(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】改善された低温性能を有する低粘度モノエステルを含む誘電性流体組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 69/24 20060101AFI20241031BHJP
C09K 5/10 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C07C69/24 CSP
C09K5/10 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529353
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2022081455
(87)【国際公開番号】W WO2023088773
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ ヨヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ローラント ヴィルケンス
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB99
4H006KC12
(57)【要約】
本発明は、式(I)の分岐状モノエステル、およびこれらの式(I)の分岐状モノエステルの少なくとも1種を含む、電気機器システム用の冷却流体としての使用が意図される誘電性流体組成物に関する。本発明はまた、本発明による誘電性流体組成物の使用により電気機器システムを冷却する方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のものである、分岐状モノエステルA)。
【化1】
[式中、R
1は、3~13個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基であり、
R
2およびR
3は、それぞれ、5個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である。]
【請求項2】
R
1が、5~11個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である、請求項1記載の分岐状モノエステルA)。
【請求項3】
前記分岐状モノエステルA)が、6-ウンデシルラウレート、6-ウンデシルヘキサノエート、6-ウンデシルオクタノエートまたはそれらの混合物から選択される、請求項1または2記載の分岐状モノエステルA)。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に規定される分岐状モノエステルA)、またはそれらの混合物を含む、誘電性流体組成物。
【請求項5】
前記誘電性流体組成物が、ポリオールエステル、飽和炭化水素、ジカルボン酸エステル、カーボネート、エーテル、アルコールまたはそれらの混合物からなる群から選択されるベース流体B)をさらに含む、請求項4記載の誘電性流体組成物。
【請求項6】
前記誘電性流体組成物が、消泡剤、シール適合性剤、酸化防止剤、黄色金属不動態化剤、防錆剤、静電気放電抑制剤、抗乳化剤、染料またはそれらの混合物からなる群から選択される添加剤C)を含む、請求項4または5記載の誘電性流体組成物。
【請求項7】
前記誘電性流体組成物が、前記誘電性流体組成物の総重量を基準として、2~100重量%の分岐状モノエステルA)、0~98重量%のベース流体B)、および0~5重量%の添加剤C)を含む、請求項4から6までのいずれか1項記載の誘電性流体組成物。
【請求項8】
A)~C)の量が、前記誘電性流体組成物の総重量を基準として、合計で90重量%、より好ましくは95重量%、さらにより好ましくは100重量%になる、請求項4から7までのいずれか1項記載の誘電性流体組成物。
【請求項9】
請求項4から8までのいずれか1項に規定された誘電性流体組成物の使用により、好ましくは直接液浸冷却により、電気機器システムを冷却する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、式(I)の分岐状モノエステル、およびこれらの式(I)の分岐状モノエステルの少なくとも1種を含む、電気機器システム用の冷却流体としての使用が意図される誘電性流体組成物に関する。本発明はまた、本発明による誘電性流体組成物の使用により電気機器システムを冷却する方法にも関する。
【0002】
発明の背景
近年、技術の進歩にエネルギー不足や環境問題が大きく影響している。自動車産業では、二酸化炭素排出量の削減が最優先課題となっており、純電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池電気自動車などの再生可能エネルギー源を燃料とする排出ガスを出さない自動車への需要が徐々に高まっており、今後20年間で大幅に増加すると予想されている。このような自動車のエネルギーは、高い比エネルギー密度を有するバッテリーに供給され、蓄えられる。EVおよびHEV用には、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム、マンガン酸リチウムおよびナトリウムイオン電池などの様々なタイプの電池が利用可能である。
【0003】
電気自動車の性能を高めるには、大電流放電の大型バッテリーが必要とされている。これらの大型バッテリーは、そのサイズと電力出力とにより、高電流レベルでの急速充放電サイクルの間に大量の熱を発生させる。したがって、バッテリーの故障を防ぎ、バッテリーの寿命を延ばすために、バッテリーを冷却または放熱することにより熱管理する必要がある。
【0004】
さらに、バッテリーの性能は、温度に依存する。バッテリーは、そのタイプに応じて、特定の温度範囲でのみ最適に動作する。したがって、適切な熱管理により、バッテリーの性能を最適化することができる。
【0005】
誘電性流体とは、低電圧から高電圧の用途、例えば、コンピュータ、変圧器、コンデンサー、高電圧ケーブル、スイッチギヤに使用されることを意図した流体を意味し、その機能は、電気絶縁を提供し、コロナやアーク放電を抑制し、このような電気用途において熱を運び、放散するための冷却剤として機能する。誘電性流体は、例えば、鉱油ベースの流体、天然のエステルベースの流体、および合成エステルベースの流体、例えばポリオールエステルを含む。
【0006】
鉱油ベースの誘電性流体は、上記の基準のいくつかを満たすため、長期間にわたって広範に使用されてきた。しかしながら、純粋な鉱油は効率的に熱を放散させないため、より良好な熱管理特性を有するより優れた誘電性流体を探求する必要が依然としてある。
【0007】
さらに、環境意識の高まりにより、特に自動車産業において、いわゆるグリーンテクノロジーへの関心が高まっている。それゆえ、理想的な誘電性流体は、生分解性で毒性がなく、再生可能なものでなければならない。鉱油ベースの誘電性流体は、生分解性が低く、比較的毒性が高く、再生可能な供給源がない。
【0008】
米国特許第5,949,017号明細書には、鉱油ベースの誘電性流体の代替として高オレイン酸油組成物を含む電気絶縁流体を含有する電気変圧器が開示されている。しかしながら、これらの誘電性流体は、鉱油と比較して高い粘度を示し、これは、放熱にとって不利である。
【0009】
国際公開第2013/159761号には、植物油由来の部分不飽和脂肪酸でエステル化された多価アルコールのエステルを含む組成物、ならびに変圧器用の冷却流体および絶縁流体としてのその使用が開示されている。使用されるエステルは、約30mm2/sのKV40および約-50℃の流動点を示す多分岐エステルである。
【0010】
国際公開第2015/174992号、米国特許出願公開第2013/085090号明細書または欧州特許第3012316号明細書には、分岐状モノエステルおよびそれを含む潤滑油組成物が開示されている。これらの文献は、冷却電気機器システムにおける性能を扱っていない。
【0011】
欧州特許第2908317号明細書および欧州特許出願公開第3138893号明細書には、誘電性流体組成物での使用に適した誘電性流体組成物が開示されており、エステル組成物は、アルコールと分岐状カルボン酸とのエステルを含む。どちらの文献でも、分岐状カルボン酸とポリオールとのエステルを含むエステル組成物を使用することが教示されている。
【0012】
英国特許出願公開第2525281号明細書は、電気装置(例えば、変圧器)での使用に適したエステル誘電性流体組成物に関する。エステルは、(a)グリセロールまたはエチレングリコールなどのC2およびC3ポリオールから選択される1種以上のアルコールと、(b)1種以上のC4~C14カルボン酸との反応から誘導され、ここで、上記酸のうち少なくとも1種は、分岐状酸(例えば、2-エチル-ヘキサン酸)である。酸化防止剤、金属不活性化剤または流動点降下剤などの1種以上の添加剤も存在する。誘電性流体組成物は、約16mm2/sのKV40および約-60℃の流動点を有する。
【0013】
誘電性流体の低い粘度は、より効果的な循環を通じてより効率的な放熱を可能にし、ひいては、電気装置のより良好な冷却を可能にするので極めて重要なパラメータである。したがって、誘電性流体の粘度特性は、放熱において重要な役割を果たす。
【0014】
したがって、本発明は、電池、電気モーター、電気変圧器、電気コンデンサー、流体充填送電線、流体充填電力ケーブル、コンピュータ、データセンターおよびパワーエレクトロニクスなどの電気機器システムの冷却において優れた性能を有する新規な誘電性流体組成物を提供することを目的とする。この新規な誘電性流体組成物は、良好な電気的および熱的特性を有するだけでなく、優れた低温性能を維持しながら、低粘度、非腐食性かつ低燃焼性であるべきである。
【0015】
発明の簡単な概要
徹底した研究の結果、本発明の発明者らは、驚くべきことに、本発明で定義される式(I)の分岐状モノエステルを含む誘電性流体組成物を、電池および他の電気機器用の伝熱流体として使用することで、電気機器の冷却性能を、特に低温での冷却性能を劇的に改善できることを見出した。課題は、誘電性流体組成物の優れた低温特性を維持し続けながら、改善された放熱性能を兼ね備えることであった。
【0016】
実際に、これらの特性を有する1種の誘電性流体組成物を開発することは、追加の流動点降下剤を必要としないので、大きな利点を示す。
【0017】
第1の態様によれば、本発明は、請求項1およびその従属請求項に定義された式(I)の分岐状モノエステルに関する。
【0018】
第2の態様によれば、本発明は、本発明による式(I)のモノエステルを含む誘電性流体組成物に関する。
【0019】
本発明の第3の態様は、本発明による誘電性流体組成物の使用により電気機器システムを冷却する方法である。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明による分岐状モノエステル
本発明は、分岐状モノエステルA)に関し、前記分岐状モノエステルA)は、式(I)のものである。
【化1】
[式中、R
1は、3~13個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基であり、
R
2およびR
3は、それぞれ、5個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である]
【0021】
好ましくは、R1は、5~11個の炭素原子、より好ましくは5~7個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である。
【0022】
本発明によれば、アルキル基R2およびR3は、双方とも5個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である。
【0023】
本発明の好ましい実施形態によれば、分岐状モノエステルA)は、6-ウンデシルラウレート、6-ウンデシルヘキサノエート、6-ウンデシルオクタノエートまたはそれらの混合物から選択される。
【0024】
本発明では、モノエステルA)は、例えば欧州特許第2155754号明細書に記載されているように、アルコールと酸とのエステル化反応により製造され得る。
【0025】
好ましくは、アルコールは、特許出願の国際公開第2020/104429号に開示されている方法に従って製造され得る。この方法は、有利にはCO2排出量が少ない。
【0026】
本発明による誘電性流体組成物
本発明はまた、少なくとも1種の分岐状モノエステルA)を含む誘電性流体組成物に関し、前記分岐状モノエステルA)は、式(I)のものである。
【化2】
[式中、R
1は、3~13個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基であり、
R
2およびR
3は、それぞれ、5個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基である]
【0027】
本発明の文脈では、本明細書で使用される「少なくとも」という用語はまた、「1種以上」または「1種の分岐状モノエステルA)もしくはその混合物」を意味する。
【0028】
本発明の分岐状モノエステルA)について上記で示したすべての特性および好ましい事項は、誘電性流体組成物に当てはまる。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、誘電性流体組成物は、6-ウンデシルラウレート、6-ウンデシルヘキサノエート、6-ウンデシルオクタノエート、またはそれらの混合物から選択され、より好ましくは6-ウンデシルヘキサノエート、6-ウンデシルオクタノエート、またはそれらの混合物から選択される分岐状モノエステルA)を含む。
【0030】
以下の実験部に示すように、本発明の誘電性流体組成物は、優れた電気特性および伝熱特性を有し、低燃焼性であり、非腐食性である。それらはまた、優れた低温性能も有する。本発明による誘電性流体組成物のさらなる利点は、それらの低粘度であり、(特に、より効率的なポンピングのおかげで)より効果的な循環を通じたより効率的な放熱を可能にし、ひいては、電気装置のより良好な冷却を可能にする。
【0031】
本発明によれば、誘電性流体組成物は、ASTM D445に従って40℃で2mm2/s~12mm2/sの動粘度、およびASTM D93に従って110℃を上回る、より好ましくは140℃を上回る引火点を有することが好ましい。
【0032】
本発明によれば、誘電性流体組成物は、ASTM D5950に従って-70℃(マイナス70℃)未満の流動点、より好ましくはASTM D5950に従って-75℃(マイナス75℃)未満の流動点を有することが好ましい。
【0033】
好ましい実施形態によれば、本発明の誘電性流体組成物は、40℃および1013hPa(1atm)の圧力で、90未満のプラントル数を有する。より好ましくは、40℃および1013hPa(1atm)の圧力で、60未満、さらにより好ましくは55未満である。
【0034】
本発明では、以下の式に従ってプラントル数(Pr)を算出する。プラントル数は、流体の粘度を熱伝導率と相関させる無次元量である(Bastian E. Rapp, in Microfluidics: Modelling, Mechanics and Mathematics, 2017を参照のこと)。プラントル数は、次のように与えられる:
Pr=θ/α=運動量拡散率/熱拡散率=(μ/ρ)/(k/(cpρ))=cpμ/k
ここで
θ:運動量拡散率(動粘度)θ=μ/ρ;SI単位:m2/s
α:熱拡散率;SI単位:m2/s
μ:動的粘度;SI単位:Pa・s=N・s/m2
k:熱伝導率;SI単位:W/(m・K)
cp:比熱;SI単位:J/(kg・K)
ρ:密度;SI単位:kg/m3
【0035】
以下の実験部に示すように、本発明の発明者らは、驚くべきことに、本発明によるモノエステルおよび本発明によるそれらの対応する本発明の誘電性流体組成物が、すべて小さなプラントル数を有することを見出した。これにより、本発明による誘電性流体組成物が、高い熱伝導率および低い粘度を有することが確認され、これは電気装置における熱管理に有利である。
【0036】
特に、本発明による本発明の誘電性流体組成物はすべて、高い熱伝導率の値を有することが有利に認められている。これは、本発明の誘電性流体が、電気装置と効率的に熱交換できることを意味する。実際に、熱伝導率が高いほど、熱伝達能力は良好である。
【0037】
本発明の好ましい実施形態によれば、誘電性流体組成物は、さらに、ポリオールエステル、飽和炭化水素、ジカルボン酸エステル、カーボネート、エーテル、アルコールまたはそれらの混合物からなる群から選択されるベース流体成分B)を含む。好ましくは、成分B)は、グリセロールトリヘキサノエート、APIグループIV合成油(好ましくはポリαオレフィン)、APIグループIII鉱油またはそれらの混合物である。本発明の文脈において、成分B)は、分岐状モノエステルA)とは異なるベース流体である。したがって、好ましくは、誘電性流体組成物は、本発明による分岐状モノエステルA)を第1のベース流体として含み、上記で示された成分B)を第2のベース流体として含む。
【0038】
好ましくは、分岐状モノエステルA)およびベース流体B)の量は、誘電性流体組成物の総重量を基準として、合計で少なくとも90重量%になり、より好ましくは合計で少なくとも95重量%になる。
【0039】
好ましくは、誘電性流体組成物は、消泡剤、シール適合性剤、酸化防止剤、黄色金属不動態化剤、防錆剤、静電気放電抑制剤、抗乳化剤、染料またはそれらの混合物からなる群から選択される添加剤C)を含み得る。添加剤化合物C)は、熱管理流体に使用される典型的な添加剤に対応し、とりわけ、T. Mang, W. Dresel (eds.): “Lubricants and Lubrication”, Wiley-VCH, Weinheim 2001; R. M. Mortier, S. T. Orszulik (eds.): “Chemistry and Technology of Lubricants”に詳細に記載されている。好ましくは、適切な黄色金属不動態化剤は、イミダゾリン、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、トリアゾール、トリルトリアゾール、ピラジン、キノリン、モルホリンまたはそれらの混合物からなるリストから選択される。
【0040】
好ましくは、適切な防錆剤は、スルホン酸塩、カルボン酸塩、アルキルアミン、アミンカルボン酸塩、アミンホウ酸塩、リン酸塩またはそれらの混合物からなるリストから選択される。
【0041】
好ましくは、適切な静電気放電抑制剤は、エステルクアット、イミダゾリウムクアット、アルコキシアルキルクアット、トリアルキルモノメチルクアット、モノアルキルトリメチルクアット、ジアミドアミンクアット、ベンジルクアット、エトキシル化エーテルアミン、エーテルジアミン、脂肪アルコールエトキシレート、エーテルアミンオキシド、エーテルアミンクアットまたはそれらの混合物からなるリストから選択される。
【0042】
好ましくは、適切な抗乳化剤は、ポリアルコキシル化フェノール、ポリアルコキシル化ポリオール、ポリアルコキシル化ポリアミンまたはそれらの混合物からなるリストから選択される。
【0043】
好ましくは、適切な消泡剤は、シリコーンオイル、フルオロシリコーンオイル、フルオロアルキルエーテル、ポリアクリレートまたはそれらの混合物からなるリストから選択される。
【0044】
好ましくは、シール適合性剤は、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル、ネオペンチルポリオール-エステル、スルホランからなるリストから選択される。
【0045】
好ましくは、適切な酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤を含む。
【0046】
好ましい実施形態では、フェノール系酸化防止剤は、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール)、2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチル-フェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-アミル-p-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N’-ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、n-オクチル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2,2’-チオ[ジエチル-ビス-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、またはそれらの混合物からなるリストから選択される。さらにより好ましいフェノール系酸化防止剤は、ビスフェノール系酸化防止剤およびエステル基含有フェノール系酸化防止剤である。
【0047】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノアルキルジフェニルアミン、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン;ジアルキルジフェニルアミン、例えば、4,4’-ジブチルジフェニルアミン、4,4’-ジペンチルジフェニルアミン、4,4’-ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’-ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン、4,4’-ジノニルジフェニルアミン;ポリアルキルジフェニルアミン、例えば、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン;ナフチルアミン、具体的にはα-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミンおよびさらなるアルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン、例えば、ブチルフェニル-α-ナフチルアミン、ペンチルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘプチルフェニル-α-ナフチルアミン、オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、ノニルフェニル-α-ナフチルアミンが挙げられる。その中でも、酸化防止効果の観点から、ナフチルアミンよりもジフェニルアミンが好ましい。
【0048】
好ましくは、誘電性流体組成物は、誘電性流体組成物の総重量を基準として、2~100重量%の分岐状モノエステルA)、0~98重量%の成分B)、および0~5重量%の添加剤C)を含む。より好ましくは、誘電性流体組成物の総重量を基準として、5~100重量%の分岐状モノエステルA)、0~95重量%の成分B)、および0~5重量%の添加剤C)を含む。
【0049】
好ましい実施形態によれば、A)~C)の量は、誘電性流体組成物の総重量を基準として、合計で少なくとも90重量%、より好ましくは合計で少なくとも95重量%、さらにより好ましくは合計で100重量%になる。
【0050】
別の好ましい実施形態によれば、本発明の誘電性流体組成物は、式(I)の分岐状モノエステルA)からなり、該誘電性流体組成物について上記で示したすべての特性および好ましい事項は、この好ましい実施形態に当てはまる。
【0051】
好ましくは、式(I)の少なくとも1種のモノエステルA)を含む本発明の誘電性流体組成物は、生分解性である。
【0052】
別の好ましい実施形態によれば、式(I)の少なくとも1種の分岐状モノエステルA)を含む本発明の誘電性流体組成物は、ハロゲンフリーであり、これは、誘電性流体組成物がいかなるハロゲン含有成分も含まないことを意味する。
【0053】
好ましくは、誘電性流体組成物は、二酸化炭素排出量の少ない持続可能な技術で製造され、ハロゲンフリーである。
【0054】
本発明による電気機器システムを冷却する方法
本発明の別の態様によれば、本発明はまた、本明細書で上記に定義された誘電性流体組成物の使用により電気機器システムを冷却する方法に関する。
【0055】
好ましくは、電気機器システムは、電池、電気モーター、電気変圧器、電気コンデンサー、流体充填送電線、流体充填電力ケーブル、コンピュータ、データサーバおよびパワーエレクトロニクスからなる群から選択される。
【0056】
好ましくは、本発明による電気機器システムを冷却する方法は、液体を循環させて高温の構成要素と直接接触させることによってシステムから熱を除去する直接液浸冷却である。
【0057】
実験部
以下、実施例および比較例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、何ら本発明の範囲を限定する意図はない。
【0058】
(略語)
Cp@40℃: ASTM D7896-14に従って40℃で測定された比熱容量
DPT: ジイソペンチルテレフタレート
Elect.Cond.:
ASTM D2624に従って25℃で測定した電気伝導率
FHE: C12/14脂肪アルコールヘキサノエート
FP: ASTM D93による引火点
GHE: グリセロールトリヘキサノエート
KV40: ASTM D445による40℃での動粘度
OptiCool-A Fluid:
1-デセンおよび1-ドデセンの水素化二量化生成物を含むPAO超低粘度誘電性熱伝達流体、DSI Ventures社により市販
PAO2: 5.10mm2/sのKV40を有するポリαオレフィン
PN40: 40℃および1013hPa(1atm)でのプラントル数
PP: ASTM D5950による流動点
ULE: 6-ウンデシルラウレート
UHE: 6-ウンデシルヘキサノエート
UOE: 6-ウンデシルオクタノエート
Yubase3: 11.80mm2/sのKV40を有する水素化処理された軽質パラフィン基油
Yubase4: 19.20mm2/sのKV40を有する水素化処理された重パラフィン基油
λ@40℃: ASTM D7896-14による40℃での熱伝導率
【0059】
(試験法)
誘電性流体の動粘度を、ASTM D445に従って40℃で測定し、偏差はなかった。
【0060】
比熱容量および熱伝導率を、ASTM D7896-14に従って熱線法により40℃で測定した。
【0061】
流動点(PP)を、ASTM D5950に従って測定した。
【0062】
引火点を、ASTM D93に従ってペンスキーマルテンス密閉カップ法により測定した。
【0063】
電気伝導率を、ASTM D2624に従って25℃で測定した。
【0064】
[誘電性流体としての使用に適した従来技術の成分と比較した本発明のモノエステル]
(本発明の例)
・本発明によるモノエステルA1(ULE)の合成
撹拌棒、水分離器、還流冷却器、滴下漏斗および内部温度計を備える4リットルの蒸留フラスコ中で、482g(2.8モル)の6-ウンデカノールを、701g(3.5モル)のラウリン酸および1.75gの次亜リン酸の50%水溶液(Sigma Aldrich社製)(6-ウンデカノールを基準として0.4質量%のH3PO2)と混合し、撹拌しながら240℃に加熱した。反応の経過をGC分析で追跡した。反応は、沸騰開始から6時間後に終了した。このバッチの一部を取り出し、水分離器を蒸留ブリッジに置き換えた対応するより小さな装置内に配置した。過剰のラウリン酸を、撹拌しながら高温で留去した。次いで、加熱を止め、バッチを80℃に冷却した。滴下漏斗を介して27~33hPaの圧力で水を滴加することにより、バッチをさらに精製した(水蒸気蒸留の原理)。この混合物を、塩基性酸化アルミニウム2%および活性炭2%と一緒に100℃の温度でさらに1時間撹拌した。次いで、生成物を、濾過により活性炭および酸化アルミニウムから分離した。
【0065】
・本発明によるモノエステルA2(UHE)の合成
モノエステルA2(UHE)を合成するために、482g(2.8モル)の6-ウンデカノールを、407g(3.5モル)のヘキサン酸と混合し、上記で開示したモノエステルA1の合成と同じ手順を続けた。
【0066】
・本発明によるモノエステルA3(UOE)の合成
モノエステルA3(UOE)を合成するために、482g(2.8モル)の6-ウンデカノールを、505g(3.5モル)のオクタン酸と混合し、上記で開示したモノエステルA1の合成と同じ手順を続けた。
【0067】
(比較例)
・FHE、直鎖状C12~C14モノエステルに対応する比較例1(Comp.1)
11.7kg(100モル)のヘキサン酸、13.7g(ヘキサン酸を基準として0.11重量%)のオルトチタン酸テトラブチル、および15.7kg(80モル)のロロールを、還流分配器、撹拌器、滴下漏斗および温度計を備えた蒸留ブリッジ付きの撹拌フラスコ内で初期装入物として使用し、200℃でエステル化した。反応の終わりに、過剰の酸を、180℃および3ミリバールでの蒸留により除去した。次いで、系を80℃に冷却し、10重量%濃度のNaOH水溶液を使用して中和した。次いで、水蒸気蒸留を、80℃の温度および20~5ミリバールの圧力で実施した。次いで、混合物を、この温度で、5ミリバールで乾燥させた。混合物を、活性炭とともに100℃の温度で撹拌した。次いで、生成物を、濾過により活性炭から分離した。
【0068】
比較例2(Comp.2)は、ラウリン酸メチル(飽和脂肪酸のメチルエステル)に相当する。
【0069】
比較例3(Comp.3)は、純粋な合成ジエステルベースストックであるセバシン酸ジ-2-エチルヘキシルに相当する。
【0070】
比較例4(Comp.4)は、アジピン酸ジ-(イソノニル)に相当する。
【0071】
比較例5(Comp.5)は、水素化処理された軽質パラフィン基油であるSK Lubricants社製のYubase 3に相当する。
【0072】
すべての例およびそれらのそれぞれの物理的特性を、以下の第1表に示す。
【0073】
(結果の考察)
本発明の分岐状モノエステル(本発明の例1、例2および例3)は、低粘度および優れた低温性能と併せて非常に良好な熱伝導特性を有する。対照的に、比較例1~比較例5は、上記で示した特性をすべて兼ね備えていないので、それほど効率的に機能しない。
【0074】
比較例1および比較例2は、本発明の例2および例3と同様の低粘度を有するが、良好な低温性能(それぞれ-6℃および+3℃)を有しない。
【0075】
比較例3、比較例4および比較例5は、許容可能な低温性能(それぞれ-78℃および-51℃の流動点値)を示す。しかしながら、それらの高い粘度のために、それらのそれぞれのプラントル数は、上記で説明したように流体の粘度をその熱伝導率と相関させると高く(それぞれ、136.5および128.7のPN40)、したがって本発明による本発明のモノエステルよりもはるかに高い。実際に、本発明による分岐状モノエステルA1、A2およびA3はすべて、85未満のプラントル数(40℃および1013hPa(1atm)でのPN40)を有する。
【表1】
【0076】
[誘電性流体組成物]
誘電性流体組成物を製造するために、以下の第2表に列挙される成分を、室温で一緒に混合した。
【表2】
【0077】
上記の第2表に列挙した誘電性流体配合物の物理的特性を、以下の第3表に示す。
【0078】
以下の第3表から、本発明による分岐状モノエステルを含む誘電性流体組成物は、40℃および1013hPa(1atm)での低いプラントル数および低い粘度と組み合わせて、優れた低温特性を示すことを認めることができる。これにより、本発明による誘電性流体組成物が、電気機器システムの冷却において優れた性能を有することが確認される。
【0079】
比較の誘電性流体Comp.F1は、引火点が高いものの、低温性能は劣り(-9℃のみ)、粘度が高く(7.02mm2/sのKV40)、プラントル数が高い(83.0のPN40)ことを示す。
【0080】
比較の誘電性流体Comp.F2は、より高い動粘度(6.50mm2/sのKV40)を示し、電気システム内での流体の非効率な循環とポンピング能力とのために、より低い粘度の誘電性流体と比較して、それほど効率的な熱放散が得られない。
【0081】
比較の誘電性流体Comp.F3は、-75℃の流動点で同等の低温性能を有するが、より高い粘度およびより高いプラントル数を有するため、本発明の分岐状モノエステルを含む本発明の熱誘電性流体組成物のすべての利点を満たすことはない。
【0082】
本発明の誘電性流体組成物の熱管理結果から、式(I)の分岐状モノマーA)を含む誘電性流体組成物が、優れた低温特性を示すだけでなく、低いプラントル数によって確認されるように、非常に良好な電気冷却性能も示すことが確認される。優れた低温特性、低粘度および電気冷却性能のこの組み合わせは、比較の誘電性流体には認められない。
【表3】
【国際調査報告】