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特表2024-541715大型低速運転式2ストロークエンジン、その潤滑方法、並びにそのようなエンジン及び方法の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-11
(54)【発明の名称】大型低速運転式2ストロークエンジン、その潤滑方法、並びにそのようなエンジン及び方法の使用
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/06 20060101AFI20241101BHJP
   F02F 1/20 20060101ALI20241101BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20241101BHJP
【FI】
F01M1/06 E
F02F1/20
F02B25/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024529418
(86)(22)【出願日】2022-11-10
(85)【翻訳文提出日】2024-05-16
(86)【国際出願番号】 DK2022050236
(87)【国際公開番号】W WO2023088526
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】PA202170571
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511081141
【氏名又は名称】ハンス イェンセン ルブリケイターズ アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】イェスペルセン ラーズ
(72)【発明者】
【氏名】ラヴェンドラン ラテサン
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン ニコライ
【テーマコード(参考)】
3G024
3G313
【Fターム(参考)】
3G024AA25
3G024DA12
3G024EA10
3G024FA07
3G313AA12
3G313AB12
3G313AB16
3G313BA02
3G313BB14
3G313BC03
3G313BD42
(57)【要約】
大型エンジン、特に船舶用エンジン又は発電所用エンジン、並びに注入器を備えるエンジンの潤滑方法。本方法によれば、エンジンの全ての注入器に対して1つの流量計、シリンダの全ての注入器に対して1つの流量計、又はエンジンの注入器ごとに1つの流量計が設けられる。本方法は、少なくとも1つの流量計で潤滑油の流れを測定するステップと、測定された実際の流れを実際の量に制御装置内で変換するステップと、計算された実際の量を所望値と比較するステップと、特定の動作モードに関して注入される潤滑油量に関する所望値に実際の量を調節するために、注入器を制御してその設定を調整するステップと、を備える。
【選択図】 図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に往復式ピストンを有するシリンダ(1)と、潤滑油システムとを備える大型低速運転式2ストロークエンジンであって、前記潤滑油システムは、
潤滑油供給部(25)と、
注入フェーズ中に前記シリンダ(1)内へ前記シリンダ(1)の周囲長の様々な位置で潤滑油を注入するために前記シリンダ(1)の周囲長に沿って分散配置された複数の潤滑油注入器(4)と、
前記潤滑油供給部(25)を前記潤滑油注入器(4)と接続する、潤滑油供給導管(12)及び潤滑油戻りライン(13)と、
前記潤滑油の流れを測定するための少なくとも1つの流量計と、
を備え、
前記エンジンは、
前記潤滑油注入器(4)の少なくとも1つによって前記潤滑油の注入量及びタイミングを制御するための制御装置(11)と、
前記制御装置が接続されたコンピュータ(11’)と、
をさらに備え、
前記潤滑油注入器(4)の各々は、
前記潤滑油供給導管(12)に流体接続されて、そこから潤滑油を受け入れるための入口ポートと、
前記シリンダ(1)の中へ延びるノズル開口(5’)を備え、前記注入フェーズにおいて前記入口ポート(4A)から前記シリンダ(1)内に潤滑油を注入するように構成されたノズル(5)と、
注入サイクル中に前記注入器内の圧力室から前記ノズル開口(5’)への潤滑油の流れを開放及び閉鎖するために前記ノズル(5)にある調整可能弁と、
を備え、
前記エンジン内の全ての注入器に対して1つの流量計が配置され、1つの流量計がシリンダの全ての注入器に対して配置され、又は、1つの流量計が前記エンジンの注入器ごとに配置され、
前記制御装置は、前記測定された実際の流れを実際の量に変換するように構成され、
前記エンジンは、典型的には供給量として規定される、特定の動作モードにおいて注入される潤滑油量に関する複数の所望値をさらに含み、前記所望値は、前記制御装置内のデータベースに格納され、
前記制御装置は、特定の動作モードにおいて注入される潤滑油量に関する前記所望値を得るために、計算された前記実際の量を前記所望値と比較し、前記注入器を制御してその設定を調整するように構成され、
前記制御装置は、注入時に所望の潤滑油量を得るために、異なる注入フェーズで注入された前記潤滑油量を測定し、その結果をマッピングし、前記結果を用いて前記注入器の前記注入フェーズを決定することによって、前記注入器を較正するように構成される、
ことを特徴とする大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項2】
前記潤滑油システムは、機械駆動式システム、油圧駆動式システム及びコモンレールシステムから選択される、請求項1に記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項3】
前記流量計は、前記注入器に接続された前記潤滑油供給導管(12)に設けられる、請求項1又は2に記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項4】
前記流量計は、前記エンジンの注入器ごとに1つの流量計が配置される状況において、前記注入器に組み込まれている、請求項1又は2に記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項5】
前記エンジンは、油圧駆動式入口弁システムを備える、請求項1から4のいずれかに記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項6】
前記エンジンは、電気駆動式入口弁システムを備える、請求項1から4のいずれかに記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項7】
内部に往復式ピストンを有するシリンダ(1)と、システムとを備えた大型低速運転式2ストロークエンジンを潤滑する方法であって、前記システムは、
潤滑油供給部(25)と、
注入フェーズ中に前記シリンダ(1)内へ前記シリンダ(1)の周囲長の様々な位置で潤滑油を注入するために前記シリンダ(1)の周囲長に沿って分散配置された複数の潤滑油注入器(4)と、
前記潤滑油供給部(25)を前記潤滑油注入器(4)と接続する、潤滑油供給導管(12)及び潤滑油戻りライン(13)と、
前記潤滑油の流れを測定するための少なくとも1つの流量計と、
を備え、
前記エンジンは、
前記潤滑油注入器(4)の少なくとも1つによって前記潤滑油の注入量及びタイミングを制御するための制御装置(11)と、
前記制御装置が接続されたコンピュータ(11’)と、
をさらに備え、
前記潤滑油注入器(4)の各々は、
前記潤滑油供給導管(12)に流体接続されて、そこから潤滑油を受け入れるための入口ポートと、
前記シリンダ(1)の中へ延びるノズル開口(5’)を備え、前記注入フェーズにおいて前記入口ポート(4A)から前記シリンダ(1)内に潤滑油を注入するように構成されたノズル(5)と、
注入サイクル中に前記注入器内の圧力室から前記ノズル開口(5’)への潤滑油の流れを開放及び閉鎖するために前記ノズル(5)にある調整可能弁と、
を備え、
前記方法は、周期的な動作において、
前記注入フェーズにおいて、前記注入器の入口ポートに圧力液体を供給し、前記弁に力を加え、前記力によって前記注入器(4)内の弁本体を動かし、圧力が所定の上限を超えて上昇すると、前記ノズル開口(5’)を介して所定の潤滑油量を前記シリンダ(1)内にポンプ送給するステップと、
前記注入フェーズ後に、前記注入器から圧力液体を排出することによって前記弁本体を後退させるステップと、
後退させる間に、次の注入フェーズのために前記注入器内の前記圧力室に潤滑油を補充するステップと、
前記エンジンの全ての注入器に対して1つの流量計、前記シリンダの全ての注入器に対して1つの流量計、又は前記エンジンの注入器ごとに1つの流量計を提供するステップと、
前記少なくとも1つの流量計で前記潤滑油の流れを測定するステップと、
前記制御装置内で、前記測定された実際の流れを実際の量に変換するステップと、
を含み、
前記方法は、
典型的には供給量として規定される、特定の動作モードにおいて注入される潤滑油量に関する複数の所望値を前記エンジンに提供するステップであって、前記所望値は前記制御装置内のデータベースに格納されている、前記ステップと、
計算された前記実際の量を前記所望値と比較するステップと、
特定の動作モードにおいて、注入される潤滑油量に関する前記所望値に前記実際の量を調節するために、前記注入器を制御してその設定を調整するステップと、
10ミリ秒と10分との間で変化する異なった時間間隔で連続的に前記潤滑油量の調節を実行するステップであって、前記連続的な調節は、異なったサンプル間隔での前記潤滑油量の調整を含み、前記サンプル間隔は、注入ごとの1回の調節から、100回の先行する注入に基づく調節まで変化する、前記ステップと、又は
1分と30日との間、好ましくは1時間と30日との間、より好ましくは1日と30日との間の時間間隔で不連続的に前記潤滑油量の調整を実行するステップであって、前記不連続な調整は、前記注入器の較正を含み、前記較正は、注入時に所望の潤滑油量を得るために、異なる注入フェーズで注入された前記潤滑油量を測定し、その結果をマッピングし、前記結果を用いて前記注入器の前記注入フェーズを決定することによって実行される、前記ステップと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記注入器の前記較正は、前記注入器の動作スペクトルについて実行され、前記動作スペクトルは、典型的に0と100msとの間である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、自動検査プログラムを実施し、シリンダの前記注入器が所望の且つ十分な前記潤滑油量を供給するように制御するステップを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
不正確な潤滑油量が供給される状況において、特に前記潤滑油量が不十分な場合に、前記注入器の較正は、手動又は自動で実行される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記自動検査プログラムは、前記較正を補正するステップを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記潤滑油量の前記調節は、フィードバック制御/調節、例えばPID調節又はより高度なモデルベースの調節によって制御される、請求項7から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記制御装置内のデータベースに調節値を格納するステップを含む、請求項7から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記制御装置内のデータベースに注入器ごとの較正済みタイミング値を格納するステップを含む、請求項7から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
25barから100barの範囲の潤滑油圧力で、大型船舶用エンジン又は発電装置用燃焼エンジンの前記シリンダ内へSIP注入するための、請求項1から6のいずれかに記載のエンジンの使用。
【請求項16】
25barから100barの範囲の潤滑油圧力で、大型船舶用エンジン又は発電装置用燃焼エンジンの前記シリンダ内へSIP注入するための、請求項7から14のいずれかに記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型燃焼エンジン、例えば大型低速運転式2ストロークエンジン、そのようなエンジンの潤滑方法、並びにその使用に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、内部に往復式ピストンを有するシリンダと、潤滑油システムとを備える大型低速運転式2ストロークエンジンに関し、潤滑油システムは、
潤滑油供給部と、
注入フェーズ中にシリンダ内へその周囲長の様々な位置で潤滑油を注入するためにシリンダの周囲長に沿って分散配置された複数の潤滑油注入器と、
潤滑油供給部を潤滑油注入器と接続する、潤滑油供給導管及び潤滑油戻りラインと、
潤滑油の流れを測定するための少なくとも1つの流量計と、
を備え、
エンジンは、
潤滑油注入器の少なくとも1つによって潤滑油の注入量及び注入タイミングを制御するための制御装置と、
制御装置が接続されたコンピュータと、
をさらに備え、
各注入器は、
潤滑油供給導管に流体接続されてそこから潤滑油を受け入れるための入口ポートと、
シリンダの中へ延びるノズル開口を備え、注入フェーズにおいて入口ポートからシリンダ内に潤滑油を注入するように構成されたノズルと、
注入サイクル中に注入器内の圧力室からノズル開口への潤滑油の流れを開放及び閉鎖するためにノズルにある調整可能弁と、
を備え、
エンジンの全ての注入器に対して1つの流量計が配置される、シリンダの全ての注入器に対して1つの流量計が配置される、又はエンジンの注入器ごとに1つの流量計が配置され、
制御装置は、測定された実際の流れを実際の量に変換するように構成される。
【0003】
方法は、内部に往復式ピストンを有するシリンダを備えた大型低速運転式2ストロークエンジンの潤滑に関する。
【背景技術】
【0004】
環境保護を見据えて、船舶用エンジンからの排出物削減に関して努力が続けられている。また、これには、特に競争の高まりに起因して、このようなエンジンのための潤滑システムの着実な最適化も含まれる。注目が高まっている経済的側面の1つはオイル消費の削減であり、それは環境保護のためだけでなく、船舶の運航コストの重要な一部だからである。エンジンの耐用寿命がオイル消費量の減少によって損なわれてはならないので、さらなる関心事は、潤滑油量の減少にも拘わらず適切に潤滑することである。従って、潤滑に関して着実な改善が必要とされている。
【0005】
大型低速運転式2ストローク船舶用ディーゼルエンジンの潤滑には、シリンダライナ上への潤滑油の注入又はピストンリングへのオイルクイルの注入を含めて、いくつかの異なるシステムが存在する。
【0006】
船舶用エンジンに関する潤滑油注入器の例は、欧州特許第1767751号に開示されており、そこでは、逆止弁を用いてシリンダライナ内部のノズル流路に対する潤滑油の経路が提供される。逆止弁はノズル流路のすぐ上流側の弁座に往復動式ばね押付けボールを備え、ボールは加圧された潤滑油によって変位する。ボール弁は、例えば1923年の英国特許第214922号に開示されるように、前世紀初頭まで遡る原理に基づく、伝統的な技術手段である。
【0007】
従来の潤滑と比較して、変わりの比較的新しい潤滑方法は、商業的にスワール注入原理(SIP)と呼ばれる。これは、シリンダ内部の掃気スワールに潤滑油の霧状液滴の噴霧を注入することに基づく。螺旋状の上向きのスワールにより、潤滑油がシリンダの上死点(TDC)に向かって引き寄せられ、結果として薄く均一な層としてシリンダ壁に外向きに押し付けられる。これについては、国際公開第2010/149162号及び国際公開第2016/173601号に詳しく説明されている。注入器は、往復動式弁部材、典型的には弁ニードルが内部に設けられた注入器ハウジング備える。ニードル先端などの弁部材は、正確な時間調整に従って、ノズル開口への潤滑油の経路を閉鎖及び開放する。現行のSIPシステムでは、霧状液滴を伴う噴霧は通常35-40barの圧力で達成されるが、これは、シリンダに導入される高密度オイル噴流で機能するシステムに使用される10bar未満の油圧よりもかなり高い。また、一部のタイプのSIP注入器では、潤滑油の高圧が、ノズル開口から離れる方向にばね力に逆らってばね付勢式弁部材を動かすために使用され、高度に加圧されたオイルが霧状液滴としてそこから放出されるようになっている。オイルの放出は弁部材に対するオイルの圧力低下につながり、弁部材はその原点に戻り、高圧の潤滑油が再び潤滑油注入器に供給される次の潤滑油サイクルまでそこに留まるという結果となる。
【0008】
このような大型船舶用エンジンでは、多数の注入器がシリンダの周囲に配置され、各注入器は、各注入器からシリンダ内に潤滑油の噴流又は噴霧を送り出すために、1又は2以上のノズル開口を備える。船舶用エンジンにおけるSIP潤滑油注入器システムの例は、国際公開第2002/35068号、国際公開第2004/038189号、国際公開第2005/124112号、国際公開第2010/149162号、国際公開第2012/126480号、国際公開第2012/126473号、国際公開第2014/048438号、及び国際公開第2016/173601号に開示されている。
【0009】
SIP注入の場合、オイル消費を最小限に抑えるという目標に加えて、正確に制御された時間調整が不可欠である。この理由から、SIPシステムは、注入サイクル中の迅速な反応応答のために特別に設計される。
【0010】
国際公開第2011/110181号は、船舶用エンジンの潤滑システムにおける正確な潤滑油投入の重要性を説明する。投入の正確な時間調整のために、潤滑油注入器の開閉時間を別々に制御する二重弁システムが開示されており、このシステムを短い投入時間に合わせることができる。しかしながら、投入量は投入時間の長さによって規定されるだけでなく、潤滑油の圧力並びに粘度に依存し、ひいては温度に依存するので、投入時間の正確な調整は正確な投入量に対して十分でない。
【0011】
国際公開第02/35068号は、ポンプシステムを含む注入器を開示しており、その場合、注入フェーズで往復式プランジャ部材がノズルに向かって前方に移動し、それによって、注入器内部の所定潤滑油量に圧力上昇を引き起こし、この所定の潤滑油量を、ノズル開口を介してポンプ送給するようにする。このポンプシステムは、制御装置から注入器に供給される高圧オイルによって作動する。制御装置は、高圧オイルを全ての注入器に一元的に供給する。各注入器は、往復式プランジャのストローク長を調整するために制御可能なモータ駆動アクチュエータを有する。このようなシステムは、制御装置からの高圧オイル送出によって注入を一元的に調節するという点で単純であり、その調整作業は、注入のタイミング及び頻度に関して全ての注入器に対して同一である。しかしながら、このような注入器は、各注入器がモータ付き注入量調整調節システムを備えるという点で、比較的複雑で費用がかかる。また、各注入器にモータを設けるという事実は、モータ自体に起因するだけでなく、必要な電気ケーブル配線に対する熱的及び機械的損傷のリスクにも起因して、故障のリスクを増大させる。より堅牢で精密なシステムを提供することが望ましいことになる。
【0012】
HJL製Smartlube4.0システムの導入により、潤滑システムの性能は向上したが、潤滑油の種類、圧力及び温度の変化、並びに潤滑システム内の構成要素の機械的摩耗などの外乱と無関係に、システムが所望量の潤滑油を供給することを自動的に保証するエンジン及び方法の実現が求められている。
【0013】
さらに、1つの注入器が使用停止になる状況で、残りの注入器が自動的に潤滑油の送出量を調節することが望まれる。
【0014】
従来技術で提供される原理は、特にSIP注入などの高圧及び迅速な反応が必要とされる場合に、最適ではない。これは、オイル供給ラインが比較的長く、圧力が管体に加えられて解放される際に微小な膨張及び収縮を受ける可能性があり、これがタイミング及び注入量の不確定性をもたらすことが一因である。
【0015】
従って、所望の潤滑油量のより正確な送出を自動的に与えるシステムを提供することが望ましい。
【0016】
前提部として説明され、エンジン及び方法に関する独立請求項の前提部分に規定されるエンジン及び方法は、上記の国際公開第2021/126473号から公知である。
【0017】
本文書は、特定の動作モードの場合に注入される潤滑油量に関する複数の所望値を格納する制御装置又はデータベースを開示しない。本文書は、異なる注入フェーズで注入された潤滑油量をマッピングすることによって注入器を較正するように構成された制御装置についても教示せず、また、その結果を用いて、注入時に所望の潤滑油量を得るための注入器の注入フェーズを決定できることも教示しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許第1767751号
【特許文献2】英国特許第214922号
【特許文献3】国際公開第2010/149162号
【特許文献4】国際公開第2016/173601号
【特許文献5】国際公開第2002/35068号
【特許文献6】国際公開第2004/038189号
【特許文献7】国際公開第2005/124112号
【特許文献8】国際公開第2010/149162号
【特許文献9】国際公開第2012/126480号
【特許文献10】国際公開第2012/126473号
【特許文献11】国際公開第2014/048438号
【特許文献12】国際公開第2016/173601号
【特許文献13】国際公開第2011/110181号
【特許文献14】国際公開第2021/126473号
【特許文献15】国際公開第2019/114905号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Rathesan Ravendran、外4名、「2ストローク船舶用エンジンで使用される潤滑オイルのレオロジー挙動」、産業用潤滑及びトライボロジ、2017年、第69巻、第5号、750-753頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、従来技術のシステムを改良して、所望量の潤滑油のより正確な送出を自動的に提供する形で所望の効果を得るようにすることである。
【0021】
特に、大型燃焼エンジン、例えば大型低速運転式2ストロークエンジンにおいて、SIP注入器による潤滑、又は従来の逆止弁を備えたコモンレールシステムによる潤滑を改善することが目的である。しかしながら、本発明による方法は、大型4ストローク燃焼エンジン、例えば船舶用エンジン又は発電所用燃焼エンジンにも使用することができる。これらの目的は、以下で明らかにするように、複数の注入器を備えた、大型燃焼エンジン、例えば低速運転式2ストロークエンジン、そのようなエンジンを潤滑する方法、及びその使用によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、注入器が、注入器につき1つの潤滑油供給導管を介して潤滑装置から加圧潤滑油を受け取る潤滑原理で使用することができる。
【0023】
また、本発明は、複数の潤滑油供給導管を単一の共通供給ラインに置き換えた潤滑原理で使用することもできる。その場合、配管接続部は、「コモンレール」システムによって注入器に潤滑油を供給し、ここでは、エンジンシリンダの全ての注入器、又は単一のエンジンシリンダのための注入器のサブグループは、潤滑油を単一の潤滑油供給ラインを介して共通して及び同時に受け取る。
【0024】
随意的に、注入器からの潤滑油逆流のための戻りラインが設けられる。
【0025】
エンジンは、以下の点で特有である、すなわち
エンジンが、特定の動作モードに関して、典型的には供給量として規定される、注入される潤滑油量に関する複数の所望値をさらに備え、これらの所望値は制御装置内のデータベースに格納される点、
制御装置が、特定の動作モードに関して、注入される潤滑油量に関する所望値を得るために、計算された実際の量を所望値と比較し、注入器を制御してその設定を調整するように構成される点、及び、
制御装置が、注入時に所望の潤滑油量を得るために、異なる注入フェーズで注入された潤滑油量を測定し、その結果をマッピングし、その結果を用いて注入器の注入フェーズを決定することによって、注入器を較正するように構成される点、
である。
【0026】
本発明による方法は、内部に往復式ピストンを有するシリンダと、システムとを備えた大型低速運転式2ストロークエンジンを潤滑する方法であって、本システムは、
潤滑油供給部と、
注入フェーズ中にシリンダ内へシリンダの周囲長の様々な位置で潤滑油を注入するためにシリンダの周囲長に沿って分散配置された複数の潤滑油注入器と、
潤滑油供給部を潤滑油注入器と接続する、潤滑油供給導管及び潤滑油戻りラインと、
潤滑油の流れを測定するための少なくとも1つの流量計と、
を備え、
エンジンは、
潤滑油注入器の少なくとも1つによって潤滑油の注入量及びタイミングを制御するための制御装置と、
制御装置が接続されたコンピュータと、
をさらに備え
各潤滑油注入器は、
潤滑油供給導管に流体接続されてそこから潤滑油を受け入れるための入口ポートと、
シリンダの中へ延びるノズル開口を備え、注入フェーズにおいて入口ポートからシリンダ内に潤滑油を注入するように構成されたノズルと、
注入サイクル中に注入器内の圧力室からノズル開口への潤滑油の流れを開放及び閉鎖するためにノズルにある調整可能弁と、
を備え、
本方法は、周期的な動作において、
注入フェーズにおいて、注入器の入口ポートに圧力液体を供給し、調整可能弁に力を加え、その力によって注入器内の弁本体を動かし、圧力が所定の上限を超えて上昇すると、ノズル開口を介して所定の潤滑油量をシリンダ内にポンプ送給するステップと、
注入フェーズ後に、注入器から圧力液体を排出することによって弁本体を後退させるステップと、
後退させる間に、次の注入フェーズのために注入器内の圧力室に潤滑油を補充するステップと、
エンジンの全ての注入器に対して1つの流量計、シリンダの全ての注入器に対して1つの流量計、又はエンジンの注入器ごとに1つの流量計を提供するステップと、
少なくとも1つの流量計で潤滑油の流れを測定するステップと、
制御装置内で測定された実際の流れを実際の量に変換するステップと、
を含み、
本方法は、
特定の動作モードに関して、典型的には供給量として規定される、注入される潤滑油量に関する複数の所望値をエンジンに提供するステップであって、これらの所望値は制御装置内のデータベースに格納される、ステップと、
計算された実際の量を所望値と比較するステップと、
特定の動作モードに関して、注入される潤滑油量に関する所望値に実際の量を調節するために、注入器を制御してその設定を調整するステップと、
10ミリ秒と10分との間で変化する異なった時間間隔で連続的に潤滑油量の調節を実行するステップであって、連続的な調節は、異なったサンプル間隔での潤滑油量の調整を含み、サンプル間隔は、注入ごとに1回の調節から、100回の先行する注入に基づく調節まで変化するステップと、又は
1分と30日との間、好ましくは1時間と30日との間、より好ましくは1日と30日との間の時間間隔で不連続的に潤滑油量の調整を実行するステップであって、不連続な調整は、注入器の較正を含み、その較正は、注入時に所望の潤滑油量を得るために、異なる注入フェーズで注入された潤滑油量を測定し、その結果をマッピングし、その結果を用いて注入器の注入フェーズを決定することによって実行されるステップと、
を含む。
【0027】
本発明を完全に理解するために、ポンプシステムから複数の注入器を備えたシリンダまでの相当な長さの潤滑油導管が、システムの不正確さをもたらすということが分かっていることが指摘される。長い導管は、高圧の潤滑油に曝されると僅かに膨張及び収縮する傾向があり、注入される潤滑油のタイミング及び量に僅かな不確定性をもたらす。さらに、潤滑油は、注入サイクル中に微小な圧縮及び膨張を受け、これはその作用を増大させる。この作用は小さいが、注入に関して数ミリ秒範囲の誤差をもたらし、これは、僅か10ミリ秒以下ほどに短い場合もある短い注入時間と比較してかなりのものとなる。このような不正確なタイミングの作用は、潤滑油の圧力が高くて注入時間が短いために、潤滑システムにかなりの影響を及ぼす。また、注入量は、通常、注入サイクルで加圧オイルがノズルに供給される時間の長さによって調節され、その場合、正確なタイミングに影響を与える不確定要因は、解消されないにしても最小限に抑える必要があることに留意されたい。注入に関する改善は、選択弁システムが注入器の内部にあり、選択弁システムからノズルまでの距離が短くなるので、本明細書に記載する注入器によって達成される。
【0028】
本発明では、測定された実際の流れと、注入された潤滑油量の計算とに基づいて、注入される潤滑油量の制御が実行される。潤滑油量の計算に基づいて、制御装置は、実際の潤滑油量が所望量と異なる場合に注入器の設定を可能にする。これにより、動作パラメータの変更によって注入時に不正確な潤滑油量が与えられることになるリスクを排除することができる。
【0029】
制御装置は、調整可能弁を制御し、プランジャの形態の弁部材のストローク長を調節し、これにより、潤滑油量は、ストローク長調整機構によって注入フェーズの間で可変的に調整可能である。プランジャが最大後退可能位置まで完全には後退していない場合に、調整が達成される。プランジャのストロークは常に同じ位置、例えば同じ最前方位置にあるので、後退後のプランジャの後退位置を変えることにより、ストローク長が調節される。
【0030】
制御装置は、注入器に組み込むこと、又は、有線又は無線で注入器及び流量計に接続させることができる。
【0031】
制御装置は、使用する潤滑油の種類を制御するように構成することもできる。
【0032】
本エンジンは、制御装置が、注入時に所望の潤滑油量を得るために、異なる注入フェーズで注入された潤滑油量を測定し、その結果をマッピングし、その結果を用いて注入器の注入フェーズを決定することによって、注入器を較正するように構成されるという点で特有である。
【0033】
これにより、注入器を較正することが可能である。較正はエンジンの運転中に実行することができる。代わりに、較正はエンジンの運転停止中に実行することができる。注入器の間のずれが低減されるため、より正確な注入が得られる。
【0034】
1つの実施形態では、エンジンの全ての注入器に対して流量計を配置することができる。別の実施形態では、1つのシリンダの全ての注入器に対して1つの流量計を配置することができる。また、さらに別の実施形態では、エンジンの注入器ごとに1つの流量計を配置することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、プランジャの最大後退可能位置は、ノズル開口から最大距離にある最後方可能位置であるが、プランジャを最後方可能位置から所定の距離に保持することも可能である。その距離を調節することにより、ストローク長が最大後退可能位置に対して減少するので、次の注入の注入量が調節される。その効果は、国際公開第02/35068号のねじ調整式エンドストップと同様であるが、ストローク長調整機構を一元的に注入器から遠く離れて設けることができ、これは国際公開第02/35068号の注入器とは対照的である。
【0036】
本発明による方法及びエンジンは、調整可能弁を調整することにより、所望の潤滑油量の正確な送出を自動的に提供する。
【0037】
本発明の原理によれば、注入される潤滑油量を自動的かつ連続的に調節することが可能である。さらに、この原理は注入器の較正も実現し、それによって、各注入器で注入される量のずれが大幅に低減される。
【0038】
本発明によるエンジンは、油圧駆動式入口弁システムを備えることができ、各注入器は、
潤滑油供給導管に流体接続されてそこから潤滑油を受け入れる入口ポートと、
シリンダの中へ延びるノズル開口を備え、注入フェーズにおいて入口ポートからシリンダ内に潤滑油を注入するように構成されたノズルと、
注入サイクル中にノズル開口への潤滑油の流れを開放及び閉鎖するためにノズルにある出口弁システムと、
注入フェーズの前に入口ポートから所定量の潤滑油を受け入れて蓄積するために、潤滑油入口ポートと出口弁システムの間にある注入射器内部の前室と、
を備え、
出口弁システムは、注入フェーズ中に前室及び出口弁システムにおいて圧力が所定の圧力上限を超えて上昇するとすぐに前室から出口弁システムを介してノズル開口へ潤滑油を流すために開くように構成されると共に注入フェーズ後に出口弁システムを閉じるように構成されており、
各注入器は、さらに、
圧力制御導管に流体接続されて注入フェーズでそこから圧力液体を受け入れる圧力制御ポートと、
圧力制御ポートと連通して、注入フェーズにおいて圧力制御ポートから圧力液体を周期的に受け入れ、注入フェーズの後にそこから排出する圧力室と、
圧力室と接触し、アクチュエータ-プランジャばねからのばね荷重により予応力が加えられる往復式油圧駆動アクチュエータ-プランジャであって、注入フェーズにおいて圧力室内の圧力液体によって駆動される動作のために構成され、注入フェーズにおけるその動作によって前室内の潤滑油に所定の圧力上限を超える圧力上昇をもたらすように構成された往復式油圧駆動アクチュエータ-プランジャと、
を備え、
エンジンは、往復式油圧駆動アクチュエータ-プランジャのストローク長を可変的に調整するためのストローク長調整機構をさらに備える。このような実施形態では、ストローク長調整機構は、注入フェーズの間に圧力室から排出される圧力液体の量を可変的に調整するように構成されている。
【0039】
可変調整能力の効果は、国際公開第02/35068号のねじ調整式エンドストップと同様であるが、ストローク長調整機構を一元的に注入器から遠く離れて設けることができ、これは国際公開第02/35068号の注入器とは対照的である。
【0040】
いくつかの実用的な実施形態では、ストローク長調整機構は、注入フェーズの間に圧力室内のアイドル圧力を可変的に調節するための圧力調節器を備え、アイドル圧力は、アクチュエータ-プランジャに対するアクチュエータ-プランジャばねからのばね荷重を部分的にのみ打ち消し、それによってアクチュエータ-プランジャの後退位置を可変的に調整するために、所定上限よりも低い。
【0041】
出口弁システムは、シリンダからの背圧を遮断し、出口弁が開いていない限り、潤滑油がシリンダに流入するのを防止する。加えて、出口弁システムは、注入後の短い閉鎖時間を助け、注入される潤滑油のタイミング及び量の精度を高める。
【0042】
油圧駆動式入口弁システムを備えるエンジンは、注入フェーズの間に圧力室(27)から排出される圧力液体の量を可変的に調整するように構成されたストローク長調整機構を含む方法に従って動作することができ、この方法は、注入フェーズ後に圧力室(27)から排出される圧力液体の量を調整することによって注入サイクルの間にストローク長を調整することを含む。
【0043】
このエンジン及び方法は、国際公開第2019/114905号から公知の油圧駆動式入口弁システムを備える。しかしながら、このエンジンは、流量計35を備える点で異なる。流量計は、潤滑油給送導管9内の潤滑油の流れを測定するために使用されるものとする。
【0044】
また、本発明によるエンジンは、油圧駆動式入口弁システムを備えることができ、各注入器は
潤滑油給送導管から潤滑油を受け入れるための潤滑油入口ポートと、
シリンダの中へ延びるノズル開口を備え、入口ポートからシリンダ内に潤滑油を注入するノズルと、
注入サイクル中にノズル開口への潤滑油の流れを開放及び閉鎖するためにノズルにある出口弁システムと、
を備え、
出口弁システムは、注入フェーズ中に出口弁システムにおいて圧力が所定の圧力上限を超えて上昇するとすぐにノズル開口へ潤滑油を流すために開くように、及び注入フェーズ後に出口弁システムを閉じるように構成されている。このような実施形態では、各注入器は、制御装置に電気的に接続され、潤滑油入口ポートとノズルとの間に配置され、制御装置から受け取った電気制御信号に応じて潤滑油入口ポートからノズルへの潤滑油の流れを開放又は閉鎖することにより、ノズル開口を通って分配される潤滑油を調節する、電気駆動式入口弁システムを備えることができ、入口弁システムは、ノズルの上流側でノズルから遠く離れて、及び出口弁システムの上流側で出口弁システムから遠く離れて配置されている。
【0045】
このタイプの特定実施形態によれば、入口弁システムは、入口弁ばねによって入口弁座に向かって予応力が加えられ、入口弁ばねからの力に逆らって入口弁座から入口弁部材が変位する際に潤滑油入口から出口弁システムへ潤滑油を通過させるように配置された、入口弁部材を有する入口逆止弁を備えることができ、入口弁システムは、潤滑油注入中に入口弁座から入口弁部材を変位させるための電気駆動式剛性変位部材をさらに備える。
【0046】
注入器による潤滑油放出の速度及び量に関してより良い制御を提供するために、注入器の各々は、潤滑油入口ポートとノズルとの間に配置され、制御装置に電気的に接続され、制御装置から受け取った電気制御信号に応じて潤滑油入口ポートからノズルへの潤滑油の流れを開放又は閉鎖することにより、ノズル開口を通って分配される潤滑油を調節するための電気駆動式入口弁システムを備える。入口弁システムは、ノズルの上流側でノズルから遠く離れて、及び出口弁システムの上流側で出口弁システムから遠く離れて配置されている。
【0047】
注入器の入口弁システムは、入口弁システムが注入フェーズのために開いたままとなる時間までに注入のための潤滑油量を投入する。時間は、制御装置によって決定される。
【0048】
電気駆動式入口弁システムを備えたエンジンは、注入フェーズを開始するために制御装置から電気駆動式入口弁システムに電気制御信号を送るステップと、その結果として、潤滑油給送導管から潤滑油入口ポートを通り、入口弁システムを通り、入口弁システムを出口弁システムと流体接続させる導管の中への潤滑油の流れを引き起こすステップと、導管内への潤滑油の流れによって導管内の圧力を上昇させるステップと、導管からノズル開口へ潤滑油を流すために圧力上昇によって出口弁システムを開放させるステップと、ノズル開口を通してシリンダ内に潤滑油を注入するステップと、注入フェーズの終わりに、制御装置から入口弁システムへの電気制御信号を変更するステップと、潤滑油入口ポートから導管への潤滑油供給のために入口弁システムを閉鎖させるステップと、を含む方法に従って動作させることができる。
【0049】
このエンジン及び方法は、国際公開第2019/114905号から公知の電気駆動式入口弁システムを備える。しかしながら、このエンジンは、流量計を備えている点で異なる。流量計は、潤滑油給送導管内の潤滑油の流れを測定するために使用されるものとする。
【0050】
さらなる実施形態によれば、このエンジンは、潤滑油システムが機械駆動式システム、油圧駆動式システム及びコモンレールシステムから選択されるという点で特有である。
【0051】
本発明による原理は適応性があり、種々の潤滑システムで使用することができる。
【0052】
さらなる実施形態によれば、このエンジンは、流量計が注入器に接続された潤滑油供給導管に設けられる点で特有である。
【0053】
これにより、注入器内への実際の流れが測定される。流量計は、単一注入器の入口ポートの直前に配置することができる、又は、代替的に、複数の注入器、例えば、単一シリンダの複数の注入器のための共通の供給導管に配置することができる。
【0054】
さらなる実施形態によれば、このエンジンは、エンジンの注入器ごとに1つの流量計が配置される状況において、流量計が注入器に組み込まれる点で特有である。
【0055】
これにより小型のシステムが得られる
【0056】
さらなる実施形態によれば、このエンジンは、制御装置が、注入時に所望の潤滑油量を得るために、異なる注入フェーズで注入された潤滑油量を測定し、その結果をマッピングし、その結果を用いて注入器の注入フェーズを決定することによって、注入器を較正するように構成されるという点で特有である。
【0057】
これにより、注入器を較正することができる。エンジンの運転中に較正を実行することができる。代わりに、エンジンの運転停止中に較正を実行することができる。注入器の間のずれが低減されるため、より正確な注入が得られる。
【0058】
本発明による原理により、注入回数に基づいて時間間隔又はサンプル間隔のいずれかで調節を実行することができる。「連続的に」という用語は、調節の間に休止することなく、調節が一連の調節として所与の頻度で実行されることを意味する。代わりに、調節は、ユーザが決定する間隔で実行される。
【0059】
本方法が、時間間隔で不連続的に実行される潤滑油量の調整を含む場合、時間間隔は短くすることができ、その下限は、僅か1分とすることができる。これにより、調整は多かれ少なかれ連続的な調整として行われることになる。いくつかの実施形態では、本方法は、注入時に所望の潤滑油量を得るために、異なる注入フェーズで注入された潤滑油量を測定し、その結果をマッピングし、その結果を用いて注入器の注入フェーズを決定することによって実行される注入器の較正を含む不連続的な調整を含む。
【0060】
ユーザが決定した時間間隔で注入器を較正することが可能である。上述のように、較正はエンジンの運転中に実行することができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、本方法は、注入器の動作スペクトルに関して実行される注入器の較正を含み、動作スペクトルは、典型的に0と100msとの間である。
【0062】
いくつかの実施形態では、本方法は、自動検査プログラムを実施し、シリンダの注入器が所望の及び十分な潤滑油量を供給するように制御するステップを含む。
【0063】
試験が十分な潤滑油量の要件を示す場合、制御装置の制御下で自動的に較正を実行すること又は代替的に手動で較正を実行することができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、本方法は、不正確な潤滑油量が供給される状況において、特に潤滑油量が不十分な場合に、注入器の較正が手動で又は自動的に実行されることを含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、本方法は、検査プログラムが較正を補正するステップを伴うことを含む。
【0066】
検査プログラムは、較正パラメータを修正するルーチンを含むことができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、本方法は、潤滑油量の調節が、フィードバック制御/調節、例えばPID調節又はより高度なモデルベースの調節によって制御されることを含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、本方法は、制御装置内のデータベースに調節値を格納するステップを含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、本方法は、制御装置内のデータベースに注入器ごとの較正済みタイミング値を格納するステップを含む。
【0070】
本発明による方法及びエンジンは、25barから100barの範囲の潤滑油圧力で、リングパックへの潤滑油注入、又は大型船舶用エンジン又は発電所用燃焼エンジンのシリンダ内へのSIP注入に使用するのに特に適している。本方法は、SIP注入とリングパックへの注入を組み合わせた潤滑にも適している。
【0071】
定義
用語「調節する」とは、エンジンの運転中に潤滑油量を変更して所望の量に対応するようにする状況を指す。
【0072】
用語「調整する」とは、注入器の較正時に潤滑油量を変更する状況を指す。
【0073】
用語「注入器」は、潤滑油入口と、潤滑油出口としてノズル開口を備えた1又は2以上の注入ノズルとを有するハウジングを備え、ノズル開口への潤滑油の経路を開放及び閉鎖する、注入弁システムに対して使用される。注入器は、シリンダ壁を貫通してシリンダ内に延びる単一のノズルを有するが、注入器が適切に取り付けられる場合、ノズル自体は、随意的に複数の開口を有する。例えば、複数の開口を備えたノズルは、国際公開2012/126480号に開示されている。
【0074】
用語「注入フェーズ」は、注入器によって潤滑油がシリンダ内に注入される時間に関して使用される。
【0075】
用語「アイドルフェーズ」は、注入フェーズの間の時間に関して使用される。
【0076】
用語「アイドル状態」は、アイドルフェーズにおける構成要素の状態に関して使用される。
【0077】
用語「アイドルフェーズ位置又は向き」は、アイドルフェーズ中にアイドル状態にある時の可動構成要素の位置又は向きに関して使用され、これは、注入フェーズ位置と対照的である。
【0078】
用語「注入サイクル」は、注入シーケンスを開始して次の注入シーケンスが始まるまでにかかる時間に関して使用される。例えば、注入シーケンスは単一回の注入で構成され、その場合、注入サイクルは、注入フェーズの開始から次の注入フェーズの開始まで測定される。代わりに、注入シーケンスは、複数回の注入、例えば、ピストンがTDCに向かう途中で注入器を通過する前にピストン上方での複数回の注入で構成され、例えば、1つの潤滑油による第1の注入の後に、別の潤滑油、場合によりさらなる潤滑油及び/又は添加物という別の注入が続く。このような二重又は多重の注入により、ピストンがTDCに到達する前にシリンダ内でオイルが混合される。例えば、エンジンの1回転ごとに1回の注入サイクルが存在する。しかしながら、複数回のエンジン回転の後に1回の注入サイクルを行うことも可能である。
【0079】
注入の「タイミング」という用語は、注入器による注入フェーズの開始を、シリンダ内部のピストンの特定位置に関連して調整することに関して使用される。
【0080】
注入の「頻度」という用語は、エンジンの1回転当たりの注入器による繰り返し注入の回数に関して使用される。頻度が1の場合、1回転当たり1回の注入がある。頻度が1/2の場合、2回転当たり1回の注入がある。この用語法は、上述の従来技術に一致している。
【0081】
用語「加圧潤滑油」は、シリンダ内に噴流又は噴霧として注入できるほど高い圧力で供給される潤滑油に関して使用される。これはピストンリング間のクイルによるオイル注入とは対照的である。圧力は注入の目的及び形態に依存するが、通常は10barを超える。SIP注入の場合、圧力は一般的にもっと高く、例えば25barを超える。
【0082】
用語「流量計」は、例えば圧力差、粘度、温度、量など、使用される方法とは無関係に、流れを測定できる構成要素に関して使用される。
【0083】
実用的な実施形態
大型エンジン、例えば低速運転式2ストロークエンジン、随意的に船舶用エンジン又は発電装置用エンジンは、内部に往復式ピストンを備えたシリンダと、シリンダ壁に固定され、シリンダ壁を貫通して延びる複数の潤滑油注入器と、を備える。注入器は、シリンダの周囲長に沿って分散配置され、注入フェーズ中にその周囲長の様々な位置でシリンダ内へ潤滑油を注入するように構成される。例えば、低速運転式2ストロークエンジンなどの大型エンジンは、船舶用エンジン又は発電所の大型エンジンである。典型的には、当該エンジンはディーゼル燃料又はガス燃料を燃焼させる。
【0084】
また、エンジンは、一般的に潤滑油供給ポンプで加圧された加圧潤滑油を有する潤滑油供給部を備える。随意的に、エンジンは、2以上の潤滑油供給部と、対応して2種類以上の潤滑油と、対応して2以上の潤滑油供給ポンプとを備える。
【0085】
複数の注入器の各々は、対応する給送導管を介して潤滑油供給部への各々の潤滑油入口と接続される。各潤滑油供給部は、潜在的な圧力源、通常は潤滑油ポンプを含み、これは対応する潤滑油の圧力を適切なレベルまで上昇させる。記載するシステムの場合、注入器の潤滑油入口で一定の潤滑油圧力を提供すれば十分である。
【0086】
注入器は、注入する潤滑油の種類に合わせて構成される。入口は、潤滑油だけでなく潜在的な添加物も供給し追加するために使用することができる。例えば、注入器は、随意的に複数の入口を有し、そのうちの1つは、潤滑オイルなどの潤滑油に使用され、1つは添加物に使用される。
【0087】
エンジンは、制御装置をさらに備える。制御装置は、注入器による潤滑油の注入量及びタイミングを制御するように構成されている。随意的に、注入頻度も制御装置によって制御される。正確な注入のためには、制御装置がコンピュータに電子的に接続される、又はコンピュータを備えると有利であり、その場合、コンピュータがエンジンの実際の状態及び動作に関するパラメータを監視する。このようなパラメータは、最適化された注入の制御に役立つ。随意的に、制御装置は、既存のエンジンをアップグレードするための付加システムとして提供される。さらなる有利な選択肢は、制御装置のヒューマンマシンインタフェース(HMI)への接続であり、ヒューマンマシンインタフェースは、監視用のディスプレイと、注入プロファイル及び随意的にエンジンの状態に関するパラメータの調整及び/又はプログラミング用の入力パネルとを備える。電子データ接続は、随意的に有線又は無線、又はそれらの組み合わせである。
【0088】
具体的な実施形態では、注入器は、潤滑油給送導管から潤滑油を受け入れてシリンダ内へ注入するための潤滑油入口を備える。注入器の潤滑油入口は、給送導管を介して潤滑油供給部に接続される。
【0089】
注入器は、潤滑油入口から少なくとも1つのノズルを介してシリンダ内に至る潤滑油の流れのために、潤滑油入口から少なくとも1つのノズルまでの潤滑油流路を有する。
【0090】
注入器は1又は2以上のノズルを備え、例えば2つのノズルを備える。各ノズルはノズル開口を有し、注入フェーズで潤滑油を注入するためにシリンダ内に延びている。随意的に、ノズルは2以上の開口を有する。例えば、複数の開口を備えるノズルは、国際公開2012/126480号に開示される。いくつかの実施形態では、注入器は、単一のノズル開口を有する単一のノズルを備える。
【0091】
詳細には、各注入器は潤滑油流路内に内部アクチュエータ駆動式弁システムを備え、この弁システムは、受け取った注入フェーズ信号に応じて、潤滑油注入のないアイドル状態から、注入フェーズで少なくとも1つのノズルを介してシリンダ内に潤滑油を注入する注入状態へ選択的に切り替えるように構成されている。
【0092】
各注入器は、弁システムを駆動するためのアクチュエータを備える。アクチュエータは、制御装置に機能的に接続されており、制御装置によって作動して、弁システムを選択的に駆動し、制御装置による制御下でアクチュエータ作動の結果として潤滑油の注入をもたらすように構成されている。弁システムは、制御装置による制御下で、注入に使用する量及びタイミング、並びに注入シーケンスを選択するために使用される。
【0093】
運転中、アクチュエータは制御装置によって作動され、潤滑油の注入フェーズを開始する。その結果として、弁システムは開くようにされて、流路を通って潤滑油を流し、シリンダ内に注入する。注入フェーズの終わりに、アクチュエータは、弁システムを閉鎖して潤滑油の供給を停止するようにされる。
【0094】
圧力制御の実施例
特定の実施形態では、エンジンは、第1の圧力の潤滑油を収容する潤滑油給送導管と、第1の圧力より高圧の圧力液体を収容する圧力制御導管とを備える。このような事例では、注入器は内部油圧駆動式ポンプシステムを備え、注入器ハウジング内部のポンプシステムを駆動するために圧力液体が使用され、これによって、潤滑油が注入器内で加圧され、そこから放出される。注入器は、シリンダ内に注入するために、潤滑油給送導管に流体接続されてそこから潤滑油を受け入れる潤滑油入口ポートを備える。また、注入器は、圧力制御導管に流体接続されて注入フェーズにおいてそこから圧力液体を受け入れる圧力制御ポートを備える。
【0095】
注入器は、注入フェーズの前に入口ポートから所定量の潤滑油を受け入れて蓄積するために、潤滑油入口ポートと出口弁システムとの間の注入器内部に前室を備える。
【0096】
注入器内の圧力室は、圧力制御ポートと連通して、注入フェーズにおいて圧力制御ポートから圧力液体を受け入れる。圧力室内の圧力液体は、注入器内のポンプシステムを駆動する。ポンプシステムは、圧力室と接触して、アクチュエータ-プランジャばねからのばね荷重により予応力が加えられる往復式油圧駆動アクチュエータ-プランジャを備え、往復式油圧駆動アクチュエータ-プランジャは、注入フェーズにおいて圧力室内の圧力液体によって、例えばノズルに向かって駆動されるように構成されており、これによって、前室内の潤滑油に所定上限を超える圧力上昇を引き起こし、逆止弁及びノズル開口を介してこの所定の潤滑油量をシリンダ内へポンプ送給する。
【0097】
注入
随意的に、注入フェーズは複数回の注入、例えば、ピストンがTDCに向かう途中で注入器を通過する前にピストン上方での複数回の注入で構成され、例えば、潤滑油による第1の注入の後に別の潤滑油、場合によりさらなる潤滑油及び/又は添加物という別の注入が続く。このような二重又は多重の注入により、特にSIP動作の場合に、ピストンがTDCに到達する前にシリンダ内でオイルが混合される。制御装置によって制御される、注入する潤滑油、その量及びタイミングの様々な選択により、多様な注入シーケンスが可能となり、例えば以下のうちの少なくとも2つの組み合わせが可能となる。
-ピストンの下での1又は2以上の注入、
-ピストンの上での1又は2以上の注入、
-単一の注入サイクル中にピストンの上方での1又は2以上の注入。
【0098】
様々な注入に関して、場合により添加物を含めて、潤滑油(複数可)に関する選択も変えることができる。
【0099】
例えば、アクチュエータは電気制御式アクチュエータであり、注入のタイミングを示す注入フェーズ信号を制御装置から受け取るために、電気接続で制御装置に電気的に接続される。注入フェーズに関して、潤滑油の注入フェーズを開始するために、電気制御信号は、制御装置から各注入器に送られる。その結果として、弁システムは開き、流路を通して潤滑油を流してシリンダ内に注入する。注入フェーズの終わりに、制御装置から注入器への電気制御信号が変更され、潤滑油を注入するために弁システムが閉られ、アイドル状態に戻る。
【0100】
随意的に、アクチュエータは、静止ソレノイド部と可動ソレノイド部とを有する電気ソレノイド構成を備える。弁システムは、ソレノイドの電気励磁時にアクチュエータで駆動される可動ソレノイド部に結合され、ソレノイドは、制御装置からの注入フェーズ信号で励起されるように構成されている。
【0101】
用語「ソレノイドコイル」は、「少なくとも1つのソレノイドコイル」として理解する必要があり、それは、2以上のコイル、例えば2又は3のコイルを使用することが可能であり、場合によって有利であるからである。
【0102】
制御装置からの「信号」という用語は、ここでは制御装置から注入器に流れる電流に関して使用される。いくつかの実施形態では、電流が十分に強い場合、信号自体を用いてアクチュエータ、例えば電気機械式アクチュエータを駆動することができる。例えば、電気機械式アクチュエータの駆動方向を切り替えるには、電流の方向を反対方向に切り替える。しかしながら、代わりに、注入器は、制御装置からの信号がアクチュエータを駆動するのに十分な強さの電流を流すために開く電気スイッチを備えることができる。後者の場合、制御装置から電気スイッチまでの信号線は、非常に細い配線で実現することができる。代わりに、用語「信号」は無線信号に対しても使用される。
【0103】
代わりに、アクチュエータは油圧式又は空気圧式のアクチュエータである。注入器内のこのような油圧式又は空気圧式アクチュエータは、随意的に電気的にも制御される。例えば、制御装置から注入器への電気信号により、注入器の電気機械式アクチュエータ弁が開き、アクチュエータ内への油圧又は空気圧の流れが生じ、弁システムが油圧又は空気圧で駆動される。随意的に、制御装置から注入器への電気信号によって電気機械式アクチュエータ弁が開き、アクチュエータ内への油圧又は空気圧の流れが生じ、アクチュエータ自体が駆動され、結果として、機械的な結合によって弁システムが駆動される。
【0104】
いくつかの実施形態では、弁システムは、潤滑油の供給及びその注入のために、複数の注入器の中から一度に1つの注入器だけを選択するように構成されている。いくつかの実施形態では、代替的に又は追加的に、弁システムは、潤滑油の供給及びその注入のために複数の注入器の中から一度に2以上の注入器を選択して、複数の潤滑油又は添加物と組み合わせた潤滑油を同時に注入するように構成されている。
【0105】
いくつかの実施形態では、注入器は2以上のノズルを有し、注入器の別々のノズルを通して複数の潤滑油及び添加物をシリンダ内に注入することができる。他の実施形態では、複数の潤滑油及び添加物は、単一のノズルを通してシリンダ内に注入され、場合によってはノズル開口から放出される前に注入器内で混合される。
【0106】
実用的な実施形態では、注入器は、基部と、剛性で随意的に円筒形の流動室とを備え、この流動室は、基部がシリンダ壁に固定される場合にノズルをシリンダ壁の内側に固定するために、基部をノズルと剛性結合する。基部は、ノズルに対して流動室の反対側の端部に設けられるため、通常はシリンダ壁の外面又は外側に位置する。例えば、注入器は、基部にシリンダ外壁上に取り付けるためのフランジを備える。代わりに、注入器をシリンダ壁に取り付けるため、注入器は、流動室の周りに設けられたフランジを備える。例えば、フランジはシリンダ壁にボルト留めされる。
【0107】
有利には、基部は、第1及び第2の入口、並びに場合によりさらなる入口を備える。流動室は中空であり、シリンダ内に潤滑油を注入するために、潤滑油入口から流動室を通ってノズルまで潤滑油が流れる流路を含む。随意的に、弁部材は、流動室又は基部内に配置される。
【0108】
例えば、注入器がシリンダ壁に取り付けられる場合、アクチュエータはシリンダ壁の外側に設けられる。随意的に、アクチュエータは基部に固定される。
【0109】
実際には、注入フェーズ信号は、アクチュエータが受け取り、アクチュエータに、注入フェーズ信号に応じて弁部材を注入フェーズ位置又は向きに移動するようにさせ、これに対応して、シリンダ内に潤滑油を注入するための流路が開く。
【0110】
例えば、アクチュエータは、アクチュエータ延長部で弁部材を駆動するために、アクチュエータ延長部によって選択弁部材に機械的に結合される。これは、弁部材が流動室内に、従ってシリンダ壁の内側に位置し、一方でアクチュエータがシリンダ壁の外側に位置する場合に有利である。この実施形態では、その動作は、アクチュエータ延長部を用いてアクチュエータで弁部材を移動させるステップを含む。
【0111】
出口弁システム
随意的に、各注入器は、ノズルにおいて、注入フェーズ中に圧力が所定上限を超えて上昇するとすぐにノズル開口へ潤滑油を流すために開くように、及び注入フェーズ後に圧力が下がると出口弁システムを閉じるように構成された出口弁システムを備える。出口弁システムは、シリンダからの背圧を遮断し、注入フェーズの間のアイドルフェーズで潤滑油がシリンダに流入するのを防止する。加えて、出口弁システムは、注入後の短い閉鎖時間を助け、注入される潤滑油のタイミング及び量の精度を高める。
【0112】
これらの実施形態では、注入器は、潤滑油が潤滑油入口から弁システム及び出口弁システムを通ってノズル開口で注入器から外へ流れるための、潤滑油入口から弁システムを通り出口弁システムへの潤滑油流路を備える。弁システムは、注入器の一部としてノズルの上流側に配置され、随意的にノズルから離間する。随意的に、弁システムは、出口弁システムの上流側に配置され、出口弁システムから離間する。
【0113】
例えば、出口弁システムは出口逆止弁を備える。出口逆止弁では、例えばボール、楕円体、平板、又は円筒などの出口弁部材には、出口弁ばねによって出口弁座に向かって予圧が加えられる。出口弁システムの上流側の流動室内に加圧された潤滑油が供給されるとすぐに、予応力を加えたばねの力は潤滑油の圧力によって打ち消され、その圧力がばね力よりも高くなった場合、出口弁部材はその出口弁座から変位し、ノズル開口を通ってシリンダ内に潤滑油を注入するために逆止出口弁が開く。例えば、出口弁ばねは、ノズル開口から離れる方向で弁部材に作用するが、逆の動きも可能である。
【0114】
例えば、エンジンを潤滑するために、本方法は、制御装置から注入器に電気制御信号を送るステップと、その制御信号によって、潤滑油を潤滑油給送導管から潤滑油入口を通り、弁システムを通り、入口弁システムを出口弁システムと流体接続する導管に流入させるために、注入器に入口弁システムを開くようにさせるステップとを備える。
【0115】
注入フェーズにおいて、入口弁システムを介して潤滑油給送導管が出口弁システムを開くのに十分に高い圧力で潤滑油を供給するために、潤滑油給送導管内の潤滑油の圧力は、出口弁システムの開放を決める所定上限を超えることに留意されたい。従って、潤滑油が入口弁システムを通って入口弁システムと出口弁システムとの間の導管に流入すると、出口弁システムで圧力が上昇し、潤滑油を導管からノズル開口へ流すために出口弁システムが開き、これにより、潤滑油がノズル開口を介してシリンダ内に注入される。潤滑時間の終わりに、制御装置からの電気制御信号が変更され、潤滑油入口からノズル開口へ潤滑油を供給するための入口弁システムが再び閉じるようにされる。導管内の圧力が再び低下し、出口弁システムが閉じる。
【0116】
これらの実施形態では、注入器内に少なくとも2つの弁システムが存在する。入口弁システムは制御装置による制御の下で、例えば制御装置からの電気信号によって調節され、ひとたび入口弁システムが開いて潤滑油給送導管から出口弁システムへ高圧の潤滑油の流れが生じると、出口弁システムの潤滑油の高圧によってだけ出口弁システムが作動する。入口弁システムの可動部品を出口弁システムの可動部品と結び付ける機械的結合は存在しない。これら2つのシステムの開放と閉鎖の間の結合は、入口弁システムから出口弁システムへ流れる潤滑油によってのみ行われる。
【0117】
弁及びアクチュエータの選択肢詳細
一部の実用的な実施形態では、弁システムは、アイドルフェーズで弁部材が流路を遮断するアイドルフェーズ位置から、注入フェーズで弁部材が流路を開放し、その流路を介して潤滑油を流す注入フェーズ位置へ移動するように配置された可動のアクチュエータ駆動式弁部材を備える。有利には、弁部材は、弁ばねによってアイドルフェーズ位置に向かって予応力が加えられる。
【0118】
いくつかの実施形態では、可動弁部材を駆動するために、注入器は可動でありアクチュエータ駆動式の剛性アクチュエータ延長部を備え、この延長部は、アクチュエータを弁システムと結合させ、弁部材が流路を遮断するアイドルフェーズ位置から、注入フェーズでシリンダ内に潤滑油を注入するために弁部材が流路を開放して流路を介した潤滑油の流れを生じさせる注入フェーズ位置まで、弁部材を変位又は回転させるためにアクチュエータによって使用される。
【0119】
随意的に、アクチュエータ駆動式剛性アクチュエータ延長部は、注入時に弁部材を選択的に引っ張る又は押し込む、引き押し部材である。代わりに、アクチュエータ延長部は、回転式アクチュエータからの駆動力を、例えば選択的に一方向又は他方向に伝達する回転部材である。
【0120】
いくつかの実施形態では、アクチュエータは電気制御式アクチュエータ、例えば電気機械式アクチュエータである。随意的に、アクチュエータは、静止ソレノイド部と可動ソレノイド部とを有する電気ソレノイド構成を備え、アクチュエータ延長部は、ソレノイドの電気励磁によって駆動されるように可動ソレノイド部に結合され、ソレノイドは、制御装置からの注入フェーズ信号によって励磁されるように構成されている。
【0121】
例えば、弁システムは、アクチュエータ延長部を駆動するためのリニアアクチュエータを備える。この場合、アクチュエータ延長部は、アクチュエータ、例えばソレノイドプランジャ及びソレノイドコイルの構成に結合され、アクチュエータの電気的作動時に、アクチュエータ延長部、例えば引き押し部材を駆動して開放させ、潤滑油入口からの流れをもたらす。随意的に、アクチュエータ延長部がソレノイドプランジャに結合されるのに対して、ソレノイドコイルは注入器内で静止する。代わりに、アクチュエータ延長部は、アクチュエータ延長部と共に可動であるソレノイドコイルに結合される。
【0122】
代わりに、圧電素子を用いて弁部材を駆動することができる。このような素子は、電気的に又は無線で制御装置に接続され、収縮又は膨張する場合に関して制御装置によって制御される。
【0123】
一部の具体的な実施形態では、弁部材は円筒形であり静止弁部材を備え、結果として対応する円筒形ブッシングを備え、その内部に、円筒形の弁部材がブッシングの長手方向軸に沿って変位するように配置される、又はブッシングの長手方向軸の周りに回転するように配置される。
【0124】
円筒形ブッシングという用語は、ブッシングが円筒形の空洞を持ち、通常は円形の断面を有するが必ずしもそうではないことを表すために使用される。円筒形弁部材がブッシングの円筒形空洞にぴったりと嵌まるので、ブッシング内部で弁部材を潤滑するだけでシリンダ内に注入される潤滑油の量と比較して無視できる、潜在的な最小限の量は別として、潤滑油は円筒形弁部材と円筒形ブッシングとの間を流れることができない。
【0125】
システムの利点
本明細書に記載するシステムには多くの利点がある。
【0126】
注入器の内部に弁システム及び随意的に出口弁システムを設けることにより、作動中に動かす必要がある可動部材の質量が小さくなる。質量が小さいため、従来技術のシステムと比較して可動物体の反応時間が短縮され、そのため、本システムは反応速度の向上、及びタイミング及び量に関する対応する精度を伴う。
【0127】
注入器は、一般的にこのような大型エンジンのシリンダ壁の厚さのおよそ数倍未満、例えば2倍程度の長さを有し、シリンダ壁内の開口部を貫通して延びるため、弁システムからノズル開口までの距離は、通常シリンダ壁の厚さ程度か、それよりもさらに小さい。例えば、弁システムからノズル開口までの距離は20cm未満、又はさらに10cm未満であり、これは従来技術における弁とノズルとの間の数メートルという距離よりも遥かに短い。これは、比較すると弁システムからノズル出口までの距離が極めて短く、弁システムがこれに対応して短い反応時間及び精度を有することを意味する。
【0128】
弁システムが注入器ハウジング内にあってノズルに近いため、注入器は反応時間が短くなるので、注入のタイミングと時間の長さとに関して高い精度を実現することができ、時間の長さは注入量に換算される。タイミング精度が高くて反応時間が速いため、単一注入サイクルでの潤滑油注入を複数の部分的注入で行うことができる。上記の注入器は、例えば出口弁システムを含めて、弁システムからノズルまでの短く剛性の流路しか持たないので、比較的長い導管におけるオイルの微小な圧縮及び膨張が導管自体の膨張と共に回避されるという理由で、注入量及びタイミングの不確定性並びに不正確さが最小限度に抑えられる。
【0129】
例えば、エンジンのピストンが注入器を通過する前の時間間隔内に、特にSIP原理を用いる場合には、2種類の潤滑油がシリンダ内で混合されるように二重注入を行うことができる。
【0130】
戻りラインが不要なため、本システムは注入器に対して単一の潤滑油ラインだけを必要とし、これにより、設置のコスト及び労力が最小限に抑えられ、故障のリスクが最小限に抑えられる。エンジンが大型であり、数メートルの長さの戻りラインを必要とすることになるため、特に当てはまる。また、潤滑油に関して可能性のある戻り配管内の死容積に起因する、弁を閉じる時の時間及び量の不正確性が回避される。
【0131】
逆止弁を備えた出口弁システムにより、注入器はシリンダからの高圧に対して安定している。出口弁システムがノズル内に又はノズルに逆止弁を備え、逆止弁が、弁座に向かってばねで押し付けられる弁部材、例えばボールを備える場合、故障に対する高度の堅牢性が観察された。これらのシステムは簡素であり、詰まりのリスクは最小限度である。また、弁座は、特に弁部材がボールである場合に、自己浄化性があって偏摩耗をほとんど受けない傾向があり、そのため、長期に亘る高い信頼性が提供される。従って、注入器は簡素で信頼性が高く、迅速かつ正確であり、低い製造コストの標準的な構成要素から組み立てるのが容易である。
【0132】
結論として、特定の弁システムは、軽量構成要素のため、高速に作動することになる。さらに、構成要素は構造が比較的簡単で、低い製造コストを示唆する。これらの利点に加えて、弁システムは信頼性が高く、堅牢で、詰まりのリスクが低い。また、構成要素は比較的小さな圧力荷重を受けるので、弁システムは、長い寿命を有する。
【0133】
任意のパラメータ
例えば、注入器は、ノズルが円形である場合に直径Dのノズル開口を有するノズルを備え、又は、ノズルが円形でない場合にノズル開口面積を円周率で割った値の平方根の2倍である等価直径Dを有するノズルを備え、ここで、直径Dは少なくとも0.1mmであり、オイルミストとも呼ばれる霧状液滴の噴霧を放出するように構成されている。
【0134】
霧状液滴の噴霧はSIP潤滑において重要であり、その場合、ピストンがTDCに向かう移動の際に注入器を通過するより前に、潤滑油の噴霧がシリンダ内部の掃気の中に繰り返し注入される。掃気の中では、TDCに向かう掃気のスワール運動のために霧状液滴がTDCに向かう方向に運ばれるので、霧状液滴は拡散されてシリンダ壁上に分配される。噴霧の霧状化は、ノズルにおける潤滑油注入器内の高圧潤滑油による。この高圧注入について、圧力は10barより高く、通常25と100barとの間である。一例として、30と80barとの間、必要に応じて35と60barとの間の幅がある。注入時間は短く、通常は5-30ミリ秒(msec)程度である。しかしながら、注入時間は1ミリ秒、又はさらに1ミリ秒未満、例えば0.1ミリ秒まで調整することができる。従って、僅か数ミリ秒の不正確さが注入プロファイルに悪影響を及ぼす可能性があり、そのため、上述のように、例えば0.1ミリ秒の精度など、高い精度が求められる。
【0135】
また、粘度は霧状化に影響を与える。船舶用エンジンで使用される潤滑油は、通常、40℃で約220cSt、100℃で20cStの典型的な動粘度を持ち、これは202と37mPa・sとの間の粘度に換算される。有用な潤滑油の例は、高性能、船舶用ディーゼルエンジン・シリンダオイルExxonMobil(登録商標)のMobilgard(商標)570VS(又は段階的に廃止される560VS)である。船舶用エンジンに有用な他の潤滑油は、他のMobilgard(商標)オイル並びにCastrol(登録商標)Cyltechオイルである。船舶用エンジンに一般的に使用される潤滑油は、40-100℃の範囲でほぼ同一の粘度プロファイルを有しており、例えばノズル開口径が0.1-0.8mmであり、潤滑油がノズル開口で30-80barの圧力を持ち、そして温度が30-100℃又は40-100℃の範囲にある場合に、全てが霧状化に有用である。また、Rathesan、Peter Jensen、Jesper de Claville Christiansen、Benny Endelt、Erick Appel Jensenによるこの主題に関する発表論文、「2ストローク船舶用エンジンで使用される潤滑オイルのレオロジー挙動」、産業用潤滑及びトライボロジ、2017年、第69巻、第5号、750-753頁、https://doi.org/10.1108/ILT-03-2016-0075を参照されたい。
【0136】
図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0137】
図1】本発明によるエンジンの第1の実施形態におけるシリンダの一部の概略図である。
図2図1に示す注入器の一実施形態の図である。
図3a図1に示す制御装置の第1の実施形態に関するより詳細な概略図である。
図3b図1に示す制御装置の第2の実施形態に関するより詳細な概略図である。
図4図2に示した注入器のためのノズルのさらなる実施形態を示す概略図である。
図5】本発明によるエンジンのさらなる実施形態におけるシリンダの一部の図1に対応する概略図である。
図6図5に示す注入器の一実施形態の概略図である。
図7図6に示す注入器の入口弁ハウジングの拡大断面図である。
図8】本発明によるエンジンのさらなる実施形態におけるシリンダの一部の図1に対応する概略図である。
図9】注入器の調節及び較正に関する図である。
図10】潤滑油量を調節するための制御戦略を示す。
図11】較正済み注入器と未較正注入器の違いを示す。
【発明を実施するための形態】
【0138】
図1は、例えば船舶用ディーゼルエンジンなど、大型低速運転式2ストロークエンジンのシリンダ1の半体を示す。シリンダ1は、シリンダ壁3の内側にシリンダライナ2を備える。シリンダ壁3の内部には、シリンダ1内に潤滑油を注入するために複数の注入器4が設けられている。図示のように、注入器4は、円周に沿って、隣接する注入器4との間に同じ角距離で分散配置されるが、これは厳密には必須でない。また、軸方向に変位した注入器を備える配置、例えば注入器が1つおきに隣接した注入器に対してピストンの上死点(TDC)に向かって変位した配置も可能なので、円周に沿う配置は必須ではない。
【0139】
各注入器4は、ノズル開口5’を備えたノズル5を有し、ノズル開口5’から微小液滴7の微細な霧状噴霧8が高圧下でシリンダ1内に放出される。
【0140】
例えば、ノズル開口5’は、0.2-0.5mmなど、0.1-0.8mmの直径を有し、10-100barの圧力で、例えば25-100bar、必要に応じて30-80bar又はさらには50-80barの圧力で、潤滑油を微細な噴霧8に霧状化し、これは、潤滑油の高密度噴流と対照的である。シリンダ1内の掃気スワール10は、シリンダライナ2上への潤滑オイルの均一な分配が達成されるように、噴霧8を輸送してシリンダライナ2に押し付ける。この潤滑システムは、本技術分野ではスワール注入原理、SIPとして知られている。
【0141】
しかしながら、改良された潤滑システムに関連して、例えば噴流をシリンダライナに向ける注入器など、他の原理も想定されている。
【0142】
随意的に、シリンダライナ2は、注入器4からの噴霧8又は噴流に適切な空間を提供するためにフリーカット6を備える。
【0143】
潤滑油給送導管9に加え、注入器4は、圧力制御導管10で制御装置11に接続される。潤滑油給送導管9は、注入用の潤滑油を供給するために使用される。圧力制御導管10は高圧でオイルを供給して、注入器4の内部にある内部ポンプシステムを作動させるが、これについては以下で詳細に説明する。
【0144】
圧力制御導管10内の圧力は、潤滑油給送導管9内の圧力よりも高い。典型的には、潤滑油給送導管9内の潤滑油圧力は、1-15barの範囲、例えば5-15barの範囲にあり、圧力制御導管10内のオイル圧は、20-100barの範囲、例えば30-80bar、必要に応じて50-80barの範囲にある。
【0145】
制御装置11は、オイルポンプを含む潤滑油供給部25から潤滑油を受け入れるための供給導管12と、必要に応じて潤滑油を再循環させるための、一般的にはオイルリザーバへの戻り導管13とに接続される。供給導管12内の潤滑油圧力は、戻り導管13内の圧力よりも大きく、例えば少なくとも2倍の大きさである。
【0146】
制御装置11は、エンジンのシリンダ1内のピストン運動と同期する、正確に時間調整されたパルスで注入器4に潤滑オイルを供給する。例えば、同期のために、制御装置システム11はコンピュータ11’と有線又は無線で電子的に接続され、コンピュータ11’は、潤滑供給のために制御装置11内の構成要素を制御する。潜在的に、コンピュータ11’は制御装置11の一部であり、例えば、制御装置11の他の構成要素と共に単一のケーシング内に設けられる。随意的に、コンピュータは、例えばクランクシャフトの速度、負荷、及び位置など、エンジンの実際の状態及び動作に関するパラメータを監視し、クランクシャフトの位置は、シリンダ内のピストン位置を明らかにする。
【0147】
図2は注入器4を示し、図3a及び図3bは、制御装置11のいくつかの可能な実施形態をより詳細に示す。寸法は正確な縮尺ではない。
【0148】
注入器4は、潤滑油給送導管9から潤滑油を受け入れるための潤滑油入口ポート4Aと、注入器4による潤滑油の放出を引き起こすために圧力制御導管10に接続された圧力ポート4Bとを有する注入器基部21を備えた注入器ハウジング4’を備える。
【0149】
流動室16は、注入器ハウジング4’の一部として、注入器基部21に対してノズル5を保持する。図示の実施形態では、流動室16は、中空剛性ロッドとして設けられている。流動室16は、Oリング22によって注入器基部21に対して密封され、注入器基部21に対してしっかりと保持されている。導管16’は、流動室16内部の中空流路として、流動室16の後部から前部へ設けられる。導管16’は、後室16A、第1の中間室16B、第2の中間室16C、及び前室16Dを介して、潤滑油入口ポート4A及びノズル5と連通する。
【0150】
また、注入器4は、ノズル開口5’を通って分配される潤滑油を調節するために出口弁システム15を備える。出口弁システム15で圧力が所定圧力を超える場合にのみ、出口弁システム15は潤滑油をエンジンのシリンダ1内に放出するために開放される。図2の実施形態では、出口弁システム15は、ノズル5の一部として例示されているが、これは厳密には必須でない。
【0151】
出口弁システム15は、出口逆止出口弁17を備える。出口逆止出口弁17において、ボールとして例示される出口弁部材18には、出口弁ばね20によって出口弁座19に向かってばね付勢によって予応力が加えられている。前室16D内に加圧潤滑油が供給されるとすぐに、出口弁ばね20の予応力の力は潤滑油の圧力によって打ち消され、その圧力がばね力よりも高くなると、出口弁部材18はその出口弁座19から変位し、出口逆止出口弁17は、ノズル開口5’を通ってシリンダ1内に潤滑油を注入するために開放する。
【0152】
例示するように、出口弁ばね20は、出口弁部材18に対してノズル開口5’から離れる方向に作用する。しかしながら、この構成では、注入フェーズの間のアイドル状態にある場合にノズル開口5’への潤滑油の供給に関する逆止出口弁17が閉鎖している限り、出口弁部材18に作用する出口弁ばね20の力の方向に関して、ノズル開口5’に対する方向とは異なることができる。アイドル状態での逆止出口弁17の閉鎖は、注入フェーズの間の前室16Dからノズル開口5’を通ってシリンダ1内への意図しない潤滑油の流動を防止する。
【0153】
後室16Aは、潤滑油給送導管9から潤滑油を受け入れるために入口ポート4Aと連通する。後室16Aは、後部流路23Aを介して第1の中間室16Bと連通する。第1の中間室16Bは、アクチュエータ部材28の周囲の円筒形開口部である中間流路23Bを介して第2の中間室16Cと連通するが、これについては以下で説明する。第2の中間室16Cは、前部流路23Cを介して前室16Dと連通する。
【0154】
便宜上、用語「前方動作」は、ノズル開口5’に向かう動作に使用され、ノズル開口5’から離れる反対方向の動作を「後方動作」と呼ぶ。
【0155】
前室16Dは、往復式プランジャ部材29の前方動作によってノズル開口5’を介して空にされ、その往復式プランジャ部材29は、第2の中間室16C内の螺旋状プランジャばね29Bによって前方動作に対してばね付勢される。プランジャ部材29は、プランジャ部材29の内部流路である前部流路23C内に通じる流路入口24を、例えば、図示のようにプランジャ部材29の中央に備える。プランジャ部材29の前方動作中、前部流路23Cは、逆止プランジャ弁26によって閉じられる。図示の実施形態では、逆止プランジャ弁26は、プランジャ弁座26B内にプランジャ弁ボール26Aを備えるものとして例示されており、その弁座に向かって、プランジャ弁ボール26Aには、プランジャ弁ばね26Cによって予応力が加えられている。
【0156】
プランジャ部材29の前方動作は、プランジャ部材29のヘッド29Aを押圧するアクチュエータ部材28の前方動作によって達成される。アクチュエータ部材28には、第1の中間室16B内の螺旋状アクチュエータばね28Aによって後方に予応力が加えられている。
【0157】
この図示される例示的な実施形態では、アクチュエータ部材28とプランジャ部材29は別個の要素であるが、単一のアクチュエータ-プランジャとして、例えばその単一要素の一端部にアクチュエータ部材28と、その反対側端部にプランジャ部材29とを有することにより、結合させることもできる。
【0158】
アクチュエータ部材28の前方動作は、圧力制御ポート4Bからの加圧潤滑油によって達成され、加圧潤滑油が圧力室27内でアクチュエータ部材28の後部28Bを押圧するので、それらは一緒に移動する。
【0159】
注入器4の機能を以下でより詳細に説明する。圧力制御ポート4Bに例えば20-100barの圧力範囲にある加圧オイルが供給される場合、加圧オイルは、アクチュエータ部材28の後部28Bを押し進めてアクチュエータ部材28を前方に動かすことにより、圧力室27の容積を拡大させる。アクチュエータ部材28がプランジャ部材29のヘッド29Aを押すと、プランジャ部材29は、アクチュエータばね28A及びプランジャばね29Bの力に逆らってアクチュエータ部材28と共に前方に移動する。プランジャ部材の前方動作は、前室16D内の潤滑油に作用する。逆止弁26が前室16D内の潤滑油が後方に逃げるのを防止するので、前室16D内の潤滑油は、逆止出口弁17を備えた出口弁システム15が開放して前室16Dからノズル開口5’を通ってシリンダ1内に潤滑油を放出する、所定の圧力上限まで加圧される。
【0160】
注入フェーズの終わりに、圧力制御ポート4Bのオイルが排出され、これにより、アクチュエータばね28A及びプランジャばね29Bは、アクチュエータ部材28及びプランジャ部材29をノズル5から離れる方向に押し戻す。プランジャ部材29の後方動作は前室16D内の圧力を低下させ、今度はそれによって逆止出口弁17が閉鎖され、潤滑油が第2の中間室16Cから前部流路23Cを通って前室16Dに引き込まれ、それは、プランジャ逆止弁26が前室16D内の圧力低下によって開放されるからである。このように、前室16D内の圧力低下が逆止プランジャ弁26を介した吸入によって前室16Dの潤滑油の補充をもたらすので、逆止プランジャ弁26は吸入弁として機能する。アクチュエータ部材28及びプランジャ部材29のこの戻り動作の間、第2の中間室16C内の潤滑油は第1の中間室16Bから補給され、今度は第1の中間室16Bが、潤滑油入口ポート4Aを通る潤滑油を受け入れた後室16Aからの潤滑油で満たされる。
【0161】
適切に機能するため、潤滑油入口ポート4aには、一定の圧力で潤滑油給送導管9から潤滑油が供給され、圧力制御ポート4Bには、注入サイクルごとに断続的に圧力制御導管10から圧力オイルが供給される。圧力制御ポート4Bの圧力は、注入フェーズで上昇し、注入フェーズの間のアイドル状態では低下する。
【0162】
アイドル状態において圧力室27内のオイル圧によりアクチュエータ部材28に作用する前方への力が、アクチュエータばね28A及びプランジャばね29Bによる後方への合力よりも小さい場合、アクチュエータ部材28及びプランジャ部材29は、図2に示すそれらの最後方可能位置に完全に戻される。従って、プランジャ部材のフルストロークは、圧力制御ポート4Bにおけるオイル圧を最大圧力とより低い圧力、例えば潤滑油給送導管9内の潤滑油の圧力もしくはより低い圧力との間で断続的に変化させることによって達成される。
【0163】
しかしながら、アクチュエータ部材28及びプランジャ部材29は、圧力制御ポート4B及び圧力室27の圧力を、アクチュエータに作用する力を作り出すオフセット圧力レベルに調整することによって、最後方位置からオフセットした状態に保持することができ、ばね28A及び29Bは、アクチュエータ部材28及びプランジャ部材29の後方動作中に完全には伸び切らず、僅かに圧縮された状態に保持されるようになっている。これは、ばね28A及び29Bの力が圧縮長さに応じて変化し、アクチュエータ部材の最後方位置からの変位に関する線形依存性に概ね従うという理由で可能である。オフセット圧力レベルは、逆止出口弁17を開放して注入させるのに必要な圧力レベルよりも小さい。
【0164】
原理的には、注入器4には、入口ポート4Aで1つの潤滑油供給源から潤滑油を供給することができ、さらに全く異なる供給源から圧力オイル又は他の圧力液体を供給することができる。しかしながら、一般的には、簡単のために及び便宜上、圧力制御ポート4Bの圧力オイルは、入口ポート4Aの潤滑油と同じ供給源から供給することができるが、例えば増圧器を用いて高圧で供給される。
【0165】
圧力制御ポート4Bで断続的な圧力変化を実現する方法の例示的な実施例は、図3aと図3bの代替実施形態とに示す制御装置11を参照して以下に説明する。しかしながら、図3a及び図3bの制御装置は単なる例示的な実施形態であり、図2の注入器は、図3a、図3b及び図4に示す制御装置と無関係であり、他のタイプの制御装置で機能することができる。
【0166】
図3aの実施例では、制御装置11は、トグル弁30を備え、トグル弁30は、供給導管12に接続されるトグル弁入口ポート30Aと、注入器の圧力制御ポート4Bと連通するために圧力制御導管10に接続されるトグル弁出口ポート30Bと、戻り導管13に接続されるトグル弁戻りポート30Cとを有する。トグル弁戻りポート30Cと戻り導管13との間には圧力制御弁31が示されており、これは以下でより詳細に説明され、随意的にある。
【0167】
トグル弁30は、第1のトグル閉鎖要素32Aと第2のトグル閉鎖要素32Bを備え、これらは、剛結合され、トグル弁入口ポート30Aとトグル弁出口ポート30Bが連通する第1の状態と、トグル弁出口ポート30Bとトグル弁戻りポート30Cが連通する第2の状態との間を往復するように配置される。往復移動は矢印33で示されている。図3a及び図3bでは、第2の状態だけが示されている。例えば、トグル弁30は、図示のように三方弁であり、潜在的に電磁弁である。
【0168】
注入フェーズでは、トグル弁30は第1の状態にあり、この場合、供給導管12からの高圧潤滑油が注入器4の圧力制御ポート4Bに供給され、アクチュエータ部材29を前方に押し付けてシリンダ1内への潤滑油の注入をもたらすようになっている。注入フェーズの終わりに、図示のようにトグル部材30が第2の状態に移動し、圧力制御ポート4Bからの潤滑油が、トグル弁30を通ってトグル弁戻りポート30Cから戻りライン13に排出され、これにより、アクチュエータ部材28及びプランジャ部材29はアイドル状態に戻ることができる。例えば、トグル部材32のトグル動作は、コンピュータ11’と協働して制御される。
【0169】
注入器4は、ノズル5の上流側のポンプシステム、すなわちプランジャ部材29を備えるので、注入のために供給される潤滑油は、給送導管9内に高圧で供給する必要がない。従って、戻り導管13の圧力は、一般的に5-15barの範囲であり、潤滑油は給送導管9を介して注入器4の入口ポート4Aに供給するのに十分である。
【0170】
また、随意的な注入量調整機構は、図3a及び図3bと組み合わせて図2に示されている。この実施形態では、圧力弁31は、トグル弁戻りポート30Cに接続される圧力弁入口ポート31Aと、戻り導管13に接続される圧力弁出口ポート31Bとを備える。このことは、トグル弁戻りポート31Bが、トグル弁戻りポート30Cでの戻り圧力を調整するために使用される圧力弁31を通ってのみ戻り導管13に接続されることを意味する
【0171】
例示する実施形態では、圧力弁31は、ばね付勢式圧力調整部材31Cを含み、その初荷重は、例えば、図示のようにねじなどのプリテンショナ31Dによって調整可能である。プリテンショナを手動調整用に構成することは可能であるが、通常、プリテンショナはモータ又は他タイプのアクチュエータによって調整される。プリテンショナの調整により、ばね付勢式圧力調整部材31Cに対してより大きい又はより小さい初荷重が生じるので、圧力弁入口ポート31A及びトグル弁戻りポート30Cの背圧がこの初荷重によって調整される。
【0172】
トグル弁戻りポート30Cの調整された背圧が、圧力制御ポート4Bにおける最低圧力を決定する。この背圧を増加させることにより、アクチュエータ部材28及びプランジャ部材29が最後方位置からオフセットする。次の注入フェーズがこのオフセット位置から前方動作を開始するので、プランジャ部材29のストロークは、最後方位置から開始する場合よりも短くなる。従って、圧力弁31で背圧を調整することにより、注入器4のストロークが精密に調節され、それに対応してシリンダ1に注入される潤滑油量が調節される。図2には、アクチュエータ部材28及びプランジャ部材29の最後方位置が示されている。
【0173】
典型的には、注入器のグループ、例えばシリンダの全ての注入器に対して1つのトグル弁30が設けられている。しかしながら、代替実施形態では、各注入器4に対して1つのトグル弁30が設けられている。プランジャ部材29のストローク及び注入量を調整するために随意的な圧力弁31がシステムに含まれる場合、それは通常、注入器4のグループに対して設けられる。しかしながら、各注入器4に対して1つの圧力弁31を設けることも可能である。
【0174】
上記の実施例から明らかなように、潤滑油給送導管9は、戻りライン13と連通する。図3aの説明では、戻り導管13は、制御装置11に入り、給送導管9”が制御装置11から出る。また、このことは、図1に実線9”で示されており、実線9”は、その延長線上で給送導管9に接続されている。制御装置11が付加ユニットである場合、制御装置11は少なくとも4つの導管コネクタを有することになる。
【0175】
しかしながら、このことは必須ではない。随意的に、制御装置11は、図3bに示すように戻り導管13に接続される戻り出口ライン34を備える。この場合、戻り導管13は、給送導管9’及び9と直接連通する。この実施形態は、図1に別の点線9’で示されており、点線9’はその延長線上で給送導管9に接続されている。この場合、給送導管9及び9’の延長線上にある戻り導管13は、シリンダ内への注入のために注入器4の潤滑油入口ポート4Aに直接潤滑油を供給し、制御装置11は迂回される。
【0176】
図4は、出口弁システム15の第2の代替実施形態を示す。出口弁システム15の一般化原理は、国際公開第2014/048438号に開示されるものと同様である。また、この参考文献は、ここに提示する注入器の付加的な技術詳細並びにその機能に対する説明を提示するが、便宜上、ここでは繰り返さない。ノズル開口5’は、潤滑油を放出するためにノズル5の先端に設けられている。ノズル5の空洞40の内部には出口弁部材18が設けられ、出口弁部材18は、ステム41と、ノズル先端44の円筒形空洞部43内に摺動自在に配置される円筒形シールヘッド42とを備える。弁部材18の位置は、ばね45によってノズル先端44から離れるように後方へ予応力が加えられ、流路46を介してステム41の後部47に作用するオイル圧によって前方へオフセットし、オイル圧は、ばね力に逆らって作用する。シールヘッド42が摺動してノズル開口5’を通り過ぎ、潤滑オイルが内部空洞46からノズル開口5’を通って流れて放出されるようにノズル部材18が前方に押し込まれない限り、ノズル開口5’は、ノズル先端44で円筒形空洞部43に当接するシールヘッド42によって密封的に覆われる。
【0177】
以下の数値は、可能性のある動作圧力の非限定的な実施例である。戻り導管13及び給送導管9内の圧力は10barである。供給導管12内の圧力は40barである。潤滑油が37barで注入されるように出口弁15は37barで開く。ばね28A及び29Bは、注入フェーズの間のアイドル状態での圧力制御ポート4Bの圧力が10barの場合に、プランジャ部材29及びアクチュエータ部材28を完全に最後方位置に押し戻すように構成されている。圧力弁は、37barの注入圧力をはるかに下回るが、アクチュエータ部材28が完全に最後方位置に戻るのではなく最後方位置から所定の距離を保つように、十分高い圧力を圧力室27に供給する程度に大きな10-30barの圧力、例えば20barに調整可能である。圧力を10-30barの範囲に調整してこの距離を調整することにより、前室16D内の注入量が調整されるが、その理由は、注入フェーズでの前方動作が小さいほど注入フェーズの開始時にプランジャ部材29が最後方位置からより大きくオフセットされるからである。
【0178】
随意的に、注入量は、注入器のグループ又は各単一の注入器4のために給送導管9に挿入された流量計によって制御される。流量計は流れ(質量及び/又は体積)を測定し、次に注入器(複数可)が適切に動作していることを管理するために使用される。
【0179】
上記のような注入器4と制御装置11とを備えた注入システムは、設置及び交換が簡単である。これは、堅牢で安定しているにもかかわらず、比較的低コストの技術手段である。特に、注入量は、精密に調整可能である。また、システムは、注入射器4への又はそこからの電気配線を備えておらず、このことはシステムを熱に対して堅牢とするが、一方で、電気配線は熱で溶融する絶縁層を有する可能性がある。
【0180】
上記の実施形態は、国際公開第2019/114905号から公知である。しかしながら、本エンジンは、流量計35を備えている点で異なる。流量計は、潤滑油給送導管9内の潤滑油の流れを測定するために使用されるものとする。
【0181】
次に、実際の流れに関する流量計からの信号は、制御装置内で実際の量に変換される。計算された実際の量は目標値と比較され、次に制御装置は注入器を制御してその設定を調整し、特定の動作モードの場合に注入される潤滑油量を目標値に調節するようになっている。
【0182】
図5は、例えば船舶用ディーゼルエンジンなど、大型低速運転式2ストロークエンジンのシリンダ1の半体を示す。シリンダ1は、シリンダ壁3の内側にシリンダライナ2を備える。シリンダ壁3の内部には、シリンダ1内に潤滑油を注入するために複数の注入器4が設けられている。図示のように、注入器4は、円周に沿って、隣接する注入器4との間に同じ角距離で分散配置されるが、これは厳密には必須でない。また、軸方向に変位した注入器を備える配置、例えば注入器が1つおきに隣接した注入器に対してピストンの上死点(TDC)に向かって変位した配置も可能なので、円周に沿う配置は必須ではない。
【0183】
各注入器4は、ノズル開口5’を備えたノズル5を有し、ノズル開口5’から微細な霧状噴霧8が高圧下でシリンダ1内に放出される。
【0184】
例えば、ノズル開口5’は、0.2-0.5mmなど、0.1-0.8mmの直径を有し、10-100barの圧力で、例えば25-100bar、必要に応じて30-80bar又はさらには50-80barの圧力で、潤滑油を微細な噴霧8に霧状化し、これは、潤滑油の高密度噴流と対照的である。シリンダ1内の掃気スワール14は、シリンダライナ2上への潤滑オイルの均一な分配が達成されるように、噴霧8を輸送してシリンダライナ2に押し付ける。この潤滑システムは、本技術分野ではスワール注入原理、SIPとして知られている。
【0185】
しかしながら、改良された潤滑システムに関連して、例えば噴流をシリンダライナに向ける注入器など、他の原理も想定されている。
【0186】
随意的に、シリンダライナ2は、注入器4からの噴霧8又は噴流に適切な空間を提供するためにフリーカット6を備える。
【0187】
注入器4は、潤滑油の圧力を適切なレベルまで上昇させる潜在的な潤滑油ポンプを含んだエンジンの潤滑油供給部25から、例えばオイル回路から、給送導管9を介して、通常は共通給送導管9を介して、潤滑オイルを受け取る。例えば、給送導管9内の圧力は、25-100barの範囲、必要に応じて30-80barの範囲であり、これはSIP注入器に関する典型的な圧力範囲である。
【0188】
注入器4は、電気ケーブル110を介して制御装置11と電気的に通信する電気コネクタ110’を備える。上述のように、注入器は、代わりに制御装置11と無線通信することができる。制御装置11は、注入器4に電気制御信号を送り、注入器4によるノズル5を介した潤滑油の注入を制御する。図示のように、各注入器4に1本のケーブル110が設けられ、これにより、それぞれの注入器による注入の個別的制御が可能となる。しかしながら、制御装置11から全ての注入器4へ1本の電気ケーブル110を設けて、全ての注入器4が、単一の電気ケーブルを介して電気制御信号を受け取ると同時に注入するようにすることも可能である。代わりに、制御装置11から注入器のサブグループへ、例えば2、3、4、5又は6個の注入器のサブグループへ1本の電気ケーブル110を設けて、第1のサブグループが第1のケーブル10を介して制御装置で制御され、第2のサブグループが第2のケーブル110を介して制御されるようにすることも可能である。ケーブル及びサブグループの数は、好ましい構成に応じて選択される。
【0189】
流量計35は、潤滑油給送導管9及び電気ケーブル110と接続され、各注入器4又は注入器の各サブグループへの潤滑油の流れを測定するように配置されている。
【0190】
制御装置11から注入器4への電気制御信号は、エンジンのシリンダ1内でのピストン運動と同期した、正確に時間調整されたパルスで供給される。例えば、同期のために、制御装置システム11はコンピュータ11’を備えるか又はコンピュータ11’と有線又は無線で電子的に接続され、コンピュータ11’は、例えばクランクシャフトの速度、負荷、及び位置など、エンジンの実際の状態及び動作に関するパラメータを監視し、クランクシャフトの位置は、シリンダ内のピストンの位置を明らかにする。
【0191】
上記の実施形態は、国際公開第2019/114905号から公知である。しかしながら、本エンジンは、流量計35を備えている点で異なる。流量計は、潤滑油給送導管9内の潤滑油の流れを測定するために使用されるものとする。
【0192】
図6は、注入器4の主要概略図を示す。図6は、例示する注入器の3つの異なる図、上面図、端面図及び断面側面図を含む概略図である。
【0193】
注入器4は、潤滑油給送導管9から潤滑油を受け入れるための潤滑油入口ポート112を備える。入口ポート112は、入口弁ハウジング121内に設けられ、入口弁ハウジング121は、潤滑フェーズ中に潤滑油給送導管9から受け入れる潤滑油量を調節するために入口ポート112と連通する入口弁システム113を備える。また、注入器4は、ノズル開口5’を通って分配される潤滑油を調節するために出口弁システム115を備える。剛性流動室116は、潤滑油をノズル5に流すために、入口弁システム113を出口弁システム115と接続する。図示の実施形態では、流動室116は、中空剛性ロッドとして設けられている。流動室116は、Oリング122によって入口弁システム113の入口弁ハウジング121に対して密封され、入口弁ハウジング121にボルト124で留めたフランジ123によって入口弁ハウジング121に対してしっかりと保持されている。
【0194】
図7は入口弁システムの拡大部分である。
【0195】
図7は、入口弁システム113をより詳細に示す。入口弁ハウジング121の内部において、逆止入口弁125は入口弁部材126を備え、入口弁部材126は、入口弁ばね128によって入口弁座127に向かって予応力が加えられている。入口弁部材126はボールとして例示されるが、例えば長円形、円錐形、扁平形、又は円柱形などの異なる形状でも機能することになる。入口弁部材126が、入口弁ばね128の力に逆らって入口弁座127から変位すると、潤滑油は、入口ポート112から入口弁ばね128に沿って流れ、入口弁部材126及び入口弁座127を通過し、入口弁部材126の反対側にある流路129に入る。潤滑油は、流路129から、通路130を通って流れ、出口弁システムへ流れるために流動室116の中空部116’に入り、出口弁システムは、国際公開第2014/048438号に開示されるものと同様の一般化原理を有する。また、この参考文献は、ここに提示する注入器の付加的な技術詳細並びにその機能に対する説明を与えるが、便宜上、ここでは繰り返さない。
【0196】
入口弁部材126(ボール)を変位させるために、プッシュロッドとして例示される押込み部材131が流路129内で往復式に設けられている。押込み部材131は、入口弁部材126に固定されるのではなく、ソレノイドコイル132で駆動される往復式ソレノイドプランジャ133に固定されている。ソレノイドプランジャ133は、アイドル状態の場合に、プランジャばね134によって後退させられる。ソレノイドコイル132が電流によって励磁されると、ソレノイドプランジャ133は、プランジャストップ135に対して停止するまで、プランジャばね134の力に逆らって前方に移動する。ソレノイドプランジャ133の移動により、押込み部材(プッシュロッド)131は、入口弁座127から離れるように入口弁部材(ボール)26を押し込み、潤滑油が入口逆止弁125を通って流動室116内へ流動できるようにする。
【0197】
有利な実施形態では、アイドル状態の場合、押込み部材(プッシュロッド)131は入口弁部材(ボール)126から所定距離だけ後退させられているので、押込み部材131と入口弁部材126の間に自由移動距離が存在する。ソレノイドコイル132が励磁されると、押込み部材131は、初期加速の後で入口弁部材126に衝突する前に、ソレノイドコイル132によって自由移動距離に亘って加速される。この結果、加速の初期部分で入口弁部材126が押込み部材131と共に移動する状況と比べて、入口弁部材126は入口弁座127から急激に変位する。入口弁部材126の急速な変位は、結果としてシリンダ1内への潤滑油注入開始の正確な時間調整に有利である。随意的に、自由移動距離はソレノイドプランジャ133の端部の調整ねじ136で調整可能である。
【0198】
注入フェーズの後、ソレノイドプランジャ133がプランジャばね134によって押し戻されることにつながるソレノイドコイル132への電流を遮断することにより、入口ポート112からノズル5への潤滑油供給が停止され、入口弁部材126は、注入サイクルのアイドルフェーズのための緊密な入口弁座127に戻る。
【0199】
潤滑油量は、流量計によって制御され、制御装置/コンピュータは、潤滑油量を調節し、注入器の較正を行うことを可能にする。
【0200】
図8は、図1に対応し、例えば船舶用ディーゼルエンジンなど、大型低速運転式2ストロークエンジンのシリンダ1の半体に関するさらなる実施形態を示す。この実施形態はオイル注入器を備え、注入器4は、HJ製Smartlube 4.0E注入器とすることができる。注入器4は、流量計を備えるシリンダマニホールド203と接続される。流量計を備えるシリンダマニホールドは、流量計フィードバック信号のための通信線211を介して制御装置11と接続される。制御装置11は、通信線210を介して中央制御装置208に接続されるローカルシリンダ制御装置とすることができる。
【0201】
流量計を備えるシリンダマニホールド203は、ポンプユニット205と接続される。ポンプユニット205は、供給導管12を介して潤滑油供給部25と接続されている。
【0202】
ポンプユニット205は、加圧オイル給送ライン214を介してシリンダマニホールド(コモンレール)に接続され、注入器4に潤滑油を供給する。
【0203】
注入器信号バス212は、潤滑油量を調節するために及び注入器の較正を行うために制御装置11を注入器と接続する。
【0204】
図9は、図8に示す実施形態において注入器4の調節を説明するための図である。流量計203からの信号は通信線211を介して制御装置11に送られる。さらに、注入器4は、その調節及び較正のために、注入器信号バス212を介して制御装置11から制御信号を受け取る。流量計からの信号はフィードバック制御アルゴリズム215に導入され、このアルゴリズムは、制御装置11に格納され、注入器4に送られる注入器信号を規定するために使用される。
【0205】
図10は、制御装置で使用する制御戦略を示す。36は所望の潤滑油量であり、37は計算された実際の潤滑油量である。流量計からの信号38は制御装置11に送られる。計算は制御装置11で実行され、制御信号39は、実際の潤滑油量37が所望の潤滑油量と一致するのを保証する調節を得るために注入器4に送られる。
【0206】
図11は、較正済み注入器41と未較正注入器40の違いを示す。図から、未較正注入器40は較正済み注入器41よりもずれが大きいことが見出される。
【符号の説明】
【0207】
1 シリンダ
2 シリンダライナ
3 シリンダ壁
4 注入器
4’ 注入器ハウジング
4A オイル注入器4の入口ポート
4B オイル注入器4の圧力制御ポート
5 ノズル
5’ ノズル開口
6 ライナのフリーカット
7 単一注入器4からの霧状噴霧
8 旋回噴霧
9 潤滑油給送導管
10 圧力制御導管
11 制御装置
11’ コンピュータ
12 供給導管
13 戻り導管
14 シリンダ内のスワール
15 注入器4の出口弁システム
16 入口弁システムを出口弁システムと接続する流動室
16’ 流動室16の中空部
16A 後室
16B 第1の中間室
16C 第2の中間室
16D 前室
17 出口ボール弁として例示される逆止出口弁
18 ボールとして例示される出口弁部材
19 出口弁座
20 出口弁ばね
21 注入器基部
22 流動室16の端部のOリング
23A 後室16Aを第1の中間室16Bと接続するアクチュエータ部材28内の後部流路
23B 第1の中間室16Aと第2の中間室16Bとの間の中間流路
23C 第2の中間室16Bと前室16Dとの間のプランジャ29内の前部流路
24 前部流路23Cへの流路入口
25 潤滑油供給部
26 逆止プランジャ弁
26A プランジャ弁ボール
26B プランジャ弁ボール26Aが予応力を受けるプランジャ弁座
26C プランジャ弁座26Bに向かってプランジャ弁ボールに予応力を加えるプランジャ弁ばね
27 後部28Bの圧力室
28 プランジャ部材29の押込みヘッド29’のためのアクチュエータ部材
28A アクチュエータに対して後方に作用するアクチュエータばね
28B アクチュエータ部材の後部
29 プランジャ部材
29A プランジャ部材のヘッド
29B 第2の中間室16C内のプランジャばね
30 トグル弁
30A トグル弁入口ポート
30B トグル弁出口ポート
30C トグル弁戻りポート
31 圧力制御弁
31A 圧力弁入口ポート
31B 圧力弁出口ポート
31C 圧力調節器(例えば、注入フェーズのばね付勢式圧力調整部材)
31D 圧力弁31のプリテンショナ
32 トグル部材
32A トグル部材32の第1のトグル閉鎖要素
32B トグル部材32の第2のトグル閉鎖要素
33 トグル部材の往復移動を示す矢印
34 制御装置11から戻り導管への戻り出口ライン
35 流量計
36 所望の潤滑油量
37 計算された実際の潤滑油量
38 流量計からの信号
39 制御信号
40 未較正注入器
41 較正済み注入器
112 注入器4の潤滑油入口ポート
113 注入器4の入口弁システム
114 シリンダ内のスワール
115 注入器4の出口弁システム
116 入口弁システム113を出口弁システムと接続する流動室
116’ 流動室16の中空部
118 出口弁部材
119 出口弁座
120 出口弁ばね
121 入口弁システム115の入口弁ハウジング
122 流動室116の端部のOリング
123 流動室を保持するためのフランジ
124 入口弁ハウジング121に対してフランジ123及び流動室を保持するためのボルト
125 入口ボール弁として例示される入口逆止弁
126 ボール弁として例示される入口弁部材
127 入口弁座
128 入口弁ばね
129 入口弁システムの流路
130 流路129から流動室16の中空部116’への通路
131 ロッドとして例示される、ソレノイドプランジャに固定された押込み部材
132 ソレノイドコイル
133 ソレノイドコイル131内のソレノイドプランジャ
134 プランジャばね
135 プランジャストップ
136 自由移動距離を調整するための調整ねじ
203 流量計を備えるシリンダマニホールド
205 ポンプユニット
208 中央制御装置
210 ローカルシリンダ制御装置と中央制御装置との間の通信線
211 流量計フィードバック信号のための通信線
212 注入器信号バス
214 加圧オイル給送ライン
215 フィードバック制御アルゴリズム
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2024-05-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に往復式ピストンを有するシリンダ(1)と、潤滑油システムとを備える大型低速運転式2ストロークエンジンであって、前記潤滑油システムは、
潤滑油供給部(25)と、
注入フェーズ中に前記シリンダ(1)内へ前記シリンダ(1)の周囲長の様々な位置で潤滑油を注入するために前記シリンダ(1)の周囲長に沿って分散配置された複数の潤滑油注入器(4)と、
前記潤滑油供給部(25)を前記潤滑油注入器(4)と接続する、潤滑油供給導管(12)及び潤滑油戻りライン(13)と、
前記潤滑油の流れを測定するための少なくとも1つの流量計と、
を備え、
前記エンジンは、
前記潤滑油注入器(4)の少なくとも1つによって前記潤滑油の注入量及びタイミングを制御するための制御装置(11)と、
前記制御装置が接続されたコンピュータ(11’)と、
をさらに備え、
前記潤滑油注入器(4)の各々は、
前記潤滑油供給導管(12)に流体接続されて、そこから潤滑油を受け入れるための入口ポートと、
前記シリンダ(1)の中へ延びるノズル開口(5’)を備え、前記注入フェーズにおいて前記入口ポート(4A)から前記シリンダ(1)内に潤滑油を注入するように構成されたノズル(5)と、
注入サイクル中に前記注入器内の圧力室から前記ノズル開口(5’)への潤滑油の流れを開放及び閉鎖するために前記ノズル(5)にある調整可能弁と、
を備え、
前記エンジン内の全ての注入器に対して1つの流量計が配置され、1つの流量計がシリンダの全ての注入器に対して配置され、又は、1つの流量計が前記エンジンの注入器ごとに配置され、
前記制御装置は、前記測定された実際の流れを実際の量に変換するように構成され、
前記エンジンは、典型的には供給量として規定される、特定の動作モードにおいて注入される潤滑油量に関する複数の所望値をさらに含み、前記所望値は、前記制御装置内のデータベースに格納され、
前記制御装置は、特定の動作モードにおいて注入される潤滑油量に関する前記所望値を得るために、計算された前記実際の量を前記所望値と比較し、前記注入器を制御してその設定を調整するように構成され、
前記制御装置は、注入時に所望の潤滑油量を得るために、異なる注入フェーズで注入された前記潤滑油量を測定し、その結果をマッピングし、前記結果を用いて前記注入器の前記注入フェーズを決定することによって、前記注入器を較正するように構成される、
ことを特徴とする大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項2】
前記潤滑油システムは、機械駆動式システム、油圧駆動式システム及びコモンレールシステムから選択される、請求項1に記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項3】
前記流量計は、前記注入器に接続された前記潤滑油供給導管(12)に設けられる、請求項1又は2に記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項4】
前記流量計は、前記エンジンの注入器ごとに1つの流量計が配置される状況において、前記注入器に組み込まれている、請求項1又は2に記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項5】
前記エンジンは、油圧駆動式入口弁システムを備える、請求項1又は2に記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項6】
前記エンジンは、電気駆動式入口弁システムを備える、請求項1又は2に記載の大型低速運転式2ストロークエンジン。
【請求項7】
内部に往復式ピストンを有するシリンダ(1)と、システムとを備えた大型低速運転式2ストロークエンジンを潤滑する方法であって、前記システムは、
潤滑油供給部(25)と、
注入フェーズ中に前記シリンダ(1)内へ前記シリンダ(1)の周囲長の様々な位置で潤滑油を注入するために前記シリンダ(1)の周囲長に沿って分散配置された複数の潤滑油注入器(4)と、
前記潤滑油供給部(25)を前記潤滑油注入器(4)と接続する、潤滑油供給導管(12)及び潤滑油戻りライン(13)と、
前記潤滑油の流れを測定するための少なくとも1つの流量計と、
を備え、
前記エンジンは、
前記潤滑油注入器(4)の少なくとも1つによって前記潤滑油の注入量及びタイミングを制御するための制御装置(11)と、
前記制御装置が接続されたコンピュータ(11’)と、
をさらに備え、
前記潤滑油注入器(4)の各々は、
前記潤滑油供給導管(12)に流体接続されて、そこから潤滑油を受け入れるための入口ポートと、
前記シリンダ(1)の中へ延びるノズル開口(5’)を備え、前記注入フェーズにおいて前記入口ポート(4A)から前記シリンダ(1)内に潤滑油を注入するように構成されたノズル(5)と、
注入サイクル中に前記注入器内の圧力室から前記ノズル開口(5’)への潤滑油の流れを開放及び閉鎖するために前記ノズル(5)にある調整可能弁と、
を備え、
前記方法は、周期的な動作において、
前記注入フェーズにおいて、前記注入器の入口ポートに圧力液体を供給し、前記弁に力を加え、前記力によって前記注入器(4)内の弁本体を動かし、圧力が所定の上限を超えて上昇すると、前記ノズル開口(5’)を介して所定の潤滑油量を前記シリンダ(1)内にポンプ送給するステップと、
前記注入フェーズ後に、前記注入器から圧力液体を排出することによって前記弁本体を後退させるステップと、
後退させる間に、次の注入フェーズのために前記注入器内の前記圧力室に潤滑油を補充するステップと、
前記エンジンの全ての注入器に対して1つの流量計、前記シリンダの全ての注入器に対して1つの流量計、又は前記エンジンの注入器ごとに1つの流量計を提供するステップと、
前記少なくとも1つの流量計で前記潤滑油の流れを測定するステップと、
前記制御装置内で、前記測定された実際の流れを実際の量に変換するステップと、
を含み、
前記方法は、
典型的には供給量として規定される、特定の動作モードにおいて注入される潤滑油量に関する複数の所望値を前記エンジンに提供するステップであって、前記所望値は前記制御装置内のデータベースに格納されている、前記ステップと、
計算された前記実際の量を前記所望値と比較するステップと、
特定の動作モードにおいて、注入される潤滑油量に関する前記所望値に前記実際の量を調節するために、前記注入器を制御してその設定を調整するステップと、
10ミリ秒と10分との間で変化する異なった時間間隔で連続的に前記潤滑油量の調節を実行するステップであって、前記連続的な調節は、異なったサンプル間隔での前記潤滑油量の調整を含み、前記サンプル間隔は、注入ごとの1回の調節から、100回の先行する注入に基づく調節まで変化する、前記ステップと、又は
1分と30日との間、好ましくは1時間と30日との間、より好ましくは1日と30日との間の時間間隔で不連続的に前記潤滑油量の調整を実行するステップであって、前記不連続な調整は、前記注入器の較正を含み、前記較正は、注入時に所望の潤滑油量を得るために、異なる注入フェーズで注入された前記潤滑油量を測定し、その結果をマッピングし、前記結果を用いて前記注入器の前記注入フェーズを決定することによって実行される、前記ステップと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記注入器の前記較正は、前記注入器の動作スペクトルについて実行され、前記動作スペクトルは、典型的に0と100msとの間である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、自動検査プログラムを実施し、シリンダの前記注入器が所望の且つ十分な前記潤滑油量を供給するように制御するステップを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
不正確な潤滑油量が供給される状況において、特に前記潤滑油量が不十分な場合に、前記注入器の較正は、手動又は自動で実行される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記自動検査プログラムは、前記較正を補正するステップを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記潤滑油量の前記調節は、フィードバック制御/調節、例えばPID調節又はより高度なモデルベースの調節によって制御される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項13】
前記制御装置内のデータベースに調節値を格納するステップを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項14】
前記制御装置内のデータベースに注入器ごとの較正済みタイミング値を格納するステップを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項15】
25barから100barの範囲の潤滑油圧力で、大型船舶用エンジン又は発電装置用燃焼エンジンの前記シリンダ内へSIP注入するための、請求項1に記載のエンジンの使用。
【請求項16】
25barから100barの範囲の潤滑油圧力で、大型船舶用エンジン又は発電装置用燃焼エンジンの前記シリンダ内へSIP注入するための、請求項7に記載の方法の使用。
【国際調査報告】