(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】外傷性脳損傷を治療するためのALPHA-1062
(51)【国際特許分類】
A61K 31/55 20060101AFI20241031BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241031BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20241031BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20241031BHJP
A61P 27/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K31/55
A61P17/02
A61P25/00
A61P25/06
A61P25/02
A61P27/00
A61P9/00
A61P9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531248
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(85)【翻訳文提出日】2024-07-23
(86)【国際出願番号】 CA2022051730
(87)【国際公開番号】W WO2023092231
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523265641
【氏名又は名称】アルファ コグニション インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】デニス ジー.ケイ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA59
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA08
4C086ZA21
4C086ZA36
(57)【要約】
本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062若しくはその塩を含む医薬組成物、又は化合物ALPHA-1062若しくはその塩に関する。複数の実施形態では、組成物は、経粘膜的に、例として鼻腔内で投与され、及び/又は、組成物は、自己保存性及び抗菌性である。本発明はまた、ALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物の鼻腔内又は経粘膜投与のために構成された、マルチユースディスペンサーに関する。本発明は更に、対象において外傷性脳損傷(TBI)を治療する方法であって、ALPHA-1062又はその塩を含む治療有効量の医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物ALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物であって、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、医薬組成物。
【請求項2】
前記組成物が、液体形態、好ましくは溶液、エマルジョン、又は懸濁液である、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
前記組成物が、鼻腔内投与される、請求項2に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
前記組成物が、自己保存性及び抗菌性であり、前記組成物が、追加の抗菌保存料を有していない、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
前記組成物が、鼻腔内投与用に構成されたマルチユースディスペンサー内に存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
TBIを有するか又は有する疑いのある前記対象が、眩暈、バランスの問題、頭痛、悪心、嘔吐、光感受性、記憶障害、睡眠異常、集中力低下、及び視覚障害からなる群から選択される1つ以上の症状を示す、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
中度又は重度のTBIを有するか又は有する疑いのある前記対象が、腕及び脚の脱力、バランス及び協調の問題、重度又は重くなる頭痛、感覚認知の障害、認知能力の障害、記憶障害、コミュニケーション及び学習の障害、人格変化、行動異常並びに視覚及び聴覚の障害からなる群から選択される1つ以上の症状を示す、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
重度のTBIを有するか又は有する疑いのある前記対象が、麻痺、昏睡、失神、瞳孔散大、耳又は鼻からの脳脊髄液の喪失、腸及び/又は膀胱の制御の喪失、呼吸問題、遅脈、呼吸問題、血圧の上昇を伴う遅い呼吸速度、並びに眼瞼下垂又は顔面脱力からなる群から選択される1つ以上の症状を示す、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記外傷性脳損傷(TBI)が、血腫、挫傷、脳内出血、クモ膜下出血、びまん性損傷、びまん性軸索損傷、虚血、一次性脳損傷、及び二次性脳損傷からなる群から選択される1つ以上の損傷をもたらすか、又はそれを伴う、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記外傷性脳損傷(TBI)が、閉鎖性頭部損傷又は穿通性頭部損傷によって引き起こされる、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
前記外傷性脳損傷(TBI)が、転倒、自動車関連事故、物体からの又は物体に対する頭部への打撃又は強打、(爆破関連TBIを引き起こす)爆発、スポーツ関連事故、対人間係での身体的暴力又は他の手段による暴力からなる群から選択される事故から生じる頭部損傷によって引き起こされる、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
TBIを有するか又は有する疑いのある前記対象が、4歳未満の乳児、又は4~12歳の小児、又は12~17歳の青年である、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
TBIを有するか又は有する疑いのある前記対象が、18~65歳の成人、又は65歳を超える高齢成人から選択される成人である、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳における、神経発生及び/又はニューロン回復の刺激及び/又は増強のための医薬品としての使用のための、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳におけるニューロン細胞喪失を予防、阻害、及び/又は減少させるための医薬品としての使用のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳における、1つ以上の病変及び/又は損傷のサイズを減少させるための医薬品としての使用のための、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳における、脳組織及び/又はニューロン組織を保存するための医薬品としての使用のための、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項18】
外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳における、p-Tauのレベル及び/又は形成を減少及び/又は予防するための医薬品としての使用のための、請求項1~17のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項19】
前記外傷性脳損傷(TBI)が鼻腔への外傷に関連している、かつ/又は外傷性脳損傷(TBI)の治療、並びに鼻腔の微生物感染の併用治療及び/若しくは予防における使用のための、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項20】
前記外傷性脳損傷(TBI)が血液脳関門の破壊に関連している、かつ/又は外傷性脳損傷(TBI)の治療、並びに中枢神経系の微生物感染の併用治療及び/若しくは予防における使用のための、請求項1~19のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項21】
前記化合物ALPHA-1062又はその塩が、1~500mg/mLの濃度、好ましくは1~200mg/mLの濃度、好ましくは5~100mg/mLの濃度で存在する、請求項1~20のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項22】
前記化合物ALPHA-1062が、50~100mg/mLの濃度でグルコネート塩から存在する、請求項1~21のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項23】
前記組成物が、0.1~200mgの用量、好ましくは1~100mgの用量、より好ましくは2~40mgの用量で、1日に1~3回投与される、請求項1~22のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項24】
前記組成物が、損傷の24時間以内、好ましくは損傷の1時間以内に投与される、請求項1~23のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療方法に加えて、医薬剤のための組成物、製剤及び分配デバイスの分野にある。
【0002】
本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(traumatic brain injury:TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062若しくはその塩を含む医薬組成物、又は化合物ALPHA-1062若しくはその塩に関する。複数の実施形態では、組成物は、経粘膜的に、例として鼻腔内で投与され、及び/又は組成物は、自己保存性及び抗菌性である。本発明はまた、ALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物の鼻腔内又は経粘膜投与のために構成された、マルチユースディスペンサーに関する。本発明は更に、ALPHA-1062又はその塩を含む治療有効量の医薬組成物を投与することを含む、対象において外傷性脳損傷(TBI)を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
外傷性脳損傷(TBI)は、世界的な公衆の健康上の問題であり、死亡及び能力障害の主な原因である。TBIは、典型的にはグラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale:GCS)を用いて、損傷時に軽度、中度、又は重度として臨床的に分類される。重度のTBIは30~40%もの高い死亡率をもたらし得る。生存者は、身体的、精神医学的、情緒的、及び認知的能力障害の実質的な負担を体験し、これらは、個体及びその家族の生活を乱す。このような能力障害は、重度の症例に限定されず、中度又は軽度のTBI後にもまた頻繁に発生する。
【0004】
TBIの効果及び転帰には、傷害の重症度だけでなく、反復的な出来事及び年齢などの要因もまた影響する。TBIは、転倒、自動車又は他の種類の交通傷害、スポーツ傷害、及び対人間係での身体的暴力又は他の暴力(例えば、爆発による損傷)を含む、種々の傷害機序に起因する。年齢に関して、TBIは、最も若い年齢群及び最も老齢の年齢群において最も高い発生率を有する二峰性分布を示す。これらの年齢群は、4歳未満の小児及び75歳を超える老齢者の転倒、並びに成人の自動車事故などの、様々な損傷原因のリスク増加により、TBIを起こす可能性が高くなる。
【0005】
スポーツ関連TBIは、特に中度~重度のTBIを有する人において、TBIの健康的影響が経時的に存続し得ることを示唆する証拠から、慢性健康状態としてますます記載されている。軽度TBI(mTBI)を有する患者の大部分は急速に回復するが、mTBIの影響は1年以上持続し得る。長期的影響に関連することが多い症状には、注意欠陥、記憶の問題、及び遂行機能不全又は更には社会的欠損などの認知障害が含まれる。mTBIの長期的な影響は、社会的推論の障害(言語的及び非言語的な社会的合図の解釈)から、不安症などの心理的症状、又は倦怠感、バランス及び協調の問題などの身体的症状の範囲にまでわたり得る。mTBIは、持続性頭痛、前庭機能不全、抑うつ、及び認知的愁訴に関連し得る。累積的な影響は、認知障害、行動障害、気分障害、及び運動障害などの症状をもたらし得る。
【0006】
繰り返される損傷は、競技者が、自死による死亡リスクの増加、認知機能の減少、マクロ構造的、微細構造的、機能的及び神経化学的な変化、並びに認知症又はアルツハイマー病などの神経変性原因による死亡リスクの増加を有する、アメリカンフットボールなどの接触スポーツにて最も徹底的に研究されている。TBIの別の原因は、軍人における爆破関連TBIであり得る(Haarbauer-Krupa et al.,J Neurotrauma,2021;Brazinova et al.,J Neurotrauma,2021;Center-TBI project;American Association of Neurological Surgions (AANS))。
【0007】
今日では、TBIそれ自体のための根治的治療は、利用可能ではない。現在の薬物療法は、TBIの下流効果又は症状として生じる二次性脳傷害を減少させることを目的としている。そのような薬物は、中度又は重度のTBI後に発作を経ている患者のための抗発作薬、損傷した脳の酸素消費を減少させることを目的とする昏睡誘発薬、及び脳内の圧力を減少させることができる利尿薬を含む。TBIのための他の利用可能な治療選択肢は、外科的介入、身体的及び精神的な休息、又はTBIの長期的影響を標的とするリハビリテーション治療のみである。
【0008】
ガランタミン及びその誘導体は、アルツハイマー病及び認知症などの神経変性疾患の治療のために示唆されている。残念なことに、他のコリンエステラーゼ阻害剤と同様に、ガランタミンは、悪心、嘔吐、及び下痢を含む、臨床的に有意なレベルの機序に基づく胃腸管(gastro-intestinal:GI)副作用を有する(Loy C et al.,Galantamine for Alzheimer’s disease and mild cognitive impairment.Cochrane Database of Systematic Reviews 2006)。これらの副作用に患者を適応させるために、コリンエステラーゼ阻害剤は、通常、最初は低(非有効)用量で投与され、用量は、4~6週間以内に有効な用量に慎重に漸増される。更に、維持用量は、患者が許容レベルのGI副作用として経験するものに調整されることが多く、全てではないにしてもほとんどの患者が、最も有効な用量による治療を決して達成しない可能性が高い。したがって、ガランタミンなどのコリンエステラーゼ阻害剤は、即時有効用量が好ましいTBIに対処するのに最適ではないと考えられる。
【0009】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の親油性を増強し、また粘膜組織を通るそれらの通過を改善するために、疎水性側鎖が塩基性アルカロイド構造に付加されている。ガランタミン誘導体及びプロドラッグは、欧州特許第1940817号、国際公開第2009/127218号、及び米国特許出願公開第2009/0253654号に記載されている。
【0010】
ガランタミンプロドラッグALPHA-1062は、ガランタミンの安息香酸又は安息香酸エステル((4aS,6R,8aS)-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロ-3-メトキシ-11-メチル-4aH-[1]ベンゾフロ[3a,3,2-ef][2]ベンザゼピン-6-オールベンゾエート)である。これは、ガランタミンの疎水性を増強するために開発された。ALPHA-1062は、エステラーゼによって切断されガランタミンの放出をもたらすまで、本質的に薬理学的活性を示さない。
【0011】
国際公開第2014/016430号は、例えば、ラクテート、グルコネート、マレエート、及びサッカレート塩を含む、ALPHA-1062の様々な製剤及び塩に加えて、鼻腔内、口内、又は舌下様式によるALPHA-1062の経粘膜投与を開示している。
【0012】
液体組成物の鼻腔内投与のための最初の鼻腔スプレーポンプは、およそ50年前に開発され、以前のステップバイステップ滴下器及びピペットに取って代わった。鼻腔スプレーポンプは、現在、局所作用性薬物、例えば鼻腔うっ血除去薬の投与のための、又は全身循環に到達する必要がある物質、例えば抗片頭痛薬若しくはホルモンの非侵襲的投与のための鼻用調製物として、生理食塩水を用いて鼻粘膜を保湿するために広く使用されている(Marx and Birkhoff,「Multi-Dose Container for Nasal and Ophthalmic Drugs:A Preservative Free Future?」in Drug Development-A Case Study Based Insight into Modern Strategies,ed.Chris Rundfeldt,2011)。
【0013】
多くの疾患適応症について、複数回投与デバイスは、規制機関が要求する活性剤の投与における安全性及び精度を提供するための、費用効果が高く便利な手段である。しかしながら、これまで、経粘膜的に、一般に溶液、エマルジョン又は懸濁液として投与されるほとんどの薬物は、長期間の貯蔵時間、及びマルチユース又は複数回投与ディスペンサーの適切な使用中の安定性を支持するための保存料を含有する。しかしながら、経鼻投与の利点にもかかわらず、鼻腔スプレーにおける保存料の使用は議論の余地がある。報告は、鼻腔スプレー中の保存料が患者の有害事象のリスクを増加させ得ることを示唆している。
【0014】
Tenovuo et al (Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry,vol.29,no.1,p.61-67,2005)は、慢性安定TBIの治療として、ドネペジル、ガランタミン、又はリバスチグミンの経口投与を教示している。研究はプラセボ対照ではなく、報告された症状の改善を検証するために薬物投与後に臨床実験を実行しなかった。慢性TBIを有する患者は、治療後にTBI関連症状の主観的改善を報告したが、全患者の約半分が気掛かりな有害作用を体験した。ほぼ20年前に実施された研究にもかかわらず、これらの薬物はいずれも、急性又は慢性TBIのいずれかの管理における標準治療として採用されていない。
【0015】
したがって、TBIの第一選択の治療、特に急性の状況では、TBIの二次的な下流損傷、並びに認知及び神経学的障害などのTBIの短期及び/又は長期の症状を減少又は予防することができる医薬品が、不足している。TBIのための効果的な治療の提供が緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0016】
先行技術に照らして、本発明の根底にある技術的課題は、外傷性脳損傷(TBI)を治療するための改善された又は代替の手段の提供であった。本発明の根底にある別の課題は、TBIを治療する際に有効量の活性な医薬剤を投与するのに好適な、簡便でマルチユースの、好ましくは保存料を含まない製剤を提供することであった。
【0017】
この課題は独立請求項の特徴によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項によって提供される。
【0018】
したがって、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関する。
【0019】
他の実施形態又は態様では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩に関する。
【0020】
他の実施形態又は態様では、本発明は、ALPHA-1062又はその塩を含む薬学的有効量の医薬組成物を投与することを含む、対象において外傷性脳損傷(TBI)を治療する方法に関する。
【0021】
本発明は、ALPHA-1062がTBIの治療において有効性を示すという知見に基づいている。以下により詳細に論じるように、制御式皮質衝撃損傷モデルを用いた例示的な35日間の研究が実施され、ALPHA-1062の有効性が指し示された。TBIに対するプラスの治療効果には、外傷性脳損傷(TBI)後の改善された機能的及び組織学的な転帰が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0022】
以前に発表された研究と現在のALPHA-1062研究との間の1つの違いは、ALPHA-1062投与を介して達成された急性防御の程度であり、これは、全てビヒクル治療と比較して、TBI後1日目の機能障害の程度、並びに持続的に改善された回復の速度及び程度を減少させるようである。発表された文献と比較して、ALPHA-1062治療は、機能的回復及び神経病理学的な減少の両方の点でガランタミンよりも強力な効果を有していた。当業者は、ALPHA-1062がガランタミンの投与を超えるこれらの利点を可能にすると予想していなかった。
【0023】
本発明者らは、驚くべきことに、ALPHA-1062投与が脳構造を保存し、ニューロン細胞喪失を減少させ、またTBI後の神経発生を促進したことを観察した。本発明者らは、TBI後のALPHA-1062治療(ビヒクル対照治療と比較して)が、海馬構造などの脳構造を保存し、また神経芽細胞の増大を含む神経発生を有意に増強することを見出した(神経発生マーカDCX又はBrdU/NeuN+の組織染色によって検証された)。ALPHA-1062治療はまた、TBI損傷の35日後に測定された病変サイズを有意に減少させ、TBIが影響した脳領域、例えば損傷した脳の皮質及び海馬領域におけるニューロン細胞喪失を有意に減少させた。予想外にも、神経保護の程度は、非常に強力であるので、TBIに供されALPHA-1062で治療された動物のこれらの領域で決定されたニューロン細胞数は、シャム治療[非損傷]動物について決定されたニューロン細胞数と区別できなかった。
【0024】
そのうえ、ALPHA-1062治療は、TBI及びアルツハイマー患者の脳に蓄積することが知られている、病理学的にリン酸化されたTauの形態(AT-8陽性)の蓄積を有意に減少させた。理論に束縛されるものではないが、以下に詳細に開示されるラット研究におけるTBIのALPHA-1062治療後に観察されるp-Tau蓄積の減少は、ALPHA-1062で治療されたTBI患者の、後に認知症を発症するリスクを減少させ得る。場合によっては、失神を伴わない単一の軽度TBIであっても、認知症のリスクを約2倍有意に増加させる可能性があり、これは、長期的に評価された米国軍職員のコホートに示されている(Barnes et al,Association of mild traumatic brain injury with and without loss of consciousness with dementia in US military veterans.JAMA neurology,2018,75(9),1055-1061)。アルツハイマー病では、病理学的なTauの蓄積がベータアミロイドの蓄積に数年先行する。病理学的にリン酸化されたTauは、「播種」によって、およそ5年の予測倍加時間を有する比較的遅い発達を伴い、プリオンタンパク質と同様に広がるものと考えられる。TBIが認知症の長期リスクの増加を誘発し得る(又はそれに関連する)ことを考慮すると、ALPHA-1062治療は、病理学的にリン酸化されたTauを減少させることが示されているが、後に発症する神経学的欠陥のリスクを減少させる利点もまた示し得るものと考えるのが尤もらしい。以下に開示されるTBIモデルにおけるp-Tau蓄積の減少の観察は全く新規であり、この技術的効果はガランタミンについて以前には示されておらず、示唆もされていない。
【0025】
要約すると、本発明者らは、ALPHA-1062治療が中度のTBIに対して有効であり、また損傷後に急性投与された場合に脳組織、感覚運動、及び認知機能能力の回復が有意に改善されることを見出した。本発明者らの知る限りでは、観察された改善は、TBI実験群に関して先行技術から予測することはできなかった。
【0026】
一実施形態では、組成物は、液体形態である。
【0027】
複数の実施形態では、液体は、溶液、エマルジョン、又は懸濁液である。
【0028】
別の実施形態では、組成物は、固体形態である。
【0029】
複数の実施形態では、固体形態は、錠剤、丸剤、フィルム、ロゼンジ、又はカプセルである。
【0030】
本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、組成物は、経粘膜的に投与される。
【0031】
複数の実施形態では、組成物は、鼻腔内投与される。
【0032】
複数の実施形態では、組成物は、口腔に投与される。
【0033】
複数の実施形態では、組成物は、舌下又は口内に投与される。
【0034】
静脈内注射によって投与された場合、プロドラッグについて有利な輸送特性を達成することができるが、経口投与された場合、例えば、全身投与のための錠剤のように、あまり良好ではなく、又はわずかな程度でしか達成することができない。これは、プロドラッグエステルが酸性環境(胃中に存在する環境など)では不安定であり、腸及び肝臓を含む多くの組織で酵素的に切断され得るためである(初回通過効果)。
【0035】
これらの知見及び先行技術の投与方法の問題に照らして、またCNS疾患の治療においてALPHA-1062を利用するために、いくつかの実施形態では、本発明は、胃腸管及び初回通過効果(腸及び肝臓における代謝によるある一定のパーセンテージの薬物の喪失)を回避する投与経路を利用する。ALPHA-1062のこれらの投与経路は、ALPHA-1062の静脈内注射と同様のレベルでの活性薬物ガランタミンの脳送達を提供する。したがって、本発明は、いくつかの実施形態では、ALPHA-1062の迅速な吸収及び取り込みを最適化する選択された投与経路に使用される、医薬製剤を採用する。
【0036】
注目すべきは、ガランタミンは内因性エステラーゼによる切断を受けにくいので、先行技術のようなガランタミンの経粘膜投与はそのような増強を提供しないということである。TBIを治療する際のALPHA-1062の経粘膜投与の驚くべき概念は、投与後ではあるがBBBを介した分配前のプロドラッグの切断の回避に基づいており、それによって、脳輸送を増強し、切断後の活性物質の相対濃度を増加させる。これは、提案された投与経路及び薬物製剤の条件下において脳内で有意に起こる。
【0037】
よって、本発明は、低い副作用を示し、良好な患者コンプライアンスを可能にする効果的で使いやすい形態で、脳外傷の発生直後に投与することができる改善された手段及び製剤を提供する。
【0038】
実施例に示されるように、本発明者らは、驚くべきことに、認知機能障害、神経機能障害、及び運動機能障害などのTBIの短期及び長期の影響を減少させる、適用及び治療方法を開発した。本発明による製剤及び化合物は、TBI又は潜在的に他の脳外傷を有する対象の治療において驚くほど有益な効果を示す。ALPHA-1062又はその塩を含む本発明による製剤及び化合物によるTBI事象を有する対象の治療は、ビヒクル治療と比較して、運動能力、並びに空間記憶及び認識記憶のより良好な回復をもたらす。本発明によるALPHA-1062又はその塩によるTBIを有する対象の治療は、運動能力及び記憶能力並びに他の認知機能の優れた回復を引き起こすと思われ、これは、TBIを有さない健康な個体における能力に匹敵する。この驚くべき効果は、本発明による化合物及び組成物の経粘膜投与によって補完され、これは、その容易な投与及びその有害作用の減少による患者コンプライアンスの改善を容易にするだけでなく、脳への化合物の直接送達(初回通過効果の回避)による化合物の良好な有効性もまた達成する。この驚くべき効果は、TBIの現在の治療選択肢の有意な改善を表し得、実施例に示される実験結果によって証明される。
【0039】
したがって、本発明は、急性及び/又は慢性の神経学的及び認知障害などのTBI関連の短期症状及び長期症状を治療、減少、及び/又は予防する(又はそのリスクを減少する)ための、新規かつ驚くべき解決策を提供する。
【0040】
したがって、本発明は、一実施形態では、本明細書に記載されるTBIの治療における医薬品としての使用のためのALPHA-1062に関し、経粘膜投与は、例えば胃腸管からの吸収中及び/又は吸収後に、内因性エステラーゼによる当該物質のエステル基の投与直後の切断を回避及び/又は減少させるように構成される。
【0041】
本発明のこの態様、すなわち胃腸管及び肝臓におけるALPHA-1062のエステル部分の比較的低い安定性に対処することは、当技術分野で以前に開示も示唆もされていないTBIの治療における新規な技術的効果を表す。
【0042】
本明細書に記載される化合物及び塩の経粘膜投与及び送達増強によって得られる改善に関して、インビボエステラーゼ切断の回避は、忍容性に必要とされる典型的な4~6週間の漸増期間を必要とせずに、有効用量のガランタミンの経口投与に関連する強い胃腸管副作用によってAChE阻害剤による治療を以前に回避又は中止していた患者の治療を可能にする。経粘膜投与による、特に経鼻で投与されたALPHA-1062塩の高濃度水溶液による改善された脳送達は、ガランタミン(有意な副作用による)又はALPHA-1062(経口経路によるインビボ分解による)に関して、以前は困難又は非実用的であった投与計画を可能にする。
【0043】
本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、組成物は、自己保存性及び抗菌性であり、好ましくは、組成物は、追加的な抗菌保存料が本質的に非存在である。
【0044】
以下に詳細に記載されるように、本発明は、TBIの治療におけるALPHA-1062の使用の有益な効果の驚くべき発見に基づいている。この薬剤(ALPHA-1062)が抗菌特性を有する先行する先行技術では、適応症が明らかではない。導入部に記載されているように、ALPHA-1062は、ガランタミンのプロドラッグとして作用することにより、認知障害に対する効果を示すことが知られていた。ガランタミン又はそのプロドラッグALPHA-1062が、USP 51試験に従って実証されたように、病原性細菌、酵母、及び真菌のCFU/mLを能動的に減少させる特性を示し得るという示唆は当技術分野で明らかではない。
【0045】
既知の物質(ALPHA-1062)のこの新規な特性(抗菌効果)の同定は、新しい臨床的観点を開き、物質の製剤化又は投与のいずれかを検討する場合に新しい臨床状況を作り出す。新規な特性の発見によって、新たな患者集団に効いており、驚くべき特性に基づいて、新たな投与計画及び製剤選択肢が現在採用され得る。
【0046】
自己保存性ALPHA-1062組成物を、好ましくは液体として、又は、より好ましくはエマルジョン若しくは溶液として、例えば追加の保存料を有していないマルチユースディスペンサーの形態で提供することにより、副作用、例えば、追加の保存料を含む溶液の経鼻投与によって引き起こされる副作用の減少が可能になる。任意の所与の製剤の貯蔵特性がここで改善され得、すなわち、抗菌特性の発見によって、より長い貯蔵時間が明らかになり得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、副作用の減少が達成され得る。そのような副作用の減少(すなわち、保存料によって引き起こされる)は、鼻刺激、例えば、これらに限定されないが、粘膜腫脹の増大及び鼻過敏症、IV型過敏症、粘液線毛クリアランスの減少、及び鼻粘膜異形成に関連し得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、ベンザルコニウム(好ましくは塩化ベンザルコニウム)、ベンジルアルコール、チメロサール(メルチオレート(merthiolate))、エデト酸二ナトリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、プロビドン、二塩基性リン酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、一塩基性リン酸カリウム、プロビドン(providone)、二塩基性リン酸ナトリウム、eta二ナトリウム(disodium eta)、一塩基性リン酸カリウム、ヨウ素、フェニルカルビノール、及びケイアルミン酸ナトリウムからなるリストから選択される、1つ以上の追加の保存料を含まず、好ましくは追加の保存料を一切含まない。
【0049】
更に、追加の保存料を有していないマルチユースディスペンサーの形態などの自己保存性ALPHA-1062溶液の提供は、当技術分野で記載されているように、シングルユース又は単回投与と比較して、良好な患者コンプライアンスを可能にする。複数回の使用が可能であるが保存料を有していない単純なスプレーディスペンサーの提供は、患者にとって単純で副作用の少ない選択肢である。第1に、例えば鼻及び/又は口の不快感が減少されるので、粘膜又は鼻の刺激が低いと、患者のコンプライアンスが増強することとなる。第2に、使いやすいディスペンサーを用いて、この単一ディスペンサーを経時的に、複数回使用するために保持することにより、認知的及び/若しくは神経学的に障害のある及び/若しくは高齢の対象にとって、又は治療が乳児若しくは小児に投与される場合に、投与がより簡単になる。
【0050】
対照的に、嚥下を目的とした錠剤の毎日の投与又は単回投与ディスペンサーは、更なる合併症に関連しており、これは、潜在的に小児であるか又は認知的及び/若しくは神経学的に障害のある患者が、錠剤を嚥下するか、又は単回投与ディスペンサーを継続的に開いて適用し購入するかのいずれかを必要とし、合併症及び送達負担をもたらす。その結果、本発明による組成物及び化合物の本明細書に記載される投与形態は、本発明による化合物の定期的及び/又は長期投与が保証されるか、又は少なくとも支持されるので、TBIの治療における有害作用を減少し、患者のコンプライアンスを改善して、TBIの治療転帰を更に改善する。
【0051】
したがって、本発明のマルチユースディスペンサーは、救急箱、又は緊急医療従事者の初期対応機器に維持されてもよい。ALPHA-1062の抗菌的特徴は、TBI及び/又はその症状の治療におけるその有効な効果と組み合わせて、頻繁な補充又は交換を必要としないマルチユースディスペンサーを可能にし、これはALPHA-1062を、例えば、事前に調製された救急医療キットにおける理想的な活性剤にする。
【0052】
一実施形態では、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための化合物ALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物は、抗菌効果を有するのに充分な量のALPHA-1062を含む。そのような抗菌効果は、いくつかの実施形態では、製剤内における比較的微生物のない環境若しくは微生物の少ない環境を維持することなどにおける、医薬製剤における抗菌効果、又は投与後のインビボ効果を指し、これは、投与領域の微生物量の減少をもたらし得る。
【0053】
一実施形態では、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のためのALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物は、化合物ALPHA-1062又はその塩が、1~200mg/mL、好ましくは5~100mg/mLの濃度で存在することを特徴とする。
【0054】
いくつかの実施形態では、ALPHA-1062又はその塩は、1~500mg/mLの濃度、好ましくは1~400mg/mLの濃度、より好ましくは1~300mg/mLの濃度、好ましくは1~200mg/mLの濃度、好ましくは5~100mg/mLの濃度で組成物中に存在する。
【0055】
いくつかの実施形態では、ALPHA-1062又はその塩は、約5mg/mL、又は約10mg/mL、約15mg/mL、約20mg/mL、約25mg/mL、約30mg/mL、約35mg/mL、約40mg/mL、約45mg/mL、約50mg/mL、約55mg/mL、約60mg/mL、約65mg/mL、約70mg/mL、約75mg/mL、約80mg/mL、約85mg/mL、約90mg/mL、約95mg/mL、約100mg/mL、約110mg/mL、約120mg/mL、約130mg/mL、約140mg/mL、若しくは約150mg/mLで存在する。前述した値の任意の所与の値から(form)構成される範囲もまた企図される。
【0056】
いくつかの実施形態では、ALPHA-1062は、塩、好ましくはラクテート、グルコネート、マレエート、又はサッカレート塩として組成物中に存在する。ALPHA-1062塩の産生は、当技術分野、例えば国際公開第2014/016430号に記載されており、過度の負担なしに実行することができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、塩は、ALPHA-1062による化学物質の化学量論的及び/若しくは非化学量論的な塩、並びに/又は水和物を含み、それにより塩は、好ましくは以下のように記載される:
ALPHA-1062・n HX・m H2O、
式中、n及びm=0~5であり、n及びmは、同じであっても異なっていてもよく、HXは、酸であり、好ましくは乳酸、グルコン酸、マレイン酸、又はサッカリン酸から選択される。
【0058】
いくつかの実施形態では、他の酸が、ALPHA-1062塩形成に採用されてもよい。
【0059】
本発明による薬学的に許容される酸付加塩を調製するために有用な酸としては、無機酸及び有機酸、例えばスルファミン酸、アミドスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-エチルコハク酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、3-ヒドロキシナフトエ酸、酢酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸、カルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、カンファースルホン酸、クエン酸、ドデシルスルホン酸、エタンスルホン酸、エテンスルホン酸、エチレンジアミン四酢酸、フマル酸、グルビオン酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヘキシルレゾルシン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオノク(isethionoc)酸、(二)炭酸、酒石酸、ヨウ化水素酸、乳酸、ラクトビオン酸、リーブリン(laevulinic)酸、ラウリル硫酸、リポ酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、ナフタレンスルホン酸、硝酸、シュウ酸、パモ酸、パントテン酸、過塩素酸、リン酸、ポリガラクツロ酸、ペクチン酸、プロピオン酸、サリチル酸、コハク酸又は硫酸、p-ツルエンスルホン(p-tuluenesulfonic)酸(ここでは、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸及び過塩素酸、並びに酒石酸、クエン酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、及びシュウ酸)が挙げられる。
【0060】
ALPHA-1062塩の薬学的に適用可能な溶液の実施形態が、TBIの治療における鼻腔内適用のための、溶液中の適切な安定性、濃度、pH、浸透圧、及び経鼻粘膜忍容性の基準を満たしたことは驚くべきことであった。
【0061】
本発明の一実施形態では、医薬組成物は、ALPHA-1062グルコネートの結晶性固体形態を含む。一実施形態では、ALPHA-1062グルコネートの結晶性固体形態は、国際公開第2022/150917号に開示されているように、形態Aである。
【0062】
そこに記載されているように、種々の溶媒及び結晶化条件(国際公開第2022/150917号の表5)、並びにその後のXRPD分析を利用して、ALPHA-1062を用いて多形研究を行った。7つの固有の結晶性材料が観察及び単離され、形態A、形態B、形態C、形態D、並びに材料E、材料F、及び材料Gと命名された(国際公開第2022/150917号の
図6)。非晶質材料もまた観察された。形態AのALPHA-1062は、117℃付近で同時に融解/分解が始まる無水結晶性材料である。形態Aは、43%RH(RT)で固体状態にて動力学的に安定であると思われ、その条件で最大5日間まで保持された。国際公開第2022/150917号に基づいて、形態及び安定性を維持するために適切な温度及び湿度条件下において貯蔵された無水形態Aは、製剤において使用される、及び薬物製品の製造に使用される様々なALPHA-1062形態に最も好適であると考えられる。
【0063】
一実施形態では、本発明は、ALPHA-1062グルコネートの結晶性固体形態(形態A)に関し、当該結晶性形態は、粉末X線回折パターンにおいて3.61、10.98、14.41、及び18.44度2シータ(±0.2)に顕著なピークを有する。
【0064】
一実施形態では、形態Aは、粉末X線回折パターンにおいて、15.20、17.31、17.79、22.77、23.64、24.88、及び34.31度2シータ(±0.2)に1つ以上の追加の顕著なピークを有する。これらのピークは、国際公開第2022/150917号に提示されている顕著なピークリストから選択され、形態B~形態D又は材料E~材料GのXRPDパターンの顕著なピークと実質的な重複を示さないように見える。一実施形態では、形態Aは、粉末X線回折パターンにおいて、3.61、10.98、13.80、14.41、14.56、15.08、15.20、17.02、17.31、17.79、18.44、19.24、20.18、20.91、21.22、及び22.40度2シータ(±0.2)からなるリストから選択される少なくとも5つの顕著なピークを有する。
【0065】
形態Aの多形安定性は貯蔵中、製剤化後に維持され得るので、形態AのALPHA-1062の使用は、本発明の好ましい実施形態を表す。形態Aはまた、高い薬物溶解度及び有効な治療効果を可能にし得る。したがって、形態Aは、対象に投与される溶液の調製物で、又は直接固体投与形態で使用され得る。
【0066】
一実施形態では、ALPHA-1062塩は、少なくとも10重量/体積%、好ましくは20重量/体積%超、又は、より好ましくは30重量/体積%(w/v)超の水中での溶解度を有する。高い溶解度は、より高い濃度の化合物をより小体積で投与することを可能にし、それによって、例えば経粘膜投与による投与を更に増強する。
【0067】
経粘膜投与の好ましい実施形態は、因子の組み合わせによる有益な送達様式を表す。ALPHA-1062塩の溶解度が増強されることにより、より高濃度のALPHA-1062を投与することが可能になり、それによって、切断後の活性物質(ガランタミン)を脳内でより大量に活性化することが可能になる。複数の実施形態では、ALPHA-1062のプロドラッグ特性は、ALPHA-1062塩の経粘膜適用によって活用され、増強される。
【0068】
したがって、本発明はまた、対象において認知及び/又は神経学的障害に関連する確認された又は疑われる脳損傷を治療する方法であって、治療有効量のALPHA-1062又はその塩を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法に関する。
【0069】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、グルコネート塩として、好ましくは50~100mg/mLの濃度、より好ましくは70~90mg/mLの濃度で、又は代替的に本明細書に開示される濃度で存在する化合物ALPHA-1062を有する。当業者は、一般的な慣例に従って活性剤の濃度を変えることを認識している。
【0070】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、化合物ALPHA-1062が、米国薬局方第51章保存試験(USP 51)に従って、14日間の治療内に、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、及び/又はアスペルギルス・ブラシリエンシス(Aspergillus brasiliensis)の1×104~1×106コロニー形成単位/mL(CFU/mL)を、100CFU/mL未満、好ましくは10CFU/mL未満まで減少させるのに充分な濃度で存在することを特徴とする。ALPHA-1062は、グラム陽性細菌及びグラム陰性細菌の両方、病原性酵母並びに真菌に対して抗菌活性を示し、それによって、広域の抗菌効果を指し示す。先行技術には、ALPHA-1062がそのような広範かつ効果的な抗菌活性を示すことができ、またTBIの治療がそれから利益を得ることができるという示唆はないので、TBIの治療におけるALPHA-1062のこの特性の活用は、したがって、実際の有用性を有する驚くべき予想外の発見を表す。
【0071】
いくつかの実施形態では、液体組成物は、長期間にわたって、安定であり、すなわち充分な薬物又はプロドラッグ安定性及び低い微生物量を示す。いくつかの実施形態では、長期間は、約1週間、又は1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、又はそれらを超える期間である。いくつかの実施形態では、組成物は、約1ヶ月間、又は2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、又は12ヶ月間安定である。この期間中、又は貯蔵中に、組成物は、本発明のマルチユースデバイスを介して投与され得る。場合によっては、組成物の貯蔵は、約1年間、約2年間、約3年間、約4年間、又は約5年間(好ましくは、対象による使用なしで)可能である。
【0072】
複数の実施形態では、組成物は、経粘膜投与用に構成されたマルチユースディスペンサー内に存在する。
【0073】
複数の実施形態では、組成物は、経粘膜投与用に構成されたシングルユースディスペンサー内に存在する。
【0074】
複数の実施形態では、組成物は、アトマイザー、スプレー、ポンプスプレー、滴下器、スクイーズチューブ、スクイーズボトル、ピペット、アンプル、鼻腔カニューレ、定量式デバイス、鼻腔スプレー吸入器、鼻用持続陽圧空気圧デバイス(nasal continuous positive air pressure device)、及び/又は呼気作動双方向送達デバイス(breath actuated bi-directional delivery device)などの好適な定量式デバイス内に存在する。
【0075】
一実施形態では、治療有効量の化合物は、好適な定量式マルチユース投与デバイス又はディスペンサー、例えばマルチユースアトマイザー、マルチユーススプレー、マルチユースポンプスプレー、マルチユース滴下器、マルチユーススクイーズチューブ、又はボトルマルチユース定量式デバイス、又はマルチユース鼻腔スプレー若しくは吸入器を用いて投与される。
【0076】
一実施形態では、治療有効量の化合物は、好適なシングルユース投与デバイス又はディスペンサーを用いて投与される。複数の実施形態では、シングルユース投与デバイス又はディスペンサーは、シングルユース滴下器、シングルユーススクイーズチューブ又はボトル、及び単回投与粉末ディスペンサーを含む群から選択される。
【0077】
一実施形態では、治療有効量のALPHA-1062又はその塩は、口腔に投与される。
【0078】
一実施形態では、治療有効量の化合物ALPHA-1062又はその塩は、ある量の化合物を、好ましくは溶液又はエマルジョンの形態で、マルチユースディスペンサーから分注することによって、及び/又は舌の下側に、化合物若しくはその塩を含むマルチユースディスペンサーから、予め選択された体積の液体組成物、好ましくは溶液若しくはエマルジョンを噴霧することによって、舌の下(舌下)に投与される。
【0079】
一実施形態では、治療有効量の化合物又はその塩は、頬と歯肉との間の口内の頬側前庭部に、好ましくは溶液又はエマルジョンとして、マルチユースディスペンサーから投与される。
【0080】
本発明の更なる態様では、マルチユースディスペンサーの非限定的な文脈において、本発明は、マルチユース経粘膜送達デバイスの特性、特徴、及び利点を、ALPHA-1062又はその塩の抗菌特性と組み合わせる。したがって、液体の形態の医薬組成物の経粘膜投与用に構成された本発明によるマルチユースディスペンサーは、ALPHA-1062又はその塩を有する本明細書に記載の自己保存性抗菌性溶液を含む。
【0081】
一実施形態では、口腔への投与は、溶液又はエマルジョンの1滴以上の液滴を口腔に入れることによって、予め選択された体積の液体組成物を口腔に噴霧することによって、又は舌下錠、フィルム製剤、ロゼンジ、口腔内崩壊錠、若しくは口腔内分散錠を、口腔に投与することによって実行される。
【0082】
一実施形態では、治療有効量の化合物は、頬と歯肉との間の口内の頬側前庭部に、好ましくは溶液又はエマルジョンとして、マルチユースディスペンサーから投与される。
【0083】
一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、鼻腔内投与用に構成される。
【0084】
一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、口腔に投与するように構成される。
【0085】
一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、経粘膜投与用に構成される。
【0086】
一実施形態では、本明細書に記載されるマルチユースディスペンサーは、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための(又は対応する治療方法における使用のための)ものであり、治療は、ことが好ましくは本明細書に記載されるような自己保存性抗菌剤である医薬組成物の複数回用量を、同じディスペンサーから対象に投与することを含む。
【0087】
よって、別の態様では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、液体の形態であるALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物の鼻腔内投与のために構成されたマルチユースディスペンサーに関する。
【0088】
よって、別の態様では、本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、液体の形態であるALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物の口腔への投与のために構成されたマルチユースディスペンサーに関する。
【0089】
更なる態様では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、液体の形態であるALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物の鼻腔内投与のために構成されたシングルユースディスペンサーに関する。
【0090】
別の態様では、本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、液体の形態であるALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物の口腔への投与のために構成されたシングルユースディスペンサーに関する。
【0091】
以下の実施形態は、本明細書に開示される化合物ALPHA-1062又はその塩を含む組成物の投与、並びに本明細書に開示される医薬組成物、シングルユース及びマルチユースのディスペンサーの両方に関する。
【0092】
対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、液体の形態のALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物の鼻腔内投与のために構成されたマルチユースディスペンサーの一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、吸入器、アトマイザー、スプレー、ポンプスプレー、滴下器、スクイーズチューブ、スクイーズボトル、ピペット、アンプル、鼻腔カニューレ、定量式デバイス、鼻腔スプレー吸入器、鼻用持続陽圧空気圧デバイス、呼気作動双方向送達デバイス マルチユースアトマイザー、マルチユーススプレー、マルチユースポンプスプレー、マルチユース滴下器、マルチユーススクイーズチューブ若しくはボトル、マルチユース定量式デバイス、及び/又はマルチユース鼻腔スプレーなどの好適な定量式マルチユース投与デバイス又はディスペンサーである。
【0093】
対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、液体の形態のALPHA-1062又はその塩を含む医薬組成物の鼻腔内投与又は経粘膜投与のために構成されたマルチユースディスペンサーの一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、10μL~200μLの一回投与事象体積で分注する。
【0094】
マルチユースディスペンサーの一実施形態では、ディスペンサーは、スクリューオン、スナップオン、及びクリンプオンなどの当技術分野で知られている異なるアクチュエータ及び/又はネック仕上げを更に含む。
【0095】
本発明の好ましいディスペンサーは、上述したマルチユースデバイスのいずれかに関する。いくつかの実施形態では、例えばNemera(La Verpilliere、France)又はAptar Pharma(Illinois、USA)から入手可能なディスペンサーが好ましい。
【0096】
鼻腔スプレーは、それらの薬物送達オリフィスを通して、外部環境若しくは患者から、又は空気からの細菌夾雑によって夾雑され得る。したがって、いくつかの実施形態では、デバイスに入る空気による夾雑を予防するために、容器への細菌の侵入を止めるフィルタシステムが存在する鼻腔スプレーが採用されてもよい。空中細菌は、典型的にはおよそ0.3μmであるので、適切なサイズのフィルタが選択され得る。更に、最近の研究では、孔径が細菌のサイズよりも有意に小さい場合であっても、濾過操作中にフィルタ膜を通る細菌の移動が起こることが実証されている。したがって、いくつかの実施形態では、シリコーン膜を利用して還気を濾過(フィルタリング)するデバイスが採用される。
【0097】
いくつかの実施形態では、マルチユースディスペンサーは、細菌がリザーバ又はポンプデバイスに入るのを予防する膜(好ましくは、シリコーン製)を採用する。本発明によるマルチユースディスペンサーの一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、ディスペンサー内に含まれる組成物の夾雑を減少させるために、ばね付先端部シール機構(spring-loaded tip seal mechanism)、換気チャネル内のフィルタ膜、シリコーン膜を備えた通気システム、透過膜、及び/又はシリコーン膜を含む。いくつかの実施形態では、マルチユースディスペンサーは、ばね付先端部シール機構を採用し、それによって、スプレー事象の間にデバイスに微生物が入るのを予防する。いくつかの実施形態では、マルチユースディスペンサーは、金属を有していない流体経路を採用し、それによって、製剤の酸化を予防する。
【0098】
保存料を用いる代わりに、高度なスプレーディスペンサー技術は、細菌が薬物製剤に侵入して夾雑するのを予防することによって、鼻腔スプレーを無菌に保つ代替方法を表す。そのようなディスペンサーもまた本発明で採用されてもよく、それによって、マルチユースディスペンサーにおける微生物負荷を更に減少させる。本明細書に記載され、例えばNemera又はAptarから当業者に知られているように、ALPHA-1062又はその塩の抗菌特性は、「保存料を有していない」ディスペンサー技術と組み合わせると、ALPHA-1062又はその塩を含む液体組成物の予想外に良好な貯蔵寿命(貯蔵中又は使用中のいずれか)をもたらす。
【0099】
一実施形態では、ディスペンサーは、5~1000μL、好ましくは5~500μL、より好ましくは10~300μL、より好ましくは20~200μLの複数の個々のスプレー事象のために構成される。
【0100】
一実施形態では、ディスペンサーは、約5μL、又は10μL、15μL、20μL、25μL、30μL、35μL、40μL、45μL、50μL、55μL、60μL、65μL、70μL、75μL、80μL、85μL、90μL、95μL、100μL、120μL、140μL、160μL、180μL、200μL、250μL、300μL、350μL、400μL、450μL、若しくは500μLの体積の複数の個々のスプレー事象のために構成される。前述した値の任意の所与の値から構成される範囲もまた企図される。
【0101】
一実施形態では、ディスペンサーは、1~500mL、好ましくは1~100mL、より好ましくは2~50mL、例えば約5mL、10mL、又は15mLなどの組成物の総体積を含む。
【0102】
一実施形態では、ディスペンサーは、約1mL、2mL、3mL、4mL、5mL、6mL、7mL、8mL、9mL、10mL、11mL、12mL、13mL、14mL、15mL、16mL、18mL、20mL、30mL、40mL、50mL、60mL、70mL、80mL、90mL、100mL、110mL、120mL、130mL、140mL、150mL、160mL、170mL、180mL、190mL、200mL、220mL、240mL、260mL、280mL、300mL、350mL、400mL、450mL、又は500mLの体積を含む。前述した値の任意の所与の値から構成される範囲もまた企図される。
【0103】
いくつかの実施形態では、ディスペンサーは、複数回用量の投与に充分な量の組成物を含む必要がある。いくつかの実施形態では、ディスペンサーは、少なくとも2回、又は少なくとも若しくは約3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、12回、14回、16回、18回、20回、25回、30回、35回、40回、45回、50回、60回、70回、80回、90回、若しくは約100回の個別投与、又はそれ以上の投与に充分な体積の組成物を含む。前述した値の任意の所与の値から(form)構成される範囲もまた企図される。
【0104】
一実施形態では、ディスペンサーは、20~200μLの複数の個々のスプレー事象のために構成され、当該ディスペンサーは、2~50mLの溶液の総体積を含む。
【0105】
一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、1~100mgの用量で、1日に1~3回、好ましくは複数日間にわたって構成され、及び/又はALPHA-1062若しくはその塩がそう投与される。
【0106】
一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、2~40mgの用量で、1日2回、好ましくは複数日間にわたって構成され、及び/又はALPHA-1062若しくはその塩がそう投与される。
【0107】
一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、0.1~200mgの投与量、1~100mgの投薬量、好ましくは2~40mgの投薬量で、好ましくは1日1~3回、より好ましくは1日2回、更により好ましくは1日1回、複数日にわたって構成され、及び/又はALPHA-1062若しくはその塩がそう投与される。
【0108】
一実施形態では、ALPHA-1062又はその塩は、20~100マイクロリットルの量の2~40重量/体積%(w/v)溶液として、複数回の鼻腔スプレー事象の各々において、1日に1~3回、複数日間にわたって鼻腔内投与される。
【0109】
一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、約50マイクロリットルの量の約10重量/体積%(w/v)溶液として、複数回の投与事象の各々において、1日に1回~3回、好ましくは複数日間にわたって、好ましくは鼻腔内で構成され、及び/又はALPHA-1062若しくはその塩がそう投与される。
【0110】
一実施形態では、マルチユースディスペンサーは、鼻腔内投与、口内投与、又は舌下投与によって、好ましくは2~40重量/体積%(w/v)溶液として、例えば20~100マイクロリットルの量で、好ましくは複数回(鼻腔内又は経口(舌下/口内))投与事象で、例えば1日に1~3回、好ましくは複数日間にわたって、構成され、及び/又はALPHA-1062若しくはその塩がそう投与される。
【0111】
いくつかの実施形態では、液体製剤は、上記の投与様式の任意の1つ以上のために構成される。当業者は、特定の投与様式のための組成物を構成する際に採用される技術的手段を認識している。例えば、経鼻投与用に構成された組成物は、経口投与用に調製された組成物とは異なる様式で、製剤化、包装(パッケージング)、又は調製されてもよい。
【0112】
本発明の複数の実施形態では、TBIは、軽度TBI、中度TBI、又は重度TBIとして分類される。
【0113】
確認された又は疑われるTBIの治療におけるALPHA-1062又はその塩の使用に関連して、組成物又は化合物は、急性TBI事象の直後の対象、並びに過去に疑われる又は確認されたTBI事象を有する対象に投与され得る。よって、ALPHA-1062又はその塩の使用は、複数の実施形態では、TBIの急性及び/若しくは慢性の症状の治療及び/若しくは予防並びに/又は転帰を指す。
【0114】
したがって、複数の実施形態では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、TBIを有するか又は有する疑いのある対象は、眩暈、バランスの問題、頭痛、悪心、嘔吐、光感受性、記憶障害、睡眠異常、集中力低下、及び視覚障害からなる群から選択される1つ以上の症状を示す。
【0115】
複数の実施形態では、本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、中度又は重度のTBIを有するか又は有する疑いのある対象は、腕及び脚の脱力、バランス及び協調の問題、重度又は重くなる頭痛、感覚認知の障害、認知能力の障害、記憶障害、コミュニケーション及び学習の障害、人格変化、行動異常並びに視覚及び聴覚の障害からなる群から選択される1つ以上の症状を示す。
【0116】
複数の実施形態では、本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、重度のTBIを有するか又は有する疑いのある対象は、麻痺、昏睡、失神、瞳孔散大、耳又は鼻からの脳脊髄液の喪失、腸及び/又は膀胱の制御の喪失、呼吸問題、遅脈、呼吸問題、血圧の上昇を伴う遅い呼吸速度、並びに眼瞼下垂又は顔面脱力からなる群から選択される1つ以上の症状を示す。
【0117】
複数の実施形態では、本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、外傷性脳損傷(TBI)は、血腫、挫傷、脳内出血、クモ膜下出血、びまん性損傷、びまん性軸索損傷、虚血、一次性脳損傷、及び二次性脳損傷からなる群から選択される1つ以上の損傷をもたらすか、又はそれを伴う。
【0118】
本発明による製剤及び化合物は、TBI又は潜在的な他の脳外傷の治療において、TBIの重症度を減少させる、及び/又はTBIの短期及び長期の症状の発生を予防する(そのリスクを減少させる)という驚くべき有益な効果を示す。本明細書の実施例に示されるように、TBI又は他の脳外傷を有する対象への本発明によるALPHA-1062又はその塩を含む組成物の経粘膜投与は、TBI後のビヒクル治療と比較した場合、運動能力、記憶機能、及び他の認知機能の改善された回復をもたらす。
【0119】
複数の実施形態では、外傷性脳損傷(TBI)は、閉鎖性頭部損傷によって引き起こされる。
【0120】
複数の実施形態では、外傷性脳損傷(TBI)は、穿通性頭部損傷によって引き起こされる。
【0121】
複数の実施形態では、外傷性脳損傷(TBI)は、転倒、自動車関連事故、物体からの又は物体に対する頭部への打撃又は強打、スポーツ関連事故、対人間係での身体的暴力又は他の手段による暴力からなる群から選択される事故から生じる頭部損傷によって引き起こされる。複数の実施形態では、外傷性脳損傷(TBI)は、接触スポーツ、又はアメリカンフットボール、ラグビー、サッカー、武術、オーストラリアン・ルールズ・フットボール、ホッケー、バスケットボールなどの接触スポーツにおいて発生するインシデント及び/又は事故によって引き起こされる。TBIはまた、複数の実施形態では、例えば野球若しくはクリケット、又は他のスポーツにおいて、ボールにぶつかることによって誘発されるスポーツ事故によって引き起こされ得る。
【0122】
複数の実施形態では、外傷性脳損傷(TBI)は、例えば、対象付近における爆発による、民間人又は軍人で起こり得るような、爆風関連TBI又は軍事的TBIである。弾丸、激しい衝撃、又は爆発兵器からの衝撃波によって引き起こされる頭部損傷は、世界中の多数の軍人に影響を及ぼす認識されている医学的神経学的状態である、軍事的外傷性脳損傷(TBI)の主な原因である。軍事衝突の結果として、爆風に曝されることによる頭部外傷は、特に軍務関係者の間でますます深刻化する重大な健康問題である。多くの場合に関連する併存症は、心的外傷後ストレス障害、抑うつ、不安症、睡眠障害、注意障害、及び認知障害である。
【0123】
複数の実施形態では、TBIを有するか又は有する疑いのある対象は、4歳未満の乳児である。
【0124】
複数の実施形態では、対象は、12月齢未満である。
【0125】
複数の実施形態では、TBIを有するか又は有する疑いのある対象は、4歳~12歳の小児である。
複数の実施形態では、対象は、12歳~17歳の青年である。
【0126】
複数の実施形態では、TBIを有するか又は有する疑いのある対象は、18歳~65歳の成人から選択される、成人である。
【0127】
複数の実施形態では、対象は、65歳を超える(高齢)成人である。
【0128】
複数の実施形態では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、外傷性脳損傷(TBI)は、鼻腔への外傷に関連する。
【0129】
複数の実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)の治療、並びに鼻腔の微生物感染の併用治療及び/又は予防に関する。
【0130】
複数の実施形態では、本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、外傷性脳損傷(TBI)は、血液脳関門の破壊に関連する。
【0131】
複数の実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)の治療、並びに中枢神経系の微生物感染の併用治療及び/又は予防に関する。
【0132】
神経学的脳機能改善特性及び抗菌特性の両方を含むALPHA-1062の治療特性の組み合わせは、特に初期対応者又は緊急医療従事者が損傷後に迅速に治療する必要がある状況において、本発明をTBI治療に理想的に適合させる利益の予想外の組み合わせだけでなく、回復中の継続的な使用にもまた関連する。特に、鼻腔又は口腔への損傷と組み合わされた任意の脳外傷は、この特性の組み合わせを用いて効果的に治療され得る。
【0133】
したがって、本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)を治療する本明細書に記載の方法に関し、当該対象は、微生物感染症に追加的に罹患しており、当該方法は、ALPHA-1062又はその塩を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0134】
ALPHA-1062は、様々な病原性微生物に対して強力な抗菌効果を示す。このようにして、化合物は、対象におけるTBIの治療に理想的に適していると考えられ、当該対象は、微生物感染症に追加的を有する。いくつかの実施形態では、微生物感染は、TBIに関連する。いくつかの実施形態では、感染は、TBIとは無関係である。いくつかの実施形態では、感染は、微生物感染であり、微生物感染は、好ましくは対象における病原性微生物感染である。
【0135】
本明細書に記載される投与の好ましい様式によれば、化合物は、望まない感染、すなわち病原体による感染を受け得る様々な粘膜表面と接触する。したがって、化合物の抗菌活性は、対象への投与の際に有益な効果を提供する。
【0136】
複数の実施形態では、本発明はまた、個体における外傷性脳損傷(TBI)の発生率を減少させる、又は個体における外傷性脳損傷(TBI)を治療する方法であって、有効量のALPHA-1062の化合物又はその塩を個体に投与することを含む、方法に関する。
【0137】
複数の実施形態では、本発明はまた、対象における外傷性脳損傷の結果としての眩暈、バランスの問題、頭痛、悪心、嘔吐、光感受性、記憶障害、睡眠異常、集中力低下、及び視覚障害からなる群から選択される症状の発生率を減少させる、又は対象において外傷性脳損傷を治療する方法であって、有効量のALPHA-1062の化合物又はその塩を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0138】
複数の実施形態では、本発明はまた、対象における外傷性脳損傷の結果としての腕及び脚の脱力、バランス及び協調の問題、重度又は重くなる頭痛、感覚認知の障害、認知能力の障害、記憶障害、コミュニケーション及び学習の障害、人格変化、行動異常並びに視覚及び聴覚の障害からなる群から選択される症状の発生率を減少させる、又は対象において外傷性脳損傷を治療する方法であって、有効量のALPHA-1062の化合物又はその塩を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0139】
複数の実施形態では、本発明は、対象における外傷性脳損傷の結果としての、麻痺、昏睡、失神、瞳孔散大、耳又は鼻からの脳脊髄液の喪失、腸及び/又は膀胱の制御の喪失、呼吸問題、遅脈、呼吸問題、血圧の上昇を伴う遅い呼吸速度、並びに眼瞼下垂又は顔面脱力からなる群から選択される症状の発生率を減少させる、又は対象において外傷性脳損傷を治療する方法であって、有効量のALPHA-1062の化合物又はその塩を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0140】
複数の実施形態では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩、並びに好ましくは1つ以上の薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物であって、鼻腔内適用、口内適用、及び/又は舌下適用に好適であることを特徴とする、医薬組成物に関する。したがって、本発明は、鼻粘膜又は口内粘膜を介した経粘膜投与のための液体組成物の形態の点鼻薬、鼻腔スプレー、又は舌下滴に関する。
【0141】
複数の実施形態では、本発明は、経粘膜投与による、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、組成物は、2~40重量/体積%、好ましくは5~15重量/体積%、より好ましくは10重量/体積%(w/v)の化学物質を含む水溶液である。
【0142】
複数の実施形態では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、化合物ALPHA-1062又はその塩は、1~500mg/mLの濃度、好ましくは1~200mg/mLの濃度、より好ましくは5~200mg/mLの濃度、又は5~100mg/mLの濃度で存在する。これらの投薬量範囲は、本発明の範囲を限定することなく提供される。他の実施形態では、有効用量はまた、溶液1mL当り200ミリグラムにて100マイクロリットルで送達され得る有効用量より多くてもよい。
【0143】
複数の実施形態では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、化合物ALPHA-1062は、グルコネート塩から、好ましくは50~100mg/mLの濃度で存在する。
【0144】
複数の実施形態では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、組成物は、0.1~200mgの用量、好ましくは1~100mgの用量、より好ましくは2~40mgの用量で、1日に1~3回投与される。
【0145】
複数の実施形態では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、組成物は、ALPHA-1062の2~40重量/体積%(w/v)溶液として、20~100マイクロリットルの量で、好ましくは単回スプレー事象で、好ましくは1日に1~3回、好ましくはTBI後5~30日間にわたって、鼻腔内投与される。
【0146】
複数の実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳における、神経発生及び/又はニューロン回復の刺激及び/又は増強のための医薬品としての使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関する。
【0147】
複数の実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳における、ニューロン細胞喪失の予防、阻害、及び/又は減少のための医薬品としての使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関する。
【0148】
複数の実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳における、1つ以上の病変及び/又は損傷のサイズの減少のための医薬品としての使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関する。
【0149】
複数の実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳における脳組織及び/又はニューロン組織の保存のための医薬品としての使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関する。
【0150】
複数の実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の脳における、病理学的p-Tauのレベル及び/又は形成を減少及び/又は予防するための医薬品としての使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関する。
【0151】
複数の実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の、神経変性の発症の予防、リスクの減少、及び/又は遅延若しくは低減のための医薬品としての使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関する。
【0152】
複数の実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の、神経変性を予防する、そのリスクを減少させる、及び/又はその発症を遅らせる若しくは減少させる際の医薬品としての使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、ALPHA-1062は、TBIの急性期、又はTBIの後若しくはTBIと疑われた最初の6ヶ月以内、好ましくはTBIの後若しくはTBIと疑われた2ヶ月以内、1ヶ月以内、3週間以内、2週間以内、1週間以内、又はTBIの後若しくはTBIと疑われた6日、5日、4日、3日、若しくは2日以内に投与される。
【0153】
複数の実施形態では、本発明は、病理学的p-Tauの予防、レベルの減少及び/又は病理学的p-Tauの発症の遅延若しくは減少による、外傷性脳損傷(TBI)を有することが確認された又は疑われる対象の、神経変性の発症の予防、リスクの減少、及び/又は遅延若しくは低減のための医薬品としての使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関する。
【0154】
前述した実施形態のいくつかでは、確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)は、中度の外傷性脳損傷である。前述した実施形態のいくつかでは、確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)は、軽度の外傷性脳損傷である。
【0155】
好ましい実施形態では、ALPHA-1062又はその塩は、TBI後、例えばTBI後48時間以内、より好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間、10時間、8時間、6時間、4時間、又は2時間以内で急性的に(acutely)投与される。この期間はTBIの急性期と呼ばれることがある。
【0156】
複数の実施形態では、組成物は、ALPHA-1062の2~40%重量/体積%(w/v)溶液として、20~100マイクロリットルの量で、好ましくは単回スプレー事象で、好ましくは1日に1~3回、好ましくはTBI後5~30日間にわたって、口腔に投与される。
【0157】
複数の実施形態では、本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、組成物は、1~3回の投与事象、好ましくは単回投与事象、1日2回、好ましくは複数日間にわたって、20~100マイクロリットルの量、例えば約50マイクロリットルの量の約10重量/体積%(w/v)溶液として、鼻腔内、口内、又は舌下に投与される。
【0158】
複数の実施形態では、医薬組成物は、2~20重量/体積%(w/v)、好ましくは5~15重量/体積%(w/v)、より好ましくは10重量/体積%(w/v)の化学物質を含む水溶液である。
【0159】
口腔又は鼻腔における経粘膜送達に好適であるために、いくつかの実施形態では、組成物は、高濃度塩水溶液として、又はエマルジョンとして、又は自己マイクロエマルジョン化薬物送達系(selfmicroemulsifying drug delivery system:SMEDD)として又は微粒化粉末製剤として製剤化される。
【0160】
複数の実施形態では、本明細書に記載される投与計画(投与レジメン)は、本明細書に記載のように、マルチユースディスペンサーを用いて採用される。ディスペンサーに関して開示された特徴はまた、投与計画に関しても開示されているとみなされ、逆もまた同様である。
【0161】
複数の実施形態では、好ましくは前述した投与計画で採用されるALPHA-1062又はその塩の濃度は、好ましくは、約1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、15重量%、16重量%、17重量%、18重量%、19重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、若しくは50重量%、又はそれを超える溶液若しくはエマルジョンである。約10重量%、好ましくは10%の溶液又はエマルジョンの投与を開示する投与計画は、前述した濃度又はそれに類似する値のいずれかで代替的に採用されてもよい。前述した値の任意の所与の値から構成される濃度範囲もまた企図される。
【0162】
いくつかの実施形態では、ALPHA-1062又はその塩を、投与後に、5超、好ましくは10超、より好ましくは15~25の間の脳対血液濃度比で、患者に物質を分布させることができる様式で使用することを意図する。
【0163】
本発明はまた、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関し、組成物は、損傷の24時間以内に投与される。
【0164】
別の実施形態では、組成物は、損傷の1時間以内に投与される。
【0165】
複数の実施形態では、可能なだけ遅延の少ないTBI後の投与は、例えば、TBIの1週間以内、6日間以内、5日間以内、4日間以内、3日間以内、2日間以内、又は1日以内が好ましい。複数の実施形態では、投与は、TBIの24時間以内、12時間以内、8時間以内、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、又は1時間以内に実行される。
【0166】
複数の実施形態では、TBIに続く投与は、TBIの1週間以内、2週間以内、又は3週間以内、1ヶ月以内、又は1年以内に実行される。複数の実施形態では、投与は、TBIの48ヶ月以内、36ヶ月以内、24ヶ月以内、12ヶ月以内、6ヶ月以内、5ヶ月以内、4ヶ月以内、3ヶ月以内、2ヶ月以内、又は1ヶ月以内に実行される。好ましくは、TBIの急性期又はTBIの直後、例えばTBIの3ヶ月、2ヶ月、又は1ヶ月以内におけるALPHA-1062の投与は、有益な効果を示す。
【0167】
いくつかの実施形態による本明細書に記載の投与計画は、効果的なガランタミン治療に関して先行技術と比較して、新規かつ驚くほど有益な進展を表す。ガランタミンの生物学的及び医学的効果は、高用量での投与によって生じる潜在的な効果に関してこれまで試験されたことがない。ガランタミン治療を必要とする多くの患者は、有効用量のガランタミンで生じる有意な副作用によって治療することができなかった。対象の脳内で意味のあるレベルのガランタミンを得るために、先行技術は、高用量であるが多くの場合ひどく耐えられない用量を教示する。経口投与又は鼻腔内投与されたガランタミン薬物のごく一部だけが脳に到達するので、脳疾患の治療中に効果を示すために必要とされる用量は、身体の他の組織中の大量のガランタミンによって多くの場合耐えられないほど高く、それによって、望まない副作用を引き起こす。
【0168】
医薬組成物、その物質及び塩、マルチユースディスペンサー、並びに本明細書に記載される様々な方法に関して記載される本発明の複数の実施形態及び特徴は、本開示のありとあらゆる他の態様に関して開示されるものとみなされ、その結果、方法又はディスペンサーを特徴付ける特徴を採用して、組成物又は物質を特徴付してもよく、逆もまた同様である。本発明の様々な態様は、特に経粘膜経路を介して投与された場合、TBIの治療におけるALPHA-1062の使用の、有益かつ治癒的効果の一般的かつ驚くべき発見によって、統一され、それから利益を受け、それに基づいており、及び/又はそれによって関連付けられる。
【発明を実施するための形態】
【0169】
本発明は、対象において確認された又は疑われる外傷性脳損傷(TBI)の治療における使用のための、化合物ALPHA-1062若しくはその塩を含む、医薬組成物、又は化合物ALPHA-1062若しくはその塩に関する。本発明はまた、本発明の化合物又は組成物の鼻腔内投与用又は経粘膜投与用に構成されたシングルユース又はマルチユースディスペンサー、並びにTBIの様々な治療方法であって、ALPHA-1062又はその塩を含む組成物を投与することを含む、治療方法に関する。
【0170】
本発明の好ましい分子は、以前はGLN-1062又はMemogain(登録商標)としてもまた知られていた、ALPHA-1062である。本発明の実施例において、及び本発明の1つの好ましい実施形態において採用される形態は、ALPHA-1062のグルコン酸塩(ALPHA-1062グルコネート)である。完全を期すために、化合物ALPHA-1062はガランタミンプロドラッグであり、これは、切断前にコリンエステラーゼ阻害剤又はニコチン性モジュレータとしての活性を全く示さないか又は無視できる程度の活性を示す。エステラーゼ切断に際して、活性ガランタミンが放出される。
【0171】
しかしながら、「活性剤」又は「活性医薬成分」(active pharmaceutical ingredient:API)という用語は、ALPHA-1062がいくつかの実施形態では本発明の好ましい化合物であるので、ALPHA-1062に使用されてもよい。他の実施形態では、化合物ガランタミンはまた、活性剤又は関連する薬物分子とみなされ得る。
【0172】
ALPHA-1062の化学名(IUPAC)は、(4aS,6R,8aS)-5,6,9,10,11,12-ヘキサヒドロ-3-メトキシ-11-メチル-4aH-[1]ベンゾフロ[3a,3,2-ef][2]ベンザゼピン-6-オールベンゾエートである。
【0173】
遊離塩基の分子式:C24H25NO4;グルコン酸の分子式:C6H12O7;遊離塩基の分子量:391.47g/mol;ALPHA-1062グルコネートの分子量:587.61g/mol;換算係数:1mgの塩基=1.501mgの塩。
【0174】
ALPHA-1062の化学構造:
【化1】
ガランタミンは、C
17H
21NO
3の式、及び287.359g・mol
-1のモル質量、並びに以下の構造を有する:
【化2】
ALPHA-1062グルコネートの化学構造は以下の通りである:
【化3】
例として、ALPHA-1062のグルコネート塩は、以下の確立された全般的スキームに従って作製することができる:
【化4】
【0175】
一実施形態では、組成物は、ALPHA-1062グルコネートの結晶性固体形態(形態A)を含み、当該結晶性形態は、粉末X線回折パターンにおいて3.61、10.98、14.41、及び18.44度2シータ(±0.2)に顕著なピークを有する。
【0176】
これらの4つのピークは、以下に提供される顕著なピークリストから選択され、国際公開第2022/150917号に開示されているように、形態B~形態D又は材料E~材料GのXRPDパターンの顕著なピークと実質的な重複を示さないように見える。したがって、一実施形態では、形態Aは、対応する粉末X線回折パターンを比較する際、例えば上述したように、1つ以上の顕著なピークを用いて確実に区別することができる。一実施形態では、粉末X線回折パターンにおけるこれらのピークの存在を使用して、形態Aを同定し得、及び/又は当技術分野で以前に記載された固体形態、例えば国際公開第2014/016430号に記載された固体形態から形態Aを区別し得る。
【0177】
一実施形態では、形態Aは、粉末X線回折パターンにおいて、15.20、17.31、17.79、22.77、23.64、24.88、及び34.31度2シータ(±0.2)に1つ以上の追加の顕著なピークを有する。これらのピークは、顕著なピークリストから選択され、形態B~形態D又は材料E~材料GのXRPDパターンの顕著なピークと実質的な重複を示さないように見える。
【0178】
一実施形態では、形態Aは、粉末X線回折パターンにおいて、3.61、10.98、13.80、14.41、14.56、15.08、15.20、17.02、17.31、17.79、18.44、19.24、20.18、20.91、21.22、及び22.40度2シータ(±0.2)からなるリストから選択される少なくとも5つの顕著なピークを有する。
【0179】
典型的には、任意の所与の調製物中の形態Aの存在を決定するために、このリストからの全てのピークを検出する必要はない。本発明によれば、例えば、いくつかの実施形態では、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、又はそれ以上のピーク、好ましくは比較的高いシグナル強度を有するピークを採用して、任意の所与の結晶形態を決定してもよい。例えば、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個の最も強いピークを採用して、任意の所与の結晶形態を同定してもよい。一実施形態では、少なくとも3つ又は4つの顕著なピークの存在をXRPD比較に基づいて決定することができる場合、形態Aなどの任意の所与の結晶形態の充分な同定が達成される。
【0180】
典型的には、顕著なXRPDピークは、XRPDパターンで観察される最も強い低角度の重複しないピークである。いくつかの実施形態では、「顕著なピーク」は、粉末X線回折パターンにおいて、好ましくは20%以上の相対強度、好ましくは30%以上の相対強度、より好ましくは40%以上の相対強度を有する。しかしながら、相対強度の値は、デバイス又は分析様式に応じて変化し得、本明細書に記載される固体形態を本質的に限定するものではない。
【0181】
一実施形態では、形態Aは、粉末X線回折パターンにおいて7.25及び/又は12.67度2シータ(±0.2)にピークを有する。これらのピークは、主要なピークとして上記で概説したピークと比較して、比較的低い強度のものである。しかしながら、7.25度2シータ及び/又は12.67度2シータのピークは、形態B~形態D又は材料E~材料Gの他の全てのパターンには存在しないとみられる。
【0182】
一実施形態では、ピークは、透過様式での粉末X線回折分析を用いて決定される。
【0183】
一実施形態では、形態Aは、粉末X線回折パターンにおいて、10.98、14.41、17.31、18.44、及び22.40度2シータ(±0.2)からなるリストから選択される少なくとも3つのピークを有する。一実施形態では、当該3つのピークは、透過様式での分析を用いて得られた粉末X線回折パターンにおいて最も高い相対強度を有する5つのピーク内にある。一実施形態では、これらの5つのピークは、以下の実施例で概説するように、透過様式を用いたXRPDパターンで最も強いピークである。
【0184】
一実施形態では、ピークは、反射様式での粉末X線回折分析を用いて決定される。
【0185】
一実施形態では、形態Aは、粉末X線回折パターンにおいて、3.61度2シータ、7.25度2シータ、10.98度2シータ、14.56度2シータ、及び22.40度2シータ(±0.2)からなるリストから選択される少なくとも3つのピークを有する。一実施形態では、当該3つのピークは、好ましくは、反射様式での分析を用いて得られた粉末X線回折パターンにおいて最も高い相対強度を有する5つのピーク内にある。一実施形態では、これらの5つのピークは、以下の実施例で概説するように、反射様式を用いたXRPDパターンで最も強いピークである。
【0186】
一実施形態では、形態Aは、粉末X線回折パターンにおいて、3.61、7.25、10.98、14.56、22.40度2シータ(±0.2)からなるリストから選択される1つ以上のピークを有する。これらのピークは、反射様式を用いてXRPDパターンからもまた観察可能である。
【0187】
一実施形態では、形態Aは、粉末X線回折パターンにおいて、14.41及び14.56、15.08及び15.20、並びに24.88及び25.09度2シータ(±0.2)からなるリストから選択される1つ以上のダブレットを有する。これらのダブレットは、形態Aを同定するために使用されてもよく、任意選択的に、形態を他の形態と区別する。
【0188】
透過様式で収集された形態Aについて典型的に観察されたXRPDパターンピークの表を以下に提供する。
【0189】
ピークリスト形態A:
図8に従って、形態Aの粉末X線回折パターンから決定されたピークリスト。2シータ度の精度は小数点第2位で提供され、バッチ又はデバイスに応じていくつらの変動が明らかであり得る。
【0190】
【0191】
*ピークは、いくつかの実施形態では、XRPDパターンにて観察される顕著なピークと見なされ得る。
【0192】
一実施形態では、形態Aは、示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry:DSC)を用いて評価して、116~120℃の温度、好ましくは約117℃の温度で融解開始を示す。
【0193】
一実施形態では、形態Aは、熱重量分析(Thermo-Gravimetric Analysis:TGA)を用いて評価して、DSCを用いての融解開始の前に、1%未満、好ましくは0.5%未満、より好ましくは0.3%未満、又は0.2%未満の重量減少を示す。
【0194】
本明細書で使用される場合、結晶性とは、好ましくは、秩序化された長距離分子構造を有する材料を意味する。結晶形態の結晶化度は、例えば、粉末X線回折、水分収着、示差走査熱量測定、溶液熱量測定、及び溶解特性を含む、多くの技術によって決定され得る。
【0195】
結晶性有機化合物は、三次元空間に周期的な配列で配置された多数の原子からなる。構造的周期性は、通常、ほとんどの分光プローブ(例えば、X線回折、赤外及び固体NMR)による鮮明で明確なスペクトル特性などの明らかな物理的特徴を示す。X線回折(X-ray diffraction:XRD)は、固体の結晶性を決定するための最も高感度の方法のうち1つであると認められている。結晶は、ブラッグの法則によって予測されるように、格子面間隔と一致する特定の角度で生じる明確な回折極大を生じる。反対に、非晶質材料は長距離秩序を有していない。それらは、液体状態のように、分子間に追加の体積を保持することが多い。非晶質固体は、通常、繰り返し結晶格子の長距離秩序が存在しないので、広い拡散したハローを有する、特徴のないXRDパターンを明らかにする。
【0196】
結晶性形態は多くの医薬用途において好ましい。結晶性形態は、概して、同じ物質の非晶質形態よりも熱力学的に安定である。この熱力学的安定性は、好ましくは、結晶性形態の改善された物理的安定性に反映される。結晶性固体中の分子の規則的な充填は、好ましくは化学的不純物の取り込みを拒む。したがって、結晶性材料は、概して、非晶質対応物よりも高い化学純度を有する。結晶性固体中の充填は、概して、十分に画定された格子位置に分子を拘束し、化学反応の前提条件である分子運動性を減少させる。よって、顕著な例外がほとんどなく、結晶性固体は、同じ分子組成の非晶質固体よりも化学的に安定である。好ましくは、本出願に開示されるALPHA-1062グルコネートの結晶性形態は、本明細書に開示される有利な化学的特性及び/又は物理的特性のうちの1つ以上を有する。
【0197】
本明細書で使用される場合、安定という用語は、化学的安定性又は多形安定性のいずれかに関連し得る。多形安定性は、好適な貯蔵条件下において、多形形態がその特定の結晶状態に留まる可能性を指す。例えば、安定な多形形態は、結晶性形態の少なくとも約95重量%、好ましくは少なくとも約98重量%、より好ましくは少なくとも約99重量%以上を維持し、換言すれば、その形態は、指し示された条件下において指し示された時間貯蔵した後、変化しないままである。本発明に関連して、形態AのALPHA-1062グルコネートは、例えば、室温での貯蔵の条件下において、及び低水分活性、例えば約43%RH以下又は0.12aw未満などの条件下において、複数ヶ月間にわたり、良好な安定性を示すと考えられる。いくつかの実施形態では、形態Aは、良好な化学的安定性を示す。換言すれば、形態AとしてのALPHA-1062グルコネートは、適切な条件下における貯蔵後に、異なる化学構造への、低い無視できる変換を示し、又は異なる化学構造への変換を示さない。
【0198】
粉末X線回折(Powder X-ray diffraction:PXRD)は、結晶性材料の回折パターンを測定する。各活性医薬成分(API)は、その結晶格子の構造に応じて特定のパターンを生成する。各多形、偽多形(pseudopolymorph)、多形塩、又は共結晶材料は、それ自体の特定のパターンを有する。この理由のため、APIのPXRDを制御された条件で実行して、結晶性材料の有無及び任意の形態変換を評価することができる。
【0199】
PXRDはまた、例えば貯蔵又は安定性研究中に薬物製品において結晶性形態の変化が生じたかどうかを決定するために使用することができる。したがって、結晶性形態の同定は、任意の所与の結晶性形態についての検出可能な回折ピークの存在に依存する。加えて、APIピークは、任意の結晶性賦形剤ピークと区別可能である必要があり、組成物は製剤化後に評価されるべきである。PXRDはまた、純粋なAPIの結晶化度の定性的及び場合により定量的評価として使用することができる。当業者は、PXRDパターンを評価し、過度な努力なしにAPIの任意の所与の結晶性形態を特徴付けるために採用され得る好適なピークの存在及び/又は非存在を同定することができる。
【0200】
いくつかの実施形態では、PXRD分析によって決定されるピークは、以下の実施例に提示されるピークと本質的に同じである。PXRDに関して「本質的に同じ」という用語は、ピーク位置及びピークの相対強度の変動性が考慮されることを意味する。例えば、2シータ値の典型的な精度は、±0.2°2シータの範囲内である。
【0201】
本明細書で使用される場合、特徴的なXRPDピークは、材料の他の結晶性形態と区別することが統計的に証明され得る、その材料の結晶性形態のXRPDパターンからの代表的なピークのサブセットである。材料の全ての結晶多形が必ずしも特徴的なピークを有するわけではない。
【0202】
本明細書で使用される場合、顕著なXRPDピークは、典型的には、XRPDパターンで観察される最も強い低角度の重複しないピークである。いくつかの実施形態では、「顕著なピーク」は、粉末X線回折パターンにおいて、好ましくは20%以上の相対強度、好ましくは30%以上の相対強度、より好ましくは40%以上の相対強度を有する。
【0203】
本明細書で使用される場合、代表的なXRPDピークは、反復試料及び測定中に粒径/形状又は好ましい配向からの偏りを統計的に示さない、材料の結晶性形態のXRPDパターンからのピークである。
【0204】
本明細書で使用される場合、好ましい配向は、粒子のサイズ/形状及び採用されるパターン収集技術によって、統計的に一貫した強度を有するパターンを達成するために収集中に材料の粒子をランダムに配向することが非常に困難又は不可能であるXRPD分析にて観察される現象である。
【0205】
上で言及した粉末X線回折パターンの相対強度及び顕著なピークに関して、相対強度の提供された値は、言及された顕著な又は特徴的なピークの同定を限定するものとして意図するものではない。当業者に知られているように、相対ピーク強度は、いくつかの装置間の変動性、バッチ間の変動性、並びに結晶化度、好ましい配向、試料調製の程度による変動性を示し、したがって、粉末X線回折パターンにおけるピークの強度の指標及び定性的尺度としてのみ提供されるが、限定的な定義ではない。
【0206】
したがって、本発明を定義する文脈における「顕著なピーク」という用語は、上記に提供されたそれぞれの相対強度に限定されず、それぞれのピークのいずれか1つ以上は、ALPHA-1062グルコネートの任意の所与の形態の顕著なピークとして決定され得る。好ましくは、少なくとも1個、2個、3個、又は4個の顕著なピークが結晶性形態を特徴付けるために使用され、他の実施形態では、少なくとも5個、6個、7個、8個、9個、又は10個の顕著なピークが採用されてもよい。したがって、顕著なピークはまた、任意の所与の結晶形態に固有のピークに限定されず、むしろ、ピークは、任意選択的にPXRDパターンからの他のいくつかのピークと組み合わせて、結晶形態を同定するために使用され得る。本発明の文脈において、結晶形態A~結晶形態Dは、複数の顕著なピークを共有し得るが、任意の2つの形態を区別するために使用され得る互いに異なるピークもまた示し得る。いくつかの実施形態では、本発明の複数の実施形態で言及される顕著なピークはまた、特徴的なピーク及び/又は代表的なピークであり得る。
本明細書で使用される場合、「自己保存性」という用語は、追加の抗菌性保存剤の存在を必要としない、化合物の抗菌特性、すなわちALPHA-1062若しくはその塩、又はそのような薬剤を含む組成物の抗菌特性の説明である。
【0207】
好ましい実施形態では、自己保存性液体組成物は、組成物中に存在する生存可能な微生物の非存在を維持するか、低い若しくは無視できる数を有するか、又は増殖速度が比較的遅いか、又は組成物中の生存可能な微生物の数を減少させる。いくつかの実施形態では、「自己保存」特性は、経時的な組成物中の微生物増加(細胞増殖又は分裂)の速度が、関連化合物(ALPHA-1062)の非存在下よりも遅いことを指し示す。したがって、本明細書で使用される場合、「自己保存性」液体組成物は、そのような「自己保存」特性のない組成物と比較して、より少ない数の生存可能な微生物を示す。いくつかの実施形態では、「自己保存性」組成物は、追加の抗菌性保存料を含まず、長期間、好ましくは少なくとも14日間又は少なくとも28日間にわたり、組成物中の生存可能な微生物数の増加を示さないか、又は無視できるほどの増加を示す。
【0208】
本明細書で使用される場合、「抗菌性」という用語は、少なくとも14日間又は少なくとも28日間にわたり、組成物中の生存可能な微生物の数を減少させるか、又はその増加がないか若しくは無視できる程度であることを示す、化合物又は組成物の特性を説明する。本発明のいくつかの実施形態では、病原性真菌、グラム陰性細菌及び/又はグラム陽性細菌は、ALPHA-1062又はその塩によって死滅させること、又はその増殖を阻害することができる。いくつかの実施形態では、「抗菌性」という用語は、USP 51試験の保存料について記載されたガイドラインに従って定義される。したがって、この用語は、微生物の種類及び試験期間に依存し得る。添加される抗菌保存料の濃度は、通常、ALPHA-1062又はその塩の場合のように、特に製剤の活性成分が固有の抗菌活性を有する場合、最小限に保たれるか、又は完全に回避される。抗菌有効性は、製品に固有であるかどうか、又は抗菌保存料の添加から生成されるかどうかにかかわらず、一般に、複数回投与の局所剤形及び経口剤形、並びに眼科用液、視覚溶液、鼻腔用液、洗浄溶液、及び透析液などの他の剤形について実証される必要がある。本明細書で使用される場合、薬剤ALPHA-1062は、分子に固有の抗菌性保存特性を示し、したがって、本発明の組成物中での追加の保存料の追加の使用をほとんど又は全く必要としない。
【0209】
「外傷性脳損傷」(TBI)は、頭部への強打、衝突、又は衝撃、頭部への物体の突然の激しい叩打によって引き起こされ得る、又は物体が頭蓋骨を貫通して脳組織に入るときに引き起こされ得る、脳の正常な機能の破壊である。以下の臨床徴候のうち1つを観察することは、正常な脳機能の変化を構成する:失神又は意識低下、事象前後の事象の記憶喪失(健忘症)、筋力低下などの局所神経障害、視力喪失、発話の変化、精神状態の変化、例えば見当識障害、思考速度低下又は集中困難。
【0210】
TBIの症状は、脳への傷害の程度に応じて、軽度、中度、又は重度であり得る。軽度の症例は、精神状態又は意識の短時間の変化をもたらし得る。重度の症例は、長期間の意識不明、昏睡、又は更に死をもたらし得る。
【0211】
TBIの症状は、頭部損傷の重症度に応じて大きく異なり得、嘔吐、嗜眠、頭痛、錯乱、麻痺、昏睡、意識不明、瞳孔散大、視覚障害(かすみ目又は複視、光明に対する不耐性、眼球運動の喪失、失明)、眩暈及び平衡失調、嚥下困難、しびれ又は刺痛、眼瞼下垂又は顔の衰弱、腸又は膀胱の制御喪失を含み得る。
【0212】
TBIの短期及び長期の症状は、眩暈、バランスの問題、頭痛、悪心、嘔吐、光感受性、記憶障害、睡眠異常、集中力低下及び視覚障害、腕及び脚の脱力、バランス及び協調の問題、重度又は重くなる頭痛、感覚認知の障害、認知能力の障害、記憶障害、コミュニケーション及び学習の障害、人格変化、行動異常、視覚及び聴覚の障害、麻痺、昏睡、失神、瞳孔散大、耳又は鼻からの脳脊髄液の喪失、腸及び/又は膀胱制御の喪失、呼吸問題、遅脈、呼吸問題、血圧の上昇を伴う遅い呼吸速度、眼瞼下垂又は顔面脱力、血腫、挫傷、脳内出血、クモ膜下出血、びまん性損傷、びまん性軸索損傷、虚血、一次性脳損傷及び/又は二次性脳損傷を含む群から選択される1つ以上の症状を更に含み得る。
【0213】
本明細書で使用される場合、「一次性脳損傷」、すなわち頭蓋骨骨折、限局性損傷、又はびまん性軸索損傷などは、初期脳損傷、すなわちTBI事象の時点で発生し、これは予防することができないが、その後の治療によってのみ対処される。初期脳損傷の治療の1つの目標は、「二次性脳損傷」を予防又は更に減少させることである。「二次性脳損傷」という用語は、典型的には、初期損傷後、通常は数分、数時間、数日、又は場合により更には数ヶ月以内に進行する変化を指す。二次性脳損傷は、脳組織の更なる破壊に寄与する脳内の細胞、化学、組織、又は血管の変化の一連の事象又は段階全体を含む。
【0214】
TBIは、挫傷、及び脳内の圧力を増加させる挫傷などの限局性の損傷の領域の「腫瘤病変」を引き起こし得る。TBI又は付随するTBIによって引き起こされる二次性傷害は、以下の傷害の1つ以上を含み得る:血腫、(脳)挫傷、脳内出血、クモ膜下出血、びまん性損傷、びまん性軸索損傷、虚血、及び/又は頭蓋骨骨折。
【0215】
本発明の複数の実施形態では、「血腫」は、脳内のどこにでも現れ得る、脳内又はその表面上の血栓を指す。硬膜外血腫は、硬膜(脳の保護被覆)と、頭蓋骨の内側との間の血液の集合である。硬膜下血腫は、硬膜と、脳の表面に位置するクモ膜層との間の血液の集合である。
【0216】
本発明の複数の実施形態では、「挫傷」又は「脳挫傷」は、身体の他の部分の挫傷に病理学的に匹敵する脳組織の挫傷を指し得る。脳挫傷は、動脈、静脈、又は毛細血管から漏れた血液と混合された、損傷又は膨潤した脳の領域からなる。最も一般的な挫傷は脳の前部の基部におけるものであるが、挫傷はどこにでも現れ得る。
【0217】
本発明の複数の実施形態では、「脳内出血」(intracerebral hemorrhage:ICH)は、他の脳損傷、特に挫傷に関連し得る脳組織内の出血を指す。これは出血のサイズ及び位置に応じて、外科的に除去することができる。
【0218】
本発明の複数の実施形態では、「クモ膜下出血」(SAH)は、クモ膜下腔への出血によって引き起こされる。これは、脳の表面上に薄く広がる拡散血液として現れ、TBIの後に一般的である。頭部外傷に関連するSAHのほとんどの症例は軽度である。水頭症は重度の外傷性SAHから生じ得る。
【0219】
本発明の複数の実施形態では、「びまん性損傷」は、CTスキャンでは現れずTBIの結果として起こり得る脳全体に散在する、微視的変化について説明する。びまん性脳損傷として知られるこの損傷のカテゴリーは、関連する腫瘤病変の有無にかかわらず起こり得る。
【0220】
本発明の複数の実施形態では、「びまん性軸索損傷」は、軸索の機能障害及び段階的な喪失を指す。神経細胞のこれらの長い伸長は、それらが互いに連絡することを可能にする。このようにして充分な軸索が傷害を受ける場合、神経細胞が互いに連絡してそれらの機能を統合する能力が、失われるか、又は重度に損なわれる可能性があり、これは患者の重度の能力障害につながる可能性がある。
【0221】
本発明の複数の実施形態では、「虚血」は、別の種類のびまん性損傷、又は脳のある特定の部分への不充分な血液供給を説明する。高いパーセンテージ(高い百分率)のTBI患者が非常に低いレベルまで血液供給の減少を経る。外傷性損傷を受けたばかりの脳は血流の軽度の減少に特に敏感であるので、これは重要である。頭部損傷後の最初の数日間の血圧の変化もまた有害作用を及ぼし得る。虚血はまた、二次性脳損傷の主な原因であるものと考えられる。
【0222】
本発明の複数の実施形態では、「頭蓋骨骨折」は、TBIに伴い得る頭蓋骨の線状頭蓋骨骨折又は単純骨折を指す。
【0223】
頭蓋骨の骨折を引き起こすのに充分強い潜在的な力は、下の脳を傷害し得る。頭蓋骨骨折は、患者の検査中に発見された場合、警告することができる。頭蓋底の骨折は、神経、動脈、又は他の構造を損傷する可能性があるので、問題となる。骨折が副鼻腔内に及ぶ場合、鼻又は耳からの脳脊髄液の漏出が起こり得る。骨の一部が脳の上を又は脳内に圧迫する、頭蓋骨陥没骨折もまた起こり得る。
【0224】
本発明の複数の実施形態では、ALPHA-1062投与は、病理学的p-Tauの予防、そのリスクの減少、そのレベルの減少、及び/又は病理学的p-Tauの発症の遅延若しくは減少を誘発し得る。本明細書で使用される場合、「p-Tau」は、リン酸化Tauタンパク質を指す。tauタンパク質は、遺伝子MAPT(微小管関連タンパク質tau)からの選択的スプライシングによって産生される、6つの可溶性タンパク質アイソフォームを含む。それらは、主に軸索の微小管の安定性を維持する役割を有し、中枢神経系(central nervous system:CNS)のニューロンに豊富に存在する。ニューロンにおける病理学的にリン酸化されたTauの蓄積は、典型的には神経原線維変性に関連し、また様々な神経変性疾患で観察される。アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経系の病態及び認知症は、神経原線維変化と呼ばれる不溶性凝集体になったリン酸化Tauタンパク質に関連している。tau凝集の機序はまだ完全には解明されていないが、tauのリン酸化を含むいくつかの因子が、このプロセスに関連する及び/又はこのプロセスを誘発すると考えられる。したがって、病理学的p-Tauは、多くの場合、神経変性のマーカと、神経変性の原因因子との両方と考えられる。
【0225】
「プロドラッグ」は、概して、投与後に、体内で薬理学的に活性薬物に代謝される、薬物又は化合物について説明する。対応する薬物の吸収、分布、代謝、及び/又は排出を改善するために、その対応する薬物化合物の代わりにプロドラッグを投与することができる。バイオアベイラビリティが改善されたプロドラッグの使用は、対応する薬物が例えば胃腸管経路を介してあまり吸収されない場合に、特に有利である。プロドラッグの投与は、対応する薬物の有害若しくは望まない副作用を減少させ、並びに/又は薬物のバイオアベイラビリティ及び/若しくは吸収を改善し得る。
【0226】
「プロドラッグ」は、典型的にはそれ自体、体内の特定の位置で活性代謝産物に予測可能に変換される、治療的に不活性な薬剤である。この意味で、プロドラッグは、予測可能な様式で酵素的切断又は化学的自発的プロセスによってインビボにて活性剤への変換を受ける、親薬物の不活性前駆体である。本明細書で論じられるいくつかの実施形態によるプロドラッグでは、好ましくは親薬物と選択されたプロ部分との間に共有結合性エステル連結が存在し、このエステル結合の切断の際に、理想的には標的器官の脳において、不活性プロドラッグは、CNSにおけるその標的部位で又はその標的部位の近傍で活性親薬物を放出する。
【0227】
本明細書では、「プロドラッグ」は、ALPHA-1062又はその塩を指し得るが、これに限定されない。本発明のいくつかの実施形態では、プロドラッグALPHA-1062又はその塩の投与は、ガランタミン関連有害作用を(部分的若しくは全体的に)減少若しくは予防すること、及び/又はガランタミン化合物の経粘膜吸収を改善することを意図している。
【0228】
したがって、本発明によるいくつかの実施形態の目標は、親油性プロドラッグとして製剤化され、口腔又は鼻腔内の経粘膜吸収経路を介して投与されることによって、最適な脳バイオアベイラビリティを有するTBIの治療のための新規CNS治療薬を提示することである。
【0229】
本明細書に開示されるALPHA-1062プロドラッグは、血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)を通って脳内に受動的に輸送される。これらのALPHA-1062プロドラッグは、本質的に薬理学的に不活性であり、よって、それらが特定の組織において切断されないままである限り、有意なGI又は他の副作用を一切生じない。酵素的切断の後、プロドラッグの各分子から、親薬物の1つの分子が形成され、それによって、薬物の十分な薬理学的効果が生じる。この器官への分布の増強及びその中の好適な内因性酵素の利用可能性によって切断が脳内で優先的に行われる場合、CNSの標的部位において持続的により高い濃度の薬物、ひいてはより大きな医学的に有益な効果が達成され得る。標的器官の脳への優先的輸送は、口腔又は鼻腔における投与の経粘膜経路によって、驚くべきまた有益な様式で更に最適化される。
【0230】
要約すると、本明細書のいくつかの実施形態について記載されるALPHA-1062又はその塩の製剤のこれらの特徴は、未改変薬物の錠剤の形態での経口投与によって達成され得るよりも持続性で高濃度のプロドラッグの脳への送達を促進する。脳への薬物の改善された分布は、GI管内で局所的に生じる全ての副作用を劇的に減少させ、それによって、CNSに位置する標的分子、例えばニコチン受容体及びアセチルコリンエステラーゼでの薬物の即時有効投与を可能にする。
【0231】
脳毛細血管のレベルに位置する「血液脳関門」(BBB)は、血液区画から脳への薬物の通過に対する主要なバリア(関門)であるので、BBBを通じたプロドラッグの浸透の最適化に最初に焦点を当てることにより、有望な結果が得られた。BBBを形成する脳微小血管内皮細胞は、典型的な形態学的特徴として、細胞間のタイトジャンクション(密着結合)、開窓の欠如、及び減少した飲作用活性を有する。種々の酵素がBBBの制限的性質に更に寄与する。薬物がBBBを通過する能力は、主に、その親油性などの物理化学的特性に依存する。結果として、本開示において考慮される化合物は全て、それらの親化合物と比較して、親油性が改善されたプロドラッグである。
【0232】
「BBCR」は、BBBを介した輸送平衡が達成された後の脳対血液薬物濃度比として理解されるべきである。
【0233】
「経粘膜投与」という用語は、粘膜を通る、又は粘膜を横切る医薬剤の輸送に関する。本発明の投与の経粘膜経路は、鼻腔内、口内、及び/又は舌下として定義される。
【0234】
「経鼻投与又は鼻腔内投与」は、鼻腔へのプロドラッグ又はその医薬組成物の任意の適用形態に関する。鼻腔は、充分に血管化された薄い粘膜によって覆われている。したがって、薬物分子は、初回通過の肝臓及び腸の代謝を伴わずに、単一の上皮細胞層を横切って迅速に移動することができる。したがって、鼻腔内投与は、例えば、腸及び/又は肝臓における広範な分解をもたらす錠剤及びカプセルの経口投与の代替として使用される。
【0235】
「口内投与」は、頬粘膜を横切る吸収をもたらす任意の適用形態に関し、好ましくは頬の内側、歯の表面、又は頬の横の歯肉での吸着に関係する。
【0236】
「舌下投与」は、プロドラッグが舌下の粘膜と接触し、それを通じて拡散する、舌下投与を指す。
【0237】
口腔内での迅速な吸収は、角質化が有意に少ないことに加えて、この領域の粘膜厚さが他の口内領域よりも低いので、舌下投与によって最も良好に達成される(Shojaei A (1998)Buccal mucosa as a route for systemic drug delivery:a review.J Pharm Pharmaceut Sci 1:15-30)。急速に分解する錠剤又は液体充填カプセルなどの、本発明のいくつかの実施形態による高速溶解舌下製剤は、唾液中のプロドラッグの酵素分解の減少を更に助けることができる。鼻腔はまた、その大きな表面積、高い脈管構造、及び低い酵素環境で、代替的な投与計画のための有望な出発点を提供する。本発明のいくつかの実施形態による鼻腔内送達は、静脈内投与と同様に高レベルのバイオアベイラビリティを提供することが可能であり、後者と比較して、非侵襲性、自己投与の容易さ、患者の快適さ、及び患者のコンプライアンスの利点を有する。これらの利点は、当業者によって概ね知られている場合があり;しかしながら、そのような適用経路を開発するための大きな障害が残っている。長期的全身送達のためには、上皮傷害及び毒性の問題を解決する必要があり、充分なバイオアベイラビリティのために、少量のビヒクル中の高濃度の薬物が提供される必要がある。これには、投与のための適切な方法を見出し、最終的に脳への活性物質の最適な投与を可能にする好ましい塩及び/又はその溶液を開発することに加えて、必要な製剤及び濃度を可能にする好適な化学化合物の最初の選択が必要である。
【0238】
口内投与及び/又は舌下投与に好適な医薬組成物は、いくつかの実施形態では、追加の「薬学的に許容される担体」を含んでもよく、例えば、口内投薬単位は、所定の期間にわたって活性剤を生分解(bioerode)し、その送達を提供するポリマー担体、及び好ましくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤に加えて、投与される活性剤を含んでもよい。追加の担体剤は当業者に公知である。この活性剤は、pH制御剤、保存剤、粘度制御剤、吸収増強剤、安定化剤、溶媒、及び担体ビヒクルとして機能する成分のクラスの一部又は全部の材料と物理的に配合することができる。そのような薬剤は、本発明のいくつかの実施形態では、医薬組成物の固体形態又は液体形態のいずれかで存在し得る。
【0239】
いくつかの実施形態では、「自己マイクロエマルジョン化薬物送達系」(SMEDDS)が、当該医薬組成物中に存在してもよく、これは、機械的手段ではなく化学的手段によって達成されるマイクロエマルジョンを使用する薬物送達系を意味する。すなわち、特別な混合及び取り扱いによるのではなく、薬物製剤の固有の特性によるものである。これは、多くのアニス風味アルコール飲料においてアネトールによって示されるよく知られている効果を採用する。マイクロエマルジョンは、薬物送達における使用のための大きな可能性を有し、SMEDDS(いわゆる「U型」マイクロエマルジョンを含む)は、これまでに同定されたこれらの系のうちで最良のものである。SMEDDSは、経口摂取される親油性薬物の吸収を増加させるのに特に価値がある。SMEDDSには、アネトールトリチオン、オリドニン、クルクミン、ビンポセチン、タクロリムス、塩酸ベルベリン、ノビレチン、及び/又はピロキシカムの薬物の製剤が含まれ得るが、これらの様式に限定されない。他のエマルジョンは、混合、超音波処理、ボルテックス、又は均質化などの機械的手段によって作製される。SMEDDとして市販された最初の薬物はシクロスポリンであり、従来の溶液と比較して、有意に改善されたバイオアベイラビリティを有していた。SMEDDSは、自発的な形成、製造の容易さ、熱力学的安定性、及び生物活性材料の改善された可溶化という多くの利点を提供する。改善された溶解度は、より速い放出速度及びより大きなバイオアベイラビリティに寄与する。経口摂取される多くの薬物について、より速い放出速度は、摂取者による薬物受容を改善する。より大きいバイオアベイラビリティは、より少ない薬物を使用する必要があることを意味し;これにより、コストを下げることができ、また経口摂取される薬物の胃への刺激及び毒性を低下させる。いくつかの実施形態による経口使用のために、SMEDDSは、液体として製剤化されてもよく、経粘膜投与に適用可能である。
【0240】
医薬組成物は、いくつかの実施形態では、1つ以上の薬学的に許容される担体又は賦形剤を更に含んでもよい。「賦形剤」という用語は、医薬品の希釈剤、崩壊剤、担体、及び同様のものなどの薬理学的に不活性な構成成分を意味する。医薬組成物の調製に有用な賦形剤は、概して安全で、非毒性であり、また獣医学的及びヒトの医薬用途に許容される。賦形剤への言及は、1つの賦形剤及び2つ以上の賦形剤の両方を含む。いくつかの実施形態では、賦形剤は、「重量%」又は「重量パーセント」に従って本明細書に記載される。
【0241】
動物、ヒト、実験対象、細胞、組織、器官、又は生体体液に適用される「投与」又は「治療」は、動物、ヒト、対象、細胞、組織、器官、又は生体体液への医薬剤、治療剤、診断剤、化合物、又は組成物の接触を指す。「投与」及び「治療」は、いくつかの実施形態では、例えば、治療、プラセボ、薬物動態、診断、研究、及び実験の方法を指し得る。「治療」は、ヒト、獣医学、又は研究対象に適用される場合、治療的処置、予防的(prophylactic)手段、又は予防的(preventative)手段、研究及び診断用途を指す。本明細書で使用される場合、「投与する(administer)」又は「投与(administration)」は、認知障害に関連する脳疾患の予防又は治療を目的とした生物への、本発明の薬物若しくは薬剤、又はその医薬組成物の送達を指す。好適な投与経路としては、限定されないが、経口、直腸、経粘膜、若しくは腸投与、又は筋肉内、皮下、髄内、クモ膜下腔内、直接脳室内、静脈内、硝子体内、腹腔内、鼻腔内、舌下、口内、若しくは眼内注射が挙げられ得る。好ましい投与経路は経粘膜である。
【0242】
いくつかの実施形態では、液体製剤は、上記の投与様式の任意の1つ以上のために構成される。当業者は、特定の投与様式のための組成物を構成する際に採用される技術的手段を認識している。例えば、経鼻投与用に構成された組成物は、経口投与用に調製された組成物とは異なる様式で製剤化、包装、又は調製されてもよい。
【0243】
本発明の医薬組成物は、いくつかの実施形態では、当技術分野で周知のプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、微粒化、顆粒化、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、封入、溶解、又は凍結乾燥プロセスによって製造されてもよい。本発明による使用のための医薬組成物は、いくつかの実施形態では、本発明の結晶又は他の形態の、薬学的に使用することができる調製物への加工を容易にする、賦形剤及び助剤を含む1つ以上の生理学的に許容される担体を用いて従来の様式で製剤化され得る。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。
【0244】
注射又は経粘膜投与のためのいくつかの実施形態では、本発明の化合物又はその医薬組成物は、水溶液中、好ましくは生理学的に適合性の緩衝液、例えば、ハンクス液、リンゲル液、又は生理食塩水緩衝液中で製剤化され得る。いくつかの実施形態による経粘膜投与の場合、浸透されるバリアに適切な浸透剤が製剤に使用される。かかる浸透剤は、全般的に、当該技術分野で知られている。
【0245】
経口投与のためのいくつかの実施形態では、本発明の化合物又はその医薬組成物は、本発明の化合物を、当技術分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって製剤化され得る。そのような担体は、いくつかの実施形態では、本発明の化合物を、患者による経口摂取のための錠剤、丸剤、ロゼンジ剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤、及び同様のものとして製剤化することを可能にする。経口使用のための医薬調製物は、いくつかの実施形態では、錠剤又は糖衣錠コアを得るために、必要に応じて他の好適な助剤を添加した後に、固体賦形剤を用いて、任意選択的に得られた混合物を粉砕し、顆粒の混合物を加工することで製造することができる。有用な賦形剤は、特に、糖、デンプン、及び他の材料などのフィラーである。所望に応じて、崩壊剤を加えてもよい。
【0246】
「有効量」はまた、障害、状態、又は病理学的状態の症状又は徴候の寛解及び/又は診断を可能にする又は容易にするのに充分な、プロドラッグ物質又はその医薬組成物の量にも関する。互換的に使用される「有効量」又は「治療有効量」という用語は、いくつかの実施形態では、患者に投与した場合にかなりの生物学的応答を誘発するのに充分である、化合物(例えば、ALPHA-1062又はその塩の量(amount)又は分量(quantity)を意味するものと定義される。正確な治療用量は、患者の年齢及び状態、治療される状態の性質に依存し、主治医の最終的な裁量内であることが理解されるであろう。この場合の用量の選出は、抗菌効果に関する有効量に加えて、神経学的疾患の治療に対する治療効果の両方に関連する。両方の量は当業者によって評価及び決定され得る。
【0247】
本発明は、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の有効量の化学物質の、それを必要とする患者又は対象への投与を包含する。「有効量」又は「治療有効量」とは、障害若しくは生理学的状態の症状若しくは徴候を寛解するのに充分な量、又は障害若しくは生理学的状態の診断を可能にするのに若しくは容易にするのに充分な量を意味する。特定の患者又は獣医学的対象の有効量は、治療される状態、患者の全体的な健康状態、方法経路及び投与量、並びに副作用の重症度などの要因に応じて変化し得る。有効量は、大きな副作用又は毒性作用を回避する最大用量又は投与プロトコルであり得る。効果は、少なくとも5%、通常は少なくとも10%、より通常は少なくとも20%、最も通常は少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも60%、理想的には少なくとも70%、より理想的には少なくとも80%、最も理想的には少なくとも90%の診断尺度、パラメータ、又は検出可能なシグナルの改善をもたらし、100%は、正常な対象によって示される診断パラメータとして定義される。
【0248】
本明細書では、「対象」、「患者」、又は「個体」という用語は互換的に使用され得る。本発明の好ましい実施形態では、対象は、動物、哺乳動物、又はヒト、更により好ましくはヒトであり得る。
【0249】
本明細書で使用される場合、「液体」という用語は、その一般的な意味を指し、その容器の形状に適合するが圧力とは無関係に(ほぼ)一定の体積を保持する、ほぼ非圧縮性の流体を有する組成物を含む。
【0250】
本明細書で使用される場合、「液体形態の医薬組成物」は、対象、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト対象への投与に好適な、1つ以上の薬学的活性剤を含む液体である。液体投薬形態は、典型的には、薬物構成成分と非薬物構成成分(賦形剤)との混合物を伴う医薬生成物である。液体剤形(液体投薬形態)は、(a)活性薬物物質を水性溶媒若しくは非水性溶媒(例えば、水、グリセリン、エーテル、アルコール)中に溶解することによって、又は(b)適切な媒体中に薬物を懸濁することによって、又は(c)懸濁液、エマルジョン、シロップ、又はエリキシルなどの油相又は水相に薬物物質(原体)を組み込むことによって、調製される。本明細書に記載される溶液は、ALPHA-1062の塩について明らかなように、水中への良好な溶解度を特徴とする。
【0251】
「エマルジョン」はまた、当技術分野で開示されているように、経粘膜投与のために製造及び採用され得る。「エマルジョン」は、通常は不混和性(混合不可能又はブレンド不可能)である2つ以上の液体の混合物である。エマルジョンは、コロイドと呼ばれるより全般的なクラスの物質の二相系の一部である。コロイド及びエマルジョンという用語は場合により互換的に使用されるが、エマルジョンは、分散相及び連続相の両方が液体である場合に使用されるべきである。エマルジョンでは、一方の液体(分散相)が、他方の液体(連続相)中に分散される。エマルジョンの例としては、主にそれらの油水比、他の添加剤、及びそれらの意図される投与経路に応じて、クリーム、軟膏、リニメント(バーム)、ペースト、フィルム、又は液体が挙げられる。多くは局所剤形であり、経皮的、経粘膜的、眼科的(ophthalmically)、直腸的、又は経膣的に皮膚の表面上に使用され得る。高度の液体エマルジョンはまた、経口、鼻腔内で使用されてもよく、又は、場合によっては注射されてもよい。
【0252】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知のプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、顆粒化、微粒化、乳化、カプセル化、封入、溶解、又は凍結乾燥プロセスによって製造されてもよい。本発明による使用のための医薬組成物は、医薬的に使用することができる調製物へのAPIの加工を容易にする賦形剤及び助剤を含む、1つ以上の生理学的に許容される担体を用いて従来の様式で製剤化され得る。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。
【0253】
注射又は経粘膜投与のために、API又はその医薬組成物は、水溶液中、好ましくは生理学的に適合性の緩衝液、例えば、ハンクス液、リンゲル液、又は生理食塩水緩衝液中で製剤化され得る。経粘膜投与の場合、浸透されるバリアに適切な浸透剤が製剤に使用される。かかる浸透剤は、全般的に当該技術分野で知られている。
【0254】
経口投与のために、API、本発明又はその医薬組成物は、いくつかの実施形態では、当技術分野で周知の薬学的に許容される担体とAPIを組み合わせることによって製剤化され得る。そのような担体は、本発明の結晶形態などの物質を、患者による経口摂取のための錠剤、丸剤、ロゼンジ剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤、溶液、及び同様のものとして製剤化することを可能にする。経口使用のための医薬調製物は、錠剤又は糖衣錠コアを得るために、必要に応じて他の好適な助剤を添加した後に、固体賦形剤を用いて、任意選択的に得られた混合物を粉砕し、顆粒の混合物を加工することで製造することができる。有用な賦形剤は、特に、フィラー、例えばラクトース、スクロース、マンニトール、又はソルビトールを含む糖、セルロース調製物、例えばトウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、及びジャガイモデンプンなど、並びに他の材料、例えばゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドン(polyvinyl-pyrrolidone:PVP)である。所望に応じて、崩壊剤、例えば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸が添加されてもよい。アルギン酸ナトリウムなどの塩をまた使用してもよい。
【0255】
本発明の組成物はまた、いくつかの実施形態では、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与のために製剤化されてもよい。注射用製剤は、単位投薬形態に、例えば、アンプルで、又は複数回投与容器に、保存料を添加して提示されてもよい。組成物は、油性又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、又はエマルジョンなどの形態をとり得、懸濁化剤、安定剤、及び/又は分散剤などの製剤化材料を含有し得る。
【0256】
溶液に加えて、ALPHA-1062又はその塩を含む様々な液体組成物、例えばエマルジョン、懸濁液、及び同様のものが企図される。一実施形態では、ALPHA-1062又はその塩を含む液体医薬組成物は、対象への複数回投与事象のための充分な量又は体積(用量)の組成物を含む。したがって、本発明はまた、必要とする対象への複数回投与用に構成された溶液中にALPHA-1062又はその塩を含む、医薬組成物に関する。
【0257】
非経口(胃腸管ではない任意の経路)投与のための医薬組成物は、APIの水溶性形態の水溶液を含む。そのうえ、本発明の薬物若しくはプロドラッグ、又はその医薬組成物の懸濁液は、親油性ビヒクル中で調製され得る。好適な親油性ビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油、オレイン酸エチル及びトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、又はリポソームなどの材料が挙げられる。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストランなどの、懸濁液の粘度を上昇させる物質を含有してもよい。任意選択的に、懸濁液はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために、本発明の化合物又はその医薬組成物の溶解度を増加させる好適な安定剤又は薬剤を含有してもよい。
【0258】
いくつかの実施形態では、活性成分を含む組成物は、粉末形態であり得る。例えば、粉末は、使用前に、好適なビヒクル、例えば、無菌の発熱物質不含水で構成するよう準備されてもよい。いくつかの実施形態では、粉末製剤は、対象への投与用である。例えば、微粒化粉末製剤などの粉末製剤は、鼻腔内に、又は経粘膜投与などの他の方法を介して、粉末製剤を対象に、好ましくは対象の粘膜表面にスプレー又は他の方法で適用することによって、投与されてもよい。
【0259】
本明細書に記載されるALPHA-1062の抗菌特性は、溶液、懸濁液、及びエマルジョンなどの液体製剤だけでなく、固体製剤又は粉末製剤にもまた有益である。経粘膜投与に好適な粉末製剤はまた、ALPHA-1062の抗菌特性から、及び追加の抗菌保存料の非存在からも利益を得、これは、ALPHA-1062それ自体が抗菌性であるという知見によって可能になる。同様に、固体組成物はまた、ALPHA-1062の抗菌特性及び追加の抗菌保存料の非存在からも利益を得ることができ、任意の所与のALPHA-1062組成物について微生物夾雑の減少及びより長い貯蔵時間を潜在的にもたらす。
【0260】
治療有効量及び好適な投与の形式の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らして、当業者の能力の範囲内である。投与される組成物の量は、当然のことながら、治療される対象、苦痛の重症度、投与の様式、処方医の判断等に依存する。
【0261】
組成物は、所望に応じて、活性成分を含有する投薬形態を収容し得る、EMA及び/又はFDA承認キットなどのパック又はディスペンサーデバイスに提示されてもよい。パック又はディスペンサーデバイスは、投与のための説明書を付随してもよい。パック又はディスペンサーはまた、医薬品の製造、使用、又は販売を規制する政府機関によって規定された形式で容器に関連付けられた通知書を付随してもよく、この通知書は、組成物の形態、又はヒト若しくは獣医学的投与の機関による承認を反映している。そのような通知書は、例えば、処方薬について欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)及び/若しくは米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)によって承認された標識、又は承認された製品添付文書のものであり得る。
【0262】
適合性医薬担体中に製剤化された本発明の化合物を含む組成物もまた、調製され、適切な容器に入れられ、指し示された状態の治療のために標識されてもよい。
【0263】
「マルチユースディスペンサー」は、当業者に知られており、化合物の複数回投与又は複数回適用に好適な任意のデバイスの形態で提供されてもよい。換言すれば、本明細書では、マルチユースデバイスは、複数回の投与事象間での開封又は再充填を必要としないこと、並びに、典型的には長期間にわたって充分なAPI安定性及び低い微生物量で安定であることが好ましい。いくつかの実施形態では、ディスペンサーは、任意の所与の液体製剤、好ましくは溶液の投与に好適であり得るが、エマルジョン及び懸濁液、並びに同様のものが企図される。
【0264】
「液体製剤」は、当業者に公知であり、小児又は老人の患者集団で一般的である。液体製剤は、典型的には、放出、バイオアベイラビリティ、及び味/刺激の要件を満たす化合物の、安定な、溶解した、又は懸濁した形態を必要とする。即時放出及び持続放出の液体製品の両方が企図される。液体製剤戦略は、典型的には、活性薬物又はプロドラッグを、溶解状態又は懸濁状態又は乳化状態で直接組み込むことを含む。代替的な状態には、懸濁薬物-イオン交換樹脂複合体の形態での活性薬物又はプロドラッグの組み込み、又は溶解若しくは懸濁薬物-シクロデキストリン包接複合体の形態での、又は乳化状態での、薬物又はプロドラッグの組み込みが含まれる。
【0265】
経粘膜投与用に構成された「ディスペンサー」はまた、好ましくは経口的、経鼻的、経膣的、及び尿道的な様式に関する経粘膜投与経路と同様に、当技術分野で公知である。粘膜は比較的透過性であり、豊富な血液供給を有し、よって、全身循環への薬物の迅速な取り込みを可能にして、初回通過代謝を回避する。経口経粘膜送達は、好ましくは口内経路及び舌下経路に関する。この薬物送達の経路は、他の薬物送達アプローチよりも多くの利点を提供し、腸内に存在する微生物集団への曝露によって、初回通過代謝、厳しい胃環境、及び潜在的に腸内の代謝のような身体の自然な「防御機構」の一部を、薬物が回避することを可能にする。例として、スプレー、ポンプ、及びゲルを用いることによる経鼻経路を介した薬物送達のようないくつかのアプローチが使用されているが、一方で、粘膜付着性の速溶性錠剤、及び固体のロゼンジ製剤は、経口粘膜経路に好適であり、また、粘膜付着性坐剤、in-situゲル及びフォーム製剤を用いて膣経路又は尿道経路を探索することもできる。
【0266】
本発明による好ましいディスペンサー又はマルチユース投与デバイスは、上述したマルチユースデバイスのいずれかに関する。いくつかの実施形態では、例えばNemera (La Verpilliere、フランス)又はAptar Pharma (米国イリノイ州)から入手可能なディスペンサーが好ましい。例えば、Nemeraは、Advancia(登録商標)鼻腔スプレーディスペンサーを提供しており、これは、優れた用量の一貫性及びプライム保持、目詰まり防止アクチュエータを有し、配合物に接触する金属なし、及び衛生的な作動防止スナップ式オーバーキャップを有する、高性能ポンプである。更なる例として、Aptar Pharmaの鼻ポンプ技術は、薬物製造業者が保存料を鼻腔スプレー製剤に添加する必要性を取り除く。高度保存料フリー(Advanced Preservative Free:APF)システムは、製剤の夾雑を予防するために先端部シール及びフィルタ技術を使用する。ばね付先端部シール機構が、通気チャネル内のフィルタ膜と共に採用される。とりわけ、Nemera及びAptar技術は、金属なしの流体経路などの数多くの利点を提供し、それによって製剤の酸化を予防し、保存料を含まないシステム、ひいては純粋に機械的なバリアを採用する抗菌性ディスペンサーを提供する。
【0267】
Advancia(Nemera)技術によれば、ディスペンサーへの空気の取り込みは、シリコーン膜を備えた通気システムを介して行われる。この技術及びそれに類似する技術は、透過性膜として作用する、空気がシリコーンを通して拡散することを可能にする均質な材料の連続的なバリアを有する。その結果、連続的なバリアは、薬物の微生物の完全性を保証する。通気システムは、シリコーンポリマーから製造された非常に微細な膜を用いて吸気を濾過する。シリコーン膜は固体の非多孔質材料である。膜は均質であり、孔を一切含有していない。膜の分子間距離はナノメートルオーダーであり、これは、膜を通る空気の通過を可能にするが、シリコーン膜構造により、細菌を含む任意の液体又は固体粒子の通過を完全に予防する。シリコーン膜の機能は、膨張したバルーンと比較することができる。バルーンは連続的な防水材料であるが、内部及び外部の圧力が平衡に達するまで、ガスはバルーンの壁をゆっくりと通過する。更に、Advancia(登録商標)PFは、システムの上部に特許を取得した閉鎖先端部と呼ばれる目詰まり防止アクチュエータを提供している。この機序は、夾雑物がアクチュエータオリフィスを通って侵入することができないことを保証し、したがってこれは、結晶化及び目詰まりの問題からの保護を提供し、蒸発を回避して、良好なプライム保持を保証する。
【0268】
非常に良好な用量一貫性、広範囲の用量体積(異なるアクチュエータによる50μL~200μL)、様々なネック仕上げ(ねじ式、スナップ式、及びクリンプ式)を可能にし、また液体の溶液及び懸濁液に好適である、SP270+及びSP370+などのNemeraからの追加の技術もまた企図される。規制されていない市場では、SP27及びSP37などのNemeraの代替技術が企図される。あるいは、液体用のCV20、粘性製品用のバルブ6668、若しくは粉末用のバルブ6685などの、中性推進剤(窒素)又は液体ガスによる加圧送達を採用するNemera溶液など、経鼻及び経皮送達用の連続バルブを採用してもよい。追加のNemera分注デバイスは、例えば、容器に取り付けるための液体を分注するための先端部を開示する、米国特許第9238532号に開示されている。バルブは、互いに対して可動である少なくとも2つの要素を含み、各可動要素は、他方の可動要素に対するベアリングゾーンを含む。可動要素のうちの1つは、ブロッキングバリアを形成するそのベアリングゾーンの一部の上又はそのすぐ近くに抗菌性材料を担持し、内部と接触する分注チップの全ての表面は、抗菌性材料を有していない。更なる例として、米国特許第9345616号は、リザーバの内容物の無菌性を確実に保証する吸気口を有する液体ディスペンサーデバイスについて開示している。空気を取り込む機能、及び空気中の微生物をブロックする機能は、エアフィルタによってではなく、ある特定の材料のガス拡散特性を用いることによって発揮される。したがって、フィルタ以外の種類の部材、すなわち非多孔質ポリマー材料で作製された部材が使用される。そのような部材は、定義上多孔質であるフィルタよりも信頼性の高い様式で非夾雑空気を通過させるという利点を提示する。他の技術は、米国特許出願公開第20150043958号、米国特許出願公開第8827124号、米国特許出願公開第8986266号、及び米国特許出願公開第20140231536(A1)号に開示されている。引用された全ての特許文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。更なる例として、Nemeraは、高度な保存料を有していない鼻ポンプ、第一級の技術プラットフォーム、並びにVP3技術、VP6技術、及びVP7技術などの様々な鼻投与技術を提供する。
【0269】
更なる例として、Aptarからの鼻腔スプレー技術は、優れたスプレー性能を提供し、溶液、懸濁液、及びゲルを含む粘性薬物製剤に好適であり、ガンマ線滅菌に好適であり、45μL~1,000μLの広範囲の用量体積を可能にし、広範囲のクロージャ、アクチュエータ、及び付属品を提供する。更なる例として、AptarからのCPS技術は、鼻腔経路用の保存された又は保存されていない薬物製剤の複数回投与送達用に設計された、非常に汎用性の高いスプレーポンプである。CPSは、鼻腔内ワクチン接種を含む広範囲の他の用途に使用され得る。様々な利点には、50μL~140μLの広範囲の用量体積が含まれ、定期的に使用しない場合であっても再プライミングを必要とせず、照射によって滅菌することができる。CPSシステムは、高粘度及び高揮発性製剤での結晶化を最小限に抑えるために目詰まり防止先端部シール技術を使用し、実証されたCPSフィルタ技術は、容器への夾雑した空気の進入を回避し、微生物学的完全性、並びに、ポンプ構成要素及び金属を有していない流体経路構成要素内に抗菌性添加剤を有していないこと、を、完全に検証及び試験されている。例えば、Aptarの米国特許第9095864号は、特に鼻型の流体ディスペンサーユニット及び噴霧デバイスを開示しており、好ましくは、ディスペンサーオリフィスを閉じるための閉鎖(クロージャ)部材を組み込んだスプレーに適用される。本明細書に開示されているデバイス機構は、ポンプが使用されていない場合にディスペンサーオリフィスを完全に閉鎖することに関し、閉鎖部材は、ポンプのリターンスプリングによって閉鎖位置に向かって弾性的に動かされることによってディスペンサーオリフィスと直接協働するようになることができ、それによって、2つの作動の間にデバイスの内部に浸透するいかなる病原菌又は細菌も予防し、それによって分注される組成物を夾雑するリスクを有意に最小限に抑える。別の例として、米国特許出願公開第20090294347号は、媒体を収容するための媒体リザーバを有し、媒体リザーバから媒体を分注するための分配開口部を有し、かつ媒体リザーバに開口し、微生物学的に活性なフィルタ配置がそこに挿入された圧力平衡チャネルを有する、液体媒体用の分注デバイスを開示している。引用された全ての特許文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0270】
本発明による組成物は、所望に応じて、活性成分を含有する投薬形態を収容し得る、FDA承認キットなどのパック又はディスペンサーデバイスに提示されてもよい。パック又はディスペンサーデバイスは、投与のための説明書を付随してもよい。パック又はディスペンサーはまた、医薬品の製造、使用、又は販売を規制する政府機関によって規定された形式で容器に関連付けられた通知書を付随してもよく、この通知書は、組成物の形態、又はヒト若しくは獣医学的投与の機関による承認を反映している。そのような通知書は、例えば、処方薬について米国食品医薬品局によって承認された標識、又は承認された製品添付文書のものであり得る。
【0271】
適合性医薬担体中に製剤化された本発明の化合物を含む組成物もまた、調製され、適切な容器に入れられ、指し示された状態の治療のために標識されてもよい。
【0272】
好適な状態は、神経学的障害及び/又は認知障害、好ましくは本明細書に開示されるもの、特にTBI又は他の脳外傷若しくは脳震盪に関連する、脳損傷である。
【0273】
図
本発明を、図によって更に説明する。これらは、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0274】
【
図1】ラットの脳に対する制御式皮質衝撃(controlled cortical impact:CCI)の位置及び効果である。
【0275】
【
図2】TBI後の感覚運動機能及び認知機能を評価するために、健康なビヒクル処置ラット及びALPHA-1062処置ラットに対して実行される機能試験である。
【0276】
【
図3】メッシュ上の歩行中のラットの右前肢の足の障害の事象を評価した、感覚運動機能試験の結果である。
【0277】
【
図4】メッシュ上の歩行中のラットの右後肢の足の障害の事象を評価した、感覚運動機能試験の結果である。
【0278】
【
図5】修正神経学的重症度スコア(modified neurological severity score:mNSS)の尺度付けの結果を描写する、感覚運動試験の結果である。
【0279】
【0280】
【0281】
【0282】
【0283】
【
図10】研究全体(0日目~35日目)にわたる試験動物の重量である。
【0284】
【
図11】ALPHA-1062は、TBIの35日後に病変体積を有意に減少させる。
【0285】
【
図12】ALPHA-1062は神経保護的であり、TBIの35日後に海馬構造を維持する。
【0286】
【
図13】ALPHA-1062は神経保護的であり、ニューロン細胞喪失(TBIの35日後に定量したNeuN陽性細胞)を有意に減少させる。
【0287】
【
図14】ALPHA-1062は、海馬の歯状回におけるdcx+神経芽細胞を有意に増強する(TBI事象の35日後)。
【0288】
【
図15】ALPHA-1062は、海馬の歯状回における神経発生を増強する-IHC(TBIの35日後)。
【0289】
【
図16】ALPHA-1062は海馬の歯状回における神経発生を増強する-細胞数(TBIの35日後)。
【0290】
【
図17】ALPHA-1062は、p-Tauタンパク質を有意に減少させる(TBIの35日後)。
【0291】
【
図18】ALPHA-1062は、総Tauタンパク質を変化させない(TBIの35日後)。
【0292】
図の詳細な説明:
図1:図面は、介入中に生存しているが麻酔されている、ラットの脳に対する制御式皮質衝撃(CCI)の位置及び効果を解説する。この実験は、TBI、及び脳に対するその効果のシミュレーションとして役立つ。(A)ラットにおける中度のTBIをシミュレートするために左頭頂葉皮質にて誘発されたラット頭蓋骨構造及び損傷を解説する、解剖学的スキーム(赤色円)。(B)ラット脳に対する物体の影響によって引き起こされる歪みの分布を、周辺部レベルで描写している。(C)ラット脳上のTBIによって引き起こされる傷害の病理学的概要。(D)上部の写真は、健常ラットの脳(シャム手術)を示す。底部の写真は、TBIをシミュレートするためにラットの脳の左頭頂葉皮質にて誘発された損傷のサイズ及び位置を解説しており、ラットは、TBIの7日後に屠殺した。(E)TBIシミュレート損傷(制御式皮質衝撃CCI)が誘発されてから7日後の健康なラット脳の切片(上部)及びラット脳の切片(底部)のヘマトキシリン及びエオシン染色。
【0293】
図2:図は、TBI後の感覚運動機能及び認知機能を評価するために、健康な(シャム手術)無処置ラット、ビヒクル処置ラット、及びALPHA-1062処置ラットに対して実行される機能試験を解説する。感覚運動機能試験。(a)図は、修正神経学的重症度スコア(mNSS)を評価するための試験を描写する。(B)この図は、動物の「足の障害(foot fault)」を評価するために使用される試験を示す。動物は、グリッドにわたってバランスをとる必要があり、グリッドを踏み外すステップの頻度がカウントされる。この試験は、ラットの脳の損傷した頭頂葉皮質の機能性を評価する。(c)粘着剤除去試験は、動物の各前肢に接着テープを貼ることと、それらの接触までの時間及び除去までの時間を測定することとからなる。この行動には、正しい足及び口の感度(接触までの時間)並びに正しい器用さ(除去までの時間)が必要である。認知機能試験:(a)この画像は、ラットが大きな円形のプール(左側の写真)に入れられ、様々な視空間手がかり(visuo-spatial cues)を用いることによって水から脱出することを可能にする不可視のプラットフォームを見つけるために必要とされることを含む、モリス水迷路を解説している。この試験は、空間学習及び記憶を研究し、海馬を評価し、皮質脳領域機能を選択するために使用される。通常、プールを通るラットの経路が追跡され(右側の画像)、プラットフォームの近くで費した時間、及びプラットフォームがラットによって見つけられるまでに必要とされる時間が測定される。(b)新しい/新規の物体認識(new/novel object recognition:NOR)試験のために、試験空間における馴化時間(一番左の画像)の後、ラットに、2つの同一の物体(A)を所定の期間にわたって探索する機会を与える(中央の画像)。遅延後、動物には次いで2つの探索すべき物体が提示され、そのうちの1つは最初の探索試行(A)と同じであり、もう1つは新しい物体(B)である(右側の画像)。2回の試行間の遅延の長さに応じて、又は皮質傷害の程度に応じて、ラットは、より長い期間にわたって新規の物体を探索し、よく知られた物体についての記憶を指し示すか、又は同じ時間にわたって新規のよく知られた物体を探索し、最初の試行中に提示されたよく知られた物体についての想起の欠如若しくは記憶の喪失を指し示すかのいずれかである。
【0294】
図3:グラフは、メッシュ上の歩行中のラットの右前肢の足の障害の踏み外し(misstep)事象を評価した、感覚運動機能試験の結果を示す。試験は実施例1に記載されているように実施し、ラットは、TBIなし、及びTBI事象後に、処置なし、ビヒクル処置、又はALPHA-1062処置のいずれかを受けた。グラフは、TBIを経た後にALPHA-1062で処置した動物が、TBI後にビヒクル処置を受けた動物よりも有意に少ない足の障害を示したことを示す。これは、TBI後にビヒクル処置のみを受けたラットと比較して、TBI事象後にALPHA-1062で処置されたラットにおける、自発運動能力の回復の有意な急性保存、並びに持続的に改善された速度及び程度を指し示す。左のバーは、TBIを経なかった健康なシャムラットを表す。中央のバーは、TBIを経て、その後ビヒクル対照処置で処置したラットを表す。右のバーは、TBIを経た後にALPHA-1062で処置したラットを表す。詳細な処置レジメン(処置計画)及び実験設定は、実施例1にもまた見出すことができる。シャム群は8匹のラットを含み、ビヒクル及びALPHA-1062処置群は各9匹のラットを含んだ。
【0295】
図4:グラフは、メッシュ上の歩行中のラットの右後肢の足の障害の踏み外し事象を評価した、感覚運動機能試験の結果を示す。試験は実施例1に記載されているように実施し、ラットは、TBI事象後に、シャム手術及び処置なし、ビヒクル処置、又はALPHA-1062処置のいずれかを受けた。グラフは、TBIを経た後にALPHA-1062で処置した動物が、TBI後にビヒクル処置を受けた動物よりも有意に少ない足の障害を示したことを示す。これは、ビヒクル処置のみを受けたラットと比較して、TBI事象後にALPHA-1062で処置されたラットにおける、自発運動能力の有意な急性保存、並びに自発運動能力の持続的に改善された速度及び程度を指し示す。左のバーは、TBIを経なかった健康なシャムラットを表す。中央のバーは、TBIを経て、その後ビヒクル対照処置で処置したラットを表す。右のバーは、TBIを経た後にALPHA-1062で処置したラットを表す。詳細な処置レジメン及び実験設定は、実施例1にもまた見出すことができる。シャム群は8匹のラットを含み、ビヒクル及びALPHA-1062処置群は各9匹のラットを含んだ。
【0296】
図5:グラフは、感覚運動試験の結果を示し、修正神経学的重症度スコア(mNSS)の尺度付けの結果を描写する。試験は実施例1に記載されているように実施し、ラットは、TBIなし、及びTBI事象後に、処置なし、ビヒクル処置、又はALPHA-1062処置のいずれかを受けた。14日目(D14)以降、ALPHA-1062処置動物は、ビヒクル処置動物よりも統計的に有意に良好にふるまった。左のバーは、TBIを経なかった健康なシャムラットを表す。中央のバーは、TBIを経て、その後ビヒクル対照処置で処置したラットを表す。右のバーは、TBIを経た後にALPHA-1062で処置したラットを表す。詳細な処置レジメン及び実験設定は、実施例1にもまた見出すことができる。シャム群は8匹のラットを含み、ビヒクル及びALPHA-1062処置群は各9匹のラットを含んだ。
【0297】
図6:グラフは、右前肢の接着剤除去試験の結果を示す。試験は実施例1に記載されているように実施し、ラットは、TBIなし、及びTBI事象後に、処置なし、ビヒクル処置、又はALPHA-1062処置のいずれかを受けた。グラフは、TBI事象後にALPHA-1062を受けた動物が、7日目(D7)からビヒクル処置動物よりも有意に良好にふるまったことを示す。左のバーは、TBIを経なかった健康なシャムラットを表す。中央のバーは、TBIを経て、その後ビヒクル対照処置で処置したラットを表す。右のバーは、TBIを経た後にALPHA-1062で処置したラットを表す。詳細な処置レジメン及び実験設定は、実施例1にもまた見出すことができる。シャム群は8匹のラットを含み、ビヒクル及びALPHA-1062処置群は各9匹のラットを含んだ。
【0298】
図7:グラフは、モリス水迷路試験の結果を示す。試験は実施例1に記載されているように実施し、ラットは、TBIなし、及びTBI事象後に、処置なし、ビヒクル処置、又はALPHA-1062処置のいずれかを受けた。グラフは、33日目(D33、評価の初日)からTBIを実施した後にALPHA-1062を受けた動物が、以降にビヒクル処置動物よりも有意に良好にふるまったことを示す。34日目から、ALPHA-1062処置ラットは、健康な(シャム手術)動物と同様に、水中プラットフォームを発見した。左のバーは、TBIを経なかった健康なシャムラットを表す。中央のバーは、TBIを経て、その後ビヒクル対照処置で処置したラットを表す。右のバーは、TBIを経た後にALPHA-1062で処置したラットを表す。詳細な処置レジメン及び実験設定は、実施例1にもまた見出すことができる。シャム群は8匹のラットを含み、ビヒクル及びALPHA-1062処置群は各9匹のラットを含んだ。
【0299】
図8:グラフは、モリス水迷路試験の結果を示し、プラットフォームを含むプールの正しい象限(緑色の線)で費やした時間が測定された。試験は実施例1に記載されているように実施し、ラットは、TBIなし、及びTBI事象後に、処置なし、ビヒクル処置、又はALPHA-1062処置のいずれかを受けた。グラフは、TBI後にALPHA-1062を受けた動物が、33日目(D33)以降にビヒクル処置動物よりも有意に良好にふるまったことを示す。33日目から、ALPHA-1062処置動物は、健常(シャム)動物と同様に時間を正しい象限内で費やした。両方の群は、正しい象限に対する選好性を一切示し得なかったビヒクル処置動物よりも統計的に有意に良好にふるまった。左のバーは、TBIを経なかった健康なシャムラットを表す。中央のバーは、TBIを経て、その後ビヒクル対照処置で処置したラットを表す。右のバーは、TBIを経た後にALPHA-1062で処置したラットを表す。詳細な処置レジメン及び実験設定は、実施例1にもまた見出すことができる。シャム群は8匹のラットを含み、ビヒクル及びALPHA-1062処置群は各9匹のラットを含んだ。
【0300】
図9:グラフ(上部パネル)は、新規物体認識試験の結果を示す。試験の概略が図の底部に描写されている。手短に言えば、試験室への馴化後、動物は2つの同一の物体(A;左のバー、及びA’;中央左のバー)に直面し、動物はこれらの物体を「よく知った(familiar)」。同じ動物を、後に2つの物体に曝露させた(A=前と同じ;右のバー、及びB
*=新規/異なる物体;黄色バー)。ラットは自然に探究的であり、健康な場合、新しい物体(B
*)を探索するのにより多くの時間を費やす。認知障害動物はこの選好性を実証できない。ALPHA-1062処置動物(グラフの右側のバー)と健常動物(シャム手術)との両方;グラフの左のバー)は、新規物体に対する統計的に有意な選好性を実証した。対照的に、ビヒクル処置のみを受けたTBI動物(グラフの中央のバー)は、新規な物体に対するいかなる選好性も実証することができなかった。詳細な処置レジメン及び実験設定は、実施例1にもまた見出すことができる。シャム群は8匹のラットを含み、ビヒクル及びALPHA-1062処置群は各9匹のラットを含んだ。
【0301】
図10:グラフは、研究全体(0日目~35日目)にわたる試験動物の重量を示す。研究中の各時点で、3つの処置群間で体重に有意差はなかった(p>0.05)。未処置動物(シャム手術)の群は、20日目~35日目から、0日目に対して有意な体重増加を示す(群内p<0.05)。TBIビヒクル処置動物の群は、0日目と比較して1日目~6日目から有意な体重減少を示し、0日目と比較して28日目~35日目から有意な体重増加を示す(群内p<0.05)。ALPHA-1062処置動物の群は、0日目と比較して1日目~7日目から有意な体重減少を示し、0日目と比較して29日目~35日目から有意な体重増加を示す(群内p<0.05)。詳細な処置レジメン及び実験設定は、実施例1にもまた見出すことができる。シャム群は8匹のラットを含み、ビヒクル及びALPHA-1062処置群は各9匹のラットを含んだ。
【0302】
図11:ALPHA-1062処置は、TBIの35日後に病変体積を有意に減少させる。パネルA:健康なシャム手術動物(左の画像)からの、又はTBI及びビヒクル処置(中央の画像)若しくはALPHA-1062処置(右の画像)に供した、ラット脳の冠状切片。TBI関連病変は円で指し示され、スケールバーは2mmの長さを表す。パネルB:グラフは、脳体積のパーセントで病変体積を描写する。ALPHA-1062処置動物(右のバー)は、TBI後35日目に、ビヒクル処置マウス(中央のバー)と比較して、病変体積の有意な(p<0.05)減少を示した。
【0303】
図12:ALPHA-1062は神経保護的であり、TBIの35日後に海馬構造を維持する。海馬領域は円で指し示されている。ALPHA-1062が脳の損傷側の海馬の保存を可能にしたことを実証するために、
図11Aに示す同じ冠状切片を、より高い倍率で描写する(円)。スケールバーは2mmの長さを表す。
【0304】
図13:ALPHA-1062は神経保護的であり、TBI後35日にニューロン細胞喪失を有意に減少させる。ニューロン細胞数を定量するために、抗NeuN免疫組織化学(IHC)で処置した組織について結果を示す。NeuNは、mRNAスプライシング制御因子Fox-3としてもまた知られており、主に成熟ニューロンの核に見られる。パネルA:TBIの35日後又は健康な動物(シャム手術)のNeuNタンパク質(Fox-3)についてのIHCによる脳領域の冠状画像。画像は、シャム動物(健常、未処置)か、又はTBIを有しビヒクル若しくはALPHA-1062のいずれかで処置されたラット(それぞれ、上部から底部の行)fか、のいずれかの海馬領域DG、海馬領域CA1、海馬領域CA3、及び皮質(それぞれ、左から右の列)を描写する。パネルB:当該脳領域の各々についてのNeuN陽性細胞/mm
2の定量化を描写する。TBI後にALPHA-1062で処置した動物(右のバー)は、健康なシャム手術動物(左のバー)に匹敵するニューロン細胞数を示したが、一方でビヒクル処置動物(中央のバー)は、シャム動物(#)又はALPHA-1062処置動物(
*)のいずれかと比較して、TBI後に有意な(p<0.05)ニューロン細胞の喪失を被った。
【0305】
図14:ALPHA 1062は、海馬の歯状回においてDCX+(ダブルコルチン陽性)神経芽細胞を有意に増強する(TBIの35日後)。ダブルコルチン(Doublecortin:DCX)は、成体神経発生の内因性マーカである。パネルA:図は、未処置のシャム手術動物(左の画像)、又はビヒクル(中央の画像)若しくはALPHA-1062(右の画像)のいずれかで処置したTBIの35日後の動物の、歯状回切片のiIHCを示す。ALPHA-1062処置動物は、ビヒクル処置動物と比較してより多数のDCX陽性染色細胞を示し、細胞発生の増加を指し示す。ALPHA-1062処置は、シャム手術動物で観察されたものに匹敵する数のDCX陽性細胞をもたらした。パネルB:シャム手術動物から、又はビヒクル(中央のバー)若しくはALPHA-1062(右のバー)のいずれかでt処置したTBIの35日後の動物からのいずれかの、DGの平方ミリメートル当たりのDCX陽性細胞の定量化。ビヒクル処置動物(
*)と比較して有意に多い数のDCX陽性細胞が、ALPHA-1062処置動物に存在し、また健康なシャム手術動物(#)と比較して有意に減少した数のDCX陽性細胞が、ビヒクル処置動物に存在した。
【0306】
図15:ALPHA-1062は、海馬の歯状回における神経発生を増強する(TBI後35日)。パネルA:未処置シャム手術動物、又はTBI後35日間ビヒクル若しくはALPHA-1062のいずれかで処置した動物の歯状回からの組織試料中における、有糸分裂細胞(濃い灰色の矢印)を検出するための、NeuN及びBrdUの二重標識IHC検出の代表的な画像を描写する(左から右に、上部パネル)。ALPHA-1062処置動物(右の画像)は、ビヒクル処置動物(中央の画像)と比較して、より多数のNeuN及びBrdU(二重)陽性ニューロン(薄い灰色の矢印、統合)を示す。パネルB:底部のパネルは、NeuNとBrdUとの両方について成熟顆粒細胞ニューロンの二重標識(統合;薄い灰色の矢印)で、TBI後35日のALPHA-1062処置動物からのDGを描写し、BrdU標識は、細胞がTBI後の数日間で循環幹細胞集団から産生されたことを指し示す。
【0307】
図16:TBI後のALPHA 1062処置は、NeuN及びBrdUについての二重陽性IHCの海馬の歯状回定量において神経発生を増強する:未処置シャム手術動物(左のバー)、又は(
図15に示す実験の)TBI後35日間のビヒクル(中央のバー)若しくはALPHA-1062(右のバー)のいずれかで処置された動物。新たな顆粒細胞ニューロンの数は、ビヒクル(
*)処置動物及び健康なシャム手術(#)動物の両方と比較して、ALPHA-1062で処置した動物において有意に増加した(p<0.05)。この観察結果は、ALPHA-1062処置が施された場合、TBI後の組織回復の改善をもたらす、神経発生の増加を指し示している。
【0308】
図17:ALPHA 1062処置は、病理学的p-Tau蓄積を有意に減少させる(TBIの35日後)。上のパネルは、シャム手術、ALPHA-1062、又はp-Tauに対する抗体で標識されたビヒクル処置動物の脳切片を示す。同側半球の海馬の皮質(cortex:CT)、歯状回(dentate gyrus:DG)、CA3領域、及びCA1領域を含む、p-Tau免疫反応性領域を、画像化し、Image Jソフトウェア(NIH)によって定量化した。下部パネルはIHC強度の定量化を示す。シャム手術動物(左のバー)は比較的低レベルのp-Tauを示すが、一方で、ビヒクル(対照)で処置したTBI動物(中央のバー)は高レベルのp-Tauを示す。ALPHA-1062(右のバー)で処置したTBI動物は、ビヒクル対照と比較してp-Tauレベルの有意な減少を示す。各群の動物の数を示す。
【0309】
図18:ALPHA 1062処置は、総Tauタンパク質を変化させない(TBIの35日後)。上部パネルは、未処置のシャム手術、ALPHA-1062処置動物、又は総Tauに対する抗体で標識したビヒクル処置動物の脳切片を示す。同側半球の海馬の皮質(CT)、歯状回(DG)、CA3領域、及びCA1領域におけるTau免疫反応性を、Image Jソフトウェア(NIH)によって画像化し、定量化した。下のパネルは得られたシグナルの定量化を示す。総Tauのレベルの有意差は、いずれの動物群間でも観察されなかった。各群の動物の数を示す。
【実施例】
【0310】
本発明は、以下の実施例によって更に説明される。実施例は、実践実施例として本発明を更に説明することを意図しており、本発明の限定的な説明を表すものではない。
【0311】
実施例1:外傷性脳損傷後のラットにおけるALPHA-1062の有効性の評価
本実施例では、本発明の一実施形態による物質及び医薬組成物の有効性及び使用を、制御式皮質衝撃損傷モデルにおける例示的な35日間の研究で実施した。この研究の目的は、制御式皮質衝撃(CCI)によって誘発された中度の外傷性脳損傷(TBI)後の若齢成体雄ラットにおける機能的及び組織学的転帰に対する、ALPHA-1062(ガランタミン安息香酸グルコネート塩)の有効性を決定することであった。
【0312】
要約:
ビヒクル(精製水)処置対照と比較して、ALPHA-1062処置は、損傷の2時間後(4.5mg/kgIN)に、35日間にわたり1日2回(6時間間隔)で開始した:
(1)足の障害、接着剤除去、及びmNSS試験によって測定された、運動感覚機能回復の有意な改善。
【0313】
(2)損傷後5週間で、NOR試験及びMWM試験によって測定された認知機能回復の有意な改善。
【0314】
(3)35日間の研究にわたって体重を有意に変化させなかった(明白な毒性の証拠なし)。
【0315】
(4)損傷の35日後に測定された、病変サイズの有意な減少。
【0316】
(5)同側の皮質及び海馬におけるニューロン細胞の喪失の有意な減少。
【0317】
(6)DGにおけるDCX+神経芽細胞及びBrdU/NeuN+新規ニューロンの増大を含む、神経発生の有意な増強。
【0318】
(7)損傷後35日での損傷した皮質及び海馬における病理学的p-Tau蓄積の有意な減少は、ALPHA-1062がCCIによって誘発された中度のTBI後のラットにおける神経変性を減少させることを示唆している。
【0319】
ALPHA 1062の1日2回の処置による急性IN投与(損傷後2時間)は、ビヒクル処置と比較して、TBIのラット挫傷モデルにおいて、神経保護を提供し、病理学的p-Tau蓄積を減少させ、神経発生を刺激し、並びに感覚運動及び認知機能回復を有意に改善する。これらのデータは、ALPHA 1062がTBIの治療としての可能性を有することを示唆している。
【0320】
方法:
若齢成体(2~3ヶ月)雄ウィスターラットを、制御式皮質衝撃(CCI)によって誘発される中度の外傷性脳損傷(TBI)に供した。CCIモデルを含むTBIの動物モデル及び機能試験は、査読済み出版物で詳細に記載されている(Xiong et al.,2013,Nat Rev Neurosci.;Zhang et al.,2016,J Neurosurg.;Zhang et al.,2016,Neurochem Int.;Zhang et al.,2021,J Neurotrauma)。損傷は、4.0m/秒の単一の衝撃、左頭頂葉皮質への2.5mmの変形からなった。加えて、動物の群を、健康なままにした/健康な対照として機能させるために損傷しなかった。
【0321】
動物を3つの群に分けた:
(1)TBI+ビヒクル(精製水、n=10)
(2)TBI+ALPHA-1062(4.5mg/kg)(n=10)
(3)健康/損傷なしかつ治療なし(シャム手術)(n=10)
【0322】
研究群当り8匹のラットを得るために、20%の死亡率を考慮し、10匹のラット(8/0.8=10)を含めた。計画通りに使用した雄ラットの総数は30匹であった。
【0323】
この研究で使用した物質は4.5mg/kgのALPHA-1062であった。対照処置(ビヒクル)として、精製水を鼻腔内(IN)投与した。ALPHA-1062及び対照処置を、損傷の2時間後に開始し、連続35日間連続で、1日2回(6時間の間隔で)継続した。
【0324】
ALPHA-1062又はビヒクル対照処置に加えて、損傷1日後に、ブロモデオキシウリジン(Bromodeoxyuridine:BrdU)を、100mg/kgで腹腔内注射によって7日間連続で投与して、細胞増殖の監視を可能にした。ブロモデオキシウリジン(BrdU)は、細胞周期のS期中に分裂細胞のDNAに組み込まれるチミジン類似体である。
【0325】
以下の統計分析を適用して正規性についてデータを評価した:データが異常である場合、データ変換を検討した。GraphPad Prism Software 9.0を用いてデータを分析した。本明細書のデータは全て、平均±標準偏差(standard deviation:SD)として提示されており、一元配置分散分析(ANOVA)又は二元配置分散分析(処置×時間)、引き続いて事後テューキー多重比較検定(3つ以上の群)で分析した。pが<0.05である場合、平均間の差を統計的に有意であると見なす。
【0326】
インビボ部分の研究中、認知機能試験を、TBI後5週間で全ての動物に対してモリス水迷路(Morris water maze:MWM)試験及び新規物体認識試験を実施することによって行い、MWM試験は、TBI後31~35日目に実施した(表1を参照のこと)。
【0327】
加えて、神経学的機能試験を、足障害試験及び観察を行うことによって実施し、TBI後1日目、7日目、14日目、21日目、28日目、35日目に修正神経学的重症度スコア(mNSS)を決定した(表1を参照のこと)。mNSSは、運動機能、感覚機能、バランス機能、及び反射機能を評価する複合スコアである。試験及びスコアリングシステムの詳細は表2に見出すことができる。
【0328】
【0329】
モリス水迷路(MWM)は、例えばラットにおいて、空間学習及び記憶を研究するために行動神経科学において使用される試験である。これは、空間学習及び記憶を研究することを可能にし、また、海馬への傷害を評価し、脳の皮質領域を選択するためにも使用することができる。MWMは、記憶、認知機能、及び空間学習に関係する領域における脳に対する病変の影響を評価するために使用することができる。モリス水迷路試験では、例えば、ラットを円形のプールに入れ、休息することと水から出ることとを可能にする目に見えない水中プラットフォームを見つけることが要求される。通常、ラットは、プール内で遊泳している間に追跡され、プラットフォームを含むプールの象限内で遊泳に費やす時間又はプラットフォームに近接して遊泳に費やす時間、及びプラットフォームを見つけるまでに費やされる総時間(脱出潜時)などのパラメータが測定される。
【0330】
接着剤除去試験では、動物の右前肢に接着テープを適用する。接着剤との接触までの時間(感覚認知)、及び接着剤の除去までの時間(自発運動能力)の両方が、この試験によって評価される。
【0331】
ラットの新規/新しい物体認識(NOR)アッセイは、認知増強活性について化合物を評価するための、比較的ハイスループットで堅牢かつ高感度の措置である。試験のために、ラットに、所定の期間にわたって2つの同一の物体を探索する機会を与える。遅延後、動物には次いで2つの探索すべき物体が提示され、そのうちの1つは最初の探索試行と同じであり、もう1つは新しい物体である。脳の機能性に応じて、ラットは、より長い期間にわたって新規の物体を探索し、よく知られた物体についての記憶を指し示すか、又は同じ時間にわたって新規のよく知られた物体を探索し、最初の試行中に提示されたよく知られた物体についての想起の欠如若しくは記憶の喪失を指し示すかのいずれかである。
【0332】
修正神経学的重症度スコア(mNSS)は、神経学的機能性の評価尺度であり、運動(筋肉状態及び異常運動)、感覚(視覚、触覚、及び固有受容)、反射、及びバランス試験の複合を含む。この試験は、運動、地面歩行、感覚、運動の協調、反射、及び異常な運動の態様に関する神経障害及び神経傷害のグレードを評価するために使用される。これは通常、げっ歯類、例えばラットを用いて実施され、試験者は、処置群に対して盲検である。異常運動又は反射の欠如、ビームバランス試験、感覚機能、及び自発運動機能を含む、4つの態様が観察される。正常動物のベースラインは0点である。
【0333】
*試験を実施することができないこと、試験された反射がないこと、又は異常な運動については、1のスコア値が与えられた。
【0334】
【0335】
定量的画像分析プロトコルを含む組織学的評価を実施し;続いて、データの統計的分析を実施した。組織学:以下の組織学的分析のために、TBIの35日後の最後のモリス水迷路(MWM)試験後に全てのラットを屠殺した:病変体積(H&E)、損傷した皮質及び海馬におけるニューロン細胞の喪失(NeuN)、ダブルコルチン(DCX、神経芽細胞)、NeuN/BrdU(新生ニューロン)、病理学的p-Tau(AT8)、及び総Tau IHC。
【0336】
組織調製のために、ラットを麻酔し、生理食塩水、続いて0.1M PBS中の4%パラホルムアルデヒドで、pH7.4で経心的に灌流した。ラットの脳を取り出し、4%パラホルムアルデヒドに2~4日間浸漬した。ラット脳マトリックス(Activational Systems Inc.)を用いて、各前脳を、動物当たりブレグマ5.2mmからブレグマ-8.8mmまでの合計7ブロックについて、厚さ2mmの冠状ブロックに切断した。組織をパラフィンに埋め込み、一連の厚さ6μmのスライドを切断した。
【0337】
免疫組織化学(IHC)のために、抗原回復措置を、切片を10mMシトレート緩衝液(pH6.0)中で10分間にわたり煮沸することによって実施した。PBSで洗浄した後、切片を、PBS中の0.3%H2O2と10分間にわたりインキュベートし、0.3%Triton(登録商標)-X100を含有する1%BSAと室温で1時間にわたりブロッキングし、マウス抗ダブルコルチン抗体(1:200;DCX、Santa Cruz Biotechnology、Santa Cruz、CA)、及びモノクローナルマウス抗NeuN抗体 (1:400;Chemicon、Millipore)を4℃で一晩インキュベートした。陰性対照については、一次抗体を省略した。洗浄後、切片を、ビオチン化抗マウス抗体(1:200;Vector Laboratories,Inc.)と室温で30分間インキュベートした。追加的に洗浄した後、切片を、アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ系(ABC kit、Vector Laboratories,Inc.)とインキュベートし、ジアミノベンジジン(Sigma)で可視化し、ヘマトキシリンで対比染色した(結果を、例えば
図13及び
図14に示す)。
【0338】
免疫蛍光染色(例えば、結果を
図15及び
図16に示す)のために、脳切片を、脱パラフィン化及び再水和後、10mMクエン酸緩衝液(pH6)中で10分間にわたり煮沸した。PBSで洗浄した後、切片を、2.4N HCl中、37℃で20分間にわたりインキュベートした。切片を、PBS中0.3%Triton(登録商標)-X-100を含有する1%BSAとインキュベートした。次いで、切片を、BrdUに対するマウス抗体(1:200)と4℃で一晩インキュベートした。陰性対照については、一次抗体を省略した。Cy3コンジュゲート抗マウス抗体(1:400;Jackson ImmunoResearch、West Grove、PA)を、室温で2時間にわたり切片に加えた。各ステップの後、PBS中で5分間3回すすいだ。次いで、切片を、NeuNに対する異なるウサギ抗体とインキュベートし(1:200)、洗浄後、FITCコンジュゲートヤギ抗ウサギ抗体と室温で2時間インキュベートした。組織切片に、Vectashield mounting medium(Vector laboratories、Burlingame、CA)を実装した。
【0339】
Tau及びp-Tauの免疫蛍光染色(
図17及び
図18に示す結果)を、以下のように実行した:脱パラフィン化及び再水和された後、脳切片を、10mMクエン酸緩衝液(pH6)中で10分間にわたり煮沸した。PBSで洗浄した後、切片を、PBS中の1%BSAとインキュベートした。次いで、切片を、総TAUに対するニワトリ抗体(1:100、平均)又はマウス抗p-Tau(1:500、Ser202/Thr205 Fisher、MN1020、AT8)と、4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、切片を、FITCコンジュゲートヤギ抗ニワトリ又はマウス二次抗体(1:400、Jackson ImmunoResearch Inc)と室温で2時間にわたりインキュベートした。洗浄後、切片を、DAPIで2分間染色し(1:10,000)、水で5分間すすいだ。組織切片に、Vectashield mounting medium(Vector laboratories、Burlingame、CA)を実装した。
【0340】
細胞計数及び定量化のために、NeuN+細胞を、同側海馬の同側皮質、DG領域、CA1領域、及びCA3領域で調査した。神経発生の分析のために、神経芽細胞をDCX+細胞によって定義した。DCX+細胞の数を、同側海馬のDGの顆粒細胞層内で調査した。新たに産生されたニューロンは、NeuN及びBrdU免疫反応性の共局在を有する細胞によって同定された。本発明者らは、顆粒下ゾーン、顆粒細胞層、及び分子層を含む、DG及びその小領域に注目した。BrdU+細胞(赤色蛍光体)及びNeuN(緑色蛍光体)/BrdU共標識細胞(統合後は黄色)の数を計数した。対象となる視野を、光学顕微鏡(Nikon、Eclipse 80i)下において、200又は400のいずれかの倍率で、MetaMorph画像分析システム(Molecular Devices)とインターフェースされたCoolSNAP color camera(Photometrics)を用いてデジタル化した。免疫陽性細胞を、決定し、測定した面積で割り算し、1平方mm当たりの数として提示した。細胞計数を、動物の個々の処置状態に対し盲検化した観察者によって実施した。同側半球の皮質、歯状回、CA3領域、及びCA1領域を含む、Tau又はp-Tau免疫反応性領域を、画像化し、Image Jソフトウェア(NIH)によって定量化した。
【0341】
統計的分析を考慮して、全てのデータを、平均±標準偏差(SD)として提示し、正規性について評価した。データが異常である場合、データ変換が考慮される。データは、GraphPad Prism Software 9.0を用いて、一元配置分散分析(ANOVA)又は二元配置分散分析(処置×時間)、引き続いて事後テューキー多重比較検定(3つ以上の群)で分析した。pが<0.05である場合、平均間の差を統計的に有意であると見なした。
【0342】
結果
ALPHA-1062投与は、前肢及び後肢の足障害試験における自発運動能力の回復を急性保存し、また持続的に改善する
動物を、右前肢が適切な位置を「踏み外した」回数について、メッシュを横切って歩行する際に監視したところ、自発運動能力の減少が指し示された。これは、脳の左側の外傷を指し示す。結果を
図3に描写する。右後肢についてもまた試験を実行した(
図4)。
【0343】
ALPHA-1062処置(
図3及び
図4、灰色のバー)は、ビヒクル処置動物と比較して、処置の1日目からの自発運動能力の統計的に有意な保存、及び研究全体を通しての持続的で統計的に有意に改善された回復をもたらした(
図3及び
図4、中央のバー)。28日目(D28)までに、ALPHA-1062処置動物の成績は、非損傷(シャム)動物の成績と統計的に区別できなかった(
図3及び
図4、右のバー対左のバー)。自発運動能力の急性保存は、TBI後のALPHA-1062の早期投与が、脳損傷の程度を減少させた可能性が高いことを示唆する。ビヒクル処置動物(
図3及び
図4、中央のバー)は、TBI後の固有の機能回復レベルを示す。
【0344】
ALPHA-1062投与は修正神経学的重症度スコア(mNSS)での転帰を改善する
mNSSは、運動機能、感覚機能、バランス機能、及び反射機能を評価する複合スコアである(試験及びスコアリングシステムの詳細は表2に見られる)。回復の14日目(D14)以降、ALPHA-1062処置動物は、ビヒクル処置動物(
図5、中央のバー)よりも統計的に有意に良好に(
図5、右のバー)ふるまい、この効果は、ビヒクル処置動物と比較して、研究期間全体を通して持続した。
【0345】
ALPHA-1062投与は右前肢接着剤除去試験における運動能力を改善する
接着剤除去試験の結果を
図6に示す。回復の7日目(D7)から開始して、研究の残りの期間全体を通して、ALPHA-1062処置動物(
図6、右のバー)は、非損傷(シャム)動物(
図6、左のバー)と同様にこの運動能力を発揮した。
【0346】
ALPHA-1062投与はMWM試験における空間学習及び記憶を改善する
TBI後のALPHA-1062処置の影響を、モリス水迷路(MWM)を用いて評価した。モリス水迷路は、開放型遊泳場の周囲のスタート地点から水中脱出プラットフォームの位置を突き止めるための、遠位の手がかり(distal cues)に依存する、げっ歯類の空間学習の試験である。空間学習は反復試行にわたって評価され、参照記憶は、プラットフォームが存在しない場合には、プラットフォーム領域(「正しい象限」(correct quadrant))について優先的に決定される。
図7は、ラットが水のプールで遊泳し、プラットフォームを見つけるための潜時(開始から目標=プラットフォームまでの時間)を評価した、MWM試験の最終試験日の結果を描写する。試験の33~35日目(D33~D35)に、ALPHA-1062処置動物(
図7、右のバー)は、非損傷(シャム)動物(
図7、左のバー)と同様に、隠された脱出プラットフォームを見出すことができた。両方の群は、ビヒクル処置動物よりも統計的に有意に良好にふるまった(中央のバー)。
【0347】
加えて、ラットがプールの「正しい」象限、すなわちプラットフォームが以前のセッションで水没した象限にて費した時間のパーセンテージ(時間%)もまた、評価された。結果は
図8に見ることができる。試験の33~35日目に、ALPHA-1062処置動物(
図8、右のバー)は、非損傷(シャム手術)動物(
図8、左のバー)と同等の時間を正しい象限(緑色の線で囲まれている)で費やした。両方の群は、試験全体を通して正しい象限に対する選好性を一切示し得なかったビヒクル処置動物(
図8、中央のバー)よりも、統計的に有意に良好にふるまった。
【0348】
ALPHA-1062投与はTBI後の認知機能回復を可能にする
TBI後の認知機能の回復を評価するために、物体認識試験を実施した。試験ワークフローは
図9の底部に描写されており、結果、すなわち、各物体の探索に費やされる時間のパーセンテージは
図9の上部に描写されている。動物を、2つの同一の物体(A(
図9の上部グラフの左のバー)及びA’(中央のバー)を有する部屋に入れ、その部屋で、動物はこれらの物体を「よく知った」(familiar)。同じ動物を後で2つの物体に曝露させた(A=前と同じ(右のバー)及びB=新規/異なる物体(黄色のバー))。ラットは自然に探究的であり、健康な場合、新しい物体(B)を探索するのにより多くの時間を費やし、これは、
図9のグラフにおいてBの高い値によって表される(
図9の上部グラフに示されている右のバー)。認知障害の動物は、既知の物体を記憶していないので、この選好性を示すことができない。よって、認知障害は、ラットが既知の物体及び新しい物体の探索に同じ時間を費やす場合に想定され得る。ALPHA-1062処置動物(
図9、上部グラフの右側のバー)及び非損傷動物(
図9、左側のバー)の両方が、新規物体(B)に対する統計的に有意な選好性を示した。対照的に、ビヒクル処置のみを受けた損傷動物(
図9、中央のバー)は、新規物体に対する選好性を一切示すことができなかった。
【0349】
【0350】
ALPHA-1062投与は体重を変化させない、明白な毒性なし
図10から導き出すことができるように、ALPHA-1062で処置したラット(
図10、右のバー)は、ビヒクル処置動物又は未処置動物と比較して、体重の有意な変化を経なかった(
図10、中央のバー及び左のバー;3群間での体重の有意差(P>0.05)は各時点で検出されなかった)。それら自体の処置群の0日目と比較した場合にのみ、ビヒクル処置動物及びALPHA-1062処置動物は、処置の第1週目に有意な体重減少を示した。ビヒクル処置動物は、1~6日目(D1~6)に0日目(D0)と比較して有意な体重減少(p<0.05)を示したが、28~35日目(D28~35)には0日目と比較して有意な体重増加(p<0.05)を示した。ALPHA-1062処置動物は、1~7日目(D1~7)に0日目(D0)と比較して有意な体重減少(p<0.05)を示したが、29~35日目(D29~35)からは0日目と比較して有意な体重増加を示した。未処置(シャム)動物は、0日目(D0)のそれらの体重と比較して、0日目(D0)と比較して20~35日目(D20~35)で有意な(P<0.05)体重増加を示した。
【0351】
したがって、ALPHA-1062投与は、ビヒクル動物と比較して、処置動物において明白な毒性を示さなかった。
【0352】
ALPHA-1062は、TBIの35日後に病変体積を有意に減少させる。
【0353】
TBIの35日後の屠殺及び組織喪失の定量化の後、ALPHA-1062処置動物は、ビヒクル処置マウスと比較して、病変体積の有意な(p<0.05)減少を示した(
図11もまた参照のこと)。
図12に詳細に示すように、ALPHA-1062処置は、脳の損傷側の海馬構造の保存を可能にした。よって、ALPHA-1062処置は神経保護効果を示し、TBIの35日後に脳構造の維持をもたらすものと結論付けることができる。
【0354】
ALPHA 1062は神経保護的であり、ニューロン細胞喪失を有意に減少させる。
【0355】
ニューロンの数を定量化するための抗NeuN抗体を用いたIHCにより、ALPHA-1062処置が、ビヒクルで処置した動物と比較して、TBIの35日後に分析した脳領域DG、CA1、CA3、及び皮質におけるニューロンの喪失を減少させたことが明らかになった。重要なことに、ALPHA-1062処置は、シャム手術動物と有意に異ならないニューロン細胞数をもたらした。しかしながら、ビヒクル処置動物は、シャム動物又はALPHA-1062処置動物のいずれかと比較して、TBI後に有意な(p<0.05)ニューロン細胞喪失を被った(
図13もまた参照のこと)。
【0356】
ALPHA 1062は、海馬の歯状回においてダブルコルチン陽性神経芽細胞を有意に増強する。
【0357】
成体神経発生の内因性マーカであるダブルコルチン(DCX)についてのIHCは、ALPHA-1062処置動物が、ビヒクル処置動物からの試料と比較して、より多数のDCX陽性細胞、及びシャム手術コホートの動物に匹敵する数を示したことを実証した。TBIに供されたビヒクル処置動物は、シャム手術動物と比較して、有意に減少したDCX陽性細胞数を示した(
図14もまた参照のこと)。よって、ALPHA-1062処置動物は、TBIの35日後に評価した場合、細胞再生の増加を示したと結論付けることができる。
【0358】
ALPHA-1062は、海馬の歯状回における神経発生を増強する。
【0359】
加えて、NeuN及びBrdUの二重標識IHCを実施して、成熟した、新しく生まれた顆粒ニューロンを検出した。ALPHA-1062処置動物は、ビヒクル処置動物及びシャム手術動物の両方と比較して、有意に多い(p<0.05)数のNeuN及びBrdU二重陽性顆粒ニューロンを示した。ALPHA-1062処置動物において観察されたより多い数のIHC二重陽性細胞は、ビヒクル処置動物と比較して、歯状回における神経発生の増加を指し示しており(
図15もまた参照のこと)、これは、ALPHA-1062処置が脳組織におけるニューロン回復及び神経発生を増加させたことを示唆している。
【0360】
ALPHA 1062は、損傷した皮質及び海馬における病理学的p-Tau蓄積を有意に減少させる。
【0361】
総Tau及びp-Tauに対するIHC(結果を
図17及び
図18に示す)を実行した。シャム手術、ALPHA-1062処置、又はビヒクル処置動物からの組織を、p-Tau又はTauに対する抗体で標識した。同側半球の皮質(CT)、歯状回(DG)、CA3領域、及びCA1領域を含む、免疫反応性領域を、画像化し、Image Jソフトウェア(NIH)によって定量化した。
図17に示すように、シャム処置(左のバー)は比較的低レベルのp-Tauを示すが、一方で、ビヒクル(対照)で処置したTBI動物(中央のバー)は高レベルのp-Tauを示す。ALPHA-1062(右のバー)で処置したTBI動物は、ビヒクル対照と比較してp-Tauレベルの有意な減少を示す。更に、
図18に示すように、ALPHA 1062処置は、総Tauタンパク質を変化させない。このデータは、ALPHA-1062処置が、CCIによって誘発された中度TBI後の病理学的p-TAUの蓄積を減少させることを指し示している。
【0362】
結論
ビヒクル対照と比較して、ALPHA-1062処置は、足障害、接着剤除去、及びmNSS試験によって測定した、TBI後の処置ラットの運動機能及び感覚機能回復を有意に改善した。
【0363】
また、TBIの5週間後のNOR及びMWM試験は、ALPHA-1062処置を投与した場合、ラットにおいて有意に改善された認知機能回復を示した。ALPHA-1062処置は、未処置動物又はビヒクル処置動物と比較して、35日間の研究にわたって体重を有意に変化させなかった。したがって、ALPHA-1062処置ラットにおける明白な毒性の証拠を観察することはできなかった。
【0364】
更なるALPHA-1062処置は、損傷の35日後に測定された病変サイズを有意に減少させ、また同側の皮質及び海馬におけるニューロン細胞喪失を有意に減少させた。驚くべきことに、ALPHA-1062処置によって与えられる神経保護の程度は、TBIによって影響を受けた領域のニューロンを、その数がシャム(非TBI)対照動物について決定された数と区別できない程度に、保存した。
【0365】
ALPHA-1062処置はまた、DGにおけるDCX+神経芽細胞及びBrdU/NeuN+新規ニューロンの増大を含む、神経発生を有意に増強させる。
【0366】
結論として、TBI後の急性鼻腔内(IN)投与(例えば、損傷後2時間)と、それに続くALPHA-1062の定期投与(例えば、毎日)は、ビヒクル処置と比較して、TBIのラット挫傷モデルにおいて、神経保護を提供し、神経発生を刺激し、並びに感覚運動及び認知機能回復を有意に改善する。
【0367】
ALPHA-1062はまた、病理学的p-Tau蓄積を有意に減少させ、p-Tauによって推進される更なる組織傷害の可能性を減少させる。
【0368】
これらのデータは、ALPHA-1062が、例えば鼻腔内投与による、急性TBIの処置としての可能性を有することを示唆している。
【0369】
実施例2:ALPHA-1062の抗菌特性
ALPHA-1062の抗菌特性を評価するために、USP(米国薬局方)第51章の保存効力試験(保存チャレンジ試験)(USP 51)を採用した。USP 51は、保存料の有効性を測定するために使用される一般的な方法である。保存効力スクリーニングと同様に、これは、化粧品、パーソナルケア製品、及び薬物製品における保存料の効果を評価するために使用される。保存料は、典型的には、増殖を阻害し、微生物夾雑物質の数を減少させることによって、製品の安全性を維持するのを助けるために水性製品製剤に添加される、抗菌成分である。
【0370】
本発明の文脈において、保存料の代わりに(それと同様に)、(グルコネート塩の形態の)ALPHA-1062を評価した。追加の保存料はALPHA-1062グルコネート調製物に添加されず、むしろ薬剤それ自体(ALPHA-1062)の抗菌効果が評価された。したがって、ALPHA-1062は、以下に記載されるアッセイ及び実験における抗菌性薬剤である。
【0371】
USP 51効力試験は、効力試験のために5つの微生物(3つの細菌及び2つの真菌)を利用する。各微生物は、病原性微生物の既知の株であり、広範囲の微生物生理学を代表する。
【0372】
USP 51の標準ガイドラインに従って、以下の微生物の培養物を適用した:カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(ATCC第10231号)、アスペルギルス・ブラシリエンシス(Aspergillus brasiliensis)(ATCC第16404号)、大腸菌(Escherichia coli)(ATCC第8739号)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(ATCC第9027号)、及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(ATCC第6538号)。
【0373】
試験は、充分な量の製品が移送された好適なサイズの5つの滅菌キャップ付き細菌学的容器で実施した。各容器に、調製及び標準化された接種材料のうち1つを接種し、それに応じて混合した。使用した懸濁接種材料の体積は、製品の体積の0.5%~1.0%であった。製品に添加された試験微生物の濃度は、カテゴリー2製品の標準ガイドラインに従って、接種後の試験調製物の最終濃度が製品1mL当たり1×105~1×106CFUとなるような濃度であった。
【0374】
各試験調製物中の生存可能微生物の初期濃度は、プレート計数法によって決定された標準化接種材料の各々における微生物の濃度に基づいて推定した。
【0375】
接種した容器を22.5±2.5℃でインキュベートし、各容器を、表3に示すように適切な間隔でサンプリングした。培養物の外観で観察された任意の変化をこれらの間隔で記録した。プレート計数措置を用いることにより、各試験調製物に存在するCFUの数を、適用可能な間隔について決定した。
【0376】
特定の抗菌剤の不活性化剤(中和剤)を、プレート計数中、又はプレーティング用に調製した適切な希釈液中に組み込んだ。これらの条件は、表2に列挙した培地及び微生物回収インキュベーション時間の条件に基づいて、その試料の検証研究で決定した。試験開始時に存在するCFU/mLの計算濃度を用いて、各微生物についてのCFU/mLの濃度のlog10値の変化を適用可能な試験間隔で計算し、変化を対数減少で表した。
【0377】
【0378】
提供されたデータから分かるように、ALPHA-1062のグルコネート塩は、USP 51で試験された5つ全ての生物に対して強力な抗菌効果を示す。抗菌効果の存在を判定するために、カテゴリー2のUSP基準を採用した。細菌については、初期数から少なくとも2.0logの減少が14日目に明らかであり、28日目に14日目の数からの増加が明らかでない場合、抗菌効果が明らかである。酵母及びカビについては、14日目及び28日目に最初の計算された数からの増加が決定されない場合、抗菌効果が明らかである。したがって、上記のデータに関して、細菌及び真菌に対する効果は、カテゴリー2製品の抗菌効果を実証するための要件を超えた。
【国際調査報告】