(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】工学的マイグラソームおよびその作製方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241031BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241031BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20241031BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20241031BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20241031BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20241031BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20241031BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20241031BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20241031BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20241031BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20241031BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N5/10
C07K14/47
C12N5/079
C12N5/0781
C12N5/0783
C12N5/0784
C12N5/0786
C12N5/09
C12N5/0775
C12N15/87 Z
C07K19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531457
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 CN2022133863
(87)【国際公開番号】W WO2023093780
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】202111412950.1
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524198076
【氏名又は名称】北京邁格松生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ユー, リー
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ドンジュ
(72)【発明者】
【氏名】ダイ, チェン
(72)【発明者】
【氏名】ジャ, ムォイェ
(72)【発明者】
【氏名】ワン, シュオ
(72)【発明者】
【氏名】ディン, ティエンルン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, チウシー
(72)【発明者】
【氏名】ジォン, イー
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BD50
4B065CA24
4B065CA46
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA50
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
工学的マイグラソーム、その作製方法およびその使用が提供され、特に、マイグラソームを作製する方法が含まれる。本方法は、細胞を相対移動させて、上記細胞に由来するマイグラソームを産生させることを含む。本方法によって作製されるマイグラソーム、インビトロまたはエクスビボで作製されるマイグラソーム、および上記マイグラソームを含む送達系も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を相対移動させて、上記細胞に由来するマイグラソームを産生させることを含む、マイグラソームを作製する方法。
【請求項2】
上記細胞によって産生された上記マイグラソームを単離することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記細胞に低張処理を行うことを含む、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
上記低張処理が、上記細胞を低張緩衝液に入れることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記低張処理が、上記細胞を緩衝液に入れること、および上記緩衝液の浸透圧を減少させて、上記緩衝液を低張緩衝液にすることを含む、請求項3~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記浸透圧の減少が、線形減少および/または段階的減少を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記低張緩衝液の浸透圧が、約305mOsmol/L未満である、請求項5~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記低張緩衝液の浸透圧が、約10mOsmol/L~約274.5mOsmol/Lである、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記細胞の細胞骨格を破壊することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
上記細胞の細胞骨格を破壊することが、上記細胞を細胞骨格破壊試薬と接触させることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記細胞骨格破壊試薬が、マイクロフィラメントおよび/または微小管解重合剤を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記細胞骨格破壊試薬が、ラトルンクリンA、ラトルンクリンB、サイトカラシンA、サイトカラシンB、サイトカラシンC、サイトカラシンD、および/またはサイトカラシンEを含む、請求項10~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
上記細胞の細胞体積調節機能を抑制することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
上記細胞の細胞体積調節機能を抑制することが、上記細胞における体積調節タンパク質の数および/または機能を減少させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
上記体積調節タンパク質が、体積調節イオンチャネルおよび/またはトランスポーターを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記体積調節イオンチャネルが、体積調節アニオンチャネルVRACおよび/または体積調節カチオンチャネルVRCCを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
上記体積調節アニオンチャネルVRACが、SWELL1またはその機能的に活性な断片を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記体積調節カチオンチャネルVRCCが、TRPV4、TRPM3、および/またはそれらの機能的に活性な断片を含む、請求項16~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
上記トランスポーターが、コトランスポーターを含む、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
上記コトランスポーターが、KCC1、KCC3、および/またはKCC4を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
上記細胞の細胞体積調節機能を抑制することが、上記細胞の体積調節能力を阻害し得る緩衝液に上記細胞を入れることを含む、請求項13~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
上記緩衝液が、増加したカチオンを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
上記カチオンが、K
+、Na
+、Cs
+、Li
+、Ca
2+、Mg
2+、Ba
2+、Mn
2
+、Fe
2
+、Ni
2
+、Zn
2
+、Al
3
+、Fe
3
+、CH
3NH
3
+、C
2H
5NH
3
+、(CH
3)
2NH
2
+、(C
2H
5)
2NH
2
+、(C
2H
5)
3N
+、アンモニアイオン、および/またはコリンイオンを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
上記緩衝液が、増加したアニオンを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
上記アニオンが、Br
-、Cl
-、I
-、F
-、OH
-、HCO
3
-、H
2PO
4
-、NO
2
-、NO
3
-、CN
-、HPO
4
2-、CO
3
2-、SO
4
2-、および/またはPO
4
3-を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
上記方法が、上記細胞を接着した表面から剥離することを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
上記方法が、上記細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
上記細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることをさらに含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
上記細胞に上記テトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体を過剰発現させることを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
上記テトラスパニンタンパク質が、Tspan1、Tspan2、Tspan3、Tspan4、Tspan5、Tspan6、Tspan7、Tspan8、Tspan9、Tspan10、Tspan11、Tspan12、Tspan13、Tspan14、Tspan15、Tspan16、Tspan17、Tspan18、Tspan19、Tspan20(UPK1B)、Tspan21(UPK1A)、Tspan22(PRPH2)、Tspan23(ROM1)、Tspan24(CD151)、Tspan25(CD53)、Tspan26(CD37)、Tspan27(CD82)、Tspan28(CD81)、Tspan29(CD9)、Tspan30(CD63)、Tspan31、Tspan32、およびTspan33から選択される、請求項28~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
上記マイグラソームのサイズを減少させることをさらに含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
上記マイグラソームのサイズを減少させることが、上記マイグラソームをフィルタまたは押出機に通すことを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
上記フィルタまたは押出機が、約30nm~約10000nmの孔径を有する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
上記マイグラソームのサイズが、約50nm~約8000nmである、請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
上記マイグラソームが、上記細胞のリトラクションファイバーから生成される、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
上記マイグラソームの膜が、ナトリウム/カリウムATPアーゼおよび/またはその機能的断片で富化されている、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
上記マイグラソームの膜が、インテグリンおよび/またはその機能的断片で富化されている、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
上記マイグラソームの膜が、テトラスパニンタンパク質、その機能的変異体、および/またはその機能的断片で富化されている、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
上記マイグラソームの膜が、コレステロールで富化されている、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
上記マイグラソームが、膜マイクロドメインで富化されている、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
上記マイグラソームが、インビトロまたはエクスビボで産生される、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
上記マイグラソームの内容物が、対応する細胞によって産生される天然のマイグラソームと比較して少なくとも部分的に減少しているか、または存在しない、請求項1~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
上記少なくとも部分的に減少した内容物が、管腔内小胞を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
インビトロ法またはエクスビボ法である請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
上記細胞が、インビトロで培養された細胞である、請求項1~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
上記細胞が、浮遊培養された細胞または接着培養された細胞である、請求項1~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
上記細胞が、初代細胞を含む、請求項1~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
上記初代細胞が、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、および/または昆虫を含む生物に由来する組織細胞を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
上記初代細胞が、肝臓細胞、脾臓細胞、腎臓細胞、組織マクロファージ、脳グリア細胞、破骨細胞、骨髄細胞、白血球、線維芽細胞、および/または脂肪細胞を含む、請求項47~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
上記白血球が、B細胞、T細胞、NK細胞、樹状細胞、好中球、および/またはマクロファージを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
上記細胞が、腫瘍細胞を含む、請求項1~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
上記腫瘍細胞が、腫瘍細胞株、患者に由来する初代腫瘍細胞もしくは継代を制限した腫瘍細胞、腫瘍間質細胞、および/または腫瘍オルガノイドを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
上記細胞が、CHO細胞、CHO-K1細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293FT細胞、HEK293F細胞、Vero細胞、NRK細胞、L929細胞、MC38細胞、4T1細胞、DC2.4細胞、MGC803細胞、Jurkat細胞、NK-92MI細胞、BJ細胞、および/またはHepG2細胞を含む、請求項1~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
上記細胞が、白血球、幹細胞、および/または線維芽細胞を含む、請求項1~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
上記幹細胞が、間葉系幹細胞を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
請求項1~55のいずれか一項に記載の方法で作製されるマイグラソーム。
【請求項57】
インビトロまたはエクスビボで作製されるマイグラソームであって、約50nm~約8000nmのサイズを有するマイグラソーム。
【請求項58】
細胞のリトラクションファイバーからインビトロで産生される請求項57に記載のマイグラソーム。
【請求項59】
上記マイグラソームの膜が、ナトリウム/カリウムATPアーゼおよび/またはその機能的断片で富化されている、請求項57~58のいずれか一項に記載のマイグラソーム。
【請求項60】
上記マイグラソームの膜が、インテグリンおよび/またはその機能的断片で富化されている、請求項57~59のいずれか一項に記載のマイグラソーム。
【請求項61】
上記マイグラソームの膜が、テトラスパニンタンパク質、その機能的変異体、および/またはその機能的断片で富化されている、請求項57~60のいずれか一項に記載のマイグラソーム。
【請求項62】
上記マイグラソームの膜が、コレステロールで富化されている、請求項57~61のいずれか一項に記載のマイグラソーム。
【請求項63】
上記マイグラソームが、膜マイクロドメインで富化されている、請求項57~62のいずれか一項に記載のマイグラソーム。
【請求項64】
上記マイグラソームの内容物が、対応する細胞によって産生される天然のマイグラソームと比較して少なくとも部分的に減少しているか、または存在しない、請求項57~63のいずれか一項に記載のマイグラソーム。
【請求項65】
上記部分的に減少した内容物が、管腔内小胞を含む、請求項64に記載のマイグラソーム。
【請求項66】
外因性カーゴの送達におけるマイグラソームの使用。
【請求項67】
上記マイグラソームが、請求項57~65のいずれか一項に記載のマイグラソームを含む、請求項66に記載の使用。
【請求項68】
マイグラソームおよび1つ以上の外因性カーゴを含む送達系。
【請求項69】
上記外因性カーゴが、直接的または間接的に、上記マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、コンジュゲートされるか、またはインターカレートされる、請求項68に記載の送達系。
【請求項70】
上記マイグラソームが、請求項57~65のいずれか一項に記載のマイグラソームを含む、請求項68~69のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項71】
上記マイグラソームが、細胞に由来する、請求項68~70のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項72】
上記外因性カーゴが、1つ以上の標的化物質および/または治療活性物質を含む、請求項68~71のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項73】
上記外因性カーゴが、タンパク質、脂質、ポリヌクレオチド、小分子化合物、複合体、多糖、ポリマー、ナノ粒子、マイクロ粒子、および/または細胞小器官を含む、請求項68~72のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項74】
上記外因性カーゴが、膜タンパク質、可溶性タンパク質、および/またはポリペプチドを含む、請求項68~73のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項75】
上記外因性カーゴが、DNAおよび/またはRNAを含む、請求項68~74のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項76】
上記外因性カーゴが、抗体もしくはその抗原結合抗体断片、インテグリンもしくはその断片、免疫原性タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、受容体タンパク質もしくはその断片、酵素、癌抑制遺伝子産物、siRNA、マイクロRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、mRNA、DNA、遺伝子編集ツール、および/または細胞傷害剤を含む、請求項68~75のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項77】
上記外因性カーゴが、PAMP、DAMP、CD47、CD24、IL-12、IL-15、凝固第VII因子、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、および/またはそれらの機能的に活性な断片を含む、請求項68~76のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項78】
上記外因性カーゴが、遺伝子編集、外因性発現、液体-固体変換、膜融合、電荷吸着、物理的吸着、および/または化学的結合によって、直接的または間接的に上記マイグラソームに組み込まれる、請求項68~77のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項79】
上記外因性カーゴが、上記マイグラソームの膜成分への直接的または間接的なコンジュゲーションによって、上記マイグラソームに組み込まれるか、またはインターカレートされる、請求項68~78のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項80】
上記マイグラソームの上記膜成分が、膜タンパク質、コレステロール、リン脂質、糖タンパク質上の炭水化物鎖、および/または多糖を含む、請求項79に記載の送達系。
【請求項81】
上記間接的なコンジュゲーションが、クリックケミストリーによる結合を含む、請求項79~80のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項82】
上記間接的なコンジュゲーションが、結合対の第1のメンバーにコンジュゲートされた上記外因性カーゴを提供すること、および上記外因性カーゴを上記マイグラソームと接触させることを含み、上記マイグラソームの膜が、上記結合対の第2のメンバーを含み、上記第1のメンバーが、上記第2のメンバーに結合することができる、請求項79~81のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項83】
上記結合対の上記第1および第2のメンバーが、抗原およびその抗体;受容体およびそのリガンド;ビオチンおよびアビジン;HaloTagおよびそのリガンド;ならびにCP05およびCD63から選択される、請求項82に記載の送達系。
【請求項84】
上記外因性カーゴが、膜タンパク質として、上記マイグラソームの膜の内面または外面で発現される、請求項68~83のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項85】
上記外因性カーゴが、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、上記マイグラソームの膜の内面または外面で発現される、請求項68~84のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項86】
上記外因性カーゴが、遺伝子編集および/または外因性発現によって、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、上記マイグラソームの膜の内面または外面で発現される、請求項68~85のいずれか一項に記載の送達系。
【請求項87】
送達系を作製する方法であって、マイグラソームを提供すること、および上記マイグラソームに外因性カーゴを担持させることを含む方法。
【請求項88】
上記マイグラソームが、単離または精製されたマイグラソームである、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
上記マイグラソームに外因性カーゴを担持させることが、直接的または間接的に、上記外因性カーゴを上記マイグラソームの膜および/または内部に組み込むか、またはインターカレートすることを含む、請求項87~88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
細胞から上記マイグラソームを単離または精製することをさらに含む請求項87~89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
上記外因性カーゴと結合対の第1のメンバーとの複合体を提供すること、細胞に、上記結合対の第2のメンバーを含むマイグラソームを産生させること、および上記マイグラソームを上記複合体と接触させて、上記送達系を形成することを含む、請求項87~90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
上記マイグラソームが、請求項57~65のいずれか一項に記載のマイグラソームを含む、請求項87~91のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
上記マイグラソームが、細胞に由来する、請求項87~92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
上記外因性カーゴが、1つ以上の標的化物質および/または治療活性物質を含む、請求項87~93のいずれか一項に記載の方法。
【請求項95】
上記外因性カーゴが、タンパク質、脂質、ポリヌクレオチド、小分子化合物、複合体、多糖、ポリマー、ナノ粒子、マイクロ粒子、および/または細胞小器官を含む、請求項87~94のいずれか一項に記載の方法。
【請求項96】
上記外因性カーゴが、膜タンパク質、可溶性タンパク質、および/またはポリペプチドを含む、請求項87~95のいずれか一項に記載の方法。
【請求項97】
上記外因性カーゴが、DNAおよび/またはRNAを含む、請求項87~96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
上記外因性カーゴが、抗体もしくはその抗原結合抗体断片、インテグリンもしくはその断片、免疫原性タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、受容体タンパク質もしくはその断片、酵素、癌抑制遺伝子産物、siRNA、マイクロRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、mRNA、DNA、遺伝子編集ツール、および/または細胞傷害剤を含む、請求項87~97のいずれか一項に記載の方法。
【請求項99】
上記外因性カーゴが、PAMP、DAMP、CD47、CD24、IL-12、IL-15、凝固第VII因子、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、および/またはそれらの機能的に活性な断片を含む、請求項87~98のいずれか一項に記載の方法。
【請求項100】
上記外因性カーゴが、遺伝子編集、外因性発現、液体-固体変換、膜融合、電荷吸着、物理的吸着、および/または化学的結合によって、直接的または間接的に上記マイグラソームに組み込まれる、請求項87~99のいずれか一項に記載の方法。
【請求項101】
上記外因性カーゴが、上記マイグラソームの膜成分への直接的または間接的なコンジュゲーションによって、上記マイグラソームに組み込まれるか、またはインターカレートされる、請求項87~100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
上記マイグラソームの上記膜成分が、膜タンパク質、コレステロール、リン脂質、糖タンパク質上の炭水化物鎖、および/または多糖を含む、請求項101に記載の方法。
【請求項103】
上記間接的なコンジュゲーションが、クリックケミストリーによる結合を含む、請求項101~102のいずれか一項に記載の方法。
【請求項104】
上記間接的なコンジュゲーションが、結合対の第1のメンバーにコンジュゲートされた上記外因性カーゴを提供すること、および上記外因性カーゴを上記マイグラソームと接触させることを含み、上記マイグラソームの膜が、上記結合対の第2のメンバーを含み、上記第1のメンバーが、上記第2のメンバーに結合することができる、請求項101~103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項105】
上記結合対の上記第1および第2のメンバーが、抗原およびその抗体;受容体およびそのリガンド;ビオチンおよびアビジン;HaloTagおよびそのリガンド;ならびにCP05およびCD63から選択される、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
上記外因性カーゴが、膜タンパク質として、上記マイグラソームの膜の内面または外面で発現される、請求項87~105のいずれか一項に記載の方法。
【請求項107】
上記外因性カーゴが、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、上記マイグラソームの膜の内面または外面で発現される、請求項87~106のいずれか一項に記載の方法。
【請求項108】
送達系を作製する方法であって、細胞にmRNAを発現させること、上記細胞に、mRNA結合タンパク質を含むマイグラソームを産生させること、および上記mRNA結合タンパク質を介して上記mRNAを上記マイグラソームに結合させることを含む方法。
【請求項109】
送達系を作製する方法であって、細胞に細胞膜上で外因性カーゴを発現させること、および上記細胞に、上記外因性カーゴを含むマイグラソームを産生させることを含む方法。
【請求項110】
上記外因性カーゴが、タンパク質である、請求項109に記載の方法。
【請求項111】
上記タンパク質が、膜タンパク質である、請求項110に記載の方法。
【請求項112】
上記タンパク質が、可溶性タンパク質であり、膜タンパク質またはその部分に融合して融合タンパク質を形成する、請求項110~111のいずれか一項に記載の方法。
【請求項113】
請求項57~65のいずれか一項に記載のマイグラソーム、または請求項68~86のいずれか一項に記載の送達系を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の分野に関し、特に工学的マイグラソーム、工学的マイグラソームを作製する方法、工学的マイグラソームを含む送達系、および送達系を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
当技術分野における既存の送達系には多くの問題がある。例えば、生物由来ナノ粒子およびマイクロ粒子送達系は、高い生体適合性および比較的良好な標的化能力を有するが、生産が困難であり;工学的エクソソームは、低い生産収率、精製中の超遠心分離の必要性、および生成後に搭載される核酸に主に限定されるカーゴなどの明らかな制限を示し;工学的赤血球は、インビトロで連続的に培養したり、増殖させたりすることができないので、作製毎に血液試料を必要とし;赤血球はまた、主に核酸を含むカーゴタイプに非常に限定され;膜改変ナノ粒子は、人体の正常な代謝によって排除することが困難であるため、体内に蓄積して、潜在的な毒性を呈する可能性があり;ウイルスおよびウイルス様粒子によって送達され得るカーゴは、基本的に核酸および低分子量タンパク質に限定されるが、ウイルスおよびウイルス様粒子の生産および精製は困難かつ高価であり、改変が困難であるなどである。したがって、当技術分野では、既存の薬物送達系に存在する1つ以上の欠点を克服することができる新しい送達系が必要とされている。
【0003】
本出願では、天然のマイグラソームと構造が同様である工学的マイグラソームの生成を様々な方法によって誘導することができ、これらの工学的マイグラソームは、当技術分野で公知の「低張誘導型小胞」とは異なることが見出された。本出願では、工学的マイグラソームが、低毒性および低免疫原性という利点を有する生物学的起源のものであること;工学的マイグラソームが、カーゴ分子タイプおよびインビボでの体内分布においてユニークな利点を有する新たに発見された細胞外小胞であること;同時に、工学的マイグラソームを作製する方法が高収率で簡便であることも同時に見出された。したがって、本出願によって提供される工学的マイグラソームは、薬物送達およびワクチン作製などの生物医学分野において非常に高い応用価値を有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本出願は、工学的マイグラソーム、工学的マイグラソームを作製する方法、工学的マイグラソームを含む送達系、および送達系を作製する方法を提供する。工学的マイグラソームには、以下の利点:低毒性、低免疫原性、様々な外因性カーゴ分子を送達する能力、インビボでの適切な体内分布、簡便な作製方法、および/または高収率が含まれるが、これらに限定されない。本出願によって提供される工学的マイグラソームは、薬物送達およびワクチン作製などに使用されて優れた効果を示し得る。
【0005】
一態様では、本出願は、細胞を相対移動させて、細胞に由来するマイグラソームを産生させることを含む、マイグラソームを作製する方法を提供する。
【0006】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞によって産生されたマイグラソームを単離することをさらに含む。
【0007】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞に低張処理を行うことを含む。
【0008】
一実施形態による方法では、低張処理が、細胞を低張緩衝液に入れることを含む。
【0009】
一実施形態による方法では、低張処理が、細胞を緩衝液に入れること、および緩衝液の浸透圧を減少させて、緩衝液を低張緩衝液にすることを含む。
【0010】
一実施形態による方法では、減少が、線形減少および/または段階的減少を含む。
【0011】
一実施形態による方法では、低張緩衝液の浸透圧が、約305mOsmol/L未満である。
【0012】
一実施形態による方法では、低張緩衝液の浸透圧が、約10mOsmol/L~約274.5mOsmol/Lである。
【0013】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞の細胞骨格を破壊することを含む。
【0014】
一実施形態による方法では、細胞の細胞骨格を破壊することが、細胞を細胞骨格破壊試薬と接触させることを含む。
【0015】
一実施形態による方法では、細胞骨格破壊試薬が、マイクロフィラメントおよび/または微小管解重合剤を含む。
【0016】
一実施形態による方法では、細胞骨格破壊試薬が、ラトルンクリンA、ラトルンクリンB、サイトカラシンA、サイトカラシンB、サイトカラシンC、サイトカラシンD、および/またはサイトカラシンEを含む。
【0017】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞の細胞体積調節機能を抑制することを含む。
【0018】
一実施形態による方法では、細胞の細胞体積調節機能を抑制することが、細胞における体積調節タンパク質の数および/または機能を減少させることを含む。
【0019】
一実施形態による方法では、体積調節タンパク質が、体積調節イオンチャネルおよび/またはトランスポーターを含む。
【0020】
一実施形態による方法では、体積調節イオンチャネルが、体積調節アニオンチャネルVRACおよび/または体積調節カチオンチャネルVRCCを含む。
【0021】
一実施形態による方法では、体積調節アニオンチャネルVRACが、SWELL1またはその機能的に活性な断片を含む。
【0022】
一実施形態による方法では、体積調節カチオンチャネルVRCCが、TRPV4、TRPM3、および/またはそれらの機能的に活性な断片を含む。
【0023】
一実施形態による方法では、トランスポーターは、コトランスポーターを含む。
【0024】
一実施形態による方法では、コトランスポーターは、KCC1、KCC3、および/またはKCC4を含む。
【0025】
一実施形態による方法では、細胞の細胞体積調節機能を抑制することは、細胞の体積調節能力を阻害し得る緩衝液に細胞を入れることを含む。
【0026】
一実施形態による方法では、緩衝液は、増加したカチオンを含む。
【0027】
一実施形態による方法では、カチオンは、K+、Na+、Cs+、Li+、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Mn2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、CH3NH3
+、C2H5NH3
+、(CH3)2NH2
+、(C2H5)2NH2
+、(C2H5)3N+、アンモニアイオン、および/またはコリンイオンを含む。
【0028】
一実施形態による方法では、緩衝液は、増加したアニオンを含む。
【0029】
一実施形態による方法では、アニオンは、Br-、Cl-、I-、F-、OH-、HCO3
-、H2PO4
-、NO2
-、NO3
-、CN-、HPO4
2-、CO3
2-、SO4
2-、および/またはPO4
3-を含む。
【0030】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞を接着した表面から剥離することを含む。
【0031】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含む。
【0032】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることをさらに含む。
【0033】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞にテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体を過剰発現させることを含む。
【0034】
一実施形態による方法では、テトラスパニンタンパク質は、Tspan1、Tspan2、Tspan3、Tspan4、Tspan5、Tspan6、Tspan7、Tspan8、Tspan9、Tspan10、Tspan11、Tspan12、Tspan13、Tspan14、Tspan15、Tspan16、Tspan17、Tspan18、Tspan19、Tspan20(UPK1B)、Tspan21(UPK1A)、Tspan22(PRPH2)、Tspan23(ROM1)、Tspan24(CD151)、Tspan25(CD53)、Tspan26(CD37)、Tspan27(CD82)、Tspan28(CD81)、Tspan29(CD9)、Tspan30(CD63)、Tspan31、Tspan32、およびTspan33から選択される。
【0035】
一実施形態による方法では、本方法は、マイグラソームのサイズを減少させることをさらに含む。
【0036】
一実施形態による方法では、マイグラソームのサイズを減少させることは、フィルタまたは押出機でマイグラソームを押し出すことを含む。
【0037】
一実施形態による方法では、フィルタまたは押出機は、約30nm~約10000nmの孔径を有する。
【0038】
一実施形態による方法では、マイグラソームは、約50nm~約8000nmのサイズを有する。
【0039】
一実施形態による方法では、マイグラソームは、細胞のリトラクションファイバーから生成される。
【0040】
一実施形態による方法では、マイグラソームの膜は、ナトリウム/カリウムATPアーゼおよび/またはその機能的断片で富化されている。
【0041】
一実施形態による方法では、マイグラソームの膜は、インテグリンおよび/またはその機能的断片で富化されている。
【0042】
一実施形態による方法では、マイグラソームの膜は、テトラスパニンタンパク質、その機能的変異体、および/またはその機能的断片で富化されている。
【0043】
一実施形態による方法では、マイグラソームの膜は、コレステロールで富化されている。
【0044】
一実施形態による方法では、マイグラソームは、膜マイクロドメインで富化されている。
【0045】
一実施形態による方法では、マイグラソームは、インビトロまたはエクスビボで産生される。
【0046】
一実施形態による方法では、マイグラソームの内容物は、対応する細胞によって産生される天然のマイグラソームと比較して少なくとも部分的に減少しているか、または存在しない。
【0047】
一実施形態による方法では、少なくとも部分的に減少した内容物は、管腔内小胞を含む。
【0048】
一実施形態による方法では、方法は、インビトロ法またはエクスビボ法である。
【0049】
一実施形態による方法では、細胞は、インビトロで培養された細胞である。
【0050】
一実施形態による方法では、細胞は、浮遊培養された細胞または接着培養された細胞である。
【0051】
一実施形態による方法では、細胞は、初代細胞を含む。
【0052】
一実施形態による方法では、初代細胞は、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、および/または昆虫を含む生物に由来する組織細胞を含む。
【0053】
一実施形態による方法では、初代細胞は、肝臓細胞、脾臓細胞、腎臓細胞、組織マクロファージ、脳グリア細胞、破骨細胞、骨髄細胞、白血球、線維芽細胞、および/または脂肪細胞を含む。
【0054】
一実施形態による方法では、白血球は、B細胞、T細胞、NK細胞、樹状細胞、好中球、および/またはマクロファージを含む。
【0055】
一実施形態による方法では、細胞は、腫瘍細胞を含む。
【0056】
一実施形態による方法では、腫瘍細胞は、腫瘍細胞株、患者に由来する初代腫瘍細胞もしくは継代を制限した腫瘍細胞、腫瘍間質細胞、および/または腫瘍オルガノイドを含む。
【0057】
一実施形態による方法では、細胞は、CHO細胞、CHO-K1細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293FT細胞、HEK293F細胞、Vero細胞、NRK細胞、L929細胞、MC38細胞、4T1細胞、DC2.4細胞、MGC803細胞、Jurkat細胞、NK-92MI細胞、BJ細胞、および/またはHepG2細胞を含む。
【0058】
一実施形態による方法では、細胞は、白血球、幹細胞、および/または線維芽細胞を含む。
【0059】
一実施形態による方法では、幹細胞は、間葉系幹細胞を含む。
【0060】
一実施形態による方法では、マイグラソームが作製される。
【0061】
別の態様では、本出願は、インビトロまたはエクスビボで作製されるマイグラソームであって、約50nm~約8000nmのサイズを有するマイグラソームを提供する。
【0062】
一実施形態によるマイグラソームでは、マイグラソームは、細胞のリトラクションファイバーからインビトロで産生される。
【0063】
一実施形態によるマイグラソームでは、マイグラソームの膜は、ナトリウム/カリウムATPアーゼおよび/またはその機能的断片で富化されている。
【0064】
一実施形態によるマイグラソームでは、マイグラソームの膜は、インテグリンおよび/またはその機能的断片で富化されている。
【0065】
一実施形態によるマイグラソームでは、マイグラソームの膜は、テトラスパニンタンパク質、その機能的変異体、および/またはその機能的断片で富化されている。
【0066】
一実施形態によるマイグラソームでは、マイグラソームの膜は、コレステロールで富化されている。
【0067】
一実施形態によるマイグラソームでは、マイグラソームは、膜マイクロドメインで富化されている。
【0068】
一実施形態によるマイグラソームでは、マイグラソームの内容物は、対応する細胞によって産生される天然のマイグラソームと比較して少なくとも部分的に減少しているか、または存在しない。
【0069】
一実施形態によるマイグラソームでは、少なくとも部分的に減少した内容物は、管腔内小胞を含む。
【0070】
別の態様では、本出願は、外因性カーゴの送達におけるマイグラソームの使用を提供する。
【0071】
一実施形態による使用では、マイグラソームは、本出願のマイグラソームを含む。
【0072】
別の態様では、本出願は、マイグラソームおよび1つ以上の外因性カーゴを含む送達系を提供する。
【0073】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、直接的または間接的に、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、コンジュゲートされるか、またはインターカレートされる。
【0074】
一実施形態による送達系では、マイグラソームは、本出願のマイグラソームを含む。
【0075】
一実施形態による送達系では、マイグラソームは、細胞に由来する。
【0076】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、1つ以上の標的化物質および/または治療活性物質を含む。
【0077】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、タンパク質、脂質、ポリヌクレオチド、小分子化合物、複合体、多糖、ポリマー、ナノ粒子、マイクロ粒子、および/または細胞小器官を含む。
【0078】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、膜タンパク質、可溶性タンパク質、および/またはポリペプチドを含む。
【0079】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、DNAおよび/またはRNAを含む。
【0080】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、抗体もしくはその抗原結合抗体断片、インテグリンもしくはその断片、免疫原性タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、受容体タンパク質もしくはその断片、酵素、癌抑制遺伝子産物、siRNA、マイクロRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、mRNA、DNA、遺伝子編集ツール、および/または細胞傷害剤を含む。
【0081】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、PAMP、DAMP、CD47、CD24、IL-12、IL-15、凝固第VII因子、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、および/またはそれらの機能的に活性な断片を含む。
【0082】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、遺伝子編集、外因性発現、液体-固体変換、膜融合、電荷吸着、物理的吸着、および/または化学的結合によって、直接的または間接的にマイグラソームに組み込まれる。
【0083】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、マイグラソームの膜成分への直接的または間接的なコンジュゲーションによって、マイグラソームに組み込まれるか、またはインターカレートされる。
【0084】
一実施形態による送達系では、マイグラソームの膜成分は、膜タンパク質、コレステロール、リン脂質、糖タンパク質上の炭水化物鎖、および/または多糖を含む。
【0085】
一実施形態による送達系では、間接的なコンジュゲーションは、クリックケミストリーによる結合を含む。
【0086】
一実施形態による送達系では、間接的なコンジュゲーションは、結合対の第1のメンバーにコンジュゲートされた外因性カーゴを提供すること、および外因性カーゴをマイグラソームと接触させることを含み、マイグラソームの膜は、結合対の第2のメンバーを含み、第1のメンバーは、第2のメンバーに結合することができる。
【0087】
一実施形態による送達系では、結合対の第1および第2のメンバーは、抗原およびその抗体;受容体およびそのリガンド;ビオチンおよびアビジン;HaloTagおよびそのリガンド;ならびにCP05およびCD63から選択される。
【0088】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、膜タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現される。
【0089】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現される。
【0090】
一実施形態による送達系では、外因性カーゴは、遺伝子編集および/または外因性発現によって、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現される。
【0091】
別の態様では、本出願は、送達系を作製する方法であって、マイグラソームを提供すること、およびマイグラソームに外因性カーゴを担持させることを含む方法を提供する。
【0092】
一実施形態による方法では、マイグラソームは、単離または精製されたマイグラソームである。
【0093】
一実施形態による方法では、マイグラソームに外因性カーゴを担持させることは、直接的または間接的に、外因性カーゴをマイグラソームの膜および/または内部に組み込むか、またはインターカレートすることを含む。
【0094】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞からマイグラソームを単離または精製することをさらに含む。
【0095】
一実施形態による方法では、本方法は、外因性カーゴと結合対の第1のメンバーとの複合体を提供すること、細胞に、結合対の第2のメンバーを含むマイグラソームを産生させること、およびマイグラソームを複合体と接触させて、送達系を形成することを含む。
【0096】
一実施形態による方法では、マイグラソームは、本出願のマイグラソームを含む。
【0097】
一実施形態による方法では、マイグラソームは、細胞に由来する。
【0098】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、1つ以上の標的化物質および/または治療活性物質を含む。
【0099】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、タンパク質、脂質、ポリヌクレオチド、小分子化合物、複合体、多糖、ポリマー、ナノ粒子、マイクロ粒子、および/または細胞小器官を含む。
【0100】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、膜タンパク質、可溶性タンパク質、および/またはポリペプチドを含む。
【0101】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、DNAおよび/またはRNAを含む。
【0102】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、抗体もしくはその抗原結合抗体断片、インテグリンもしくはその断片、免疫原性タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、受容体タンパク質もしくはその断片、酵素、癌抑制遺伝子産物、siRNA、マイクロRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、mRNA、DNA、遺伝子編集ツール、および/または細胞傷害剤を含む。
【0103】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、PAMP、DAMP、CD47、CD24、IL-12、IL-15、凝固第VII因子、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、および/またはそれらの機能的に活性な断片を含む。
【0104】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、遺伝子編集、外因性発現、液体-固体変換、膜融合、電荷吸着、物理的吸着、および/または化学的結合によって、直接的または間接的にマイグラソームに組み込まれる。
【0105】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、マイグラソームの膜成分への直接的または間接的なコンジュゲーションによって、マイグラソームに組み込まれるか、またはインターカレートされる。
【0106】
一実施形態による方法では、マイグラソームの膜成分は、膜タンパク質、コレステロール、リン脂質、糖タンパク質上の炭水化物鎖、および/または多糖を含む。
【0107】
一実施形態による方法では、間接的なコンジュゲーションは、クリックケミストリーによる結合を含む。
【0108】
一実施形態による方法では、間接的なコンジュゲーションは、結合対の第1のメンバーにコンジュゲートされた外因性カーゴを提供すること、および外因性カーゴをマイグラソームと接触させることを含み、マイグラソームの膜は、結合対の第2のメンバーを含み、第1のメンバーは、第2のメンバーに結合することができる。
【0109】
一実施形態による方法では、結合対の第1および第2のメンバーは、抗原およびその抗体;受容体およびそのリガンド;ビオチンおよびアビジン;HaloTagおよびそのリガンド;ならびにCP05およびCD63から選択される。
【0110】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、膜タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現される。
【0111】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現される。
【0112】
別の態様では、本出願は、送達系を作製する方法であって、細胞にmRNAを発現させること、細胞に、mRNA結合タンパク質を含むマイグラソームを産生させること、およびmRNA結合タンパク質を介してmRNAをマイグラソームに結合させることを含む方法を提供する。
【0113】
別の態様では、本出願は、送達系を作製する方法であって、細胞に細胞膜上で外因性カーゴを発現させること、および細胞に、外因性カーゴを含むマイグラソームを産生させることを含む方法を提供する。
【0114】
一実施形態による方法では、外因性カーゴは、タンパク質である。
【0115】
一実施形態による方法では、タンパク質は、膜タンパク質である。
【0116】
一実施形態による方法では、タンパク質は、可溶性タンパク質であり、膜タンパク質またはその部分に融合して融合タンパク質を形成する。
【0117】
別の態様では、本出願は、本出願のマイグラソームまたは本出願の送達系を含む組成物を提供する。
【0118】
本出願の他の態様および利点は、以下の詳細な説明から当業者によって容易に認識され得る。以下の詳細な説明は、本出願の例示的な実施形態を例示および説明するものにすぎない。当業者には理解されるように、本出願の内容は、当業者が、本出願に含まれる原理および範囲から逸脱することなく、開示された特定の実施形態を変更することを可能にするものである。したがって、添付の図面および本願明細書の記載は、例示的な目的であるにすぎず、限定を目的としたものではない。
【0119】
本出願に含まれる本発明の特定の特徴は、添付の特許請求の範囲に列挙されている。本出願に含まれる本発明の特徴および利点は、以下で詳細に説明される例示的な実施形態および添付の図面を参照することによってよりよく理解され得る。添付の図面を以下のように簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【
図1】工学的マイグラソームの形成に対する低張刺激の効果を示す図である。a:76.3mOsmol/Lでの低張刺激下での異なる時点での工学的マイグラソームの形成(スケール:5μm)。b:異なる浸透圧での工学的マイグラソームの形成。c:bに示す工学的マイグラソームの直径の統計結果。
【
図2】工学的マイグラソームの形成に対する異なる濃度のラトルンクリンAによる処理の効果を示す図である。a:異なる濃度のラトルンクリンAでの工学的マイグラソームの形成。b:aに示される工学的マイグラソームの数の統計結果。
【
図3】工学的マイグラソームの形成に対する、細胞におけるSWELL1をコードする遺伝子Lrrc8aのノックダウンの効果を示す図である。a:qPCRによって決定された細胞におけるLrrc8aのノックダウン効率。b:レーザー共焦点顕微鏡を使用して観察された、Lrrc8aノックダウンによる細胞の段階的低張刺激によって産生された工学的マイグラソーム。c:bに示す工学的マイグラソームの直径の統計結果。
【
図4】工学的マイグラソームの形成に対する、細胞におけるSWELL1をコードする遺伝子Lrrc8aのノックアウトの効果を示す図である。a:ウエスタンブロッティングによって決定された細胞におけるLrrc8aのノックアウト。b:レーザー共焦点顕微鏡を使用して観察された、Lrrc8aノックアウトによる細胞の段階的低張刺激によって産生された工学的マイグラソーム。
【
図5】工学的マイグラソームの形成に対する異なるカチオンによる処理の効果を示す図である。a:反応溶液中の異なるカチオンでの工学的マイグラソームの形成。b:aに示される工学的マイグラソームの直径の統計結果。
【
図6】工学的マイグラソームの数に対するTspan4の過剰発現の効果を示す図である。a:Tspan4の過剰発現の存在下での工学的マイグラソームの形成。b:aに示される工学的マイグラソームの数の統計結果。
【
図7】温度感受性被覆培養皿中のMGC803-T4-GFP細胞によって産生されたマイグラソームを示す図である。a:異なる条件下での異なる培養皿中のMGC803-T4-GFP細胞によって産生されたマイグラソームの写真。b:細胞剥離率の定量。
【
図8】異なる細胞株において誘導された工学的マイグラソームを示す図である。a:異なるげっ歯類細胞株において誘導された工学的マイグラソーム。b:aから選択された領域の拡大図(スケール:5μm)。c:2つのT4-GFPでトランスフェクトしたヒト胎児腎臓細胞株/系において誘導された工学的マイグラソーム。d:WGAで染色した、異なるヒト細胞株において誘導された工学的マイグラソーム。
【
図9】異なる細胞濃度で浮遊培養されたNRK細胞(a)及びMC38細胞(b)において差次的に誘導された工学的マイグラソームを示す図である。
【
図10】工学的NRK細胞から誘導された工学的マイグラソームの単離および精製の概略フローチャートを示す図である。
【
図11】工学的NRK細胞において誘導された工学的マイグラソームの形態学的観察を示す図である。a:工学的マイグラソームのレーザー共焦点顕微鏡画像。b:工学的マイグラソームのネガティブ染色透過型電子顕微鏡写真。c:工学的マイグラソームの低温電子顕微鏡写真。
【
図12】単離および精製された工学的マイグラソームのウエスタンブロッティングを示す図である。
【
図13】レーザー共焦点顕微鏡によって観察された、経時的なCy5およびデキストラン-TMRに対する工学的マイグラソームの透過性を示す図である。a:レーザー共焦点顕微鏡による工学的マイグラソームの観察。b:室温で1.5時間、6時間、12時間、24時間、および48時間保存した後のデキストラン-TMRに対して透過性の工学的マイグラソームの割合の統計結果。
【
図14】工学的マイグラソームの安定性を示す図である。a:0日目、1日目、2日目、3日目、5日目、および7日目にレーザー共焦点顕微鏡によって観察された工学的マイグラソームの形態学的結果。b:室温での異なる保存日数後の精製された工学的マイグラソームにおけるニワトリ卵白アルブミン(OVA)およびmCherryタンパク質発現のウエスタンブロッティング分析。c:室温で異なる日数保存された工学的マイグラソームをマウスに免疫した後に産生されたOVA特異的抗体。
【
図15】レーザー共焦点顕微鏡によって観察された、工学的マイグラソームの安定性に対するコレステロール抽出試薬MβCDの効果を示す図である。
【
図16】(a)工学的マイグラソームへの膜タンパク質、可溶性タンパク質、および小分子の搭載の概略図を示す図である。(b)例としてOVAを使用することによる可溶性タンパク質の搭載の概略図を示す図である。
【
図17】レーザー共焦点顕微鏡によって観察された、工学的マイグラソームに搭載された様々な膜タンパク質の位置を示す図である。
【
図18】レーザー共焦点顕微鏡によって観察された、工学的マイグラソーム上のスパイクタンパク質の位置を示す図である。
【
図19】ベクターpB-Hygro-GFPのマップを示す図である。
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図20】ベクターpmCherry-N1のマップを示す図である。
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図21】ベクターpB-Hygro-mCherryのマップを示す図である。
【
図22】レーザー共焦点顕微鏡によって観察された、工学的マイグラソーム上の融合タンパク質t-STX2-OVAの位置を示す図である。
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図23】レーザー共焦点顕微鏡によって観察された、工学的マイグラソーム上のTspan4-HaloTag-GFPおよびHaloTagリガンド-TMRの共局在を示す図である。
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図24】SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現する工学的マイグラソーム(e-マイグラソーム)で免疫されたマウスにおいて誘導されたSタンパク質特異的免疫応答を示す図である。a:動物実験の模式図。b:対照として対照eマイグラソーム群および精製S1タンパク質を用いた、スパイク発現eマイグラソームにおけるS1タンパク質のウエスタンブロッティング。c:異なる方法による免疫後のマウス血清中のスパイク(S)タンパク質特異的IgGの濃度。
【
図25】工学的NRK細胞によって産生されたマイグラソームの特徴づけを示す図である。a:走査型電子顕微鏡を使用した、低張処理し、2.5%グルタルアルデヒドで固定したTspan4-GFP過剰発現NRK細胞の観察。スケールは左が20μm、右が2μm。b:スピニングディスク共焦点顕微鏡を使用した、Tspan4-GFP過剰発現NRK細胞から低張処理によって産生された工学的マイグラソームの4D写真。低張処理中に、細胞体が膨張し、底面が退縮して多数の糸状構造が産生され、工学的マイグラソームがこれらの糸状構造上で成長したことが観察される。c:低張小胞を産生するA-431細胞の電子顕微鏡写真、および産生された小胞の顕微鏡写真(参考文献:Cohen S,Ushiro H,Stoscheck C,Chinkers MA native 170 000 epidermal growth factor receptor-kinase complex from shed plasma membrane vesicles.J Biol Chem 257:1523-1531.)。
【
図26-1】マイグラソームと工学的マイグラソーム(eマイグラソーム)との比較を示す図である。a(左):共焦点顕微鏡による、培養された未処理のTSPAN4-mCherry発現NRK細胞の観察。スケールは5μm。b:レーザー共焦点顕微鏡による、Tspan4-GFP発現NRK細胞によって低張プロセスを介して産生された工学的マイグラソームの観察。スケールは5μm。
【
図26-2】マイグラソームと工学的マイグラソーム(eマイグラソーム)との比較を示す図である。c:Tspan4-GFPを過剰発現するテトラメチルローダミン標識WGA染色NRK細胞。上の写真は等張液中の細胞を示し、下の写真は低張処理後の細胞を示し、これらの写真は、レーザー共焦点顕微鏡による走査後のZ軸重合せ写真であり、スケールは5μmである。
【
図26-3】マイグラソームと工学的マイグラソーム(eマイグラソーム)との比較を示す図である。d:マイグラソームの電子顕微鏡写真(Ma et al,Cell Res.2015)。e:T4-GFP過剰発現NRK細胞によって産生された工学的マイグラソームの透過型電子顕微鏡画像。スケールは1μm。f:eマイグラソームと対照マイグラソームとの質量分析の比較。g:工学的マイグラソームでは検出されないが、対照マイグラソームでは高度に富化されている25個のタンパク質。表中の数字はLog2(細胞体に対する発現倍数の変化)を表す。実験は3回繰り返した。
【
図26-4】マイグラソームと工学的マイグラソーム(eマイグラソーム)との比較を示す図である。h:対照マイグラソーム(上のパネル)と比較した、ERMファミリーおよび様々な他のタンパク質の富化を示す工学的マイグラソーム(下のパネル)。左の3つのパネルは、それぞれTspan-4-GFPイメージング、エズリン-mCherryイメージング、および両者の併合Zスタック画像を使用して取得され、2番目の右のパネルはFxyd5-mCherryイメージングであり、1番目の右のパネルはAtp1β1-mCherryイメージングである(参考文献:Ma L,Li Y,Peng J,Wu D,Zhao X,Cui Y,Chen L,Yan X,Du Y,Yu L.Discovery of the migrasome,an organelle mediating release of cytoplasmic contents during cell migration.Cell Res.2015 Jan;25(1):24-38.doi:10.1038/cr.2014.135;Zhao X,Lei Y,Zheng J,Peng J,Li Y,Yu L,Chen Y.Identification of markers for migrasome detection.Cell Discov.2019 May 21;5:27.doi:10.1038/s41421-019-0093-y.Erratum in:Cell Discov.2022 Apr 6;8(1):32.PMID:31123599;PMCID:PMC6527679)。
【
図27-1】両方ともTspan4-GFP過剰発現MC-38細胞から産生された小型小胞/エクソソームと工学的マイグラソームとの比較を示す図である。a:小型小胞/エクソソーム精製プロセス。b:精製後のMC-38小型小胞/エクソソームのNTA検査。c:透過型電子顕微鏡(TEM)によるMC-38小型小胞/エクソソームの検査。
【
図27-2】両方ともTspan4-GFP過剰発現MC-38細胞から産生された小型小胞/エクソソームと工学的マイグラソームとの比較を示す図である。d:すべて同じ細胞起源の小型小胞/エクソソーム、工学的マイグラソーム、および細胞体のウエスタンブロッティング分析。
【
図27-3】両方ともTspan4-GFP過剰発現MC-38細胞から産生された小型小胞/エクソソームと工学的マイグラソームとの比較を示す図である。e:両方とも同じ細胞起源の小型小胞/エクソソームと工学的マイグラソームとの生産量および収量の比較。f:インビボ分布。ここで、蛍光イメージングは、Tspan4-GFPを発現するMC-38細胞によって産生され、DiD標識に供され、等しい蛍光色素量を静脈内注射された小型小胞/エクソソームまたは工学的マイグラソームから異なる時間に採取された組織に対して行われる。
【
図28-1】両方とも同じ細胞起源の工学的マイグラソームおよび小型小胞/エクソソームの定量的質量分析を示す図である。a:PCA分析。b:シグナル経路分析のヒートマップ。注:工学的マイグラソームの3セットのデータポイントは高い一貫性を示し、図中で重複している。
【
図28-2】両方とも同じ細胞起源の工学的マイグラソームおよび小型小胞/エクソソームの定量的質量分析を示す図である。c:作製された工学的マイグラソームおよび小型小胞/エクソソームの10個の最も富化されたタンパク質のリスト。注:工学的マイグラソームの3セットのデータポイントは高い一貫性を示し、10個の最も富化されたタンパク質は完全に一致している。
【発明を実施するための形態】
【0121】
好ましい実施形態の詳細な説明
以下、本願発明の実施形態を具体例により説明する。当該技術に精通した者であれば、本願発明の他の利点および効果を明細書の開示から容易に理解することができる。
【0122】
用語および定義
本出願において、「相対移動」という用語は、一般的に、基準点または基準面に対して生じる移動を指す。環境(例えば、接着した表面)に対する細胞中心の移動、または静止細胞中心の場合、周囲の微小環境(例えば、接着した固体表面、または微小環境内の液相)に対するもしくは細胞中心(例えば、膨張、平坦からの隆起など)に対する細胞膜表面の相対移動を指す。
【0123】
本出願において、「マイグラソーム」という用語は、一般的に、相対移動を受ける細胞によって産生される構造を指す。例えば、マイグラソームは、新しいタイプの細胞小器官、例えば、細胞移動中に細胞の後ろに残るリトラクションファイバーの先端または交差部で産生される小胞構造であり得る。例えば、細胞移動中、細胞体がマイグラソームに細胞内物質を連続的に輸送し、その後、リトラクションファイバーが切断され、マイグラソームが局所的に放出されるか、または血液などの体液を介して遠隔組織に輸送され、次いで細胞外空間内またはその周囲の細胞によって取り込まれ得る。例えば、マイグラソームは、細胞内物質および細胞間シグナルの伝達に関与し、それによって細胞間コミュニケーションを媒介し得る。
【0124】
本出願において、「膜マイクロドメイン」という用語は、一般的に、生体膜構造を有する領域を指す。例えば、スフィンゴ脂質およびコレステロール(Ch)に基づく細胞膜マイクロドメインには、脂質ラフト、テトラスパニンに富むマイクロドメイン(TEM)などが含まれる。
【0125】
本出願において、「管腔内小胞」という用語は、一般的に、管腔内または管腔もしくは管状構造の空間内に形成されるか、または存在する膜小胞(例えば、細胞小器官またはより大きな小胞)を指す。管腔はまた、本明細書において、細胞の成分または構造の内部空間を表すために使用され得る。例えば、管腔内小胞は、細胞小器官によって産生され得る。例えば、管腔内小胞は、マイグラソーム中の管腔内小胞、または現在はマイグラソーム中にないが、マイグラソーム中に輸送されると予想される管腔内小胞を含んでもよい。
【0126】
本出願において、「外因性カーゴ」という用語は、一般的に、染色体または宿主細胞に自然には存在しない物質を指す。例えば、細胞自体はこの物質を産生しないか、またはこの物質を同等の量で産生(例えば発現)しない。例えば、この物質を産生する細胞は、構造または機能などにおいて天然の細胞と区別される。
【0127】
本出願において、「低浸透圧」という用語は、一般的に、細胞の等張液の浸透圧より低い浸透圧を指す。等張液とは、血漿浸透圧と同等の浸透圧を有する溶液を指す。
【0128】
本出願において、「細胞骨格」という用語は、一般的に、細胞内のタンパク質線維ネットワーク系、例えば、微小管、マイクロフィラメント、および中間線維から構成される系を指す。
【0129】
本出願において、「テトラスパニン」という用語は、一般的に、4つの膜貫通ドメインを含む四回膜貫通型タンパク質スーパーファミリーを指す。これらのタンパク質は、いわゆる四回膜貫通型タンパク質に富むマイクロドメイン(TEM)を形成し得る(Rubinstein,E.(2011).The complexity of tetraspanins.Biochem Soc Trans 39,501-505.)。TEMは、サイズが約100ナノメートルであり、様々なタンパク質および脂質ラフト様脂質、例えばコレステロールに富む。マイグラソーム形成中、多くの小型TEMが凝集して、テトラスパニンに富む膜マクロドメイン(TEMA)と呼ばれるミクロンスケールのマクロドメインを形成し、その形成は、リトラクションファイバー上のマイグラソームの成長と相関し得る。例えば、テトラスパニンファミリーは、Tspan1、Tspan2、Tspan3、Tspan4、Tspan5、Tspan6、Tspan7、Tspan8、Tspan9、Tspan10、Tspan11、Tspan12、Tspan13、Tspan14、Tspan15、Tspan16、Tspan17、Tspan18、Tspan19、Tspan20(UPK1B)、Tspan21(UPK1A)、Tspan22(PRPH2)、Tspan23(ROM1)、Tspan24(CD151)、Tspan25(CD53)、Tspan26(CD37)、Tspan27(CD82)、Tspan28(CD81)、Tspan29(CD9)、Tspan30(CD63)、Tspan31、Tspan32、およびTspan33を含む33個のメンバーを含み得る。生化学的研究および遺伝子ノックアウトマウスからのデータは、テトラスパニンファミリーのこれらのメンバーが膜生物学において重要な役割を果たすことを示唆している。
【0130】
本出願において、「単離」および「精製」という用語は、互換的に使用され、一般的に、これらの「単離または精製された」マイグラソームが、これらのマイグラソームの治療的または診断的使用を妨害し得る、環境に由来する他の汚染物質成分を含有しないかまたは実質的に含有しないように、マイグラソームが産生される環境中の成分からマイグラソームを同定、単離、および/または回収することを指す。汚染物質成分は、非生物的物質(化学物質を含む)または生物学的物質、例えば細胞小器官、核酸、タンパク質(例えば可溶性タンパク質)、脂質、または代謝産物を含み得る。したがって、「単離または精製された」マイグラソームは、これらの汚染物質成分を除去するかまたは実質的に除去する少なくとも1つの精製工程によって作製されてもよい。
【0131】
本出願において、「および/または」という用語は、任意選択の項目のいずれかまたは両方を意味すると理解されるべきである。
【0132】
本出願において、「含む」という用語は、一般的に、明示的に指定された特徴を含むが、他の要素を除外しないことを指す。
【0133】
本出願において、「約」という用語は、一般的に、指定値の上または下0.5%~10%の範囲内の変動、例えば、指定値の上または下0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、および10%の範囲内の変動を指す。
【0134】
発明の詳細な説明
一態様では、本出願は、マイグラソームを作製する方法を提供する。本方法は、細胞を相対移動させて、細胞に由来するマイグラソームを産生させることを含んでもよい。例えば、本出願における相対移動は、環境(例えば、接着した表面)に対する細胞中心の移動、または静止細胞中心の場合、周囲の微小環境(例えば、接着した固体表面、または微小環境内の液相)に対するもしくは細胞中心(例えば、膨張、平坦からの隆起など)に対する細胞膜表面の相対移動を指し得る。例えば、相対移動の発生および/または程度は、物理的および/または化学的および/または生物学的手段によって介入されてもよい。
【0135】
一実施形態による方法では、本方法は、細胞によって産生されたマイグラソームを単離することをさらに含んでもよい。
【0136】
例えば、本出願の方法は、細胞に低張処理を行うこと、細胞の細胞骨格を破壊すること、細胞の細胞体積調節機能を抑制すること、細胞を接着した表面から剥離すること、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。
【0137】
例えば、本出願の方法は、細胞の細胞骨格を破壊すること、細胞の細胞体積調節機能を抑制すること、細胞を接着した表面から剥離すること、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法は、細胞に低張処理を行うこと、細胞の細胞体積調節機能を抑制すること、細胞を接着した表面から剥離すること、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法は、細胞に低張処理を行うこと、細胞の細胞骨格を破壊すること、細胞を接着した表面から剥離すること、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法は、細胞に低張処理を行うこと、細胞の細胞骨格を破壊すること、細胞の細胞体積調節機能を抑制すること、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法は、細胞に低張処理を行うこと、細胞の細胞骨格を破壊すること、細胞の細胞体積調節機能を抑制すること、および/または細胞を接着した表面から剥離することを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。
【0138】
例えば、本出願の方法は、細胞の細胞体積調節機能を抑制すること、細胞を接着した表面から剥離すること、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法は、細胞に低張処理を行うこと、細胞を接着した表面から剥離すること、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法は、細胞に低張処理を行うこと、細胞の細胞骨格を破壊すること、および/または細胞の細胞体積調節機能を抑制することを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。
【0139】
例えば、本出願の方法は、細胞に低張処理を行うこと、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法は、細胞の細胞骨格を破壊すること、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法は、細胞の細胞体積調節機能を抑制すること、および/または細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよく、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることを含んでもよい。
【0140】
例えば、本出願の方法では、本方法は、細胞に低張処理を行うことを含んでもよい。
【0141】
例えば、本出願の方法では、低張処理は、細胞を低張緩衝液に入れることを含んでもよい。
【0142】
例えば、本出願の方法では、低張処理は、細胞を緩衝液に入れること、および緩衝液の浸透圧を減少させて、緩衝液を低張緩衝液にすることを含んでもよい。
【0143】
例えば、本出願の方法では、減少は、線形減少および/または段階的減少を含んでもよい。
【0144】
例えば、本出願の方法では、低張緩衝液の浸透圧は、約305mOsmol/L未満であってもよい。例えば、低張緩衝液の浸透圧は、約305mOsmol/L未満、約300mOsmol/L未満、約270mOsmol/L未満、約250mOsmol/L未満、約200mOsmol/L未満、約150mOsmol/L未満、約100mOsmol/L未満、約90mOsmol/L未満、約80mOsmol/L未満、約70mOsmol/L未満、約60mOsmol/L未満、約50mOsmol/L未満、約40mOsmol/L未満、約30mOsmol/L未満、約20mOsmol/L未満、約15mOsmol/L未満、約10mOsmol/L未満、約5mOsmol/L未満、または約2mOsmol/L未満であってもよい。
【0145】
例えば、本出願の方法では、低張緩衝液の浸透圧は、約10mOsmol/L~約274.5mOsmol/Lであってもよい。例えば、本出願の方法では、低張緩衝液の浸透圧は、約10mOsmol/L~約274.5mOsmol/Lであってもよい。例えば、低張緩衝液の浸透圧は、約10mOsmol/L~約300mOsmol/L、約20mOsmol/L~約300mOsmol/L、約30mOsmol/L~約300mOsmol/L、約50mOsmol/L~約300mOsmol/L、約70mOsmol/L~約300mOsmol/L、約100mOsmol/L~約300mOsmol/L、約150mOsmol/L~約300mOsmol/L、約200mOsmol/L~約300mOsmol/L、約250mOsmol/L~約300mOsmol/L、約10mOsmol/L~約250mOsmol/L、約20mOsmol/L~約250mOsmol/L、約30mOsmol/L~約250mOsmol/L、約50mOsmol/L~約250mOsmol/L、約70mOsmol/L~約250mOsmol/L、約100mOsmol/L~約250mOsmol/L、約150mOsmol/L~約250mOsmol/L、約200mOsmol/L~約250mOsmol/L、約10mOsmol/L~約200mOsmol/L、約20mOsmol/L~約200mOsmol/L、約30mOsmol/L~約200mOsmol/L、約50mOsmol/L~約200mOsmol/L、約70mOsmol/L~約200mOsmol/L、約100mOsmol/L~約200mOsmol/L、約150mOsmol/L~約200mOsmol/L、約10mOsmol/L~約150mOsmol/L、約20mOsmol/L~約150mOsmol/L、約30mOsmol/L~約150mOsmol/L、約50mOsmol/L~約150mOsmol/L、約70mOsmol/L~約150mOsmol/L、約100mOsmol/L~約150mOsmol/L、約10mOsmol/L~約100mOsmol/L、約20mOsmol/L~約100mOsmol/L、約30mOsmol/L~約100mOsmol/L、約50mOsmol/L~約100mOsmol/L、約70mOsmol/L~約100mOsmol/L、約10mOsmol/L~約30mOsmol/L、約20mOsmol/L~約30mOsmol/L、約30mOsmol/L~約90mOsmol/L、または約30mOsmol/L~約70mOsmol/Lであってもよい。低張処理は、細胞を緩衝液に入れること、および緩衝液の浸透圧を減少させて、緩衝液を低張緩衝液にすることを含む。
【0146】
例えば、本出願の方法では、本方法は、細胞の細胞骨格を破壊することを含んでもよい。
【0147】
例えば、本出願の方法では、細胞の細胞骨格を破壊することは、細胞を細胞骨格破壊試薬と接触させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法では、細胞骨格破壊試薬は、マイクロフィラメントおよび/または微小管解重合剤を含んでもよい。例えば、本出願の方法では、細胞骨格破壊試薬は、ラトルンクリンA、ラトルンクリンB、サイトカラシンA、サイトカラシンB、サイトカラシンC、サイトカラシンD、および/またはサイトカラシンEを含んでもよい。
【0148】
例えば、本出願の方法では、本方法は、細胞の細胞体積調節機能を抑制することを含んでもよい。
【0149】
例えば、本出願の方法では、細胞の細胞体積調節機能を抑制することは、細胞における体積調節タンパク質の数および/または機能を減少させることを含んでもよい。例えば、未改変細胞に関して、本出願において細胞の細胞体積調節機能を抑制することは、細胞における体積調節タンパク質の数および/または機能を約5%、約10%、約20%、約50%、または約100%減少させる。
【0150】
例えば、本出願の方法では、体積調節タンパク質は、体積調節イオンチャネルおよび/またはトランスポーターを含んでもよい。例えば、本出願の方法では、体積調節イオンチャネルは、体積調節アニオンチャネルVRACおよび/または体積調節カチオンチャネルVRCCを含んでもよい。例えば、本出願の方法では、体積調節アニオンチャネルVRACは、SWELL1またはその機能的に活性な断片を含んでもよい。例えば、本出願の方法では、体積調節カチオンチャネルVRCCは、TRPV4、TRPM3、および/またはそれらの機能的に活性な断片を含んでもよい。
【0151】
例えば、本出願の方法では、トランスポーターは、コトランスポーターを含んでもよい。例えば、本出願の方法では、コトランスポーターは、KCC1、KCC3、および/またはKCC4を含んでもよい。
【0152】
例えば、本出願の方法では、細胞の細胞体積調節機能を抑制することは、細胞の体積調節能力を阻害し得る緩衝液に細胞を入れることを含んでもよい。例えば、本出願の方法では、緩衝液は、増加したカチオンを含んでもよい。例えば、本出願の方法では、カチオンは、K+、Na+、Cs+、Li+、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Mn2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、CH3NH3
+、C2H5NH3
+、(CH3)2NH2
+、(C2H5)2NH2
+、(C2H5)3N+、アンモニアイオン、および/またはコリンイオンを含んでもよい。
【0153】
例えば、本出願の方法では、緩衝液は、増加したアニオンを含んでもよい。例えば、本出願の方法では、アニオンは、Br-、Cl-、I-、F-、OH-、HCO3
-、H2PO4
-、NO2
-、NO3
-、CN-、HPO4
2-、CO3
2-、SO4
2-、および/またはPO4
3-を含んでもよい。
【0154】
例えば、本出願の方法では、本方法は、細胞を接着した表面から剥離することを含んでもよい。
【0155】
例えば、本出願の方法では、本方法は、細胞の細胞膜と接着した表面との間で相対移動させることを含んでもよい。
【0156】
例えば、本出願の方法では、本方法は、細胞におけるテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体の数および/または機能を増加させることをさらに含んでもよい。例えば、本出願の方法では、本方法は、細胞にテトラスパニンタンパク質、その機能的断片、および/またはその機能的変異体を過剰発現させることを含んでもよい。例えば、本出願の方法では、テトラスパニンタンパク質は、Tspan1、Tspan2、Tspan3、Tspan4、Tspan5、Tspan6、Tspan7、Tspan8、Tspan9、Tspan10、Tspan11、Tspan12、Tspan13、Tspan14、Tspan15、Tspan16、Tspan17、Tspan18、Tspan19、Tspan20(UPK1B)、Tspan21(UPK1A)、Tspan22(PRPH2)、Tspan23(ROM1)、Tspan24(CD151)、Tspan25(CD53)、Tspan26(CD37)、Tspan27(CD82)、Tspan28(CD81)、Tspan29(CD9)、Tspan30(CD63)、Tspan31、Tspan32、およびTspan33から選択されてもよい。
【0157】
例えば、本出願の方法では、本方法は、マイグラソームのサイズを減少させることをさらに含んでもよい。
【0158】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームのサイズを減少させることは、フィルタまたは押出機でマイグラソームを押し出すことを含んでもよい。
【0159】
例えば、本出願の方法では、フィルタまたは押出機は、約30nm~約10000nmの孔径を有してもよい。例えば、フィルタまたは押出機は、約30nm~約100nm、約30nm~約1000nm、約30nm~約10000nm、約50nm~約100nm、約50nm~約1000nm、約50nm~約10000nm、約100nm~約1000nm、約100nm~約10000nm、または約1000nm~約10000nmの孔径を有してもよい。
【0160】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームは、約50nm~約8000nmのサイズを有してもよい。例えば、マイグラソームは、約50nm~約100nm、約50nm~約1000nm、約50nm~約10000nm、約100nm~約1000nm、約100nm~約10000nm、または約1000nm~約10000nmのサイズを有してもよい。
【0161】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームは、細胞のリトラクションファイバーから生成されてもよい。
【0162】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームの膜は、ナトリウム/カリウムATPアーゼおよび/またはその機能的断片で富化されていてもよい。例えば、本出願の方法では、マイグラソームの膜は、インテグリンおよび/またはその機能的断片で富化されていてもよい。例えば、本出願の方法では、マイグラソームの膜は、テトラスパニンタンパク質、その機能的変異体、および/またはその機能的断片で富化されていてもよい。例えば、本出願の方法では、マイグラソームの膜は、コレステロールで富化されていてもよい。例えば、富化は、対応する細胞の細胞膜上の他の部分と比較したときの状態、またはマイグラソームの産生前の対応する細胞膜の状態と比較したときの状態を指し得る。例えば、富化は、本出願のマイグラソーム上の分子または物質の密度が、該マイグラソームを産生する細胞膜上の対応する分子または物質の密度よりも高いという事実を指す。
【0163】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームは、膜マイクロドメインで富化されていてもよい。例えば、膜マイクロドメインは、脂質ラフト、テトラスパニンに富むマイクロドメイン(TEM)などを含む、スフィンゴ脂質およびコレステロール(Ch)に基づく細胞膜マイクロドメインを指す。
【0164】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームは、インビトロまたはエクスビボで産生されてもよい。
【0165】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームの内容物は、同じ細胞によって産生される天然のマイグラソームと比較して少なくとも部分的に減少しているか、または存在しなくてもよい。例えば、NRK細胞によって産生される工学的マイグラソームの場合、天然のマイグラソームと比較して4000以上のタンパク質がマイグラソームに存在せず、天然のマイグラソームは、天然のマイグラソームには見られない約1350のタンパク質(すなわち、余分なタンパク質)、例えば、AMP3、Myh4、Gorasp2、Asz1、Lats2、Scn2b、Pacsin1、およびAlbを有する。例えば、「天然のマイグラソーム」は、外部培養条件(例えば、低張性、温度など)を変更することなく自発的に移動する細胞によって産生されるマイグラソームを指し得るが、「工学的マイグラソーム」は、外部刺激によって誘導された相対移動を受けた細胞によって産生されるマイグラソームを指し得る。
【0166】
例えば、本出願の方法では、少なくとも部分的に減少した内容物は、管腔内小胞を含んでもよい。例えば、本出願によって提供される工学的マイグラソームは、内部の管腔内小胞が少ない。管腔内小胞は、外膜構造中にリン脂質二重層構造を有する小胞を指し得る。
【0167】
例えば、本出願の方法では、本方法は、インビトロ法またはエクスビボ法であってもよい。例えば、本出願における作製方法は、インビトロで行われてもよい。例えば、本出願における作製方法は、生体内で行われなくてもよい。
【0168】
例えば、本出願の方法では、細胞は、インビトロで培養された細胞であってもよい。
【0169】
例えば、本出願の方法では、細胞は、浮遊培養された細胞または接着培養された細胞であってもよい。
【0170】
例えば、本出願の方法では、細胞は、初代細胞を含んでもよい。
【0171】
例えば、本出願の方法では、初代細胞は、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、および/または昆虫を含んでもよい生物に由来する組織細胞を含んでもよい。
【0172】
例えば、本出願の方法では、初代細胞は、肝臓細胞、脾臓細胞、腎臓細胞、組織マクロファージ、脳グリア細胞、破骨細胞、骨髄細胞、白血球、線維芽細胞、および/または脂肪細胞を含んでもよい。例えば、本出願における初代細胞は、クッパー細胞、例えば、肝類洞の内面に位置し、外来抗原、抗原抗体複合体、および血液由来の細胞残屑などの物質を捕捉することができる食細胞の一種を含んでもよい。
【0173】
例えば、本出願の方法では、白血球は、B細胞、T細胞、NK細胞、樹状細胞、好中球、および/またはマクロファージを含んでもよい。
【0174】
例えば、本出願の方法では、細胞は、腫瘍細胞を含んでもよい。
【0175】
例えば、本出願の方法では、腫瘍細胞は、腫瘍細胞株、患者に由来する初代腫瘍細胞もしくは継代を制限した腫瘍細胞、腫瘍間質細胞、および/または腫瘍オルガノイドを含んでもよい。
【0176】
例えば、本出願の方法では、細胞は、CHO細胞、CHO-K1細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、HEK293FT細胞、HEK293F細胞、Vero細胞、NRK細胞、L929細胞、MC38細胞、4T1細胞、DC2.4細胞、MGC803細胞、Jurkat細胞、NK-92MI細胞、BJ細胞、および/またはHepG2細胞を含んでもよい。
【0177】
例えば、本出願の方法では、細胞は、白血球、幹細胞、および/または線維芽細胞を含んでもよい。
【0178】
例えば、本出願の方法では、幹細胞は、間葉系幹細胞を含んでもよい。
【0179】
例えば、本出願は、本出願の方法で作製されたマイグラソームを提供する。例えば、本出願は、工学的アプローチによって生産され得る新しい細胞外小胞、すなわち工学的マイグラソーム、および/または工学的アプローチによって高効率で細胞によって強制的に生産されるマイグラソーム、および/または上記マイグラソームのいずれか1つを含む組成物を提供する。工学的マイグラソームは、50~8000ナノメートル(nm)のサイズを有し、インテグリンおよびテトラスパニン(Tspan)ファミリーメンバーなどのタンパク質で富化されている膜を有する。場合によっては、工学的マイグラソームは、膜マイクロドメインの存在に起因して細胞の周囲の糸状構造上で成長するが、細胞から自発的に放出されるか、もしくは人工的に単離されることで、完全な小胞様構造を得ることができ、かつ/または工学的マイグラソームの生化学的組成、形態、および構造は、同じ細胞によって産生される天然のマイグラソームのものと同様である。工学的マイグラソームはまた、用途ニーズに従って特異的に調節して、構造および生化学的組成の点で細胞の天然のマイグラソームとは大きく異なる小胞様構造を得てもよい。例えば、本出願は、種々の疾患(例えば、腫瘍、炎症性/自己免疫疾患、心血管疾患、神経変性疾患、および他の神経疾患など)のための治療およびワクチンの分野における薬物搭載送達ベクターとしてのマイグラソーム/工学的マイグラソームの使用を提供する。
【0180】
マイグラソームは、新たに発見された細胞小器官であり、直径0.5~3μmの単層膜小胞構造であり、細胞移動中に細胞の後ろに残るリトラクションファイバーの先端または交差部で産生される。例えば、細胞移動中、細胞体は、細胞内物質をマイグラソームに連続的に輸送する。その後、リトラクションファイバーが切断され、マイグラソームが局所的に放出されるか、または血液などの体液を介して遠隔組織に輸送され、次いで細胞外空間内またはその周囲の細胞によって取り込まれ得る。これは、マイグラソームが、細胞内物質および細胞間シグナルの伝達に関与し、それによって細胞間コミュニケーションを媒介し得ることを示唆している(Liang Ma et.al.,Discovery of the migrasome,an organelle mediating release of cytoplasmic contents during cell migration,Cell Res(2015)25:24-38)。
【0181】
研究により、マイグラソームが、胚発生、免疫応答、腫瘍、血管新生、組織再生、および活発な細胞移動を伴う他のプロセスにおいて重要なシグナル伝達の役割を果たすことが示されている。ゼブラフィッシュ胚発生におけるマイグラソームに関する研究により、シグナル分子の膜被覆ベクターとしてマイグラソームが、シグナル分子の時空間分布を決定し、それにより、器官発生を調節するように機能することが見出されている(Jiang D et.at.,Migrasomes provide regional cues for organ morphogenesis during zebrafish gastrulation,Nat Cell Biol,2019,21(8):966-977)。マイグラソームは、タンパク質およびmRNAの細胞間移動を媒介することができ、これらはマイグラソームを介してレシピエント細胞に移され、それによってレシピエント細胞の生命活動を変化させる(Zhu M et.al.,Lateral transfer of mRNA and protein by migrasomes modifies the recipient cells,Cell Res,2020,doi;10.1038/s41422-020-00415-3)。マイグラソームは、損傷したミトコンドリアを除去することによってミトコンドリアの品質を調節し、それによって細胞内のミトコンドリアの恒常性を維持することができる(Jiang H et.al.,Mitocytosis,a migrasome-mediated mitochondrial quality control process,Cell Press,doi:10.1016/j.cell.2021.04.027)。マイグラソームは、腫瘍微小環境における癌細胞に対する調節効果を有する。例えば、膵臓癌細胞では、マイグラソームは、阻害性免疫微小環境を誘導して腫瘍成長を促進することができる(Zhang R H,A study of inter-regulatory effects of migrasomes in pancreatic cancer cells on phenotype and function of cancer cells and related immune cells in tumor microenvironment,2020)。
【0182】
剥離されたマイグラソームは、細胞外小胞の一種であり、既知の細胞外小胞との多くの差異を示す。例えば、剥離されたマイグラソームとエクソソームとの差異は、以下にある:1)異なる構造:マイグラソームは、放出される前にリトラクションファイバーに結合し、大型小胞に含まれる小型小胞を有する構造を示すが、エクソソームはそのような構造を有さない;2)異なるサイズ:エクソソームの直径は約50~150nmであり、一方、マイグラソームの直径は約0.5~3μmである;3)明らかに異なるタンパク質組成:マイグラソームおよびエクソソームは、タンパク質組成の27%のみを共有し、例えば、NDST1(二機能性ヘパラン硫酸N-デアセチラーゼ/N-スルホトランスフェラーゼ1)、PIGK(ホスファチジルイノシトールグリカンアンカー型生合成クラスK)、CPQ(カルボキシペプチダーゼQ)、およびEOGT(EGFドメイン特異的O結合型N-アセチルグルコサミントランスフェラーゼ)は、マイグラソーム上で富化されているが、エクソソーム中には存在しない(Zhao X,Lei Y,Zheng J,Peng J,Li Y,Yu L,Chen Y.Identification of markers for migrasome detection.Cell Discov.2019 May 21;5:27);ならびに4)異なる遺伝経路による調節に起因する完全に異なる生合成プロセス:エクソソームは、最初に多胞体(MVB)の小胞として産生され、MVBが原形質膜に融合されると放出されるが、マイグラソームは、原形質膜上の大きなドメインの集合によって形成される(Huang Y,Zucker B,Zhang S,Elias S,Zhu Y,Chen H,Ding T,Li Y,Sun Y,Lou J,Kozlov MM*,Yu L*.Migrasome formation is mediated by assembly of micron-scale tetraspanin macrodomains.Nat Cell Biol.2019 Aug;21(8):991-1002)。
【0183】
本出願では、天然のマイグラソームと構造が同様である工学的マイグラソームの生成を様々な方法によって誘導することができることが見出された。これらの工学的マイグラソームは、当技術分野で公知の「低張誘導型小胞」(例えば、
図1に示すような、Cohen S,Ushiro H,Stoscheck C,Chinkers MA native 170 000 epidermal growth factor receptor-kinase complex from shed plasma membrane vesicles.J Biol Chem 257:1523-1531における小胞)とは異なる。それらは、少なくとも以下の差異を有する:1)異なる小胞産生部位:工学的マイグラソームは、細胞の周囲のリトラクションファイバー上で産生されるが、小胞は、Cohenらによれば細胞の上面上で産生される;2)異なる小胞サイズ:工学的マイグラソームは、ミクロンレベルのサイズを有し、5μmを超えることはめったにない直径を有するが、低浸透圧を用いてCohenらによって誘導された小胞は、20μmもの大きなものであり得る;および3)Cohenらによる低張誘導の方法とは異なり、本出願において低張性は、工学的マイグラソームの産生に必要でなくてもよく、他の方法によって誘導することができる。
【0184】
現在、工学的細胞外小胞は、薬物送達およびワクチン作製など、重要な生物医学分野に広く応用されている。例えば、工学的エクソソーム(Kamerkar S,LeBleu VS,Sugimoto H,Yang S,Ruivo CF,Melo SA,Lee JJ,Kalluri R.Exosomes facilitate therapeutic targeting of oncogenic KRAS in pancreatic cancer.Nature.2017 Jun 22;546(7659):498-503.doi:10.1038/nature22341)は、以下の主な利点を有する:天然の生体膜源および低い毒性;免疫原性が低いため、免疫系によって除去されにくく、内部循環時間が長くなること;ならびに-80℃での長期保存を可能にする性質の安定性。しかしながら、それらはまた、明らかな制限、例えば、低い収率;精製中の超遠心分離機への依存;主要内容物は精製後に搭載される核酸;などを示す。
【0185】
本出願では、工学的マイグラソームは生物学的起源のものであり、エクソソームなどの生物学的起源の細胞外小胞と低毒性および低免疫原性の利点を共有することが見出された。工学的マイグラソームは、カーゴタイプおよびインビボでの体内分布においてユニークな特徴を有する新たに発見された細胞外小胞であり、同時に、工学的マイグラソームを作製する方法は、高収率で簡便である。要約すると、本出願によって発見された工学的マイグラソームは、薬物送達およびワクチン作製など、生物医学分野において大きな可能性を有する。
【0186】
工学的マイグラソームを作製する方法は、細胞を人工的に誘導して工学的マイグラソームを産生させること、ならびに工学的マイグラソームを単離および/もしくは精製すること、ならびに/または細胞膜と培養環境(接着した固体表面および周囲の液体環境を含む)との間で強制的に相対移動させることを含む。移動には、天然の細胞移動パターン、または細胞内スケールでの環境に対する細胞膜の相対移動が含まれるが、これらに限定されない。
【0187】
別の態様では、本出願は、インビトロまたはエクスビボで作製されたマイグラソームを提供する。マイグラソームは、約50nm~約8000nmのサイズを有してもよい。
【0188】
例えば、本出願のマイグラソームでは、マイグラソームは、細胞のリトラクションファイバーからインビトロで産生されてもよい。
【0189】
例えば、本出願のマイグラソームでは、マイグラソームの膜は、ナトリウム/カリウムATPアーゼおよび/またはその機能的断片で富化されていてもよい。
【0190】
例えば、本出願のマイグラソームでは、マイグラソームの膜は、インテグリンおよび/またはその機能的断片で富化されていてもよい。
【0191】
例えば、本出願のマイグラソームでは、マイグラソームの膜は、テトラスパニンタンパク質、その機能的変異体、および/またはその機能的断片で富化されていてもよい。
【0192】
例えば、本出願のマイグラソームでは、マイグラソームの膜は、コレステロールで富化されていてもよい。
【0193】
例えば、本出願のマイグラソームでは、マイグラソームは、膜マイクロドメインで富化されていてもよい。
【0194】
例えば、本出願のマイグラソームでは、マイグラソームの内容物は、対応する細胞によって産生される天然のマイグラソームと比較して少なくとも部分的に減少しているか、または存在しなくてもよい。
【0195】
例えば、本出願のマイグラソームでは、少なくとも部分的に減少した内容物は、管腔内小胞を含んでもよい。
【0196】
別の態様では、本出願は、外因性カーゴの送達におけるマイグラソームの使用を提供する。例えば、「外因性カーゴ」は、細胞自体によって産生されないか、もしくは同等の量で産生(例えば発現)されない物質、または、この物質が細胞自体で産生されるとしても、外因性カーゴとして、上述した物質のように細胞自体で産生される物質と構造的もしくは機能的に異なる物質を指す場合がある。
【0197】
例えば、本出願の使用では、マイグラソームは、本出願のマイグラソームを含んでもよい。
【0198】
別の態様では、本出願は、マイグラソームおよび1つ以上の外因性カーゴを含んでもよい送達系を提供する。
【0199】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、直接的または間接的に、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、コンジュゲートされるか、またはインターカレートされてもよい。
【0200】
例えば、本出願の送達系では、マイグラソームは、本出願のマイグラソームを含んでもよい。
【0201】
例えば、本出願の送達系では、マイグラソームは、細胞に由来してもよい。
【0202】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、1つ以上の標的化物質および/または治療活性物質を含んでもよい。
【0203】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、タンパク質、脂質、ポリヌクレオチド、小分子化合物、複合体、多糖、ポリマー、ナノ粒子、マイクロ粒子、および/または細胞小器官を含んでもよい。
【0204】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、膜タンパク質、可溶性タンパク質、および/またはポリペプチドを含んでもよい。
【0205】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、DNAおよび/またはRNAを含んでもよい。
【0206】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、抗体もしくはその抗原結合抗体断片、インテグリンもしくはその断片、免疫原性タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、受容体タンパク質もしくはその断片、酵素、癌抑制遺伝子産物、siRNA、マイクロRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、mRNA、DNA、遺伝子編集ツール、および/または細胞傷害剤を含んでもよい。例えば、遺伝子編集ツールには、ヌクレアーゼ、例えばCasタンパク質、CRISPR-Casシステム、Creリコンビナーゼ、ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ、および遺伝子エピジェネティック編集ツールが含まれてもよい。
【0207】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、PAMP、DAMP、CD47、CD24、IL-12、IL-15、凝固第VII因子、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、および/またはそれらの機能的に活性な断片を含んでもよい。
【0208】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、遺伝子編集、外因性発現、液体-固体変換、膜融合、電荷吸着、物理的吸着、および/または化学的結合によって、直接的または間接的にマイグラソームに組み込まれてもよい。例えば、外因性発現は、例えば遺伝子の一過性のまたは安定な過剰発現を有する細胞株を樹立するための、例えばプラスミド発現を含んでもよい。
【0209】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、マイグラソームの膜成分への直接的または間接的なコンジュゲーションによって、マイグラソームに組み込まれるか、またはインターカレートされてもよい。
【0210】
例えば、本出願の送達系では、マイグラソームの膜成分は、膜タンパク質、コレステロール、リン脂質、糖タンパク質上の炭水化物鎖、および/または多糖を含んでもよい。
【0211】
例えば、本出願の送達系では、間接的なコンジュゲーションは、クリックケミストリーによる結合を含んでもよい。
【0212】
例えば、本出願の送達系では、間接的なコンジュゲーションは、結合対の第1のメンバーにコンジュゲートされた外因性カーゴを提供すること、および外因性カーゴをマイグラソームと接触させることを含んでもよく、ここで、マイグラソームの膜は、結合対の第2のメンバーを含み、第1のメンバーは、第2のメンバーに結合することができる。
【0213】
例えば、本出願の送達系では、結合対の第1および第2のメンバーは、抗原およびその抗体;受容体およびそのリガンド;ビオチンおよびアビジン;HaloTagおよびそのリガンド;ならびにCP05およびCD63から選択されてもよい。
【0214】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、膜タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現されてもよい。例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現されてもよい。
【0215】
例えば、本出願の送達系では、外因性カーゴは、遺伝子編集および/または外因性発現によって、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現されてもよい。
【0216】
別の態様では、本出願は、送達系を作製する方法を提供する。本方法は、マイグラソームを提供すること、およびマイグラソームに外因性カーゴを担持させることを含んでもよい。例えば、マイグラソームによって担持される外因性カーゴは、可逆的に結合された外因性カーゴを含んでもよい。例えば、マイグラソームによって担持される外因性カーゴは、不可逆的にコンジュゲートされた外因性カーゴを含んでもよい。
【0217】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームは、単離または精製されたマイグラソームであってもよい。
【0218】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームに外因性カーゴを担持させることは、直接的または間接的に、外因性カーゴをマイグラソームの膜および/または内部に組み込むか、またはインターカレートすることを含んでもよい。
【0219】
例えば、本出願の方法では、本方法は、細胞からマイグラソームを単離または精製することをさらに含んでもよい。
【0220】
例えば、本出願の方法では、本方法は、外因性カーゴと結合対の第1のメンバーとの複合体を提供すること、細胞に、結合対の第2のメンバーを含んでもよいマイグラソームを産生させること、およびマイグラソームを複合体と接触させて、送達系を形成することを含んでもよい。
【0221】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームは、本出願のマイグラソームを含んでもよい。
【0222】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームは、細胞に由来してもよい。
【0223】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、1つ以上の標的化物質および/または治療活性物質を含んでもよい。
【0224】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、タンパク質、脂質、ポリヌクレオチド、小分子化合物、複合体、多糖、ポリマー、ナノ粒子、マイクロ粒子、および/または細胞小器官を含んでもよい。
【0225】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、膜タンパク質、可溶性タンパク質、および/またはポリペプチドを含んでもよい。
【0226】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、DNAおよび/またはRNAを含んでもよい。
【0227】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、抗体もしくはその抗原結合抗体断片、インテグリンもしくはその断片、免疫原性タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、受容体タンパク質もしくはその断片、酵素、癌抑制遺伝子産物、siRNA、マイクロRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、mRNA、DNA、遺伝子編集ツール、および/または細胞傷害剤を含んでもよい。
【0228】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、PAMP、DAMP、CD47、CD24、IL-12、IL-15、凝固第VII因子、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、および/またはそれらの機能的に活性な断片を含んでもよい。
【0229】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、遺伝子編集、外因性発現、液体-固体変換、膜融合、電荷吸着、物理的吸着、および/または化学的結合によって、直接的または間接的にマイグラソームに組み込まれてもよい。
【0230】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、マイグラソームの膜成分への直接的または間接的なコンジュゲーションによって、マイグラソームに組み込まれるか、またはインターカレートされてもよい。
【0231】
例えば、本出願の方法では、マイグラソームの膜成分は、膜タンパク質、コレステロール、リン脂質、糖タンパク質上の炭水化物鎖、および/または多糖を含んでもよい。
【0232】
例えば、本出願の方法では、間接的なコンジュゲーションは、クリックケミストリーによる結合を含んでもよい。
【0233】
例えば、本出願の方法では、間接的なコンジュゲーションは、結合対の第1のメンバーにコンジュゲートされた外因性カーゴを提供すること、および外因性カーゴをマイグラソームと接触させることを含んでもよく、ここで、マイグラソームの膜は、結合対の第2のメンバーを含み、第1のメンバーは、第2のメンバーに結合することができる。
【0234】
例えば、本出願の方法では、結合対の第1および第2のメンバーは、抗原およびその抗体;受容体およびそのリガンド;ビオチンおよびアビジン;HaloTagおよびそのリガンド;ならびにCP05およびCD63から選択されてもよい。
【0235】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、膜タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現されてもよい。
【0236】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現されてもよい。
【0237】
別の態様では、本出願は、送達系を作製する方法であって、細胞にmRNAを発現させること、細胞に、mRNA結合タンパク質を含んでもよいマイグラソームを産生させること、およびmRNA結合タンパク質を介してmRNAをマイグラソームに結合させることを含んでもよい方法を提供する。例えば、mRNA結合タンパク質は、mRNAに結合するためのタンパク質形成複合体を含んでもよい。例えば、RNA結合タンパク質は、RNA認識モチーフを含む。RNA結合タンパク質は、天然または不活性化ヌクレアーゼ活性を有する。RNA結合タンパク質またはその機能的ドメインは、Cys2-His2、Gag-ナックル、Trebleclet、ジンクリボン、Zn2/Cys6様モチーフを含んでもよい。例示的なmRNA結合タンパク質には、RNA結合タンパク質(RBP)が含まれてもよいが、これに限定されない。
【0238】
別の態様では、本出願は、送達系を作製する方法であって、細胞に細胞膜上で外因性カーゴを発現させること、および細胞に、外因性カーゴを含んでもよいマイグラソームを産生させることを含んでもよい方法を提供する。外因性カーゴを発現させることは、遺伝子編集または外因性発現、例えばプラスミド発現によって実施されてもよい。
【0239】
例えば、本出願の方法では、外因性カーゴは、タンパク質であってもよい。
【0240】
例えば、本出願の方法では、タンパク質は、膜タンパク質であってもよい。
【0241】
例えば、本出願の方法では、タンパク質は、可溶性タンパク質であってもよく、膜タンパク質またはその部分に融合して融合タンパク質を形成してもよい。
【0242】
別の態様では、本出願は、本出願のマイグラソームまたは本出願の送達系を含んでもよい組成物を提供する。
【0243】
1.工学的マイグラソームを作製する方法であって、
(a)細胞を以下のうちの1つ以上で処理して、細胞を誘導して工学的マイグラソームを産生させること:
(1)低張処理、
(2)細胞の細胞骨格を破壊すること、
(3)細胞の細胞体積調節機能を抑制すること、および
(4)細胞に、テトラスパニンファミリーのメンバーから選択される1つ以上のタンパク質を過剰発現させること、および
(5)細胞を接着した表面から迅速に剥離するように誘導すること、または細胞膜を誘導して接着した表面に対して相対移動させること。
(b)工学的マイグラソームを単離および/または精製すること
を含む方法。
【0244】
2.工程(a)において、(2)~(5)の少なくとも1つの処理が行われるか、または(1)~(5)の少なくとも2つの処理、少なくとも3つの処理、少なくとも4つの処理、もしくは5つすべての処理が行われる、技術的解決策1に記載の方法。
【0245】
3.工程(a)が、細胞に低張処理を行うことを含む、技術的解決策1または2に記載の方法。
【0246】
4.低張処理が、細胞を、浸透圧が30.5~274.5mOsmol/L、例えば30.5~150mOsmol/Lである低張緩衝液に入れることによって行われる、技術的解決策1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0247】
5.低張処理が、細胞を緩衝液に入れ、緩衝液の浸透圧を30.5~274.5mOsmol/L、例えば30.5~150mOsmol/Lに減少させることによって行われる、技術的解決策1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0248】
6.緩衝液の浸透圧の減少が、線形減少または段階的減少を含む、技術的解決策5に記載の方法。
【0249】
7.工程(a)が、細胞の細胞骨格を破壊することを含む、技術的解決策1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0250】
8.細胞の細胞骨格が、細胞を細胞骨格破壊試薬と接触させることによって破壊される、技術的解決策7に記載の方法。
【0251】
9.細胞骨格破壊試薬が、例えば、ラトルンクリンA、ラトルンクリンB、サイトカラシンA、サイトカラシンB、サイトカラシンC、サイトカラシンD、およびサイトカラシンEから選択されるマイクロフィラメント解重合剤を含む、技術的解決策8に記載の方法。
【0252】
10.工程(a)が、細胞の細胞体積調節機能を抑制することを含む、技術的解決策1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0253】
11.細胞の細胞体積調節機能が、細胞における細胞体積調節タンパク質の発現または活性を抑制することによって抑制される、技術的解決策10に記載の方法。
【0254】
12.細胞体積調節タンパク質が、イオンチャネルおよびトランスポーターから選択される、技術的解決策11に記載の方法。
【0255】
13.細胞体積調節タンパク質が、体積調節アニオンチャネル(VRAC)、例えばSWELL1;体積調節カチオンチャネル(VRCC)、例えばTRPV4およびTRPM3;ならびにコトランスポーター、例えばKCC1、KCC3、およびKCC4から選択される、技術的解決策12に記載の方法。
【0256】
14.細胞の細胞体積調節機能が、細胞体積の変化を調節する能力が低下したカチオンまたはアニオンを含有する緩衝液に細胞を入れることによって抑制される、技術的解決策10に記載の方法。
【0257】
15.カチオンが、K+、Na+、Cs+、Li+、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Mn2+、Fe2+、Ni2+、Zn2+、Al3+、Fe3+、CH3NH3
+、C2H5NH3
+、(CH3)2NH2
+、(C2H5)2NH2
+、(C2H5)3N+、アンモニアイオン、および/またはコリンイオンのうちの1つ以上から選択される、技術的解決策14に記載の方法。
【0258】
16.アニオンが、Br-、Cl-、I-、F-、OH-、HCO3-、H2PO4
-、NO2
-、NO3
-、CN-、HPO4
2-、CO3
2-、SO4
2-、および/またはPO4
3-のうちの1つ以上から選択される、技術的解決策14に記載の方法。
【0259】
17.工程(a)が、細胞に、テトラスパニンファミリーのメンバーから選択される1つ以上のタンパク質を過剰発現させることを含む、技術的解決策1~16のいずれか1つに記載の方法。
【0260】
18.テトラスパニンファミリーのメンバーが、Tspan1、Tspan2、Tspan3、Tspan4、Tspan5、Tspan6、Tspan7、Tspan8、Tspan9、Tspan10、Tspan11、Tspan12、Tspan13、Tspan14、Tspan15、Tspan16、Tspan17、Tspan18、Tspan19、Tspan20(UPK1B)、Tspan21(UPK1A)、Tspan22(PRPH2)、Tspan23(ROM1)、Tspan24(CD151)、Tspan25(CD53)、Tspan26(CD37)、Tspan27(CD82)、Tspan28(CD81)、Tspan29(CD9)、Tspan30(CD63)、Tspan31、Tspan32、およびTspan33を含む、技術的解決策17に記載の方法。
【0261】
19.工程(a)が、細胞にTspan4を過剰発現させることを含む、技術的解決策17に記載の方法。
【0262】
20.工学的マイグラソームのサイズを減少させることをさらに含む、技術的解決策1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0263】
21.工学的マイグラソームのサイズが、特定の孔径のフィルタを使用して工学的マイグラソームを押し出すことによって減少され、任意選択で、減少した工学的マイグラソームのサイズが、ナノスケール、例えば50~200nmである、技術的解決策20に記載の方法。
【0264】
22.細胞が、正常細胞または癌細胞である、技術的解決策1~21のいずれか1つに記載の方法。
【0265】
23.技術的解決策1~22のいずれか1つに記載の方法によって作製される工学的マイグラソーム。
【0266】
24.単離または精製されたマイグラソームおよびカーゴを含む送達系であって、カーゴが、直接的または間接的にマイグラソームの膜に組み込まれる、送達系。
【0267】
25.マイグラソームが、天然のマイグラソームおよび人工的に誘導された工学的マイグラソームから選択される、技術的解決策24に記載の送達系。
【0268】
26.工学的マイグラソームが、技術的解決策1~22のいずれか1つに記載の方法によって産生される、技術的解決策25に記載の送達系。
【0269】
27.カーゴが、膜タンパク質および可溶性タンパク質などのタンパク質、ペプチド、DNAおよびRNAなどの核酸、ならびに小分子化合物から選択される、技術的解決策24~26のいずれか1つに記載の送達系。
【0270】
28.カーゴが、治療用タンパク質、免疫原性タンパク質、サイトカイン、酵素、siRNA、マイクロRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、mRNA、CRISPRシステム、細胞傷害剤、治療用小分子、および標的化分子から選択される、技術的解決策24~26のいずれか1つに記載の送達系。
【0271】
29.標的化分子が、抗体またはその抗原結合断片;インテグリン;PAMPおよびDAMPなどのfind-me/eat meシグナル;ならびにCD47およびCD24などのdon’t-eat-meシグナルから選択される、技術的解決策28に記載の送達系。
【0272】
30.カーゴが、物理的吸着または化学的結合によって、マイグラソームの膜に組み込まれるか、またはインターカレートされる、技術的解決策24~29のいずれか1つに記載の送達系。
【0273】
31.カーゴが、
(1)マイグラソームの膜タンパク質またはコレステロールなどの膜成分にコンジュゲートすること、
(2)好ましくはクリックケミストリーによって、マイグラソームの膜に結合したタンパク質またはペプチドにコンジュゲートすること、および
(3)結合対の第1のメンバーにコンジュゲートすることであって、マイグラソームの膜が、結合対の第2のメンバーを含み、カーゴが、第1のメンバーと第2のメンバーとの結合によってマイグラソームの膜に結合される、こと
からなる群から選択される方法でマイグラソームの膜に組み込まれるか、またはインターカレートされる、技術的解決策22~29のいずれか1つに記載の送達系。
【0274】
32.結合対が、受容体-リガンド結合対を含む、技術的解決策31に記載の送達系。
【0275】
33.結合対が、HaloTagおよびそのリガンド、またはCP05およびCD63を含む、技術的解決策32に記載の送達系。
【0276】
34.カーゴがmRNAであり、マイグラソームの膜が、mRNA結合タンパク質を含み、mRNAが、そのタンパク質結合部位3’-UTRを介してmRNA結合タンパク質に結合して、マイグラソームの膜にコンジュゲートする、技術的解決策31に記載の送達系。
【0277】
35.カーゴが、膜タンパク質として、マイグラソームの膜の表面上で発現される、技術的解決策24~29のいずれか1つに記載の送達系。
【0278】
36.カーゴが、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の表面上で発現される、技術的解決策24~29のいずれか1つに記載の送達系。
【0279】
37.単離または精製されたマイグラソームと、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNAおよびRNA)、および小分子化合物からなる群から選択されるカーゴとを含む送達系を産生する方法であって、
細胞からマイグラソームを単離または精製することであって、マイグラソームが、天然のマイグラソームまたは人工的に誘導された工学的マイグラソームである、こと、および
カーゴを直接的または間接的にマイグラソームの膜に結合させ、それによって送達系を産生することを含む方法。
【0280】
38.カーゴが、物理的吸着または化学的結合によって、マイグラソームの膜に組み込まれる、技術的解決策37に記載の方法。
【0281】
39.カーゴが、
(1)カーゴを、マイグラソームの膜タンパク質またはコレステロールなどの膜成分にコンジュゲートすること、
(2)カーゴを、好ましくはクリックケミストリーによって、マイグラソームの膜に結合したタンパク質またはペプチドにコンジュゲートすること
からなる群から選択される方法で、マイグラソームの膜に組み込まれる、技術的解決策37に記載の方法。
【0282】
40.工学的マイグラソームと、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNAおよびRNA)、および小分子化合物からなる群から選択されるカーゴとを含む送達系を産生する方法であって、カーゴが、結合対の第1のメンバーにコンジュゲートされ、マイグラソームの膜が、結合対の第2のメンバーを含み、本方法が、
細胞に細胞膜上で結合対の第2のメンバーを発現させること、
細胞により、結合対の第2のメンバーを含む膜を有する工学的マイグラソームを産生すること、および
カーゴと結合対の第1のメンバーとの複合体を工学的マイグラソームと接触させ、それにより、第1のメンバーの第2のメンバーとの結合によって送達系を産生することを含む、方法。
【0283】
41.結合対が、受容体-リガンド結合対を含む、技術的解決策40に記載の方法。
【0284】
42.結合対が、HaloTagおよびそのリガンド、またはCP05およびCD63を含む、技術的解決策41に記載の方法。
【0285】
43.工学的マイグラソームおよびカーゴを含む送達系を産生する方法であって、カーゴがmRNAであり、マイグラソームの膜が、mRNA結合タンパク質を含み、mRNAが、そのタンパク質結合部位3’-UTRを介してmRNA結合タンパク質にコンジュゲートし、本方法が、
細胞にmRNAを発現させること、
上記の工程の前、後、またはそれと同時に、細胞に細胞膜上でmRNA結合タンパク質を発現させること、および細胞により、工学的マイグラソームおよびmRNAを含む送達系を産生することであって、mRNAが、mRNA結合タンパク質に結合することによって工学的マイグラソームの膜にコンジュゲートされる、ことを含む、方法。
【0286】
44.工学的マイグラソームおよびカーゴを含む送達系を産生する方法であって、カーゴが、タンパク質であり、工学的マイグラソームの膜の表面上で発現され、本方法が、
細胞に細胞膜上でタンパク質を発現させること、ならびに
細胞により、工学的マイグラソームと、工学的マイグラソームの膜の表面上で発現されるタンパク質とを含む送達系を産生することを含む、方法。
【0287】
45.タンパク質が、膜タンパク質である、技術的解決策44に記載の方法。
【0288】
46.タンパク質が、可溶性タンパク質であり、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の表面上で発現される、技術的解決策44に記載の方法。
【0289】
47.工学的マイグラソームが、技術的解決策1~22のいずれか1つに記載の方法によって産生される、技術的解決策37~46のいずれか1つに記載の方法。
【0290】
薬物コンジュゲート型送達系および非生物由来薬物送達系と比較して、本出願のマイグラソーム送達系は、生体適合性がより良好であり、カーゴタイプがより多く、容量がより大きく、標的化を増強または変更するための膜改変がより容易である。工学的エクソソームおよび工学的赤血球と比較して、マイグラソーム送達系は、高い生体適合性および改変の容易さを保持するが、マイグラソームは、薬物、特に高分子量タンパク質および核酸がより効率的に送達されるように、伝統的な小型小胞(エクソソームなど)よりも大きい。一方、マイグラソーム送達系は改変性が高く、送達される必要がある薬物、および標的化される必要がある細胞に応じて、マイグラソームおよび膜に搭載される物質のサイズが調整され得る。マイグラソームはまた、低毒性という利点を有し、膜成分の変換および修飾をより容易にしている。さらに、工学的マイグラソームの作製は、超高速遠心分離も毎回の血液抽出も必要とせず、作製時間およびコストを大幅に削減する。
【0291】
したがって、既存の薬物送達系と比較して、本出願のマイグラソーム送達系は、低毒性、高容量、改変の容易さ、迅速な生産、および低コストという特徴を有し、調整可能な抗原性によりユニークな抗原提示効果を有し、ワクチン送達プラットフォームとして使用され得る。
【0292】
本出願人は、低張処理を行うこと、細胞の細胞骨格を破壊すること、細胞の細胞体積調節機能を抑制することおよび細胞にテトラスパニンファミリーのメンバーを過剰発現させること、表面または細胞膜からの迅速な剥離によって細胞の相対移動を調節することのうちの1つ以上で細胞を処理することによって、細胞を誘導して工学的マイグラソームを産生させることができることを見出した。
【0293】
マイグラソームは、小胞構造を有するが、エクソソームを含む他の細胞外小胞とは異なる。マイグラソームは、厳密な意味では細胞外小胞に属さなくてもよい。細胞から剥離されたマイグラソームは細胞外小胞であるが、マイグラソームの多くの機能は、細胞体からの剥離の前に達成される。これが、マイグラソームが単なる細胞外小胞ではなく細胞小器官と考えられる理由である。細胞外小胞(剥離されたマイグラソーム)の産生は、マイグラソームの多くの機能の1つにすぎない。
【0294】
剥離されたマイグラソームは、細胞外小胞の一種であり、以下のようにエクソソームとは多くの差異を示す:例えば、1)異なる構造:マイグラソームは、放出される前にリトラクションファイバーに結合し、大型小胞に含まれる小型小胞を有する構造を示すが、エクソソームはそのような構造を有さない;2)異なるサイズ:エクソソームの直径は約50~150nmであり、一方、マイグラソームの直径は約0.5~3μmである;3)明らかに異なるタンパク質組成:マイグラソームおよびエクソソームは、タンパク質組成の27%のみを共有し、例えば、NDST1(二機能性ヘパラン硫酸N-デアセチラーゼ/N-スルホトランスフェラーゼ1)、PIGK(ホスファチジルイノシトールグリカンアンカー型生合成クラスK)、CPQ(カルボキシペプチダーゼQ)、およびEOGT(EGFドメイン特異的O結合型N-アセチルグルコサミントランスフェラーゼ)は、マイグラソーム上で富化されているが、エクソソーム中には存在しない(Zhao X,Lei Y,Zheng J,Peng J,Li Y,Yu L,Chen Y.Identification of markers for migrasome detection.Cell Discov.2019 May 21;5:27);ならびに4)異なる遺伝経路による調節に起因する完全に異なる生合成プロセス:エクソソームは、最初に多胞体(MVB)の小胞として産生され、MVBが原形質膜に融合されると放出されるが、マイグラソームは、原形質膜上の大きなドメインの集合によって形成される(Huang Y,Zucker B,Zhang S,Elias S,Zhu Y,Chen H,Ding T,Li Y,Sun Y,Lou J,Kozlov MM*,Yu L*.Migrasome formation is mediated by assembly of micron-scale tetraspanin macrodomains.Nat Cell Biol.2019 Aug;21(8):991-1002)。
【0295】
本明細書で使用される場合、「工学的マイグラソーム」という用語は、細胞の工学的改変および/または人工的誘導により得られるマイグラソームを指す。「工学的マイグラソーム」は、合成であることを意味しない場合があるが、依然として細胞由来であることに留意すべきである。
【0296】
本出願の工学的マイグラソームは、当技術分野で公知の「低張誘導型小胞」(例えば、
図1に示すような、Cohen S,Ushiro H,Stoscheck C,Chinkers MA native 170 000 epidermal growth factor receptor-kinase complex from shed plasma membrane vesicles.J Biol Chem 257:1523-1531における小胞)とは異なってもよい。それらは、少なくとも以下の差異を有する:1)異なる小胞産生部位:工学的マイグラソームは、細胞の周囲のリトラクションファイバー上で産生されるが、小胞は、Cohenらによれば細胞の上面上で産生される;2)異なる小胞サイズ:工学的マイグラソームは、ミクロンレベルのサイズを有し、5μmを超えることはめったにない直径を有するが、低浸透圧を用いてCohenらによって誘導された小胞は、20μmもの大きなものであり得る;および3)Cohenらによる低張誘導の方法とは異なり、本出願において低張性は、工学的マイグラソームの産生に必要でなくてもよく、細胞の接着特性を調節することによって、細胞を迅速に剥離して、接着した表面上で細胞膜を相対移動させ、それによってマイグラソームを誘導することができる。
【0297】
他に明示的に述べられていない限り、本明細書におけるマイグラソームは、天然のマイグラソームおよび人工的に誘導された工学的マイグラソームの両方を含んでもよい。
【0298】
いくつかの実施形態では、単離または精製されたマイグラソームは、検出可能な汚染物質成分を有さなくてもよいか、または汚染物質成分のレベルもしくは量が、許容されるレベルもしくは量以下である。
【0299】
いくつかの実施形態では、工学的マイグラソームは、遠心分離によって単離および/または精製されてもよい。例えば、工学的マイグラソームは、300~17000×gでの遠心分離によって単離および/または精製されてもよい。いくつかの実施形態では、工学的マイグラソームは、ろ過によって単離および/または精製されてもよい。
【0300】
本出願人は、細胞の低張処理が、細胞のリトラクションファイバー上のミクロンサイズの小胞の迅速かつ大量の形成を誘導し得ることを見出した。そのようなミクロンサイズの小胞は、人工的に誘導された工学的マイグラソームである。したがって、本出願の工学的マイグラソームを作製する方法のいくつかの実施形態では、細胞を誘導して工学的マイグラソームを産生させることは、細胞に低張処理を行うことを含んでもよい。いくつかの実施形態では、低張処理は、浸透圧が等張緩衝液の10%~90%、例えば等張緩衝液の15%~85%、20%~80%、25%~75%、30%~70%、35%~65%、40%~60%、もしくは50%~55%、またはそれらの間の任意の値もしくは部分範囲、例えば等張緩衝液の10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%である低張緩衝液に細胞を入れることによって行われてもよい。いくつかの他の実施形態では、低張処理は、細胞を緩衝液に入れること、および緩衝液の浸透圧を減少させることによって行われてもよい。いくつかの実施形態では、緩衝液の浸透圧の減少は、線形減少または段階的減少を含む。例えば、いくつかの実施形態では、緩衝液の塩濃度は、所定の間隔で段階的に減少されてもよい。例えば、緩衝液の塩濃度は、少なくとも3回(例えば、3~5回)、毎回1/6~1/2ずつ段階的に減少されてもよい。
【0301】
本出願人はまた、細胞骨格を破壊することにより、細胞が収縮して、細胞の端部が中心に向かって退縮する一方で、細胞が接着斑を介して培養プレートの底部の様々な点に接着し、それによって原形質膜を膜テザー形成のためのアンカーとしてインサイチュで接着させることを見出した。細胞の収縮は、収縮前に細胞によって占められていた領域上に膜テザーの大量形成をもたらし、これらの新しく形成された膜テザーは、工学的マイグラソームの形成を大幅に増強する。したがって、いくつかの実施形態では、細胞を誘導して工学的マイグラソームを産生させることは、細胞の細胞骨格を破壊することを含んでもよい。いくつかの実施形態では、細胞の細胞骨格は、細胞を細胞骨格破壊試薬と接触させることによって破壊されてもよい。いくつかの実施形態では、細胞骨格破壊試薬は、例えば、ラトルンクリンA、ラトルンクリンB、サイトカラシンA、サイトカラシンB、サイトカラシンC、サイトカラシンD、およびサイトカラシンEなどから選択されるマイクロフィラメントまたは微小管解重合剤を含む。いくつかの実施形態では、細胞骨格破壊試薬は、ラトルンクリンAである。いくつかの実施形態では、細胞骨格破壊試薬の濃度は、任意の好適な濃度であってもよい。例えば、マイクロフィラメントおよび/または微小管解重合剤の濃度は、少なくとも0.01μM、少なくとも0.1μM、少なくとも0.2μM、少なくとも0.5μM、少なくとも1μM、少なくとも2μM、少なくとも3μM、少なくとも4μM、少なくとも5μM、少なくとも6μM、少なくとも7μM、少なくとも8μM、少なくとも9μM、または少なくとも10μMであってもよい。
【0302】
細胞は、その調節された体積変化によって浸透圧の変化に耐え得る。したがって、細胞体積調節機能を抑制することにより、工学的マイグラソームの形成を促進することができる。いくつかの実施形態では、細胞を誘導して工学的マイグラソームを産生させることは、細胞の細胞体積調節機能を抑制することを含んでもよい。いくつかの実施形態では、細胞の細胞体積調節機能は、細胞における細胞体積調節タンパク質の発現または活性を抑制することによって抑制されてもよい。例えば、細胞体積調節タンパク質は、イオンチャネルおよびトランスポーターから選択されてもよい。いくつかの実施形態では、細胞体積調節タンパク質は、体積調節アニオンチャネル(VRAC)、例えばSWELL1;体積調節カチオンチャネル(VRCC)、例えばTRPV4およびTRPM3;ならびにコトランスポーター、例えばKCC1、KCC3、およびKCC4から選択されてもよい。タンパク質の発現または活性は、当技術分野で公知の任意の方法または試薬、例えば、タンパク質をコードする遺伝子配列の破壊、RNAi、タンパク質活性阻害剤などによって阻害され得る。
【0303】
カチオンおよびアニオンは細胞体積を調節できるが、異なるイオンは細胞体積の変化を調節する能力が異なることが知られている。したがって、細胞体積の変化を調節する能力がより弱いイオンは、マイグラソームの形成が促進されるように、浸透圧の変化に耐える能力もより弱い。したがって、いくつかの実施形態では、細胞の細胞体積調節機能は、細胞体積の変化を調節する能力が低下したカチオンまたはアニオンを含有する緩衝液に細胞を入れることによって抑制されてもよい。本明細書で使用される場合、「細胞体積の変化を調節する能力の低下」という用語は、細胞に正常な細胞体積調節能力を与えるカチオン(例えばナトリウムイオン)またはアニオンに対するものである。
【0304】
いくつかの実施形態では、細胞を誘導して工学的マイグラソームを産生させることは、細胞に、テトラスパニンファミリーのメンバーもしくはマイグラソーム産生経路の重要な酵素および構造タンパク質から選択される1つ以上のタンパク質を過剰発現させること、またはマイグラソーム産生アゴニストによる刺激を行うことを含んでもよい。例えば、テトラスパニンファミリーのメンバーは、Tspan1、Tspan2、Tspan3、Tspan4、Tspan5、Tspan6、Tspan7、Tspan8、Tspan9、Tspan10、Tspan11、Tspan12、Tspan13、Tspan14、Tspan15、Tspan16、Tspan17、Tspan18、Tspan19、Tspan20(UPK1B)、Tspan21(UPK1A)、Tspan22(PRPH2)、Tspan23(ROM1)、Tspan24(CD151)、Tspan25(CD53)、Tspan26(CD37)、Tspan27(CD82)、Tspan28(CD81)、Tspan29(CD9)、Tspan30(CD63)、Tspan31、Tspan32、およびTspan33を含んでもよい。いくつかの実施形態では、細胞に1つ以上のTspanタンパク質を過剰発現させることによって、細胞を誘導して工学的マイグラソームを産生させてもよい。
【0305】
いくつかの実施形態では、細胞が迅速に剥離するように細胞接着特性を調節して、細胞と培養表面との間の接触面積を減少させるか、または細胞膜と表面との間で相対移動させることによって、マイグラソームを誘導してもよい。細胞は、4℃、8℃、16℃、24℃、もしくは37℃で低張処理を施してもよく、または低張処理を施さずに、細胞剥離プロセスを4℃、8℃、16℃、24℃、または37℃で行ってもよい。また、細胞体とマイグラソームとを分離してもよい。
【0306】
いくつかの実施形態では、本出願の工学的マイグラソームを作製する方法は、工学的マイグラソームのサイズを減少させることをさらに含む。工学的マイグラソームのサイズは、当技術分野で公知の任意の手段によって、例えば、特定の孔径のフィルタまたは押出機を使用して工学的マイグラソームを押し出すことによって減少されてもよい。いくつかの実施形態では、工学的マイグラソームのサイズは、特定の孔径のフィルタ膜を有する押出機を使用して工学的マイグラソームを処理することによって減少されてもよい。いくつかの実施形態では、フィルタ膜または押出機の孔径は、30nm~10000nm、例えば50nm~8000nm、50nm~1000nm、50nm~10000nm、100nm~1000nm、100nm~10000nm、1000nm~10000nm、10~400nm、20~300nm、30~200nm、40~100nm、50~80nm、またはそれらの間の任意の値もしくは部分範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、減少した工学的マイグラソームのサイズは、ナノスケール、例えば1~1000nm、10~900nm、20~300nm、30~200nm、40~100nm、50~80nm、またはそれらの間の任意の値もしくは部分範囲であってもよい。
【0307】
本明細書における工学的マイグラソームを産生するために使用される細胞は、任意の細胞、例えばインビトロで培養された細胞もしくはインビボの細胞;改変を伴うもしくは伴わない浮遊もしくは接着状態の浮遊もしくは接着培養細胞株/系、正常細胞、初代細胞、または癌細胞を含む疾患由来細胞であってもよい。さらに、工学的マイグラソームを産生するために使用される細胞は、外因性分子のインビトロでの増殖、修飾、および発現、ならびに工学的マイグラソームの産生に好適な任意の細胞株に由来してもよい。いくつかの実施形態では、細胞は、動物細胞、特にマウス細胞およびヒト細胞を含む哺乳動物細胞であってもよい。好適な細胞の例としては、正常ラット腎臓細胞(NRK細胞)、マウス線維芽細胞、例えばNIH3T3細胞、マウス乳癌4T1細胞、マウス結腸癌MC38細胞、一般的に使用されるヒト胎児腎臓(HEK)細胞株/系、例えばHEK293もしくはHEK293FT細胞、ヒト胃癌MGC-803細胞、ヒトTリンパ球腫Jurkat細胞、ヒト皮膚線維芽細胞BJ細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、間葉系幹細胞(MSC)、または任意の他の好適な細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0308】
本明細書で使用される場合、「カーゴ」という用語は、マイグラソームに搭載し、それにより効率的に送達することができる任意の物質を指し得る。例えば、カーゴは、マイグラソームの表面分子と標的細胞との間の相互作用によって標的細胞に送達されてもよい。本出願のカーゴの1つ以上は、工学的マイグラソームの形成中もしくは形成後に工学的マイグラソームの膜上に搭載されるか、または天然のマイグラソームの膜上に直接搭載されてもよい。カーゴの例としては、治療剤、例えば合成生物活性化合物、天然生物活性化合物、抗菌化合物、抗ウイルス化合物、タンパク質もしくはペプチド(例えば、酵素もしくは抗体)、ヌクレオチド(例えば、検出可能な部分もしくは毒素を含むヌクレオチド、または転写を妨害するヌクレオチド)、核酸(例えば、酵素などのペプチド、病原性タンパク質、サイトカイン、癌抑制遺伝子、抗体などをコードするDNAもしくはmRNA分子、または調節機能を有するRNA分子、例えばマイクロRNA、dsDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、lncRNA、およびsiRNA)、ゲノム編集システム、脂質、炭水化物、小分子(例えば、小分子薬物および毒素)、標的化分子、多糖、複合体、細胞小器官、ナノ粒子およびマイクロ粒子、またはそれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0309】
いくつかの実施形態では、カーゴは、マイクロRNAまたはsiRNA、例えば、変異型または非変異型癌遺伝子をコードする転写物に特異的に結合するマイクロRNAまたはsiRNAであってもよい。マイクロRNAまたはsiRNAの結合は、mRNA解読およびタンパク質合成であってもよい。そのような遺伝子には、ABLI、BLC1、BCL6、CBFA1、CBL、CSFIR、ERBA、ERBB、EBRB2、ETS1、ETS1、ETV6、FGR、FOX、FYN、HCR、HRAS、JUN、KRAS、LCK、LYN、MDM2、MLL、MYB、MYC、MYCL1、MYCN、NRAS、PIM1、PML、RET、SRC、TAL1、TCL3、YES、VEGF、FGF、G-CSF、CXCR4などが含まれるが、これらに限定されない。
【0310】
いくつかの実施形態において、カーゴは、ゲノム編集システムであってもよい。ゲノム編集システムには、広範囲ヌクレアーゼシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)システム、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)システム、およびクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)システムが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、カーゴは、CRISPRシステムであってもよい。いくつかの実施形態では、CRISPRシステムは、CRISPR-Cas9システムであってもよい。CRISPR-Cas9システムは、Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列、標的配列にハイブリダイズしたCRISPR RNA(crRNA)をコードするヌクレオチド配列、およびトランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)をコードするヌクレオチド配列を含む。crRNAおよびtracrRNAは、ガイドRNAに融合され得る。CRISPR-Cas9システムは、核局在化シグナル(NLS)をさらに含んでもよい。CRISPR-Cas9システムが搭載されたマイグラソームは、疾患管理、再生医療、および組織工学における遺伝子発現および機能を変化させるために使用されてもよい。
【0311】
いくつかの実施形態では、カーゴは、治療用タンパク質またはその断片、例えば抗体またはその断片であってもよい。いくつかの実施形態では、カーゴは、タンパク質(抗体または抗体断片、免疫原性タンパク質、サイトカイン、酵素、癌抑制遺伝子産物などを含む)またはその断片、例えばニワトリ卵白アルブミン(OVA)、SARS-CoV-2スパイクタンパク質またはそのS1断片であってもよい。
【0312】
いくつかの実施形態では、カーゴは、標的化分子であってもよい。本明細書で使用される場合、「標的化分子」という用語は、別の分子(標的分子)に特異的に結合することができる分子を指す。例えば、標的化分子は、マイグラソームを特異的に標的化し、その表面上で標的化分子を実体、例えば標的分子を発現する組織または細胞に提示し、それによって送達系の標的化を改善するために使用されてもよい。いくつかの実施形態では、本出願の送達系は、標的化特異性をさらに改善するか、または他の方法で標的細胞もしくは組織への標的化を改善するために、少なくとも2つの異なる標的化分子を含んでもよい。例えば、標的化分子は、癌細胞上で過剰発現される表面タンパク質、例えば抗体またはその抗原結合断片に特異的に結合してもよい。いくつかの実施形態では、標的化分子は、抗体またはその抗原結合断片;インテグリン;サイトカイン、ケモカイン、および/またはサイトカイン、ケモカイン受容体;多糖;PAMPおよびDAMPなどのfind-me/eat meシグナル;ならびにCD47およびCD24などのdon’t-eat-meシグナルから選択されてもよい。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、その対応する抗原に結合し、それによって、抗体またはその抗原結合断片が搭載されたマイグラソームを、対応する抗原を発現する標的細胞に送達してもよい。いくつかの実施形態では、インテグリンまたは他の標的化分子は、組織特異的細胞外マトリックスと対にされ、それによって、インテグリンまたは他の標的化分子が搭載されたマイグラソームによる特定の器官の標的化を達成してもよい。
【0313】
本明細書で使用される場合、「find-me/eat meシグナル」という用語は、アポトーシス細胞によって暴露または放出されて食作用性取込みを誘発するシグナルを指し、それにより、寛容経路を活性化して自己抗原に対する免疫応答を防止する。本明細書におけるfind-me/eat meシグナルは、マイグラソームに搭載され、find me/eat meシグナルは、マイグラソームが特定の細胞によって貪食されるように、マクロファージなどによって認識され得る。例示的なfind-me/eat-meシグナルには、例えば、病原体関連分子パターン(PAMP)および損傷関連分子パターン(DAMP)が含まれる。「病原体関連分子パターン(PAMP)」とは、病原性微生物の表面に存在し、一部のヒト宿主には存在しないが、多くの関連する微生物によって共有され得る、進化的に保存された定常分子構造を指す。自然免疫により認識されるPAMPは、ウイルスの二本鎖RNAや細菌のリポ多糖など、病原体が生存のために依存し、したがって変化が少ない主要部分であることが多い。このため、病原体が変異して自然免疫の作用から逃れることは困難である。PAMPは、病原体の表面上または免疫細胞外で発現され得るか、または免疫細胞の細胞質ゾル、ならびに病原体を運ぶ様々な細胞内コンパートメント(エンドソームおよびファゴリソソームなど)に見られ得る。PAMPには2つの主要なカテゴリーがある。第1のカテゴリーは、例えばリポ多糖、ペプチドグリカン、リポタイコ酸、マンノース、脂質、リポアラビノマンナン、リポタンパク質、フラジェリンなどの糖類および脂質が支配的な細菌細胞壁成分を含む。このカテゴリーにおける最も一般的で代表的なものには、グラム陰性菌によって産生されるリポ多糖(LPS);グラム陽性菌によって産生されるペプチドグリカン;マイコバクテリアによって産生される糖脂質、および酵母によって産生されるマンノースが含まれる。第1のカテゴリーは、ウイルス産物および細菌核成分、例えば非メチル化オリゴヌクレオチドCpGDNA、一本鎖RNA、二本鎖RNAを含む。「損傷関連分子パターン(DAMP)」は、組織または細胞が損傷、低酸素、ストレス、および他の因子によって刺激された後に細胞間空間または血液循環に放出される物質の一種である。それらは、Toll様受容体、RIG-1様受容体、またはNOD様受容体などのパターン認識受容体によって自己免疫または免疫寛容を誘導することができ、関節炎、アテローム性動脈硬化症、腫瘍、全身性エリテマトーデスなどの疾患の発生および進行において重要な役割を果たす。DAMPは、細胞核、細胞質(例えば、高移動度群タンパク質ボックス(HMGB)1およびS100タンパク質)、細胞外マトリックス(例えばヒアルロン酸)、および血漿(例えば、補体C3a、C4a、およびC5a)中に存在するか、または異物(例えば熱ショックタンパク質)として存在する。非タンパク質形態のDAMPは、アデノシン三リン酸、尿酸、硫酸ヘパリン、RNA、およびDNAを含む。これらのタンパク質および非タンパク質は、健康な状態では細胞内に閉じ込められており、細胞が破壊されると細胞外に放出される。
【0314】
本明細書で使用される場合、「don’t-eat-meシグナル」という用語は、腫瘍細胞によってその表面上で発現され、免疫細胞の表面上のリガンドに結合して、腫瘍細胞に対する免疫細胞の殺傷効果を阻害するシグナルを指す。例示的なdon’t-eat-meシグナルには、例えばCD47およびCD24が含まれる。本明細書におけるdon’t-eat-meシグナルは、マイグラソームが免疫系のクリアランスを回避して血液中のその循環時間を延長し、それによってより良好な組織浸潤を達成するように、遺伝子編集、膜融合などによってマイグラソームに搭載される。
【0315】
例えば、マイグラソームは、細胞膜および細胞内小胞に由来する膜を有する単層膜構造を有してもよい。細胞膜と比較して、マイグラソームの膜は、いくつかのタンパク質(例えばテトラスパニン)および脂質(例えば、コレステロールおよびスフィンゴミエリン)で特異的に富化されている。
【0316】
本出願のカーゴは、当技術分野で公知の任意の手段によって直接的または間接的に、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされてもよい。
【0317】
いくつかの実施形態では、カーゴは、液体-固体変換、膜融合、電荷吸着、物理的吸着、または化学的結合によって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされてもよい。
【0318】
他の実施形態では、カーゴは、以下からなる群から選択される手段によって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされてもよい:(1)マイグラソームの膜および/または内部における膜タンパク質、コレステロール、リン脂質、糖タンパク質上の炭水化物鎖、または多糖などの成分へのコンジュゲーション;(2)マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされたタンパク質またはペプチド、糖タンパク質上の炭水化物鎖または多糖、リン脂質、コレステロールなどへのコンジュゲーション、ここで、タンパク質またはペプチド、糖タンパク質上の炭水化物鎖または多糖、リン脂質、コレステロールなどは、好ましくはクリックケミストリーによってマイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる;ならびに(3)結合対の第1のメンバーへのコンジュゲーション、ここで、マイグラソームの膜および/または内部は、結合対の第2のメンバーを含み、カーゴは、第1のメンバーと第2のメンバーとの結合によって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる。
【0319】
いくつかの実施形態では、カーゴは、マイグラソームの膜および/または内部におけるタンパク質または脂質などの成分にコンジュゲートすることによって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる。いくつかの実施形態では、カーゴは、マイグラソームにおけるテトラスパニンなどの膜タンパク質に結合することによって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる。いくつかの実施形態では、カーゴは、テトラスパニンタンパク質にコンジュゲートすることによって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる。いくつかの実施形態では、カーゴは、マイグラソームの膜における脂質(例えば、コレステロールおよびスフィンゴミエリン)、タンパク質またはペプチド、糖タンパク質上の炭水化物鎖または多糖にコンジュゲートすることによって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる。
【0320】
いくつかの実施形態では、結合対は、抗原-抗体、受容体-リガンド、ビオチン-アビジン、HaloTagおよびそのリガンド、または他の結合対を含む。例えば、結合対は、HaloTagおよびそのリガンド、またはCP05およびCD63を含む。
【0321】
いくつかの実施形態では、カーゴはmRNAであり、マイグラソームの膜または内部は、mRNA結合タンパク質を含み、mRNAは、そのタンパク質結合部位とmRNA結合タンパク質との結合によって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる。mRNA結合タンパク質およびそのタンパク質結合部位は、当技術分野で公知のものであってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、mRNA結合タンパク質はL7Aeであり、タンパク質結合部位はC/Dボックスである。いくつかの他の実施形態では、mRNA結合タンパク質はMS2BPであり、タンパク質結合部位はMS2ステムループ(MS2SL)である。
【0322】
いくつかの他の実施形態では、カーゴは、融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現されてもよい。いくつかの他の実施形態では、カーゴは、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現されてもよい。当技術分野で公知の任意の膜タンパク質が、可溶性タンパク質に融合される膜アンカー型タンパク質として使用され得る。可溶性タンパク質の融合のための膜タンパク質の例としては、細胞受容体、イオンチャネル、トランスポーターなど、例えばTspan-4、CD81、CD9、CD63、PDGFR、Lamp2b、シンタキシン2(STX2)などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、可溶性タンパク質の融合のための膜タンパク質は、STX2であってもよい。いくつかの実施形態では、可溶性タンパク質の融合のための膜タンパク質は、トランケート型STX2(t-STX2)であってもよい。例えば、STX2のN末端を、その細胞内末端機能を除去するように改変して、t-STX2を得てもよい。次いで、可溶性タンパク質をt-STX2の細胞外C末端に結合させて可溶性タンパク質-t-STX2融合タンパク質を形成し、可溶性タンパク質を人工原形質膜局在融合タンパク質としてマイグラソームの膜上で発現させることができる。
【0323】
別の態様では、本出願は、単離または精製されたマイグラソームおよびカーゴを含む送達系を産生する方法であって、カーゴが、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNAおよびRNA)、脂質、小分子化合物、多糖、複合体、ナノ/マイクロ粒子、および細胞小器官からなる群から選択されるか、または前述のカーゴの複数が同時に搭載され、本方法が、細胞からマイグラソームを単離または精製することであって、マイグラソームが、天然のマイグラソームまたは人工的に誘導された工学的マイグラソームである、こと、および直接的または間接的に、カーゴをマイグラソームの膜および/または内部に組み込むか、またはインターカレートすることを含む、方法に関する。本出願の送達系を産生する方法のいくつかの実施形態では、カーゴは、液体-固体変換、膜融合、電荷吸着、物理的吸着、または化学的結合によって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる。
【0324】
本出願の送達系を産生する方法のいくつかの他の実施形態では、カーゴは、以下からなる群から選択される手段によって、マイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる:(1)マイグラソームの膜および/または内部における膜タンパク質、コレステロール、リン脂質、糖タンパク質上の炭水化物鎖または多糖などの成分へのカーゴのコンジュゲーション;ならびに(2)マイグラソームの膜および/または内部に結合されたタンパク質またはペプチド、糖タンパク質上の炭水化物鎖または多糖、リン脂質、コレステロールなどへのカーゴのコンジュゲーション、ここで、タンパク質またはペプチド、糖タンパク質上の炭水化物鎖または多糖、リン脂質、コレステロールなどは、好ましくはクリックケミストリーによってマイグラソームの膜および/または内部に組み込まれるか、またはインターカレートされる。
【0325】
いくつかの実施形態では、天然のマイグラソームは、当技術分野で公知の方法によって細胞から単離または精製されてもよい。いくつかの実施形態では、人工的に誘導された工学的マイグラソームは、本明細書に開示される工学的マイグラソームを作製する方法によって産生される。いくつかの実施形態では、カーゴは、本明細書の他の箇所に記載されているカーゴの1つ以上であってもよい。
【0326】
別の態様では、本出願は、工学的マイグラソームおよびカーゴを含む送達系を産生する方法であって、カーゴが、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNAおよびRNA)、脂質、小分子化合物、多糖、複合体、ナノ/マイクロ粒子、および細胞小器官からなる群から選択されるか、または前述のカーゴの複数が同時に搭載され、カーゴが、結合対の第1のメンバーにコンジュゲートされ、マイグラソームの膜または内部が、結合対の第2のメンバーを含み、本方法が、細胞に細胞膜上で結合対の第2のメンバーを発現させること、細胞により、結合対の第2のメンバーを含む膜を有する工学的マイグラソームを産生すること、およびカーゴと結合対の第1のメンバーとの複合体を工学的マイグラソームと接触させ、それにより、第1のメンバーと第2のメンバーとの結合によって送達系を産生することを含む、方法に関する。
【0327】
本出願の送達系を産生する方法のいくつかの実施形態では、本方法は、結合対の第2のメンバーのコード配列を含むヌクレオチド配列を細胞に導入して、細胞に結合対の第2のメンバーを発現させることを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、結合対の第2のメンバーのコード配列を含むヌクレオチド配列を細胞に導入すること、および細胞が細胞膜上で結合対の第2のメンバーを発現するように、細胞に結合対の第2のメンバーを発現させる条件下で細胞を培養することを含む。
【0328】
いくつかの実施形態では、本方法は、a)結合対の第2のメンバーのコード配列を含むヌクレオチド配列を細胞に導入すること、b)細胞に結合対の第2のメンバーを発現させる条件下で細胞を培養すること、c)細胞により、膜上に結合対の第2のメンバーを含む工学的マイグラソームを産生すること、d)結合対の第1のメンバーにカーゴをコンジュゲートして、複合体を形成すること、およびe)工学的マイグラソームを複合体と接触させて、送達系を産生することを含む。いくつかの実施形態では、上記工程d)は、工程a)の前、後、またはそれと同時に行われる。
【0329】
いくつかの実施形態では、結合対の第2のメンバーは、膜タンパク質または可溶性タンパク質である。いくつかの実施形態では、結合対の第2のメンバーは、膜タンパク質であり、マイグラソームの膜の内面または外面で発現される。いくつかの実施形態では、結合対の第2のメンバーは、可溶性タンパク質であり、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現される。
【0330】
いくつかの実施形態では、結合対は、抗原-抗体、受容体-リガンド、ビオチン-アビジン、HaloTagおよびそのリガンド、または他の結合対を含む。いくつかの実施形態では、結合対は、HaloTagおよびそのリガンド、またはCP05およびCD63を含む。
【0331】
いくつかの実施形態では、工学的マイグラソームは、本明細書に開示される工学的マイグラソームを作製する方法によって産生される。いくつかの実施形態では、カーゴは、本明細書の他の箇所に記載されているカーゴの1つ以上であってもよい。
【0332】
さらに別の態様では、本出願は、工学的マイグラソームおよびカーゴを含む送達系を産生する方法であって、カーゴがmRNAであり、マイグラソームの膜または内部が、mRNA結合タンパク質を含み、mRNAが、そのタンパク質結合部位を介してmRNA結合タンパク質に結合し、本方法が、細胞にmRNAを発現させること、上記工程の前、後、またはそれと同時に、細胞に細胞膜上でmRNA結合タンパク質を発現させること、ならびに細胞により、工学的マイグラソームおよびmRNAを含む送達系を産生することであって、mRNAが、mRNA結合タンパク質に結合することによって工学的マイグラソームの膜および/または内部に結合される、ことを含む、方法に関する。
【0333】
本出願の送達系を産生する方法のいくつかの実施形態では、本方法は、タンパク質結合部位を含むmRNAをコードする配列を細胞に導入して、細胞にmRNAを発現させることを含む。
【0334】
いくつかの実施形態では、本方法は、mRNA結合タンパク質をコードする配列を含むヌクレオチド配列を細胞に導入して、細胞に細胞の細胞膜上でmRNA結合タンパク質を発現させることを含む。
【0335】
いくつかの実施形態では、本方法は、タンパク質結合部位を含むmRNAをコードする配列、およびmRNA結合タンパク質をコードする配列を含むヌクレオチド配列を細胞に導入して、細胞にmRNAおよびmRNA結合タンパク質を発現させることを含む。
【0336】
いくつかの実施形態では、mRNA結合タンパク質は、膜タンパク質または可溶性タンパク質である。いくつかの他の実施形態では、mRNA結合タンパク質は、膜タンパク質であり、マイグラソームの膜の内面または外面で発現される。いくつかの他の実施形態では、mRNA結合タンパク質は、可溶性タンパク質であり、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の内面または外面で発現される。
【0337】
mRNA結合タンパク質およびそのタンパク質結合部位は、当技術分野で公知のものであってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、mRNA結合タンパク質はL7Aeであり、タンパク質結合部位はC/Dボックスである。いくつかの他の実施形態では、mRNA結合タンパク質はMS2BPであり、タンパク質結合部位はMS2ステムループ(MS2SL)である。
【0338】
いくつかの実施形態では、工学的マイグラソームは、本明細書に開示される工学的マイグラソームを作製する方法によって産生される。
【0339】
別の態様では、本出願は、工学的マイグラソームおよびカーゴを含む送達系を産生する方法であって、カーゴが、タンパク質であり、工学的マイグラソームの膜の内面または外面で発現され、本方法が、細胞に細胞膜上でタンパク質を発現させること、ならびに細胞により、工学的マイグラソームと、工学的マイグラソームの膜の内面または外面で発現されるタンパク質とを含む送達系を産生することを含む、方法に関する。
【0340】
いくつかの実施形態では、本方法は、タンパク質をコードする配列を含むヌクレオチド配列を細胞に導入して、細胞に細胞の細胞膜上でタンパク質を発現させることを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、タンパク質をコードする配列を含むヌクレオチド配列を細胞に導入すること、および細胞が細胞膜上でタンパク質を発現するように、細胞にタンパク質を発現させる条件下で細胞を培養することを含む。
【0341】
いくつかの実施形態では、本方法は、目的のタンパク質をコードする配列を含むヌクレオチド配列を細胞に導入すること、細胞に目的のタンパク質を発現させる条件下で細胞を培養すること、ならびに細胞により、工学的マイグラソームと、工学的マイグラソームの膜の内面または外面で発現されるタンパク質とを含む送達系を産生することを含む。
【0342】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、膜タンパク質であってもよい。いくつかの他の実施形態では、タンパク質は、可溶性タンパク質であり、膜タンパク質またはその部分に融合された融合タンパク質として、マイグラソームの膜の表面上で発現される。
【0343】
上述したように、可溶性タンパク質の融合のための膜タンパク質の例としては、細胞受容体、イオンチャネル、トランスポーターなど、例えばTspan-4、CD81、CD9、CD63、PDGFR、Lamp2b、シンタキシン2(STX2)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0344】
いくつかの実施形態では、工学的マイグラソームは、本明細書に開示される工学的マイグラソームを作製する方法によって産生される。
【0345】
本出願は、本出願の工学的マイグラソームと、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、または担体の組合せとを含む医薬組成物または診断用組成物をさらに提供する。したがって、本出願は、医薬組成物の作製における本出願の工学的マイグラソームの使用をさらに提供する。
【0346】
本出願は、医薬または診断用組成物を作製する方法をさらに提供する。本方法は、本出願の工学的マイグラソームを1つ以上の薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、または担体と一緒に添加および混合することを含む。工学的マイグラソームは、医薬または診断用組成物中の唯一の有効成分として使用されてもよく、ステロイドまたは他の薬物分子などの他の有効成分を伴ってもよい。組成物は、患者に個別に投与されてもよく、または他の薬剤、医薬、もしくはホルモンと組み合わせて(例えば、同時に、連続的に、または別々に)投与されてもよい。
【0347】
医薬組成物は、治療有効量の本出願の工学的マイグラソームを含んでもよい。本出願において、「治療有効量」という用語は、標的とする疾患もしくは状態を治療、改善、もしくは予防するため、または検出可能な治療効果もしくは予防効果を発揮するために必要な治療剤の量を指す。任意の公的に入手可能な工学的マイグラソームについて、治療有効量は、最初に細胞培養アッセイまたは動物モデル、典型的にはげっ歯類、ウサギ、イヌ、ブタ、もしくは霊長類において推定され得る。動物モデルを使用して、投与のための適切な濃度範囲および経路を決定してもよい。その後、情報を使用して、投与される人に適切な用量および経路を決定してもよい。ヒト対象に対する正確な治療有効量は、疾患または状態の重症度、対象の全体的な健康状態、対象の年齢、体重、および性別、食事、投与のタイミングおよび頻度、薬物の組合せ、応答感受性、ならびに治療に対する忍容性/応答に応じて決定される。
【0348】
本出願の医薬組成物は、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、室内、透皮、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、経腸、局所、舌下、膣内、または直腸経路を含むが、これらに限定されない様々な経路によって投与されてもよい。無針注射器を使用して、本出願の医薬組成物を投与してもよい。一般的に、治療用組成物は、液体溶液または懸濁液として注射剤に作製されてもよい。注射前に液体媒体に溶解または懸濁するのに好適な固体形態を作製してもよい。本出願の工学的マイグラソームを含む医薬組成物の治療用量は、インビボで著しい毒性効果を示さない。
【0349】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、以下の実施例は、本出願による工学的マイグラソーム、工学的マイグラソームの作製方法および使用などを例示するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0350】
本出願は、以下の具体例と併せて以下にさらに説明される。これらの実施形態は、本出願の範囲を限定するのではなく、本出願を例示することのみを意図していることを理解すべきである。以下の実施例に示される特定の条件のない実験方法は、一般的に、当技術分野における従来の条件、例えばSambrook,Russeii et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Third Edition),CSHL,2001)に記載の条件に従うか、または製造業者によって推奨される条件に従う。特に明記しない限り、以下の実施例で使用される実験材料および試薬は市販されている。
【0351】
試薬
ddH2O(solarbio)、KCl(sigma)、KH2PO4(sangon)、Na2HPO4-7H2O(sangon)、BSA(VWR)、ラトルンクリンA(cayman)、ヒトフィブロネクチン(invitrogenまたはsigma)、PBS(Gibco)、RPMI 1640(Gibco)、FBS(BI)、WGA-AF488/AF594/AF647(invitrogen)、BCAキット(invitrogen)。
【0352】
【0353】
実施例1
細胞からの工学的マイグラソームの産生
実施例1 低張処理による工学的マイグラソームの産生
本発明者は、細胞の低張処理により、細胞体の膨張、底面の退縮、および糸状構造(リトラクションファイバー)の大量産生が生じ、それによってリトラクションファイバー上でマイグラソーム様構造が成長することを見出した。工学的マイグラソームを視覚的に観察するために、Tspan4-GFPを安定に発現するNRK細胞株を樹立し、工学的マイグラソームの形成を、マイグラソームのマーカーの1つであるTspan4シグナルによって観察した。Tspan4-GFP過剰発現NRK細胞を25%DPBS(76.3mOsmol/Lの浸透圧に相当)で処理し、結果を
図1aに示した。結果から、低張処理の30秒後に、Tspan4-GFPシグナルがリトラクションファイバー上で富化され始め、次いでミクロンスケール小胞を形成し、それらのピーク強度に達した後、Tspan4-GFPシグナルが、小胞の収縮を伴いながら小胞から拡散し始め、低張処理の460秒後、低張誘導下で産生された小胞構造のほとんどが消失したことが示された。これらのミクロンサイズの小胞の産生およびリトラクションファイバーへのそれらの結合は、天然のマイグラソームのものと同様であった。
【0354】
低張誘導下で産生された小胞構造が工学的マイグラソームであるかどうかをさらに確認するために、細胞を蛍光標識小麦胚芽レクチン(WGA)で染色した。WGAは、シアル酸およびN-アセチル-D-グルコサミンに特異的に結合するレクチンであった。蛍光標識WGAは、細胞内のマイグラソームを標識するために使用することができ、マイグラソームを検出するための特異的プローブとして使用した(Chen et.al.,WGA is a probe for migrosomes,Cell Discovery(2019)5:13)。
【0355】
Tspan4-GFP過剰発現NRK細胞を等張処理(100%DPBS、305mOsmol/L)および25%DPBSによる低張処理(76.3mOsmol/L)に供し、次いでテトラメチルローダミン標識WGAで染色し、
図26cに示すようにレーザー共焦点顕微鏡によって観察した。結果から、誘導下でTspan4過剰発現NRK細胞によって産生された小胞構造がWGAによって染色されることが分かり、得られた小胞構造が工学的マイグラソームであることが示された。
【0356】
工学的マイグラソームの形成に対する浸透圧の効果を決定するために、Tspan4-GFP発現NRK細胞を等浸透圧(100%DPBS、305mOsmol/L)または異なる低浸透圧(50%、25%、および17%DPBS、それぞれ152.5、76.3、および50.8mOsmol/Lの浸透圧に対応)条件で処理した。結果を
図1bに示し、工学的マイグラソームの直径に関する統計結果を
図1cに示した。浸透圧のレベルは、工学的マイグラソームのサイズと負の相関があり、浸透圧が低いほど、誘導された工学的マイグラソームのサイズが大きいことが見出された。
【0357】
上記結果に基づいて、本発明者らは、浸透圧を段階的に減少させるためのプロトコルを確立し、低張処理の段階的適用によって工学的マイグラソームの持続時間が大幅に増加し、5段階低張処理を施した細胞では、誘導された工学的マイグラソームが20分間の低張処理後にも保持されることを見出した。
【0358】
実施例2 ラトルンクリンAでの処理による工学的マイグラソームの産生
低張誘導された工学的マイグラソームの数は、リトラクションファイバーの数に依存し、工学的マイグラソームの膜源としての原形質膜のほとんどが、細胞体上に位置していた。したがって、細胞骨格が破壊されて細胞が収縮すると、収縮により細胞の端部が中心に向かって退縮する一方で、細胞が接着斑を介して培養プレートの底部の様々な点に接着し、それによって原形質膜を膜テザー形成のためのアンカーとしてインサイチュで接着させると推測された。これが事実であれば、細胞の収縮により、移動中のリトラクションファイバーの形成と同様な方法で多数の膜管が生じるであろう。
【0359】
この仮説を検証するために、Tspan4-GFP発現NRK細胞を、マイクロフィラメント解重合剤ラトルンクリンA(0、0.25μM、0.5μM、および1μM)を異なる濃度で含有する等張緩衝液DPBSと共に10分間インキュベートし、次いで、水を添加して塩濃度を2分毎に1/6減少させる方法で連続して3段階で段階的に低張刺激した。段階的な低張処理後の結果を
図2aに示し、1細胞あたり産生された工学的マイグラソームの数の統計結果を
図2bに示した。
【0360】
予想通り、ラトルンクリンAで処理した場合、細胞が収縮したことが見出された。また、収縮前に細胞によって占められていた領域上に膜テザーが大量に形成され、これらの新しく形成された膜テザーが、工学的マイグラソームの形成を大幅に増強したことが観察された。したがって、ラトルンクリンAは、工学的マイグラソームの数の増加を大幅に促進することができ、この促進は用量依存的であった。このことから、工学的マイグラソームの形成は、細胞骨格を破壊することによって促進され得ることが示唆された。
【0361】
実施例3 細胞体積調節機能を抑制することによる工学的マイグラソームの産生
細胞は、それらの調節された体積変化によって浸透圧の変化に耐え得る。調節された体積変化が工学的マイグラソームの形成に影響を及ぼすかどうかを試験するために、体積調節アニオンチャネルの重要な成分であるSWELL1(浸透圧の変化に応答して一定の細胞体積を維持する)をノックダウンまたはノックアウトした。
【0362】
Tspan4-GFP発現NRK細胞におけるSWELL1をコードする遺伝子Lrrc8aをノックダウンし、細胞におけるLrrc8aに対するノックダウン効率をqPCRによって検証した。結果から、SWELL1をコードする遺伝子Lrrc8aが野生型細胞の約15%まで首尾よくノックダウンされたことが示された(
図3a)。遺伝子Lrrc8aがノックダウンされた細胞(Lrrc8a-KD)およびノックダウンされていない対照細胞(NC)をそれぞれDPBSに入れ、細胞を、水を段階的に添加して塩濃度を2分毎に1/3減少させる方法で連続して3段階で段階的に低張刺激し、次いで、レーザー共焦点顕微鏡によって観察し、結果を
図3bに示した。工学的マイグラソームのサイズに関する統計結果を
図3cに示した。
【0363】
Tspan4-GFP発現NRK細胞におけるSWELL1をコードする遺伝子Lrrc8aをノックアウトした。細胞におけるLrrc8aのノックアウトをウエスタンブロッティングにより検証したところ、ノックアウト細胞(Lrrc8a-KO)ではSWELL1の発現は観察されず、SWELL1をコードする遺伝子Lrrc8aが首尾よくノックアウトされたことが示された(
図4a)。Lrrc8a-KO細胞(KO14#細胞株およびKO18#細胞株)およびノックアウトされていない対照細胞(WT)をそれぞれDPBSに入れ、細胞を、水を段階的に添加して塩濃度を1分毎に1/6減少させる方法で連続して5段階で段階的に低張刺激し、次いで、レーザー共焦点顕微鏡によって観察し、結果を
図4bに示した。
【0364】
結果から、低張処理後に、Lrrc8aノックダウン細胞によって産生された工学的マイグラソームは、ノックダウンされていない細胞によって産生されたものよりも著しく大きいサイズを有していたこと(
図3bおよび
図3c)、およびLrrc8aノックアウト細胞によって産生された工学的マイグラソームもまた、ノックアウトされていない細胞によって産生されたものよりも著しく大きいサイズを有していたこと(
図4b)が分かった。このことは、SWELL1のノックダウンまたはノックアウトが工学的マイグラソームの形成を大幅に増強することを示し、工学的マイグラソームの形成は、細胞が浸透圧の変化中にそれらの体積を調節する能力を低下させることによって、増強され得ることが示唆された。
【0365】
カチオンは、細胞体積を調節することが知られていた。異なるカチオンの、浸透圧の変化中に細胞体積を調節する能力が異なる場合、調節された細胞体積の変化は、カチオンの置換によって減少され、それにより工学的マイグラソームの形成が促進され得る。次に、工学的マイグラソームの形成に対する異なるカチオンの効果を試験した。DPBS中の塩化ナトリウムを等モル濃度の塩化カリウム、塩化セシウム、または塩化コリンで置換して、異なるカチオンを含有する等張緩衝液を処方し、細胞を、これらの等張緩衝液を用いてそれぞれインキュベートし、水を段階的に添加して塩濃度を2分毎に1/6減少させる方法で、対応する緩衝液中で5段階で連続して段階的に低張刺激した。段階的な低張処理後の結果を
図5aに示し、工学的マイグラソームのサイズの統計結果を
図5bに示した。
【0366】
結果から、異なるカチオンは工学的マイグラソームの形成を促進する能力が異なり、試験したカチオンの中で、ナトリウムイオンが工学的マイグラソームの形成を促進する能力が比較的弱いが、カリウムイオン、セシウムイオン、およびコリンイオンは、マイグラソーム様構造の形成を促進する能力が著しく強いことが示された。
【0367】
実施例4 細胞におけるTspan4の過剰発現による工学的マイグラソームの産生
Tspan4は、マイグラソーム形成のための重要なタンパク質であった。Tspan4が工学的マイグラソームの形成を促進することができるかどうかを試験するために、mCherry-Krasのみを過剰発現するNRK細胞、またはTspan4-GFPおよびmCherry-Krasの両方を過剰発現するNRK細胞に対して段階的低張刺激を行った。2μMラトルンクリンAを含有するKDPBS中でNRK細胞を10分間インキュベートした後、塩濃度を2分毎に1/6減少させる方法で連続して3段階で段階的低張刺激を行い、次いで、工学的マイグラソームの形成を微分干渉コントラスト顕微鏡によって観察した。段階的な低張処理後の結果を
図6aに示し、1細胞あたり産生された工学的マイグラソームの数の統計結果を
図6bに示した。
【0368】
結果から、Tspan4の過剰発現により、工学的マイグラソームの数が大幅に増加することが示された。
【0369】
実施例5 培養皿の温度感受性被覆による迅速な細胞剥離による工学的マイグラソームの産生
MGC803-T4-GFP細胞を温度感受性培養皿上で培養し、細胞骨格破壊処理後、室温または37℃で低張処理を行うか、または低張処理を行わなかった。培養皿を室温で45分間静置した。80%を超える細胞が培養物の底部から剥離されてマイグラソームを形成し、その一部が細胞と共に皿の底部から剥離された(
図7参照)。上清を回収し、ピペッティングして残留細胞およびマイグラソームを回収した。
【0370】
実施例6 様々な細胞株における工学的マイグラソームの産生
異なる種および遺伝的背景の細胞株において誘導下で工学的マイグラソームが産生され得るかどうかを試験するために、3つの異なるげっ歯類細胞株(正常ラット腎臓(NRK)細胞、マウス乳癌細胞株(4T1)、およびマウス結腸癌細胞株(MC38)を含む)、2つの一般的に使用されるヒト胎児腎臓細胞株/系(HEK-293TおよびHEK-293FT)、3つの異なるヒト細胞株(ヒト胃癌MGC-803細胞、ヒトTリンパ球腫Jurkat細胞、およびヒト皮膚線維芽細胞BJ細胞)(これらはすべてTspan4を過剰発現する)を低張誘導に供した。2μMラトルンクリンAを含有するK-DPBS中でNRK細胞を10分間インキュベートした後、塩濃度を2分毎に1/6減少させる方法で連続して3段階で段階的低張刺激を行った。2μMラトルンクリンAを含有するK-DPBS中で4T1細胞を20分間インキュベートした後、塩濃度を2分毎に1/4減少させる方法で連続して3段階で段階的低張刺激を行った。2μMラトルンクリンAを含有するK-DPBS中でMC38細胞を45分間インキュベートした後、塩濃度を2分毎に1/4減少させる方法で連続して3段階で段階的低張刺激を行った。結果を
図8に示した。異なる細胞株において小胞構造が産生されることが分かった。
【0371】
上述した低張処理された細胞株を、マイグラソーム特異的プローブであるテトラメチルローダミン標識WGAでさらに染色し、次いで、レーザー共焦点顕微鏡によって観察した。結果を
図8bに示した。ヒト細胞株(ヒト胎児腎臓細胞(HEK293TおよびHEK293FT、
図8c)、ヒト胃癌細胞(MGC803)、ヒト皮膚線維芽細胞(BJ)、およびヒト末梢血白血病T細胞(Jurkat)、
図8d)も試験した。実施例1~5の方法によって、工学的マイグラソームを生成させることができることが見出された。結果から、誘導下で8つの細胞株において産生された小胞構造が、マイグラソームプローブWGAによって染色されることが分かり、工学的マイグラソームの産生が示された。
【0372】
上記結果から、実施例1~5の方法によって異なる細胞株において工学的マイグラソームを産生することができることが示された。
【0373】
実施例7 工学的マイグラソームの単離、精製、および特徴づけ(
図9a~
図9b)
a.接着細胞の刺激による工学的マイグラソームの産生
I.培養フラスコの被覆および細胞の拡散
PBSを用いて2μg/mlのヒトフィブロネクチンを調製して、37℃で1時間超培養フラスコの底面を被覆し、次いで、1×10
7細胞/T175培養フラスコの密度で細胞を拡散させた。
【0374】
II.誘導された工学的マイグラソームの産生
1. 14~16時間の細胞培養後、培養培地を廃棄し、細胞をPBSで1回洗浄した。
2. 2μMラトルンクリンAを含有するK-DPBSを添加して、細胞を37℃でインキュベートした(ラトルンクリンAに対する細胞株の感受性に応じて、具体的なインキュベーション時間を、例えばNRK細胞の処理については10分、MC38細胞の処理については45~60分に調整した。処理が完了した後、細胞は、細胞体の周囲にリトラクションファイバーと同様な多くの網状構造を有する皺のある状態であるはずである)。
3. 培養フラスコを細胞培養インキュベーター内の水平振盪機上に回転速度40rpmで置き、3分毎に水を添加して合計3回の操作を行った(各工程で添加された水の体積は、低張誘導勾配および培養フラスコ内の液体の初期体積によって決定した。低張誘導勾配は、細胞株によって異なる。MC38細胞については、塩濃度を各工程で1/4減少させ、初期体積は15mlであり、3回添加された水の体積は、それぞれ5ml、6.5ml、および8.5mlであった。NRK細胞については、初期体積は15mlであり、3回添加された水の体積は、3ml、3.6ml、および4.4mlであった)。
4. 回転速度を60rpmに調整して5分間振盪した。
【0375】
b.浮遊細胞を刺激して、工学的マイグラソームを産生させた。
細胞(その数は細胞株に依存する)を取り出し、PBSで1回洗浄し、上清を廃棄した。
【0376】
2μMラトルンクリンAを含有するK-DPBSを添加して、培養フラスコ内で細胞を再懸濁し、これを水平振盪機に入れ、40rpmの回転速度でインキュベートした(時間は細胞株によって異なる)。
【0377】
滅菌水を培養フラスコに添加して、(細胞株によって異なる比で)浸透圧を減少させた。
【0378】
回転速度を60rpmに調整して5分間振盪した。
【0379】
誘導によって浮遊状態の細胞株において工学的マイグラソームが産生され得るかどうかを試験するために、低張誘導を、Tspan4を過剰発現する2つの異なるげっ歯類細胞株(正常ラット腎臓細胞(NRK)およびマウス結腸癌細胞株(MC38))に対して行った。結果を
図9aおよび
図9bに示した。小胞構造が、浮遊状態の両細胞株において産生され、ウエスタンブロッティングから、両細胞株から精製された小胞が、工学的マイグラソームの特徴的な膜タンパク質の富化および細胞内物質の欠失を示すことが分かった。
【0380】
III.工学的マイグラソームの単離および精製(
図10)
a.接着細胞によって産生された工学的マイグラソームを精製する方法
1. 上清を廃棄し、細胞を低張KDPBS(h-KDPBS。その塩濃度は、低張誘導が完了したときの溶液系における塩濃度と同様であった。MC38細胞については、h-KDPBSは40%KDPBSであった。NRK細胞については、h-KDPBSは60%KDPBSであった。)で2回洗浄した。
2. 1mg/ml BSAを含有するh-KDPBS(h-KDPBS-BSA)を添加し、130rpmで3分間振盪した。
3. 上清を50ml遠心管に回収した。
4. h-KDPBS-BSAを添加し、培養フラスコの底面をピペットで穏やかにピペッティングし、回収した液体と工程3の上清とを合わせた。
5. 遠心分離を4℃、300×gで10分間行い、上清を保持した。
6. 遠心分離を4℃、500×gで10分間行い、上清を保持した。
7. 上清を8μmの孔径を有するパリレンフィルタ膜を用いて50mlの低吸着管内にろ過した。
8. 遠心分離を4℃、17000×gで45~60分間行い、上清を廃棄した。
9. ペレットをh-KDPBS-BSAで再懸濁し、EP管(遠心管1)に移し、等体積のPBS-BSAを添加した。ここで、タンパク質濃度の測定のために、少量の液体(全体積の約1/50)を採取し、別の遠心管(遠心管2)に入れた。
10. 遠心分離を4℃、17000×gで15~20分間行い、上清を廃棄し、PBSを添加し、ペレットを注射前に再懸濁して、PBSに再懸濁された工学的マイグラソームを得た。
【0381】
b.浮遊細胞によって産生された工学的マイグラソームを精製する方法
1. 上清を回収し、15ml遠心管に入れ、次いでピペットで穏やかにピペッティングした。
5. 遠心分離を4℃、300×gで10分間行い、上清を保持した。
6. 遠心分離を4℃、500×gで10分間行い、上清を保持した。
7. 上清を8μmの孔径を有するパリレンフィルタ膜を用いて低吸着管内にろ過した。
8. 遠心分離を4℃、17000×gで45~60分間行い、上清を廃棄した。
9. ペレットをPBSで再懸濁し、EP管に移して、PBSに再懸濁された工学的マイグラソームを得た。
【0382】
IV.工学的マイグラソームの特徴づけ
1.総タンパク質の決定
遠心管2内の液体を4℃、17000×gで5分間遠心分離した。上清を廃棄し、次いで、ペレットをPBSで1回洗浄し、上清を廃棄した。ペレットを30μlの2%SDSで溶解した。得られた試料を95℃の金属浴中で煮沸した。タンパク質濃度をBCA法によって決定して、遠心管1内のタンパク質の総量を変換し、対応する再懸濁体積を注射用量に応じて変換した。
【0383】
2.形態学的観察
工程IIIから得られた工学的マイグラソーム試料1μlを10μlに希釈し(WGA色素を1:500~1:1000の比で希釈剤に添加して、小胞の形態および膜表面上の剥離を観察することができた)、10μg/mlのフィブロネクチンで予め被覆された共焦点カプセルに滴下し、室温で1時間超放置し、レーザー共焦点顕微鏡下で観察した。結果を
図11aに示した。
【0384】
さらに、工程IIIで得られた工学的マイグラソームを、ネガティブ染色透過型電子顕微鏡および低温電子顕微鏡で観察し、結果をそれぞれ
図11bおよび
図11cに示した。
【0385】
3.フローサイトメトリー
工程III-9または10の液体1μlを100μlに希釈した。小胞が2色の蛍光を示した場合、それらをPBSで直接希釈することができた。小胞が単色蛍光のみを示した場合、それらを1:500のWGA色素で染色してクラスター化の効果を改善することができる。
【0386】
4.ウエスタンブロッティング
工程III-1で上清から少量の液体を採取し、100×gで遠心分離し、ペレットを2%SDSで溶解して細胞試料とした。工程IV-1で得られた試料を工学的マイグラソーム試料として使用した。細胞試料および工学的マイグラソーム(eMig)試料をウエスタンブロッティングのために等しいタンパク質含有量でロードして、核(ヒストンH3)、ミトコンドリア(Tim23)、小胞体(カルネキシン)、リソソーム(Lamp2)、細胞質(GAPDH)、細胞膜(Na
+-K
+-ATPアーゼ)、細胞膜接着斑(インテグリンα5)、およびTspan4-GFP(GFP)を含む様々な細胞小器官の古典的マーカーを検出した。結果を
図12に示した。
【0387】
結果から、単離および精製された工学的マイグラソームが、Tspan4、インテグリンa5、およびNa+-K+-ATPアーゼなどの細胞膜タンパク質で高度に富化されており、細胞内細胞小器官および可溶性タンパク質からの汚染がほとんどまたは全くないことが示された。
【0388】
5.透過性評価
単離および精製された工学的マイグラソームを共焦点カプセルに滴下し、Cy5(インタクトな膜を通過することができない蛍光色素)およびデキストラン-TMR(Dex-TMR)を緩衝液に添加して、小胞の透過性を示した。レーザー共焦点顕微鏡を使用して液滴に対して長期撮影を行い、結果を
図13aに示した。工学的マイグラソームは、最初から室温でCy5(MW<1kDa)に対してほぼ完全に透過性であり、より大きな分子量を有するデキストラン-TMR(MW=40kDa)に対して遅い透過性を示すことを観察することができた。工学的マイグラソームを室温で1.5時間、6時間、12時間、24時間、および48時間保存した後の、デキストラン-TMRに対する透過性比を
図13bの統計結果に示した。
【0389】
6.安定性評価
室温での工学的マイグラソームの安定性を調べるために、単離および精製された工学的マイグラソームを共焦点カプセルに滴下し、それぞれ0、1、2、3、5、および7日目に形態学的に観察し、結果を
図14aに示した。並行して保持された6つの試料をウエスタンブロッティングに供して、搭載されたOVAおよびmCherry(
図14b)を0、3、7、および14日目に検出し、それらを使用してマウスを免疫して、血清中のOVA特異的抗体の濃度を検出した(
図14c)。
【0390】
結果から、工学的マイグラソームが、インタクトな小胞形態、安定したタンパク質発現を有し、室温で7~14日間の保存中にワクチンとしての免疫原性に基本的に変化がないことが分かり、工学的マイグラソームが非常に安定であることが示された。
【0391】
7.工学的マイグラソームの安定性に対するコレステロールの効果
コレステロールがマイグラソームの形成に必須であることが以前に報告された(Huang Y,Zucker B,Zhang S,Elias S,Zhu Y,Chen H,Ding T,Li Y,Sun Y,Lou J,Kozlov MM,Yu L.Migrasome formation was mediated by assembly of micron-scale tetraspanin macrodomains.Nat Cell Biol.2019 Aug;21(8):991-1002)。工学的マイグラソームの形成に対するコレステロールの効果を調べるために、単離および精製された工学的マイグラソームを、原形質膜からコレステロールを選択的に抽出できるメチル-β-シクロデキストリン(MβCD)で処理した。コレステロール抽出試薬MβCD(10mM)を液滴に添加し、レーザー共焦点顕微鏡によって検査し、結果を
図15に示した。工学的マイグラソームのほとんどが10分以内に重度の変形および損傷を受けたことが見出され、コレステロールが工学的マイグラソームの安定性に対して重大な効果を有することが示された。
【0392】
工学的マイグラソームの薬物搭載
実施例8 工学的マイグラソームへの膜タンパク質の搭載
工学的マイグラソームの作製中、細胞膜の一部をマイグラソーム膜に変換することができ、したがって、目的の遺伝子およびTspan4をコードするプラスミドを産生細胞に直接導入することによって膜タンパク質の送達を達成することができた(
図16a)。工学的マイグラソームの作製における他の工程と組み合わせたTspan4の過剰発現により、工学的マイグラソームの生産性を大幅に増加させることができ、過剰発現された膜タンパク質は、得られた工学的マイグラソーム上で富化されるため、工学的マイグラソームへの膜タンパク質の搭載が達成される。搭載可能な膜タンパク質には、様々な細胞受容体(例えば、様々なGPCR、PD-1、VEGFRなど)、細胞外酵素(CD36およびCD73など)、イオンチャネル、トランスポーター、および様々な抗原(Sタンパク質など)などが含まれる。
【0393】
一例として、工学的マイグラソームへの3つの典型的な原形質膜タンパク質DAG1、Tgfbr1、およびPDCD1、膜結合タンパク質Kras(
図17)、ならびにSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質(
図18)の搭載を検証した。
【0394】
膜タンパク質DAG1、Tgfbr1、PDCD1、およびKrasについて、Tspan4-GFPおよび目的の遺伝子配列を含むプラスミドを産生細胞NRK細胞にトランスフェクトした。目的のタンパク質の細胞内局在および発現の観察を容易にするために、目的の遺伝子断片をリンカーを介してmCherryタグに融合した。各融合タンパク質のアミノ酸配列およびベクター情報を以下に示した。
【0395】
Tspan4-リンカー-GFP(ベクター:pB-Hygro-GFP(ベクターマップを
図19に示す)、挿入部位BsrGI+BamHI):(配列番号1)
【数1】
【0396】
Tspan4のアミノ酸配列を下線で示した。GFPのアミノ酸配列を太字斜体で示した。Tspan4とGFPとの間のアミノ酸配列はリンカー配列(PG)であった。
【0397】
DAG1-リンカー-mCherry(ベクター:pmCherry-N1(ベクターマップを
図20に示す)、挿入部位:EcoRI+KpnI):(配列番号2)
【数2】
【0398】
DAG1のアミノ酸配列を下線で示した。mCherryのアミノ酸配列を太字斜体で示した。DAG1とmCherryとの間のアミノ酸配列はリンカー配列(GDPPVAT)であった。
【0399】
PDCD1-リンカー-mCherry(ベクター:pB-Hygro-mCherry(ベクターマップを
図21に示す)、挿入部位:BsrGI+MluI):(配列番号3)
【数3】
【0400】
PDCD1のアミノ酸配列を下線で示した。mCherryのアミノ酸配列を太字斜体で示した。PDCD1とmCherryとの間のアミノ酸配列はリンカー配列(TVPRARDPPVAT)であった。
【0401】
Tgfbr1-リンカー-mCherry(ベクター:pmCherry-N1(ベクターマップを
図20に示す)、挿入部位:EcoRI+KpnI):(配列番号4)
【数4】
【0402】
Tgfbr1のアミノ酸配列を下線で示した。mCherryのアミノ酸配列を太字斜体で示した。Tgfbr1とmCherryとの間のアミノ酸配列はリンカー配列(TVPRARDPPVAT)であった。
【0403】
mCherry-リンカー-Kras(ベクター:pB-Hygro-mCherry(ベクターマップを
図21に示す)、挿入部位:BsrGI+MluI):(配列番号5)
【数5】
【0404】
mCherryのアミノ酸配列を下線で示した。Krasのアミノ酸配列を太字斜体で示した。mCherryとKrasとの間のアミノ酸配列はリンカー配列(SGLRSRG)であった。
【0405】
トランスフェクション後、細胞を抗生物質で処理し、プラスミドによってコードされた耐性についてスクリーニングすることで、様々なmCherryタグ付き膜タンパク質を安定に発現する細胞株を樹立した。次いで、実施例5におけるNRK細胞の低張処理条件を用いて、細胞株を誘導して、対応する膜タンパク質が再搭載された工学的マイグラソームを産生させ、次いで、レーザー共焦点顕微鏡によって観察を行った。結果から、目的の4つすべての膜タンパク質が工学的マイグラソーム上に正確に局在することが分かり(
図17)、膜タンパク質を工学的マイグラソーム上に組み込むことができることが示された。
【0406】
Sタンパク質について、Tspan4-GFPおよび目的の遺伝子配列を含むプラスミドを産生細胞MC38細胞にトランスフェクトした。目的のタンパク質の細胞内局在および発現の観察を容易にするために、mCherryタグを目的の遺伝子断片に融合した。トランスフェクション後、細胞を抗生物質で処理し、プラスミドによってコードされた耐性についてスクリーニングすることで、mCherryタグ付きSタンパク質を安定に発現する細胞株を樹立した。次いで、実施例5におけるMC38細胞の低張処理条件を用いて、細胞株を誘導して、Sタンパク質が搭載された工学的マイグラソームを産生させ、次いで、レーザー共焦点顕微鏡によって観察を行った。結果から、目的のSタンパク質が工学的マイグラソーム上に正確に局在することが分かり(
図18)、Sタンパク質を工学的マイグラソーム上に効果的に組み込むことができることが示された。
【0407】
実施例9 工学的マイグラソームへの可溶性タンパク質の搭載
工学的マイグラソームは透過性であるので、細胞質ゾル可溶性タンパク質の直接送達に使用される可能性は低い。可溶性タンパク質の送達を達成するために、産生細胞に目的のタンパク質と膜タンパク質との融合タンパク質を発現させて、可溶性タンパク質を膜上に固定することによって、可溶性タンパク質の透過を防ぐことができた(
図16aおよび
図16b)。例えば、膜タンパク質のシンタキシン2(STX2)のN末端を、その細胞内末端機能を除去するように改変して、トランケート型t-STX2を得ることができた。次いで、可溶性タンパク質をt-STX2の細胞外C末端に結合させて可溶性タンパク質-t-STX2融合タンパク質を形成し(
図16b)、可溶性タンパク質を人工原形質膜局在融合タンパク質として発現させた。t-STX2自体のトポロジーにより、目的の可溶性タンパク質が最終的に細胞膜外にぶら下がり、例えば、タンパク質がインタクトな抗原として免疫系によって認識されやすくなる。
【0408】
STX2に加えて、様々な他の膜タンパク質、例えばテトラスパニン-4、CD81、CD9、CD63、PDGFR、Lamp2bなどが膜アンカー型タンパク質としてしばしば使用される。
【0409】
一例として、工学的マイグラソームへの可溶性タンパク質OVAの搭載を検証した。Tspan4-GFPおよびt-STX2-OVA-mCherryをコードする配列を含むプラスミドを産生細胞MC38細胞にトランスフェクトした。t-STX2とOVAの融合タンパク質のアミノ酸配列およびベクター情報を以下に示した。
【0410】
t-STX2-リンカー-OVA-リンカー-mCherry(ベクターpmCherry-N1(ベクターマップを
図20に示す)、挿入部位:HindIII+BamHI):(配列番号6)
【数6】
【0411】
t-STX2のアミノ酸配列を太字で示した。OVAのアミノ酸配列を下線で示した。mCherryのアミノ酸配列を太字斜体で示した。
【0412】
トランスフェクション後、細胞を抗生物質で処理し、プラスミドによってコードされた耐性についてスクリーニングすることで、mCherryタグ付きt-STX2-OVA融合タンパク質を安定に発現する細胞株を樹立した。次いで、実施例5におけるMC38細胞の低張処理条件を用いて、細胞株を誘導して、t-STX2-OVA融合タンパク質が搭載された工学的マイグラソームを産生させ、次いで、レーザー共焦点顕微鏡によって観察を行い、結果を
図22に示した。
【0413】
結果から、t-STX2-OVA融合タンパク質が工学的マイグラソーム上に正確に局在することが分かり、可溶性タンパク質OVAが工学的マイグラソームに首尾よく搭載されたことが示された。
【0414】
実施例10 工学的マイグラソームへの他の目的の分子の搭載
工学的マイグラソームへの小分子薬物、低分子核酸薬物、ペプチド断片、または他の目的の分子の搭載は、抗原-抗体、受容体-リガンド、およびビオチン-アビジン結合系によって目的の分子および産生細胞を改変することによって達成することができた(
図16a)。例えば、HaloTagとその人工リガンドとの間の受容体-リガンド相互作用(Los,G.V.,Encell,L.P.,McDougall,M.G.,Hartzell,D.D.,Karassina,N.,Zimprich,C.,Wood,M.G.,Learish,R.,Ohana,R.F.,Urh,M.,Simpson,D.,Mendez,J.,Zimmerman,K.,Otto,P.,Vidugiris,G.,Zhu,J.,Darzins,A.,Klaubert,D.H.,Bulleit,R.F.,&Wood,K.V.(2008).HaloTag:a novel protein labeling technology for cell imaging and protein analysis.ACS chemical biology,3(6),373-382.)を用いて、工学的マイグラソームへの目的の分子の搭載を達成することができた。まず、膜タンパク質Tspan4および受容体タンパク質HaloTagをコードする融合タンパク質Tspan4-HaloTagのプラスミドを構築した。次いで、プラスミドを工学的マイグラソームのための産生細胞にトランスフェクトして、産生細胞を改変した。改変された産生細胞を誘導して工学的マイグラソームを産生させ、単離および精製後、工学的マイグラソームは、その膜上に受容体タンパク質HaloTagを含んでいた。目的の分子をHaloTagのリガンドにコンジュゲートすることによって目的の分子を改変して、目的の分子-リガンドコンジュゲートを形成した。次いで、膜中にHaloTagを含む工学的マイグラソームと共に目的の分子-リガンドコンジュゲートをインビトロで共インキュベートし、HaloTagとそのリガンドとの相互作用によって、目的の分子を工学的マイグラソームの膜および/または内部に固定化した。HaloTagのそのリガンドへの共有結合的コンジュゲーションは、特異的、効率的、および不可逆的であった。
【0415】
Tspan4に加えて、他の膜タンパク質、例えば本明細書の他の箇所に記載されている膜タンパク質もまた、工学的マイグラソームへの目的の分子の搭載のための膜アンカー型タンパク質として使用することができた。HaloTagおよびそのリガンドに加えて、他の抗原-抗体、受容体-リガンド、ビオチン-アビジン、または他の結合系、例えばCP05-CD63結合系もまた、工学的マイグラソームへの目的の分子の搭載に使用することができ(X.Gao,N.Ran,X.Dong,B.Zuo,R.Yang,Q.Zhou,H.M.Moulton,Y.Seow,H.Yin,Anchor peptide captures,targets,and cargos exosomes of diverse origins for diagnostics and therapy,Sci.Transl.Med.10(2018))、ここで、まず受容体CD63を工学的マイグラソームの膜に搭載し、次いで、CD63とそのリガンドCP05との結合によって、目的の分子-CP05コンジュゲートを、CD63を含む工学的マイグラソームの膜に搭載した。抗原-抗体、受容体-リガンド、またはビオチン-アビジン結合系を選択した場合、インビボで多数の天然リガンドを有する受容体(例えばPD-1)を最大限回避することができる。
【0416】
この搭載方法の概念実証を達成するために、Tspan4-HaloTag-GFPをコードする配列を含むプラスミドを産生細胞NRK細胞にトランスフェクトし、Tspan4-GFPをコードする配列を含むプラスミドを対照としてトランスフェクトした。Tspan4とHaloTagの融合タンパク質のアミノ酸配列およびベクター情報を以下に示した。
【0417】
Tspan4-リンカー-GFP-リンカー-Halo(ベクター:pB-Hygro-GFP(ベクターマップを
図19に示す)、挿入部位:BsrGI+MluI):(配列番号7)
【数7】
【0418】
Tspan4のアミノ酸配列を太字で示した。GFPのアミノ酸配列を下線で示した。Haloのアミノ酸配列を太字斜体で示した。
【0419】
トランスフェクション後、細胞を抗生物質で処理し、プラスミドによってコードされた耐性についてスクリーニングすることで、安定した発現を有する細胞株を樹立した。次いで、実施例5におけるNRK細胞の低張処理条件を用いて、細胞株を誘導して工学的マイグラソームを産生させた。蛍光HaloTagリガンド-TMR色素を工学的マイグラソームに添加し、次いで、室温で15分間インキュベートし、色素を含まない緩衝液で2回洗浄し、共焦点カプセルに滴下し、室温で5時間放置し、次いでレーザー共焦点顕微鏡で観察し、結果を
図23に示した。
【0420】
結果から、HaloTagリガンド-TMRおよびTspan4-HaloTag-GFPが工学的マイグラソーム上に共局在していることが分かり、HaloTagとそのリガンドとの相互作用によって、目的の分子を工学的マイグラソームに搭載することができることが示された。このような搭載は、効率的、特異的、および不可逆的であった。
【0421】
上述したような抗原-抗体、受容体-リガンド、またはビオチン-アビジンコンジュゲーションによる工学的マイグラソームへの搭載に加えて、低分子核酸薬物を、様々な他の修飾方法によって工学的マイグラソームの膜に搭載することもできた。例えば、化学的に修飾されたsiRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)をコレステロールにコンジュゲートすることで、コレステロールと細胞膜との親和性によって工学的マイグラソームの膜に低分子核酸薬物を搭載することができた(S.S.Yerneni,S.Lathwal,P.Shrestha,H.Shirwan,K.Matyjaszewski,L.Weiss,E.S.Yolcu,P.G.Campbell,S.R.Das,Rapid on-demand extracellular vesicle augmentation with versatile oligonucleotide tethers,ACS Nano 13(2019)10555-10565)。このアプローチは、マイグラソームに対するさらなる修飾を伴わない迅速かつ安価な搭載アプローチであった。siRNAコンジュゲートを膜上に固定化することも可能であった(T.Tian,H.X.Zhang,C.P.He,S.Fan,Y.L.Zhu,C.Qi,N.P.Huang,Z.D.Xiao,Z.H.Lu,B.A.Tannous,J.Gao,Surface functionalized exosomes as targeted drug delivery vehicles for cerebral ischemia therapy,Biomaterials 150(2018)137-149)。このアプローチは、siRNAをペプチド断片にコンジュゲートし、次いでペプチド断片をクリックケミストリーによって膜にコンジュゲートすることを必要とした。
【0422】
工学的マイグラソームへのmRNA薬物の搭載は、mRNA結合タンパク質によって達成することができた。一般的に使用されるmRNA結合タンパク質には、L7Ae(Kojima,R.,Bojar,D.,Rizzi,G.,Hamri,G.C.,El-Baba,M.D.,Saxena,P.,Auslander,S.,Tan,K.R.,&Fussenegger,M.(2018).Designer exosomes produced by implanted cells intracerebrally deliver therapeutic cargo for Parkinson’s disease treatment.Nature communications,9(1),1305;Zhitnyuk,Y.,Gee,P.,Lung,M.,Sasakawa,N.,Xu,H.,Saito,H.,&Hotta,A.(2018).Efficient mRNA delivery system utilizing chimeric VSVG-L7Ae virus-like particles.Biochemical and biophysical research communications,505(4),1097-1102)およびMS2BP(Prel,A.,Caval,V.,Gayon,R.,Ravassard,P.,Duthoit,C.,Payen,E.,Maouche-Chretien,L.,Creneguy,A.,Nguyen,T.H.,Martin,N.,Piver,E.,Sevrain,R.,Lamouroux,L.,Leboulch,P.,Deschaseaux,F.,Bouille,P.,Sensebe,L.,&Pages,J.C.,Highly efficient in vitro and in vivo delivery of functional RNAs using new versatile MS2-chimeric retrovirus-like particles,Mol.Ther.-Meth.Clin.Dev.2(2015),15039)が含まれる。まず、膜タンパク質-mRNA結合タンパク質の融合タンパク質をコードするプラスミド、例えばTspan4-L7AeまたはTspan4-MS2を構築した。次に、タンパク質結合部位を含むmRNA発現プラスミドを構築し、L7Aeのタンパク質結合部位をC/D Boxとし、MS2BPのタンパク質結合部位をMS2ステムループ(MS2SL)とした。次いで、融合タンパク質プラスミドおよびmRNAプラスミドを産生細胞に共導入して、産生細胞を誘導して工学的マイグラソームを産生させ、単離および精製後、マイグラソームはその膜上に目的のmRNA分子を含んでいた。
【0423】
実施例11 SARS-CoV-2スパイクタンパク質が搭載された工学的マイグラソームによるマウスにおける免疫応答の誘導
実験手順を
図24aに示した。実験動物は、C57BL/6株の8週齢雌性マウスであり、各群5匹のマウスとした。各群は、具体的には以下の通りであった。
I.50μgのS1組換えタンパク質(SinoBiological)+アルミニウムアジュバント(thermo scientific)、腹腔内注射(i.p.)
II.10μgのS1組換えタンパク質、尾静脈内注射(i.v.)
III.総タンパク質20μgおよびTspan4-GFPのみの発現を有する工学的マイグラソーム(NC-eMig)、尾静脈内注射、陰性対照として
IV.総タンパク質20μgならびにTspan4-GFPおよびSタンパク質-mCherry Pの同時発現を有する工学的マイグラソーム(S-eMig)、尾静脈内注射
【0424】
S-eMig群を、ウエスタンブロッティングを用いてS1タンパク質レベルについて半定量的に分析した(
図24b)。左から最初の6レーンは、それぞれ1ng、2ng、5ng、10ng、20ng、および50ngのS1組換えタンパク質を示し、レーン7~10は、それぞれ1μgの総タンパク質レベルを有するNC-eMigまたはS-eMigを示す(eMig-1およびeMig-2は、2つの独立した実験からの試料を表す)。それぞれのレーンバンドの強度を比較することにより、約100ngのS1タンパク質がS-eMigの1用量(20μg)中に存在すると計算できたが、これは、アルミニウムアジュバント群で使用されたS1組換えタンパク質の量(50μg)よりもはるかに低い。
【0425】
マウスを0日目に1回免疫し、14日目に屠殺して末梢血を採取した。血清中のSタンパク質特異的IgG抗体の濃度をELISAで検出し、結果を
図24cに示した。S1タンパク質群(II群)もNC-eMig陰性対照群(III群)も単回注射では抗体産生を促進できないが、S1タンパク質+アルミニウムアジュバント群(I群)およびS-eMig群(IV群)は両方とも抗体産生を効果的に促進することができ、両方の免疫効果はほぼ同様であることが見出された。このことから、アジュバントおよび免疫原性タンパク質を用いた従来の免疫と比較して、工学的マイグラソームは、アジュバントなしで少量のタンパク質を用いて同様な抗体応答を誘導し、したがって免疫応答を効果的に促進することができるより効率的な送達ベクターであることが示された。
【0426】
工学的マイグラソームと既知の細胞外小胞との比較
【0427】
実施例12 工学的マイグラソームと天然のマイグラソームとの比較
多面的な比較のために、同じ細胞起源の対照マイグラソーム(生産および精製手順についてはMa et al,Cell Res.2015を参照)および工学的マイグラソーム(生産および精製手順については
図9を参照)を生産および精製した。
【0428】
Tspan4-GFP過剰発現NRK細胞を低張処理し、次いで2.5%グルタルアルデヒドで固定し、走査型電子顕微鏡によって観察した(
図25a)。スピニングディスク共焦点顕微鏡によってTspan4-GFP過剰発現NRK細胞による工学的マイグラソームの産生について4D写真撮影を行った。低張処理中、細胞体が膨張し、底面が退縮して多数の糸状構造が産生され、工学的マイグラソームがこれらの糸状構造上で成長したことが観察された(
図25b)。
【0429】
天然のマイグラソームは、細胞中心点の移動によるものであり、細胞移動の後ろにのみ位置したリトラクションファイバーに結合しており、これらのマイグラソームの数は少なかった(
図26a)。工学的マイグラソームは、様々な方法で誘導された細胞膜の相対移動によるものであり、細胞の全方向に分布し得るリトラクションファイバーに結合しており、各リトラクションファイバー上および単一細胞内のマイグラソームの数は、対照マイグラソームの数よりも著しく多かった(
図26b)。Tspan4-GFP過剰発現NRK細胞をテトラメチルローダミン標識WGAで染色して、対照マイグラソーム(
図26cの上のパネル)と工学的マイグラソーム(
図26cの下のパネル)との差異を明確に示した。天然のマイグラソームは、電子顕微鏡下で内部に様々な数の分泌小胞を有していたが(
図26d、Ma et al,Cell Res.2015より)、工学的マイグラソームは、電子顕微鏡下で内容物が限られているか、または欠如していた(
図26e)。同じ細胞起源の工学的マイグラソームおよび対照マイグラソーム(非低張マイグラソームまたは天然のマイグラソームとも呼ばれる)に対して行われた質量分析から、天然のマイグラソームと比較して、工学的マイグラソームにおいてはほぼ4000個のタンパク質が存在しなかったが(
図26f)、そのタンパク質の一部は、天然のマイグラソームにおいて細胞体よりも大幅に富化されていることが示された(
図26g)。さらに、工学的マイグラソームは、天然のマイグラソームには存在しない1350個のタンパク質の発現を示し、いくつかの工学的マイグラソームの膜上には、ERMファミリーメンバータンパク質(エズリンを含む)ならびにFxyd5およびAtp1β1タンパク質などのより多くのタンパク質が発現されることが見出された(
図26h)(参考文献:Ma L,Li Y,Peng J,Wu D,Zhao X,Cui Y,Chen L,Yan X,Du Y,Yu L.Discovery of the migrasome,an organelle mediating release of cytoplasmic contents during cell migration.Cell Res.2015 Jan;25(1):24-38.doi:10.1038/cr.2014.135.)。
【0430】
実施例13 他の低張小胞との工学的マイグラソームの差異
走査型電子顕微鏡下で、NRK細胞によって産生された工学的マイグラソーム(
図25a)は、報告された低張小胞(
図25c)とは異なることが見出された。プロセスおよび特徴におけるそれらの主な差異は、以下の通りであった。
1)工学的マイグラソームは、Cohenらの実験データによって明らかにされるように細胞の上面ではなく、細胞の周囲のファイバー上に産生された。
2)工学的マイグラソームは、ミクロンスケールのサイズを有し、直径が5μmを超えることはめったになかったが、低張性を用いてCohenらによって作製された小胞は、20μmもの大きなものであり得た。
3)工学的マイグラソームのための低張誘導は、穏やかな段階的減少プロセスであった(最終浸透圧は、いくつかの現在の細胞株において40%以上であった)が、Cohenらによって使用されたのは5%PBSによる激しい処理であり、Cohenらは、小胞形成中に118%高張緩衝液を使用した(参考文献:Cohen S,Ushiro H,Stoscheck C,Chinkers MA native 170 000 epidermal growth factor receptor-kinase complex from shed plasma membrane vesicles.J Biol Chem 257:1523-1531.)。
【0431】
実施例14 小型細胞外小胞/エクソソームとの工学的マイグラソームの差異
マイグラソームおよびエクソソームは両方とも細胞外小胞であったが、産生機序、小胞のサイズ(エクソソームは一般的に50~150nm)、または他の特性が異なっていた。同じ細胞起源の小型細胞外小胞(sEV)/エクソソーム(生産および精製手順については
図27aを参照)および工学的マイグラソーム(生産および精製手順については
図9を参照)を生産、精製し、様々な側面で比較した。精製されたエクソソームのNTA検出(
図27b)および透過型電子顕微鏡(TEM)観察(
図27c)から、エクソソームのサイズおよび形態が文献の記載と一致していることが実証された。さらに、ウエスタンブロッティングから、精製されたエクソソームは、tsg101、Alix、CD63、およびCD81などの認識されている細胞外小胞/エクソソームマーカーで富化されているが、これらの小型細胞外小胞/エクソソームマーカーは、工学的マイグラソームでは富化されていないことが実証された。同時に、工学的マイグラソームは、ナトリウム/カリウムATPアーゼおよびLamp2などのより多くのマイグラソームマーカーで富化されており(
図27d)、同じ細胞起源のマイグラソームおよびエクソソームが効率的に生産および精製されたが、タンパク質組成およびマーカーにおいて著しい差があることが示された。
【0432】
工学的マイグラソームを生産する方法:
Tspan4-GFP過剰発現MC-38細胞を、フィブロネクチン処理した細胞培養皿に1日前に拡散させて培養した。
【0433】
実験当日、上清を廃棄し、40%KDPBSで細胞を洗浄した。1mg/ml BSAを含有するh-KDPBS(h-KDPBS-BSA)を添加し、得られた混合物を130rpmで3分間振盪した。上清を回収した。h-KDPBS-BSAを添加し、培養フラスコの底面をピペッティングし、回収した液体を前の工程からの上清と合わせた。遠心分離を4℃、300×gで10分間行い、上清を保持した。遠心分離を4℃、500×gで10分間行い、上清を保持した。8μmの孔径を有するパリレンフィルタ膜を用いて上清を50ml低吸着管内にろ過した。遠心分離を4℃、17000×gで45~60分間行い、上清を廃棄した。ペレットをh-KDPBS-BSAで再懸濁し、EP管(遠心管1)に移し、ここに等体積のPBS-BSAを添加した。ここで、得られたものの全体積の1/50を、タンパク質濃度の測定のために別の遠心管(遠心管2)に移した。遠心分離を4℃、17000×gで15~20分間行い、上清を廃棄し、PBSを添加し、ペレットを注射前に再懸濁して、PBSに再懸濁された工学的マイグラソームを得た。
【0434】
小型細胞外小胞の生産および精製
マウスTspan4-GFPタンパク質を過剰発現するMC-38細胞株を約20%の細胞密集度で播種し、72時間培養した。培養培地を回収し、4,000×rcfで10分間遠心分離して細胞体を除去し、上清を回収した。上清を0.45μmのフィルタ膜でろ過した。ろ過した上清を70kD限外ろ過管で濃縮した。1mM MgCl2および20U/mLベンゾナーゼを濃縮した上清に添加し、室温で一晩処理した。得られたものを0.22μmのフィルタ膜でろ過した。ろ過した液体を4℃、140,000×gで超遠心分離機にて1時間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを回収し、PBSに再懸濁した。再懸濁したペレットを60%イオジキサノールと混合し、超遠心管の底部に添加した。9mLの30%イオジキサノール、5mLの23%イオジキサノール、および6mLの18%イオジキサノールを超遠心管に順次添加した。得られたものを150,000×gで16時間遠心分離し、各密度勾配間成分(合計4成分、F1~F4)を穏やかにピペッティングし、回収した。回収したエクソソーム成分を30mLのPBSと混合し、16,000×gで1時間遠心分離し、上清を保持した。上清を0.2μmのフィルタ膜でろ過し、次いで4℃、150,000×gで2時間遠心分離し、ペレットを1×1013粒子/mLに再懸濁し、後で使用するために凍結保存した。
【0435】
同じ細胞株由来の小型細胞外小胞/エクソソームおよび工学的マイグラソームの生産および精製に基づいて、本出願人は、工学的マイグラソームの単位収量が小型細胞外小胞の単位収量よりもはるかに高く、超遠心分離、密度勾配超遠心分離などの精製を行う必要がないため、生産速度が大幅に増加することを見出した。同等量の細胞を使用して培養した場合、工学的マイグラソームの収量は、小型細胞外小胞/エクソソームの約35倍であった(
図27e)。
【0436】
同時に、等量の色素を用いた小型細胞外小胞および工学的マイグラソームのC57BL/6マウスにおける尾静脈注射の5分後に、様々な器官における工学的マイグラソームおよび小型細胞外小胞の蓄積は同様であった。時間の増加に伴い、注射の4時間後および24時間後、肝臓、脾臓、および肺における工学的マイグラソームの蓄積は、小型細胞外小胞と比較して大幅に増加し、このことから、インビボでの代謝および組織蓄積における両者の差異も示され、等量の色素を用いた場合、工学的マイグラソームの送達効率はより良好であった(
図27f)。
【0437】
同じ細胞株由来の小型細胞外小胞/エクソソームおよび工学的マイグラソームに対して質量分析を行い、PCA分析から、3つの工学的マイグラソーム試料はよく似ているが、3つの小型細胞外小胞/エクソソームとは著しく異なっていることが示された(
図28a)。シグナル伝達経路分析のヒートマップ(
図28b)および10個の最も富化されたタンパク質(
図28c)から、小型細胞外小胞/エクソソームと工学的マイグラソームとの間に著しい差が示された。
【0438】
上記の詳細な説明は、説明および例示として提供されたものであり、添付の特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。これまでに本出願において列挙された実施形態の様々な変更は、当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内に保持されるはずである。
【配列表】
【国際調査報告】