(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】質量スペクトルデータの処理
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20241031BHJP
H01J 49/30 20060101ALI20241031BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20241031BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20241031BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241031BHJP
【FI】
H01J49/00 360
H01J49/30 500
H01J49/00 310
H01J49/02 500
H01J49/06 100
G01N27/62 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529187
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-06-26
(86)【国際出願番号】 EP2022082428
(87)【国際公開番号】W WO2023089102
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518008275
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティトゥート オブ サイエンス アンド テクノロジー(リスト)
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,ハン クアン
(72)【発明者】
【氏名】プレティ,ラサイアウ
(72)【発明者】
【氏名】ブトン,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ワーツ,トム
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA16
(57)【要約】
本発明は、質量スペクトルデータを処理するための方法を提供する。質量スペクトルデータは、例えば、検出器の計数率を増加させるために、MCP焦点面検出器の垂直(Z)方向にわたる領域のイオンビームを走査するための偏向ビームを備えた、質量分析計デバイスを使用して得られたものである。本方法は、様々な偏向電圧が、対応したイオンビームに印加された結果として、焦点面検出器の様々な領域で検出されたイオン計数を、効率的に組み合わせることを可能にする。このようなビームは、やはり焦点面検出器の水平(X)軸に沿った望ましくない偏向を受けるが、本方法は、イオン計数を効率的に再整合すること、及びそれらを正確な質量電荷比で登録すること、を可能にし、組み合わせて得られた質量スペクトルの質量分解能の向上をもたらす。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルの質量スペクトルデータを得るための、データ処理方法であって、
イオン質量電荷比に従って、第1の方向Xに沿った前記サンプルのイオンを運ぶイオンビーム(10)を分散させるため、及び前記第1の方向Xに延び、かつ第1の方向に対して垂直である第2の方向Zに沿った焦点面を画定するための、磁気セクター器具と、前記第2の方向Zに沿って、前記磁気セクター器具を出るイオンビームを偏向させるためのイオンビーム偏向手段(130)と、さらには前記焦点面に沿って配置された、イオン検出手段(110、120)と、を備えた質量分析デバイスを使用して、前記サンプルを分析することによって得られた複数のデータセット(152、252)を、メモリ要素に提供するステップであって、
ここで各データセット(152、252)は、前記第1の方向Xに沿った複数の位置において検出されたイオン計数を表わす、提供するステップ、
各データセット(152、252)について、メモリ要素において前記質量分析計デバイスの較正データを提供するステップであって、前記較正データは、所与のデータセットにおける焦点面の前記主な方向Xに沿った位置を、対応したイオン質量電荷比に関連付ける、提供するステップ、
データ処理手段を使用して、データセットの各位置において検出されたイオン計数を、前記較正データを使用して、対応したイオン質量電荷比に対してマッピングすることによって、前記データセットの各々について、較正されたデータセット(162、262)を生成するステップ、並びに
各イオン質量電荷比について、データ処理手段を使用して、較正された各データセット(162、262)の、マッピングされたイオン計数を組み合わせることで、前記サンプルの蓄積された質量スペクトルデータ(170、270)を生成するステップ、
を含む、データ処理方法。
【請求項2】
複数のデータセット(152)を提供する前記ステップは、
イオン偏向手段(130)の偏向電圧を設定するステップ、
前記磁気セクター器具を出て、前記第1の方向Xに沿って分散されるイオンビーム(10)を、前記イオン検出手段(110、120)に達する前に、前記Z方向に沿って偏向させるステップ、
前記偏向電圧及び/又は計数された前記イオン検出手段の領域と関連付けられた、データセット(152、152’、...)で検出して得られたイオン計数を、集積するステップ、並びに
前記イオン偏向手段の異なる偏向電圧を設定することによって、前の2つの前記ステップを少なくとも1回繰り返すステップ、
を含む、請求項1に記載のデータ処理方法。
【請求項3】
複数のデータセット(252)を提供する前記ステップは、
空のバルクデータセット(250)を初期化するステップ、
前記イオン偏向手段(130)の偏向電圧を設定するステップ、
前記気セクター器具を出て、前記第1の方向Xに沿って分散されるイオンビーム(10)を、前記イオン検出手段(110、120)に達する前に、前記第2の方向Zに沿って偏向させるステップ、
前記バルクデータセット(250)で検出して得られたイオン計数を集積するステップ、
前記イオン偏向手段の様々な偏向電圧を設定することによって、前の2つの前記ステップを少なくとも1回繰り返すステップ、並びに
前記バルクデータセット(250)を所定の数のデータセット数(252、252’,...)に区分けするステップであって、各データセットは、第1の方向Xに沿った前記焦点面にわたる区画で検出された全てのイオン計数を備える、区分けするステップ、
を備える、請求項1に記載のデータ処理方法。
【請求項4】
各区画は、前記焦点面の前記第2の方向Zに沿って所定の高さにわたる、請求項3に記載のデータ処理方法。
【請求項5】
前記様々な偏向電圧は、増加するパターンを追尾し、それによってそれらの連続した印加は、結果として前記イオンビームが前記第2の方向Zに沿って前記焦点面を走査することになる、請求項2又は3に記載のデータ処理方法。
【請求項6】
前記パターンは、1~5kHzの範囲の周波数で繰り返される、請求項5に記載のデータ処理方法。
【請求項7】
前記焦点面の前記第1の方向Xに沿った位置におけるデータセット(152、162)内で検出されたイオン計数は、前記焦点面の前記第2の方向Zに沿って、前記位置で検出された全てのイオン計数を数えることによって得られる、請求項1~6の内いずれか一項に記載のデータ処理方法。
【請求項8】
前記較正データは質量分散係数を備える、請求項1~7の内いずれか一項に記載のデータ処理方法。
【請求項9】
前記質量スペクトルデータにおけるピーク箇所を識別するステップと、ピーク幅及びそれらの相対的位置に基づいて、前記質量スペクトルデータの質量分解を判断するステップと、をさらに含む、請求項1~8の内いずれか一項に記載のデータ処理方法。
【請求項10】
サンプルの質量スペクトルデータを判断するシステムであって、
質量分析計デバイスであって、
イオン質量電荷比に従い第1の方向Xに沿って、前記サンプルのイオンを運ぶイオンビームを分散されるため、及び前記第1の方向Xに延び、かつ前記第1の方向に対して垂直である第2の方向Zに沿った焦点面を画定するための、磁気セクター器具と、
前記焦点面に配置された検出前部を有し、少なくとも1つのマイクロチャネルプレートMCPアセンブリの入口面を備えた、イオン検出手段であって、前記入口面は前記第2の方向Zに沿って延び、前記MCPアセンブリは、その入口面にぶつかるイオンビームを受け取るよう、及び、各ぶつかった荷電粒子のために、その反対側の出口面において、増幅された対応する検出信号を生成するよう、構成される、イオン検出手段と、
少なくとも1つの読み出しアノードであって、前記第1の方向Xに沿った複数の位置において検出されたイオン計数を表わす、少なくとも1つのデータセットで、前記増幅された検出信号を収集するために、前記X及びZ方向に沿って延び、少なくとも1つの前記MCPアセンブリの前記出口面から距離を置いて平行に配置された、少なくとも1つの読み出しアノードと、
前記入口面から距離を置いて、前記磁気セクター器具の下流側に配置され、入射イオンビームを前記第2の方向Zに沿って選択的に偏向させるよう構成された、イオンビーム偏向手段であって、それによって対応した荷電粒子は、前記第2の方向(Z)に沿った前記MCPアセンブリの前記入口面の様々な部分に選択的に達する、イオン偏向手段と、
を含んだ、質量分析計デバイスを備え、
前記イオンビーム偏向手段を制御するための制御デバイスと、前記少なくとも1つの集積されたデータセットに基づいて、請求項1~9の内いずれか一項による方法を実施するよう構成された、データ処理手段と、をさらに備える、システム。
【請求項11】
コンピュータ可読コード手段を備えたコンピュータプログラムであって、コンピュータシステム上で作動するとき、前記コンピュータシステムに、請求項1~9の内いずれか一項に記載の方法を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のコンピュータプログラムが記憶された、コンピュータ可読媒体を備える、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子の検出方法の分野にある。詳細には、本発明は、荷電粒子を検出するための高性能装置を使用して得られた質量スペクトルデータを、処理するための方法に関し、それはとりわけ、二次イオン質量分析法SIMSを含んだ質量分析法に適用される。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、分子又はサンプルを構成する要素を判断するために一般的に使用される、分析技術である。質量分析法は、一般にイオン源、質量分離器、及び検出器を備える。イオン源は、例えばサンプル分子の気相、液相、又は固相を、イオンすなわち帯電した原子又は分子に変換できるデバイスとし得る。いくつかのイオン化技術が、当技術分野でよく知られており、イオン源デバイスの詳細な構造は、本明細書では詳細に説明しない。代替として、質量分析計によって分析されることになるイオンは、その気相、液相、又は固相におけるサンプルと、レーザー、イオンビーム又は電子ビームなどの照射源と、の間の相互作用から生じ得る。イオン放射サンプルは、その場合はイオン源であると考慮される。
【0003】
イオン源で生じるイオンビームは、質量分析器を使用して分析され、それは質量電荷比に従ってイオンを分離、又は分類できる。この比は、一般にm/zと表され、ここでmは、統合された原子質量単位における検査対象の質量であり、zは、イオンによって運ばれた電気素量の数である。非相対性理論における、ローレンツの力の法則及びニュートンの運動の第2の法則は、空間における荷電粒子の運動を特徴付けている。したがって質量分析計は、イオン源から出るイオンを分離するために、様々な公知の組み合わせで電界及び/又は磁界を利用する。特定の質量電荷比を有するイオンは、質量分析器において特定の軌道を辿る。異なる質量電荷比のイオンが異なる軌道を辿るので、検査対象の組成は、観察された軌道に基づいて判断され得る。波動ビームに含まれた様々な波長のスペクトルの生成を可能にする、光学分光計を用いた類推によって、質量分析計は、サンプルに含まれた様々な質量電荷比のスペクトルを生成することを可能にする。
【0004】
セクター器具は、特定のタイプの質量分析器具である。セクター器具は、磁界、又は電界と磁界との組み合わせを使用して、荷電粒子の経路及び/又は速度に影響を及ぼす。一般的に、イオンの軌道は、セクター器具を通して経路を曲げられ、そのため軽くて遅いイオンは、重くて速いイオンよりも偏向される。磁気セクター器具は、一般的に2つのクラスに属する。走査式セクター器具において、磁界は変えられ、それによって単一タイプのイオンのみが、特にチューニングされた磁界において検出可能である。磁界の強度範囲を走査することによって、質量電荷比の範囲を結果的に検出することができる。非走査式磁気セクター器具において、静磁界が利用される。イオンの範囲は、並行かつ同時に検出され得る。公知の非走査式磁気セクター器具は、一般にマッタウフ・ヘルツォーク型(Mattauch-Herzog type)の質量分析計に分類される。
【0005】
マッタウフ・ヘルツォーク型の質量分析計は、静電気セクターESAで構成され、その後磁気セクターによって軌道上で追尾される。静電気セクター及び磁気セクターの配置は、一般に磁気セクターの出口面に沿った広範な質量電荷比m/zを、分散させることを可能にする。全てのイオン質量は、(元のマッタウフ・ヘルツォーク構成における)出口面に位置された焦点面に集束されるか、又は磁気セクターの出口面から離れて位置された焦点面に集束される。公知であるマッタウフ・ヘルツォーク型の質力分析計のほとんどは、最も高い質量分解能のために、二重集束条件(収色性質量フィルタリング)で動作することができる。一般的に、数百から数千からの質量分解能が実現される。
【0006】
この質量分析計の構造における1つの興味深い特徴は、焦点面検出器を理想的に備えた適切な検出システムが装備されている場合に、広範囲の質量スペクトルを同時に捕捉する機能である。焦点面検出器は、一般に1秒の何分の1かの短い取得時間で、全ての質量スペクトルを同時に取得することができる。この同時取得機能は、いくつかの利点を提供する。第1に、測定における100%のデューティーサイクルを実現することができる。この利点は、より良好な検出制限、より短い取得時間、並びに測定に必要な、より小さいサイズのサンプル、をもたらすことができる。なぜなら、全ての質量電荷比(m/z)のピークが、同時に集積されるためである。第2に、全ての質量スペクトルを同時に記録する機能は、連続したパルスイオン化技術の両方の使用を可能にする。特に、レーザーアブレーション/イオン化などの、パルスイオン化技術は、共通してスペクトル信号の急速な変化を導入するので、結果として連続した検出技術は、測定誤差を生じさせることになる。最後に、完全な並行取得機能は、分析前に検出されることになる特定の質量範囲を選択することを必要とするのではなく、データ分析後の可能性及びサンプルの完全な化学的情報のマイニングを明らかにする。
【0007】
質量分析法のための、理想的な焦点面検出器は、単一のイオンを検出するために十分な感度であるべきであり、その一方で、最高のイオンビーム電流を取り扱うために、その単一ピクセルの計数率(局所的計数率)は、108の秒あたり計数cpsより大きくするべきである。実際、105~106cps/mm2よりも大きい局所的計数率が、一般的に必要とされる。さらに、局所的ダイナミックレンジ(検出された信号に対して検出器が直線的に応答する信号レンジとして定義される)も、広範な化学的濃度を正確に測定するために、105~106が必要とされる。
【0008】
従来の検出システムは、少なくとも1つのマイクロチャネルプレートMCPユニットを一般的に備える。一般的なマイクロチャネルプレートMCPは、104~107個の小型電子増倍管で構成され、その一般的な径は、10~100μmの範囲である。各チャネルは、個々の電子倍増管として作用し、それは単一のイオン、電子、原子、分子、又は光子を検出することができる。一般的にMCPは、鉛ガラスなどの高い抵抗性の材料から組み立てられる。MCPの前側及び後側は、金属化電極であり、そこには、電源などの適切な付勢手段を通して、一般的に約1000Vの電圧差が印加される。単一の高エネルギー粒子が、チャネル表面にぶつかったとき、1つ又は複数の二次電子を作り出し、それは印加された電圧によって、MCPチャネルの中に加速される。これらの二次電子の各々は、チャネルの壁に再びぶつかったときに、2つ以上の二次電子を解放することができる。このプロセスはチャネルに沿って段階的に行われる。このように、チャネルにぶつかった単一の高エネルギー粒子は、チャネルに沿った段階的な電子放出を生じさせ、チャネルの出力において少なくとも104個の電子である電子雲をもたらす。MCPの背後に設置されたアノードは、電子的に電子雲を検出して、MCPにぶつかる各単一の事象を登録することができる。MCPアセンブリは、単一のマイクロチャネルプレート、又はその積層アセンブリを備え得る。
【0009】
しかし、従来のMCPベースの焦点面検出器は、いくつかの制限によって困難が生じる。制限された局所的計数率は、高濃度種のために検出信号を飽和状態にする。一般的なMCPは、局所的計数率を103~104cps/mm2に制限する。制限された局所的ダイナミックレンジは、種の弱い検出可能な濃度範囲をもたらす。質量分析法は、一般的に105~106より大きい、広範なダイナミックレンジを必要とする。公知のMCPデバイスの全体的ダイナミックレンジが、107よりも大きくても、可能な局所的ダイナミックレンジは、数百倍から数千倍小さい(103~104)。
【0010】
従来のMCPベースの技術における、上記の2つの制限は、主に、各MCPチャネルが取り扱うことができる最大計数率によって制限される、という事実によるものである。したがって、1つの検出器ピクセルにおける、最大の局所的計数率及び局所的ダイナミックレンジは、このピクセルに関連したMCPチャネルの数に依存する。各MCPチャネルは、一般的に、2つの検出事象間における数ミリ秒のデッドタイムによって特徴付けられ、それによって、MCPチャネルが取り扱うことができる最大計数率は、102cps未満に制限される。MCPチャネルのサイズに依存して、MCPの密度は一般的に103チャネル/mm2から104チャネル/mm2未満である。複数のイオンが同じチャネルでぶつかるのを回避するための統計を考慮すると、単一のMCPの最大計数率は、最大で105cps/mm2以下に制限される。この制限された計数率は、一般的に2つ又は3つのMCPが、総ゲインを向上させるために共に結合される、MCPの積層構造において、さらに悪い。この場合、第1のMCPのチャネルにぶつかった単一粒子は、この単一粒子の検出に関係した、その後のMCPプレートのいくつかのチャネルについて、デッドタイムをもたらす場合がある。したがって、このような公知の構造における、実現可能な最大計数率は、104~105cps/mm2よりも大幅に小さく、局所的ダイナミックレンジは、(3よりも大きい最小の信号対雑音比を考慮すると)104よりも大幅に小さい。
【0011】
このような従来のMCPベースの焦点面検出器を、焦点面検出器の上流側において、荷電粒子ビームの偏向手段を使用することによって向上させることが、提案されている。磁気セクターベースの質量分析計デバイスの状況において、質量分析器から出て、かつそれによってX軸に沿って分散されるイオンビームは、それらそれぞれの質量電荷比に従って、次にビーム偏向器の中の入る。ビーム偏向器は、Xに対して垂直であるZ方向に沿った方向に伝播を変更させ、それによって焦点面検出器における対応したスポットは、このビームによって照射される。理想的には、X軸に沿った任意の位置について、適切で継続的な偏向電圧を使用することによって、対応したイオンビームを、焦点面において垂直方向Zに沿って走査することができる。MCPベースの焦点面検出器は、それによって、Z方向の様々なスポットで継続的に照射されて、Z方向に沿った所与の領域に対応したMCPチャネルの、いかなる飽和状態も回避する。その結果、焦点面検出器の検出されたイオン計数率は増加する。
【0012】
しかし、イオンビームがZ(垂直)方向に沿って偏向されるだけではなく、X(水平)方向に沿った別の偏向も受けることが、観察されている。焦点面検出器において、所与の質量電荷比におけるイオン計数は、このように場合によっては、隣接した質量電荷比を有するイオンビームの計数に干渉する。X方向に沿った別の偏向は、Z軸に沿ってビームを偏向させるために使用する偏向電圧と、考慮された質量電荷比すなわちX軸に沿ったイオンビームの位置と、に依存する。その結果は、焦点面検出器において検出された計数の湾曲したフットプリントであり、一般的にC形状又は三日月形状である。全体的に、所与のイオンビームについて、Z軸に沿った全ての偏向ステップを考慮すると、水平のX方向における対応したイオン計数の広がりは、このように増加される。このように集積された質量スペクトルデータの、従来のデータ処理を使用すると、得られた質量分解能は、Z軸に沿った偏向のないものが使用されることと比較して大幅に低減するが、イオン計数は周期的なMCP飽和状態によって本質的に制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、先行技術の欠点の内少なくともいくつかを克服する、データ処理方法を提示することである。詳細には、本発明の目的は、焦点面検出器の2つの次元に沿ったイオン計数を含んだデータセットに基づいて、高められた質量分解能で質量スペクトルデータを得るための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によると、サンプルの質量スペクトルデータを得るためのデータ処理方法が提案される。本方法は:
-質量電荷比に従って、第1の方向Xに沿った上記のサンプルのイオンを運ぶイオンビームを分散させるため、及び第1の方向Xに延び、かつ第1の方向に対して垂直である第2の方向Zに沿った焦点面を画定するための、磁気セクター器具と、第2の方向Zに沿って、上記の磁気セクター器具を出るイオンビームを偏向させるためのイオンビーム偏向手段と、さらには上記の焦点面に沿って配置された、イオン検出手段と、を備えた質量分析計デバイスを使用して、上記のサンプルを分析することによって得られた複数のデータセットを、メモリ要素に提供するステップであって、各データセットは、第1の方向Xに沿った複数の位置において検出されたイオン計数を表わす、提供するステップ;
-各データセットについて、メモリ要素において質量分析計デバイスの較正データを提供するステップであって、この較正データは、所与のデータセットにおける焦点面の上記の主方向に沿った位置を、対応した質量電荷比に関連付ける、提供するステップ;
-データ処理手段を使用して、データセットの各位置において検出されたイオン計数を、較正データを使用して対応したイオン質量電荷比に対してマッピングすることによって、上記のデータセットの各々について、較正されたデータセットを生成するステップ;並びに
-各イオン質量電荷比について、データ処理手段を使用して、較正された各データセットの、マッピングされたイオン計数を組み合わせることで、上記のサンプルの蓄積された質量スペクトルデータを生成するステップ、
を含む。
【0015】
好ましくは、複数のデータセットを提供するステップは:
-イオン偏向手段の偏向電圧を設定するステップ;
-磁気セクター器具を出て、第1の方向Xに沿って分散されるイオンビームを、イオン検出手段に達する前に、Z方向に沿って偏向させるステップ;
-上記の偏向電圧及び/又は計数されたイオン検出手段の領域と関連付けられた、データセットで検出して得られたイオン計数を、集積するステップ;並びに
-イオン偏向手段の異なる偏向電圧を設定することによって、前の2つのステップを少なくとも1回繰り返すステップ、
を含み得る。
【0016】
複数のデータセットを提供するステップは:
-空のバルクデータセットを初期化するステップ;
-イオン偏向手段の偏向電圧を設定するステップ;
-上記の磁気セクター器具を出て、第1の方向Xに沿って分散されるイオンビームを、イオン検出手段に達する前に、第2の方向Zに沿って偏向させるステップ;
-上記のバルクデータセットで検出して得られたイオン計数を集積するステップ;
-イオン偏向手段の異なる偏向電圧を設定することによって、前の2つのステップを少なくとも1回繰り返すステップ、並びに
-バルクデータセットを所定の数のデータセットに区分けするステップであって、各データセットは、第1の方向Xに沿った焦点面にわたる区画で検出された全てのイオン計数を備える、区分けするステップ、
を好ましくは含み得る。
【0017】
好ましくは、各区画は、焦点面の第2の方向Zに沿って所定の高さにわたり得る。
【0018】
様々な偏向電圧は、好ましくは増加するパターンを追尾し、それによってそれらの連続した印加は、結果として上記のイオンビームが第2の方向Zに沿って焦点面を走査することになる。
【0019】
このパターンは、1~5kHzの範囲、好ましくは1~3kHzの範囲の周波数で、好ましくは繰り返され得る。
【0020】
好ましくは、焦点面の第1の方向Xに沿った位置におけるデータセット内で検出されたイオン計数は、焦点面の第2の方向Zに沿って、上記の位置で検出された全てのイオン計数を数えることによって得られ得る。
【0021】
較正データは、好ましくは質量分散係数を備え得る。
【0022】
本データ処理方法は、上記の質量スペクトルデータにおけるピーク位置を識別するステップと、ピーク幅及びそれらの相対的位置に基づいて、上記の質量スペクトルデータの質量分解を判断するステップと、を好ましくはさらに含む。
【0023】
本発明の別の態様によると、サンプルの質量スペクトルデータを判断するためのシステムが提供される。このシステムは、質量分析計デバイスを含み、それは:
イオン質量電荷比に従って第1の方向Xに沿って、上記のサンプルのイオンを運ぶイオンビームを分散されるため、及び第1の方向Xに延び、かつ第1の方向に対して垂直である第2の方向Zの沿った焦点面を画定するための、磁気セクター器具;
上記の焦点面に配置された検出前部を有し、少なくとも1つのマイクロチャネルプレートMCPアセンブリの入口面を備えた、イオン検出手段であって、この入口面は第2の方向Zに沿って延び、MCPアセンブリは、その入口面にぶつかるイオンビームを受け取るよう、及び、各ぶつかる荷電粒子のために、その反対側の出口面において、対応した増幅された検出信号を生成するよう、構成された、イオン検出手段;
少なくとも1つの読み出しアノードであって、第1の方向Xに沿った複数の位置において検出されたイオン計数を表わす、少なくとも1つのデータセットで、上記の増幅された検出信号を収集するために、X及びZ方向に沿って延び、上記の少なくとも1つのMCPアセンブリにおける出口面から距離を置いて平行に配置された、少なくとも1つの読み出しアノード;並びに
上記の入口面から距離を置いて、磁気セクター器具の下流側に配置され、入射イオンビームを第2の方向Zに沿って選択的に偏向させるよう構成された、イオンビーム偏向手段であって、それによって対応した荷電粒子は、第2の方向(Z)に沿ったMCPアセンブリの入口面の様々な部分に選択的に達する、イオンビーム偏向手段、
を備え、
本システムは、上記のイオンビーム偏向手段を制御するための制御デバイスと、少なくとも1つの収集されたデータセットにおいて、本発明の態様に従った方法を実施するよう構成されたデータ処理手段と、をさらに備える。
【0024】
本発明の別の態様によると、コンピュータシステム上で作動するとき、このコンピュータシステムに本発明の態様に従った方法を実施させる、コンピュータ可読コード手段を備えた、コンピュータプログラムが提供される。
【0025】
本発明の最後の態様によると、本発明の態様によるコンピュータに記憶されたコンピュータ可読媒体を備えた、コンピュータプログラム製品が提供される。
【0026】
提案する本発明は、質量スペクトルデータを処理するための方法を提供する。この質量スペクトルデータは、例えば、検出器の計数率を増加させるために、MCP焦点面検出器の垂直(Z)方向にわたる領域の、イオンビームを走査するための偏向ビームを備えた、質量分析計デバイスを使用して得られたものである。本方法は、様々な偏向電圧が、対応したイオンビームに印加された結果として、焦点面検出器の様々な領域で検出されたイオン計数を、効率的に組み合わせることを可能にする。このようなビームは、やはり焦点面検出器の水平(X)軸に沿った望ましくない偏向を受けるが、本方法は、イオン計数を効率的に再整合すること、及びそれらを正確な質量電荷比で登録すること、を可能にし、組み合わせて得られた混合質量スペクトルの質量分解能の向上をもたらす。ビーム偏向器を使用して、検出されたイオン計数を増加させる検出デバイスの利点は、得られた質量分解能を犠牲にすることなく、このように実現される。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態は、図面によって例示されるが、それらは本発明の範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明による方法の好ましい実施形態における、主なステップを示すワークフローである。
【
図2】質量スペクトルデータセットを得るためにデバイスで使用される検出器を例示する図である。
【
図3】ビーム偏向手段を含んだ、質量スペクトルデータセットを得るためのデバイスで使用される検出器の、側面切断図である。
【
図4】質量スペクトルデータセットを得るためのデバイスで使用される制御手段を例示する図である。
【
図5a】公知のデータ処理方法を使用して得られた、質量スペクトルデータ及び結果を示す図である。
【
図5b】公知のデータ処理方法を使用して得られた、質量スペクトルデータ及び結果を示す図である。
【
図5c】公知のデータ処理方法を使用して得られた、質量スペクトルデータ及び結果を示す図である。
【
図5d】公知のデータ処理方法を使用して得られた、質量スペクトルデータ及び結果を示す図である。
【
図5e】公知のデータ処理方法を使用して得られた、質量スペクトルデータ及び結果を示す図である。
【
図5f】公知のデータ処理方法を使用して得られた、質量スペクトルデータ及び結果を示す図である。
【
図5g】公知のデータ処理方法を使用して得られた、質量スペクトルデータ及び結果を示す図である。
【
図5h】公知のデータ処理方法を使用して得られた、質量スペクトルデータ及び結果を示す図である。
【
図6】本発明による方法の好ましい実施形態のワークフローを示す図である。
【
図7a】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図7b】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図7c】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図7d】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図7e】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図7f】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図8a】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図8b】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図8c】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図9】本発明による方法の好ましい実施形態のワークフローを示す図である。
【
図10a】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図10b】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図10c】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図10d】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図10e】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【
図10f】本発明による方法の好ましい実施形態を使用して得られた、質量スペクトルデータセット及び結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本セクションは、好ましい実施形態及び図面に基づいて、さらに詳細に本発明の特徴を説明する。本発明は、説明する実施形態に限定されない。別様に記載しない限り、特定の実施形態に関連して説明する特徴は、説明する他の実施形態における追加の特徴と組み合わされ得る。
【0030】
本説明は、本発明の理解に関連した態様に焦点を当てる。質量スペクトルデータを得るためのデバイスが、例えば適切に寸法が決められた電源、又は装置の様々な要素をそれぞれ必要な位置に保持するための機械式ホルダなど、それらの機能が明確に言及されなくとも、他の一般的に知られた態様も備えることは、当業者には明白であろう。
【0031】
図1は、本発明の好ましい実施形態による、サンプルの質量スペクトルデータを得るための、データ処理方法の主なステップを例示する。
【0032】
第1のステップ01において、複数のデータセットがメモリ要素に提供される。これらのデータセットは、イオン質量電荷比に従い第1の方向Xに沿って、サンプルのイオンを運ぶイオンビームを分散させるための磁気セクター器具を備えた、質量分析計デバイスを使用して、上記のサンプルを分析することによって得られている。磁気セクター器具は、第1の方向Xに延び、かつ第1の方向に対して垂直である第2の方向Zに沿った焦点面を、その出口面から離して画定する。質量分析計デバイスは、上記の磁気セクター器具を出るイオンビームを第2の方向Zに沿って偏向させるための、イオンビーム偏向手段をさらに備え、かつ上記の焦点面に沿って配置されたイオン検出手段をさらに備える。メモリ要素に提供されたデータセットの各々は、第1の方向Xに沿った複数の位置で検出されたイオン計数を、しかし場合によっては第2の方向Zに沿ったさまざまな領域スライスにおいて検出されたイオン計数を、表わす。
【0033】
ステップ02において、メモリ要素において質量分析計デバイスの較正データが提供され、この較正データは、所与のデータセットにおける焦点面の上記の主方向に沿った位置を、対応したイオン質量電荷比に関連付ける。較正データは、第2の方向Zに沿った領域スライスに依存し得る。それによって方向Xに沿った所与の位置について、複数の較正データが、Z次元の位置又は他のパラメータに依存して、提供され得る。
【0034】
ステップ03において、較正データセットは、上記のメモリ要素に対して読み取りアクセスを有するデータ処理手段によって、生成される。提供されたデータセットの各々について、データセットにおける各位置で検出されたイオン計数は、対応した較正データを使用して、対応したイオン質量電荷比にマッピングされるか、又は関連付けられる。
【0035】
ステップ04において、各イオン質量電荷比について、データ処理手段を使用して、各較正データセットの、マッピングされたイオン計数を、例えばそれらを合計することによって組み合わせることで、上記のサンプルの蓄積された質量スペクトルデータを生成する。
【0036】
特定のデータ取得設定に限定されることなく、提案されたデータ処理方法に対する入力として使用されるデータセットは、例として、
図2及び
図3に概略で例示されるような設定を使用して、取得され得る。
【0037】
図2は、荷電粒子ビーム10を例示する。非限定例によると、このビームは、質量分析計の磁気濾過セクターを出たイオンビームに相当し得る。イオンビームは、記号Xで表される方向で一般的に質量分析計の焦点面に沿って延びた、荷電粒子検出器110にぶつかる。この検出器の前部112は、マイクロチャネルプレートMCPアセンブリのチャネルにおける入口面で構成される。これらのチャネルは、検出されたイオンを増幅するために使用され、これらのイオンはチャネルを貫通して、対応した出口面114で生成される測定可能な検出信号の中に入る。公知のMCPベースの検出器において、イオンビーム10(実線)は常に、X方向に対して垂直方向であるZ方向に沿った同じスポット12で検出器110にぶつかる。X方向に沿った1Dピクセルサイズは、垂直方向Zの検出器の有効幅に依存しない。Z方向の有効幅が広いほど、1Dピクセルに潜在的に包含されたチャネルの数は多くなる。磁気セクターの質量分析計器具における一般的なイオンビームは、X方向に数百μm、Z方向に数千μm(通常は2000μm未満)の小さいサイズのスポットに、良好に集束される。このようにビームは、一般的にZ方向における検出器の有効幅の一部のみにぶつかり、イオンビームの検出に関わる、各1Dピクセルの増幅するチャネルにおける限定された実際の数となる。
【0038】
イオンビーム10、10’、10’’が、例示されるようにMCPの有効幅内でZ方向(
図1における破線を参照)に沿って走査された場合、イオンビームの検出に関する実際のMCPチャネルの合計数は大幅に増加され、それによって検出可能な最大局所的計数率及びダイナミックレンジは大幅に改善され、その一方で同じ検出器のX方向における1D分解を保持する。スポット12、12’、12’’は、異なる時間に検出器の前面114の異なる部分に照射するので、この検出プロセスに関連したZ方向(垂直)におけるMCPの総計の有効幅は、20mmよりも広く拡張することができ、以前から知られている検出器と比較して少なくとも1桁分大きくなる。これは、イオンビームがMCPアセンブリの前面114で走査されない事例と比較して、1桁分よりも大きく局所的計数率及びダイナミックレンジを改善するのに役立つ。この走査機構は、複数のイオンが同じチャネルにぶつかる可能性を、さらに低減させるためにも役立ち、それによってMCP検出器アセンブリの検出効率をさらに向上させる。しかし、Z方向に沿ってビームを偏向させるために使用される手段における電気のフリンジ場のため、及び偏向手段が延びる主な方向におけるビーム間の考えられる傾斜角のため、イオンビームはZ(垂直)方向に沿ってのみ検出されるのではなく、X(水平)方向に沿った望ましくない別の偏向も受ける。焦点面検出器110において、所与の質量電荷比におけるイオン計数は、このように場合によっては、隣接した質量電荷比を有するイオンビームの計数に干渉する。X方向に沿った別の偏向は、Z軸に沿ってビームを偏向させるために使用される偏向電圧と、考慮される質量電荷比すなわちX軸に沿ったイオンビームの位置と、に依存する。その結果は、焦点面検出器において検出された計数の湾曲したフットプリント12、12’、12’’であり、一般的にC形状又は三日月形状を示す。
【0039】
図3は、本発明によって要求されるデータセットを得るために有用な、検出装置100の概略側面切断図を提供する。検出装置100は、開口部又は入口102を備え、それを通して、イオン又はクラスターイオンなどの荷電粒子を運ぶビーム10が、この装置に入ることができる。ビームは、例えばイオンビームであってもよく、それは磁気セクター器具を使用して濾過されている。例示される例において、入射する荷電粒子ビーム10は、Y方向に沿って入口に向けて移動する。ビーム偏向手段130は、この入口の下流側に配置される。このビーム偏向手段は、偏向プレート、ブラッドベリー・ニールセンのゲート型(Bradbury-Nielsen Gate type)デバイス、又は荷電粒子ビームの方向に選択的に作用するための、当技術分野で公知の他のユニット、を備え得る。制御ユニット140によって制御された、偏向の選択された大きさに依存して、偏向手段を横断する荷電粒子ビーム10は、その当初の伝搬方向Yに対して、対応した偏向角θだけ偏向される。偏向角度は、一般的に、荷電粒子ビームが偏向手段130を横断しながら展開する電磁界の、強度に応じる。一旦、電荷ビーム10が偏向手段を出ると、その逸らされた軌道を直線で継続し、全ての装置は、例示しない真空筐体に包含される。偏向手段130のさらに下流側に、マイクロチャネルプレートMCPアセンブリ110が配置される。MCPアセンブリは、荷電粒子ビームを受け取るための検出前部112を形成した、複数のマイクロチャネルを備える。偏向角度θに依存して、ビームによって生成された検出前部112のスポットは、Z方向に沿って様々なセットのチャネル12を照射する。チャネルに入る荷電粒子の各々について、増幅された対応する電気信号が、検出器の出口面114に生成される。これらの検出信号は、MCPアセンブリの出口面114から離され、かつ並行に配置された、少なくとも1つの読み出しアノード120によって集積される。読み出しアノード120は、動作可能に、例示されていないデータ処理手段に連結され、かつ理想的には制御ユニット140によっても集積される。データ処理手段は、読み出しアノードによって提供された検出計数を、好ましくはアノードにおける、及び/若しくは検出前部における、それらのそれぞれの検出箇所と共に、任意選択で、対応した計数が検出されたときに、メモリ要素で使用される偏向電圧又は偏向角度と共に、記憶するよう、並びに/又は記録されたデータをさらに処理するよう、構成される。
【0040】
図4は、制御ユニット140の概略例示を提供し、それは例として、検出器アセンブリ110、120の電圧を制御するため、及びアセンブリから信号レートを得るため、に使用され得る。低電力で高電圧の演算増幅器は、1Hz~10kHzの範囲の走査レートで、イオン偏向器130の電圧を走査する。好ましくは周期的な鋸歯状信号である走査信号は、ステップ電圧における複数の走査の組み合わせから構成される。電圧ステップ数は、イオンビームのサイズと、検出器の垂直軸におけるイオンビームの必要な偏向長さと、に依存する。電圧ステップ数は、実験的に得られてもよく、特定の各設定のパラメータに依存する。単純な場合、必要な偏向長さと、垂直軸に沿った平均ビームサイズとの比率は、電圧差のステップ数を提供し、ZとXとの間の関係は、電圧ステップのリストを提供する。好ましい実施形態において、検出前部における20mmの必要な偏向長さと、-1200~1200Vの範囲にわたる偏向プレート間の偏向電位(好ましくは、各偏向プレートに対して0~±600Vの、同じ公称値の反対符号の電圧を印加することによって実施される)について、好ましい電圧ステップ数は11であり、概ね120Vのステップ幅を伴う。一般的に、最新式のMCP検出器について、チャネルのデッドタイム(無反応時間)は、約10~20msである。これは、イオンが単一のMCPのチャネルにぶつかった場合、イオンは電子のカスケード接続を開始し、チャネルの表面は、電子電荷が補給されるまで電子が無いことを意味する。この期間におけるぶつかりは、いかなる電子のカスケード接続も生成せず、したがってこのぶつかりは、検出器によって検出されない。
【0041】
このように、チャネルのデッドタイムの間に、いかなるぶつかりも回避するために、サイクルの走査期間を、約10~20msに固定することができる。この場合、走査周波数は約50~100Hzであり、これは単一のチャネルのための、概ねの値である。実際、イオンビームは、100から1000までの範囲の、大グループのチャネルを網羅し、したがってチャネルの有効デッドタイムは、10-4~10-5秒の範囲にある。イオンビームの統計を考慮することによって、すなわち大きいフラックスが配分の中央にあることを考慮することによって、飽和状態のチャネルの数は、イオンビームごとに10~100であり、したがってデッドタイムは10-3~10-4秒の範囲である。これに関連して、偏向電圧ステップに印加される走査周波数は、100Hzよりも大きく、好ましくは少なくとも1kHzとするべきである。より大きい(1kHzより大きい)信号レートは、検出器の向上した信号計数レートを実現するために望ましい。測定が始まると、走査ボードは、走査信号を高電圧増幅器に送り、走査信号の開始は、時間からデジタルへの変換器TDCの開始トリガと同期する。各時間でステップ電圧は変化し、パルスは第2のラインでTDCに移り、内部計数を増加させる。取得中、パーソナルコンピュータPCによって例示されるデータ処理手段は、TDCからデータを集積する。生データは、「x位置、y位置、電圧ステップ数、及び走査の反復」のフォーマットを有する。イオン計数事象の、二次元位置情報は、このように得られ、関連の走査反復及び電圧ステップ数を共に伴い、そこから完全な偏向電圧が導出され得る。
【0042】
複数回の走査後、様々なステップ電圧において各質量スペクトル(1Dヒストグラム)の統合時間が存在し、全ての質量スペクトルを組み合わせ得る。
【0043】
図5は、質量分析計の焦点面で検出された全てのイオンの位置情報を示す。偏向手段の0Vの事例(偏向なし)について、
図5aは、全てのイオンの位置座標を示す。
図5bは、基準質量28amuの位置情報を示し、
図5cは、強度計数対水平位置(r)の、対応したヒストグラムを示す。走査された偏向器の、-1200~1200Vの範囲における電位差の事例について、
図5dは、イオンの位置座標を示し、三日月形状と、質量電荷比に従ったフットプリントと、を呈する。
図5eは、基準質量28amuの位置情報を示し、
図5fは、対応したヒストグラムを示す。
図5gにおいて、0Vの事例で導出された質量スペクトルと走査電位の事例とが比較で示され、電圧走査の無い固有スペクトルと、本発明に従って組み合わされたスペクトルとが示され、後者は見やすくするために、410計数だけオフセットされている。
図5gに示されたスペクトルから抽出された質量分解能の間の比較は、
図5hに示される。
【0044】
焦点面におけるイオンの空間分布は、イオン計数が検出されたときにビーム偏向器に印加された電位差に関係なく、単一のプロファイル(スペクトル)として考慮される。これは、隣接した質量電荷比を有する荷電粒子の空間分布の観点から、干渉をもたらす。なぜなら検出器におけるそれらのフットプリントは、水平方向に広がるためである(
図5eと
図5bを比較されたい)。この種の干渉は、質量分析計の質量分解に、大いに影響する。磁気セクターの質量分析計から得られたデータの、従来の処理において、このように得られたデータからの、イオンビームのピーク幅及びピークの位置は、位置情報を質量スケールの中に変換するため、及び質量分析計の質量分解能を導出するため、に不可欠である。このように得られた、0Vの事例におけるイオンについての位置情報、並びに走査電位差が-1200~1200Vであることは、それぞれ
図5a~
図5c、及び
図5d~
図5fに示される。2つの事例(上部は蓄積されたスペクトルの走査事例、及び下部は0Vの事例)について、導出された質量スペクトルは
図5gに示される。走査電圧事例において、0Vの事例と比較して、ピーク幅は、m/z値の増加を伴って増加する。例えば、28amu/eの基準について、位置情報は散在して示され、ヒストグラムは
図5b~
図5c、及び
図5e~
図5fにそれぞれ位置を示す。これらの図から、走査電圧の事例におけるピーク(イオンビーム)の幅は、0Vの事例におけるものよりも大幅に大きいことが明白となる。
図5hにおける、0Vの事例と比較すると、走査電圧の事例における、m/zを伴う劣化した質量分解能は、増加したm/zを伴う増加したピーク幅に関連付けられる。質量分解能は、0Vの事例で観察されたように、m/zの増加に伴って増加するが、走査電圧の事例における反対の傾向は、このように得られた質量スペクトルに対する従来の取り組みが、不十分な質量分解能をもたらすことを表わす。さらに、スペクトルのピークを取り上げるために使用される、ピークを見つけるアルゴリズムは、より多くの誤ったピークを取り上げ得る。なぜなら、かなりの高さを伴う局所的ピークのセットが、
図5fで確認されるように存在する場合があるためである。
【0045】
図6は、好ましい実施形態によるデータ処理方法を概説し、それは、類似の入力データセットを使用して、これらの欠点を回避することを目的とする。事前に説明し、かつ
図1に例示した、本方法のステップ01を参照すると、質量スペクトルデータ150は、複数のデータセット152に提供される。それらは、偏向手段を使用して、検出前部に沿ってイオンビームが走査されたときに得られたものである。検出して得られたイオン計数は、データセット152に記録され、それは使用された偏向電位差、及び/又は計数されたイオン検出手段の領域、と関連付けられる。ステップ02において、このように生成された各データセットについて、較正データが提供される。ステップ03において、各データセット152のイオン計数は、それぞれ関連した較正データを使用して、それぞれの質量荷電比に対して登録され、その一方でステップ04において、全てのデータセット162の、較正されて得られたデータ160は、蓄積された質量スペクトルデータ170を生成するために組み合わされる。任意選択で、質量スペクトルにおけるピーク及びそれらの特性が識別され得る。そして対応した質量分解能を、検出されたピークに基づいて判断することができる。
【0046】
検出された各イオンの位置情報についての走査電圧値(X軸に沿ったr、Z、V)は、各データセットに記録される。このように、各データセット152又は偏向/走査電圧は、質量分析計デバイスの焦点面で、合計の記録されたデータ150のセグメント又は区画を画定する。
【0047】
走査電圧を伴う、質量分析計の焦点面におけるイオンの位置情報は、
図7aに示される。偏向手段の電圧差が、-1200から1200Vまで変化する場合、イオンは焦点面検出器の上部から、偏向器の下部まで偏向される。ここで、得られた全てのデータ150は、偏向電圧ごとに1つのデータセット152によって構成される。湾曲したプロファイルがZ方向に対称であるとき、+V及び-Vに対応したイオン位置は共に混合され得る。セグメントは±Vを伴って分類される。各々のセグメントからの位置情報は、事例のヒストグラムの中に変換され、
図7bに示される。既知のm/z値及びピーク位置を用いて、各ヒストグラムの位置スケールは、対応した較正データを使用してm/zスケールの中に変換され、それによって各電圧セグメントの質量スペクトル162、すなわち各データセット±Vは、全てのデータ160が較正されるまで生成される。0Vから±Vまで増加するピークからピークの電圧ステップを伴い、質量スペクトル162は、0Vのスペクトルのm/zスケールを考慮することによって漸進的に重ね合わされ、±1200Vの電圧差までの単一の質量スペクトル170を得る(
図7c参照)。これは、偏向器の電圧に対する、質量分解能(性能指数FOM要因)と信号強化要因SEFとの間のトレードオフ曲線を導出することを可能にする。0Vの事例に対する、導出されたSEF要因及びFOM要因が、
図7dに示される。SEFは、検出器の電圧を伴って増加し、その一方でFOM要因は、想定通り減少する。±1200Vの事例のFOMは、0Vの事例と比較すると約75%であり、その一方で信号強化要因は、0Vの事例と比較して、12倍大きい。例示されないシミュレーションの動作において、偏向のない事例と比較して約80~90%のFOMが観察された。このように、質量分解能は、提案されたデータ処理と共に提案されたビーム走査技術を使用することによって、大きな影響を受けない。0Vに対応した質量スペクトル、及び走査電圧の組み合わされたデータセットが
図7eに示され、電圧走査のない固有スペクトル、及び本発明によって組み合わされたスペクトルが示され、後者は見やすくするために410計数だけオフセットされている。増加するm/zを伴う、MSの対応した質量分解能が、
図7fに示される。全ての質量において、組み合わされたスペクトルからの質量分解能は、0Vの事例の75%以内で観察される。偏向器の増加する電圧を伴うイオンの、残りの水平方向における偏向の結果、劣化は、組み合わされたスペクトルの増加されたピーク幅を原因とすることができる。イオンの光軸が偏向器の中間にないときか、又は偏向器プレートの任意の不整合があるときか、で想定され得るイオンの偏向が、y方向に対称ではない場合、そのときヒストグラムの導出から質量スペクトルの重ね合わせまでのステップを、個々の電位差に基づいて、又は同等に個々のデータセットに基づいて、すなわち0から±Vまでの代わりに-1200から+1200までにおいて、実施することができる。
【0048】
図8a~
図8cは、本方法の別の例示を提供する。
図8aは、様々な走査電圧(偏向器のプレートと、同じ値の反対の極性に付勢された偏向器のプレートと、における電圧)について、強度対チャネル数のスペクトルを示し、これはステップ01において初めに提供された複数のデータセット152、152’、...に相当する。
図8bは、
図8aのスペクトルに対応した質量スペクトルを示し、これはステップ03における較正データセット162、162’、...に相当する。
図8cは、単一の質量スペクトル170を示し、それは本発明による本方法のステップ04の後に提供された、
図8bで示されたスペクトルを組み合わせることによって導出されたものである。以下のアルゴリズムは、この実施形態による方法を実施するために使用され得る。
【0049】
入力:走査電位差を伴う、質量分析計の焦点面におけるイオンの位置情報(r、Z、V)。
【0050】
ステップ1:偏向器の走査電位差に基づいて、データをサブデータに分割する。
【0051】
ステップ2:各サブデータセットの位置情報を、位置対計数のヒストグラムに変換する。
【0052】
ステップ3:質量スペクトルを、各セクションについて位置対計数のヒストグラムから導出する。
-質量分散係数(d=a√m+bの関連におけるa及びb)を備えた較正データを、質量較正データベースからロードする。
-位置対計数のヒストグラムを、質量対計数のヒストグラム(質量スペクトル)に変換する。
【0053】
ステップ4:質量電荷比m/z値に基づいて、-Vから+Vのセグメントから開始して、質量スペクトルを漸進的に重ね合わせる。
-セクションを、セクション数のリストにおける第2の値に設定する。
-セクション0のm/z値を、基準m/z値として設定する。
セクション≦セクション数のリストにおける最大値である場合、以下を行なう。
前のセクションからのデータを現在のセクションのデータに付け加える。
この付け加えられたデータを、m/zスケールに基づいて分類する。
質量値を、基準m/z値の第2の値に設定する。
質量≦基準m/z値の最大値である場合、以下を行なう。
イオン計数を濾過する。ここでそれらのm/z値は、前の質量と現在の質量との間にある。
濾過したイオン計数を合計し、この合計を現在の質量に結合させる。
基準m/z値における次の質量値に移動する。
END WHILE
セクション数のリストにおける次のセクション値に移動する。
END WHILE
-これは、m/z対計数の単一の質量スペクトルをもたらす。
【0054】
ステップ5(任意選択):質量スペクトルのピーク、及びピークの特性を見つける。
-ベースライン補正アルゴリズムを使用して、目立ったバックグラウンド信号を除去する。
-データ円滑化を実施して、ノイズを低減させ、したがって誤ったピークの数を低減させる。
-ピークを見つけるアルゴリズムを使用して、質量スペクトルのピーク(ピークの箇所)を識別する。
【0055】
ステップ6(任意選択):ローレンツ/ガウス分布に適合させることによって、ピークの特性を導出する。
【0056】
ステップ7(任意選択):m/Δmの関係を用いて、ピーク幅及び位置を使用して質量分解を導出する。
【0057】
出力:質量スペクトル及び質量分解能
【0058】
追加として、以下の方法は必要な較正データを集めるために使用され得る:
・標準サンプルを使用して、検出器面における分散したイオンのヒストグラムを得る。
・偏向器の電圧に基づいた各セグメントについて:
ピーク、及びサンプルの既知の構成要素(m)に対するピークの位置(d)を識別する。
質量分散係数(質量分散関係d=a√m+bからのa及びb)を抽出する。
値(a、b、m、d、及びV)を、データベースなどの構成されたメモリ要素に較正データとしてセーブする。
・実験の様々なパレメータを変えることで測定を繰り返す。
質量分散係数の抽出。
パラメータと質量分散係数との間の関係を導出する。
パラメータに応じた、全ての関連の係数をセーブする。
【0059】
図9は、好ましい実施形態によるデータ処理方法を概説し、それは、前に言及した欠点を回避することも目的とする。事前に説明し、かつ
図1に例示した、本方法のステップ01を参照すると、質量スペクトルデータは、複数のデータセット252に提供され、それらは、バルクデータセット250から得られたものである。バルクデータセット250は、全て後で使用される偏向電圧又は偏向ステップのための集められた、検出されたイオン計数の全ての総計の位置情報を備える。バルクデータセット250は、各々がデータセット252を形成する2n+1の水平方向スライスに分配されるか、又は同等に分配される。ステップ02において、このように生成された各データセット252について、較正データが提供される。ステップ03において、各データセット252におけるイオン計数は、それらそれぞれの関連した較正データを使用して、それぞれの質量電荷比に登録され、それは較正データセット262をもたらす。ステップ04において、全てのデータセット262の較正データ260は組み合わされて、蓄積された質量スペクトルデータ270を生成する。任意選択で、質量スペクトルにおけるピーク及びそれらの特性が識別され得る。そして対応した質量分解能を、検出されたピークに基づいて判断することができる。
【0060】
バルク記録データ250は、セクション又は区画幅ΔYが1mmと等しい基準m/zの最小値から開始して最大値Zまで、2n+1の区画252に分けられ得る(
図10a参照)。
【0061】
-1200Vから1200Vまでの範囲における電位差の走査にわたって集積された、データのサブセクションの概略が、
図10aに示される。必要な偏向長さが20mm、セクション幅が1mmであるとき、位置情報は21のセクションに分割される。イオンビームのプロファイルにおいて、y方向に沿って対称であるので、1対の対称セクションは、単一のセクションに組み合わされ、中央セクションは0セクションとして示され、そのため合計11のセクションが存在する。好ましくは、セクションの数は11~15となり得る。各セクションからの位置情報は、計数のヒストグラムに変換され、
図10bに示される。既知の質量電荷比m/zの値及びピーク位置を用いて、位置スケールは、提供された較正データを使用して質量電荷比(m/z)に変換され、したがって同じコンセプトを参照する各データセット、セクション又は区画について、質量スペクトルに変換される。セクション数が0から±nまで増加したとき、質量スペクトルは、セクション0のm/zスケールを基準として考慮して、組み合わされた質量スペクトルを得るために、漸進的に重ね合わされる(
図10c参照)。これは、信号強化要因SEFの依存性と、ナンバーセクションにおける全てのm/zピーク(性能指数FOM)の合計質量分解と、を導出するために役立つ。0Vの事例に対する、導出されたSEF要因及びFOM要因が、
図10dに示される。SEFは、セクション数を伴って増加し、その一方でFOM要因は減少する。FOM要因の減少は、質量電荷比m/zの増加を伴うピークのピーク幅における増加に関連付けられる(組み合わされたセクションの事例について、
図10e参照)。
図10eにおいて、電圧走査のない固有スペクトル、及び本発明による組み合わされたスペクトルが示され、後者は見やすいように410計数だけオフセットされている。質量分析計の質量分解は、0Vの事例と比較して、2倍まで劣化しているように見える(
図10f参照)。それでもこの処置は、従来の取り組みと比較して、より良好な質量分解能を提供する。以下のアルゴリズムは、この実施形態による方法を実施するために使用され得る。
【0062】
入力:質量分析計の焦点面におけるイオンの位置情報(r、Z)、セクション幅(ΔZ)、及び必要なセクションの数(2n+1)。
【0063】
ステップ1:Z値及びセクション幅(ΔZ)に基づいて、バルクデータを2n+1のセクションに分割する。
【0064】
ステップ2:各セクションの位置情報を、位置対計数のヒストグラムに変換する。
【0065】
ステップ3:各セクションについて、位置及び計数のヒストグラムから質量スペクトルを導出する。
-質量分散係数(d=a√m+bの関係におけるa及びb)を、質量較正データベースからロードする。
-質量分散の関係及び係数を使用して、イオンの位置(チャネル)を対応したm/z値に変換する。これは、m/z対計数のスペクトルをもたらす。
【0066】
ステップ4:m/z値に基づいて、第1のセクションから開始して最後のセクションまで、質量スペクトルを漸進的に重ね合わせる。
-セクションを、セクション数のリストにおける第2の値に設定する。
-セクション0のm/z値を、基準m/z値として設定する。
セクション≦セクション数のリストにおける最大値である場合、以下を行なう。
前のセクションからのデータを現在のセクションのデータに付け加える。
この付け加えられたデータを、m/zスケールに基づいて分類する。
質量値を、基準m/z値の第2の値に設定する。
質量≦基準m/z値の最大値である場合、以下を行なう。
イオン計数を濾過する。ここでそれらのm/z値は、前の質量と現在の質量との間にある。
濾過したイオン計数を合計し、この合計を現在の質量に結合する。
基準m/z値における次の質量値に移動する。
END WHILE
セクション数のリストにおける次のセクション値に移動する。
END WHILE
-これは、m/z対計数を伴う単一の質量スペクトルをもたらす。
【0067】
ステップ5(任意選択):質量スペクトルのピーク及びピークの特性を見つける。
-ベースライン補正アルゴリズムを使用して、目立ったバックグラウンド信号をスペクトルから除去する。
-データ円滑化を実施して、ノイズを低減させ、したがって誤ったピークの数を低減させる。
-ピークを見つけるアルゴリズムを使用して、質量スペクトルのピーク(ピークの箇所)を識別する。
【0068】
ステップ6(任意選択):ピークの特性を、ローレンツ/ガウス分布に適合させることによって、ピークの特性を導出する。
【0069】
ステップ7(任意選択):m/Δmの関係を用いて、ピーク幅及び位置を使用して質量分解を導出する。
【0070】
出力:質量スペクトル及び質量分解能。
【0071】
追加として、以下の方法は必要な較正データを集めるために使用され得る:
・標準サンプルを使用して、検出器面における分散したイオンのヒストグラムを得る。
・セグメント/セクション数に基づいた各セグメントについて:
ピーク、及びサンプルの既知の構成要素(m)に対するピークの位置(d)を識別する。
質量分散係数(d=a√m+bにおける質量分散関係からのa及びb)を抽出する。
値(セクション数及びセクションの垂直箇所)を、データベースなどの構成されたメモリ要素に較正データとしてセーブする。
・実験の様々なパレメータを変えることで測定を繰り返す。
質量分散係数の抽出。
パラメータと質量分散係数との間の関係を導出する。
【0072】
パラメータに応じた、全ての関連の係数をセーブする。
【0073】
全ての実施形態において、データセットは任意選択で予め処理され得る。
【0074】
[ベースラインの補正]
より大きいダイナミックレンジを実現するために実施される、MCP検出器の高ゲイン領域における測定は、読み出しエレクトロニクスに関連付けられたノイズによって影響を受けることが多い。ヒストグラムから歪みを除去するために、単純なベースライン処置が使用され得るが、本発明はこの処置に限定されない。この処置において、イオン計数データは、数個のチャネルのセグメント幅を用いて小さいセグメントに分けられ、セグメントにおける全てのチャネルの最低強度が、そのセグメントのベースラインポイントとして選択されることになる。類似の方法で、全てのセグメントのベースラインポイントは、ヒストグラム(スペクトル)のベースラインを提供する。誤ったベースラインポイントを回避するために、セグメントの幅は、スペクトルのピークの想定される合計幅の2倍で選択される。例えば、セグメント幅は26チャネルとして選択され得る。
【0075】
[データの円滑化]
信号に関連付けられた高周波ノイズを低減させるために、サビツキー・ゴーレイ(Savitzky・Golay:SG)濾過器が使用され得る。そこで円滑化は、ウィンドウが信号データの全てのポイントに沿って移動する際に、多項式を特定のデータポイントにおけるフィルターウィンドウ(w)に適合させることによって、実施されることになる。別のフーリエ変換が使用されて、信号に関連付けられた高周波ノイズを低減させ得る。フーリエ変換は、入力信号を別の周波数に起因する成分に分解する。スペクトルのピークは、低周波数範囲にある傾向があり、その一方でノイズ成分は高周波数範囲にある傾向がある。高周波数成分を除去するために、遮断周波数が、データポイントの数(チャネル数)と、スペクトルのピークの最小幅との比率として定義される。遮断周波数未満の周波数における逆フーリエ変換は、低減されたノイズを伴うスペクトルを提供し、その一方で遮断周波数よりも高い周波数における逆フーリエ変換は、元のスペクトルに関連付けられたノイズをもたらす。
【0076】
SGフィルタとFFTフィルタとの結果間における比較は、SGフィルタがデータの円滑化に対して良好な選択となれることを表わす。しかしスペクトルが、より大きいノイズに関連付けられた場合、FFT(第1)とSGフィルタ(FFT円滑化における)との組み合わせが、さらなる処理について、スペクトルに対するノイズの影響を低減させるために役立つことになる。
【0077】
[ピークを見つけるアルゴリズム]
検出器から得られた、イオン計数スペクトルのピークの正確な位置を見つけることは、チャネル/位置対イオン計数のスペクトルを、質量スペクトルに変換するために有用である。本発明をそれに限定することなく、単純なピークを見つけるアルゴリズムが使用され得る。
【0078】
SGフィルタのように、円滑化されたデータは、ピークの形状を保持し、高周波ノイズを低減させ、第1にこの単純なアルゴリズムは、高さが閾値(最小ピーク高)よりも大きい高さである全てのピークの箇所を発見する。閾値が、より低い値に設定された場合、より多い誤ったピークが存在し得る。しばしは、より低いピーク高を伴う誤ったピークは、ガウス分布又はローレンツ分布に対する適切な適合は見出せない。誤ったピークを除去するため、並びに各ピークの特徴を導出するために、このアルゴリズムはベースラインの補正データから所定のウィンドウの長さにわたる各ピークについて、ピークの適合を実施する(円滑化されたデータから観察されたピークの高さが、ベースラインの補正データ又はこのように得られたデータの事象よりも低いので、円滑化されない)。制約である最小ピーク幅は、誤ったピークを制限するために変化させることができる。
【0079】
[スペクトルの組成モデル]
各ピークの適合から導出された、スペクトルの全てのピークにおける特徴は、イオン計数スペクトルの組成モデルを導出するために使用される。そうするために、まず組成モデルが、全てのピークのガウス分布機能を合計することによって準備される。このモデルのパラメータ数は、単一のガウス分布機能におけるパラメータのn倍に変えられる。これらパラメータの初期値は、ピークを見つけるアルゴリズムを使用して導出されたピーク特性から取り出される。一旦、組成モデルが生成されると、ベースライン補正データのためのモデル適合が実施され、それによって最良の適合値が、組成モデルの全てのパラメータについて導出される。
【0080】
[磁気セクターの質量分析計の質量較正]
磁気セクターの質量分析計において、質量分析計の焦点面で検出された信号は、よく知られた質量分散関係xi~a√mi+bを有し、ここでxiは焦点面(検出器)における質量電荷比mi/zを伴うイオンビームの焦点ポイント(位置)、a及びbは、質量分散係数として知られている。チャネル数は、検出器の水平軸に沿った距離に比例するので、チャネル数は、既知のmi及びxiのデータに適合することによって、係数を導出するために使用することができる。一旦これらの係数が導出されると、装置のデータベースに記憶されることになる。これらの係数は、データ処理ソフトウェアにロードすることができ、かつチャネル(位置)スケールからm/zスケールに変換するため、したがって測定された位置を対応した質量スペクトルに変換するため、に使用することができる。この処置は、偏向プレートのいくつかの電圧について繰り返され、対応した較正された分散係数の値が、電圧値と共に、器具のデータベースにアップロードされることになる。
【0081】
提供された説明及び図を使用して、コンピュータプログラムの一般的なスキルを有する人は、不要な負担なく、かつ進歩性を有するスキルを練習することなく、様々な実施形態で説明した方法を実施することができるであろう。
【0082】
特定の好ましい実施形態の詳細な説明が、例示目的のみで与えられたことを理解されたい。なぜなら本発明の範囲内における様々な変化及び変更は、当業者には明白になるためである。保護範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。
【国際調査報告】