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特表2024-541456ポリイミド前駆体組成物およびこれを含むポリイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体組成物およびこれを含むポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20241031BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241031BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
H05K1/03 670
H05K1/03 630H
H05K1/03 610H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530056
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 KR2022018423
(87)【国際公開番号】W WO2023090969
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】10-2021-0161643
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0109102
(32)【優先日】2022-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】バック,ソン ユル
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ドン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リー,キル ナム
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ミン サン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ス ギョン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヨン ジン
【テーマコード(参考)】
4F071
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AA86
4F071AF40Y
4F071AF62Y
4F071AG01
4F071AG28
4F071AG34
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4F071BC01
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(57)【要約】
本発明は、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドを含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミンを含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第1ブロックと、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドを含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第2ブロックと、ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジンを含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第3ブロックとを含むブロック共重合体を含むポリイミドフィルムを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第1ブロックと、
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドを含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第2ブロックと、
ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジンを含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第3ブロックと、を含むブロック共重合体を含む、
ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記ポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびピロメリティックジアンハイドライドからなる二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミンおよびm-トリジンからなるジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムのジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が25モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上75モル%以下である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が50モル%以上65モル%以下であり、
ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が35モル%以上50モル%以下である、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記第1ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として40モル%以上であり、55モル%以下であり、
前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として10モル%以上である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記第3ブロックの前記m-トリジンの含有量が前記ポリイミドフィルムのジアミン成分の総含有量100モル%を基準として10モル%以上であり、35モル%以下である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
誘電損失率(Df)が0.003以下であり、
熱膨張係数(CTE)が13ppm/℃以上、23ppm/℃以下であり、
ガラス転移温度(Tg)が320℃以上である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムと、熱可塑性樹脂層とを含む、多層フィルム。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムと、電気伝導性の金属箔とを含む、
フレキシブル金属箔積層板。
【請求項10】
請求項9に記載のフレキシブル金属箔積層板を含む、
電子部品。
【請求項11】
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とを反応させて得られた第1ブロックと、
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドを含む二無水物酸成分と、m-トリジンを含むジアミン成分とを反応させて得られた第2ブロックと、
ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分とを反応させて得られた第3ブロックと、を含むブロック共重合体を含む、
ポリイミド前駆体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体組成物およびポリイミド前駆体組成物を用いて製造した優れた高耐熱特性、低誘電特性および寸法安定性特性を兼ね備えたポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(polyimide、PI)は、剛直な芳香族主鎖とともに化学的安定性が非常に優れたイミド環をベースとして、有機材料の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料である。
特に、優れた絶縁特性、すなわち低い誘電率のような優れた電気的特性により、電気、電子、光学分野などに至るまで高機能性高分子材料として注目されている。
最近、電子製品の軽量化、小型化に伴い、集積度が高くて柔軟な薄型回路基板が活発に開発されている。
【0003】
このような薄型回路基板は、優れた耐熱性、耐低温性および絶縁特性を有しながらも、屈曲が容易なポリイミドフィルム上に金属箔を含む回路が形成されている構造が多く活用される傾向にある。
このような薄型回路基板としてはフレキシブル金属箔積層板が主に用いられており、一例として、金属箔に薄い銅板を用いるフレキシブル銅箔積層板(Flexible Copper Clad Laminate、FCCL)が含まれる。その他にも、ポリイミドを薄型回路基板の保護フィルム、絶縁フィルムなどとして活用したりする。
一方、最近、電子機器に多様な機能が内在するにつれ、前記電子機器に速い演算速度と通信速度が要求されており、これを満たすために、高周波で高速通信が可能な薄型回路基板が開発されている。
【0004】
高周波高速通信の実現のために、高周波でも電気絶縁性を維持できる高いインピーダンス(impedance)を有する絶縁体が必要である。インピーダンスは、絶縁体に形成される周波数および誘電定数(dielectric constant;Dk)と反比例の関係が成立するので、高周波でも絶縁性を維持するためには誘電定数ができるだけ低くなければならない。
しかし、通常のポリイミドの場合、誘電特性が高周波通信で十分な絶縁性を維持できる程度に優れた水準ではないのが現状である。
また、絶縁体が低誘電特性を有するほど、薄型回路基板で不望の浮遊容量(stray capacitance)とノイズの発生を減少させることが可能で、通信遅延の原因を相当部分解消できることが知られている。
したがって、低誘電特性のポリイミドが薄型回路基板の性能に何より重要な要因として認識されているのが現状である。
【0005】
特に、高周波通信の場合、必然的にポリイミドによる誘電損失(dielectric dissipation)が発生するが、誘電損失率(dielectric dissipation factor;Df)は、薄型回路基板の電気エネルギーの浪費程度を意味し、通信速度を決定する信号伝達遅延と密接に関係していて、ポリイミドの誘電損失率をできるだけ低く維持することも、薄型回路基板の性能に重要な要因として認識されている。
また、ポリイミドフィルムに湿気が多く含まれるほど、誘電定数が大きくなり、誘電損失率が増加する。ポリイミドフィルムの場合、優れた固有の特性によって薄型回路基板の素材として適するのに対し、極性を呈するイミド基によって湿気に相対的に脆弱であり、こ
れによって絶縁特性が低下することがある。
したがって、ポリイミド特有の機械的特性、熱的特性および寸法安定性特性を一定の水準に維持しながらも、誘電特性、特に、低誘電損失率のポリイミドフィルムの開発が必要なのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】大韓民国公開特許公報第10-2015-0069318号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、上記の問題を解決すべく、優れた高耐熱特性、低誘電特性および寸法安定性特性を兼ね備えたポリイミドフィルムおよびこれを製造するためのポリアミド前駆体組成物を提供することを目的とする。
このため、本発明は、その具体的な実施例を提供することを実質的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための、本発明の一実施形態は、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第1ブロックと、
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドを含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第2ブロックと、
ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジンを含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第3ブロックと、を含むブロック共重合体を含む、
ポリイミドフィルムを提供する。
【0009】
本発明の他の実施形態は、前記ポリイミドフィルムと、熱可塑性樹脂層とを含む、
多層フィルムを提供する。
本発明のさらに他の実施形態は、前記ポリイミドフィルムと、電気伝導性の金属箔とを含む、
フレキシブル金属箔積層板を提供する。
本発明のさらに他の実施形態は、前記フレキシブル金属箔積層板を含む、
電子部品を提供する。
【0010】
本発明のさらに他の実施形態は、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とを反応させて得られた第1ブロックと、
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドを含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分とをイミド化反応させて得られた第2ブロックと、
ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジンを含むジアミン成分とを反応させて得られた第3ブロックと、を含むブロック共重合体を含む、
ポリイミド前駆体組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明は、特定の成分および特定の組成比からなるポリイミドフィ
ルムおよびこれを製造するためのポリアミド前駆体組成物により優れた高耐熱特性、低誘電特性および寸法安定性特性を兼ね備えたポリイミドフィルムを提供することにより、このような特性が要求される多様な分野、特に、フレキシブル金属箔積層板などの電子部品などに有用に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態をより詳細に説明する。
これに先立ち、本明細書および特許請求の範囲に使用された用語や単語は通常または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則り、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
したがって、本明細書に記載された実施例の構成は本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替可能な多様な均等物と変形例が存在できることを理解しなければならない。
【0013】
本明細書において、単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や、数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
本明細書において、量、濃度、または他の値またはパラメータが範囲、好ましい範囲または好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別途に開示されるかに関係なく、任意の一対の任意の上方範囲の限界値または好ましい値、および任意の下方範囲の限界値または好ましい値で形成されたすべての範囲を具体的に開示すると理解されなければならない。
数値の範囲が本明細書で言及される場合、他に記述されなければ、その範囲はその終点およびその範囲内のすべての整数と分数を含むことが意図される。本発明の範疇は、範囲を定義する時に言及される特定の値に限定されないことが意図される。
【0014】
本明細書において、「二無水物酸」は、その前駆体または誘導体を含むことが意図されるが、これらは技術的には二無水物酸でないかも知れないが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は再度ポリイミドに変換される。
本明細書において、「ジアミン」は、その前駆体または誘導体を含むことが意図されるが、これらは技術的にはジアミンでないかも知れないが、それにもかかわらず、ジアンハイドライドと反応してポリアミック酸を形成するはずであり、このポリアミック酸は再度ポリイミドに変換される。
本発明によるポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第1ブロックと、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドを含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第2ブロックと、ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジンを含むジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られた第3ブロックとを含むブロック共重合体を含むことができる。
【0015】
例えば、前記第1ブロックは、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびパラフェニレンジアミンの重合体に由来するポリアミック酸をイミド化反応させて得
られ、前記第2ブロックは、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびm-トリジンの重合体に由来するポリアミック酸をイミド化反応させて得られ、前記第3ブロックは、ピロメリティックジアンハイドライドおよびm-トリジンの重合体に由来するポリアミック酸をイミド化反応させて得られる。
前記m-トリジンは、疎水性を呈するメチル基を有していて、ポリイミドフィルムの低吸湿特性とこれに起因するポリイミドフィルムの低誘電性に寄与する。
【0016】
一実施形態において、前記ポリイミドフィルムは、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびピロメリティックジアンハイドライドからなる二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミンおよびm-トリジンからなるジアミン成分との重合体に由来するポリアミック酸をイミド化して得られる。
これは、前記ポリイミドフィルムは、前記第1ブロック、前記第2ブロック、および前記第3ブロックを含むか、前記第1ブロック、前記第2ブロック、および前記第3ブロックからなるブロック共重合体からなるからである。
【0017】
一実施形態において、前記ポリイミドフィルムのジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が25モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上75モル%以下であってもよい。
好ましくは、前記ポリイミドフィルムのジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が30モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上70モル%以下であってもよい。
【0018】
また、前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が50モル%以上65モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が35モル%以上50モル%以下であってもよい。
好ましくは、前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が50モル%以上60モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が40モル%以上50モル%以下であってもよい。
【0019】
本発明のビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドに由来するポリイミド鎖は、電荷移動錯体(CTC:Charge transfer complex)と名付けられた構造、すなわち、電子供与体(electron donnor)と電子受容体(electron acceptor)とが互いに近接して位置する規則的な直線構造を有し、分子間相互作用(intermolecular interaction)が強化される。
このような構造は水分との水素結合を防止する効果があるので、吸湿率を低下させるのに影響を与えて、ポリイミドフィルムの吸湿性を低下させる効果を極大化することができる。
一つの具体例において、前記二無水物酸成分は、ピロメリティックジアンハイドライドを追加的に含むことができる。ピロメリティックジアンハイドライドは、相対的に剛直な構造を有する二無水物酸成分で、ポリイミドフィルムに適切な弾性を付与できるという点で好ましい。
【0020】
ポリイミドフィルムが適切な弾性と吸湿率を同時に満足するためには、二無水物酸の含有量比が特に重要である。例えば、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量比が減少するほど、前記CTC構造による低い吸湿率を期待しにくくなる。
また、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドは、芳香族部分に相当するベンゼン環を2個含むのに対し、ピロメリティックジアンハイドライドは、芳香族部分に
相当するベンゼン環を1個含む。
【0021】
二無水物酸成分においてピロメリティックジアンハイドライドの含有量の増加は、同一の分子量を基準とした時、分子内のイミド基が増加すると理解することができ、これはポリイミド高分子鎖に前記ピロメリティックジアンハイドライドに由来するイミド基の比率がビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドに由来するイミド基に比べて相対的に増加すると理解することができる。
すなわち、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量の増加は、ポリイミドフィルム全体に対しても、イミド基の相対的増加と見られ、これによって低い吸湿率を期待しにくくなる。
逆に、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量比が減少すれば、相対的に剛直な構造の成分が減少して、ポリイミドフィルムの弾性が所望の水準以下に低下することがある。
【0022】
このような理由により、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を上回るか、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を下回る場合、ポリイミドフィルムの機械的物性が低下し、フレキシブル金属箔積層板を製造するのに適切な水準の耐熱性を確保することができない。
逆に、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を下回るか、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を上回る場合、適切な水準の誘電定数および誘電損失率の達成が難しいので、好ましくない。
【0023】
一実施形態において、前記第1ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として40モル%以上であり、55モル%以下であり、前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として10モル%以上であってもよい。
前記第1ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲未満の場合、十分に低い誘電損失率(Df)を確保しにくく、前記範囲超過の場合、必要な耐熱性を確保しにくいことがある。
【0024】
前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲未満の場合、十分に低い誘電損失率(Df)を確保しにくいことがある。
一方、前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として25モル%以下であってもよい。
【0025】
前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲超過の場合、必要な耐熱性を確保しにくいことがある。
また、前記第1ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド全部がパラフェニレンジアミンとイミド化されており、前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド全部がm-トリジンとイミド化されていてもよい。
【0026】
一方、前記第3ブロックの前記m-トリジンの含有量が前記ポリイミドフィルムのジアミン成分の総含有量100モル%を基準として10モル%以上であり、35モル%以下であってもよい。
前記第3ブロックのm-トリジンの含有量が前記範囲未満の場合、十分に低い誘電損失率(Df)を確保しにくく、前記範囲超過の場合、必要な耐熱性を確保しにくいことがある

また、前記第3ブロックの前記m-トリジン全部がピロメリティックジアンハイドライドとイミド化されていてもよい。
【0027】
一実施形態において、前記ポリイミドフィルムは、誘電損失率(Df)が0.003以下であり、熱膨張係数(CTE)が13ppm/℃以上、23ppm/℃以下であり、ガラス転移温度(Tg)が320℃以上であってもよい。
これに関連し、誘電損失率(Df)、熱膨張係数およびガラス転移温度をすべて満足するポリイミドフィルムの場合、フレキシブル金属箔積層板用絶縁フィルムとして活用可能な上に、製造されたフレキシブル金属箔積層板が10GHz以上の高周波で信号を伝送する電気的信号伝送回路として用いられても、それの絶縁安定性が確保され、信号伝達遅延も最小化することができる。
前記条件をすべて有するポリイミドフィルムは、これまで知られていない新規なポリイミドフィルムであって、以下、誘電損失率(Df)について詳細に説明する。
【0028】
<誘電損失率>
「誘電損失率」は、分子の摩擦が交流電場によって引き起こされた分子運動を妨げる時、誘電体(または絶縁体)によって消滅する力を意味する。
誘電損失率の値は、電荷の消失(誘電損失)の容易性を示す指数として通常用いられ、誘電損失率が高いほど電荷が消失しやすくなり、逆に、誘電損失率が低いほど電荷が消失しにくくなる。すなわち、誘電損失率は電力損失の尺度であるが、誘電損失率が低いほど、電力の損失による信号伝送遅延が緩和されながら通信速度が速く維持できる。
これは絶縁フィルムであるポリイミドフィルムに強く要求される事項であり、本発明によるポリイミドフィルムは、10GHzの非常に高い周波数下で誘電損失率が0.003以下である。
【0029】
本発明において、ポリアミック酸の製造は、例えば、
(1)ジアミン成分の全量を溶媒中に入れて、その後、二無水物酸成分をジアミン成分と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(2)二無水物酸成分の全量を溶媒中に入れて、その後、ジアミン成分を二無水物酸成分と実質的に等モルとなるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン成分中の一部の成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対して二無水物酸成分中の一部の成分を約95~105モル%の比率で混合した後、残りのジアミン成分を添加し、これに連続して残りの二無水物酸成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(4)二無水物酸成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対してジアミン化合物中の一部の成分を95~105モル%の比率で混合した後、他の二無水物酸成分を添加し、続いて残りのジアミン成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルとなるようにして重合する方法;
(5)溶媒中において一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分とをいずれか1つが過剰となるように反応させて、第1組成物を形成し、他の溶媒中において一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分とをいずれか1つが過剰となるように反応させて、第2組成物を形成した後、第1、第2組成物を混合し、重合を完了する方法であって、この時、第1組成物を形成する時、ジアミン成分が過剰の場合、第2組成物では二無水物酸成分を過剰にし、第1組成物で二無水物酸成分が過剰の場合、第2組成物ではジアミン成分を過剰にして、第1、第2組成物を混合し、これらの反応に使用される全体のジアミン成分と二無水物酸成分とが実質的に等モルとなるようにして重合する方法、などが挙げられる。
【0030】
本発明では、前記のようなポリアミック酸の重合方法をランダム(random)重合方式と定義することができ、前記のような過程で製造された本発明のポリアミック酸から製
造されたポリイミドフィルムは、誘電損失率(Df)および吸湿率を低下させる本発明の効果を極大化させるという面で好ましく適用可能である。
ただし、前記重合方法は、先に説明した高分子鎖内の繰り返し単位の長さが相対的に短く製造されるので、二無水物酸成分に由来するポリイミド鎖が有するそれぞれの優れた特性を発揮するには限界がありうる。したがって、本発明において特に好ましく利用可能なポリアミック酸の重合方法は、ブロック重合方式である。
【0031】
一方、ポリアミック酸を合成するための溶媒は特に限定されるものではなく、ポリアミック酸を溶解させる溶媒であればいかなる溶媒も使用可能であるが、アミド系溶媒であることが好ましい。
具体的には、前記溶媒は、有機極性溶媒であってもよく、詳しくは、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよいし、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)からなる群より選択された1つ以上であってもよいが、これに限定されるものではなく、必要に応じて、単独でまたは2種以上組み合わせて使用可能である。
【0032】
一つの例において、前記溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドが特に好ましく使用できる。
また、ポリアミック酸の製造工程では、摺動性、熱伝導性、コロナ耐性、ループ硬さなどのフィルムの様々な特性を改善する目的で、充填材を添加してもよい。添加される充填材は特に限定されるものではないが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0033】
充填材の粒径は特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性と添加する充填材の種類によって決定すれば良い。一般的には、平均粒径が0.05~100μm、好ましくは0.1~75μm、さらに好ましくは0.1~50μm、特に好ましくは0.1~25μmである。
粒径がこの範囲を下回ると、改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると、表面性を大きく損傷させたり、機械的特性が大きく低下する場合がある。
また、充填材の添加量に対しても特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性や充填材の粒径などによって決定すれば良い。一般的に、充填材の添加量は、ポリイミド100重量部に対して、0.01~100重量部、好ましくは0.01~90重量部、さらに好ましくは0.02~80重量部である。
【0034】
充填材の添加量がこの範囲を下回ると、充填材による改質効果が現れにくく、この範囲を上回ると、フィルムの機械的特性が大きく損傷する可能性がある。充填材の添加方法は特に限定されるものではなく、公知のいかなる方法を用いてもよい。
本発明の製造方法において、ポリイミドフィルムは、熱イミド化法および化学的イミド化法により製造される。
【0035】
また、熱イミド化法および化学的イミド化法が並行される複合イミド化法により製造されてもよい。
前記熱イミド化法とは、化学的触媒を排除し、熱風や赤外線乾燥機などの熱源でイミド化反応を誘導する方法である。
前記熱イミド化法は、前記ゲルフィルムを100~600℃の範囲の可変的な温度で熱処理してゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができ、詳しくは、200~500℃、さらに詳しくは、300~500℃で熱処理してゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができる。
【0036】
ただし、ゲルフィルムを形成する過程でもアミック酸中の一部(約0.1モル%~10モル%)がイミド化され、このために、50℃~200℃の範囲の可変的な温度でポリアミック酸組成物を乾燥することができ、これも前記熱イミド化法の範疇に含まれる。
化学的イミド化法の場合、当業界における公知の方法により、脱水剤およびイミド化剤を用いて、ポリイミドフィルムを製造することができる。
【0037】
複合イミド化法の一例として、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を投入した後、80~200℃、好ましくは100~180℃で加熱して、部分的に硬化および乾燥した後に、200~400℃で5~400秒間加熱することにより、ポリイミドフィルムを製造することができる。
以上のような製造方法により製造された本発明のポリイミドフィルムは、誘電損失率(Df)が0.004以下であり、熱膨張係数(CTE)が15ppm/℃以下であり、ガラス転移温度(Tg)が320℃以上であってもよい。
本発明は、上述したポリイミドフィルムと、熱可塑性樹脂層とを含む多層フィルム、および上述したポリイミドフィルムと、電気伝導性の金属箔とを含むフレキシブル金属箔積層板を提供する。
【0038】
前記熱可塑性樹脂層としては、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂層などが適用可能である。
使用する金属箔としては特に限定されるものではないが、電子機器または電気機器の用途に本発明のフレキシブル金属箔積層板を用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む金属箔であってもよい。
一般的なフレキシブル金属箔積層板では、圧延銅箔、電解銅箔という銅箔が多く使用され、本発明においても好ましく使用可能である。また、これら金属箔の表面には防錆層、耐熱層または接着層が塗布されていてもよい。
【0039】
本発明において、前記金属箔の厚さについては特に限定されるものではなく、その用途によって十分な機能を発揮できる厚さであれば良い。
本発明によるフレキシブル金属箔積層板は、前記ポリイミドフィルムの一面に金属箔がラミネートされているか、前記ポリイミドフィルムの一面に熱可塑性ポリイミドを含む接着層が付加されており、前記金属箔が接着層に付着した状態でラミネートされている構造であってもよい。
本発明はさらに、前記フレキシブル金属箔積層板を電気的信号伝送回路として含む電子部品を提供する。前記電気的信号伝送回路は、少なくとも2GHzの高周波、詳しくは、少なくとも5GHzの高周波、さらに詳しくは、少なくとも10GHzの高周波で信号を伝送する電子部品であってもよい。
【0040】
前記電子部品は、例えば、携帯端末用通信回路、コンピュータ用通信回路、または宇宙航空用通信回路であってもよいが、これに限定されるものではない。
一方、本発明によるポリイミド前駆体組成物は、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)を含む二無水物酸成分と、パラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とを反応させて得られた第1ブロックと、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドを含む二無水物酸成分と、m-トリジンを含むジアミン成分とを反応させて得られた第2ブロックと、ピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)を含むジアミン成分とを反応させて得られた第3ブロックと、を含むブロック共重合体を含むことができる。
【0041】
前記ブロック共重合体の二無水物酸成分およびジアミン成分は、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド、ピロメリティックジアンハイドライド、パラフェニレンジアミンおよびm-トリジンのみからなる。
一実施形態において、前記ブロック共重合体のジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が25モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上75モル%以下であり、前記ブロック共重合体の二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が50モル%以上65モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が35モル%以上50モル%以下であってもよい。
【0042】
一実施形態において、前記ブロック共重合体の前記第1ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として40モル%以上であり、55モル%以下であり、前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として10モル%以上であってもよい。
一方、前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として25モル%以下であってもよい。
【0043】
また、前記ブロック共重合体の前記第3ブロックの前記m-トリジンの含有量が前記ポリイミドフィルムのジアミン成分の総含有量100モル%を基準として10モル%以上であり、35モル%以下であってもよい。
本発明の前記ポリイミド前駆体組成物は、前記ブロック共重合体(ポリアミック酸)と有機溶媒とを含むことができる。
前記有機溶媒は特に限定されるものではなく、前記ブロック共重合体(ポリアミック酸)を溶解させる溶媒であればいかなる溶媒も使用可能であるが、アミド系溶媒であることが好ましい。
【0044】
具体的には、前記有機溶媒は、極性有機溶媒であってもよく、詳しくは、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよいし、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)からなる群より選択される1つ以上であってもよいが、これに限定されるものではなく、必要に応じて、単独でまたは2種以上組み合わせて使用可能である。
一つの例において、前記溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドが特に好ましく使用できる。
【0045】
一方、前記ブロック共重合体(ポリアミック酸)は、前記ポリイミド前駆体組成物の総重量を基準として、約5重量%~約35重量%(例えば、約5重量%、約10重量%、約15重量%、約20重量%、約25重量%、約30重量%または約35重量%)含まれる。前記範囲において、前記ポリイミド前駆体組成物は、フィルムを形成するのに適当な分子量と溶液粘度を有することができ、保存安定性に優れることができる。前記ポリイミド前駆体組成物の総重量を基準として、前記ブロック共重合体(ポリアミック酸)は、例として、約10重量%~約30重量%、他の例として、約15重量%~20重量%含まれるが、これに限定されるものではない。
また、前記ポリイミド前駆体組成物は、23℃、1s-1の剪断速度で約100,000cP~約300,000cP(例えば、約100,000cP、約150,000cP、約200,000cP、約250,000cPまたは約300,000cP)の粘度を有することができる。
【0046】
前記範囲において、前記ブロック共重合体(ポリアミック酸)が所定の重量平均分子量を有するようにしながらも、ポリイミドフィルムの製膜時に工程性に優れることができる。ここで、「粘度」は、ハーケマルスレオメーター(HAAKE Mars Rheometer)を用いて測定できる。
前記ポリイミド前駆体組成物は、23℃、1s-1の剪断速度で、例として、約150,000cP~約250,000cP、他の例として、約200,000cP~約250,000cPの粘度を有することができるが、これに限定されるものではない。
前記ブロック共重合体(ポリアミック酸)は、重量平均分子量(Mw)が約100,000g/mol以上、例えば、約100,000g/mol~約500,000g/molであってもよいし、前記範囲において、より優れたポリイミド塗布膜またはフィルムの製造に有利であり得るが、これに限定されるものではない。ここで、「重量平均分子量」は、ゲル透過クロマトグラフィー(gel permeation chromatography:GPC)を用いて測定できる。
【0047】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、ワニスとして提供されてポリイミド塗布膜の製造に使用されるか、本発明のポリイミドフィルムを製造するために使用されてもよい。
ポリイミド塗布膜を得るためには、ポリイミド前駆体組成物を、従来公知のスピンコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、浸漬法、カーテンコート法、ディップコーティング法、ダイコート法などの公知の方法により基材上に塗布し、250℃以下の温度で乾燥させて溶媒を除去した後、イミド化することができる。
【0048】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例としては、塩基発生剤成分、モノマーなどの重合性成分、界面活性剤、可塑剤、粘度調整剤、消泡剤、着色剤および充填材などが挙げられる。
前記充填材は特に限定されるものではないが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
本発明によるポリイミド前駆体組成物の製造方法は、(a)ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびパラフェニレンジアミンを有機溶媒中で重合して、ブロック共重合体の第1ブロックを含む第1ポリアミック酸を製造するステップと、(b)前記(a)ステップで形成された前記第1ポリアミック酸にビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびm-トリジンを重合して、前記ブロック共重合体の前記第1ブロックおよび第2ブロックを含む第2ポリアミック酸を製造するステップと、(c)前記(b)ステップで形成された第2ポリアミック酸にピロメリティックジアンハイドライドおよびm-トリジンを重合して、前記ブロック共重合体の前記第1ブロック、前記第2ブロック、および第3ブロックを含む第3ポリアミック酸を製造するステップと、を含むことができる。
【0049】
一実施形態において、前記ブロック共重合体のジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が25モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上75モル%以下であり、前記ブロック共重合体の二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が50モル%以上65モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が35モル%以上50モル%以下であってもよい。
一実施形態において、前記ブロック共重合体の前記第1ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ブロック共重合体の二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として40モル%以上であり、55モル%以下であり、前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が
前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として10モル%以上であってもよい。
【0050】
一方、前記第2ブロックの前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として25モル%以下であってもよい。
また、前記ブロック共重合体の前記第3ブロックの前記m-トリジンの含有量が前記ポリイミドフィルムのジアミン成分の総含有量100モル%を基準として10モル%以上であり、35モル%以下であってもよい。
【実施例
【0051】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述する。ただし、このような実施例は発明の例として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定められるのではない。
【0052】
<製造例>
撹拌機および窒素注入・排出管を備えた500mlの反応器に窒素を注入させながらNMPを投入し、反応器の温度を30℃に設定した後、ジアミン成分としてパラフェニレンジアミンとm-トリジン、二無水物酸成分としてビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびピロメリティックジアンハイドライドを定められた順に投入し、窒素雰囲気下で40℃に温度を上げて加熱しながら120分間撹拌することでブロック共重合して、23℃での粘度が200,000cPを示すポリアミック酸を製造した。
製造されたポリアミック酸を1,500rpm以上の高速回転により気泡を除去した。以後、スピンコーターを用いてガラス基板に脱泡されたポリイミド前駆体組成物を塗布した。以後、窒素雰囲気下および120℃の温度で30分間乾燥してゲルフィルムを製造し、前記ゲルフィルムを450℃まで2℃/分の速度で昇温し、450℃で60分間熱処理し、30℃まで2℃/分の速度で冷却してポリイミドフィルムを得た。
【0053】
以後、蒸留水に浸漬(dipping)してガラス基板からポリイミドフィルムを剥離させた。製造されたポリイミドフィルムの厚さは15μmであった。製造されたポリイミドフィルムの厚さはアンリツ(Anritsu)社の膜厚測定器(Electric Film thickness tester)を用いて測定した。
以下、実施例のジアミン成分の含有量は、ポリイミドフィルムのジアミン成分の総含有量100モル%を基準とした各ジアミン成分のmol%を示し、実施例の二無水物酸成分の含有量は、ポリイミドフィルムの二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準とした各二無水物酸成分のmol%を示す。
【0054】
<実施例1>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をパラフェニレンジアミン(70mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(45mol%)、m-トリジン(15mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(15mol%)、m-トリジン(15mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(40mol%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
【0055】
<実施例2>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をパラフェニレンジアミン(70mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(50mol%)、m-トリジン(10mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(10mol%)、m-トリジン(20mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(40mol%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
【0056】
<実施例3>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をパラフェニレンジアミン(65mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(40mol%)、m-トリジン(10mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(10mol%)、m-トリジン(25mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(50mol%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
【0057】
<実施例4>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をパラフェニレンジアミン(60mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(40mol%)、m-トリジン(15mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(15mol%)、m-トリジン(25mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(45mol%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
【0058】
<実施例5>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をパラフェニレンジアミン(60mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(40mol%)、m-トリジン(10mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(10mol%)、m-トリジン(30mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(50mol%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
【0059】
<比較例1>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をパラフェニレンジアミン(55mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(50mol%)、m-トリジン(45mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(50mol%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
【0060】
<比較例2>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をm-トリジン(80mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(40mol%)、パラフェニレンジアミン(20mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(60mol%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
【0061】
<比較例3>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をm-トリジン(80mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(30mol%)、パラフェニレンジアミン(20mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(70mol%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
【0062】
<比較例4>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をm-トリジン(60mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(40mol%)、パラフェニレンジアミン(40mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(60mol%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
【0063】
<比較例5>
上述した製造例により、ジアミン成分および二無水物酸成分をパラフェニレンジアミン(80mol%)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(70mol%)、m-トリジン(20mol%)、ピロメリティックジアンハイドライド(30mol
%)の順に投入し、共重合してポリイミドフィルムを製造した。
実施例1~5および比較例1~5により、製造されたポリイミドフィルムの成分およびその含有量を下記表1に示した。
【表1】
【0064】
<実験例>誘電率、誘電損失率、熱膨張係数およびガラス転移温度評価
実施例1~実施例5および比較例1~比較例5でそれぞれ製造したポリイミドフィルムに対して誘電率、誘電損失率、熱膨張係数およびガラス転移温度を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0065】
(1)誘電率(Dk)の測定
誘電率(Dk)は、試料を130℃のオーブンで30分乾燥し、23℃相対湿度50%の環境で24h放置した後、キーサイト(Keysight)社のネットワーク分析器とQWED社のSPDR共振器を用いて10GHzでの誘電率を測定した。
【0066】
(2)誘電損失率(Df)の測定
誘電損失率(Df)は、試料を130℃のオーブンで30分乾燥し、23℃相対湿度50%の環境で24h放置した後、キーサイト(Keysight)社のネットワーク分析器とQWED社のSPDR共振器を用いて10GHzでの誘電損失率を測定した。
【0067】
(3)熱膨張係数(CTE)の測定
熱膨張係数(CTE)は、TA社の熱機械分析機(thermomechanical analyzer)Q400モデルを用い、ポリイミドフィルムを幅4mm、長さ20mmに切断した後、窒素雰囲気下で0.05Nの張力を加えながら、10℃/minの速度で常温から300℃まで昇温後、再度10℃/minの速度で冷却しながら100℃から200℃の区間の傾きを測定した。
【0068】
(4)ガラス転移温度の測定
ガラス転移温度(T)は、DMAを用いて各フィルムの損失弾性率と貯蔵弾性率を求め、これらのタンジェントグラフにおける変曲点をガラス転移温度として測定した。
【表2】
【0069】
前記表2に示しているように、本発明の実施例により製造されたポリイミドフィルムは、誘電損失率が0.003以下と著しく低い誘電損失率を示すだけでなく、熱膨張係数およびガラス転移温度が所望の水準であることを確認することができる。
このような結果は、本願において特定された成分および組成比によって達成されるものであり、各成分の含有量が決定的な役割を果たすことが分かる。
これに対し、実施例1~5と異なる成分を有する比較例1~5のポリイミドフィルムは、誘電損失率、熱膨張係数およびガラス転移温度のいずれか1つ以上の面でギガ単位の高周波で信号伝送が行われる電子部品への使用が難しいことを予想することができる。
以上、本発明の実施例を参照して説明したが、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、上記の内容に基づいて本発明の範疇内で多様な応用および変形を行うことが可能であろう。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本発明は、特定の成分および特定の組成比からなるポリイミドフィルムおよびこれを製造するためのポリアミド前駆体組成物により優れた高耐熱特性、低誘電特性および寸法安定性特性を兼ね備えたポリイミドフィルムを提供することにより、このような特性が要求される多様な分野、特に、フレキシブル金属箔積層板などの電子部品などに有用に適用可能である。

【国際調査報告】