部分に依存するため、定量化は、単一のピークを使用して達成することが困難であり得る。MCRは、SERSスペクトルを成分に分解することによって、これらの複雑な信号の定量化に有用であり、その結果、スコアを使用して、存在するウイルスの量を決定することができることが示される。基板表面を官能化することはまた、信号の均一性を改善するためにウイルスの特定の配向を強制するために調査され得る。
【0088】
GFP遺伝子を含有する粒子に関連する信号は、SERS基板に使用される励起波長及び金属に応じて異なる。532nmの励起レーザー及び銀基板を使用する場合、785nmの励起及び金基板を使用するスペクトルと比較して、より多くのピークが、核酸に関連している。ウイルス粒子に対するSERSの以前の研究は、785nmの励起を伴う銀基板を使用しており、核酸及びアミノ酸の両方が、検出され得ることを示す(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。しかしながら、785nmの励起を伴う金基板を使用した研究は、SERS信号の大部分が、ウイルスエンベロープのアミノ酸及び脂質成分から生じることを示す(Lim et al.,“Identification of Newly Emerging Influenza Viruses by Surface-Enhanced Raman Spectroscopy,”Analytical Chemistry 87(23):11652-11659(2015)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。銀基板上のGFPを有するウイルスの成分スペクトルは、金基板上のものよりも多くの核酸信号を示す。しかしながら、核酸及びアミノ酸の信号は、両方のタイプの基板で観察される。
【0089】
金属と分析物との間の相互作用はまた、分子が表面に吸着する方法にも影響し得、これはしたがって、観察されたSERS信号に影響を与える。これは、表面上への分析物の好ましい配向に起因し得、これは、表面に最も近いバンドを基板から更に離れているバンドよりも増強させる。赤血球のSERSスペクトルは、銀ナノ粒子が金の代わりに使用される場合に異なるように見え、これは、分析物と各金属との間の異なる相互作用によって説明される(Drescher et al.,“SERS Reveals the Specific Interaction of Silver and Gold Nanoparticles with Hemoglobin and Red Blood Cell Components,”Physical Chemistry Chemical Physics 15:5364-5373(2013)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。類似の効果が、銀及び金の基板上のGFPを含有するウイルス粒子の異なる信号の原因である可能性が高い。
【0090】
SERSは、現在の方法よりも少ない試料調製で、ウイルス力価の決定へのより迅速なアプローチを提供する。SERSは、ウイルス型及び株を区別すること(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)、Lim et al.,“Identification of Newly Emerging Influenza Viruses by Surface-Enhanced Raman Spectroscopy,”Analytical Chemistry 87(23):11652-11659(2015)(これらは、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる))、並びにウイルス変異を検出するためのDNAヘアピンを使用すること(Dardir et.,“SERS Nanoprobe for Intracellular Monitoring of Viral Mutations,”The Journal of Physical Chemistry C 124(5):3211-3217(2020)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))が既に示されている。直接的なSERS測定を使用したウイルス力価の決定のための本出願に記載される方法は、他のウイルス型に適用され得る。これはまた、ウイルスゲノムに対する修飾を定量化するために使用され得る。
【0091】
結論
先行する実施例で実証されるように、ウイルス力価は、SERS基板への修飾なく決定され得、したがって、市販のSERS基板を使用した迅速かつ単純な方法を提供する。ウイルス粒子構造の複雑さにより、計量化学分析、例えば、MCRは、ウイルス特異的成分が決定され、定量化に使用され得るように、スペクトルを分解するのに有用である。先行する実施例で使用されるウイルス力価は、生物医学的用途で一般的に使用される力価よりも1桁低い。これらの粒子を分析するための異なる金属及び励起波長の使用も研究され、532nmの励起を伴う銀基板が、785nmの励起を伴う金基板よりも多くの核酸特徴を有するスペクトルを生成したことを示した。SERSは、最小限の試料調製でウイルス力価を決定する迅速な方法を提供し、これらの結果は、この方法が、様々なウイルス型に適用され得ることを確認する。
【0092】
実施例3:完全なレンチウイルスキャプシド及び空のレンチウイルスキャプシドの検出及び区別
完全なレンチウイルスキャプシド又は空のレンチウイルスキャプシドのいずれかを含有するレンチウイルスの分析のために、金のSERS基板を伴う785nm励起を使用して、SERSスペクトルを取得した。市販のレンチウイルス(緑色蛍光タンパク質(GFP)を有する及びGFPを有しないヒト非標的化、LentiArray CRISPR陰性対照レンチウイルス)を、ThermoFisher Scientificから購入し、金のSERS基板を、完全なレンチウイルス測定のためにSilmecoから購入した。空のキャプシドレンチウイルスをSignaGenから購入した。熱的に蒸発した金基板を、前述の手順を使用して生成し、空のキャプシド実験に使用した(Asiala et al.,“Characterization of Hotspots in a Highly Enhancing SERS Substrate,”Analyst 136(21):4472-4479(2011)(これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。自家製ラマン機器を使用して、40倍の水浸漬対物レンズ(NA=0.8)を通してSERS基板上にレーザーを集束させることによって、ラマン分光法を実施した。ラマン散乱を、ProEM:1600 eXcelon 3 CCD検出器(Princeton Instruments)を有するIsoplane SCT-320分光器に向けた。ウイルス溶液をSERS基板に注入し、スペクトルを、完全なレンチウイルスについては250msの曝露時間及び1.50mWのレーザー出力で、並びに空のレンチウイルスについては500msの曝露時間及び0.50mWのレーザー出力で取得した。図9に示されるスペクトルは、720個のスペクトルの平均である。完全なウイルス粒子と空のウイルス粒子との間のSERS信号の差は、キャプシド内の遺伝物質の非存在に関連し得る。灰色のボックスによって強調表示されたピークは、3つ全てのウイルス粒子にわたって見られ(表3)、チロシン(853cm-1)、フェニルアラニン(1004cm-1)、トリプトファン(1127cm-1)、及びアミドIII伸長(1240cm-1)に対応する(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)、Ashton et al.,“pH-Induced Conformational Transitions in α-Lactalbumin Investigated with Two-Dimensional Raman Correlation Variance Plots and Moving Windows,”Journal of Molecular Structure 974(1-3):132-138(2010)、Verduin et al.,“RNA-Protein Interactions and Secondary Structures of Cowpea Chlorotic Mottle Virus for in Vitro Assembly,”Biochemistry 23(19):4301-4308(1984)(これらは、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる))。空のキャプシドスペクトルに見られる追加のバンド(表4)は、719cm-1(ν(C-S)、トリプトファン)、1362cm-1(トリプトファン)、1454cm-1(タンパク質のCH変形、トリプトファン)、及び1565cm-1(フェニルアラニン/トリプトファン、アミドII)を含む(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)、Ashton et al.,“pH-Induced Conformational Transitions in α-Lactalbumin Investigated with Two-Dimensional Raman Correlation Variance Plots and Moving Windows,”Journal of Molecular Structure 974(1-3):132-138(2010)、Verduin et al.,“RNA-Protein Interactions and Secondary Structures of Cowpea Chlorotic Mottle Virus for in Vitro Assembly,”Biochemistry 23(19):4301-4308(1984)、Negri et al.,“Online SERS Detection of the 20 Proteinogenic L-Amino Acids Separated by Capillary Zone Electrophoresis,”The Analyst 139(22):5989-5998(2014)、Szekeres et al.,“SERS Probing of Proteins in Gold Nanoparticle Agglomerates,”Front.Chem.7:30(2019)(これらは、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる))。RNAのリン酸骨格伸長から生じる812cm-1、アデニンから生じる921cm-1、及びシトシンから生じる1046cm-1のバンドなど、完全なキャプシドスペクトルと空のキャプシドスペクトルとの間の差は、ウイルス内の遺伝物質の存在に関連し得る(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)、Negri et al.,“Detection of Genetic Markers Related to High Pathogenicity in Influenza by SERS,”The Analyst 138(17):4877-4884(2013)、Suh et al.,“Surface-Enhanced Raman Spectroscopy of Amino Acids and Nucleotide Bases Adsorbed on Silver,”Journal of the American Chemical Society 108(16):4711-4718(1986)(これらは、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる))。
【表3】
【表4】
【0093】
実施例4:修飾レンチウイルス粒子についての較正曲線の作成
JLV1に指定される、修飾レンチウイルス粒子のSERSスペクトルを、638nmの励起及び市販の金のSERS基板(Silmeco)を用いたSnowy Range Sierra Raman Spectrometerを使用して取得した。ウイルス溶液を、3Dプリントされたフローセルを通してSERS基板に注入し、スペクトルを、250msの曝露時間及び0.50mWのレーザー出力で取得した。図10Aに示されるスペクトルは、200個のスペクトルの平均である。全てのスペクトルを、分析前にSERS基板のシリコンバッキングから生じる520cm-1ピークに対して正規化した。MCRを使用して、図10B及び10C、並びに図10F~H(成分1、2、及び3についてのスコアの比較)に示されるように、ウイルス力価を決定するための較正モデルを構築した。図10Cは、例えば、グアニン(658及び1380cm-1)、RNAのリン酸骨格(811及び1173cm-1)、ウラシル(1059及び1296cm-1)、アデニン(1328cm-1)、並びにトリプトファン(1115、1380、及び1524cm-1)など、ウイルスを構成するアミノ酸及び核酸から生じるピークを有するこのモデルの成分1負荷スペクトルを示す(Shanmukh et al.,“Rapid and Sensitive Detection of Respiratory Virus Molecular Signatures Using a Silver Nanorod Array SERS Substrate,”Nano Letters 6(11):2630-2636(2006)、Otto et al.,“Surface-Enhanced Raman Spectroscopy of DNA Bases,”Journal of Raman Spectroscopy 17(3):289-298(1986)、Suh et al.,“Surface-Enhanced Raman Spectroscopy of Amino Acids and Nucleotide Bases Adsorbed on Silver,”Journal of the American Chemical Society 108(16):4711-4718(1986)、Sloan-Dennison et al.,“Surface Enhanced Raman Scattering Selectivity in Proteins Arises from Electron Capture and Resonant Enhancement of Radical Species,”The Journal of Physical Chemistry C 124(17):9548-9558(2020)、Verduin et al.,“RNA-Protein Interactions and Secondary Structures of Cowpea Chlorotic Mottle Virus for in Vitro Assembly,”Biochemistry 23(19):4301-4308(1984)(これらは、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる))。負荷スペクトルに強く現れるピークは、各力価の平均スペクトルにも同様に強く現れ、この成分が、レンチウイルス粒子に関連していることが確認される。次いで、成分1での各試料についての平均スコアを、ウイルス力価に対してプロットして(図10D~Eを参照されたい)、較正曲線を作成する。分析された最高力価である10TU/mLでは、SERS信号は、減少する(図10D)。これは、表面が試料で飽和していることに起因する可能性が高く、したがって、追加のレンチウイルス粒子がホットスポットを占領することを遮断し、SERS信号の一部が観察される。しかしながら、その力価レベルを下回ると、成分1でのスコアとウイルス力価との間に線形傾向があり、これを、図10Eに示されるJLV1のウイルス力価を決定するための較正を作成するために使用した(R=0.974)。エラーバーは、SERS測定値の標準偏差を表す。
【0094】
前述に基づき、較正曲線を同じ設定で使用して、試料希釈なしの10TU/mL未満のウイルス力価、及び任意選択的に所定の試料希釈(例えば、10倍、100倍、又はそれ以上)でのより高いウイルス力価を評価することができる。希釈試料及び未希釈試料の両方を、任意選択的に並行して評価することができる。
【0095】
本明細書では好ましい実施形態が詳細に示され、記載されているが、本開示の趣旨から逸脱することなく、様々な修正、追加、置換などを行うことができ、したがって、これらは、以下の特許請求の範囲に定義される本開示の範囲内にあるとみなされることが、当業者には明らかである。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図10H
【国際調査報告】