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2024-541616造血幹細胞を維持する、および拡大増殖させるための、方法および組成物
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  • -造血幹細胞を維持する、および拡大増殖させるための、方法および組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】造血幹細胞を維持する、および拡大増殖させるための、方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20241031BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20241031BHJP
   C07K 14/435 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
C12N5/0789
C12N1/00 G
C07K14/435
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024532440
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 US2022051195
(87)【国際公開番号】W WO2023101943
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】63/284,360
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523373821
【氏名又は名称】トレイルヘッド バイオシステムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ゴームズ ウェルチー アンゼリカ エム.
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065BB10
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB23
4B065CA44
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA61
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA72
(57)【要約】
化学的に規定された培養培地を用いてヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を維持するおよび拡大増殖させる方法であって、該培養培地は、わずか6日間でのHSCの拡大増殖を可能にする、該方法が提供される。培養培地、単離された細胞集団、およびキットも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持する方法であって、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む、該方法。
【請求項2】
前記c-kitリガンドが幹細胞因子(SCF)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TPORアゴニストがトロンボポエチン(TPO)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記TPORアゴニストが、エルトロンボパグ、TA-316、TPOアゴニスト1、アバトロンボパグ、またはルストロンボパグである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記TGFβ経路アゴニストがアクチビンAである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記TGFβ経路アゴニストがアラントラクトンである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗酸化物質がビタミンCである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗酸化物質が、アスコルビン酸、グルタチオン、エブセレン、N-アセチル-L-システイン、またはα-トコフェロールである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生理活性リン脂質がリゾホスファチジン酸(LPA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記生理活性リン脂質が、スフィンゴシン-1-ホスファート(S1P)、セラミド-1-ホスファート(C1P)、またはリゾホスファチジルコリン(LPC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記AhRアゴニストが6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記AhRアゴニストが、ノルイソボルジン、ピフィスリン-αヒドロブロミド、MeBIO、ITE、または10-Cl-BBQである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記NotchアゴニストがYhhu 3792である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記NotchアゴニストがJagged 1~2またはDLL1~4である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記HDAC阻害剤が、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、トリコスタチンA、モセチノスタット、4-フェニル酪酸、ACY-775、GSK3117391、ベリノスタット、ロミデプシン、MC1568、ツバスタチンA、ギビノスタット、ダシノスタット、CUDC-101、キシノスタット、プラシノスタット、PCI-34051、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、リコリノスタット、タセジナリン、フィメピノスタット、酪酸ナトリウム、クルクミン、M344、ツバシン、RG2833、レスミノスタット、ジバルプロエクスナトリウム、スクリプタイド、フェニル酪酸ナトリウム、ツバスタチンA、シナピン酸、TMP269、CAY10683、TMP195、UF010、タスキニモド、SKLb-23bb、イソグアノシン、NKL22、スルホラファン、BRD73594、シタリノスタット、スベロヒドロキサミック(suberohydroxamic)、BRD3308、スプリトマイシン、HPOB、LMK235、ビフェニル-4-スルホニルクロリド、ネクスツラスタットA、BML-210、TC-H106、SR-4370、TH34、ツシジノスタット、SIS17、パルテノリド、wt161、CAY10603、ACY738、ラッデアニンA、チノスタムスチン、ドマチノスタット、BG45、およびITSA-1からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記CD34+ HSCが臍帯血由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記CD34+ HSCが骨髄由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記CD34+ HSCが少なくとも6日間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記CD34+ HSCが、Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+の表現型を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持する方法であって、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、アクチビンA、ビタミンC、リゾホスファチジン酸(LPA)、6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)、Yhhu 3792、およびバルプロ酸(VPA)を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む、該方法。
【請求項22】
SCFが10ng/mlの濃度で存在し、TPOが100ng/mlの濃度で存在し、アクチビンAが20ng/mlの濃度で存在し、ビタミンCが100μMの濃度で存在し、LPAが200nMの濃度で存在し、FICZが500nMの濃度で存在し、Yhhu 3792が750nMの濃度で存在し、かつVPAが150μMの濃度で存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持するための培養培地。
【請求項24】
前記c-kitリガンドが幹細胞因子(SCF)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項25】
前記TPORアゴニストがトロンボポエチン(TPO)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項26】
前記TPORアゴニストが、エルトロンボパグ、TA-316、TPOアゴニスト1、アバトロンボパグ、またはルストロンボパグである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項27】
前記TGFβ経路アゴニストがアクチビンAである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項28】
前記TGFβ経路アゴニストがアラントラクトンである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項29】
前記抗酸化物質がビタミンCである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項30】
前記抗酸化物質が、アスコルビン酸、グルタチオン、エブセレン、N-アセチル-L-システイン、またはα-トコフェロールである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項31】
前記生理活性リン脂質がリゾホスファチジン酸(LPA)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項32】
前記生理活性リン脂質が、スフィンゴシン-1-ホスファート(S1P)、セラミド-1-ホスファート(C1P)、またはリゾホスファチジルコリン(LPC)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項33】
前記AhRアゴニストが6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項34】
前記AhRアゴニストが、ノルイソボルジン、ピフィスリン-αヒドロブロミド、MeBIO、ITE、または10-Cl-BBQである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項35】
前記NotchアゴニストがYhhu 3792である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項36】
前記NotchアゴニストがJagged 1~2またはDLL1~4である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項37】
前記HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項38】
前記HDAC阻害剤が、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、トリコスタチンA、モセチノスタット、4-フェニル酪酸、ACY-775、GSK3117391、ベリノスタット、ロミデプシン、MC1568、ツバスタチンA、ギビノスタット、ダシノスタット、CUDC-101、キシノスタット、プラシノスタット、PCI-34051、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、リコリノスタット、タセジナリン、フィメピノスタット、酪酸ナトリウム、クルクミン、M344、ツバシン、RG2833、レスミノスタット、ジバルプロエクスナトリウム、スクリプタイド、フェニル酪酸ナトリウム、ツバスタチンA、シナピン酸、TMP269、CAY10683、TMP195、UF010、タスキニモド、SKLb-23bb、イソグアノシン、NKL22、スルホラファン、BRD73594、シタリノスタット、スベロヒドロキサミック、BRD3308、スプリトマイシン、HPOB、LMK235、ビフェニル-4-スルホニルクロリド、ネクスツラスタットA、BML-210、TC-H106、SR-4370、TH34、ツシジノスタット、SIS17、パルテノリド、wt161、CAY10603、ACY738、ラッデアニンA、チノスタムスチン、ドマチノスタット、BG45、およびITSA-1からなる群より選択される、請求項23に記載の培養培地。
【請求項39】
幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、アクチビンA、ビタミンC、リゾホスファチジン酸(LPA)、6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)、Yhhu 3792、およびバルプロ酸(VPA)を含む、請求項23に記載の培養培地。
【請求項40】
SCFが10ng/mlの濃度で存在し、TPOが100ng/mlの濃度で存在し、アクチビンAが20ng/mlの濃度で存在し、ビタミンCが100μMの濃度で存在し、LPAが200nMの濃度で存在し、FICZが500nMの濃度で存在し、Yhhu 3792が750nMの濃度で存在し、かつVPAが150μMの濃度で存在する、請求項39に記載の培養培地。
【請求項41】
ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)の単離された細胞培養物であって、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+ HSCを含む、該培養物。
【請求項42】
ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を維持する方法であって、
TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階
を含み、
該培養培地が、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、
該方法。
【請求項43】
前記TGFβ経路アゴニストがアクチビンAであり、前記生理活性リン脂質がリゾホスファチジン酸(LPA)であり、前記AhRアゴニストが6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)であり、かつ前記HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記LT-HSCが、CRHBP、HOPX、およびLMO2をも発現するCD34+細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を維持するための培養培地であって、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、該培養培地。
【請求項46】
TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を含む、ヒトCD34+ LT-HSCの単離された細胞培養物であって、
該培養培地が、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、
該培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年11月30日に出願された米国仮出願第63/284,360号の優先権を主張するものである。その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
造血幹細胞(HSC)は、骨髄系列およびリンパ系列の細胞を含む、造血系全体を生み出す、多能性で、自己複製する細胞である。HSCは、骨髄および臍帯血に自然に見られる希少細胞であり、末梢血に見られるのはさらに稀である。HSCは通常、特定のマーカーの発現または発現の欠如、例えばCD34の発現および系列特異的マーカーとCD38とについての発現欠如(Lin-CD34+CD38-)など、によって定義される。同種HSCは、白血病およびリンパ腫などのがんおよび自己免疫疾患を含む、重篤な血液疾患の治療手段として、幹細胞移植に使用されている。しかし、HSCを移植に使用するには、天然での存在が非常に限られていることを考慮すると、HSCを単離し、培養下で拡大増殖および維持できることが必要である。
【0003】
CD34+ HSCを拡大増殖させるための様々な培養システムが記載されており、一般的には、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を、他のサイトカインおよび小分子と共に補充した培養培地などがある。例えば、Nishinoらは、SCFと、TPOと、ヒストンアセチル基転移酵素の強力な阻害剤であるガルシノールとを含む培地で7日間培養することによってHSCを拡大増殖させることを報告している(Nishino et al. (2011) PLoS One 6:e24298(非特許文献1))。Himburgらは、SCF、TPO、Flt-3リガンド、およびプレイオトロフィンを含む培地(後者はPI3Kシグナル伝達を活性化する)で培養することによってHSCを拡大増殖させることを報告している(Himburg et al. (2010) Nat. Med. 16:475-482(非特許文献2))。臍帯血由来のCD34+ HSCは、SCF、TPO、Flt-3リガンド、および低密度リポタンパク質を含む基礎培地中で、これにJNK経路の阻害剤を添加して、培養することによって、エクスビボで拡大増殖させている(Xiao et al. (2019) Cell. Discovery 5:2(非特許文献3))。あるいは、臍帯血由来のCD34+ HSCは、SCF、TPO、Flt-3、およびIL-3を含む培地で16時間培養した後、脱アセチル化酵素阻害剤であるバルプロ酸(VPA)を加えてさらに7日間培養することによって、エクスビボで拡大増殖させた(Papa et al. (2019) J. Vis. Exp. DOI:10.3791/59532(非特許文献4))。
【0004】
アリール炭化水素受容体アンタゴニスト、例えばプリン誘導体SR1などは、HSCの拡大増殖を促進することが報告されている(Boitano et al. (2010) Science 329:1345-1348(非特許文献5))。
【0005】
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)γをアンタゴナイズすることによって、HSCの拡大増殖が促進されることが報告されている(Guo et al. (2018) Nat. Med. 24:360-367(非特許文献6))。
【0006】
最近では、NFκBシグナル伝達経路の阻害剤を10日間添加すると、培養下でのHSCの拡大増殖が高まると報告されている(Sun et al. (2021) Exp. Cell. Res. 399:112468(非特許文献7))。
【0007】
さらに、186種類の化学物質のパネルのスクリーニングを通して、CHIR-99021(GSK3阻害剤)、フォルスコリン(cAMP活性化剤)、およびOAC1(Oct4活性化剤)の組み合わせが、培養下でのHSCの維持をサポートする化学物質カクテルとして確認された(Jiang et al. (2018) Cell. Discovery 4:59(非特許文献8))。
【0008】
したがって、ある程度の進歩は見られるものの、HSCを培養下で拡大増殖させるおよび維持するための効率的でロバストな方法および組成物が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nishino et al. (2011) PLoS One 6:e24298
【非特許文献2】Himburg et al. (2010) Nat. Med. 16:475-482
【非特許文献3】Xiao et al. (2019) Cell. Discovery 5:2
【非特許文献4】Papa et al. (2019) J. Vis. Exp. DOI:10.3791/59532
【非特許文献5】Boitano et al. (2010) Science 329:1345-1348
【非特許文献6】Guo et al. (2018) Nat. Med. 24:360-367
【非特許文献7】Sun et al. (2021) Exp. Cell. Res. 399:112468
【非特許文献8】Jiang et al. (2018) Cell. Discovery 4:59
【発明の概要】
【0010】
本開示は、化学的に規定された培養培地を用いて、例えば臍帯血または骨髄細胞由来のヒト造血幹細胞(HSC)を維持するおよび拡大増殖させる方法であって、該培養培地は、わずか6日間の培養でのCD34+ HSCの拡大増殖を可能にする、該方法を提供する。この培養培地は血清を含まず、幹細胞における特定のシグナル伝達経路をアゴナイズまたはアンタゴナイズする小分子物質を含み、その結果、CD34+ HSC系列に沿った拡大増殖および自己複製が促進され、HSC関連バイオマーカーの発現につながる。本開示の方法は、CD34+ HSCを拡大増殖させるのに必要な時間を大幅に短縮するという利点がある。さらに、培養培地中での小分子物質の使用は、培養成分の正確な制御を可能にする。
【0011】
したがって、一局面において、本開示は、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を維持するまたは拡大増殖させる方法であって、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む、該方法に関する。
【0012】
ある態様において、c-kitリガンドは幹細胞因子(SCF)である。
【0013】
ある態様において、TPORアゴニストはトロンボポエチン(TPO)である。他の態様では、TPORアゴニストは、エルトロンボパグ、TA-316、TPOアゴニスト1、アバトロンボパグ、またはルストロンボパグである。
【0014】
ある態様において、TGFβ経路アゴニストはアクチビンAである。別の態様では、TGFβ経路アゴニストはアラントラクトンである。
【0015】
ある態様において、抗酸化物質はビタミンC(アスコルビン酸)の一形態、例えばビタミンCの安定形態であるL-アスコルビン酸ホスファートセスキマグネシウム塩水和物(Vit. C)である。他の態様では、抗酸化物質は、アスコルビン酸、グルタチオン、エブセレン、N-アセチル-L-システイン、またはα-トコフェロールである。
【0016】
ある態様において、生理活性リン脂質はリゾホスファチジン酸(LPA)である。他の態様では、生理活性リン脂質は、スフィンゴシン-1-ホスファート(S1P)、セラミド-1-ホスファート(C1P)、またはリゾホスファチジルコリン(LPC)である。
【0017】
ある態様において、AhRアゴニストは6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)である。他の態様では、AhRアゴニストは、ノルイソボルジン、ピフィスリン-αヒドロブロミド、MeBIO、ITE、または10-Cl-BBQである。
【0018】
ある態様において、NotchアゴニストはYhhu 3792である。他の態様では、NotchアゴニストはJagged 1~2またはDLL1~4である。
【0019】
ある態様において、HDAC阻害剤はバルプロ酸(VPA)である。他の態様では、HDAC阻害剤は、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、トリコスタチンA、モセチノスタット、4-フェニル酪酸、ACY-775、GSK3117391、ベリノスタット、ロミデプシン、MC1568、ツバスタチンA、ギビノスタット、ダシノスタット、CUDC-101、キシノスタット、プラシノスタット、PCI-34051、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、リコリノスタット、タセジナリン、フィメピノスタット、酪酸ナトリウム、クルクミン、M344、ツバシン、RG2833、レスミノスタット、ジバルプロエクスナトリウム、スクリプタイド、フェニル酪酸ナトリウム、ツバスタチンA、シナピン酸、TMP269、CAY10683、TMP195、UF010、タスキニモド、SKLb-23bb、イソグアノシン、NKL22、スルホラファン、BRD73594、シタリノスタット、スベロヒドロキサミック(suberohydroxamic)、BRD3308、スプリトマイシン、HPOB、LMK235、ビフェニル-4-スルホニルクロリド、ネクスツラスタットA、BML-210、TC-H106、SR-4370、TH34、ツシジノスタット、SIS17、パルテノリド、wt161、CAY10603、ACY738、ラッデアニンA、チノスタムスチン、ドマチノスタット、BG45、およびITSA-1からなる群より選択される。
【0020】
ある態様において、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を維持するまたは拡大増殖させる方法は、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、アクチビンA、ビタミンC、リゾホスファチジン酸(LPA)、6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)、Yhhu 3792、およびバルプロ酸(VPA)を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む。ある態様では、SCFは10ng/mlの濃度で存在し、TPOは100ng/mlの濃度で存在し、アクチビンAは20ng/mlの濃度で存在し、ビタミンCは100μMの濃度で存在し、LPAは200nMの濃度で存在し、FICZは500nMの濃度で存在し、Yhhu 3792は750nMの濃度で存在し、かつVPAは150μMの濃度で存在する。
【0021】
本開示の方法および組成物において、CD34+ HSCは、例えば、臍帯血または骨髄由来であり得る。
【0022】
ある態様において、CD34+ HSCは、本明細書に記載の培地中で少なくとも6日間(例えば、7日間、または1週間、またはそれ以上)培養される。
【0023】
ある態様において、CD34+ HSCは、Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+の表現型を有する。
【0024】
別の局面において、本開示は、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持するための培養培地に関する。
【0025】
ある態様において、c-kitリガンドは幹細胞因子(SCF)である。
【0026】
ある態様において、TPORアゴニストはトロンボポエチン(TPO)である。他の態様では、TPORアゴニストは、エルトロンボパグ、TA-316、TPOアゴニスト1、アバトロンボパグ、またはルストロンボパグである。
【0027】
ある態様において、TGFβ経路アゴニストはアクチビンAである。別の態様では、TGFβ経路アゴニストはアラントラクトンである。
【0028】
ある態様において、抗酸化物質はビタミンCである。他の態様では、抗酸化物質は、アスコルビン酸、グルタチオン、エブセレン、N-アセチル-L-システイン、またはα-トコフェロールである。
【0029】
ある態様において、生理活性リン脂質はリゾホスファチジン酸(LPA)である。他の態様では、生理活性リン脂質は、スフィンゴシン-1-ホスファート(S1P)、セラミド-1-ホスファート(C1P)、またはリゾホスファチジルコリン(LPC)である。
【0030】
ある態様において、AhRアゴニストは6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)である。他の態様では、AhRアゴニストは、ノルイソボルジン、ピフィスリン-αヒドロブロミド、MeBIO、ITE、または10-Cl-BBQである。
【0031】
ある態様において、NotchアゴニストはYhhu 3792である。他の態様では、NotchアゴニストはJagged 1~2またはDLL1~4である。
【0032】
ある態様において、HDAC阻害剤はバルプロ酸(VPA)である。他の態様では、HDAC阻害剤は、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、トリコスタチンA、モセチノスタット、4-フェニル酪酸、ACY-775、GSK3117391、ベリノスタット、ロミデプシン、MC1568、ツバスタチンA、ギビノスタット、ダシノスタット、CUDC-101、キシノスタット、プラシノスタット、PCI-34051、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、リコリノスタット、タセジナリン、フィメピノスタット、酪酸ナトリウム、クルクミン、M344、ツバシン、RG2833、レスミノスタット、ジバルプロエクスナトリウム、スクリプタイド、フェニル酪酸ナトリウム、ツバスタチンA、シナピン酸、TMP269、CAY10683、TMP195、UF010、タスキニモド、SKLb-23bb、イソグアノシン、NKL22、スルホラファン、BRD73594、シタリノスタット、スベロヒドロキサミック、BRD3308、スプリトマイシン、HPOB、LMK235、ビフェニル-4-スルホニルクロリド、ネクスツラスタットA、BML-210、TC-H106、SR-4370、TH34、ツシジノスタット、SIS17、パルテノリド、wt161、CAY10603、ACY738、ラッデアニンA、チノスタムスチン、ドマチノスタット、BG45、およびITSA-1からなる群より選択される。
【0033】
ある態様において、培養培地は、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、アクチビンA、ビタミンC、リゾホスファチジン酸(LPA)、6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)、Yhhu3792およびバルプロ酸(VPA)を含む。ある態様では、SCFは10ng/mlの濃度で存在し、TPOは100ng/mlの濃度で存在し、アクチビンAは20ng/mlの濃度で存在し、ビタミンCは100μMの濃度で存在し、LPAは200nMの濃度で存在し、FICZは500nMの濃度で存在し、Yhhu 3792は750nMの濃度で存在し、かつVPAは150μMの濃度で存在する。
【0034】
さらに別の局面において、本開示は、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)の単離された細胞培養物であって、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+ HSCを含む、該培養物に関する。適切な作用物質には、上記のものが含まれる。
【0035】
さらに別の局面において、本開示は、ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を維持する方法であって、TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含み、ここで、該培養培地が、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、該方法に関する。適切な作用物質の非限定的な例、およびそれらの濃度には、上記のものが含まれる。ある態様では、TGFβ経路アゴニストはアクチビンAであり、生理活性リン脂質はリゾホスファチジン酸(LPA)であり、AhRアゴニストは6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)であり、かつHDAC阻害剤はバルプロ酸(VPA)である。ある態様では、LT-HSCは、CRHBP、HOPX、およびLMO2をも発現するCD34+細胞である。
【0036】
別の局面において、本開示は、TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を維持するための培養培地であって、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、該培養培地を提供する。別の局面では、本開示は、TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を含む、ヒトCD34+ LH-HSCの単離された細胞培養物であって、ここで、該培養培地が、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、該培養物を提供する。
【0037】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】GATA2の発現が最大となるように最適化された8因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上段は、GATA2に向けて最適化された場合の、予め選択された53個の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下段は、このモデルで試験されたエフェクターと、GATA2の最大発現に対するそれらの寄与とを示す。値の欄は、モデルを模倣するために必要とされる各エフェクターの濃度を示す。
図2】試験した8つのエフェクターの濃度に対するGATA2、CRHBPおよびMEG3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。GATA2の発現に対するLPA、FCIZ、Vit. C、およびアクチビンAの正の影響と、それらの因子寄与は、各エフェクターのプロットの傾きで示される。
図3】CRHBPの発現が最大となるように最適化された8因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上段は、CRHBPに向けて最適化された場合の、予め選択された53個の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下段は、このモデルで試験されたエフェクターと、CRHBPの最大発現に対するそれらの寄与とを示す。値の欄は、モデルを模倣するために必要とされる各エフェクターの濃度を示す。
図4】試験した5つのエフェクターの濃度に対するCRHBP、GATA2およびMEG3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。3つ全ての遺伝子の発現に対するVPAの正の影響と、それらの因子寄与は、各エフェクターのプロットの傾きで示される。
図5】CRHBPの発現が最大となるように最適化された8因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上段は、CRHBPに向けて最適化された場合の、予め選択された53個の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下段は、このモデルで試験されたエフェクターと、CRHBPの最大発現に対するそれらの寄与とを示す。値の欄は、モデルを模倣するために必要とされる各エフェクターの濃度を示す。
図6A図6A~Bは、HSCの拡大増殖のための4つの検証済みエフェクター(FICZ、LPA、Vit. C、アクチビンA)の濃度に対するGATA2、HOXA5およびMEG3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。図6Aは、最終決定された5つ全てのエフェクターの存在下での、対象となる遺伝子の発現レベルを示す。
図6B図6A~Bは、HSCの拡大増殖のための4つの検証済みエフェクター(FICZ、LPA、Vit. C、アクチビンA)の濃度に対するGATA2、HOXA5およびMEG3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。図6Bは、最終決定されたエフェクターのうち一度に1つが存在せず、他のエフェクターが存在する場合の、対象となる遺伝子の発現レベルを示す。
図7A図7A~Bは、HSCの拡大増殖のための1つの検証済みエフェクター(VPA)の濃度に対するGATA2、HOXA5およびMEG3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。図7Aは、VPAの存在下での対象となる遺伝子の発現レベルを示す。
図7B図7A~Bは、HSCの拡大増殖のための1つの検証済みエフェクター(VPA)の濃度に対するGATA2、HOXA5およびMEG3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。図7Bは、VPAの非存在下での対象となる遺伝子の発現レベルを示す。
図8A図8A~Bは、HSCの拡大増殖のための1つの検証済みエフェクター(Yhhu 3792)の濃度に対するGATA2、HOXA5およびMEG3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。図8Aは、Yhhu 3792の存在下での対象となる遺伝子の発現レベルを示す。
図8B図8A~Bは、HSCの拡大増殖のための1つの検証済みエフェクター(Yhhu 3792)の濃度に対するGATA2、HOXA5およびMEG3遺伝子の発現レベルの動的プロファイルを示す。図8Bは、Yhhu 3792の非存在下での対象となる遺伝子の発現レベルを示す。
図9図9A~Bは、表1に示される、開発したHSC用配合(図9A)または対照配合(SCFおよびTPO)(図9B)で7日間培養した臍帯血CD34細胞のフローサイトメトリー解析の結果を示す。細胞は、Lin、CD34、CD38、CD45RA、CD90、および生死マーカーのFVS700に対する抗体で染色し、解析から死細胞を除外した。
図10】CRHBPの発現が最大となるように最適化された12因子実験のHD-DoEモデルからの結果を示す。モデルの上段は、CRHBPに向けて最適化された場合の、予め選択された53個の遺伝子の発現レベルの予測を示す。モデルの下段は、このモデルで試験されたエフェクターと、CRHBPの最大発現に対するそれらの寄与とを示す。値の欄は、モデルを模倣するために必要とされる各エフェクターの濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の詳細な説明
本明細書では、小分子ベースのアプローチを用いて、化学的に規定された培養条件下でヒトCD34+造血幹細胞(HSC)の維持および拡大増殖を可能にする方法論および組成物が記載される。実施例1に記載されるように、遺伝子発現などの出力応答に対する複数のプロセス入力(例えば、小分子アゴニストまたはアンタゴニスト)を同時に試験するために、高次元実験計画法(High-Dimensional Design of Experiments)(HD-DoE)のアプローチが採用された。これらの実験により、HSCを維持するおよび非常に短時間で拡大増殖させるのに十分な、特定のシグナル伝達経路のアゴニストおよび/またはアンタゴニストを含む、化学的に規定された培養培地を特定できるようになった。最適化された培養培地は、実施例2に記載されるように、個々のアゴニスト剤またはアンタゴニスト剤を除外した場合の影響を調べる因子重要度解析によってさらに検証された。フローサイトメトリー解析により、実施例3に記載されるように、分化プロトコルによって作製された細胞の表現型がさらに確認された。実施例4に記載されるように、長期HSC(LT-HSC)を維持するためのサブプロトコルも決定された。
【0040】
本発明の様々な局面は、以下のサブセクションでさらに詳しく説明される。
【0041】
I. 細胞
本開示の培養に使用される出発細胞は、ヒトCD34+造血幹細胞である。本明細書で使用する「造血幹細胞」(HSCと略記)という用語は、様々な異なる造血細胞タイプに分化する能力を有する幹細胞を指す。CD34は、HSCの表面マーカーとして当技術分野で確立されている膜貫通型のリン糖タンパク質(phosphoglycoprotein)である。ヒトHSCは、ヒト臍帯血および成人骨髄などの、入手可能な供給源から容易に得ることができる。HSCには、長期HSC(LT-HSC)と短期HSC(ST-HSC)の両方が含まれる。
【0042】
長期HSC(LT-HSC)は、骨髄または臍帯血中に存在するHSCであり、非対称細胞分裂の過程を通して、幹細胞プールを維持するために自己複製するか、あるいは短期HSC(ST-HSC)または系列限定前駆細胞(広範な増殖および分化を経て、血液系列の最終分化細胞をもたらす)に分化することができる。LT-HSCは、Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+細胞の画分に豊富であると考えられる。LT-HSCは休止しており、培養下での分裂が遅く、最初の細胞分裂までに最大80時間かかる(Cheung and Rando (2013) Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 14:329-340)。対照的に、短期HSC(ST-HSC)は、定義によれば、自己複製能力が限られており、一般的に老化前の4~12週間はリンパ球造血(lymphohematopoiesis)を引き起こすとされている。
【0043】
ある態様において、HSCはCD34を発現する(CD34+)。ある態様では、HSCは系列マーカーの発現を欠く(Lin-)。ある態様では、HSCはCD38の発現を欠く(CD38-)。ある態様では、HSCはCD45RAの発現を欠く(CD45RA-)。ある態様では、HSCはCD90を発現する(CD90+)。ある態様では、HSCはLin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+細胞である。
【0044】
いくつかの態様において、HSCは、HSC表現型に関連する1つまたは複数の遺伝子(本明細書ではHSC関連遺伝子マーカーとも呼ばれる)を発現し、その非限定的な例には、CHRBP、Mecom、Meg3、HOPX、LMO2、CD34、TAL1、およびGATA2が含まれる。
【0045】
ある態様において、LT-HSCはCD34+である。ある態様では、LT-HSCはCD34+であり、CRHBP、HOPX、およびLMO2をも発現する。
【0046】
II. 培養培地成分
CD34+ HSCを維持するおよび/または拡大増殖させるための本開示の方法は、細胞受容体および/またはシグナル伝達経路の特定のアゴニストおよび/またはアンタゴニストを含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む。
【0047】
実施例1に記載されるように、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地は、CD34+ HSCを維持する、およびわずか6日間で拡大増殖させるのに十分であった。
【0048】
さらに、実施例4に記載されるように、TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地は、LT-HSCを維持するために開発された。この培養培地は、c-kitリガンドおよびTPORアゴニストを欠いているため、LT-HSCに低い増殖能力しか与えない。
【0049】
本明細書で使用するとき、細胞受容体またはシグナル伝達経路の「アゴニスト」とは、細胞受容体またはシグナル伝達経路を刺激(アップレギュレート)する物質を指すものとする。細胞シグナル伝達経路の刺激は、例えば、シグナル伝達経路に関与する細胞表面受容体を活性化するアゴニスト(例えば、そのアゴニストは受容体リガンドであり得る)の使用によって、細胞外で開始され得る。さらに、または代わりに、細胞シグナル伝達の刺激は、例えば、シグナル伝達経路の成分と細胞内で相互作用する小分子アゴニストの使用によって、細胞内で開始され得る。
【0050】
本明細書で使用するとき、細胞シグナル伝達経路の「アンタゴニスト」とは、細胞シグナル伝達経路を阻害(ダウンレギュレート)する物質を指すものとする。細胞シグナル伝達経路の阻害は、例えば、シグナル伝達経路に関与する細胞表面受容体をブロックするアンタゴニストの使用によって、細胞外で開始され得る。さらに、または代わりに、細胞シグナル伝達の阻害は、例えば、シグナル伝達経路の成分と細胞内で相互作用する小分子アンタゴニストの使用によって、細胞内で開始され得る。
【0051】
c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は当技術分野で公知であり、市販されている。これらは、培養培地中で所望の結果、例えば、関心対象のマーカーを発現するHSCの維持および/または拡大増殖を達成するのに有効な濃度で使用される。適切なアゴニストおよびアンタゴニストの非限定的な例、ならびに有効な濃度範囲については、以下でさらに説明する。
【0052】
c-kitリガンドには、c-kit受容体(CD117)に結合する薬剤、分子、化合物または物質が含まれる。ある態様では、c-kitリガンドは幹細胞因子(SCF)である。ある態様では、SCFは培地中に5~25ng/mlの濃度範囲で存在する。ある態様では、SCFは培地中に10ng/mlの濃度で存在する。
【0053】
TPORアゴニストには、トロンボポエチン受容体(TPOR)をアゴナイズする薬剤、分子、化合物または物質が含まれる。ある態様では、TPORアゴニストはトロンボポエチン(TPO)である。他の態様では、TPORアゴニストは、エルトロンボパグ、TA-316、TPOアゴニスト1、アバトロンボパグ、またはルストロンボパグである。ある態様では、TPORアゴニストはTPOであり、これは培地中に50~150ng/mlの濃度範囲で存在する。ある態様では、TPORアゴニストはTPOであり、これは培地中に100ng/mlの濃度で存在する。
【0054】
TGFβ経路のアゴニストには、TGFβシグナル伝達経路を刺激(活性化)できる薬剤、分子、化合物、または物質が含まれる。ある態様では、TGFβ経路アゴニストはアクチビンAである。別の態様では、TGFβ経路アゴニストはアラントラクトンである。ある態様では、TGFβ経路アゴニストはアクチビンAであり、これは培地中に10~30ng/mlの濃度範囲で存在する。ある態様では、TGFβ経路アゴニストはアクチビンAであり、これは培地中に20ng/mlの濃度で存在する。
【0055】
抗酸化物質には、フリーラジカルによる細胞への損傷を防ぐまたは遅らせる薬剤、分子、化合物、または物質が含まれる。ある態様では、抗酸化物質はビタミンCである。一態様では、ビタミンCは、ビタミンCの安定形態であるL-アスコルビン酸ホスファートセスキマグネシウム塩水和物(Vit. C)である。他の態様では、抗酸化物質は、アスコルビン酸、グルタチオン、エブセレン、N-アセチル-L-システイン、またはα-トコフェロールである。ある態様では、抗酸化物質はビタミンCであり、これは培地中に50~150μMの濃度範囲で存在する。ある態様では、抗酸化物質はビタミンCであり、これは培地中に100μMの濃度で存在する。
【0056】
ある態様において、生理活性リン脂質はリゾホスファチジン酸(LPA)である。他の態様では、生理活性リン脂質は、スフィンゴシン-1-ホスファート(S1P)、セラミド-1-ホスファート(C1P)、またはリゾホスファチジルコリン(LPC)である。ある態様では、生理活性リン脂質はLPAであり、これは培地中に100~300μMの濃度範囲で存在する。ある態様では、生理活性リン脂質はLPAであり、これは培地中に200μMの濃度で存在する。
【0057】
AhRのアゴニストには、AhRシグナル伝達経路を刺激(活性化)できる薬剤、分子、化合物、または物質が含まれる。ある態様では、AhRアゴニストは6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)である。他の態様では、AhRアゴニストは、ノルイソボルジン、ピフィスリン-αヒドロブロミド、MeBIO、ITE、または10-Cl-BBQである。ある態様では、AhRアゴニストはFICZであり、これは培地中に250~750nMの濃度範囲で存在する。ある態様では、AhRアゴニストはFICZであり、これは培地中に500nMの濃度で存在する。
【0058】
Notchのアゴニストには、Notchシグナル伝達経路を刺激(活性化)できる薬剤、分子、化合物、または物質が含まれる。ある態様では、NotchアゴニストはYhhu 3792である。他の態様では、NotchアゴニストはJagged 1~2またはDLL1~4である。ある態様では、NotchアゴニストはYhhu 3792であり、これは培地中に500~1000nMの濃度範囲で存在する。ある態様では、NotchアゴニストはYhhu 3792であり、これは培地中に750nMの濃度で存在する。
【0059】
ある態様において、HDAC阻害剤はバルプロ酸(VPA)である。他の態様では、HDAC阻害剤は、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、トリコスタチンA、モセチノスタット、4-フェニル酪酸、ACY-775、GSK3117391、ベリノスタット、ロミデプシン、MC1568、ツバスタチンA、ギビノスタット、ダシノスタット、CUDC-101、キシノスタット、プラシノスタット、PCI-34051、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、リコリノスタット、タセジナリン、フィメピノスタット、酪酸ナトリウム、クルクミン、M344、ツバシン、RG2833、レスミノスタット、ジバルプロエクスナトリウム、スクリプタイド、フェニル酪酸ナトリウム、ツバスタチンA、シナピン酸、TMP269、CAY10683、TMP195、UF010、タスキニモド、SKLb-23bb、イソグアノシン、NKL22、スルホラファン、BRD73594、シタリノスタット、スベロヒドロキサミック、BRD3308、スプリトマイシン、HPOB、LMK235、ビフェニル-4-スルホニルクロリド、ネクスツラスタットA、BML-210、TC-H106、SR-4370、TH34、ツシジノスタット、SIS17、パルテノリド、wt161、CAY10603、ACY738、ラッデアニンA、チノスタムスチン、ドマチノスタット、BG45、およびITSA-1からなる群より選択される。ある態様では、HDAC阻害剤はVPAであり、これは培地中に100~200μMの濃度範囲で存在する。ある態様では、HDAC阻害剤はVPAであり、これは培地中に150μMの濃度で存在する。
【0060】
ある態様において、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持する方法は、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、アクチビンA、ビタミンC、リゾホスファチジン酸(LPA)、6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)、Yhhu3792およびバルプロ酸(VPA)を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む。ある態様では、これらの作用物質は上記の濃度範囲で培地中に存在する。ある態様では、SCFは10ng/mlの濃度で存在し、TPOは100ng/mlの濃度で存在し、アクチビンAは20ng/mlの濃度で存在し、ビタミンCは100μMの濃度で存在し、LPAは200nMの濃度で存在し、FICZは500nMの濃度で存在し、Yhhu 3792は750nMの濃度で存在し、かつVPAは150μMの濃度で存在する。
【0061】
III. 培養条件
上記サブセクションIIに記載した化学的に規定され最適化された培養培地と組み合わせて、本開示のCD34+ HSCを維持するまたは拡大増殖させる方法は、細胞培養のための当技術分野で確立された標準的な培養条件を利用する。例えば、細胞は5%O2および5%CO2の条件下に37℃で培養することができる。出発培地として基礎培地が使用され、これに補助的物質を加えることができる。例えば、ある態様では、市販のStemSpan(商標)SFEM II培地が基礎培地として使用される。細胞は、培養皿、培養フラスコ、96ウェルプレートなどの標準的な培養容器またはプレートで培養することができる。
【0062】
出発CD34+ HSCは、当技術分野で確立された方法論によって得ることができる。ヒトCD34+ HSCの供給源には、臍帯血および骨髄が含まれる。CD34+ HSCは、例えば標準的な磁気濃縮によって、得ることができる。
【0063】
CD34+ HSCを拡大増殖させるには、該細胞を、最適化された培養培地中で、CD34+ HSC集団を拡大増殖させる(すなわち、培養物中のCD34+ HSCの数を増やす)のに十分な時間にわたって培養する。実施例に記載されるように、最適化された培養培地中でのCD34+ HSCのわずか6日間の培養は、CD34+ HSCの拡大増殖および所望の細胞マーカーの発現にとって十分であることが見出された。
【0064】
様々な態様において、CD34+ HSCは、最適化された培養培地中で、少なくとも1つの、好ましくは複数のHSC関連遺伝子マーカーの発現を増加させるのに十分な時間にわたって培養される。適切なHSC関連遺伝子マーカーの非限定的な例には、CHRBP、Mecom、Meg3、HOPX、LMO2、CD34、TAL1、およびGATA2が含まれる。いくつかの態様では、細胞は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、または少なくとも8つのHSC関連遺伝子マーカーの発現レベルを高めるのに十分な時間培養される。ある態様では、細胞は、少なくとも1つのHSC関連遺伝子マーカー(例えば、CHRBP)の発現レベルを、出発細胞集団と比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%高めるのに十分な時間培養される。培養HSCにおける遺伝子マーカーの発現レベルは、当技術分野で利用可能な技術(例えば、RNAseq解析)によって測定され得る。
【0065】
ある態様では、細胞は、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも10日間、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、またはそれ以上培養される。
【0066】
培養培地は通常、定期的に新鮮な培地に交換される。例えば、一態様では、培地は72時間ごとに交換される。
【0067】
IV. 用途
HSCを維持するおよび拡大増殖させるための本開示の方法および組成物は、これらの細胞集団を様々な用途に効率的かつロバストに利用することを可能にする。例えば、本方法および組成物は、造血関連の疾患および障害の理解を助けるための生物学を含む、HSCの発生および分化の研究に使用することができる。例えば、本開示の方法を用いて作製されたHSC(例えば、LT-HSC)は、細胞上に発現された表面マーカーに結合する物質を用いて、当技術分野で確立された方法に従ってさらに精製することができる。
【0068】
さらに、本開示の方法に従って維持したおよび/または拡大増殖させたHSCは、造血疾患または障害を有する対象への該細胞の送達(例えば、HSC移植)を通じて、様々な造血疾患および障害の治療に使用することが企図される。造血疾患および障害の例には、白血病およびリンパ腫などのがん、血液疾患、ならびに自己免疫疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
V. 組成物
他の局面において、本開示は、培養培地および単離された細胞培養物を含む、HSCを維持するおよび拡大増殖させる方法に関係している組成物を提供する。
【0070】
一局面において、本開示は、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を維持するまたは拡大増殖させるための培養培地を提供する。別の局面では、本開示は、TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を維持するための培養培地を提供する。適切な作用物質の非限定的な例、およびそれらの濃度には、上記サブセクションIIに記載したものが含まれる。
【0071】
別の局面において、本開示は、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)の単離された細胞培養物を提供し、この培養物は、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+ HSCを含む。別の局面では、本開示は、ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)の単離された細胞培養物を提供し、この培養物は、TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+ LT-HSCを含む。適切な作用物質の非限定的な例、およびそれらの濃度には、上記サブセクションIIに記載したものが含まれる。
【0072】
本発明は以下の実施例によってさらに説明されるが、これらの実施例はさらなる限定として解釈されるべきではない。本出願を通して引用された図ならびに全ての参考文献、特許および公開特許出願の内容は、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。
【実施例
【0073】
実施例1: 造血幹細胞の拡大増殖および維持のための培養プロトコルの開発
この実施例では、HSCの拡大増殖および維持のための培養培地の配合が開発された。造血幹細胞の拡大増殖および維持のための配合は、例えば臍帯血由来のCD34+細胞を培養し、かつ、Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+として特定される、当技術分野で長期HSC(LT-HSC)と呼ばれる細胞の集団を拡大増殖させるために使用できるものが開発された。
【0074】
この実施例では、Bukys et al. (2020) Iscience 23:101346に以前に記載されたような、高次元実験計画法(HD-DoE)を利用する。この方法は、複数のプロセス入力を同時に試験するためにコンピュータ化された設計ジオメトリを採用し、ディープなエフェクター/応答空間の数学的モデリングを提供する。この方法により、細胞分化のような、複雑なプロセスを制御する組み合わせ可能なシグナル伝達の入力を見つけることが可能である。これにより、複数の妥当性のある重要なプロセスパラメータの試験が可能になるが、このようなパラメータは遺伝子発現などの出力応答に影響を与える。遺伝子発現は、例えばヒト細胞の、表現型の顕著な特徴を提供するので、この方法を適用することで、どのシグナル伝達経路が細胞の運命を制御しているかを特定し、理解することができる。本実施例では、HSCの拡大増殖および維持のための条件を見つける目的で、HD-DOE法が適用された。
【0075】
具体的には、HSC用配合を開発するために、複数のシグナル伝達経路のアゴニストおよびアンタゴニスト(本明細書ではエフェクターと呼ばれる)が、3日間の処理後に2セットの予め選択された53個の遺伝子の発現に及ぼす影響を試験された。測定したサブセット中の特定の遺伝子がHSCにおいて非常に豊富であり、そうした遺伝子には、CRHBP、MLLT3、MEG3、MECOM、HOXA5、およびGATA2が含まれる。選択されたエフェクターは小分子またはタンパク質を含み、そのうちの一部がHSCのインビトロ拡大増殖中に使用される。
【0076】
エフェクターを試験するために、少なくとも8つの因子を用いる実験を計画設計した;この実験では、ある範囲の濃度のエフェクターの48以上の異なる組み合わせに対する細胞の応答を評価することができる。このモデルを解析するために、本発明者らは、CRHBP、GATA2、MLLT3、およびMEG3などの、原始HSCで発現されるまたは豊富である遺伝子の発現に焦点を当てた。各エフェクターが遺伝子発現レベルに与える影響は、モデリング中にエフェクターごとに計算される因子寄与と呼ばれるパラメータによって定義される。全ての実験は、臍帯血から単離されたCD34+細胞の集団を用いて実施した。
【0077】
HSCの拡大増殖のための配合を特定するため、細胞を、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を含む培地中で様々なエフェクターにより3日間処理し、細胞の遺伝子発現をモデル化した。1つのモデルは特に、GATA2、CRHBP、HOXA5、MECOM、およびMEG3のアップレギュレーションに関して有望な結果を示した。さらに、このモデルでは、NOTCH1のアップレギュレーションおよびMPOのダウンレギュレーションが観察された。MPOは、好中球および他の血液前駆細胞に高度に発現される骨髄系マーカーである。これまでの研究から、NOTCH1の活性化はインビボでのHSC自己複製を高めることが示されている(Stier et al. (2002) Blood 99:2369-78)。
【0078】
図1にまとめた結果に示されるように、1つのモデルは特に、GATA2の最大発現に向けて最適化された場合に有望な結果を示した。このモデルでは、8つの因子が試験された:LPA、FICZ、ピリンテグリン(Pyrintegrin)、ラミニン521、GO693、Vit. C、G-SCF、およびアクチビンA。これらのエフェクターのうち3つ(LPA、FICZ、およびVit. C)は、それぞれ20、21、および12の因子寄与を有して、対象となる遺伝子の発現に正の影響を与えた。CD44は、HSCの生成に極めて重要なプロセスである、内皮から造血への移行過程にある細胞に高度に発現される受容体である(Oatley et al. (2020) Nat Commun. 11:586)。興味深いことに、GATA2について最適化した場合、CD44の最高レベルが観察された。
【0079】
MEG3は、マウスおよびヒトHSCにおいて高度に発現され、初期前駆細胞では強くダウンレギュレートされる(Sommerkamp et el. (2019) Sci Rep 9:2110)。MEG3をその最大発現レベルにするために、本発明者らは次に、該モデルをMEG3の最大発現に向けて最適化した。Meg3の発現に顕著な正の効果を与える2つのエフェクターが特定され、アクチビンAおよびVit. Cを含み、それぞれ、23および16の因子寄与を示した(図2)。GATA2に対する因子寄与はわずかであるにもかかわらず、アクチビンAは、MEG3、HOXA5、およびMECOMを含む、HSCで豊富な他の多くの遺伝子にとって、極めて重要な因子の1つであった;それゆえに、アクチビンAを配合に含めた。
【0080】
HSCの維持および拡大増殖のための配合をさらに改善するため、追加のHD-DoE実験を行った。これらのデータから、追加の遺伝子制御モデルが作成され、拡大増殖プロトコルの準備に使用された。目標は、シグナル伝達の入力の複雑さを高める可能性がある、さらなる因子を評価して、効果的な運命制御を達成することであった。以前と同様に、本発明者らは、先に述べた、HSCで豊富な遺伝子の発現に焦点を当てた。トロポエラスチン、脂質混合物、プロピオナート、ビオチン、ゲルトレックス(geltrex)、N-アセチルシステイン、プロスタグランジンE2、およびVPAを試験する、8因子実験を行った。前回の実験と同様に、CD34+細胞を、これらの因子を組み合わせた48の条件で3日間処理し、遺伝子発現解析およびモデリングを行った。
【0081】
図3にまとめた結果に示されるように、CRHBPについて最適化した場合、1つの因子であるVPA(ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤)は、32の因子寄与を示して顕著な正の影響を与えた。プロピオナート、ビオチン、およびゲルトレックスも正の影響を与えたが、それらの因子寄与は10未満(それぞれ8、5、および6)であり、N-アセチルシステインは1未満の正の因子寄与を有していた。
【0082】
CRHBPの最適化は、HOPX(HSCの幹細胞性に必要な遺伝子)(Lin et al. (2020) Oncogene 39:5112-5123)、NOTCH1、SPINK2(新生HSCに豊富な遺伝子)、およびRUNX1(胚発生中のHSCの生成に必要な遺伝子)(North et al. (2004) Stem Cells 22:158-68)のアップレギュレーションに関して有望な結果を示した。プロピオナート、ビオチン、およびゲルトレックスはこれに関連して低い因子寄与を示し、HSCで豊富な他の遺伝子をダウンレギュレートする可能性があるため、これらの因子を除外し、VPAを維持した。同じ実験をGATA2の最大発現に向けて最適化したところ、VPA、プロスタグランジンE2、およびトロポエラスチンを含む3つのエフェクターは、33、25、および17の因子寄与を示して、GATA2の発現に顕著な正の影響を与えることが確認された(図4)。トロポエラスチンおよびプロスタグランジンE2による処理は、HSCで豊富な他の遺伝子をダウンレギュレートするため、これらの因子を除外することにしたが、VPAは維持した。
【0083】
HSCの維持および拡大増殖のための配合をさらに改善するため、追加のHD-DoE実験を行った。LPA、Yhhu 3792、フィブロネクチン、TPCA-1、GW9662、Z-vad-fmk、VEGF、およびアクチビンAからなる別の8因子実験を行った。前回の実験と同様に、CD34+細胞を、これらの因子を組み合わせた48の条件で3日間処理した後、遺伝子発現解析実験を行った。
【0084】
図5にまとめた結果に示されるように、CRHBPについて最適化した場合、1つの因子であるアクチビンA(TGFβファミリーのアゴニスト)は、26の因子寄与を示して顕著な正の影響を与え、本発明者らの以前の結果が確認された。LPA、Yhhu 3792、およびフィブロネクチンも、それぞれ8、19、および18の因子寄与を示して正の影響を与えた。CRHBPの最適化に必要な条件は、HOXA5、NOTCH1、MEG3などの他のHSC関連遺伝子をも誘導した。この条件では、LMO2およびLMO4もアップレギュレートされた。両遺伝子はHSCに豊富であるが、他の血液前駆細胞によっても発現される。配合の複雑さを軽減するため、本発明者らは、Notchシグナル伝達アゴニストであるYhhu 3792のみを含めることにした。
【0085】
解析した全てのモデルを考慮し、GATA2、CRHBP、HOXA5、MLLT3、MEG3、およびNOTCH1などの、HSCで豊富な遺伝子の発現を最大化する予測条件に基づいて、本発明者らは、HSCの維持および拡大増殖のための複雑な配合を開発した;この配合は、以下の表1に示されるように、8つのエフェクターで構成されている。
【0086】
(表1)HSCの維持および拡大増殖培養培地の配合
【0087】
実施例2: HSCの維持および拡大増殖培地の因子重要度解析
この実施例では、実施例1に記載したように特定された各検証済み因子の除外の影響を評価するために、動的プロファイル解析を使用して、最終決定された各因子の非存在下に他の因子を存在させたままで、対象となる遺伝子の発現レベルを比較した。対象となる遺伝子の発現レベルは、望ましい結果に到達できるかどうかを明らかにするので、この因子重要度解析は、各入力エフェクターの重要性の程度を明らかにした。因子FICZ、LPA、Vit. C、およびアクチビンAに関する重要度解析の結果を図6A~Bに示す。VPAに関する重要度解析の結果を図7A~Bに示す。Yhhu 3792に関する重要度解析の結果を図8A~Bに示す。
【0088】
HSCの拡大増殖用の配合では、最終決定された6つの因子のそれぞれを除去し、他の5つの因子を存在させたままで、GATA2、HOXA5、CRHBPの発現レベルを、5つ全ての因子が存在する場合と比較して評価した。SCFおよびTPOは細胞の成長および生存に影響を与えるサイトカインであるので、本発明者らの配合にもこれらのサイトカインが含まれていた。FICZを除去すると、GATA2発現の値は642から512に低下したが、HOXA5およびMEG3の発現に変化はなかった。LPAが存在しないと、GATA2の発現が減少し、644から525に低下した。Vit. Cを除去すると、MEG3のレベルは82から53に低下した。アクチビンAは、それを除去するとMEG3レベルが81から40に低下することから、MEG3にとって極めて重要な因子である。アクチビンAはGATA2およびHOXA5にも正の影響を与えるが、その程度は低い。
【0089】
VPAはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であり、HSCを拡大増殖させるために使用されてきた(Papa et al. (2018) Blood Adv. 2:2766-2779)。一般に、このクラスの薬剤はクロマチンオープニングを促進し、遺伝子のアップレギュレーションまたは抑制をもたらすことができる。VPAを除去すると、CRHBPのレベルが285から138に低下したため、VPAをHSC用配合に加えた。MEG3レベルは、VPAを除去した場合に半分に(106から52に)低下した。最後に、GATA2レベルもVPAの除去により低下したが、その程度は低かった。
【0090】
造血におけるNOTCH経路の機能は複雑で、いくつかの議論がある(例えば、Huang et al. (2021) Front. Cell Biol. DOI:10.3389/fcell.2020.606448を参照されたい)。しかし、これまでの研究で、Delta-1によるNOTCH刺激はヒトCD34+CD38-細胞の再増殖能力を高めることが示されている。Yhhu 3792は、2018年に初めて報告された新しいNOTCHアゴニストである(Lu et al. (2018) Stem Cells 36:1273-1285)。本明細書における実験は、Yhhu 3792がHSC表現型の促進因子であることを明らかにした。Yhhu 3792を除去すると、CRHBPのレベルは202から169に低下した。因子重要度解析では、入力のいずれを除去してもパフォーマンスに致命的な影響はないことが示される。これは、シグナル伝達の入力の複雑性が高く、その数が多いため、予想されることである。
【0091】
実施例3: 臍帯血HSCの維持および拡大増殖のための培養培地のフローサイトメトリー検証
実施例1に記載したHSC培養用配合をさらに検証するために、CD34+臍帯血由来細胞を、表1に示した成分を含む培地で7日間培養し、フローサイトメトリー解析を用いてLT-HSC状態のマーカーを評価した。検査したマーカーには、系列(CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56)、CD34、CD38、CD45RA、およびCD90が含まれていた。さらに、対照としてSCFおよびTPOを含む培地で細胞を培養したが、これらはHSCの拡大増殖を促進するために他者がよく利用しているものである。HSCを拡大増殖させるためによく使われる他のサイトカイン、例えばIL3、G-CSF、IL6などは使用しなかった;なぜなら、本発明者らの研究により、これらのサイトカインの存在下でCD34+細胞を培養すると、骨髄系への偏りが誘導されることが示されたからである。条件ごとに100,000個の細胞をプレーティングした。
【0092】
細胞を7日間培養した後、フローサイトメトリー解析を行った。LT-HSCの免疫表現型、すなわちLin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+を評価した。結果を図9A~Bに示す。フローサイトメトリー解析により、HSCの拡大増殖および維持を促進するためのHSC用配合の効率の良さが確認された。SCF+TPO(対照)を供給する条件では、細胞の18.3%がCD45RA-およびCD90+であった(親ゲート(CD34+CD38-)の18.3%)。対照的に、実施例1に記載した複合培地配合では、細胞の40.9%がCD45RA-およびCD90+となった(親ゲート(CD34+CD38-)の40.9%)。
【0093】
実施例4: LT-HSCの休止状態を制御するための条件の開発
LT-HSCの数を増大させた実施例1に記載した前述の条件は、連続的な拡大増殖の状況下で行われた。しかし、LT-HSCの特徴セットは常に休止と関係している;したがって、臨界レベルでは、結果として得られた拡大増殖させたCD34+細胞は、骨髄に常在するLT-HSC集団と同一ではない。その理由のため、SCFおよびTPOを含まない基礎培地で、追加のHD-DOE実験を行った。これらの実験では、計画設計は、表1の因子に加えて、SCF、TPO、FLT-3L、IGFII、Yoda-1、およびサイトスポリンBを含む、12の因子で構成された。
【0094】
1つのモデルは、その結果を図10にまとめているが、特にCRHBP、HOPX、CD34、LMO2のアップレギュレーションに関して有望な結果を示した。この実験ではCRHBPのレベルが極めて高く、1118のレベルに達した。興味深いことに、サイトカインの非存在下でCRHBPの最大発現を誘導するには、表1に示した多くの因子が必要であり、幹細胞性にとってこれらの因子が重要であることが確認された。
【0095】
最大CRHBPレベルを誘導するのに最適な条件を以下の表2に示す。
【0096】
(表2)
【0097】
表2の培地を従来のHSC培養および拡大増殖方法(SCF+TPO)と比較するために、数学的モデリングを通して、本発明者らは、従来の培地(SCF+TPO)または表2の培地のいずれかで培養した場合の、幹細胞表現型に関連する遺伝子レベルの予測値、および系列特異的遺伝子の予測値を作成した。これらの予測された遺伝子レベルを以下の表3にまとめている。
【0098】
(表3)
【0099】
予想通り、表2の配合はSCFおよびTPOを含むものではないため、この配合で細胞を培養した場合に増殖(MKI67レベル)は低かった。しかし、CRHBP、MEG3、HOPX、およびCD34などの幹細胞関連遺伝子は、SCF+TPO条件と比較して、表2の培地で高度に発現された。一方、系列拘束細胞の2つのマーカーであるKLF1およびMPOは、SCF+TPO条件で高度に発現された。
【0100】
均等物
当業者は、本明細書に記載された本発明の具体的な態様の多くの均等物を認識する、または日常的な実験だけを用いて確認することができるであろう。このような均等物は、添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-10-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持する方法であって、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路活性化剤、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む、該方法。
【請求項2】
前記c-kitリガンドが幹細胞因子(SCF)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TPORアゴニストがトロンボポエチン(TPO)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記TPORアゴニストが、エルトロンボパグ、TA-316、TPOアゴニスト1、アバトロンボパグ、またはルストロンボパグである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記TGFβ経路活性化剤がアクチビンAである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記TGFβ経路活性化剤がアラントラクトンである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗酸化物質がビタミンCである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗酸化物質が、アスコルビン酸、グルタチオン、エブセレン、N-アセチル-L-システイン、またはα-トコフェロールである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生理活性リン脂質がリゾホスファチジン酸(LPA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記生理活性リン脂質が、スフィンゴシン-1-ホスファート(S1P)、セラミド-1-ホスファート(C1P)、またはリゾホスファチジルコリン(LPC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記AhRアゴニストが6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記AhRアゴニストが、ノルイソボルジン、ピフィスリン-αヒドロブロミド、MeBIO、ITE、または10-Cl-BBQである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記NotchアゴニストがYhhu 3792である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記NotchアゴニストがJagged 1~2またはDLL1~4である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記HDAC阻害剤が、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、トリコスタチンA、モセチノスタット、4-フェニル酪酸、ACY-775、GSK3117391、ベリノスタット、ロミデプシン、MC1568、ツバスタチンA、ギビノスタット、ダシノスタット、CUDC-101、キシノスタット、プラシノスタット、PCI-34051、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、リコリノスタット、タセジナリン、フィメピノスタット、酪酸ナトリウム、クルクミン、M344、ツバシン、RG2833、レスミノスタット、ジバルプロエクスナトリウム、スクリプタイド、フェニル酪酸ナトリウム、ツバスタチンA、シナピン酸、TMP269、CAY10683、TMP195、UF010、タスキニモド、SKLb-23bb、イソグアノシン、NKL22、スルホラファン、BRD73594、シタリノスタット、スベロヒドロキサミック(suberohydroxamic)、BRD3308、スプリトマイシン、HPOB、LMK235、ビフェニル-4-スルホニルクロリド、ネクスツラスタットA、BML-210、TC-H106、SR-4370、TH34、ツシジノスタット、SIS17、パルテノリド、wt161、CAY10603、ACY738、ラッデアニンA、チノスタムスチン、ドマチノスタット、BG45、およびITSA-1からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記CD34+ HSCが臍帯血由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記CD34+ HSCが骨髄由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記CD34+ HSCが少なくとも6日間培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記CD34+ HSCが、Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+の表現型を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持する方法であって、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、アクチビンA、ビタミンC、リゾホスファチジン酸(LPA)、6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)、Yhhu 3792、およびバルプロ酸(VPA)を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む、該方法。
【請求項22】
SCFが10ng/mlの濃度で存在し、TPOが100ng/mlの濃度で存在し、アクチビンAが20ng/mlの濃度で存在し、ビタミンCが100μMの濃度で存在し、LPAが200nMの濃度で存在し、FICZが500nMの濃度で存在し、Yhhu 3792が750nMの濃度で存在し、かつVPAが150μMの濃度で存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路活性化剤、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持するための培養培地。
【請求項24】
前記c-kitリガンドが幹細胞因子(SCF)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項25】
前記TPORアゴニストがトロンボポエチン(TPO)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項26】
前記TPORアゴニストが、エルトロンボパグ、TA-316、TPOアゴニスト1、アバトロンボパグ、またはルストロンボパグである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項27】
前記TGFβ経路活性化剤がアクチビンAである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項28】
前記TGFβ経路活性化剤がアラントラクトンである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項29】
前記抗酸化物質がビタミンCである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項30】
前記抗酸化物質が、アスコルビン酸、グルタチオン、エブセレン、N-アセチル-L-システイン、またはα-トコフェロールである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項31】
前記生理活性リン脂質がリゾホスファチジン酸(LPA)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項32】
前記生理活性リン脂質が、スフィンゴシン-1-ホスファート(S1P)、セラミド-1-ホスファート(C1P)、またはリゾホスファチジルコリン(LPC)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項33】
前記AhRアゴニストが6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項34】
前記AhRアゴニストが、ノルイソボルジン、ピフィスリン-αヒドロブロミド、MeBIO、ITE、または10-Cl-BBQである、請求項23に記載の培養培地。
【請求項35】
前記NotchアゴニストがYhhu 3792である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項36】
前記NotchアゴニストがJagged 1~2またはDLL1~4である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項37】
前記HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、請求項23に記載の培養培地。
【請求項38】
前記HDAC阻害剤が、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、トリコスタチンA、モセチノスタット、4-フェニル酪酸、ACY-775、GSK3117391、ベリノスタット、ロミデプシン、MC1568、ツバスタチンA、ギビノスタット、ダシノスタット、CUDC-101、キシノスタット、プラシノスタット、PCI-34051、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、リコリノスタット、タセジナリン、フィメピノスタット、酪酸ナトリウム、クルクミン、M344、ツバシン、RG2833、レスミノスタット、ジバルプロエクスナトリウム、スクリプタイド、フェニル酪酸ナトリウム、ツバスタチンA、シナピン酸、TMP269、CAY10683、TMP195、UF010、タスキニモド、SKLb-23bb、イソグアノシン、NKL22、スルホラファン、BRD73594、シタリノスタット、スベロヒドロキサミック、BRD3308、スプリトマイシン、HPOB、LMK235、ビフェニル-4-スルホニルクロリド、ネクスツラスタットA、BML-210、TC-H106、SR-4370、TH34、ツシジノスタット、SIS17、パルテノリド、wt161、CAY10603、ACY738、ラッデアニンA、チノスタムスチン、ドマチノスタット、BG45、およびITSA-1からなる群より選択される、請求項23に記載の培養培地。
【請求項39】
幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、アクチビンA、ビタミンC、リゾホスファチジン酸(LPA)、6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)、Yhhu 3792、およびバルプロ酸(VPA)を含む、請求項23に記載の培養培地。
【請求項40】
SCFが10ng/mlの濃度で存在し、TPOが100ng/mlの濃度で存在し、アクチビンAが20ng/mlの濃度で存在し、ビタミンCが100μMの濃度で存在し、LPAが200nMの濃度で存在し、FICZが500nMの濃度で存在し、Yhhu 3792が750nMの濃度で存在し、かつVPAが150μMの濃度で存在する、請求項39に記載の培養培地。
【請求項41】
ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)の単離された細胞培養物であって、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路活性化剤、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+ HSCを含む、該培養物。
【請求項42】
ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を維持する方法であって、
TGFβ経路活性化剤、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階
を含み、
該培養培地が、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、
該方法。
【請求項43】
前記TGFβ経路活性化剤がアクチビンAであり、前記生理活性リン脂質がリゾホスファチジン酸(LPA)であり、前記AhRアゴニストが6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)であり、かつ前記HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記LT-HSCが、CRHBP、HOPX、およびLMO2をも発現するCD34+細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
TGFβ経路活性化剤、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を維持するための培養培地であって、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、該培養培地。
【請求項46】
TGFβ経路活性化剤、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を含む、ヒトCD34+ LT-HSCの単離された細胞培養物であって、
該培養培地が、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、
該培養物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0037
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0037】
[本発明1001]
ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持する方法であって、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む、該方法。
[本発明1002]
前記c-kitリガンドが幹細胞因子(SCF)である、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記TPORアゴニストがトロンボポエチン(TPO)である、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記TPORアゴニストが、エルトロンボパグ、TA-316、TPOアゴニスト1、アバトロンボパグ、またはルストロンボパグである、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記TGFβ経路アゴニストがアクチビンAである、本発明1001の方法。
[本発明1006]
前記TGFβ経路アゴニストがアラントラクトンである、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記抗酸化物質がビタミンCである、本発明1001の方法。
[本発明1008]
前記抗酸化物質が、アスコルビン酸、グルタチオン、エブセレン、N-アセチル-L-システイン、またはα-トコフェロールである、本発明1001の方法。
[本発明1009]
前記生理活性リン脂質がリゾホスファチジン酸(LPA)である、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記生理活性リン脂質が、スフィンゴシン-1-ホスファート(S1P)、セラミド-1-ホスファート(C1P)、またはリゾホスファチジルコリン(LPC)である、本発明1001の方法。
[本発明1011]
前記AhRアゴニストが6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)である、本発明1001の方法。
[本発明1012]
前記AhRアゴニストが、ノルイソボルジン、ピフィスリン-αヒドロブロミド、MeBIO、ITE、または10-Cl-BBQである、本発明1001の方法。
[本発明1013]
前記NotchアゴニストがYhhu 3792である、本発明1001の方法。
[本発明1014]
前記NotchアゴニストがJagged 1~2またはDLL1~4である、本発明1001の方法。
[本発明1015]
前記HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、本発明1001の方法。
[本発明1016]
前記HDAC阻害剤が、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、トリコスタチンA、モセチノスタット、4-フェニル酪酸、ACY-775、GSK3117391、ベリノスタット、ロミデプシン、MC1568、ツバスタチンA、ギビノスタット、ダシノスタット、CUDC-101、キシノスタット、プラシノスタット、PCI-34051、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、リコリノスタット、タセジナリン、フィメピノスタット、酪酸ナトリウム、クルクミン、M344、ツバシン、RG2833、レスミノスタット、ジバルプロエクスナトリウム、スクリプタイド、フェニル酪酸ナトリウム、ツバスタチンA、シナピン酸、TMP269、CAY10683、TMP195、UF010、タスキニモド、SKLb-23bb、イソグアノシン、NKL22、スルホラファン、BRD73594、シタリノスタット、スベロヒドロキサミック(suberohydroxamic)、BRD3308、スプリトマイシン、HPOB、LMK235、ビフェニル-4-スルホニルクロリド、ネクスツラスタットA、BML-210、TC-H106、SR-4370、TH34、ツシジノスタット、SIS17、パルテノリド、wt161、CAY10603、ACY738、ラッデアニンA、チノスタムスチン、ドマチノスタット、BG45、およびITSA-1からなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1017]
前記CD34+ HSCが臍帯血由来である、本発明1001の方法。
[本発明1018]
前記CD34+ HSCが骨髄由来である、本発明1001の方法。
[本発明1019]
前記CD34+ HSCが少なくとも6日間培養される、本発明1001の方法。
[本発明1020]
前記CD34+ HSCが、Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+の表現型を有する、本発明1001の方法。
[本発明1021]
ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持する方法であって、幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、アクチビンA、ビタミンC、リゾホスファチジン酸(LPA)、6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)、Yhhu 3792、およびバルプロ酸(VPA)を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階を含む、該方法。
[本発明1022]
SCFが10ng/mlの濃度で存在し、TPOが100ng/mlの濃度で存在し、アクチビンAが20ng/mlの濃度で存在し、ビタミンCが100μMの濃度で存在し、LPAが200nMの濃度で存在し、FICZが500nMの濃度で存在し、Yhhu 3792が750nMの濃度で存在し、かつVPAが150μMの濃度で存在する、本発明1021の方法。
[本発明1023]
c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)を拡大増殖させるまたは維持するための培養培地。
[本発明1024]
前記c-kitリガンドが幹細胞因子(SCF)である、本発明1023の培養培地。
[本発明1025]
前記TPORアゴニストがトロンボポエチン(TPO)である、本発明1023の培養培地。
[本発明1026]
前記TPORアゴニストが、エルトロンボパグ、TA-316、TPOアゴニスト1、アバトロンボパグ、またはルストロンボパグである、本発明1023の培養培地。
[本発明1027]
前記TGFβ経路アゴニストがアクチビンAである、本発明1023の培養培地。
[本発明1028]
前記TGFβ経路アゴニストがアラントラクトンである、本発明1023の培養培地。
[本発明1029]
前記抗酸化物質がビタミンCである、本発明1023の培養培地。
[本発明1030]
前記抗酸化物質が、アスコルビン酸、グルタチオン、エブセレン、N-アセチル-L-システイン、またはα-トコフェロールである、本発明1023の培養培地。
[本発明1031]
前記生理活性リン脂質がリゾホスファチジン酸(LPA)である、本発明1023の培養培地。
[本発明1032]
前記生理活性リン脂質が、スフィンゴシン-1-ホスファート(S1P)、セラミド-1-ホスファート(C1P)、またはリゾホスファチジルコリン(LPC)である、本発明1023の培養培地。
[本発明1033]
前記AhRアゴニストが6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)である、本発明1023の培養培地。
[本発明1034]
前記AhRアゴニストが、ノルイソボルジン、ピフィスリン-αヒドロブロミド、MeBIO、ITE、または10-Cl-BBQである、本発明1023の培養培地。
[本発明1035]
前記NotchアゴニストがYhhu 3792である、本発明1023の培養培地。
[本発明1036]
前記NotchアゴニストがJagged 1~2またはDLL1~4である、本発明1023の培養培地。
[本発明1037]
前記HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、本発明1023の培養培地。
[本発明1038]
前記HDAC阻害剤が、ボリノスタット、エンチノスタット、パノビノスタット、トリコスタチンA、モセチノスタット、4-フェニル酪酸、ACY-775、GSK3117391、ベリノスタット、ロミデプシン、MC1568、ツバスタチンA、ギビノスタット、ダシノスタット、CUDC-101、キシノスタット、プラシノスタット、PCI-34051、ドロキシノスタット、アベキシノスタット、RGFP966、AR-42、リコリノスタット、タセジナリン、フィメピノスタット、酪酸ナトリウム、クルクミン、M344、ツバシン、RG2833、レスミノスタット、ジバルプロエクスナトリウム、スクリプタイド、フェニル酪酸ナトリウム、ツバスタチンA、シナピン酸、TMP269、CAY10683、TMP195、UF010、タスキニモド、SKLb-23bb、イソグアノシン、NKL22、スルホラファン、BRD73594、シタリノスタット、スベロヒドロキサミック、BRD3308、スプリトマイシン、HPOB、LMK235、ビフェニル-4-スルホニルクロリド、ネクスツラスタットA、BML-210、TC-H106、SR-4370、TH34、ツシジノスタット、SIS17、パルテノリド、wt161、CAY10603、ACY738、ラッデアニンA、チノスタムスチン、ドマチノスタット、BG45、およびITSA-1からなる群より選択される、本発明1023の培養培地。
[本発明1039]
幹細胞因子(SCF)、トロンボポエチン(TPO)、アクチビンA、ビタミンC、リゾホスファチジン酸(LPA)、6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)、Yhhu 3792、およびバルプロ酸(VPA)を含む、本発明1023の培養培地。
[本発明1040]
SCFが10ng/mlの濃度で存在し、TPOが100ng/mlの濃度で存在し、アクチビンAが20ng/mlの濃度で存在し、ビタミンCが100μMの濃度で存在し、LPAが200nMの濃度で存在し、FICZが500nMの濃度で存在し、Yhhu 3792が750nMの濃度で存在し、かつVPAが150μMの濃度で存在する、本発明1039の培養培地。
[本発明1041]
ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)の単離された細胞培養物であって、c-kitリガンド、TPORアゴニスト、TGFβ経路アゴニスト、抗酸化物質、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、Notchアゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+ HSCを含む、該培養物。
[本発明1042]
ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を維持する方法であって、
TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で、ヒトCD34+ HSCを培養する段階
を含み、
該培養培地が、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、
該方法。
[本発明1043]
前記TGFβ経路アゴニストがアクチビンAであり、前記生理活性リン脂質がリゾホスファチジン酸(LPA)であり、前記AhRアゴニストが6-ホルミルインドロ[3,2-b]カルバゾール(FICZ)であり、かつ前記HDAC阻害剤がバルプロ酸(VPA)である、本発明1042の方法。
[本発明1044]
前記LT-HSCが、CRHBP、HOPX、およびLMO2をも発現するCD34 + 細胞である、本発明1042の方法。
[本発明1045]
TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む、ヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を維持するための培養培地であって、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、該培養培地。
[本発明1046]
TGFβ経路アゴニスト、生理活性リン脂質、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト、およびヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含む培養培地中で培養されたヒトCD34+長期造血幹細胞(LT-HSC)を含む、ヒトCD34+ LT-HSCの単離された細胞培養物であって、
該培養培地が、幹細胞因子(SCF)およびトロンボポエチン(TPO)を欠いている、
該培養物。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【国際調査報告】