(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ヒドロキシケイ皮酸を含むスキンケア組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/365 20060101AFI20241031BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20241031BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20241031BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20241031BHJP
A61K 8/33 20060101ALI20241031BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20241031BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61K8/365
A61K8/49
A61K8/60
A61K8/34
A61K8/33
A61K8/39
A61Q19/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531478
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 US2022080525
(87)【国際公開番号】W WO2023097321
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590005058
【氏名又は名称】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】THE PROCTER & GAMBLE COMPANY
【住所又は居所原語表記】One Procter & Gamble Plaza, Cincinnati, OH 45202,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マシュー クレア アーマン
(72)【発明者】
【氏名】ワン ティン チュン
(72)【発明者】
【氏名】ジー ヤン チュウ
(72)【発明者】
【氏名】シカール グプタ
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB012
4C083AB032
4C083AB051
4C083AB351
4C083AB352
4C083AC012
4C083AC072
4C083AC111
4C083AC112
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC131
4C083AC181
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC302
4C083AC311
4C083AC312
4C083AC352
4C083AC402
4C083AC532
4C083AC642
4C083AC661
4C083AC662
4C083AC842
4C083AD042
4C083AD091
4C083AD092
4C083AD111
4C083AD152
4C083AD162
4C083AD191
4C083AD202
4C083AD212
4C083AD411
4C083AD412
4C083AD491
4C083AD611
4C083AD631
4C083AD632
4C083BB42
4C083BB43
4C083BB44
4C083BB46
4C083BB48
4C083BB51
4C083CC02
4C083CC03
4C083CC04
4C083CC05
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD38
4C083EE01
(57)【要約】
低pH水性スキンケア組成物であって、a)約0.1%~約10%のヒドロキシケイ皮酸(HCA)と、b)約0.1%~約10%の極性皮膚軟化剤と、c)約1.5%~20%未満の、ヒドロキシケイ皮酸(HCA)からのハンセン溶解パラメータ距離が15未満である共溶媒と、d)水と、を含み、組成物のpHが約5.0以下であり、組成物が、以下の条件(i)~(iii):(i)組成物が、約0.1%~約10%のビタミンB3化合物を更に含有する、(ii)HCAと極性皮膚軟化剤との重量比が約1:1~約1:10である、(iii)組成物が、約0.1%~約5%の、糖アルコール、糖ベースの乳化剤、修飾糖誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される感覚改善成分を更に含有する、のうちの少なくとも1つを満たす、低pH水性スキンケア組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低pH水性スキンケア組成物であって、
a.約0.1%~約10%のヒドロキシケイ皮酸(HCA)と、
b.約0.1%~約10%の極性皮膚軟化剤と、
c.約1.5%~20%未満の、ヒドロキシケイ皮酸(HCA)からのハンセン溶解パラメータ距離が15未満である共溶媒と、
d.水と、を含み、前記組成物のpHが約5.0以下であり、
前記組成物が、以下の条件(i)~(iii):
(i)前記組成物が、約0.1%~約10%のビタミンB
3化合物を更に含有する、
(ii)HCAと前記極性皮膚軟化剤との重量比が約1:1~約1:10である、
(iii)前記組成物が、約0.1%~5%の、糖アルコール、糖ベースの乳化剤、修飾糖誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される感覚改善成分を更に含有する、のうちの少なくとも1つを満たす、低pH水性スキンケア組成物。
【請求項2】
前記感覚改善成分が、好ましくは糖アルコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
感覚改善成分と共溶媒との重量比が、約2:1~約1:20である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
感覚改善成分と共溶媒との重量比が、約1.5:1~約1:10である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
感覚改善成分と共溶媒との重量比が、約1.5:1~約1:5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物がHCA結晶を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
低pH耐性ポリマー増粘剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記増粘剤が、ポリアクリレートクロスポリマー-6である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記共溶媒が、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、エトキシジグリコール、C2~C6ポリエテングリコール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるグリコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
約0.001重量%~約5重量%の抗酸化剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記抗酸化剤が、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
pHが約2.0~約4.5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、測色法(Color Method)に従って約6未満のΔb
*を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記Δb
*が、約2.5未満である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
酸/塩低pH緩衝系を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記HCAが、p-クマル酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、ビタミン、ミネラル、ペプチド、糖アミン、日焼け止め剤、オイルコントロール剤、フラボノイド化合物、抗酸化剤、プロテアーゼ阻害剤、チロシナーゼ阻害剤、抗炎症剤、保湿剤、角質除去剤、皮膚美白剤、抗ニキビ剤、抗しわ剤、フィトステロール、N-アシルアミノ酸化合物、抗菌剤、抗真菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1つの追加のスキンケア活性物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
スキンケアエッセンスであって、
a.ナイアシンアミドと、
b.クマル酸と、
c.ラウロイルサルコシン酸イソプロピルと、
d.ペンチレングリコールと、
を含み、
e.前記組成物が、約5.0未満のpH、25℃で約1cP~約15000cPの粘度を有し、かつHCA結晶を含まない、スキンケアエッセンス。
【請求項19】
亜硫酸ナトリウムを更に含む、請求項18に記載のスキンエッセンス。
【請求項20】
皮膚を美容的に処置する方法であって、
処置が望まれる皮膚の標的部分を特定することと、
処置期間の過程にわたって、皮膚の前記標的部分に、有効量の請求項1に記載の組成物を塗布することと、を含む、方法。
【請求項21】
低pH水性スキンケア組成物であって、
a.ビタミンB
3化合物と、
b.ヒドロキシケイ皮酸(HCA)と、
c.極性皮膚軟化剤と、
d.前記HCAからのハンセン溶解度パラメータ距離が15未満である共溶媒と、
e.水と、を含み、前記組成物のpHが約5.0未満であり、前記組成物が、HPLC法に従って約25%未満のHCA分解を示す、低pH水性スキンケア組成物。
【請求項22】
前記組成物が、1000ppm未満の4-ビニルフェノールを含有する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が、HPLC法に従って約10%未満のHCA分解を示す、請求項21に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、低pH水性スキンケア組成物であって、a)約0.1%~約10%のヒドロキシケイ皮酸(HCA)と、b)約0.1%~約10%の極性皮膚軟化剤と、c)約1.5%~20%未満の、当該ヒドロキシケイ皮酸(HCA)からハンセン溶解パラメータ距離が15未満である共溶媒と、d)水と、を含み、当該組成物のpHが約5.0以下であり、当該組成物が、以下の条件(i)~(iii):(i)当該組成物が、約0.1%~約10%のビタミンB3化合物を更に含有する、(ii)HCAと当該極性皮膚軟化剤との重量比が約1:1~約1:10である、(iii)当該組成物が、約0.1%~約5%の、糖アルコール、糖ベースの乳化剤、修飾糖誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される感覚改善成分を更に含有する、のうちの少なくとも1つを満たす、低pH水性スキンケア組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、本来なら敏感な基礎組織及び器官に損傷を与え得る環境傷害に対する最初の防衛線である。更に、皮膚は、ヒトの身体的外観において重要な役割を果たす。驚くことでないが、大部分の人々は、健康的で若々しい皮膚を望んでいる。残念ながら、一部の人々にとって、皮膚の菲薄化、しわ、及び加齢によるシミなどの老化の明らかな兆候は、若さが失われたことを思い起こさせる望ましくないものである。健康で若々しい外観の皮膚に対する欲求が、老化及び不健康な皮膚に関連する様々な皮膚状態を処置するために販売されている多数のスキンケア製品の開発をもたらした。これらのスキンケア製品は、典型的には、対象となる皮膚状態を処置するための1つ以上の活性成分を含む。
【0003】
抗酸化剤は、例えば国際公開第2008/73684号に開示されているように、活性成分としてスキンケア製品において一般的に使用されている。また、フェルラ酸などのヒドロキシケイ皮酸(HCA)は、例えば、国際公開第2018/081790号に記載されているように、特に周知の抗酸化剤である。しかしながら、スキンケア組成物中でヒドロキシケイ皮酸を使用すると、問題となる場合がある。例えば、HCAは比較的水に不溶性であり、製品中でHCA結晶の望ましくない形成を引き起こす恐れがある。更に、HCAが、スキンケア組成物で一般的な中性pH(例えば、pH5.0~8.0)で使用される場合、HCAが酸化又は分解して、製品の望ましくない色変化、臭い、及び/又は有効性の低下を引き起こす恐れがある。場合によっては、より低いpHで組成物を製剤化することは、HCAを安定化させるのには役立ち得るが、HCAの溶解度も低下させる。
【0004】
HCAの溶解度を上昇させるために、一部の配合者は、組成物の油相にHCAを添加したり(すなわち、エマルジョンの場合)、又はHCAをカプセル化したりする。しかし、これらのアプローチも問題となる場合がある。例えば、ヒドロキシケイ皮酸を油相に添加することは、油及び追加の乳化剤が組成物に導入されることに起因して、組成物の感覚プロファイルに望ましくない影響を及ぼす恐れがある。そして、カプセル化は、カプセル化負荷限界に起因して、組成物中のヒドロキシケイ皮酸の量を減少させる恐れがある。したがって、組成物の感覚特性に望ましくない影響を及ぼすことなく、水性組成物中で安定化したヒドロキシケイ皮酸を所望のレベルで提供することが依然として必要とされている。
【0005】
L’orealの国際公開第2021125070(A1)号には、組成物であって、(a)フェルラ酸などの少なくとも1つのケイ皮酸誘導体と、(b)少なくとも1つの親油性抗酸化剤と、(c)ラウロイルサルコシン酸イソプロピルなどの少なくとも1つの油と、(d)水と、を含み、当該組成物のpHが4.5以下である、組成物が開示されている。L’orealの国際公開第2021125070(A1)号には、実施例において、0.5%のフェルラ酸、6%のラウロイルサルコシン酸イソプロピル、2%のジプロピレングリコール、10%のブチレングリコールを含む組成物も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/73684号
【特許文献2】国際公開第2018/081790号
【特許文献3】国際公開第2021125070(A1)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
改善された皮膚の外観及び/又は改善された感覚を提供するこのような組成物が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
低pH水性スキンケア組成物であって、a)約0.1%~約10%のヒドロキシケイ皮酸(HCA)と、b)約0.1%~約10%の極性皮膚軟化剤と、c)約1.5%~20%未満の、当該ヒドロキシケイ皮酸(HCA)からのハンセン溶解パラメータ距離が15未満である共溶媒と、d)水と、を含み、当該組成物のpHが約5.0以下であり、当該組成物が、以下の条件(i)~(iii):(i)当該組成物が、約0.1%~約10%のビタミンB3化合物を更に含有する、(ii)HCAと当該極性皮膚軟化剤との重量比が約1:1~約1:10である、(iii)当該組成物が、約0.1%~約5%の、糖アルコール、糖ベースの乳化剤、修飾糖誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される感覚改善成分を更に含有する、のうちの少なくとも1つを満たす、低pH水性スキンケア組成物が、本明細書に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】それぞれHCA及び4-VPについてのHPLC参照スペクトルを示す。
【
図1B】それぞれHCA及び4-VPについてのHPLC参照スペクトルを示す。
【
図2】ある範囲のpHにわたるHCAの水への溶解度を示す。HCA溶解度の予測にはChemicalizeを使用した(CAS#501-98-4、7400-08-0)、2021年11月、https://chemicalize.com/、ChemAxonによって開発)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
クマル酸などのヒドロキシケイ皮酸(HCA)は、従来の水性スキンケア製品において望ましくない溶解度及び/又は安定性の特徴を示す傾向がある。HCAの不溶性は、低pH組成物において更に悪化する可能性がある。低pH組成物が、ナイアシンアミドなどの特定のスキンケア活性物質の有効性を改善できることが最近見出された(米国特許第10,874,600号を参照)。したがって、そのような組成物におけるHCAの溶解度及び/又は安定性を改善することは特に有利であろう。
【0011】
驚くべきことに、極性皮膚軟化剤及びグリコール共溶媒の好適な組み合わせを用いて組成物を製剤化することによって、低pH水性組成物における特定のHCA化合物の安定性及び/又は溶解度の特徴を改善できることが見出された。特に、HCA、極性皮膚軟化剤、及びHCAからのハンセン溶解度パラメータ距離が15未満である共溶媒の特定の組み合わせは、相乗的に作用して、水性スキンケア組成物中のHCAの望ましくない安定性及び/又は溶解度効果に対抗することができる。
【0012】
本明細書中での(複数の)「実施形態」などへの言及は、その実施形態と関連付けて説明される、特定の材料、特徴、構造、及び/又は特性が、少なくとも1つの実施形態、任意選択で多数の実施形態に含まれていることを意味するが、全ての実施形態に、説明された材料、特徴、構造、及び/又は特性が組み入れられることを意味するものではない。更に、材料、特徴、構造、及び/又は特性は、異なる実施形態にわたって、任意の好適な方法で組み合わされてもよく、材料、特徴、構造、及び/又は特性は、説明されるものから除外されてもよいし、代用されてもよい。したがって、本明細書に記載されている実施形態及び態様は、別段明記しない限り又は不適合性が明示されてされない限り、組み合わせて明示的に例示されていなくても、他の実施態様及び/又は態様の要素又は構成成分を含むか又はこれらと組み合わされることが可能である。
【0013】
全ての実施形態において、特に別途記載のない限り、百分率は全て化粧品組成物の重量を基準としている。特に記載のない限り、全ての比率は重量比である。全ての範囲は、端点を含み、組み合わせ可能である。有効桁数は、表示された量に対する限定を表すものでも、測定値の精度に対する限定を表すものでもない。特に別途記載のない限り、全ての数量は、単語「約」によって修飾されるものと理解される。別途記載のない限り、全ての測定は、およそ25℃の周囲条件においてなされたものと理解され、「周囲条件」は、約1気圧及び約50%の相対湿度の条件を意味する。全ての数値範囲は、より狭い範囲を含む。区切られた上下の範囲制限は、明示的に区切られていない更なる範囲を作る上で互換性がある。
【0014】
本発明の組成物は、本明細書に記載の必須成分及び任意選択の成分を含む、それらから本質的になる、又はそれらからなることができる。本明細書で使用するとき、「から本質的になる(consisting essentially of)」とは、組成物又は構成成分が、追加成分を含み得るが、追加成分が、特許請求される組成物又は方法の基本的及び新規な特性を実質的に変えない場合に限ることを意味する。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに他の意味を示さない限り、複数形も含むことが意図される。
【0015】
定義
「約」とは、言及された値のプラスマイナス20パーセント(±20%)又はそれよりも低い値(例えば、15%、10%未満、若しくは更には5%未満)に等しい範囲を指すことで、特定の値を修飾する。
【0016】
組成物に関連して使用される「塗布する」又は「塗布」とは、本発明の組成物を表皮などのヒトの皮膚表面上に塗布する又は広げることを意味する。
【0017】
「化粧剤」とは、美容効果をもたらすために哺乳動物の身体又はその任意の部分に擦り込まれる、注がれる、振りかけられる、噴霧される、導入される、又は他の方法で塗布されることを目的とした任意の物質、更にはその任意の成分を意味する。化粧剤としては、米国食品医薬品局によって全般的に安全と認められた(Generally Recognized as Safe、GRAS)物質、食品添加物、及び市販薬などの非化粧用消費者製品に使用される材料を挙げることができる。
【0018】
「有効量」とは、処置期間の過程にわたってケラチン性組織に対して正の効果を有意に誘導するのに十分な化合物及び組成物の量を意味する。正の効果は、本明細書に開示される効果を独立して又は組み合わせて含む、健康、外観、及び/又は感触の効果であり得る。具体例では、有効量のビタミンB3化合物は、治療期間中に乾癬皮膚の健康及び/又は外観を改善するのに十分な量である。場合によっては、有効量は、エクスビボ及び/又はインビトロ法を使用して実証され得る。
【0019】
「ヒドロキシケイ皮酸」(HCA)は、ケイ皮酸のヒドロキシ誘導体であるC6-C3骨格を有する芳香族酸又はフェニルプロパノイドのクラスを指す。HCAのいくつかの非限定的な例は、コーヒー酸、チコリ酸、ケイ皮酸、クロロゲン酸、ジフェルラ酸、クマル酸(p-、o-、及びm-異性体)、フェルラ酸、シナピン酸、シナプ酸、及びα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸である。
【0020】
「~の外観を改善する」とは、皮膚の外観において測定可能な望ましい変化又は効果を提供することを意味し、例えば、発赤、炎症、及び/又は斑の鱗屑の減少によって、定量化することができる。
【0021】
「低pH」とは、5.0未満(例えば、1.5~4.9、2.0~4.5、2.5~4.0、又は3.5~4.0)のpHを意味する。組成物のpHを決定する好適な方法は、以下により詳細に記載される。
【0022】
「中性pH」とは、5.0~8.0のpHを意味する。
【0023】
「安全かつ有効な量」とは、(健全な医学的判断の範囲内で)重篤な副作用を避けるのに十分低い、成分の有効量を意味する。
【0024】
「スキンケア」とは、皮膚状態の調節及び/又は改善を意味する。いくつかの非限定的な例としては、より滑らかで、より均一な外観及び/又は感触を提供することによって皮膚の外観及び/又は感触を改善することと、皮膚の1つ以上の層の厚さを増加させることと、皮膚の弾性又は弾力性を改善することと、皮膚のハリを改善することと、並びに皮膚の脂っぽい、てかてかした、及び/若しくはくすんだ外観を低減し、皮膚の水分量の状態若しくは保湿を改善し、小じわ及び/若しくはしわの外観を改善し、皮膚角質除去若しくは落屑を改善し、皮膚を膨化させ、皮膚バリア特性を改善し、皮膚の色合いを改善し、発赤若しくは皮膚のしみの外観を低減させ、及び/又は皮膚の明るさ、つや、若しくは透明感を改善することと、が挙げられる。
【0025】
「スキンケア活性物質」とは、皮膚に塗布すると、皮膚又は皮膚の中に通常みられる細胞の一種に急性効果及び/又は慢性効果をもたらす、化合物又は化合物の組み合わせを意味する。スキンケア活性物質は、皮膚又はそれに関連する細胞を調節及び/又は改善する(例えば、皮膚の弾性、皮膚水分量、肌のバリア機能、及び/又は細胞代謝を改善する)ことができる。
【0026】
「スキンケア組成物」は、スキンケア活性物質を含み、皮膚の状態を調節及び/又は改善する組成物を意味する。
【0027】
本明細書で使用されるとき、「処置期間」とは、材料又は組成物が標的皮膚表面に塗布される時間の長さ及び/又は頻度を意味する。
【0028】
組成物
本明細書に記載のスキンケア組成物は、皮膚の外観、健康、及び/又は機能を改善するためにヒト皮膚に局所塗布することが意図される。本組成物は、様々な皮膚状態の非治療的(すなわち、美容的)処置のために使用され得る。例えば、低pH組成物は、皮膚の外観、特に小じわ、しわ、色素過剰の色素斑、皮膚の色むら、血色が悪く見える皮膚、及び/又は皮膚安定性を改善するのに特に好適であり得る。皮膚安定性の改善とは、皮膚状態の日々の変動を減少させることを意味する。
【0029】
本明細書の低pHスキンケア組成物は、安全かつ有効な量のヒドロキシケイ皮酸(例えば、p-クマル酸、別名4-HCA又はp-HCA)、極性皮膚軟化剤、及びHCAからのハンセン溶解度パラメータ距離が15未満である好適な共溶媒を含む。本明細書の組成物はまた、ナイアシンアミドなどのビタミンB3化合物及び/又は1つ以上の他の任意のスキンケア活性物質を含んでいてもよい。組成物は、任意選択で、シリコーン乳化剤、低pH環境に耐えることができるポリマー増粘剤、低分子量シリコーン流体、酸塩pH緩衝系(例えば、乳酸/乳酸ナトリウム緩衝系)、及び/又は局所スキンケア組成物に一般的にみられる他の成分を含んでいてもよい。理論に束縛されるものではないが、本明細書に開示される成分の組み合わせは、良好な感触特性を有しかつ皮膚に優しい安定かつ有効なスキンケア組成物を提供すると考えられる。
【0030】
本明細書の組成物は、低pH環境におけるHCA溶解度を改善するように製剤化される。水性低pHスキンケア組成物において、HCAは、組成物から沈殿して結晶(HCA結晶)を形成する傾向があり、これは、組成物の外観、感触、及び/又は有効性に望ましくない影響を与える恐れがある。従来の低pH組成物は、多くの場合、HCA結晶を含有する。しかしながら、本明細書の低pH組成物は、極性皮膚軟化剤と、HCAからのハンセン溶解度パラメータ距離が15未満である共溶媒とを含有する。成分のこの組み合わせは、具体的には、HCAを低pH水性組成物に可溶化し、HCAの結晶化/沈殿を阻害するように調整される。したがって、本明細書の組成物は、HCA結晶を含まない。組成物中のHCA結晶の存在を測定及び/又は特性評価するための好適な方法については、以下により詳細に記載する。
【0031】
本明細書の低pH組成物はまた、HCA安定性を改善するように製剤化される。HCAは比較的良好な抗酸化物質であるので、経時的に酸化及び/又は分解する傾向があり、その結果、スキンケア組成物が望ましくない色の変化(例えば、黄変)、望ましくない臭い、及び/又は有効性の低下を示す恐れがある。より低いpHで製剤化すると、HCAが酸化する速度を低下させることによってHCAの安定性を改善することができるが、いくつかの態様では、HCAの酸化及び/又は分解を更に減少させるのに役立つように、低pH組成物中に抗酸化剤を含むことが望ましい場合もある。
【0032】
本明細書の低pHスキンケア組成物は、当業者に既知の従来の方法を使用して、成分を皮膚科学的に許容可能な担体と混合することによって作製することができる。組成物は、例えば、溶液、懸濁液、ローション、クリーム、ゲル、トナー、スティック、スプレー、エアロゾル、軟膏、クレンジングリキッド洗浄液及び固形バー、ペースト、フォーム、ムース、シェービングクリーム、拭き取り用品、ストリップ、パッチ、電動式パッチ、ヒドロゲル、フィルム形成製品、フェイシャル及びスキンマスク(不溶性シートを有するもの及び有さないもの)などの様々な製品形態で提供することができる。組成物の形態は、選択された皮膚科学的に許容可能な特定の担体に従い得る。
【0033】
場合によっては、本明細書の低pHスキンケア組成物は、エッセンスの形態であってもよい。エッセンスは、典型的には従来のクリーム又はローションタイプのスキンケア組成物よりも粘度が低い、比較的濃厚な処方の局所スキンケア組成物の形態である。エッセンスは、特定の皮膚状態を特に標的にするために販売されている及び/又はスキンケアレジメンの最初のステップで使用される低粘度の流体の形態で提供され得る。本明細書のスキンケアエッセンス製品は、25°Cで1センチポアズ(cP)~15,000cP(例えば、50cP~10,000cP、又は100cP~7,500cP、200cP~5,000cP、又は300cP~2,500cP)の動粘度を有し得る。低pH組成物の粘度を求める方法については、以下の方法のセクションにおいてより詳細に記載する。
【0034】
ヒドロキシケイ皮酸
本明細書の低pHスキンケア組成物は、安全かつ有効な量のHCAを含む。HCAは、組成物中に0.1%~10%(例えば、0.5%~5%又は1%~4%)で存在し得る。ヒドロキシケイ皮酸は、一般に抗酸化フェノール化合物として認識されており、主に細胞壁の成分として植物中でみられ得る。H.K.Kuzaki et al.,J.Agric.Food Chem.,50,2161-68(2002)を参照。いくつかの態様では、低pH組成物で使用するためにクマル酸、特にp-クマル酸(別名4-HCA)を選択することが望ましい場合がある。4-HCAは以下の式を有する:
【0035】
【0036】
本明細書で使用するのに好適なHCA材料の特に好適な例は、Vantage Personal Careから入手可能なLIPOBRITEである。
【0037】
低pH可溶化剤
本明細書の組成物は、HCAの可溶化を支援するために、1つ以上の可溶化剤及び/又は共溶媒を含む。HCA化合物は、一般に、本明細書に記載の低pH組成物などの低pH水性組成物において特に低い溶解度を示す。例えば、p-クマル酸は、pH7.0及び20℃にて水中で約345mg/mLの溶解度を有し、pH3.0及び20℃にて水中で4mg/mLの溶解度を有する。理論によって束縛されるものではないが、より低いpHでHCAの溶解度が低下するのは、より高いpHレベルで観察される塩基種を形成する酸解離を受けるHCAの能力が低下することに起因すると考えられる。pH7では、p-クマル酸は約99.6%がその塩基形態で存在するが、pH3では、塩基形態は約13.4%しか存在しない。このように溶解度が比較的低い結果として、HCAは、水性低pHスキンケア組成物中で結晶を形成する可能性がある。HCA結晶は、使用中に組成物に望ましくない感触(例えば、粗い又は粒状の感触)を与える場合がある。HCA結晶の形成はまた、組成物中のHCA及び/若しくは他の成分の有効性を低下させ得る、並びに/又はスキンケア組成物若しくは製造業者に対する望ましくない消費者の認識(例えば、低品質)を生じさせ得る。
【0038】
本低pH組成物におけるHCA結晶の形成を回避するために、HCAは、組成物の固有溶解限度よりも大きな溶解度を有していなければならない。例えば、約75%の水を含むpH3.8の1.0%HCA製剤は、20℃で13.3mg/mLの濃度を有するが、固有溶解度は6.8mg/mLである。この例では、HCAが結晶化する可能性が高い。ヒドロキシケイ皮酸は、特定の材料と複合体を形成し、共結晶化することが示されており、したがって固有溶解限度だけでは結晶化安定性を十分に予測することができない。Bevill,et al.,Polymorphic Cocrystals of Nutraceutical Compound p-Coumaric Acid with Nicotinamide:Characterization,Relative Solid-State Stability,and Conversion to Alternate Stoichiometries,Cryst.Growth Des.2014,14,3,1438-1448;2014を参照。
【0039】
極性皮膚軟化剤(例えば、ラウロイルサルコシン酸イソプロピル)と、HCAからのハンセン溶解度パラメータ距離が15未満である共溶媒(例えば、特定のグリコール)との特定の組み合わせが、低pH水性組成物へのHCAの溶解度を大幅に改善することができることが見出された。皮膚軟化剤は、皮膚中の水を捕捉する油性層を皮膚の上に形成することによって、皮膚を軟化及び保湿する傾向がある物質である。皮膚軟化剤のいくつかの一般的な例としては、ワセリン、ラノリン、鉱油、及びジメチコンが挙げられる。極性皮膚軟化剤は、HCAを可溶化するために本明細書において有用であるが、極性皮膚軟化剤はまた、スキンケア組成物の一般的な製品形態である水中油型エマルジョンを不安定化させる場合もある。したがって、組成物中の極性皮膚軟化剤の種類及び量を調整して、組成物へのHCAの可溶化は支援するが、エマルジョンの不安定性を回避することが重要であり得る。全ての極性皮膚軟化剤が全てのHCAと作用するわけではない。
【0040】
いくつかの態様では、本明細書の低pH組成物は、約0.1%~約10%の極性皮膚軟化剤を含み得、好ましくは、HCAと極性皮膚軟化剤との重量比は、約1:1~約1:10である。
【0041】
いくつかの態様では、本明細書の低pH組成物は、0.5%~7%の極性皮膚軟化剤(例えば、1%~5%のAjinomoto OmniChemから入手可能なELDEW SL-205ブランドのラウロイルサルコシン酸イソプロピル)を含んでいてもよく、これは、特に好適なグリコールと組み合わせたときにp-クマル酸を可溶化することが見出されている。本明細書で使用するのに好適であり得る極性皮膚軟化剤のいくつかの非限定的な例は、アミノ酸エステル誘導体(例えば、ラウロイルアルギニン、ラウロイルグルタミン酸アルギニン、ラウロイルグルタミン酸フィトステリル/オクチルドデシル、及びラウロイルグルタミン酸ジヘキシルデシル)及び炭化水素エステル(例えば、シクロヘキシルグリセリン及びミリスチン酸イソプロピル)である。
【0042】
本明細書の組成物はまた、極性皮膚軟化剤と一緒に作用してHCAの可溶化を支援する、HCAからのハンセン溶解度パラメータ距離が15未満である共溶媒を含む。ハンセン溶解度パラメータ距離は、Hansen solubility parameters:a user’s handbook,CRC press,2007に記載されており、以下の式を用いて計算することができる:
【0043】
【数1】
式中、
δ
D=ハンセン分散、
δ
P=ハンセン極性、及び
δ
H=ハンセン水素結合。
【0044】
本明細書で使用するのに好適な共溶媒としては、短鎖二価アルコール(例えば、グリコール)が挙げられる。しかしながら、共溶媒としてグリコールを選択した場合、低pH組成物中のグリコールの量を25%未満(例えば、20%未満、17%未満、15%未満、又は更には10%未満)に制限することが重要であり得るが、一般には、望ましくない感触特性(例えば、べたつき感又は脂っぽい感触)を回避するために1%超である。本明細書での使用に好適であり得るグリコールのいくつかの非限定的な例は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、エトキシジグリコール、及びC2~C6ポリエテングリコール(例えば、PEG-3、PEG-4、PEG-4メチルエーテル)、並びにこれらの組み合わせである。
【0045】
いくつかの態様では、極性皮膚軟化剤及び共溶媒は、1:3~3:1(例えば、2:3、1:1、又は2:1)の極性皮膚軟化剤の共溶媒に対する重量比で低pH組成物中に存在し得る。いくつかの態様において、HCAは、共溶媒及び/又は極性皮膚軟化剤、並びに任意選択で1つ以上の他の成分と予備混合され、次いで組成物に添加され得る。
【0046】
感覚改善成分
組成物がより多量の極性皮膚軟化剤、共溶媒、及びこれらの混合物を含有する場合、このような組成物は、べとつき、油っぽさ、脂っぽさ、コーティングされた残留物の感触、光沢、及び皮膚への吸収の欠如をはじめとする様々な属性について、消費者に不快な知覚体験を与え得る。したがって、より多量の極性皮膚軟化剤、共溶媒、及びこれらの混合物を含有するこのような組成物では、感覚改善成分を添加することが好ましい。本明細書で有用なこのような感覚改善成分としては、トレハロース及びキシリトールなどの糖アルコール;ジラウリン酸スクロース、ステアリン酸ソルビタンなどの糖ベースの乳化剤;及びグルコン酸ナトリウムなどの修飾糖誘導体が挙げられる。驚くべきことに、べとつきなどの好ましくない知覚を与えることが知られているこれらの材料は、この場合、実際に極性皮膚軟化剤及び共溶媒の効果に対抗することが見出された。特に、糖アルコールは、感覚改善効果と共に追加の皮膚コンディショニング効果を提供する観点からより好ましい。
【0047】
感覚改善成分は、約0.1%~約5%のレベルで組成物中に含まれることが好ましい。また、感覚改善成分と共溶媒との重量比は、約2:1~約1:20、より好ましくは約1.5:1~約1:10、更により好ましくは約1.5:1~約1:5であることも好ましい。ビタミンB3化合物
【0048】
本組成物は、例えば、米国特許第5,939,082号に記載のとおり、様々な皮膚状態を調節するために安全かつ有効な量のビタミンB3化合物を含み得る。本明細書の組成物は、組成物の重量又は体積に基づいて、0.1重量%~10重量%(例えば、0.5%~5%、又は1%~4%)のビタミンB3化合物を含有し得る。
【0049】
本明細書で使用するとき、「ビタミンB3化合物」とは、以下の式を有する化合物であって、
【0050】
【化2】
式中、
Rが、CONH
2(すなわち、ナイアシンアミド)、COOH(すなわち、ニコチン酸)、又はCH
2OH(すなわち、ニコチニルアルコール)である、化合物、それらの誘導体、及び前述のもののうちのいずれかの塩を意味する。ビタミンB
3化合物の例示的な誘導体としては、ニコチン酸の非血管拡張性エステル(例えば、トコフェリルニコチネート、ミリスチルニコチネート)、ニコチンアミドリボシド、ニコチニルアミノ酸、カルボン酸のニコチニルアルコールエステル、ニコチン酸N-オキシド、及びナイアシンアミドN-オキシドを含む、ニコチン酸エステルが挙げられる。場合によっては、ナイアシンアミドなどのビタミンB
3化合物は、例えば、米国特許出願公開第2020/0009123号に記載されているように、より低いpHで改善された有効性を有し得る。
【0051】
場合によっては、ビタミンB3化合物の環窒素は、組成物中では、及び/又は標的皮膚表面への塗布前には、「複合体を形成していない」(例えば、化学的に結合していない、及び/又は非ヒンダードである)ことが望ましい場合がある。例えば、本明細書の組成物は、ビタミンB3化合物の塩又は複合体を含まないか、又は実質的に含まなくてもよい(すなわち、3%、2%、1%未満、又は更には0.5%未満)。望ましくない塩及び/又は複合体の形成を最小限に抑えるか又は防止する代表的な方法としては、実質的に不可逆的な、又は他の望ましくない複合体を組成物中のビタミンB3化合物と形成する物質の除去、pH調節、イオン強度調節、界面活性剤の使用、並びに、ビタミンB3化合物及びこれと複合体を形成する物質が異なる相である配合プロセスの実行が挙げられる。
【0052】
酸化防止剤
本明細書の低pH組成物は、HCAの酸化及び/又は分解に対抗するために抗酸化剤を含んでいてもよい。抗酸化剤は、含まれている場合、0.001%~3%(例えば、0.01%~2%、0.05%~1%、又は0.1%~0.5%)で存在し得る。本明細書での使用に好適であり得る抗酸化剤のいくつかの非限定的な例は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムメタ重亜硫酸ナトリウム、及びブチル化ヒドロキシトルエンである。
【0053】
低pH酸緩衝系
皮膚への局所塗布用の低pH組成物を提供する場合、皮膚に塗布した後に一定期間(例えば、最長5分間又はそれ以上)組成物のpHを維持するのを支援する緩衝系を含むことが重要であり得る。平均して、ヒトの皮膚のpHは、典型的には約5.0~6.0の範囲である。このpHを維持するために、ヒトの皮膚は、pHの変化に抵抗する天然の緩衝系を進化させてきた。したがって、低pH組成物が皮膚に塗布されると、皮膚の天然の緩衝系は、組成物のpHを調整して皮膚の自然なpHと一致させようとする。低pH組成物は、緩衝剤の添加なしでは所望のスキンケア効果を提供することができない場合がある。したがって、本明細書の組成物は、低pH酸緩衝系を含んでいてもよい。
【0054】
緩衝剤は、本明細書の低pH組成物のpHを低下させるために使用される酸に応じて選択され得る。例えば、乳酸及びグルコン酸は、他のαヒドロキシ酸と比較して一般に皮膚に優しい(すなわち、刺激の危険性が低い)と考えられるので、組成物のpHを低下させるために、個別に又は組み合わせて使用することができる。この例では、酸/塩pH緩衝系を提供するために、対応する塩緩衝剤として乳酸ナトリウム及び/又はグルコン酸ナトリウムが選択される。緩衝剤は、低pH組成物中に0.25%~4%(例えば、0.5%~3%、0.75%~2%、又は1%~1.75%)存在し得る。本明細書で使用するのに好適な低pH緩衝系の非限定的な例は、同時係属中の米国特許出願第16/891,491号に開示されている。当然ながら、本組成物は、スキンケア組成物での使用が知られている他のpH緩衝液を任意選択的に含み得ることが理解されるべきである。
【0055】
増粘剤
組成物は、低pHの電解環境に耐えることができるポリマー増粘剤を含む。すなわち、増粘剤は、酸-塩緩衝系の存在下において組成物を低pHで増粘又は安定化させる能力を失わない。いくつかの従来の中和された増粘剤は、より低いpHで、及び/又は酸塩緩衝液(例えば、乳酸ナトリウム)の存在下では、劣化する、及び/又は組成物を適切に増粘させる能力を失うことが知られている。例えば、一部の中和された増粘剤は低pH環境で分解する。一方、セチルアルコール及びステアリルアルコールなどの脂肪族アルコール増粘剤は、一般に低pHで安定であるが、エッセンス、美容液などの形態である場合、組成物に望ましくない濁り又は不透明度を付与する傾向がある。特定のアニオン性ポリマー増粘剤は、低pH環境への好適な耐性を提供することができるが、酸と塩との組み合わせが原因で緩衝系に耐えることができないことも判明している。したがって、場合によっては、本明細書に記載の低pH組成物は、中和された増粘剤、脂肪族アルコール増粘剤、及びアニオン性増粘剤を含まないか又は実質的に含まなくてもよい。増粘剤は、組成物の0.0001重量%~25重量%(例えば、0.001重量%~20重量%、0.01重量%~10重量%、0.5重量%~7重量%、又は1重量%若しくは5重量%)で存在してもよい。
【0056】
本明細書で単独で又は組み合わせて使用可能な増粘剤又は水構造化剤の他の非限定的な例としては、天然ゴム又は合成ゴム、多糖類、カルボン酸ポリマー、ポリアクリルアミドポリマー、スルホン化ポリマー、及びこれらのコポリマーが挙げられる。更なる例としては、改質ガム、セルロース、及び超吸収性ポリマーが挙げられる。「超吸収性ポリマー」という用語は、乾燥状態において、自重の少なくとも20倍の水性流体、具体的には水、特に蒸留水を自発的に吸収することができるポリマーを意味すると理解される。好適な多糖類としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテルなどのアルキルヒドロキシアルキルセルロースエーテルが挙げられる。この材料は、Daido Chemical Corp.社からSANGELOSE 60L及び90Lの商標名で販売されている。別の好適な多糖類としては、例えば、ジャガイモ加工デンプンなどの疎水性改質デンプンが挙げられる。この材料は、Nouryon社からSTRUCTURE SOLANACEの商標名で販売されている。別のポリマーとしては、モノマーが、例えば、Clariant社からARISTOFLEX SILKの商標名で販売されている、例えば、ポリアクリロイルジメチルタウリンナトリウムなどのアクリロイルジメチルタウレートモノマーから少なくとも部分的になる架橋ポリマーが挙げられる。
【0057】
特定のアニオン性ポリマー増粘剤は、低pH環境への好適な耐性、並びに望ましい感触及び不透明性を組成物に付与できることがこれまでに判明している。したがって、アニオン性増粘剤の特に好適な例は、フランスのSeppic社からSEPIMAX ZENとして市販されているポリアクリレートクロスポリマー-6である。
【0058】
低分子量シリコーン流体。
場合によっては、低pH組成物が皮膚の標的部分に塗布されるときに、アニオン性ポリマー増粘剤が望ましくない粘着感を与える可能性がある。低分子量のシリコーン流体を添加すると、この粘着感を軽減又は防止できることが判明している。シリコーン流体の分子量は、シリコーン流体の粘度にも直接比例する、そのシリコーンポリマー鎖の長さに依存する。したがって、本低pH組成物での使用に好適な低分子量シリコーン流体は、25°Cで100cSt以下(例えば、1cSt~90cSt、5cSt~50cSt、又は更には10cSt~30cSt)の動粘度を有する。動粘度は、シリコーン流体を分類する一般的な方法であり、材料の供給元から入手することができる。低分子量シリコーン流体の特に好適な例は、5cStのジメチコン流体である。本明細書で使用するとき、「ジメチコン」とは、下式を有するポリジメチルシロキサン化合物を意味する。
【0059】
【0060】
皮膚科学的に許容可能な担体
本明細書の低pH組成物は、皮膚科学的に許容可能な担体(「担体」と称される場合もある)を含んでよい。「皮膚科学的に許容可能な担体」という語句は、担体がケラチン性組織への局所塗布に好適であり、良好な審美特性を有し、組成物中の活性物質と相溶性を有し、安全性又は毒性について不当な懸念をいっさい生じさせないことを意味する。一実施形態において、担体は、組成物の約50重量%~約99重量%、約60重量%~約98重量%、約70重量%~約98重量%、又は代替的に約80重量%~約95重量%の濃度で存在する。
【0061】
担体は、多種多様な形態であってよい。場合によっては、構成成分(例えば、抽出物、日焼け止め活性物質、追加の成分)の溶解性又は分散性によって担体の形態及び特徴が決定され得る。非限定的な例としては、単純な溶液(例えば、水性又は無水)、分散液、エマルジョン、及び固体形態(例えば、ゲル、スティック、流動性固体、又は非晶質材料)が挙げられる。場合によっては、皮膚科学的に許容可能な担体は、エマルジョンの形態である。エマルジョンは、連続水相(例えば、水中油型若しくは水中油中水型エマルジョン)又は連続油相(例えば、油中水型若しくは油中水中油型エマルジョン)を有し得る。本発明の油相は、シリコーン油、炭化水素油、エステル、エーテルなどの非シリコーン油、及びこれらの混合物を含み得る。水相は、典型的には、水及び水溶性成分(例えば、水溶性保湿剤、コンディショニング剤、抗菌剤、湿潤剤、及び/又は他のスキンケア活性物質)を含む。しかしながら、場合によっては、水相は、水溶性保湿剤、コンディショニング剤、抗菌剤、湿潤剤、及び/又は他の水溶性スキンケア活性物質を含むが、これらに限定されない、水以外の構成成分を含んでもよい。場合によっては、組成物の非水構成成分は、グリセリン及び/又は他のポリオール(複数可)などの湿潤剤を含む。
【0062】
いくつかの場合には、本明細書の組成物は、軽くてべたつかない感覚的感触を提供する水中油型(oil-in-water、「O/W」)エマルジョンの形態である。本明細書の好適なO/Wエマルジョンは、組成物の50重量%超の連続水相を含み得、残部は分散油相であり得る。水相は、水相の重量に基づいて、任意の水溶性及び/又は水混和性成分と共に1%~99%の水を含み得る。これらの場合では、分散油相は、油性組成物の望ましくない感触効果をある程度回避するのを助けるために、典型的には、組成物の30重量%未満(例えば、1重量%~20重量%、2重量%~15重量%、3重量%~12重量%、4重量%~10重量%、又は更には5重量%~8重量%)で存在する。油相は、1つ以上の揮発性油及び/又は非揮発性油(例えば、植物油、シリコーン油、及び/又は炭化水素油)を含み得る。本組成物で使用するのに好適であり得る油のいくつかの非限定的な例は、米国特許第9,446,265号及び米国特許出願公開第2015/0196464号に開示されている。
【0063】
担体は、1つ以上の皮膚科学的に許容可能な親水性希釈剤を含有してもよい。本明細書で使用するとき、「希釈剤」としては、ビタミンB3化合物を分散、溶解、又は別の方法で組み込むことができる材料が挙げられる。親水性希釈剤としては、水、低級一価アルコール(例えば、C1~C4)、並びに低分子量グリコール及びポリオールなどの有機親水性希釈剤が挙げられ、これらには、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、分子量200~600g/モル)、ポリプロピレングリコール(例えば、分子量425~2025g/モル)、グリセロール、ブチレングリコール、1,2,4-ブタントリオール、ソルビトールエステル、1,2,6-ヘキサントリオール、エタノール、イソプロパノール、ソルビトールエステル、ブタンジオール、エーテルプロパノール、エトキシル化エーテル、プロポキシル化エーテル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
乳化剤
本明細書の低pH組成物がエマルジョン(例えば、水中油型エマルジョン)の形態である場合、エマルジョンを安定化させる(すなわち、エマルジョンが相分離するのを防ぐ)ために乳化剤を含むことが望ましい場合がある。乳化剤は、組成物中に0.01%~10%(例えば、0.05%~5%、又は0.1%~2%)存在し得る。乳化剤は、非イオン性であってもよく、アニオン性であってもよく、又はカチオン性であってもよい。場合によっては、乳化剤は、シリコーン乳化剤であり得る。本明細書で使用するのに好適であり得る乳化剤のいくつかの非限定的な例は、米国特許第3,755,560号、同第4,421,769号、及びMcCutcheon’s Detergents and Emulsifiers,North American Edition、317-324頁(1986)に開示されている。
【0065】
本明細書での使用に好適であり得る乳化剤のいくつかの他の非限定的な例としては、ポリグリコールのエーテル及び脂肪族アルコールのエーテル、ポリグリコールのエステル及び脂肪酸のエステル、ポリグリコールのエーテル及びグリコシル化された脂肪族アルコールのエーテル、ポリグリコールのエステル及びグリコシル化された脂肪酸のエステル、C12-30アルコールのエーテル及びグリセロール又はポリグリセロールのエーテル、C12-30脂肪酸のエステル及びグリセロール又はポリグリセロールのエステル、オキシアルキレン変性C12-30アルコールのエーテル及びグリセロール又はポリグリセロールのエーテル、スクロース又はグルコースを含むC1-230脂肪族アルコールのエーテル、スクロースのエーテル又はグルコースのエーテル、スクロースのエステル及びC1230脂肪酸のエステル、ペンタエリスリトールのエステル及びC12-30脂肪酸のエステル、ソルビトールのエステル及び/又はソルビタンのエステル及びC12 30脂肪酸のエステル、ソルビトールのエーテル及び/又はソルビタンのエーテル及びアルコキシル化ソルビタンのエーテル、ポリグリコールのエーテル及びコレステロールのエーテル、C12-30脂肪酸のエステル並びにソルビトール及び/又はソルビタンのアルコキシル化エーテル、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。特に有用な種類の乳化剤は、ラウレス-1からラウレス-50(例えばラウレス-4)などのラウリルアルコールのポリエチレングリコールエーテルである。乳化剤の更に他の例としては、グリセロール、ポリグリセロール、スクロース、グルコース、又はソルビトールのエーテル;グリセロール、ポリグリセロール、スクロース、グルコース、又はソルビトールのエステル;及びこれらの混合物が挙げられる。他の特に有用な種類の乳化剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート21及びポリソルベート40などのソルビトール及びソルビトール無水物のアルキルエステルである。
【0066】
いくつかの態様では、低pH組成物中に直鎖又は分岐鎖シリコーン乳化剤を含むことが望ましい場合がある。特に有用なシリコーン乳化剤としては、KF-6011、KF-6012、KF-6013、KF-6015、KF-6015、KF-6017、KF-6043、KF-6028、及びKF-6038などのポリエーテル修飾シリコーン、並びにKF-6100、KF-6104、及びKF-6105などのポリグリセロール化直鎖又は分岐鎖シロキサン乳化剤(全てShin-Etsu社製)が挙げられ得る。本明細書で使用するのに特に好適な乳化剤は、Shin-Etsu社からKF-6011として販売されているPEG-11メチルエーテルジメチコンである。PEG-11メチルエーテルジメチコン乳化剤は、アニオン性ポリマー増粘剤の粘着感を更に低下させることによって低pH組成物の全体的な感触を改善することが見出された。乳化剤は、0.1%~10%(例えば、1%~5%、又は2%~4%)の量で存在し得る。
【0067】
他の任意選択の成分
本組成物は、任意選択的に、化粧品組成物(例えば、着色剤、スキンケア活性物質、抗炎症剤、日焼け止め剤、乳化剤、緩衝液、レオロジー変性剤、これらの組み合わせなど)に一般的に使用される1つ以上の追加の成分を含んでもよく、ただし追加の成分は、本組成物によって提供される皮膚健康上又は外観上の効果を不所望に変えるものではない。組成物中に組み入れられる場合、追加の成分は、過度の毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応などを示すことなく、ヒトの皮膚組織に接触させて用いるのに好適でなければならない。追加活性物質のいくつかの非限定的な例としては、ビタミン、ミネラル、ペプチド及びペプチド誘導体、糖アミン、日焼け止め剤、オイルコントロール剤、微粒子、フラボノイド化合物、育毛制御剤、抗酸化剤及び/又は抗酸化剤前駆体、防腐剤、プロテアーゼ阻害剤、チロシナーゼ阻害剤、抗炎症剤、保湿剤、角質除去剤、皮膚美白剤、サンレスタンニング剤、潤滑剤、抗ニキビ活性物質、抗セルライト活性物質、キレート剤、抗しわ活性物質、抗萎縮活性物質、フィトステロール及び/又は植物ホルモン、N-アシルアミノ酸化合物、抗菌剤、並びに抗真菌剤が挙げられる。本明細書で使用するのに好適であり得る追加の成分及び/又はスキンケア活性物質の他の非限定的な例が、米国特許出願公開第2002/0022040号、同第2003/0049212号、同第2004/0175347号、同第2006/0275237号、同第2007/0196344号、同第2008/0181956号、同第2008/0206373号、同第2010/00092408号、同第2008/0206373号、同第2010/0239510号、同第2010/0189669号、同第2010/0272667号、同第2011/0262025号、同第2011/0097286号、同第2012/0197016号、同第2012/0128683号、同第2012/0148515号、同第2012/0156146号、及び同第2013/0022557号、並びに米国特許第5,939,082号、同第5,872,112号、同第6,492,326号、同第6,696,049号、同第6,524,598号、同第5,972,359号、及び同第6,174,533号に記載されている。
【0068】
本明細書における組成物中に任意選択の成分を含む場合、低pHで組成物中の他の成分、特に、ナイアシンアミド、サリチレート、及びペプチドのようなpH感受性成分と複合体を形成しないか、そうでなくても、望ましくない相互作用をしない成分を選択することが望ましい場合がある。場合によっては、両方の薬剤の有効性を低減させ得る活性物質が互いに干渉しないように、異なる生物学的経路によって機能するスキンケア活性物質を選択することが望ましい場合がある。存在する場合、任意選択の成分は、組成物の0.0001重量%~50重量%、0.001重量%~20重量%、又は更には、0.01重量%~10重量%(例えば、50重量%、40重量%、30重量%、20重量%、10重量%、5重量%、4重量%、3重量%、2重量%、1重量%、0.5重量%、又は0.1重量%)の量で含まれ得る。
【0069】
使用方法
本明細書の低pH化粧品組成物は、皮膚への局所塗布を目的として配合されている。本低pH組成物の使用方法は、処置を必要とするヒト又は処置が望ましい場所(例えば、色むら、血色の悪さ、又は色素過剰色素斑、小じわ、又はしわを示す皮膚の部分、皮膚の安定性)における皮膚の標的部分を特定することと、処置期間にわたって当該皮膚の標的部分に有効量の低pH組成物を塗布することとを含む。組成物の有効量は、使用者が望む皮膚効果及び/又は処置領域の大きさに基づいて変化し得る。場合によっては、有効量は、0.1g~5g(例えば、0.2g~4g、0.3g~2g、又は更には0.5g~1g)の範囲であり得る。皮膚の標的部分は、額、口周囲、顎、眼窩周囲、鼻、及び/若しくは頬などの顔の皮膚表面上、又は身体の別の部分(例えば、手、腕、脚部、背部、胸)にあってもよい。場合によっては、色素沈着過度のシミ又は皮膚の色むらなどの皮膚の老化の兆候を現在は示していないが、年齢と共にそのような特徴を一般に示す皮膚領域である皮膚の標的部分が選択されてもよい。これらの場合に、低pH組成物を使用して、このような望ましくない皮膚特徴の発生の防止を助けることができる。
【0070】
組成物は、処置期間中、処置を必要としている皮膚の標的部分に、そして、必要に応じて周囲の皮膚に、少なくとも1日1回、1日2回、又は毎日それ以上の頻度で局所的に塗布することができる。1日2回塗布する場合、1回目及び2回目の塗布の間は、少なくとも1~12時間の間隔を空ける。組成物は典型的に、朝及び/又は夜就寝前に塗布される。本明細書の方法に従って使用される場合、本組成物は、例えば、皮膚のテクスチャを改善することによって、皮膚の外観及び/又は機能を改善することができる。皮膚のテクスチャの改善が、例えば、毛穴の大きさを減少させること、肌荒れを低減すること、しわの存在及び/又は大きさを低減すること、これらの組み合わせなどによってなされてもよい。
【0071】
処置期間は、理想的には、低pH組成物が皮膚の標的部分の外観及び/又は機能を改善するのに十分な時間である。処置期間は、典型的には、少なくとも1週間(例えば、約2週間、4週間、8週間、又は更には12週間)にわたって持続する。場合によっては、処置期間は、複数月(すなわち3~12ヶ月)に及ぶ場合もある。場合によっては、少なくとも2週間、4週間、8週間、又は12週間の治療期間中に、週の大半の日(例えば、少なくとも週に4日、5日又は6日)に、少なくとも1日に1回又は更には1日に2回組成物を塗布する。
【0072】
本明細書における組成物を塗布する工程は、局所的塗布により行うことができる。組成物の塗布に関して、「局所的な」、「局所的」、又は「局所的に」という用語は、処置が望まれていない皮膚表面への送達を最小限にしつつ、組成物が標的領域(例えば、乾癬斑)に送達されることを意味する。本組成物は、ある皮膚領域に塗布し、軽く揉み込むことができる。組成物又は皮膚科学的に許容可能な担体の形態は、局所的塗布が容易となるように選択されるべきである。本明細書における特定の実施形態は、組成物をある領域に局所的に適用することを想到しているが、本明細書における組成物は、1つ以上の皮膚表面に更に全身的に又は広範に適用され得ることが理解されよう。特定の実施形態では、本明細書における組成物は、多段階式美容法の一部として使用してもよく、この場合、本組成物を1つ以上の他の組成物の前及び/又は後に塗布してよい。
【0073】
方法
HPLC
この方法は、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)を使用して、原料又は最終生成物中のHCA及び4-ビニルフェノール(4-VP)の重量パーセントをそれぞれ求める方法を提供する。この方法はまた、それらの波長スペクトル及び保持時間をそれぞれの既知の標準に一致させることによってHCA及び/又は4VPを同定するためにも使用することもできる。以下の機器及び材料をこの方法で使用する。
【0074】
機器:
・勾配HPLCポンプ、液体オートサンプラー、UV検出器(及びスペクトル分析のためのダイオード配列検出器(DAD))、及び好適なコンピューティングインテグレータ又はコンピュータデータシステム(例えば、Waters Corporation製のWaters 2695 HPLCシステム又は等価物)を含む勾配HPLCシステム。
・5um、250mm×4.6mm ID HPLCカラム(例えば、Alltech Alltima製のC18カラム)。
【0075】
方法:
2つの移動相を使用して、1.0mL/分の一貫した流量で勾配を作り出す。移動相Aは、精製水中0.5%酢酸からなる。移動相Bは、アセトニトリル中0.5%酢酸からなる。勾配を以下の表1に示す。
【0076】
【0077】
カラム温度は25℃である。データ収集UV波長は263nmである。190nm~400nmのスペクトルデータを収集して、HCA及び4-VPを同定する。HCAの保持時間は10.86(±0.20)分であり、4-VPの保持時間は14.60(±0.20)分である。HCA及び4-VPの参照スペクトルをそれぞれ
図1A及び1Bに示す。
【0078】
計算
1.最終製品試料中のHCAの重量%の計算
【0079】
【数2】
A=HCA:試料中の内部標準のピーク面積比
B=HCA:較正標準中の内部標準のピーク面積比
M=較正標準(約50mg/50mL×3mL)におけるHCAの質量(mg)
W=試料の重量(mg)
P=10進法でのHCAの純度
2.最終製品試料中の4-VPの重量%の計算
【0080】
【数3】
a=4-VP:試料中の内部標準のピーク面積比
b=4-VP:較正標準中の内部標準のピーク面積比
m=較正標準(約150mg/100mL×1mL)における4-VPの質量(mg)
W=試料の重量(mg)
p=10進法での4-VPの純度
【0081】
HCAの結晶化
この方法は、インサイチュでHCA結晶を観察することによって、組成物に対するHCAの溶解度を求める方法を提供する。この方法は、試験試料の温度を凍結と解凍との間で循環させて、加速された速度でスキンケア組成物が経験する環境条件を模倣することを含む。この種の加速劣化は、化粧品安定性試験において一般的に使用される。HCA結晶は、目視観察及び顕微鏡検査などの従来の手段を使用して検出することができる。
【0082】
少なくとも10g(例えば、20g~60g)の試験される組成物のバルク試料を、試験試料の目視観察を可能にする好適な容器(例えば、透明プラスチック又はガラスジャー)に入れる。試験試料を1ヶ月の凍結/解凍温度サイクルに供して、スキンケア製品が輸送及び貯蔵中に経験し得る環境条件をシミュレートする。これは、加速劣化と呼ばれることもある。温度サイクルは、-7℃(又は注記の場合、-18℃)で1週間の凍結サイクルと、それに続く25℃で1週間の解凍サイクルとを含み、次いで、1ヶ月間の合計温度サイクル期間にわたってこの凍結/サイクルを繰り返す。
【0083】
加速劣化プロセス(すなわち、1ヶ月間の温度サイクル)の完了時に、透明な試験試料を透明な容器内でその場で目視検査して、HCAの結晶化/沈殿が起こったかどうかを判定する。不透明及び半透明の試料については、試験試料全体を容器から取り出し、好適な透明基材(例えば、プラスチックフィルム又はガラス板)に移し、厚さ1mm以下の薄膜に成形する。検査中に揮発性成分が失なわれるのを抑制するために、試料を第2の透明基板で覆う。目視検査を支援するために、光源(例えば、LEDランプなど)を使用して試料の背後から光を当てる。HCA結晶は、一般的に、45cm離れたところから20/20の視力を有する人が観察した場合、肉眼で見える組成物中の沈殿物として現れる。異方性結晶を同定するために、交差偏光による蛍光複屈折観察を提供することができる顕微鏡を使用して、目視観察中に同定された任意の沈殿物を更に評価してよい。0.1mmを超える最長寸法を有する任意の異方性結晶をHCA結晶として同定し、HCA結晶の総数を記録する。1個以下のHCA結晶を含有する試験試料は、「HCA結晶を含まない」とみなし、「合格」として記録する。1個を超えるHCA結晶を含有する試験試料は、「不合格」として記録する。
【0084】
必須ではないが、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を使用して、HCA結晶又は共結晶が適切なヒドロキシケイ皮酸構造を含有することを確認してもよい。FTIR分光法は、当該技術分野において周知である。米国特許第10,91,2857号、米国特許出願公開第2020/0000697号、及びFourier Transform Infrared Spectroscopy in Colloid and Interface Science,D.R.Scheuing,Ed.,American Chemical Society,225,1991を参照されたい。
【0085】
飽和溶解度
この方法は、UV-Vis-分光法を使用してHCA組成物の飽和溶解度を求める方法を提供する。
【0086】
機器及び材料:
コンピュータデータシステムを備えたUV-VIS-NIR分光光度計(UV-3600 Shimadzu UV-VIS-NIR分光光度計など)。好適な試料セル(1cmの経路長の石英セルなど)。遠心分離機、Srvall ST40R遠心分離機、及びシリンジフィルター(0.2umシリンジフィルター、H-PTFE、13mm)。Thermo Scientific(商標)LP Vortex Mixer及び70%エタノール酸性溶液(69.3%エタノール、29.7%水、1%HCl)、pH<3。
【0087】
飽和溶解度試料の調製:
飽和溶解度は、過剰に添加されたHCAを用いてガラスビーカーで100mLの試料を調製することによって測定される。HCl/NaOH溶液を用いて溶液のpHを目標pHに調整する。溶液を一晩混合したままにして平衡に達するようにする。20mLの溶液を50mLの遠心管に分取し、25℃、4700rpmで10分間遠心分離する。0.2umシリンジフィルターを通して必要な試料量を濾過する。70%エタノール酸性溶液を用いて溶液を所望の希釈係数に希釈する。
【0088】
油-水分配試料調製:
この測定は飽和溶解度試験と同様であるが、多相製剤の油相と水相との間の相対的分配を測定するために使用される。この場合、50mLの遠心管において20mLの試料を調製する。ボルテックスミキサーを用いて試料を10秒間混合する。試料を一晩放置して平衡化させる。試料を、25℃、4700rpmで10分間遠心分離する。遠心分離後、透明な油相及び水相が、目視ではっきり認識できるはずである。必要な油相を分取し、70%エタノール酸性溶液を用いて所望の希釈係数に希釈する。別の必要な水相を分取し、0.2umシリンジフィルターを通して濾過し、70%エタノール酸性溶液を用いて所望の希釈係数に希釈する。
【0089】
測定:
UV-Vis分光光度計製造業者のガイドラインに従って測定を行う。UV装置をオンにし、ランプを20分間温め、較正を確実にし、標準希釈曲線を作成する。HCAについては、波長を200~500nm、走査速度:高速、自動サンプリング間隔の単一走査モード、及び吸光度モードに設定する。70%エタノール酸性溶液を含む2×石英セルを使用してバックグラウンドを測定する。試料を測定し、311nmにおける吸光度を読み取る。較正曲線に対する311nmにおける吸光度からHCA濃度測定値を計算し、希釈係数に基づいて最終濃度に調整する。
【0090】
計算
1.水相又は油相中のHCA濃度測定値の計算
【0091】
【0092】
【数5】
較正曲線の傾き(70%エタノール酸性溶液)=0.1229
体積(mL)=溶質を除く、測定された相(油又は水)の総量。水相及び油相の密度は、1g/mLであると仮定する。
【0093】
色
この方法を使用して、製品、材料、又は皮膚の標的部分の色の変化を求めることができる。分光光度計(例えば、Spectrophotometer CM-3600A、Konica Minolta、日本、又は等価物)を使用して、CIE(国際照明委員会)指定の照明及び観察条件で分光データを測定し、CIE観察者及びCIE光源標準に基づいて、関連する三刺激値XYZを計算する。物体の色を評価するための分光データを得るためのASTM規格は、ASTM E1164-12(2017)e1であり、分光データからCIE三刺激値を計算するための値及び手順は、ASTM E308に概説されている。L*a*b*とも呼ばれるCIELABカラースケールは、ASTM E308に定義されている三刺激値から計算される。L*は、試料の知覚明度を示す。一方、a*及びb*はヒトの視覚の固有の色に関連し、a*は赤色方向において正であり、緑色方向において負であり、b*は黄色方向において正であり、青色方向において負である。
【0094】
分光光度計を2°観察者及びD65光源で作動させて、1931 CIEに定義されている三刺激XYZ値及び関連するCIELAB色を測定する。部分試料は、プラスチックセル(例えば、CM-A131、コニカミノルタ(日本)又は等価物)における10mm光路長、反射率測定、標本表面での25.4mmの絞り開口、及び標準白色背景を有する正反射成分を含まない条件を用いて評価する。許容可能な白色背景としては、不透明カード又は等価物(例えば、不透明カード2A型、Leneta Company,Inc(Mahwah,NJ))の白色部分が挙げられる。埃及び破片のないゼロ較正ボックス又はブラックトラップ(例えば、Konica Minolta ゼロ較正ボックスCM-A155又は等価物)を利用して、ゼロ標準で機器を較正する。CIELAB値は、ASTM E308において定義されている関連機器ソフトウェア(例えば、SpectroMagic NX)によって報告される。製品の黄色度の変化については、b*値の変化に焦点を当ててCIELABカラースケールを利用する。結果をΔb*として報告し、正のΔb*は黄色度の増加を示す。
【0095】
レオロジー
この方法は、BROOKFIELDブランドの粘度計(例えば、モデルDV2T又は同等品)及び好適なスピンドル(例えば、RV4又は同等品)を製造元の指示に従って使用して、組成物又は材料の動粘度を測定する方法を提供する。当業者であれば製造元の推奨に従って適切なスピンドルを選択できることが理解される。粘度計を較正した後、スピンドルを十分な量(例えば、スピンドルをスピンドルシャフト上の浸漬マークまで浸漬するのに十分な量)の試験サンプルに浸漬する。スピンドル回転速度を5rpmに設定し、粘度計を起動する。表示された粘度の読み取り値が安定するまで待つ(約10~30秒)。読み取り値が安定したら、10秒間隔で5回の読み取りを行う。5回の読み取り値の平均として粘度を計算する。
【実施例】
【0096】
実施例1:配合物。
以下の表2は、本発明の様々な態様に対応する低pHスキンケア組成物の例を提供する。組成物は、スキンケア組成物を製造する従来の方法を使用して調製することができる。このような方法は、典型的には、加熱、冷却、真空の適用などを用いて又は用いずに、成分を1つ以上の工程で比較的均一な状態になるまで混合することを含む。例示される量は全て、特に指定しない限り、市販の製品中に存在し得る希釈剤、防腐剤、着色溶液、感触調整粉末、及びエラストマーなどの微量物質を除外する。HCAは、固体形態として添加してその場で可溶化させてもよく、プレミックスとして溶解させてもよく、又は予め分散させた原材料として供給してもよい。特定の実施例では、PEG-4(Vantage製のLipobrite(登録商標))中に予め分散させた4-HCAの15%溶液を使用する。Lipobrite(登録商標)を含有する実施例については、明確にするために4-HCA及びPEG-4の構成成分レベルを個々に列挙し、上付き文字は、Lipobrite(登録商標)原料を示す。添加した全Lipobrite(登録商標)材料は、列挙する4-HCA及びPEG-4の構成成分の合計である。他の全ての材料は、供給元から「入手したまま(as is)」記載されている。
【0097】
エマルジョンは、最初に水相の材料を油相及び/又はシリコーン相の材料とは別々に混合し、次いで、2つの相を適宜組み合わせて所望の連続層を得ることにより調製する。いくつかの態様において、例示的な組成物は、全ての材料が溶解して均質になるまで、水相成分を好適なミキサー(例えば、IKA RW20又は等価物)でブレンドすることによって作製することができる。存在する場合、任意選択のポリマー増粘剤は、撹拌しながら増粘剤を水相に直接ゆっくりと添加し、均質になるまで混合を続けることによって水和してよい。4-HCA、極性皮膚軟化剤、及びグリコール共溶媒を別個のプレミックス容器に一緒に添加し、完全に溶解して均一になるまで混合してよい。次いで、HCAプレミックスを主混合容器に添加し、均質になるまで更に混合してよい。好適なミキサー(例えば、IKA Ultra Turrax T-25又は等価物)を使用して製剤を粉砕して、標的粘度に到達し、均一な組成物が得られるまで、エマルジョン粒径を低減してよい。プロセスの速度を制御する及び/又は均質な最終生成物を得るために、必要に応じて温度を調整してもよい。
【0098】
【0099】
【表3】
1Seppicから入手可能なSEPIMAX ZEN
2Clariantから入手可能なARISTOFLEX SILK
3Shin-Etsuから入手可能なKF-6011
4Vantage製のLIPOBRITE(15%4-HCA、85%PEG-4)
5Ajinomoto OmniChem製のEldew SL-205
6Dow Corning製のDC-1503
7Sigma Aldrich製のフェルラ酸
8Croda製のPROMATRIXYL
*必要に応じてpHを調整
【0100】
実施例2:HCA安定性に対するpH及びナイアシンアミドの効果
この実施例は、HCA安定性に対するpH及びナイアシンアミドの効果を実証する。(例えば、脱炭酸を介して)HCAが分解すると、副生成物として4-ビニルフェノールが生成されるが、これは一般にスキンケア組成物において望ましくない。4-VPは、組成物に不快な臭いをもたらす恐れがあり、更に反応して組成物の変色(例えば、黄変)を引き起こす恐れがある。したがって、スキンケア組成物中の4-VPの量を1500ppm未満(例えば、1100、800ppm、700ppm、600ppm、500ppm、400ppm未満、又は更には300ppm未満)に制限することが望ましい場合がある。
【0101】
表3に示す組成物を試験して、HCAの分解及び4-VPの形成に対するpH及びナイアシンアミドの効果を判定した。必要に応じて、6N HCL溶液又は4%NaOH溶液を用いて試験組成物のpHを調整した。試験組成物を50℃で3週間インキュベートし、次いで、HCA分解については上記のHPLC法に従って、色の変化(Δb*)については上記の測色法(color method)に従って試験した。
【0102】
【0103】
表3から分かるように、pH及びナイアシンアミドの両方が、HCA分解、Δb*、及び4-VP形成に影響を及ぼすと思われる。これらのデータは、pHの増加及び/又はナイアシンアミドの添加が、4-HCAの分解を増加させ、4-VPの形成を増加させ、水性スキンケア組成物において黄変を引き起こすことを示唆している。データは、予想外なことに、ナイアシンアミドの添加が、より高いpHで4-VPの形成を実際に加速することを示している。ナイアシンアミドがHCA分解に寄与することは言うまでもなく、ましてやそれを加速することはこれまで全く知られていなかったので、これは予想外である。したがって、HCA及びナイアシンアミドを含むスキンケア組成物のpHを低下させることは、4-VPの形成速度を予想以上に低下させると思われる。
【0104】
表3のデータはまた、pH及びナイアシンアミドの両方が、試験組成物の黄色度(Δb*)の変化に寄与することを実証する。驚くべきことに、3.8~6.0(例えば、約4.5)のpHでは、ナイアシンアミドを含有する試験組成物についてΔb*が最も低くなると思われる。HCA分解に関連する黄変(すなわち、Δb*値の正の変化)は、組成物3D~3Fにみられるように、予測可能な線形様式でpHと共に変化すると考えられていたので、この結果は驚くべきことである。
【0105】
実施例3:黄変速度に対するラジカルスカベンジャーの効果。
この実施例は、黄変速度の減少(すなわち、より低いΔb*値)によって証明されるように、抗酸化剤がHCA分解を減少させるのを支援する能力を実証する。以下の表4に示す試験組成物を、pH3.8及びpH6.0で、メタ重亜硫酸ナトリウム、酸素干渉還元剤の有り無し両方で試験した。試験組成物を2つの異なる加速劣化条件で劣化させた:50℃で3週間(3W50C)及び40℃で3ヶ月間(3M40C)。理論によって束縛されるものではないが、加速劣化条件は、スキンケア製品が輸送及び貯蔵中に曝露され得る環境条件をシミュレートすると考えられる。加速劣化後、試験組成物を上記の測色法に従って試験してΔb*を求めた。40℃で3ヶ月間劣化させた試験組成物をHPLC法に従って更に試験して、HCA分解及び4-VP形成のレベルを求めた。
【0106】
試験結果を以下の表4にまとめる。表4から分かるように、メタ重硫酸ナトリウム(SMBS)を添加すると、それぞれ4A及び4Cと比較して、組成物4B及び4Dの黄変速度が著しく減少した。驚くべきことに、データは、酸素干渉還元剤の効果が、中性pHに対して低pHでは予想よりも増強されたことを示す(すなわち、表5から分かるように、3W50Cについては20%及び3M40Cについては240%)。Δb*の減少は、HCA分解又は4-VP形成の更なる減少ではなく、いくつかの他の独自の作用機序に起因すると思われる。したがって、HCAを含有する低pH組成物における黄変速度を相乗的に低下させることができる成分の組み合わせを提供することが今や可能である。
【0107】
【0108】
この実施例における試験からの相乗的結果を表5に示す。相乗係数は、観測値を予測値で除することによって計算される。1よりも大きい相乗係数は、相乗効果を示す。
【0109】
【0110】
実施例4:低pH溶解度
この実施例は、本明細書の低pH組成物の低pHでHCAを可溶化させる能力を実証する。
図2に示すように、HCA溶解度は、約pH6.0で劇的に減少し始める。しかしながら、本明細書における代表的な低pH組成物は、低pH(例えば、pH3.8)で可溶化されたHCAを維持することができる。表6に示す試験組成物を、-7℃/25℃で1週間/1週間の凍結/解凍サイクルに2回供し(合計1ヶ月の温度サイクル)、続いて、25℃で90日間のインキュベーション期間に供して、製品の輸送及び貯蔵中に遭遇し得る環境条件を再現した。表6から分かるように、代表的な試験組成物(実施例6A~6C)のいずれも著しいHCA結晶化を示さなかった。しかし、極性皮膚軟化剤を除いた比較例(実施例6D)は結晶化を示した。
【0111】
【表7】
1Ajinomoto OmniChem.製のEldew SL-205
2Vantage製のLIPOBRITE
3Seppicから入手可能なSEPIMAX ZEN
4Shin-Etsuから入手可能なKF-6011
【0112】
実施例5:比較例
この例は、従来の組成物が低pHでHCAを可溶化することができないことを実証する。米国特許出願公開第2014/0107046号の実施例2を、その処方のいくつかの変形例(実施例7A~7K)と共に、出願に記載のとおり調製した。この例で試験した組成物を以下の表7に示す。試験組成物を、-7℃/25℃で1週間/1週間の凍結/解凍サイクルに2回供し、続いて25℃で90日間の休止期間に供した。次いで、比較組成物を、上記のHCA結晶化法に従ってHCA結晶の存在について試験した。表7から分かるように、比較組成物の全てがHCA結晶化を示した。比較組成物7C、7I、及び7Jのように、フェルラ酸の代わりにp-クマル酸を用いた場合でさえも、比較組成物は依然としてHCA結晶化を示した。したがって、比較組成物のいずれも、本明細書における本発明の低pH組成物によって提供される所望のHCA溶解度を示さない。
【0113】
【0114】
【0115】
表7の製剤からの保持物を、低pHでのナイアシンアミドの加水分解によって形成されるナイアシン、ニコチン酸について試験した。ナイアシンは、血管拡張及びプロスタグランジン合成を介して皮膚の発赤を引き起こす周知の皮膚刺激物質である(Kamanna,V.S.,S.H.Ganji,and M.L.Kashyap.「The mechanism and mitigation of niacin-induced flushing.」International journal of clinical practice 63.9(2009):1369-1377.)。ナイアシンレベルは、刺激を最小限にするために、0.03%未満であることが好ましく、0.015%未満であることが更に好ましい。結果として、潜在的なヒドロトロープ効果のためにナイアシンアミドを高濃度で使用することは、低pHでは勧められない。ナイアシン試験のために、周囲温度保持及び1W60Cでの加速条件から試料を試験した。1W60C加速劣化からのナイアシン形成の増加は、周囲保持物の試験との間にかかった時間の任意の差を説明するために、試験された初期条件に対するデルタとして報告する。本発明の試料は、ヒドロトロープとしてナイアシンアミドを使用すると主張されている先行技術における比較例に対して、1桁だけ有意に減少したナイアシンを有することが明確に示されている。
【0116】
【0117】
実施例6:HCA飽和溶解度の測定
この実施例は、油相及び水相中の水飽和溶解度及びHCA濃度を測定することによって、低pHにおけるHCAの可溶化に関して比較組成物及び本発明の組成物について説明する。表9に記載する組成物の水相に対するHCAの飽和溶解度は、方法のセクションに詳述したUV-VIS分光測定によって測定した。表9に示す試験組成物を、-18℃/25℃で1週間/1週間の凍結/解凍サイクルに2回供し、合計1ヶ月の温度サイクルとした。グリコール単独の使用では、低pH水性組成物に対するHCAの溶解度が十分に増強されず、結晶化が生じることが見出されている。更に、従来の非極性油(例えば、イソヘキサデカン)は、油相組成物及び水相組成物においてHCAを完全には可溶化しないことが見出された。極性油と共溶媒(例えば、グリコール)とのバランスが完全には最適化されていない場合(例えば、9A、9Cの実施例)、極性油単独(例えば、ラウロイルサルコシン酸イソプロピル)を添加しても、低pH組成物中でHCAを完全に可溶化するには十分ではないことが見出された。また、興味深いことに、非極性油は、等量の極性油が存在する場合であっても油相中のHCAの相対濃度を低下させることが見出された(9C対9Dを参照)。したがって、低pH組成物中でHCAを可溶化するには、水相飽和溶解度を高めるとともに油-水分配を最適化することが重要である。比較組成物及び本発明の組成物の例を以下に示す。
【0118】
【0119】
上記の表9が示すように、確実に組成物を結晶化させないための重要な基準は、HCAの初期濃度の測定値(行A)が飽和溶解度(行B)よりも低くなるようにすることである。過飽和溶液は、製造中に完全に溶解しているように見える場合もあるが、時間と共に結晶化する可能性が高い。組成物が水性ベースであることを考慮すると、方法のセクションで詳述したように、飽和溶解度は水相で測定される。HCA濃度は、確実に偽陽性が観察されないようにするために、溶解及び組成物の作製直後に測定しなければならない。例えば、試料が同日中に迅速に測定されない場合、HCAが溶液から結晶化する可能性があり、その結果、測定された初期水性濃度は、初期溶液が過飽和であるにもかかわらず、飽和溶解度以下であると誤って測定される。
【0120】
水相濃度を飽和溶解度よりも低く低下させる有効な方法は、油-水分配を増加させることであることが見出された(行C~行D)。これは、水相濃度に対する油相中のHCA濃度を増加させることによって行われる。極性皮膚軟化剤/油、例えばラウロイルサルコシン酸イソプロピルは、油相濃度を高めるのに他の油相溶媒よりも有効であることが見出された。この実施例は、低pHでのHCAの結晶化を低減するための、極性皮膚軟化剤と水相共溶媒との有効な組み合わせを示す。
【0121】
組み合わせの例
1.低pH水性スキンケア組成物であって、
a.約0.1%~約10%のヒドロキシケイ皮酸(HCA)と、
b.約0.1%~約10%の極性皮膚軟化剤と、
c.約1.5%~20%未満の、ヒドロキシケイ皮酸(HCA)からのハンセン溶解パラメータ距離が15未満である共溶媒と、
d.水と、を含み、当該組成物のpHが約5.0以下であり、
当該組成物が、以下の条件(i)~(iii):
(i)当該組成物が、約0.1%~約10%のビタミンB3化合物を更に含有する、
(ii)HCAと当該極性皮膚軟化剤との重量比が約1:1~約1:10である、
(iii)当該組成物が、約0.1%~5%の、糖アルコール、糖ベースの乳化剤、修飾糖誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される感覚改善成分を更に含有する、のうちの少なくとも1つを満たす、低pH水性スキンケア組成物。
2.当該感覚改善成分が、好ましくは糖アルコールである、前述の特徴に記載の組成物。
3.感覚改善成分と共溶媒との重量比が、約2:1~約1:20である、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
4.感覚改善成分と共溶媒との重量比が、約1.5:1~約1:10である、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
5.感覚改善成分と共溶媒との重量比が、約1.5:1~約1:5である、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
6.当該組成物がHCA結晶を含まない、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
7.低pH耐性ポリマー増粘剤を更に含む、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
8.当該増粘剤が、ポリアクリレートクロスポリマー-6である、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
9.当該共溶媒が、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、エトキシジグリコール、C2~C6ポリエテングリコール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるグリコールである、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
10.約0.001重量%~約5重量%の抗酸化剤を更に含む、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
11.当該抗酸化剤が、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
12.pHが約2.0~約4.5である、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
13.当該組成物が、測色法に従って約6未満のΔb*を示す、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
14.当該Δb*が、約2.5未満である、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
15.酸/塩低pH緩衝系を更に含む、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
16.当該HCAが、p-クマル酸である、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
17.当該組成物が、ビタミン、ミネラル、ペプチド、糖アミン、日焼け止め剤、オイルコントロール剤、フラボノイド化合物、抗酸化剤、プロテアーゼ阻害剤、チロシナーゼ阻害剤、抗炎症剤、保湿剤、角質除去剤、皮膚美白剤、抗ニキビ剤、抗しわ剤、フィトステロール、N-アシルアミノ酸化合物、抗菌剤、抗真菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1つの追加のスキンケア活性物質を含む、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
18.スキンケアエッセンスであって、
a.ナイアシンアミドと、
b.クマル酸と、
c.ラウロイルサルコシン酸イソプロピルと、
d.ペンチレングリコールと、
を含み、
e.当該組成物が、約5.0未満のpH、25℃で約1cP~約15000cPの粘度を有し、かつHCA結晶を含まない、スキンケアエッセンス。
19.亜硫酸ナトリウムを更に含む、前述の特徴のいずれかに記載の組成物。
20.皮膚を美容的に処置する方法であって、
処置が望まれる皮膚の標的部分を特定することと、
処置期間の過程にわたって、皮膚の標的部分に、有効量の前述の特徴1に記載の組成物を塗布することと、を含む、方法。
21.低pH水性スキンケア組成物であって、
a.ビタミンB3化合物と、
b.ヒドロキシケイ皮酸(HCA)と、
c.極性皮膚軟化剤と、
d.当該HCAからのハンセン溶解度パラメータ距離が15未満である共溶媒と、
e.水と、を含み、当該組成物のpHが約5.0未満であり、当該組成物が、HPLC法に従って約25%未満のHCA分解を示す、低pH水性スキンケア組成物。
22.当該組成物が、1000ppm未満の4-ビニルフェノールを含有する、前述の特徴21に記載の組成物。
23.当該組成物が、HPLC法に従って約10%未満のHCA分解を示す、前述の特徴21に記載の組成物。
【0122】
本明細書に開示される寸法及び値は、列挙された正確な数値に厳密に限定されるものとして理解されるべきではない。その代わりに、別途指定のない限り、このような寸法は各々、列挙された値とその値を囲む機能的に同等な範囲との両方を意味することが意図される。例えば、「40mm」として開示される寸法は、「約40mm」を意味することが意図される。
【0123】
相互参照される又は関連するあらゆる特許又は特許出願、及び本願が優先権又はその利益を主張する任意の特許出願又は特許を含む、本明細書に引用される全ての文書は、除外又は限定することが明言されない限りにおいて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いずれの文献の引用も、本明細書中で開示又は特許請求されるいずれの発明に対する先行技術であるともみなされず、あるいはそれを単独で又はその他の任意の参考文献又は複数の参考文献と組み合わせた場合に、このようないずれの発明も教示、示唆、又は開示するとはみなされない。更に、本文献における用語のいずれの意味又は定義も、参照により組み込まれた文献内の同じ用語の任意の意味又は定義と矛盾する場合、本文献においてその用語に与えられた意味又は定義が適用されるものとする。
【0124】
本発明の特定の実施形態を例示及び記載してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々なその他の変更及び修正を行うことができる点が、当業者には明白であろう。したがって、本発明の範囲内にある全てのこのような変更及び修正を添付の特許請求の範囲に網羅することが意図される。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低pH水性スキンケア組成物であって、
a.約0.1%~約10%のヒドロキシケイ皮酸(HCA)と、
b.約0.1%~約10%の極性皮膚軟化剤と、
c.約1.5%~20%未満の、ヒドロキシケイ皮酸(HCA)からのハンセン
溶解度パラメータ距離が15未満である共溶媒と、
d.水と、を含み、前記組成物のpHが約5.0以下であり、
好ましくはpHが約2.0~約4.5であり、
前記組成物が、以下の条件(i)~(iii):
(i)前記組成物が、約0.1%~約10%のビタミンB
3化合物を更に含有する、
(ii)HCAと前記極性皮膚軟化剤との重量比が約1:1~約1:10である、
(iii)前記組成物が、約0.1%~5%の、糖アルコール、糖ベースの乳化剤、修飾糖誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選択される感覚改善成分を更に含有する、
のうちの少なくとも1つを満たす、低pH水性スキンケア組成物。
【請求項2】
前記感覚改善成分が
、糖アルコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
感覚改善成分と共溶媒との重量比が、約2:1~約1:20
、好ましくは約1.5:1~約1:10、より好ましくは約1.5:1~約1:5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物がHCA結晶を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
低pH耐性ポリマー増粘剤
、好ましくはポリアクリレートクロスポリマー-6を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記共溶媒が、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、エトキシジグリコール、C2~C6ポリエテングリコール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるグリコールである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
約0.001重量%~約5重量%の抗酸化剤を更に含
み、好ましくは、前記抗酸化剤が、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、測色法(Color Method)に従って約6未満
、好ましくは約2.5未満のΔb
*を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
酸/塩低pH緩衝系を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記HCAが、p-クマル酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、ビタミン、ミネラル、ペプチド、糖アミン、日焼け止め剤、オイルコントロール剤、フラボノイド化合物、抗酸化剤、プロテアーゼ阻害剤、チロシナーゼ阻害剤、抗炎症剤、保湿剤、角質除去剤、皮膚美白剤、抗ニキビ剤、抗しわ剤、フィトステロール、N-アシルアミノ酸化合物、抗菌剤、抗真菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1つの追加のスキンケア活性物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
スキンケアエッセンスであって、
a.ナイアシンアミドと、
b.クマル酸と、
c.ラウロイルサルコシン酸イソプロピルと、
d.ペンチレングリコールと、
を含み、
e.前記組成物が、約5.0未満のpH、25℃で約1cP~約15000cPの粘度を有し、かつHCA結晶を含まない、スキンケアエッセンス。
【請求項13】
皮膚を美容的に処置する方法であって、
処置が望まれる皮膚の標的部分を特定することと、
処置期間の過程にわたって、皮膚の前記標的部分に、有効量の請求項1に記載の組成物を塗布することと、を含む、方法。
【請求項14】
低pH水性スキンケア組成物であって、
a.ビタミンB
3化合物と、
b.ヒドロキシケイ皮酸(HCA)と、
c.極性皮膚軟化剤と、
d.前記HCAからのハンセン溶解度パラメータ距離が15未満である共溶媒と、
e.水と、を含み、前記組成物のpHが約5.0未満であり、前記組成物が、HPLC法に従って約25%未満のHCA分解
、好ましくは約10%未満のHCA分解を示す、低pH水性スキンケア組成物。
【請求項15】
前記組成物が、1000ppm未満の4-ビニルフェノールを含有する、請求項
14に記載の組成物。
【国際調査報告】