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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】低温性能に優れた金属イオンセル
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20241031BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241031BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20241031BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20241031BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241031BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241031BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20241031BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241031BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20241031BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20241031BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20241031BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/485
H01M4/48
H01G11/32
H01G11/60
H01G11/62
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530429
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 US2022050035
(87)【国際公開番号】W WO2023096793
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】63/282,202
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513089291
【氏名又は名称】パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タン,ビン
(72)【発明者】
【氏名】リャオ,ユハオ
(72)【発明者】
【氏名】ラジェフスキー,アンドリュー
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA02
5E078AB01
5E078BA13
5E078DA04
5E078DA05
5E078DA19
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK04
5H029AL02
5H029AL03
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ10
5H029HJ18
5H050AA06
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA18
(57)【要約】
金属イオンセルであって、正極と、負極と、電解質とを備える。正極は、金属イオンを貯蔵し且つ放出するように構成されたカソード活物質とを有する。負極は、Li/Liに対して0.6ボルト(V)以上の電位で動作するアノード活物質とを有する。電解質は、1種類又は複数種類の金属(リチウム等)塩と、3-メトキシプロピオニトリル(MPN)及び少なくとも1種類の鎖状炭酸塩を含む溶媒混合物とを有する。電解質中のMPNは、少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して0.1以上の質量比を有してもよい。少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒は、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、のうちの1種類以上を含む。溶媒混合物は、複数種類の炭酸塩の混合物をさらに含んでもよく、鎖状炭酸塩の質量百分率は、炭酸塩の混合物の全質量に対して10%~90%の範囲である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンセルであって、
正極であって、
集電体と、
金属イオンを貯蔵し且つ放出するように構成されたカソード活物質と、
を有する正極と、
負極であって、
集電体と、
Li/Liに対して0.6ボルト(V)以上の電位で動作するアノード活物質と、
を有する負極と、
電解質であって、
1種類又は複数種類の金属塩と、
3-メトキシプロピオニトリル(MPN)及び少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒を含む溶媒混合物と
を有する電解質と、
を備える
金属イオンセル。
【請求項2】
請求項1に記載のセルであって、
前記アノード活物質が動作する電位は、Li/Liに対して0.8V以上である、
セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記電解質中の前記MPNは、前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して0.1以上の質量比を有する、
セル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のセルであって、
前記電解質中の前記MPNは、前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して2.0以上の質量比を有する、
セル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のセルであって、
前記電解質中の前記MPNは、前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して4.0以上の質量比を有する、
セル。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセルであって、
前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒は、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、のうちの1種類以上を含む、
セル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のセルであって、
前記電解質中の前記溶媒混合物は、複数種類の炭酸塩溶媒の混合物をさらに含み、
前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒の質量百分率は、前記炭酸塩溶媒の混合物の全質量に対して10%~90%の範囲である、
セル。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のセルであって、
前記電解質中の前記溶媒混合物は、複数種類の炭酸塩溶媒と1種類又は複数種類の非炭酸塩系溶媒との混合物をさらに含み、
前記鎖状炭酸塩の質量百分率は、前記炭酸塩溶媒と非炭酸塩系溶媒との混合物の全質量に対して10%~90%の範囲である、
セル。
【請求項9】
請求項8に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類の非炭酸塩系溶媒は、スルホン溶媒又はフルオロカーボン溶媒を含む、
セル。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類の金属塩は、少なくともその一部がLiPFであるリチウム塩である、
セル。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のセルであって、
前記カソード活物質は、
リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸鉄マンガンリチウム(LFMP)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、二酸化ニッケルリチウム(LNO)、リチウムマンガンニッケル酸化物(LMNO)、リチウムマンガンニッケルコバルト酸化物(LMNC)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リン酸バナジウムリチウム(LVP)、金属フッ化物、のうちの1種類以上を含む、
セル。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のセルであって、
前記アノード活物質は、
チタン酸リチウム、酸化チタン、チタンのニオブに対する比率が様々なチタンニオブ酸化物、酸化ニオブとその誘導体、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、アンチモン、酸化アンチモン、のうちの1種類以上を含む、
セル。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載のセルであって、
前記電解質は、0.1モル(M)~3.0Mの範囲内の濃度のLiPFを含む、
セル。
【請求項14】
請求項13に記載のセルであって、
前記LiPFの濃度は、0.5モル(M)~1.5Mの範囲内である、
セル。
【請求項15】
請求項10~14のいずれか一項に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類のリチウム塩は、前記電解質中に存在するリチウム塩の100%を占めるLiPFである、
セル。
【請求項16】
請求項10~15のいずれか一項に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類のリチウム塩は、存在する全てのリチウム塩のうち50モル%を超えるLiPFを含む、
セル。
【請求項17】
請求項10~16のいずれか一項に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類のリチウム塩は、
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiftSi)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSi)、リチウムテトラフルオロホウ酸塩(LiBF)、リチウムビス(オキサラト)ホウ酸塩(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ホウ酸塩(LiDFOB)、次亜塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムジフルオロリン酸(LiPO)、のうちの少なくとも1種類をさらに含む、
セル。
【請求項18】
請求項1~9のいずれか一項に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類の金属塩は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、リチウムイオン、又は、これらの混合物を含む、
セル。
【請求項19】
請求項1~9のいずれか一項に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類の金属塩は、0.3~1.8Mの範囲の濃度のテトラフルオロほう酸テトラエチルアンモニウムを含む、
セル。
【請求項20】
電気機器、電気器具、又は電気車両(EV)で使用するための電池又は電池パックであって、
請求項1~19のいずれかに記載のセルを1つ又は複数備える、
電池又は電池パック。
【請求項21】
請求項20に記載の電池又は電池パックであって、
前記電池又は電池パックは、全体容量を増加するために、直列又は並列構成で配置された前記セルを複数備える、
電池又は電池パック。
【請求項22】
電気化学スーパーキャパシタであって、
正極又は負極の一方に活性炭を組み込んだ、請求項1~9に記載のセルを少なくとも1つ備える、
スーパーキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月23日に出願された米国仮出願第63/282,202号の、合衆国法典第35巻第119(e)条に基づく出願日の利益を主張する。この米国特許仮出願の内容の全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、概して、電気機器、電気器具又は電気車両において使用される金属イオンセルに関する。さらに、本開示は、充電可能な電池において使用し得る、リチウムイオンセルなどの電気化学セルについて記載する。
【背景技術】
【0003】
本節の記載は、本開示に関連する背景情報を提供するものにすぎず、先行技術を構成しうるものではない。
【0004】
リチウムイオンセルには、通常、(1)アノード、(2)カソード、(3)セパレータ、(4)電解質という少なくとも4つの主要部品が組み込まれている。商業的に入手可能なリチウムイオンセルにおける電解質は、通常、1種類又は複数種類の有機炭酸塩溶媒に分散したリチウム塩を含む。電解質によって、リチウムイオンのカソード・アノード間の輸送を媒介する媒体が提供される。炭酸塩溶媒を使用する主な理由は、アノード(グラファイト等)及びカソード(リチウム化金属酸化物等)両方のそれぞれの動作電位で炭酸塩溶媒は安定性をもたらすからである。
【0005】
LiTi12などのリチウムチタン酸化物(LTO)をアノード活物質として使用すると、グラファイト活物質を使用する場合に比べていくつかの利点が得られる。これらの利点には、より高速な充電能力、より優れた低温性能、安全性の向上が挙げられる。しかしながら、リチウムチタン酸化物の動作電位はグラファイトのものよりもはるかに高いにもかかわらず、商業的に入手可能なLTO系電池では有機炭酸塩電解質も使用されている。異なる炭酸塩溶媒はそれぞれの特性を示すため、電解質には、通常、必要なレベルのイオン伝導性と粘度を達成するために炭酸塩の混合物が含まれる。エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)などの環状炭酸塩では、高い双極子モーメントが得られるが、高い粘度を示す。逆に、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などの鎖状炭酸塩では、粘度は低くできるが、双極子モーメントも低い。少なくとも1種類の環状炭酸塩と1種類又は複数種類の鎖状炭酸塩を組み合わせることにより、電解質は、多くの実用的用途での使用に必要とされる、室温における高いイオン伝導性を提供可能となる。しかしながら、炭酸塩電解質、特に、鎖状炭酸塩は、融点が高いことから、低温性能が欠けている。従って、低温性能を向上するための、代わりとなる電解質を発見することは産業界の関心事となっている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、概して、電気機器、電気器具又は電気車両において使用される金属イオンセルを提供するものである。さらに、本開示は、充電可能な電池において使用し得る、リチウムイオンセルなどの電気化学セルについて記載する。
【0007】
金属イオンセルであって、正極と、負極と、電解質とを備える。正極は、集電体と、金属イオンを貯蔵し且つ放出するように構成されたカソード活物質とを有する。負極は、集電体と、Li/Liに対して0.6ボルト(V)以上の電位で動作するアノード活物質とを有する。電解質は、1種類又は複数種類の金属塩と、3-メトキシプロピオニトリル(MPN)及び少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒を含む溶媒混合物とを有する。
【0008】
本開示のある態様によれば、アノード活物質が動作する電位は、Li/Liに対して0.8V以上である。電解質中のMPNは、少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して0.1以上の質量比を有してもよく、或いは、電解質中のMPNは、少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して2.0以上の質量比を有してもよく、或いは、電解質中のMPNは、少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して4.0以上の質量比を有してもよい。
【0009】
本開示の別の態様によれば、少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒は、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、のうちの1種類以上を含んでもよい。望ましくは、電解質中の溶媒混合物は、複数種類の炭酸塩溶媒の混合物をさらに含んでもよく、少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒の質量百分率は、炭酸塩溶媒の混合物の全質量に対して10%~90%の範囲である。電解質中の溶媒混合物は、複数種類の炭酸塩溶媒と1種類又は複数種類の非炭酸塩系溶媒との混合物をさらに含んでもよく、鎖状炭酸塩の質量百分率は、炭酸塩溶媒と非炭酸塩系溶媒との混合物の全質量に対して10%~90%の範囲である。1種類又は複数種類の非炭酸塩系溶媒は、スルホン溶媒又はフルオロカーボン溶媒を含んでもよい。
【0010】
本開示の別の態様によれば、1種類又は複数種類の金属塩は、少なくともその一部がLiPFであるリチウム塩であってもよい。或いは、1種類又は複数種類のリチウム塩は、電解質中に存在するリチウム塩の100%を占めるLiPFであってもよい。電解質は、0.1モル(M)~3.0Mの範囲内の濃度のLiPFを含んでもよく、或いは、LiPFの濃度は、0.5モル(M)~1.5Mの範囲内であってもよい。1種類又は複数種類のリチウム塩は、存在する全てのリチウム塩のうち50モル%を超えるLiPFを含んでもよい。望ましくは、1種類又は複数種類のリチウム塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiftSi)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSi)、リチウムテトラフルオロホウ酸塩(LiBF)、リチウムビス(オキサラト)ホウ酸塩(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ホウ酸塩(LiDFOB)、次亜塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムジフルオロリン酸(LiPO)、のうちの少なくとも1種類をさらに含んでもよい。
【0011】
カソード活物質は、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸鉄マンガンリチウム(LFMP)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、二酸化ニッケルリチウム(LNO)、リチウムマンガンニッケル酸化物(LMNO)、リチウムマンガンニッケルコバルト酸化物(LMNC)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リン酸バナジウムリチウム(LVP)、金属フッ化物、のうちの1種類以上を含んでもよい。
【0012】
アノード活物質は、チタン酸リチウム、酸化チタン、チタンのニオブに対する比率が様々なチタンニオブ酸化物、酸化ニオブとその誘導体、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、アンチモン、酸化アンチモン、のうちの1種類以上を含んでもよい。
【0013】
本開示の別の態様によれば、1種類又は複数種類の金属塩は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、リチウムイオン、又は、これらの混合物を含んでもよい。1種類又は複数種類の金属塩は、0.3~1.8Mの範囲の濃度のテトラフルオロほう酸テトラエチルアンモニウムを含んでもよい
【0014】
本開示の別の態様によれば、電気機器、電気器具、又は電気車両(EV)で使用するための電池又は電池パックを提供するものであり、電池又は電池パックは、上述の又は以下に記載するセルを1つ又は複数備える。電池又は電池パックは、全体容量を増加するために、直列又は並列構成で配置されたセルを複数備えてもよい。
【0015】
本開示のさらに別の態様によれば、電気化学スーパーキャパシタを提供するものであり、電気化学スーパーキャパシタは、正極又は負極の一方に活性炭を組み込んだ、上述の又は以下に記載するセルを少なくとも1つ備える。
【0016】
適用可能なさらなる分野は、ここで与えられる説明から明らかになるであろう。なお、説明及び具体的な例は、説明のみを目的としており、本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0017】
以下においては、本開示が十分に理解されるように、添付の図面を参照して、例示した本開示の様々な形態を説明する。各図面の構成要素は、必ずしも縮尺通りに描かれているわけではなく、むしろ本発明の原理を例示することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本開示の教示における、アノード活物質、カソード活物質、電解質、及びセパレータを備える電気化学セルの模式図である。
図2】3-メトキシプロピオニトリル(MPN)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びそれらの混合物中のリチウムチタン酸化物/リチウムマンガン酸化物(LTO/LMO)の-30度におけるレート性能のプロットである。
図3】MPN、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(EC/DEC)、及びそれらの混合物中のLTO/LMOの-30度におけるレート性能のプロットである。
図4】MPN,エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(EC/DMC)、及びそれらの混合物中のLTO/LMOの-30度におけるレート性能プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書に記載する図面は、図解の目的のみのものであり、本開示の範囲を限定することが意図されるものでは決してない。説明及び図面全体を通して、対応する参照符号は、類似の又は対応する部分及び特徴を示すことを理解されたい。
【0020】
以下の記載は、本質的に例示にすぎないものであり、いかなる方法においても本開示やその応用又は用途を限定することを意図するものではない。例えば、本明細書に記載された教示に従って調製且つ使用される電気化学セルは、リチウムイオンセルとして、本開示全体を通して説明されるものであり、その目的は、各構造要素とその使用をより完全に例示説明するためである。しかし、動作原理に基づいて、本開示の混合溶媒の概念は、他の金属イオンセルにも適用可能であり、この金属イオンセルは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、それらの混合物のうちの、いずれかを含む塩又はそれから誘導される塩を利用するものであり、セルがLi/Liに対して0.6V以上で動作するアノードを有することを条件とする。さらに、本開示の混合溶媒系の組み込み及び使用は、電極(例えば、カソード及びアノード)の1つに活性炭を有する電気化学スーパーキャパシタにも適用可能である。LiPF塩は、塩の濃度が0.3~1.8モル(M)の範囲であれば、Liを含まない塩で置き換えられてもよく、Liを含まない塩としては、テトラフルオロほう酸テトラエチルアンモニウムが挙げられるがこれに限定されない。このような電気化学セルを複数個、様々な電気機器、電気機器、電気システムに、組み込んで使用することは、本開示の範囲内であると考えられる。様々な電気機器、電気機器、電気システムにとしては、大容量の充電式電池や電気自動車(EV)用の電池又は電池パックが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本明細書で使用される「電池セル」又は「セル」は、電池の基本的な電気化学的装置を指すものであり、電極と、セパレータと、電解質とを含む。対照的に、「電池」又は「電池パック」とは、セルの集合体、例えば1つ又は複数のセルを指し、この電池は、筐体と、電気的な接続と、場合によっては制御及び保護用の電子機器とを備えるものである。
【0022】
本開示の目的上、「約」及び「実質的に」という語は、本明細書においては、測定可能な値及び範囲に関して使用されるものであり、これは、当業者には既知の予想される変動(例えば、測定の限界及び変動性)に起因する。
【0023】
本開示の目的上、ある要素の「少なくとも1つ」及び「1つ又は複数」という場合は、これらの語は入れ替えて使用することができ、同じ意味を有する場合がある。単数の要素又は複数の要素を包含することを指すこれらの語は、要素の末尾に接尾語「(複数形)」で表すこともできる。例えば、「少なくとも1つの金属」、「1つ又は複数の金属」、及び「金属(複数形)」は、入れ替えて使用することができ、同じ意味を有することが意図される。
【0024】
本開示は、概して、リチウムチタン酸化物(LTO)をベースとしたセルなどのリチウムイオンセルにおいて、使用される電解質システムを提供する。電解質システムは、一般的に、溶媒において分散された主要なリチウム塩としてLiPFを含んでおり、該溶媒は、3-メトキシプロピオニトリル(MPN)と少なくとも1種類の有機炭酸塩溶媒との混合物のみからなるか、該混合物を含むか、又は、実質的に該混合物からのみからなる。MPNなどの有機ニトリル溶媒は、一般的に、環状炭酸塩よりも低い粘度を示すが、鎖状炭酸塩よりも高い双極子モーメントを示す。また、有機ニトリル溶媒は、融点も低いことから、低温度下でのより効率的な電池セル性能を提供するための溶媒として使用することができる。
【0025】
電池セルにおいて、リチウムチタン酸化物(LTO)アノードは、一般的に、Li/Liに対して約1.0V~3.0Vの間で動作するのに対し、グラファイトアノードは、Li/Liに対して0.01V~1.0Vの間で動作する。LTOアノードの最低電位は約1.0Vと高く、これはグラファイトアノードの最低電位よりも高い。この大きな電位差により、代替となる溶媒(有機カーボネート以外の溶媒等)を使用することが可能となるが、この溶媒はグラファイトアノードでは使用できない。例えば、アセトニトリルは、Li/Liに対し約0.5Vの還元電位を有しており、グラファイトアノードでは使用できない。しかしながら、LTOアノードの動作電位は、Li/Liに対して0.5Vよりもはるかに高いことから、アセトニトリルはLTOアノードでは用いることが可能である。他の例では、3-メトキシプロピオニトリル(MPN)は、LiTFSi又はLiPFなどのリチウム塩を含むLTO系セルの電解質のための溶媒として用いることができる。MPNに分散されたLiTFSiを含むLTO系セルは、許容範囲の性能を示す。しかし、LiPF塩は商業的に入手可能なセルで使用されている主なリチウム塩であるので、LiTFSi塩に伴うコストにより、その電池セルは製造コストが高くなってしまう。従って、LTO系セルで使用するには、MPNに分散されたLiPF系塩と共に使用される電解質が望ましい。
【0026】
図1を参照すると、電気化学セルは、一般に、正極10と負極20を備える。正極10は、活物質(カソード)5と集電体7を有し、負極20は、活物質(アノード)15と集電体17を有する。さらに、セルは、上述の通り且つ本明細書においてさらに定めるように、リチウムイオンを含む非水系電解質30とセパレータ25を含む。これらの構成要素は全て、ケース、エンクロージャ、ポーチ、バッグ、円筒状のシェル等に密封されている(一般に電池の「筐体」と呼ばれる)。セパレータ25は、カソード活物質5をアノード15から電気的に絶縁しながら、金属(例、リチウム)イオンがそれらの間を流れることを可能にする。イオンの流れは、セパレータ(すなわち、固体状態の反応機構を介して)によって導通されてもよく、又は、セパレータ25(膜など)の多数の孔に浸透する液体電解質30が存在することによって導通されてもよい。
【0027】
さらに図1を参照すると、アノード活物質15は、リチウムチタン酸化物(LTO)を含んでいてもよく、又は、同程度の電位範囲又はわずかに低い電位限界内で動作できる他の任意のアノード活物質を含んでいてもよい。例えば、アノード活物質15は、Li/Liに対して1.0Vではなく、Li/Liに対して0.6Vまでの電位で動作させてもよく、これはニトリルの還元(例えば、Li/Liに対して0.5V)よりも依然として高いものである。アノード活物質15は、また、Li/Liに対し0.7V、Li/Liに対し0.8V、又は、Li/Liに対して0.9Vまでの電位で動作させてもよい。アノード活物質15の最低動作電位がMPN溶媒の還元電位よりも高い限り、これらのアノード活物質は、所与の用途のためのLTOアノードを置き換えるものとして使用してもよい。アノード活物質15のいくつかの例としては、チタン酸リチウム(LTO)、酸化チタン、チタンのニオブに対する比率が様々なチタンニオブ酸化物、酸化ニオブとその誘導体、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、アンチモン、酸化アンチモンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
カソード活物質5は、従来のリチウムイオンセルで使用されている現在入手可能な任意のカソード活物質から選択されてもよい。カソード活物質5のいくつかの例としては、リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸鉄マンガンリチウム(LFMP)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、二酸化ニッケルリチウム(LNO)、リチウムマンガンニッケル酸化物(LMNO)、リチウムマンガンニッケルコバルト酸化物(LMNC)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リン酸バナジウムリチウム(LVP)、金属フッ化物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
図1を再び参照し、電解質30は、正極10と負極20との間に位置し且つそれらと接触しており、これにより、電解質30は、負極20と正極10との間における金属(例、リチウム)イオンの可逆的な流れを支持する。セパレータ25は、セパレータ25を通る金属(例、リチウム)イオンの可逆的な流れに対して透過性を有しつつも、正極10を負極20から電気的に絶縁するように構成されている。
【0030】
電解質30は、モル濃度が、0.1モル(M)~3.0Mの範囲、或いは、0.2M~2.0Mの範囲、或いは、約0.5M~約1.5Mの範囲にあるヘキサフルオロリン酸リチウム塩(LiPF)をベースとしている。電解質30は、リチウム塩の濃度が高すぎると、低温で塩の沈殿を引き起こす可能性がある。リチウム塩の濃度が低すぎると、電解質30のイオン伝導性が、実用に供するには不十分となる可能性がある。リチウム塩は、100%のLiPFから成っていてもよい。リチウム塩は、LiPFと少なくとも1種類の追加リチウム塩との混合物であってもよい。この混合物において、LiPFの量は、主たるリチウム塩として存在し得るに十分に多い量である。言い換えると、混合物の総リチウム塩含有量に対するヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)のモル百分率は、0.5より高く、或いは0.6以上、或いは0.7以上である。少なくとも1種類の追加リチウム塩として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiftSi)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSi)、リチウムテトラフルオロホウ酸塩(LiBF)、リチウムビス(オキサラト)ホウ酸塩(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ホウ酸塩(LiDFOB)、次亜塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムジフルオロリン酸(LiPO)、又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
電解質30内にリチウム塩を分散させるために、溶媒の混合物が用いられる。この溶媒の混合物は、3-メトキシプロピオニトリル(MPN)と少なくとも1種類の鎖状炭酸塩を含む。低粘度を示す鎖状炭酸塩として、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、又は、エチルメチルカーボネート(EMC)が挙げられるが、これらに限定されない。望ましくは、電解質において使用される溶媒の混合物は、これらに限定されないがエチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)などの環状炭酸塩も含んでもよい。本開示の範囲を超えない限り、電解質30において使用される溶媒の混合物には、炭酸塩を含まない溶媒(非炭酸塩系溶媒)も含まれてもよいことを、当業者であれば理解するであろう。非炭酸塩系溶媒のいくつかの例として、スルホン溶媒やフルオロカーボン溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。電解質30における他の溶媒に対するMPNの質量比は、0.1以上であり、或いは1.0以上、或いは2.0以上、或いは4.0以上、或いは9.0以上である。溶媒混合物中に存在する鎖状炭酸塩の質量百分率は、10%~90%の範囲であってもよく、或いは約15%~約85%、或いは20%~80%の範囲であってもよい。
【0032】
ここで表1を参照すると、本開示における溶媒の混合物の使用に関連する利点が示されている。リチウムチタン酸化物/リチウムマンガン酸化物(LTO/LMO)セルの場合、MPNに分散した1モル(M)のLiPFを含む電解質を使用した際の第1サイクルクーロン効率(CE:Coulombic Efficiency)は86%であった。1/1の比率のMPNと鎖状炭酸塩(すなわち、DEC)の混合物を使用した場合、第1サイクルCEは90%に増加した。エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合物(EC/DEC又はEC-DC)をMPNと4/1の比率で混合すると、第1サイクルCEは92%に増加した。同様に、他の炭酸塩溶媒(例えば、EC-DMC)とMPNを様々な比率で使用した場合、第1サイクルCEは90%~93%の範囲であった。このように、炭酸塩溶媒をMPN電解質に混合すると、LTO/LMOセルの第1サイクルCEが向上する。この第1サイクルCEの向上は、電解質材料の使用を高めて、セルのエネルギー濃度を増加するのに重要である。
【0033】
本明細書で使用されるクーロン効率(CE)は、放電容量(mAh/g)と充電容量(mAh/g)の比として定義される。各電極(すなわち、正極10又は負極20)それぞれにおいて、CEは、通常は、100%未満であり、特に初回の充放電サイクルでは、副反応の発生による不可逆容量損失のためにそのようになる。例えば、電気化学セルのアノード側(すなわち、負極20)では、有機電解質30が低電位範囲で分解し、アノード活物質15の表面に固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface、SEI)膜を形成する可能性があり、これは不可逆的に容量を消費する。電気化学セルのカソード側(すなわち、正極10)では、カソード活物質5の表面において電解質30の分解も発生するが、アノード活物質15で発生する分解よりも低いレベルで発生する。この分解は、不可逆的な結晶変化の形成をもたらす可能性もある。
【0034】
【表1】
【0035】
アノード活物質15とカソード活物質5は、活物質を1つ又は複数のバインダーと様々な質量比で混合することによって、負極20と正極10で使用するための所望の形状に形成することができる。例えば、添加剤の有無にかかわらず、従来のリチウムイオンセルで使用されている現在入手可能なカソード活物質を含むカソード活物質5は、バインダーと混合することができ、このバインダーには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(cmc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリレート、又はそれらの混合物又はブレンドを含むが、これらに限定されない。リチウムチタン酸化物(LTO)、又は、同程度の電位範囲内やわずかに低い電位限界内で動作できる他の任意の活物質を含むアノード活物質15は、バインダーと混合することができ、このバインダーには、カルボキシメチルセルロース(cmc)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリイミド、又はそれらの混合物又はブレンド含むが、これらに限定されない。活物質(すなわち、アノード又はカソード)とバインダーの質量比は、70:30~99.9:0.1、或いは70:30~99:1、或いは80:20~99:1、或いは80:20~95:5の範囲であってもよく、活物質とバインダーの比率が大きいほど、より高いエネルギー密度を必要とする用途で使用される。
【0036】
正極10の集電体7は、リチウム電池の電極に使用するために当該技術分野で知られている任意の金属で作製することができ、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、銅、炭素、亜鉛、ガリウム、銀、及び、これらの組み合わせ又はこれらからなる合金が挙げられるが、これらに限定されない。負極20で使用される集電体17は、金属(例、リチウム)イオンと反応しない金属箔であってもよい。このような金属箔のいくつかの例としては、Cu、Fe、Ti、Ni、Mo、W、Zr、Mn、炭素、及びリチウム金属合金が挙げられるが、これらに限定されない。或いは、負極20の集電体17用の金属箔は、Cu、Fe、Ni、又は、これらの混合物又は合金を含む。正極10と負極20で使用される集電体7、17は、リチウムで合金を形成可能な金属を少なくとも1種類含んでもよい。
【0037】
セパレータ25は、アノード活物質15とカソード活物質5とが接触せず且つ金属(例、リチウム)イオンがそこを流れるように確実にさせる。セパレータ25は、重合体(polymeric)膜であってもよく、この重合体(polymeric)膜は、半結晶構造を有するポリオレフィン系材料(ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの混合物等)や、微多孔性ポリ(メチルメタクリレート)グラフト、シロキサングラフトポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーウェブを含むが、これらに限定されない。
【0038】
本開示で提示する具体例は、本発明の様々な実施形態を例示するためもののであり、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書に記載された実施形態は、明確で簡潔な明細書を書くことができるように説明してきたが、実施形態を様々に組み合わせたり分けたりしても、本発明から逸脱しないことを意図しており、理解されるであろう。例えば、本明細書に記載されている全ての好ましい特徴は、本明細書に記載されている本発明の全ての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0039】
様々な電解質を備えるLTO/LMOセルをいくつか作成し、評価した。電池材料は全て、中国のGelon社から購入した。LMOコーティングを、リチウムマンガン酸化物(LMO)、カーボンブラック(C65)、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の混合物(質量比は92/2/2/4)から、コーティングの面積容量負荷が約0.8mAh/cmとなるように作成した。LTOコーティングを、リチウムチタン酸化物(LTO)、カーボンブラック(C65)、PVDFの混合物(質量比は92/5/3)から、コーティングの面積容量負荷が約0.8mAh/cmとなるように作成した。所定の種類と量の電解質で充填されたアルミニウムパウチに、1つのLMO電極と、1つのセラミック酸化物で被覆したPEセパレータと、1つのLTO電極とを積み重ねることにより、フルセル又は完全なセルを作成した。次に、フルセル又は完全なセルを、室温と-30度で、C/10を最も遅いレートとして異なるCレートで、3.0Vと4.2Vとの間でサイクルさせ、MPN系電解質を少なくとも1種類の炭酸塩溶媒と組み合わせて使用する利点を実証した。本開示の目的において、Cレートは、電池が、最大容量に対して放電する速度の尺度である。
【0040】
ここで図2を参照すると、3-メトキシプロピオニトリル(MPN)、ジエチルカーボネート(DEC)、及びそれらの混合物におけるリチウムチタン酸化物/リチウムマンガン酸化物(LTO/LMO)の-30度におけるレート性能のプロットが示されている。本実施例(EX-1)では、-30度のDECにおいて、1MのLiPFを含むLTO/LMOセルの容量保持率は、室温下において、容量の約47%であった(曲線a、曲線dを参照)。-30度におけるMPN/DEC(質量比1/1)に1MのLiPFを加えたLTO/LMOセルの容量保持率は、約C/10の充電/放電レートで約82%であった(曲線b、曲線eを参照)。一方、純粋な100%MPN溶媒を使用したセルの容量保持率は約78%であった(曲線c、曲線fを参照)。
【0041】
MPNと炭酸塩の溶媒混合物を使用した場合(曲線b、曲線eを参照)の低温性能は、炭酸塩溶媒のみの場合(曲線a、曲線dを参照)と比較して、実質的又は大幅に向上した。混合溶媒(曲線b、曲線eを参照)は、低温下では純粋なMPN(曲線c、曲線fを参照)よりもわずかに優れた容量保持率さえ示した。理論に厳密に限定するわけではないが、混合溶媒が示した容量保持率が純粋なMPNよりも向上するのは、MPNの粘度が比較的高いためであり、低粘度の炭酸塩溶媒の添加が、低温で生じるイオン伝導性の向上に役立ったと考えられる。
【0042】
ここで図3を参照すると、MPN、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(EC/DEC)、及びそれらの混合物中のLTO/LMOの-30度におけるレート性能のプロットが示されている。本実施例(EX-2)においては、MPN電解質中に1MのLiPFを調製し、1%のビニレンカーボネート(VC)と1%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)も含むEC/DEC(1/3)中の商業的に入手可能な1MのLiPFと混合した。商業的に入手可能な電解質のみを含むセルは、約C/10レートにおいて、-30度で約57%の容量保持率を有した(曲線g、曲線jを参照)。一方、本開示による溶媒混合物を含むセルは、約77%の容量保持率を示した(曲線h、曲線kを参照)。溶媒混合物の容量保持率(曲線h、曲線kを参照)は、100%MPNを含むセルの78%の容量保持率(曲線i、曲線lを参照)と同程度である。商業的に入手可能な炭酸塩電解質をMPN電解質へ添加することにより、-30度での容量保持率を同程度に維持しつつ、MPN電解質と比べて第1サイクルCEを増加した。
【0043】
ここで図4を参照すると、MPN,エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(EC/DMC)、及びそれらの混合物中のLTO/LMOの-30度におけるレート性能プロットが示されている。本実施例(EX-3)では、MPN電解質中に1MのLiPFを調製し、EC/DMC(1/1)電解質中の商業的に入手可能な1MのLiPFと混合した。-30度では、溶媒ECと溶媒DMCの融点が高いので、EC/DMC電解質のみを含むセルの容量保持率は0に近くなった(曲線m、曲線pを参照)。MPNと炭酸塩(4/1)の溶媒混合物からなる電解質を含むセルは、約C/10の充放電レートで、100%MPN電解質を含むセルの78%(曲線o、曲線rを参照)と比較して、81%という最高の容量保持率を示した(曲線n、曲線qを参照)。さらに、MPNと炭酸塩溶媒の混合物からなる電解質を含むセルは、より優れた放電レート能力を示した(曲線rに対する曲線qを参照)。
【0044】
実施例(EX-1、EX-2、EX-3)は、MPNと少なくとも1種類の炭酸塩溶媒との混合物を含む本開示の電解質に伴う利点のいくつかを実証するものである。より具体的には、溶媒混合物を使用することは、セルが発揮する第1サイクルCEを向上させる一方で、低温での性能を維持し又は向上させることさえする。
【0045】
本開示のさらに別の態様によれば、1つ又は複数の電気化学セルを組み合わせて、より大きな容量の電池又は電池パックを形成することができ、これらは、例えば、大容量リチウムイオン二次電池又は電気自動車(EV)に組み込まれた電池パックで使用される。1つ又は複数の電気化学セルは、電池又は電池パックを形成するために、直列、並列、又はそれらの組み合わせで組み込まれてもよい。当業者であれば、リチウムイオン二次電池で電気化学セルを使用することに加えて、同じ原理を使用して、これらの1つ又は複数の電気化学セルを筐体に封入して、他の用途で使用することができることも理解されよう。
【0046】
筐体は、当該技術分野においてそのような用途に使用されることが公知の任意の材料で構築されてもよく、且つ、特定の用途に必要とされる又は望ましいとされる任意の形状にすることができる。例えば、リチウムイオン電池は、一般に、円筒形、角形、又はソフトパウチの3つの異なる主要な形態又は形状で収容される。円筒形電池の筐体は、アルミニウム、鋼等で作製できる。角形電池は、一般に、円筒形ではなく長方形の筐体を有する。ソフトパウチ筐体は、様々な形状及びサイズで作製できる。これらのソフト筐体は、内側、外側、又はその両方をプラスチックでコーティングされたアルミニウム箔ポーチで構成されていてもよい。ソフト筐体は、重合体(polymeric)型のケースであってもよい。筐体に使用される高分子組成物は、リチウムイオン二次電池に従来使用されている任意の公知の重合体(polymeric)材料であってもよい。多数の中の1つの具体例として、内側にポリオレフィン層及び外側にポリアミド層を有するラミネートパウチを使用することが挙げられる。
【0047】
本明細書では、実施形態を、明確で簡潔な明細書を書くことができるように説明してきたが、実施形態を様々に組み合わせたり分けたりしても、本発明から逸脱しないことを意図しており、理解されるであろう。例えば、本明細書に記載されている全ての好ましい特徴は、本明細書に記載されている本発明の全ての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0048】
当業者は、本開示を鑑みて、本開示の趣旨又は範囲から逸脱又は超過することなく、本明細書に開示される具体的な実施形態において多くの変更を加えることができ、それでもなお同様又は類似の結果を得ることができることを理解するであろう。当業者は、本明細書に報告されているあらゆる特性が、複数の異なる方法で得られる、通常測定される特性を表すことを、さらに理解するであろう。本明細書に記載された方法は、そのような方法の1つを表しており、他の方法を使用しても本開示の範囲を超えることはない。
【0049】
本発明の様々な形態の上記説明は、例示及び説明のために記載されている。上記説明は、網羅的であること、又は本発明を開示されている正確な形態に限定すること、を意図するものではない。上記の教示に照らして、多数の変更又は変形が可能である。本発明の原理及びその実際の応用例を最もよく説明するために、議論された形態が選択され説明されている。これにより、当業者が、企図された特定の用途に適した様々な形態で、様々な修正を加えて本発明を最もよく利用することが可能になる。そのような変更及び変形の全ては、それらが適正に、合法的に、且つ公平に権利を有する範囲に従って解釈される場合に、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-07-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンセルであって、
正極であって、
集電体と、
金属イオンを貯蔵し且つ放出するように構成されたカソード活物質と、
を有する正極と、
負極であって、
集電体と、
Li/Liに対して0.6ボルト(V)以上の電位で動作するアノード活物質と、
を有する負極と、
電解質であって、
1種類又は複数種類の金属塩と、
3-メトキシプロピオニトリル(MPN)及び少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒を含む溶媒混合物と
を有する電解質と、
を備える
金属イオンセル。
【請求項2】
請求項1に記載のセルであって、
前記アノード活物質が動作する電位は、Li/Liに対して0.8V以上である、
セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記電解質中の前記MPNは、前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して0.1以上の質量比を有する、
セル。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記電解質中の前記MPNは、前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して2.0以上の質量比を有する、
セル。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記電解質中の前記MPNは、前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒に対して4.0以上の質量比を有する、
セル。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒は、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、のうちの1種類以上を含む、
セル。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記電解質中の前記溶媒混合物は、複数種類の炭酸塩溶媒の混合物をさらに含み、
前記少なくとも1種類の鎖状炭酸塩溶媒の質量百分率は、前記炭酸塩溶媒の混合物の全質量に対して10%~90%の範囲である、
セル。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記電解質中の前記溶媒混合物は、複数種類の炭酸塩溶媒と1種類又は複数種類の非炭酸塩系溶媒との混合物をさらに含み、
前記鎖状炭酸塩の質量百分率は、前記炭酸塩溶媒と非炭酸塩系溶媒との混合物の全質量に対して10%~90%の範囲である、
セル。
【請求項9】
請求項8に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類の非炭酸塩系溶媒は、スルホン溶媒又はフルオロカーボン溶媒を含む、
セル。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類の金属塩は、少なくともその一部がLiPFであるリチウム塩である、
セル。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記カソード活物質は、
リン酸鉄リチウム(LFP)、リン酸鉄マンガンリチウム(LFMP)、リチウムマンガン酸化物(LMO)、二酸化ニッケルリチウム(LNO)、リチウムマンガンニッケル酸化物(LMNO)、リチウムマンガンニッケルコバルト酸化物(LMNC)、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リン酸バナジウムリチウム(LVP)、金属フッ化物、のうちの1種類以上を含む、
セル。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記アノード活物質は、
チタン酸リチウム、酸化チタン、チタンのニオブに対する比率が様々なチタンニオブ酸化物、酸化ニオブとその誘導体、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、アンチモン、酸化アンチモン、のうちの1種類以上を含む、
セル。
【請求項13】
請求項10に記載のセルであって、
前記電解質は、0.1モル(M)~3.0Mの範囲内の濃度のLiPFを含む、
セル。
【請求項14】
請求項13に記載のセルであって、
前記LiPFの濃度は、0.5モル(M)~1.5Mの範囲内である、
セル。
【請求項15】
請求項10に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類のリチウム塩は、前記電解質中に存在するリチウム塩の100%を占めるLiPFである、
セル。
【請求項16】
請求項10に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類のリチウム塩は、存在する全てのリチウム塩のうち50モル%を超えるLiPFを含む、
セル。
【請求項17】
請求項10に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類のリチウム塩は、
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiftSi)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSi)、リチウムテトラフルオロホウ酸塩(LiBF)、リチウムビス(オキサラト)ホウ酸塩(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ホウ酸塩(LiDFOB)、次亜塩素酸リチウム(LiClO)、リチウムジフルオロリン酸(LiPO)、のうちの少なくとも1種類をさらに含む、
セル。
【請求項18】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類の金属塩は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、リチウムイオン、又は、これらの混合物を含む、
セル。
【請求項19】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記1種類又は複数種類の金属塩は、0.3~1.8Mの範囲の濃度のテトラフルオロほう酸テトラエチルアンモニウムを含む、
セル。
【請求項20】
電気機器、電気器具、又は電気車両(EV)で使用するための電池又は電池パックであって、
請求項1又は2に記載のセルを1つ又は複数備える、
電池又は電池パック。
【請求項21】
請求項20に記載の電池又は電池パックであって、
前記電池又は電池パックは、全体容量を増加するために、直列又は並列構成で配置された前記セルを複数備える、
電池又は電池パック。
【請求項22】
電気化学スーパーキャパシタであって、
正極又は負極の一方に活性炭を組み込んだ、請求項1~2に記載のセルを少なくとも1つ備える、
スーパーキャパシタ。
【国際調査報告】