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特表2024-541596医療器具用途のためのイオン性ポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】医療器具用途のためのイオン性ポリマー
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/06 20060101AFI20241031BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20241031BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20241031BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20241031BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20241031BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20241031BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20241031BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61L29/06
A61L29/04 100
A61L29/16
A61L29/12
A61L31/06
A61L31/04 120
A61L31/04 110
A61L31/16
A61L31/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532272
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 US2022080679
(87)【国際公開番号】W WO2023102436
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】63/284,058
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/991,937
(32)【優先日】2022-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホー バイ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ ジョセフ セムラー
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC06
4C081AC08
4C081AC16
4C081BB06
4C081CA02
4C081CA03
4C081CA04
4C081CA07
4C081CA09
4C081CA16
4C081CA20
4C081CA21
4C081CA27
4C081CD06
4C081CE01
4C081CE03
4C081DC03
4C081DC12
4C081DC14
(57)【要約】
イオン性ポリマーと活性剤とをイオン結合させて形成された医療用物品は、向上した特性を提供する。イオン性ポリマーは、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーおよび双性イオン性ポリマーのうちの1種または複数種であってよい。また、器具は、非イオン性ポリマーを含んでもよい。本願の医療用物品は、抗菌性、防汚性、および/または抗血栓性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性剤にイオン結合したイオン性ポリマーと、
任意選択的に、非イオン性ベースポリマーと
を含む医療器具であって、
前記イオン性ポリマーは、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、および双性イオン性ポリマー、の1種または複数種を含み
前記アニオン性ポリマーは、カルボキシレート(-COO)、スルホネート(-SO )、有機スルフェート(-O-SO )、有機ホスフェート(-O-PO または-O-PO 2-)、フェノレート(-C-O)、およびチオレート(-S)の1種または複数種から選択される官能基を含み、
前記カチオン性ポリマーは、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される1種または複数種の官能基を含み、あるいは、前記カチオン性ポリマーは、第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される2種以上の官能基を含み、
前記双性イオン性ポリマーは、カルボキシレート(-COO)、スルホネート(-SO )、有機スルフェート(-O-SO )、有機ホスフェート(-O-PO または-O-PO 2-)、フェノレート(-C-O)、チオレート(-S)、第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される2種以上の官能基を含み、
、R、およびRは、独立的に、水素、ハロゲン、アルキル、およびアリールを含む
ことを特徴とする医療器具。
【請求項2】
前記イオン性ポリマーは、カルボキシレート(-COO)官能基を含むアニオン性ポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項3】
前記イオン性ポリマーは、スルホネート(-SO )官能基を含むアニオン性ポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項4】
前記イオン性ポリマーは、カルボキシル化ポリウレタン、ポリ(エチレン-co-メタクリル酸)コポリマー、スルホン化ポリウレタン、およびペルフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレンコポリマーからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項5】
前記非イオン性ベースポリマーは、ポリウレタン、コポリエステル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル系コポリマー、アセタールコポリマー、セルロースアセテートプロピオネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー、耐衝撃性ポリスチレン、熱可塑性エラストマー、合成ゴム、およびシリコーンエラストマーの1種または複数種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項6】
前記活性剤は、アニオン性活性剤およびカチオン性活性剤の1種または複数種を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項7】
前記活性剤は、抗菌剤、抗血栓剤、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項8】
前記カチオン性活性剤は、酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、スルファジアジン銀、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、第4級アンモニウム含有殺生物剤、グアニジン含有殺生物剤、カチオン性抗菌ポリマー、抗菌ペプチドまたは抗菌ペプチド模倣物、防汚リン脂質または防汚リン脂質模倣物、およびそれらの誘導体の1種または複数種を含むことを特徴とする、請求項6に記載の医療器具。
【請求項9】
前記アニオン性活性剤は、クロキサシリン塩、セフォキシチン塩、セファゾリン塩、ペニシリン塩、ヘパリン塩、およびそれらの誘導体の1種または複数種を含むことを特徴とする、請求項6に記載の医療器具。
【請求項10】
前記活性剤を少なくとも24時間にわたって溶出させることを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項11】
前記活性剤を少なくとも3日間にわたって溶出させることを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項12】
前記活性剤を少なくとも7日間にわたって溶出させることを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項13】
前記活性剤を少なくとも30日間にわたって溶出させることを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項14】
前記イオン性ポリマーと、前記活性剤と、前記任意選択的な非イオン性ベースポリマーとのコーティングを、医療器具本体上に含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項15】
前記イオン性ポリマーと、前記活性剤と、前記任意選択的な非イオン性ベースポリマーとの配合混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項16】
前記活性剤を浸染させた、前記イオン性ポリマーと、任意選択的な非イオン性ベースポリマーとを含む本体を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項17】
医療器具本体は、前記非イオン性ベースポリマーを含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項18】
カテーテル、エクステンション、IVチューブ、カテーテルアダプタ、ルアーポート、コネクタ本体、器具ハウジング、それらの部品、またはそれらの組み合わせの形態であることを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項19】
少なくとも1種の添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の医療器具。
【請求項20】
前記少なくとも1種の添加剤は、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、衝撃改良剤、補強剤、難燃剤、離型剤、発泡剤、着色剤、放射線不透過性担持剤などからなる群から選択されることを特徴とする、請求項19に記載の医療器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、一般に、医療器具およびその製造方法に関する。より詳細には、本開示の実施形態は、活性剤にイオン結合したイオン性ポリマーを有する医療器具を指向する。活性剤は、抗菌剤および/または抗血栓剤であってもよい。
【背景技術】
【0002】
サンプリングまたは薬剤投与に使用される注射器カニューレおよびカテーテルのような輸液治療用医療器具は、典型的には、輸液および/または感染を引き起こす可能性のある体液と直接接触する部品を有する。たとえば、カテーテルに関連する血流感染症は、微生物のコロニー形成によって引き起こされる可能性があり、コロニー形成は、血管内カテーテルおよびIVアクセス器具を含む治療を受ける患者に発生する可能性がある。これらの感染症は、病気および過剰な医療費をもたらす恐れがある。種々の抗菌剤(たとえば、クロルヘキシジン、銀、または他の抗生物質)を用いるカテーテルおよびIVアクセス器具の含浸および/またはコーティングは、これらの感染を予防するために実施されてきた一般的なアプローチである。
【0003】
ある種の血液接触器具は、血栓を発生させる可能性がある。血液が異物と接触する際に、一連の複雑な現象が起こる。これらは、タンパク質の沈着、細胞の接着および凝集、血液凝固系の活性化などを含む。従来、ヘパリンのような抗凝固剤の使用によって血栓形成を阻止してきた。状況によって血栓形成の可能性があるポリマー表面に対するヘパリンの付着は、種々の表面コーティング技術を用いて実現してもよい。
【0004】
カテーテルおよび/またはIVアクセス器具に対する抗菌剤および/または抗血栓剤の直接的な含浸は、活性剤とポリマー基材との間に化学的結合を生じさせない。そのため、器具は短時間で抗菌/防汚効力を失う可能性がある。
【0005】
一方、表面コーティング技術は、抗菌剤および/または抗血栓剤をポリマー基材の表面に(化学的または物理的に)安定化させ、そのような活性剤の非溶出性または制御放出性を達成する。しかしながら、これらのコーティング技術は、通常、ポリマー基材のプライミング(たとえば、化学処理またはプラズマ処理)、引き続く複数回の表面コーティング工程を必要とするため、医療器具の製造工程を複雑にし、製造コストを著しく増加させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、抗菌剤および/または抗血栓剤と結合し、それらの制御された放出を実証し、長期間にわたって抗菌特性および/または防汚特性を達成できる医療器具が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つまたは複数の実施形態は、医療器具を指向し:
医療器具は、活性剤にイオン結合したイオン性ポリマーを含み、
イオン性ポリマーは、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、および双性イオン性ポリマー、ならびに任意選択的な非イオン性ベースポリマーの1種または複数種を含み、
アニオン性ポリマーは、カルボキシレート(-COO)、スルホネート(-SO )、有機スルフェート(-O-SO )、有機ホスフェート(-O-PO または-O-PO 2-)、フェノレート(-C-O)、およびチオレート(-S)の1種または複数種から選択される官能基を含み、
カチオン性ポリマーは、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される1種または複数種の官能基を含み、あるいは、カチオン性ポリマーは、第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される2種以上の官能基を含み、
双性イオン性ポリマーは、カルボキシレート(-COO)、スルホネート(-SO )、有機スルフェート(-O-SO )、有機ホスフェート(-O-PO または-O-PO 2-)、フェノレート(-C-O)、チオレート(-S)、第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される2種以上の官能基を含み、
、R、およびRは、独立的に、水素、ハロゲン、アルキル、およびアリールを含む。
【0008】
追加の実施形態は、医療器具の製造方法を指向し:
本方法は、イオン性ポリマーと、活性剤と、任意選択的に非イオン性ベースポリマーとをイオン結合させる工程を含み、
イオン性ポリマーは、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、および双性イオン性ポリマーの1種または複数種を含み、
アニオン性ポリマーは、カルボキシレート(-COO)、スルホネート(-SO )、有機スルフェート(-O-SO )、有機ホスフェート(-O-PO または-O-PO 2-)、フェノレート(-C-O)、およびチオレート(-S)の1種または複数種から選択される官能基を含み、
カチオン性ポリマーは、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される1種または複数種の官能基を含み、あるいは、カチオン性ポリマーは、第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される2種以上の官能基を含み、
双性イオン性ポリマーは、カルボキシレート(-COO)、スルホネート(-SO )、有機スルフェート(-O-SO )、有機ホスフェート(-O-PO または-O-PO 2-)、フェノレート(-C-O)、チオレート(-S)、第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される2種以上の官能基を含み、
、R、およびRは、独立的に、水素、ハロゲン、アルキル、およびアリールを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】例示的な医療器具の平面図である
図2】本開示の1つまたは複数の実施形態の医療器具の溶出プロファイルを示す図である。
図3】本開示の1つまたは複数の実施形態の医療器具の溶出プロファイルを示す図である。
図4】本開示の1つまたは複数の実施形態の医療器具の溶出プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のいくつかの例示的な実施形態を説明する前に、本発明は、以下の説明に記載される構造の詳細または方法工程に限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、種々の方法で実行または実施することが可能である。
【0011】
本出願の目的において、以下の用語は、それぞれ、以下に記載する意味を有するものとする。
【0012】
イオン性ポリマーは、分子構造中に共有結合およびイオン結合の両方を含むポリマーである。イオン性ポリマーのイオン性荷電官能基は、カチオン性官能基およびアニオン性官能基の1つまたは複数を含み、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、双性イオン性ポリマーの1種または複数種を形成することができる。カチオン性ポリマーは、正電荷を有する高分子であり、この正電荷はポリマー骨格および/または側鎖に本質的に存在することができる。アニオン性ポリマーは、電気陰性基を有する高分子であり、電気陰性基はポリマー骨格および/または側鎖に本質的に存在することができる。双性イオン性ポリマーは、ポリマー骨格および/または側鎖に正電荷および負電荷の両方が組み込まれた高分子である。
【0013】
抗菌剤は、微生物を死滅させる物質、または微生物の増殖を停止させる物質である。イオン性ポリマーのカチオン性官能基および/またはアニオン性官能基との結合に使用できる抗菌剤は、任意のアニオン性抗生物質(たとえば、クロキサシリン塩、セフォキシチン塩、セファゾリン塩、ペニシリン塩、またはそれらの誘導体)、およびカチオン性防腐剤(たとえば、酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、スルファジアジン銀、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、またはそれらの誘導体)を含む。さらに、第4級アンモニウム含有殺生物剤、グアニジン含有殺生物剤、カチオン性抗菌ポリマー、抗菌ペプチドまたは抗菌ペプチド模倣物、防汚リン脂質または防汚リン脂質模倣物、およびそれらの誘導体を、同様にイオン性ポリマーのアニオン性官能基とイオン結合させて、抗菌性および/または防汚性を含む強化された表面特性の利点を能動的および/または受動的に提供することができる。
【0014】
抗血栓剤は、血栓の形成を防ぐ物質である。アニオン性抗血栓剤(たとえば、ヘパリン塩、またはその誘導体)をイオン性ポリマーのカチオン性官能基とイオン結合させて、抗血栓性を発揮することができる。
【0015】
さらに、当業者は、低分子または高分子のいずれのアニオン性および/またはカチオン性の殺生物剤および抗凝固剤も、イオン性ポリマーのカチオン性および/またはアニオン性の官能基との結合に使用できることを認識するであろう。
【0016】
本明細書で使用される場合、用語「活性剤」は、イオン性ポリマーに結合することができるアニオン性、カチオン性、または双性イオン性化合物である、抗菌剤、抗血栓剤、またはそれらの組み合わせを指す。したがって、いくつかの実施形態において、活性剤は、抗菌活性、防汚活性、またはそれらの組み合わせを提供する。
【0017】
本開示の原理および実施形態は、一般に、改善された特性を有するイオン性ポリマー器具、ならびにそれらを製造および使用する方法に関する。活性剤をイオン結合および安定化させることにより、抗菌性および/または防汚特性を有する医療用物品(たとえば、カテーテルチューブ)を提供して、抗菌性、防汚性、および/または抗血栓性を含む望ましい材料特性を提供する。血流感染および血栓(深部静脈血栓症(DVT)および血栓症によるカテーテル閉塞など)を予防するために、抗菌/抗血栓剤にイオン結合されるイオン性ポリマーを提供し、医療器具から前述の抗菌/抗血栓剤を制御放出させる。医療器具は、たとえば、カテーテル、エクステンション、IVチューブ、カテーテルアダプタ、ルアーポート、コネクタ本体、器具ハウジング、それらの部品、それらの組み合わせなどである。
【0018】
図1において、カテーテルの形状を有する例示的な医療器具を示す。本明細書で開示する活性剤にイオン結合したイオン性ポリマーから作られたチューブがカテーテルを形成し、このカテーテルは、血管アクセス器具を形成するための他の構成要素を受容するために必要に応じて成形される。カテーテル10は、押出成形されたままの形態のチューブである主導管12を含む。遠位端では、チッピングプロセスによって先端部14を形成する。近位端には、必要に応じて、カテーテルアダプタを含むがそれに限定されない他の構成要素を受容するためのフランジ16を形成する。例示的な血管アクセス器具は、血管にアクセスするためのカテーテルに加えて、針をさらに含んでもよい。
【0019】
1つまたは複数の実施形態において、医療器具は、カテーテル、エクステンション、IVチューブ、カテーテルアダプタ、ルアーポート、コネクタ本体、器具ハウジング、それらの部品、またはそれらの組み合わせの形態である。いくつかの実施形態において、カテーテルは、末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)、末梢静脈カテーテル(PIVC)、または中心静脈カテーテル(CVC)を含む。いくつかの実施形態において、イオン結合した活性剤の制御放出は、血流感染および深部静脈血栓症を予防する。
【0020】
1つまたは複数の実施形態において、医療器具は、活性剤にイオン結合したイオン性ポリマーを含む。イオン性ポリマーは、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマーおよび双性イオン性ポリマーの1種または複数種から選択される。いくつかの実施形態において、活性剤とイオン性ポリマーとの間のイオン結合は、活性剤の非溶出性および/または制御放出を可能にする。任意選択的に、非イオン性ベースポリマーもまた、医療器具に含まれてもよい。1つまたは複数の実施形態において、医療器具は、細菌、タンパク質および血液成分のイオン性反発により、血栓形成および/または細菌バイオフィルム形成を受動的に減少させる。
【0021】
イオン性ポリマーは、1つまたは複数のカチオン性官能基および/またはアニオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、アニオン性ポリマーは、アニオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、アニオン性ポリマーは、少なくとも1つのアニオン性官能基、少なくとも2つのアニオン性官能基、または少なくとも3つのアニオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、アニオン性ポリマーは、2つ以上のアニオン性官能基、3つ以上のアニオン性官能基、または4つ以上のアニオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、カチオン性ポリマーは、カチオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、カチオン性ポリマーは、少なくとも1つのカチオン性官能基、少なくとも2つのカチオン性官能基、または少なくとも3つのカチオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、カチオン性ポリマーは、2つ以上のカチオン性官能基、3つ以上のカチオン性官能基、または4つ以上のカチオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、アニオン性官能基およびカチオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、少なくとも1つのアニオン性官能基、少なくとも2つのアニオン性官能基、または少なくとも3つのアニオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、少なくとも1つのカチオン性官能基、少なくとも2つのカチオン性官能基、または少なくとも3つのカチオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、2つ以上のアニオン性官能基、3つ以上のアニオン性官能基、または4つ以上のアニオン性官能基を含む。いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、2つ以上のカチオン性官能基、3つ以上のカチオン性官能基、または4つ以上のカチオン性官能基を含む。
【0022】
1つまたは複数の実施形態において、カチオン性官能基(たとえば、全体として正電荷を有する官能基)は、当業者に公知の任意の適切なカチオン性官能基を含んでもよい。1つまたは複数の実施形態において、カチオン性官能基は、第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムの1種または複数種から選択され、R、R、およびRは、独立的に、水素、ハロゲン、アルキル、およびアリールを含む。いくつかの実施形態において、イオン性ポリマーは、第4級アンモニウム基を含まないカチオン性ポリマーである。すなわち、1つまたは複数の実施形態において、カチオン性ポリマーは、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される1種または複数種のカチオン性官能基を含み、R、R、およびRは、独立的に、水素、ハロゲン、アルキル、およびアリールを含む。
【0023】
他の実施形態において、イオン性ポリマーは、2つ以上の第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))を有するカチオン性ポリマーであり、第4級アンモニウム基は互いに異なる。
【0024】
いくつかの実施形態において、2つ以上のカチオン性官能基が、カチオン性ポリマーまたは双性イオン性ポリマー中に存在する。2つ以上のカチオン性官能基を、第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムの1種または複数種から選択してもよく、R、R、およびRは、独立的に、水素、ハロゲン、アルキル、およびアリールを含む。
【0025】
1つまたは複数の実施形態において、アニオン性官能基(たとえば、全体として負電荷を有する官能基)は、当業者に公知の任意の適切なアニオン性官能基を含んでもよい。いくつかの実施形態において、アニオン性官能基は、カルボキシレート(-COO)、スルホネート(-SO )、有機スルフェート(-O-SO )、有機ホスフェート(-O-PO または-O-PO 2-)、フェノレート(-C-O)、およびチオレート(-S)の1つまたは複数を含み、Rは、水素、ハロゲン、アルキル、およびアリールを含む。
【0026】
1つまたは複数の具体的な実施形態において、イオン性ポリマーはアニオン性ポリマーである。アニオン性ポリマーは、当業者に既知の任意の適切なアニオン性ポリマーを含んでもよい。1つまたは複数の実施形態において、アニオン性ポリマーは、カルボキシレート(-COO)官能基を含む。1つまたは複数の実施形態において、アニオン性ポリマーは、カルボキシル化ポリウレタン(Becton, Dickinson and Company)およびポリ(エチレン-co-メタクリル酸)コポリマー(たとえば、商品名Surlyn(商標)のアイオノマー)からなる群から選択される。
【0027】
別の実施形態において、アニオン性ポリマーは、スルホネート(-SO )官能基を含む。別の実施形態では、アニオン性ポリマーは、スルホン化ポリウレタン(Becton, Dickinson and Company)およびペルフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレンコポリマー(たとえば、商品名Nafion(商標)のアイオノマー)からなる群から選択される。
【0028】
1つまたは複数の実施形態において、イオン性ポリマーは、カチオン性官能基およびアニオン性官能基の両方を含む双性イオン性ポリマーである。いくつかの実施形態において、双性イオン性ポリマーは、カルボキシレート(-COO)、スルホネート(-SO )、有機スルフェート(-O-SO )、有機ホスフェート(-O-PO または-O-PO 2-)、フェノレート(-C-O)、チオレート(-S)、第4級アンモニウム(-N(R)(R)(R))、ホスホニウム(-P(R)(R)(R))、イミダゾリウム、ピリジニウム、スルホニウム、グアニジニウム、チアゾリウム、およびキノリニウムから選択される2種以上の官能基を含み、R、R、およびRは、独立的に、水素、ハロゲン、アルキル、およびアリールを含む。
【0029】
1つまたは複数の実施形態において、イオン性ポリマーは活性剤にイオン結合している。活性剤は、当業者に既知の任意の適切な活性剤であってもよい。イオン性ポリマーがアニオン性ポリマーである実施形態において、活性剤はカチオン性活性剤である。イオン性ポリマーがカチオン性ポリマーである実施形態において、活性剤はアニオン性活性剤である。イオン性ポリマーが双性イオン性ポリマーである実施形態において、活性剤は、アニオン性活性剤またはカチオン性活性剤、あるいはその両方であってもよい。1つまたは複数の具体的な実施形態において、活性剤は、アニオン性活性剤およびカチオン性活性剤の1種または複数種から選択される。いくつかの実施形態において、カチオン性活性剤を、酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、スルファジアジン銀、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、第4級アンモニウム含有殺生物剤、グアニジン含有殺生物剤、カチオン性抗菌ポリマー、抗菌ペプチドまたは抗菌ペプチド模倣物、防汚リン脂質または防汚リン脂質模倣物、およびこれらの誘導体の1種または複数種から選択してもよい。いくつかの実施形態において、アニオン性活性剤を、クロキサシリン塩、セフォキシチン塩、セファゾリン塩、ペニシリン塩、ヘパリン塩、およびそれらの誘導体の1種または複数種から選択してもよい。さらに、当業者は、低分子または高分子のいずれのアニオン性および/またはカチオン性の殺生物剤および抗凝固剤も、イオン性ポリマーのカチオン性および/またはアニオン性官能基との結合に使用できることを認識するであろう。
【0030】
1つまたは複数の実施形態において、医療器具は、4時間から90日間の範囲内で活性剤を放出するか、当該範囲内で活性剤を放出するように構成される。いくつかの実施形態では、医療器具は、少なくとも4時間、少なくとも8時間、少なくとも12時間、少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも120時間、または少なくとも144時間の期間にわたって活性剤を放出するか、または当該期間にわたって活性剤を放出するように構成される。いくつかの実施形態では、医療器具は、少なくとも3日間、少なくとも7日間、少なくとも14日間、少なくとも21日間、少なくとも30日間、少なくとも60日間、または少なくとも90日間の期間にわたって活性剤を放出するか、または当該期間にわたって活性剤を放出するように構成される。
【0031】
1つまたは複数の実施形態において、医療器具は、任意選択的な非イオン性ベースポリマーを含む。いくつかの実施形態において、非イオン性ベースポリマーは医療器具に含まれる。他の実施形態では、非イオン性ベースポリマーは医療器具に含まれない。非イオン性ベースポリマーは、当業者に既知の任意の適切な非イオン性ポリマーを含んでもよい。いくつかの実施形態において、非イオン性ベースポリマーは、ポリウレタン、コポリエステル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル系コポリマー、アセタールコポリマー、セルロースアセテートプロピオネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー、耐衝撃性ポリスチレン、熱可塑性エラストマー、合成ゴム、およびシリコーンエラストマーの1種または複数種を含む。
【0032】
1つまたは複数の実施形態において、イオン結合したイオン性ポリマーと活性剤とを含むコーティングを、医療器具本体にコーティングする。いくつかの実施形態において、コーティングは、1種または複数種の活性剤にイオン結合した1種または複数種のイオン性ポリマーを含む。また、いくつかの実施形態では、コーティングは、1種または複数種の非イオン性ベースポリマーを含む。いくつかの実施形態において、コーティングは、イオン性ポリマーと活性剤とを溶媒系中で共溶解させて、イオン性ポリマーと活性剤との間にイオン結合を形成することによって形成される。いくつかの実施形態において、溶媒系を最適化して、コーティングプロセス中の医療器具の損傷を防止する。いくつかの実施形態では、溶媒系を最適化して、医療器具のコーティング後の溶媒のフラッシュオフにより、制御されたコーティング厚さを有する最終表面コーティング層を得る。
【0033】
コーティングのための溶媒系は、当業者に公知の既知の適切な溶媒系であってもよい。1つまたは複数の実施形態において、溶媒系はイオン性ポリマーおよび活性剤の両方を溶解させる。1つまたは複数の実施形態において、溶媒系は、コーティングプロセス中に医療器具基材に損傷を与えない。1つまたは複数の実施形態において、溶媒系は、コーティング後にフラッシュオフすることができる。1つまたは複数の実施形態において、溶媒系は、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、アセトン、ギ酸エチル、ギ酸メチル、1,3-ジオキソラン、酢酸エチル、2-プロパノール、エタノール、メタノール、またはそれらの混合物を含む。
【0034】
いくつかの実施形態において、少なくとも1種のイオン性ポリマーを含むポリマー担体を、溶媒系中で少なくとも1種の活性剤と共溶解させて、イオン性ポリマーと活性剤との間にイオン結合を形成することができる。いくつかの実施形態において、少なくとも1種のイオン性ポリマーを含むポリマー担体を、溶媒系中で1種または複数種の活性剤と共溶解させて、イオン性ポリマーと活性剤との間にイオン結合を形成することができる。その後、コーティングを医療器具または医療器具部品の表面に塗布することができる。
【0035】
いくつかの実施形態において、器具本体は1種または複数種のイオン性ポリマーを含み、器具本体は1種または複数種の活性剤を浸染させられる。また、いくつかの実施形態において、器具本体は、1種または複数種の非イオン性ベースポリマーを含んでもよい。いくつかの実施形態では、浸染(imbibing)により、イオン結合に加えて拡散による活性剤の医療器具または医療器具構成要素への担持(ローディング、loading)をもたらしてもよい。
【0036】
いくつかの実施形態において、医療器具は配合混合物を含む。いくつかの実施形態では、配合混合物は、イオン性ポリマーおよび活性剤を含む。いくつかの実施形態では、配合混合物は、1種または複数種の活性剤にイオン結合した1種または複数種のイオン性ポリマーを含む。いくつかの実施形態において、配合混合物は、1種または複数種の非イオン性ベースポリマーをさらに含む。1つまたは複数の実施形態において、配合混合物を成形または押出成形して、医療器具または医療器具の構成要素を得ることができる。
【0037】
1つまたは複数の実施形態において、医療器具は少なくとも1種の添加剤(excipient)を含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1種の添加剤は、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、衝撃改良剤、補強剤、難燃剤、離型剤、発泡剤、着色剤、放射線不透過性担持剤、潤滑剤などの1種または複数種から選択される。いくつかの実施形態では、医療器具は、0.01~50%w/wの範囲の量の添加剤を含んでもよい。
【0038】
本開示の別の態様は、医療器具の製造方法に関する。1つまたは複数の実施形態において、本方法は、イオン性ポリマーと、活性剤と、任意選択的に非イオン性ベースポリマーとをイオン結合させることを含む。イオン結合は、当該技術分野で知られている任意の適切な技術によって達成することができる。適切な技術の非限定的な例としては、バルク混合技術および浸染技術が挙げられる。いくつかの実施形態において、バルク混合技術は、溶媒混合技術および熱コンパウンド技術を含む。
【0039】
1つまたは複数の実施形態において、器具本体はイオン性ポリマーを含み、イオン結合は医療器具本体に活性剤を浸染させることを含む。また、いくつかの実施形態では、器具本体は、非イオン性ベースポリマーを含む。いくつかの実施形態では、器具本体は添加剤も含む。1つまたは複数の実施形態において、器具本体は、0.01%w/w以上、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、25%w/w以上、50%w/w以上、75%w/w以上、または100%w/w以上の量のイオン性ポリマーを含む。1つまたは複数の実施形態において、器具本体は、100%w/w以下、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、6.0%w/w以下、4%w/w以下、2%w/w以下、または1.0%w/w以下の量のイオン性ポリマーを含む。1つまたは複数の実施形態において、器具本体は、0.01%w/w以上から100%w/w以下の量、およびその間の全ての値およびサブレンジ(0.5%w/w以上から75%w/w以下、1%w/w以上から50%w/w以下を含む)の量のイオン性ポリマーを含み、前述の全ての値およびサブレンジは、0.01%w/w以上、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、または10%w/w以上から、100%w/w以下、75%w/w以下、50%w/w以下、または25%w/w以下までの範囲を含む。いくつかの実施形態において、器具本体は、活性剤の結合のためにイオン性ポリマーを含み、有利なことには、装置のプライミング(たとえば、化学処理またはプラズマ処理)を必要としない。したがって、いくつかの実施形態において、器具本体がイオン性官能基を含む場合、医療器具の製造プロセスが簡略化され、変換コストが著しく低減される。本明細書で使用される場合、「変換コスト」という用語は、活性剤を器具に担持するのに必要なコストを指す。いくつかの実施形態において、有利なことには、浸染は、活性剤が医療器具の表面および器具本体内にイオン結合している医療器具を提供する。1つまたは複数の実施形態において、浸染は、装置からの活性剤の連続的かつ長期的な供給を提供する。1つまたは複数の実施形態において、イオン性ポリマーを含む医療器具は、浸染処理を行わずに、血栓形成および/または細菌バイオフィルムを受動的に減少させるのに有効である。1つまたは複数の実施形態において、イオン性ポリマーの血栓形成および/または細菌バイオフィルムの受動的減少は、細菌、タンパク質、および血液成分のイオン性反発による。
【0040】
いくつかの実施形態において、本方法は、器具本体を予備膨潤させる工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、本方法は、イオン性ポリマーを脱イオン化する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、イオン性ポリマーと活性剤との間のイオン結合は、浸染技術を用いて形成される。したがって、いくつかの実施形態において、浸染法は、活性剤の溶液中で器具本体を浸染させる前に、イオン性ポリマーを脱イオン化する工程を含む。いくつかの実施形態において、浸染技術は、イオン性ポリマーを脱イオン化する前に器具本体を予備膨潤させ、活性剤の溶液中で器具本体を浸染させる工程を含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、浸染法のプロセスパラメータを調整して、活性剤の担持および溶出を最適化することができる。したがって、いくつかの実施形態において、プロセスパラメータは、プロセス温度、プロセス時間、活性剤の濃度、溶媒系の選択、またはそれらの組み合わせを含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、イオン性ポリマーおよび活性剤をイオン結合させる工程は、活性剤を含むポリマー調合物を調製することを含む。いくつかの実施形態において、ポリマー調合物は、イオン性ポリマーおよび活性剤を含む。いくつかの実施形態において、ポリマー調合物は、非イオン性ベースポリマーをさらに含む。1つまたは複数の実施形態において、ポリマー調合物は、0.01%w/w以上、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、25%w/w以上、50%w/w以上、75%w/w以上、または99.9%w/w以上の量のイオン性ポリマーを含む。1つまたは複数の実施形態において、ポリマー調合物は、99.9%w/w以下、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、6.0%w/w以下、4%w/w以下、2%w/w以下、または1.0%w/w以下の量のイオン性ポリマーを含む。1つまたは複数の実施形態において、ポリマー調合物は、0.01%w/w以上から99.9%w/w以下の量、およびその間の全ての値およびサブレンジ(0.5%w/w以上から75%w/w以下、1%w/w以上から50%w/w以下を含む)の量のイオン性ポリマーを含み、前述の全ての値およびサブレンジは、0.01%w/w以上、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、または10%w/w以上から、99.9%w/w以下、75%w/w以下、50%w/w以下、または25%w/w以下までの範囲を含む。1つまたは複数の実施形態において、ポリマー調合物は、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、25%w/w以上、50%w/w以上、または75%w/w以上の量の活性剤を含む。1つまたは複数の実施形態において、ポリマー調合物は、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、6.0%w/w以下、4%w/w以下、2%w/w以下、または1.0%w/w以下の量の活性剤を含む。1つまたは複数の実施形態において、ポリマー調合物は、0.01%w/w以上から75%w/w以下の量、およびその間の全ての値およびサブレンジ(0.5%w/w以上から50%w/w以下、1%w/w以上から25%w/w以下を含む)の量の活性剤を含み、前述の全ての値およびサブレンジは、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、または5%w/w以上から、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、または6.0%w/w以下までの範囲を含む。
【0043】
1つまたは複数の実施形態において、ポリマー調合物を調製する工程は、イオン性ポリマーと、活性剤と、任意選択的に非イオン性ベースポリマーとを配合し、イオン結合した配合混合物を形成する工程を含んでもよい。1つまたは複数の実施形態において、配合混合物は、0.01%w/w以上、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、25%w/w以上、50%w/w以上、75%w/w以上、または99.9%w/w以上の量のイオン性ポリマーを含む。1つまたは複数の実施形態において、配合混合物は、99.9%w/w以下、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、6.0%w/w以下、4%w/w以下、2%w/w以下、または1.0%w/w以下の量のイオン性ポリマーを含む。1つまたは複数の実施形態において、配合混合物は、0.01%w/w以上から99.9%w/w以下の量、およびその間の全ての値およびサブレンジ(0.5%w/w以上から75%w/w以下、1%w/w以上から50%w/w以下を含む)の量のイオン性ポリマーを含み、前述の全ての値およびサブレンジは、0.01%w/w以上、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、または10%w/w以上から、99.9%w/w以下、75%w/w以下、50%w/w以下、または25%w/w以下までの範囲を含む。1つまたは複数の実施形態において、配合混合物は、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、25%w/w以上、50%w/w以上、または75%w/w以上の量の活性剤を含む。1つまたは複数の実施形態において、配合混合物は、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、6.0%w/w以下、4%w/w以下、2%w/w以下、または1.0%w/w以下の量の活性剤を含む。1つまたは複数の実施形態において、配合混合物は、0.01%w/w以上から75%w/w以下の量、およびその間の全ての値およびサブレンジ(0.5%w/w以上から50%w/w以下、1%w/w以上から25%w/w以下を含む)の量の活性剤を含み、前述の全ての値およびサブレンジは、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、または5%w/w以上から、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、または6.0%w/w以下までの範囲を含む。有利なことには、いくつかの実施形態において、配合により、活性剤が医療器具の表面だけでなく、器具本体内でもイオン結合している医療器具が提供され、その結果、活性剤は機器から連続的かつ長期的に供給される。
【0044】
いくつかの実施形態において、ポリマー調合物の配合は、二軸スクリューコンパウンダーによって処理される。したがって、いくつかの実施形態において、重量式マルチフィーダーシステムを用いて、イオン性ポリマー、活性剤、非イオン性ベースポリマー、および添加剤の1種または複数種の比率を制御および調整することができる。混合物(複数の加熱ゾーンおよび混合ゾーンを通って搬送される)を、ダイ、クエンチタンクを連続的に通過させることができ、引き続いてプラー=ペレタイザー(puller-peletizer)によって通常のサイズのペレットに切断される。配合ポリマー調合物のペレットは、医療器具または医療器具の部品を形成するための成形および/または押出しに使用することができる。いくつかの実施形態において、二軸スクリューコンパウンダーのプロセス条件を最適化して、ポリマー調合物中の活性剤の均一混合を達成する。いくつかの実施形態において、均一混合は、医療器具からの活性剤の望ましい溶出プロファイルと相関する。いくつかの実施形態において、二軸スクリューコンパウンダーのプロセスパラメータは、ゾーン温度、スクリュー設計、およびスクリュー回転数(RPM)を含む。いくつかの実施形態において、本方法は、配合ポリマー調合物を医療器具に成形および/または押出する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、医療器具は、射出成形および/または押出成形技術によって成形および/または押出成形される。
【0045】
1つまたは複数の実施形態において、ポリマー調合物を調製する工程は、イオン性ポリマーと、活性剤と、任意選択的な非イオン性ベースポリマーとを溶媒混合して、イオン結合コーティング調合物を形成する工程を含んでもよい。1つまたは複数の実施形態において、コーティング調合物は、0.01%w/w以上、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、25%w/w以上、50%w/w以上、75%w/w以上、または99.9%w/w以上の量のイオン性ポリマーを含む。1つまたは複数の実施形態において、コーティング調合物は、99.9%w/w以下、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、6.0%w/w以下、4%w/w以下、2%w/w以下、または1.0%w/w以下の量のイオン性ポリマーを含む。1つまたは複数の実施形態において、コーティング調合物は、0.01%w/w以上から99.9%w/w以下の量、およびその間の全ての値およびサブレンジ(0.5%w/w以上から75%w/w以下、1%w/w以上から50%w/w以下を含む)の量のイオン性ポリマーを含み、前述の全ての値およびサブレンジは、0.01%w/w以上、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、または25%w/w以上から、99.9%w/w以下、75%w/w以下、または50%w/w以下までの範囲を含む。1つまたは複数の実施形態において、コーティング調合物は、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、25%w/w以上、50%w/w以上、または75%w/w以上の量の活性剤を含む。1つまたは複数の実施形態において、コーティング調合物は、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、6.0%w/w以下、4%w/w以下、2%w/w以下、または1.0%w/w以下の量の活性剤を含む。1つまたは複数の実施形態において、コーティング調合物は、0.01%w/w以上から75%w/w以下の量、およびその間の全ての値およびサブレンジ(0.5%w/w以上から50%w/w以下、1%w/w以上から25%w/w以下を含む)の量の活性剤を含み、前述の全ての値およびサブレンジは、0.1%w/w以上、0.5%w/w以上、1%w/w以上、1.5%w/w以上、2%w/w以上、3%w/w以上、4%w/w以上、または5%w/w以上から、75%w/w以下、50%w/w以下、25%w/w以下、10%w/w以下、8.0%w/w以下、または6.0%w/w以下までの範囲を含む。いくつかの実施形態において、本方法は、コーティング調合物を医療器具または医療器具部品の表面に塗布する工程をさらに含む。有利なことには、いくつかの実施形態において、このようなイオン結合コーティング調合物は、医療器具の製造工程を簡略化し、変換コストを大幅に低減する。有利なことには、いくつかの実施形態において、コーティングは、従来の医療器具の表面への活性剤の担持を可能にする。
【0046】
いくつかの実施形態において、コーティング製剤法のプロセスパラメータを調整して、活性剤の担持および溶出を最適化してもよい。したがって、いくつかの実施形態において、プロセスパラメータは、プロセス温度、プロセス時間、成分濃度、溶媒系の選択、またはそれらの組み合わせを含む。
【実施例
【0047】
(実施例1)
(サンプルの調製)
第1表に、本研究で使用した非イオン性(対照)ポリマーおよびイオン性ポリマーの一覧を示す。リボンシートおよびワンルーメンチューブの両方を作製し、試験した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
(実施例2)
以下の手順を用いて、試料C1、C2、R1、R2、R7、R8、T4(第1表に記載)を試験した。
【0051】
(試料の浸染)
各試料(約5cmのリボンシートまたは約5cmの長さのチューブ)を、室温において30分間にわたって50/50v/v%のメタノール/ジオキソラン溶液(C1、C2、R1、R7、R8、T4)または100%メタノール(R2)に浸漬して、予備膨潤させた。次いで、イオン性官能基の脱プロトン化のために、各試料を、35℃において120分間にわたって50mMトリス塩基緩衝液(メタノール/水の90/10v/v%)に浸漬した。次いで、各試料を、室温において1分間にわたって10mLのメタノールに浸漬し、トリス塩基緩衝液を洗い流した。次いで、各試料を10mLの担持溶液に浸漬した。担持溶液は、活性剤のメタノール/水(30/70v/v%)溶液を含み、37℃において24時間にわたって使用した。活性剤は、酢酸クロルヘキシジン(100mM)/クエン酸ナトリウム(1mM)であった。この担持工程の間、各試料をオービタルシェーカー上に配置した。担持工程の後、各試料を、室温において1分間にわたって、10mLのメタノールに浸漬し、担持溶液を洗い流した。洗浄後、各試料を、室温において終夜にわたってドラフトチャンバー内で乾燥させ、残留メタノール溶媒をフラッシュオフした。
【0052】
(ヒト血清中のクロルヘキシジン溶出)
前述のようにクロルヘキシジンを添加した各試料を、37℃において3時間から20日の時間間隔で、ヒト血清/リン酸緩衝生理食塩水(60/40v/v%)を含む溶出媒体に浸漬した(150RPMのオービタルシェーカー上)。それぞれの指定された時間間隔において、クロルヘキシジン溶出分析および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定量のために、以前の溶出媒体を取り出し、次の時間間隔には新鮮な溶出媒体を使用した。クロルヘキシジン溶出量を、試料の単位面積当たりの溶出したクロルヘキシジンの質量として定義する(単位:μg/cm)。
【0053】
(クロルヘキシジン溶出後抽出)
溶出試験後、37℃において24時間にわたってトリフルオロ酢酸/アセトニトリル/水(0.3/70/30v/v/v%)を含む抽出媒体を用いて、各試料中の残存クロルヘキシジンを完全に抽出した(150RPMのオービタルシェーカー上)。続いて、HPLCにより各試料中の残存クロルヘキシジンを分析および定量した。クロルヘキシジン残存量を、試料の単位面積当たりの残存クロルヘキシジンの質量と定義する(単位:μg/cm)。
【0054】
(クロルヘキシジンの担持量の計算)
総クロルヘキシジン溶出量(全溶出時点の合計)およびクロルヘキシジン残存量(溶出後抽出による)を加算することにより、クロルヘキシジン初期担持量を算出できる。
【0055】
第2表は、前述の浸染法による、イオン性官能基を持たない対照ポリマーおよびイオン性ポリマーのクロルヘキシジン初期担持量のデータ(3回の反復試験の平均値)を示す。
【0056】
【表3】
【0057】
第2表から、イオン性官能基を持たない対照ポリマー(C1およびC2)の両方ともに、浸染後に低いクロルヘキシジンの担持量(約50μg/cm)を示すことが分かる。これは、浸染中に、非結合の遊離クロルヘキシジンがポリマーマトリックス内に捕捉されたためである。しかしながら、イオン性ポリマー(R1、R2、R7、R8およびT4)は、アニオン性官能基とクロルヘキシジンとのイオン相互作用により、浸染後にはるかに高いクロルヘキシジンの担持量を示す。
【0058】
第3表は、イオン性官能基を持たない対照ポリマーとイオン性ポリマーの両方について、ヒト血清中でのクロルヘキシジン溶出量および残存量のデータ(3回の反復試験の平均値)を示す。
【0059】
【表4】
【0060】
図2は、イオン性官能基を持たない対照ポリマーおよびイオン性ポリマーの両方について、一定期間にわたるヒト血清中のクロルヘキシジン溶出量積算値を示す。
【0061】
第3表および図2は、イオン性官能基を持たない対照ポリマーおよびイオン性ポリマーのクロルヘキシジン溶出プロファイルを示す。イオン性官能基を持たない対照ポリマー(C1およびC2)では、担持されたクロルヘキシジンの大部分が最初の24時間で溶出し、第1日以降は最小量のクロルヘキシジンがポリマーマトリックス内に残存した。このように、ポリマーは制御された放出を示さなかった。イオン性ポリマー(R1、R2、R7、R8およびT4)については、最初の24時間においては、担持されたクロルヘキシジンのごく一部しか溶出しなかった。これは、ポリマーマトリックス内に捕捉された非結合性および/または弱結合性のクロルヘキシジンであると推定される。残余のクロルヘキシジンはポリマーマトリックス内でイオン結合しており、ゆっくりと放出された。
【0062】
(実施例3)
以下の手順にしたがって、試料R1、R2、R4、R7、R8およびT4(第1表に記載)を試験した。実施例2と異なり、酢酸クロルヘキシジン(100mM)/クエン酸ナトリウム(1mM)のメタノール/水(30/70v/v%)溶液に代えて、酢酸クロルヘキシジン(400mM)のメタノール溶液を浸染液として使用した。
【0063】
(試料の浸染)
各試料(約5cmのリボンシートまたは約5cmの長さのチューブ)を、室温において30分間にわたって50/50v/v%のメタノール/ジオキソラン溶液(R1、R7、R8、T4)または100%メタノール(R2、R4)に浸漬して、予備膨潤させた。次いで、イオン性官能基の脱プロトン化のために、各試料を、35℃において120分間にわたって50mMトリス塩基緩衝液(メタノール/水の90/10v/v%)に浸漬した。次いで、各試料を、室温において1分間にわたって10mLのメタノールに浸漬し、トリス塩基緩衝液を洗い流した。次いで、各試料を10mLの担持溶液に浸漬した。担持溶液は、酢酸クロルヘキシジン(400mM)のメタノール溶液を含み、37℃において24時間にわたって使用した。この担持工程の間、各試料をオービタルシェーカー上に配置した。担持工程の後、各試料を、室温において1分間にわたって、10mLのメタノールに浸漬し、担持溶液を洗い流した。洗浄後、各試料を、室温において終夜にわたってドラフトチャンバー内で乾燥させ、残留メタノール溶媒をフラッシュオフした。
【0064】
(ヒト血清中のクロルヘキシジン溶出)
前述のようにクロルヘキシジンを添加した各試料を、37℃において3時間から21日の時間間隔で、ヒト血清/リン酸緩衝生理食塩水(60/40v/v%)を含む溶出媒体に浸漬した(150RPMのオービタルシェーカー上)。それぞれの指定された時間間隔において、クロルヘキシジン溶出分析および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定量のために、以前の溶出媒体を取り出し、次の時間間隔には新鮮な溶出媒体を使用した。クロルヘキシジン溶出量を、試料の単位面積当たりの溶出したクロルヘキシジンの質量として定義する(単位:μg/cm)。
【0065】
(クロルヘキシジン溶出後抽出)
溶出試験後、37℃において24時間にわたってトリフルオロ酢酸/アセトニトリル/水(0.3/70/30v/v/v%)を含む抽出媒体を用いて、各試料中の残存クロルヘキシジンを完全に抽出した(150RPMのオービタルシェーカー上)。続いて、HPLCにより各試料中の残存クロルヘキシジンを分析および定量した。クロルヘキシジン残存量を、試料の単位面積当たりの残存クロルヘキシジンの質量と定義する(単位:μg/cm)。
【0066】
(クロルヘキシジンの担持量の計算)
総クロルヘキシジン溶出量(全溶出時点の合計)およびクロルヘキシジン残存量(溶出後抽出による)を加算することにより、クロルヘキシジン初期担持量を算出できる。
【0067】
第4表は、前述の浸染法によるイオン性ポリマーのクロルヘキシジン初期担持量のデータ(3回の反復試験の平均値)を示す。
【0068】
【表5】
【0069】
第2表と比較して、第4表は、酢酸クロルヘキシジン(100mM)/クエン酸ナトリウム(1mM)のメタノール/水(30/70v/v%)溶液に代えて、酢酸クロルヘキシジン(400mM)のメタノール溶液を浸染液として用いた場合、ペルフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体(R8およびT4)のクロルヘキシジンの担持量は大きく変化しないことを示す。しかしながら、カルボキシル化ポリウレタン(R1およびR2)およびポリ(エチレン-メタクリル酸)コポリマー(R7)のクロルヘキシジンの担持量は著しく増加した。
【0070】
第5表は、イオン性ポリマーの、ヒト血清中でのクロルヘキシジン溶出量および残存量のデータ(3回の反復試験の平均値)を示す。
【0071】
【表6】
【0072】
図3は、イオン性ポリマーについて、一定期間にわたるヒト血清中のクロルヘキシジン溶出量積算値を示す。
【0073】
第5表および図3は、イオン性ポリマーのクロルヘキシジン溶出プロファイルを示す。データは、酢酸クロルヘキシジン(100mM)/クエン酸ナトリウム(1mM)のメタノール/水(30/70v/v%)溶液に代えて、酢酸クロルヘキシジン(400mM)のメタノール溶液を浸染液として使用した場合、ペルフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体(R8およびT4)のクロルヘキシジン溶出量は大きく変化しないが、カルボキシル化ポリウレタン(R1およびR2)のクロルヘキシジン溶出量は著しく改善したことを示す。
【0074】
(実施例4)
以下の手順に従って、試料C3、R1、R2、R3、R4、R5、R6、T1、T2およびT3(第1表に記載)を試験した。実施例3と異なり、予備膨潤および脱プロトン化工程を適用せず、試料を酢酸クロルヘキシジン(400mM)のメタノール溶液に直接浸染した。
【0075】
(試料の浸染)
各試料(約5cmのリボンシートまたは約5cmの長さのチューブ)を、10mLの担持溶液に浸漬した。担持溶液は、酢酸クロルヘキシジン(400mM)のメタノール溶液を含み、37℃において24時間にわたって使用した。この担持工程の間、各試料をオービタルシェーカー上に配置した。担持工程の後、各試料を、室温において1分間にわたって、10mLのメタノールに浸漬し、担持溶液を洗い流した。洗浄後、各試料を、室温において終夜にわたってドラフトチャンバー内で乾燥させ、残留メタノール溶媒をフラッシュオフした。
【0076】
(ヒト(またはウシ)血清中のクロルヘキシジン溶出)
前述のようにクロルヘキシジンを添加した各試料を、37℃において3時間から60日の時間間隔で、ヒト(またはウシ)血清/リン酸緩衝生理食塩水(60/40v/v%)を含む溶出媒体に浸漬した(150RPMのオービタルシェーカー上)。それぞれの指定された時間間隔において、クロルヘキシジン溶出分析および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定量のために、以前の溶出媒体を取り出し、次の時間間隔には新鮮な溶出媒体を使用した。クロルヘキシジン溶出量を、試料の単位面積当たりの溶出したクロルヘキシジンの質量として定義する(単位:μg/cm)。
【0077】
(クロルヘキシジン溶出後抽出)
溶出試験後、37℃において24時間にわたってトリフルオロ酢酸/アセトニトリル/水(0.3/70/30v/v/v%)を含む抽出媒体を用いて、各試料中の残存クロルヘキシジンを完全に抽出した(150RPMのオービタルシェーカー上)。続いて、HPLCにより各試料中の残存クロルヘキシジンを分析および定量した。クロルヘキシジン残存量を、試料の単位面積当たりの残存クロルヘキシジンの質量と定義する(単位:μg/cm)。
【0078】
(クロルヘキシジンの担持量の計算)
総クロルヘキシジン溶出量(全溶出時点の合計)およびクロルヘキシジン残存量(溶出後抽出による)を加算することにより、クロルヘキシジン初期担持量を算出できる。
【0079】
第6表は、前述の浸染法によるイオン性官能基を持たない対照ポリマーおよびイオン性ポリマーのクロルヘキシジン初期担持量のデータ(3回の反復試験の平均値)を示す。
【0080】
【表7】
【0081】
第2表の観察と同様に、第6表は、イオン性官能基を持たない対照ポリマー(C3)は、浸染後に低いクロルヘキシジンの担持量を示したことを示す。これは非結合の遊離クロルヘキシジンが浸染中にポリマーマトリックス内に捕捉されたものである。しかしながら、イオン性ポリマー(R1、R2、R3、R4、R5、R6、T1、T2、T3)は、アニオン性官能基とクロルヘキシジンとのイオン性相互作用により、浸染後にはるかに高いクロルヘキシジンの担持量を示した。これらのイオン性ポリマーは全てポリウレタンをベースとする材料であるため、概して、アニオン含量が高いほど、クロルヘキシジンの担持量が大きくなった。また、第6表は、予備膨潤および脱プロトン化工程を用いなくても、非常に望ましいクロルヘキシジンの担持量が、1段階の浸染工程で達成されたことを示している。このように、浸染工程は大幅に簡略化できる。加えて、第6表は、同一のイオン性ポリマーに関して、リボンシート構成(すなわち、R1、R4およびR6)に比べて、チューブ構成(すなわち、T1、T2およびT3)がより低いクロルヘキシジン担持量を示したことを示す。これは、チューブ対リボンシートでは、リボンシートの厚さに比較してチューブの壁が薄く、試料の単位面積あたりの材料の質量およびイオン含量が少ないためである。
【0082】
第7表は、イオン性官能基を持たない対照ポリマーおよびイオン性ポリマーの両方について、ヒト(またはウシ)血清中でのクロルヘキシジン溶出量および残存量のデータ(3回の反復試験の平均値)を示す。
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
図4は、イオン性官能基を持たない対照ポリマーおよびイオン性ポリマーの両方について、一定期間にわたるヒト(またはウシ)血清中のクロルヘキシジン溶出量積算値を示す。
【0086】
第7表および図4は、イオン性官能基を持たない対照ポリマーおよびイオン性ポリマーの両方のクロルヘキシジン溶出プロファイルを示す。以前の観察と同様に、イオン性官能基を持たない対照ポリマー(C3)は、クロルヘキシジンの担持量が少ないために制御された放出を示さなかった。しかしながら、イオン性ポリマー(R1、R2、R3、R4、R5、R6、T1、T2、T3)は、第60日まで非常に望ましい放出制御プロファイルを示した。これらのイオン性ポリマーは全てポリウレタンをベースとする材料であるため、概して、アニオン含量が高いほど、クロルヘキシジンの担持量が大きくなり、クロルヘキシジンの1日溶出量も大きくなった。また、データは、予備膨潤および脱プロトン化工程を用いたくても、非常に望ましく制御されたクロルヘキシジンの放出プロファイルが、1段階の浸染工程で達成されたことを示している。このように、浸染工程は大幅に簡略化できる。加えて、同一のイオン性ポリマーに関して、リボンシート構成(すなわち、R1、R4およびR6)に比べてチューブ構成(すなわち、T1、T2およびT3)がより低いクロルヘキシジン担持量を示した。これは、チューブ対リボンシートでは、リボンシートの厚さに比較してチューブの壁が薄く、試料の単位面積あたりの材料の質量、イオン含量およびクロルヘキシジンの担持量が少ないためである。
【0087】
(実施例5)
(抗菌効果)
試料C1(第1表に記載)を対照とした。実施例4の手順にしたがって、クロルヘキシジンの担持のために試料R1、R2、R3、R4およびR6(第1表に記載)を浸染した。
【0088】
(試料の浸染)
各試料クーポン(R1、R2、R3、R4、およびR6、1.5cm×1.5cm)を、5mLの担持溶液に浸漬した。担持溶液は、酢酸クロルヘキシジン(400mM)のメタノール溶液を含み、37℃において24時間にわたって使用した。この担持工程の間、各試料をオービタルシェーカー上に配置した。担持工程の後、各試料を、室温において1分間にわたって、5mLのメタノールに浸漬し、担持溶液を洗い流した。洗浄後、各試料を、室温において終夜にわたってドラフトチャンバー内で乾燥させ、残留メタノール溶媒をフラッシュオフした。
【0089】
(抗菌性試験)
カンジダ・アルビカンス(酵母)、コアグラーゼ陰性表皮ブドウ球菌(グラム陽性)、クレブシエラ・ニューモニエ(グラム陰性)に対する浸染クーポン(R1、R2、R3、R4、R6)の抗菌効果を、1、3、7、14日間の前処理の後に試験した。本試験法は、試料クーポン(対照クーポンと浸染された試験クーポンの両方)上およびその周辺の微生物コロニー形成を定量的に測定することができる。試料サンプルを試験装置に組込み、試験前にエチレンオキシドで滅菌した。
【0090】
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の60%ヒト血清(HS)を用い、定常攪拌下で、37±2℃において、14日間にわたって、試料サンプルの前処理を行った。前処理溶液は、毎日、浸染で滅菌されたPBS中60%HSに交換した。
【0091】
HS中での1日、3日、7日、14日間の前処理を行った後、試料クーポン(対照クーポンと浸染された試験クーポンの両方)を、以下の3種の微生物の攻撃を行った:
(i) カンジダ・アルビカンス(酵母、約1.0×10CFU/器具);
(ii) バターフィールドのリン酸緩衝液中20%普通ブイヨン(NB)中の、コアグラーゼ陰性表皮ブドウ球菌(グラム陽性、約1.0×10CFU/器具);および
(iii) バターフィールドのリン酸緩衝液中10%普通ブイヨン(NB)中の、クレブシエラ・ニューモニエ(グラム陰性、約1.0×10CFU/器具)。
攻撃は、37±2℃において、24時間にわたって、定常攪拌下で培養した。検査は、各時点における各微生物の攻撃について、3回の反復を行った。
【0092】
(浮遊菌の回収)
微生物攻撃の24時間後、攻撃媒体をD/E中和ブロスで中和し、連続希釈および調製したトリプティックソイ寒天培地(TSA)プレート上での平板培養により、生存コロニー形成単位(CFU)を定量した。プレートを37±2℃で培養し、約16~24時間後に計数した。データを、回収された総CFU/器具として評価した。log10減少値を、対照試料(C1)の計数値と比較した。
【0093】
(バイオフィルムの回収)
微生物攻撃の24時間後、クーポン試料を滅菌生理食塩水で洗浄し、D/E中和ブロス内に配置した。続いて、クーポン試料を超音波処理し、クーポンに付着したバイオフィルムを回収した。回収したバイオフィルム懸濁液を、連続希釈および調製したトリプティックソイ寒天培地(TSA)プレート上での平板培養により定量した。プレートを37±2℃で培養し、約16~24時間後に計数した。データを、回収された総CFU/器具として評価した。log10減少値を、対照試料(C1)の計数値と比較した。
Log10CFU/器具=Log10(CFU/器具+1) 式(1)
Log10減少値=(Log10CFU/器具_対照)-(Log10CFU/器具_試験) 式(2)
%死滅=(((CFU/器具_対照)-(CFU/器具_対照))÷(CFU/器具_対照))×100 式(3)
【0094】
第8表は、HSによる前処理後1日、3日、7日、14日における、3種の微生物による浮遊菌およびバイオフィルムの減少に関する抗菌試験結果の要約である。
【0095】
【表10】
【0096】
【表11】
【0097】
第8表は、1、3、および7日間のHS前処理後において、これら全ての浸染されたイオン性ポリマー(R1、R2、R3、R4、R6)が、第1日、第3日、第7日における望ましいクロルヘキシジン溶出により、3種の微生物の全てに対して非常に望ましい抗菌性能(浮遊菌およびバイオフィルムの両方の減少)を示したことを示している。14日間のHS前処理後も、高イオン含量の浸染試料(R2、R4およびR6)は、クロルヘキシジンの担持量が大きいだけでなく、第14日にも引き続き高いクロルヘキシジン溶出量を示すため、3種の微生物の全てに対して非常に望ましい抗菌性能(浮遊菌およびバイオフィルムの両方の減少)を示した。低イオン含量の浸染試料(R1およびR3)は、表皮ブドウ球菌に対しては依然として望ましい抗菌性能(浮遊菌およびバイオフィルムの両方の減少)を示した。しかしながら、低イオン含量の浸染試料(R1およびR3)は、カンジダ・アルビカンスおよび/またはクレブシエラ・ニューモニエに対しては、クロルヘキシジンの担持量が相対的に低く、第14日のクロルヘキシジン溶出量も相対的に低いため、抗菌効果が低下し始めた。全体として、この結果は、本技術は長期の抗菌用途(たとえば、留置カテーテル)に非常に有効であることを示す。
【0098】
本明細書全体を通して、「1つの実施形態」、「特定の実施形態」、「1つまたは複数の実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、材料、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて種々の箇所で「1つまたは複数の実施形態において」、「特定の実施形態において」、「1つの実施形態において」、または「ある実施形態において」といった表現が現れるのは、必ずしも本発明の同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、材料、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0099】
本明細書においては特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これらの実施形態は、本発明の原理および応用を単に例示するものであることを理解されたい。本発明の真意および範囲から逸脱することなく、本発明の方法および装置に種々の修正および変形を加えることができることは、当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内にある修正および変形を含むことが意図される。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】