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特表2024-541397エチレンの接触分解用触媒、その作製方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】エチレンの接触分解用触媒、その作製方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   B01J 21/06 20060101AFI20241031BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B01J21/06 M
B01J37/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529233
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-15
(86)【国際出願番号】 CN2021136019
(87)【国際公開番号】W WO2023087425
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111356393.6
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520335934
【氏名又は名称】国家能源投資集団有限責任公司
【氏名又は名称原語表記】CHINA ENERGY INVESTMENT CORPORATION LIMITED
(71)【出願人】
【識別番号】520380978
【氏名又は名称】北京低▲タン▼清▲潔▼能源研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】李 歌
(72)【発明者】
【氏名】王 宝冬
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 子然
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 静
(72)【発明者】
【氏名】彭 ▲勝▼攀
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲紅▼妍
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC02A
4G169BC02B
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169CA02
4G169CA15
4G169CC07
4G169FC02
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
エチレンの接触分解の技術分野に関する、エチレンの接触分解用触媒、その作製方法およびその使用が提供される。触媒は、結晶形のTiO2と助剤とを含み;TiO2の結晶形はアナターゼ型であり、結晶形のTiO2の表面はTiO2不規則層で覆われており、不規則層は表面水酸基を含む。温度が300~450℃に達すると、エチレンの接触分解用触媒のエチレン分解効率は、50%以上に達し、最大90%に達することができる;既存の触媒と比較して、遷移金属または貴金属は有効成分として使用されない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンの接触分解用触媒であって、前記触媒が結晶形のTiO2と助剤とを含み;
前記TiO2の結晶形はアナターゼ型であり、結晶形の前記TiO2の表面は、表面水酸基を含有するTiO2不規則層で覆われている、触媒。
【請求項2】
前記TiO2不規則層が1.8~3 nmの厚さを有する、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記TiO2不規則層において、Ti3+がモル百分率でチタン元素の2.15%~10.37%、好ましくは5.15%~8.66%を占める、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
前記触媒が、前記触媒の総重量に基づいて99.9~99.99重量%の量のTiO2を含み;
好ましくは、前記助剤はK2OおよびNa2Oを含み;
好ましくは、前記触媒は、前記触媒の総重量に基づいて、0.002~0.006重量%の量のK2Oおよび0.006~0.098重量%の量のNa2Oを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
エチレンの接触分解用触媒の作製方法であって、
(1)チタン源粉末と酸を混合し、得られた混合物を焙焼するステップと;
(2)前記焙焼により得られた生成物を水浸出させ、その後、固液分離させてTi含有濾液を得るステップと;
(3)前記濾液を加水分解および熟成させて、NaおよびKを含有する助剤元素を含むメタチタン酸コロイドを得るステップと;
(4)前記メタチタン酸コロイドを水洗、乾燥および焼成させて、ナノTiO2粉末を得るステップと;
(5)前記ナノTiO2粉末を水素化させて、前記エチレンの接触分解用触媒を得るステップと;
を含み、
前記チタン源粉末が、Na2OおよびK2Oを含有する使用済みSCR脱硝触媒から選択される、作製方法。
【請求項6】
前記酸が濃硫酸であり、好ましくは、前記酸が85~92重量%の濃度を有し;
好ましくは、混合の条件は、20~30℃の温度および2~6時間の時間を含み;
好ましくは、前記チタン源粉末と前記酸との質量比は、1:(1.5~2)であり;
好ましくは、焙焼温度は150~300℃の範囲内であり、焙焼時間は30~90分であり;
好ましくは、前記チタン源粉末は、10~1,000μmの平均粒径を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
水浸出の条件が、60~120℃の温度および60~180分の時間を含み;
好ましくは、前記生成物と、前記水浸出に使用される水との質量比は、1:(2~6)である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
加水分解温度が80~110℃、好ましくは85~105℃の範囲内であり;加水分解時間が2~5時間、好ましくは2.5~4時間の範囲内であり;
好ましくは、熟成時間が15~30時間、より好ましくは16~26時間の範囲内であり、熟成温度が10~50℃、より好ましくは20~35℃の範囲内である、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
乾燥温度が65~95℃の範囲内であり、乾燥時間が60~120分であり;
好ましくは、焼成温度が450~700℃の範囲内であり、焼成時間が2~8時間であり、昇温速度が5~10℃/分である、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
水素化の条件が、400~550℃の水素化温度、5~10℃/分の水素化昇温速度、2~12時間の水素化時間、90~100体積%の水素濃度、および100~300 mL/分の水素流量を含む、請求項5から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項5から10のいずれか一項に記載の方法によって作製された、エチレンの接触分解用触媒。
【請求項12】
エチレンの接触分解における、請求項1から4および11のいずれか一項に記載の触媒の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、「エチレンの接触分解用触媒、その作製方法およびその使用」という名称の、2021年11月16日に出願された中国出願第202111356393.6号の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、エチレンの接触分解(catalytic degradation)の技術分野、特に、エチレンの接触分解用触媒、その作製方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
揮発性有機化合物(以下、VOCと呼ぶ)は、PM2.5およびO3の形成に重要な前駆体である。空気の質をさらに改善するために、VOCの排出に関連する石炭化学産業および他の主要産業の包括的な管理を強化する必要がある。現在のVOCの処理技術は、主に吸着回収技術、燃焼技術、吸着濃縮+燃焼技術の3つに分類され、回収値が不足するVOCの処理には燃焼技術が用いられている。例えば、石炭化学産業で生じる揮発性有機化合物は、主に、石炭ガス化プロセスと、低温メタノールでテールガスを洗浄するプロセスから得られる。VOCは、種類が豊富で、回収値が低く、風量が多いなどの特徴がある。燃焼技術は、VOCを酸化してCO2とH2Oの無害な排出物にすることができる。
【0004】
触媒燃焼は、燃焼技術における重要な手段の一つであり、触媒燃焼技術の重要なポイントには、VOCの酸化のための触媒の設計および作製が含まれる。VOCの酸化用触媒は、典型的には、2つの部分、すなわち担体と活性成分(貴金属)で構成される。エチレンは、石炭化学産業の一般的なVOCガスであり、市販されているエチレン酸化用触媒は、主にPt/γ-Al2O3触媒である。しかし、有効成分である貴金属は高価であり、長い供給サイクルを必要とし、基本的に外国からの輸入に依存している。さらに、市販のPt/γ-Al2O3触媒には、望ましくない熱安定性、触媒被毒に対する低い耐性などの欠陥がある。
【0005】
要約すると、大気汚染物質であるVOCを効果的に低減することができる、新規で、低コストで、耐中毒性で、安定性があり、環境に優しい触媒を開発することが不可欠である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、エチレンの接触分解用触媒が活性成分として貴金属を必要とするという従来技術の問題を克服することであり、本開示は、エチレンの接触分解用触媒、その作製方法およびその使用を提供し、このエチレンの接触分解用触媒は、エチレンに対する高い触媒活性を達成することができる。
【0007】
本開示の発明者らは、研究の過程で、エチレンの接触分解用触媒の組成が、K2OおよびNa2Oと、アナターゼ型結晶形のTiO2とを含み、結晶形のTiO2の表面が表面水酸基とTi3+を含有するTiO2不規則層で覆われている場合、触媒に含まれる貴金属を活性成分として使用することなく、触媒がエチレンをCO2およびH2Oに効果的に分解することができることを見出し、本開示を得た。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様は、エチレンの接触分解用触媒を提供する。ここで、該触媒は、結晶形のTiO2と助剤とを含み、TiO2の結晶形はアナターゼ型であり、結晶形のTiO2の表面は、表面水酸基を含むTiO2不規則層で覆われている。
【0009】
第2の態様では、本開示は、以下のステップを含む、エチレンの接触分解用触媒の作製方法を提供する:
(1)チタン源粉末と酸を混合し、得られた混合物を焙焼するステップ;
(2)焙焼により得られた生成物を水浸出させ、その後、固液分離させてTi含有濾液を得るステップ;
(3)濾液を加水分解および熟成させ、NaおよびKを含有する助剤元素を含むメタチタン酸コロイドを得るステップ;
(4)メタチタン酸コロイドを水洗、乾燥および焼成させて、ナノTiO2粉末を得るステップ;および
(5)ナノTiO2粉末を水素化させて、エチレンの接触分解用触媒を得るステップ;
ここで、該チタン源粉末は、Na2OおよびK2Oを含有する使用済みSCR脱硝触媒から選択される。
【0010】
第3の態様では、本開示は、上記の方法で作製されたエチレンの接触分解用触媒を提供する。
【0011】
第4の態様では、本開示は、エチレンの分解における上記のエチレンの接触分解用触媒の使用を提供する。
【0012】
上記の技術的解決策により、本開示は以下の有益な効果を有する。
(1)Na2OおよびK2O助剤を含有する使用済みSCR触媒を原料として使用する、本開示によるエチレンの接触分解用触媒の作製方法は、硫酸方法を用いて作製された、得られたアナターゼ型TiO2に含まれる元素を適切に利用して、TiO2の水素化のための酸性部位を提供することができる。さらに、作製された結晶形のTiO2の構造上の欠陥が、その酸化還元特性を適切に調節することができる。
(2)本開示によるエチレンの接触分解用触媒は、遷移金属や貴金属を有効成分として使用する必要がないため、エチレンの接触分解のプロセス中の触媒被毒や熟成の問題に対処する必要がなく、失活後に触媒を容易に再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示によるエチレンの接触分解用触媒の作製方法を示すプロセスフロー図である。
図2】本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒とTiO2粉末との間の外観の比較を示す図である。
図3】本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒とTiO2粉末との間のX線回折パターンの比較を示す図である。
図4】本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒の窒素吸脱着等温線の比較グラフである。
図5】本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒と純粋なナノTiO2との間のEPRの比較を示す図である。
図6】本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒のTEM画像である。
図7】本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒の温度とエチレン転化率との関係を示す図である。
【0014】
図中の記号の説明:1はTiO2粉末を指し、2はエチレンの接触分解用触媒を指す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書に開示される範囲の端および任意の値は、正確な範囲または値に限定されず、そのような範囲または値は、その範囲または値に隣接する値を含むものとして理解されるべきである。数値範囲に関しては、様々な範囲の端点値、様々な範囲の端点値と個々の点値、および個々の点値を互いに組み合わせて、1つまたは複数の新しい数値範囲を生成することができ、これらの数値範囲は本明細書に具体的に開示されていると見なされるべきである。
【0016】
本開示の第1の態様は、エチレンの接触分解用触媒であって、触媒が結晶形のTiO2と助剤とを含み、TiO2の結晶形がアナターゼ型であり、結晶形のTiO2の表面が表面水酸基を含有するTiO2不規則層で覆われている触媒を提供する。
【0017】
本開示によって提供されるエチレンの接触分解用触媒は、特定の構造を有する結晶形のTiO2と助剤とを含むが、活性成分として貴金属を含まず、より優れたエチレンの接触分解効果をもたらすことができる。
【0018】
本開示のいくつかの実施形態では、好ましくは、触媒は、触媒の総重量に基づいて、99.9~99.99重量%の量のTiO2を含む。
【0019】
本開示のいくつかの実施形態では、触媒は、エチレンの接触分解を改善する技術的効果を有利に促進することができる助剤をさらに含む。好ましくは、助剤はK2OおよびNa2Oを含み、触媒は、触媒の総重量に基づいて、0.002~0.006重量%の量のK2Oと、0.006~0.098重量%の量のNa2Oを含む。
【0020】
本開示のいくつかの実施形態では、触媒は、エチレンの接触分解反応に有利な細孔構造をさらに含み得る。好ましくは、触媒は、80~120 m2/gの比表面積、0.2~0.8 cm3/gの細孔容積、および8~13 nmの細孔直径を有する。
【0021】
本開示のいくつかの実施形態では、好ましくは、TiO2不規則層は1.8~3 nmの厚さを有する。触媒中の結晶形のTiO2によって形成された構造欠陥は、結晶形のTiO2の表面にTiO2不規則層を形成することがあり、表面水酸基を含むことができる。
【0022】
本開示のいくつかの実施形態では、好ましくは、TiO2不規則層において、Ti3+は、モル百分率でチタン元素の2.15%~10.37%、より好ましくは5.15%~8.66%を占める。本開示の結晶形のTiO2は、上記の欠陥を含有しており、その欠陥の量はTi3+に基づいて算出され、モル百分率が上記範囲内である場合には、上記の助剤とより適切に合致し、エチレンの分解反応に対してより良好な触媒活性を示すように触媒を制御することができる。Ti3+の量は、X線光電子分光分析法により求めることができる。
【0023】
本開示において、表面水酸基は、Ti3+に結合した水酸基であり、Ti-OHで表すことができる。
【0024】
本開示において、エチレンの接触分解用触媒は、アースイエロー色の外観と球状の形態を有する。
【0025】
第2の態様では、本開示は、図1に示されるような、エチレンの接触分解用触媒の作製方法を提供し、この方法は以下のステップ:
(1)チタン源粉末と酸を混合し、得られた混合物を焙焼するステップ;
(2)焙焼により得られた生成物を水浸出させ、その後、固液分離させてTi含有濾液を得るステップ;
(3)濾液を加水分解および熟成させて、NaおよびKを含有する助剤元素を含むメタチタン酸コロイドを得るステップ;
(4)メタチタン酸コロイドを水洗、乾燥および焼成させて、ナノTiO2粉末を得るステップ;および
(5)ナノTiO2粉末を水素化させて、エチレンの接触分解用触媒を得るステップ;
を含み、
ここで、チタン源粉末は、Na2OおよびK2Oを含有する使用済みSCR脱硝触媒から選択される。
【0026】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(1)および(2)を使用して、主にTi元素を抽出して、1または複数の可溶性Ti含有化合物を得ることができ、NaおよびK元素も抽出することができる。好ましくは、酸は濃硫酸であり、好ましくは、酸の濃度は85~92重量%、より好ましくは88~91重量%である。有益な元素、主にTi元素を抽出する要件が満たされるべきである。
【0027】
本開示のいくつかの実施形態では、好ましくは、混合条件は、20~30℃の温度および2~6時間の時間、より好ましくは、22~28℃の温度および3~5時間の時間を含む。
【0028】
本開示のいくつかの実施形態では、好ましくは、チタン源粉末と酸との質量比は、1:(1.5~2)である。チタン源粉末は、好ましくはNa2OおよびK2Oを含む助剤をさらに含んでもよく、より好ましくは、チタン源粉末は、チタン源粉末の総重量に基づいて、0.1~0.3重量%の量のK2Oおよび0.2~0.8重量%の量のNa2Oを含み、これにより、最終的に作製されるエチレンの接触分解用触媒が規定量のNa2OおよびK2Oを含むことを確実にし、エチレンの分解のための触媒活性をさらに向上させることができる。
【0029】
本開示のいくつかの実施形態では、好ましくは、焙焼温度は150~300℃の範囲内であり、焙焼時間は30~90分である。
【0030】
本開示のいくつかの実施形態では、好ましくは、チタン源粉末は、10~1,000μm、好ましくは50~200μmの平均粒径を有する。上記の条件は、1または複数の可溶性Ti含有化合物を得るためのTi、NaおよびK元素のより効率的な抽出を容易にすることができる。
【0031】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(2)は、Ti元素の溶解を達成することができ、NaおよびKなどの助剤元素の溶解も達成することができる。好ましくは、水浸出の条件は、60~120℃の温度および60~180分の時間、より好ましくは、80~100℃の温度および80~120分の時間を含む。
【0032】
本開示のいくつかの実施形態では、好ましくは、水浸出に使用される水に対する生成物の質量比は、1:(2~6)、より好ましくは1:(3~5)である。
【0033】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(3)は、主にTiの析出に使用することができる。好ましくは、加水分解温度は80~110℃、より好ましくは85~105℃の範囲内であり、加水分解時間は2~5時間、より好ましくは2.5~4時間の範囲内である。
【0034】
本開示のいくつかの実施形態では、加水分解の後に熟成処理が行われ、好ましくは、熟成時間は15~30時間、より好ましくは16~26時間の範囲内であり、熟成温度は10~50℃、より好ましくは20~35℃の範囲内である。
【0035】
本開示では、熟成させた材料を吸引濾過および分離し、水洗して、助剤元素を含有するメタチタン酸コロイドを得る。
【0036】
本開示のいくつかの実施形態では、ステップ(4)は、メタチタン酸コロイドを精製するために実行される。例えば、このステップは、不純物を除去し、水を除去するために使用され得る。水洗プロセスは、メタチタン酸コロイドを水と混合し、混合物を撹拌し、濾過し、濾液を除去することを含むプロセスにより、メタチタン酸コロイドから不純物を除去するために使用される。水洗および濾過は数回行ってもよい。好ましくは、乾燥温度は65~95℃の範囲内であり、乾燥時間は60~120分である。
【0037】
本開示のいくつかの実施形態では、好ましくは、焼成温度は450~700℃の範囲内であり、焼成時間は2~8時間であり、昇温速度は5~10℃/分である。好ましくは、焼成は、500~600℃の温度および5~7℃/分の昇温速度で5~6時間行うと、より良好な効果が得られる。
【0038】
本開示において、焼成後に得られるナノTiO2粉末の結晶形はアナターゼ型である。
【0039】
好ましくは、ナノTiO2粉末は、ナノTiO2粉末中に分散されたNa2OおよびK2Oなどの助剤をさらに含む。
【0040】
本開示のいくつかの実施形態では、ナノTiO2粉末は、ステップ(5)において表面水素化および還元に供され、水素化プロセス後に欠陥構造が生成される。好ましくは、水素化のための条件は、400~550℃の水素化温度、5~10℃/分の水素化温度昇温速度、2~12時間の水素化時間、90~100体積%の水素濃度、および100~300 mL/分の水素流量を含む。TiO2粉末は、設定流量の水素の存在下、水素化昇温速度で室温から水素化温度まで加熱され、その後水素化が一定温度で行われる。好ましくは、水素化は、常圧下、420~460℃で4~12時間、および100体積%H2の雰囲気下、水素流量100~150 mL/分で実施すると、より望ましい効果が得られる。
【0041】
第3の態様では、本開示は、上記の方法で作製されたエチレンの接触分解用触媒を提供する。
【0042】
好ましくは、上記の方法で作製されたエチレンの接触分解用触媒は、結晶形のTiO2および助剤を含み、触媒は、触媒の総重量に基づいて、0.002~0.006重量%の量のK2O、および0.006~0.098重量%の量のNa2Oを含む。TiO2の結晶形はアナターゼ型であり、触媒は99.9~99.99重量%の量でTiO2を含む。結晶形のTiO2の表面は、TiO2不規則層で覆われている。TiO2不規則層は1.8~3 nmの厚さを有する。TiO2不規則層において、Ti3+は、モル百分率でチタン元素の、2.15%~10.37%、好ましくは5.15%~8.66%を占める。触媒は、80~120 m2/gの比表面積、0.2~0.8 cm3/gの細孔容積、および8~13 nmの細孔直径を有する。
【0043】
第4の態様では、本開示は、エチレンの分解における上記のエチレンの接触分解用触媒の使用を提供する。
【0044】
本開示によれば、具体的には、本出願は、エチレンを含有する有機揮発性ガスを本開示のエチレンの接触分解用触媒と接触させることにより、エチレンの接触分解反応を実施することを含む。
【0045】
本開示によれば、本出願は、100~500℃の範囲内であり得る温度条件下で実施される。
【0046】
本開示によれば、有機揮発性ガス中のエチレンの体積濃度は、10~1,000 ppmの範囲内であり得る。
【0047】
本開示によれば、有機揮発性ガスの体積空間速度は4,000~40,000 h-1である。
【0048】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。
【実施例
【0049】
以下の実施例および比較例において:
(1)作製したエチレンの接触分解用触媒の結晶構造を、ドイツBruker社製D8 ADVANCEを用いてXRD分析により測定した。試験および走査速度は0.5°/分~5°/分の範囲内であった。
(2)作製したエチレンの接触分解用触媒の細孔構造とメソ細孔径を、米国マイクロメリティックス社製のASAP 2020物理吸着装置を用いてN2吸着法により測定した。吸着媒体はN2であった。
(3)作製したエチレンの接触分解用触媒の形態を、日本の日本電子製JEM ARM 200F型の透過型電子顕微鏡を用いてTEMにより測定した。
(4)電子常磁性共鳴(EPR)画像解析は、電子常磁性共鳴分光計を用いて行った。
(5)チタン源粉末は平均粒径74μmの使用済みSCR触媒であり、XRF蛍光分析法(RIPP 117-90標準法)を用いて化学組成を測定し、結果を表1に示した。また、触媒の成分およびその含有量も、XRF蛍光分析法により測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1
(1)使用済みSCR触媒(粒径120μm)と濃硫酸(濃度90重量%)を、1:1.8の質量比となるように混合して混合物を得、この混合物を180℃の温度で1時間焙焼させた。
【0052】
(2)焙焼により得られた生成物を、生成物と水との質量比が1:4となるように、温度100℃で100分間、水浸出し、混合物を固液分離させてTi含有濾液を得た。
【0053】
(3)濾液を、加水分解温度100℃、加水分解時間3時間の加水分解条件と、熟成温度25℃、熟成時間20時間の熟成条件の下で順次加水分解および熟成させ、得られた固相生成物を分析したところ、助剤を含むメタチタン酸コロイドであり、助剤にはNa2OおよびK2Oが含まれていた。
【0054】
(4)メタチタン酸コロイドを水洗し、分離により得られた固体を80℃で60分間乾燥させ、昇温速度7℃/分で加熱し、最後にマッフル炉での500℃で6時間焼成して、ナノTiO2粉末を得た。分析の結果、ナノTiO2粉末の粒径は約30 nmであり、ナノTiO2粉末の結晶形はアナターゼ型であった。
【0055】
(5)このナノTiO2粉末を、水素化温度が420℃に達するように、管状炉で、圧力0.1 MPa、水素濃度100体積%、水素流量120 mL/分、水素化昇温速度10℃/分で水素化させて、断熱しながら12時間の水素化を行った後、温度を室温まで冷却し、エチレンの接触分解用触媒を作製し、これをT-1とした。
【0056】
得られたエチレンの接触分解用触媒をXRD分析に供したところ、エチレンの接触分解用触媒は、アナターゼ型の結晶形をもつ結晶形のTiO2を含んでいた。図6のTEM画像から分かるように、触媒は、厚さ2.74 nmのTiO2不規則層を含み、Ti3+のモル百分率は6.73%であった。触媒はK2OおよびNa2Oをさらに含み、成分を表2に示した。
【0057】
図2は、本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒とTiO2粉末との間の外観の比較を示す。図から分かるように、TiO2粉末は白色粉末であったが、本開示のエチレンの接触分解用触媒は、アースイエロー色の外観および球形の形態を有していた。
【0058】
図3は、本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒とTiO2粉末との間のX線回折パターンの比較を示す。図3から分かるように、本開示のエチレンの接触分解用触媒の回折ピークはいずれもTiO2粉末の回折ピークと一致しており、不純物はなく、文献に報告されるメソポーラスTiO2のXRDスペクトルと一致していた。さらに、エチレンの接触分解用触媒のXRD回折ピークは明らかに広く、低くなり、微結晶の結晶子サイズと構造がわずかに変化したことを示したが、その理由は、水素化および還元プロセス中に三価のチタンと酸素空孔が生成されたことにある。
【0059】
図4は、本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒の窒素吸脱着等温線の比較グラフであり、1本が吸着曲線であり、もう1本が脱着曲線である2本の曲線があった。図4は、本開示のエチレンの接触分解用触媒が、ラングミュアIV型であり、メソポーラス物質の典型的な吸着曲線に属していたこと、すなわち、吸着分圧の増加と共に大きなヒステリシスループが存在したことを示す。さらに、吸着等温線において吸着容量が飛躍的に増大する点に対応する相対圧力p/p0の値は、試料の細孔径を示しており、図4の細孔径分布から分かるように、本開示のエチレンの接触分解用触媒は、高度に秩序化されたメソポーラス構造、均一な細孔径分布および秩序化された流路を有していた。
【0060】
図5は、本開示の実施例1で作製されたエチレンの接触分解用触媒とTiO2粉末との間のEPRの比較を示す。2未満のg値のシグナルピークは、酸素空孔(VO )Ti3+のシグナルピークであった。図5から分かるように、1はTiO2粉末、2は本開示のエチレンの接触分解用触媒を表し、水素化後に生成された酸素空孔(VO )Ti3+のシグナルピークが多かった。このことは、水素化によって材料の表面に酸素空孔がより多く生成され、それが脱硝反応の進行をより助長したことを示している。
【0061】
図6は、本開示の実施例1で作製したエチレンの接触分解用触媒のTEM画像である。図6から分かるように(中央部の下に複数の点線および矢印が記されている)、TiO2結晶核の端部がエッチングされているように見え、薄い不規則層を形成しており、TiO2が首尾よく水素化されたことをさらに示している。
【0062】
図7は、本開示の実施例1で作製したエチレンの接触分解用触媒の反応活性を示すグラフである。図7から分かるように、エチレンの接触分解用触媒は、325~500℃の温度で50%を超えるエチレン分解活性を有し、エチレンの接触分解用触媒は、450℃を超える温度で90%を超えるエチレン分解活性を有していた。
【0063】
実施例2
(1)使用済みSCR触媒(粒径50μm)と濃硫酸(濃度88重量%)を、1:1.5の質量比となるように混合して混合物を得、この混合物を150℃の温度で0.5時間焙焼させた。
【0064】
(2)焙焼により得られた生成物を、生成物と水との質量比が1:3となるように、温度90℃で80分間、水浸出した後、混合物を固液分離させてTi含有濾液を得た。
【0065】
(3)濾液を、加水分解温度85℃、加水分解時間2.5時間の加水分解条件と、熟成温度20℃、熟成時間16時間の熟成条件の下で順次加水分解および熟成させ、得られた固相生成物を分析したところ、助剤を含むメタチタン酸コロイドであり、助剤にはNa2OおよびK2Oが含まれていた。
【0066】
(4)メタチタン酸コロイドを水洗し、分離により得られた固体を95℃で120分間乾燥させ、昇温速度5℃/分で加熱し、最後にマッフル炉での600℃で5時間焼成させて、ナノTiO2粉末を得た。分析の結果、ナノTiO2粉末の粒径は約20 nmであり、ナノTiO2粉末の結晶形はアナターゼ型であった。
【0067】
(5)このナノTiO2粉末を、水素化温度が430℃に達するように、管状炉で、圧力0.1 MPa、水素濃度100体積%、水素流量100 mL/分、水素化昇温速度5℃/分で水素化させて、断熱しながら4時間の水素化を行った後、温度を室温まで冷却し、エチレンの接触分解用触媒を作製し、これをT-2とした。
【0068】
触媒T-2を分析し、結果を表2に示した。外観、XRD、窒素吸脱着等温線、EPR、TEMの比較を行った。写真または曲線またはスペクトログラムから得られた結果は、実施例1で得られた結果と同様であった。
【0069】
実施例3
(1)使用済みSCR触媒(粒径200μm)と濃硫酸(濃度91重量%)を、1:2の質量比となるように混合して混合物を得、この混合物を300℃の温度で1.5時間焙焼させた。
【0070】
(2)焙焼により得られた生成物を、生成物と水との質量比が1:5となるように、温度80℃で120分間、水浸出し、混合物を固液分離させてTi含有濾液を得た。
【0071】
(3)濾液を、加水分解温度105℃、加水分解時間4時間の加水分解条件と、熟成温度35℃、熟成時間26時間の熟成条件の下で順次加水分解および熟成させ、得られた固相生成物を分析したところ、助剤を含むメタチタン酸コロイドであり、助剤にはNa2OおよびK2Oが含まれていた。
【0072】
(4)メタチタン酸コロイドを水洗し、分離により得られた固体を65℃で100分間乾燥させ、昇温速度6℃/分で加熱し、最後にマッフル炉での550℃で5時間焼成させて、ナノTiO2粉末を得た。分析の結果、ナノTiO2粉末の粒径は約40 nmであり、ナノTiO2粉末の結晶形はアナターゼ型であった。
【0073】
(5)このナノTiO2粉末を、水素化温度が460℃に達するように、管状炉で、圧力0.1 MPa、水素濃度100体積%、水素流量150 mL/分、水素化昇温速度8℃/分で水素化させて、断熱しながら9時間の水素化を行った後、温度を室温まで冷却し、エチレンの接触分解用触媒を作製し、これをT-3とした。
【0074】
触媒T-3を分析し、結果を表2に示した。外観、XRD、窒素吸脱着等温線、EPR、TEMの比較を行った。写真または曲線またはスペクトログラムから得られた結果は、実施例1で得られた結果と同様であった。
【0075】
実施例4
「水素化温度420℃」を「水素化温度400℃」に代えたこと以外は、実施例1と同じ方法に従って触媒を作製した。作製したエチレンの接触分解用触媒エチレンの触媒をT-4とした。
【0076】
触媒T-4を分析し、結果を表2に示した。外観、XRD、窒素吸脱着等温線、EPR、TEMの比較を行った。写真または曲線またはスペクトログラムから得られた結果は、実施例1で得られた結果と同様であった。
【0077】
実施例5
「水素化時間12時間」を「水素化時間2時間」に代えたこと以外は、実施例1と同じ方法に従って触媒を作製した。作製したエチレンの接触分解用触媒エチレンの触媒をT-5とした。
【0078】
触媒T-5を分析し、結果を表2に示した。外観、XRD、窒素吸脱着等温線、EPR、TEMの比較を行った。写真または曲線またはスペクトログラムから得られた結果は、実施例1で得られた結果と同様であった。
【0079】
比較例1
市販のTiO2を使用し、この触媒のパラメータを表2に示した。
【0080】
比較例2
「水素濃度100体積%」を「水素濃度50体積%」に代えたこと以外は、実施例1と同じ方法に従って触媒を作製した。作製した触媒のパラメータは表2に示した。
【0081】
比較例3
「水素化時間12時間」を「水素化時間0.5時間」に代え、「水素化温度420℃」を「水素化温度200℃」に代えたこと以外は、実施例1と同じ方法に従って触媒を作製した。作製した触媒のパラメータは表2に示した。
【0082】
【表2】
【0083】
表2の結果から分かるように、比較例1では不純物を含まないTiO2を水素化に用い、比較例2では低濃度の水素ガスを水素化に用い、比較例3では水素化時間も水素化温度も本開示で定義される範囲内でない条件を用いて水素化が行われた。その結果、本開示の作製方法を用いることにより実施例1~5で作製されたエチレンの接触分解用触媒は、特定の厚さの不規則層、およびチタン元素に対するTi3+のモル百分率を有することを示した。
【0084】
適用例
実施例1~5および比較例1~3で作製した触媒をエチレンの分解反応に適用し、触媒酸化分解を受ける有機揮発性ガス中で、エチレンの体積濃度は700 ppmであり、他のガスについては、O2の含有量は10体積%であり、N2はバランスガスであり、総流量は1,000 mL/分であり、有機揮発性ガスの体積空間速度は100,000 h-1であった。結果を表3に示した。
【0085】
分解効率%=(入口エチレン濃度-出口エチレン濃度)/入口エチレン濃度×100%。
【0086】
【表3】
【0087】
表3の結果から分かるように、水素化されていない比較例1の酸化チタンを用いた場合、エチレンの分解効率は見られなかった。比較例2および3では、水素化時間、温度および水素濃度は上記範囲内ではなく、得られた触媒は本開示の触媒の構造を有しておらず、エチレンの接触分解効果が本開示の実施例1~5に記載の触媒の接触分解効果よりも劣っている。さらに、比較例1の酸化チタンは、実施例1のステップ(4)の条件下で焼成に供されてアナターゼ型結晶を得、実施例1のステップ(5)の方法に従って水素化されたが、作製された触媒は助剤であるK2OおよびNa2Oを含有しておらず、本開示に定義される厚さおよびTi3+のモル百分率の不規則層を有することができないため、エチレンの優れた接触分解効果を生じることができない。
【0088】
以上、本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。本開示の技術的解決策に関して、本開示の技術的思想の範囲内で、任意の他の適切な方法での個々の技術的特徴の組合せを含む様々な単純な変更が行われてよく、そのような単純な変更およびその組合せもまた、本開示により開示される内容とみなされ、その各々は本開示の保護範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】