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特表2024-541689組織中の成分の絶対濃度値、血流量および血液量を測定するための方法および装置
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  • 特表-組織中の成分の絶対濃度値、血流量および血液量を測定するための方法および装置 図1
  • 特表-組織中の成分の絶対濃度値、血流量および血液量を測定するための方法および装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】組織中の成分の絶対濃度値、血流量および血液量を測定するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0275 20060101AFI20241031BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
A61B5/0275 J
A61B5/026 120
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533321
(86)(22)【出願日】2021-08-11
(85)【翻訳文提出日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 EP2021072372
(87)【国際公開番号】W WO2023016636
(87)【国際公開日】2023-02-16
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513277452
【氏名又は名称】ルシオール メディカル アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Luciole Medical AG
【住所又は居所原語表記】Baslerstrasse 30,8048 Zurich,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バウマン,ダーク
(72)【発明者】
【氏名】フローリッヒ,ユルグ ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ミューサー,マルクス ヒューゴー
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA11
4C017AB07
4C017AC26
4C017BB12
4C017BC11
(57)【要約】
臓器の組織における成分の絶対濃度値、血流量および/または血液量を決定するための方法および装置は、近赤外スペクトルの少なくとも1つの波長を有する放射線を組織に放射すること、近赤外分光法を用いて出現する放射線を検出して測定信号を生成すること、評価アルゴリズムを用いて変換すること、システムマトリックスおよびプログラムされた評価ユニットを用いて、出現する放射線の検出強度の時間的変化を成分の絶対濃度値に変換すること、近赤外スペクトルに吸収ピークを有する指示薬を組織に導入すること、および組織中の指示薬の濃度値の時間的経過を決定することを有する。さらに、指示薬の濃度値の時間的経過から平均通過時間mttが導出され、組織内の血流を特徴付ける少なくとも1つの輸送関数g(t)を用いて、指示薬の濃度値の時間的経過またはそこから導出されるパラメータから血液量が決定される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器の組織における成分の絶対濃度値、血流量、または血液量を決定する方法であって、
近赤外スペクトルの少なくとも1つの波長を有する放射線を前記組織に照射し、近赤外分光法により、前記組織から出現する放射線の検出強度に応答する測定信号を生成する工程と、
システムマトリックスおよび評価ユニットで実行される評価アルゴリズムを使用して、前記組織から出現する前記放射線の前記検出強度の時間的変化を成分の絶対濃度値に変換する工程と、
前記近赤外スペクトルに吸収ピークを有する色素を含む指示薬を導入し、前記組織中の前記指示薬の濃度値の時間的経過を決定する工程と、
前記指示薬の前記濃度値の時間経過から、前記組織中の血流を特徴付ける少なくとも1つの輸送関数g(t)を用いて平均通過時間mttを導出する工程と、
前記指示薬の前記濃度値の時間経過から、および/またはそこから導出されたパラメータから、血流および/または血液量を計算する工程と
を備える方法。
【請求項2】
前記システムマトリックスが、前記組織中の成分の既知の濃度値、健康な組織中の成分の測定可能な濃度値、または前記組織中の成分の濃度値を制限するための定義可能な境界条件を用いて較正可能である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定信号が、ヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、水、バックグラウンド、または前記指示薬の1つ以上の絶対濃度値に対応し、前記組織中の前記血液量または前記血流の決定を可能にする、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記評価アルゴリズムは、
a)前記近赤外スペクトルの少なくとも1つの波長を有する照射された放射線の照射および検出された部分に基づく前記測定信号を、前記評価ユニットに送信される測定信号として受け入れ、
b)少なくともヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、バックグラウンド、または水の組織内の成分の絶対濃度値を決定し、
c)前記測定信号から、前記組織内の前記指示薬の濃度の時間経過を決定し、
d)終了基準に達するまで、前記決定可能な平均通過時間mttを有する輸送関数g(t)を用いて、前記組織内の血流を示す流入関数i(t)および流出関数o(t)を反復的に決定し、
e)対数正規関数または組織通過システムを表す別の関数を用いて、反復的に決定された前記流入関数i(t)および反復的に決定された前記流出関数o(t)をフィッティングし、
f)工程c)またはe)で決定された関数のいずれかを用いて、前記組織内の前記血液量を計算し、
g)工程f)で計算された前記血液量と工程d)で決定された前記平均通過時間mttの商として、前記組織内の前記血流量を計算する
ようにプログラムされている、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
工程f)において、前記組織内の前記血液量が、前記指示薬の濃度の時間経過の指数回帰分析を用いて決定可能である、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程f)において、前記組織内の前記血液量が、前記流入関数i(t)および前記流出関数o(t)のもとでの面積から決定される、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記流入関数i(t)の前記反復決定が複数の工程を有し、各工程において流入関数i(t)の近似が以下の式に従って計算され、
【数10】
ここで、d/dt(cICG(t))は、前記組織中の前記指示薬の濃度の決定可能な時間変化であり、o(t)は、前記流入関数i(t)と前記輸送関数g(t)との畳み込み積分のデコンボリューションから決定可能な以下の流出関数である、
【数11】
ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記平均通過時間mttを決定するための前記終了基準は、前記流入関数i(t)および前記流出関数o(t)に対するもっともらしさ基準によって定義される、ことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記もっともらしさ基準は、前記流入関数i(t)の重心と前記流出関数o(t)の重心との間の距離として定義可能であり、前記決定可能な平均通過時間mttに対応する、ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記もっともらしさ基準が、前記流入関数i(t)のもとでの面積と前記流出関数o(t)のもとでの面積との比として定義可能である、ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記比が1:1である、ことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
注入装置を介して組織に導入される指示薬とともに使用して、臓器の組織における成分の絶対濃度値、血流量、または血液量を決定するための装置であって、前記指示薬は、前記近赤外スペクトルに吸収ピークを有する色素を含み、前記装置は、
近赤外スペクトルの少なくとも1つの波長を有する放射線を前記組織に放射し、近赤外分光法によって、前記組織から出現する放射線の検出強度に応答する測定信号を生成するセンサアレンジメントと、
プロセッサと、システムマトリックスを記憶するためのメモリとを有する評価ユニットであって、前記評価ユニットは、
システムマトリックスを用いて、前記組織から出現する前記放射線の前記検出強度の時間的変化を成分の絶対濃度値に変換し、
前記組織内の前記指示薬の濃度値の時間的経過を決定し、
前記指示薬の濃度値の前記時間経過から、前記組織内の血流を特徴付ける少なくとも1つの輸送関数g(t)を用いて平均通過時間mttを導出し、
前記指示薬の濃度値の前記時間経過またはそこから導出されたパラメータから、血流または血液量を計算する
評価アルゴリズムを実行するようにプログラムされている、評価ユニットと
を備える装置。
【請求項13】
前記システムマトリックスが、前記組織中の成分の既知の濃度値、健康な組織中の成分の測定可能な濃度値、または前記組織中の成分の濃度値を制限するための定義可能な境界条件を用いて較正可能である、ことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記測定信号が、ヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、水、バックグラウンド、または前記指示薬の1つ以上の絶対濃度値に対応し、前記評価アルゴリズムが、前記組織内の前記血液量または前記血流の決定を可能にする、ことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項15】
前記評価ユニットはさらに、
a)前記近赤外スペクトルの少なくとも1つの波長を有する照射された放射線の照射および検出された部分に基づく測定信号を受け付け、
b)少なくともヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、バックグラウンド、または水の前記組織内の成分の絶対濃度値を決定し、
c)前記測定信号から、前記組織内の前記指示薬の濃度の時間経過を決定し、
d)終了基準に達するまで、決定可能な平均通過時間mttを有する輸送関数g(t)を用いて、前記組織内の血流を示す流入関数i(t)および流出関数o(t)を反復的に決定し、
e)対数正規関数を用いて、反復的に決定された流入関数i(t)および反復的に決定された流出関数o(t)をフィッティングし、
f)工程c)またはe)で決定された関数のいずれかを用いて、前記組織内の前記血液量を計算し、
g)工程f)で計算された前記血液量と、工程d)で決定された前記平均通過時間mttとの商として、前記組織内の前記血流を計算する
ようにプログラムされている、ことを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項16】
前記評価ユニットが、工程f)において、前記指示薬の濃度の前記時間経過の指数回帰分析を用いて、前記組織内の前記血液量を決定するようにさらにプログラムされている、ことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記評価ユニットは、工程f)において、前記流入関数i(t)と前記流出関数o(t)のもとでの面積から前記組織内の前記血液量を決定するようにさらにプログラムされている、ことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記評価ユニットが、前記流入関数i(t)をいくつかの工程によって反復的に決定するようにさらにプログラムされており、各工程において、前記流入関数i(t)の近似が以下の式に従って計算され、
【数12】
ここで、d/dt(cICG(t))は、前記組織中の指示薬濃度の決定可能な時間変化であり、o(t)は、前記流入関数i(t)と前記輸送関数g(t)との畳み込み積分のデコンボリューションから、以下の式で決定可能な流出関数である
【数13】
ことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項19】
評価ユニットは、前記平均通過時間mttを決定するための前記終了基準が、前記流入関数i(t)および前記流出関数o(t)のもっともらしさ基準によって定義されるように、さらにプログラムされている、ことを特徴とする請求項15に記載の装置。
【請求項20】
前記評価ユニットは、前記もっともらしさ基準が、前記流入関数i(t)の重心と前記流出関数o(t)の重心との間の距離として定義可能であり、前記決定可能な平均通過時間mttに対応するようにさらにプログラムされている、ことを特徴とする請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記評価ユニットは、前記もっともらしさ基準が、前記流入関数i(t)のもとでの面積と前記流出関数o(t)のもとでの面積との比として定義可能であるようにさらにプログラムされている、ことを特徴とする請求項19に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織内の測定方法および装置に関し、特に、注射可能な指示薬を用いて、臓器内の成分の絶対濃度値および/または血流量および/または血液量を非侵襲的に決定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器または臓器組織における成分の濃度値、血流量および血液量を決定するための既知の方法は、一般に非侵襲的な測定からなるが、これはトレーサー物質の注入を排除するものではない。
【0003】
しかしながら、臓器の測定体積中の成分の濃度を決定するための既知の非侵襲的測定法は、多くの場合、絶対的な濃度値を決定することはできず、相対的な濃度値、すなわち、1つまたは複数の成分の濃度値の変化のみを検出することができる。近赤外分光法(NIRS)はこのような非侵襲的光学分光法であり、例えば、特に生体組織における酸素飽和度の連続モニタリングに用いられる。NIRSは、近赤外波長域の光が生体組織を透過し、ヘモグロビン、ミオグロビンおよび/または脱酸素状態または酸素化状態の他の同族体によって異なるように吸収、散乱され、組織に照射された光と比較して透過光および/または散乱光の光減衰をセンサで検出できるという原理に基づいている。適切なアルゴリズムと一定の仮定の下で、酸素化ヘモグロビンや脱酸素化ヘモグロビンなどの組織成分の濃度変化を、検出された測定信号から計算することができる。一般に、生体組織の測定信号の評価は、拡散方程式とランバルト・ベール(Beer-Lambert)の法則に従うモデルに基づいて行われる。ランバルト・ベールの法則は、吸収物質を含む媒質を通過する際の放射線強度の初期強度に対する減衰を、吸収物質の濃度と層厚の関数として記述したものである。
【0004】
対照的に、修正ランバルト・ベールの法則に基づく成分の絶対濃度値の非侵襲的な決定は困難であり、そのような値は単純化した仮定の下で近似することしかできない。一般に、生体組織におけるNIRS測定では、実際の吸収の絶対値も、定義された期間あたりに移動する光路の実際の経路長も知られていない。したがって、このモデルでは発色団の絶対的な濃度値を決定することはできない。
【0005】
米国特許第6,456,862号には、近赤外領域の分光光度センサを用いた組織中の血中酸素飽和度の非侵襲的測定が記載されており、これによりオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの絶対濃度値を決定することができる。センサは第1、第2、第3の波長の光信号を組織に照射し、組織を通過した後の光信号を検出する。光信号の減衰は、デオキシヘモグロビンとオキシヘモグロビンの成分と組織内の散乱に基づく減衰の和として記述される。この方法では、光散乱による減衰、骨および/または水などの固形組織成分による吸収による減衰、および/または評価中のセンサ特性の変化による減衰を考慮するために、対象組織に対するセンサの較正が必要となる。較正のために経験的データを考慮してもよいし、静脈酸素飽和度を決定するための基準センサとしてパルスオキシメトリーを用いて動脈酸素飽和度を決定してもよい。
【0006】
臓器組織内の成分の相対的な濃度変化または絶対的な濃度値に加えて、血流および/または血液量は、血液の灌流および対象組織の機能性に関する情報を含む診断パラメータとみなすことができる。近赤外分光法(NIRS)もまた、これらの診断パラメータを非侵襲的に決定するために長い間使用されてきた。NIRSは、臓器組織の成分の濃度変化を測定することで、酸素代謝の領域に関する結論を導き出すことができる。NIRSの使用は、脳血流(CBF)と脳酸素化パターンのモニタリング、すなわち脳血液と血流の静的特性と動的特性をそれぞれ測定するのに知られている。
【0007】
脳血流の測定およびモニタリングのために、非侵襲的測定とトレーサー物質を静脈注射する方法とを組み合わせた方法が知られている。トレーサー物質は、例えば、大部分が不活性なインドシアニングリーン(ICG)であってよく、その分布は大部分が血管内コンパートメントに限定される。インドシアニングリーンは約805nmに吸収ピークを持つため、近赤外光のスペクトルに属する。ICGは血漿中で血清アルブミンと非常に速くほぼ完全に結合し、この状態で非常に高い近赤外吸収を示し、肝臓で吸収されるため、迅速な測定を繰り返すことができる。ICGは、肝機能の様々な調査や、再循環時間から心拍出量を計算するために使用される。
【0008】
インドシアニングリーンのボーラス注入から出発して、検討対象の脳血管系におけるその吸収を、侵襲的および/または非侵襲的に、例えばNIRSによって決定することができる。その後、測定データをさらに処理して、例えば脳血流を決定することができる。
【0009】
米国特許第7,529,576号には、注入されたほとんど不活性な指示薬を用いて、臓器の血流および血液量、特に脳血流(CBF)を測定する装置が記載されている。この装置は、それ自体既知のセンサを使用して、臓器組織から出現する照射された近赤外線の部分を検出するもので、この近赤外線には拍動性の部分と非拍動性の部分がある。評価アルゴリズムは、臓器灌流を特徴付ける流入関数を考慮して、臓器組織に関連する非脈動成分からの濃度と、臓器内の血液量に関連する注入指示薬の脈動成分からの濃度との商として、臓器内の血液量を計算する。決定された平均通過時間に関連する血液量の値により、臓器内の血流を計算することができる。しかし、この方法の欠点は、センサが表面に付着しているため、測定容積と測定信号の入口および/または出口との間に位置する層の影響が測定信号を歪め、弱めることであり、この影響は評価において考慮されない。
【0010】
米国特許第6,223,069号には、脳血流および脳外臓器の血流を測定する方法が記載されており、近赤外スペクトルに吸収特性を有するトレーサー物質の静脈内注入ボーラスの流量の測定は、近赤外分光法を用いて両脳半球で、またパルスデンシオメトリック動脈色素測定法を用いて全身循環の動脈血で同時に実施される。測定値を評価するために開発された評価アルゴリズムは、動脈と大脳の流動態(フローキネティクス)のデコンボリューションに基づいており、経脳輸送関数を計算する。これらの動態から,脳血流に正比例する血流指数を決定することができる。
【0011】
注入指示薬を使用して血流、特に血液量および/または組織または器官内の成分の絶対濃度値を非侵襲的に測定するための従来公知の方法および装置は、多くの場合、実施するのが技術的に困難であり、さらに、時間がかかる。入力信号の最初の立ち上がりにおける注入指示薬の挙動について、従来のNIRS測定の測定データの評価に関して単純化した仮定を採用することによって生じる不正確さに加えて、吸収特性が変化する非一定の測定バックグラウンドからさらなる問題が生じる。
【0012】
これまで、測定データの簡略化された解釈では、NIRS測定中にバックグラウンドの吸収の変化は起きないと仮定されることが多かった。この仮定により、微分吸収はランバルト・ベールの法則の修正された関係から計算される。理想化されたバックグラウンドの不変性を仮定すると、組織の形状や組成、吸収挙動などによるバックグラウンドの影響は係数Gに要約される。しかし、実際のシステムや条件下では、バックグラウンドの吸収は一定ではない。特に、脳測定体積の水分濃度や脳頭蓋内圧は一定ではないため、NIRSの測定信号の評価や脳組織の濃度値、血液量、血流量の決定に不正確さが生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来公知の方法および装置の欠点を考慮すると、組織中の成分の絶対濃度値を決定するための方法および装置を提供することが望ましい。より詳細には、脳組織におけるこのような絶対濃度値を、血流、より詳細には脳血流および血液量と同様に、従来よりも高い精度で決定することが望まれる。
【0014】
検出可能な測定信号を評価するための方法及び装置を提供することがさらに望ましい。好ましくは、そのような装置は、非侵襲的に使用または実施され、正当な技術的努力で指示薬注入と組み合わされ得る。さらに、このような装置は、例えば、体表下に配置されたセンサユニットやオプトードを用いて、侵襲的な測定を実施するために使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、組織の成分の絶対濃度値を決定する際に、バックグラウンドや組織水の濃度の変動を考慮することにより、バックグラウンドやバックグラウンド吸収の変化の影響をほぼ排除することが期待される方法および装置が提供される。このようにして、測定条件の変化が検証可能となり、測定結果の精度が向上し、有意性が高くなる。
【0016】
同様に、血流及び血液量を決定する場合、指示薬を採用することの影響が低減される。従来公知のシステムでは、指示薬の適用による血流および/または血液量の決定は、指示薬ボーラスが矩形脈拍の形状を有することを前提としていたが、本発明の方法および装置はそのような単純化した仮定を回避する。特に、分散効果、脈動、および考慮すべき他の要因のために、矩形の形状は現実には存在せず、その単純化した仮定は歪んだ定量化をもたらす。現実には、考慮した体積中の指示薬濃度の増加は、ファジーピークの形をとる。本発明の原理に従えば、指示薬濃度の実際の増加が、得られる測定結果の精度に及ぼす影響をほとんど排除することができる。
【0017】
本発明によれば、臓器の組織における成分の絶対濃度値、血流量および/または血液量を決定するための方法および装置が提供される。一実施形態では、センサが、近赤外スペクトルの少なくとも1つの波長を有する放射線を臓器の組織に放射する。出現した放射線はセンサによって検出され、近赤外分光法を用いて測定信号が生成される。組織から出現した放射線の検出強度に応答する測定信号は、プログラムされた評価ユニット内のプログラム可能な評価アルゴリズムに入力され、出現した放射線の検出強度の時間的変化を計算し、システムマトリックスを使用することによって、成分の絶対濃度値を計算する。
【0018】
一態様によれば、近赤外スペクトルに吸収ピークを有する指示薬が近赤外分光法データの取得中に導入され、臓器組織中の指示薬の濃度値の時間的経過が決定される。指示薬の濃度値の時間的経過から平均通過時間mttが導出され、臓器組織内の血流を特徴付ける少なくとも1つの輸送関数g(t)を用いて、指示薬の濃度値の時間的経過またはそこから導出されるパラメータから血液量が決定される。
【0019】
本発明の更なる詳細は、添付の図面に示す本発明の好適実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。本発明のさらなる利点もまた、本発明の目的が、特許請求の範囲内でどのように変更され、またはどのように発展され得るかについての示唆および提案とともに、詳細な説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、脳組織を例として、対象組織における絶対濃度値および/または血流量を決定するための本発明にかかる装置の概略図である。
図2図2は、本発明のアルゴリズムを実施するのに適した、プログラムされた評価ユニットの概略図である。
図3図3は、入力信号から脳血流を決定するために評価ユニット内にプログラムとして実装される本発明にかかる方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の原理に従って、近赤外スペクトルの波長の放射線を照射し、近赤外分光法を用いて測定信号を生成するべく出現放射線を検出するセンサを用いて、生理学的成分の絶対値を計算することができる。近赤外分光法の間、指示薬のボーラスが血管内に導入され、プログラムされた評価ユニットを用いて流入および流出機能を反復的に決定するために使用することができる。指示薬は染料であってもよく、指示薬注入装置、例えば注射器や注入装置を用いて血管系に導入されるが、それ自体は公知である。
【0022】
より具体的には、考慮した体積中の指示薬ボーラスの濃度は、流入関数および流出関数によって記述されることがある。これらの関数は既知でも測定可能でもないため、これらの関数の反復的決定を可能にするために一定の仮定がなされる。この目的のために、本発明によれば、測定信号の立ち上がり中に、考慮した領域または容積から注入された指示薬の流出を考慮するプログラム可能な評価アルゴリズムが提供される。
【0023】
臓器の組織における成分の絶対濃度値および/または血流量および/または血液量を決定するための本発明による方法は、とりわけ、
・近赤外線スペクトルの少なくとも1つの波長を持つ放射線を組織に照射し、組織から出現する放射線の検出強度に反応する測定信号として、近赤外線分光法によって出現する放射線強度を検出する工程と、
・臓器の組織から出現する放射線の検出強度の時間的変化を、評価ユニットでプログラムにより実行されるシステムマトリックスと評価アルゴリズムを用いて、成分の絶対濃度値に変換する工程と、
・近赤外分光法中に、近赤外スペクトルに吸収ピークを有する色素からなる指示薬を適用し、組織中の指示薬の濃度値の時間的経過を決定する工程と、
・指示薬の濃度値の時間経過から、組織内の血流を特徴付ける少なくとも1つの輸送関数g(t)を用いて、平均通過時間mttを導出する工程と、
・指示薬および/または導出パラメータの濃度値の時間経過から血流量および/または血液量を計算する工程と
を有する。
【0024】
本発明にかかる方法の一実施形態において、システムマトリックスは、血液、バックグラウンド、および/または水のような組織中の成分の濃度の既知の値を用いて最初に較正することができ、この濃度値は、健康な患者、または健康な組織の生体内測定から得られるか、および/または組織中の成分の濃度値を制限するために定義される境界条件である。
【0025】
本発明にかかる方法の一実施形態によれば、本方法は、照射された放射線の強度および検出された放射線の強度から、特に測定信号から、ヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、水、バックグラウンドおよび/または指示薬を含む成分の少なくとも1つの絶対濃度値、ならびに臓器の組織内の血液量および/または血流量を決定するようにアレンジされる。
【0026】
特に、近赤外線スペクトルの少なくとも1つの波長の放射線、より好ましくは、少なくとも4つの波長の放射線が、第1の位置で器官の組織内に照射される。測定信号は、第1の位置から間隔を置いた第2の位置に配置されたセンサによって検出され、それは、照射されかつ検出可能な放射線強度または照射された放射線の成分を表す。好ましくは、少なくとも4つの波長の各々は、検出される成分の各々が局所的な吸収ピークを有するか、または全ての成分の吸収が少なくとも可能な限り均等になるように選択され得る。検出された測定信号は、入力信号として、プログラムされた評価ユニット、例えば、以下の工程を有する評価アルゴリズムをプログラムにより実行する1つ以上のプロセッサに送信することができる。当該評価アルゴリズムは、
a)近赤外スペクトルの少なくとも1つの波長を有する放射線の照射された部分と検出された部分とに基づいて、評価ユニットに送信された測定信号を取得する工程と、
b)臓器の組織中の少なくともヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、バックグラウンド、および/または水の成分の絶対濃度値を決定する工程と、
c)測定信号から、臓器の組織における注入された指示薬の濃度の時間経過を決定する工程と、
d)臓器の組織における血流を特徴付ける流入関数i(t)と流出関数o(t)を、決定可能な平均通過時間mttを有する輸送関数g(t)を用いて、終了基準に達するまで反復的に決定する工程と、
e)対数正規関数または組織通過システムを表す別のタイプの関数を使用して、反復的に決定された流入関数i(t)および反復的に決定された流出関数o(t)をフィッティングする工程と、
f)工程c)またはe)で決定された時間関数曲線のいずれかを用いて、臓器の組織内の血液量を計算する工程と、
g)臓器内の血流量を、工程f)で計算した臓器組織内の血液量と工程d)で決定した平均通過時間mttの商として計算する工程と
を有する。
【0027】
臓器組織から出現する検出可能な近赤外放射すなわち検出強度信号に基づいて、光学密度(OD)の値を決定することができる。一般に、光学密度または消光は、吸収、散乱、回折、および/または反射に起因する、媒質を通過する際の放射線の減衰の尺度である。光学密度の値は、放射波長の関数としての透過率の負の対数として求めることができる。
【0028】
臓器組織の成分および測定体積に関連するバックグラウンドの絶対濃度値は、好ましくは較正可能なシステムマトリックスを使用して決定することができる。システムマトリックスは、異なる波長における光路長、考慮した成分の消衰係数および個々の成分の分子量(例えば、ヘモグロビンおよび水など)を考慮して、NIR分光法のイメージング特性を記述する。システムマトリックスは、検出された測定信号から成分の絶対濃度値を決定することができるように、連立方程式の解法に使用することができる。
【0029】
一実施形態によれば、システムマトリックスの好ましくは1回限りの較正のために、考慮すべき臓器の組織のバックグラウンドが考慮されうる。バックグラウンドは、例えば、組織、脂肪、骨など、そのいくつかの組み合わせにおけるいくつかの成分から構成されてよく、その各々について、消衰係数が特定の物質定数として使用される。より一般的には、消衰係数は放射される放射線の波長と測定中の温度に依存する。バックグラウンドの成分の消衰係数は、臨床データおよび/または文献から、血液、ヘモグロビンおよび/または水などの既知の濃度値について、バックグラウンド中のそのような成分の予想される存在に比例して取得することができる。それ自体既知の消衰係数によって、NIR分光法またはシステムマトリックスの校正を行うことができる。したがって、較正は臓器組織の成分の絶対濃度値を決定するための評価アルゴリズムに不可欠な部分である。
【0030】
不均一なバックグラウンドの吸収特性に加えて、システムマトリックスを設定する際に、例えば大脳の光学密度など、考慮した組織の光学密度が考慮される。システムマトリックスの解空間は、異なる波長における組織の決定された光学密度と成分の濃度値の加重和を定義可能な関係にすることによって制限することができる。
【0031】
検出可能な時間変化する光学密度を用い、システムマトリックスを用いて、臓器組織の成分の絶対濃度値を計算することができる。
【0032】
本発明の一態様によれば、本方法は、注射可能な指示薬としてインドシアニングリーンを用いて血液量および/または血流量を決定することを含むことができる。しかしながら、この指示薬の使用に限らない。このような実施形態では、対象となる臓器組織における注入指示薬の濃度は、注入指示薬が流入血液とともに臓器組織に入る濃度および臓器組織を流れる血液量に依存する。臓器組織における注入された指示薬の濃度は、分配動態や分解により変化するため、臓器組織から流出する血液は、流入する血液とは異なる指示薬濃度または濃度の時間経過を有する。指示薬を例えば指示薬ボーラスの形で投与した後、指示薬は血流によってある時間、いわゆる通過時間mtt後に検査対象組織に到達し、既存の毛細血管網または血管系に灌流される。注入された指示薬の決定可能な濃度-時間曲線から、同じ指示薬の分布体積、さらに検査対象臓器の組織内の血液量および/または血流量を決定することができ、これにより評価において実際の影響を考慮することができる。
【0033】
本方法の一実施形態によれば、臓器または臓器の組織における指示薬の決定可能な濃度値の時間経過から、組織内の血流を決定することができる。この目的のために、流入関数i(t)および流出関数o(t)を反復的に決定することができる。流入関数i(t)は、検討中の測定体積、例えば脳組織における注入された指示薬の濃度変化のうち、流入血液量によって引き起こされる割合を記述する。流出関数o(t)は、流出する血液量によって引き起こされる測定体積中の指示薬の濃度変化の割合を記述する。
【0034】
反復決定において、各工程は、臓器の組織中の指示薬の濃度の時間経過cICG(t)と流出関数o(t)の関数として表すことができる流入関数i(t)の近似を含む。
【0035】
【数1】
【0036】
流出関数o(t)は、流入関数i(t)と輸送関数g(t)の畳み込み積分を、*を畳み込み演算子としてデコンボリューションすることにより決定可能である。
【0037】
【数2】
【0038】
流入関数i(t)の決定のための反復の開始パラメータとして、推定または決定可能な平均通過時間mttが選択され、これはターンアラウンド時間とも呼ばれる。平均通過時間mttの初期値は、注入された指示薬の濃度値の時間経過cICG(t)を、対数正規分布または組織通過システムを表す他のタイプの関数、すなわち組織を通る血流の通過挙動を表すタイプの関数でフィッティングして積分することによって決定することができる。
【0039】
流入関数i(t)および流出関数o(t)の反復決定の間、時間変数tは、測定体積における指示薬増加の時間に対してゼロに設定される。さらに、流入関数i(t)および流出関数o(t)は、指示薬の適用時間と測定可能な指示薬の増加との間の因果関係を確実にするために、t<0に対してゼロに設定される。
【0040】
流入関数i(t)および流出関数o(t)は、輸送関数g(t)を用いて、想定される平均通過時間mttについて決定される。輸送関数g(t)の時間経過は、一般に、単一ピークの非対称分布であり、例えば対数正規関数によって近似的に記述することができる。ここで、平均通過時間mttとその結果としての輸送関数g(t)、および関連する流入関数i(t)と流出関数o(t)は、決定されるべき終了基準に達するまで変化させられる。
【0041】
ある時間tにおける流入関数i(t)は、指示薬、例えばインドシアニングリーンICGの濃度値の時間経過cICG(t)と流出関数o(t)とから、バランス方程式に従って、次式に従って表すことができる。
【0042】
【数3】
【0043】
流入関数i(t)の計算のために、まず、指示薬成分としてのインドシアニングリーンの光学密度OD(t)、消衰係数εICG、およびカバーされた光の光路長βの決定可能な時間経過から、考慮した組織中の指示薬の濃度cICG(t)が、次に従って決定される。
【0044】
【数4】
【0045】
時間tにおける流出関数o(t)は、流入関数i(t)と輸送関数g(t)の畳み込み積分として定式化することができる。すなわち、畳み込み積分のデコンボリューションは、流入関数i(t)および/または流出関数o(t)を決定するために使用することができ、ここでTは小さな一定の時間間隔、すなわち増分である。
【0046】
【数5】
【0047】
輸送関数g(t)は、通過時間mttの関数としてそれ自体知られているアプローチの1つに従って定式化することができる。適切なアプローチは対数正規関数である。
【0048】
【数6】
【0049】
ここでσは、値が0より大きい実数である一定の形状パラメータである。形状パラメータσは、経験値に基づいて決定することができ、σは、想定される滞留時間分布の幅を概ね表す。σの値が小さくなるにつれて対数正規分布の対称性は増加する。
【0050】
後続の工程では、指示薬の濃度の決定可能な時間経過cICG(t)に基づいて、流入関数i(t)および流出関数o(t)を決定するために、確立された畳み込み積分のデコンボリューションが実行される。ここで、検討された測定容積における指示薬clCG(t)の濃度の時間変化に対する再循環の影響、したがって流入関数i(t)および流出関数o(t)に対する影響も、対数正規関数のフィッティングによって除去される。
【0051】
後続の工程において、流入関数i(t)および流出関数o(t)の先に決定された関数曲線がもっともらしいかどうかがチェックされ得る。したがって、平均通過時間mttを決定するための終了基準は、流入関数i(t)および流出関数o(t)に関連するもっともらしさ基準によって定義することができる。
【0052】
一実施形態では、もっともらしさ基準は、流入関数i(t)の重心と流出関数o(t)の重心からの距離によって定義することができ、その距離は平均通過時間mttにほぼ対応する。
【0053】
変形的に、もっともらしさ基準は、流入関数i(t)の下の面積と流出関数o(t)の下の面積の比によって定義することができる。例えば、比率は1:1とすることができる。
【0054】
流入関数i(t)および流出関数o(t)の関数曲線がもっともらしさ基準の1つを満たす場合、すなわち終了基準に達した場合、通過時間mttの変動は終了し、流入関数i(t)、流出関数o(t)の決定された関数曲線、および決定された平均通過時間mttを用いて、検討中の器官組織における血液量および/または血流を決定するための手順が継続される。流入関数i(t)および流出関数o(t)の関数曲線がいずれかのもっともらしさ基準を満たさない場合には、平均通過時間mttを増分τだけ増加または減少させて、対応する変更された平均通過時間mttを開始パラメータとして開始する上述の工程による反復を再び実行することができる。
【0055】
本方法の一態様によれば、臓器組織内の血液量は、面積が血液量BV、例えば脳血液量CBVに比例するという仮定に基づいて、流入関数i(t)および流出関数o(t)の下での面積によって決定することができる。ここで、面積決定のための積分限界は、i(t)とo(t)の曲線の幅に応じて選択可能である。
【0056】
対応する面積を決定するために流入関数i(t)および流出関数o(t)の積分を使用して血液量を決定する代わりに、指示薬の濃度値の時間経過cICG(t)を使用することができる。指示薬の濃度値の時間経過cICG(t)は、最終値t2>t1までの時間間隔t1>0において、回帰を用いて指数関数で近似的に記述することができる。この指数関数は、特定の時間、例えばt=0、すなわち指示薬注入時間まで外挿することができる。
【0057】
従って、決定された指示薬の濃度値の時間経過cICG(t)から、注入直後の考慮した臓器組織における指示薬濃度cTissueの計算は、以下の式で決定することができる。
【0058】
【数7】
【0059】
臓器の血液量BV、例えば脳血液量CBVは、考慮した組織に関連する指示薬濃度cTissue、血液中の既知の指示薬濃度cBlood、および組織密度ρTissueの商として、以下に従って計算される。
【0060】
【数8】
【0061】
血液中の指示薬濃度は、総血液量BVと指示薬の注入量から求めることができる。
【0062】
考慮した臓器における血流BFは、以下の式に従って、血液量BV、例えば脳血流CBF、および平均通過時間mttの商として決定することができる。
【0063】
【数9】
【0064】
以下に説明するように、本発明は、本方法を実施するために提供され、および/またはプログラムされた装置を含む。好適実施形態において、装置は、評価アルゴリズムを実行するようプログラムによりアレンジされた評価ユニットと、電気的および/または光学的構成要素を含むユニットと、近赤外線スペクトル内の少なくとも1つの波長を有する放射線を供給するための少なくとも1つのセンサアレンジメントとを有する。センサユニットは、照射された放射線の出射部分を検出するための少なくとも1つの検出器を有する光学部品からなる。
【0065】
ここで図1を参照すると、絶対濃度値を決定するため、および/または脳組織内の血液量および/または血流量を決定するための装置1が記載されている。この目的のために、装置1は、指示薬アプリケーションと結合された非侵襲的測定装置および方法を含む。センサアレンジメント10は、患者の体表面に取り外し可能に取り付けられる。あるいは、絶対濃度値を侵襲的に決定するために、センサアレンジメント10を患者の体表面から挿入することもできる。
【0066】
センサアレンジメント10は、例えばユニット20内で組み合わされた電気的および光学的構成要素、近赤外線スペクトルにおける少なくとも1つの波長を有する放射線を照射するための少なくとも1つのセンサユニット30、および身体組織から出現する放射線を検出するための少なくとも1つの検出器ユニット40から構成される。放射線は、好ましくは、近赤外スペクトルの複数の異なる波長で、外部光源から、または、複数の光またはレーザーダイオードのような、ユニット20内またはセンサユニット30内に直接配置された光源から、身体組織内に放射される。照射された放射線の少なくとも1つの波長は、例えばインドシアニングリーンICGである注入指示薬に適合される。インドシアニングリーンICGが指示薬として注入される場合、波長の1つは780~900nmの範囲であってよく、好ましくは約808nmである。測定体積中の複数の成分の光学濃度を決定するためには、少なくとも4つの波長を使用することが望ましい。
【0067】
センサアレンジメント10は、少なくとも1つの検出器ユニット40、好ましくは第1の検出器ユニット及び第2の検出器ユニット(図示せず)から構成され、これらの検出器ユニットは、互いに最適化された距離を隔てて配置される。ここで、最適化とは、照射された放射線の身体組織への浸透深さ、および/または信号対雑音比に関するものとして理解される。
【0068】
第1及び第2の検出器ユニット(図示せず)は、組織から出現する放射線の一部を測定信号として検出するように設定され、その信号は評価ユニット50に送信される。測定信号の送信は、ケーブルまたは無線によってリアルタイムで行われることがある。評価ユニット50は、電子機器、例えば、1つ以上のプロセッサ、および/または光源から構成されてもよく、好ましくは、プログラムを実行するようにプログラムされている。1つまたは複数のプロセッサは、有線バスを介してまたは無線で互いに通信することができる。無線通信の場合、いつでもリモートアクセスが可能である。
【0069】
次に図2を参照して、評価ユニット50の例示的な実施形態を説明する。評価ユニット50は、本明細書に記載の評価アルゴリズムソフトウェアでプログラムされたコンピュータ、例えばラップトップ、デスクトップ、またはタブレットを含み、少なくとも1つのプロセッサ100、メモリ110、不揮発性ストレージ120、オプションのトランシーバ130、電源140、および1つまたは複数の入力装置150および出力装置160を含む。
【0070】
プロセッサ100は、Intel CORE i5またはi7プロセッサなどの従来のマルチコアプロセッサであってよい。メモリ110は、揮発性メモリ(例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM))、不揮発性メモリ(例えば、リードオンリーメモリ(ROM))、フラッシュメモリ、またはそれらの任意の組み合わせから構成され得る。
【0071】
オプションのトランシーバ130は、任意のIEEE802規格など、有線または無線接続を介した通信を容易にする任意の周知の通信設備を使用して、遠隔モニタリングステーション、および/または指示色素を注入するためのコントローラなど、システム内の他の構成要素との間で非侵襲的測定情報を受信および/または送信することができる。電源140は、好ましくは、標準的なコンセントに接続し、および/または電池を含んでもよい。不揮発性メモリ装置120は、好ましくは、ソリッドステートディスクメモリまたは磁気ハードドライブなどの、取り外し可能および/または取り外し不可能な記憶装置を含む。
【0072】
入力装置150は、評価ユニットにデータを入力するために、評価ユニット50に結合され、または評価ユニット50に統合された1つまたは複数の装置であってよく、例えば、キーボードまたはタッチスクリーン、マウスおよび/またはペンを含み得る。入力装置150は、システムマトリックスに入力する際に使用されるデータ、ならびに患者固有の情報、例えば身長、年齢、肌色、性別、および身元を評価ユニットに入力するために使用され得る。出力装置160は、ビデオスクリーン、プリンタ、またはプロッタなど、データを出力または他の方法で表示するために評価ユニット50に結合され、または評価ユニット50に統合された任意の適切な装置であってよい。出力装置160は、さらに、1つ以上の測定信号が患者の苦痛を示す臨床的に有意な閾値を下回った場合に作動され得るスピーカまたは警報ベルを含み得る。
【0073】
図2を参照すると、オペレーティングシステム170と評価アルゴリズム180は不揮発性ストレージ120に格納されている。オペレーティングシステム170は、評価ユニット用のオペレーティングシステム、例えばマイクロソフト・ウィンドウズ(登録商標)やリナックス(登録商標)、および入出力装置用の必要なドライバを含む。
【0074】
評価アルゴリズム180は、入力装置150を通じて提供される入力に基づいて特定の患者用にパーソナライズされてもよいし、あるいは、監視される患者に適したリアルタイムの消衰値を生成するべくシステムマトリックス190内のデータを修正するために、入力された患者固有のデータを分析するための機械学習および検索アルゴリズムを含んでもよい。評価アルゴリズム180はまた、センサアレンジメント10から受信した入力の入力サンプリングレートと通信して調整するためのプログラミング、および出力装置160に表示される出力を生成するためのプログラミングを含むことができる。
【0075】
評価アルゴリズム180は、本明細書で説明するように、センサアレンジメント10から得られる非侵襲的測定信号を使用して、血液量および血流、特に脳血液量および血流の絶対値を生成するためのプログラムされた命令を含む。具体的には、評価アルゴリズムは、非侵襲的に測定された患者の生理学的データを用いて、図3のフローチャートに記載されているように、特定の血液成分、例えば、オキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンの絶対濃度値、血流および/または臓器の組織の血液量を決定するための反復プロセスを採用することができる。
【0076】
図3に関して、評価ユニット50の不揮発性メモリ装置120に記憶されたプログラムされた評価アルゴリズム180に対応する例示的なフローチャートを説明する。
【0077】
図1に示すセンサアレンジメント10により、工程200において、例えば患者の頭部について、高分解能、例えば5Hzを超える消衰測定を実施することができる。したがって、考慮した測定体積内の好ましくは複数の成分についての光学密度OD(t)の時間的経過は、検出された近赤外線放射の強度と照射された近赤外線放射の強度との商の負の常用対数として決定することができる。ここで、考慮した組織の光学密度は、少なくとも成分ヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、水、バックグラウンド、および/または指示薬について決定され得る。工程210では、好ましくは較正可能なシステムマトリックスを生成することができる。この目的のために、測定容積のバックグラウンドの成分およびその割合、ならびにバックグラウンド成分の消衰係数への影響が考慮される。従って、臓器の密度を考慮するだけでなく、文献値および/または比較測定値を用いて、工程220において、特にヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、バックグラウンドおよび/または水、並びに工程230に示されるように、注入された指示薬の考慮した測定体積中の成分の絶対濃度値を決定することができる。このような決定された値はまた、例えば、年齢に基づいて骨密度を調整したり、皮膚の色調を考慮したりするなど、患者固有の値に調整することができる。
【0078】
工程240では、評価アルゴリズムは、工程230で決定された指示薬の経時的な濃度変化cICG(t)を、もっともらしさチェックにかける。この評価が不合格の場合、測定は無効とみなされる。工程250では、指示薬の濃度の時間経過cICG(t)が対数正規関数を用いてフィッティングされる。工程260では、平均通過時間mttが推定され、これは定義可能な限界値、すなわち最小通過時間mttminと最大通過時間mttmaxの間の決定可能な範囲にあり、したがって定義可能なサーチ間隔にある。サーチ間隔は工程270で定義される。平均通過時間mttが定義された範囲内にあるかどうかの問い合わせは、工程280で行うことができる。平均通過時間mttは、流入関数i(t)および流出関数o(t)の反復決定、ならびに考慮中の臓器における血液量および/または血流の決定のために決定される。流出関数o(t)は、流入関数i(t)と輸送関数g(t)の畳み込み積分から決定することができ、特に平均通過時間mttの関数として対数正規関数で曲線の上行枝を近似的に決定することができる。
【0079】
工程290では、対応する輸送関数g(t)が最小通過時間mttに基づいて決定される。工程300では、次に、流入関数i(t)の時間経過および流出関数o(t)の時間経過が決定され得る。流入関数i(t)の時間経過および流出関数o(t)の時間経過は、工程310で示されるように、対応する対数正規分布を用いて近似的に記述され得る。工程320では、平均通過時間mttの変動に対する終了基準を定義するもっともらしさ基準を用いて、もっともらしさチェックが実行される。
【0080】
第1のもっともらしさ基準として、つまり平均通過時間mttの変動の終了基準として、流入関数i(t)の重心と流出関数o(t)の重心の位置を決定することができ、これらは第1のもっともらしさ基準に従って、互いからの定義可能な距離を有する。定義可能な距離は、平均通過時間mttに対応することができる。
【0081】
別の方法として、流入関数i(t)のもとで決定される面積と流出関数o(t)のもとで決定される面積に基づく、さらなる、または第2のもっともらしさ基準を使用することもできる。第2のもっともらしさ基準が満たされる場合、決定されるべき面積は互いに定義可能な比率にある。好ましくは、この比率は1:1である。
【0082】
上記のもっともらしさ基準のいずれも満たされない場合、平均通過時間mttは、工程330において1増分、例えば0.5だけ増加させることによって変化させることができる。この増加は、もっともらしさ基準のいずれかが満たされるまで継続され、アルゴリズムの他の工程が実行される。そうでない場合、工程270でmttの定義された最大許容値に達した場合、工程280でこのような増加は停止される。この場合、mttは決定できず、測定は無効とみなされる。
【0083】
工程340では、血液量BVと血液流量BFが、決定された平均通過時間mttに基づいて決定される。血液量を決定するために、指示薬の濃度値の時間特性cICG(t)は、時間間隔t1>0からt2>t1において指数関数を用いて近似的に記述することができ、次いでこの指数関数を時間t=0に外挿することができる。さらに、考慮中の臓器組織における血液量は、流入関数i(t)および流出関数o(t)のもとでの面積に比例するとみなすことができ、これは積分によって計算することができる。
【0084】
本明細書において説明される実施形態は例示的なものであり、構成要素は、多種多様な異なる構成において配置、置換、組み合わせ、および設計することができ、それらの全てが本開示の範囲内に含まれることを意図していることを理解されたい。したがって、例示的な実施形態の前述の説明は、例示および説明の目的で提示されたものであり、網羅的であることを意図していない。むしろ、本発明の範囲は特許請求の範囲によって定義されるべきであることを意図する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0085】
【特許文献1】米国特許第6,456,862号明細書
【特許文献2】米国特許第7,529,576号明細書
【特許文献3】米国特許第6,223,069号明細書
図1
図2
図3
【国際調査報告】