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特表2024-541387水素ガスの車載貯蔵用の複合IV型圧力タンクの製造を可能にする半製品の製造のための速硬性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】水素ガスの車載貯蔵用の複合IV型圧力タンクの製造を可能にする半製品の製造のための速硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20241031BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20241031BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241031BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20241031BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08L63/00 Z
C08K5/49
C08K7/02
C08J5/24 CFC
F17C1/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529166
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2022082161
(87)【国際公開番号】W WO2023088977
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】2112167
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506423291
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(71)【出願人】
【識別番号】513023066
【氏名又は名称】アンスティトゥー ナショナル デ サイエンシーズ アプリーク ドゥ リヨン
(71)【出願人】
【識別番号】524181643
【氏名又は名称】ヴィテック コンポジット
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】503402530
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】517125546
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ジャン モネ、サン テティエンヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE JEAN MONNET SAINT ETIENNE
【住所又は居所原語表記】MAISON DE L’UNIVERSITE 10 RUE TREFILERIE, 42100 SAINT ETIENNE, FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マニエ クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィリャロンガ ステファーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジェグ マルタン
(72)【発明者】
【氏名】リヴィ セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ジェラール ジャン-フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】デュシェ-リュモー ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】デマレ フレデリク
【テーマコード(参考)】
3E172
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB12
3E172BB13
3E172BB17
3E172BC01
3E172BC04
3E172BD03
3E172BD05
3E172CA11
3E172DA36
3E172DA90
3E172EA02
3E172EB02
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD27
4F072AD28
4F072AE01
4F072AF19
4F072AF30
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH24
4F072AK02
4F072AK11
4F072AL07
4J002AB012
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD111
4J002CL062
4J002DA016
4J002DJ006
4J002DL006
4J002EW177
4J002FA042
4J002FA046
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD147
4J002GF00
4J002GG01
(57)【要約】
本発明は、(A)20℃~25℃の温度で1kPa・s~150kPa・sの粘度を有する70重量部~95重量部のエポキシド樹脂と、(B)組成物中に存在する樹脂100重量部当たり5重量部~30重量部の樹脂中に分散した硬化剤であって、ホスホニウムカチオンを含有するイオン液体である、硬化剤とを含む組成物(C)に関する。本発明は、繊維の束(F)及び組成物(C)を含む半製品又はトウプレグにも関する。本発明は、水素ガスの車載貯蔵用の複合材料から作製される水素タンク、特にIV型圧力タンクの製造への本発明による組成物(C)又は半製品の使用にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物(C)であって、
(A)20℃~25℃の温度で1Pa・s~150kPa・sの粘度を有する70質量部~95質量部のエポキシ樹脂と、
(B)前記組成物中に存在する樹脂100質量部当たり5質量部~30質量部の前記樹脂中に分散した硬化剤であって、該硬化剤が、式P(R(式中、R、R、R及びRは、同一であるか又は異なり、水素原子、1個~18個の炭素原子を有するアルキルラジカル、6個~20個の炭素原子を有するアリールラジカルを表し、前記アルキルラジカル及びアリールラジカルは、任意に置換される)のホスホニウムカチオンを含有するイオン液体であることを特徴とする、硬化剤と、
を含む、組成物。
【請求項2】
前記ホスホニウムカチオンがPH 、P(CH 、P(Ph) 、P(CH)(Ph) 、P(CHOH) 、P(C13(C1429の中から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記イオン液体がジシアンアミドアニオン(Cを含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物中に存在するエポキシ樹脂100質量部当たり10質量部~30質量部のイオン液体を含むことを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記イオン液体が式(PO)(式中、R及びRは、同一であるか又は異なり、水素原子、1個~18個の炭素原子を有するアルキルラジカル、6個~20個の炭素原子を有するアリールラジカルを表し、前記アルキルラジカル及びアリールラジカルは、任意に置換される)のホスフィネートアニオンを含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ホスフィネートアニオンが(PO、(PO(CH、(PO(C30、(POPh、(PO(CH-CH(CH)-CH-C(CHの中から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物中に存在するエポキシ樹脂100質量部当たり5質量部~20質量部のイオン液体を含むことを特徴とする、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂(A)が、25℃で16.9kPa・s(±20%)及び20℃で113.0kPa・sの粘度を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、有機繊維の中から選択される繊維束(F)と、
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物(C)と、
を含み、前記繊維束に前記組成物が含浸しており、
(F)の体積含有率が40%~70%であり、(C)の体積含有率が30%~60%であることを特徴とする半製品。
【請求項10】
ガス状水素の車載貯蔵用の複合材料から作製される水素容器、特にIV型圧力容器の製造への請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物(C)又は請求項9に記載の半製品の使用。
【請求項11】
請求項9に記載の重合半製品又はトウプレグを含む複合材料から作製される構造体。
【請求項12】
ガス状水素の車載貯蔵用のIV型圧力容器であることを特徴とする、請求項11に記載の構造体。
【請求項13】
重合していない請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物の所望の形状を達成する工程と、続いて、所望の形状にした請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を重合する工程とを含む、水素容器、特にIV型圧力容器を製造する方法。
【請求項14】
重合した請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物の所望の形状を達成する工程を含む、水素容器、特にIV型圧力容器を製造する方法。
【請求項15】
請求項9に記載の半製品の所望の形状を達成する工程と、続いて、成形した請求項9に記載の半製品を重合する工程とを含む、水素容器、特にIV型圧力容器を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定用途及び可動用途の両方、例えば水素貯蔵インフラストラクチャー、燃料補給用水素の輸送、水素鉄道車両、バス、トラック、飛行機、ボート及び他の水素車両、並びに水素自動車についてのガス状水素の貯蔵用の複合材料から作製されるIV型圧力容器の製造の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、輸送用途の圧力容器にガス状水素を貯蔵するための車載システムは存在するが、年間数千個の承認済み容器を販売している製造業者は数社しかない。低炭素モビリティと圧力貯蔵とに関連する市場の出現に伴い、合理的なコストでの大量生産(年間数百万ユニット)に適したサプライチェーン(最終顧客に納入される完成品への原材料及び部品の変換)は存在しない。例えば、700bar未満の水素ガスのコンパクト、高信頼、安全かつ経済的な貯蔵は、燃料電池電気自動車(FCEV)及び他の燃料電池用途の広範な商用化にとって大きな課題である。2015年以降、500kmを超える範囲の軽量FECVが幾つか登場しているが、低コストでの車載水素貯蔵は、依然として大きな障害であり、容器の製造量も少ないままである。水素貯蔵プログラムにおける試みの殆どは、改善されたエネルギー密度(重量容量が6%に近い、すなわち貯蔵システムの質量の6%が水素である)のコスト効率の良い水素貯蔵技術の開発に焦点を当てている。
【0003】
自動車、バス、トラック、列車、飛行機及びボート用の水素容器は、既に存在するが、水素駆動システムの大量生産という点で製造業者の期待の全てを満たすには至っていない。これは、H容器の製造に関してだけでなく、燃料電池輸送手段の配備及び使用に関しても当てはまる。
【0004】
ガス状水素の車載貯蔵用の複合材料から作製されるIV型圧力容器の製造コストは、貯蔵システムのコストのおよそ10%~30%に過ぎないにも関わらず、大量生産能力は、自動車インテグレーターにとって大きな課題である。高圧への耐性を確保する複合材料マトリックスの重合(又は硬化)段階が現在、容器を製造し得る速度を制限している主な段階である。複合圧力容器の複合材料マトリックスは、一般にエポキシマトリックスである。
【0005】
年間数百万台の車両を生産するためには、IV型容器の複合マトリックスの重合(又は硬化)時間を大幅に短縮する必要がある。
【0006】
現在、エポキシマトリックスでは、700bar圧力容器の重合(又は硬化)プロセスの時間は、およそ12時間~16時間であり、自動車産業に必要とされるような大量生産には長すぎる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、ガス状水素の車載貯蔵用の複合材料から作製されるIV型圧力容器の製造を大量生産に効率的で、工業的に適切なものにすることが真に必要とされている。
【0008】
特に、容器を製造するためのサイクル時間を最小限にするために、複合材料マトリックスの重合(又は硬化)工程の時間を大幅に短縮することが真に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これを達成するために、本発明は、車載水素貯蔵用の高圧複合容器に関連する技術及び規制上の制限を考慮した複合材料用の新規の組成物を提案する。
【0010】
本発明は、組成物(C)であって、
(A)20℃~25℃の温度で1Pa・s~150kPa・sの粘度を有する70質量部~95質量部のエポキシ樹脂と、
(B)組成物中に存在する樹脂100質量部当たり5質量部~30質量部の樹脂中に分散した硬化剤と、
を含み、硬化剤が、式P(R(式中、R、R、R及びRは、同一であるか又は異なり、水素原子、1個~18個の炭素原子を有するアルキルラジカル、6個~20個の炭素原子を有するアリールラジカルを表し、上記アルキルラジカル及びアリールラジカルは、任意に置換される)のホスホニウムカチオンを含有するイオン液体であることを特徴とする、組成物に関する。
【0011】
複合材料から作製されるIV型高圧容器は、ブラダー又はライナーと呼ばれ、一般に熱可塑性のポリマー材料の内部層を備え、一方又は両方の端にボスと呼ばれる金属コネクターを備える。ボスは、容器と貯蔵システムとの接続をもたらす。ライナーは、水素の気密性をもたらす。このアセンブリは、通常は熱硬化性マトリックス、一般にエポキシ樹脂と、一般に長繊維、例えば炭素繊維又はガラス繊維をベースとする補強材とを含む、内圧下での構造化を確実にする構造化複合材料で覆われる。
【0012】
したがって、本発明は、上述の技術の将来の大量展開を予想するために、特に容器の複合材料の組成、より正確には、一般に10時間を超える時間にわたる製造速度に大きく影響を及ぼす樹脂及びその重合反応に焦点を当てることにより、強化された圧力容器におけるガス状水素の車載貯蔵システム(CGH圧縮ガス状水素、CPV複合圧力容器)の開発を支持することを目的とする。
【0013】
本発明の組成物は、現在使用されているエポキシマトリックスをベースとした組成物と比較して重合(又は硬化)が迅速であるため特に有利であり、これは特に硬化剤等のリンイオン液体の使用によるものである。実際に、本発明による組成物におけるエポキシマトリックスの重合(又は硬化)の時間は、12時間未満、10時間未満、特に8時間未満、より詳細には6時間未満である。
【0014】
本発明の別の目的は、
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、有機繊維の中から選択される繊維束(F)と、
本発明による組成物(C)と、
を含み、上記繊維束に上記組成物が含浸しており、
(F)の体積含有率が40%~70%であり、(C)の体積含有率が30%~60%であることを特徴とする、トウプレグ(towpreg)と呼ばれる半製品である。
【0015】
繊維束は、不織のばら繊維(loose fibres)のシート若しくは凝集体の形態、又は織られた形態であり得る。
【0016】
半製品又はトウプレグは、繊維(F)に組成物(C)を含浸させた後に重合することができる。
【0017】
半製品又はトウプレグは、繊維(F)に組成物(C)を含浸させた後、またその重合(又は硬化)後に任意にスプールに巻き取ることができる。
【0018】
本発明による組成物(C)及び半製品又はトウプレグは、特に固定用途及び可動用途の両方、例えば水素貯蔵インフラストラクチャー、燃料補給用水素の輸送、水素鉄道車両、バス、トラック、飛行機、ボート及び他の水素車両、並びに水素自動車についてのガス状水素の車載貯蔵用の複合材料から作製されるIV型圧力容器の製造に使用することができる。
【0019】
本発明の別の目的は、ガス状水素の車載貯蔵用の複合材料から作製される水素容器、特にIV型圧力容器の製造への本発明による組成物(C)又は半製品の使用である。
【0020】
本発明の別の目的は、重合半製品又はトウプレグを含む複合材料から作製される構造体である。
【0021】
より詳細には、構造体は圧力容器である。
【0022】
容器は、ガス状水素の車載貯蔵用のIV型圧力容器であるのが好ましい。
【0023】
本発明は、重合していない本発明による組成物の所望の形状を達成する工程と、続いて、所望の形状にしたこの組成物を重合する工程とを含む、水素容器、特にIV型圧力容器を製造する方法にも関する。
【0024】
しかし、本発明による水素容器、特にIV型圧力容器を製造する別の方法は、既に重合した本発明による組成物の所望の形状を達成する工程を含む。
【0025】
本発明による水素容器、特にIV型圧力容器を製造する更に別の方法は、本発明による半製品の所望の形状を達成する工程と、続いて、成形したこの半製品を重合する工程とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、組成物(C)に関し、組成物(C)が、
(A)20℃~25℃の温度で1Pa・s~150kPa・sの粘度を有する70質量部~95質量部のエポキシ樹脂と、
(B)組成物中に存在する樹脂100質量部当たり5質量部~30質量部の樹脂中に分散した硬化剤と、
を含むことを特徴とし、
硬化剤が、式P(R(式中、R、R、R及びRは、同一であるか又は異なり、水素原子、1個~18個の炭素原子を有するアルキルラジカル、6個~20個の炭素原子を有するアリールラジカルを表し、上記アルキルラジカル及びアリールラジカルは、任意に置換される)のホスホニウムカチオンを含有するイオン液体であることを特徴とする。
【0027】
「アルキル」という用語は、本発明によれば、1個~18個の炭素原子、例えば1個~14個の炭素原子、例えば1個~12個の炭素原子、例えば1個~6個の炭素原子を含む直鎖、分岐又は環状の飽和した、任意に置換された炭素ラジカルを意味する。飽和した直鎖又は分岐アルキルの例としては、ラジカルであるメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル(C11、ドデカニル(又はドデシル(C12))、トリデシル(C13)、テトラデシル(C14)及びそれらの分岐異性体が挙げられる。環状アルキルの例としては、ラジカルであるシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ビシクロ[2,1,1]ヘキシル、ビシクロ[2,2,1]ヘプチルが挙げられる。
【0028】
「アリール」という用語は、6個~20個の炭素原子、例えば6個~10個の炭素原子を含む単環式又は多環式芳香族置換基を示す。指標として、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基及びフェナントレニル基が例として挙げられる。
【0029】
アルキルラジカル及びアリールラジカルは、1つ以上のヒドロキシ基(-OH)、1つ以上のアルコキシ基(-O-アルキル)、1つ以上のアリールオキシ基(-O-アリール)、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子の中から選択される1つ以上のハロゲン原子で任意に置換されていてもよく、アルキル及びアリールは、本発明の文脈において定義される。
【0030】
一実施形態においては、ホスホニウムカチオンにおいて、R、R、R及びRは、同一であるか又は異なり、
水素原子、
メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル及びそれらの分岐異性体の中から選択されるアルキルラジカル、
フェニル、ベンジルの中から選択されるアリールラジカルを表し、
上記アルキルラジカル及びアリールラジカルは、任意に置換される。
【0031】
ホスホニウムカチオンは、PH 、P(CH 、P(Ph) 、P(CH)(Ph) 、P(CHOH) の中から選択することができる。
【0032】
ホスホニウムカチオンはまた、PH 、P(CH 、P(Ph) 、P(CH)(Ph) 、P(CHOH) 、P(C13(C1429の中から選択することができる。
【0033】
より詳細には、ホスホニウムカチオンは、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム又はP(C13(C1429である。
【0034】
本発明の一実施形態によると、組成物において、イオン液体はジシアンアミドアニオン(C)を含有する。
【0035】
この実施形態において、組成物(C)は、組成物中に存在するエポキシ樹脂100質量部当たり10質量部~30質量部のイオン液体を含む。
【0036】
本発明の全ての変形例及び実施形態において、組成物(C)は、所望の用途及び所望の特性に応じた温度の影響で重合され得る。これらの条件を選択及び調整する方法は、当業者に既知である。
【0037】
本発明の別の実施形態によると、組成物は、式(PO)(式中、R及びRは、同一であるか又は異なり、水素原子、1個~18個の炭素原子を有するアルキルラジカル、6個~20個の炭素原子を有するアリールラジカルを表し、上記アルキルラジカル及びアリールラジカルは、任意に置換される)のホスフィネートアニオンを含有するイオン液体を含む。
【0038】
この他の実施形態においては、ホスフィネートアニオンにおいて、R及びRは、同一であるか又は異なり、
水素原子、
メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル及びそれらの分岐異性体の中から選択されるアルキルラジカル、
フェニル、ベンジルの中から選択されるアリールラジカルを表し、
上記アルキルラジカル及びアリールラジカルは、任意に置換される。
【0039】
ホスフィネートアニオンは、(PO、(PO(CH、(PO(C30、(POPhの中から選択することができる。
【0040】
ホスフィネートアニオンはまた、(PO、(PO(CH、(PO(C30、(POPh、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィネート又は(PO(CH-CH(CH)-CH-C(CHの中から選択することができる。
【0041】
この他の実施形態において、イオン液体が上記のようなホスフィネートアニオンを含有する場合、組成物は、組成物中に存在するエポキシ樹脂100質量部当たり5質量部~20質量部のイオン液体を含む。
【0042】
組成物中に存在するエポキシ樹脂(A)は、例えばビスフェノール型のもの、例えばビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールF、ビスフェノールS、オルトクレゾールノボラック、メタクレゾールノボラック、パラクレゾールノボラックであり得る。
【0043】
エポキシ樹脂(A)は、20℃~25℃の温度で1Pa・s~150kPa・sの粘度を有する。エポキシ樹脂(A)は、例えば25℃で16.9kPa・s(±20%)及び20℃で113.0kPa・sの粘度を有する樹脂であり得る。
【0044】
粘度は、TA(商標) instruments社のARESレオメーター装置、BROOKFIELD ENGINEERING LABORATORIES, INC社のBrookfield LV DV I+を用い、20℃~25℃の温度で測定する。ARESレオメーターには、25mm(上部ジオメトリー)及び40mm(下部ジオメトリー)のアルミニウムディスクを備える平面/平面ジオメトリーを用いる。組成物を高温(60℃)でジオメトリーに塗布した後、20℃~25℃の温度に冷却し、粘度測定を行う。「DFS」動的周波数掃引(ひずみ制御)1rad/s~100rad/s試験は、およそ1%の変形で行う。粘度測定は、1rad/sの周波数で記録する。
【0045】
本発明による組成物は、実施例に示すように成分(A)及び成分(B)を混合することによって調製することができる。特に、この方法は、上で定義されるエポキシ樹脂(A)及びイオン液体(B)を、均一な組成物が得られるまで、(A)の重合の開始を必要としない温度で混合することからなる。
【0046】
組成物は、撹拌翼を備える単純な反応器(ガラス製)内にて空気の存在下で調製することができる。温度は、ヒータープレート及びシリコーン油浴によって制御することができる。
【0047】
連続混合は、成分を直接混合ゾーンに連続的に吐出し、結果として、ミキサーの出口で混合生成物の連続流を発生させる方法である。この原理は、成分が合流するポイントの完全な制御、ひいては混合生成物の独特な分布品質を保証する。したがって、得られる生成物は、均一な混合物の形態である。当業者に既知の任意の連続ミキサーが、組成物の製造に適し得る。
【0048】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、本発明による組成物に硬化剤としてイオン液体を使用することで、付加機構ではなく触媒機構を介した架橋が可能となることに注目した。イオン液体を使用することで、加熱処理時間の短縮に加えて、エポキシマトリックスの完全な架橋に必要とされる重合(又は硬化)剤の量(すなわち、標準的なアミン系について、樹脂100部当たり20部~50部、すなわちphr)を低減することができる。実際に、イオン液体は、温度により、この官能基のα炭素上のアニオンの求核攻撃のためにオキシラン環の開環を可能にする。
【0049】
このいわゆる活性化反応は、他のエポキシモチーフに対して反応性の官能基であるアルコキシドの形成をもたらす。第2のいわゆる成長段階は、オキシラン環上に形成されたアルコキシドモチーフの単独重合からなる。
【0050】
好適な温度条件下で、この反応は、エポキシマトリックスの完全な架橋が達成されるまで継続する(変換率>95%)。
【0051】
本発明の別の目的は、トウプレグとも呼ばれる半製品であり、半製品が、
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、有機繊維の中から選択される繊維束(F)と、
本発明による組成物(C)と、
を含み、上記繊維束に上記組成物が含浸しており、
(F)の体積含有率が40%~70%であり、(C)の体積含有率が30%~60%であることを特徴とする。
【0052】
「半製品」及び「トウプレグ」という用語は、置換え可能であり、同じ製品を説明するために区別なく使用することができる。
【0053】
有機繊維とは、炭素及び水素ベースの繊維を意味する。これらは、天然(セルロース、絹、リネン)、セルロース由来(セルロースアセテート等)、合成(ポリエステル、ポリエチレン等)であり得る。
【0054】
繊維束は、不織のばら繊維のシート若しくは凝集体の形態、又は織られた形態であり得る。
【0055】
強化繊維の束は、直径3μm~100μmのフィラメントを1000本~70000本含むのが好ましい。
【0056】
繊維(D)は、炭素繊維であるのが好ましい。その一例としては、東レ株式会社(商標)のトレカT720炭素繊維が挙げられる。
【0057】
トウプレグとも呼ばれる半製品は、その名が示すように、特に熱間成形後に、複合材料構造体、例えば複合材料から作製されるIV型圧力容器の製造に使用することを意図した中間製品である。
【0058】
半製品又はトウプレグは、
(i)樹脂(A)及びイオン液体(B)を含む組成物(C)を40℃~60℃の温度で加熱する工程と、
(ii)移動繊維束(F)を組成物(C)により連続含浸する工程と、
を含む連続製造方法によって製造することができる。
【0059】
このように、連続製造は、組成物及び繊維(F)の連続流により、中断することなく行われ、単一の位置に集中する。最終生成物、ここでは半製品又はトウプレグは、プロセスを中断することなく排出される。
【0060】
組成物(C)による繊維束(F)の連続含浸は、20℃~80℃の範囲であり得る温度で行われる。
【0061】
この含浸の時間は、数秒~数分、例えば10秒~5分の範囲であり得る。
【0062】
工程(ii)の後、含浸させた繊維を30℃未満の温度に冷却する。
【0063】
工程(ii)において、繊維束(E)を、吹付け、浸漬又は転写を含む当業者に既知の方法により、幾つかの方法で組成物(C)に含浸させることができる。
【0064】
半製品又はトウプレグは、製造後にそのまま貯蔵することができる。半製品は、例えばスプールに巻き取ることもできる。
【0065】
半製品は、ポリマーのブラダー又はライナー、特にポリエチレン又はポリアミドのブラダー又はライナーへのフィラメントワインディングに使用することができる。
【0066】
ブラダー(又はライナー)は、ガス状水素の車載貯蔵用の複合材料から作製される容器、例えば水素容器、特にIV型圧力容器のものとすることができる。
【0067】
本発明は、特に固定用途及び可動用途の両方、例えば水素貯蔵インフラストラクチャー、燃料補給用水素の輸送、水素鉄道車両、バス、トラック、飛行機、ボート及び他の水素車両、並びに水素自動車についてのガス状水素の車載貯蔵用の複合材料から作製される水素容器、特にIV型圧力容器の製造への本発明による組成物(C)、又は本発明による半製品若しくはトウプレグの使用にも関する。
【0068】
本発明は、本発明による組成物(C)を成形する工程を含む、水素容器、特にIV型圧力タンクを製造する方法にも関する。
【0069】
この方法の第1の実施形態においては、組成物(C)を、得られる水素容器の所望のサイズ及び形状を有する型に未重合で導入し、次いで重合する。
【0070】
この方法の第2の実施形態においては、既に重合した組成物(C)を、例えば機械加工によって水素容器の所望のサイズ及び形状にする。
【0071】
本発明の別の目的は、重合半製品又はトウプレグを含む複合材料から作製される構造体である。
【0072】
重合は、当業者に既知の重合方法を用いて、例えば温度の影響下で行うことができる。
【0073】
より詳細には、構造体は圧力容器である。
【0074】
容器は、ガス状水素の車載貯蔵用のIV型圧力容器であるのが好ましい。
【0075】
一実施形態によると、重合トウプレグをポリマーのブラダー又はライナー、特にポリエチレンのブラダー又はライナーに巻き取る。
【0076】
別の実施形態によると、重合トウプレグをポリマーのブラダー又はライナー、特にポリアミドのブラダー又はライナーに巻き取る。
【0077】
容器は、ガス状水素の車載貯蔵用のIV型圧力容器であるのが好ましい。
【0078】
このため、本発明は、本発明による半製品を成形する工程と、続いて、成形した請求項9による半製品を重合する工程とを含む、水素容器、特にIV型圧力容器を製造する方法にも関する。
【0079】
本発明による組成物(C)は、ガス状水素の車載貯蔵用のIV型圧力複合容器の製造中に迅速に(数時間のみ)加熱処理される。組成物の迅速な加熱処理は、実質的に硬化剤としてイオン液体を使用することによる。
【0080】
本発明の組成物は、エポキシ樹脂(A)を含み、これは、このタイプの熱硬化性ポリマーが車載水素貯蔵の圧力容器の製造に最も一般的に使用されるためである。
【0081】
これは、例えば炭素繊維の束/シートに含浸させることにより、ホットメルト法を用いてトウプレグと呼ばれる半製品の製造を可能にするために必要とされる特性を有するように適合される。この半製品又はトウプレグは、スプール状であってもよく、続いて容器の製造に使用される。エポキシマトリックスを、殆どの場合フィラメントワインディングにより、ブラダー又はライナーの周囲に付けた後、一般にオーブン又はトンネルオーブン内で重合する。このようにして得られた容器は、現在施行されている規則(406 2010、R134)の基準に従って承認され得る。
【実施例
【0082】
本発明による組成物を調製するプロトコル
Sicomin社から販売されているホットメルト型のSR 1228樹脂は、20℃で113kPa・sの粘度を有する。SicominのSR 1228樹脂は、室温(20℃~25℃)では半固体で非晶質である。したがって、これを使用するためには、50℃前後で加熱する必要がある。
【0083】
樹脂をサーモスタット制御式の反応器に導入した後、Strem Chemicals社から販売されているイオン液体Cyphos(商標) LI 105(トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムジシアンアミド)を、15重量部(phr)の量で添加する(SR 1228樹脂100部につき15部のCyphos(商標) LI 105)。混合物を60℃でおよそ30分間撹拌する。
【0084】
均質化の後、本発明による組成物が得られ、強化繊維の含浸に使用することができる。この工程の間、組成物を最高60℃~80℃の温度で東レ株式会社(商標)のトレカT720炭素繊維トウに連続的に吹き付ける。
【0085】
次いで、組成物(樹脂+イオン液体)を含浸させたトウを半製品又はトウプレグの形態で巻き取り、そのまま冷却することができる。貯蔵は、清潔な乾燥した場所で、遮光し、最高20℃の温度で行うことが望ましい。これらの条件下では、使用するイオン液体に応じて、本発明により、少なくとも2週間、最大4週間超の半製品又はトウプレグの寿命を保証することが可能となる。
【0086】
加熱処理サイクル
上記で調製した組成物の重合に提案される加熱処理サイクルは5時間持続させ、重合工程を100℃で0.5時間、続いて120℃で1.5時間、続いて130℃で2時間持続させる。
【0087】
要約すると、本発明による組成物は、IV型水素容器のためのフィラメントワインディング用途に2週間~4週間以内に使用可能なトウプレグの調製に使用することができる。これらの組成物は、厚い複合材(30mm超)に対して5時間未満の重合時間を提供することにより、加熱処理時間の問題に対処する。加えて、これらの組成物は、水素容器の製造に使用される2つの主要なポリマー材料であるPE(ポリエチレン)及びPA(ポリアミド)のライナーの両方に使用することができる。最後に、これらの組成物は、健康面で好ましくないアミン硬化剤の代わりに使用することができる。
【国際調査報告】