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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ヴィーガンベースの卵白代替製品
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20241031BHJP
   A23J 3/00 20060101ALI20241031BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20241031BHJP
   A23L 29/262 20160101ALI20241031BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20241031BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241031BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20241031BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A23L15/00 B
A23J3/00 508
A23J3/14
A23L29/262
A23L29/256
A23L5/00 M
A23L29/00
A21D2/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531521
(86)(22)【出願日】2022-11-24
(85)【翻訳文提出日】2024-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2022083152
(87)【国際公開番号】W WO2023094535
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】102021130963.8
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021130974.3
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021130977.8
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524198364
【氏名又は名称】ネッグスト フーズ ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】500142051
【氏名又は名称】フラウンホーファー ゲゼルシャフト ツア フェルデルング デア アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア アルテアガ ヴェロニカ
(72)【発明者】
【氏名】ハーゼンコプフ カトリーン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーネン カール・ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】オッテ ディートマル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイヒェレ ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】チェルヴィンスケ ヤーナ フレデリケ
【テーマコード(参考)】
4B032
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B032DB08
4B032DB10
4B032DK01
4B032DK14
4B032DK16
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK21
4B032DK30
4B032DK32
4B032DK51
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG12
4B035LG15
4B035LG19
4B035LG25
4B035LG26
4B035LG32
4B035LG33
4B035LG34
4B035LG50
4B035LG51
4B035LK02
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP25
4B035LP41
4B035LP44
4B035LP55
4B035LP56
4B042AC10
4B042AD37
4B042AD40
4B042AE08
4B042AK01
4B042AK06
4B042AK08
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK13
4B042AK20
4B042AP02
4B042AP07
4B042AP14
4B042AP15
4B042AP27
(57)【要約】
本発明は、ヴィーガンベースの卵白代替製品に関し、(a)飲料水、(b)豆果、油糧種子、穀物、微生物、および/または藻類に由来する1つまたは複数のタンパク質、(c)1つまたは複数の熱ゲル化親水コロイドと1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドとの組み合わせ、(d)1つまたは複数の塩を含み、1つまたは複数の可逆熱ゲル化親水コロイドと1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドとの組み合わせの割合は0.25~5.00重量%である。さらに本発明は、卵白代替製品を製造する方法、および、少なくとも1つの相からなるエマルジョンまたは液体を製造するための、もしくはその成分としての、料理ないし焼き菓子の添加物としての、または模造卵としての、卵白代替製品の使用に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヴィーガンベースの卵白代替製品であって、
(a)飲料水、
(b)豆果、油糧種子、穀物、微生物、および/または藻類に由来する1つまたは複数のタンパク質、
(c)1つまたは複数の熱ゲル化親水コロイドと1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドとの組み合わせ、
(d)1つまたは複数の塩
を含み、1つまたは複数の可逆熱ゲル化親水コロイドと1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドとの組み合わせの割合は0.25~5.00重量%である、卵白代替製品。
【請求項2】
前記混合物は硫黄化合物の割合を含む物質をさらに含む、請求項1に記載の卵白代替製品。
【請求項3】
硫黄化合物を含む前記物質はアロマ調合剤および/またはカラナマック(ブラックソルト)を含む、請求項2に記載の卵白代替製品。
【請求項4】
前記熱ゲル化親水コロイドはメチルセルロースである、請求項1~3のいずれか一項に記載の卵白代替製品。
【請求項5】
前記可逆ゲル化親水コロイドはカラギーナンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の卵白代替製品。
【請求項6】
前記植物性タンパク質は、エンドウ豆、ヒヨコ豆、リョクトウ、アサ、カボチャ、および/またはノラマメに由来する、請求項1~5のいずれか一項に記載の卵白代替製品。
【請求項7】
前記植物性タンパク質は、生の、および/または加水分解された、および/または発酵させた殻粉、タンパク質濃縮物、プロテインアイソレート、および/またはこれらの任意の組み合わせとして存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の卵白代替製品。
【請求項8】
溶解タンパク質の量は0.1重量%~15.0重量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の卵白代替製品。
【請求項9】
塩濃度は0.025重量%~0.80重量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の卵白代替製品。
【請求項10】
親水コロイドの量は0.5重量%~3.5重量%である、請求項1~9のいずれか一項に記載の卵白代替製品。
【請求項11】
前記混合物は砂糖を0.10重量%~1.00重量%の量で追加的に有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の卵白代替製品。
【請求項12】
前記混合物は植物性オイルを好ましくは0.1~4.0重量%の量でさらに有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の卵白代替製品。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の卵白代替製品を製造する方法であって、前記方法は、
(a)1つまたは複数の植物性タンパク質と塩を飲料水に分散させるステップと、
(b)前記ステップ(a)の溶液のpH値をpH6~9に調整し、場合により1~15分の間膨潤させるステップと、
(c)場合により溶解した上澄みを不溶の残滓から分離するステップと、
(d)前記ステップ(b)の溶液または前記ステップ(c)の溶解した上澄みを第1および第2の部分に分割するステップと、
(e)前記ステップ(d)の第1の部分を少なくとも40℃まで加熱して1つまたは複数の熱ゲル化親水コロイドを添加することによって溶液を作成するステップと、
(f)室温で、または最大30℃までの温度で、前記ステップ(d)の第2の部分へ1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドを添加することによって溶液を作成するステップと、
(g)前記ステップ(e)および(f)で得られた溶液を、室温で、または最大60℃までの温度で、卵白代替製品を得ながら混合するステップと
を有する、方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の卵黄代替製品を製造する方法であって、前記方法は、
(a)1つまたは複数の植物性タンパク質と塩を飲料水に分散させるステップと、
(b)前記ステップ(a)の溶液のpH値をpH6~9に調整し、場合により1~15分の間膨潤させるステップと、
(c)場合により溶解した上澄みを不溶の残滓から分離するステップと、
(d)前記ステップ(b)の溶液に、または前記ステップ(c)の上澄みに、1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドを添加して撹拌しながら最大30℃まで加熱するステップと、
(e)完全に分散するまで撹拌しながら1つまたは複数の熱ゲル化親水コロイドを添加し、それによって卵白代替製品を得るステップと
を有する、方法。
【請求項15】
前記ステップ(c)の上澄みおよび/または得られた卵白代替製品はパスツール処理される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記ステップ(c)の上澄みおよび/または得られた卵白代替製品は非熱式の方法によって保存性を与えられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
熱式(パスツール法、UHT)および/または非熱式の前記方法は高圧殺菌(HPP)または「パルス電界」技術(PEF)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記熱ゲル化親水コロイドは約50℃の温度で添加される、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項13~18のいずれか一項に記載の方法に基づいて加熱後に製造可能な卵白代替製品であって、0.005Pa・s~20.0Pa・sの粘度を有することを特徴とする、卵白代替製品。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか一項に記載の卵白代替製品の使用であって、少なくとも1つの相からなるエマルジョンまたは液体を製造するための、もしくはその成分としての、料理ないし焼き菓子への添加物としての、または完全卵代替製品としての、使用。
【請求項21】
ヴィーガンのエマルジョンまたは液体、ヴィーガンの料理または焼き菓子、またはヴィーガンの完全卵代替製品である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
非ヴィーガンのエマルジョンまたは液体、非ヴィーガンの料理または焼き菓子、または非ヴィーガンの完全卵代替製品である、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
エマルジョン、液体、料理、焼き菓子、または完全卵代替製品を製造する方法において、請求項1~12のいずれか一項に記載の卵白代替製品がエマルジョン、液体、料理、焼き菓子、または完全卵代替製で添加物として利用される、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヴィーガンベースの卵白代替製品に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な生活様式の重要性に関する自覚は、純粋に植物性の食料品の意義をも継続して高めつつある。純粋なヴィーガン主義者やベジタリアン以外にも、動物性の製品の消費を減らそうと試みる人は増え続けている(フレックス菜食主義者やフレックスヴィーガン主義者)。このことは、相応の動物性の製品に似た味覚経験を消費者に提供する植物性の食品の需要がますます増え、利用可能になっていくことに帰結する。
【0003】
卵は高価値なタンパク質源であり、直接の飲食のほか、エマルジョンや泡の形成や、こねた生地の安定化など、食品で多くの役割を果たしている。使用の可能性が多様であるため、できる限りすべての分野を包摂する卵のヴィーガン代替品は大きなチャレンジとなる。
【0004】
鶏卵白は総重量に対して55~60%の割合を有している。卵白は、80~84%の水のほか、12%のタンパク質、0.7%の炭水化物、0.7%のミネラル物質、および0.03%の脂質をさらに含む。製品の新鮮度に応じて、卵白は7.6~9.7のpHを有する;pH値は、卵殻を通してのCO拡散に基づいて保管期間中に上昇する。卵白はさまざまなタンパク質を含んでいる:オボアルブミン(54%)、コンアルブミン(12%)、オボムコイド(11%)、およびオボムチン(3.5%)。
【0005】
動物由来の卵白は、そのタンパク質含有率と高価値なアミノ酸組成とに基づき、重要な卵白身源である。人間にとって必須のすべてのアミノ酸を有しており、したがって高いタンパク質価値を有する。
【0006】
鶏卵白は約0.350Pa・sの見かけの粘度を有し、若干の構造粘性(疑似塑性)挙動を示す。
【0007】
熱で誘起される卵含有系のゲル化のメカニズムは、第1の段階で、元来のタンパク質が溶液中に展開されることを含み、3Dネットワークを形成するタンパク質-タンパク質-相互作用がこれに伴って生じる。ゲル形成は、タンパク質濃度、イオン強度、pH値、および他の成分との相互作用に依存して決まる。卵白の変性温度は61℃~93℃である。砂糖や塩は卵タンパク質の変性温度を引き上げ、凝集の形成を遅らせる。ゲル化/凝固の要因は、ボイルした卵のテクスチャにも影響を及ぼす。ボイルした卵白は17Nの硬度を有し、塩の添加によってこれを引き下げることができる。pH5~6で卵白ゲルは凝集した粗い構造を有し、それに対してpH9では、タンパク質鎖と小球が統一的な基質の中に配置される。
【0008】
卵白は、その高い栄養価に加えて、食品において多くの技術上の役割を果たしている:
【0009】
卵白は非常に安定した泡を形成することができ、それにより、焼き菓子やその他の食品を柔らかくする。卵白は、多種多様な調理品で結合を促進し、その凝結性に基づいて焼き菓子を加熱時に固化させる。
【0010】
さまざまなデンプンおよび親水コロイドをベースとして乾燥製品または液体製品として食品で利用することができ、大部分で、または部分的に、卵白の役割を担うことができる、さまざまな卵白代替製品がすでに存在する(特許文献1)。
【0011】
特許文献2および特許文献3は、親水コロイドの高い含有率によって特徴づけられる、植物ベースの卵代替組成物に関する。
【0012】
特許文献4も、5%を超える親水コロイドを有する卵代替組成物に関する。
【0013】
特許文献5は、卵黄代替品が膜で取り囲まれ、天然の卵白身または処理された卵白身ないし卵白身類似品と組み合わされる卵代替品に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2013/0084361号明細書
【特許文献2】国際公開第2017/014967号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2017/014806号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2019/220431号パンフレット
【特許文献5】WO89/10704号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、加熱時にゲル構造を形成し、冷却後にこのゲル構造がほぼ維持される、部分的に透明である白色ないし無色の鶏卵白類似の食品を提供することにある。液体の卵白代替製品は液体の鶏卵白に類似して加工できるのがよく、すなわち、機械的エネルギーによるガスの注入を可能にするだけでなく、液体の鶏卵白身と同等のガス保持能力をもたらし、引き続いて加熱時に固化して、たとえば焼き菓子やその他の食品を柔らかくする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題は、
(a)飲料水、
(b)豆果、油糧種子、穀物、微生物、および/または藻類に由来する1つまたは複数のタンパク質、
(c)1つまたは複数の熱ゲル化親水コロイドと1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドとの組み合わせ、
(d)1つまたは複数の塩
を含むヴィーガンベースの卵白代替製品によって解決され、1つまたは複数の可逆熱ゲル化親水コロイドと1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドとの組み合わせの割合は0.25~5.00重量%である。
【0017】
以下の文章で挙げるパーセンテージ表記はそれぞれ重量%である。
【0018】
以下においては、「卵白」と「卵白身」という用語は同義語として使用する。
【0019】
「ヴィーガンベースの」とは、動物性の成分または動物から得られた構成要素が含まれないことを意味する。
【0020】
タンパク質源として好適なのは、豆果、穀物、油糧種子、微生物、および(微細)藻類の群に属する植物性原料であり、好ましくはエンドウ豆(Pisum sativum)、ヒヨコ豆(Cicer arientinum)、インゲン豆(Phaseolus vulgaris)、ソラ豆(「ノラマメ」とも呼ばれる;Vicia faba)、ルピナス豆(Lupinus)、レンズ豆(Lens culinaris)、トウモロコシ(Zea mays)、アサ(Cannabis sativa)、サツマイモ(Ipomoea batatas)、キャッサバ(Manihot esculenta)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、カボチャ(Cucurbita)、アマ(Linum usitatissimum)、ナノハナ(Brassica napus)、大豆(Glycine max)、カラスムギ(Avena sativa)、バクテリア(たとえばLactobacillus spp.、Streptococcus spp.、およびBifidobacterium spp.)、酵母菌(たとえばSaccharomyces cerevisiae)、糸状菌(たとえばAspergillus spp.、Mucor spp.、およびRhizopus spp.)、海苔および/またはワカメの藻類に由来する植物性タンパク質であり、特別に好ましくはエンドウ豆、ヒヨコ豆、ソラ豆、ルピナス豆、アサ、カボチャ、およびリョクトウに由来するタンパク質である。タンパク質源として、(生の、および/または加水分解された、および/または発酵させた)殻粉、タンパク質濃縮物、プロテインアイソレート、および/またはこれらの任意の組み合わせであって、植物および植物の一部そのもの、その種子、球根、および/または上に挙げた原料の果実から得ることができるものを使用することができる。食品テクノロジー分野の当業者には、植物およびそれぞれの植物の一部の加工や栄養工学的な適性は十分に知られている。
【0021】
本発明によると、1つまたは複数の植物性タンパク質源からなる上に挙げたタンパク質から製造される、透明な白色の製品が提供される。それぞれのタンパク質の溶解性は、塩溶液中では純粋な水中よりも高い。したがって、飲料水と、飲食に適した無機塩からなる溶液にタンパク質を溶かすために、塩溶液が、好ましくは塩化ナトリウム-(NaCl)-溶液が、作成されて、その中にタンパク質源が分散される。しかしながら原則として、たとえばリン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、リン酸三ナトリウム(NaPO)、ピロリン酸ナトリウム(Na)、およびさらに塩化カリウム(KCl)などの他の塩も適している。当然ながら、タンパク質源と塩を同時に飲料水に分散させることも可能である。いくつかの実施形態では、塩濃度は、好ましくはNaCl濃度は、0.05%よりも高く、好ましくは0.10%よりも高く、0.15%よりも高く、0.20%よりも高く、0.30%よりも高く、0.40%よりも高く、または0.50%よりも高い。いくつかの実施形態では、塩濃度は、好ましくはNaCl濃度は、0.05%~0.80%であり、好ましくは0.10%~0.70%、0.20%~0.60%、または0.4%~0.6%である。
【0022】
卵に類似するアロマを生成するために、カラナマック(ブラックソルト)、または硫黄化合物の割合を有するその他の塩および/または天然のアロマを利用することができる。硫黄含有の化合物は、特にカラナマックソルトは、同じ濃度を得るために、塩溶液の塩とともに、好ましくはNaClとともに、利用することができる。あるいはこれよりも少ない、または多い、または等しい量を使用することもできる。
【0023】
溶解タンパク質の量は0.1%よりも多いのが好ましい。いくつかの実施形態では、溶解タンパク質の量は1.0%よりも多く、好ましくは2.5%よりも多く、4.0%よりも多く、5.0%よりも多く、8.0%よりも多く、10.0%よりも多く、または12%よりも多い。いくつかの実施形態では、本発明による卵白代替製品における溶解タンパク質の量は0.5%~15.0%であり、好ましくは1.0%~12.0%、1.5%~10.0%、または2.0%~5.0%である。
【0024】
所望の粘性の調整のために、および加熱時の固化のために、卵白代替製品は親水コロイドを含む。このとき、1つまたは複数の熱ゲル化親水コロイドと、1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドとの組み合わせが好ましいことが判明しており、これら両方の種類は温度変化時の挙動に関して相違している。>40℃まで温度上昇したときに急速にゲル化する親水コロイドは「熱ゲル化」または「熱可逆ゲル化」と呼ばれ、好ましくは改質セルロースであり、好ましくはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)および/またはヒドロキシプロピルセルロースである。ただし、それによって惹起されるゲル化は一時的なものにすぎない;<40°に冷却されると、ゲルは再び当初の粘性溶液へと転換する。熱ゲル化を生起するために、メチルセルロースの場合にはおよそ1.5g/lである、熱ゲル化親水コロイドの特定の最低濃度が存在するのがよい。それ以外の熱ゲル化親水コロイドについての最低濃度の決定は、当業者にとって、多大な実験コストなしに可能である。このような濃度を下回ると、水溶液の加熱時にゲル化が起こらない。可逆ゲル化親水コロイドは室温(約20℃)でゲルを形成し、このゲルは-熱ゲル化親水コロイドとは異なり-特定の熱インターバル内で加熱されると溶融し、すなわち液化して粘性溶液を形成して、これがゲル化温度まで、またはこれ以下に冷却された後に再びゲル化する。可逆ゲル化親水コロイドとしては、藻類に由来するもの、好ましくはカラギーナンおよび/またはアガーに由来するものが使用される。所望のコンシステンシーを調整するために、およびヴィーガン卵白の持続的な固化を促進するために、別の親水コロイドが使用され、好ましくはゲランガム、イナゴ豆殻粉、グアー殻粉、アルギン酸塩、および/またはキサンタンが使用される。本発明によると、卵白における親水コロイドの量は5.00%よりも低い(たとえば4.75%、4.50%、4.25%、4.50%、4.25%、4.00%、3.75%、3.50%、3.25%、3.00%、2.75%、2.50%、2.25%、2.00%、1.75%、1.50%、1.00%、0.75%よりも低く、または0.50%に等しく、ないしはこれよりも低い)。いくつかの実施形態では、卵黄代替製品における親水コロイドの量は0.10%~4.5%である(たとえば0.20%~4.00%、0.25%~3.00%、0.50%~2.50%、または0.75%~2.00%)。熱ゲル化親水コロイドと可逆ゲル化親水コロイドの間の分割は、好ましくは50:50、好ましくは25:75、30:70、ないし40:60、または75:25、70:30、ないし60:40である。5.00%よりも低い親水コロイドの量は、液体状の生卵代替品の提供を可能にするが、その一方で、調理時に鶏卵に匹敵する安定性とテクスチャのために作用する。
【0025】
いくつかの実施形態では、任意選択として、タンパク質溶液ないしタンパク質エマルジョンのテクスチャを改善するためにトランスグルタミナーゼを添加することができる。トランスグルタミナーゼがテクスチャに及ぼす効果は、特定の温度と時間条件のもとでタンパク質の架橋を促進する能力にある。トランスグルタミナーゼの量は好ましくは0.001%~3.00%であり、いっそう好ましくは0.01%~1.5%、さらに好ましくは0.1%~1.0%である。トランスグルタミナーゼは、タンパク質溶液ないしタンパク質エマルジョンが少なくとも15分、好ましくは30分、60分、90分、または120分、40℃~60℃の温度に加熱されている間に活性化する。トランスグルタミナーゼはマイクロカプセル化されていてよいが、されていなくてもよく、好ましくは卵代替製品の製造中に、パスツール処理またはUHT処理(75℃ないし120℃を上回る)によって不活性化させることができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、混合物に任意選択として植物性オイルを添加することができる。その量は好ましくは0.1%~4%であり、好ましくは0.5~2.0%である。好適な植物性オイルは、たとえばオリーブオイル、ヤシ油、亜麻仁油、ウォールナッツオイル、ベニバナオイル、またはピーナッツオイルである;しかしながら、菜種油、ヒマワリオイル、ココナッツ脂肪、および/またはトウモロコシ胚芽油(コーン油)などの味覚中立的な脂肪、ならびに、これらのあらゆる組み合わせが好ましい。
【0027】
加熱されたときに、たとえば「目玉焼き」を焼くときに、いわゆるメイラード反応によって生じる製品の褐色化を生起するために、好ましくは少量の砂糖が製品に添加される。砂糖は好ましくは単糖類(たとえばデキストロース、フルクトース、および/またはガラクトース)および/または二糖類(たとえばラクトースおよび/またはマルトース)である。いくつかの実施形態では、卵白における砂糖の量は1.00%よりも少なく、好ましくは0.75%よりも少なく、0.50%よりも少なく、0.25%よりも少なく、または0.10%よりも少ない。いくつかの実施形態では、卵白における砂糖の量は0.10%~1.00%、好ましくは0.25%~0.75%、0.50%~0.50%、または0.75%~0.25%である。
【0028】
さらに卵白代替製品は、僅少な量(10.0%よりも少なく、好ましくは5%、3%、または2%よりも少ない)で追加の副成分を含むことができる。これは乳化剤、アロマ調合剤(特に硫黄化合物を含むもの)、香辛料、天然着色剤、保存剤、増粘剤、または健康増進添加物であってよい。例示として、ここではヨウ素、ビタミン(たとえばビタミンB、B、B、B、B、B、B12、C、D、またはE)、ミネラル(たとえばCaまたはMg)、および/または植物レシチン(乳化剤としても作用する)を挙げておく。
【0029】
卵白代替製品はカロチノイドを実質的に含まず、またはまったく含まない。
【0030】
タンパク質源と塩とを飲料水に分散させる。pH値は、水酸化ナトリウム(NaOH)、リン酸カリウム(KPO)、またはクエン酸ナトリウム(Na)などのpH食品調節剤によって、6~9に、好ましくは8.0よりも高く、きわめて好ましくは8.5前後に、調整する。タンパク質の膨潤を改善するために、好ましくは少なくとも1分間、より好ましくは5~10分間、さらに好ましくは15分間、溶液を撹拌する。タンパク質の膨潤後にタンパク質を適当な分離法により、好ましくは遠心分離、デカント、または隔膜濾過により、分離するのが好ましいが、必須ではない。このような分離は、溶解したタンパク質を含む上澄みと、不溶性のタンパク質を含むペレットとをもたらす。使用される溶液中の塩濃度に応じて、溶解したタンパク質は主としてグロブリンとアルブミンである。上澄みの溶液(溶液(A))を引き続き卵白製造のために利用し、それに対して残滓ないしペレットは、たとえばヴィーガン卵黄代替製品などの別の製品の製造のために利用することができる。
【0031】
本発明によると、タンパク質源を水または水性の塩溶液に分散させる(溶液(A))。溶液(A)を2つの部分((A1)および(A2))に分割することができる。あるいは、互いに独立して2つの溶液(A1)および(A2)を作成することも可能である:(A1)は、水性のタンパク質溶液ないしタンパク質-塩溶液であってよく、(A2)は別のタンパク質の溶液または水のみであってよい。任意選択として、0.001%~2.00%のトランスグルタミナーゼを溶液(A1)に付け加えることができる。カプセル化されていないトランスグルタミナーゼが使用される場合、溶液を120分よりも短い間50℃に保つのがよい。溶液(B)は、溶液(A1)を少なくとも40℃まで、好ましくは50℃まで、ただし60℃を超えないように、加熱し、1つまたは複数の熱ゲル化親水コロイド(たとえば改質セルロース、メチルセルロース、および/またはヒドロキシプロピルセルロース)を添加することによって作成される。熱作用により、親水コロイドの改善された分散がもたらされる。親水コロイドの分散の前または後に、オイル(場合により0.01%~50%の乳化剤を含む)、場合によりカルシウムイオン源、天然着色剤、および場合によりその他の添加剤を溶液(B)に混合する。溶液(A2)に1つまたは複数の可逆ゲル化親水コロイドを30℃よりも低い温度で、好ましくは20℃、15℃、または10℃よりも低い温度で、混合することによって、溶液(C)を作成する。これに加えて、さらに天然の味覚物質、アロマ形成剤、オイル、および(カプセル化された)トランスグルタミナーゼ、またはその他の添加剤を溶液(C)に混合することができる。溶液(B)および(C)のすべての成分が完全に分散するとただちに、好ましくは30℃よりも低い温度で溶液(B)および(C)を混合し、それによって完成した卵白身溶液(溶液(D))が生じる。上で説明した各溶液および分散液は、周知の分散技術を適用したうえで標準混合容器で作成する。
【0032】
溶液の作成は真空処理のもとで実行するのが好ましいが、それが必須というわけではない。真空は、卵白の中での気泡の形成を防止する。驚くべきことに、800mbarよりも低い、より好ましくは500mbarよりも低い、有利には300mbarよりも低い、特別に好ましくは100mbarまたは50mbarよりも低い、絶対圧力へ真空を下げていくと、透明の度合いが上昇する。
【0033】
鶏卵白身のコンシステンシーを模造するために、亜麻仁やチアシードなどの種子の水和または煮沸に由来する粘液水を利用できるのが好ましい。水和は水の中で、または溶解性のタンパク質溶液の中で、行うことができる。
【0034】
溶液(A)および/または得られた本発明による卵白代替製品を、パスツール処理することができる。そのために熱式または非熱式の方法、たとえばパスツール処理、超高温殺菌(UHT)、高圧殺菌(HPP)、または「パルス電界」技術(PEF)を適用することができる。熱式の安定化法も非熱式の安定化法も、少なくとも3週間の間摂氏8℃(保管温度)での保存期間を実現するために、当業者には十分に知られている。
【0035】
卵白は、特定の速度での変形に対する抵抗として定義される初期粘度を、0.005Pa・s~20.0Pa・sの範囲内で、好ましくは0.1Pa・s~19Pa・s、1.0Pa・s~15Pa・s、または5.0Pa・s~10.0Pasで、有することができる。粘度は、測定間隙d=1.136mmを有する円筒状の測定システム(CC27-SN12031)を有するレオメーター(MCR301 SN802801740、Anton Paar GmbH、Graz、Austria)を用いて測定することができる。レオメーターを用いてどのように粘度測定を実施するかは、当業者に周知である。以下では、あくまでも例示としての条件を説明する。シリンダーにたとえば15mlの試料を充填する。試料を5分の間10℃で平衡させ、測定のためにそのまま放置する。回転を60秒以内に2-100s-1へと線形に上昇させる。100s-1の回転を30秒の間維持してから、60秒以内に100-2s-1へと戻す。粘度調整は、所与のタンパク質種類とタンパク質濃度で、親水コロイド、塩、および緩衝塩を追加することによって行い、粘度を測定しながら実験的に実行する。
【0036】
ボイルした卵白は硬質のテクスチャを有することができ、硬度[N]は2N~50Nの、たとえば5N~30N、10N~25N、または15N~20Nの、破断力によって特徴づけられる。破断力は、たとえば評価ソフトウェアを有するテクスチャ分析機器である、Stable Micro Systems(Godalming、UK)のテクスチャアナライザを用いて決定することができる。例示としての条件は次のとおりである:50%の変形、5kgの負荷、40mmの直径を有する円筒状のスタンプ、および10mm/minのヘッド部分の速度。
【0037】
市場で入手できる植物性タンパク質を使用したうえで、ボイルした卵白の色(ボイルされた、撹拌された、焼かれた)はタンパク質濃度に依存して決まる。タンパク質濃度が高いほど、卵白の色はいっそう白くなる(図5を参照)。ボイルした卵白の色は、L*a*b*色空間において透明ないし白色に及ぶ。明度(L*)は70~99、好ましくは80~96に及ぶことができる;レッド-グリーン(a*)は-10~5、好ましくは-5~3に及ぶことができる;イエロ-ブルー(b*)は8~35、好ましくは11~28、さらに好ましくは15~25であってよい。色は、天然の着色物質を利用して細かく調節することができる。
【0038】
驚くべきことに、このような種類の卵白代替製品を動物の(天然の)卵黄または卵黄代替製品とおよそ2:1の比率でほぼ均一に「スクランブルエッグ」となるように混合することができ、スクランブルエッグ類似のコンシステンシーが形成される。これら両方の相を混合しない場合、驚くべきことに、フライパンで焼いたときに見た目とコンシステンシーが目玉焼きに相当する製品を調理することができる(図6)。
【0039】
本発明による卵白身および/または「完全卵」混合物を使って、別の食品を製造することもできる。その例はバターケーキ、キッシュ、パンケーキ、またはこれらに類する食品である。本発明による卵白代替製品と、天然の卵黄または卵黄代替製品との混合物を含むこのような食品は、色、味、テクスチャのいずれに関しても、鶏卵含有の調製品と相違せず、または僅かしか相違しない。
【0040】
本発明の特別に好ましい実施形態は以下のものを含む:
【0041】
【表1】
【0042】
本発明は、図面によりさらに明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1a】実施例1に基づいて卵白代替製品を製造するための図である。
図1b】実施例2に基づいて卵白代替製品を製造するための図である。
図1c】実施例3に基づいて卵白代替製品を製造するための図である。
図2】卵白の色 EW:鶏卵に由来する卵白 HO:水 SPI:大豆プロテインアイソレート LPI:ルピナスプロテインアイソレート MM:ヒプロメロース BM:ヒドロキシプロピルメチルセルロース TM:メチルセルロース
図3】目玉焼きの製造
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下では、本発明による卵白代替製品について説明する。ただし、これは例示として理解されるべきであり、これらの実施形態を厳密に限定するものではない。
【実施例
【0045】
【表2】
【0046】
製造は図1aの図表に示すようにして行う。
【0047】
【表3】
【0048】
製造は図1bの図表に示すようにして行う。
【0049】
【表4】
【0050】
製造は図1cの図表に示すようにして行う。
図1a
図1b
図1c
図2
図3
【国際調査報告】