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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】電解槽
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/60 20210101AFI20241031BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20241031BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241031BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241031BHJP
【FI】
C25B9/60
C25B9/19
C25B13/08 301
C25B1/04
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529837
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-20
(86)【国際出願番号】 GB2022053019
(87)【国際公開番号】W WO2023099877
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】2117308.3
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522425699
【氏名又は名称】ブランブル エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】メイスン、トーマス ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー、マクシミリアン
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021CA01
4K021DB18
4K021DB36
(57)【要約】
【解決手段】第1のPCBプレート202および導電性基板220を備えたカソード構造体と、第2のPCBプレート204および導電性基板220を備えたアノード構造体と、カソード構造体202とアノード構造体204との間に配置された陰イオン交換膜218と、2つの輸送層214、216と、電解液を電解槽に供給するための少なくとも1つの流体経路と、を備え、輸送層の一方216は、アノード構造体204と陰イオン交換膜218との間に配置され、輸送層の他方214は、カソード構造体202と陰イオン交換膜218との間に配置されることを特徴とする電解槽200。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽であって、
第1のPCBプレートおよび導電性基板を備えたカソード構造体と、
第2のPCBプレートおよび導電性基板を備えたアノード構造体と、
前記カソード構造体と前記アノード構造体との間に配置された陰イオン交換膜と、
2つの輸送層と、
電解液を前記電解槽に供給するための少なくとも1つの流体経路と、
を備え、
前記輸送層の一方は、前記アノード構造体と前記陰イオン交換膜との間に配置され、
前記輸送層の他方は、前記カソード構造体と前記陰イオン交換膜との間に配置されることを特徴とする電解槽。
【請求項2】
前記第1のPCBプレートおよび/または前記第2のPCBプレートは、
各PCBプレート上に配置された銅めっき層と、
前記銅めっき層の上に配置されたニッケルめっき層と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の電解槽。
【請求項3】
前記カソード構造体および前記アノード構造体の導電性基板は、銅および/もしくはニッケル、または銅および/もしくはニッケルの合金、好ましくはニッケル被覆銅、ENIG被覆銅、導電性エポキシ被覆銅、HASL被覆銅、ニッケル-リン被覆銅もしくは炭素被覆銅のいずれかを含むことを特徴とする請求項2に記載の電解槽。
【請求項4】
前記第1のPCBプレートおよび前記第2のPCBプレートの少なくとも一方は、電解液の流体流路を構成するように流路が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電解槽。
【請求項5】
少なくとも1つの流体流路が少なくとも1つの前記PCBプレート内に形成され、
前記流体流路は、前記PCBプレート内に掘られた流路または溝であり、
前記掘られた流路または前記溝は、前記PCBプレートの深さ全体を通して貫通していないことを特徴とする請求項4に記載の電解槽。
【請求項6】
前記流体流路は、電解液を、前記第1のPCBプレートおよび前記第2のPCBプレート上の銅めっき層の上に配置されたニッケルめっき層に導くことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の電解槽。
【請求項7】
前記第1のPCBプレートおよび前記第2のPCBプレートは、各PCBプレートを貫通するように穿孔された少なくとも1つの流体入口および少なくとも1つの流体出口を有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の電解槽。
【請求項8】
前記流体出口は、前記流体入口と同じ大きさであることを特徴とする請求項7に記載の電解槽。
【請求項9】
前記電解液は、KOHおよび/またはNaOHを含むことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の電解槽。
【請求項10】
陰イオン交換膜電解槽であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の電解槽。
【請求項11】
前記輸送層は多孔性輸送層であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の電解槽。
【請求項12】
前記輸送層は、触媒を含み、
前記カソード構造体側の触媒は、MoCa、Ptブラック、Pt/C、Ni-Moまたはこれらの金属の合金のいずれかを含み、
前記アノード構造体側の触媒は、NiFe、酸化イリジウム、銅コバルト酸化物またはニッケルコバルト酸化物のいずれかを含むことを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の電解槽。
【請求項13】
前記輸送層は、フェルト状ニッケル、メッシュ状ニッケル、ニッケルフォーム状ニッケル、またはニッケルもしくはジルコニウムの合金を含むことを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の電解槽。
【請求項14】
前記陰イオン交換膜は、Fuma-tech fumasep、Dioxide Materials Sustainion、Orion polymer membranes、Xergy、Ionomr AemionまたはTokuyama A201を含むことを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の電解槽。
【請求項15】
前記電解槽は、エンドプレートおよび/または集電プレートをさらに備えることを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の電解槽。
【請求項16】
前記電解槽はハウジングをさらに備えることを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の電解槽。
【請求項17】
前記電解槽は、電解液の流体の流れに適したアノードチャンバとカソードチャンバとをさらに備えることを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の電解槽。
【請求項18】
前記電解槽は、好ましくは、温度上昇下でPCBプレート間のシール層を熱接着することにより積層されることを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載の電解槽。
【請求項19】
水素を製造するための電解槽装置であって、請求項1から18のいずれかに記載の電解槽を備える電解槽装置。
【請求項20】
水素を製造するための電解槽装置であって、請求項1から18のいずれかに記載の電解槽を複数積層してなることを特徴とする電解槽装置。
【請求項21】
請求項1から18のいずれかに記載の電解槽、または請求項19もしくは請求項20に記載の電解槽装置の使用。
【請求項22】
請求項1から18のいずれかに記載の電解槽、または請求項19もしくは請求項20に記載の電解槽装置を使用して水素を生成する方法。
【請求項23】
電解槽の製造方法であって、電解槽を形成するために2枚以上のプリント基板を積層するステップを含む方法。
【請求項24】
電解槽の電極としてのPCBプレートの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解槽、AEM電解槽、水素製造用AEM電解槽装置、電解槽スタック、水素の製造または生成のための電解槽および電解槽スタックの使用、水素の生成方法、電解槽の製造方法、電解槽および電解槽システムにおけるPCBプレートの使用に関する。
【0002】
本開示は、水素生成、特にグリーン水素生成に特に適用される。
【背景技術】
【0003】
電解槽は電気分解を行う装置であり、電解液が電極での化学反応の一部として分解され、電極を介して電解液に通される電流によって駆動される。電流がなければ、反応は自然発生しない。
【0004】
電解質はイオン化により分解する。電解質は、自由イオンを含み、電流を流す化学物質である(イオン伝導性ポリマー、溶液、イオン液体化合物など)。イオンの自由な流れが必要なため、固体物質では電気分解は起こらない。そのため、電解質には、
i)溶融または溶融状態のもの
ii)イオン性化合物と溶媒(水など)との溶媒和または反応により、必要な移動性イオンを生成した水溶液
iii)水
などがある。例えば、溶融NaClの電気分解では、アノードで塩素ガスが発生し、カソードで金属ナトリウムの析出物が形成される。例えば、水の電気分解では、カソードで水素の気泡が形成され、アノードで酸素の気泡が形成される。
【0005】
電極は、電源に接続され、電解液に浸される。各電極は反対の電荷のイオンを引き付け、結果的に電子は、反応物としてカソードで導入され、生成物としてアノードで除去される。電極は通常、グラファイト、金属、半導体材料で、コスト、供給量、選択する電解液との反応レベルに応じて選択する。一般には、グラファイトやプラチナなどの非反応性または低反応性の材料が選択される。
【0006】
2つの電解技術が特に普及しており、グリーン水素製造をより大規模に実施するための有望技術として注目されている。アルカリ水電解(AWE)とプロトン交換膜電解(PEMWE)である。AWEは電解質としてアルカリ溶液を使用し、PEMWEは固体膜電解質を利用する。通常、AWEは低い電流密度と圧力でしか作動できないという欠点がある。一方、PEMWEは高い負荷で作動でき、エネルギー密度と効率が高い。しかし、PEMWEは通常AWEよりはるかに高価である。
【0007】
プロトン交換膜(PEM)水電解(PEMWE)は、固体高分子電解質(SPE)を有するシステムまたは装置での水の電気分解である。SPEはアノードとカソードとの間に位置する。プロトン交換膜(または高分子電解質膜、PEM)は、一般的に膜全体でプロトンを伝導できるアイオノマーから作られた膜である。PEMはまた、アノードとカソードを電気的に絶縁し、反応物や生成物(水や生成ガス、HやOなど)に対するバリアとしても機能する。
【0008】
PEM電解技術に代わる技術として、陰イオン交換膜(AEM)電解技術、AEM電解槽がある。陰イオン交換膜(AEM)は、一般にアイオノマーから作られる膜で、陽イオン交換膜(PEM)がプロトンを膜全体で伝導するのと同様に、陰イオン(水酸化物陰イオン交換膜のOHイオンなど)を膜全体で伝導することができる。また、アノードとカソードとを分離し、アノードとカソードを互いに電気的に絶縁し、反応物と生成物(水や生成ガス、HやOなど)を遮断する役割も果たす。AEM型電解槽は通常、弱アルカリ性環境(pH~10)で作動し、例えば、1%水酸化カリウム(KOH)水電解液を使用する。AEM型電解槽は、AEMのいずれかの側に触媒含有層または触媒が存在し、AEMのいずれかの側にガス拡散層(GDL)または輸送層が触媒含有層を覆うか、または触媒含有層から構成される。
【0009】
AEM型電解槽では、水がカソード側、アノード側、またはアノード側およびカソード側の両方に供給され、外部回路から供給される電力によって電解質と電極との界面に電位差が生じる。これにより、電子(e)移動(例:4HO+4e→4OH+2H)によって水素発生反応(HER)が促進される。HERで生成された水酸化物イオンOHは、AEMを横切って移動し、AEM型電解槽のアノード側で反応し、酸素発生反応(OER)で消費される。
4OH→2HO+O+4e
電解液中のOHレベルは一定に保たれ、KOHを追加することなく常に水を供給することができる。
【0010】
AEM電解技術は、非貴金属触媒を利用することでコスト効率が高いだけでなく、PEM技術に匹敵する高いエネルギー密度と効率を達成できる。このため、PEMとAWEの利点を併せ持つ。
【0011】
PEM電解と比較して、AEM電解は腐食環境も少ないため、触媒やフローフィールドプレートなどの他の部品に安価な金属を使用することができる。PEM電解槽は通常、腐食性の高い酸性環境で腐食しないよう、白金族金属触媒と高価なチタン製バイポーラ・プレートを必要とする。
【0012】
アルカリ電解と比較すると、AEM電解はエネルギー密度が高く、効率はPEM技術に匹敵する。さらに、よりコンパクトな固体電解質を使用することで、AEM電解槽はAWE電解槽よりもコンパクトになり、積み重ねることでより高い電流密度を得ることができる。AEM電解槽は応答時間も速く、再生可能エネルギー源と併用する場合に有益である。より希薄なアルカリ溶液の使用は、安全面でも利点があり、pH14の電解質を使用する必要がないため、陰イオン交換膜(AEM)電解技術はアルカリ電解よりも安全である。AEM電解は、電極上での炭酸塩の沈殿も起こりにくい。
【0013】
図1は、AEM型電解槽102とその周辺に設置されたシステム100を示す。システム100は、AEM型電解槽102を備える。電解槽102は、カソード104の半分とアノード106の半分から構成される。電解槽102には電源108が供給され、電解反応の駆動に必要な電力を供給する。ヒーター110は、電解槽102を加熱して電解速度を高める。熱交換器112は、さまざまな流体から熱を回収して電解槽102の性能を最適化する。ダイヤフラムポンプ114は、システム100の周囲で流体を移動させ、電解槽102から発生するガスを加圧する働きをする。液体-ガス分離器116は、生成ガスを液体電解質/水から分離し、水素122と酸素124とを分離する。生成ガスである水素122と酸素124は、圧力を調整するために圧力調整弁120を通過する。必要に応じて、圧力逃がし弁118も存在する。液体-ガス分離器116から、水素を貯蔵し、加圧し、必要な場所に輸送することができる。
【0014】
AEM電解は、効率的なエネルギー変換および貯蔵を可能にするため、再生可能エネルギー分野で有望視されている。アルカリ性環境、特にAWE技術に利用されている環境よりも弱い環境は、このようなプロセスが発生する運転条件下で、化学的安定性が良好な広範囲の材料に適している。グリーン水素は、電解によって水を水素と酸素とに分離し、場合によっては再生可能資源から発電された電力を使用して製造することができる。アルカリ電解槽は、燃料電池用の水素を生成することができる。
【0015】
AEMは新興技術であり、ネット・ゼロ経済におけるグリーン水素の必要性を考えると、製造規模の拡大が重要である。
【0016】
現在のAEM電解槽は、一般的に数層からなる金属プレートでできている。規模を拡大して製造するには高価であり、カスタマイズ性にも欠ける。このような電解槽の効率を向上させる必要があり、その結果、電解槽の普及が進むはずである。電解槽の効率を向上させる手段があれば、業界は歓迎するだろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のことから、改良された効率的で拡張可能なAEM技術を提供することが望まれる。また、改良されたAEM電解槽、改良された水素生成方法、および改良されたAEM電解槽の製造方法を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の態様によれば、電解槽が提供される。この電解槽は、第1のPCBプレートおよび導電性基板を備えたカソード構造体と、第2のPCBプレートおよび導電性基板を備えたアノード構造体と、カソード構造体とアノード構造体との間に配置された陰イオン交換膜と、2つの輸送層と、電解液を電解槽に供給するための少なくとも1つの流体経路と、を備える。輸送層の一方は、アノード構造体と陰イオン交換膜との間に配置される。輸送層の他方は、カソード構造体と陰イオン交換膜との間に配置される。好ましくは、電解槽は、水素製造用の陰イオン交換膜電解槽である。
【0019】
現在および既知のAEM型電解槽は、一般に、複数の層で形成された金属プレートでできている。これらの電解槽は、製造コストが高く、カスタマイズ性に欠ける。
【0020】
驚くべきことに、本発明者らは、PCBを利用して高性能の電解槽を製造できることを発見した。本発明のアルカリ電解槽の構造は、PCB構造というユニークなものである。これは、供給の観点から製造上明らかに有利である。1cm当たりの製造コストは、例えば金属電解槽のような従来技術の電解槽よりも大幅に低くなる。これらの電解槽は、材料や製造装置に変更を加えることなく、PCBラインで製造することができる。プレートは大量生産が容易である。プレートを積み重ねたり、穴を開けたりすることができるなど、プレートには有利な製造技術が存在する。アノード構造体およびカソード構造体に同じプレート設計を使用でき、製造に有利である。また、金属めっきの層や位置、流路など、異なるプレート設計を本実施の形態に適用することもできる。
【0021】
PCB製造技術は、従来の製造技術よりもはるかにカスタマイズ可能であるため、さまざまな状況に合わせて電解槽の設計を特注およびカスタマイズできる。設計は迅速に変更できる。
【0022】
本明細書に記載の電解槽は、アルカリ電解槽の典型的な動作温度、例えば50℃~80℃で動作可能である。
【0023】
さらに、従来の当技術分野の電解槽は、機械的な密閉を備えたかさばる金属製である。本明細書で説明する電解槽は軽量であり、これは特定の用途において特に有利である。また、複雑で高価な機械的封止技術を必要としない。このため、本明細書で説明するPCB電解槽は積層することができる。本明細書で説明するPCB電解槽は、本明細書で説明するように、例えばプリプレグで封止することができる。
【0024】
アルカリ電解槽の製造にPCBプレートを使用することにより、圧縮封止を使用した本質的に封止された設計が可能になる。これにより、電解槽の製造が容易になり、安全性も向上する。
【0025】
また、現在知られているAEM型電解槽では効率の問題があるが、本設計とフローフィールド設計の迅速な反復能力により対処できる。
【0026】
好ましくは、第1のPCBプレートおよび/または第2のPCBプレートは、各PCBプレート上に配置された銅めっき層を含み、銅めっき層の上に配置されたニッケルめっき層を含む。これは、電流が流れるように導電性でなければならないため、「集電体」層と呼ばれることがある。銅ではなく、銅の代わりに機能する層、コーティング、蒸着、集電層を追加してもよい。後の実施例で述べるように、ニッケルはKOH中での安定性が増すことが本発明者らによって見出された。
【0027】
好ましくは、カソード構造体およびアノード構造体の導電性基板は金属からなる。好ましくは、銅および/またはニッケル、または銅および/またはニッケルの合金であり、好ましくは、ニッケル被覆銅、ENIG被覆銅、導電性エポキシ被覆銅、HASL被覆銅、ニッケル-リン被覆銅、または炭素被覆銅である。
【0028】
好ましくは、第1のPCBプレートおよび第2のPCBプレートの少なくとも一方は、電解液の流体流路を構成するように流路が設けられている。この流路は、PCBプレート内に深さ方向に掘られた流路であってもよい。好ましくは、少なくとも1つの流体流路は、流路または溝がPCBプレートの深さ全体を通して貫通しない。このように、PCBプレート内に流路または溝が形成されるように、少なくとも1つのPCBプレート内に流体流路が形成される。これにより、電解液は、所望の反応領域(輸送層と接触)への流路またはチャネルに導かれるが、電解槽から流出したり、不要な方向/領域に流出したりすることはない。PCBプレートを製造し、所望のカスタマイズ可能な深さの流路を持つようにカスタマイズできることは、このPCB技術の利点である。好ましくは、流体流路は、第1のPCBプレートおよび第2のPCBプレート上の銅めっき層の上に配置されたニッケルめっき層に電解液を導く。
【0029】
好ましくは、少なくとも1つの流体流路が少なくとも1つのPCB層内に形成される。この流体流路は、PCBプレート内に掘られた流路または溝である。掘られた流路または溝は、PCBプレートの深さ全体を通して貫通していない。
【0030】
好ましくは、流体流路は、電解液を、第1のPCBプレートおよび第2のPCBプレート上の銅メッキ層の上に配置されたニッケルメッキ層に導く。
【0031】
好ましくは、第1のPCBプレートおよび第2のPCBプレートは、各PCBプレートを貫通するように穿孔された少なくとも1つの流体入口および少なくとも1つの流体出口を有する。好ましくは、流体出口は、流体入口と同じ大きさである。
【0032】
好ましくは、電解液は、KOHおよび/またはNaOHを含む。
【0033】
好ましくは、輸送層は多孔性輸送層である。好ましくは、輸送層は触媒を含む。好ましくは、カソード構造体側の触媒は、MoCa、Ptブラック、Pt/C、Ni-Moまたはこれらの金属の合金のいずれかを含む。アノード構造体側の触媒は、NiFe、酸化イリジウム、銅コバルト酸化物またはニッケルコバルト酸化物のいずれかを含む。好ましくは、輸送層は、フェルトとしてのニッケル、メッシュとしてのニッケル、またはニッケルフォーム、またはニッケルもしくはジルコニウムの合金のいずれかを含む。
【0034】
好ましくは、アノード輸送層およびカソード輸送層は、PCBプレートの集電領域に隣接して配置される。
【0035】
好ましくは、陰イオン交換膜は、Fuma-tech fumasep、Dioxide Materials Sustainion、Orionポリマー膜、Xergy、Ionomr AemionまたはTokuyama A201を含む。
【0036】
好ましくは、電解槽は、エンドプレートおよび/または集電プレート/集電体をさらに備える。これらは、アノード構造体およびカソード構造体の両側に配置され、電解槽を包囲または収容することができる。
【0037】
好ましくは、電解槽はハウジングをさらに備える。ハウジングには、本明細書で説明する構成要素、他の構成要素、または電解槽を他の電解槽やより広範なシステム構成要素に連結する手段を収容してもよい。ハウジングは、エンドプレートまたは集電体であってもよいし、エンドプレートまたは集電体を含んでもよい。
【0038】
好ましくは、電解槽は、電解液の流体の流れに適したアノードチャンバとカソードチャンバとをさらに備える。これらのチャンバは、本明細書に記載されるようなPCBプレートの深さ方向流路によって、任意選択で、本明細書に記載される他の構成要素およびシーリングと組み合わせて、チャンバを囲むように形成されてもよい。
【0039】
好ましくは、電解槽は、最大50kW、好ましくは最大40kW、好ましくは最大30kW、好ましくは最大20kW、好ましくは最大10kW、好ましくは最大5kW、好ましくは最大4kW、好ましくは最大3kW、好ましくは最大2kW、好ましくは最大1kWの消費電力を有する。さらに好ましくは、各電解槽は、1kW~5kW、好ましくは1kW~10kW、好ましくは1kW~15kW、好ましくは1kW~20kW、好ましくは1kW~30kW、好ましくは1kW~40kW、好ましくは1kW~50kWの消費電力を有する。好ましくは、本明細書に記載のサイズの複数の電解槽を積み重ねることで、例えば最大30kWの総消費電力を有することができる。
【0040】
好ましくは、電解槽は、温度上昇下でPCBプレート間のシール層を熱接着することにより、積層される。例えばエポキシ樹脂プリプレグを用いたラミネーションは、反応液の分配を損なうことなく、電解槽の性能を維持する上で重要な要素である層の圧縮を維持することができる。
【0041】
さらなる態様によれば、水素を製造するための電解槽装置が提供される。好ましくは、この電解槽装置は、上記の電解槽または本明細書の他の箇所に記載された電解槽を備える。
【0042】
さらなる態様によれば、水素を製造するための電解槽装置が提供される。好ましくは、この電解槽装置は、上記の電解槽または本明細書の他の箇所に記載された電解槽を複数個備える。
【0043】
この電解槽装置は、電解槽スタックであってもよい。このスタックは、より大きな水素生成速度を生成するために、スタックとして配置された本明細書に記載の複数の電解槽セルを含んでもよい。このようなスタックは、2セルから200セルの間、より典型的には8セルから100セルの間のセルを含むことができる。このようなスタックは、ハウジングを含んでもよい。このようなスタックは、エンドプレートおよび/または集電体を備えてもよい。このようなスタックは、スタックの動作を制御する電子手段、または他のこのような電気モジュールもしくは制御モジュールおよび/もしくは構成要素を含んでもよい。
【0044】
さらなる態様によれば、水素を生成するために、本明細書もしくは上記で説明した電解槽、または本明細書もしくは上記で説明した電解槽装置もしくはスタックのいずれか1つの電解槽の使用が提供される。
【0045】
さらなる態様によれば、水素を生成する方法が提供される。この方法は、水素を生成するために、本明細書もしくは上記に記載の電解槽のいずれか1つの電解槽、または本明細書もしくは上記に記載の電解槽装置もしくはスタックを使用することを含む。
【0046】
さらなる態様によれば、電解槽の製造方法が提供される。この方法は、2枚以上のPCB基板を積層して電解槽を作製するステップを含む。
【0047】
好ましくは、プレートと電解槽構成部品は、一緒に封止されて電解槽を形成してもよい。プレートは、公知のPCB封止方法を使用して一緒に封止されてもよく、例えばPCBプレートはエポキシ樹脂プリプレグ(本明細書では単に「プリプレグ」と呼ぶこともある)で封止されてもよい。電解槽の構造では、異なる層の間にプリプレグの層を設けて部品を封止し、その後、層を積層してもよい。
【0048】
プリプレグのようなシール材を使用し、PCB材料を使用することで、電解槽は、内部の電解槽構成部品に直接隣接するPCB基板(アノード構造体やカソード構造体など)の流入口/流路/流れ場によって、電解槽構成部品に意図的に向けられないものから確実にシールされる。これはPCB技術の利点であり、このような構造を迅速、簡単、安価に構築できる。また、例えばエポキシ樹脂プリプレグを用いたラミネーションを使用することで、反応液の分配を損なうことなく、電解槽の性能を維持する上で重要な要素である層の圧縮を維持することができる。
【0049】
好ましくは、特注の加熱、冷却、加圧、洗浄サイクルに加えて、材料の注意深い予備切断と位置合わせを含んでもよい。
【0050】
好ましくは、特に高圧で作動する電解槽には、電解槽を密封するためにメカニカルシールを追加的に使用してもよい。
【0051】
好ましくは、シールする前に、プレートにめっき貫通孔を開け、入口孔と出口孔を開けるか、ボルト締め用の孔を開けてもよい。
【0052】
好ましくは、本明細書に記載される電解槽が運転され得る高圧および/または温度のために、プリプレグに代わるシーラントが使用されてもよい。例えば、エチレンプロピレンジエンゴムモノマー(EPDM)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはフルオロエラストマーが使用されてもよい。
【0053】
さらなる態様によれば、電解槽における電極としてのPCBプレートの使用が提供される。好ましくは、この電解槽は水素を生成する。好ましくは、この水素はここに記載された規模で製造される。
【0054】
さらなる態様によれば、電解槽におけるPCBプレートの使用が提供される。好ましくは、この電解槽は水素を生成する。好ましくは、この水素はここに記載された規模で製造される。
【0055】
さらなる態様によれば、本明細書または上記に記載の電解槽、または本明細書または上記に記載の電解槽装置もしくはスタックのいずれか1つの電解槽を含む電解槽システムが提供される。本システムは、電解反応を駆動するのに必要な電力を供給する電源を含んでいてもよい。システムは、電解槽を加熱するためのヒーターを含んでもよい。システムは、電解槽の性能を最適化するためなどに、様々な流体から熱を回収するための熱交換器を含んでいてもよい。システムは、スタックを冷却するための1つ以上の手段を含んでいてもよい。システムは、流体をシステム内で移動させ、および/または電解槽から生成されたガスを加圧するためのポンプを含んでいてもよい。これは、ダイヤフラムポンプまたは他のポンプであってもよい。システム内またはシステム内の電解槽は、電解槽から発生する気体を自己加圧することができる。これは、電解液が電解槽のガスが発生しない側で圧送される場合である。生成されるガスの圧力は、例えば最大30バールまたはそれ以上である。システムは、生成ガスを液体電解質/水から分離するための液体-ガス分離器、例えば水素と酸素とを分離するための液体-ガス分離器を含んでいてもよい。システムは圧力調整弁を含んでいてもよく、生成ガスである水素と酸素は圧力を調整するために圧力調整弁に通される。システムはまた、圧力逃し弁を含んでいてもよい。液体-ガス分離器から、水素を貯蔵し、加圧し、および/または必要な場所に輸送することができる。システムは、水分を吸収するためのドライヤーを含んでいてもよい。システムは、水素または他のガスを貯蔵する手段を含んでいてもよい。好ましくは、この電解槽は水素を生成する。好ましくは、この水素はここに記載された規模で製造される。
【0056】
好ましくは、記載された第1の電解槽の態様の構成要素のいずれもが、本明細書に記載された他の態様に適用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
次に、本開示の具体的な実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
図1】電解槽システムの概略図である。
図2】AEM電解槽の概略的な例示的実施の形態を示す図である。
図3】例示的なPCBプレートを示す図である。
図4】エンドプレートおよび集電体を備えた電解槽を示す図である。
図5】電解槽システムの一部としてのAEM型電解槽を示す図である。
図6】PCB AEM型電解槽の分極曲線を示す図である。
図7】異なる濃度と温度におけるPCB AEM電解槽の分極曲線を示す図である。
図8】60℃での基準分極曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、添付図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。同一の参照符号は、本発明の異なる図および実施の形態における同一または類似の特徴を示すが、これは参考のためであり、本発明を限定するものではない。以下の詳細な説明では、関連する教示を十分に理解するために、多数の具体的な詳細を例として示す。しかしながら、本教示は、これらの具体的な詳細がなくても実施され得ることは、当業者には明らかであろう。
【0059】
図2は、実施の形態による電解槽200または電解槽セル200を示す。これは、25cmのPCB AEM型電解槽である。電解槽200は、本明細書で説明するように、KOH電解質溶液中で使用するためのニッケル被覆PCBプレートを備えたスタッカブルPCB電解槽である。
【0060】
電解槽200は、カソード構造体202およびアノード構造体204である2枚のPCBプレート202、204から構成される。これらのPCBプレートは、電解槽200の他の構成要素を挟んでいる。これらは、電解槽のカソードおよびアノードとして機能する。
【0061】
本明細書で説明する本実施の形態および他の実施の形態では、PCBプレートは公知の方法で製造することができる。絶縁コア層は、FR-1、FR-2、FR-3、FR-4、FR-5、FR-6、CEM-1、CEM-2、CEM-3、CEM-4、CEM-5、ポリテトラフルオロエチレン、G-10などの誘電体基板で作られてもよく、好ましくはコア層はFR-4で作られるか、またはFR-4から作られる。層は、エポキシ樹脂プリプレグで貼り合わせてもよい。導電性領域またはPCBプレート間の導通を得るために、銅の薄層を絶縁基板全体に塗布し、所望の導電性パターンを保持するためにマスクを使用してエッチング除去するか、または電気めっきによって塗布してもよい。PCBプレートは、めっきスルーホール(PTH)を有していてもよく、これは、プレートのある面から別の面への電流の伝導を可能にする銅スルーホールである。
【0062】
実施の形態において、PCB材料は、本明細書に記載される電解槽が動作するアルカリ性条件下での安定性を改善するためのコーティングから利益を得ることができる。PCB製造において最も一般的に使用される金属である銅は、PCB内の異なる層にわたって電流を伝導するために使用されることが多いが、アルカリ溶液中、特に高電位において腐食する。そのため、銅は何らかの方法で保護する必要がある。PCBコンポーネント、特に銅が露出した部分は、銅の上にさらに層をコーティングしたり、めっきしたりする。これは「電流コレクタ」層と呼ばれるもので、電流を流すためには導電性でなければならないからである。銅ではなく、銅の代わりになるような層、コーティング、蒸着、集電層を追加してもよい。後の実施例で述べるように、本発明者らによって、ニッケルはKOH中での安定性が向上することが見出された。電解槽200に使用される正極集電体層は、ニッケルめっき銅である。電解槽200に使用される負極集電体層は、ニッケルめっき銅である。これらのプレート202、204は、FR4シートシートの両面に銅をめっきし、その片面(または両面)にニッケルをめっきしたものである。
【0063】
アノードの場合、この追加層、コーティング、堆積物、集電層は、ニッケル、ニッケル合金、ニッケルコーティング銅、無電解ニッケル金浸漬(ENIG)コーティング銅、導電性エポキシコーティング銅、熱風はんだレベリング(HASL)コーティング銅、ニッケル-リンコーティング銅であるか、またはこれらのいずれかを含むものであってもよい。
【0064】
カソードの場合、この追加層、コーティング、蒸着または集電層は、ニッケル、ニッケル合金、ニッケルコート銅、無電解ニッケル金浸漬(ENIG)コート銅、導電性エポキシコート銅、熱風はんだレベリング(HASL)コート銅、ニッケル-リンコート銅、またはカーボンコート銅であるか、またはこれらのいずれかを含むものであってもよい。
【0065】
ENIGは、比較的安価な(金に比べて)ニッケルをバルク導体として使用し、その上に金の薄層をかぶせることで、セル間や電気端子への酸化膜の形成を防ぎ(その結果、時間とともに低い接触抵抗を維持する)、接触抵抗も比較的低くなるという利点がある。
【0066】
HASLは溶融したはんだの層で、銅の表面をすべて覆い、電気的接触を容易にする。HASLは、ENIGに比べて平坦度が低いが安価である。
【0067】
追加的または代替的に、スクリーン印刷などの非金属導電(保護)層(カーボンベースのインクや導電性エポキシ樹脂)が追加されてもよい。
【0068】
集電体層は、アノード輸送層216およびカソード輸送層214が配置される場所に隣接するように、アノード構造体204およびカソード構造体202の中央の領域に配置される。これは、めっき領域がPTLと界面するようにするためである。図2に見られる実施の形態では、これは正方形の形状であるが、アノード輸送層216およびカソード輸送層214、ならびに陰イオン交換膜218と同等の表面積を確保することに基づいて、形状を変更することができる。ニッケル集電層の下には、PCBプレート202、204の銅めっきがある。
【0069】
これらのプレート202、204のめっきにより、電流がプレートに向けられると、プレートは電流を電解槽に、具体的には電子をカソードに輸送する働きをすることができる。202の外側面の銅は、PCB内のPTHを介して、ニッケルでコーティングされたプレートの内側面に電気的に接続されている。コーティングの選択により、これらのPCBプレート202、204は非反応性であるため、経時的に劣化することはない。反応に必要なすべての構成要素が存在するため、この電流収集領域がAEM電解槽の「反応」部位となる。
【0070】
PCBプレート202、204は、プレート上の電圧をテストするため、または電解槽の反応に電力を供給する外部電源に接続するために、銅、銅めっきニッケル、またはその他の導電性材料がプレートの縁に蒸着されていてもよい。プレート上の電圧をテストするため、または電解槽反応に電力を供給するための外部電源に接続するために、プレートは、追加的または代替的に、銅、銅めっきニッケル、または他の導電性材料をプレートの縁に堆積させたタブまたは露出点を有してもよい。
【0071】
これらのPCBプレート202、204は、プレートに導入された液体電解液が電解槽の内部部品に均等に行き渡るように、フローフィールド220で深さ方向に流路が掘られている。図2では、アノード構造体204上にのみ蛇行した流れ場220が見られる。同じ流れ場がカソード構造体202にも見られるが、図2では見えないのは、流れ場がプレートの深さ全体を通して溝または流路が掘られておらず、部分的な深さまでしか掘られていないためである(これを「深さ方向に流路が掘られている」と表現する)。これらの流れ場は、液体がプレート入口からプレート出口へ流れる流路である。電極で発生したガスも、これらの流れ場を通ってプレートから流出口に流れ出ることがある。
【0072】
この実施の形態では、流れ場220の蛇行パターンは例示的なものに過ぎない。本明細書における本実施の形態または他の実施の形態における流れ場に、他のパターンを使用することも可能である。本実施の形態における流れ場のパターンは、アノード構造体204およびカソード構造体202の両方について同一であるが、本明細書における本実施の形態または他の実施の形態におけるパターンは、流れの必要性に応じて異なっていてもよい。
【0073】
ここに示すPCBプレート202、204だけでなく、すべての実施の形態についても、プレート本体全体を貫通して穿孔されたまたは掘られた孔206、208、210、212、222を有する。図2において、カソード出口206、カソード入口208、アノード出口210およびアノード入口212は、すべてラベル付けされている。カソード構造体202とアノード構造体204の両方にある8つの穴のうち2つだけがラベル付きである。ルーター加工またはドリル加工された穴を使用することは、プレートが容易、迅速かつ安価に製造可能であることを意味する。
i)電解槽セル200の各カソード構造体202およびアノード構造体204を通して、反応物および生成物を電極や触媒などの封入層に分配するための入口208、212および出口206、210 の穴、ならびにエンドプレート(図2には図示せず)との間で反応物および生成物を分配するための入口208、212および出口206、210の穴。エンドプレートは、流体/ガスをより広いシステムに出入りさせる継手を有することができる。
ii)ボルトまたは他のそのような保持手段が、密封および圧縮の目的で電解槽セル200を一緒に保持することができる位置に穴222を設ける。これらの穴222は、エンドプレートの位置合わせおよび/または圧縮、および/または最終的な固定のために設けることができる。
【0074】
一般的に、適切なこのPCBプレートの複数の設計があり、流れ場またはチャネルを作成するためにPCBプレートの本体全体を通る穴あけまたは溝形成は、流体の正しい通過および/または固定またはボルト位置を確実にする任意のパターンまたは設計であり得る。
【0075】
一般に、AEM電解槽プレートの入口穴および出口穴は、プレート全体の圧力損失、ひいてはスタックを確実に最小化するために、可能な限り大きく保たれる。
【0076】
図3のプレート202/204には、流入口または流出口となり得る4つの穴がある。しかし図3では2つだけが流出口206および流入口208と表示されており、他の2つの穴は流入口/流出口としては利用されず、電解液の流れを電解槽/スタックの他のプレート、すなわちこれがアノード構造体であった場合はカソード構造体に分配するためのものである。
【0077】
電解槽には、ガスだけを排出するための別個の排出口もある。ガスが電解槽から確実に排出されるように、例えば中央上部に配置される。
【0078】
電解槽200は、カソード輸送層214とアノード輸送層216を備える。これらは多孔質であるため、多孔質輸送層(PTL)と呼ばれることもある。電解槽200のカソード輸送層214は、ニッケルフェルト上のNiFeである。電解槽200のアノード輸送層216は、カーボンフェルト上のMoCaである。
【0079】
一般に、輸送層は、電極で生成したイオンを陰イオン交換膜(AEM)を介して電解槽の反対側に輸送するために機能する。ここでは、カソードで生成したヒドロキシOHイオンをAEMを通過させて電解槽のアノード側に輸送する。また、電解槽を貫通する熱伝導も可能にする。その材料特性のばらつきは、電解反応速度および効率に影響を及ぼす可能性がある。
【0080】
本明細書に記載される本実施の形態および他の実施の形態では、カソード輸送層およびアノード輸送層は、他の材料を含むか、または他の材料から作られてもよい。アノード輸送層は、Niフェルト、Niメッシュ、Ni焼結粉末、ステンレス鋼フェルト、ステンレス鋼メッシュ、またはステンレス鋼粉末のいずれかを含むか、またはこれらのいずれかから作られてもよい。アノード輸送層は、Niフェルト、Niメッシュ、Ni焼結粉、ステンレス鋼フェルト、ステンレス鋼メッシュ、ステンレス鋼粉、または炭素被覆銅を含むか、またはこれらのいずれかから作られてもよい。好ましくは、輸送層は高表面積材料であり、電極で起こる反応の触媒として働くことができるニッケルのような材料から作られる。表面積が大きいと反応速度が速くなる。輸送層は、水、ガス、電解液、電流の輸送を促進する働きをする。電流と水・電解質は、反応を駆動するため、PTL上のどの反応部位でも必要とされる。適切に多孔質なPTLは、生成ガスバブルが形成されると、より多くの電解質が反応部位で反応できるように、生成ガスの効果的な除去も促進する。
【0081】
さらに、輸送層はPCBから作られるか、PCBを含む。PCB材料は、その制御可能な製造技術により、複雑な3D形状を実現することができる。例えば、ホール形状を有するニッケルPCBプレートを輸送層として利用することができ、例えば、ホール形状を有するニッケル被覆プレートの積層PCBプレートを輸送層として利用することができる。これらは、中間層としてFR4(任意選択で銅めっきも可能)を有するニッケルメッシュのように機能し得る。
【0082】
輸送層214、216は、触媒(図2では見えない)でコーティング/装填されている。電解槽200で使用されるカソード触媒は、MoCaであってもよい。電解槽200で使用されるアノード触媒は、NiFeであってもよい。本明細書に記載されるこの実施の形態および他の実施の形態において、触媒は、他の材料を含んでもよく、または他の材料から作製されてもよい。カソード触媒は、MoCa(典型的な担持量4mgcm-2)、Ptブラック、Pt/C、Ni-Moまたはこれらの金属の合金であってもよい。アノード触媒は、NiFe(典型的な担持量は4mgcm-2)、酸化イリジウム、銅コバルト酸化物、ニッケルコバルト酸化物またはこれらの金属の合金である。
【0083】
選択した触媒の種類によって、電解槽のどちら側がアノードとして反応し、どちら側がカソードとして反応するかが決まる場合がある。プレートの形状や輸送層の材質など、他の構成要素はすべて同じでも、触媒の種類を変えて、どちらの反応がアノードでどちらの反応がカソードであるかを決定することができる。他の要因によって、輸送層に選択された材料など、電解槽の2つの半分の対称性が変化し、どちらの側がアノードとして機能し、どちらの側がカソードとして機能するかを決定することもできる。
【0084】
輸送層214、216は、通常、電極で起こる反応の触媒として機能するニッケルなどの材料でできているため、電解槽が機能するために触媒は必須ではない。ニッケル輸送層のような高表面積の金属は、電極で十分な速度の反応を確実に起こすことができる。
【0085】
カソード輸送層214とアノード輸送層216は、陰イオン交換膜218を挟んでいる。200の陰イオン交換膜218はサステイニオン(登録商標)である。
【0086】
陰イオン交換膜218は固体電解質層からなり、陰イオン(例えばここでは水酸化物陰イオン交換膜におけるOHイオン)を膜218を横切って伝導することができる。固体電解質層218は、アノード構造体204とカソード構造体202とを分離し、アノード構造体204とカソード構造体202とを互いに電気的に絶縁し、反応物および結果として生じる生成物に対する障壁として作用する。
【0087】
本明細書に記載される本実施の形態および他の実施の形態において、陰イオン交換膜は、他の材料を含んでもよく、または他の材料から作製されてもよい。陰イオン交換膜は、Fuma-tech fumasep、Dioxide Materials Sustainion、Orion polymer membranes、Xergy、Ionomr AemionまたはTokuyama A201のいずれかを含むか、またはそれらのいずれかから作られてもよい。
【0088】
電解槽200で使用する液体電解質は、水酸化カリウム(KOH)水溶液である。適切な水酸化カリウムは0.1~1M、好ましくは0.5M程度である。純水、または当該技術分野で既知の塩基性溶液またはアルカリ性溶液を、現在説明されている電解槽で使用することができる。たとえば、アルカリ性溶液を使用する場合は、0.1M~1Mの濃度のKOHまたはNaOHを使用できる。
【0089】
図3Aは、実施の形態の例示的なPCBプレート202/204を示し、図2の電解槽200のカソード構造体202およびアノード構造体204と同じプレートである。このプレートは、アノード構造体204またはカソード構造体202であり得る。これは、25cmのPCB AEM 型電解槽プレートである。流れ場220は、プレート202/204の中央にはっきりと見える。穴206、208、222は、プレート本体全体に開けられ、または貫通している。プレート出口206とプレート入口208にはすべてラベル付けされている。プレート202/204の8つの穴のうち2つだけがラベル付きである。
【0090】
このプレート202/204の流体流れ場、流体流路または流体流路(用語は交換可能)である深さ方向流れ場220がプレート202/204に見える。ここは、電解液が流体入口208から流れ、出口206から出る場所である。この実施の形態では、流れ場220の蛇行パターンは例示的なものに過ぎない。本明細書における本実施の形態または他の実施の形態における流れ場のために、他のパターンが使用され得る。本実施の形態における流れ場のパターンは、アノード構造体204およびカソード構造体202の両方について同一であるが、本明細書における本実施の形態または他の実施の形態におけるパターンは、流れの必要性に応じて異なっていてもよい。
【0091】
本実施の形態の電解槽、および本明細書に記載される他の実施形態の電解槽は、電解槽を構成する電解質を供給するための少なくとも1つの第1の流体経路を備える。カソード構造体に電解質を供給するための第1の流体経路および/またはアノード構造体に電解質を供給するための第2の流体経路、例えば、アノード構造体に対する第1の流体経路およびカソード構造体に対する第2の流体経路が存在してもよい。これらの流体経路は、カソード構造体またはアノード構造体上の経路領域とすることができ、入口からプレートを横切り、プレートから外に出る。これは、全ての実施の形態のPCBプレートに隣接し、電解液のための、1つ以上の流体流路を構成するように流路が設けられてもよい。これらの流体流路は、流体流路が、流路または溝がPCBプレート全体を貫通することなく、PCBプレート内で流路または溝が形成されるように、PCBプレートまたはプレートを形成することができる。これにより、プレート本体を貫通する穴ではなく、チャネルまたは経路付けられた領域が形成される。つまり、プレートへの流入口と流出口を除き、電解槽の内部は流体に対して密閉されている。また、陰イオン交換膜と密閉されたPCB構造が存在するため、電解槽の2つの半分が互いに流体的に密閉されている。PCB構造に流路を通すことで、流体の流れ、特に電解質流体の流れを制御することができる。つまりこの実施の形態では、流体流路は、電解液を第1のPCBプレートおよび第2のPCBプレート上の銅めっき層の上に配置されたニッケルめっき層に導くことができる。これは、触媒を構成する可能性のある輸送層に隣接しているため、ここで電気分解が行われる。
【0092】
これはまた、各電極が電解質チャンバを備える、すなわち、アノードおよびカソードにそれぞれチャンバがあるような構造または説明も可能である。これらは、入口と出口以外は、流体的に密閉されている。このチャンバは、PCBプレート上の深さ方向の流路によって形成される。電解液は輸送層およびアノード/カソード構造体と接触し、チャンバ内で電解槽の反応が行われる。生成されたイオンは、AEMを横切って輸送される。
【0093】
図4は、エンドプレートと集電体を追加した電解槽プレートを示しており、図2の関連コンポーネントはすべてラベル付けされている。この図にはさらに、エンドプレート402と集電体404とが示されている。集電体層は、電源からの電流をプレート全体に分配する役割を果たし、その望ましい特性は、高い導電性、耐腐食性、および反応液と生成液の分配を可能な限り最小限に妨げることである。エンドプレートは、電解液の層間のシールと接触抵抗のための圧縮を提供する。また、エンドプレートは、加圧流体コネクターをスタックに取り付け、スタックに分配する場所にもなる。
【0094】
このようなエンドプレート402を使用して複数の電解槽を積み重ね、電解槽を圧縮することもできる。エンドプレートは、本明細書で説明する電解槽を圧縮して密閉し、作動中の不要な流体の漏れを防止する。圧縮はまた、接触抵抗を減少させる。圧縮を確実にするために、電解槽をボルトで固定することができる。
【0095】
プレートと電解槽構成部品は、電解槽を形成するために一緒に密封することができる。例えば、PCBプレートはエポキシ樹脂プリプレグ(本明細書では単に「プリプレグ」と呼ぶこともある)で封止することができる。電解槽の構造において、構成部品は、異なる層間のプリプレグの層で封止され、その後、層が積層されてもよい。
【0096】
プリプレグのようなシール材を使用し、PCB材料を使用することで、電解槽は、内部の電解槽構成部品に直接隣接するPCB基板(アノード構造体やカソード構造体など)の流入口/流路/流れ場によって、電解槽構成部品に意図的に向かわないものから確実にシールされる。これはPCB技術の利点であり、このような構造を迅速、簡単、安価に構築できる。また、エポキシ樹脂プリプレグなどのラミネートを使用することで、反応液の分配を損なうことなく、電解槽の性能を維持する上で重要な要素である層の圧縮を維持することができる。
【0097】
特定のラミネート工程でラミネートされた基板は、材料の慎重なプレカットとアライメント、特注の加熱、冷却、加圧、洗浄サイクルを含む。
【0098】
密封する前に、めっきされた貫通穴をプレートに開け、注入口と排出口の穴や、ボルト締め用の穴を開けることもできる。
【0099】
本明細書で説明する電解槽が運転される圧力および/または温度が高いため、プリプレグに代わるシーラント、例えば硬化プリプレグ、エチレンプロピレンジエンゴムモノマー(EPDM)、フルオロエラストマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはシリコーンを使用することができる。
【0100】
操作または使用において、本明細書に記載の電解槽は電源に接続することができる。電解槽には、水とともに、または水からなる電解質を供給することができる。電解槽は水素ガスを生成し、これを回収または貯蔵することができる。供給されるエネルギーは再生可能エネルギーであり、電解槽はグリーンエネルギーシステムの一部となる。複数の電解槽を積み重ねることで、出力密度を高めることができる。
【0101】
電解槽で生成される水素は、水で飽和した非常に純粋な気体で、酸素含有量は0.2%を超えない。より高い純度が必要な場合は、脱酸素剤などの触媒反応によって最後の酸素分子を除去することができる。
【0102】
本明細書で説明する電解槽の消費電力は、例えば1kW~50kW であるが、設計のモジュール性により、例えば合計消費電力50kWまでの複数の電解槽を積み重ねることができる。ただし、さらに多くの電解槽を積層して、合計で50kWを超えることも可能である。
【0103】
図5は、PCB AEM電解槽システムを示す。熱交換器502は、加熱水槽内の金属パイプのコイルである。ポンプ4504が与えられる。AEM電解槽506には、温度を制御するための加熱カートリッジがある。液体-ガス分離器508は、共通の液体リザーバーを備えた密閉タンクを含んで構成されている。写真には写っていないが、電源は通常ポテンショスタットである。
【0104】
本明細書における「流れ」または「フロー」とは、流体の流路や流路などに沿って、補助の有無にかかわらず、流体が流れること、または実質的に誘導されることを指す。
【0105】
実施例
【0106】
耐久性
ニッケルおよびカーボンでコーティングしたタブ(腐食防止剤と市販のインクから成る)を1M KOH中で試験した。カーボンでコーティングしたタブは、48時間後に樹脂が溶液中に溶解し、高い腐食電流を示した(2Vで40mAcm-2以上)。
【0107】
ニッケル被覆タブは、1M KOH中で数ヵ月間安定性を示した。これらのサンプルの腐食電流は、2Vで24時間、約100nAcm-2であった。
【0108】
性能
図6は、3Acm-2まで生成した9cmセルの分極曲線を示す。
【0109】
電解槽の分極曲線は、電源としてIvium XP40(登録商標)を使用して作成した。カソードの水素発生反応(HER)触媒は、カーボンフェルトの多孔質輸送層(PTL)上に4mgcm-2担持したMoCaである。アノードには、酸素発生反応(OER)触媒としてNiFeを用い、ニッケルフェルトのPTL上に4mgcm-2の担持量で担持した。スサイニオン膜は、40℃の1M KOH中で使用した。各電極への流量は50mLmin-1で、Verderflex Vantage3000B EZ(登録商標)ポンプで供給した。
【0110】
図7は、濃度と温度を変えたPCB AEM電解槽の分極曲線を示す。これは周囲温度でも実証されてる(データは図示せず)。
【0111】
図8は、60℃での参照分極曲線を示す。
参考文献:Pushkareva I. V., Pushkareva,A.S.,Grigoriev,S. A., Modisha, P.& Bessarabov, D. G. (2020), Comparative study of anion exchange membranes for low-cost water electrolysis, International Journal of Hydrogen Energy, 45(49), 26070-26079.
【0112】
図7に示されたデータは、図8の参照データとほぼ同等であり、本明細書に記載されたPCB型電解槽の使用は、従来の材料と比較して性能の低下を引き起こさないことを示している。
【0113】
AEM電解槽の実証に成功し、60~80℃のアルカリ電解槽の一般的な動作温度以下で動作する電解槽として期待される性能を示した。
【0114】
PCB AEM型電解槽は、従来のAEM技術と同等であることを示したが、さらなる最適化により、より高い性能、ひいてはシステムの効率を達成することが可能になる。ここで検証された設計により、より低濃度のアルカリ溶液を使用することができる。高濃度のアルカリ水溶液を使用する必要がないため、本明細書で説明する安全性や腐食などの利点がある。
【0115】
このように、改良型AEM電解槽が実証された。
【0116】
本開示の範囲から逸脱することなく、前述の例示的な実施の形態に多くの改良および変更を加えることができることは、当業者に明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】