(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ポリアミドイミドポリマーを含有するコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 179/08 20060101AFI20241031BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20241031BHJP
C09J 179/08 20060101ALI20241031BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20241031BHJP
C09D 7/63 20180101ALN20241031BHJP
【FI】
C09D179/08 B
C09D5/08
C09J179/08 B
C09J11/06
C09D7/63
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531584
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(85)【翻訳文提出日】2024-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2022083359
(87)【国際公開番号】W WO2023094632
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ティルフォード, アール. ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ペリッシエール, ジャロッド
【テーマコード(参考)】
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
4J038DJ051
4J038GA06
4J038GA09
4J038JB09
4J038KA08
4J038MA08
4J038NA03
4J038NA09
4J038PC02
4J040EG051
4J040EH031
4J040HC09
4J040JA03
4J040JB02
4J040KA42
4J040LA06
4J040LA08
4J040MA02
4J040MA10
4J040PA30
4J040PB05
(57)【要約】
高い固体含有量を有し、且つ時間が経つにつれて安定な粘度を有する水性ベース組成物であって、高い酸価のポリアミドイミドポリマーとメチルエタノールアミンとを含有する組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの芳香族ポリアミド酸/ポリアミドイミドポリマー[ポリマー(PAI)]、メチルジエタノールアミン及び水を含む、又はから本質的になる組成物であって、ポリマー(PAI)が繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位の50.0モル%を超える単位が少なくとも1つの芳香族環と、少なくとも1つのアミド酸基及び/又はイミド基[繰り返し単位(R
PAI)]と、を含み、且つポリマー(PAI)が、mg KOH/g(ポリマー)として測定される、少なくとも100の酸価を有する、組成物。
【請求項2】
- 少なくとも1つの芳香族ポリアミド酸/ポリアミドイミドポリマー[ポリマー(PAI)];
- メチルジエタノールアミン;
- 水;
- 任意選択的に、メチルジエタノールアミン以外の有機分子であって、その割合が、1.0重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満である、有機分子;
からなる組成物であって、
ポリマー(PAI)が繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位の50.0モル%を超える単位が少なくとも1つの芳香族環と、少なくとも1つのアミド酸基及び/又はイミド基[繰り返し単位(R
PAI)]と、を含み、且つポリマー(PAI)が、mg KOH/g(ポリマー)として測定される、少なくとも100の酸価を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記繰り返し単位(R
PAI)が、
【化1】
からなる群から選択され、式中:
- 前記記号→は、それぞれの式の中で、芳香族ポリアミド酸構造内の任意の繰り返し単位において、前記矢印が指し示す基が示される通りに又は入れ替わった位置に存在してもよいような異性を意味し;
- Arは、1つ以上の芳香族環を含み得る芳香族四価基であり、且つ好ましくは、
【化2】
(Xは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
n-(n=0、1、2、3、4又は5)からなる群から選択される)
からなる群から選択され;
- Rは、1つ以上の芳香族環を含み得る芳香族二価基であり、且つ好ましくは、
【化3】
(Yは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
n-(n=0、1、2、3、4又は5)からなる群から選択される)
【化4】
からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記繰り返し単位(R
PAI)が、単位(i)、(ii)、及び(iii):
【化5】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化6】
(式中、(i-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される);
【化7】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化8】
(式中、(ii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される);並びに
【化9】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化10】
(式中、(iii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される)
からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ポリマー(PAI)が、mg KOH/g(ポリマー)として測定される少なくとも120の酸価を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ポリマー(PAI)、メチルジエタノールアミン及び水の合計重量に対して、ポリマー(PAI)を1.0~35.0重量%、好ましくは5.0~20.0重量%含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
ポリマー(PAI)、メチルジエタノールアミン及び水の合計重量に対して、メチルジエタノールアミンを0.5~20.0重量%含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
いずれかの有機溶媒を1.0重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.2重量%未満含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
メチルジエタノールアミンと水の攪拌混合物に、ポリマー(PAI)を添加すること、又は水中のポリマー(PAI)の攪拌懸濁液に、メチルジエタノールアミンを添加すること、及び固体が溶解するまで攪拌することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を調製するプロセス。
【請求項10】
攪拌しながら、50~90℃の温度に加熱することを含む、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を基材上にコーティングすることを含む、物品の製造方法。
【請求項12】
120~400℃に含まれる温度で加熱することによって前記コーティングされた組成物を硬化する工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のプロセスから得られる物品。
【請求項14】
マグネットワイヤである、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
容器の又は絶縁ワイヤの製造においてエナメルを提供するための;金属又は他の基材に耐食性コーティングを提供するための、焦げつき防止調理器具にバインダー層を提供するための;セメントで用いられるタイバーにコーティングを提供するための;金属被覆作業で使用される場合に、ポリマーフィルムに予備処理コーティングを提供するための;プラスチック又は金属フィルム材料に対する接着剤としての;インクにおける添加剤としての、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月29日出願の米国仮特許出願第63/283656号への、且つ2022年1月13日出願の欧州特許出願第22151401.1号からの優先権を主張し、これらの出願の開示内容全体が、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、水性配合物、特にポリアミドイミドポリマーを含有する水性コーティング配合物に関する。
【0003】
ポリアミドイミド及びポリアミド酸ポリマー(以降、総称してPAIと呼ぶ)は、その優れた接着性、耐熱性、及び高い強度のため、多くの高性能コーティング用途に使用されている周知の熱的に安定なポリマーである。PAIは、温度、磨耗、研磨、及び化学物質への曝露などの過酷な環境にさらされる金属基材の保護コーティングとして一般的に利用されている。PAIは、シリコン及び他の基材への良好な接着性も示す。
【0004】
大部分のPAIは、有機溶媒、通常、極性非プロトン性溶媒にのみ可溶性である。一般に使用される溶媒は、N-メチルアミド溶媒のクラス、特にN-メチルピロリドン(NMP)に属する。PAI組成物は、基材上に塗布された後、材料の最適な所望の特性を実現するために、溶媒を除去して分子量を高める熱硬化プロセスを受ける。このアプローチの重大な欠点は、NMPのような溶媒が有毒であることが知られていることである。さらに、溶媒としての揮発性有機化合物の使用を減らすことは、持続可能性の視点から非常に望ましい。
【0005】
したがって、有機溶媒を含有しないPAIポリマーを含む水性コーティング配合物を提供することが強く望まれている。
【0006】
水性PAI組成物を生成する方法は知られているが、それらは一般に、危険な錯化アミンに依存しており、少量の極性有機溶媒の使用を伴い、且つ/又は時間が経つにつれて常に粘度が増加すると共に貯蔵寿命が乏しい場合が多い。
【0007】
米国特許第4087394号明細書には、PAIポリマーを可溶化するための、トリエチルアミンとジエチルエタノールアミンとの混合物が開示されている。しかしながら、かなりの量の溶媒、フルフリルアルコール及びNMPが組成物に用いられる。
【0008】
米国特許第4259221号明細書には、PAI、水、任意選択的に少量の有機溶媒及び第3級アミン又はアミンの混合物を含む組成物が開示されている。米国特許第4259221号明細書には特に、少量の遊離カルボン酸基、例えば20%までの遊離カルボン酸基を有するPAIの使用が開示されている。水性組成物の調製に適した第3級アミンのリストが提供され、具体的には:ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニルメチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、フェニルジエタノールアミン、フェニルエチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、及びトリエチルアミンである。例示的な組成物は、酸価70~90mg KOH/g(ポリマー)を特徴とするPAIポリマーである、Torlon(登録商標)AI-10及びジメチルエタノールアミンを含む。
【0009】
米国特許第6479581号明細書には、高い酸価、好ましくは120mg KOH/g(ポリマー)を超える酸価を有するPAIポリマーと、第3級脂肪族アミンとを含む、水性PAI組成物が開示される。最も好ましいアミンはトリエチルアミンである。
【0010】
実際に使用される大部分の第3級アミンは比較的危険な物質であり、場合によっては、置き換えることが求められる溶媒系とちょうど同程度である。例えばトリエチルアミンは、可燃性、腐食性、及び急性的に毒性の液体である。アルカノール置換アミンは一般にトリエチルアミンのようなアルキル置換アミンよりも危険性が低い。例えば、トリエチルアミンと対照的にトリエタノールアミンは、危険ではないと分類される。しかしながら、アルキルのアルカノール置換基との交換によって、より弱い塩基となり、有効性が低い中和剤となる。トリエタノールアミンを用いた水溶液は、得ることがより難しく、濾過除去しなければならない未溶解ポリマー粒子が多量に生じる場合が多い。ブチルジエタノールアミンのような、他のアルカノール置換アミンは適切な塩基度を有するが、意外なことに、時間が経つにつれてその粘度が安定でなくなる組成物が生じる。
【0011】
予想外に、固体含有率と粘度の最適な組み合わせを有し、且つ高い酸価を有するPAIポリマーをメチルジエタノールアミンと組み合わせることによって、時間が経つにつれてその粘度が安定となる水性組成物を得ることが可能であることが見出された。有利には、メチルジエタノールアミンは、危険ではない物質として分類される。より有利には、メチルジエタノールアミンは、組成物を調製する際にポリマーを容易に溶解することができる。
【発明の概要】
【0012】
このように、本発明の第1の目的は、水と、少なくとも100mg KOH/g(ポリマー)の酸価を有する少なくとも1種類の芳香族ポリアミド酸/ポリアミドイミドポリマー[ポリマー(PAI)]と、請求項1にさらに定義されるメチルジエタノールアミンと、を含む組成物である。組成物は好ましくは、ポリマー(PAI)、メチルジエタノールアミン及び水の合計重量に対して、ポリマー(PAI)を1.0~35.0重量%含有する。
【0013】
一実施形態において、組成物は、粘度100~10000センチポアズ(cPoise)を有する。
【0014】
一実施形態において、ポリマー(PAI)は、酸ハロゲン化物プロセスを介して得られている。
【0015】
本発明の第2の目的は、組成物を調製する方法である。
【0016】
本発明の第3の目的は、基材上に組成物を適用する工程を含む、物品の製造プロセスである。これらすべての目的は、特許請求の範囲に定義されており、それらについての詳細は以下に提供される。
【0017】
定義
化合物、化学式又は式の一部を特定する記号又は数字の前後の括弧の使用は、それらの記号又は数字を本文の残りの部分からよりよく区別する目的を有するにすぎず、したがって、前記括弧は省略することも可能である。
【0018】
いずれの記載も、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本発明の他の実施形態に適用可能であり、且つそれらと交換可能である。
【0019】
端点による数値範囲の本明細書でのいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び均等物を含む。
【0020】
本明細書で使用される、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、明確に文脈で別の指定がない限り、複数形も包含することが意図される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第1の態様に従って、芳香族繰り返し単位を含むポリアミド酸/ポリアミドイミドポリマー[ポリマー(PAI)]を含む組成物であって、前記繰り返し単位の50.0モル%を超える単位が少なくとも1つの芳香族環と、少なくとも1つのアミド酸基及び/又はイミド基[繰り返し単位(RPAI)]とを含み、前記ポリマー(PAI)が、請求項1でさらに定義される少なくとも100mg KOH/g(ポリマー)の酸価を有することを特徴とする、組成物が提供される。
【0022】
その組成物は、1つ以上のポリマー(PAI)を含み得る。
【0023】
ポリマー(PAI)の酸価(mg KOH/g(ポリマー))は少なくとも110であり得て、さらに少なくとも120であり得る。それは、アミド酸単位のみを含む樹脂に対する理論的酸価までの酸価であり得る。特定の実施形態において、それは170mg KOH/g(ポリマー)までであり得る。
【0024】
酸価は、ASTM D664に準拠した電位差滴定法などの滴定によって決定され得る。特に、N-メチルピロリドン(NMP)が溶媒であり、且つ滴定液が塩化トリブチルアンモニウムである、ASTM D664によって記載の電位差滴定法によって決定され得る。
【0025】
繰り返し単位(R
PAI)は、有利には、
【化1】
からなる群から選択され、式中:
- 記号→は、それぞれの式の中で、芳香族ポリアミド酸構造内の任意の繰り返し単位において、矢印が指し示す基が示される通りに又は入れ替わった位置に存在してもよいような異性を意味し;
- Arは、1つ以上の芳香族環を含み得る芳香族四価基であり、且つ好ましくは、
【化2】
(Xは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
n-(n=0、1、2、3、4又は5)からなる群から選択される)
からなる群から選択され;
- Rは、1つ以上の芳香族環を含み得る芳香族二価基であり、且つ好ましくは、
【化3】
(Yは、-O-、-C(O)-、-S-、-SO
2-、-CH
2-、-C(CF
3)
2-、-(CF
2)
n-(n=0、1、2、3、4又は5)からなる群から選択される)
【化4】
からなる群から選択される。
【0026】
繰り返し単位(R
PAI)は好ましくは:上記で定義される
【化5】
からなる群から選択される。
繰り返し単位(R
PAI)は、より好ましくは、以下に詳述する単位(i)、(ii)、及び(iii):
【0027】
【化6】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化7】
(式中、(i-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される);
【化8】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化9】
(式中、(ii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される);並びに
【化10】
及び/又は対応するイミド基含有繰り返し単位:
【化11】
(式中、(iii-a)に示される芳香環への2個のアミド基の結合は、1,3及び1,4ポリアミド-アミック酸配置を表すと理解される)
からなる群から選択される。
【0028】
繰り返し単位(RPAI)は、好ましくは繰り返し単位(i)、又は繰り返し単位(ii)と(iii)との混合である。
【0029】
好ましくは、ポリマー(PAI)は、90.0モル%超の繰り返し単位(RPAI)を含む。さらにより好ましくは、それは、繰り返し単位(RPAI)以外の繰り返し単位を全く含有しない。
【0030】
繰り返し単位(i)、又は繰り返し単位(ii)と(iii)との混合からなるポリマー(PAI)で優れた結果が得られた。
【0031】
アミック基を含む繰り返し単位の量は、特には当業者に周知の分光技術又は滴定技術などの任意の適切な技術によって決定することができる。
【0032】
繰り返し単位(R
PAI)は、上で詳述した式(R
PAI-A)、(R
PAI-B)、(R
PAI-C)、(R
PAI-D)、(R
PAI-E)のものから選択され、少なくとも1つのアミック酸基を含む繰り返し単位(R
PAI)のモルパーセントは以下の通りに表すことができる:
【数1】
(式中、[(R
PAI-A)単位]、[(R
PAI-B)単位]、[(R
PAI-C)単位]、[(R
PAI-D)単位]、及び[(R
PAI-E)単位]は、それぞれ上述した異なる繰り返し単位(R
PAI)のモル濃度を意味する)。
【0033】
繰り返し単位(RPAI)が、上記で詳述される式(RPAI-A)、及び(RPAI-C)の繰り返し単位から選択される場合、少なくとも1つのアミド酸基を含む繰り返し単位(RPAI)モル%は、以下の通りに表され得る:
[(RPAI-A)単位]/{[(RPAI-A)単位]+[(RPAI-C)単位]}×100。
【0034】
通常、繰り返し単位(RPAI)の少なくとも50.0モル%、さらに少なくとも60.0モル%、またさらに少なくとも70.0モル%が、少なくとも1つのアミド酸基を含む。
【0035】
特定の実施形態において、繰り返し単位(RPAI)の70.0~95.0モル%、さらに75.0~90.0モル%が少なくとも1つのアミド酸基を含む。
【0036】
ポリマー(PAI)は、少なくとも1つの芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーと、少なくとも1つの芳香族ジアミンとの重縮合反応を含むプロセスによって製造することができる。
【0037】
芳香族ポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーは、テレフタロイルクロリド、イソフタロイルクロリド、フタロイルクロリド、及びトリメリット酸無水物の酸ハロゲン化物誘導体からなる群から選択され得る。好ましくは、トリメリット酸無水物一酸ハロゲン化物から選択される。トリメリット酸無水物一酸ハロゲン化物の中でも、トリメリット酸無水物一酸塩化物が好ましい。
【0038】
いくつかの実施形態では、ジカルボン酸無水物モノマーをポリカルボン酸ハロゲン化物モノマーと組み合わせて使用することができる。適切なジカルボン酸無水物モノマーとしては、ピロメリット酸無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、及びトリメリット酸無水物が挙げられる。ジカルボン酸無水物モノマーが方法において使用される場合、芳香族ジアミンモノマーの等モル濃度に対する酸ハロゲン化物モノマーの過剰量は、酸ハロゲン化物とジカルボン酸無水物モノマーの合計モル数を考慮して計算される。
【0039】
芳香族ジアミンモノマーは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、p-フェニレンジアミン(PDA)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジフェニルジメチルメタンジアミン(DMMDA)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(BAPB)、4,4’-ビスフェノールAエーテルジアミン(BAPP)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン(BAPS)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ジフェニルエーテル(BAPE)、ジアミノジフェニル(メチル)ケトン(DABP)、4,4’-ジアミノトリフェニルアミン(DATPA)、4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MDI)、4,4’-ジアミノ-ジフェノキシ-1”,4”-ベンゼン、4,4’-ジアミノ-ジフェノキシ-1”,3”-ベンゼン、3,3’-ジアミノ-ジフェノキシ-1”,3”-ベンゼン、4,4’-ジアミノ-ジフェニル-4”,4-フェニル-イソプロピルプロパン及びその混合物からなる群から選択される。
【0040】
芳香族ジアミンモノマーは好ましくは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、p-フェニレンジアミン、(PDA)、及びm-フェニレンジアミン(MPDA)及びその混合物からなる群から選択される。芳香族ジアミンモノマーはODAであり得る。芳香族ジアミンモノマーはPDAであり得る。芳香族ジアミンモノマーはMPDAであり得る。
【0041】
重縮合反応は、有利には、化学量論量過剰の酸ハロゲン化物モノマーを使用して、極性溶媒中、150℃未満の温度で、実質的に無水条件下で行われる。
【0042】
ポリマーの分子量を制御し、安定性を向上させるために、当業者に公知のように、一官能性反応剤をエンドキャッピング剤として使用することができる。
【0043】
ポリマー(PAI)は、有利には、穏やかな条件下で、好ましくは、例えば水や低級アルキルアルコールなどの混和性非溶媒を添加して極性反応溶媒から凝固又は析出させることにより、固体形態で単離される。任意選択的には、その後固体樹脂を回収し、水で十分に洗浄し、遠心分離又はプレスすることで、熱をかけずに固体の含水率がさらに下げられてもよい。水及び低級アルキルアルコール以外の非溶媒は公知であり、例えば、エーテル、芳香族炭化水素、ケトンなどを含む溶液からポリマー(PAI)を析出させるために当該技術分野で使用されている。
【0044】
ポリマー(PAI)の数平均分子量(Mn)は有利には、少なくとも1000、好ましくは少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2000である。
【0045】
ポリマー(PAI)の数平均分子量(Mn)は有利には、最大で20000、好ましくは最大で15000である。
【0046】
ポリマー(PAI)の分子量(Mw及びMn)は、ポリスチレン標準を用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して決定されてもよいし、且つ通常決定される。
【0047】
本発明の組成物は有利には、ポリマー(PAI)、メチルジエタノールアミン及び水の合計重量に対して、ポリマー(PAI)を少なくとも1.0重量%、好ましくは少なくとも3.0重量%、より好ましくは少なくとも5.0重量%含む。
【0048】
本発明の組成物は有利には、ポリマー(PAI)、メチルジエタノールアミン及び水の合計重量に対して、ポリマー(PAI)を最大で35.0重量%、好ましくは最大で30.0重量%、より好ましくは最大で25.0重量%含む。
【0049】
疑義を避けるために明記すると、組成物が2つ以上のポリマー(PAI)を含む場合には、ポリマー(PAI)の総量は、本明細書で所定の比率に従う。
【0050】
ポリマー(PAI)、メチルジエタノールアミン及び水の合計重量に対して、ポリマー(PAI)を3.0~20.0重量%、5.0~20.0重量%含むポリマー組成物は、非常に満足の行く結果を与えた。
【0051】
5.0~20.0重量%、さらに5.0~15.0重量%の量でポリマー(PAI)を含む組成物は、コーティングの製造における前記組成物の使用に適した粘度を有することが予想外に判明した。
【0052】
有利には、ポリマー(PAI)、メチルジエタノールアミン、水から本質的になる組成物であって、ポリマー(PAI)が5.0~20.0重量%の量で存在する組成物は、25℃で測定された100~10000センチポアズ、通常300~8000センチポアズの粘度を有する。
【0053】
組成物の粘度は、ブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用いて25℃で測定することができる。
【0054】
「本質的に~からなる」という表現は、組成物が他の成分を5.0重量%未満、通常2.0重量%未満又は1.0重量%未満含有することを示すために本明細書において使用される。
【0055】
本発明の組成物は、メチルジエタノールアミンを含む。用いられるメチルジエタノールアミンの最低量はポリマー(PAI)における遊離カルボン酸基を中和するのに必要な、おおよその理論量である。3~5倍の化学量論的過剰量と同程度のアミンの過剰量が望ましい。ポリマー(PAI)中のアミンと遊離カルボン酸基のモル比は一般に、0.8~5.0、好ましくは0.8~2.5、より好ましくは1.0~2.0の範囲にある。疑義を避けるために明記すると、組成物が2つ以上のポリマー(PAI)を含む場合、本明細書において所定のメチルジエタノールアミンの量は、ポリマー(PAI)に存在するすべての遊離カルボン酸基を考慮に入れる。
【0056】
一般に、且つ最終的な固体含有量に応じて、組成物は、ポリマー(PAI)、メチルジエタノールアミン及び水の総合計重量に対してメチルジエタノールアミンを0.5~約30.0重量%、さらに1.0~20.0重量%含む。
【0057】
成分を合わせる簡便な方法が、本発明の水性組成物の調製に用いられ得る。固体ポリマー(PAI)は、メチルジエタノールアミンと水の攪拌混合物に段階的に増量しながら添加され得て、固体樹脂が溶解するまで攪拌が続けられる。その代わりとして、メチルジエタノールアミンは、固体が溶解するまで連続して攪拌しながら、水中のポリマー(PAI)の攪拌懸濁液にゆっくりと添加され得る。酸ベースの反応と同様に、外部冷却は最初に必要であることが判明する場合があり;それに続く温め及び攪拌は、妥当な期間で固体樹脂の溶解を完了するのに望ましい場合がある。例えば、懸濁液は、50~90℃の温度に加熱され得て、攪拌下にて保持され得る。
【0058】
高い酸価を有するポリマー(PAI)と併せて、メチルジエタノールアミンを使用する更なる利点は、ポリマー(PAI)の溶解の達成に必要な時間が限られることであることが判明した。その溶解時間は、100mg KOH/g(ポリマー)未満の低酸価を有するPAIポリマーで確認される時間よりも著しく少ない。
【0059】
したがって、本発明による水性溶液は、ポリマー(PAI)、水及びメチルジエタノールアミンを含む。一般に、これらの水性組成物は、いずれかの有機溶媒を低レベルで、一般に5.0重量%未満、2.0重量%未満、好ましくは1.0重量%未満で有する。本発明の組成物は好ましくは、有機溶媒を実質的に含有しない。組成物及び有機溶媒と関連して「実質的に含有しない」という表現は、前記有機溶媒、1種又は複数種が、組成物の重量に対して0.5重量%未満、好ましくは0.2重量%未満の量で存在することを意味すると意図される。有機溶媒を0.1重量%と少量で、さらにそれより少ないレベルで含有する配合物は、例えば延長された洗浄を用いることによっても得られる。かかる組成物は、有機溶媒が許容され得ない用途での使用に非常に望ましい。「溶媒」という用語は、ポリマー(PAI)を溶解する、又はポリマー(PAI)の溶解を促進することができ、且つメチルジエタノールアミンではない有機分子を意味する。
【0060】
最終的な使用に応じて、組成物は、コーティング組成物の通常の成分、例えば以下のものをさらに含み得る:(i)分散剤;(ii)カーボンブラック、シリケート、金属酸化物及び硫化物などの顔料;(iii)流動促進剤などの添加剤;(iv)炭素繊維、ガラス繊維、BaSO4やCaSO4などの金属硫酸塩、Al2O3やSiO2などの酸化物、ゼオライト、マイカ、タルク、カオリンのような無機充填剤;(v)有機充填剤、好ましくはPTFEのような熱安定性ポリマー;(vi)金属シリケート、例えばケイ酸アルミニウムなどのシリケート化合物、及び二酸化チタンなどの金属酸化物のようなフィルム硬化剤;(vii)コロイダルシリカ、並びにリン酸金属塩、例えばZn、Mn、又はFeのリン酸塩などのリン酸化合物のような接着促進剤。
【0061】
本発明のさらなる態様は、基材上に本発明の組成物を塗布することを含む物品の製造方法である。
【0062】
そのプロセスに任意の技術が使用され得る。通常、組成物はコーティングによって適用される。コーティングは、スピンコーティング、スリットスピンコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング、又はカーテンコーティングなどの任意の適切なコーティングプロセスによって行うことができる。コーティング工程の後には、典型的には、溶媒を揮発させるために、得られたフィルムを120~400℃、好ましくは120~350℃に含まれる温度でプリベークすることによって塗布された組成物を硬化させる工程が続く。
【0063】
コーティングの厚さは、意図される目的に応じて変化させることができる。厚さは、好ましくは、0.1~100ミクロン、好ましくは1~50ミクロン、より好ましくは5~20ミクロンの範囲であり、さらに好ましくは厚さは約10ミクロンである。
【0064】
本発明の水性組成物は、コーティング用途での使用が意図される配合物において特に有用であることが見出され、コーティングされた表面上で向上した靱性を有する、接着性、高強度の連続コーティング層が提供される。より一般的には、本発明の水性組成物を使用して、摩擦、熱、又は過酷な化学的環境に対する耐性が必要とされる用途において接着又は保護コーティングが得られる。
【0065】
かかるコーティングは、自動車の仕上げ塗装用のバインダーとしての役割を果たし、自動車の仕上げ塗装の既存の層間の、又は他の金属仕上げ塗装との接着性を向上させ得る。
【0066】
PAIポリマーは、金属面に対する良好な接着性を有することが知られており、したがって、本発明の水性組成物は、容器のコーティング用途における、又は絶縁ワイヤ用途における、例えば、電気モーター用のマグネットワイヤにおけるエナメルとしての使用に対して、配合物の提供において特に有用であることが見出され得る。
【0067】
本発明の水性組成物は、金属又は他の基材に化学的に耐食性のコーティングを提供するために、焦げつき防止調理器具にバインダーを提供するために;セメントで用いられるタイバーにコーティングを提供するために;金属被覆作業で使用される場合に、例えば、ポリエステル、ポリアミド及びポリイミドフィルムなどのポリマーフィルムの予備処理コーティングを提供するために;液晶ポリマー及びポリイミドなどの様々なプラスチック又は金属フィルムに対する接着剤として;インクの性能を向上させる添加剤として;使用され得る。
【0068】
本発明の特定の実施形態の、実質的に有機溶媒を含有しない水性組成物は、有機溶媒が望ましくないか、又は許容され得ない、フィルムキャスティングに有用であることが見出され得る。
【0069】
これらの水性組成物を含む配合物は、サイジング剤として、且つガラス繊維、カーボン及びグラファイト繊維、アルミナ繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、アラミド繊維、フルオロカーボン繊維等の繊維材料に特に有用であることも見出され得る。「炭素繊維」という用語は、一般的な意味で本明細書において使用され、且つ熱炭化又は黒鉛化処理後に生じるグラファイト繊維並びに非晶質炭素繊維を含む。
【0070】
参照により本明細書に援用される、あらゆる特許、特許出願及び特許公開の開示内容が、用語が不明瞭となり得る程度まで本出願の記述と矛盾する場合には、本発明の記述が優先されるべきである。
【0071】
本発明は、ここで、以下の実施例に関連して説明されるが、その目的は、単に例示的であり、本発明を限定するものではない。
【0072】
原材料
メチルジエタノールアミン(MDEA)、及びブチルジエタノールアミン(BDEA)-Sigma Aldrich。
【0073】
Torlon(登録商標)AI-30:酸価>120mg KOH/g(ポリマー)を有するPAIポリマー-Solvay Specialty Polymers USA,LLCから市販されている。
【0074】
Torlon(登録商標)AI-10:酸価約80mg KOH/g(ポリマー)を有するPAIポリマー-Solvay Specialty Polymers USA,LLCから市販されている。
【0075】
方法
溶液粘度
ポリマーの粘度は、8.25重量%の組成物濃度で、25℃でブルックフィールド粘度計を用いて測定した。
【0076】
酸価の滴定
酸価は、ASTM D664に記載の電位差滴定によって決定され、N-メチルピロリドン(NMP)が溶媒であり、滴定液は水酸化カリウム及び塩化トリブチルアンモニウムである。
【0077】
実施例1-MDEAを有するTorlon(登録商標)AI-30水性溶液
水(2500グラム)及びMDEA(162.4グラム)を、オーバーヘッド機械攪拌機を備えた6Lジャケット付きフラスコに装入した。混合物を80℃に予熱した。力強く攪拌しながら、Torlon(登録商標)AI-30粉末(966.4グラム)を5つに等しく分けて30分間にわたって添加した。追加の水(471グラム)を添加して、混合容器の壁からすべての粉末を、バルク液体中に洗い流した。混合物を80℃で4時間維持し、次いで10ミクロンフィルターバッグを通してポンピングした。初期溶液粘度を24時間後、次いで19日後に測定した。密閉されたガラス製広口瓶内で溶液を22℃で保管した。結果を表1に報告する。
【0078】
比較例1-BDEAを有するTorlon(登録商標)AI-30水性溶液
水(1500グラム)及びBDEA(134.0グラム)を、オーバーヘッド機械攪拌機を備えた6Lジャケット付きフラスコに装入した。混合物を80℃に予熱した。力強く攪拌しながら、Torlon(登録商標)AI-30粉末(589.3グラム)を5つに等しく分けて30分間にわたって添加した。追加の水(277グラム)を添加して、混合容器の壁からすべての粉末を、バルク液体中に洗い流した。混合物を80℃で4時間維持し、次いで10ミクロンのフィルターバッグを通してポンピングした。初期の溶液粘度を24時間後、次いで4、8及び19日後に測定した。密閉されたガラス製広口瓶内で溶液を22℃で保管した。結果を表1に報告する。
【0079】
【0080】
表1のデータから、メチルエタノールアミンを含む組成物の粘度が意外なことに、ブチルジエタノールアミンを含む組成物と比較した場合に、時間の経過によってほとんど変化しないことが分かり、19日間で4桁程度変化する。
【0081】
実施例1及び比較例1の両方において、同じ濃度のポリマー(PAI)(水100部につき約33重量部)を用いて、及び同一モル量のMDEA又はBDEA/ポリマー(PAI)(グラム)(約1.4mmol/g(ポリマー)(PAI))を用いて、溶液を調製したことに留意されたい:したがって、実施例は、その性能の点から完全に同等である。
【0082】
比較例2
Torlon(登録商標)AI-10、酸価80mg KOH/g(ポリマー)を有するPAIポリマーを使用して、実施例1の手順を繰り返した。8時間後、ポリマーの溶解が止まった。プロセスの最後に、実施例1で回収された量よりも、かなり多い分量の未溶解固体がフィルター上で回収された。
【国際調査報告】