(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】レシオメトリック核酸検出用ルシフェラーゼ-インターカレート色素複合体
(51)【国際特許分類】
C12N 9/02 20060101AFI20241031BHJP
C12Q 1/66 20060101ALI20241031BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241031BHJP
C12Q 1/6848 20180101ALI20241031BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20241031BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20241031BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
C12N9/02
C12Q1/66 ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6848 Z
C12N9/14
C12N9/16 B
C07K7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532246
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 NL2022050685
(87)【国際公開番号】W WO2023096493
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501276430
【氏名又は名称】テクニーシェ・ユニバーシタイト・アイントホーベン
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】デ スティグター、ヨスタ
(72)【発明者】
【氏名】ロージア、バス
(72)【発明者】
【氏名】メルクス、マールテン
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX02
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA70
4H045DA89
4H045EA20
4H045EA53
(57)【要約】
二本鎖DNAを検出し、定量するためのプローブが開示される。このプローブは、発光発生ドメインとインターカレート蛍光色素とを含む。プローブは、定量的DNA増幅反応に使用することができる。さらに、本明細書に記載のプローブを用いて二本鎖DNAを検出または定量する方法が開示される。また、DNAの検出または定量におけるプローブの使用も記載されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二本鎖DNAの検出用のインターカレート色素プローブであって、前記色素は、1つ以上のインターカレート蛍光色素に結合した発光タンパク質を含むインターカレート色素プローブ。
【請求項2】
前記発光タンパク質が生物発光タンパク質または化学発光を増強するのに使用される酵素である請求項1に記載のインターカレート色素プローブ。
【請求項3】
前記生物発光タンパク質が、ルシフェラーゼ活性を有するタンパク質であり、好ましくはnanoluc、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、カイアシ類ルシフェラーゼ、細菌ルシフェラーゼ、渦鞭毛藻ルシフェラーゼ、深海エビルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ、TurboLucルシフェラーゼ、Alucルシフェラーゼ、またはそれらの触媒活性断片から選択される請求項2に記載のインターカレート色素プローブ。
【請求項4】
前記ルシフェラーゼ活性を有するタンパク質が、配列番号1~7のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含む請求項3に記載のインターカレート色素プローブ。
【請求項5】
前記化学発光を増強するのに使用される酵素が、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびアルカリンホスファターゼから選択される請求項2に記載のインターカレート色素プローブ。
【請求項6】
前記インターカレート蛍光色素が、アクリシンオレンジ、チアゾールオレンジ、エチジウムブロミド、SYBRグリーンI、SYBRゴールド、SYBR Safe、EvaGreen、EvaRuby、PicoGreen、SYTO-9、TOTO-1、およびYOYO-1から選択される請求項1~5のいずれか1項に記載のインターカレート色素プローブ。
【請求項7】
追加のDNA結合ドメインをさらに含む請求項1~6のいずれか1項に記載のインターカレート色素プローブ。
【請求項8】
溶液中の二本鎖DNAの検出方法であって、
請求項1~7のいずれか1項に記載のインターカレート色素プローブおよび発光ドメインの適した基質と、前記溶液とインキュベートするステップと、
前記インターカレート蛍光色素によって発せられた光を検出するステップと、
を備える二本鎖DNAの検出方法。
【請求項9】
二本鎖DNAの定量に使用され、さらに、
前記発光ドメインによって発せられた光を検出するステップと、
前記インターカレート蛍光色素によって発せられた光と前記発光ドメインによって発せられた光の比率に基づいて二本鎖DNAの量を定量するステップと、を備える請求項8に記載の二本鎖DNAの検出方法。
【請求項10】
DNA増幅反応の前、DNA増幅反応の間、および/またはDNA増幅反応の後に実施される請求項8または9に記載の二本鎖DNAの検出方法。
【請求項11】
前記DNA増幅反応が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リコンビナーゼ・ポリメラーゼ増幅(RPA)、ループ介在等温増幅(LAMP)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、鎖置換増幅(SDA)、複数置換増幅(MDA)、ローリング・サークル増幅(RCA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)または分岐増幅法(RAM)から選択される請求項10に記載の二本鎖DNAの検出方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載のインターカレート色素プローブと、発光ドメインの適した基質とを含む部品キット。
【請求項13】
前記基質がルシフェリン、好ましくはフリマジン、ホタルルシフェリン、ラチア(巻き貝)ルシフェリン、細菌ルシフェリン、セレンテラジン、渦鞭毛藻ルシフェリン、ヴァルグリン、3-ヒドロキシヒスピジン、ルミノールまたはH
2O
2である請求項12に記載の部品キット。
【請求項14】
二本鎖DNAの検出方法における請求項1~7のいずれか1項に記載のインターカレート色素プローブの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二本鎖DNAを検出するか、かつ/または定量するプローブに関する。本発明は、特に、発光を利用したインターカレートプローブ、およびそのようなプローブを用いて二本鎖DNAを検出または定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(序論)
DNAおよびRNAの検出は、ウイルスや細菌などの病原体による感染症の診断や予防の基本である。DNA検出の基準はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)であり、このPCRは、標的DNAの単一断片から大量の同一コピーを迅速に生成することに基づいている。PCRは、標的DNAに結合する短いDNAプライマーの結合に依存し、その後DNAポリメラーゼ酵素が標的の鋳型に基づいて新しいDNA断片を生成する。この目的のために、PCRは、反応混合物の温度を50-98℃で変化させる3つの異なる熱サイクルステップを必要とする。PCR中のDNAをモニターし、定量するために、DNAに結合すると蛍光が大きく増加するインターカレート色素分子が使用される。蛍光シグナルはレーザーやLEDのような光励起源を用いて生成され、その後、集められた光の強度がDNA濃度の尺度として用いられる。定量的PCR(qPCR)はDNAを高感度で検出できることが示されているが、高価な専用装置(レーザー、光学系、温度コントローラーを含む)の使用が制限されているか、あるいは望ましくない状況、例えばポイント・オブ・ケア診断検査などでは、必要なセットアップが法外になることがある。さらに、蛍光はバックグラウンドシグナルが高いという問題があり、患者の血液のような複雑な媒体中で測定を行う場合に問題となる。
【0003】
PCRベースの検出戦略の複雑さを軽減し、ポイント・オブ・ケア・アプリケーションに移行するために、いくつかの代替アプローチが研究されてきた。確立された戦略は、一定の温度で増幅できる等温核酸増幅法を用いることで、熱サイクル装置の必要性をなくすことである。最近注目されている2つの例は、SHERLOCKおよびDETECTRプラットフォームであり、等温増幅法と、高度に特異的なDNAまたはRNA配列を認識できるCRISPR関連(Cas)タンパク質を組み合わせたものである。(Gootenberg,J.S.et al.Nucleic acid detection with CRISPR-Cas13a/C2c2.Science.356,438-442(2017); Chen,J.S.et al.CRISPR-Cas12a target binding unleashes indiscriminate single-stranded DNase activity.Science.360,436-439(2018))。SHERLOCK法は、リコンビナーゼ・ポリメラーゼ増幅(RPA)による等温増幅を利用するもので、プライマーの結合とその後のDNA増幅に3種類の酵素を利用する。37-42℃の一定温度で行えるため、熱サイクル必要がなくなる。同様に、DETECTRはループ介在等温増幅法(LAMP)を用いており、これは60-65℃の一定温度で行われ、増幅サイクルを促進するために特別に設計されたループ状のプライマーセットに基づいている。SHERLOCKとDETECTRの両方において、Casタンパク質がそれぞれ一本鎖RNAと二本鎖DNAに結合し、フルオロフォアと消光剤のペアを含む一本鎖核酸レポーターが切断されると、蛍光出力シグナルが生成される。ポイント・オブ・ケア用途のために、蛍光読み出しに代わる比色測定が実現し、ラテラル・フロー・アッセイに組み込まれた。(Patchsung,M.et al.Clinical validation of a Cas13-based assay for the detection of SARS-CoV-2 RNA.Nat.Biomed.Eng.4,1140-1149(2020))。これらのアッセイは、等温増幅とウイルス核酸源の特異的で超高感度な検出をうまく組み合わせているが、外部励起源やラテラルフローストリップを必要とする蛍光読み出しに依存しており、一般的には定性的な情報しか得られない。
【0004】
生物発光に基づくセンサは、蛍光検出に代わる強力な戦略である。外部からの励起を必要とせずに光を生成する生物発光ルシフェラーゼ酵素を用いることで、高いバックグランドシグナルを回避し、検出のための特殊な光学機器の使用を回避することが可能である。このような生物発光タンパク質は、アクセプターと結合させることで、より一般的に用いられているFRETベースのアプローチと同様に、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を可能にする。この原理は、DNAヘアピンに接続されたルシフェラーゼとアクセプター色素からなる生物発光分子ビーコンなど、蛍光検出法の類似品を作るためにすでに採用されている。ヘアピンは当初、両成分を近接させ、BRETを促進するが、標的ssDNAまたはssRNAとの複合化で両者を分離する。(Engelen,W.,van de Wiel,K.M.,Meijer,L.H.H.,Saha,B.& Merkx,M.Nucleic acid detection using BRET-beacons based on bioluminescent protein-DNA hybrids.Chem.Commun.53,2862-2865(2017))。また、インターカレート色素は、ルシフェラーゼをDNA標的ジンクフィンガータンパク質と融合させた生物発光タンパク質と組み合わせて使用されてきた。(Yoshida et al.,Anal.Chem.2013,85,13,6485-6490)。ジンクフィンガーが標的dsDNAに結合すると、インターカレート色素とルシフェラーゼタンパク質が近接し、ルシフェラーゼから色素へのBRETが起こる。qPCRにおけるインターカレート色素とは異なり、これらのアプローチはいずれもDNAの特異的な検出に焦点を当てており、新しい標的DNAごとに新しいプローブを化学合成する必要がある。
【0005】
ポイント・オブ・ケア診断用途の感度を向上させるために、生物発光は標的核酸の等温増幅とも組み合わされてきた。「リアルタイムでの生物発光アッセイ」(BART)は、標的DNAのLAMP増幅と、DNA重合の副産物の一つを消費または変換して光を発生する酵素に依存している。(Gandelman,O.A.et al.Novel bioluminescent quantitative detection of nucleic acid amplification in real-time.PLoS One 5,(2010))。この方法は、DNAの単一コピーを検出できることが示されているが、出力シグナルが時間依存性で解釈が難しくなる自動阻害に悩まされている。さらに、一本鎖DNA(ssDNA)に結合させたスプリットルシフェラーゼによる等温増幅と組み合わせて、特定のDNA配列の検出が検討されてきた。(Chang,D.,Kim,K.T.,Lindberg,E.& Winssinger,N.Smartphone DNA or RNA Sensing Using Semisynthetic Luciferase-Based Logic Device.ACS Sensors 5,807-813(2020))。本明細書では、ローリング・サークル増幅(RCA)の増幅産物上の繰り返し標的配列がシステムによって認識され、スプリットルシフェラーゼのタンデムアセンブリを引き起こし、NanoLucが再構成され、青色発光をもたらす。分子ビーコンおよびジンクフィンガーと同様、この戦略では、新しい標的DNAごとに新しいプローブを化学合成する必要がある。
【0006】
これらの課題は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明によって克服される。
【発明の概要】
【0007】
生物発光に基づく読み出しは、レーザーやLEDに基づく複雑な光学機器を必要とする問題を回避し、外部励起を必要とせずに光を生成するルシフェラーゼ酵素を採用する。本発明者らは、二本鎖DNAの高感度な非特異的検出と単純な青色対緑色の生物発光読み出しを組み合わせた、インターカレート色素と化学的に結合した耐熱性ルシフェラーゼに基づく新しい生物発光センサタンパク質を紹介する。したがって、本発明は、複雑で非常に特殊な装置を用いることなく、定量的で高感度な二本鎖DNA検出を、簡単なデジタルカメラやスマートフォンで記録できる便利な光学的読み出しで行うことを可能にする。
【0008】
したがって、第1の態様では、二本鎖DNAの検出用インターカレート色素プローブが提供される。該色素は、1つ以上のインターカレート蛍光色素に結合した発光タンパク質を含む。
【0009】
第2の態様では、溶液中の二本鎖DNAの検出方法が提供され。該方法は、本発明の第1の態様に従うインターカレート色素プローブおよび発光ドメインの適した基質を、溶液とインキュベートするステップと、インターカレート蛍光色素によって発せられた光を検出するステップと、を備える。
【0010】
第3の態様では、部品キット(kit of parts)が提供される。該部品キットは、本発明の第1の態様に従うインターカレート色素プローブと、発光ドメインの適した基質とを含む。
【0011】
第4の態様では、二本鎖DNAの検出方法における本発明の第1の態様に従うインターカレート色素プローブの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】生物発光性インターカレート色素の模式図である。このプローブは、システイン-マレイミド化学によってインターカレート色素(緑)に結合したNanoLucルシフェラーゼ(青、λmax~460nm)からなる。二本鎖(dsDNA)がない場合、インターカレート色素の蛍光はほとんどなく、NanoLucの青色発光を見ることができる(左)。dsDNAが存在すると、インターカレート色素はdsDNAに結合し、BRETが起こり、緑色に発光する(右)。
【
図2】
図2(A)は、NanoLuc-チアゾールオレンジ(D148C位、フレキシブルループ)のdsDNAを用いた生物発光滴定を示す図である。
図2(B)は、NanoLuc-チアゾールオレンジ(G182C位、C末端)のdsDNAを用いた生物発光滴定を示す図である。両変異体について:複合体(左、1nM)を、(DNAの塩基対で)39μM~10,000μMのサケ精子DNAの2倍希釈系列に添加した。インキュベーションは1xPBS+1mg/mLBSA、5%DMSO、pH7.4中、室温で30分間行った。NanoGlo基質(1000倍希釈)を添加した後、398-653nmの発光強度を測定した。
【
図3-1】
図3(A)は、NanoLucのC末端に組み込まれた、1~3個のリシンと2個のグリシン(ネガティブコントロール)を含む様々なリンカー変異体の模式図である。
【
図3-2】
図3(B)は、2つのインターカレート色素を有し、1(NL2C-1K)、2(NL2C-2K)または3(NL2C-3K)個のリシンを間に挟んだ(G182位置、C末端)NanoLuc変異体のdsDNAを用いた生物発光滴定を示す図である。
図3(C)は、2つのインターカレート色素を有し、2個のリシン(NL2C-2K)または2個のグリシン(NL2C-2G、ネガティブコントロール)を間に挟んだ(位置G182、C末端)NanoLuc変異体のdsDNAを用いた生物発光滴定を示す図である。すべての変異体について:複合体(1nM)を、(DNAの塩基対で)0.76μM~5,000μMのサケ精子DNAの2倍希釈系列に添加した。インキュベーションは、1xPBS+1mg/mLBSA、5%DMSO、pH7.4中、室温で30分間行った。NanoGlo基質(1000倍希釈)を添加した後、398-653nmの発光強度を測定した。
【
図4】
図4(A)は、正電荷を持つ2個のリシン残基で隔てられた2個のシステインを含むNanoLuc変異体の模式図である。
図4(B)は、2つの色素を持つNanoluc-2xTOプローブの模式図である。このプローブは、正電荷を持つリンカーで隔てられた2つのインターカレート色素(緑)に結合したNanoLucルシフェラーゼ(青)から構成され、負電荷を持つdsDNAバックボーンとの相互作用が期待される。
【
図5】
図5(B,D)は、C末端(B)またはフレキシブルループ(D)に2xTOを配置したdsDNAとNanoLuc-2xTOの生物発光滴定を示す図である。複合体(1nM)を0.76μMから5000μMの塩基対の範囲のサケ精子dsDNAの3倍希釈系列に添加した。インキュベーションは、1xPBS+1mg/mLBSA、5%DMSO、pH7.4中、室温で30分間行った。NanoGlo基質(1000倍希釈)を加えた後、398-653nmの発光強度を測定した。技術的重複(technical duplicate)は丸で表し、破線は平均値を結ぶ。
図5(A,C)は、C末端(A)またはフレキシブルループ(C)に2xTOを配置したdsDNAとNanoLuc-2xTOの生物発光滴定の全発光スペクトルを示す図である。データポイントは平均値を表す。*パネルBのデータは
図3BCのデータ(リシン2個のリンカー、青い曲線)と同じである。
【
図6】NanoLuc-1xTO(緑)、NanoLuc-2xTO(青)、NanoLuc-3xTO(赤)とdsDNAの生物発光滴定の比較を示す図である。複合体(1nM)を0.76μM-5000μMの塩基対の範囲のサケ精子dsDNAの3倍希釈系列に添加した。インキュベーションは、1xPBS+1mg/mLBSA,5%DMSO,pH7.4中、室温で30分間行った。NanoGlo基質(1000倍希釈)を添加した後、398~653nmの発光強度を測定した。技術的重複は丸で表し、破線は平均値を結ぶ。
【
図7-1】
図7(A)は、単一システインNanoLuc変異体、1-(2-アミノエチル)マレイミド架橋剤、NHS活性化インターカレート色素を含むコンジュゲーションプロセスの概略図である。
図7(B)は、マレイミド活性化架橋剤とNHS-TOのカップリングの反応スキームである。
【
図7-2】
図7(C)は、架橋剤カップリング前(上)とカップリング後(下)のNHS-TOのLCMS結果を示す図である。分子量はクロマトグラムのピークの上部に示されている。
【
図8】C末端にシステインを1個導入したNanoLuc変異体の色素カップリング前(灰色、NL2)とカップリング後(黒色、NL2+TO)のQ-ToFLC-MSスペクトルを示す図である。+18、+36のピークは、マレイミド部分の加水分解と色素の光脱離に起因し得る。平均分子量NL2=22145.3。計算平均分子量NL2+TO=22672.2。
【
図9】C末端に2個のシステインを組み込んだNanoLuc変異体の色素カップリング前(赤、NL2xCYS)とカップリング後(黒、NL2xCYS+TO)のQ-ToFLC-MSスペクトルを示す図である。+18、+36のピークは、マレイミド部分の加水分解と色素の光分解に起因し得る。-102のピークは、リシン残基とNHSインターカレート色素との結合による酸化的切断または副生成物に起因し得る。計算平均分子量NL2xCYS=22367.6.計算平均分子量NL2+TO=23422.4。
【
図10】SARS-CoV-2cDNA検出のための2段階アッセイの開発を示す図である。
図10Aは、2段階アッセイのセットアップの概略図である。SARS-CoV-2cDNAを65℃で35分間LAMP法で増幅し、1nMのLUMID-2Fセンサと組み合わせて室温で30分間インキュベートした後、フリマジン(1000倍希釈)を添加し、プレートリーダーおよび/またはスマートフォンのカメラを使用して生物発光を測定する。
図10Bは、検出にプレートリーダーを用いた2段階アッセイのセンサ応答を示す。データは技術的反復を表し、n=3個の独立したcDNAを調製した。上:2aM(1.2コピー/μL)~200fM(120,000コピー/μL)の範囲の異なるcDNA入力濃度における緑色/青色の比率。緑色/青色の比率は、533nmでの生物発光を458nmでの発光で割ることによって計算し、平均値±標準偏差で表した。下:バッファー(灰色)、標的cDNAを含まないLAMP反応(NTC、青色)、200aMの標的cDNAを含むLAMP反応(緑色)で表した全発光スペクトル。RLU(相対発光単位)は458nmのNanoLucピークで規格化し、スペクトル(下)は平均±標準偏差で表した。
図10Cは、暗い発泡スチロール箱の中でスマートフォン(Xiaomi mi 9 lite)を使用した2段階アッセイのセンサ応答を示す。写真は、2aM(1.2コピー/μL)~200fM(120,000コピー/μL)の範囲の異なる入力濃度のcDNAに対するセンサ出力を示す。各列は技術的反復を表し、n=3個の独立したcDNAを調製した。同じサンプルをスマートフォンのカメラ(右)とプレートリーダー(左)で検出した。
図10Dは、プレートリーダーとスマートフォンのカメラから算出された緑色/青色の比率の相関を示す。
【
図11】SARS-CoV-2のcDNA検出のためのワンポットアッセイの開発を示す図である。
図11Aは、ワンポットアッセイのセットアップの概略図である。すべての反応成分(SARS-CoV-2cDNA、LUMID-2Fセンサ、NanoLuc基質、LAMP反応成分)を1つのチューブ中で混合し、65℃で35分間インキュベートする。冷却後、プレートリーダーおよび/またはスマートフォンのカメラを用いて結果を直接読み取る。
図11Bは、検出にプレートリーダーを使用した、ワンポットアッセイのセンサ反応を示す。データは技術的反復を表し、n=3個の独立したcDNAを調製した。左:20aM(12コピー/μL)~2fM(1,200コピー/μL)の範囲でcDNAの入力濃度を変えたときの緑色/青色比。緑色/青色の比率は、533nmの生物発光を458nmの発光で割って算出し、平均値±標準偏差で表した。丸は個々のデータ点を示す。右:バッファー(灰色)、標的cDNAを含まないLAMP反応(NTC、青)、200aMの標的cDNAを含むLAMP反応(緑)で表した全発光スペクトル。スペクトル(下)は平均±標準偏差で表した。
図11Cは、暗い発泡スチロール箱の中で、従来のデジタルカメラ(Sony DSC-RX100)を使用した1段階アッセイのセンサ反応を示す。写真は、20aM(12コピー/μL)~2fM(1,200コピー/μL)の範囲の異なる入力濃度のcDNAに対するセンサ出力を示す。各列は技術的反復を表し、n=3個の独立したcDNAを調製した。同じサンプルをスマートフォンのカメラ(右)とプレートリーダー(左)で検出した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、DNAの高感度な非特異的検出と、ポイント・オブ・ケア診断に適した単純なカメラベースの読み出しを組み合わせた、新しいクラスの生物発光センサタンパク質を開発しようとしたものである。この目的のために、本発明者らは、基質を添加すると青色光の生物発光を発する耐熱性NanoLucルシフェラーゼに、1種以上のインターカレート色素を化学的に結合させた。dsDNA非存在下では、インターカレート色素は最小限の蛍光しか発さず、NanoLucの青色光のみが見られる。dsDNAが存在すると、インターカレーター色素はdsDNAに結合し、NanoLucから色素への生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)が可能になり、緑色の光が発せられる(
図1)。NanoLucの発光とインターカレート色素の発光との比から、サンプル中のdsDNAの量を測定することができる。本発明者らは、これらのプローブをRPAやLAMPのような等温増幅戦略と組み合わせて、アッセイ感度をさらに高めるための前増幅ステップを提供することを目指している。このアプローチによって、ハイテク機器および外部励起源を使用することなく、簡便かつ高感度にDNAを検出することが可能となり、資源または訓練されたスタッフへのアクセスが制限される可能性のあるポイント・オブ・ケアでの応用の可能性が広がる。
【0014】
このように、専門的な人員や装置を必要としないDNAの簡便な検出方法が提供され、感染症の診断および予防に応用することができる。本発明は、インターカレート色素に直接結合した発光性生物発光タンパク質という2つの部分からなる新規分子プローブについて述べている。プローブがDNAに結合すると、両者が相互作用し、生成される光の色が、例えば青から緑に変化する。プローブをサンプルに単に添加した後、DNAの存在を示す色の変化を、簡単なカメラやスマートフォンを使って記録し、定量することができる。
【0015】
したがって、第1の態様では、二本鎖DNAの検出用インターカレート色素プローブが提供される。該色素は、1つ以上のインターカレート蛍光色素に結合した発光タンパク質を含む。発光タンパク質は、生物発光タンパク質または化学発光を増強するのに使用される酵素であり得る。
【0016】
本明細書で、ルシフェラーゼとは、適切な基質の存在下で生物発光を生じることが可能なタンパク質を指す。そのようなタンパク質は、天然に存在するタンパク質(例えば、生物発光を示す生物から単離したタンパク質)またはそれらの修飾もしくは合成変異体であり得る。ルシフェラーゼとは、生物発光(基質の存在下で発光する)を示す能力を共通に有する広範な種々の無関係なタンパク質を指し、それ故に、生物発光を示すことができる任意のタンパク質は、本発明の目的のために生物発光タンパク質とみなされることが理解される。本明細書で、ルシフェラーゼ活性とは、発光(生物発光)をもたらす基質を変換するタンパク質の能力を指す。したがって、一実施形態では、生物発光タンパク質は、ルシフェラーゼ活性を有するタンパク質であり、好ましくは、nanoluc、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、カイアシ類ルシフェラーゼ、細菌ルシフェラーゼ、渦鞭毛藻ルシフェラーゼ、深海エビルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ、TurboLucルシフェラーゼ、Alucルシフェラーゼ、またはそれらの触媒活性断片から選択される。
【0017】
生物発光タンパク質は、インターカレート色素プローブに直接連結されており、生物発光タンパク質からインターカレート色素への発した光の伝達を可能にし、色素の励起とそれに続く蛍光を生じる。色素は、二本鎖DNAにインターカレートされたときのみ蛍光を示すので、本明細書で後述するように、二本鎖DNA(dsDNA)の検出または定量に色素特異的な発光を使用することができる。
【0018】
本明細書で、「連結された」は共有結合を指す。色素をタンパク質に連結する方法は当分野で広く知られている。例えば、色素は、後述するように、タンパク質のシステイン残基に連結し得る。例えば適したシステインが利用できない場合、システインを点変異によってタンパク質に導入し得る。複数の色素への連結を可能にするために、複数のシステインを導入し得ることがさらに理解される。好ましくは、システインは、タンパク質の異なる領域に導入するか、またはリンカー配列、例えばリシン1個のリンカー、リシン2個のリンカーもしくはリシン3個のリンカーを含むことによって、空間的に分離される。さらに、タンパク質中の不適切な位置に存在するシステインを点変異によって除去し得る。したがって、一実施形態では、ルシフェラーゼ活性を有するタンパク質は、配列番号1~7のいずれか1つによって定義されるアミノ酸配列を含む。
【0019】
本願で使用される配列の概要:
【表1】
上記タンパク質配列は、
開始コドン(Met、最初のアミノ酸);
ストレプトアビジン(STREP)タグ-(Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys;アミノ酸2~9);
改変したNanoLucタンパク質配列(アミノ酸10で開始);および
6ヒスチジンタグ(最後の6アミノ酸)を含む。
【0020】
上記の配列における変異の番号付けは、天然のnanoluc配列に従っているため、STREPタグを除き、提示した配列の10位のメチオニンから始まっている。
【0021】
代替として、色素を、化学発光を可能にする基質を生成する酵素と結合させ得る。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼを、過酸化水素を用いてルミノールの酸化の触媒作用を可能にするように結合させ得る。したがって、一実施形態では、化学発光を増強するのに使用される酵素は、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびアルカリンホスファターゼから選択される。
【0022】
適したインターカレート蛍光色素は当業者に既知である。一実施形態では、インターカレート蛍光色素は、アクリシンオレンジ、チアゾールオレンジ、エチジウムブロミド、SYBRグリーンI、SYBRゴールド、SYBR Safe、EvaGreen、EvaRuby、PicoGreen、SYTO-9、TOTO-1、およびYOYO-1から選択される。インターカレート色素プローブは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ以上などの1つ以上のインターカレート蛍光色素を含み得ることが理解される。複数の蛍光インターカレート色素を追加して、プローブのDNAターゲティングを強化してもよい。一実施形態では、インターカレート色素プローブは、追加のDNA結合ドメインをさらに含む。これは、DNAの結合またはターゲティングをさらに増強するのに好都合であり得る。
第2の態様では、本発明は、溶液中の二本鎖DNAの検出方法に関する。該方法は、
第1の態様に従うインターカレート色素プローブおよび発光ドメインの適した基質を溶液とインキュベートするステップと、
インターカレート蛍光色素によって発せられた光を検出するステップと、を備える。
【0023】
インターカレート色素は、二本鎖DNAにインターカレートしたときのみ発光タンパク質によって励起されることから、色素が発した光を検出することで、dsDNAを検出することができる。また、発光タンパク質により発した光を(例えば生物発光タンパク質によって直接、または化学発光を増強する酵素によって間接的に)検出することによって、dsDNAの量を定量できる。したがって、一実施形態では、該方法は、二本鎖DNAの定量に使用され、該方法は、
発光ドメインによって発せられた光を検出するステップと、
インターカレート蛍光色素によって発せられた光と発光ドメインによって発せられた光の比率に基づいて、二本鎖DNAの量を定量するステップと、をさらに含む。該方法は、DNA増幅反応前、増幅反応中、および/または増幅反応後に実施することができる。該方法は、増幅反応中に1回または連続的に実施することができる。
【0024】
該方法は、dsDNAを増幅する増幅反応のいずれのタイプでも実施し得ることが理解される。一実施形態では、増幅反応は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リコンビナーゼ・ポリメラーゼ増幅(RPA)、ループ介在等温増幅(LAMP)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、鎖置換増幅(SDA)、複数置換増幅(MDA)、ローリング・サークル増幅(RCA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)または分岐増幅法(RAM)から選択される。
【0025】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に従うインターカレート色素プローブと、発光ドメインの適した基質とを含む部品キットに関する。一実施形態では、基質は、ルシフェリン、好ましくはフリマジン、ホタルルシフェリン、ラチア(巻き貝)ルシフェリン、細菌ルシフェリン、セレンテラジン、渦鞭毛藻ルシフェリン、ヴァルグリン、3-ヒドロキシヒスピジンまたはルミノールである。ルシフェリンは、ルシフェラーゼに対する基質として作用する化合物の一般的な用語であることが理解され、したがって、本明細書でルシフェリンとは、本明細書で定義されるルシフェラーゼのいずれの適した基質を指す。
【0026】
第4の態様では、本発明は、二本鎖DNAの検出方法における本発明の第1の態様に従うインターカレート色素プローブの使用に関する。
【0027】
開示された実現例に対する他の変形例は、図面、開示内容、および添付の特許請求の範囲を検討することにより、特許請求の範囲に記載の発明を実施する際に当業者によって理解され、実施され得る。特許請求の範囲において、「含む(comprising)」は、他の要素またはステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は、複数を排除するものではない。
【実施例】
【0028】
(材料および方法)
クローニング
N末端にStrep-タグ、C末端にヘキサヒスチジン-タグを有するNanoLucルシフェラーゼをコードするDNAを含有するpET28aベクターをGenScriptから取り寄せた。QuikChange Lightning Site-Directed Mutagenesis kit(Agilent)を用い、製造者の説明書に従って特定のプライマーを使用して、天然のシステインをセリン(C166S)に変異させ、新しいシステイン残基およびリシン残基を導入する部位特異的な変異誘発を実施した。すべてのクローニングおよび変異誘発結果をサンガー配列決定(BaseClear)によって確認した。
【0029】
タンパク質発現および精製
NanoLucをコードするプラスミドを化学的にコンピテントなE.coli BL21(DE3)に形質転換し、50μg/mlカナマイシンを添加した2YT培地(1L当たり16gペプトン、5gのNaCl、10g酵素抽出物)で培養した。OD600=0.6で、1mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて、タンパク質発現を20℃で一晩誘導した。その後、遠心分離で細胞を回収し、ベンゾナーゼエンドヌクレアーゼ(Novagen)を添加したBugbusterタンパク質抽出試薬(Novagen)を用いて溶解した。Ni2+-NTAアフィニティークロマトグラフィーでタンパク質を精製した後、溶出画分を保存用緩衝液(100mMのTris-HCl、150mMのNaCl、pH8.0)に交換した。タンパク質の純度および正確な質量は、それぞれSDS-PAGEおよびQ-ToF LC-MSで確認した。精製したタンパク質をコンジュゲーションまで-80℃で保存した。
【0030】
NHS活性化色素と1-(2-アミノエチル)マレイミド架橋剤とのコンジュゲーション
チアゾールオレンジ(TO)とアクリシンオレンジ(AO)のアミン反応性N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルをBiotium社から入手し、それぞれ最終濃度20mMになるようにDMSOに溶解した。その後、3当量のN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)と0.8当量の1-(2-アミノエチル)マレイミド架橋剤(Sigma Aldrich)を加え、450rpmで連続的に振とうしながら室温で一晩インキュベートした(
図7B)。コンジュゲーション後の正しい質量は、LC-MSを用いて確認した(
図7C)。マレイミド活性化色素は、さらに使用するまで-30℃で保存した。
【0031】
マレイミド活性化色素とNanoLucとのコンジュゲーション
マレイミド活性化色素にNanoLucを結合させる前に、まずタンパク質を5mMのTCEPと500rpmで連続的に振とうしながら室温で1時間インキュベートすることで還元し、続いてPD-10脱塩カラム(GE Healthcare)を用いてリン酸ナトリウム緩衝液(100mM NaPi,25μM TCEP,pH7.0)に緩衝液交換した。次に、マレイミドで活性化したTOとAOをともに10μMの還元型NanoLucに10倍モル過剰で添加し、500rpmで連続的に振とうしながら室温で2時間反応させた。NanoLuc-色素複合体をPD-10脱塩カラムで精製して過剰の色素を除去し、同時にPBS(100mM NaPi,150mM NaCl,pH7.2)に緩衝液交換した。色素-タンパク質複合体を470nmの青色光で励起し、SDS-PAGEを用いてカップリングと精製をチェックした。最後に、Q-ToF LC-MSによって、NanoLuc-色素複合体のカップリング効率と正しい質量を確認した。
【0032】
生物発光アッセイ
生物発光アッセイを、PerkinElmer社製フラットホワイト384ウェルOptiplateにて、総容量20μL中センサタンパク質濃度1nMで行った。2000bp超の断片化サケ精子dsDNA断片をThermo Fisher社に注文し、0.7μM~5mMの濃度範囲に希釈した(塩基対の数で測定)。センサタンパク質とdsDNA断片を室温で0.5時間インキュベートした後、NanoGlo基質(Promega,N1110)を最終希釈1:1000で添加した。生物発光スペクトルをプレートリーダー(Tecan Spark 10M)で記録し、ステップサイズ15nm、バンド幅25nm、積分時間250msで398nmから653nmの間の全スペクトルを記録した。
【0033】
2段階SARS-CoV-2cDNAアッセイ
SARS-CoV-2ウイルスのヌクレオカプシド(N)遺伝子のcDNA配列をターゲットとするLAMPプライマーを、NEB LAMP Primer Design Toolを用いて設計し、IDT社に注文した。N遺伝子の配列は配列番号8にて見られる。プライマーを、16μMのインナープライマー、2μMのアウタープライマー、4μMのループプライマーを含む10倍濃縮ストックに希釈した。SARS-CoV-2cDNA配列を含むプラスミドをFree Genes Projectを通じて入手し、特異的プライマーを用いて、ヌクレオカプシド(N)遺伝子配列をこのプラスミドからPCR増幅した。N遺伝子ターゲットDNAは、5aMから5pMの範囲の25x濃縮ストックに連続希釈した。1×等温増幅バッファー(NEB社製)、6mMのMgSO4(NEB社製)、1.4mMのdNTPs(NEB社製)、1×LAMPプライマーミックス、1×ターゲットDNAを総量24μLになるように合わせて、UV PCRキャビネット内で陽性LAMP反応を行った。非テンプレートコントロールでは、ターゲットDNAをMilliQ水に交換しただけで、同様の条件を使用した。全アセンブリープロセスの間、反応を氷上で保持した。反応を開始するために、Bst 2.0ポリメラーゼ(8U、NEB)を添加し、その後65℃で35分間インキュベートした。次に、各LAMP反応液10μLを、PerkinElmer flat white 384ウェルOptiplateに入れたLUMID-2Fセンサ(PBS緩衝液(pH7.4、0.1%(w/v)BSA、5%DMSO)中2nM)10μLと合わせた。陰性コントロールとして、LAMP反応をPBS緩衝液で代用した。室温で30分間インキュベートした後、NanoGlo substrate(Promega,N1110)を最終希釈1:1000で添加した。発光スペクトルをプレートリーダー(Tecan Spark 10M)で398nm~653nmで、ステップサイズ15nm、バンド幅25nm、積分時間100msで記録した。緑色/青色の比率は、533nmの生物発光を458nmの発光で割って算出した。また、発光シグナルを、周囲の光を除くために発泡スチロールの箱の穴を通してスマートフォン(Xiaomi mi 9 lite)のカメラで記録した。写真は露光時間32秒、ISO値3200で撮影した。
【0034】
ワンポットSARS-CoV-2cDNAアッセイ
LAMP反応を2段階アッセイで説明したように構築したが、1μLのLUMID-2Fセンサ(PBS緩衝液(pH7.4、0.1%(w/v)BSA、5%DMSO)中25nM)および1μLのNanoGlo基質(1:40希釈)を加えた。反応を開始するために、Bst2.0ポリメラーゼ(8U、NEB)を添加し、続いて65℃で35分間インキュベートした。デジタルカメラ(SONY DSC-RX100)を用いて、反応温度の維持のために加熱プレートを入れた発泡スチロールの暗箱のホールを通して、リアルタイム発光をモニターした。インキュベーション後、反応を室温に移し、5分間冷却してから発光シグナルを記録した。発光スペクトルを、プレートリーダー(Tecan Spark 10M)で、398nm~653nmで、ステップサイズ15nm、バンド幅25nm、積分時間100msで記録した。緑色/青色の比率を、533nmの生物発光を458nmの発光で割って算出した。また、リアルタイム発光モニタリング用のセットアップを用いて、発光シグナルを記録した。写真を、露光時間30秒、ISO値6400で撮影した。
【0035】
(結果と考察)
単一色素NanoLuc変異体
ルシフェラーゼ-インターカレート色素プローブの合成は、ヘテロ二官能性1-(2-アミノエチル)マレイミド架橋剤を介して、単一システインNanoLuc変異体をインターカレート色素チアゾールオレンジ(TO)またはアクリシンオレンジ(AO)のNHS活性型に結合させることによって行った。dsDNAとの複合体形成による蛍光の大幅な増加(3000倍超)、NanoLucとの適切なスペクトルオーバーラップ(em.Nanoluc 460nm,ex.TO 514nm)、NHS活性型が市販されていることからTOを選択した。AOは、二本鎖核酸と一本鎖核酸とを識別するプローブとして使用されてきた代替インターカレート色素である。AOは溶液中ではすでに蛍光を発し、dsDNA結合による蛍光の固有増加は小さいが、その強い固有蛍光を利用してコンジュゲーション手順を分析した。部位特異的な結合を可能にするため、NanoLucの生物発光特性を阻害することなく、コンジュゲーションに適した位置であることが知られているNanoLucのフレキシブルループ領域(D148)とC末端(G182)にシステイン変異を導入した。C末端のヘキサヒスチジンタグは、シングルシステインNanoLuc変異体の精製を容易にするために含まれている(DNA配列、アミノ酸配列およびタンパク質変異体のリストは上記の表にある)。まず、1-(2-アミノエチル)マレイミド架橋剤をNHS活性化インターカレート色素に結合させ、その後反応生成物をNanoLucに結合させた(
図3、
図7)。Q-ToF LC-MS分析により、光退色およびマレイミド官能基の加水分解に起因するマイナーピークが観察されたものの、合成が成功したことが明らかになった(
図8)。
【0036】
dsDNAに対するNanoLuc-チアゾールオレンジプローブの分析性能を調べるために、dsDNAを用いた生物発光滴定を行った(
図2)。その結果、dsDNAの量を増やすと緑色光(~533nm)の発光が増加することから、両プローブはdsDNAにインターカレートできることが明らかになった(
図2AB、中央)。また、チアゾールオレンジの発光(533nm)とNanoLucの発光(458nm)の比、または「BRET比」は、dsDNAの濃度が高くなるにつれて増加し、センサのdsDNA依存性をさらに裏付けている(
図2AB、右)。それにもかかわらず、BRETは高濃度のdsDNA(~mMの範囲)でしか現れず、dsDNAに対するプローブの親和性が低いことを示している。dsDNA添加によるBRET比の増加は、色素をC末端に配置したコンストラクト(
図2B、<2倍)に比べ、色素をフレキシブルループ領域に配置したコンストラクト(
図2A、4倍)で大きかった。BRETは距離依存性が強いので、この違いは両変異体における色素とNanoLucの活性部位との距離に起因する、すなわち、色素をフレキシブルなC末端(G182C)に配置すると、D148C変異体と比較して活性部位までの距離が大きくなり、それ故にBRET効率が低下すると考えられる。
【0037】
複数色素NanoLuc変異体-リンカー最適化
プローブの全体的な親和性を高める有望な工学的戦略は、複数の色素を組み込むことによって、現在のシステムに多価性を導入することである。二量体のチアゾールオレンジ色素(TOTO)の開発によって、dsDNAに対する親和性が、単量体のものに比べて約3桁増加することが示されている
13。同様に、dsDNAとの静電的相互作用を付加する2個のリシン残基で隔てられた2つのアクリシンオレンジ色素を含む小さなペプチドは、色素の親和性を2~3桁増加させることが示された
14。正電荷を持つリンカーを有する複数の色素という概念をプローブに応用するために、Nanoluc(C180)のC末端にある最初のインターカレート色素に近接して、リシン残基で隔てられた2番目のインターカレート色素を組み込んだ。リシンの量は、色素がdsDNAに結合してインターカレートする最適な距離を見つけるために、1個から3個まで変化させ、正電荷の必要性を確認するために、対照としてグリシン残基を組み込んだ(
図3A)。
【0038】
dsDNAを用いた生物発光滴定では、リシン2個のリンカーがdsDNAに最も高い親和性と最も高いダイナミックレンジで反応することが明らかになった(
図3B、青)。リシン3個のリンカーを持つ変異体は、親和性は同程度であったが、ダイナミックレンジが小さかった。これは、色素が両方ともdsDNAに効果的にインターカレートできず、緑色の蛍光が少なくなったためと考えられる(
図3B、赤)。最も低い親和性とダイナミックレンジは、リシン1個のリンカーで観察された。これは、正電荷の量が少ないことに加えて、色素がdsDNAに結合する距離が最適でないことによって説明できる(
図3B、緑)。グリシン2個のリンカーを用いた対照実験では、リシン2個のリンカーに比べて親和性が100倍程度低く、正電荷がdsDNA結合の向上に不可欠であることを示している(
図3C)。
【0039】
複数色素NanoLuc変異体-2個の色素
次に、NanoLucのC末端およびフレキシブルループ領域に、最も性能の良い2-リシンリンカーで隔てられた2個のシステインを組み込んだ(NanoLuc-2xTO、
図4)。Q-ToF LC-MS分析によって、光退色およびマレイミド官能基の加水分解に起因するピークが観察されたが、カップリング反応が完了していたことが明らかになった(
図9)。
【0040】
dsDNAに対するNanoLuc-2xTOセンサの分析性能を調べるために、再びdsDNAを用いた生物発光滴定を行った(
図5)。dsDNAの濃度を上げると、チアゾールオレンジの発光(533nm)とNanoLucの発光(458nm)との比率(BRET比)の増加が観察された。BRETは低μMの範囲ですでに現れ、TOを1つだけ含むセンサの変異体と比較して親和性が1000倍増加したことを示している(
図2と比較)。C末端に2xTOを持つ変異体ではBRET比が4倍と中程度の増加が観察され、フレキシブルループに2xTOを持つ変異体では9倍の増加が観察された(
図5BとDを比較)。
図2の単一色素変異体で得られた結果と同様に、これらの結果は、BRET効率が距離に強く依存し、フレキシブルループにインターカレート色素を配置することでBRET効率が増加することを示している。
【0041】
興味深いことに、全発光スペクトルによって、全発光強度とdsDNAの量との間に正の相関があることが明らかになった。第2の色素の添加は系の疎水性を増加させ、それによってNanoLuc-2xTOの溶解度を低下させ、シグナル強度を低下させるという仮説が成り立つ。負に帯電した大量のdsDNAは、タンパク質と色素のコンストラクトを安定化させるか、または凝集体の形成を防ぐように作用し、絶対シグナルの観察された増加につながった可能性がある。
【0042】
複数色素NanoLuc変異体-3色素
また、2-リシンリンカーで隔てられた第3の色素をNanoLucのC末端に付加した場合のセンサの性能も評価した(NanoLuc-3xTO、
図6)。dsDNAを用いた滴定から、2つの色素を用いた変異体と比較して、低い検出限界(LoD)と高い親和性が観察された。さらに、曲線はdsDNA濃度のより広い範囲にわたって引き伸ばされ、BRET比の倍数変化はより小さくなっているようである。これは、異なる親和性バインダーの混合物が存在し、不完全な色素のカップリング反応に起因することを示している可能性がある。その結果、異なる濃度領域でdsDNAに結合する1つ、2つまたは3つの色素を持つNanoLuc変異体が得られた。
【0043】
本発明は、発光ルシフェラーゼタンパク質に1つ以上のインターカレート色素を結合させた、dsDNA検出用の包括的な生物発光センサについて述べている。プローブあたり1つ以上の色素の多価DNA結合と、色素間の短い正電荷リシンリンカーの使用を組み合わせることで、単純な生物発光読み出しで高親和性DNA検出プローブが得られた。その結果、dsDNAはμM程度の親和性(塩基対で測定)で検出でき、BRET比は4~9倍変化した。多くの増幅法では、100~200bpのdsDNA断片が生成され、このことは、今回開発されたセンサは、低nM領域ですでにそのような断片を検出できることを示唆している。
【0044】
本発明は、一般的な風邪の原因となるライノウイルスや、非常に関連性が高く破壊的なSARS-CoV-2ウイルスを用いて、血液や唾液などの患者サンプル中のウイルスDNAまたはRNAを検出するために使用することを想定している。この目的のために、本明細書に記載された生物発光インターカレートタンパク質を増幅技術(例えば、RPAまたはLAMP)と組み合わせることができ、患者サンプル中のDNAを直接検出するために必要なアッセイの感度を高めるために、最初の前増幅ステップを実施する簡単な方法を提供する。NanoLucの熱安定性から、NanoLuc-TO複合体はワンポット反応におけるRPA(T=42℃)の進行をリアルタイムでモニターするために使用できると期待される。さらに、本発明では、ループ位置での2価のTO標識とC末端での2価の標識とを組み合わせることによって、dsDNAに対するルシフェラーゼ-TO複合体の親和性をさらに高めることが想定される。さらに、NanoLucドメインと一般的なdsDNA結合ドメインとの融合によって、感度をさらに向上させることも想定される。
【0045】
SARS-CoV-2相補的DNAの2段階アッセイ
dsDNA断片は通常100~200塩基対の長さであることから、今回開発したセンサはこのような断片を低ナノモル範囲で検出できることが示唆される。ウイルス核酸検出のような診断用途の多くは、アトモルの感度を必要とするため、開発した生物発光プローブとさまざまな等温増幅ステップを組み合わせて、ポイント・オブ・ケアで使用できる単純で高感度なアッセイプラットフォームを開発することを検討した。その結果、非特異的増幅を最小限に抑えながらdsDNAの収量が高い(非特異的読み出しを採用する場合、大きなバックグラウンドシグナルを避けることが不可欠である)ことからLAMP法が最も適していることがわかった。現在進行中のCOVID-19パンデミックに触発され、SARS-CoV-2ウイルスのヌクレオカプシド(N)遺伝子の相補的DNA(cDNA)配列を標的にするようにLAMP反応を設計し、ウイルス検出のための迅速なポイント・オブ・ケア検出におけるLUMIDプローブの実現可能性を探った。
【0046】
まず、連続希釈したSARS-CoV-2cDNAをLAMP法で増幅し、その後、生物発光検出を容易にするためにLUMID-2Fと組み合わせる2段階アッセイを開発した(
図10A)。この目的のために、LAMP反応を製造業者の指示に従って65℃で35分間行い、その後1:1(v/v)で2nMのセンサタンパク質と結合させた。30分間のインキュベーションと基質の添加後、200aM(120コピー/μL)までのDNA濃度は、緑色/青色の発光比が2.5倍変化することで、非テンプレート対照(NTC)と識別できた(
図10B)。ポイント・オブ・ケアへの応用の可能性を示すため、標準的なスマートフォンのカメラ(Xiaomi mi 9 lite)を用いて、発泡スチロールの暗箱の中でシグナルを記録した。プレートリーダー測定に使用したのと同じサンプルを撮影した写真では、200aMまでのすべてのDNA濃度で、青から緑への明確な色の変化が視覚的に確認された(
図10C)。スマートフォンのRGB画像の青色と緑色のチャンネルから正確な発光比を計算したところ、プレートリーダー測定で得られた比と直線的な相関を示し(
図10D)、ピアソン係数は0.996であった。このことから、発光比率の絶対的な変化は異なるものの、スマートフォンのカメラの性能はプレートリーダーの性能と同等であることが明らかになった。どちらの検出方法においても、NTCの緑色光量はバッファーだけを用いたコントロールよりも高いことがわかった。これは、LAMP反応で使用される長い(~40bp)プライマーが、増幅を伴わずに検出可能な二次dsDNA構造を形成するためと考えられる。このプライマー関連のバックグラウンドシグナルはアッセイのダイナミックレンジを減少させるが、観察された発光比の変化は頑健で、一般的なBRETベースのセンサと同等である。これらの結果は、LUMIDセンサをLAMPと組み合わせることで、スマートフォンを使った簡単な検出によって約1時間で結果が得られる高感度核酸アッセイプラットフォームを構築できることを示している。
【0047】
SARS-CoV-2相補的DNAのワンポットアッセイ
次に、すべてのアッセイ成分を1本のチューブにまとめることができるかどうかを評価し、1段階のポイント・オブ・ケア診断ツールとしてのこのプラットフォームの実行可能性を実証した。このアプローチは、実験手順を簡略化するだけでなく、増幅後の反応液の移し替えの際に交差汚染の結果として生じる可能性のある偽陽性のリスクを低減する。したがって、LAMP反応成分を、連続希釈したSARS-CoV-2cDNA、LUMID-2Fセンサ(1nM)、NanoLuc基質(1000倍希釈)と共に1本のチューブに入れた後、65℃で35分間インキュベートした(
図11A)。NanoLucは65℃の反応温度では不活性であったが、室温で5分間冷却すれば酵素活性は完全に回復した。この短いクールダウンのステップを用いると、20aM(12コピー/μL)までのDNA濃度は、緑色/青色の発光比の2.1倍の変化で非テンプレートコントロール(NTC)と識別できた(
図11B)。また、プレートリーダー測定に使用したのと同じサンプルを撮影した写真では、DNA濃度が20aMまで視覚的な色の変化が見られた(
図11C)。このことは、ワンポットアッセイに移行しても感度が損なわれず、2段階アッセイで報告されたアトモル感度が維持されたことを示している。見かけ上10倍の親和性上昇が観察されたが、これはLAMP反応に内在する反応間変動によるものと思われる。
【配列表】
【国際調査報告】