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特表2024-541650ダイヤモンド量子コンピュータの原子スケール製作
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ダイヤモンド量子コンピュータの原子スケール製作
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20241031BHJP
【FI】
C30B29/04 Q
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532917
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 AU2022051425
(87)【国際公開番号】W WO2023097361
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】2021903915
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2022902826
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523230203
【氏名又は名称】カンタム・ブリリアンス・ピーティーワイ・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】509111928
【氏名又は名称】ジ オーストラリアン ナショナル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーカス・ドハティ
(72)【発明者】
【氏名】ラックラン・オーバーグ
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・ウェバー
(72)【発明者】
【氏名】テチアナ・セルゲイエワ
(72)【発明者】
【氏名】クリス・ペイクス
(72)【発明者】
【氏名】アレックス・シェンク
(72)【発明者】
【氏名】アラステア・ステイシー
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB10
4G077BA03
4G077DB02
4G077DB16
4G077EB01
4G077EE06
4G077EE08
4G077HA06
(57)【要約】
本開示は、ダイヤモンド中に複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを製造するための方法に関する。方法は、不動態化された表面をダイヤモンド基板に提供することと、不動態化原子が除去された複数の脱不動態化された部位を作成するために、不動態化された表面から不動態化原子を除去することと、ダイヤモンド基板の複数の脱不動態化された部位において窒素を吸着するために、複数の脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露することと、温度及び圧力に関連するダイヤモンド成長速度で、化学蒸着(CVD)によって、複数の脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることであって、窒素をダイヤモンドに組み込むために、複数の脱不動態化された部位における窒素の拡散又は脱離が回避される、過成長させることと、組み込まれた窒素を、複数の窒素空孔に変換することと、複数の窒素空孔を負電荷で充電することと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド中に複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを製造するための方法であって、前記方法が、
不動態化された表面をダイヤモンド基板に提供することと、
不動態化原子が除去された複数の脱不動態化された部位を作成するために、前記不動態化された表面から不動態化原子を除去することと、
前記ダイヤモンド基板の前記複数の脱不動態化された部位において窒素を吸着するために、前記複数の脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露することと、
温度及び圧力に関連するダイヤモンド成長速度で、化学蒸着(CVD)によって前記複数の脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることであって、前記窒素を前記ダイヤモンドに組み込むために、複数の脱不動態化された部位における前記窒素の拡散又は脱離が回避される、過成長させることと、
組み込まれた前記窒素を、複数の窒素空孔に変換することと、
前記複数の窒素空孔を負電荷で充電することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記ダイヤモンド成長速度、前記温度、及び前記圧力のうちのいずれか1つ以上が、前記複数の脱不動態化された部位における前記窒素の拡散又は脱離を回避するのに十分に低い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の脱不動態化された部位における前記窒素が、前記窒素と、前記ダイヤモンド基板の炭素原子との間の共有結合によって、前記ダイヤモンド基板に結合され、前記共有結合が、結合エネルギーによって定義される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ダイヤモンド成長速度、前記温度、及び前記圧力のうちのいずれか1つ以上が、前記共有結合を保つのに十分に低い、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
試料温度及び反応種によって制御される、試料エッチングの相対速度が、前記複数の脱不動態化された部位における前記窒素が、ダイヤモンドの過成長の前又は間に脱離せず、かつ拡散しないように、成長速度よりも著しく低い、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記共有結合が、sp結合である、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
保護層によって、前記複数の脱不動態化された部位における前記窒素を封入することを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
表1の1つ以上のオプションに従って、特殊な化学蒸着の過成長によって、前記保護層を形成することを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
分子線エピタキシーによって、前記保護層を形成することを更に含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記ダイヤモンド基板上に原子的に平滑なパッチを作成するために、前記ダイヤモンド基板を調製することを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記原子的に平滑なパッチを作成するために、公称表面配向に対する基板表面誤配向角度で前記ダイヤモンド基板を調製することを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記基板表面誤配向角度で前記ダイヤモンド基板を調製することが、隣接するステップ端間の前記原子的に平滑なパッチを定義するステップ端を作成することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記ダイヤモンドを過成長させることが、前記ステップ端から結晶格子を成長させることを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記基板表面誤配向角度が、0.1~3.4度である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記組み込まれた窒素を窒素空孔に変換することが、炭素イオンの照射及びアニーリングを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ダイヤモンド中に複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを製造するための方法であって、前記方法が、
不動態化された表面をダイヤモンド基板に提供することであって、前記ダイヤモンド基板が、非局在化電荷キャリアを前記ダイヤモンド基板内に導入するための、及び/又は注入されたキャリアの基盤を提供するための、ドープ領域を含む、提供することと、
不動態化原子が除去された複数の脱不動態化された部位を作成するために、前記不動態化された表面から不動態化原子を除去することであって、前記不動態化原子を除去することが、走査トンネル顕微鏡(STM)の先端を、原子精度で、前記不動態化された表面を横切って移動させることと、前記不動態化原子を除去するために、先端とダイヤモンド表面との間にパルス電圧降下を作成することと、を含む、除去することと、
前記ダイヤモンド基板の前記複数の脱不動態化された部位において窒素を吸着するために、前記複数の脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露することと、
前記複数の脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることと、
組み込まれた前記窒素を、複数の窒素空孔に変換することと、
前記窒素空孔を負電荷で充電することと、を含む、方法。
【請求項17】
前記ダイヤモンド基板上に原子的に平滑なパッチを作成するために、前記ダイヤモンド基板を調製することを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記STMの前記先端を移動させることが、前記原子的に平滑なパッチを位置付けるために、前記不動態化された表面を撮像することを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記原子的に平滑なパッチを作成するために、公称表面配向に対する基板表面誤配向角度で前記ダイヤモンド基板を調製することを更に含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記基板表面誤配向角度で前記ダイヤモンド基板を調製することが、隣接するステップ端間の前記原子的に平滑なパッチを定義するステップ端を作成することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ダイヤモンドを過成長させることが、前記ステップ端から結晶格子を成長させることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記基板表面誤配向角度が、0.1~3.4度である、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記STMの前記先端を移動させた後、かつ前記脱不動態化された部位を前記窒素含有化合物に曝露する前に、STM撮像を使用して、前記不動態化された表面からの前記不動態化原子の前記除去を確認することを更に含む、請求項16~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
STM撮像を使用して、前記ダイヤモンド基板への前記窒素含有化合物の吸着を確認することを更に含む、請求項16~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記窒素含有化合物の前記吸着を確認することが、前記ダイヤモンド基板に吸着した前記窒素含有化合物が、前記ダイヤモンド基板に対して所望の配向を有することを確認することを更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
(a)前記ダイヤモンド基板が、{100}面を有し、前記所望の配向が、2個の隣接する表面二量体にわたって4個のsp結合を提供する前記ダイヤモンド基板に対する配向であるか、又は
(b)前記ダイヤモンド基板が、{111}面を有し、前記所望の配向が、3個の表面炭素原子に3個のsp結合を提供する前記ダイヤモンド基板に対する配向である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記方法は、前記窒素含有化合物が、前記ダイヤモンド基板に対して望ましくない配向を有することを確認すると、前記STMを使用して、前記脱不動態化された部位から前記窒素含有化合物を脱離することを更に含む、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記STMによって前記不動態化原子を除去することが、1×10-11Torr~1×10-9Torrの圧力で実行される、請求項16~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記STMによって前記不動態化原子を除去することが、2.7V~7Vの範囲の電圧及び1nA~50nAの範囲の電流で、1ms~10msの範囲の電流パルスを更に含む、請求項16~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることが、化学蒸着によって実行される、請求項16~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記組み込まれた窒素を窒素空孔に変換することが、炭素イオンの照射及びアニーリングを含む、請求項16~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ダイヤモンド中に複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを製造するための方法であって、前記方法が、
不動態化された表面をダイヤモンド基板に提供することと、
不動態化原子が除去された複数の脱不動態化された部位を作成するために、前記不動態化された表面から不動態化原子を除去することと、
前記ダイヤモンド基板の前記複数の脱不動態化された部位において反応性窒素基から窒素を吸着するために、前記複数の脱不動態化された部位を、前記反応性窒素基を含む窒素含有化合物に曝露することと、
前記複数の脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることと、
組み込まれた前記窒素を、複数の窒素空孔に変換することと、
前記窒素空孔を負電荷で充電することと、を含む、方法。
【請求項33】
前記反応性窒素基の前記窒素が、前記脱不動態化された部位において、前記ダイヤモンド基板の炭素原子と結合を形成する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記反応性窒素基が、官能基であり、非反応性基に結合している、請求項32又は33に記載の方法。
【請求項35】
前記非反応性基が、炭化水素を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記脱不動態化された部位において前記窒素含有化合物を吸着することが、曝露後の加熱によって前記非反応性基を除去することを更に含む、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
曝露後の加熱が、
(a)前記脱不動態化された部位における前記ダイヤモンド基板の前記炭素原子と、前記反応性窒素基の前記窒素との間の前記結合を保ち、かつ
(b)前記反応性窒素基と前記非反応性基との間の前記結合を壊す温度で実行される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記窒素含有化合物が、ニトリルである、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記窒素含有化合物が、アジリジンである、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記窒素含有化合物が、芳香族環を含む、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記窒素含有化合物が、3個の炭素原子に結合した窒素原子を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記窒素が、孤立電子対を形成する、請求項40又は41に記載の方法。
【請求項43】
前記窒素含有化合物が、3個又は4個の二重炭素結合を含む、請求項40~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記複数の脱不動態化された部位を前記窒素含有化合物に曝露することが、吸着した前記窒素のスピンを制御するための、前記吸着した窒素の同位体制御を更に含む、請求項32~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記窒素含有化合物が、13C同位体を含み、前記複数の脱不動態化された部位を前記窒素含有化合物に曝露することが、前記13C同位体で前記ダイヤモンド基板をドーピングすることを含む、請求項32~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記ダイヤモンド基板中の前記13C同位体が、キュービットを形成する、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
使用時に、前記13C同位体によって形成された前記キュービットが、量子データ演算を実行し、前記窒素空孔が、量子バスとして機能する、請求項45又は46に記載の方法。
【請求項48】
走査トンネル顕微鏡(STM)撮像を使用して、前記ダイヤモンド基板への前記窒素含有化合物の前記吸着を確認することを更に含む、請求項32~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記窒素含有化合物の前記吸着を確認することは、前記窒素含有化合物が、前記ダイヤモンド基板に対して所望の配向を有することを確認することを更に含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記所望の配向が、2個の隣接する表面二量体にわたって4個のsp結合を提供する前記ダイヤモンド基板に対する配向である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記方法は、前記窒素含有化合物が、前記ダイヤモンド基板に対して望ましくない配向を有することを確認すると、STMを使用して、前記脱不動態化された部位から前記窒素含有化合物を脱離することを更に含む、請求項49又は50に記載の方法。
【請求項52】
前記ダイヤモンド基板上に原子的に平滑なパッチを作成するために、前記ダイヤモンド基板を調製することを更に含む、請求項32~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記原子的に平滑なパッチを作成するために、公称表面配向に対する基板表面誤配向角度で前記ダイヤモンド基板を調製することを更に含む、請求項41に記載の方法。
【請求項54】
前記基板表面誤配向角度で前記ダイヤモンド基板を調製することが、隣接するステップ端間の前記原子的に平滑なパッチを定義するステップ端を作成することを含む、請求項52又は53に記載の方法。
【請求項55】
前記ダイヤモンドを過成長させることが、前記ステップ端から結晶格子を成長させることを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記基板表面誤配向角度が、0.1~3.4度である、請求項53~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることが、化学蒸着によって実行される、請求項32~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記組み込まれた窒素を窒素空孔に変換することが、炭素イオンの照射及びアニーリングを含む、請求項32~57のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月3日に出願のオーストラリア仮特許出願第2021903915号及び2022年9月29日に出願のオーストラリア仮特許出願第2022902826号からの優先権を主張し、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、ダイヤモンド量子コンピュータの製作に関し、具体的には、ダイヤモンドコンピュータにおける窒素空孔の製作に関する。
【背景技術】
【0003】
量子コンピューティングでは、キュービット又は量子ビットは、量子情報の基本単位である。古典的なシステムでは、ビットは、1つの状態又は他の状態にあり得る。対照的に、量子力学は、量子力学及び量子コンピューティングに欠かせない特性である、量子ビットが同時に両方の状態のコヒーレントな重ね合わせであることを可能にする。
【0004】
ダイヤモンド量子マイクロプロセッサのスケーラブルなアーキテクチャは、プロセッサノードのアレイからなる。各プロセッサノードは、NV中心、及び核スピンのクラスタ(固有の窒素核スピン及び0~4個の13Cの核スピン不純物)で構成されている。核スピンは、マイクロプロセッサのキュービットとして機能し、一方、NVセンターは、キュービットの初期化及び読み出し、並びにノード内及びノード間のマルチキュービット演算を仲介する、量子バスとして機能する。量子計算は、統合された電気、光学、磁気、及び古典的なコンピューティングシステムを介して制御される。
【0005】
スケーラブルなアーキテクチャの実現の一態様は、公差1nm未満で約5~10nmだけ分離されたNV中心のアレイの精密な製作である。このような精度は、NV中心の電子スピンが、ノード間のマルチキュービット演算を仲介し得るように、NV中心の電子スピンを磁気的に結合するのに有用である。しかしながら、このような精密な製作は、注入マスクの製作及び注入イオンの散乱の限界のため、「トップダウン」窒素(N)イオン注入技術を使用して達成することは困難である。
【0006】
本明細書に含まれている文献、行為、材料、デバイス、物品などの任意の議論は、これらの事項のいずれか又は全てが、先行技術基準の一部を形成するか、又は添付の特許請求の範囲の各々の優先日の前に存在したような、本開示に関連する分野における技術常識であったことを認めるものと解釈されるべきではない。
【0007】
本明細書全体を通じて、「含む(comprise)」という語、又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」などの変形は、述べられた要素、構成要素若しくはステップ、又は要素、構成要素若しくはステップのグループを含むことを意味するが、任意の他の要素、構成要素若しくはステップ、又は要素、構成要素若しくはステップのグループを除外することを意味しないと理解されるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
ダイヤモンド中に複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを製造するための方法は、
不動態化された表面をダイヤモンド基板に提供することと、
不動態化原子が除去された複数の脱不動態化された部位を作成するために、不動態化された表面から不動態化原子を除去することと、
ダイヤモンド基板の複数の脱不動態化された部位において窒素を吸着するために、複数の脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露することと、
温度及び圧力に関連するダイヤモンド成長速度で、化学蒸着(CVD)によって複数の脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることであって、窒素をダイヤモンドに組み込むために、複数の脱不動態化された部位における窒素の拡散又は脱離が回避される、過成長させることと、
組み込まれた窒素を、複数の窒素空孔に変換することと、
複数の窒素空孔を負電荷で充電することと、を含む。
【0009】
低い温度及び/又は圧力及び/又はダイヤモンド成長速度が、最大のダイヤモンド成長のために最適化されたCVDを使用するときに生じることになる、拡散及び/又は脱離を回避することが利点である。結果として、方法は、窒素原子の配列に影響を与えることなく、原子精度で配列された窒素原子を封入するために使用することができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、ダイヤモンド成長速度、温度、及び圧力のうちのいずれか1つ以上は、複数の脱不動態化された部位における窒素の拡散又は脱離を回避するのに十分に低い。
【0011】
いくつかの実施形態では、複数の脱不動態化された部位における窒素は、窒素と、ダイヤモンド基板の炭素原子との間の共有結合によって、ダイヤモンド基板に結合され、共有結合は、結合エネルギーによって定義される。
【0012】
いくつかの実施形態では、ダイヤモンド成長速度、温度、及び圧力のうちのいずれか1つ以上は、共有結合を保つのに十分に低い。
【0013】
いくつかの実施形態では、試料温度及び反応種によって制御される、試料エッチングの相対速度は、複数の脱不動態化された部位における窒素が、ダイヤモンドの過成長の前又は間に脱離せず、かつ拡散しないように、成長速度よりも著しく低い。
【0014】
いくつかの実施形態では、共有結合は、sp結合である。
【0015】
いくつかの実施形態では、方法は、保護層によって、複数の脱不動態化された部位における窒素を封入することを更に含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、方法は、表1の1つ以上のオプションに従って、特殊な化学蒸着の過成長によって、保護層を形成することを更に含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、方法は、分子線エピタキシーによって、保護層を形成することを更に含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、方法は、ダイヤモンド基板上に原子的に平滑なパッチを作成するために、ダイヤモンド基板を調製することを更に含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、方法は、原子的に平滑なパッチを作成するために、公称表面配向に対する基板表面誤配向角度でダイヤモンド基板を調製することを更に含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、基板表面誤配向角度でダイヤモンド基板を調製することは、隣接するステップ端間の原子的に平滑なパッチを定義するステップ端を作成することを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、ダイヤモンドを過成長させることは、ステップ端から結晶格子を成長させることを含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、基板表面誤配向角度は、0.1~3.4度である。
【0023】
いくつかの実施形態では、組み込まれた窒素を窒素空孔に変換することは、炭素イオンの照射及びアニーリングを含む。
【0024】
ダイヤモンド中に複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを製造するための方法は、
不動態化された表面をダイヤモンド基板に提供することであって、ダイヤモンド基板が、非局在化電荷キャリアをダイヤモンド基板内に導入するための、及び/又は注入されたキャリアの基盤を提供するための、ドープ領域を含む、提供することと、
不動態化原子が除去された複数の脱不動態化された部位を作成するために、不動態化された表面から不動態化原子を除去することであって、不動態化原子を除去することが、走査トンネル顕微鏡(STM)の先端を、原子精度で、不動態化された表面を横切って移動させることと、不動態化原子を除去するために、先端とダイヤモンド表面との間にパルス電圧降下を作成することと、を含む、除去することと、
ダイヤモンド基板の複数の脱不動態化された部位において窒素を吸着するために、複数の脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露することと、
複数の脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることと、
組み込まれた窒素を、複数の窒素空孔に変換することと、
窒素空孔を負電荷で充電することと、を含む。
【0025】
STMが、原子精度での不動態化原子の除去を可能にすることが利点であり、窒素の最終的な場所もまた、原子精度であることを意味する。量子特性は、窒素の場所の変化とともに大きく変化するため、方法は、キュービット間結合などの正確で再現可能な特性を有する量子アーキテクチャを可能にする。
【0026】
いくつかの実施形態では、方法は、ダイヤモンド基板上に原子的に平滑なパッチを作成するために、ダイヤモンド基板を調製することを更に含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、STMの先端を移動させることは、原子的に平滑なパッチを位置付けるために、不動態化された表面を撮像することを更に含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、方法は、原子的に平滑なパッチを作成するために、公称表面配向に対する基板表面誤配向角度でダイヤモンド基板を調製することを更に含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、基板表面誤配向角度でダイヤモンド基板を調製することは、隣接するステップ端間の原子的に平滑なパッチを定義するステップ端を作成することを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、ダイヤモンドを過成長させることは、ステップ端から結晶格子を成長させることを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、基板表面誤配向角度は、0.1~3.4度である。
【0032】
いくつかの実施形態では、方法は、STMの先端を移動させた後、かつ脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露する前に、STM撮像を使用して、不動態化された表面からの不動態化原子の除去を確認することを更に含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、方法は、STM撮像を使用して、ダイヤモンド基板への窒素含有化合物の吸着を確認することを更に含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、窒素含有化合物の吸着を確認することは、ダイヤモンド基板に吸着した窒素含有化合物が、ダイヤモンド基板に対して所望の配向を有することを確認することを更に含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、(a)ダイヤモンド基板は、{100}面を有し、所望の配向が、2個の隣接する表面二量体にわたって4個のsp3結合を提供するダイヤモンド基板に対する配向であるか、又は(b)ダイヤモンド基板は、{111}面を有し、所望の配向が、3個の表面炭素原子に3個のsp3結合を提供するダイヤモンド基板に対する配向である。
【0036】
いくつかの実施形態では、方法は、窒素含有化合物が、ダイヤモンド基板に対して望ましくない配向を有することを確認すると、STMを使用して、脱不動態化された部位から窒素含有化合物を脱離することを更に含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、STMによって不動態化原子を除去することは、1×10-11Torr~1×10-9Torrの圧力で実行される。
【0038】
いくつかの実施形態では、STMによって不動態化原子を除去することは、2.7V~7Vの範囲の電圧及び1nA~50nAの範囲の電流で、1ms~10msの範囲の電流パルスを更に含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることは、化学蒸着によって実行される。
【0040】
いくつかの実施形態では、組み込まれた窒素を窒素空孔に変換することは、炭素イオンの照射及びアニーリングを含む。
【0041】
ダイヤモンド中に複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを製造するための方法は、
不動態化された表面をダイヤモンド基板に提供することと、
不動態化原子が除去された複数の脱不動態化された部位を作成するために、不動態化された表面から不動態化原子を除去することと、
ダイヤモンド基板の複数の脱不動態化された部位において反応性窒素基から窒素を吸着するために、複数の脱不動態化された部位を、反応性窒素基を含む窒素含有化合物に曝露することと、
複数の脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることと、
組み込まれた窒素を、複数の窒素空孔に変換することと、
窒素空孔を負電荷で充電することと、を含む。
【0042】
脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露することは、非曝露領域での不動態化を破壊しないことが利点である。これは、窒素が、不動態化原子が除去された場所でのみ吸着することを意味する。これにより、ダイヤモンドへの窒素の正確な注入が可能になり、これにより、キュービット間結合などの所望の量子特性を有するデバイスの再現可能な製作が可能になる。
【0043】
いくつかの実施形態では、反応性窒素基の窒素は、脱不動態化された部位において、ダイヤモンド基板の炭素原子と結合を形成する。
【0044】
いくつかの実施形態では、反応性窒素基は、官能基であり、非反応性基に結合している。
【0045】
いくつかの実施形態では、非反応性基は、炭化水素を含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、脱不動態化された部位において窒素含有化合物を吸着することは、曝露後の加熱によって非反応性基を除去することを更に含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、曝露後の加熱は、(a)脱不動態化された部位におけるダイヤモンド基板の炭素原子と、反応性窒素基の窒素との間の結合を保ち、かつ(b)反応性窒素基と非反応性基との間の結合を壊す温度で実行される。
【0048】
いくつかの実施形態では、窒素含有化合物は、ニトリルである。
【0049】
いくつかの実施形態では、窒素含有化合物は、アジリジンである。
【0050】
いくつかの実施形態では、窒素含有化合物は、芳香族環を含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、窒素含有化合物は、3個の炭素原子に結合した窒素原子を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、窒素は、孤立電子対を形成する。
【0053】
いくつかの実施形態では、窒素含有化合物は、3個又は4個の二重炭素結合を含む。
【0054】
いくつかの実施形態では、複数の脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露することは、吸着した窒素のスピンを制御するための、吸着した窒素の同位体制御を更に含む。
【0055】
いくつかの実施形態では、窒素含有化合物が、13C同位体を含み、複数の脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露することが、13C同位体でダイヤモンド基板をドーピングすることを含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、ダイヤモンド基板中の13C同位体は、キュービットを形成する。
【0057】
いくつかの実施形態では、使用時に、13C同位体によって形成されたキュービットは、量子データ演算を実行し、窒素空孔は、量子バスとして機能する。
【0058】
いくつかの実施形態では、方法は、走査トンネル顕微鏡(STM)撮像を使用して、ダイヤモンド基板への窒素含有化合物の吸着を確認することを更に含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、窒素含有化合物の吸着を確認することは、窒素含有化合物が、ダイヤモンド基板に対して所望の配向を有することを確認することを更に含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、所望の配向は、2個の隣接する表面二量体にわたって4個のsp3結合を提供するダイヤモンド基板に対する配向である。
【0061】
いくつかの実施形態では、方法は、窒素含有化合物が、ダイヤモンド基板に対して望ましくない配向を有することを確認すると、STMを使用して、脱不動態化された部位から窒素含有化合物を脱離することを更に含む。
【0062】
いくつかの実施形態では、方法は、ダイヤモンド基板上に原子的に平滑なパッチを作成するために、ダイヤモンド基板を調製することを更に含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、方法は、原子的に平滑なパッチを作成するために、公称表面配向に対する基板表面誤配向角度でダイヤモンド基板を調製することを更に含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、基板表面誤配向角度でダイヤモンド基板を調製することは、隣接するステップ端間の原子的に平滑なパッチを定義するステップ端を作成することを含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、ダイヤモンドを過成長させることは、ステップ端から結晶格子を成長させることを含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、基板表面誤配向角度は、0.1~3.4度である。
【0067】
いくつかの実施形態では、脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させることは、化学蒸着によって実行される。
【0068】
いくつかの実施形態では、組み込まれた窒素を窒素空孔に変換することは、炭素イオンの照射及びアニーリングを含む。
【0069】
上記の方法のうちの1つに関して提供される任意選択の特徴は、他の方法の同様に任意選択の特徴であることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1a】ダイヤモンド中に複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを図示する。
図1b】ダイヤモンド中に複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを製造するための方法を図示する。
図2a】ダイヤモンド試料及び表面の調製を図示する。
図2b】走査トンネル顕微鏡(STM)を使用する、原子的に精密なダイヤモンド水素脱離リソグラフィを図示する。
図2c】窒素含有化合物への脱不動態化された部位の曝露を図示する。
図2d】ダイヤモンド成長前の窒素の封入を図示する。
図2e】イオン注入及びアニーリングを介した、窒素空孔の作成を図示する。
図3】原子スケール製作技術のためのダイヤモンドの調製の概略図を図示する。
図4a】HDLの後に{100}H終端処理されたダイヤモンド表面を図示する。
図4b】HDLの後に{111}H終端処理されたダイヤモンド表面を図示する。
図5】STMベースの脱離の概略図を図示する。
図6】滑らかに終端処理された{100}ダイヤモンド表面上のアセトニトリルの予想吸着構成を図示する。
図7】新しい表面層上に吸着したC-C二量体を通して核化される、化学蒸着(CVD)中のステップフロー成長を図示する。
図8a】露出{111}面上のアジリジンの1つの可能な吸着種構成を図示する。
図8b】CVD中の、図8aの吸着種のCH基との更なる結合を図示する。
図8c】{111}CVD過成長中の、新しい層成長のための核を図示する。
図9】室温でのアセトニトリルの1000ラングミュアの曝露及び後続の熱処理の後に、部分的に水素終端されたダイヤモンド表面のXPS走査を図示する。
図10】A1、A2、及びB1構成におけるアセトニトリル吸着種の模擬定電流(約5nA)STM画像を図示する。
図11】本明細書に開示される方法の工業的スケーリング用の窒素含有芳香族化合物の例を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0071】
本開示は、ダイヤモンドにおける窒素空孔(NV)中心の原子スケール製作のための方法を提供する。この文脈における「原子スケール」とは、NV中心の場所が、原子間隔の長さスケールで決定されることを意味する。これは、ダイヤモンド量子コンピュータが、NV中心間の相互作用を使用してキュービットにおける演算を可能にし、この相互作用は、キュービット間の距離に依存するため、重要である。相互作用が大きい(NV中心が近接する)ほど、キュービット演算の速度及び忠実度が高くなる。しかしながら、NV中心は、それぞれの安定性及び識別性を妨げるため、互いに近接しすぎるべきではない。いくつかの例では、ダイヤモンド結晶中の少数の原子格子部位の距離の変化でさえ、量子演算の大幅な劣化の原因となる。したがって、開示された方法の利点は、原子精度が、信頼性の高いキュービット間の相互作用を伴うマルチキュービット量子コンピュータを製作することを可能にすることである。
【0072】
具体的には、本開示は、原子精度でのNV中心の作成を可能にする、NV中心の原子スケール製作のための技術を提供する。これは、量子コンピューティングにおけるその機能にとって重要である。上記で考察されるように、ダイヤモンド基板へのイオン注入などによる「トップダウン」アプローチでは、NV中心の原子スケールの位置決めを達成することは困難である。より具体的には、イオンがダイヤモンドに浸透するために必要なエネルギーは非常に高く、イオンの場所の標準偏差は約5nmである。これは、位置決め精度の下限であり、機能的なマルチキュービット量子コンピュータの製作にはまだ大きすぎる。
【0073】
したがって、本開示は、窒素が原子スケールの精度でダイヤモンド表面に結合され、次いで、ダイヤモンドを窒素上で成長させる、「ボトムアップ」アプローチを提供する。結合部位は、本明細書に開示されるように、原子スケールの水素脱不動態化リソグラフィ(HDL)によって定義される。HDLは、走査トンネル顕微鏡(STM)又は他の技術を使用して実行することができる。更に、開示された原子スケール製作プロセスは、窒素欠陥の脱離及び拡散を抑制するための複数のプロセスを使用し、NV中心の原子スケールの精密配列の達成を可能にする。
【0074】
一例では、開示された製作技術は、走査トンネル顕微鏡(STM)を使用して、窒素欠陥を導入するのに適したダイヤモンド表面上の適切な部位を見つけて、所期のデバイスの要件に基づいて、いくつかの水素終端処理された部位を原子精度で脱不動態化し、それらの脱不動態化された部位が作成されたことを検証する。水素不動態化は、本明細書の例として使用されるが、他の例が、フッ素などの他の分子又は元素によって不動態化された表面を使用し得ることに留意されたい。更に、STM以外の技術を使用して、不動態化水素を脱離し、したがって、水素を脱離するために電子又はx線などを使用して、HDLを実行することができる。
【0075】
次いで、ダイヤモンド表面は、窒素含有化合物に曝露され、窒素含有化合物中の窒素は、脱不動態化された部位に吸着する。窒素含有化合物が、ダイヤモンド表面に対して所望の配向である場合、ダイヤモンド表面上の窒素と炭素との間の共有結合は、ダイヤモンドの過成長の変わりやすい条件に耐え、窒素の移動及び脱離を防止するのに十分に強くなり得る。STM撮像により、ダイヤモンド表面に吸着している窒素含有化合物の配向を確認することができる。窒素含有化合物が誤って配向されている場合、熱脱離又は他の方法を使用してそれを除去することができる。窒素をダイヤモンド試料に導入した後、十分に低い温度及び低い圧力で化学蒸着(CVD)を実行する。これにより、ダイヤモンドを、ダイヤモンド試料中に拡散させるか、又は表面から脱離させることなく、窒素上で成長させることができる。他の例は、CVDの代わりに、又はCVDに加えて、分子線エピタキシー(MBE)又は原子層蒸着(ALD)を使用する。
【0076】
加えて、製作プロセスは、吸着した窒素の周りに保護層を形成することを含んでもよく、これは、ダイヤモンド中の窒素の軽減及び脱離を更に防止する。更に、原子層蒸着(ALD)は、層厚の正確な制御を用いて高品質で均質な材料を堆積させることができるため、少数の単原子炭素層の堆積による過成長を開始するトリガを提供し得る。脱不動態化されたダイヤモンド上でのALD成長の開始は、面外活性結合の欠如のために課題となり得るが、ALD成長は、ダングリング結合又は官能基が存在する欠陥部位又は粒子境界上で生じ得る。ALDは、以下の実施形態のいずれかで、ダイヤモンド上で実行することができる:1)自己組織化単層などのシード層の使用、2)例えば、フッ素、オゾン、及びプラズマ処理によって、ダイヤモンド表面上への官能基の作成、及び3)核形成を強化するために、下地基板を調整すること。最後に、ダイヤモンドの過成長はまた、例えば、流出セルからの炭素-60の蒸発、分子線エピタキシー反応器を使用して、高真空下で低ガス圧で質量選別された炭素イオンを用いた分子線エピタキシーによって達成され得る。
【0077】
図1aは、キュービットのアレイとも呼ばれる、ダイヤモンド100中の複数の光学的にアドレス指定可能なキュービットを図示する。複数の光学的にアドレス指定可能なキュービット101は、ダイヤモンド基板103の表面上の原子的に平坦な表面102(「テラス」と呼ばれる)上に窒素を配列することによって作成され、隣接するテラス間の境界であるステップ端104によって定義される。ステップ端104は、ミスカット角度が原因で自然に存在するため、典型的には、ちょうど原子1つ分の高さである。窒素は、光学的にアドレス指定可能なキュービット101を形成するために化学蒸着(CVD)を使用して作成されるダイヤモンドの過成長105を通して、ダイヤモンドに組み込まれる。ステップ端104は、例示的な目的のためだけに示されていることに留意し、過成長の後、ステップ端104は、ダイヤモンド結晶に組み込まれるので、もはや存在しないことに留意されたい。太線(破線及び実線)は、(キュービット101を含む)最終的なデバイスを示す。細線は、最終的なデバイスに存在しないテラス及びステップ端104を示す。
【0078】
これはまた、光学的にアドレス指定可能なキュービット101が、それ自体異なるテラス上にないことを意味する。これは、いったん窒素がキュービットに変換されると、テラスはもはや存在せず、ダイヤモンドに組み込まれるためである。最終的な結果として、異なるテラス上の窒素に由来する量子ビットは、過成長後に、わずかに異なる高さになる。ステップの高さは原子1つ分のみであるため、このような異なる高さは、最終的なデバイスの機能を低下させないはずである。
【0079】
更に、キュービットビット101は、互いに相互作用して量子演算を実行し、それにより、量子コンピュータを形成する。この点については、キュービット101の場所に応じて、異なるテラス上のキュービットは、同じテラス上に位置するキュービットと同様に、互いに相互作用することに留意されたい。キュービット101は、光を透過するダイヤモンドに組み込まれているため、光学的にアドレス指定可能である。このことは、光に対して透過性でないシリコンなどの他のアーキテクチャとは対照的である。ダイヤモンドでは、キュービット101は、磁場勾配及び周波数選択性マイクロ波パルスと組み合わせたレーザによって、個別にアドレス指定され得る。したがって、量子情報を制御及び読み出すためのマイクロ波源、磁石、及び光検出器(図示せず)もあり得る。
【0080】
図1bは、ダイヤモンドにおける窒素空孔(NV)中心の原子スケール製作のための方法150を図示する。製作プロセスは、不動態化された表面をダイヤモンド基板に提供すること(151)と、不動態化された表面から水素原子を除去して、水素原子が除去された脱不動態化された部位を作成すること(152)と、を含む。次のステップは、ダイヤモンド基板の脱不動態化された部位において窒素を吸着するために、脱不動態化された部位を窒素含有化合物に曝露すること(153)、及びCVDによって脱不動態化された部位をダイヤモンドとともに過成長させること(154)である。CVDを用いたダイヤモンドの過成長の後、製作プロセスは、(明示的な処理ステップによるか、又は以下に概説されるように、ダイヤモンドを過成長させることによるかのいずれかにより)組み込まれた窒素を窒素空孔に変換すること(155)と、窒素空孔を負電荷で充電すること(156)と、を含む。組み込まれた窒素は、CVD過成長中にNV中心に変換される可能性があり、この場合、ステップ154及び155は、同じ製作ステップで実行される。製作プロセスは、連続した5段階で説明することができ、これらのステップは、図2a~図2eを参照してより詳細に説明する。
【0081】
図2aは、方法150のステップ151に対応する、ダイヤモンド試料及び表面の調製を図示する。この段階では、ダイヤモンド表面を含むダイヤモンド試料201が調製されるため、STM及び関連付けられた水素脱離リソグラフィ(HDL)と適合する。プロセスは、N欠陥について適切な部位として、例えば、10nm×10nmで低い表面粗さの、十分に大きく、原子的に平滑な、正しく並べられた原子のパッチ(テラスとして知られている)を使用する。
いくつかの例では、パッチの最小サイズは、二量体3つ分の幅、すなわち、1.5nmである。テラスの表面上の炭素原子は、終端処理された水素202であり、ダイヤモンド表面全体にわたって終端処理されていない部位の密度が低い。このような表面の生成は、原子的に平滑な表面を使用し、これは、公称表面配向に対して相対的に小さい誤配向角度203があることを意味する。このような角度は、{100}又は{111}などの所定の低屈折率結晶面に対して相対的であり得る。一例では、このような誤配向角度は、異なる平均誤配向角度を有する可能性のある試料表面全体(グローバルミスカット)ではなく、NVが作られている表面の一部(局所ミスカット)にのみ適用される。ダイヤモンド試料201はまた、ダイヤモンド試料201に移動電荷キャリアを提供するドープ領域204も含み、これは、STMの実装を可能にする。
【0082】
図2bは、方法150のステップ152に対応する、走査トンネル顕微鏡を使用する、原子的に精密なダイヤモンドHDLを図示する。走査トンネル顕微鏡の先端221は、ダイヤモンド表面から水素222原子を脱離するために使用され、脱不動態化炭素部位223を残す。STMは、脱不動態化プロセスと併せて、吸着部位を識別すること、及びSTM撮像モードを使用することによって、良好な分子吸着を検証することの両方のために使用される。脱不動態化プロセスは、反応性の高い、窒素含有分子からの窒素原子との結合を容易に形成する、不対(すなわち、非結合)価電子を残す。したがって、脱不動態化された部位はまた、「反応性部位」とも呼ばれ得る。
【0083】
脱不動態化後かつ窒素曝露前に、脱不動態化された{111}面上の炭素原子は、ダングリングsp結合を有する。脱不動態化された{100}面では、軌道は単なるsp又はspではない可能性があり、二量体の2つの脱不動態化軌道が、弱い結合を形成するため、厳密にはダングリングではない可能性がある。完全を期するために、両方の表面配向(及び他の配向)において、脱不活性化部位は反応性が高いことに留意されたい。
【0084】
図2cは、方法150のステップ153に対応する、窒素含有化合物への脱不動態化された部位の曝露を図示する。末端水素の脱不動態化後、ダイヤモンド基板は、窒素含有化合物241に曝露される。脱不動態化炭素部位の高反応性は、窒素含有化合物241の窒素原子を、脱不動態化された部位に化学的に吸着する。理想的には、ダイヤモンド表面242に吸着した窒素含有化合物は、ダイヤモンド過成長のための後のCVDの変わりやすい条件に耐えるために、強く結合している。望ましくない吸着種構成は、窒素含有化合物241への曝露後のダイヤモンド試料の曝露後の加熱を使用して、脱離され得る。ダイヤモンド表面242への窒素含有化合物の吸着は、STM撮像を通して確認することができる。
【0085】
図2dは、方法150のステップ154に対応する、ダイヤモンド成長前の窒素の封入を図示する。窒素261の封入は、後続のダイヤモンド過成長262が、窒素の移動又は脱離を引き起こすことなく生じ得ることを意味する。窒素を封入するための以下の2つの方法がある:特殊なCVD過成長及び分子線エピタキシー(MBE)ダイヤモンド「キャッピング」層のその場成長。両方法は、(原子水素、又は炭素含有種などの)反応性ガス種を用いたエッチング中に窒素を保護する、1つ以上(1~100個)分の原子の厚さを有する保護層と、熱脱離と、を導入する。層は、完全な「層」ではなくてもよい(すなわち、窒素は「保護層」の穴に位置することができる)。
【0086】
図2eは、方法150のステップ155に対応する、放射線損傷及びアニーリングを介した、窒素の窒素空孔への変換を図示する。イオン注入、電子ビーム、及びパルスレーザは、放射線損傷機構の例である。ダイヤモンド構造体282内の窒素欠陥281は、炭素イオンの照射及びアニーリング284を通して、窒素空孔(NV)中心283に変換される。吸着したNが、CVD過成長中に、置換N欠陥の代わりに、NV中心283に変換される確率はゼロではない。窒素のNV中心への変換は、成長中に生じ得る(すなわち、これは{111}成長の特徴であり得、これもまた、アライメントの結果につながる)。そのため、ステップ5は、その成長方法が適用される場合、ステップ4と同時に生じ得る。NV中心は、近くの電子ドナーの存在によって、NV中心(すなわち、負に荷電したNV中心)に変換され、これは、NV中心の近くに外部電圧を印加することによって、強化され得る。いくつかの例では、デバイス設計は、荷電状態を更に安定させるための電極を含んでもよい。
【0087】
ダイヤモンド表面は、以下の2つの表面配向のうちの1つで調達され得る:{100}面の配向及び{111}面の配向。表記{100}及び{111}は、表面炭素原子が存在するダイヤモンド単位セルの平面を示すミラー指数である。
【0088】
ここで、上記の各段階151~156の重要なプロセスステップを、関連する技術的詳細及び科学的根拠とともに説明する。
【0089】
ステップ1:ダイヤモンド試料及び表面の調製
ステップ1の結果(方法150の項目151)は、製作プロセスにおけるHDL及び後続のステップと適合する、ダイヤモンド試料(表面を含む)の調製である。
【0090】
図3は、原子スケール製作技術のためのダイヤモンドの調製の概略図を図示する。子スケール製作技術は、以下を使用する。
【0091】
{100}又は{111}面の配向を有する単結晶ダイヤモンド基板が提供される。{100}及び{111}面の配向は、ステップ3と適合する。両方の面は、窒素含有分子の吸着を可能にする。本明細書の実施例は、{100}面の表面調製及び化学的性質に関連しているが、{111}面は、その好ましい反応化学(図2cに示すようなステップ3を参照されたい)、過成長中のNV欠陥軸の安定性及び優先的なアライメント(図2dに示すようなステップ4を参照されたい)のために、原子スケール製作プロセスとより適合し得る。
【0092】
10nm×10nm(少なくとも1.5nm幅)の原子的に平坦なテラス及び低い表面粗さは、成長又はエッチングによって達成することができる。原子スケール製作プロセスは、水素終端処理されたダイヤモンド表面の原子操作によって実行され、すなわち、製作は、個々の原子のスケールの場所精度を有する。表面は、十分に大きく、原子的に平滑な、正しく並べられたパッチ(テラスとして知られている)を呈する。そのような表面の生成は、公称表面配向(科学文献及び業界では「表面のミスカット角度」とも呼ばれる)に対して制御された低い基板表面誤配向角度、及び周到な現場外調製を使用する。信頼性の高い様式でHDLを実行することは、例えば、0.5度の最大表面ミスカットに対応する、10nm×10nmのスケールの原子的に平坦なテラスを使用する。例えば、結晶成長に十分なステップ端を提供するために、0.1度の最小ミスカット角度もあり得る。ミスカット角度はまた、表面配向(すなわち、{100}又は{111})に依存し得る。いくつかの例では、ミスカット角度は、0.1度~3.4度である。
【0093】
ミスカットの方向はまた、テラスの形状及び構造にも影響を与える。表面欠陥は、正確なSTM撮像及び関連付けられたHDLを困難にするため、低い粗さ(すなわち、各テラスは平坦であり、欠陥はほとんどない)が使用される。表面の誤配向角度でダイヤモンド表面を調製すると、隣接するテラス間の境界として機能するステップ端も生成される。これらのステップ端は、典型的には、ちょうど原子1つ分の高さを有する。これらのステップ端はまた、ダイヤモンド成長がステップ端から発するように、CVDダイヤモンドの過成長の制御を提供する。
【0094】
本明細書に開示される方法は、複数のキュービットを製造するために使用され得ることに留意されたい。すなわち、HDLは、複数の部位で水素原子を除去し、これら複数の部位の各々は、1つのキュービットの作成のために後で使用される。これらのキュービット間の相互作用は、脱不動態化された部位間の距離に依存し、特定の量子コンピューティングアプリケーションに適合するように設計され得る。したがって、後で形成されたキュービットが、異なるテラス上の窒素によって形成されるキュービットとも相互作用するように、部位が適切に離間しているという条件で、テラスごとに窒素原子のための2つ以上の脱不活性化部位が存在し得る。例えば、10nm×10nmのテラス上に、窒素から5nmの間隔で2×2キュービットがあってもよく、又は100nm×100nmのテラス上に、窒素から5nmの間隔で10×10キュービットがあってもよい。一例では、キュービット間の距離は、+/-1nmの公差で、5nmである。
【0095】
開示された方法は、理想的には、完全に水素終端処理されているが、ダイヤモンド表面上の制御されていない/ランダムな/寄生性の終端処理されていない部位の低密度に耐えることができる、ダイヤモンド表面の作成を提供する。表面上の制御されていない/ランダムな/寄生性の終端処理されていない部位は、窒素含有分子の誤った吸着部位として機能する。水素終端は、リソグラフィに効果的なレジストを提供することが知られている。マイクロ波プラズマを用いた水素終端処理のプロセスは、後のステップのために適切なテラス状の形態を有する表面をもたらす、多段階プロセスの一部である。この多段階プロセスの残りのステップは、研磨、表面のエッチング、及び/又は表面上での成長である。
【0096】
開示された方法は、1ppb未満のN含有量及び0.3%未満の13C同位体を有する高純度ダイヤモンドを使用する。NV中心のコヒーレンス時間は、ダイヤモンド純度に対応し、量子演算性能もそうである。窒素欠陥は、アニーリング中に誤ってNV中心に変換され、製作された量子プロセッサにおいて、キュービットの初期化及び読み出し性能を低下させるバックグラウンド信号を生成する可能性がある。
【0097】
方法は、ドープ領域を使用して、活性化した欠陥濃度が1016~1020cm-3であるn又はpドーピングを生成する。活性化した欠陥は、ドナー又はアクセプターのいずれかとして作用するものとして定義される。2つの可能なドーパントは、置換ホウ素(p型)又は置換リン(n型)である。このドープ領域は、非局在化電荷キャリアをダイヤモンド基板内に導入する。これらの非局在化電荷キャリアは、ダイヤモンドを通る電流を提供するため、STMの実装を可能にする。
【0098】
ドープ領域は、最終的なデバイス内のNVデコヒーレンス効果を防ぐために、製作点から(マイクロメートルのオーダー、例えば、1~100μmのオーダーで)十分に離れており、これは、量子コンピューティングの性能を制限する。このことは、ドープ領域と真性領域との間の界面の鮮明さによって制限される。図3に示すように、STM動作(従来の撮像モードで)は、製作点とドーピング領域との間の距離(d)よりも大きいドーピング領域の深さ(D)を使用する。STM動作(熱電子注入撮像モード、図2bに図示されるようなステップ2を参照されたい)では、dは、最大約100μmであり得る。
【0099】
方法は、ドープ領域上方のダイヤモンド表面上に低抵抗接触を作成する。例えば、パラジウムを使用するオーミック接触である。接触は、走査トンネル顕微鏡法中に、電荷キャリアのソース又はシンクを提供する。
【0100】
本ステップの手順は、以下の通りである。
1. {100}又は{111}面の配向を有する、ドーピングされていない高純度単結晶ダイヤモンド試料を、供給元から取得する。
2. 機械研磨、化学機械研磨(CMP)、反応性イオンエッチング(RIE)及び(酸洗浄などの)湿式化学洗浄を組み合わせた表面処理により、閾値の二乗平均平方根(RMS)及びミスカット角度を達成し、表面下の損傷を最小限に抑える。
3. 後研磨洗浄ステップ。
4. マスクを通したパターン化ドーパント注入、及び後続のアニーリングにより、n型又はp型ドーピング(1016~1020cm-3の活性ドーパント)を生成する。これはまた、リソグラフィ及びCVDによっても達成され得る。
5. 酸洗浄などの洗浄。
6. 水素プラズマを使用するか、又はプラズマに炭素を添加して、複数のプラズマレシピのステップで原子的に平坦なテラスを作成し、高品質の表面を確保する。アルゴン/酸素/窒素/フッ素などの他のプラズマ添加物も使用され得る。
7. ほぼ単一の水素表面被覆を実現するための、水素プラズマ処理。
8. 真空中の電子ビーム蒸着を使用する、ドープ領域上方のダイヤモンド表面上の低抵抗接触パッドの製作。
【0101】
ダイヤモンド表面のミスカットとCVDダイヤモンドの成長形態との間には、密接な関係が存在する。したがって、幾何学的に制限された最大テラスサイズと、CVD成長形態との間には、トレードオフがあり得る。吸着した種がCVD成長中に脱離を経ないことを確実にするために、ミスカット角度は最適化されている。
【0102】
いくつかの実験では、例示的な調製プロトコルは、隔離された10nmの個々のテラスを有する、典型的な平均テラス幅3nmを生成する。表面処理技術の更なる最適化は、平均サイズが10nm×10nmであるテラスを生成するために使用される。
【0103】
{111}ダイヤモンド表面の調製はまた、熱化学反応プロセスを介した表面の平坦化も含み得る。このエッチングプロセスを使用して、10~15mmの長さスケールにわたって粗さ0.3nmを呈する{111}ダイヤモンド表面を生成することができる。プロセスは、以下を伴う:
・{111}ダイヤモンド基板を酸洗浄すること。
・電子ビーム蒸着を介した、{111}ダイヤモンド基板上の厚さ500nmの遷移金属(例えば、Ni、又はNiCr)膜の蒸着。
・窒素ガスを水を通してバブリングし、10sccmで石英管を通して流すことによって、大気圧での水に富んだ環境において、石英管炉内で高温(900℃)で基板をアニーリングすること。
・基板を酸洗浄し、残留物質を除去すること。
・所望の表面が達成されるまで、プロセスを繰り返すこと。
【0104】
ステップ2:水素脱離リソグラフィ
一連の電圧パルスを通して達成される、STM先端を有する水素脱離リソグラフィ(HDL)は、水素終端処理されたダイヤモンド表面における(すなわち、原子スケールの精度で)単一原子部位の、制御された決定論的な脱動態化である。表面上の脱不動態化炭素部位は、非結合sp構成(「ダングリング」結合とも呼ばれる)において、不対価電子を有する。不対電子は、分子吸着に対して反応性が高い部位であり、入射N含有分子との結合を容易に形成する(図2cに図示されるようなステップ3を参照されたい)。対照的に、水素脱不動態化ダイヤモンド表面は、強いC-H結合エネルギーのために、大部分は非反応性である。
【0105】
単一のNV中心を製作するための提案された仕様は、以下の通りである。{100}ダイヤモンドの場合、6個の隣接する水素原子からなるパッチが、3個の隣接する二量体にわたって除去され、有力候補となる窒素含有分子を用いた理論計算に基づいて判定される。{111}ダイヤモンドの場合、三角形に配置された3個の隣接する水素原子からなるパッチが除去される。
【0106】
図4aは、HDLの後に{100}H終端処理されたダイヤモンド表面を図示する。図4bは、HDLの後に{111}H終端処理されたダイヤモンド表面を図示する。出来上がった滑らかに終端されたパッチは、熱的に安定であり、窒素含有分子の吸着部位として機能する。
【0107】
上記の仕様は、格子部位の精度で単一のNV中心を製作するために必要な最小量のリソグラフィを説明している。脱不動態化領域がより大きくても、窒素含有分子は、ステップ3に提示されるように、ほとんど同じ化学的性質を有する表面に吸着することができる。
【0108】
STM撮像は、吸着部位を識別し、良好な分子吸着を検証する。ダイヤモンドに対する従来のSTM撮像は、ホウ素ドーピングを使用して、試料全体にわたって、p型導電性を実現する。しかしながら、最終的なデバイスにデコヒーレンス効果をもたらすため、製作部位の近くにドーパントが存在することは望ましくない。したがって、製作部位のSTM撮像は、本質的に絶縁性の(すなわち、局所的にドーピングされていない)ダイヤモンドで行われる。これを達成するために、以下の2つの方法がある:(1)共鳴電子注入、及び(2)近くのドープ接触領域を使用する従来の撮像。
【0109】
共鳴電子注入は、先端と試料との間の真空ギャップに確立された定在波共鳴を通して、STM先端からダイヤモンド表面に電子を注入することによって、達成される。共鳴状態のエネルギーは、先端の部位での表面電位とともに変化する。したがって、先端が固定電圧でバイアスされると、注入(トンネリング)電流は、先端が表面にわたって走査される際の表面電位の局所的な変化によって変調される。これにより、リソグラフィを実行するのに適した部位を識別するための表面の撮像と、リソグラフィの後で、水素の脱離を検証するための部位の撮像と、が可能になる。
【0110】
従来のSTM撮像はまた、製作点の近くに位置するオーミック接触の下の高濃度n又はpドープ領域から電荷キャリアを引き出すことによって、絶縁表面上で達成可能であり得る。ドープ領域が製作点の近くにあるため、電荷キャリアを、STM撮像に使用するために引き込むことができる。ドーパントの熱イオン化は、非局在化キャリアを作成し、これは、先端が適切にバイアスされている場合、STM先端の下に局在する。キャリアの存在により、STM先端と表面との間に著しい電圧降下を作成することと、非占有/占有状態密度を提供することと、を通して、絶縁表面上での従来のSTM撮像が可能になる。n型ドーピングが使用される場合、同じドーパント領域が、デバイス動作中にNV電荷状態を安定させるために使用され得る。一例では、図3に示されるように、従来の撮像は、D>>dの域で実行される。
【0111】
本ステップの手順は、以下の通りである。
1. STM及び適切な試料調製ツールを含む超高真空環境に、水素終端処理されたダイヤモンドを導入する。
2. 1時間の450℃アニーリングなどのその場アニーリングプロセスを使用して、雰囲気汚染及び不定炭素を除去する。
3. (共鳴注入又は従来の)STM撮像モードを使用して、リソグラフィに適したテラス(10nm×10nm)を識別する。
4. 水素の脱離が望ましい部位上方にSTM先端を位置決めし、水素が除去されるまで、電流/電圧パルスを実行する。所望の脱不動態化された部位において、全ての水素原子について繰り返す。
5. 局所的なダングリング結合特徴の存在によって示される、水素が脱離していることを、STM撮像モードを使用して検証する。
【0112】
図5は、STMベースの脱離の概略図を図示する。H終端処理されたダイヤモンド表面上のSTMベースのHDLは、以下の4個のパラメータを使用する:先端半径、(バイアス電圧及び先端高さに依存する)トンネリング電流、及びトンネリング期間、並びに先端場所の精密制御。特に、より鋭い先端を使用して、1~2個の原子部位よりも良好など、より高い位置精度及び精密さを得ることができる。先端半径は、1nm以下であり得る。
【0113】
ホウ素ドープダイヤモンドでのリソグラフィは、2×10-11Torrなどの1×10-9未満の圧力で実行され得る。ダイヤモンド中における水素脱不動態化は、1ms~10msの範囲の電流パルス、2.7V~7Vの範囲の電圧及び1nA~50nAの範囲の電流で、実行され得る。
【0114】
ステップ3:窒素含有分子への曝露
ステップ3(方法150の項目153)は、ステップ2その場の直後に続いてもよい。所望の結果は、HDLを使用して生成された脱不動態化された部位上の単一のN含有分子の化学吸着である。理想的には、吸着した分子は、表面との強い共有結合(1eV以上の結合エネルギー)を有し、分子の窒素部分は、脱不活性化部位のうちの1つ以上に直接結合している。これは、過成長中のCVDの変わりやすい(高温/高粒子フラックス)条件に耐えるためである(図2dに図示されるようなステップ4を参照されたい)。
【0115】
いくつかの例では、特定の窒素同位体と合成された分子を含む、窒素含有化合物が使用される。これは、異なる役割に対して異なる利点及び欠点を有する、スピン1とスピン1/2キュービットシステムとの間の選択肢を提供する。13C及び/又は14N又は15N前駆体を使用して分子を合成することによって、ステップ3中にCキュービットをシードする可能性もまた存在する。分子中に同位体を意図的に含めることにより、各NV中心に関連付けられた追加のキュービットの製作が可能になる。ある例では、窒素含有分子中の13C同位体の位置を操作することによって、ダイヤモンド表面上のそれらの位置は、吸着化学を通して決定論的に制御され得る。したがって、過成長の後に、13Cキュービットを、原子スケールの精度で製作されたNV中心に対して位置決めすることができる。
{100}面
【0116】
図6は、滑らかに終端処理された{100}ダイヤモンド表面上のアセトニトリルの予想吸着構成を図示する。異なるクラスの分子は、表面形状に応じて吸着に適し得る。{100}形状の場合、表面は、ニトリル基(-CN)を含有する分子に曝露されてもよい。ある例では、その分子は、シアン化水素(HCN)又はアセトニトリル(CN)であるが、ニトリル基が、所望の構成では、ダイヤモンド表面との反応を決定するものであるため、ニトリル基を有する他の分子も良好に機能するはずである。そのため、分子の残りがどのような形をとるかは、関連性がないはずである。
【0117】
2つの例示的な分子に関する量子化学計算は、ニトリル基が、二量体列に平行(A1と示される)、又はそれらに垂直(B1と示される)の2つの配向のうちの1つにおいて、脱不動態化された表面に吸着することができると予測する。A1吸着種の場合、アセトニトリル分子が、A2と呼ばれる二量体の中心に再位置決めされる第2の表面反応が生じることは、エネルギー的に実行可能であり、好ましい。
【0118】
同様の結合が、ニトリル官能基も有するより大きな分子に生じる。これは、ニトリル基が、分子の活性結合領域であり、分子の他の成分が、化学反応性でない場合、結合に関与しない可能性があるためである。活性結合領域はまた、窒素を含有し、脱不動態化された部位において「ダングリング」結合に反応することによって、窒素をダイヤモンド基板に導入する分子の成分であるため、反応性窒素基ともみなされ得る。分子の残りの成分は、反応性窒素基に結合された、非反応性基を形成する。ある例では、アルカン鎖中のニトリル基に結合した単結合炭素の数は、それらが、ダイヤモンド表面と反応しないため、任意に大きくすることができる。したがって、ニトリル基を有する(かつ、追加の官能基はない)ほとんどの分子は、上述の様式で{100}面に結合する。
【0119】
図7は、新しい表面層上に吸着したC-C二量体を通して核化される、CVD中のステップフロー成長を図示する。ダイヤモンド層成長の既知の構造との幾何学的及び電子的類似性のために、A2吸着種構成は、ステップ4にとって望ましい。CVD中のステップフロー成長は、新しい表面層上に吸着したC-C二量体を通して核化される。A2吸着種は、吸着した二量体、具体的には、2個の隣接する表面二量体にわたって4個のsp結合との幾何学的類似性を有する。したがって、A2吸着種は、バルクダイヤモンド構造に効率的に組み込まれ得る。
{111}面
【0120】
NV中心は、CVD成長中に共通のスピン軸に沿って自然にアライメントされるため、{111}面上の原子スケール製作が望ましい場合がある。中心のアライメントは、量子コンピューティングデバイスの機能にとって望ましい。
【0121】
{100}ダイヤモンドの場合と同様に、CVD成長中に観察された構造に幾何学的及び化学的な類似点を有する分子吸着種を使用することが有利であり得る。このことは、主に、その後成長した封入層に窒素を組み込むことを可能にするためである。これらの要件に適合する{111}ダイヤモンドの候補には、アジリジンとインドリジンが含まれる。
【0122】
図8aは、露出{111}面上のアジリジンの1つの可能な吸着種構成を図示する。図8bは、CVD中の、図8aの吸着種のCH基との更なる結合を図示する。図8cは、{111}CVD過成長中の、新しい層成長の開始点を図示する。アジリジン官能基は、三角形状で一緒に結合した窒素原子及び2個の炭素原子からなる。このような分子構造の高ひずみのため、アジリジンは、反応性が高い。最も単純なアジリジン(「アジリジン」、(CHNHとも呼ばれる)の場合、量子化学計算は、分子が、図8aに示される様式で、{111}面に吸着し得ることを実証する。CVD過成長中、CH基との更なる結合は、図8bに示される構造をもたらし得、構造は、図8cと強い幾何学的及び化学的類似性を示し、{111}CVD過成長中の、新しい層成長の開始点であると考えられる。
【0123】
{111}面上の吸着の他の潜在的な候補としては、インドリジンと、イソシアニド官能基を含有する分子と、が挙げられる。ニトリルと同様に、アジリジン及びイソシアニド官能基のみを有する分子は、その官能基のみを有する他の全ての分子と類同の様式で、{111}面に結合すべきである。他の例としては、使用するのにより実用的であり得る、ピリジン誘導体の使用が挙げられる。
【0124】
本ステップの手順は、以下の通りである。
1. 分子吸着を可能にする温度で、UHV条件下で表面を窒素含有分子(上記の候補又は他の分子)に曝露する。
2. 望ましくない吸着種/吸着種構成を試料の曝露後の加熱により、脱離させる。
3. 撮像モードでSTMを使用して、分子の吸着を確認する。STMでない場合(すなわち、電子/x線又は他の形態のリソグラフィを使用して実行されるリソグラフィ)、化学プロセスの非決定性に依存する。
4. 分子が良好に吸着するまで、ステップ1~3を繰り返す。
【0125】
対応する化合物基中のニトリル官能基及びアジリジン官能基の両方が、このプロセスにおいて反応性窒素基として作用する。これらの官能基は、脱不動態化された部位において「ダングリング」結合に反応することによって、窒素をダイヤモンド基板に導入する役割を果たす。
【0126】
ニトリル基は、追加の反応性官能基を含有しない任意の分子構造からなる、非反応性基に結合されたニトリル官能基を含有する分子からなる。非反応性基は、アルカン、アルケン、アルキン又は芳香族環のうちのいずれか1つ以上を有する任意の長さの炭素鎖を含み得るが、これらに限定されない。
【0127】
同様に、アジリジン基は、非反応性基に結合されたアジリジン官能基を含有する分子からなる。非反応性基は、1個のアミン及び2個のメチレン架橋を有する三員複素環を含むが、追加の反応性官能基ではない、任意の他の分子構造も含み得る。
【0128】
上記の例は、次いで除去される非反応性基に結合した反応性基に関連しているが、他の例は、他の分子を使用してもよい。例えば、方法は、分子の尾部が、特定のやり方で(例えば、窒素に結合した2個の13C原子を残すが、他の全てが除去されるように)破断するように反応を操作するなどのために、わずかに複雑な分子を使用してもよい。これには、より多くのヘテロ原子を有する分子が含まれ得る。換言すれば、13Cドーピングを支援する、1つ以上の拡張官能基があり得る。更に、潜在的により工業的にスケーラブルな分子が存在し得る。すなわち、ニトリル基は、表面に結合したままの分子の部分のみではない可能性がある。例えば、13Cドーピングを支援する、拡張基があり得る。
【0129】
ある意味では、反応性窒素基中の窒素が、窒素含有化合物中の他の原子よりも有利にダイヤモンドに結合するような、競争反応があると言える。これは、置換又は非置換窒素含有芳香族基を形成する、全ての窒素含有化合物を含み得る。
【0130】
上記のように、窒素含有化合物は、1つ、2つ以上の芳香族環を含み得る。二重環の例の場合、窒素含有化合物は、三重の配位窒素を含み得、すなわち、窒素は、炭素表面からの3個の炭素原子に結合している。このことは、吸着安定性を提供することができる。更に、窒素含有化合物は、化学的に安定した孤立電子対を形成する窒素を含み得る。そのような対は、窒素空孔の形成に有用である。より具体的には、孤立電子対は、追加の元素へのNの更なる結合を妨げ、これは、Nと空孔の対合を強化し、したがって、窒素空孔の形成を支援する。更に、窒素含有化合物は、三重配位に関与する結合角によって達成される予測可能な方向に、実質的にアライメントされた窒素孤立電子対を含む。
【0131】
窒素含有化合物は、分子中に3個又は4個の二重炭素結合を有し得、高い表面被覆率で、ダイヤモンド表面への吸着のための低エネルギーを提供する。いくつかの例では、二重結合は、単結合とは対照的に、表面上に効率的に吸着する。後者は、吸着を制限し得る高エネルギープロセスである、結合破壊とともに使用される。窒素含有化合物は、ダイヤモンド中で自然に観察されるように、5個又は6個の炭素員環を含み得、窒素をダイヤモンド表面に組み込むための過成長プロセスを容易にする。窒素含有化合物は、芳香族化合物であってもよく、窒素の孤立対電子状態を安定させて維持する、環状共鳴を含んでもよい。窒素の孤立対電子状態は、過成長プロセス中の窒素の炭素原子への追加の結合を防止することによって、N-V対の形成を容易にする。窒素含有化合物中の窒素は、孤立対電子状態の安定化のために最大の既知の共鳴を提供するような、五員環の一部であり得る。
【0132】
計算化学によって検証された、モデリング及び理論的探索を介して識別された候補は、インドリジンである。インドリジンは、化学式がCNの複素環式化合物であり、それは、窒素が環縮合位置に位置するインドールの異性体であり、これは、インドリジン中の窒素が、反応性窒素基を形成することを意味する。インドールは、ベンゼン環(六員環)と結合したピロール環(五員環)からなる、複素環式芳香族化合物である。この化合物は、高度に安定しており、いくつかの天然物に含まれており、このことは、工業用としての利点である。これは、インドリジンが、既存の製造ハードウェアを使用して多数のデバイスを製造できるように、工業規模にスケーラブルなプロセスを支援し得ることを意味する。いくつかの例では、インドリジンは、窒素を{111}ダイヤモンド表面に組み込むために使用される。しかしながら、他の実施例では、インドリジンは、窒素を{100}ダイヤモンド表面に組み込むために使用される。
【0133】
インドリジンは、あるクラスの化合物を形成し、以下のいずれかから生じる。
(1)2個の員環(ピロールおベンゼン)を有する、純粋な形態
(2)五員ピロール環上に追加の付着を有する、純粋な形態
(3)六員ベンゼン環上に追加の付着を有する、純粋な形態
【0134】
(1)を含むプロセスは、最も効果的なオプションとして識別される。純粋なインドリジンは市販されており、プロセスへの経路を提供する。一例では、純度は、少なくとも95%である。しかしながら、未確認の混入物質が、この化合物の使用に有害である場合、オプション(3)は、非常に高い純度で市販されている大きなクラスの化合物を公開する。
【0135】
加えて、六員環に結合した配位子は、過成長プロセスの制御されない二次反応を回避するための、CVD成長チャンバ内で見られる基であり得、炭化水素を含有し得る。いくつかの例では、配位子は、以下を含む:
(1)特定の識別された例が2-tert-ブチル-インドリジン、5,8-ジメチル-インドリジンである、インドリジン六員環に結合したアルキル置換基(CH、C、C、C、…)
(2)アリール置換基(-CX)、5-メチル-2-フェニル-インドリジン
【0136】
ハロゲン基はまた、以下のような-F、-Cl、-Br、-I基を有する生存ルートを提供し得る:
(1)7-ブロモ-インドリジン
(2)7-クロロ-インドリジン
(3)7-(ブロモ-メチル)-インドリジン
(4)7-(クロロ-メチル)-インドリジン
【0137】
図11は、ハロゲン置換基、アルキル置換基、及びアリール置換基を含む、市販のインドリジン誘導体のいくつかの例を図示する。例えば、5-メチル-2-フェニルインドリジン及び2-tert-ブチル-インドリジスは、Molport(molport.com)から入手可能であり、7-ブロモ-インドリジンは、Biosynth(biosynth.com)から入手可能である。
【0138】
ニトリル、アジリジン、及びインドリジン分子、並びに本明細書で想定される他のものを含む、上記の反応性窒素基は、表面に対して所望の配向でダイヤモンド基板の表面に吸着することができるため、有用である。このような所望の配向は、後続のCVD過成長に適合するものであり、その結果、分子は、過成長におけるダイヤモンド構造と同様の幾何学的及び化学的類似点を有するように配向される。より具体的には、{100}面の例では、所望の配向は、2つの隣接する表面二量体にわたって4つのsp結合があるようなものである。これらの結合は、ダイヤモンド基板への窒素含有化合物の強い吸着を確立し、後続のダイヤモンド過成長の変わりやすい条件に耐えることを可能にする。
【0139】
{111}面は、二量体を呈さない可能性がある。むしろ、それは、1×1再構成である。表面形状は、3個の隣接する表面と3個の隣接する表面炭素原子との間に六角形が形成された、規則的なハニカムパターンがあるようなものである。その結果として、{111}面上のHDLパッチは、表面形状が異なるため、{100}のような長方形ではなく、3個の表面原子から形成された三角形である。図4bに示されるように、三角形パッチは、その後過成長した層における結晶双晶形成を防止するために、3個の隣接する六角形にわたる代わりに、単一の六角形の表面炭素にわたって製作されるべきである。{111}の場合、吸着したユニットは、脱不動態化された表面炭素とのsp3-結合を形成する。出来上がった構造は、三角形のパッチ上に形成された新しいダイヤモンドサブユニットに似ている。
【0140】
反応性窒素基からの窒素が、脱不動態化された部位に吸着すると、不要な又は望ましくない非反応性基は、ダイヤモンド試料の曝露後の加熱又は反応性ガスへの曝露などのプロセスによって除去され得る。脱不動態化された部位における窒素と炭素原子との間の結合は、曝露後の加熱の温度に耐えるのに十分に強い。この温度はまた、反応性窒素基と非反応性基との間の結合を壊すのに十分に高く、窒素含有化合物の不要で望ましくない部分を除去させる。これにより、脱不動態化された部位においてダイヤモンド基板に吸着した窒素だけが残される。
【0141】
{100}ダイヤモンドの場合、X線光電子分光法(XPS)及び端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)実験の組み合わせにより、水素が、室温でのアセトニトリルの吸着に効果的なレジストを提供することが判定された(図2cに図示されるようなステップ3を参照されたい)。
【0142】
図9は、室温でのアセトニトリルの1000ラングミュアの曝露及び後続の熱処理の後に、滑らかに終端処理されたダイヤモンド表面のXPS走査を図示する。図9はまた、アセトニトリル曝露後の窒素1s(N1s)内殻準位のXPSデータを図示する。実験成果は、室温及び1000ラングミュアの曝露で、部分的に脱不動態化されたH-C{100}面へのアセトニトリルの化学吸着を更に実証している。スペクトルは、室温で、及びより高い温度でのアニーリング後での両方で得られる。
【0143】
これらの結果は、窒素原子が、最大900℃まで表面に結合したままであることを実証する。このことは、約850℃で熱脱離を経るダイヤモンド基板の{100}面上のC-H表面結合と同程度の強い化学結合を示す。これらの温度もまた、CVD成長中の試料温度とほぼ同等であることに留意されたい。アセトニトリルの吸着は、(水素の熱脱離を介して生成される)完全に脱動態化されたC-C二量体、及びx線曝露によって生成される部分的に脱動態化されたC-C二量体を有する表面上で生じる。更なる角度分解NEXAFS測定値は、2個の明瞭なピークの存在を実証し、アセトニトリルの物理吸着ではなく、化学吸着が生じたことを示唆している。より具体的には、NKエッジNEXAFSにおける明瞭な角度分解ピークは、ある種の窒素結合(推定するに、この場合は炭素)の順序アライメントがあることを意味する。これは、それ自体では、化学吸着があることを意味しない可能性がある。しかしながら、アセトニトリルのような分子の場合、窒素が基板に直接結合しない限り、順序アライメントは予期されない。これは、そうでなければ、窒素が移動し、角度依存性がより弱く(又はなく)なるためである。
【0144】
吸着種の結合配置は、シミュレートされた画像と比較することによって、撮像モードでSTMを使用して、その場で検証することができる。異なる吸着構成は、非経験的技術を使用してシミュレートされた、別個のSTM画像を生成する。あまり望ましくない構成が識別される場合、選択的な熱脱離及び共鳴光学技術又は電気技術(例えば、STMを使用する原子精密リソグラフィ)を含む、選択的な除去手段を使用して、吸着した分子を除去することができる。それにもかかわらず、リソグラフィの望ましい結果は、滑らかに脱不動態化されたパッチを再現することである。これにより、ステップ3を繰り返して、所望の吸着形状を得ることができる。
【0145】
図10は、A1、A2、及びB1構成におけるアセトニトリル吸着種の模擬定電流(約5nA)STM画像を図示する。これらの画像は、吸着種の配向に基づいて、3個の異なる構成を識別することが可能であることを実証する。吸着種は、二量体列に対して平行(A1、A2)又は垂直(B1)のいずれかであるように見える。計算は、非経験的及びSTM理論の最良の標準的技法を使用して実行された。シミュレーションは、ウィーン非経験的ソフトウェアパッケージ(VASP)を用いて、密度関数理論を使用して実行された。Perdew-Burke-Ernzerhof(PBE)交換相関汎関数、600eVのエネルギー遮断を有する平面波ベースを採用し、0.05eV/Åの力遮断に至るまでイオン構造を最適化する。ダイヤモンド表面は、寸法が5×4×6(バルクダイヤモンド基本単位セルの単位)の周期的なスラブ形状を使用してシミュレートされる。Chenの導関数規則(Chen’s derivative rule)は、sのような形質の先端を想定したSTM画像をシミュレートするために使用される。
【0146】
ステップ4:ダイヤモンド過成長を介したN封入
ステップ4(方法150の項目154)の目的は、吸着した窒素原子をダイヤモンド中に封入して、バルク置換N欠陥又はアライメントされたNV中心を実現することである。少なくとも50nmのダイヤモンド過成長を使用して、バルク状のNV特性を得る。ここで、移動又は脱離のいずれかを引き起こすことなく、表面窒素を封入するために、ダイヤモンドを過成長させる。過成長の量は、量子コンピューティングデバイスの所望の光学及び電子制御要素の特質に依存し、設計に応じて、NV中心までの異なる距離及び特定の形態に配列される。
【0147】
現在、バルクダイヤモンド中に吸着種を封入するための提案された2つの方法がある。第1の方法は、脱離の確率を最小限に抑えるために、特殊な条件下でCVD成長を採用する。第2の方法は、UHV下で炭素源及び制御された試料条件を採用して、分子線エピタキシー(MBE)ダイヤモンドの成長した封入層をいくつかの原子分の厚さで生成する。これは、次いで、後続のCVD過成長ステップでの脱離から吸着種を保護する。ここで、両方の方法について考察する。
【0148】
特殊なCVD過成長
特殊なCVD過成長は、3つの別個の段階、成長前表面調製段階、特殊な成長段階、及びバルク成長段階に分けられる。ここで、CVDで使用されるガスには、メタンなどの炭素源、及び水素が含まれることに留意されたい。水素は、表面水素及び非ダイヤモンド炭素を選択的にエッチング除去するため、含まれている。ガスは、マイクロ波電力、ホットフィラメント、アーク放電、溶接トーチ、レーザ、電子ビーム、又は他の手段を使用して、成長チャンバ内で化学的活性ラジカルにイオン化される。吸着した分子の脱離を防止するために、例えば、成長促進(すなわち、炭素含有)ガス種を増加させることによって、試料エッチングの速度を低下させ、ダイヤモンドのいくつかの原子層に封入することによってN欠陥を保護する成長条件を最初に使用する。より具体的には、プロセスは、異常に多くの高揮発性炭素種を使用する可能性がある。これは、方法は、窒素の脱離を回避しながらダイヤモンド成長をもちらす反応性水素/エッチング種に対する反応性炭素/成長種の比率を使用することを意味する。この文脈における脱離又は拡散を回避することは、量子デバイス用としてダイヤモンド結晶中に好適な数の窒素原子が残ることを意味する。これは、依然として脱離又は拡散して使用不可能になる可能性がある窒素原子もあれば、ダイヤモンド中に残って使用可能な量子デバイスをもたらす窒素原子もあることを意味する。また、所望の収率は、いくつかのダイヤモンドを廃棄するか、又は不十分な窒素原子が存在する1つのダイヤモンド中のいくつかの領域、すなわち、それらの意図された場所から脱離又は拡散された窒素原子が多すぎる領域を廃棄することによって、達成され得る可能性もある。水素が意図された領域のダイヤモンド表面から脱離され、窒素含有種がそれらの領域に吸着すると、窒素含有種が可動になることは望ましくない(脱離=ダイヤモンド表面からはずれて真空(z)中に向かうこと、又は拡散=表面(x,y)上の部位から離れること)。
【0149】
封入の後に、従来のCVDを使用して、置換欠陥又はNV中心が、その特性を安定させ、デバイス動作のための統合制御構造を形成するのに十分なほど表面から離れているように、より多くのダイヤモンドを成長させる。
【0150】
表面調製
【0151】
初期段階のプラズマ点火中に吸着種を保護するための(及び、初期段階の成長中に、期限付きの炭素が豊富な供給源をプラズマに提供するための)炭素質/炭化水素種の表面コーティング。
【0152】
特殊な成長段階
【表1】
【0153】
特殊な成長段階の微小圧力及び非常に低い試料温度は、脱不動態化された部位における炭素原子と、組み込まれた窒素との間の共有結合の保存をもたらす。より具体的には、低い圧力は、原子水素などの、相対的に少量の原子除去(エッチング)種をもたらし得、低い試料温度は、表面原子種の原子水素との反応性を低下させる。
【0154】
バルク過成長
方法は、従来のプラズマ条件を使用して、結晶中への水素拡散による、NV-->NVH変換を最小限に抑えるように選択されたバルクCVDダイヤモンド成長を生成する。
【0155】
MBEダイヤモンドキャッピング層のその場成長
このプロセスは、超高真空(UHV)条件下で、薄い(5nm未満)MBEダイヤモンドキャッピング層の成長を達成し、最小限の表面エッチングがあるようなやり方で、ステップ3の直後の封入を可能にすることを目的とする。これは、以下により達成することができる:
1. 熱分解又はマイクロ波空洞のいずれかを使用して、UHVチャンバ内で、炭化水素(典型的には、メタンなどの軽量の炭化水素)及び水素ラジカルを生成すること。
2. 炭化水素及び水素ラジカルの制御されたフラックスに試料を曝露すること。
3. 表面と、表面上のsp炭素の成長を促進する炭化水素ラジカルとの間の反応を可能にするようなやり方で、そのような反応を促進するように作用する水素ラジカルを用いて、試料温度を制御すること。試料温度は、アセトニトリルの脱離を防止するために、300℃~650℃の範囲内であってもよく、黒鉛化を防止するために、1200℃未満であってもよい。
4. この成長の後に、試料は、更なる処理のために、(従来のCVDなどの)他の製作システムに移され得る。
【0156】
上記に示したように、化学蒸着(CVD)は、ダイヤモンド試料が、原子水素及び炭化水素ラジカルの高温プラズマに曝露される{100}及び{111}面の両方のための成長技術である。一般に、吸着種の安定性は、表面への化学結合の数とともに増大する。A2構造は、可能な限り最大数の表面への安定結合を有し、CVD中の新しい層の成長に類似した幾何学的形状を有する(図6及び図7を参照されたい)。それは、したがって、{100}面上の原子スケール製作のために最も実行可能な吸着種と考えられている。同様に、{111}ダイヤモンドの場合、分子吸着種は、{111}面上の新しい表面成長に似ている(図6a~図6cを参照されたい)。
【0157】
CVD中の2つの主要な脱離機構である、熱脱離及びβ開裂が存在する。一般に、熱脱離の確率は、温度とともに高まる。したがって、低温CVD成長は、熱脱離を軽減するための実行可能なオプションであり得る。β開裂は、吸着した種への表面電子の移動にとってエネルギー的に好ましいときに生じ、これは、次いで、脱離を促す。
【0158】
試料温度及び圧力の両方は、CVD成長中、ダイヤモンドの成長速度を制御し、窒素欠陥がダイヤモンドから移動又は脱離しないことを確実にするために、十分に低い。温度の上昇は、システムの熱エネルギーを増やし、それにより、CVDプラズマ中のラジカルの運動エネルギーを増やすため、温度はダイヤモンド成長速度に影響を与える。ラジカルの運動エネルギーが、ダイヤモンド表面上の窒素と炭素との間の共有結合の結合エネルギーよりも大きい場合、共有結合が壊れる可能性があり、窒素が表面から脱離する。圧力の上昇は、作成されたラジカルの数と、したがって、炭素ラジカルが、結合してダイヤモンド構造を形成するのに十分な近さにある確率と、を変化させるため、圧力はダイヤモンド成長率に影響を与える。低い圧力は、ダイヤモンド表面に結合した窒素にラジカルが衝突する確率を低下させることができ、共有結合を保つための運動エネルギーの移動を防止することができる。
【0159】
{100}及び{111}面上の成長は、典型的には、核生成の速度を上回る層成長の速度によって特徴付けられるステップフローモードを通して実現される。{100}及び{111}面の両方について、窒素の存在は、新しい成長面を核化することを通して、ステップフロー成長の速度を高める。これは、{111}面では、β開裂に対する表面結合窒素の安定性によって引き起こされると考えられている。{111}面でのCVD成長はまた、優先的にアライメントされたNV中心をもたらすことも知られており、最近の研究では、完璧に近いアライメント(99%)が実証されている。「優先的にアライメントされたNV」は、それらの欠陥軸が、共線的であり、欠陥軸が、窒素と空孔部位との間の方向として定義されるように、定義されることに留意されたい。
【0160】
UHVベースの薄膜ダイヤモンド成長方法は、炭化水素及び水素ラジカルの制御されたフラックスへの試料の曝露によって、シリコンなどの材料に適用することができる。このアプローチは、「標準」対応物と比較した、ラジカル種の化学反応性の上昇に依存して、CVD反応器の条件又は大気条件で観察されるものへの代替的な反応経路を可能にし、それにより、MBEプロセスを介して、ダイヤモンドの好ましい成長を可能にする。UHV環境のうちの低い圧力は、そのようなラジカル種が、試料表面に輸送されるのに十分な時間存在することが可能であることを意味するが、より高い圧力では、これらの反応種は、それを行うのに十分な時間存在しないことになる。
【0161】
メチル(メタン)ラジカル及び水素ラジカルを含むUHV互換ラジカル源のための様々な設計が可能であり、市販で購入されるか、又は市販の機器から適用されるかのいずれかが可能である。例えば、ガス流量及び温度を制御することができる、加熱ガス流用チューブを使用することができる。商業的な例としては、Focus EFM-H及びCreaTec HLCが挙げられる。そのような源は、UHV器具に組み込むことができるアドオン機器の一部である。ラジカル生成には、以下の3つの関連する方法がある:
1. ガス分子の熱分解-すなわち、分子を反応片に「分解」するのに適切な温度にある加熱素子の上にガスを流すこと。
2. ガス分子の電子イオン化。
3. 分子のマイクロ波励起。
【0162】
UHV実験用の最も一般的なラジカル源である熱分解装置は、典型的には、ほとんどの加熱素子が、UHVの下では、熱電子放出に起因して電子束を生成するため、プロセス1及び2を通してラジカルを作成する。ラジカル発生へのマイクロ波空洞ベースのアプローチは、CVDシステムと同様に、マイクロ波励起を介してラジカルを作成する。
【0163】
試料に到達するラジカルフラックスの制御は、以下によって達成される:
・典型的には、各ガスライン上の質量流量コントローラで実現される、ラジカル源を通る制御されたガス流量。
・「分解」速度を変化させ、電子性分子のイオン化(熱分解装置)の速度に影響を与えるような、加熱素子の制御された温度。
・ラジカル源上に、試料に到達する前にラジカルの一部を除去することができる、「サプレッサ」電極素子を採用すること。
【0164】
ステップ5:イオン注入及びアニーリングを介したNV作成
アライメントされたNV中心へのバルク置換窒素欠陥の成長後の変換(方法150の項目155)。
【0165】
本ステップの手順は、以下の通りである。
1. 空孔の局所的なクラスタは、炭素イオンの照射を通して、バルク窒素欠陥の近くで生成され得る。イオン照射のエネルギーは、窒素の深さ次第である。例えば、50nmでは、エネルギーは、約50keVである。
2. 1400℃などの600℃を超える温度でのアニーリングは、空孔の移動を引き起こす。移動式空孔と静的置換窒素欠陥が接触すると、その後、NV中心が形成される。
【0166】
吸着した窒素が、CVD過成長中に、置換窒素欠陥の代わりに、NV中心に変換される確率はゼロではない。これは、方法150では、ステップ154及び155が、同じ製作ステップで実行されることを意味する。光学顕微鏡法を使用して、空孔の生成の前に過成長した後の置換窒素欠陥の代わりに、NV中心の存在を確認することができる。この場合、ステップ5は、実行されない場合がある。
【0167】
NV中心は、充電プロセスを介して、NVに変換され得る。この充電プロセスは、n型ドナー領域を介して生じ得る。ドナー領域は、ダイヤモンド試料の調製中にステップ1に導入され得るか、又は追加のn型ドナー領域は、イオン注入又はドープダイヤモンド成長を介して、ステップ5に導入され得る。ダイヤモンド中のn型ドーパントは、NV中心に外部電圧を印加することを可能にし、これは、フェルミ準位の位置を変更し、NV中心を充電する。
【0168】
多くの変形及び/又は修正が、本開示の幅広い一般的な範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に対して行われ得ることが、当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8a
図8b
図8c
図9
図10
図11
【国際調査報告】