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特表2024-541699水素の起源を評価及び認証するための方法並びにシステム
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  • 特表-水素の起源を評価及び認証するための方法並びにシステム 図1
  • 特表-水素の起源を評価及び認証するための方法並びにシステム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】水素の起源を評価及び認証するための方法並びにシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20241031BHJP
【FI】
G01N21/3504
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024552511
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 IB2021061365
(87)【国際公開番号】W WO2023105261
(87)【国際公開日】2023-06-15
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524202812
【氏名又は名称】アブ ダビ ナショナル オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【弁理士】
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】ルシダルム ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ダ シルヴァ フェレイラ アルヴェス ジョアン ホルヘ
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059CC13
2G059EE01
2G059EE11
2G059GG01
2G059HH01
2G059JJ01
(57)【要約】
水素の起源を評価及び認証するための方法(100)であって、以下の工程:a.ある量の水素ガスをサンプリングする工程(110);b.サンプルの結果から水素ガスの起源を評価する工程(120);及び、c.水素ガスの起源を認証する工程(130)を含む。特に、工程b.は、サンプル中のCO、N2、CH4、及び/又は同位体、好ましくは重水素の存在を評価することを含む。さらに、水素の起源を評価及び認証するためのシステム(1)も特許請求される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の起源を評価及び認証するための方法(100)であって、以下の工程:
a.ある量の水素ガスをサンプリングする工程(110)、
b.サンプルの結果から水素ガスの起源を評価する工程(120)、及び
c.水素ガスの起源を認証する工程(130)
を含む、方法。
【請求項2】
サンプルから水素ガスの起源を評価する工程が、
- サンプル中のCOの存在を評価すること(112)、
- サンプル中にCOが含まれていない場合、水素の起源が電気分解であると評価すること、及び
- サンプル中にCOが含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプルから水素ガスの起源を評価する工程が、
- サンプル中のCOの存在を評価すること、
- サンプル中のN2の含有量を評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm未満である場合、水素の起源が電気分解であると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm以上である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、及び
- サンプル中にCOが含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
サンプルから水素ガスの起源を評価する工程が、
- サンプル中のCOの存在を評価すること、
- サンプル中のN2の含有量を評価すること、
- サンプル中のCH4の存在を評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm未満であり、サンプル中にCH4が含まれない場合、水素の起源が電気分解であると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm以上である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中にCH4が含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、及び
- サンプル中にCOが含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
サンプルから水素ガスの起源を評価する工程が、
- サンプル中のCOの存在を評価すること、
- サンプル中のN2の含有量を評価すること、
- サンプル中のCH4の存在を評価すること、
- サンプル中の重水素の含有量を評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm未満であり、サンプル中にCH4が含まれず、サンプル中の重水素の含有量が特定の重水素閾値(TD)未満である場合、水素の起源が電気分解であると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm以上であり、サンプル中にCH4が含まれず、サンプル中の重水素の含有量が特定の重水素閾値(TD)未満である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm未満であり、サンプル中にCH4が含まれており、サンプル中の重水素の含有量が特定の重水素閾値(TD)超である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm以上であり、サンプル中にCH4が含まれず、サンプル中の重水素の含有量が特定の重水素閾値(TD)超である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm以上であり、サンプル中にCH4が含まれており、サンプル中の重水素の含有量が特定の重水素閾値(TD)未満である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、サンプル中のN2の含有量が1ppm以上であり、サンプル中にCH4が含まれており、サンプル中の重水素の含有量が特定の重水素閾値(TD)超である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、及び
- サンプル中にCOが含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記量の水素ガスをサンプリングする工程が、以下の分析:
- 水素ガスのサンプルのクロマトグラフィ、及び/又は
- 水素ガスのサンプルの分光分析、及び/又は
- 水素ガスの光学分析、好ましくはレーザー吸収による水素ガスの光学分析
のうちの1種又は複数を含む、請求項1~5の1項に記載の方法。
【請求項7】
前記量の水素ガスをサンプリングする工程が、
- CO測定、及び/又は
- N2測定、及び/又は
- CH4測定、及び/又は
- 同位体測定、好ましくは重水素測定
を含む、請求項1~6の1項に記載の方法。
【請求項8】
水素ガスの起源を認証する工程が、真正であることが証明された不変の方法で行われる、請求項1~7の1項に記載の方法。
【請求項9】
水素の起源を評価及び認証するためのシステム(1)であって、
a.ある量の水素ガス(40)をサンプリングするためのサンプリング装置(10)、
b.サンプルから水素の起源を評価するための評価装置(20)、及び
c.水素の起源を認証するための認証装置(30)、
を備える、システム。
【請求項10】
サンプリング装置(10)が、
- 水素ガスのサンプルのクロマトグラフィを行うためのクロマトグラフィ装置(12)、及び/又は
- 水素ガスのサンプルの分光分析を行うための分光分析装置(14)、及び/又は
- 水素ガスの光学分析のための光学分析装置(16)、
を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
光学分析装置(16)が、レーザー吸収装置を含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
クロマトグラフィ装置(12)が、パルス放電ヘリウムイオン化検出器と連結したガスクロマトグラフィ装置(GC-PDHID)又は熱伝導度検出器と連結したガスクロマトグラフィ装置(GC-TCD)を含む、請求項10又は11の1項に記載のシステム。
【請求項13】
サンプリング装置(10)が、CO測定及び/又はN2測定及び/又はCH4測定及び/又は同位体測定、好ましくは重水素測定を行うことができる、請求項9~12の1項に記載のシステム。
【請求項14】
評価の確実性のレベルに応じて、以下の測定:
- CO測定、又は
- CO及びN2測定、又は
- CO、N2、及びCH4測定、又は
- CO、N2、CH4、及び同位体測定、好ましくは重水素測定、
が行われる、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
認証装置(30)が、真正であることが証明された不変の方法で、好ましくはブロックチェーン(52)の形式で、デジタル証明書(50)を提供する、請求項9~14の1項に記載のシステム。
【請求項16】
請求項1~8の1項に記載の方法を行うための請求項9~15の1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の分野
本発明は、水素の起源を判定及び保証するための方法並びにシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
2.先行技術
環境に優しく、温室効果ガス(GHG)強度の低い水素を用いることは、現在、気候変動との戦いにおける重要な要素の1つと考えられている。このような水素は、電力で直接駆動することができない産業用途において、石炭、石油、又はガスの代替として用いられ得る。
したがって、近い将来、水素は産業界にとって主要なエネルギー源の1つになると予測される。
水素は、様々なプロセスにより、用いられる様々な供給原料及びエネルギー源から製造され得る。したがって、水素は、典型的には、供給原料、エネルギー源、及び製造プロセスを示すその起源によって区別される。水素の起源は、水素の異なる「色」によって示される場合がある。水素の起源及びそのGHGフットプリントの例示的な区別を表1に示す。
【0003】
【表1】
【0004】
将来的に、様々な起源の水素が様々な価格で、市場で入手可能となる可能性が高い。一般的に、水素のGHGフットプリントが低いほど、製造コスト及び価格は高くなる。
現在、風力、太陽光、水力、地熱、又は潮力のエネルギーなどの再生可能エネルギー源由来の電力を用いた電気分解によって水から製造されるグリーン水素が、最も環境に優しい水素の形態と考えられている。したがって、表1に示すように、それが、最も優れたGHGフットプリントを有する。
この尺度の反対側については、ガス化によって黒炭から製造されるブラック水素が、高いGHGフットプリントを有すると考えられている。
異なる起源の水素の価格は、大きく異なる可能性が高いことから、顧客にとって、受け取った水素が、起源の分かっているものであり、所望されるGHGフットプリントを有することが保証されることが望ましい。様々な種類の起源のものを混合することは、例えば7ドル/kgから1ドル/kgまでのように、製造コストを低減する補助となる可能性がある。したがって、購入した水素の起源は、モニタリングされるべきである。
【0005】
さらに、水素は、パイプライン又は高圧タンクでの従来からの輸送手段によって生産者から消費者まで届けられる可能性があり、そのため、その起源を容易に区別することはできない。
したがって、本発明の目的は、水素の起源を証明することを可能にする、特に、電気分解によって製造された水素と化石燃料から直接製造された水素とを区別することを可能にする方法及びシステムを提供することである。
【発明の概要】
【0006】
3.発明の概要
上記目的は、請求項1に記載の水素の起源を評価及び認証するための方法、並びに請求項9に記載の水素の起源を評価及び認証するためのシステムによって解決される。
好ましくは、上記の目的は、水素の起源を評価及び認証するための方法であって、以下の工程:
a.ある量の水素ガスをサンプリングする工程、
b.サンプルの結果から水素ガスの起源を評価する工程、及び
c.水素ガスの起源を認証する工程
を含む、方法によって解決される。
したがって、この方法は、水素ガスの起源を評価及び認証するものである。まず、ある量の水素ガスがサンプリングされ、好ましくは、水素ガスについてのある特定の化学的又は物理的情報を得るために、異なる測定手段によって測定される。好ましくは、サンプリング工程は、ガス中にある特定の化学元素又は組成が含まれているかどうかを判定するために用いられ得る。さらに、これらのサンプリングの結果から、水素ガスの起源が評価される。好ましくは、特定のロジックを用いてサンプリングの結果が解釈されて、特定の確実性で水素ガスの起源が評価され得る。最後に、水素ガスの起源が認証される。この認証のために、例えば、ブロックチェーンを用いることによるものを例とするスマート証明書を用いて、認証の正しさが保証され得る。
【0007】
好ましくは、第1の実施形態では、サンプルから水素ガスの起源を評価する工程は、
- サンプル中のCOの存在を評価すること、
- サンプル中にCOが含まれていない場合、水素の起源が電気分解であると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること
を含む。
【0008】
このような評価手順により、電気分解水素の簡便で迅速な評価が、ある程度の確実性をもって可能である。しかし、COの判定のみに基づいて電気分解製造水素と化石燃料からの高度に精製された水素とを区別することは、困難であり得る。さらに、グレー水素又はブルー水素を検出することは可能であるが、グレー水素とブルー水素とを区別することは困難である。水素燃料中の不純物の存在は、用いられる供給原料及び製造プロセスに依存する。一酸化炭素は、水蒸気メタン改質又はガス化プロセスを用いて製造された水素中に見出され得る。したがって、水素ガスサンプルのCO陽性判定は、水素がグレー又はブルーであることを示す。水素中のCOの存在は、水蒸気改質プロセスに由来する。このプロセスでは、「圧力スイング吸着」(PSA)ユニットでの精製がより容易であるCO2もある程度発生し得る(「水性ガスシフト」反応による)。したがって、サンプル中のCOの評価は、サンプル中のCO2の評価、又はサンプル中のCO及びCO2の評価に置き換えられる可能性がある。
さらに、この評価手順では、電気分解製造に用いられた電気エネルギー源を判定することができないことから、電気分解水素は、原子力発電の電気によって製造されたパープル/ピンク水素、又は混合グリッドエネルギー(mixed-grid energy)で製造されたイエロー水素である場合もあり、表1を参照されたい。
【0009】
好ましくは、第2の実施形態では、サンプルから水素ガスの起源を評価する工程は、
- サンプル中のCOの存在を評価すること、
- サンプル中のN2の含有量を評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm未満である場合、水素の起源が電気分解であると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm以上である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、及び
- サンプル中にCOが含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること
を含む。
第2の実施形態の評価手順は、電気分解水素の判定における確実性を向上させる。この実施形態では、電気分解水素を、化石供給原料から製造されたより精製された水素又は電気分解水素と化石由来の水素との混合物と区別することが可能である。さらに、化石供給原料由来の水素を特定することが可能であるが、グレー水素とブルー水素とを区別することはできない。さらに、電気分解水素は、パープル、ピンク、又はイエロー水素でもあり得る。
【0010】
好ましくは、第3の実施形態では、サンプルから水素ガスの起源を評価する工程は、
- サンプル中のCOの存在を評価すること、
- サンプル中のN2の含有量を評価すること、
- サンプル中のCH4の存在を評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm未満であり、サンプル中にCH4が含まれない場合、水素の起源が電気分解であると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm以上である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中にCH4が含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、及び
- サンプル中にCOが含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること
を含む。
【0011】
第3の実施形態の評価手順により、さらなる不純物の検出、好ましくは水素サンプル中に依然として存在するメタン(CH4)の検出に基づいて、より良好な確実性を伴う電気分解水素のさらに改善された評価が可能である。この実施形態では、電気分解水素又は電気分解水素と他の起源の水素との混合物を、より高い確実性で区別することが可能である。さらに、グレー水素又はブルー水素を検出することは可能であるが、グレー水素とブルー水素とを区別することはできない。さらに、電気分解水素は、パープル、ピンク、又はイエロー水素でもあり得る。
好ましくは、第4の実施形態では、サンプルから水素ガスの起源を評価する工程は、
- サンプル中のCOの存在を評価すること、
- サンプル中のN2の含有量を評価すること、
- サンプル中のCH4の存在を評価すること、
- サンプル中の重水素の含有量を評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm未満であり、サンプル中にCH4が含まれず、且つサンプル中の重水素対水素の比が特定の閾値未満である場合、水素の起源が電気分解であると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm以上であり、サンプル中にCH4が含まれず、且つサンプル中の重水素対水素の比が特定の閾値未満である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm未満であり、サンプル中にCH4が含まれており、サンプル中の重水素対水素の比が特定の閾値を超える場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm以上であり、サンプル中にCH4が含まれず、且つサンプル中の重水素対水素の比が特定の閾値を超える場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm以上であり、サンプル中にCH4が含まれており、サンプル中の重水素対水素の比が特定の閾値未満である場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、
- サンプル中にCOが含まれず、且つサンプル中のN2の含有量が1ppm以上であり、サンプル中にCH4が含まれており、サンプル中の重水素対水素の比が特定の重水素閾値を超える場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること、及び
- サンプル中にCOが含まれている場合、水素の起源が電気分解ではない、又は混合起源に由来すると評価すること
を含む。
【0012】
第4の実施形態の評価手順により、同位体のさらなる検出、好ましくは重水素のさらなる検出に基づいて、より良好な確実性を伴う電気分解水素のさらに改善された評価が可能である。この実施形態では、電気分解水素を、電気分解水素と他の起源の水素との混合物から、さらにより高い確実性で区別することが可能である。この実施形態は、水素の同位体、特に重水素が、少なくとも部分的に天然ガスに由来する水素中の重水素と比較して、電気分解による水だけに由来する水素において非常に低減されるという認識に基づいている。
さらに、グレー水素又はブルー水素を検出することは可能であるが、グレー水素とブルー水素とを完全に区別することはできない場合がある。さらに、電気分解水素は、パープル、ピンク、又はイエロー水素でもあり得る。
【0013】
好ましくは、上記の量の水素ガスをサンプリングする工程は、以下の分析、
- 水素ガスのサンプルのクロマトグラフィ、及び/又は
- 水素ガスのサンプルの分光分析、及び/又は
- 水素ガスの光学分析、好ましくはレーザー吸収による水素ガスの光学分析
のうちの1種又は複数を含む。
好ましくは、上記の量の水素ガスをサンプリングする工程は、
- CO測定、及び/又は
- N2測定、及び/又は
- CH4測定、及び/又は
- 同位体測定、好ましくは重水素測定
を含む。
【0014】
好ましくは、水素ガスの起源を認証する工程は、真正であることが証明された不変の方法(authenticated immutable manner)で行われる。したがって、認証工程は、好ましくは、改ざんが不可能である完全な自動で行われる。
上記課題はまた、水素の起源を評価及び認証するためのシステムによっても解決され、水素の起源は、水素のそれを表し、このシステムは、ある量の水素ガスをサンプリングするためのサンプリング装置と、サンプルから水素の起源を評価するための評価装置と、水素の起源を認証するための認証装置とを備える。
【0015】
好ましくは、サンプリング装置は、水素ガスのサンプルのクロマトグラフィを行うためのクロマトグラフィ装置、及び/又は水素ガスのサンプルの分光分析を行うための分光分析装置、及び/又は水素ガスの光学分析のための光学分析装置を含む。
好ましくは、光学分析装置は、レーザー吸収装置を含む。
好ましくは、クロマトグラフィ装置は、パルス放電ヘリウムイオン化検出器と連結したガスクロマトグラフィ装置(GC-PDHID)、又は熱伝導度検出器と連結したガスクロマトグラフィ(GC-TCD)を含む。パルス放電ヘリウムイオン化検出器と連結したガスクロマトグラフィ(GC-PDHID)は、ヘリウムのプラズマによる化合物のイオン化に依存する(パルスDC放電によって行われる)。GC-TCDガスクロマトグラフィ装置では、熱伝導率検出器(TCD)が、純キャリアガス(通常は水素又はヘリウム)とサンプル化合物を含むキャリアガスとの間の熱伝導率の差をホイートストンブリッジで測定する。サンプル化合物の存在下でフィラメントの温度が変化することで、抵抗及び電圧が変動する。
GC-PDHIDガスクロマトグラフィ装置又はGC-TCTガスクロマトグラフィ装置は、特に水素中の窒素、メタン、及び一酸化炭素の量を測定することができる。
【0016】
光学分析装置は、好ましくは光学分光分析装置を含む。光学分光分析法は、水素分析のためのクロマトグラフィ法に対する代替法である。これらの方法では、物質による吸収後の特定波長での光の強度が測定される。波長は、典型的には、選択された化学化合物に対して特異的であるように選択されるが、ある程度の干渉が存在する可能性がある。キャビティリングダウン分光法(CRDS)、光フィードバックキャビティ増強吸収分光法(OFCEAS)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、及びレーザー直接吸収分光法(DAS)を含むいくつかの異なる分光分析法が用いられ得る。
CRDSでは、光源は、2枚の反射ミラーで構成された光共振器の中で特定の波長で発光するレーザーである。光がその初期強度の何分の1かに達するまでの減衰時間が測定される。この時間は、その波長を吸収する化合物の濃度が増加すると、短くなる。この技術では、典型的には数キロメートルという長い光路長により、pptまでの高感度検出が可能である。しかし、測定可能な分析物は、利用可能なレーザー及びミラーの波長によって制限される。
光フィードバックキャビティ増強吸収分光法(OFCEAS)は、CRDSの一種で、絶対圧100mbar未満という低圧で長い光路を持ち、低圧でのサンプリング及び必要なサンプル量の削減が可能である。様々な波長にわたっての分析を迅速に行うことができる。OFCEASを用いると、特に、水素中のメタン及び一酸化炭素を光学的に測定することが可能である。
【0017】
論文、Beurey C, Gozlan B, Carre M, Bacquart T, Morris A, Moore N, Arrhenius K, Meuzelaar H, Persijn S, Rojo A and Murugan A., Frontiers in Energy Research, February 2021, Volume 8, Article 615149のReview and Survey of Methods for Analysis of Impurities in Hydrogen for Fuel Cell Vehicles According to ISO 14687:2019 には、燃料電池車用途のための水素中の不純物を測定する様々な方法について記載されている。
水素中の重水素(D)含有量を判定するための水素同位体分析は、好ましくは、ガスクロマトグラフィ燃焼同位体比質量分析(GC/C/IRMS)装置を用いて行われ得る。
好ましくは、サンプリング装置は、CO測定及び/又はN2測定及び/又はCH4測定;及び/又は同位体測定、好ましくは重水素測定を行うことができる。
【0018】
水素のそれが電気分解ではない場合、化石供給原料を用いるプロセスで製造された水素の精製度を高めて不純物のレベルを低下させることによって、本発明に従う検出プロセスを回避可能であることはここで留意され得る。しかし、このことは、製造される水素のコストを増大させ、そのような不純物混入品に対する生産意欲の阻害をもたらす。したがって、これは、本発明をさらに正当化するものである。
好ましくは、評価の確実性のレベルに応じて、以下の測定:
- CO測定、又は
- CO及びN2測定、又は
- CO、N2、及びCH4測定、又は
- CO、N2、CH4、及び同位体測定、好ましくは重水素測定
が行われる。
したがって、所望される確実性のレベル又は不確実性のレベルに応じて、水素ガスのサンプルのサンプリングに対してさらなる測定工程を追加する適応システムが提供される。
好ましくは、認証装置は、真正であることが証明された不変の方法で、好ましくはブロックチェーンの形式で、デジタル証明書を提供する。
上記課題は、上述の方法を実行するための上述のシステムによっても解決される。
4.図面の簡単な説明
以下では、添付の図を参照して、本発明の好ましい実施形態を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】水素の起源を評価及び認証するための方法の模式的概要図である。
図2】水素の起源を評価及び認証するためのシステムの模式的概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
5.好ましい実施形態の詳細な記述
以下では、本発明の好ましい実施形態を、図に関連して詳細に記載する。
図1は、水素の起源を評価及び認証するための方法100の模式的概要図を示す。方法100は、以下の工程:
a.ある量の水素ガスをサンプリングする工程110、
b.サンプルの結果から水素ガスの起源を評価する工程120、及び
c.水素ガスの起源を認証する工程130
を含む。
サンプリング工程110は、以下のサブ工程:
- サンプル中のCOの存在を評価するサブ工程112、
- サンプル中のN2の濃度を評価するサブ工程114、
- サンプル中のCH4の存在を評価するサブ工程116、
- サンプル中の重水素の分布を評価するサブ工程118
を含み得る。
【0021】
第1の実施形態では、サンプリング工程110は、サンプル中のCOの存在を評価するサブ工程112を含む。このようなサンプリングに基づいて、水素ガスの起源を、表2のロジックに従って評価することができる。
【表2】
【0022】
第2の実施形態では、サンプリング工程110は、サンプル中のCOの存在を評価するサブ工程112及びサンプル中のN2の含有量を評価するサブ工程114を含む。このようなサンプリングに基づいて、水素ガスの起源を、表3のロジックに従って評価することができる。
【表3】
【0023】
第3の実施形態では、サンプリング工程110は、サンプル中のCOの存在を評価するサブ工程112、サンプル中のN2の含有量を評価するサブ工程114、及びサンプル中のCH4の存在を評価するサブ工程を含む。このようなサンプリングに基づいて、水素ガスの起源を、表4のロジックに従って評価することができる。
【表4】
【0024】
第4の実施形態では、サンプリング工程110は、サンプル中のCOの存在を評価するサブ工程112、サンプル中のN2の含有量を評価するサブ工程114、サンプル中のCH4の存在を評価するサブ工程、及びサンプル中の重水素対水素の比を評価するサブ工程を含む。このようなサンプリングに基づいて、水素ガスの起源を、表5のロジックに従って評価することができる。
【表5】
【0025】
表中、+及び++は、水素が電気分解由来でないこと、又は複数の起源に由来することの判定における確実性が高まっていることを示す。
水素中の重水素Dの閾値TDは、好ましくは、特定の場所及び用途に応じて決定される30~140ppmmol、40~100ppmmol、50~75ppmmol、又は同様の範囲の値であり、TDの定義は、重水素のモル数対水素(軽水素)のモル数の比である。他の比、例えば、海水中の重水素/水素の割合と比較した重水素/水素の割合の正規化された比が用いられてもよい。
【0026】
好ましい特定の重水素の閾値TDは、30、40、50、60、70、80、90、100、110、又は120ppmmolであり得る。50ppmmolの重水素閾値が特に好ましい。論文“Deuterium separation by combined Electrolysis Fuel cell, Energy (2018), doi:10.1016/j.energy.2018.02.014”にあるように、電気分解に由来する水素の重水素含有量は、水自体の重水素含有量と比較して大幅に減少する(おおよそ8分の1)(150ppmmol/8=19ppmmol)のに対し、化石供給原料に由来する水素の重水素含有量は、化石供給原料自体及び水性ガスシフト反応を通しての水(約150ppmmol)に由来して、より高い割合の重水素を含む。
好ましくは、水素の起源に関して所望される確実性の度合いに応じて、電気分解ではない水素を検出する確率を高めるために、ヘリウム、ヒ素、アルゴンのような化石プロセスによって生成されるさらに希な不純物の判定が行われ得る。
【0027】
認証工程130は、好ましくは真正であることが証明された不変の方法で、評価済みの水素の起源を認証する。したがって、このような認証には、例えばブロックチェーン52の形式である、デジタルスマート証明書50が用いられ得る(図2参照)。ブロックチェーンには、好ましくは、バッチ番号、量、製造年月日、製造者、製造場所、認証者、及び水素の起源を例とする水素のバッチに関するすべての情報が記憶される。さらに、CO、N2、CH4、重水素、若しくは他の水素不純物の含有量又は特性などの分析結果も、スマート証明書50に記憶され得る。
図2は、水素の起源を評価及び認証するためのシステム1を示す。システム1は、ある量の水素ガス40をサンプリングするためのサンプリング装置10と、サンプルから水素ガスの起源を評価するための評価装置20と、水素ガスの起源を認証するための認証装置30とを備える。
サンプリング装置10は、ある量の水素ガス40を受け取り、水素ガス40に対して測定を行って、水素のそれ又は起源に特徴的な不純物を判定する。
【0028】
このような測定を行うために、サンプリング装置10は、水素ガスのサンプルのクロマトグラフィを行うためのクロマトグラフィ装置12を含み得る。好ましくは、クロマトグラフィ装置12は、GC-PDHIDガスクロマトグラフィ装置又はGC-TCTガスクロマトグラフィ装置であり、このようなガスクロマトグラフィ装置は、水素サンプル40中の窒素、メタン、及び一酸化炭素の量を測定することができる。
さらに、サンプリング装置10は、水素ガスのサンプルの分光分析を行うための分光分析装置14を含み得る。キャビティリングダウン分光法(CRDS)、光フィードバックキャビティ増強吸収分光法(OFCEAS)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を含むいくつかの異なる分光分析法が用いられ得る。
さらに、サンプリング装置は、水素ガスの光学分析のための光学分析装置16を含み得る。このような光学分析装置16は、レーザー吸収装置を含み得る。特に、レーザー直接吸収分光分析(DAS)装置が、不純物について水素をサンプリングするために用いられ得る。
【0029】
サンプリングの結果は、サンプリング装置10から評価装置20に送信される。評価装置は、少なくとも1種の計算手段22を備え、それは、プロセッサ、コンピュータ、クラウドコンピューティングデバイスなどであってよく、サンプリングの結果を解釈し、表2~表4に示すような特定のロジックに従って水素の起源を判定する。
サンプリングされた水素40の起源は、評価装置20から認証装置30に送信される。認証装置30も、プロセッサ、コンピュータ、クラウドコンピューティングデバイスなどであってよい少なくとも1種の計算手段32を備える。認証装置30は、真正であることが証明された不変の方法でデジタル証明書を提供することにより、水素ガスの起源を認証する。好ましくは、認証装置30は、ブロックチェーン52の形式を例とする電子データファイル内に含まれるデジタルスマート証明書50を算出する。
図1
図2
【国際調査報告】