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特表2024-541493人の眼及び脳における神経細胞を活性化するためのシステム
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  • 特表-人の眼及び脳における神経細胞を活性化するためのシステム 図1
  • 特表-人の眼及び脳における神経細胞を活性化するためのシステム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】人の眼及び脳における神経細胞を活性化するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/04 20060101AFI20241031BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61N1/04
A61N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531147
(86)(22)【出願日】2022-02-16
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2022053801
(87)【国際公開番号】W WO2023094032
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】102021130837.2
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021133100.5
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522109984
【氏名又は名称】サヴィーア ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】SAVIR GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サーベル、コルネリア
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053BB07
4C053BB23
4C053BB35
4C053BB36
4C053JJ14
4C053JJ15
4C053JJ27
(57)【要約】
本発明は、神経刺激、特に頭部への非侵襲的微小電流印加、より詳細には非侵襲的経頭蓋交流電流刺激(tACS)によって、視野欠損がある場合に残存視力を強化するため、他の視覚障害又は認知欠損を軽減又は修正するため、人の眼及び脳における神経細胞を活性化するためのシステムに関し、システムは、眼及び脳へのエネルギー流を誘導し、血流を刺激し、神経細胞、特に網膜神経節及び脳細胞を活性化させるための非侵襲的アプリケータと、電気刺激信号又は磁気刺激信号を生成するためのインパルス発生器と、患者特有の刺激信号シーケンスを与えるためのデータ処理制御ユニットと、からなり、アプリケータは、例えば、少なくとも2つの電極を備え、電極は、被検者の頭部と接触させることができ、この点で刺激電極、特に交換可能な電極は、患者の頭部のこめかみの部位で眼の左右に載置するように又は当接するように前記アプリケータに固定され、眼及び脳における既存の血管調節不全の検出可能な減少が決定されるまで、刺激信号シーケンスが印加のために繰り返し供給される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経刺激、特に頭部への非侵襲的微小電流印加、より詳細には非侵襲的交流電流パルス刺激(tACS)によって、視野欠損がある場合に残存視力を強化するため、他の視覚障害又は認知欠損を軽減又は修正するために、人の眼及び脳における神経細胞を活性化するためのシステムであって、
前記眼及び脳へのエネルギー流を誘導し、血流を刺激し、神経細胞、特に網膜神経節及び脳細胞を活性化させるための非侵襲的アプリケータと、
電気刺激信号又は磁気刺激信号を生成するためのインパルス発生器と、
患者特有の刺激信号シーケンスを与えるためのデータ処理制御ユニットと、からなり、
前記アプリケータは、例えば、被検者の頭部と接触させることができる少なくとも2つの電極を備え、この点で刺激電極、特に交換可能な電極は、患者の頭部のこめかみの部位で眼の左右に載置するように又は当接するように前記アプリケータに固定され、
前記眼及び脳における既存の血管調節不全の検出可能な減少が決定されるまで、前記刺激信号シーケンスが印加のために繰り返し供給されることを特徴とするシステム。
【請求項2】
ウイルス起源の疾患、特にSARS-COV-2 ウイルスに関連する疾患に起因する機能的長期病状を軽減するための使用及び適用されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記アプリケータは前記患者の頭部の形状に個別に適合させることができ、この目的のために、患者の頭部の前頭部位及び後頭部位への固定に関して調整手段が設けられることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記アプリケータは、前記頭部に配置され得るリング又はクラウン形状の構造体として設計され、鼻梁支持体及び/又は耳支持体及び/又は後頭部支持体と、電子部品用及び重量補償用のレセプタクルとが後頭部位に設けられることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載のシステム。
【請求項5】
患者の眼の下方の領域に交流電流を印加できるようにもする更なる電極を取り付けるための、特にクリップ留めするための、固定点が前記アプリケータ上に設けられることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
有線データ伝送又は無線データ伝送のためのインタフェースが、前記アプリケータ上又は前記アプリケータ内に形成されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
特にイヤホン又はヘッドホンとして設計される音発生手段が、交流電流パルス治療中に、患者に情報を案内するため、及び/又は患者を音響的にリラックスさせるために、前記アプリケータに設けられ、熱、特に赤外線放射熱を印加領域で患者に更に供給できることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
自給自足的動作のために、前記アプリケータは、交流インパルス発生器及び前記データ処理制御ユニットの両方を電源と共に備え、治療シーケンス及び/又は前記刺激信号シーケンスをコンピュータプログラム製品によって実現できることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記刺激電極と患者の皮膚表面との間の接触抵抗を決定するためのユニットは、異常な、特に過大な抵抗が発生した場合に前記インパルス発生器のスイッチをオフにするように設計されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記アプリケータは、皮膚及び脳への血流の非侵襲的決定のための及び特にfNIR分光に基づく酸素飽和度の決定のための少なくとも1つの構成を備え、
NIRエミッタ及び少なくとも1つの関連するNIR検出器は、患者の頭部の前記刺激電極から離れた位置に、前記刺激電極とは別個に配置可能であり、
NIR分光データが、血流及び/又は酸素飽和度が持続的に改善する時間を決定するために、特に刺激信号シーケンスの一時停止中又は終了時に記録され、それにより、前記データ処理制御ユニットの更新動作をその後に実現できることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記刺激電極の位置は、EEG10-20システムの命名にしたがったF7-F8配置に対応することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
好ましい微小電流印加の場合に、前記刺激信号の電流強度は、特にフラッシュ光などの視覚的印象に応じて、所定の形態に従って段階的に増加され、及び/又は刺激パラメータが、眼の血管の拡張能力に応じて調整又は固定されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1によれば、神経調節、特に頭部への非侵襲的微小電流印加、より詳細には非侵襲的経頭蓋交流電流パルス刺激(tACS)によって、視野欠損がある場合に残存視力を強化するため、他の視覚障害又は認知欠損を軽減又は修正するため、人の眼及び脳における神経細胞を活性化するためのシステムに関し、システムは、前記眼及び脳へのエネルギー流を誘導し、血流を刺激し、神経細胞、特に網膜神経節細胞を活性化させるためのアプリケータと、電気刺激信号又は磁気刺激信号を生成するためのインパルス発生器と、患者特有の刺激信号シーケンスを与えるためのデータ処理制御ユニットと、からなり、アプリケータは、例えば、被検者の頭部と接触させることができる少なくとも2つの電極を備え、この点で刺激電極、特に交換可能な電極は、好ましくは、患者の頭部のこめかみの部位で眼の左右に載置するように又は当接するようにアプリケータに固定される。
【背景技術】
【0002】
網膜、視神経及び脳の神経細胞は再生することができないため、視野欠損はこれまで不可逆的であると考えられてきた。しかしながら、網膜信号を評価及び解釈する脳は、特定のメカニズムを介して残留信号を永続的に増幅することができるので、視野欠損の部分的回復が可能であることが示されている。また、網膜には、病理学的事象及び「死」の後にそれらの機能を低下させる神経細胞も存在する。これは、それらの神経細胞がもはや死を伴わずに神経信号を送出することができないからである。
【0003】
殆ど全ての患者が依然として残存視力、すなわちいわゆる残存視力を有することが経験から示されているように、「沈黙している」神経細胞を再活性化し、シナプス伝達を改善することによって残存視力を強化することが提案されている。臨床研究は、視覚訓練又は交流電流刺激などの治療方法の成功を示している。交流電流治療では、網膜全体及び脳の一部が活性化され、同期される。大多数の患者は、上記治療形態に良好に応答する。EEG及びfMRIを用いた交流電流のメカニズムに関する生理学的研究は、血流の大きな局所的及び全体的変化並びに脳内の神経ネットワークの再編成を示している。神経細胞の局所活性化は、神経ネットワークの全体的な再編成を介して眼及び脳の視覚系で起こる。神経細胞を再活性化し、神経可塑性を調節することによって残存視力を強化することができるので、眼だけでなく脳も眼科における視覚リハビリテーションにとって非常に重要である。
【0004】
ここしばらくの間、可塑性としても知られる脳の適応性が眼科で使用されてきた。弱い交流電流による神経調節の方法を使用して、神経可塑性のプロセスを介して部分的に損傷した視覚機能を強化することができる。
【0005】
最近、交流パルスを使用して血流を改善し、脳のネットワーク活動を再同期させる方法が、半盲の患者で試験されている。ここで、交流電流は、前頭部に装着した特別な電極を使用して、所定のセッションで数日間非侵襲的に投与される。交流電流は、電極から眼に流れ、そこで脳ネットワークを再同期させる目的で網膜神経節細胞を所定の周波数で発火させるように刺激する。視神経の損傷は、脳内の機能的ネットワークの組織崩壊をもたらし、これはEEGにおける神経生理学的非同期によって反映される。交流電流を使用する治療は、血液循環を改善し、脳ネットワーク活動を再同期させることによって、この状態を有意に改善することができる。
【0006】
しかしながら、視覚性能の再同期は、人によって大きく異なり、広範囲の要因に依存する。
【0007】
刺激インパルスを最適化することに加えて、少なくとも治療中に、患者に大きなストレスを与えないようにすることも重要である。この目的のために、患者の頭部にこれらの電極を保持するための技術的手段を含み、最適化された形態の刺激電極を作成する必要がある。したがって、人間工学的に最適であり、治療に特に適しており、全ての要件を満たすアプリケータを作成しなければならない。
【0008】
治療の成功が刺激期間を超えて可能な限り長く維持されるように刺激を最適化することも不可欠である。
【0009】
従来技術に関しては、患者の頭部の所望の位置にある刺激装置のための特別な取り付け部を示す欧州特許第1603633号明細書が参照され、この場合、調整構造が、装置を患者の頭部の輪郭に適合させることができる変形可能な材料で作られる。
【0010】
刺激電極と接触するための締結装置又は構成も、欧州特許第1708787号明細書及び欧州特許第1734877号明細書に開示される。
【0011】
隣接する血管の血流挙動の更なる制御を伴う脳刺激における先行技術に関しては、国際公開第2011/106660号及び国際公開第2016/115392号が注目される。
【0012】
国際公開第2011/106660号は、刺激の効果の認識、特に同時刺激及び刺激効果のリアルタイムでの記録に焦点を当てている。この目的のために、機能的近赤外分光法が、刺激中に非侵襲的に使用される。機能的近赤外分光法は、ヘモグロビンの酸素化状態を測定するために使用される。
【0013】
国際公開第216/115392号は、神経血管系の刺激及びそれに対する神経血行動態応答の同時記録を使用して神経血管反応性を決定するための装置及び方法に関する。
【0014】
刺激電極及び対応するアプリケータを形成するための様々な可能性に関して、以下に簡単に概説する従来技術に注目する。
【0015】
米国特許第5522864号明細書は、ヘッドバンド状電極ホルダを開示する。第1の電極が、患者の閉じた瞼に貼り付けられる。第2の電極は、ヘッドバンド内に固定される。第3の電極が首領域に取り付けられる。この種の電極形成、特に閉じた眼瞼への電極の取り付けは、患者にとって不快であると認識され、治療の成功のために患者を負のストレスにさらす。
【0016】
経皮電気刺激のための刺激装置を示す欧州特許第3013414号明細書の周辺の特許ファミリーでも、幾つかの電極は互いに明らかに離れた位置に固定される。第1の電極が患者の額領域に取り付けられる。第2の電極が患者の首又は肩に配置される。この電極配置は個別化が困難であり、患者が第三者の助けを借りて最適に位置決めすることしかできず、これは在宅治療にとってかなり不利である。
【0017】
欧州特許第3349844号明細書は、微小電流を用いた治療を扱っている。これに関しては、点状刺激電極が眼瞼領域の眼の上下に貼り付けられる。特に、電極が、比較的小さく、したがって十分な電流強度を供給しないため、このように敏感な眼の領域に直接配置することは、多くの患者にとって不快である。非常に低い電流でさえも感じることができるが、これらは治療上十分に有効ではない。特に眼の上方及び下方の領域では、人の皮膚が刺激に非常に敏感であるため、このタイプの電極設計は広く使用されていない。
【0018】
欧州特許第2981326号明細書は、頭部の皮膚表面の電気刺激のためのヘッドセット状配置を示す。
【0019】
独国特許第102011055844号明細書は、典型的な眼鏡と同様の追加の鼻支持体を備えた、刺激電極用の眼鏡状キャリアを開示する。電極は、取り外し可能、すなわち交換可能に設計される。しかしながら、この構成は、眼球の角膜上に直接位置する毛髪電極を使用し、角膜損傷のリスクを伴う。
【0020】
欧州特許第2651504号明細書では、ヘッドバンドが神経刺激のための電極キャリアとして提供され、ヘッドバンドは患者の頭部領域に適用され、対応する電極は患者の後頭部に対称的に貼り付けられる。電極を別個のインパルス発生器に接続するための電気接続もある。
【0021】
神経節細胞の電気刺激のための米国特許出願公開第2006/129207号明細書に係る装置も、被検者の瞼に接続された電極を有する眼鏡状構造に基づいている。支持体が、眼瞼への不快な圧力を最小限に抑えることを意図しているが、これは、電極と被検者の皮膚との間の接触抵抗が常に明確に再現可能ではないという欠点をもたらす。
【0022】
要約すると、従来技術は、眼及び脳の局所的な活性化を含む電気刺激のための多数の異なるアプリケータを示しており、既知のアプリケータの大部分は、在宅療法に、すなわち、医学的又は医師の支援を伴うことなく患者による再現性のある簡単でリスクのない用途に適していない。
【0023】
長期の視力障害又は認知欠損(注意、記憶、発話理解の障害又は疲労など)に罹患しているCOVID病又はワクチン接種の患者又はその後の患者を治療するための既知の有効な治療手段又はシステムは現在のところ存在しない。
【0024】
COVID感染は、神経機能障害をもたらし得る循環障害を引き起こすことが認識されている。
【0025】
現在、多数のCOVID患者が、持続的な病気の状態という意味で様々な機能的病状を報告している。これは、当初は軽度のCOVID-19症状しか有していなかった非入院者にも起こり、軽度のCOVID-19症状は、後に、頭痛、胸痛、筋肉痛、刺痛及び刺痛、嗅覚喪失、持続性咳、息切れ、動悸又は下痢、並びに腹痛、発疹、発熱、疲労、物忘れ及びうつ病などの症状に発展する。
【0026】
長期のCOVID患者はまた、気分機能の異常及びより低いストレス耐性を示す。
【0027】
認知及び情動障害に加えて、長期のCOVID患者は視覚的問題も有し得る。しかしながら、このような問題は良性である傾向があり、調査されることはまれであるため、これらは患者又は治療医によってまだ認識されていない。しかしながら、刊行物から明らかなように、COVID患者が眼内にウイルスRNA及び網膜血管の異常を有するだけでなく、無症候性COVID-19患者の20%超が、網膜微小血管症を有し、黄斑における血管及び血流密度が低下している。急性黄斑神経網膜症の場合もある。
【0028】
COVID-19の主な問題は、血管の健康が損なわれることであり、これは全身の血流に影響を及ぼす可能性があり、比較的大きな血管壁表面積を有する非常に小さな微小血管が最も危険にさらされている。
【発明の概要】
【0029】
長期的なCOVID問題は広がりつつあり、視覚的及び認知的制限を改善するための効果的な治療法はこれまで利用できないため、本発明の目的は、眼、すなわち脳内の血流調節の改善を可能にする、又は血流調節を回復し、最終的に脳内の機能的接続性ネットワークの同期が改善されるシステムを提供することである。
【0030】
本発明によれば、非侵襲的電気脳刺激を用いた神経調節を使用するシステムがこの点で有用であることが認識された。
【0031】
本発明によれば、経眼窩交流電流刺激(tACS)が好ましい。そのような交流電流刺激は、ニューロンに活動電位を発火させ、血流を改善する。この二重の効果は、脳内の妨害された神経ネットワークの部分的な回復をもたらし、視覚に対して臨床的にプラスの効果を与える。このシステムを使用することにより、持続するCOVID症状を軽減することができる。本発明に係るシステムを使用したわずか3~10日間の治療は、視野及び認知機能の長期にわたる回復をもたらす。
【0032】
システム組織化された微小電流治療は、眼、視神経及び前頭皮質、中脳及び脳の脳幹における電流の流れをもたらす。
【0033】
この電流の流れは、神経同期及び血液循環を改善する。眼及び脳では、COVIDによって妨害された神経細胞への血管調節及び酸素供給が正常化される。
【0034】
このシステムは、より長い期間、例えば2~15日間にわたって毎日使用される。
【0035】
電流印加は、交流電流又は代替的に直流電流治療を使用する。
【0036】
例えば、10ヘルツの差の交流電流が用いられる。電流強度は、可変であり、例えば、200~1000μAの範囲内にある。
【0037】
本発明によれば、電流強度は、それぞれの患者がフラッシュ光などの形態で視覚的印象を知覚するかどうかに応じて、段階的にゆっくりと増加する、すなわち上昇される。
【0038】
増分は、例えば100μAとなり得る。
【0039】
本発明に係る問題の解決策は、請求項1の特徴によるシステムで達成され、従属請求項は、少なくとも好都合な実施形態及び更なる発展形態を含む。
【0040】
したがって、本発明によれば、刺激信号シーケンスは、眼及び脳における既存の血管調節不全の検出可能な減少が決定されるまで、印加のために繰り返し供給される。そのような決定は、対応するデータの取得と共に網膜における血管動態の記録を使用して自動的に実行することができる。例えば、網膜における血管動態は、動的血管分析装置(DVA)を使用して治療前後に決定することができる。
【0041】
分析装置は、フリッカ光刺激の前、最中及び後の血管径を測定することによって網膜血管拡張の応答を定量化する。これは、動脈及び静脈血管の状態に関する情報を提供する。
【0042】
網膜は、中枢神経系の組織、すなわち脳様のニューロン及び血管を有するので、そのような分析は、脳の血管健康のバイオマーカーと考えることができる。
【0043】
血管動態を測定するために、網膜を所与の視野で眼底カメラでビデオ録画することができる。
【0044】
その後、眼底カメラは前述の分析システムに接続される。
【0045】
患者の中心網膜の完全な画像を得るために、瞳孔が拡張される。
【0046】
一例では、各眼の網膜を、幾つかの測定期間からなる5~6分のセッションの間に画像化し、ビデオに保存した。
【0047】
例えば、52番目のベースライン測定、それぞれ20秒の10Hzフリッカ刺激期間測定の3回の繰り返し、及びその後の82番目のフリッカ後期間。
【0048】
3つの第22のフリッカ刺激期間が平均化される。次いで、動態を評価するために、経時的な血管径の変化についてビデオを分析する。
【0049】
健康な網膜では、フリッカは、ニューロン活性化を誘発し、その後、神経血管カップリング機構により血管拡張を引き起こす。
【0050】
使用されるDVA分析プログラムに加えて、絶対血管径は、システムの有効性を証明するために決定される。
【0051】
本発明に係るシステムの実際の適用の結果として、患者は、治療後に視野が回復したことを報告した。視力の測定は、両眼において改善を示した。
【0052】
システムを使用した後、殆ど全ての認知領域において改善もあった。
【0053】
全体として、本発明に係るシステムは、特に長いCOVID症状を有する患者において、注意を高め、記憶性能を改善し、発話理解を回復させるための短期治療の意味での眼及び脳の神経調節の適用を可能にする。
【0054】
システムの使用は血流を改善し、血管調節不全を減少させる。これは、脳の機能的接続ネットワークのニューロン同期化をもたらし、対応する改善を実証することができる。長期COVID患者における認知症状の重症度は低下する。
【0055】
本発明に係るシステム及びシステムで利用可能な手段の成功及び受け入れにとって決定的なのは、直感的に使用可能なアプリケータの使用であり、最適な刺激信号シーケンスは、被検者の皮膚及び脳への血流の非侵襲的決定及び酸素飽和度の決定のための構成と組み合わせて見出すことができ、それにより、血流の最大増加及び最長持続する後効果がもたらされ、その結果、血流及びニューロン活性化の増加が、刺激後に可能な限り長く継続し、これは治療の所望の成功の明確な指標である。
【0056】
刺激信号シーケンスを生成するためのインパルス発生器は、患者特有の刺激信号シーケンスが生成されるようにデータ処理制御ユニットと相互作用するシングルチャネル又はマルチチャネル刺激装置となり得る。
【0057】
時間的位置決めは、ただ1つのチャネルで両眼を同時に刺激することを可能にし、それにより、刺激発生器の製造コストが低減し、有効性及び信頼性、すなわち成功のばらつきが向上する。
【0058】
最適な刺激信号シーケンスは、医療管理下での初期治療中に決定され、その後保存され、家庭用の患者メモリカード上で患者に転送され得る。アプリケータのメモリユニットにデータを直接格納することも可能である。
【0059】
アプリケータは、特に家庭での使用方法の簡単な説明の後に直感的に使用できるように設計される。
【0060】
患者が治療の直前及び最中にストレスを受けないままである場合に治療が特に成功することが示されているので、本発明の一実施形態におけるアプリケータは、特にイヤホン又はヘッドホンの形態の音発生手段を有する。一方では、これらの音発生手段を使用して、アプリケータをどのように操作するか、どのプログラムを選択するか、治療がどのくらい続くかなどを患者に知らせることができる。更に、音声メッセージ、音声シーケンス又は音楽を再生して、所望のリラックス応答を誘発することができる。
【0061】
したがって、アプリケータは、ヘッドの形状に個別に調整することができる電極ホルダを備える。更に、電極は、最適な刺激のためにこめかみに配置される。これは、依然として十分なホスフェンを生成しながら、パルスシーケンスの電流強度を低減することができるという利点を有する。NIRフィードバックシステムを使用して、非侵襲的眼及び脳シミュレーション中に血行動態後効果を最大化することができる。
【0062】
出願人に戻って、広範な調査及び研究の過程で、電極の配置が視覚系の刺激の成功において決定的な役割を果たすことが分かった。
【0063】
これに関して、患者のこめかみの領域におけるEEG10-20システムの命名にしたがったいわゆるF7-F8配置が提案される。このような構成では、8~25Hzの範囲の交流電流周波数で2mA未満の範囲の極めて低い電流で眼内せん光が記録される。電極がF7-F8領域に配置されている場合、患者は眼を閉じるか、暗い部屋で眼を開いたままにすることができる。電極が貼り付けられ又は配置されているため、眼瞼の領域又は眼の上又は下に不快な圧力はない。
【0064】
湿潤電極を使用してF7-F8領域に配置すると、非常に快適な冷却効果も生じ、これは応力緩和につながり、皮膚抵抗を低減し、また治療の成功を改善する。
【0065】
上記を念頭に置いて、本発明は、既存の視野欠損における残存視力を強化し、血液循環を改善するためにニューロンネットワークを再編成するための人の眼及び脳の局所活性化のためのシステムに関する。この点において、パルス電流治療、特に非侵襲的交流電流パルス治療が使用される。
【0066】
システムは、電流を眼及び脳に誘導し、血流及び神経細胞、特に網膜神経節細胞の活性化を刺激するためのアプリケータからなる。
【0067】
システムはまた、電気刺激信号を生成するためのインパルス発生器と、患者特有の刺激信号シーケンスを与えるためのデータ処理制御ユニットとを含む。
【0068】
アプリケータは、以下に説明する方法で被検者の頭部に貼り付けることができる少なくとも2つの電極を有する。
【0069】
交換可能な刺激電極は、患者のこめかみの領域、すなわちいわゆるF7-F8領域において眼の左右に配置されるようにアプリケータに取り付けられる。
【0070】
さらに、アプリケータは、皮膚及び脳への血流の非侵襲的決定のための及び特にfNIR分光に基づく酸素飽和度の決定のための少なくとも1つの構成を有する。
【0071】
NIRエミッタ及び少なくとも1つの関連するNIR検出器は、患者の頭部の前記刺激電極から離れた位置に、前記刺激電極とは別個に配置される。
【0072】
NIR分光データが、血流及び/又は酸素飽和度が持続的に改善する時間を決定するために、特に刺激信号シーケンスの一時停止中又は終了時に記録され、その後、本発明に係るシステムを介してデータ処理制御ユニットを更新することができる。
【0073】
さらなる発展として、アプリケータは患者の頭部の形状に個別に適合させることができる。この目的のために、公知の調節手段は、アプリケータを患者の前頭部位と後頭部位に固定するように設計される。
【0074】
本発明の一実施形態では、アプリケータは、頭部に配置され得るリング又はクラウン形状の構造体として設計され、鼻梁支持体及び/又は耳支持体及び/又は後頭部支持体が設けられる。
【0075】
さらに、電子部品用及び重量補償用のレセプタクルとが後頭部位に設けることができる。電子部品は、電源用の外部ケーブルなしでアプリケータを使用できるように、バッテリ又はアキュムレータを含むことができる。
【0076】
一実施形態では、刺激電極は、乾燥又は湿潤パッド電極として設計される。
【0077】
湿潤パッド電極では、電極内のそれぞれの導電性成分と患者の皮膚の表面との間の接触抵抗を低減するために、電解質を保湿溶液として使用することができる。接触抵抗が低いほど、パルスシーケンスに選択できる電流を低くすることができ、電流を感じたときの典型的なチクチク感という意味で不快な影響はない。治療上有利であれば、患者の眼の下方の領域にも電流印加が可能な、特に交流電流印加が可能な更なる電極を取り付けるための、特にクリップで止めるための固定点をアプリケータに設けることができる。
【0078】
有線データ伝送または無線データ伝送のための少なくとも一つのインタフェースは、アプリケータ上またはアプリケータ内に形成される。
【0079】
このようにして、アプリケータは、いわゆるエアインタフェースを介して上位システムと情報を交換し、治療期間の経過及び治療の成功を登録し、このデータを利用可能にするか、又は治療の評価及び更なる最適化のために主治医に送信することができる。
【0080】
特定の実施形態において、特にイヤホン又はヘッドホンとして設計される音発生手段が、治療中に患者に情報を案内するために、特にアプリケータの取り扱いのため、及び/又は音響的に患者をリラックスさせるために、アプリケータに設けられる。
【0081】
自給自足的動作のために、アプリケータは、インパルス発生器、特に交流インパルス発生器と、データ処理制御ユニットとの両方を電源とともに備えており、治療シーケンス及び/又は刺激信号シーケンスは、コンピュータプログラム製品によって実現することができる。したがって、この点において、アプリケータは、使用及び処理に必要な全ての技術的手段を有する。したがって、例えば、患者のベルトに固定されるか、又は患者のポケットに保持される装置によって既知の従来技術で実現されるように、患者に配線されるか、又は患者によって保持されなければならない別個のインパルス生成ユニットを設ける必要はもはやない。
【0082】
電極湿潤のための電解質リザーバは、アプリケータ上又はアプリケータ内に設けることができる。これにより、電極が乾燥し始めると、患者は電極自体をわずかに湿らせることができる。或いは、電解質の供給は、電極ホルダと連通する管を介して適切なセンサによって自動的に制御することもできる。
【0083】
更なる実施形態では、電極を保持するためのアプリケータ及び/又はレセプタクルは、可鍛性プラスチック材料からなる。これにより、アプリケータを特定の頭部形状、特に患者の額、鼻又は首の領域に個別に適合させることが可能になり、それによって関係する患者の実際の個別化をもたらす。
【0084】
ホルダ及び/又は刺激電極は、導電性プラスチック材料から構成することができ、その結果、アプリケータの構造が単純化され、そのような導電性材料を介して電源又は刺激パルスシーケンスの送信を実現することができる。
【0085】
交換電極用のポケット又は同様のホルダがアプリケータ上に設けられることは、本発明の範囲内である。交換可能な電極が失われた場合、治療を継続することができ、これは、治療される患者が、そうでなければ彼をケアする医療行為の近くにいない場合に特に有利である。
【0086】
特に静止用途又は臨床用途では、アプリケータは既知のEEG電極キャップと組み合わせることができる。
【0087】
既に示したように、アプリケータは、接触抵抗が異常である場合、特に高すぎる場合にインパルス発生器のスイッチを切る、または電流の流れを減少させるために、刺激電極と患者の皮膚表面との間の接触抵抗を決定するためのユニットを有することができる。
【0088】
以下、図面を用いて、典型的な実施形態に関連して、本発明を更に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】被検者の頭部に取り付けられる典型的な長尺なCOVIDアプリケータの正面図を示す。
図2】被検者の後頭部を見たアプリケータの背面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0090】
図1及び図2に係るアプリケータ1は、少なくとも部分的に弾性材料から形成されるベース本体2からなり、指示された被検者3の頭部形状に個別に適合され得る。
【0091】
ベース本体2は、解剖学的状態に適合するための調整オプションを含む鼻梁支持体4を伴う、被検者3の頭部に配置され得るリング状又はクラウン状の構造として実現される。
【0092】
また、ベース本体2は、被検者3の左右の耳6のための耳支持体5に接続される。
【0093】
後頭部では、ベース本体2に電子部品用のホルダが設けられる。
【0094】
一方では、これは、刺激プログラムを含むメモリユニット7となり得る。更に、患者特有の刺激信号シーケンスを与えるための制御ユニットと共に電気刺激信号を生成するためのインパルス発生器を、好ましくはこの後頭部位に収容又は取り付けることができる。
【0095】
例えばUSBポートとして設計されるインタフェース8を、データ伝送のためだけでなく、必要な電気部品又は電子部品に電力を供給する目的で二次電池9を充電するためにも使用することができる。
【0096】
そのような二次電池9は、例えば、ベース本体2の対応する凹部に収容される交換可能なリチウム電池とすることができる。
【0097】
刺激電極10が、ベース本体2に交換可能に取り付けられ、示された患者の頭部のこめかみの領域で眼の左右に載置又は当接するように配置される。
【0098】
ベース本体2の前方領域には調整装置12があり、該調整装置にラベリングフィールド11を設けて、企業ロゴ、取扱説明書のための、又はユーザ名もしくはユーザ識別情報を添付するためのスペースを作成することができる。
【0099】
センサ13が、皮膚及び脳への血流の非侵襲的決定を実行し、酸素飽和度を決定するために、ベース本体2に取り付けられ得る又は埋め込まれ得る。これらのセンサは、刺激電極10から離れて位置される。
図1
図2
【国際調査報告】