(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】MWCNT製造のための改善された触媒
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20241031BHJP
【FI】
C01B32/174
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531356
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(85)【翻訳文提出日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2022083188
(87)【国際公開番号】W WO2023094550
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522464492
【氏名又は名称】ナノシル・エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファン-ユエ・チャン
(72)【発明者】
【氏名】フアン・エルモーソ・リモン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フィリップ・ジョリス
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AB06
4G146AC03B
4G146AC27A
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA04
4G146CB10
(57)【要約】
本発明は、カーボンナノチューブ分散体であって、0.1~13質量%の鉄非含有触媒残余物を含む多層カーボンナノチューブであり、前記残余物が、アルミニウム、バナジウム、コバルト及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも3つの金属の1種又は複数の鉄非含有金属酸化物化合物を含む、多層カーボンナノチューブと、アミド系溶媒と、ポリビニルピロリドンと、アミン系化合物とを含む、カーボンナノチューブ分散体に関する。本発明は更に、MWCNT分散体の製造方法及びバッテリー中のその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ分散体であって、
- 0.1~13質量%の鉄非含有触媒残余物を含む多層カーボンナノチューブであり、前記残余物が、アルミニウム、バナジウム、コバルト及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも3つの金属の1種又は複数の鉄非含有金属酸化物化合物を含む、多層カーボンナノチューブと、
- ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びこれらの混合物からなる群から選択されるアミド系溶媒と、
- ポリビニルピロリドンと、
- 脂肪族アミン、アミノ酸、アルカノールアミン、及びこれらの混合物からなる群から選択されるアミン系化合物と
を含む、カーボンナノチューブ分散体。
【請求項2】
アミン系化合物が、次式:
NH
2-CR1,R2-CH,R2-(CH
2)
n-OH
(式中、
- R1は、メチル、エチル、プロピル又はブチル基であり、
- R2は、水素、メチル、エチル、プロピル又はブチル基であり、
- nは、0~3の整数である)
の少なくとも1種のアルカノールアミンである、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項3】
アルカノールアミンが、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-ブタノール、3-アミノ-3-メチル-1-ブタノール、3-アミノ-2-メチル-1-ブタノール、4-アミノ-4-メチル-1-ペンタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項4】
アルカノールアミンが、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールである、請求項1から3のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項5】
アミド系溶媒が、N-メチル-2-ピロリドンである、請求項1から4のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項6】
アミド系溶媒、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブ、アミン系化合物及びポリビニルピロリドンの総質量に対して、
- 2~6質量%の鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブ、
- 0.01~2質量%のポリビニルピロリドン、
- 0.1~2質量%のアミン系化合物
を含み、ここで、アミド系溶媒、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブ、アミン系化合物及びポリビニルピロリドンの質量百分率の合計が100質量%に等しい、請求項1から5のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項7】
- ポリビニルピロリドンの、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブに対する質量比が、2.5×10
-4~4×10
-1に含まれ、
- アミン系化合物の、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブに対する質量比が、2.5×10
-4~4×10
-1に含まれ、
- アミン系化合物の、ポリビニルピロリドンに対する質量比が、1×10
-3~1,320に含まれる、
請求項1から6のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項8】
25℃、1Hzの固定周波数での0.1~100%の変形による振幅振動掃引試験から得た場合に、0.2%の変形で10~1500Pa.sに含まれる複素粘度によって特徴付けられる、請求項1から7のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項9】
分散された鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブ凝集体が、Malvern Mastersizer M3000によって測定した場合、15μm以下のD90によって特徴付けられ、D90は、90体積%の凝集体がそれ未満にある当量球径を表す、請求項1から8のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ分散体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ分散体を製造するための方法であって、
a. 分散装置中で少なくとも10分間混合することによって、アミド系溶媒、アミン系化合物及びポリビニルピロリドンの混合物を形成する工程と、
b. 少なくとも20分間混合しながら、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブの総量の20~70%を含む第1の部分をゆっくり添加する工程と、
c. 混合を止めて、閉じ込められた空気を除去させる工程と、
d. 分散体に光沢が出てきて、凝集体が肉眼で一切観察されなくなり、Malvern Mastersizer M3000によって測定した場合に15μm以下のD90が得られるまで、少なくとも20分間分散させながら、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブの総量の70~20%を含むする第2の部分をゆっくり添加する工程と、
e. 混合を止める工程と
を含む、方法。
【請求項11】
分散装置が、0.7~1.0mm、好ましくは0.7~0.9mmに含まれる球径の球形ビーズを有するビーズミルを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブ分散体及び電極活物質を含む、電極。
【請求項13】
層内に形成される請求項12に記載の電極用のカーボンナノチューブ分散体を含むバッテリー電極混合物層であって、250μmのフィルム中でKeithley 2700 Multimeterによって測定した場合に、1000オーム/スクエア未満の表面抵抗率によって特徴付けられ、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に請求項1から11のいずれか一項に規定の分散体をコーティングする工程及び溶媒を蒸発させる工程によって得られる、バッテリー電極混合物層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの分散性及び貯蔵に優れた、カーボンナノチューブ分散体、より具体的には安定性の多層カーボンナノチューブ分散体に関する。本発明はまた、前記分散体の製造方法と、バッテリー電極混合物層を含むリチウムイオン二次電池用の該バッテリー電極混合物層とにも関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ構造体(CNS)は、一括して、ナノチューブ、ナノヘアー、フラーレン、ナノコーン、ナノホーン、及びナノロッド等の様々な形状を有するナノサイズカーボン構造体を指す。カーボンナノ構造体は、優れた特性を持つため、多様な技術的用途において広く利用することができる。
【0003】
カーボンナノチューブ(CNT)は、六角形のパターンで配置された炭素原子からなり、約1~100nmの直径を有する円筒状材料である。カーボンナノチューブは、固有のキラリティーに応じて、絶縁性、導電性又は半導電性の特性を示す。カーボンナノチューブは、炭素原子が互いに強力に共有結合されている構造を有する。この構造に起因して、カーボンナノチューブは、鋼より約100倍高い引張強さを有し、高度に可撓性かつ弾性であり、化学的に安定性である。
【0004】
カーボンナノチューブは、3つのタイプ:単一シートからなり、約1nmの直径を有する単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と、2枚のシートからなり、約1.4~3nmの直径を有する二層カーボンナノチューブ(DWCNT)と、3枚以上のシートからなり、約5~約100nmの直径を有する多層カーボンナノチューブ(MWCNT)とに分けられる。
【0005】
直径、長さ、及びキラリティーに応じて、カーボンナノチューブは、特有の光学、電気、熱、及び機械特性を示し得る。
【0006】
しかしながら、カーボンナノチューブの有利な特性は、幾つかの理由により、巨視的レベルで実現されないことが多い。第1の理由は、ロープ状構造で結晶化して網状組織内に巻き込まれるようになるカーボンナノチューブの傾向である。二本のカーボンナノチューブ間の強力なファン・デル・ワールス相互作用は、それらの配置及び結果として生じるそれらのロープ化をもたらす。このカーボンナノチューブの凝集体は、電気的及び機械的挙動の両方に悪影響を及ぼすことが多い。第2の理由は、一般的な有機溶媒及びポリマー・マトリクスに対するカーボンナノチューブの不溶性又は欠乏した分散性である。
【0007】
これらの問題に対処するために、研究者らは、均一かつ安定性のカーボンナノチューブ分散体を製造する方法を多く開発してきた。
【0008】
JP2016514080Aは、分散液状媒質、ポリマー分散助剤、及び分散液状媒質中に分散されたカーボンナノチューブを含有する分散液に関する。分散液は、水、アセトン、ニトリル、アルコール、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ピロリドン誘導体、酢酸ブチル、酢酸メトキシプロピル、アルキルベンゼン、シクロヘキサン誘導体及びこれらの混合物の群から選択され、ポリ(ビニルピロリドン)が、様々な異なるポリマー間の分散助剤として開示されている。
【0009】
CN104795570Aは、4.0~5.0部のカーボンナノチューブ、0.5~5.0部の低膨張性黒鉛、0.3~1.2部のポリビニルピロリドン、88~93部のN-メチルピロリドン及び0.001~0.01部の錯化剤を含む複合導電ペーストであって、錯化剤が、エチレンジアミン四酢酸、スルホサリチル酸、及びアセチルアセトンのうちの少なくとも1つである、複合導電ペーストに関する。
【0010】
EP3816103A1は、カーボンナノチューブ、N-メチル-2-ピロリドン及びN-エチル-2-ピロリドン等のアミド系有機溶媒等の溶媒、並びにポリビニルピロリドン等の分散剤を含むカーボンナノチューブ分散体に関する。
【0011】
US7682590A1は、アミド系有機溶媒とカーボンナノチューブを分散させるためのポリビニルピロリドンとの混合物に関する。
【0012】
US2011301251A1は、界面活性剤を溶媒に溶解して溶液を形成する工程と、カーボンナノチューブを溶液に添加して混合物を形成する工程とによって製造される分散性の単層及び多層カーボンナノチューブであって、界面活性剤がポリビニルピロリドンを含み、溶媒がN-メチルピロリドンであってもよい、分散性の単層及び多層カーボンナノチューブに関する。
【0013】
JP2005162877Aは、カーボンナノチューブ、アミド系極性有機溶媒、及びポリビニルピロリドンからなるカーボンナノチューブ分散溶液であって、アミド系極性有機溶媒がN-メチルピロリドン(NMP)である、カーボンナノチューブ分散溶液を開示している。
【0014】
JP2008138039は、アミド系有機溶媒、アミン化合物及びポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンと酢酸ビニルとのコポリマー、ビニルピロリドンとビニルイミダゾールとのコポリマー、若しくはビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとのコポリマー、又はこれらの組合せであるポリマーを含むカーボンナノファイバー分散体を開示している。アミド系有機溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等から選択され、一方で、アミン系化合物は、2-メチルアミノエタノール、2-アミノエタノール、イソプロパノールアミン、n-プロピルアミン、2-エトキシエチルアミン、エタノールアミン等から選択される。
【0015】
JP2015072899(A)は、ポリマー系分散剤を含有するカーボンファイバー分散液であって、ポリマーが、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、及びポリアミド酸塩、又はこれらの2つ以上の混合物から選択される、カーボンファイバー分散液を開示している。分散液は、N-メチル-2-ピロリドン及びトリメチルアミン等のアミン化合物を更に含んでもよい。
【0016】
EP3786110(A1)は、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを有し、高濃度のカーボンナノチューブを有するにもかかわらず、優れた粘性、分散性、及び貯蔵安定性を有し、均一かつ満足のいくコーティングフィルム特性及び低い電極板抵抗を有するセル電極複合層を提供するカーボンナノチューブ分散体を開示している。カーボンナノチューブ分散体は、カーボンナノチューブ、ポリビニルピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、及び分散補助剤としてのアミン化合物を含有することによって特徴付けられる。カーボンナノチューブ分散体は、100質量部のカーボンナノチューブに対して10質量部から25質量部未満のポリビニルピロリドン及び2質量部から10質量部のアミン系化合物を含有する。アミン系化合物は、脂肪族第1級アミン、脂肪族第2級アミン、脂肪族第3級アミン、アミノ酸、アルカノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリアミン、及び窒素含有脂環式複素環化合物からなる群から選択される。本明細書に開示されるアルカノールアミンは、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンである。鉄非含有触媒残余物が、前記残余物を含有するMWCNTの分散過程に及ぼす影響、及びMWCNT分散体の最終粘度に及ぼす影響は対処されていない。
【0017】
カーボンナノチューブは、リチウム電池の有望な電極バックボーン又は緩衝材として注目されてきた。
【0018】
典型的なリチウムイオン電池は、細孔性ポリマーセパレータの両側に位置するカーボンアノード(負極)及びリチオ化遷移金属酸化物カソード(正極)を利用する。
【0019】
リチウムイオン電池セルは、カソード中の全てのリチウムによって起動し、充電すると、このリチウム率はアノードへ移動し、カーボンアノード中にインターカレートされる。
【0020】
リチウムイオン電池中の障害は、バッテリー内の樹状突起形成の結果である。樹状突起は、セル中で形成し得る微細な析出金属である。樹状突起形成は、一般にアノード中で開始し、セパレータを通ってカソードまで延伸すると内部ショートカットを作る。
【0021】
任意の電極由来の鉄不純物が電解質に溶解すると、これらの不純物がアノード側に移行し、析出によって樹状突起の成長を開始するという重大なリスクがある。このため、電極材料として鉄非含有材料が必要とされる。
【0022】
MWCNTを電極材料として使用すると、該樹状突起によって生じるバッテリー障害のリスクが上がる。
【0023】
その結果、鉄系黒鉛化触媒を含む触媒系を使用するプロセスによって得られる侵入型鉄成分を含むMWCNTは避けるべきである。
【0024】
したがって、本発明者らは、鉄非含有担持触媒及び前記鉄非含有担持触媒を使用したMWCNTを成功裏に製造したが、従来技術において開示された分散媒では、前記鉄非含有触媒から製造された、鉄非含有触媒残余物を含むMWCNTを効果的に分散させるには十分でないという結論に至った。
【0025】
鉄非含有触媒から製造されるMWCNTのより長い長さ、並びに結果として形成されるナノ及びマイクロ構造に起因して、ポリビニルピロリドンを含むN-メチルピロリドン中の分散は、処理が非常に難しいゲル状の高粘性分散体を生成し、すなわち、良好な均一性を得ることは困難であり、リチウム電池の用途のための電極表面上での適用はほとんど実現不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】JP2016514080A
【特許文献2】CN104795570A
【特許文献3】EP3816103A1
【特許文献4】US7682590A1
【特許文献5】US2011301251A1
【特許文献6】JP2005162877A
【特許文献7】JP2008138039
【特許文献8】JP2015072899(A)
【特許文献9】EP3786110(A1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明の目的は、MWCNT分散体の製造方法のための、鉄非含有触媒を含むプロセス中で製造されるMWCNTを円滑に分散するための分散媒、並びにバッテリー中でのその使用を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、カーボンナノチューブ分散体であって、
- 0.1~13質量%の鉄非含有触媒残余物を含む多層カーボンナノチューブであり、前記残余物が、アルミニウム、バナジウム、コバルト及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも3つの金属の1種又は複数の鉄非含有金属酸化物化合物を含む、多層カーボンナノチューブと、
- アミド系溶媒と、
- ポリビニルピロリドンと、
- アミン系化合物と
を含む、カーボンナノチューブ分散体を開示する。
【0029】
本発明の好ましい実施形態は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を開示する:
- アミン系化合物は、脂肪族アミン、アミノ酸、アルカノールアミン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、
- アミン系化合物は、次式:
NH2-CR1,R2-CH,R2-(CH2)n-OH
(式中、
- R1は、メチル、エチル、プロピル又はブチルであり、
- R2は、水素、メチル、エチル、プロピル又はブチル基であり、
- nは、0~3の整数である)
の少なくとも1種のアルカノールアミンである、
- アルカノールアミンは、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-ブタノール、3-アミノ-3-メチル-1-ブタノール、3-アミノ-2-メチル-1-ブタノール、4-アミノ-4-メチル-1-ペンタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される、
- アルカノールアミンは、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールである、
- アミド系溶媒は、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びこれらの混合物からなる群から選択される、
- アミド系溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンである、
- カーボンナノチューブ分散体は、アミド系溶媒、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブ、アミン系化合物及びポリビニルピロリドンの総質量に対して、
- 2~6質量%の鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブ、
- 0.01~2質量%のポリビニルピロリドン、
- 0.1~2質量%のアミン系化合物
を含み、ここで、アミド系溶媒、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブ、アミン系化合物及びポリビニルピロリドンの質量百分率の合計は、100質量%に等しい、
- カーボンナノチューブ分散体は、
- ポリビニルピロリドンの、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブに対する質量比が、2.5×10-4~4×10-1に含まれ、
- アミン系化合物の、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブに対する質量比が、2.5×10-4~4×10-1に含まれ、
- アミン系化合物の、ポリビニルピロリドンに対する質量比が、1×10-3~1,320に含まれる
ことを特徴とする、
- カーボンナノチューブ分散体は、25℃下、1Hzの固定周波数で0.1~100%の変形による振幅振動掃引試験から得た場合に、0.2%の変形で10~1500Pa.sに含まれる複素粘度によって特徴付けられる、
- カーボンナノチューブ分散体は、分散された鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブ凝集体が、Malvern Mastersizer M3000によって測定した場合、15μm以下のD90を有することを特徴とする(D90は、90体積%の凝集体がそれ未満にある当量球径を表す)。
【0030】
本発明は更に、
- 分散装置中で少なくとも10分間混合することによって、アミド系溶媒、アミン系化合物及びポリビニルピロリドンの混合物を形成する工程と、
- 少なくとも20分間混合しながら、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブの総量の20~70%を含む第1の部分をゆっくり添加する工程と、
- 混合を止めて、閉じ込められた空気を除去させる工程と、
- 分散体に光沢が出てきて、凝集体が肉眼で一切観察されなくなり、Malvern Mastersizer M3000によって測定した場合に15μm以下のD90が得られるまで、少なくとも20分間分散させながら、鉄非含有触媒残渣含有多層カーボンナノチューブの総量の70~20%を含む第2の部分をゆっくり添加する工程と、
- 混合を止める工程と
を含む、MWCNT分散体の製造方法を開示する。
【0031】
方法の好ましい実施形態は、0.7~1.0mm、好ましくは0.7~0.9mmに含まれる球径の球形ビーズを有するビーズミルを含む分散装置に関する。
【0032】
本発明は更に、カーボンナノチューブ分散体及び電極活物質を含む電極を開示する。
【0033】
本発明は更に、層内に形成されるカーボンナノチューブ分散体を含み、250μmのフィルム中でKeithley 2700 Multimeterによって測定される1000オーム/スクエア未満の表面抵抗率によって特徴付けられ、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に分散体をコーティングする工程及び溶媒を蒸発させる工程によって得られる、バッテリー電極混合物層を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、優れた粘性、分散性、及び貯蔵安定性を有し、均一かつ満足のいくコーティングフィルム特性及び低い電極板抵抗を有するセル電極複合層を提供する多層カーボンナノチューブ分散体であって、
- 多層カーボンナノチューブと、
- アミド系溶媒と、
- ポリビニルピロリドンと、
- アミン系化合物と
を含む、多層カーボンナノチューブ分散体を開示する。
【0035】
本発明の多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、鉄非含有担持触媒を使用するプロセスから得られ、結果として、触媒残余物(触媒残渣とも呼ばれる)を更に含む。
【0036】
MWCNTは、0.1~13質量%、好ましくは10質量%未満の触媒残余物を含み、前記残余物は、IUPAC第4、5、6、7、9、10、11及び13族から選択される少なくとも2つの金属の金属化合物を含む。
【0037】
より具体的には、多層カーボンナノチューブは、触媒残余物を含み、前記残余物は、アルミニウム、コバルト、モリブデン及びバナジウムからなる群から選択される少なくとも3つの金属の金属化合物を含む。
【0038】
本発明のMWCNTは、実質的に鉄を含まない。本発明では、実質的に含まないとは、150ppm未満、好ましくは100ppm未満、より好ましくは50ppm未満、最も好ましくは10ppm未満を意味する。
【0039】
本発明者らは、鉄非含有担持触媒から製造されたMWCNTは、鉄含有担持触媒から製造されたMWCNTと比較して、より長く、異なるアスペクト比、並びに特定のナノ及びマイクロ構造を示すことを観察した。
【0040】
これらの違いは、より難しい分散過程と、前記分散体が現在の分散媒から製造される場合、より高い粘度を有する分散体とをもたらす。
【0041】
本発明の分散媒は、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びこれらの混合物からなる群から選択される極性アミド系溶媒を含む。
【0042】
好ましくは、本発明の分散媒の極性アミド系溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンである。
【0043】
本発明の分散媒中で使用するためのポリビニルピロリドンは、K-12からK-90の間、より好ましくはK-15からK-80の間に含まれるK値によって特徴付けられる。
【0044】
本発明の分散媒中で使用するためのアミン系化合物は、脂肪族第1級アミン、脂肪族第2級アミン、脂肪族第3級アミン、アミノ酸、アルカノールアミン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0045】
本発明の分散媒中で使用するための脂肪族第1級アミンの例としては、エチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、及びオレイルアミンがある。
【0046】
本発明の分散媒中で使用するための脂肪族第2級アミンの例としては、ジエチルアミン、ジブチルアミン、及びジステアリルアミンがある。
【0047】
本発明の分散媒中で使用するための脂肪族第3級アミンの例としては、トリエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、及びトリオクチルアミンがある。
【0048】
本発明の分散媒中で使用するためのアミノ酸の例としては、アラニン、メチオニン、プロリン、セリン、アスパラギン、グルタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びシステインがある。
【0049】
好ましくは、本発明の分散媒は、次式:
NH2-CR1,R2-CH,R2-(CH2)n-OH
(式中、
- R1は、メチル、エチル、プロピル又はブチル基であり、
- R2は、水素、メチル、エチル、プロピル又はブチル基であり、
- nは、0~3の整数である)
のアルカノールアミンを含む。
【0050】
より好ましくは、本発明の分散媒は、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-ブタノール、3-アミノ-3-メチル-1-ブタノール、3-アミノ-2-メチル-1-ブタノール、4-アミノ-4-メチル-1-ペンタノール及びこれらの混合物からなる群から選択されるアルカノールアミンを含む。
【0051】
最も好ましくは、本発明の分散媒は、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを含む。
【0052】
好ましくは、本発明の分散媒は、N-メチル-2-ピロリドン、ポリビニルピロリドンK30及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを含む。
【0053】
好ましくは、本発明の分散媒は、
- 少なくとも92質量%、より好ましくは少なくとも94質量%、最も好ましくは少なくとも95質量%、かつ99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下、最も好ましくは98.5質量%以下のN-メチル-2-ピロリドン、
- 少なくとも0.01質量%、より好ましくは少なくとも0.05質量%、最も好ましくは少なくとも0.1質量%、かつ2質量%以下、好ましくは1.7質量%以下、最も好ましくは1.4質量%以下のポリビニルピロリドン、
- 少なくとも0.1質量%、より好ましくは少なくとも0.15質量%、最も好ましくは少なくとも0.2質量%、かつ2質量%以下、好ましくは1.8質量%以下、最も好ましくは1.5質量%以下のアミン系化合物
を含む。
【0054】
本発明のMWCNTは、鉄非含有触媒を使用して製造される。
【0055】
好ましくは、鉄非含有担持触媒は、鉄非含有二成分触媒又は三成分担持触媒であり、担体は、X線回折によって確認された酸化アルミニウム(Al2O3)及び/又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)並びに水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))を含む。
【0056】
好ましくは、鉄非含有二成分触媒は、第1のコバルト系触媒成分及び第2のバナジウム系触媒成分を含み、これらは両方とも、好ましくは、酸化物の形態にある。
【0057】
好ましくは、鉄非含有三成分黒鉛化触媒は、第1のコバルト系触媒成分、第2のバナジウム系触媒成分及び第3のモリブデン系触媒成分を含み、これらは全て、好ましくは、酸化物の形態にある。
【0058】
二成分及び三成分担持触媒の両方のアルミニウム系担体は、少なくとも30質量%の水酸化酸化アルミニウムを含む。
【0059】
二成分及び三成分担持触媒は、少なくとも95%の純度を有する。
【0060】
MWCNTの製造では、鉄非含有担持触媒を、気相中の炭素源と接触させる。
【0061】
担持触媒の使用は、炭素源の分解を介した化学蒸着合成によるカーボンナノチューブの成長を可能にし、カーボンナノチューブ凝集体の生成をもたらす。
【0062】
炭素を供給することができ、300℃以上の温度の気相中に存在することができる任意の炭素源を、特に制限されることなく、化学蒸着合成に使用することができる。気相炭素質材料は、好ましくは、最大6個の炭素原子からなる化合物、より好ましくは最大4個の炭素原子からなる化合物である。
【0063】
本発明による鉄非含有触媒は、800~2500質量%、好ましくは1000~2400質量%、より好ましくは1100~2300質量%に含まれる炭素収率のMWCNTの製造を可能にする。
【0064】
炭素収率(質量%)は、
100(m総-m触媒)/m触媒
(式中、m総は、反応後の生成物の総質量であり、m触媒は、反応に使用された触媒の質量である)
として規定される。
【0065】
上記の方法によって得られるMWCNTは、0.1~13質量%、好ましくは1~10質量%の触媒残渣を含む。
【0066】
触媒残渣の質量百分率は、熱重量分析によって又は空気中での焼成によって決定される。
【0067】
MWCNT分散体は、一般に顔料等の分散に使用される分散装置中で製造される。
【0068】
分散装置の例には、例として、ホモミキサー、プラネタリミキサー、コロイドミル、コーンミル、ボールミル、サンドミル、パールミル、湿式ジェットミル、ロールミル及びビーズミルが挙げられる。
【0069】
好ましくは、分散装置は、0.7~1.0mm、好ましくは0.7~0.9mmに含まれる球径を有する球形ビーズを有するビーズミルを含む。
【0070】
MWCNT分散体の製造方法において、MWCNTの量(又は質量百分率)は、0.1~13質量%の鉄非含有触媒残渣を含むMWCNT(更には鉄非含有触媒残渣含有MWCNTと称する)の量(又は質量百分率)である。触媒残渣は、MWCNTの製造の結果として、本質的にMWCNT中に存在する。そのため、0.1~13質量%の鉄非含有触媒残渣を含む、2質量%の鉄非含有触媒残渣含有MWCNTの分散体の場合、前記分散体は、1.998~1.74質量%の純MWCNTを含むことになる。
【0071】
先ず、分散装置中でアミド系溶媒、アミン系化合物及びポリビニルピロリドンを少なくとも10分間、好ましくは少なくとも20分間混合することによって分散媒を製造し、前記混合物は、
- 少なくとも92質量%、より好ましくは少なくとも94質量%、最も好ましくは少なくとも95質量%、かつ99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下、最も好ましくは98.5質量%以下のアミド系溶媒、
- 少なくとも0.01質量%、より好ましくは少なくとも0.05質量%、最も好ましくは少なくとも0.1質量%、かつ2質量%以下、好ましくは1.7質量%以下、最も好ましくは1.4質量%以下のポリビニルピロリドン、
- 少なくとも0.1質量%、より好ましくは少なくとも0.15質量%、最も好ましくは少なくとも0.2質量%、かつ2質量%以下、好ましくは1.8質量%以下、最も好ましくは1.5質量%以下のアミノ系化合物
を含み、アミド系溶媒、ポリビニルピロリドン及びアミン系成分の合計は100質量%である。
【0072】
次いで、少なくとも20分間、好ましくは少なくとも30分間混合しながら、2質量%の鉄非含有触媒残渣含有MWCNTをゆっくり添加する。
【0073】
後続して、混合を止め、閉じ込められた空気を除去させる。
【0074】
更なる量の鉄非含有触媒残渣含有MWCNTを、最大6質量%で、少なくとも20分間、好ましくは少なくとも30分間、凝集体が見えず、光沢のある均一な分散体が得られるまで混合を継続しながらゆっくり添加する。
【0075】
アミド系溶媒、ポリビニルピロリドン、アミン系化合物及び鉄非含有触媒残渣含有MWCNTの量は、鉄非含有触媒残渣含有MWCNTの分散体が、
- ポリビニルピロリドンの、鉄非含有触媒残渣含有MWCNTに対する質量比が、2.5×10-4~4×10-1、好ましくは6.5×10-3~3.5×10-1、より好ましくは1.2×10-1~3×10-1に含まれ、
- アミン系化合物の、鉄非含有触媒残渣含有MWCNTに対する質量比が、2.5×10-4~4×10-1、好ましくは6.5×10-3~3.5×10-1、より好ましくは1.2×10-1~3×10-1に含まれ、
- アミン系化合物の、ポリビニルピロリドンに対する質量比が、1×10-3~1,320、好ましくは1×10-2~500、より好ましくは5×10-1~2に含まれる
ことを特徴とするとなるように選択される。
【0076】
本発明では、混合とは、分散及び均一化を意味する。
【0077】
鉄非含有触媒残渣含有MWCNTの分散は、分散された鉄非含有触媒残渣含有MWCNT凝集体が、Malvern Mastersizer M3000によって測定される場合、15μm以下のD90(D90は、90体積%の凝集体がそれ未満にある当量球径を表す)によって特徴付けられるときに、完了すると考えられる。
【0078】
分散体の粒径分布は、Malvern Mastersizer M3000を使用するレーザー回折技術によって測定される。粒子解析ソフトウェアのバックグラウンドの自動化された洗浄及び検証の後、試料を水性流体キャリア中で希釈する。オブスキュレーションが制限内に収まったら、5回分の測定値を記録し、平均する。各測定は、室温で行われる。
【0079】
鉄非含有触媒残渣含有MWCNTの分散体は、1Hzの固定周波数で0.1~100%の変形による振幅振動掃引試験から得た場合の、0.2%の変形での10Pa.s以上の複素粘度によって特徴付けられる。好ましくは、25℃にてコントロールストレスレオメーターのAnton Paar MCR-301上で測定した場合、2%の変形での複素粘度は、1,500Pa.s未満、より好ましくは1,000Pa.s未満、最も好ましくは500Pa.s未満である。
【0080】
バッテリー、特にリチウムイオン電池のカソード又はアノードのいずれかにおける本発明の鉄非含有触媒残渣含有MWCNT分散体の性能を評価するために、抵抗率を、250ミクロンのフィルム中の表面抵抗率として測定する。鉄非含有触媒残渣含有MWCNTの分散体がPET(ポリエチレンテレフタレート)上にコーティングされ、測定前に、オーブン中、80℃で溶媒を蒸発させる。その後、Keithley 2700 Multimeterを用いて、フィルムの表面上6点を測定して平均する。
【実施例】
【0081】
以下の例示的実施例は、本発明の実証を意味するにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものでも、又はそうでなければ本発明の範囲を定義することを意図するものでもない。
【0082】
(実施例1)
鉄非含有三成分黒鉛化触媒の合成
60℃で、277質量部のクエン酸及び387質量部のリンゴ酸を含む5000質量部の水を、340質量部のメタバナジン酸アンモニウム及び64質量部のモリブデン酸アンモニウム四水和物に添加し、パドルミキサーを使用して15分間混合し、結果として第1の水溶液を得た。
【0083】
同様に、60℃で、5000質量部の水を4931質量部の酢酸コバルト(II)四水和物に添加し、パドルミキサーを使用して15分間混合し、結果として第2の水溶液を得た。
【0084】
第2の水溶液を第1の水溶液に添加し、パドルミキサーを使用して15分間混合した。
【0085】
第1及び第2の水溶液の混合物に、比表面積(BET)15m2/gで、13333質量部の水酸化アルミニウム(Apyral(登録商標)200SM-Nabaltec AG社)を添加し、パドルミキサーを使用して15分間混合した。
【0086】
次いで、こうして得られたペーストを、大型開口部を有するセラミック製るつぼに移し、加熱工程を経て、該加熱工程において、2℃/minの加熱勾配及び0.5m3/hの気流によりペーストを120℃まで加熱し、5時間120℃で維持した。
【0087】
120℃で5時間経過した後、2℃/minの加熱勾配でペーストを更に400℃の温度まで加熱し、0.5m3/hの気流を維持しながら5時間400℃で維持した。
【0088】
こうして得られた固体物質を、室温まで冷却し、円錐型グラインダーによって、58μmの体積中央粒径(volume median particle diameter)(D50)によって特徴付けられる粉末に粉砕した。
【0089】
鉄非含有担持触媒は、
- コバルトの、アルミニウムに対する質量比2.53×10-1、
- バナジウムの、アルミニウムに対する質量比3.20×10-2、
- モリブデンの、アルミニウムに対する質量比7.54×10-3、
- コバルトの、バナジウムとモリブデンとを組み合わせた質量に対する質量比6.4
によって特徴付けられる。
【0090】
(実施例2)
MWCNTの合成
実施例1の鉄非含有担持黒鉛化触媒1.0gを石英容器中に広げ、該容器を後続して、入口及び出口を有する石英管型反応器の中心に置いた。
【0091】
触媒を含む容器が位置する石英管型反応器の中心を700℃の温度まで加熱した。
【0092】
後続して、エチレンガス、窒素及び水素を、20分間、1.744 l/min(C2H4)、0.857 l/min(N2)及び0.286 l/min(H2)の流量で石英管型反応器に通して流した。
【0093】
MWCNTを2076質量%の炭素収率で製造し、これには5質量%の触媒残余物が含まれる。
【0094】
(実施例3)
MWCNT分散体の製造
N-メチル-2-ピロリドン中の、実施例2の鉄非含有触媒残渣含有MWCNT(3質量%)を含むMWCNT分散体を、表1に記載の配合に従って製造した。
【0095】
【0096】
表1中、AMPは、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを表す。
【0097】
表1中、MWCNT分散体は、球径0.8mmのビーズを有するビーズミル及びミキサーを有するタンクからなる予混合装置を使用して循環モードで操作するパイロット生産ラインにおいて製造した。
【0098】
実施例4、5及び7の鉄非含有触媒残渣含有MWCNT分散体は、Malvern Mastersizer M3000によって測定した場合、それぞれ、14.4μm(アミン系化合物:2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール)、22μm(アミン系化合物:n-オクチルアミン)及び15μm(アミン系化合物:エタノールアミン)のD90によって特徴付けられた。比較として、同等のエネルギー入力により同じ分散条件下で製造されたがアミン系化合物を含まないMWCNT分散体は、19.1μmのD90によって特徴付けられる。
【0099】
実施例4、5及び7のMWCNT分散体を、表面抵抗率について試験した。表面抵抗率値855Ω/sq(アミン系化合物:n-オクチルアミン)、983Ω/sq(アミン系化合物:2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール)及び890Ω/sq(アミン系化合物:エタノールアミン)が、それぞれ測定された。比較として、アミン系化合物を含まないMWCNT分散体の表面抵抗率は、911.8Ω/sqに等しい。本発明者らによれば、表面抵抗率の測定における実験誤差を考慮に入れても、n-オクチルアミンを含む分散媒、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを含む分散媒、エタノールアミンを含む分散媒、及びアミン系化合物を含まない同一の分散媒の表面抵抗率の各値は同等である。
【0100】
実施例6から明確に示されるように、ポリビニルピロリドン(PVP含有量)及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP含有量)の増加は、複素粘度及びD90に大きな効果があるが、一方で表面抵抗率は、実験誤差の範囲内で実質的に変化なしのままである。
【0101】
本発明で請求する、複素粘度、D90及び表面抵抗率に対する、アミン系化合物、特にアルカノールアミンの添加のメリットは、明確に実証されている。
【国際調査報告】