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特表2024-541414摩擦材およびそれに対応するディスクブレーキパッド
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  • 特表-摩擦材およびそれに対応するディスクブレーキパッド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】摩擦材およびそれに対応するディスクブレーキパッド
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20241031BHJP
   F16D 65/092 20060101ALI20241031BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520F
C09K3/14 520L
C09K3/14 520M
C09K3/14 530G
C09K3/14 520G
F16D65/092 B
F16D69/02 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529498
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 IB2022061078
(87)【国際公開番号】W WO2023089515
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】102021000029270
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ヴァロット,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】レダエッリ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】マエストリーニ,ルカ
(72)【発明者】
【氏名】マルマッサーリ,クリスティアン
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058BA21
3J058CA42
3J058EA02
3J058EA03
3J058EA08
3J058EA13
3J058FA01
3J058GA04
3J058GA22
3J058GA31
3J058GA43
3J058GA49
3J058GA73
3J058GA81
3J058GA92
(57)【要約】
本発明は、摩擦材、対応するディスクブレーキパッド、および前記パッドを備えるブレーキシステムに関し、いわゆる「クリープグローン」現象を抑制する、または著しく緩和する。より詳細には、本発明は、20体積%から30体積%の1種以上の研磨材と;10から20体積%のコークスと;10体積%までの1種以上の金属硫化物と;20体積%までの粉末状の1種以上の金属および/または金属合金および/または金属間化合物と;40体積%までのアラミド繊維とスチール繊維からなる繊維状物質と;バインダとして10体積%から20体積%のフェノール樹脂と;10体積%までの、水酸化カルシウム、摩擦粉、PTFE、および蛍石から選択される1種以上の充填材を含み、黒鉛を含まない摩擦材に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20~30体積%の1種以上の研磨材と;
10~20体積%のコークスと;
10体積%までの1種以上の金属硫化物と;
20体積%までの、粉末状の1種以上の金属および/または金属合金および/または金属間化合物と;
アラミド繊維とスチール繊維を含む、40体積%までの繊維状物質と;
バインダとして10~20体積%のフェノール樹脂と;
10体積%までの、水酸化カルシウム、摩擦粉、PTFE、および蛍石から選択される1つまたは複数の充填材と;を含み、
黒鉛を含まない、摩擦材。
【請求項2】
前記1種以上の研磨材が、研磨材としてチタン酸カリウム、クロマイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素およびコランダムからなる群から選択される、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
チタン酸カリウム、クロマイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素およびコランダムを研磨材として含む、請求項1または2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記1種以上の研磨材を25体積%以上30体積%以下、好ましくは28体積%以上30体積%以下の量で含む、請求項1-3のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項5】
コークスを15体積%以上20体積%以下、好ましくは16体積%以上18体積%以下の量で含む、請求項1-4のいずれか一項に記載の摩擦材。
【請求項6】
5体積%以上10体積%以下、好ましくは8体積%以上10体積%以下の1種以上の金属硫化物を含む、請求項1-5のいずれか一項に記載の摩擦材。
【請求項7】
前記1種以上の金属硫化物がFeSおよびSnSから選択される、請求項1-6のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項8】
前記1種以上の金属および/または金属合金および/または金属間化合物を、5体積%以上10体積%以下、好ましくは8体積%以上10体積%以下の量で粉末の形態で含む、請求項1-7のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項9】
粉末形態の亜鉛、
粉末形態のアルミニウム、および
粉末形態の少なくとも1種の金属間化合物、好ましくは3元金属間化合物を含む、請求項1-8のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項10】
最大30体積%、好ましくは最大20体積%、より好ましくは最大10体積%の前記繊維状物質を含む、請求項1-9のいずれか一項に記載の摩擦材。
【請求項11】
前記繊維状物質が、アラミド繊維およびスチール繊維からなる、請求項1-10のいずれか一項に記載の摩擦材。
【請求項12】
前記フェノール樹脂を、15体積%以上20体積%以下、好ましくは17体積%以上19体積%以下の量で含む、請求項1-11のいずれか一項に記載の摩擦材。
【請求項13】
前記1種以上の充填材を5-10体積%、好ましくは8-10体積%含む、請求項1-12のいずれか一項に記載の摩擦材。
【請求項14】
28体積%から30体積%の研磨材であって、チタン酸カリウム、クロマイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素およびコランダムを含む研磨材と、
16~18体積%、好ましくは約17体積%のコークスと;
8~10体積%、好ましくは約9体積%のFeSとSnSと;
8~10体積%、好ましくは約9体積%の、粉末状の亜鉛、粉末状のアルミニウム、および好ましくは粉末状の少なくとも1種の金属間化合物と;
5~10体積%、好ましくは約8体積%のアラミド繊維とスチール繊維からなる繊維状物質と;
17~19体積%、好ましくは17から18体積%のフェノール樹脂と;
充填材として、8から10体積%、好ましくは9から10体積%の水酸化カルシウム、摩擦粉、PTFEおよび蛍石を含み、
黒鉛を含まない,請求項1-13のいずれかに記載の摩擦材。
【請求項15】
ディスクブレーキのディスクと協働することを意図した摩擦層を含むディスクブレーキ用パッドであって、前記摩擦層が、請求項1から14のいずれか一項に記載の摩擦材で作られていることを特徴とするパッド。
【請求項16】
ディスクと、前記ディスクと協働するように意図された摩擦層からなるパッドとを含むディスクブレーキ用ブレーキシステムであって、前記摩擦層が、請求項1から14のいずれか一項に記載の摩擦材から作られていることを特徴とするブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材、当該摩擦材からなる摩擦層を備えるディスクブレーキパッド、および当該パッドを備えるブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストや重金属を含まないブレーキパッド用摩擦材は、典型的には、次の種類の成分を含む。無機繊維および/または有機繊維および/または金属繊維からなる繊維状物質;1種以上の研磨材;1種以上の結合剤;1種以上の充填材;1種以上の潤滑剤または摩擦調整剤。最も広く使用されている潤滑剤は黒鉛であり、黒鉛を含む摩擦材の一例がCN110878802に記載されている。
【0003】
しかしながら、前述の摩擦材を用いて製造されたブレーキパッドを使用した車両は、いわゆる「クリープグローン」と呼ばれる煩わしい振動現象を発生させる可能性があり、この現象は、自動車分野、特に、内燃自動車および/または電気自動車におけるNVH挙動(騒音、振動、および衝撃音)に関して最も重要な問題である。NVH挙動は、NVH性能レベルとしても知られている。
【0004】
このような現象は、ブレーキディスクの表面に接触するブレーキパッドによる交互の粘着状態とスリップ状態、すなわち静摩擦と動摩擦の間の繰り返される切り替えによって引き起こされる「スティックスリップ」効果(または単に「スティックスリップ」)として知られている。スティックスリップは、特に煩わしいノイズや振動という点で、車両の動的応答を引き起こし、これは乗客コンパートメントで知覚され得る。
【0005】
スティックスリップ、ひいては「クリープグローン」と呼ばれる車両の応答は、ゼロに近い速度条件下で静的またはほぼ静的なブレーキトルクが存在する場合、例えば下り坂でブレーキペダルを徐々に離すと同時に、または自動変速機で発進すると同時に発生する。
【0006】
交互に発生する静摩擦と動摩擦は、「クリープグローン」現象に関するブレーキシステムの挙動を、環境条件、特に温度と湿度に強く関連付ける。
【0007】
「クリープグローン」現象を緩和し、車両のブレーキシステムに関連する騒音および振動を低減することを目的とした様々な提案が当技術分野で知られている。
【0008】
例えば、EP 959 262には、バインダとして変性シリコーン樹脂を含み、摩擦調整剤としてゼオライトを含む組成物を使用して得られるブレーキパッドが記載されている。このような文献に記載されている特定の組成物は、黒鉛を含む。
【0009】
他の提案は、例えば、WO2020/189649および特開2002-266915号に記載されており、そこに記載されているすべての具体的な組成物も黒鉛を含む。
【0010】
それにもかかわらず、「クリープグローン」現象を抑制するか、または少なくとも著しく低減することができる摩擦材用のさらなる組成物を開発する必要性がますます感じられている。したがって、本発明の根底にある課題は、自動車のブレーキシステムに関連する騒音および振動を低減して、車両の快適性の測定に代表されるNVH挙動を改善するブレーキパッド用摩擦材を提供することである。
【発明の概要】
【0011】
上述の課題は、添付の特許請求の範囲に概説されている摩擦材、ディスクブレーキパッド、およびブレーキシステムによって解決され、それらの定義は、本明細書の不可欠な部分を形成する。
【発明の実施の形態】
【0012】
本発明の第1の目的は、以下のものを含む摩擦材である。
20-30体積%の、1種以上の研磨材;
10から20体積%の、コークス;
10体積%までの、1種以上の金属硫化物;
20体積%までの、粉末状の1種以上の金属および/または金属合金および/または金属間化合物;
40体積%までの、アラミド繊維とスチール繊維を含む繊維状物質;
バインダとして、10体積%から20体積%の、フェノール樹脂;
10体積%までの、水酸化カルシウム、摩擦粉、PTFE、および蛍石から選択される1つまたは複数の充填材;
ここで、前記摩擦材は黒鉛を含まない。
【0013】
本発明のさらなる目的は、ディスクブレーキのディスクと協働するように意図された摩擦層を含むディスクブレーキ用パッドであって、前記摩擦層が上記で定義された摩擦材で作られている、パッドである。
【0014】
本発明の別の目的は、ディスクと、ディスクと協働することを意図された摩擦層からなるパッドとを含むディスクブレーキ用ブレーキシステムであって、前記摩擦層が以上で定義された摩擦材で作られているブレーキシステムである。
【0015】
前述の摩擦材組成物からなる摩擦層を有するパッドからなる本発明のブレーキシステムは、様々な温度および様々な相対湿度レベルにおいて、現象の強さおよびその持続時間の両方において、「クリープグローン」の有意な減少を示すことが驚くべきことに見出された。従って、本発明による摩擦材は、NVH挙動(騒音、振動および衝撃音)、ひいては車両の快適性レベルを改善するのに特に有効であることが証明された。
【0016】
本発明のさらなる特徴および利点は、非限定的な例として以下に示すいくつかの例示的な実施形態の説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の摩擦材Aおよび比較の摩擦材B、C、Dについて、材料中の黒鉛濃度、温度および相対湿度を変えて実施された「クリープグローン」現象の評価平均値(いわゆる「平均クリープグローンスコア」)に関連する「主効果プロット」図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の目的は、特定量の研磨材;コークス;金属硫化物;粉末状の金属および/または金属合金および/または金属間化合物;アラミド繊維およびスチール繊維;フェノール樹脂;水酸化カルシウム、摩擦粉、PTFEおよび蛍石(CAF)から選択される充填材を含むブレーキパッド用の、黒鉛を含まない摩擦材である。
【0019】
驚くべきことに、前記摩擦材が黒鉛を含まないことにより、「クリープグローン」現象がかなり低減され、無視できるようになることが見出された。同じ成分を同じ比率で含有し、黒鉛の量が増加する摩擦材は、「クリープグローン」現象がますます激しくなる。
【0020】
好ましくは、本発明による摩擦材は、黒鉛もグラフェンも含まない。
【0021】
本発明の摩擦材は、有利には、いわゆる「NAO」(「非アスベスト有機」)材料のクラスに属する。本発明の摩擦材は、好ましくは、いわゆる「低スチール」材料のクラスに属する。本発明の摩擦材は、好ましくは、いわゆる「銅を含まない」材料のクラスに属する。本発明の摩擦材は、好ましくは、アスベスト、重金属、銅およびそれらの合金を含まないか、または実質的に含まない。
【0022】
本発明の摩擦材は、20積%以上30体積%以下の量の1種以上の研磨材を含む。
【0023】
好ましくは、前記摩擦材は、21体積%以上30体積%以下、22体積%以上30体積%以下、23体積%以上30体積%以下、24体積%以上30体積%以下、25体積%以上30体積%以下、26体積%以上30体積%以下、27体積%以上30体積%以下、28体積%以上30体積%以下、29体積%以上30体積%以下の量の1種以上の研磨材を含む。
【0024】
好ましい実施形態において、前記1種以上の研磨材は、チタン酸カリウム、クロマイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、およびコランダムからなる群から選択される。
【0025】
この実施形態によれば、摩擦材は、チタン酸カリウム、クロマイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、およびコランダムのうちの少なくとも1つを研磨材として含む。
【0026】
好ましくは、前記摩擦材は、チタン酸カリウム、クロマイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素およびコランダムを研磨材として含む。
【0027】
前記摩擦材は、上述したものに加えて、例えば、ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、マイカ、タルク、カオリン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化鉄、ムライトから選択される、上述したものに加えて他の研磨材を含んでも含まなくてもよい。
【0028】
本発明の摩擦材は、10体積%以上20体積%以下の量のコークスを含む。
【0029】
好ましくは、前記摩擦材は、11体積%以上20体積%以下、12体積%以上20体積%以下、13体積%以上20体積%以下、14体積%以上20体積%以下、15体積%以上20体積%以下、16体積%以上20体積%以下、17体積%以上20体積%以下、18体積%以上20体積%以下、19体積%以上20体積%以下の量のコークスを含む。
【0030】
本発明の一実施形態において、前記摩擦材は、16体積%以上18体積%以下、または16体積%以上17体積%以下の量のコークスを含む。
【0031】
本発明の摩擦材は、10体積%までの1種以上の金属硫化物を含む。
【0032】
好ましくは、摩擦材は、5体積%以上10体積%以下、6体積%以上10体積%以下、7体積%以上10体積%以下、8体積%以上10体積%以下、9体積%以上10体積%以下の量の1種以上の金属硫化物を含む。
【0033】
一実施形態によれば、前記摩擦材は、硫化アンチモン(Sb)、硫化モリブデン(MoS)、硫化タングステン(WS)、硫化スズ(SnS、SnS)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化鉄(FeS)、硫化銅(CuS)、および混合硫化物から選択される1種以上の金属硫化物を含む。「混合硫化物」という表現は、2種類以上の金属の硫化物を示す。特に、「混合硫化物」という表現は、異なる原子価を有する金属の硫化物を示す。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、1種以上の金属硫化物は、FeSおよびSnSからなる群から選択される。
【0035】
本発明の実施形態によれば、前記摩擦材は、少なくともFeSおよびSnSを含む。
【0036】
本発明の摩擦材は、粉末状の1種以上の金属および/または粉末状の金属合金および/または粉末状の金属間化合物を20体積%まで含む。
【0037】
好ましくは、摩擦材は、粉末形態の1種以上の金属および/または粉末形態の金属合金および/または粉末形態の金属間化合物を、5体積%以上20体積%以下、5体積%以上15体積%以下、5体積%以上10体積%以下、6体積%以上10体積%以下、7体積%以上10体積%以下、8体積%以上10体積%以下、9体積%以上10体積%以下の量で含む。
【0038】
異なる実施形態によれば、金属間化合物は、二元金属間化合物または三元金属間化合物であり得る。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、摩擦材は、粉末形態の亜鉛および粉末形態のアルミニウムの少なくとも一方、好ましくは両方を、上記で定義した体積量で含む。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、摩擦材は、粉末形態の亜鉛、粉末形態のアルミニウム、および粉末形態の少なくとも1つの金属間化合物、好ましくは三元金属間化合物を、上記で定義した体積の量で含んでなる。摩擦材は、上記で定義したものに加えて、粉末形態の他の金属および/または金属合金および/または金属間化合物を含んでも含まなくてもよい。
【0041】
摩擦材は、粉末の形態のものに加えて、繊維の形態の金属および/または金属合金および/または金属間化合物を含んでいてもよい。
【0042】
本発明の摩擦材は、アラミド繊維およびスチール繊維を含む繊維状物質を40体積%まで含んでなる。
【0043】
好ましくは、摩擦材は、最大30体積%、または最大20体積%、または最大10体積%の前記繊維質材料を含む。例えば、摩擦材は、5体積%以上10体積%以下、6体積%以上10体積%以下、7体積%以上10体積%以下、8体積%以上10体積%以下、9体積%以上10体積%以下の量の前記繊維質材料を含む。
【0044】
一実施形態によれば、繊維状物質は、アラミド繊維及びスチール繊維からなる。
【0045】
代替的な実施形態によれば、繊維状物質は、アラミド繊維及びスチール繊維に加えて、例えば炭素繊維、アクリル繊維、ロックウール、岩石繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、鉱物繊維、ウォラストナイト、銅繊維、亜鉛繊維、錫繊維、青銅繊維、真鍮繊維、鉄繊維などの有機繊維及び/又は無機繊維及び/又は金属繊維をさらに含んでいてもよい。
【0046】
本発明の摩擦材は、バインダとして10-20体積%のフェノール樹脂を含む。
【0047】
好ましくは、摩擦材は、15体積%以上20体積%以下、16体積%以上20体積%以下、17体積%以上20体積%以下、18体積%以上20体積%以下、19体積%以上20体積%以下の量のフェノール樹脂を含む。好ましくは、前記摩擦材は、17体積%以上19体積%以下、または17体積%以上18体積%以下の量の前記フェノール樹脂からなる。
【0048】
本発明の摩擦材は、水酸化カルシウム、摩擦粉、PTFE、および蛍石からなる群から選択される1種以上の充填材を10体積%まで含んでなる。「摩擦粉」という表現は、カシュー殻に由来する液体を架橋し、その後粉砕することによって得られる粉末を示す。
【0049】
好ましくは、摩擦材は、5体積%以上10体積%以下、6体積%以上10体積%以下、7体積%以上10体積%以下、8体積%以上10体積%以下、9体積%以上10体積%以下の量の前記1種以上の充填材を含む。
【0050】
一実施形態によれば、摩擦材は、体積比で前述の量の充填材として、水酸化カルシウム、摩擦粉、PTFEおよび蛍石を含む。
【0051】
本発明の具体的な実施形態において、摩擦材は、以下のものを含む。
28から30体積%、好ましくは約29体積%の、チタン酸カリウム、クロマイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素およびコランダムを研磨材;
16から18体積%、好ましくは約17体積%の、コークス;
8から10体積%、好ましくは約9体積%の、FeSとSnS;
8から10体積%、好ましくは約9体積%の、粉末状の亜鉛、粉末状のアルミニウム、および好ましくは粉末状の少なくとも1種の金属間化合物、例えば前記金属間化合物は三元系;
5から10体積%、好ましくは約8体積%の、アラミド繊維とスチール繊維からなる繊維状物質;
17から 19体積%、好ましくは17から18体積%の、フェノール樹脂;
8から10体積%、好ましくは9から10体積%の、水酸化カルシウム、摩擦粉、PTFEおよび蛍石を充填材。ただし、前記組成物は黒鉛を含まない。
【0052】
本発明の摩擦材は、有利には、前記成分を上記で規定した量で均一に混合することにより得られる。
【0053】
本発明のさらなる目的は、ディスクブレーキのディスクと協働するように意図された摩擦層を含むディスクブレーキ用パッドであって、摩擦層が上記で定義された摩擦材で作られているパッドである。
【0054】
摩擦層は、ディスクブレーキのディスクと協働するように意図された摩擦活性表面からなる。
【0055】
好ましくは、前記ディスクブレーキ用パッドに含まれる摩擦層は、適当な金型内で成形するステップを経て得られる。好ましくは、前記成形ステップは、1-6バール、より好ましくは2-5バール、例えば約3バールの圧力で行われる。好ましくは、前記成形ステップは、120-180℃、より好ましくは140-160℃、例えば約150℃の温度で実施される。好ましくは、前記成形ステップから得られる摩擦層は、100-300℃の間の温度で1-20時間の間の時間、熱処理による後硬化に供される。その後、必要であれば、「スコーチング」と呼ばれる第2の表面熱処理および任意の機械的機械加工を施すことができる。
【0056】
好ましくは、本発明のディスクブレーキパッドは、ベース金属プレートと、該プレートと摩擦材との間に介在する基材(または下地層)とをさらに備える。好ましくは、前記摩擦材、下地層およびプレートは、上述のプロセスを用いて一緒に成形され、これによりパッドが得られる。
【0057】
本発明の別の目的は、ディスクと、前記ディスクと協働するように意図された上記定義のパッドとを含むディスクブレーキ用ブレーキシステムである。
【0058】
実験
【0059】
摩擦材A、B、C、Dを準備した。摩擦材Aは本発明によるものであり、表1に示す組成で調製した。摩擦材B、C、Dは比較例として調製したものであり、材料Aの組成の体積に対して増加する量(体積%)の黒鉛を含む。
特に、
摩擦材Aは黒鉛を含まない;
摩擦材Bは、材料Aの組成物の体積に対して3%の量の黒鉛を含む;
摩擦材Bは、材料Aの組成物の体積に対して5%の量の黒鉛を含む;
摩擦材Bは、材料Aの組成物の体積に対して11%の量の黒鉛を含む。
【0060】
【表1】

【0061】
摩擦材Aは、ローラ台上で、路面勾配のレベルを変化させ(下り坂、上り坂ともに5%、10%、15%、20%)、平衡状態から始まる圧力ランプを減少させることにより、参照材B、C、Dに対して評価された。
【0062】
各試験は、ブレーキシステムの温度レベル(-20℃から+250℃まで)および試験室の温度と湿度条件を2段階に変化させた試験マトリックスに従って実施した:
- 温度:15℃、-30
- 相対湿度:10%、90
【0063】
次に、各摩擦材A、B、C、Dを以下の試験条件で試験した:
1) 15℃、湿度10%(高温乾燥);
2) 15℃、湿度90%(高温多湿);
3) -30℃、湿度10%(低温乾燥);
4) -30℃、湿度90%(冷湿)。
【0064】
摩擦材A、B、C、Dの評価は、検出された「クリープグローン」現象の強度と持続時間を考慮した関数によって、前述の温度および湿度条件下で試験した材料に2-10のスコア(いわゆるクリープグローンスコア)を割り当てることによって実施した。スコアが高いほど「クリープグ ローン」現象が減少していることを示します。
【0065】
表2は、4つの試験条件下で材料A、B、C、Dについて得られたクリープグルーンスコアをまとめたものである。
【0066】
【表2】

【0067】
上記の表から明らかなように、摩擦材A(本発明による)は、すべての試験条件下で最も高いスコアを示した。これは、材料中に黒鉛が存在しないことにより、「クリープグローン」現象が大幅に減少することを示している。
【0068】
比較材料B、C、Dは、すべての試験条件下でスコアが低く、黒鉛含有量が増加するにつれてスコアが低下する。前記スコアの減少は、「クリープうなり」現象の強度と持続時間の増加を示す。
【0069】
試験条件に対する黒鉛含有量の影響は、図1に示す「主効果プロット」図にも示されている。これは、「クリープグローン」現象に影響を及ぼす制御パラメータ、すなわち黒鉛含有量、温度、および相対湿度が変化するにつれて、評価の平均値(「平均クリープグローンスコア」)を関連付けるものである。
【0070】
図1の図は、低温、高相対湿度、黒鉛の存在による悪化効果(すなわち、スコアの減少)を示している。特に、黒鉛の濃度が評価に関して最も重要な要因であることに注目されたい。実際、濃度を0~11体積%に変化させると、2.5を超えるスコアの変化が生じる。また、黒鉛の減少に伴うスコアの増加が、濃度の関数としていかに漸進的であるかが注目される。
【0071】
これまで述べてきたことは、本発明の特定の一実施形態に過ぎないことは明らかである。当業者であれば、添付の特許請求の範囲に定義された保護範囲から逸脱することなく、特定の条件に適合させるために、材料、パッド、およびブレーキシステムに必要なすべての変更を加えることができるであろう。
図1
【国際調査報告】