(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】電力系統の故障の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/08 20200101AFI20241031BHJP
H02H 3/48 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
G01R31/08
H02H3/48 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529948
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-16
(86)【国際出願番号】 CN2021131570
(87)【国際公開番号】W WO2023087226
(87)【国際公開日】2023-05-25
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505056845
【氏名又は名称】アーベーベー・シュバイツ・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】ABB Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】Bruggerstrasse 66, 5400 Baden, Switzerland
(71)【出願人】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュー、カイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、チー
(72)【発明者】
【氏名】バルサン、シミ
【テーマコード(参考)】
2G033
【Fターム(参考)】
2G033AA02
2G033AB02
2G033AB05
2G033AC04
2G033AD13
2G033AF03
2G033AG14
(57)【要約】
電力系統の故障の判定方法であって、電力系統内の送電線の第1位置における測定される電気量に基づいて、送電線の第2位置における電圧を推定することであって、測定される電気量が、電力系統の三相に関連付けられ、送電線の第1位置における電圧を含むこと(601)と、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定すること(602)と、電力動揺中に前記少なくとも1つの位相角に基づいて故障を検出すること(603)と、を含む。本開示にかかる方法では、電力動揺中の三相故障がより短時間で特定され、したがってトリップがより高速で実行され、その結果、電力系統の安定性と安全性が向上する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の故障の判定方法であって、
前記電力系統内の送電線の第1位置における測定された電気量に基づいて、前記送電線の第2位置における電圧を推定することであって、前記測定された電気量が、前記電力系統の三相に関連付けられ、前記送電線の前記第1位置における電圧を含むことと、
前記第1位置における前記電圧と、前記第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定することと、
電力動揺中に前記少なくとも1つの位相角に基づいて前記故障を検出することと、
を含む、
方法。
【請求項2】
前記第1位置における前記電圧と、前記第2位置における前記推定電圧との間の前記少なくとも1つの位相角を決定することは、
前記第1位置における第1の相の相電圧と、前記第2位置における前記第1の相の推定相電圧との間の第1位相角を決定することと、
前記第1位置における第2の相から第3の相の相間電圧と、前記第2位置における前記第2の相から前記第3の相の推定相間電圧との間の第2位相角を決定することと、
を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1位置における前記電圧と、前記第2位置における前記推定電圧との間の前記少なくとも1つの位相角を決定することは、
前記三相の各々について、前記第1位置におけるそれぞれの相の相電圧と、前記第2位置における同じ相の推定相電圧との間の位相角を決定することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1位置における前記電圧と、前記第2位置における前記推定電圧との間の前記少なくとも1つの位相角を決定することは、
3つの二相の組合せの各々について、前記第1位置におけるそれぞれの二相の組合せの相間電圧と、前記第2位置における同じ二相の組合せの推定相間電圧との間の位相角を決定することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1位置における前記電圧と、前記第2位置における前記推定電圧との間の前記少なくとも1つの位相角を決定することは、
前記三相の各々について、前記第1位置におけるそれぞれの相の相電圧と、前記第2位置における同じ相の推定相電圧との間の第1位相角を決定することと、
3つの二相の組合せの各々について、前記第1位置におけるそれぞれの二相の組合せの相間電圧と、前記第2位置における同じ二相の組合せの推定相間電圧との間の第2位相角を決定することと、
前記三相の前記第1位相角と、前記3つの二相の組合せの前記第2位相角とに基づいた平均角度を前記少なくとも1つの位相角として決定することと、
を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1位置における前記電圧と、前記第2位置における前記推定電圧との間の前記少なくとも1つの位相角を決定することは、
前記第1位置における前記三相のうちの1つの相電圧の正相成分と、前記第2位置における同じ相の推定相電圧の正相成分との間の位相角を決定することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記電力動揺中に前記少なくとも1つの位相角に基づいて前記故障を検出することは、
予め定義された範囲内にそれぞれの位相角が以前に収まっていた測定された持続時間に基づいて、前記少なくとも1つの位相角の各々についての時間閾値を決定することと、
前記少なくとも1つの位相角のいずれかが前記予め定義された範囲内での持続時間がそれぞれの前記時間閾値を超えた場合に、前記故障を判定することと、
を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記電力動揺中に前記少なくとも1つの位相角に基づいて前記故障を検出することは、
電力動揺中に、時間に対する前記少なくとも1つの位相角の変化率に基づいて前記故障を検出することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記電力動揺中に、時間に対する前記少なくとも1つの位相角の前記変化率に基づいて前記故障を検出することは、
前記少なくとも1つの位相角のそれぞれについて、予め定義された範囲にそれぞれの位相角が収まることに応じて、時間に対する前記それぞれの位相角の前記変化率を決定することと、
決定された前記変化率と、前記予め定義された範囲とに基づいて、前記少なくとも1つの位相角のそれぞれについての時間閾値を決定することと、
前記少なくとも1つの位相角のいずれかが前記予め定義された範囲内での持続時間がそれぞれの前記時間閾値を超えた場合に、前記故障を判定することと、
を含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
時間に対する前記それぞれの位相角の前記変化率を決定することは、
前記予め定義された範囲に前記それぞれの位相角が収まることに応じて、時間に対する前記それぞれの位相角の瞬間的な変化率を決定することを含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
時間に対する前記それぞれの位相角の前記変化率を決定することは、
前記予め定義された範囲に前記それぞれの位相角が収まることに応じて、前記電力動揺の最近のサイクルにおける時間に対する前記それぞれの位相角の平均変化率を決定することを含み、
前記電力動揺の前記最近のサイクルは、前記予め定義された範囲に以前に入った時点から、前記予め定義された範囲に現在入った時点までの期間を含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記電力動揺中に、時間に対する前記少なくとも1つの位相角の前記変化率に基づいて前記故障を検出することは、
前記少なくとも1つの位相角のそれぞれについて、予め定義された範囲にそれぞれの位相角が収まることに応じて、時間に対する前記それぞれの位相角の瞬間的な変化率を決定することと、
前記少なくとも1つの位相角のいずれかの前記瞬間的な変化率が、予め定義された閾値を超えたことに応じて、前記故障を判定することと、
を含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記送電線の前記第2位置における前記電圧を推定することは、
前記測定された電気量に基づいて、時間領域において前記送電線の前記第2位置における前記電圧を算出することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのプロセッサユニットと、
前記少なくとも1つのプロセッサユニットに結合され、前記少なくとも1つのプロセッサユニットによって実行され得る命令が格納された少なくとも1つのメモリと、
を備え、
前記命令が前記少なくとも1つのプロセッサユニットによって実行された場合、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を実行する、
電子装置。
【請求項15】
電力系統で使用される距離リレーを備える、
請求項14に記載の電子装置。
【請求項16】
コンピュータ可読プログラム命令が格納されたコンピュータ可読記憶媒体であって、
前記コンピュータ可読プログラム命令は、プロセッサユニットによって実行された場合に、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を前記プロセッサユニットに実行させる、
コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、一般に送電に関し、より具体的には、電力系統の故障の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統では、電力系統の故障、電力線の切替え、発電機の断線、負荷の損失等の系統の障害が、電力動揺をもたらすことがある。電力系統は、安定した電力動揺を経験するとき、安定さを維持し、新たな均衡状態に戻ることができる。しかし、いくつかの深刻な系統の障害は、例えば発電機グループ間において最終的な同期性の損失につながる可能性がある。安定した電力動揺及び不安定な電力動揺はどちらも、望ましくないリレー動作を引き起こすことがあり、系統の障害をさらに悪化させ、大規模停電や電力供給停止を引き起こす可能性がある。
【0003】
一般に、電力動揺中のこうした望ましくないリレー動作を避けるために、電力動揺阻止(PSB)機能が距離リレーに設けられている。特に、PSB機能は、故障と電力動揺を区別し、電力動揺の間、距離リレー素子又は他のリレー素子を動作しないようにブロックすることができる。
【0004】
PSB機能では、電力動揺中に発生する故障も考慮する必要がある。この場合、PSBはブロックを解除し、リレーが動作してこうした故障、例えば三相故障を除去できるようにしなければならない。残念ながら、電力動揺中に故障を特定するのは難しく、従来の解決手段では、ミストリップを避けるために、故障特定に長い時間を要する。電力動揺中、スピードが遅い故障保護は、電力系統の安定性と安全性に悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の実施形態は、電力系統の故障を判定する改良された解決手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、電力系統の故障の判定方法が提供される。方法は、電力系統内の送電線の第1位置における測定される電気量に基づいて、送電線の第2位置における電圧を推定することであって、測定される電気量が、電力系統の三相に関連付けられ、送電線の第1位置における電圧を含むことと、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定することと、電力動揺中に前記少なくとも1つの位相角に基づいて故障を検出することと、を含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定することは、第1位置における第1の相の相電圧と、第2位置における第1の相の推定相電圧との間の第1位相角を決定することと、第1位置における第2の相から第3の相の相間電圧と、第2位置における第2の相から第3の相の推定相間電圧との間の第2位相角を決定することと、を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定することは、三相の各々について、第1位置におけるそれぞれの相の相電圧と、第2位置における同じ相の推定相電圧との間の位相角を決定することを含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定することは、3つの二相の組合せの各々について、第1位置におけるそれぞれの二相の組合せの相間電圧と、第2位置における同じ二相の組合せの推定相間電圧との間の位相角を決定することを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定することは、三相の各々について、第1位置におけるそれぞれの相の相電圧と、第2位置における同じ相の推定相電圧との間の第1位相角を決定することと、3つの二相の組合せの各々について、第1位置におけるそれぞれの二相の組合せの相間電圧と、第2位置における同じ二相の組合せの推定相間電圧との間の第2位相角を決定することと、三相の第1位相角と、3つの二相の組合せの第2位相角とに基づいた平均角度を少なくとも1つの位相角として決定することと、を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定することは、第1位置における三相のうちの1つの相電圧の正相成分と、第2位置における同じ相の推定相電圧の正相成分との間の位相角を決定することを含む。
【0012】
いくつかの実施形態おいて、電力動揺中に少なくとも1つの位相角に基づいて故障を検出することは、少なくとも1つの位相角の各々について、予め定義された範囲内にそれぞれの位相角が以前に収まっていた測定された持続時間に基づいて、時間閾値を決定することと、少なくとも1つの位相角のいずれかが予め定義された範囲内での持続時間がそれぞれの時間閾値を超えた場合に、故障を判定することと、を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、電力動揺中に少なくとも1つの位相角に基づいて故障を検出することは、電力動揺中に時間に対する少なくとも1つの位相角の変化率に基づいて故障を検出することを含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、電力動揺中に時間に対する少なくとも1つの位相角の変化率に基づいて故障を検出することは、少なくとも1つの位相角のそれぞれについて、それぞれの位相角が予め定義された範囲に収まることに応じて、時間に対するそれぞれの位相角の変化率を決定することと、決定された変化率と、予め定義された範囲とに基づいて、少なくとも1つの位相角のそれぞれについての時間閾値を決定することと、少なくとも1つの位相角のいずれかが予め定義された範囲内での持続時間がそれぞれの時間閾値を超えた場合に、故障を判定することと、を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、時間に対するそれぞれの位相角の変化率を決定することは、予め定義された範囲にそれぞれの位相角が収まることに応じて、時間に対するそれぞれの位相角の瞬間的な変化率を決定することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、時間に対するそれぞれの位相角の変化率を決定することは、予め定義された範囲にそれぞれの位相角が収まることに応じて、電力動揺の最近のサイクルにおける時間に対するそれぞれの位相角の平均変化率を決定することを含む。電力動揺の最近のサイクルは、予め定義された範囲に以前に入った時点から、予め定義された範囲に現在入った時点までの期間を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、電力動揺中に時間に対する少なくとも1つの位相角の変化率に基づいて故障を検出することは、少なくとも1つの位相角のそれぞれについて、予め定義された範囲にそれぞれの位相角が収まることに応じて、時間に対するそれぞれの位相角の瞬間的な変化率を決定することと、少なくとも1つの位相角のいずれかの瞬間的な変化率が、予め定義された閾値を超えたことに応じて、故障を判定することと、を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、送電線の第2位置における電圧を推定することは、測定された電気量に基づいて、時間領域において送電線の第2位置における電圧を算出することを含む。
【0019】
第2の態様では、電子装置が提供される。電子装置は、少なくとも1つのプロセッサユニットと、 前記少なくとも1つのプロセッサユニットに結合され、前記少なくとも1つのプロセッサユニットによって実行され得る命令が格納された少なくとも1つのメモリと、を備える。命令は、前記少なくとも1つのプロセッサユニットによって実行された場合、装置に、第1の態様にかかる方法を実行させる。
【0020】
いくつかの実施形態において、電子装置は、電力系統で使用される距離リレーを備える。
【0021】
第3の態様では、コンピュータ可読記憶媒体が提供される。コンピュータ可読記憶媒体にはコンピュータ可読プログラム命令が格納され、コンピュータ可読プログラム命令は、プロセッサユニットによって実行された場合に、第1の態様にかかる方法をプロセッサユニットに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
ここに記載された図面は、本開示をさらに説明するために提供され、本開示の一部を構成する。本開示の例示的な実施形態及びその説明は、本開示を不当に限定するためではなく、本開示を説明するために用いられる。
【
図1A】故障が発生していない場合のリレーからの測定された動揺インピーダンスとPSB特性の模式図を示す。
【
図1B】電力動揺中に故障が発生した場合のリレーからの測定された動揺インピーダンスとPSB特性の模式図を示す。
【
図2】本開示の実施形態にかかる、インピーダンスの伝送線によって接続された単純な2電源システムの模式図を示す。
【
図3】本開示の実施形態にかかる、電力動揺中の電圧ベクトルの模式図を示す。
【
図4】本開示の実施形態にかかる、電力動揺中の電力系統の波形図を示す。
【
図5】故障発生時の2電源システムの模式図を示す。
【
図6】本開示の実施形態にかかる、送電システムの故障を判定する方法のフローチャートを示す。
【
図7】いくつかの実施形態において、時間に対する少なくとも1つの位相角の変化率に基づいて故障を検出するフローチャートを示す。
【
図10】時間に対する位相角の変化率を決定するための代替的な実施を示す。
【
図11】システムの周波数が示された2電源システムの模式図を示す。
【
図12】本開示の実施形態を実施するために適した例示的な装置の概略ブロック図を示す。
【0023】
図面全体を通して、同一又は類似の参照符号は、同一又は類似の要素を示すために使用されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本開示の原理を、図面に示すいくつかの例示的な実施形態を参照しながら説明する。図面には本開示の例示的な実施形態が示されているが、実施形態は、当業者が本開示をより適切に理解し、それによって本開示を実現することを容易にするために説明されているにすぎず、本開示の範囲を何らかの形で限定するためのものではないことを理解されたい。
【0025】
「備える」又は「含む」という用語及びその変形は、「含むがこれに限定されない」ことを意味する開放式の用語として解釈される。「又は」という用語は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、「及び/又は」として解釈される。「・・・に基づいて」という用語は、「・・・に少なくとも部分的に基づいて」と解釈される。「動作可能である」とは、ユーザや外部機構によって誘発される動作によって、機能、動作、運動、又は状態を実現できることを意味する。「一実施形態」及び「実施形態」という用語は、「少なくとも1つの実施形態」と解釈される。「別の実施形態」という用語は、「少なくとも1つの他の実施形態」と解釈される。「第1」、「第2」等の用語は、異なる対象又は同じ対象を指してもよい。以下の内容には、明示的及び暗黙的な他の定義が含まれることがある。用語の定義は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、説明全体を通じて一貫している。
【0026】
別途指定又は限定しない限り、「取り付け」、「接続」、「支持」、「結合」という用語及びその変形は広義に使用され、直接的及び間接的な取り付け、接続、支持、結合を包含する。さらに、「接続された」と「結合された」は、物理的又は機械的な接続又は結合に限定されない。以下の説明では、同一部品、類似又は対応する部品を説明するために、図中において同様の参照番号及びラベルを使用する。以下の内容には、明示的及び暗黙的な他の定義が含まれることがある。
【0027】
図1Aは、故障が発生していない場合のリレーからの測定された動揺インピーダンスとPSB特性の模式図を示す。
図1Bは、電力動揺中に故障が発生した場合のリレーからの測定された動揺インピーダンスとPSB特性の模式図を示す。
【0028】
図1Aに示すように、PSB特性は内側特性と外側特性を備えてもよく、それぞれ内側の円と外側の円で示されている。動揺インピーダンスが内側特性と外側特性との間に留まる時間が所定時間より長い場合、電力動揺が検出され、距離リレーがブロックされる。距離リレーの動作特性外の他の領域では、距離リレーはブロックされない。
【0029】
図1Bに示すように、動揺インピーダンスがカーブに沿って点Mに移動すると、故障が発生し、故障インピーダンスは点Nに維持される。
【0030】
電力動揺中、インピーダンスが距離リレーの動作特性に入り、故障(例えば三相故障)の場合も、インピーダンスが動作特性に入ることがわかる。リレーは、それが電力動揺なのか故障なのかを知ることができない。この故障を特定し除去するために、従来の解決手段では、故障が発生したときはインピーダンスが距離リレーの動作領域に留まり、電力動揺の場合は、インピーダンスが距離リレーの動作領域に入り、待機時間後に動作領域から離れるという仮定に基づく。つまり、リレーは十分な時間で待機することによって、故障を判定することができる。従来の解決手段では、明らかに、ミストリップを避けるために長時間待機する必要がある。さらに、待機時間を決定するためには、電力系統や電力線のパラメータが必要とされ、このため従来の解決手段の設定は複雑である。
【0031】
上述及び他の潜在的な問題に少なくとも部分的に対処するために、本開示の実施形態は、送電システムの故障を判定するための改善された解決手段を提供する。この解決手段では、送電線の2つの位置の電圧の間の角度差に基づいて故障を判定することができる。したがって、故障を判定するための待機時間が大幅に短縮されるため、トリップが高速で実行され、電力系統の安全性が向上する。
【0032】
図2は、本開示の実施形態にかかる、インピーダンスの伝送線によって接続された単純な2電源システムの模式図を示す。
図2に示すシステムは三相電力系統であり、E
mとE
nは両端の電源を指す。点Pは、送電線の第1位置を示し、例えば電源E
m側の電力系統のバス等である。点Qは、送電線の第2位置を示し、例えば送電線上の予め設置された点等である。抵抗RとインダクタンスLを備えるZ
setは、点Pと点Qとの間の送電線のインピーダンスを示す。点Pと電源E
mとの間、点Qと電源E
nとの間にも、図示しないインピーダンスが存在することに留意されたい。
【0033】
点Pにおける電気量は、点Pに配置されたリレー又は他の測定装置、例えば、電源と送電線との間のバス又はその近傍に配置されたリレーによって測定又は取得することができる。これらの電気量は、点Pにおける三相の電圧、電流及びその他のパラメータを含む。点Pにおける電圧はローカル電圧と呼ばれることがあり、点Qにおける電圧は補償電圧と呼ばれることがあり、点Pで得られた電気量に基づいて算出される。所定の点Qにおける補償電圧は、以下の式によって算出することができる。
【0034】
【0035】
図3は、本開示の実施形態にかかる、電力動揺中の電圧ベクトルの模式図を示す。
図4は、本開示の実施形態にかかる、電力動揺中の電力系統の波形図を示す。角度αは、電源E
mとE
nとの位相角差を示し、角度δは、点Pのローカル電圧と、所定の点Qの補償電圧との位相角差を示す。具体的には、角度δは次式で表されてもよい。
【0036】
【0037】
電力系統が動揺し始めると、角度αが大きくなるにつれて角度δも大きくなる。電力動揺中、角度αが0°から360°まで周期的に変化すると、角度δも0°から360°まで周期的に変化する。つまり、角度δは角度αを反映するため、角度δは電力動揺の状態の指標として使うことができる。
【0038】
図5は、故障(例えば、三相故障)が発生したときの
図2の2電源システムの模式図を示す。
図5に示すように、故障は送電線上の点Fで発生する。故障点Fは点Pと点Qの間に位置し、Z
Fは点Pと故障点Fとの間のインピーダンスを表す。例えば、三相故障の場合、三相間の相間短絡が発生すると、インピーダンスZ
FとZ
setは実質的に同じインピーダンス角度を持つと仮定することができ、Z
F<Z
setである。したがって、三相故障が発生した場合、角度δは次式によって算出してもよい。
【0039】
【0040】
以上より、内部の三相故障が発生した場合、角度δは180度に維持されることがわかる。以下ではこれを故障角度δと呼ぶ。しかし、電力動揺だけであれば、角度δは0度から360度まで周期的に変化する。故障角度δの180度はあくまで例示的なものであり、電力線のインピーダンスの配置又はその他のエラーにより、一般的にインピーダンスZF及びZsetは異なるインピーダンス角度を持つ可能性があり、したがって、故障における角度δは180度よりも高いか又は低い他の角度である可能性もあることに留意されたい。
【0041】
さらに、角度δのこうした変化は、三相故障以外の他のタイプの故障においても存在する可能性がある。例えば、送電線のいくつかの位置、例えば点Pに近い送電線の位置で単相故障又は二相故障が発生した場合も、角度δは故障角度δに変化し、維持される。この発見に基づいて、電力系統の故障を、電力動揺と効果的に区別することができる。
【0042】
発明者によって発見された上述の特性に基づいて、故障発生時に電力動揺中の故障を迅速に特定し、より高速でトリップするために、改良した方法を提案する。
図6は、本開示の実施形態にかかる、送電システムの故障を判定する方法600のフローチャートを示す。この方法は、上述したように、リレー等の電子装置のプロセッサユニット又はコントローラによって実行することができる。例えば、いくつかの実施形態において、本方法を実行するためのプロセッサユニットは、リレーに配置された、既存のプロセッサの不可欠な部分、又は制御ユニットであってもよい。いくつかの代替的な実施形態において、本方法を実行するためのプロセッサは、リレーの既存のプロセッサから独立した別のプロセッサであってもよい。
【0043】
いくつかの他の代替的な実施形態において、プロセッサは、リレーの外部に位置するコンピュータ等の装置のプロセッサであってもよい。実際には、以下の方法を実行できる任意の適切なプロセッサが使用されてもよい。
【0044】
図6に示すように、ブロック601において、電力系統内の送電線の第1位置における測定された電気量に基づいて、送電線の第2位置における電圧が推定される。測定される電気量は、電力系統の三相に関連付けられ、送電線の第1位置における電圧を含む。例えば、第1位置は、
図2の点P(例えば、バス)であってもよく、第2位置は、
図2の点Q(例えば、送電線上の所定の点)であってもよい。一例として、第1位置と第2位置との間の距離は、電力系統の送電線の全長の80~90%であってもよい。しかし、第1位置及び第2位置は、電力系統内の任意の適切な位置であってもよい。第1位置(例えば、点P)に配置されたmhoリレー等のリレー、又は他の測定装置が、第1位置の電気量を測定することができる。これらの電気量は、第1位置における電圧、例えば、三相の相電圧及び相間電圧を含む。さらに、電気量は、第2位置における電圧の推定に使用するために、三相に関連付けられた他の電気量も含む。式(1)と、第1位置における測定された電気量とによって、第2位置における電圧を推定することができる。例えば、点Pの相電圧及び電流(例えばA相)と、点Pと点Qの間のインピーダンスZ
setとに基づいて、点Qの相電圧(例えばA相)を式(1)により算出する。同様に、点QにおけるB相とC相の相電圧を算出することができ、これによってA相とB相、B相とC相、またはC相とA相の相間電圧も得ることができる。
【0045】
ブロック602において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角が決定される。例えば、点Pと点QにおけるA相の電圧はブロック601から得られるので、第1位置及び第2位置(例えば、点P及び点Q)におけるA相の電圧の間の位相角δaは、単純に算出して決定することができる。同様に、他の相電圧と相間電圧の位相角δb、δc、δab、δbc、δcaを得ることができる。
【0046】
いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角の決定は、第1位置における第1の相の相電圧と、第2位置における第1の相の推定相電圧との間の第1位相角を決定することと、第1位置における第2の相から第3の相の相間電圧と、第2位置における第2の相から第3の相の推定相間電圧との間の第2位相角を決定することと、を含む。例えば、第1位置及び第2位置におけるA相の電圧の間の位相角δaと、第1位置及び第2位置におけるB相からC相までの相間電圧の間の位相角δbcは、電力動揺中の電力系統の三相全ての状態を表すのに十分であるため、位相角δa及び位相角δbcのみを算出してもよい。あるいは、位相角δb、δcaのみ、又は位相角δc、δabのみを得てもよい。このように、全ての位相角δa、δb、δc、δab、δbc、δcaを決定する代わりに、2つの位相角のみを算出することで、位相角の算出とその後の評価のための作業を減らし、ひいては故障判定のスピードを速める。
【0047】
いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定することは、三相の各々について、第1位置におけるそれぞれの相の相電圧と、第2位置における同じ相の推定相電圧との間の位相角を決定することを含む。例えば、位相角δa、δb、δcを少なくとも1つの位相角として算出してもよい。いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角を決定することは、3つの二相の組合せの各々について、第1位置におけるそれぞれの二相の組合せの相間電圧と、第2位置における同じ二相の組合せの推定相間電圧との間の位相角を決定することを含む。例えば、少なくとも1つの位相角として、位相角δab、δbc、δcaを算出してもよい。この2つの実施では、全ての位相角δa、δb、δc、δab、δbc、δcaを決定する代わりに、3つの位相角のみを算出することで、位相角の算出とその後の評価のための作業を減らす。
【0048】
いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角の決定は、三相の各々について、第1位置におけるそれぞれの相の相電圧と、第2位置における同じ相の推定相電圧との間の第1位相角を決定することと、3つの二相の組合せの各々について、第1位置におけるそれぞれの二相の組合せの相間電圧と、第2位置における同じ二相の組合せの推定相間電圧との間の第2位相角を決定することと、三相の第1位相角と、3つの二相の組合せの第2位相角とに基づいて、平均角度を少なくとも1つの位相角として決定することと、を含む。具体的には、全ての位相角の平均を、電力動揺中の故障評価に使用することができ、次式で算出することができる。
δaverage=(δa+δb+δc+δab+δbc+δca)/6 (4)
こうすることで、単一の位相角に対してその後の評価又は故障判定を行うことができ、後続の作業が簡素化される。
【0049】
いくつかの実施形態において、第1位置における電圧と、第2位置における推定電圧との間の少なくとも1つの位相角の決定は、第1位置における三相のうちの1つの相電圧の正相成分と、第2位置における同じ相の推定相電圧の正相成分との間の位相角を決定することを含む。具体的に、第1位置(例えば、点P)における三相の全ての相電圧に基づいて、本技術分野で公知のアプローチに従って、第1位置における任意の相の正相成分を得ることができ、同様に、第2位置における相の正相成分を得ることができる。これにより、第1位置及び第2位置における相電圧(例えば、A相、B相又はC相)の正相成分の間の位相角を決定することができ、電力動揺中の故障の評価に使用することができる。その結果、単一の位相角に対して後続の評価を行うことができ、こうして故障判定が簡素化される。
【0050】
ブロック603において、電力動揺中に少なくとも1つの位相角に基づいて故障が検出される。例えば、式(3)について上述したように、故障が発生した場合、位相角は180度に変化し、その後180度に維持される。したがって、位相角δa、δb、δc、δab、δbc、δcaの変化に基づいて故障を迅速に検出することができる。いくつかの実施形態では、位相角δa、δbcによって故障を検出することができる。あるいは、位相角δb、δca、位相角δc、δab、位相角δa、δb、δc、又は位相角δab、δbc、δcaによって故障を検出することも可能である。いくつかの実施形態において、故障は、全ての位相角δa、δb、δc、δab、δbc、δcaの平均によって検出することができる。いくつかの実施形態において、故障は、第1位置及び第2位置における相(例えば、A相、B相又はC相)の正相電圧成分の間の位相角によって検出することができる。
【0051】
従来の解決手段と比較して、方法600に関して説明した故障検出は、リレーの動作領域に出入りする動揺インピーダンスの時間に対応する長い時間待つことなく、はるかに速く行うことができ、したがって、電力系統の安定性と安全性が向上する。さらに、方法600では、動揺インピーダンスが動作領域に出入りする時間を事前に決定するために必要な電力系統及び電力線のパラメータが、都合よく省略されるので、故障検出が簡素化される。
【0052】
図7は、いくつかの実施形態において、時間に対する少なくとも1つの位相角の変化率に基づいて故障を検出するフローチャートを示す。いくつかの実施形態において、電力動揺中に少なくとも1つの位相角に基づいて故障を検出することは、電力動揺中に時間に対する少なくとも1つの位相角の変化率に基づいて故障を検出することを含む。
図7に示すように、ブロック701において、少なくとも1つの位相角のそれぞれについて、予め定義された範囲にそれぞれの位相角が収まることに応じて、時間に対するそれぞれの位相角の変化率が決定される。ブロック702において、決定された変化率と、予め定義された範囲とに基づいて、少なくとも1つの位相角のそれぞれについての時間閾値が決定される。ブロック703において、予め定義された範囲内の少なくとも1つの位相角のいずれかの持続時間がそれぞれの時間閾値を超える場合、故障が判定される。
【0053】
説明を目的として、
図8Aは、電力動揺中の位相角δ
a、δ
b、δ
c、δ
ab、δ
bc、δ
caの波形図を示し、
図8Bは、位相角δ
aの拡大波形図を示す。
図8Aと
図8Bに示すように、電力動揺中、各位相角δ
a、δ
b、δ
c、δ
ab、δ
bc、δ
caは、各サイクルにおいて0度から360度まで変化する。図示されるように、ある周期において4.5秒後に、故障が発生すると、全ての位相角が素早く180度に変化し、維持される。
【0054】
故障を特定するために、80度を含む角度範囲[δ
1、δ
2]が予め定義されてもよい。例えば、角度範囲[δ
1,δ
2]は[170,190]、すなわち
図8Bに示すように170度から190度の範囲である。あるいは、角度範囲[δ
1,δ
2]は、他の適切な範囲であってもよい。故障が発生すると、明らかに、位相角δ
a、δ
b、δ
c、δ
ab、δ
bc、δ
caは、予め定義された範囲に確実に収まる。さらに、電力動揺中も、位相角がこの予め定義された範囲に入ることが理解される。予め定義された範囲にそれぞれの位相角が収まると、時間に対するそれぞれの位相角の変化率が決定される。
図8Bに示すように、いくつかの実施形態において、変化率は、予め定義された範囲にそれぞれの位相角が入ったときの時間に対するそれぞれの位相角の瞬間的な変化率dδ/dtであってもよい。そして、基準閾値T
0は、次式によって算出してもよい。
【0055】
【0056】
故障検出の信頼性を向上させ、ミストリップを回避するために、時間閾値Tは基準閾値T0より大きくてもよく、したがって、次式によって算出することができる。
T=krel×T0 (6)
例えば、krelは1.2~2.0であってもよく、T>T0が確保される。
【0057】
図9Aと
図9Bは、故障判定とトリップの論理図を示す。
図9Aに示すように、時間閾値Tの間、それぞれの位相角δが[δ
1,δ
2](例えば[170,190])の範囲内に残る場合、三相故障が判定されてもよい。例えば、
図9Aに示す論理は、全ての位相角δ
a、δ
b、δ
c、δ
ab、δ
bc、δ
caに対して実施してもよく、範囲[δ
1、δ
2]に収まるこれらの位相角のいずれか1つの持続時間が時間閾値Tに達するか、又はそれを超えると、三相故障が判定される。
図9Bに示すように、いくつかの実施形態において、位相角δ
a、δ
bcのいずれかが、時間閾値Tの間、範囲[δ
1、δ
2](例えば[170、190])に残る場合、三相故障が判定されてもよい。あるいは、位相角δ
b、δ
caのいずれか、又は位相角δ
c、δ
abのいずれかが、時間閾値Tの間、範囲[δ
1,δ
2](例えば[170,190])に残る場合、三相故障が判定されてもよい。あるいは、位相角δ
a、δ
b、δ
cのいずれか、又は位相角δ
ab、δ
bc、δ
caのいずれかが、時間閾値Tの間、[δ
1、δ
2]の範囲(例えば[170、190])に残る場合、三相故障が判定されてもよい。同様に、正相電圧成分に関連付けられた位相角、又は全ての位相角δ
a、δ
b、δ
c、δ
ab、δ
bc、δ
caの平均によって、三相故障が判定されてもよい。
【0058】
上述の内容から分かるように、基準閾値T0は、電力動揺中に位相角が、予め定義された範囲(例えば、[170,190])を通過するのに必要な予測時間を表す。一般に、予め定義された範囲(例えば、[170,190])は比較的小さな間隔であるため、瞬間的な変化率dδ/dtはこの間隔において定数とみなすことができる。この状況では、算出されたT0は比較的高い精度を有し、電力動揺中に位相角が、予め定義された範囲を通過するのに必要なリアルタイムな間隔に非常に近い。また、時間閾値Tは、余裕を持たせるために、係数krelによってT0より若干大きい。したがって、位相角が予め定義された度数範囲内での時間が時間閾値Tに達することは、位相角が180度に維持されている、すなわち故障が発生していると判定するのに十分である。この時間閾値Tは一定値ではなく、リアルタイムで算出されることに留意されたい。特に、故障時には、各位相角の瞬間的な変化率dδ/dtが大きな値となるため、式(5)と式(6)によってリアルタイムで算出される時間閾値Tは非常に小さい。例えば、故障が発生すると、位相角は突然、非常に短い時間(例えば20ms)で30度等の他の値から180度に変化する。基準閾値T0は、次式(5)によって得られる。dδ/dt=(180-30)/0.02=7500degree/s、及び、T0=(190-170)/7500=27ms。krel=1.48であると仮定すると、時間閾値は式(6)によって40msと算出されてもよい。すなわち、本発明の解決手段によれば、故障をトリップする持続時間は、例えば、数十ミリ秒のように非常に短くてもよい。これとは対照的に、従来の解決手段の所定時間は、電力動揺中にインピーダンスがリレーの動作領域に留まる最大時間よりも長く設定する必要があるため、従来の解決手段では故障の判定とトリップに通常2秒又はそれ以上の時間が必要である。
【0059】
さらに、本発明の解決手段は、ミストリップを回避する上でさらなる利点を提供する。特に、逆方向閉鎖の故障と順方向の外部故障の場合、位相角δ=0となる。したがって、位相角δは、相対的に小さい予め定義された範囲[δ1,δ2](例えば、[170,190])には入らない。このように、本解決手段では、外部故障によるミストリップが発生しない。
【0060】
さらに、位相角の変化率を瞬間的な変化率dδ/dtとみなす実施形態では、基準閾値T0と時間閾値Tが電力動揺の周期又はサイクルから独立しているため、電力動揺の周期又はサイクルから独立した動作スピードに関し優位性を提供する。つまり、電力動揺周期がどれほど長くても(例えば、通常300ms~3s)、トリップに必要な持続時間は、故障が発生したときの瞬間的な変化率dδ/dtだけに関連付けられるである。
【0061】
図10は、時間に対する位相角の変化率を決定するための代替的な実施を示す。いくつかの実施形態において、それぞれの位相角δ
a、δ
b、δ
c、δ
ab、δ
bc、δ
caが、予め定義された範囲(例えば、[170,190])に収まることに応じて、電力動揺の最近のサイクルにおける時間に対するそれぞれの位相角の平均変化率が決定される。電力動揺の最近のサイクルは、予め定義された範囲に以前に入った時点から、予め定義された範囲に現在入った時点までの期間を含む。例えば、
図10に示すように、時点t1において位相角δが190度に達すると、予め定義された範囲[170,190]に位相角δが入り、時点t1が記録されてもよく、その後、時点t2において位相角δが再び190度に達すると、時点t2が記録されてもよい。記録された時点t1とt2に基づいて、電力動揺の最近のサイクルの持続時間が決定される。最近のサイクルにおける時間に対する位相角δの平均変化率は、360/(t2-t1)として算出できる。最近のサイクルにおける位相角δの平均変化率によって、予め定義された範囲内に位相角δが留まる時間も推定できる。特に、式(5)及び式(6)と同様の算出において、基準閾値T
0と時間閾値Tを得ることができる。ここで式(5)は、T
0=(δ
2-δ
1)*(t2-t1)/360と置き換えられてもよい。この実施では、故障検出に要する時間は、電力動揺のリアルタイム周期に応じて変化する。例えば、δ
2が190度、δ
1が170度、k
relが1.2であるとすると、動揺周期が1s(すなわちt2-t1=1s)の場合、トリップに必要な時間はT=1.2*55ms=66msであり、動揺周期が300ms(すなわちt2-t1=300ms)の場合、必要な時間はT=1.2*17ms=20msであり、動揺周期が3s(すなわちt2-t1=3s)の場合、必要な時間はT=1.2*167ms=200msである。従来の解決手段と比較して、この実施では、故障がある電力線をより高速でトリップさせ、その結果、電力系統の安定性を向上させることが分かる。
【0062】
式(5)の代わりに、故障を判定するために、基準閾値T
0、ひいては時間閾値Tを他の方法で決定してもよい。いくつかの実施形態では、電力動揺中に少なくとも1つの位相角に基づいて故障を検出することは、予め定義された範囲内にそれぞれの位相角が以前に収まっていた測定された持続時間に基づいて、少なくとも1つの位相角の各々についての時間閾値を決定することと、少なくとも1つの位相角のいずれかが予め定義された範囲内での持続時間がそれぞれの時間閾値を超えた場合に、故障を判定することと、を含む。例えば、電力動揺中に、予め定義された範囲[δ
1,δ
2](例えば、[170,190])に位相角δが最初に入った時点と出た時点を測定することができ、その結果、予め定義された範囲内に位相角δが収まっていた持続時間が測定又は決定される。測定又は決定された持続時間は、基準閾値T
0として直接使用することができ、これによって式(6)から時間閾値Tを決定することができる。予め定義された範囲[δ
1,δ
2]に2回目に入るとき、決定された時間閾値Tは、
図9Aの実施形態と同様の方法で故障の判断に使用される。すなわち、位相角δが予め定義された範囲[δ
1,δ
2]内での持続時間が時間閾値Tを超えた場合に、故障が発生したと判定され、それ以外の場合は故障が発生していないと判定される。故障がない場合、予め定義された範囲[δ
1,δ
2](例えば[170,190])に位相角δが2回目に入った時点と出た時点を測定し、それによって持続時間を決定することができる。決定された持続時間は、基準閾値T
0の更新に使用され、予め定義された範囲[δ
1,δ
2]に3回目に入ったときに、故障の判断に役立つ。電力動揺のその後の周期においても、同様に故障判定を行うことができる。上述の検出において、電力動揺の最初のサイクル中、基準閾値T
0は、他の方法で定義されてもよく、例えば、T
0の初期値は、過去のデータに基づいて予め定義されてもよく、又は、位相角δの瞬間的な変化率に基づいて算出されてもよい。あるいは、電力動揺の最初のサイクル中に、T
0を使用する必要のない他の手段によって故障を判定してもよい。この実施では、位相角の変化率の算出が回避されるため、プロセッサの負荷が軽減され、故障判定が高速化される。
【0063】
図11は、電力系統の周波数が示された2電源システムの模式図を示す。一般に、電力動揺中は、発電機又は電源の周波数は基本周波数ではなくなる。例えば、
図11に示すように、E
mの周波数は49Hz、E
nの周波数は52Hz、電流I
mの周波数は50.5Hzである。電流と電圧の周波数は同じではないので、式(1)によって周波数領域で送電線の第2位置(例えば点Q)の電圧を算出するのは正確ではない場合がある。いくつかの実施形態において、送電線の第2位置(例えば、点Q)における電圧を推定することは、第1位置(例えば、点P)における測定された電気量に基づいて、時間領域において送電線の第2位置における電圧を算出することを備える。時間領域において第2位置における電圧を算出する場合、式(1)は以下の式に置き換えられてもよい。
【0064】
【0065】
時間領域において算出を実施する場合、第1位置における電圧及び電流をサンプリングして得ることができる。これらのサンプリングされた電圧及び電流は、式(7)によって第2位置における電圧を算出するために使用することができる。第1位置と第2位置における電圧を得た後、フーリエ変換によって、第1位置のそれぞれの電圧の実数部と虚数部、及び第2位置におけるそれぞれの電圧の実数部と虚数部を算出することができる。これにより、第1位置及び第2位置における電圧の間の少なくとも1つの位相角、ひいては時間に対する少なくとも1つの位相角の変化率をさらに算出することができる。
【0066】
これまでの議論では、故障を特定するために、位相角δの変化率に基づいてT0とTを設定するアプローチについて論じてきた。しかし、理解されるように、位相角δの変化率に基づいて故障を特定することは、他の適切なアプローチで実施可能である。いくつかの実施形態において、電力動揺中に時間に対する少なくとも1つの位相角の変化率に基づいて故障を検出することは、少なくとも1つの位相角のそれぞれについて、180度を含む予め定義された範囲にそれぞれの位相角が収まることに応じて、時間に対するそれぞれの位相角の瞬間的な変化率を決定することと、少なくとも1つの位相角のいずれかの瞬間的な変化率が、予め定義された閾値を超えたことに応じて、故障を判定することと、を含む。
【0067】
具体的には、故障が発生すると位相角δが180度に急変するため、故障の場合、位相角δの変化率が大幅に上昇する。したがって、位相角δの変化を監視するために、変化率の閾値が予め定義されてもよく、変化率の閾値は、通常の電力動揺中の位相角の変化率よりもはるかに大きくする必要がある。予め定義された範囲[δ1,δ2](例えば[170,190])に位相角が入ると、位相角の瞬間的な変化率が閾値と比較され、瞬間的な変化率が閾値を超えた場合に故障を判定することができる。このように、待機時間T無しで、リアルタイムな変化率を閾値と比較することで故障の特定が実施されるため、故障検出は測定と算出の時間のみを必要とし、電力動揺中に故障トリップに要する時間がさらに短縮される。しかし、予め定義された範囲[δ1,δ2]で故障が発生した場合、このアプローチは、位相角δの変化率の異常な上昇を検出せず機能しない可能性がある。このような状況では、予め定義された範囲[δ1,δ2]で発生した故障は、他の方法で検出されてもよい。例えば、位相角δの変化率に基づいてT0とTを設定する上述のアプローチ、又はインピーダンスが距離リレーの動作領域から離れるまでの待機時間を必要とする従来の解決手段が挙げられる。
【0068】
さらに、位相角δの変化率に基づいて故障を特定する提案した解決手段では、場合によっては故障が見逃される可能性がある。例えば、故障が第1位置と第2位置(例えば
図2の点Pと点Q)で発生した場合、第1位置又は第2位置における電圧がゼロであるため、式(2)の位相角δを得ることができず、その結果、この条件下では提案した解決手段は機能できない。したがって、
図2の点P又は点Qで故障が発生した場合、故障は他の方法、例えば保護スピードが遅い従来の解決手段で検出されてもよい。すなわち、本発明が提案する方法は、電力動揺中に信頼性が高く効率的な故障保護を実現するために、従来の解決手段と並行して実行されてもよい。
【0069】
本開示の他の態様によれば、上述のような本開示の実施形態を実施することができる電子装置が提供される。
図12は、本開示の実施形態を実施するために適した例示的な装置1200の概略ブロック図を示す。例えば、故障検出装置は、装置1200によって実装されてもよい。示されるように、装置1200は中央プロセッサユニット(CPU)1201を備える。中央プロセッサユニット(CPU)1201は、リードオンリーメモリ(ROM)1202に格納されたコンピュータプログラム命令、又は記憶部1208からランダムアクセスメモリ(RAM)1203にロードされたコンピュータプログラム命令に基づいて、様々な適切な動作及び処理を実行してもよい。RAM1203には、装置1200の動作に必要な様々なプログラムやデータがさらに格納されている。CPU1201、ROM1202、及びRAM1203は、バス1204を介して互いに接続されている。入出力(I/O)インターフェース1205もバス1204に接続されている。
【0070】
I/Oインターフェース1205には、キーボード、マウス等の入力ユニット1206、各種ディスプレイ、スピーカ等の出力ユニット1207、磁気ディスク、光ディスク等の記憶ユニット1208、ネットワークカード、モデム、無線通信トランシーバ等の通信ユニット1209のような、装置1200の要素が接続されている。通信ユニット1209により、装置1200は、インターネット及び/又は様々な種類の電気通信ネットワーク等のコンピュータネットワークを介して、他の装置と情報/データを交換することができる。
【0071】
上述した様々なプロセス及び処理、例えば方法600は、プロセッサユニット1201によって実行されてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、方法600は、機械可読媒体、例えば、記憶ユニット1208において具体化されるコンピュータソフトウェアプログラムとして実施されてもよい。いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムの一部又は全部が、ROM1202及び/又は通信ユニット1209を介して、装置1200にロード及び/又は搭載されてもよい。コンピュータプログラムがRAM1203にロードされ、CPU1201によって実行されると、上述の方法600の1つ又は複数の動作が実行されてもよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、電子装置は、上述したmhoリレーのような距離リレーであってもよい。本開示の実施形態にかかる方法を距離リレーに組み込むことで、送電線の信頼性を大幅に向上させることができる。
【0073】
本開示の別の態様によれば、本開示の態様を実行するためのコンピュータ可読プログラム命令を有するコンピュータ可読記憶媒体(又はメディア)が提供される。
【0074】
コンピュータ可読記憶媒体は、命令実行装置によって使用される命令を保持及び格納することができる有形装置であり得る。コンピュータ可読記憶媒体は、例えば、電子記憶装置、磁気記憶装置、光学記憶装置、電磁記憶装置、半導体記憶装置、又はこれらの任意の適切な組合せであってもよいが、これらに限定されない。コンピュータ可読記憶媒体のより具体的な例のリストには、ポータブルコンピュータディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリーメモリ(EPROM又はフラッシュメモリ)、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、ポータブルコンパクトディスクリードオンリーメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、メモリスティック、フロッピー(登録商標)ディスク、命令が記録されたパンチカード又は溝内の隆起構造等の機械的エンコード装置、及びこれらの任意の適切な組合せが含まれるが、これらに限定されない。ここで使用されるコンピュータ可読記憶媒体は、例えば無線電波若しくは他の自由伝播する電磁波、導波管若しくは他の送信媒体を介して伝播する電磁波(例えば、光ファイバーケーブルを通過する光パルス)、又は電線を介して送信される電気信号のような、瞬時の信号そのものであるとは解釈されない。
【0075】
本明細書で説明するコンピュータ可読プログラム命令は、コンピュータ可読記憶媒体からそれぞれのコンピューティング/処理装置に、又は、例えばインターネット、ローカルエリアネットワーク、ワイドエリアネットワーク及び/又はワイヤレスネットワーク等のネットワークを介して外部コンピュータ又は外部記憶装置にダウンロードされ得る。ネットワークは、銅製送信ケーブル、光送信ファイバー、無線送信、ルーター、ファイアウォール、スイッチ、ゲートウェイコンピュータ、及び/又はエッジサーバを備えてもよい。各コンピューティング/処理装置のネットワークアダプタカード又はネットワークインターフェースは、ネットワークからコンピュータ可読プログラム命令を受信し、各コンピューティング/処理装置内のコンピュータ可読記憶媒体に格納するために、コンピュータ可読プログラム命令を転送する。
【0076】
本開示の動作を実行するためのコンピュータ可読プログラム命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、機械語命令、機械依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、又は、Smalltalk、C++等のオブジェクト指向プログラミング言語、及び「C」プログラミング言語等の従来の手続き型プログラミング言語を含む1つ以上のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコード若しくはオブジェクトコードのいずれかであってもよい。コンピュータ可読プログラム命令は、完全にユーザコンピュータ上で実行してもよいし、部分的にユーザコンピュータ上で実行してもよいし、スタンドアロンのソフトウェアパッケージとして実行してもよいし、ユーザコンピュータ上で部分的に実行するとともにリモートコンピュータ上で部分的に実行してもよいし、或いは、完全にリモートコンピュータ又はサーバ上で実行してもよい。リモートコンピュータにかかるシナリオにおいて、リモートコンピュータは、ローカルエリアネットワーク(LAN)又はワイドエリアネットワーク(WAN)を含む任意の種類のネットワークを介して、ユーザコンピュータに接続されてもよく、或いは、接続は外部のコンピュータに対して(例えばインターネットサービスプロバイダを利用しインターネットを介して)行われてもよい。いくつかの実施形態において、コンピュータ可読プログラム命令の状態情報を利用して、例えばプログラマブルロジック回路、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)又はプログラマブルロジックアレイ(PLA)のように、電子回路をカスタマイズすることができる。電子回路は、本開示の態様を実行するために、コンピュータ可読プログラム命令を実行してもよい。
【0077】
ここでは、本開示の実施形態にかかる方法、装置(システム)及びコンピュータプログラム製品のフローチャート図及び/又はブロック図を参照して、本開示の態様を説明した。理解されるように、フローチャート図及び/又はブロック図の各ブロック、並びにフローチャート図及び/又はブロック図のブロックの組合せは、コンピュータ可読プログラム命令により実施可能である。
【0078】
コンピュータ又は他のプログラミング可能なデータ処理装置のプロセッサにより実行されるコンピュータ可読プログラム命令が、フローチャート及び/又はブロック図の1つ又は複数のブロックで規定された機能/動作を実施する手段を生成するように、これらの命令は、汎用コンピュータ、専用コンピュータ又は他のプログラミング可能なデータ処理装置のプロセッサに提供されて、マシンを作り出してもよい。これらのコンピュータ可読プログラム命令は、コンピュータ、プログラミング可能なデータ処理装置、及び/又はその他の装置が特定の方法で機能することを可能にするコンピュータ可読記憶媒体に格納されてもよい。したがって、命令が格納されたコンピュータ可読記憶媒体は、フローチャート及び/又はブロック図の1つ又は複数のブロックで規定された機能/動作の態様を実施する命令が含まれた製品を備える。
【0079】
コンピュータ、他のプログラミング可能なデータ処理装置、又は他の装置で実行されるコンピュータ可読プログラム命令が、フローチャート及び/又はブロック図の1つ又は複数のブロックで規定された機能/動作を実施するように、命令は、コンピュータ、他のプログラミング可能なデータ処理装置、又は他の装置にロードされて、コンピュータ、他のプログラミング可能なデータ処理装置、又は他の装置上で一連の動作ステップを実行させ、コンピュータが実施するプロセスを作り出してもよい。
【0080】
本開示の上述の詳細な実施形態は、本開示の原理を例示又は説明するためのものにすぎず、本開示を限定するものではないことを理解されたい。したがって、本開示の精神及び範囲から逸脱しない何らかの変更、均等な代替案及び改良等は、本開示の保護範囲に含まれるものとする。一方、本開示の添付の請求項は、請求項の範囲及び境界、又はその範囲及び境界の均等物に属する全ての変形及び変更を網羅することを目的としている。
【国際調査報告】