(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】核酸の検出および定量
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6844 20180101AFI20241031BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241031BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20241031BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241031BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20241031BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241031BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20241031BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/115 Z
C12M1/00 A
C12Q1/6876 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533095
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-26
(86)【国際出願番号】 AU2022051434
(87)【国際公開番号】W WO2023097367
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524207910
【氏名又は名称】アーチャー マテリアルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073287
【氏名又は名称】西山 聞一
(72)【発明者】
【氏名】モハメド シューケア
(72)【発明者】
【氏名】レア コーネリー
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029FA15
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR35
4B063QR55
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、一本鎖核酸を電子的に検出するためのプロセスおよびそのようなプロセスに使用してもよいバイオセンサーに関する。本発明はまた、1つまたは複数の一本鎖核酸を検出するためのプロセスおよびバイオセンサーの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列を製造する方法であって、
1)
i)部分的二本鎖検出ゲート核酸構築物(DG)であって、
a.レポーター核酸配列(RSS)の部分領域と相補的な部分領域と、RSSとは非相補的であるが、一本鎖インベーダー核酸配列(ISS)の部分配列と部分的に相補的な足がかり配列(THS)領域とを有する一本鎖検出基質核酸配列(DSSS)と、
b.DSSSの部分領域と相補的な領域と、シグナル基質鎖(SSS)の1つまたは複数の前電子可読領域に相補的であるが、RSS、DSSS、ISSのいずれとも非相補的な領域を有する一本鎖RSSと
を含む部分的二本鎖検出ゲート核酸構築物(DG)、
ii)DSSSのTHSに相補的な領域を有する一本鎖インベーダー核酸配列(ISS)、
iii)部分的二本鎖シグナルゲート構築物(SG)であって、
a.RSSの相補鎖であり、RSSに相補的な足がかり配列(THS)も含むSSSと、
b.SSSの一部に相補的であるが、SSSのTHSではない複数の前電子可読シグナルオリゴヌクレオチド(SO)と、
を含む部分的二本鎖シグナルゲート構築物(SG)
を選択するステップと、
2)DG上のTHS領域がISSの結合を開始し、RSSの置換をもたらすような方法および条件下でDGとISSとを反応させるステップであって、RSSがSGのTHSにさらに結合し、前記1つまたは複数の電子可読一本鎖SO配列を放出するステップと
を含む前記方法。
【請求項2】
1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列を製造する方法であって、
1)検出基質鎖(DS)および前電子可読配列を含む1つまたは複数のシグナルオリゴヌクレオチド(SO)鎖を含む部分的二本鎖検出ゲート核酸配列(DG)であって、DSおよびSOが部分的な相補性を有し、DGがまた、足がかり配列領域(THS)と、THSおよびSO領域に相補的な領域を有する一本鎖インベーダー核酸配列(ISS)を有する、部分的二本鎖検出ゲート核酸配列(DG)を選択するステップと、
2)DG上のTHS領域がISSとの結合を開始し、前電子可読領域から1つまたは複数の電子可読一本鎖SOを置換するような方法および条件下でDGとISSとを反応させるステップであって、1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列が同一または異なるステップと
を含む前記方法。
【請求項3】
3)gFETのグラフェン表面で1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列を電子的に検出することを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
一本鎖インベーダー核酸配列が一本鎖RNAまたは一本鎖DNAである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
一本鎖インベーダー核酸がメッセンジャーRNA(mRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
一本鎖インベーダー核酸配列が天然の核酸配列であってもよい、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
インベーダー核酸配列がウイルス起源、細菌起源、植物起源または微生物起源である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一本鎖インベーダー核酸配列が架橋核酸またはペプチド核酸である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
一本鎖インベーダー核酸配列が、1つまたは複数のイノシンヌクレオシドを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
一本鎖インベーダー核酸配列がアプタマーの形態である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
電子可読一本鎖核酸配列の置換が、一本鎖インベーダー核酸配列によって媒介される足がかり鎖置換の結果である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
方法が、PCR反応、または合成による配列決定のような他のポリメラーゼ媒介反応の一本鎖核酸を分析するさらなるステップを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
一本鎖インベーダー核酸配列が約1x10
-6M~約1x10
-18Mの濃度で存在する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
一本鎖インベーダー核酸が1つの一本鎖シグナルオリゴヌクレオチド配列を置換する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
一本鎖インベーダー核酸が複数の一本鎖シグナルオリゴヌクレオチド配列を置換する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
一本鎖インベーダー核酸配列が1~10の一本鎖シグナルオリゴヌクレオチド核酸配列を置換する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
グラフェン表面を含むバイオセンサー装置であって、表面が、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法に関連する電荷の変化を検出するように構成されている、バイオセンサー装置。
【請求項18】
バイオセンサー装置が1つまたは複数のグラフェン層を含む、請求項17に記載のバイオセンサー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一本鎖核酸を電子的に検出するためのプロセスおよびそのようなプロセスに使用してもよいバイオセンサーに関する。本発明はまた、1つまたは複数の一本鎖核酸を検出するためのプロセスおよびバイオセンサーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の核酸配列の同定は、生物種の同定はもちろん、健康および疾患に関する化学的マーカーのモニタリングにおいても重要なツールである。生物種の同定は、病原性生物を同定する医療診断だけでなく、様々な病原体株のモニタリング、食品安全性のモニタリングまたは環境調査などの多様な用途に役立つ。核酸は、健康および疾患のメッセンジャーまたは指標として機能する。たとえば、mRNA(メッセンジャーRNA)またはmiRNA(マイクロRNA)は、診断目的およびモニタリング目的に使用することもできる。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、リアルタイムPCR、等温増幅、さらには遺伝子配列決定などの多数の核酸検出法が現在では標準的な診断法である。これらの方法の多くは、大変高感度で汎用性が高いバイオ分析技術であるが、試料精製またはアッセイ手順に長時間かかることと、さらなる機器を必要とすることと、高度に訓練された人材を必要とすることと、試料の採取から結果が得られるまで全体的に長時間かかることなどから煩雑でもある。
診断法が多数の人々に展開される場合、許容可能なコストは、診断検査の選択に関する世界保健機関会報(World Health Organization Bulletin)によるASSURED基準(入手可能であり、高感度であり、特異的であり、使いやすく、高速で確実であり、機器が不要であり、エンドユーザーに配信可能である)の原則に沿ったものでなければならない。この観点から、資源が限られている遠隔地の環境において室温で外部電源なしで行うことができ、高い感度と特異度とを有する診断法の展開が強く望まれている。
生物学的検出機構経路としての足がかり媒介鎖置換反応(TMSD)は、ASSURED基準の少なくとも一部または組み合わせに取り組む上で特に興味深い。TMSDでは、リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA)などの核酸鎖が自発的にアニーリングして、相補的なWatson-Crick塩基対に基づく二本鎖を形成する。塩基対の置換は、一本鎖であることよりも、塩基が対になっていることによる自由エネルギーの純増によって駆動される。したがって、一本鎖の侵入鎖は、二本鎖配列の相補鎖にすでにアニーリングしている他の鎖を意図的に置換することができる。この交換は、ほんの数秒から数分のうちに起こり、ヌクレオチド二本鎖中に、遊離した一本鎖の相補的「足がかり」ドメインを必要とする。足がかりは、最短1ヌクレオチド(nt)で置換を開始することができる。これらの置換は、溶液では広い温度範囲で起こる。動的核酸ナノテクノロジーの分野では、この原理が、論理演算と、酵素を用いない触媒系の設計を含む複雑なカスケード機構の創造とにつながった。置換反応は、適切な長さおよび塩基対組成を選択することによって、または天然のDNAもしくはRNAには見られないが、同じWatson-Crick塩基対形成機構の対象となる核酸アナログの導入を選択することによって、想定動作温度に合わせて微調整することができる。
たとえば、TMSDは、診断目的の検出機構を含むナノサイズの分子機械のタスクを実行するように適合されてきた。鎖置換は、たとえば蛍光色素-クエンチャーレポーター機構による結核病原体mRNAマーカーの検出法として実証されている。
従来、DNAおよびRNAの特定の配列の検出は、長い間ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に依存してきた。プライマーを用いてDNAまたはRNAの特定の配列を標的とし、それが存在する場合、核酸量が検出に十分になるまでポリメラーゼ酵素の助けを借りてさらに増幅させる。PCR産物(アンプリコン)の検出法は、通常、サイズ分離ゲルと、インターカレート蛍光色素、アンプリコンがリアルタイムで出てくるときの直接検出、または標的蛍光プローブとの組み合わせを含む。
PCR反応は、多くの場合、温度サイクルと、50~100℃の範囲の正確かつ高速な温度変化とを必要とする。これには、精巧で、煩雑で、多くの場合高価な機器を必要とする。等温増幅法は、機器に関する要求は少ないが、増幅を行うために、精巧な配列設計および酵素の存在が必要であり、試薬の保管温度および使用期限に制限がある。同様に、効果的な増幅の検出に必要な蛍光色素は、光および熱から保護された保管が必要であり、低濃度レベルでの検出を達成するために、しばしば精巧な機器を必要とする。
核酸マーカーの分析に現在利用できる技術は、すべて、専門機器、スペースおよびインフラストラクチャ、特定の保管条件での様々な試薬、高度に訓練された人材ならびに長時間の検査時間を必要とする。核酸の増幅技術の大部分は酵素を介したものであり、プライマーの使用を必要とするため、熱、光および酸化に敏感であることを考慮すれば、酵素とプライマー、他の試薬、試料自体の慎重な保管および取り扱いが必要である。核酸の分析に使用される現在の機器は大型のものが多く、専用スペースが必要である。そのため、試料を分析施設まで輸送しなければならず、結果に必要な時間がさらに多くなる。
目的の核酸マーカーの増幅には、まず、試料中に存在する他の核酸の中からマーカーを同定するためにプライマーの使用を必要とする。この段階でエラーが発生すると、その後の増幅ステップでエラーの増幅が起こり、誤った結果が報告される。現在の技術の他の典型的な欠点は、偽陽性結果と、プライマーおよび酵素の使用に依存することと、利用可能なプロセスの最適化に制約があることとを含む。
生体試料中に存在する核酸の高速かつ効率的な検出および/または定量を可能にする効率的、高感度および経済的なプロセスおよび装置の必要性が残されている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、核酸配列の検出および/または定量に有用なプロセスおよび装置に関する。核酸の検出に用いられている現在のプロセスは、通常、酵素をベースとし、別々の増幅ステップが必要であり、直接検出技術、すなわち目的の核酸を検出する技術を使用する。対照的に、本明細書で開示されるプロセスは、核酸との結合によって媒介される置換部分の電子検出に依存する。核酸の単一単位との結合が、複数の部分の置換をもたらし、次いでそれが電子的に検出されるので、別々の増幅ステップを必要としない。
本発明に関連して、本発明者らは、複数のより短い荷電オリゴヌクレオチドの放出をもたらす一連の鎖置換反応によって媒介される目的の一本鎖ヌクレオチド配列の電子検出を開示する(たとえば
図1参照)。これらのシグナルヌクレオチドは、比色または蛍光/発光読み出しではなく、gFET(グラフェン電界効果トランジスタ)チップ表面で電気化学的シグナルを変換することによって電子的に検出することができる。検出は、様々な温度を用いるPCRなどの他のアッセイの下流で用いる場合を除き、室温で行うことができる。
この方法は、電子読み出しを用いて、室温条件で、非標識、酵素なし、等温で行うことが可能である。チップ形状の小型化とマイクロフルイディクスとの組み合わせによって、複数の標的に対してシグナル検出を設定することができる。このような利点の組み合わせは、提案されたTMSD機構を組み込んだ装置が小型化・携帯化され、ASSURED基準のいくつかに対処することができることを意味する。
以前に報告された検出法の多くは、本発明の主題である電子読み出しではなく、ヌクレオチドの蛍光シグナルなどの光シグナルの読み出しに依存している。たとえば、蛍光シグナルおよび蛍光偏光の変化を検出する読み出し方法を組み合わせる技術がいくつか報告されている。対照的に、本発明は、グラフェンチップ表面での結合事象による電子読み出しに依存している。
本明細書において、電子可読核酸配列の文脈における「電子可読(electronically readable)」という用語は、比色、蛍光または燐光(発光)読み出しなどの光学または分光読み出しを用いるのではなく、gFET(グラフェン電界効果トランジスタ)チップ表面で電気化学的シグナルを変換することによって検出される核酸配列を指す。したがって、本発明は、光学または分光読み出し方法を利用する類似の技術と対比されるべきである。したがって、本発明は、蛍光シグナルおよび蛍光偏光の変化の検出を必要としない配列である電子可読一本鎖核酸配列の実施形態に関する。したがって、本発明はまた、比色変化の検出を必要としない電子可読一本鎖核酸配列の実施形態にも関する。
核酸配列は相補配列に特異的な結合を示すため、本明細書で開示される結合-置換プロセスは、目的の核酸配列に相補的な相補配列を用いることによって特定の配列を検出するように適合させることができる。本明細書で開示されるプロセスは、グラフェン表面と電子通信する核酸配列の使用に依存しており、その配列は、目的の配列に相補的である。この配列は、オリゴヌクレオチドとハイブリダイズし、その後、目的の核酸が存在する場合は置換され検出される。オリゴヌクレオチドのこの置換は、足がかり鎖置換機構を介した目的の核酸の結合によって媒介される。この文脈における足がかり領域は、その場にある遊離した一本鎖ドメインであり、入ってくる相補配列と結合することができる。本明細書で開示されるプロセスにおいて、入ってくる配列は目的の核酸配列を含むが、上記の足がかり領域は、表面に付着することが可能な配列の一部である。入ってくる核酸配列の足がかり領域への結合は、入ってくる核酸のさらなるハイブリダイゼーションと、結合したオリゴヌクレオチドの同時置換とをもたらし、次いでそれが電子的に検出される。1つの核酸への結合は、複数のオリゴヌクレオチドの置換をもたらすことが可能であり(たとえば
図5参照)、検出されるシグナルは、入ってくる核酸に対して増幅されて現れる。
図1では、置換された核酸が、別の一連の足がかり媒介置換を開始している。この反応で置換された核酸は、次いで電子的に検出される。
本開示はまた、最初の足がかり領域を含む核酸配列を、表面、具体的にはグラフェン表面の電荷の変化を電流変化に変換することが可能なグラフェン表面に固定し、次いでそれを適切な手段で検出してもよいプロセスに関する。
したがって、第1の態様によれば、本発明は、
1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列を製造する方法であって、
1)
i)部分的二本鎖検出ゲート核酸構築物(DG)であって、
a.レポーター核酸配列(RSS)の部分領域と相補的な部分領域と、RSSとは非相補的であるが、一本鎖インベーダー核酸配列(ISS)の部分配列と部分的に相補的な足がかり配列(THS)領域とを有する一本鎖検出基質核酸配列(DSSS)と、
b.DSSSの部分領域に相補的な領域と、シグナル基質鎖(SSS)の1つまたは複数の前電子可読領域に相補的であるが、RSS、DSSS、ISSのいずれとも非相補的な領域を有する一本鎖RSSと
を含む部分的二本鎖検出ゲート核酸構築物(DG)、
ii)DSSSのTHSに相補的な領域を有する一本鎖インベーダー核酸配列(ISS)、
iii)部分的二本鎖シグナルゲート構築物(SG)であって、
a.RSSの相補鎖であり、RSSに相補的な足がかり配列(THS)も含むSSSと、
b.SSSの一部に相補的であるが、SSSのTHSではない複数の前電子可読シグナルオリゴヌクレオチド(SO)と、
を含む部分的二本鎖シグナルゲート構築物(SG)
を選択するステップと、
2)DG上のTHS領域がISSの結合を開始し、RSSの置換をもたらすような方法および条件下でDGとISSとを反応させるステップであって、RSSがSGのTHSにさらに結合し、前記1つまたは複数の電子可読一本鎖SO配列を放出するステップと
を含む前記方法を提供する。
第2の態様によれば、本発明は、
1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列を製造する方法であって、
1)検出基質鎖(DS)および前電子可読配列を含む1つまたは複数のシグナルオリゴヌクレオチド(SO)鎖を含む部分的二本鎖検出ゲート核酸配列(DG)であって、DSおよびSOが部分的な相補性を有し、DGがまた、足がかり配列領域(THS)と、THSおよびSO領域に相補的な領域を有する一本鎖インベーダー核酸配列(ISS)を有する、部分的二本鎖検出ゲート核酸配列(DG)を選択するステップと、
2)DG上のTHS領域がISSとの結合を開始し、前電子可読領域から1つまたは複数の電子可読一本鎖SOを置換するような方法および条件下でDGとISSとを反応させるステップであって、1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列が同一または異なるステップと
を含む前記方法を提供する。
特定の実施形態では、両態様を参照して、電子可読一本鎖核酸配列はgFETグラフェン表面で可読である。
本明細書に開示された方法およびその方法を組み込んだ装置は、1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列の置換およびその後の検出による目的の核酸配列の検出に関する。この置換機構は、結合した配列の放出によるエントロピーの増加、および相補的な核酸鎖のハイブリダイゼーションにより生じる安定な二本鎖配列のために有利である。
第1および第2の態様の実施形態では、一本鎖インベーダー核酸配列は一本鎖RNAまたは一本鎖DNAである。いくつかの実施形態では、一本鎖インベーダー核酸はメッセンジャーRNA(mRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である。
第1および第2の態様のいくつかの実施形態では、一本鎖インベーダー核酸配列は天然の核酸配列であってもよい。インベーダー核酸配列は、検出したい疾患に基づいてウイルス起源、細菌起源、ヒト起源または微生物起源であるため、このように命名される。たとえば、特定のmRNAは、癌診断マーカーにすることができ、また他の非伝染病に関連したものにすることもできる。
第1および第2の態様の別の実施形態では、一本鎖インベーダー核酸配列は架橋核酸またはペプチド核酸である。
第1および第2の態様の別の実施形態では、一本鎖インベーダー核酸配列は1つまたは複数のイノシンヌクレオシドを含む。
第1および第2の態様の別の実施形態では、一本鎖インベーダー核酸配列はアプタマーの形である。
第1および第2の態様の別の実施形態では、DGおよび/またはSGおよび/または一本鎖インベーダー核酸配列の成分は非天然核酸配列である。
第1および第2の態様の別の実施形態では、電子可読一本鎖核酸配列の置換は、一本鎖インベーダー核酸配列によって媒介される足がかり鎖置換の結果である。
いくつかの実施形態では、一本鎖検出基質核酸配列はオリゴヌクレオチドである。
第1および第2の態様の別の実施形態では、方法は、PCR反応、または合成による配列決定のような他のポリメラーゼ-媒介反応の一本鎖核酸を分析するさらなるステップを含む。
本発明者らは、本明細書で開示される方法および装置が、電子可読一本鎖核酸配列の置換の結果として検出される表面電荷の差の生成に依存することを見出した。表面の電荷のこの変化は、適切なセンサーによって検出される。
いくつかの実施形態では、電子可読一本鎖核酸配列は、さらなる荷電基を含むように修飾される。いくつかの実施形態では、荷電基はリン酸基であってもよい。別の実施形態では、配列はビオチンもしくはストレプトアビジンまたはそれらのアナログを含んでもよい。
第1および第2の態様の別の実施形態では、置換された電子可読一本鎖核酸配列は電界効果トランジスタ(FET)によって検出される。
本明細書で開示されるプロセスおよび装置はグラフェン表面を含み、特定の実施形態では電界効果トランジスタを含むため、このプロセスおよび装置は測定においてはるかに高い感度を有することが可能である。比色または分光高度法による手段による検出と対照的に、本明細書に開示されるプロセスおよび装置によって達成することが可能な検出限界は、当該分野で現在達成されているものよりもはるかに低い。たとえば、現在の核酸の検出は、検出されるシグナルを増幅することなく、アトモル(10
-18)濃度という低濃度で達成することが可能である。これは、本明細書で開示される方法および装置が、単一の核酸鎖との結合が、複数の電子可読一本鎖核酸配列の置換および検出をもたらすように改変されることが可能であることによるものである。これは、一本鎖検出基質核酸配列の足がかり領域における一本鎖インベーダー核酸配列の最初の結合の結果として、置換を受ける複数のより短い電子可読一本鎖核酸配列と検出基質核酸配列とをハイブリダイズさせることによって達成される。
第1および第2の態様の別の実施形態では、一本鎖インベーダー核酸配列は約1x10
-6M~約1x10
-18Mの濃度で存在する。いくつかの実施形態では、一本鎖インベーダー核酸は1つの一本鎖シグナルオリゴヌクレオチド配列を置換する。これは、レポーター配列によって媒介される間接的置換(第1の態様)であってもよく、直接的置換(第2の態様)であってもよい。別の実施形態では、一本鎖インベーダー核酸は複数の一本鎖シグナルオリゴヌクレオチド配列を置換する。別の実施形態では、一本鎖インベーダー核酸配列は、1~10の一本鎖シグナルオリゴヌクレオチド核酸配列、たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9または10の一本鎖シグナルオリゴヌクレオチド核酸配列を置換する。
本明細書で説明される方法は、酵素をベースとせず、高感度試薬も必要としないので、本プロセスは当該分野で現在使われているものよりもはるかに強力であり、かつ室温で使用することが可能である。さらに、本方法は酵素の使用を必要としないので、一本鎖核酸を含む被験試料のpHおよび試験環境のpHを特定の使用範囲に維持する必要がない。本発明者らは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの比較方法に必要とされる塩濃度、緩衝液濃度および動作温度に関する制限が、本明細書で開示される方法には必要とされないことを見出した。同等の方法で核酸を検出および定量する当該技術分野で公知の他のプロセスと比較して、本明細書に記載の方法はより迅速な分析を可能にする。
本明細書で開示される方法は、チップ、たとえば適切な表面処理を施したシリコンチップに組み込んでもよい。特定の実施形態では、本明細書で開示される方法は、1つまたは複数のグラフェン層を含むシリコンチップに組み込んでもよい。たとえば、本明細書で開示される方法は、核酸配列と接触する表面で行ってもよい。本発明者らは、適切な検出器を備えたグラフェン表面の使用が、1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列の置換によって媒介される電荷の変化の検出を可能にすることを見出した。さらに、グラフェンの使用によって、核酸を含む生物学的試料および試薬との公知の化学的不適合が回避され、軽量で携帯可能な装置の製造が可能となる。
いくつかの実施形態では、本明細書で説明するグラフェン表面は、1つまたは複数のグラフェンシート層を含む。いくつかの実施形態では、グラフェン表面は複数のグラフェンシート層を含む。
いくつかの実施形態では、グラフェンシートはさらに改質される。いくつかの実施形態では、グラフェンシートは、正電荷または負電荷を生じさせる電子構成、たとえば、リン酸基、ヒドロキシル基、カルボキシレート基、カルボラン、プロトンまたは電子を含むようにグラフェンシートの表面を改質してもよい。
第3の態様によれば、本発明は、グラフェン表面を含むバイオセンサーであって、表面が第1の態様で定義される方法に関連する電荷の変化を検出するように構成されているバイオセンサーに関する。特定の実施形態では、バイオセンサーは1つまたは複数のグラフェン層を含む。
特定の実施形態では、バイオセンサーは、1つまたは複数のリンカーを介してグラフェン表面に1つまたは複数の核酸配列を含む。
本発明者らは、本明細書で開示されるバイオセンサー装置が、グラフェン表面に固定された複数の核酸配列を含むように改質されてもよいことを見出した。異なる核酸配列が異なる一本鎖核酸に特異的である場合、試料中の複数の一本鎖核酸を同時に検出および/または定量するためにバイオセンサーを使用してもよい。理論に拘束されるものではないが、本発明者らは、様々な異なる固定された核酸手段を含むようにバイオセンサーのグラフェン表面を改質することによって、目的の一本鎖核酸を多数検出することができる装置が可能となると考える。これは、一般的に単一のアッセイで単一の核酸しか検出することができない現在の技術とは対照的である。
特定の実施形態では、バイオセンサーはグラフェン表面に固定された複数の異なる核酸配列であって、異なる核酸配列のそれぞれが、異なるレポーターオリゴヌクレオチドにハイブリダイズする核酸配列を含む。
第4の態様によれば、本発明は、1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸を検出および/または定量するための、第2の態様で定義されるバイオセンサーの使用に関する。
第4の態様の特定の実施形態では、複数の一本鎖核酸が同時に検出および/または定量される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】本明細書に記載の方法に従って、1つまたは複数の電子可読一本鎖核酸配列(たとえばDNAまたはRNA)を作製するための模式図である。
【
図2A】本明細書に記載の方法から得られる個々の成分を示す図である。本明細書に記載の鎖置換機構から生じる成分はゲル電気泳動によって分離され可視化される。100msのゲルの露出を示す。
【
図2B】本明細書に記載の方法から得られる個々の成分を示す図である。本明細書に記載の鎖置換機構から生じる成分はゲル電気泳動によって分離され可視化される。4000msのゲルの露出を示す。
【
図3】本明細書に記載の鎖置換反応によって化学量論量の電子可読一本鎖核酸配列が得られることを示す図である。
【
図4】シグナルオリゴヌクレオチドのゲルバンド(
図3B2および
図3Dに示す)から計算したシグナル強度を、インベーダーなしの陰性反応(青色)およびインベーダーありの陽性反応(オレンジ色)で示したグラフである。アスタリスクは、適用されたt検定の有意性を示す。
*p<0.05、
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001。
【
図5】中間レポーターオリゴヌクレオチドなしの電子可読一本鎖核酸配列の検出の模式図である。
【
図6】電子可読一本鎖核酸配列の検出のための特定のシグナルゲート構築物でコーティングされたマイクロフルイディクスチャネルで構築されたマルチプレックス検出システムを示す図である。マルチプレックス検出システムは、特定のシグナルゲート構築物でコーティングされたマイクロフルイディクスチャネルで構築することができる。複数の標的配列Tおよび対応する検出ゲート[R/D]の溶液中で、Tは検出ゲートから適切なレポーター配列Rを置換する。放出されるヌクレオチド鎖Rは、マイクロフルイディクスレーンに入り、複数のシグナルゲート[3X/S]に接触するが、基質鎖SにマッチするシグナルヌクレオチドXのみを置換する。放出されるヌクレオチドは、FETチップ表面でシグナルを発する。
【
図7】架橋核酸モノマーの構造およびDNAモノマーである。架橋核酸は2’-O、4’-Cメチレン架橋を含む核酸アナログである。3’-エンド配座にロックされたこの架橋は、リボフラノース環の柔軟性を制限し、構造を剛直な二環式にロックする。
【
図8】タンパク質核酸およびDNAの構造である。ペプチド核酸では、DNAのホスホリボース骨格はペプチド骨格で置換されている。この核酸アナログはヌクレアーゼに耐性を示し、DNAまたはPNAと通常のWatson-crick塩基対形成を行うが、DNA:DNA二本鎖よりも高い特異性と融解温度とを有する。
【
図9】gFET上でのイオンおよびDNAの検出を示すグラフである。A:異なる濃度のNaCl溶液(オレンジ色の矢印)をgFETのグラフェン検知領域にピペッティングし、その間に水ですすいだ(水色の矢印)。0.5M(オレンジ色の矢印1~4)および0.01M NaCl(オレンジ色の矢印5~8)の測定を4反復で行った。B:サケ精子ゲノムDNAを水で希釈し、0.0001mg/ml、0.01mg/mlおよび1mg/mlの順にチップ表面に移した(オレンジ色の矢印で示す)。DNAを添加する間にチップを水ですすいだ(水色の矢印)。C:次にチップを異なる濃度のssDNA水溶液に1uM、10uM、1uM、100uMのssDNAの順で暴露した(オレンジ色の矢印で示す)。新たなDNA濃度を用いるごとに、検知表面を水ですすいだ(水色の矢印)。I_sdについて測定したすべての電流値を青色でプロットし、最後の20の値の平均(V_sdの1振動サイクルに等しい)がオレンジ色で示されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本明細書および添付の特許請求の範囲を通じて、文脈上他の意味に解する必要がある場合を除き、「含む(comprise)」という語、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの語尾変化形は、記載された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を含むことを意味するが、任意の他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を含まないことを意味しないと理解される。
「約」または「ほぼ」という用語は、本明細書において、当業者によって決定される特定の値が許容可能な誤差範囲内にあることを意味し、この誤差範囲は、値がどのように測定または決定されるかに、すなわち測定システムの限界に部分的に依存する。
本明細書で使用するとき、単数形「ある(a)、「ある(an)」および「その(the)」は、文脈により明確に否定されない限りは複数の態様を含む。したがって、たとえば、「ある方法」への言及は、単一の方法だけでなく2つ以上の方法を含み、「ある薬剤」への言及は、単剤はもちろん、2つ以上の薬剤を含み、「本開示」への言及は、本開示によって教示される単一または複数の態様などを含む。本明細書において教示され、可能にされる態様は、「本発明」という用語に含まれる。本明細書において企図される任意の変形および誘導体は、本発明の「形態」に含まれる。
別途定義しない限り、本明細書で用いられるすべての科学技術用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の目的のために、以下の用語を以下で定義する。
本明細書において、「グラフェン」という用語は、炭素原子が単層で存在する2次元構造を有する炭素の同素体を指す。表面に複数のグラフェン層(「シート」としても知られる)を順次堆積させて、面間相関のない複数のグラフェン層を得てもよい。本明細書において、「グラフェン」という用語は、単層構成および多層構成の両方を意味するために用いられる。
本明細書において、「核酸」および「ヌクレオチド」という用語は、含窒素塩基(すなわち核酸塩基)およびリン酸基に結合した糖部分を含む部分を指す。含窒素塩基と糖部分とは一緒にして「ヌクレオシド」とみなしてもよい。核酸塩基はプリンまたはピリミジン塩基であってもよく、他の天然の化学的または生化学的に修飾された非天然塩基または誘導体化塩基であってもよい。プリン塩基の例は、アデニン(A)およびグアニン(G)を含み、ピリミジン塩基の例は、シトシン(C)、チミン(T)およびウラシル(U)を含む。ヌクレオチド(またはヌクレオシド)の糖は、リボース基またはデオキシリボース基であってもよい。核酸は、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。一本鎖核酸への言及は、センス鎖またはアンチセンス鎖への言及を含む。ヌクレオチド中にリボース基が存在する場合、そのヌクレオチドはリボ核酸(RNA)の成分であってもよい。ヌクレオチド中にデオキシリボース基が存在する場合、そのヌクレオチドはデオキシリボ核酸(DNA)の成分であってもよい。ヌクレオチドは、標準的なヌクレオチドであってもよく、天然に存在するかまたは天然に存在しないそのアナログであってもよい。ヌクレオチドは、アナログであって、天然のヌクレオチドと比較して1つまたは複数の修飾を含んでいるものでもよい。このような修飾ヌクレオチド(すなわちヌクレオチドアナログ)の例は、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログを含む。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分で中断されていてもよい。他の修飾は、ヌクレアーゼによる分解から一本鎖ドメインを保護するために組み込まれる修飾、たとえば3’-リン酸化を含む。核酸はまた、糖およびリン酸基から誘導されるホスホリボース骨格の代わりにペプチド鎖を有し、したがって標準的な塩基対形成を行うがヌクレアーゼによって認識されず、それによって分解を受けにくい核酸を提供するペプチド核酸であってもよい。ヌクレオシド、ヌクレオチド、デオキシヌクレオシドおよびデオキシヌクレオチドという用語は、一般に、ヌクレオシド、ヌクレオチド、デオキシヌクレオシドおよびデオキシヌクレオチド、またはそれらのアナログの相補鎖、断片および変異体を含む。
本明細書において、「ヌクレオチド」という用語はまた、cDNA、ミトコンドリアDNA(mtDNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、核RNA(nRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子核RNA(snRNA)、低分子核小体RNA(snoRNA)、低分子カハール体特異的RNA(scaRNA)、マイクロRNA(miRNA)、二本鎖(dsRNA)、リボザイム、リボスイッチまたはウイルスRNAを含むがこれに限定されない任意の適切なポリヌクレオチドを指す「ポリヌクレオチド」を含む。ポリヌクレオチドは、プラスミド、コスミド、断片、染色体、またはゲノムなどの任意の適切なベクター内に含まれていてもよい。ポリヌクレオチド分析物は、細胞に内在する核酸であってもよい。他の例として、ポリヌクレオチド分析物は、たとえば、ウイルスまたは細菌のゲノムRNAまたはDNA、プラスミド、ウイルスまたは細菌のmRNAなどの病原体による細胞の感染によって細胞に導入または発現される核酸であってもよい。
本明細書において、核酸配列に関連する「相補的」という用語は、他の核酸配列にハイブリダイズする核酸配列を指す。本明細書において、核酸配列に関連する「ハイブリダイゼーション」という用語は、一般に、2つの一本鎖構築物からの二本鎖核酸構築物の形成であって、一本鎖構築物はWatson-Crick原理による塩基対形成によって結合される二本鎖核酸構築物の形成に関する。ヌクレオチドもしくはヌクレオシドまたはそれらのアナログによって相補的にハイブリダイズする核酸配列。相補的ヌクレオチドは、一般に、AとT(もしくはAとU)、またはCとGである。「ハイブリダイゼーション」という用語は、三本鎖ハイブリダイゼーションを指してもよい。得られる(通常は)二本鎖のポリヌクレオチドは「ハイブリッド」である。安定なハイブリッドを形成するポリヌクレオチド集団の割合は、本明細書において「ハイブリダイゼーションの程度」と呼ぶ。2つの一本鎖RNAまたはDNA分子は、一方の鎖のヌクレオチドが、最適に整列され、比較され、適切なヌクレオチド挿入または欠失を伴って、他の鎖のヌクレオチドの少なくとも約80%と、通常は少なくとも約90%~95%と、より好ましくは他の鎖のヌクレオチドの約98~100%と対になるとき、相補的であると呼ばれる。あるいは、相補性は、RNAまたはDNA鎖が、その相補鎖に選択的ハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする場合に存在する。典型的には、選択的ハイブリダイゼーションは、少なくとも14~25ヌクレオチドのストレッチに対して少なくとも約65%の相補性、好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約90%の相補性がある場合に起こる。
本明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、配列が約200ヌクレオチド長より短い核酸塩基の配列を指す。一般に、オリゴヌクレオチドは約15~約100ヌクレオチド長であるが、オリゴヌクレオチドはそれ以上の長さでもよい。オリゴヌクレオチドはDNAベース、RNAベースであってもよく、それらの人工アナログであってもよい。
本明細書において、核酸に関連する「固定」という用語は、表面への前記核酸の安定な結合を指す。核酸の結合およびその後の固定は、たとえば共有結合、非共有結合、イオン結合などの任意の機構によって達成されてもよい。一本鎖核酸が表面に固定される場合、相補配列を有するさらなる一本鎖核酸が、ハイブリダイゼーションによって、固定された核酸に結合し、それによって第2の核酸構築物が固定されてもよい。第2の一本鎖核酸構築物が、ハイブリダイゼーションによって、固定された核酸に結合する場合、その結合は可逆的であり、それによって、固定された核酸に予めハイブリダイズされた一本鎖核酸が分離してもよい。
本明細書において、「アプタマー」という用語は、特定の標的分子に結合するオリゴヌクレオチドを指す。
本明細書において、「バイオセンサー」という用語は、生物学的反応をシグナルに変換し、次いで処理する分析装置を指す。シグナルは、適切な手段によって定量することが可能である。
本明細書において、「試料」という用語は、対象者から単離された組織、細胞、体液およびそれらの単離物など、ならびに対象者内に存在する(すなわち試料がin vivoである)組織、細胞および体液などを含む。試料の例は、全血、血液(たとえば血清または血漿)、リンパ液、嚢胞液、痰、糞便、涙、粘液、毛、皮膚、腹水、嚢胞液、尿、乳頭滲出液、乳頭吸引液、生検試料および剖検試料などの組織の切片、組織学的目的のために採取した凍結切片、アーカイブ試料、患者組織由来の外植片および初代細胞培養物および/または形質転換細胞培養物などを含む。
本明細書において、「検出する」、「判定する」、「測定する」、「検証する」、「評価する」および「測定する」という用語は、測定の任意の形態を指すために同義で使用され、特定の要素が存在するか(またはしないか)を判定することを含む。これらの用語は、定量的および/または定性的な測定の両方を含む。評価は、相対的であっても絶対的であってもよい。本明細書で定義されるプロセスは、試料中の2つ以上の分析物のレベルを測定または視覚化することを含んでもよい。
本明細書において、「対象者」または「患者」という用語は、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ニワトリ、昆虫、植物などを含む、治療が望まれるいずれか1つの対象者を指す。疾患の臨床徴候を示さない臨床研究試験に関与する対象者、または疫学研究に関与する対象者、または対照とされる対象者を対象者として含むことが意図されている。
本明細書において、「プローブ」という用語は、特に意図した標的分子、たとえばヌクレオチド転写物に選択的に結合することができる任意の分子を指す。プローブは、当業者が合成することもできるし、適切な生物学的調製物から得ることもできる。
「グラフェン」という用語は、蜂の巣状結晶格子構造を形成する炭素原子の複数の相互接続された六角形セルを有する、厚さ1原子(すなわち炭素の単層シート)か、または面間相関のない複数の層(多層炭素シート)を含む比較的薄いほぼ透明なシートの形態の純粋または比較的純粋な炭素を指す。この結晶格子には、六角形セルに加えて、六角形セルに対する五角形セルおよび七角形セル(欠陥)が存在してもよい。グラフェンは、当該技術分野で公知の任意の形態であってもよい。たとえば、グラフェンは粉末形態であってもよく、単数のシートまたは複数のシートの形態であってもよい。
「官能化グラフェン」という用語は、グラフェンの特性を変化させるために、グラフェン格子に-OH、-COOH、-NH
2などの様々な化学官能基を組み込んだグラフェンを指してもよい。
本発明では、シグナル検出は、gFETチップ表面で電気化学的シグナルとして検出することができる複数のより短い荷電オリゴヌクレオチドの放出をもたらす一連の足がかり媒介鎖置換反応によって媒介される。提示されたデータは、1:3の連動を示す置換機構、すなわち1つのレポーターオリゴヌクレオチドがシグナル伝達用荷電ヌクレオチドを3つ放出する機構の例を示す。これは、インベーダー鎖によって開始される反応において、予想される二本鎖生成物と一本鎖生成物とのアセンブリの成功を示す(
図2)。放出されるシグナルオリゴヌクレオチドの量は、より多くのシグナルオリゴヌクレオチドをロードしたシグナルゲートの使用により、予想されるように増加する(
図3参照)。しかしながら、誘導体化によってより高い連動を達成することができる。より短い荷電オリゴヌクレオチドの放出によるエントロピーの増加と、連続した相補鎖の有利な結合とによって置換反応の方向が有利となる。このシステムは室温で機能するため、外部電源または低温物流サプライチェーンに依存しない。タンパク質ベースの酵素依存シグナル増幅系と比較して、本発明により実証された機構は、動作pH範囲、塩濃度および温度を含む環境条件に対してもより柔軟に対応することができる。
本発明の他の利点は、検知装置の表面に化学的に結合する分子に依存する直接検出アプローチ(たとえば電子ゲート電界効果トランジスタへの化学結合)と比較して感度が上昇することである。直接検出時に、目的の分子はチップ表面の適切な相補配列または抗体に結合し、in situで検出される。このアプローチは、低濃度の疾患マーカーであっても、gFETチップと組み合わせることによって特にzモル濃度まで大変高感度であることが示されている。対照的に、本発明は、複数のより短い分子を放出する標的をうまく検出することができる。したがって、非標識、酵素なしでの直接検出の利点が、それぞれのシグナル増幅の増加によってさらに後押しされる。塩イオン(NaCl)およびDNA(gDNAおよびssDNA)の形で電荷分子を検出する非被覆gFETの例示的データを
図9に示す。
PCRベースの核酸検出は酵素的シグナル増幅に依存している。この増幅は指数関数的であるため、これらの方法は非常に高感度である。指数関数的増幅は、非常に低濃度で核酸バイオマーカーの検出を可能にし、それ以下の程度でタンパク質の検出(たとえば免疫PCR)を可能にするが、指数関数的増幅法は、汚染の問題、偽陽性、および反応混合物中の複数の競合するアンプリコンが、他の配列よりもある配列に偏りを生じさせる状況(たとえば、異なるAT含有量を有するより増幅しやすい配列などはPCR法の問題点を明らかにしている)にも陥りやすい。
本方法は核酸に依存しているため、タンパク質ベースの検出法よりも、異なる温度に対してより適応性が高く、緩衝液および分析物濃度に対する感度が低い。本例においては、目的の配列はDNA構築物上のレポーター配列を置換する。放出されるレポーター鎖は、標的の二本鎖シグナル構築物の足がかりに相補的な配列を含む。シグナル構築物は、基質鎖と、たとえばgFET装置によって電子的に検出することができる複数のより短い相補的シグナル荷電ヌクレオチドとで構成される。このようにして、検出されるすべての配列は、チップ表面による検出のために3分子を生成する。本発明者らは1対3の入力:出力比を実証したが(
図3および
図4)、相補的ドメインおよびシグナルオリゴヌクレオチドの数を増やすことによって、より大きな増幅、たとえば1対5に設計することも可能である。増幅は、配列設計によって増加させ最適化することができるが、最終的には、立体障害と、置換を完了するための時間スケールの増加とによって制限される可能性がある。
本方法の代替バージョンでは、レポーター鎖のステップを省き、代わりにより短い複数のシグナルオリゴヌクレオチドを検出基質鎖にハイブリダイズさせることも可能である。この設計では、二本鎖の検出構築物は、最初に標的配列に特異性を付与するドメインを含み、その後に一連の標識されたより短いオリゴヌクレオチドが続き、それがインベーダー鎖によって置換され(
図5参照)、チップによって検出される。これによって、おそらく全反応をより迅速にすることができるが、新たな標的ごとに最適化する必要がある。検出基質鎖は、新たな標的ごとに再設計する必要があるが、シグナルオリゴヌクレオチドも再設計する必要がある。
この方法で使用される核酸は、RNA、DNAまたは合成核酸アナログであってもよい。この機構で使用される核酸またはアナログ構築物は、意図した目的に合わせるための修飾を含んでもよい。架橋核酸(LNA)は、リボース骨格を横切る酸素架橋を含み、Watson-Crick対合の高い特異性をより確実にする(
図7参照)。通常のDNAにLNAセグメントを組み込むことによって、特定の遺伝子変異体、たとえば疾患を示唆する一塩基多型(SNP)に対するより高い選択性が得られることが示された。ヌクレアーゼによる分解から一本鎖ドメインを保護するために、他の修飾、たとえば3’リン酸化を組み込んでもよい。ペプチド核酸(PNA)は、ホスホリボース骨格の代わりにペプチド結合鎖を有する核酸アナログである(
図8)。PNAはヌクレアーゼによって認識されないため分解されにくいが、DNAまたはRNAと同様に、高融点ではあるがWatson Crick塩基対を形成し、したがって同等の一連の二本鎖DNAと比較してより高い特異性を示す。この弾力性およびより高い特異性から、ペプチド核酸は、バイオセンサー研究の人気のあるツールともなっている。
本発明の方法によれば、いくつかの鎖は、特異性を選択的に減少または増加させるための修飾も可能なように設計されている。たとえば、標的領域におけるいくつかの点変異によって、異なる複数の類似変異体を検出するために、検出複合体の基質は、いわゆるユニバーサル塩基であるイノシン(このヌクレオシドはG、C、AまたはTと対になることができるため)を有する位置を含んでもよい。
シグナル基質鎖またはレポーター鎖の長さを長くすることなく、より短いシグナルオリゴヌクレオチド断片を設計して、シグナルゲートにより多くのシグナル分子を含ませるためには、より高い融解温度またはより大きな塩基対形成のGibbsの自由エネルギーの獲得が望ましいであろう。
本発明で検出される目的の配列は、ウイルス、細菌、またはその他の微生物起源の一本鎖配列であってもよく、所定の試料に存在する任意の他の目的の配列であってもよい。PCRベースのアッセイの検出速度および感度を向上させるために、目的の配列を新生PCR産物を検出するために用いてもよい。それによって、標的物質の検出の成功に必要なPCRサイクル数を減らすことができる。
本発明をPCRシステムと組み合わせて使用する場合、このような環境で使用されるより高い温度では、シグナルヌクレオチド配列の調整と、鎖置換事象がない状態でのより高い温度での二本鎖検出およびシグナルゲートの安定性を高めるための他の修飾とが必要となる可能性がある。
本発明はまた、アプタマーの形態で核酸配列を用いることによって、タンパク質または他の抗原を検出するために使用することもできる。その場合、目的のタンパク質は、塩基対形成相互作用によってアプタマーに結合した核酸レポーター配列を置換する。放出された結合パートナーは、核酸検出のために提案されたようなカスケードを開始することができる。
マイクロフルイディクス(
図6)もしくはバーコード配列またはそれらの組み合わせを用いて、同じ試料から複数の標的を同時に検出できるようにすることができる。検出ゲート配列は、特定の標的配列とアニーリングするように設計することができるが、レポーター鎖も同様に、各標的で異なる。特定の標的の存在の判別は、レポーターに特異的なシグナルゲートでコーティングされたマイクロフルイディクスチャネル内で行うことができる。この置換によって生成される任意のシグナルヌクレオチドは、このチャネルにのみ接続された装置、たとえばFETによって記録することができる。小型化と低反応容量とにより、多重化アプリケーションのために複数の標的を同時に検出することが可能になる。
本明細書において、先行公開物(またはそれに由来する情報)、または公知事項への言及は、その先行公開物(またはそれに由来する情報)または公知事項が、本明細書が関係する努力分野における共通の一般知識の一部を形成していることの確認、承認または何等かの提案ではなく、またそのようにみなすべきではない。
当業者は、本明細書で説明される本発明が、具体的に記載されたもの以外の変形および修飾が可能であることを理解するであろう。本発明は、その精神および範囲に含まれるすべてのそのような変形および修飾を含むと理解すべきである。本発明はまた、本明細書で言及されまたは示されたすべてのステップ、特徴、組成物および化合物を、個別にまたはまとめて、前記ステップまたは特徴の任意の2つ以上の任意のおよびすべての組み合わせで含む。
【実施例】
【0006】
以下の実施例は、本開示を例示するものであり、本明細書全体にわたる本開示の一般的性質をいかなる意味においても限定するものと解釈すべきではない。
方法
サーモサイクラーでのDNAプローブのアニーリング
二本鎖構築物は、予め、マグネシウムを含むTAE緩衝液(Sigma-Aldrich社製)中、サーモサイクラー(Bio-Rad社製)で調製した。一本鎖成分を、4uM濃度の最終生成物が得られるように組み合わせ、65℃まで加熱し、1℃/分の制御された速度で20℃まで冷却した。
鎖交換反応
インベーダー鎖の鎖置換反応溶液として、対応するヌクレオチド配列を有する検出ゲート(DG)とシグナルゲート(SG)とを等モル濃度で組み合わせ、インキュベートして、ゲル上で反応生成物を分離した。鎖交換プロセスにおいて、シグナルヌクレオチドを1つ放出する構築物と、シグナルヌクレオチドを2つまたは3つ放出する構築物とを比較した。
置換反応物は、等容量(たとえば10ul)のシグナルゲート、検出ゲートで構成され、それぞれ4uM濃度(最終濃度1.33uM)のインベーダー鎖を加えて開始させた。
陰性対照には、インベーダーの代わりに同量の1x TAE/Mg緩衝液が含まれていた。置換反応物を室温で40分間インキュベートした後、ローディング緩衝液と混合し、20%TBEによるPAGEを200Vで1時間行った。
鎖交換で放出されるシグナルヌクレオチドの相対濃度を計算するために、シグナルヌクレオチドの輝度の標準曲線を確立するために、一連の漸増濃度(0、0.5、1、1.5、2、2.0、2.5、および3倍の相対濃度)のシグナルオリゴヌクレオチド単体をゲル上の反応物試料に含ませた。
ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)
試料12pモルをレーンごとに20%TBEゲル(Invitrogen社製)にロードし、200Vで1時間泳動させ、TBE緩衝液(Invitrogen社製)中1:10,000のSYBR Green II(Invitrogen社製)で10分間染色し、iBright 1500ゲルイメージャー(Invitrogen社製)で、露光時間100ms、2000msおよび4000msで画像化した。
デンシトメトリーによるバンドの定量
iBrightイメージャーで2000ms取得した非圧縮tiff画像をImageJのゲル分析プラグインで分析した。
目的のバンドおよびその上下の領域を取り囲む矩形領域をゲル画像上で選択し、異なるレーン間のシグナルを選択し比較するために、水平方向にのみ移動させた。
次いでImageJによって矩形領域のピクセル輝度のプロットを作成する。
バンドのピーク信号を手動で選択する。曲線下面積を仕切り、それとともにバックグラウンドを除去し、ピーク面積を選択する。各ピークの面積値は、さらなる分析のためにエクセルで使用する。
シグナルオリゴヌクレオチドバンドの濃度系列について、標準曲線から傾きを計算した。鎖置換反応のシグナル値を標準曲線の傾きで割って、交換反応によって生じるシグナルヌクレオチドバンドの濃度を計算する。
値は箱ひげ図でプロットする。複数のアッセイから結果を組み合わせ、t検定を用いて統計的有意性を比較した。
DNAに対するgFET応答の試験
一連のDNA水希釈液を用いて、漸増濃度のゲノムサーモン(Sigma社製)または短鎖オリゴヌクレオチドDNA(IDT)に対するgFET応答を試験した。gFETチップ(Graphenea社製)を用いて、一定のソース・ドレイン間電圧およびゲート電圧(V_sd=0.1V、V_g=0.2V)で経時的な電流変化(I_sd)を測定した。これらの変化を記録し、電流対時間としてプロットした。
実施例1-グラフェンの調製
グラフェンを化学気相成長法(CVD)を用いて成長させる。これには、通常、加熱チャンバー内で炭化水素(一般にアルカンまたはアルコール)を気相から分解し、金属触媒基板上にグラフェンシートを成長させることを含む。次いで、グラフェンシートをこれらの金属基板から他のシリコン基板に移す必要がある。これらの基板は、通常、シリコン上に厚さ300nmの二酸化ケイ素層を有する。これによって導電性シリコンとグラフェン層とが分離される。次いでシリコン層に電圧を印加することによって、バックゲートグラフェン電界効果トランジスタ(gFET)が実現する。これまでは、グラフェンの上に犠牲層としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)を堆積させていた。次いで、金属エッチング液を用いて金属基板からグラフェンを分離し、PMMAでコーティングされたグラフェンを表面に浮かせる。gFETを作製するために、2ステップのリソグラフィープロセスを用いて、ポリマーレジストのスピンコートおよびその熱処理、その後のUVまたは電子源を用いるパターン描画を含むグラフェンおよびコンタクト電極のパターニングを行う。
実施例2-鎖配列およびドメインの合成
表1-
図2および
図3の実験に使用したすべての一本鎖成分の核酸配列を、全体と、ドメイン成分に分割したものとで示す。ドメインラベルa~dおよびa’~d’は
図1の例に対応する。ドメインラベルとその主カウンターパートは互いに相補的であり、たとえば、a’はaの逆相補鎖などである。ドメインdと、d1、d2、d3はすべて同じ配列である。レポーター鎖上の短いドメインeおよびe’と、その間のシグナル基質鎖dおよびd’とは、それぞれ、シグナルヌクレオチド上の5’標識のためのスペースを残し、立体障害によってアニーリングを防止するために任意に追加される。
実施例3-二本鎖オリゴヌクレオチドプローブの調製
二本鎖プローブを、40mM Tris塩基、20mM酢酸、1mM EDTA、11.5mM Mg(CH
3COO)
2を含む緩衝液に等モル濃度で混合し、65℃まで5分間加熱し、毎分1℃の冷却速度で20℃まで冷却した。
実施例4-鎖置換反応の反応条件
オリゴヌクレオチド鎖置換反応は、40mM Tris塩基、20mM酢酸、1mM
EDTA、11.5mM Mg(CH
3COO)
2を含む緩衝液中で行った。オリゴヌクレオチドは、1nM~10mMの濃度範囲で等モル濃度で混合した。
鎖置換反応からの生成物を、TBE泳動緩衝液(Invitrogen社製)中の20%TBE-PAGEゲルで分析し、SYBR Green(Invitrogen社製)をTBE緩衝液中で1:10,000に希釈して用い、この染色液で少なくとも15分間インキュベートした。ゲル画像は、iBright 1500 FLイメージャー(Invitrogen社製)で取得した。
実施例5-一本鎖核酸(RNAまたはDNA)の検出
図1に示されるように、レポーター(1)と基質鎖(2)との部分的二本鎖構築物である検出ゲートは、目的のヌクレオチド配列であるインベーダー鎖(3)中の保存されたモチーフに相補的なドメインa’+b’を含む。a’は結合および置換を開始する足がかり配列である。インベーダー鎖の配列aは、検出基質鎖(2)中のa’相補鎖と結合する。さらなる塩基がb’とマッチする場合、インベーダー鎖(3)がレポーター鎖(1)と置換する。新たに放出されたレポーター鎖(1)は、シグナル基質鎖(4)と複数のシグナルオリゴヌクレオチド(5)とからなる部分的二本鎖シグナル構築物の足がかりとアニーリングする。適切な電荷を有する短鎖シグナルオリゴヌクレオチド、すなわち標識(d
1、d
2、d
3などに線でつながった円内のxで表される)が装置によって検出される。一本鎖成分は囲み番号でラベリングされ、二本鎖構築物は、下線を引いた対応する囲み番号の組み合わせでラベリングされる。示されているこの例では、検出されるインベーダー鎖のそれぞれについてシグナル分子を3つ放出するため、ラベリングは、シグナルゲート構築物(4)3x(5)中に3x(5)シグナル分子を表示することによってこれを反映している。
図5は、中間レポーターなしで一本鎖DNAまたはRNAを検出するための代替機構の代替戦略例を示す。部分的二本鎖構築物(1)(2)である検出ゲートは、複数のシグナルオリゴヌクレオチドb、c、d、e(1)と目的のヌクレオチド配列中の保存されたモチーフに相補的なa’+b’~e’ドメインを含む基質鎖(2)とからなり、インベーダー鎖(3)であるa’は結合および置換を開始する足がかり配列である。インベーダー鎖の配列aは検出基質鎖(2)中のa’相補鎖に結合する。さらなる塩基がb’とマッチする場合、インベーダー鎖(3)はシグナルヌクレオチド(1)も置換する。配列a’+b’は、相互作用の特異性に最も重要である。したがって、ドメインb’は、c’、d’およびe’よりも長い。適切な標識(円内のx)を有するシグナルオリゴヌクレオチドはチップ表面で検出される。
実施例6-鎖置換による核酸の分析から得られた生成物の分析
実施例5に記載のプロセスで得られた核酸断片をゲル電気泳動で分析した(
図2Aおよび
図2B参照)。本明細書に記載の鎖置換反応の結果として得られたシグナルオリゴヌクレオチドは10bpで見られる。
図2Bは、より長い露光時間(4000ms)後のゲルを示し、8におけるシグナルオリゴヌクレオチドの存在を明確に示している。
図2-鎖置換反応によって予想されるバンドが得られる。
図2Aは、鎖置換反応の各成分と、ポリアクリルアミドゲル上で可視化されることが予想されるバンドとを示す。
図2B1において、レーン2~5は、一本鎖成分インベーダー、検出基質、レポーター-3、およびシグナル基質-3を示す。レーン6、7および9は、二本鎖構築物検出ゲート-3、シグナルゲート-3、およびシグナル廃棄物-3を示す。レーン8に示す鎖置換反応生成物については、インベーダー、検出ゲート-3およびシグナルゲート-3を等モル濃度で混合し、室温で40分間インキュベートし、次いでゲル上で分離した。この反応では、検出廃棄物-3バンド、およびシグナル廃棄物-3バンドが得られる。さらなるバンドは不完全な鎖置換の結果であり、検出ゲート-3の入力の残りを示している。検出ゲート-3とシグナルゲート-3の組み合わせは、各インベーダー鎖に対して3つのシグナルオリゴヌクレオチドを放出する。シグナルオリゴヌクレオチドバンドは、より長い露光時間でのみ可視化される。
図2B2に示すように、マーカーの露出過度の領域は、番号10の脇に楕円形領域で赤色で示されている。
3つの異なる量のシグナルオリゴヌクレオチドを用いる鎖置換反応を行い、生成物をゲル電気泳動で分離した(
図3参照)。ここで示されるように、本明細書で開示されたプロセスおよび装置は、検出された各インベーダー配列が、1、2または3個のオリゴヌクレオチドを生成し、次いで検出されるように変更することができる。ゲル電気泳動による断片の分離によって、シグナルオリゴヌクレオチドの化学量論量を増加させることによって、検出されるオリゴヌクレオチドが予想通り増加することが示されている。
図3-鎖置換反応により、化学量論的量のシグナルオリゴヌクレオチドが得られる。上の表A(と
図3Aとの組み合わせ)は、TBE緩衝液ポリアクリルアミドゲル上で分離された試料を示す(シグナル分子の量の増加を伴う3つの鎖置換反応、比較のための対応する純粋なシグナル分子の量、およびゲル上で可視化されることが予想されるバンド)。
図3エラー!参照元が見つかりません。B1において、レーン10~12は置換反応1~3の生成物を示す。レーン13~15は、対応する量のシグナルオリゴヌクレオチドを示す。レーン8インベーダーに示した鎖置換反応生成物について、検出ゲート-3とシグナルゲート-3とを等モル濃度で混合し、室温で40分間インキュベートし、次いでゲル上で分離した。この反応によって、検出廃棄物-3バンド、シグナル廃棄物-3バンドが得られる。さらなるバンドは、不完全な鎖置換により二本鎖検出ゲートが残った結果である。検出ゲート-3とシグナルゲート-3との組み合わせにより、各インベーダー鎖に対して3つのシグナルオリゴヌクレオチドが放出される。
図3B2のように、シグナルオリゴヌクレオチドバンドはより長い露光時間でのみ可視化される。Cは、純粋なシグナルオリゴヌクレオチド12pモルと比較したバンド輝度の定量と相対レベルとを示す。反応1、2および3において、反応物12pモルは、それぞれ最大12、24および36pモルのシグナルオリゴヌクレオチドを放出することができる。Cにおける定量は、反応(Rx)2から3へ放出されるシグナル(S)の増加を示す(反応1は、同様なサイズ範囲の蛍光タグ化合物による干渉のため分析することができない)。露出過度の領域は、B2の番号10の脇の画像に赤い楕円形で示されている。Dは、ゲル輝度からシグナルの相対濃度を計算するための標準曲線を作成するために使用するシグナルオリゴヌクレオチドバンドの例である。
実施例8 gFET上でのイオンおよびDNAの検出
図9-gFET上でのイオンおよびDNAの検出。A:異なる濃度のNaCl溶液(オレンジ色の矢印)をgFETのグラフェン検知領域にピペッティングし、その間に水ですすいだ(水色の矢印)。0.5M(オレンジ色矢印1~4)および0.01M NaCl(オレンジ色矢印5~8)の測定を4反復で行った。B:サケ精子ゲノムDNAを水で希釈し、0.0001mg/ml、0.01mg/mlおよび1mg/mlの順にチップ表面に移した(オレンジ色の矢印で示す)。DNAを添加する間にチップを水ですすいだ(水色の矢印)。C:次にチップを異なる濃度のssDNA水溶液に1uM、10uM、1uM、100uMのssDNAの順で暴露した(オレンジ色の矢印で示す)。新たなDNA濃度を用いるごとに、検知表面を水ですすいだ(水色の矢印)。I_sdについて測定したすべての電流値を青色でプロットし、最後の20の値の平均(V_sdの1振動サイクルに等しい)がオレンジ色で示されている。
【国際調査報告】