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特表2024-541625環境バリアコーティングの合成のためのハイブリッド化学物理蒸着プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】環境バリアコーティングの合成のためのハイブリッド化学物理蒸着プロセス
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C23C14/08 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532498
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2022000107
(87)【国際公開番号】W WO2023099022
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】63/284,243
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ディエンイン
(72)【発明者】
【氏名】ビドリッヒ,ベノ
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ユルゲン
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA04
4K029BA03
4K029BA35
4K029BA50
4K029CA01
4K029DB03
4K029DB05
4K029DB17
4K029EA01
4K029EA04
4K029EA08
4K029FA01
4K029GA01
(57)【要約】
Si系セラミックマトリクス複合(CMC)材料を高温での酸化および揮発から保護する環境バリアコーティングシステム(EBC)の合成のための製造プロセスが開示される。製造プロセスは真空中で行われ、ケイ素ボンドコートおよび酸素含有バリアコーティングを堆積させる工程を含む。このプロセスは、プラズマ、好ましくは貫通およびアーク放電によって支持され、シラン等のガス前駆体の完全な解離をもたらす。プラズマは、連続したプロセスチェーンにおける基板の前処理にも使用される。必須の真空およびプラズマ成分を有する堆積システム、ならびにこのプロセスによって製造されたEBCコーティングが開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に環境バリアコーティング(EBC)システムを製造するための製造プロセスであって、ケイ素ボンドコートを堆積させる工程と、酸素含有バリアコーティングを堆積させる少なくとも1つの工程と、を含み、
前記製造プロセスが、真空環境で実施されることを特徴とする、製造プロセス。
【請求項2】
前記製造プロセスが、ケイ素ボンドコートを堆積させる前記工程の前に真空環境で実施される少なくとも1つの基板前処理工程を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記少なくとも1つの基板前処理工程およびケイ素ボンドコートを堆積させる前記工程、ならびに酸素含有バリアコーティングを堆積させる前記少なくとも1つの工程が、前記プロセス工程中または前記プロセス工程間に真空を中断することなく、真空プロセスの一部であることを特徴とする、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記真空環境が、プラズマを含むことを特徴とする、請求項1、2または3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記プラズマ環境が、少なくとも1つのアーク放電によって、好ましくは少なくとも1つの希ガス中で、最も好ましくはアルゴン中で作製されることを特徴とする、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアーク放電が、20A~1000Aの範囲の放電電流および15V~100Vの範囲の放電電圧で動作されることを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記少なくとも1つのアーク放電が、少なくとも1つのケイ素含有前駆体を解離させるために利用されることを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
前記プロセスが、600℃未満の前記基板の温度で実施されることを特徴とする、請求項1または請求項4に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ケイ素ボンドコートが、0.01μm~500μmの範囲の厚さまで堆積されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記ケイ素ボンドコートが、堆積後に酸化されることを特徴とする、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ケイ素ボンドコートが、少なくとも1つのスパッタリング源から少なくとも1つのドーピング元素をスパッタリングすることによってドープされることを特徴とする、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
前記少なくとも1つのドーピング元素が、Al、B、C、O、N、Ga、In、P、Li、Na、K、Ca、Mg、SrおよびBaから選択される1つ以上の元素である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記酸素含有バリアコーティングが、少なくとも1つの金属ターゲットの陰極アーク蒸発によって生成され、前記金属ターゲットがAlを含むか、または少なくとも1つの希土類元素を含むことを特徴とする、請求項1または4に記載のプロセス。
【請求項14】
前記アーク蒸発が、酸素含有環境で実施されることを特徴とする、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
少なくとも1つのケイ素含有前駆体が、前記少なくとも1つの金属ターゲットの陰極アーク蒸発に同時に導入されることを特徴とする、請求項13に記載のプロセス。
【請求項16】
前記ケイ素前駆体が、1sccm~10l/mの流量範囲、好ましくは10sccm~1l/mの流量範囲で導入されることを特徴とする、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記酸素含有バリアコーティングが、相YbSiOおよびYbSiOを含むことを特徴とする、請求項13、14または15に記載のプロセス。
【請求項18】
前記酸素含有バリアコーティングが、少なくとも1つのYb-Si-O相および少なくとも1つの第2のタイプの相を含み、前記第2のタイプの相が、AlO、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物のうちの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項13、14または15に記載のプロセス。
【請求項19】
前記前処理が、表面酸化物、特にSi系基板の場合には酸化ケイ素の厚さを30nm未満、好ましくは10nm未満の厚さに減少させることを特徴とする、請求項2に記載のプロセス。
【請求項20】
前記基板が、セラミックマトリクス複合材料(CMC)からなるか、またはCMCを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項21】
請求項1に記載のプロセスを用いて環境バリアコーティングを製造するための堆積システムであって、前記堆積システムが、少なくとも1つの真空堆積チャンバと、少なくとも1つのポンピングシステムと、少なくとも1つのプラズマ源とを備えることを特徴とする、堆積システム。
【請求項22】
基板上に堆積され、前記基板と前記ケイ素ボンドコートとの間の界面が鋭利であり、気孔がないことを特徴とする、請求項1に従って製造された環境バリアコーティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の範囲
本発明は、Si系セラミックマトリクス複合(CMC:Ceramic Matrix Composite)材料を高温での酸化および揮発から保護する環境バリアコーティング(EBC:environmental barrier coating)を合成するための堆積技術および堆積プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
炭化ケイ素(SiC:silicon carbide)および窒化ケイ素系セラミックマトリクス複合材(CMC)材料(両方ともここでは「Si系CMC材料」として要約される)は、それらの高い比強度およびそれらの高温安定性のために、次世代ガスタービンエンジンのホットセクションに選択される材料である。しかしながら、CMCは水蒸気環境で急速な損耗を経験し、CMC構成要素の機械的強度および構造的完全性の低下をもたらす。したがって、Si系CMCは、これらのCMC材料の表面損耗を防止するためにセラミック環境バリアコーティング(EBC)によって保護される必要がある。コーティング設計のための手法は、ボンドコート(接着層)と特定のSi系材料専用の化学バリアとの組み合わせに基づいている。SiC系材料について、ボンドコートおよびバリア層からなるいくつかの組み合わせが過去に研究されてきた。有望なEBCシステムは、基板に塗布されたケイ素ボンドコートと、それに続く希土類ケイ酸塩保護コーティング層とからなる。希土類ケイ酸塩の中でも、YbSiOは、水蒸気含有環境での低い損耗速度、1850℃の溶融温度までの優れた相安定性、およびケイ素ベースのCMC基板と合理的によく適合した熱膨張係数(CTE:coefficient of thermal expansion)のために、最も有望な候補であると思われる。
【0003】
ガスタービンの高温部分で利用されるSiC系部品上にこのようなコーティングを堆積させるための様々な手法がある。
【0004】
空気プラズマスプレープロセス(APS:Air plasma spray process)は、高密度EBC堆積に広く使用されている。この技術の利点は、低コスト、高い堆積速度および広い組成柔軟性である。しかしながら、ブレードおよびベーン等の複雑な形状のエンジン部品をコーティングする場合、APSプロセスは、不均一なコーティング微細構造および厚さを引き起こす噴霧距離および噴霧角の変動のために困難である。更に、APS多層コーティングおよび特定の核生成プロセスにおける界面の制御は、大気条件での堆積のために困難な可能性がある。したがって、コーティング微細構造および特性のより良好な制御を可能にする、異なるエンジン構成要素用途のためのEBC堆積のための新規なプロセス手法が必要とされている。
【0005】
米国特許出願公開第2020/0039892号A1には、EBCコーティングの一部としてのケイ素ボンドコートの堆積のための化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition)が記載されている。このプロセスは、約115torr~約150torrの範囲の堆積圧力で実現され、約15300Pa~約20000Paの範囲に対応し、ケイ素含有前駆体を利用する。しかし、前駆体を解離させて結晶性Siコーティング堆積物を得るために必要な堆積温度は900℃を超え、基板温度は約1100℃が好ましい。高い堆積温度は、SiC/SiC CMC基板の酸化を引き起こし、その機械的特性を低下させる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的
本発明では、EBCコーティングの堆積のためのハイブリッド化学/物理蒸気プロセスが開発された。典型的なEBCコーティングは、図1に示す層スタックからなる。ハイブリッドCVD/PVDプロセスは、真空を中断することなく比較的低い堆積温度で完全なEBC層スタックの堆積を可能にする。コーティングは、SiボンドコートおよびYb-Si-Oトップコートから構成され、追加のコーティングを含んでもよい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
図1は、以下を示す:
1 Si系CMC基板
2 ケイ素ボンドコートとの界面(任意)
3a,3b ボンドコート内の形態(例えば、粒径)または組成(例えば、ドーピングの組み込み)に関する修飾を有し得るケイ素ボンドコート
4 ボンドコートおよび/またはバリアコーティングとは組成および構造が異なり得るバリアコーティング(例えばケイ酸塩)への遷移層
5 バリアコーティング、ここでは一例としてYb-Si-O
6 バリアコーティングの特性、すなわち耐侵食性、水蒸気安定性、CMAS耐性等を改善するためのトップコート(任意)
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のプロセスによって堆積された層スタックの概略図。層スタック全体(ボンドコートおよびバリアコーティングならびに全ての追加の界面コーティング)は、プロセス真空を中断することなく、すなわち1つのプロセスシーケンスおよびプラズマ環境で堆積される。
図2】本発明のプロセスによるケイ素ボンドコートの堆積のプロセス工程のシーケンス。
図3】10nm~50nmの柱状幅を示す柱状形態を有するケイ素ボンドコートのTEM断面顕微鏡写真。
図4】SiC基板内に転位を形成しながら1400℃でアニーリングした後のSiC-ケイ素ボンドコート界面のBF-TEM断面図。
図5】SiC前処理/ケイ素ボンドコート/バリアコーティングからなる完全なEBC層スタックの堆積のためのプロセスシーケンスの例。
図6】1400℃でアニーリングされたSiC-ケイ素ボンドコート-Al35SiO60層スタックの走査型電子顕微鏡(SEM)断面顕微鏡写真。
図7】ケイ素ボンドコート(3μm)およびYb-Si-Oバリアコーティング(6μm)を有するSiC基板のTEM断面図。
図8】1400℃でアニーリングした後の、ケイ素ボンドコート(3μm)およびYb-Si-Oバリアコーティング(6μm)を有するSiC基板のTEM断面図。
図9】ハイブリッド蒸着プロセスを使用した堆積されたままのYb-Si-O/Si EBCのSEM画像。
図10】基板前処理、ケイ素ボンドコートおよびバリアコーティングの堆積のプロセスシーケンスを含むPVD/CVDハイブリッドプロセスの堆積システムの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の説明
以下では、図1を参照して、具体的な層スタックについて本発明を説明する。説明は、例としてのみ意図されており、本発明のより広い範囲を限定すると理解されるべきではない。
【0010】
本発明は、EBC堆積のためのプラズマ活性化化学蒸着(CVD)および物理蒸着(PVD:physical vapor deposition)プロセスの組み合わせを使用する。プラズマ中の蒸気の活性化は、従来のCVDよりもはるかに低い温度でのコーティング堆積を可能にする方法である。これは、米国特許出願第2020/0039892号A1で使用されているような従来の化学蒸着とは著しく異なる。
【0011】
技術水準と本発明のプロセスとの間のより良い理解のために、プロセス工程の順序は、それぞれ、ケイ素ボンドコートの堆積については図2を参照し、完全なEBCについては図5を参照して説明される。図10には、本発明のプロセスによるEBCの堆積を可能にする堆積システムの概略図が示されている。
【0012】
ケイ素ボンドコートは、EBC層システムとの関連において、CMC表面との優れた化学適合性および結合適合性を示すSi層である。更に、ケイ素ボンドコーティングは、CMC基板の熱膨張係数(CTE)に近い熱膨張係数を有していなければならない。ケイ素ボンドコートは、典型的には、Siに加えて合金元素を含み得る均質な層である。
【0013】
ここで、ケイ素ボンドコートの堆積を図2を参照して説明する。プロセス100は、基板装填工程101と、堆積チャンバをポンプダウンする工程102と、基板を必要な温度に加熱する工程103と、プラズマによる基板の前処理工程104と、ガスアーク放電およびケイ素前駆体を開始する工程105と、ガス源または固体源からの任意のドーピング工程106と、ケイ素ボンドコートの堆積工程107と、システムを冷却する工程108と、基板を排気および装填解除する工程109とを含む。工程103~107は、プラズマ110を利用するプロセス工程である。
【0014】
基板を清浄化し、基板上の自然酸化物を除去するために使用される前処理工程104が導入される。プラズマは、堆積温度を低下させるのに役立つことに加えて、Si系基板の前処理に不可欠な役割を果たす。Si系基板の表面の自然酸化物は、後続のケイ素ボンドコートの良好な接着を妨げる可能性があり、したがって除去する必要がある。自然酸化物の除去は、酸化物を還元し、汲み出される酸素を含む揮発性化合物を形成するために利用される反応性ガスのプラズマ活性化によって行われる。水素放電からの原子状水素またはイオン化水素の発生は、そのような反応性表面の前処理または清浄化の一例である。ここで、放電電流200A、放電電圧50V、アルゴン流量60sccm(標準立方センチメートル/分)、水素流量300sccmのアルゴン/水素放電を使用した。このようなプロセスでは、遊離性炭素汚染も揮発する。これらの酸化物または炭素汚染の典型的な厚さは、10nm程度である。
【0015】
清浄化されたままの基板表面を周囲に暴露すると、そのような前処理された表面は、真空堆積技術の当業者に知られているように、周囲雰囲気中のガスとの反応の影響を受けやすいため、処理されたままの基板表面の即時の再汚染をもたらす。したがって、EBC、ケイ素ボンドコートの堆積のための次のプロセス工程への真空破壊のない直接遷移がなければならない。この全ての表面前処理、清浄化および制御された真空環境は、Si系基板上のケイ素ボンドコートの核生成プロセスのより良好な制御、したがって界面のより良好な形成を確実にする。
【0016】
界面の形成は、本発明のプロセスを利用して合成されたケイ素ボンドコートを示す図3に示されている。図3は、シラン前駆体(SiH)から堆積された厚さ3μmのケイ素ボンドコートを示す。シランの解離および活性化は、80sccmのAr流量および120Aのアーク放電電流および75Vのアーク電圧でのアルゴン作動ガス中のアーク放電によって達成された。250sccmのシラン流を利用した。堆積中の基板温度は550℃であった。図3は、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって得られた炭化ケイ素基板におけるケイ素コーティングの断面図である。界面は約200nmの厚さの核生成ゾーンからなり、この核生成ゾーンの後に柱状成長への遷移が見られ、本発明のプロセスが低温で既にケイ素の柱状成長を達成する可能性を実証している。Siコーティング(図3)は、セグメント化された耐歪微細構造を有する。
【0017】
本発明との関連では、真空は、1×10Pa未満であるが1×10-6Pa以上の圧力として理解される。100Pa~0.001Paの圧力範囲が最も好ましい。1×10Paを超える圧力は汚染のリスクを高め、一方、1×10-6Pa未満の圧力は、真空ポンプ等の特別な材料および機器が必要とされる超高真空範囲に及ぶ。
【0018】
SiC基板上に堆積されたケイ素ボンドコートのTEMによって得られた断面顕微鏡写真は、柱状成長を達成することができ、本発明のプラズマ処理が低温でのケイ素ボンドコートの核生成および成長を制御するための適切な技術であることを実証している。
【0019】
ケイ素ボンドコートの基板への優れた接着は、基板表面に転位が形成されることを特徴とする。これを図4に示す。明視野(BF)TEM断面は、SiC基板と薄いケイ素ボンドコートとの間の界面を示す。顕微鏡写真は、SiCとケイ素ボンドコートとの間の良好な品質の界面の印象を与える。界面は鋭利であり、目に見える気孔はない。アニール後にケイ素ボンドコートによってSiC基板内に発生した転位は、このSiC-Si界面の優れた接着性および安定性を証明している。上記の意見を参照すると、この界面は、約550℃の基板温度でのSiC表面のプラズマ処理と、真空を中断することのない、プラズマ環境での再度のケイ素ボンドコートの堆積とからなる真空プロセスシーケンスで形成された。
【0020】
本発明のプロセスの別の特徴は、ガス前駆体、この例ではシランの解離のためのアーク放電の利用である。アーク放電の高い電子電流密度、このような放電の典型的なパラメータは、15V~100Vの電圧で20A~1000Aであり、前駆体の完全な解離をもたらす。これは、前駆体を含むシステムに供給されたSiの約100%がチャンバ内で反応することを意味する。これは、いくらかの量の未反応のSi含有(ケイ素含有)前駆体がポンピングされて除去される他のタイプのプラズマCVDプロセスとは異なる。完全な解離はまた、水素を含まないか、または堆積したままのケイ素ボンドコート中にごくわずかな水素含有量しか示さないケイ素コーティングを生成する。これは、水素が不安定化に寄与するため、高温でのケイ素ボンドコートの安定性に強く寄与する。ケイ素ボンドコート中の水素含有量は、弾性反跳検出(Elastic Recoil Detection)によって測定され、5at.%未満、通常は更に3at.%未満である。本発明のプロセスのこれらの特徴は、600℃未満の適温および低い基板温度で実現されることが重要である。
【0021】
Siボンドコートの堆積は、ケイ素含有前駆体のプラズマ活性化および解離によって実現される。様々なケイ素含有ガスをSi含有前駆体として使用することができ、以下の1つ以上の化学物質:シラン、ジシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、四塩化ケイ素、メチルシラン、四フッ化ケイ素、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、ヘキサクロロジシラン等を含み得る。ケイ素含有前駆体ガスの典型的な流量は、1sccm~10l/m、好ましくは10sccm~1l/mの範囲である。以下の実験では、シランを前駆体として使用する。前駆体の活性化には、アーク放電が利用される。このアーク放電は、10A~400Aの間の電子電流および15V~100Vの間の放電電圧を特徴とする。アーク放電は、アルゴン等の希ガス中での放電によって、または金属ターゲットの陰極アーク蒸発によって発生させることができる。アーク放電の高い電子電流は、ケイ素含有前駆体の解離に非常に効率的である。これは、600℃未満の基板温度で高い堆積速度を有するケイ素コーティングを合成するための前提条件である。前駆体中のケイ素の利用度は、チャンバ内に堆積したケイ素原子と前駆体によってチャンバに供給されたケイ素原子との比として決定される。本発明のプロセスによる利用度は、80%超、好ましくは90%超である。アルゴンプラズマガスによって高められたケイ素含有前駆体の非常に効率的な解離のために、コーティング堆積速度は、300℃~600℃の範囲内で基板温度からの依存性をほとんど示さない。これは、基板温度が堆積速度に支配的な影響を及ぼす従来の熱CVD技術を超える利点である。
【0022】
本発明のプロセスの別の利点は、プラズマ活性化堆積を追加のドーピング源と組み合わせる可能性である。一例として、ケイ素ボンドを別の元素でドープするために、プロセス技術は、ケイ素含有前駆体を追加のガス前駆体、例えば炭素もしくはホウ素含有前駆体またはこれらの組み合わせで実行することを可能にする。更に、本発明のプロセスは、固体源と組み合わせてケイ素含有前駆体からの同時蒸発も可能にする。固体源は、特に、陰極アーク蒸発またはスパッタリングによる金属または半金属の揮発であり得る。一例として、ケイ素ボンドコート堆積のための上述のプロセスパラメータを利用して、アルミニウムターゲットを有する追加のスパッタ源を開始して、アルミニウムによるケイ素ボンドコートのドーピングをもたらすことができる。また、スパッタリングまたは陰極アーク蒸発のための他のターゲットを、ケイ素ボンドコートに適切な元素をドープするために利用することができる。以下の元素:Al、B、C、O、N、Ga、In、P、Li、Na、K、Ca、Mg、Sr、Baのうちの1つ以上を含む化学物質をケイ素ボンドコートに組み込むことができる。
【0023】
図2では、全てのプラズマ強化プロセス工程が破線で枠付けされている。全てのプラズマベースの工程は、真空を中断することなく、すなわち、ケイ素ボンドコート堆積を完了した後に堆積システムを排気するまで基板装填からプロセスチェーン全体にわたって実施されることが分かる。中断のない真空プロセスは、真空が中断されるプロセスと比較して汚染が低減されるという利点を有する。
【0024】
基板の前処理およびケイ素ボンドコートの堆積に加えて、本発明のプロセスは、完全なEBC層スタックの合成も含む。本発明のプロセスでは、この完全なプロセスシーケンスも1つのプロセスで、すなわち真空中断なしで実現される。これは、図5に示すプロセスシーケンスに示されている。完全なEBCコーティングシステムの堆積は、基板前処理およびケイ素ボンドコートの堆積ならびにバリアトップコーティングの堆積を含む。その最も単純な形態では、バリアトップコーティングの堆積は、ケイ素ボンドコートの堆積の直後に実施される。しかしながら、例えば水蒸気/酸素拡散バリアを強化する目的で、必要なケイ素ボンドコートとバリアコーティングとの間に追加の適応がある場合、追加の層を組み込むことができる。プロセスシーケンス200は、典型的には、SiC-CMC基板201を装填する工程と、堆積チャンバをポンプダウンする工程202と、基板を適温に加熱する工程203と、プラズマによる基板の前処理工程204と、ガスアーク放電およびケイ素前駆体を開始する工程205と、ケイ素ボンドコートの堆積工程206と、Meターゲットの陰極アーク放電を開始する工程207と、ケイ素前駆体(任意)および酸素を開始する工程208と、Me-Si-Oバリアコーティングの堆積工程209と、システムを冷却する工程210と、EBCを含むSiC-CMCを排気および装填解除する工程211とを含む。図5では、プラズマベースのプロセス工程203~209の全てが破線212で枠付けされている。全てのプラズマベースの工程は、真空を中断することなく実施されることが分かる。したがって、真空は、基板装填の工程からEBC層スタック全体の完成後に堆積システムを排気するまで破壊されない。
【0025】
EBCコーティングシステムでは、バリアコーティングは、ケイ素ボンドコーティングとバリアコーティングまたは最上層との間の化学バリアとして機能する。バリアコーティングは、EBCに損傷を与える可能性のある化学反応を回避しなければならない。バリアコーティングは、ボンドコーティングを酸化から保護しなければならず、理想的には水蒸気攻撃に対して耐性でなければならない。
【0026】
図6は、SiC基板、ケイ素ボンドコートおよびAl-Si-Oバリアコーティングからなる本発明のプロセスによる完全なEBC層スタックの第1の例を示す。この実施例では、シラン源を利用して、厚さ29μmのケイ素ボンドコートを前処理されたSiC基板上に堆積させた。シランは、ケイ素ボンドコート合成のためのアーク放電において活性化および解離された。アーク放電電流は120A、放電電圧は75V、アルゴンガス流量は80sccm、シラン流量は250sccmであった。ケイ素ボンドコートの堆積に続いて、145Aのアーク電流を利用し、220sccmの流量の酸素、および66の流量のシランをこの放電に添加して、アルミニウムターゲットをカソードとして利用する陰極アーク蒸発を開始した。堆積温度は、550℃であった。これらのパラメータを用いて、30μmのAl-Si-OをAl35SiO60の原子組成で堆積させた。この堆積において、コーティング中のAlの含有量を、Alターゲットからの蒸発速度とシラン前駆体のフローによるコーティングのSi含有量によって制御した。Al-Si-Oの完全酸化を達成するために、酸素流量を調整した。図6は、1400℃でアニーリングした後のコーティングを示す。界面は鋭利であり、ケイ素ボンドコートとSiCとの間にもケイ素ボンドコートとAl-Si-Oバリアコーティングとの間にも気孔は形成されない。
【0027】
本発明のプロセスによって生成されたコーティングシステムの別の例を図7に示す。この図は、SiC基板上に堆積されたケイ素ボンドコートおよび緻密Yb-Si-OバリアコーティングからなるEBC層スタックを示す。図は、堆積時の層スタックのTEM断面を示す。界面は鋭く、気孔がなく、良好なコーティング接着性を示す。この断面では、ケイ素ボンドコート堆積中におそらく欠陥である少数の液滴および陰極アーク蒸発による液滴が見える。これらの液滴および欠陥は、コーティングシステムの機能性にとって重要ではないと推測され、通常、アニーリング中に消失する(図8に実証される)。基板表面を反応性プラズマによって前処理し、80sccmのアルゴン流および250sccmのシラン流を利用して、120Aの放電電流および75Vの放電電圧でのアルゴンアーク放電において、3μmの薄いケイ素ボンドコートを堆積させた。ケイ素ボンドコートを堆積させた後、イッテルビウム元素ターゲットからイッテルビウムを蒸発させ、これを陰極アーク蒸発のカソードとして使用した。120Aのアーク電流を利用してイッテルビウム(Yb)ターゲットを蒸発させ、200sccmのシラン流および400sccmの酸素流を利用してYb-Si-Oバリアコーティングを合成した。堆積温度は、550℃であった。その結果、Yb29Si11O59バリアコーティング(EDXで測定)が合成された。完全なプロセスシーケンスは、真空を破壊することなく、すなわち1つの連続したプロセスシーケンスで実現された。
【0028】
図8は、1400℃でアニーリングした後の図7の後の層スタックを示す。それでも、界面は安定で平坦であり、気孔は形成されない。ケイ素ボンドコートでは、柱状構造が視認可能であり、ケイ素ボンドコートの上部に、薄い(約300nm)緻密な酸化ケイ素が形成される。酸化ケイ素とYb-Si-Oバリアコーティングとの間には、薄い(約200nm)遷移が認められ得る。
【0029】
本発明の別の例を図9に示すが、完全なEBC層スタックは、約30μmのケイ素ボンドコートおよび約12μmのYb-Si-Oバリアコーティングを有するSiC基板に堆積された。Yb-Si-Oコーティングは、約77体積%のYbSiOおよび約23体積%のYbSiOの相を含む。これは、様々な化学的性質を有するEBCの堆積のための本発明のプロセスの柔軟性を実証した。YbSiO相とYbSiO相の組み合わせは、低腐食速度およびCMC基板とよく適合する熱膨張係数を有するバリアコーティングを得るのに有利である。YbSiO相は、水蒸気含有環境において特に低い損耗速度(腐食速度と呼ばれることもある)を有するが、SiC/SiC CMC基板とは十分に適合しない熱膨張係数を有する。一方、相YbSiOは、SiC/SiC CMC基板とよく適合する熱膨張係数を有するが、損耗速度はYbSiO相よりも高い。YbSiO相およびYbSiO相の両方を含むバリアコーティングの合成は、これらの2つの特性の技術的に効率的な組み合わせを可能にする。
【0030】
本発明の更なる一態様では、コーティング方法を使用して、Ybを含有しない少なくとも1つの第2のタイプの相と組み合わされた1つ以上のYb-Si-O相を含むバリアコーティングを生成することができる。Yb-Si-Oと第2のタイプの相との組み合わせは、異なる基板およびコーティング層の熱膨張係数の調整を可能にする。第2のタイプの相は、AlO、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物であり得る。特に、YbSiOまたはYbSiOは、AlO、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物と組み合わせることができる。
【0031】
提示されたEBC層スタックは、1つのプロセスシーケンスでそのような構造を製造するための本発明のプロセスの能力を実証する。図10は、そのようなプロセスシーケンスに利用される堆積システムの概略図を示す。
【0032】
図10は、アルゴンのような作動ガスのためのガス源と、酸素、窒素、炭化水素のような反応性ガスのためのガス源と、Si含有前駆体のためのガス源との組み合わせを示す。これらの供給源は、単独で、または陰極アーク源およびスパッタ源のような固体源と組み合わせて動作することができる。プロセスの非常に重要な特徴は、プラズマ利用である。これには、耐歪柱状構造を作り出すのに役立つケイ素ボンドコート堆積のための信頼できる条件を規定する表面前処理が含まれる。ケイ素ボンドコートの合成では、アーク放電におけるケイ素含有前駆体のほぼ完全な解離が重要である。これは、600℃未満の低い堆積温度でのケイ素ボンドコートへの水素取り込みを回避するのに役立つ。ケイ素成長中のドーパントの任意の組み込み、およびこの堆積工程における追加のガス源または固体源を追加することの単純さは、本発明のプロセスの多様性に寄与する。アーク放電によるプラズマ強化は、独立して、300℃~600℃の堆積温度に対するケイ素含有前駆体の堆積速度を制御するための鍵である。
【符号の説明】
【0033】
符号の一覧
1 基板
2 ボンドコートとの界面(任意)
3a ボンドコート
3b 形態(例えば、粒径)または組成(例えばドーピング元素の組み込み)に関して修飾を有し得るボンドコート
4 ボンドコートおよび/またはバリアコーティングとは組成および構造が異なり得るバリアコーティング(例えばケイ酸塩)への遷移層
5 バリアコーティング
6 例えば耐侵食性、水蒸気安定性、CMAS耐性等に関するバリアコーティングの特性を改善するための任意のトップコート。
【0034】
11 真空堆積チャンバ
12 ポンピングシステム
13 基板をロードするためのドア
14 ガスアーク放電源(複数)
15 陰極アーク源(複数)
16 スパッタ源(複数)
17 ガスアーク放電の動作のための作動ガス入口(複数)
18 反応性ガスのためのガス入口(複数)
19 Si含有前駆体のためのガス入口
20 基板バイアス付き基板ホルダ
21 基板ヒータ
100 ケイ素ボンドコートの堆積のためのプロセスシーケンス
101 基板の装填
102 堆積チャンバのポンプダウン
103 必要な温度まで基板を加熱
104 プラズマによる基板の前処理
105 ガスアーク放電開始およびケイ素前駆体
106 ガス源または固体源からのドーピング(任意)
107 ケイ素ボンドコートの堆積
108 システムの冷却
109 基板の排気および装填解除
110 プラズマを利用するプロセス工程
200 完全なEBC層スタックの堆積のためのプロセスシーケンス
201 SiC-CMC基板の装填
202 堆積チャンバのポンプダウン
203 基板を適温まで加熱
204 プラズマによる基板の前処理
205 ガスアーク放電開始およびケイ素前駆体
206 ケイ素ボンドコートの堆積
207 Meターゲットの陰極アーク放電を開始
208 ケイ素前駆体(任意)および酸素の開始
209 Me-Si-Oバリアコーティングの堆積
210 システムの冷却
211 EBCを有するSiC-CMCの排気および装填解除
212 プラズマを利用するプロセス工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】