(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-11
(54)【発明の名称】質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法およびシステム、高電圧パルス回路および選択回路
(51)【国際特許分類】
H01J 49/02 20060101AFI20241101BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20241101BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20241101BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241101BHJP
【FI】
H01J49/02 200
H01J49/16 400
H01J49/06 100
G01N27/62 E
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529808
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 CN2022131863
(87)【国際公開番号】W WO2023088228
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111370623.4
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202122831001.9
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524188169
【氏名又は名称】安▲図▼▲実▼▲験▼▲儀▼器(▲鄭▼州)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】蔡 克▲亜▼
(72)【発明者】
【氏名】李 向广
(72)【発明者】
【氏名】尚 元▲賀▼
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼ ▲楽▼▲楽▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 世▲闖▼
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 云昭
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 瑞峰
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲聡▼
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA03
2G041DA04
2G041GA06
2G041GA13
2G041GA29
2G041KA03
(57)【要約】
本発明は、質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法およびシステムを開示する。質量分析計に偏向導体が配置される、スクリーニング方法は、レーザー同期パルス信号が出力される前に、前記偏向導体に第1の電圧信号に接続されて、非ターゲットイオンの飛行方向を偏向させるための偏向電界を発生させ、ターゲットイオンが加速電界から飛び出す際に、ターゲットイオンがイオン検出器に到達させるために、偏向導体に第2の電圧信号を印加し、ターゲットイオンがすべて偏向導体を通過すると、第1の電圧信号を偏向導体に接続する。本発明によれば、検出器の耐用年数が延長され、非ターゲットイオンの干渉が低減される。高電圧パルス回路およびイオン選択回路は、第1の電圧源、第2の電圧源、パルス回路およびRC直列回路からなる回路を含み、第1の電圧源から出力される電圧と第2の電圧源から出力される電圧との電圧差は、所定の電圧以上であり、トランジスタスイッチは、オンとオフとの間で切り替え、高低レベル間の切り替えを実現できる。本発明は、高電圧パルス信号中の高低レベル間の切り替えのバッファ時間が短縮される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計における加速電界とイオン検出器との間のイオン飛行経路側に偏向導体が配置される、質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法であって、
前記偏向導体に偏向電界を生成させ、前記イオンが前記偏向電界を飛行する際に、前記イオン検出器に到達しないように飛行方向を偏向させるために、前記偏向導体に第1の電圧を印加するステップと、
レーザーに同期したパルスが出力されたことを検出したことに応じて、前記加速電界から飛び出すイオンのうちのターゲットイオンを偏向させるために、前記偏向導体に印加される第1の電圧を維持するステップと、
前記ターゲットイオンを偏向させる偏向電界を発生せず、前記ターゲットイオンが前記イオン検出器に到達できるようにするために、前記ターゲットイオンが前記加速電界から飛び出される際に、前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップと、
前記ターゲットイオンすべてが前記偏向導体を通過する際に、前記偏向導体に前記第1の電圧を印加するステップと、を含み、
前記偏向導体は、前記イオン飛行経路の両側に配置された少なくとも1対の導体板を含み、前記少なくとも1対の導体板のそれぞれは、第1の導体板および第2の導体板を含み、前記第1の導体板は接地されており、
前記偏向導体に第1の電圧を印加するステップは、
前記第2の導体板に接地電圧よりも高い高電圧を印加するステップを含むか、
または、前記第2の導体板に接地電圧よりも低い負高電圧を印加するステップと、を含み、
前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップは、
前記第2の導体板に接地電圧と等しい電圧を印加するステップを含む、ことを特徴とする質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法。
【請求項2】
前記偏向導体は、前記質量分析計に配置される集束電極であるか、または前記質量分析計の無電界領域に配置される金属管状シェルであり、
前記偏向導体に第1の電圧を印加するステップは、
前記偏向導体に前記イオンとは逆極性の高電圧を印加するステップを含み、
前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップは、
前記偏向導体接通前記イオンとは同じ極性の高電圧を印加するステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法。
【請求項3】
前記第1の電圧と前記第2の電圧を前記偏向導体に複数のサイクルにわたって交互に印加するステップをさらに含み、
ここで、複数のサイクルのそれぞれにおいて、前記第1の電圧を印加する持続時間と前記第2の電圧を印加する持続時間は、偏向されるべき非ターゲットイオンおよび偏向されないターゲットイオンの分子量によって決定される、ことを特徴とする請求項1または2に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法。
【請求項4】
質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステムであって、
入力端子がレーザーパルスを出力するためのレーザーパルス源に接続される、コントローラと、
出力端子が前記質量分析計に配置される偏向導体に接続され、入力端子が前記コントローラに接続される、イオン選択回路と、を含み、
前記コントローラは、請求項1から3のいずれか一項の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法を実施するために、前記第1の電圧と前記第2の電圧を交互に前記偏向導体に出力するように前記イオン選択回路を制御するように構成される、ことを特徴とする質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項5】
前記偏向導体は、前記イオン飛行経路の両側に配置された少なくとも1対の導体板を含み、前記少なくとも1対の導体板のそれぞれは、前記第1の導体板および前記第2の導体板を含み、前記第1の導体板は接地されており、
前記第2の導体板は、前記イオン選択回路の出力端子に接続され、前記イオン選択回路は、高電圧電源、パルス回路およびRC直列回路を含み、
前記パルス回路は、直列に接続される分圧器およびトランジスタスイッチを含み、前記パルス回路の一端は、前記高電圧電源の出力端子に接続され、前記パルス回路の他端は接地され、前記分圧器と前記トランジスタスイッチとが接続されるノードは、前記イオン選択回路の出力端子として機能され、前記RC直列回路の第1端子は、前記イオン選択回路の出力端子に接続され、前記RC直列回路の第2端子は接地され、
前記コントローラは、前記トランジスタスイッチの制御端子に接続され、前記コントローラは、前記トランジスタスイッチのオンとオフを切り替えるように構成される、ことを特徴とする請求項4に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項6】
前記分圧器の第1端子は、前記高電圧電源に接続され、第2端子は、前記トランジスタスイッチの第1端子に接続され、前記トランジスタスイッチの第2端子は接地され、
前記コントローラが電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断され、
前記コントローラが前記電気レベルよりも高い別の電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続される、ことを特徴とする請求項5に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項7】
前記トランジスタスイッチの第1端子は、前記高電圧電源に接続され、前記トランジスタスイッチの第2端子は前記分圧器の第1端子に接続され、前記分圧器の第2端子は接地され、
前記コントローラが電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断され、
前記コントローラが前記電気レベルよりも高い別の電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続される、ことを特徴とする請求項5に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項8】
前記イオン選択回路はRC並列回路をさらに含み、前記トランジスタスイッチの制御端子は、前記RC並列回路を介して前記コントローラに接続される、ことを特徴とする請求項5に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項9】
高電圧パルス回路であって、
第1の電圧源、第2の電圧源、パルス回路およびRC直列回路を含み、前記第1の電圧源が出力する電圧と前記第2の電圧源が出力する電圧との間の電圧差は、所定の電圧以上であり、
前記パルス回路は、直列に接続される分圧器およびトランジスタスイッチを含み、前記パルス回路の一端は、前記第1の電圧源に接続され、前記パルス回路の他端は前記第2の電圧源に接続され、前記分圧器と前記トランジスタスイッチとが接続されるノードは、高電圧パルス回路の出力端子であり、
前記RC直列回路の第1端子は、前記高電圧パルス回路の出力端子に接続され、前記RC直列回路の第2端子は前記第2の電圧源に接続され、
前記トランジスタスイッチは、前記トランジスタスイッチの制御端子によって受信されるスイッチ制御信号に従ってオンとオフとの間で切り替わるように構成される、ことを特徴とする高電圧パルス回路。
【請求項10】
前記分圧器の第1端子は前記第1の電圧源に接続され、第2端子は、前記トランジスタスイッチの第1端子に接続され、前記トランジスタスイッチの第2端子は前記第2の電圧源に接続され、
前記スイッチ制御信号が電気レベルである際に、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続され、
前記スイッチ制御信号が前記電気レベルよりも低い別の電気レベルである際に、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断される、ことを特徴とする請求項9に記載の高電圧パルス回路。
【請求項11】
前記トランジスタスイッチの第1端子は、前記第1の電圧源に接続され、第2端子は前記分圧器の第1端子に接続され、前記分圧器の第2端子は前記第2の電圧源に接続され、
前記スイッチ制御信号が電気レベルである際に、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続され、
前記スイッチ制御信号が前記電気レベルよりも低い別の電気レベルである際に、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断されことを特徴とする請求項9に記載の高電圧パルス回路。
【請求項12】
前記第1の電圧源は高電圧を出力する電源であり、前記第2の電圧源が出力する電圧は接地電圧であり、
または、前記第1の電圧源は高電圧を出力する電源であり、前記第2の電圧源は負高電圧を出力する電源であり、
または、前記第1の電圧源が出力する電圧は接地電圧であり、前記第2の電圧源は負高電圧を出力する電源である、ことを特徴とする請求項9に記載の高電圧パルス回路。
【請求項13】
前記トランジスタスイッチの制御端子に接続されるRC並列回路をさらに含み、前記トランジスタスイッチの制御端子は、前記RC並列回路を介して前記スイッチ制御信号を受信するように構成される、ことを特徴とする請求項9から12のいずれか一項に記載の高電圧パルス回路。
【請求項14】
質量分析計に適用するイオン選択回路であり、
前記質量分析計は、非ターゲットイオンを偏向させるための導体を含み、
前記イオン選択回路は、コントローラと、請求項9から13のいずれか一項に記載の高電圧パルス回路とを含み、
前記高電圧パルス回路の出力端子は、前記導体に接続され、前記コントローラの出力端子は、前記高電圧パルス回路上の前記トランジスタスイッチの制御端子に接続され、
ここで、前記コントローラは、前記高電圧パルス回路によって出力される高電圧パルス信号を2つの異なる電圧の間で切り替えるために、前記スイッチ制御信号を前記高電圧パルス回路に出力し、前記スイッチ制御信号を2つの異なるレベル間で切り替える、ことを特徴とするイオン選択回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年11月18日に中国特許局に提出し、出願番号が202111370623.4であり、発明名称が「質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法およびシステム」との中国特許出願、および2021年11月18日に中国特許局に提出し、出願番号が202122831001.9であり、発明名称が「高電圧パルス回路およびイオン選択回路」との中国特許出願を基礎とする優先権を主張し、その開示の総てをここに取り込む。
【0002】
本発明は、イオン検出の技術分野に関し、特に質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法およびシステム、高電圧パルス回路およびイオン選択回路に関する。
【背景技術】
【0003】
図1に示すように、
図1は一般的に使用される質量分析計の概略構造図である。レーザーパルス源が励起レーザーをサンプルに放射し、イオン源サンプルからイオンを発生させ、イオンは加速フィールドで加速され、フィールドフリードリフトチューブに入り、一定速度でイオン検出器に向かって飛行する。実際には、イオン源サンプルでは、励起によって生成されたイオンのすべてが、検出が必要なターゲットイオンであるわけではなく、特定の範囲内の分子量を持つターゲットイオンのみが集中的に検出と分析の対象となる。しかし、現在の従来の質量分析計では、イオン源サンプルを励起して生成されたイオンはすべてイオン検出器に向かって飛行し、最終的にイオン検出器によって受信される。イオン検出器は限られた量のイオンしか受信して検出できず、使用時間が経過すると、検出されたイオンの量が上限に達すると使用できなくなる。そのため、イオン検出器で受信して検出されたイオンの中には、役に立たない非ターゲットイオンが大量に含まれ、イオン検出器の寿命がある程度短縮されてしまう。なので、イオン源サンプルから生成された非ターゲットイオンがイオン検出器に受信されるのを防ぐことができれば、イオン検出器の寿命を大幅に延ばすことができる。
【0004】
パルス信号はさまざまな電子機器や電気機器でよく使われる電気信号で、例えば矩形パルス信号はリレースイッチの制御信号として使用できる。理想的な矩形パルス信号は、高レベルから低レベルへの立ち下がり、または低レベルから高レベルへの立ち上がりの過程でバッファリング遅延が発生しない。しかし、実際には、高レベルから低レベルへの立ち下がり、低レベルから高レベルへの立ち上がりにおいて、遅延を全くゼロにすることは不可能である。現時点では、低電圧パルス信号では高レベルから低レベルへの立ち下がりと低レベルから高レベルへの立ち上がりの遅延時間をほぼ無視できる程度まで短縮できるが、高電圧パルス信号については、このようなバッファリング遅延を満足できる程度に短縮することはまだ困難であるため、制御に高電圧パルス信号を使用する場合、達成できる精度は限られており、高電圧パルス信号の適用がある程度制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法およびシステムを提供することにより、検出器に到達する非ターゲットイオンの数をある程度減少させ、それによって質量分析計における検出器の寿命を延ばすことである。また、本発明は、高電圧パルス回路およびイオン選択回路を提供することにより、高電圧パルス信号の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの遅延をある程度短縮し、高電圧パルス信号の制御精度を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を解決するために、本発明は、質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法を提供する。本発明の実施形態によれば、質量分析計における加速電界と検出器との間のイオン飛行経路側に偏向導体が配置され、前記スクリーニング方法は、
偏向導体に偏向電界を発生させ、前記イオンが前記偏向電界を飛行する際に、前記イオン検出器に到達しないように飛行方向を偏向させるために、前記偏向導体に第1の電圧を印加するステップと、
レーザーに同期したパルスが出力されたことを検出したことに応じて、前記加速電界から飛び出すイオンのうちのターゲットイオンを偏向させるために、前記偏向導体に印加される第1の電圧を維持するステップと、
前記ターゲットイオンを偏向させる偏向電界を発生せず、前記ターゲットイオンが前記イオン検出器に到達できるようにするために、ターゲットイオンが前記加速電界から飛び出される際に、前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップと、
前記ターゲットイオンすべてが前記偏向導体を通過する際に、前記偏向導体に前記第1の電圧を印加するステップと、を含む。
【0007】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記偏向導体は、前記イオン飛行経路の両側に配置された少なくとも1対の導体板を含み、少なくとも1対の前記偏向導体板のそれぞれは、第1の導体板および第2の導体板を含み、前記第1の導体板は接地されており、
前記偏向導体に第1の電圧を印加するステップは、
前記第2の導体板に接地電圧よりも高い高電圧を印加するステップを含むか、
または、前記第2の導体板に接地電圧よりも低い負高電圧を印加するステップを含み、
前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップは、
前記第2の導体板に接地電圧と等しい電圧を印加するステップを含む。
【0008】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記偏向導体は、前記質量分析計に配置される集束電極であるか、または前記質量分析計の無電界領域に配置される金属管状シェルであり、
前記偏向導体に第1の電圧を印加するステップは、
前記偏向導体に前記イオンとは逆極性の高電圧を印加するステップを含み、
前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップは、
前記偏向導体接通前記イオンとは同じ極性の高電圧を印加するステップを含む。
【0009】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記第1の電圧と前記第2の電圧を前記偏向導体に複数のサイクルにわたって交互に印加するステップをさらに含み、
ここで、複数のサイクルのそれぞれにおいて、前記第1の電圧を印加する持続時間と前記第2の電圧を印加する持続時間は、偏向されるべき非ターゲットイオンおよび偏向されないターゲットイオンの分子量によって決定される。
【0010】
本発明によって提供される質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステムは、
入力端子がレーザーパルスを出力するためのレーザーパルス源に接続される、コントローラと、
出力端子が前記質量分析計に配置される偏向導体に接続され、入力端子が前記コントローラに接続される、イオン選択回路と、を含み、
上記いずれかの質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法のステップを実施するために、前記コントローラは、前記偏向導体に第1の電圧と第2の電圧との間で切り替えられる電圧を出力するように、前記イオン選択回路を制御する。
【0011】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記偏向導体は、前記イオン飛行経路の両側に配置された少なくとも1対の導体板を含み、少なくとも1対の前記偏向導体板のそれぞれは、第1の導体板および第2の導体板を含み、前記第1の導体板は接地されており、
前記第2の導体板は、前記イオン選択回路の出力端子に接続され、前記イオン選択回路は、高電圧電源、パルス回路およびRC直列回路を含み、
前記パルス回路は、直列に接続される分圧器およびトランジスタスイッチを含み、前記パルス回路の一端は、前記高電圧電源の出力端子に接続され、前記パルス回路の他端は接地され、前記分圧器と前記トランジスタスイッチとが接続されるノードは、前記イオン選択回路の出力端子として機能され、前記RC直列回路の第1端子は、前記イオン選択回路の出力端子に接続され、前記RC直列回路の第2端子は接地され、
前記コントローラは、前記トランジスタスイッチの制御端子に接続され、前記コントローラは、前記トランジスタスイッチのオンとオフを切り替えるように構成される。
【0012】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記分圧器の第1端子は、高電圧電源に接続され、第2端子は、前記トランジスタスイッチの第1端子に接続され、前記トランジスタスイッチの第2端子は接地され、
前記コントローラが電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断され、
前記コントローラが前記電気レベルよりも高い別の電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続される。
【0013】
本発明の選択可能な一実施形態では、トランジスタスイッチの第1端子は高電圧電源に接続され、第2端子は、分圧器の第1端子に接続され、分圧器の第2端子は接地され、
前記コントローラが電気レベルを出力することに応答して、トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断され;
前記コントローラが前記電気レベルよりも高い別の電気レベルを出力することに応答して、トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続される。
【0014】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記イオン選択回路はRC並列回路をさらに含み、前記トランジスタスイッチの制御端子は、前記RC並列回路を介して前記コントローラに接続される。
【0015】
本発明は、質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法を提供する。質量分析計における加速電界と検出器との間のイオン飛行経路側に偏向導体が配置され、スクリーニング方法は、偏向導体に第1の電圧を印加して偏向導体に偏向電界を発生させ、イオンが前記偏向電界を飛行する際に、前記イオン検出器に到達しないように飛行方向を偏向させるステップと、レーザーに同期したパルスが出力されたことを検出したことに応じて、前記加速電界から飛び出すイオンのうちのターゲットイオンを偏向させるために、前記偏向導体に印加される第1の電圧を維持するステップと、
前記ターゲットイオンを偏向させる偏向電界を発生せず、前記ターゲットイオンが前記イオン検出器に到達できるようにするために、ターゲットイオンが前記加速電界から飛び出される際に、前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップと、
前記ターゲットイオンすべてが前記偏向導体を通過する際に、前記偏向導体に前記第1の電圧を印加するステップと、を含む。
【0016】
本発明によれば、異なる分子量を持つイオンが検出器に向かって飛行するときに質量分析計の無電界領域を異なる時間に通過するという原理が採用される。レーザーパルス源が活性化される前に、質量分析計における偏向導体に第1の電圧を印加し、こうして、レーザーパルス源が活性化されると、偏向導体によって生成された偏向電界は、非ターゲットイオンの飛行方向を偏向することができる。また、ターゲットイオンが飛行し始めると、第2の電圧信号を偏向導体に接続に印加し、こうして、偏向導体はもはや偏向させる電界を生成しない。ターゲットイオンを偏向させる電界を生成しない。すべてのターゲットイオンが無電界領域を通過した後、偏向導体に再び第1の電圧が印加される。これにより、偏向導体によって生成された電界は、検出器に到達するのを防ぐために、ターゲットイオン分子量より大きいか、またはターゲットイオン分子量より小さいイオンの両方を偏向させることができることが保証される。こうして、さらに、イオン検出器はターゲットイオンのみを検出した結果を提示するため、ターゲットイオンの検出に対する非ターゲットイオンからの干渉をある程度に回避できる。
【0017】
本発明は、質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステムをさらに提供し、このシステムも上記有益な効果を有する。
【0018】
本発明によって提供される高電圧パルス回路は、第1の電圧源、第2の電圧源、パルス回路およびRC直列回路を含み、前記第1の電圧源が出力する電圧と前記第2の電圧源が出力する電圧との間の電圧差は、所定の電圧以上である。
ここで、前記パルス回路は、直列に接続される分圧器およびトランジスタスイッチを含み、前記パルス回路の一端は、前記第1の電圧源に接続され、前記パルス回路の他端は前記第2の電圧源に接続され、前記分圧器と前記トランジスタスイッチとが接続されるノードは、高電圧パルス回路の出力端子であり、
前記RC直列回路の第1端子は、前記高電圧パルス回路の出力端子に接続され、前記RC直列回路の第2端子は前記第2の電圧源に接続され、
前記トランジスタスイッチは、前記トランジスタスイッチの制御端子によって受信されるスイッチ制御信号に従ってオンとオフとの間で切り替わるように構成される。
【0019】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記分圧器の第1端子は第1の電圧源に接続され、第2端子は、前記トランジスタスイッチの第1端子に接続され、前記トランジスタスイッチの第2端子は前記第2の電圧源に接続され、
前記スイッチ制御信号が高レベル信号にあることに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続され、
前記スイッチ制御信号が前記電気レベルよりも低い別の電気レベルにあることに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断される。
【0020】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記トランジスタスイッチの第1端子は、前記第1の電圧源に接続され、第2端子は前記分圧器の第1端子に接続され、前記分圧器の第2端子は前記第2の電圧源に接続され、
前記スイッチ制御信号があることに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続され、
前記スイッチ制御信号が電気レベルよりも低い別の電気レベルにあることに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断される。
【0021】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記第1の電圧源は正の電圧を出力する電源であり、第2の電圧源が出力する電圧は接地電圧であり、
または、前記第1の電圧源は正の電圧を出力する電源であり、前記第2の電圧源は負高電圧を出力する電源であり、
または、前記第1の電圧源が出力する電圧は接地電圧であり、前記第2の電圧源は負高電圧を出力する電源である。
【0022】
本発明の選択可能な一実施形態では、前記トランジスタスイッチの制御端子に接続されるRC並列回路をさらに含み、前記トランジスタスイッチの制御端子は、前記RC並列回路を介して前記スイッチ制御信号を受信する。
【0023】
イオン選択回路は質量分析計に適用され、ここで、前記質量分析計は、非ターゲットイオンを偏向させるための導体を含み、
前記イオン選択回路、コントローラと、前述の高電圧パルス回路を含み、
前記高電圧パルス回路の出力端子は、前記導体に接続され、前記コントローラの出力端子は、前記高電圧パルス回路上の前記トランジスタスイッチの制御端子に接続され、
ここで、前記コントローラは、前記高電圧パルス回路によって出力される高電圧パルス信号を2つの異なる電圧の間で切り替えるために、スイッチ制御信号を前記高電圧パルス回路に出力し、前記スイッチ制御信号を2つの異なるレベル間で切り替える。
【0024】
本発明によって提供される高電圧パルス回路は、第1の電圧源、第2の電圧源、パルス回路およびRC直列回路を含み、第1の電圧源が出力する電圧と第2の電圧源が出力する電圧との間の電圧差は、所定の電圧以上であり、ここで、パルス回路は、直列に接続される分圧器およびトランジスタスイッチを含み、パルス回路の一端は、第1の電圧源に接続され、他端は、第2の電圧源に接続され、分圧器とトランジスタスイッチとが接続されるノードは、高電圧パルス回路の出力端子であり、RC直列回路の第1端子は、高電圧パルス回路の出力端子に接続され、第2端子は第2の電圧源に接続され、トランジスタスイッチは、トランジスタスイッチの制御端子によって受信されるスイッチ制御信号に従ってオンとオフとの間で切り替わるように構成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、トランジスタスイッチと分圧器は直列に接続され、第1の電圧源と第2の電圧源の間のパルス回路として機能する。前記トランジスタスイッチは、高電圧パルス回路がトランジスタと分圧器の間のノードに高電圧パルスを生成するように、オンとオフの間で切り替わる。第1の電圧源が出力する電圧は高電圧パルス信号の高電圧となり、第2の電圧源が出力する電圧は高電圧パルス信号の低電圧となる。トランジスタスイッチと分圧器は等価なRC回路を構成し、高電圧と低電圧の切り替えに遅延をもたらす。ここで、RC直列回路はさらに、高電圧パルス回路の出力端子と第2の電圧源との間に並列に接続されている。RC直列回路は、トランジスタスイッチ内の接合コンデンサの充放電が可能であるため、制御信号に基づくトランジスタスイッチのオン/オフの消費時間が短く、高電圧パルス信号における高電圧と低電圧の切り替えの遅延を低減することができる。このため、出力される高電圧パルス信号は、数ナノ秒の単位で高電圧と低電圧を切り替えることができ、高電圧パルス信号の幅広い応用が容易となる。
【0026】
発明の実施形態によれば、イオン選択回路がさらに提供され、これもまた上記有益な効果を有する。
【0027】
本発明の実施形態または従来技術による技術的解決策をより明確に説明するために、以下に本発明の実施形態または従来技術に適用される図面について簡単に説明する。明らかに、以下の説明における図面は、本発明のいくつかの実施形態にすぎず、当業者は、提供された図面に基づいて創造的な努力なしに他の図面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】本発明の実施形態によって提供される質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態によって提供される質量分析計の概略構造図である。
【
図4】ターゲットイオンと非ターゲットイオンをスクリーニングせずに検出器で得られる質量スペクトルである。
【
図5】1つの範囲内の分子量を持つターゲットイオンをスクリーニングすることによって検出器によって得られる質量スペクトルである。
【
図6】複数の範囲内の分子量を持つターゲットイオンをスクリーニングすることによって検出器によって得られる質量スペクトルである。
【
図7】本発明の実施形態によって提供されるイオン選択回路の概略構造図である。
【
図8】本発明の実施形態によって提供される別のイオン選択回路の概略構造図である。
【
図9】本発明の実施形態によって提供される高電圧パルス回路の概略構造図である。
【
図10】本発明の実施形態によって提供される別の高電圧パルス回路の概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1を参照すると、質量分析装置において、レーザーパルス源2aのレーザー出力により励起された、イオン源サンプル01内のイオンのうち、異なる分子量のイオンは加速電界Uで異なる速度に加速され、加速電界Uにおけるイオンの加速速度は、分子量が小さいほど大きくなり、逆に分子量が大きいほど小さくなる。分子量の小さいイオンは加速電界Uから先に出て無電界領域へ入って検出器1に向かって飛び、分子量の大きいイオンは加速電界Uから後に出て無電界領域を通って検出器1に向かって飛ぶ。
【0030】
一般的に、実際のイオン検出では、特定の範囲内の分子量を持つターゲットイオンのみが、検出する必要があるイオンであり、他の範囲内の分子量のイオンは非ターゲットイオンである。当該非ターゲットイオンは、イオン検出器1に到達して検出されると、イオン検出器1の寿命が短くなるだけでなく、ターゲットイオンの検出結果がぼやけてしまう。
【0031】
上記のような課題を解決するため、本発明では、ターゲットイオンと非ターゲットイオンの質量の異なりが、ターゲットイオンと非ターゲットイオンが無電界領域を通過する時間の差につながることを利用して、ターゲットイオンと非ターゲットイオンをスクリーニングし、非ターゲットイオンが無電界領域を通過する場合、非ターゲットイオンがイオン検出器1に向かって飛ぶのを防ぐ。これにより、非ターゲットイオンはイオン検出器1に到達できず、ターゲットイオンのみが最終的にイオン検出器1に到達して検出され、イオン検出器の寿命が延び、検出結果が示す鮮明度が向上する。
【0032】
当業者が本発明の解決策をよりよく理解できるようにするために、添付の図面および特定の実施形態と併せて、以下で本発明をさらに詳細に説明する。明らかに、説明した実施形態は本発明の実施形態の一部にすぎず、すべての実施形態ではない。本発明の実施形態に基づいて、創造的な努力なしに当業者によって得られる他のすべての実施形態は、本発明の保護の範囲内に含まれる。
【0033】
図2および
図3に示すように、
図2は、本発明の実施例によって提供される質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法のフローチャートである。
図3は本発明の実施例によって提供される質量分析計の概略構造図である。本発明に係る質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法を実施するために、質量分析計における加速電界と検出器との間の無電界領域において、イオン飛行経路の側に偏向導体が配置されている。
図3に示す質量分析計を例として挙げる。当該偏向導体は、無電界領域に配置される平板導体であってもよい。このような基礎に基づいて、本発明に係る質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法は、以下のステップS11~S14を含む。
【0034】
S11:偏向導体に第1の電圧を印加して偏向導体に偏向電界を発生させ、イオンが前記偏向電界を飛行する際に、前記イオン検出器に到達しないように飛行方向を偏向させる。
【0035】
無電界領域を飛行するイオンの飛行方向は直線であり、すなわち
図3において加速電界Uの出口が検出器1に向かう方向である。無電界領域では、外力がないため、イオンは同じ速度と方向に飛び続ける。第1の電圧が偏向導体に印加されると、すぐに、偏向導体の周囲に電界が生成される。イオンは、当該電界によって占められた空間領域を通過する際に、飛行方向が電界の下で偏向され、イオン検出器1に到達できなくなる。
【0036】
S12では、レーザー同期パルス信号を検出し、レーザー同期パルス信号が出力された後、偏向導体に印加された第1の電圧をそのままに維持し、加速電界から飛び出す非ターゲットイオンの飛行方向を偏向させる。
【0037】
レーザー同期パルス信号は、レーザーパルス源がイオン源サンプル01にレーザーを放射することを開始する信号でもある。一般的には、レーザー同期パルス信号の出力開始時に第1の電圧を偏向導体に同期印加すればよい。しかしながら、本実施形態では、レーザー同期パルス信号の出力を検出した後、直ちに第1の電圧を印加するように偏向導体を同期制御することは困難である。その結果、レーザー同期パルスが出力され始める時点に対して、偏向導体に第1の電圧が印加され始める時点が遅れることになる。このような遅延の間に、非ターゲットイオンの一部が励起から発生し、検出器に到達する可能性がある。上記の問題を考慮し、本発明の実施形態では、非ターゲットイオンのスクリーニング精度を向上させるために、レーザー同期パルスがレーザー源2を起動する前に、偏向導体に第1の電圧を印加する。これにより、非ターゲットイオンが発生する限り、偏向導体は非ターゲットイオンを偏向することができ、非ターゲットイオンは検出器1に到達することができない。
【0038】
さらに、偏向導体によって生成される電界の強さが非ターゲットイオンに十分な偏向力を及ぼすことができることを保証するために、第1の電圧の振幅は一定の要件を満たすべきである。前記第1の電圧は高電圧であることが好ましい。
【0039】
S13では、ターゲットイオンが加速電界から飛び出すことに応じて、偏向導体に第2の電圧信号を印加し、偏向電界の発生を停止し、イオンのうちのターゲットイオンが検出器に到達できるようにするために、偏向導体に第2の電圧が印加される。
【0040】
第2の電圧の具体的な形は、偏向導体のタイプに強く依存する。
【0041】
本発明の選択可能な一実施形態では、偏向導体は、イオン飛行経路の両側に配置される少なくとも1対の偏向導体板であってもよい。各導体板対は、第1の導体板と第2の導体板とを含み、第1の導体板は接地される。
【0042】
偏向導体に第1の電圧を印加する工程は、第2の導体板に接地電圧よりも高い高電圧を印加する工程を含むか、または、第2の導体板に接地電圧よりも低い負高電圧を印加する工程を含む。
【0043】
偏向導体に第2の電圧信号を印加する工程は、第2の導体板に接地電圧と等しい電圧を印加する工程を含む。
【0044】
図3に示すように、偏向導体は一対の導体板として実施されている。第1の導体板31は接地されており、第2の導体板32に高電圧が印加されることに応じて、第1の導体板31と第2の導体板32との間に偏向電界が形成される。それによって、電荷を持つ非ターゲットイオンは第1の導体板31と第2の導体板32との間を飛行する際、当該偏向電界によって偏向される。
【0045】
このようなことに基づいて、ターゲットイオンが第1の導体板31と第2の導体板32との間の領域に入り始めると、イオンを偏向させるための電界を発生させることができないことは明らかである。この場合には、第1の導体板31と第2の導体板32との間に電界が存在しないように、第2の導体板32に接地電圧を印加してもよい。ターゲットイオンは、第1の導体板31と第2の導体板32との間の領域を飛行するときに偏向されず、イオン検出器1に到達することができる。
【0046】
しかしながら、実際の応用においては、イオン飛行経路の両側に設けられる偏向導体は、必ずしも一対の導体板である必要はなく、導体が1つしかない場合でも、高電圧が導体コンポーネントに印加されて導体コンポーネントに電界が形成されると、非ターゲットイオンも偏向される可能性がある。ターゲットイオンが飛行すると、当該導体コンポーネントに印加された高電圧が接地電圧に切り替わり、当該導体コンポーネントの周囲の電界がなくなり、ターゲットイオンが検出器1に到達することができる。
【0047】
本発明の別の選択可能な実施形態では、偏向導体は、質量分析計に配置される集束電極4であってもよく、または質量分析計の無電界領域に配置される金属管状シェルであってもよい。
【0048】
偏向導体に第1の電圧を印加する工程は、偏向導体にイオンとは逆極性の高電圧を印加する工程を含む。
【0049】
偏向導体に第2の電圧信号を印加する工程は、偏向導体にイオンの電気極性と同じ高電圧を印加する工程を含む。
【0050】
集束電極4は、偏向導体の一例として挙げられる。質量分析計の集束電極4は金属管であり、加速電界Uの出口に配置される。従来の質量分析計では、加速電界Uで加速された後、イオン源サンプル01の励起によって生成されたイオンがすべてイオン検出器1に向かって飛ぶことを保証できず、いくつかのイオンは特定の偏向角で飛行する可能性がある。そのため、質量分析装置内に集束電極4を配置する必要がある。イオン源サンプル01を励起するレーザーによって生成されたイオンがすべて正イオンである場合、集束電極4に正の電圧が印加される。これにより、当該集束電極4の金属管には、金属管の中心軸に電界線が収束する電界が生成される。イオンが当該集束電極4の中心軸から外れた方向に飛行すると、当該電場によって駆動されたイオンの飛行軌道は、集束電極4の中心軸に近接しているため、最終的なイオンの飛行軌道は集束電極4の中心軸が位置する直線とほぼ一致する。同様に、励起によって生成されるすべてのイオンが負イオンの場合、集束電極4に負電圧が印加され、集束電極4の円筒内で発生した電界線の方向は、集束電極4の中心軸から集束電極4の内側壁に向かう方向となる。
【0051】
同一サンプル上でレーザーの励起により生成され加速電界Uから飛び出すターゲットイオンと非ターゲットイオンは、同じ電気極性を持つことに留意されたい。
【0052】
したがって、本発明は、ターゲットイオンと非ターゲットイオンが当該集束電極4を通過するときに、集束電極4に異なる電圧信号を印加し、ターゲットイオンと非ターゲットイオンのスクリーニングを実施する。
【0053】
例として、ターゲットイオンと非ターゲットイオンの両方とも正電荷を持つイオンである。非ターゲットイオンが当該集束電極4を通過するとき、集束電極に印加した第1の電圧信号は0V未満の負電圧であり、集束電極4は、イオンを引き付けるため、非ターゲットイオンの飛行軌道は、集束電極4の中心軸から外れ、集束電極4の側壁側に偏向してイオン検出器1に到達できなくなる。
【0054】
ターゲットイオンが集束電極4の円筒内を通過すると、集束電極4に印加した第2の電圧は、0V電圧よりも大きな正電圧とみなすことができる。この時、集束電極4がイオンに及ぼす力は斥力となり、ターゲットイオンの飛行軌道が集束電極4の中心軸に近づき、よりスムーズにイオン検出器1に到達するようになる。
【0055】
同様に、ターゲットイオンと非ターゲットイオンの両方とも負電荷を持つイオンである場合、第1の電圧信号は、0V電圧よりも大きな正電圧であり、第2の電圧信号は、0V電圧未満の負電圧である。
【0056】
質量分析計の無電界領域に配置される金属管状シェル5が偏向導体として使用される場合、その動作方法および原理は偏向導体としての集束電極4と同じであり、第1の電圧がイオンの電気極性と反対であり、第2の電圧がイオンの電気極性と同一である。詳細はここでは繰り返さない。
【0057】
S14:ターゲットイオンがすべて偏向導体を通過すると、偏向導体に第1の電圧を印加する。
【0058】
一般的に、イオン源サンプル01を励起することによって生成されたイオンのうち、ターゲットイオンよりも分子量が大きい非ターゲットイオンもあれば、ターゲットイオンよりも分子量が小さい非ターゲットイオンも存在する。当然のことながら、ターゲットイオンよりも分子量が大きい非ターゲットイオンは、ターゲットイオンよりも遅く飛行するため、ターゲットイオンがイオン検出器1に到達した後も、イオン検出器に向かって飛行するターゲットイオンよりも分子量が大きい一部の非ターゲットイオンが存在する可能性がある。非ターゲットイオンがイオン検出器1に到達するのを最大限に避けるために、ターゲットイオンが無電界領域を通過した後、第1の電圧がさらに偏向導体に印加される。ターゲットイオンよりも分子量が大きい非ターゲットイオンを偏向させることで、最終的にターゲットイオンのみがイオン検出器1にスムーズに到達することができる。
【0059】
さらに、検出する必要があるターゲットイオンは、たとえば、(0,a1]、(a1,a2]、(a2,a3]、(a3,a4]、(a4,a5]のように、複数の断続的で切断された分子量イオン領域に分布する場合がある。ここで、2つの分子量イオン領域(a1,a2]と(a3,a4]内の分子量を有するイオンがターゲットイオンである。3つの分子量イオン領域(0,a1]、(a2,a3]、(a4,a5]内の分子量を有するイオンが非ターゲットイオンである。イオンのスクリーニング中、偏向導体に第1の電圧と第2の電圧を繰り返して交互に印加することができる。第1の電圧を印加する時間と第2の電圧を印加する時間は、偏向されるべき非ターゲットイオンと偏向されないターゲットイオンの分子量に応じて決定される。3つの分子量イオン領域(0,a1]、(a2,a3]、(a4,a5]内の分子量を有する非ターゲットイオンが無電界領域を通過すると、偏向導体に第1の電圧を印加し、2つの分子量イオン領域(a1,a2]および(a3,a4]内の分子量を有するターゲットイオンの場合、偏向導体に第2の電圧を印加する。
【0060】
図4~
図6を参照すると、
図4は、ターゲットイオンと非ターゲットイオンをスクリーニングせずに検出器で得られる質量スペクトルである。
図5は、1つの領域内の分子量を持つターゲットイオンをスクリーニングすることによって検出器によって得られる質量スペクトルである。
図6は、複数の領域内の分子量を持つターゲットイオンをスクリーニングすることによって検出器によって得られる質量スペクトルである。
図4と
図5を比較すると、図の質量スペクトルにおける低分子量マトリックス分子のスペクトルピークには多数の低分子量マトリックスピークが含まれる。これにより、イオン検出器の寿命が縮まる。また、分子量の小さいマトリックス分子イオンのスペクトルピークは雑音ピークとなり、質量スペクトルの信号対雑音比を低下させ、機器の計算がより複雑になる。
図5では、所定の1つの分子量範囲内の分子量を持つターゲットイオンが検出器に到達するように選択され、残りの範囲の非ターゲットイオンは検出器に到達できないように偏向される。
図6では、所定の2つの分子量範囲内の分子量を持つターゲットイオンが検出器に到達するように選択され、イオン質量スペクトルを取得する。ターゲット分子量範囲内の分子量を持つターゲットイオンのみがスクリーニングされてイオン検出器に到達し、スクリーニングによって不要な非ターゲットイオンが除去される。これにより、イオン検出器の損失が大幅に減少され、イオン検出器の耐用年数が長くなり、さらに、質量スペクトルの雑音が低減され、信号対雑音比が大幅に改善される。したがって、ターゲット分子量範囲内の分子量を持つイオンの質量スペクトルを分析して処理するだけで、その後の機器の計算が簡素化され、効率が向上する。
【0061】
以上をまとめると、本発明では、質量分析計内のイオンが飛び交う無電界領域に偏向導体を配置し、レーザーパルス源の起動前に、偏向導体が偏向電界を発生できるようにする電圧が当該偏向導体に印加される。最初に無電界領域に入るすべての非ターゲットイオンが偏向され、イオン検出器に到達できないようにする。ターゲットイオンがそのような無電界領域に入ると、ターゲットイオンが偏向導体によって偏向されないように、偏向導体に印加される電圧が切り替わり、さらに、偏向導体によってターゲットイオンよりも分子量が大きい非ターゲットイオンが偏向される。これにより、非ターゲットイオンは最大限に偏向され、イオン検出器に到達する非ターゲットイオンの数が最小限に抑えられ、イオン検出器の摩耗を遅らせ、イオン検出器の耐用年数を延ばす。
【0062】
本発明は、質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステムの実施例をさらに提供する。当該イオンをスクリーニングするためのシステムは、
入力端子がレーザーパルスを出力するためのレーザーパルス源に接続される、コントローラと、
出力端子が質量分析計内に配置された偏向導体に接続され、入力端子がコントローラに接続される、イオン選択回路と、を含む。
【0063】
前記コントローラは、イオン選択回路を制御して第1の電圧および第2の電圧を偏向導体に出力し、上記のいずれか1つによる質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法のステップを実施するために使用される。
【0064】
上記の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法に基づいて、偏向導体がターゲットイオンと非ターゲットイオンのスクリーニングを達成するために、偏向導体に印加される電圧は、2つの異なる一定電圧間で切り替えられる。したがって、偏向導体に印加される電圧は方形波パルスとみなすことができ、当該イオン選択回路は実際には方形波パルスを出力する構造を採用することができる。非ターゲットイオンを偏向させるために偏向導体によって生成される電場の要件を満たすために、方形波パルスにおける高電圧と低電圧との間の電圧差は、特定の値以上でなければならない。すなわち、イオン選択回路から出力されるパルス電圧信号は高電圧パルスである必要がある。
【0065】
理論的には、方形波パルス信号は、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジで高電圧と低電圧の間で瞬時に切り替わる。実際には、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの両方から遅延の影響を受ける。特に、高電圧と低電圧の電圧差が大きい高電圧パルスでは、高電圧と低電圧の切り替え時に電圧の急激な上昇と急激な下降を実現することが難しい。ターゲットイオンが質量分析計を通過する時点と非ターゲットイオンが質量分析計を通過する時点の時間差は短く、実質的には数ナノ秒のオーダーである。したがって、イオンを選択する回路がある電圧の出力と別の電圧の出力を切り替える場合、非ターゲットイオンとターゲットイオンの正確なスクリーニングを達成できるように、高電圧と低電圧の間の速い立ち上がりと速い立ち下がりが必要である。
【0066】
偏向導体がイオン飛行経路の両側に配置された、少なくとも1対の偏向導体板があることが例として挙げられる。各導体板対は第1の導体板と第2の導体板から構成され、第1の導体板は接地されており、第2の導体板は、イオン選択回路に接続される。
図7と
図8を参照すると、
図7は、本発明の実施例によって提供されるイオン選択回路の概略構造図である。
図8は、本発明の実施例によって提供される別のイオン選択回路の概略構造図である。
【0067】
本発明の選択可能な一実施形態では、当該イオン選択回路は、高電圧電源HVと、パルス回路と、RC直列回路とを含む。
図7と
図8に示すように、当該RC直列回路は、直列に接続された高耐圧コンデンサC2と高耐圧抵抗器R3で構成されている。高耐圧抵抗器R3には大きな電力が供給されるため、その抵抗は分圧器R2の抵抗よりも小さくなる。
【0068】
パルス回路は、直列に接続される分圧器R2とトランジスタスイッチQとを含む。
【0069】
パルス回路の一端は、高電圧電源HVの出力端子に接続され、パルス回路の他端は接地される。
【0070】
分圧器R2とトランジスタスイッチQが接続されたノードは、イオン選択回路の出力端子OUTとして機能する。
【0071】
RC直列回路の一端は、イオン選択回路の出力端子OUTに接続され、RC直列回路の他端は接地される。
【0072】
コントローラは、トランジスタスイッチQの制御端子に接続され、コントローラは、トランジスタスイッチのオンとオフを切り替えるように構成されている。
【0073】
選択的に、RC並列回路は、コントローラとトランジスタスイッチQの制御端子との間にさらに配置される。当該RC並列回路では、抵抗器R1とコンデンサC1が並列に接続されている。
【0074】
本実施形態によれば、高電圧パルスの出力は、主に分圧器R2とトランジスタスイッチQで構成されるパルス回路によって実現され、当該パルス回路の一端は高電圧電源HVの出力端子に接続され、当該パルス回路の他端は接地される。さらに、トランジスタスイッチQの制御端子とコントローラの出力端子は、RC並列回路を介して接続され、コントローラが制御信号を出力してトランジスタスイッチQのオンとオフを切り替えるようにする。トランジスタスイッチQのオンとオフは、トランジスタスイッチQと分圧器R2の間のノードにおける電圧が接地電圧であるか、高電圧電源HVの出力電圧であるかを決定することができる。これにより、パルス回路によって出力される電圧は、高電圧と接地電圧の間で切り替わる。
【0075】
分圧器R2とトランジスタスイッチQで構成されるパルス回路の場合、分圧器R2は分圧抵抗器または一定の抵抗を有する他の分圧器であってもよく、トランジスタスイッチQは三極管、MOSトランジスタなどの半導体スイッチであってもよいが、本発明においてこれらに限定されない。
【0076】
前述したように、コントローラはトランジスタスイッチQのオンとオフを制御できる。トランジスタスイッチQの基本的な動作特性に基づいて、当該コントローラがトランジスタスイッチQを制御するために使用する制御信号は、高レベルと低レベルを切り替えるパルス信号である可能性がある。偏向導体に適用される高電圧パルス信号とは異なり、トランジスタスイッチQの制御端子に対してコントローラが出力する必要があるのは低電圧パルス信号のみである。
【0077】
さらに、分圧器R2とトランジスタスイッチQからなるパルス回路は、別のRC直列回路とみなすことができる。トランジスタスイッチQは充電と放電のプロセスにおいてコンデンサに似ており、トランジスタスイッチQの接合コンデンサと分圧器R2はRC直列回路と同等のものを形成する。トランジスタスイッチQの接合コンデンサは、トランジスタスイッチQのオン/オフを切り替えるときに遅延を導入し、そのため、最終的に出力されるパルス信号立ち上がりエッジと立ち下がりエッジが長くなる。
【0078】
イオン選択回路の出力が高電圧と低電圧に切り替わる際の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジでの遅延を短縮するために、本実施例に係るイオン選択回路は、さらに、RC直列回路を、信号出力端子OUTと接地端子との間に並列に接続させる。
【0079】
高電圧パルス信号の変化中、高耐圧コンデンサC2と高耐圧抵抗器R3からなるRC直列回路は、充放電を形成し、フィルタリングを行う。RC直列回路の高耐圧コンデンサC2は、トランジスタスイッチQがオンのときにトランジスタスイッチQを充電し、トランジスタスイッチQがオフのときにトランジスタスイッチQを放電する。したがって、出力される高電圧パルスの立ち上がりエッジと立ち下がりエッジのバッファリング遅延の遅延が短縮され、高電圧と低電圧の高速な切り替えが実現される。すなわち、高電圧パルス信号の急激な立ち上がりと立ち下がりは数ナノ秒オーダーと非常に短く、高電圧と低電圧の正確な切り替えが保証される。さらに、新RC回路により高次高調波を除去できるフィルターを形成するため、高電圧パルスの波形が均一化される。
【0080】
さらに、コントローラはRC並列回路を介してトランジスタスイッチQの制御端子に接続されている。RC並列回路のコンデンサC1は充電と放電が可能であり、トランジスタスイッチQのオンとオフの切り替えは、スイッチ制御信号の制御下でより短時間で行われる。
【0081】
上記イオン選択回路から出力される高電圧パルス信号において、高電圧と低電圧の切り替え時に、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの遅延を数ナノメートルまで短縮することができる。すなわち、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの遅延が大幅に短縮される。当該イオン選択回路は、各種控制システムに適用される場合、システムの制御精度を向上させることができる。
【0082】
パルス回路内の要素は、さまざまな構成で接続されることができる。
【0083】
図7に示すように、本発明の一選択可能な実施形態において、当該パルス回路は以下のように構成することができる。
【0084】
分圧器R2の第1端子は、高電圧電源HVに接続され、第2端子はトランジスタスイッチQの第1端子に接続される。トランジスタスイッチQの第2端子は接地され、トランジスタスイッチQの制御端子は、RC並列回路を介してコントローラに接続される。
【0085】
コントローラの出力に応じて、高レベルの場合、トランジスタスイッチQの第1端子と第2端子導体は電気的に接続される。
【0086】
コントローラの出力に応じて、低レベルの場合、トランジスタスイッチQの第1端子と第2端子は電気的に接続が切断される。
【0087】
図7に示すように、トランジスタスイッチQの第1端子は、分圧器R2を介して高電圧電源HVの出力端子に接続される。トランジスタスイッチQの第2端子は接地され、この時、RC直列回路トランジスタスイッチQと並列に接続されている。
図7のトランジスタスイッチQをNPNトランジスタとして例にとると、コントローラは、RC並列回路を介してトランジスタスイッチQのベースに低レベルを出力すると、この時、トランジスタスイッチQのコレクタとエミッタは電気的に切断される。トランジスタスイッチQのコレクタは分圧器R2に接続され、パルス回路の出力端子として機能する。この時、パルス回路の出力端子は高電圧を出力する。コントローラがトランジスタスイッチQのベースに高レベルを出力すると、トランジスタスイッチQのコレクタとエミッタは電気的に接続される。この時、トランジスタスイッチQのコレクタは、分圧器R2を介して高電圧電源HVに接続され、トランジスタスイッチQのコレクタは、パルス回路の出力端子として機能し、接地電圧、つまり0Vを出力する。これにより、イオン選択回路から出力される電圧は、高電圧と接地電圧の間で切り替えられる。
【0088】
図8に示すように、本発明の別の選択可能な実施形態では、当該パルス回路以下のように構成されてもよい。
【0089】
トランジスタスイッチQの第1端子は高電圧電源HVに接続され、第2端子は分圧器R2の第1端子に接続され、トランジスタスイッチQの制御端子はRC並列回路の第2端子に接続される。分圧器R2の第2端子は接地される。
【0090】
コントローラの出力に応じて、低レベルの場合、トランジスタスイッチQの第1端子と第2端子は電気的に接続される。コントローラの出力に応じて、高レベルの場合、トランジスタスイッチQの第1端子と第2の端子は電気的に接続が切断される。
【0091】
図8に示すように、トランジスタスイッチQがPNPトランジスタであるとする例を挙げる。この時、トランジスタスイッチQの端子は分圧器R2に接続され、トランジスタスイッチQのエミッタとして機能する。つまり、トランジスタスイッチQのエミッタ電圧がパルス回路の出力電圧となる。この時、RC直列回路は分圧器R2と並列に接続されている。
図7の原理と同様に、コントローラがRC並列回路を介してトランジスタスイッチQのベースに高レベルを出力すると、当該トランジスタスイッチQのコレクタとエミッタは電気的に接続が切断される。この時、トランジスタスイッチQのエミッタは、分圧器R2を介して接地端子に接続され、パルス回路から出力される電圧は、接地端子の電圧である。
【0092】
一方、コントローラがトランジスタスイッチQのベースに低レベル信号を出力すると、当該トランジスタのコレクタとエミッタは電気的に接続される。トランジスタスイッチQのエミッタは、高電圧電源HVに直接接続されているとみなすことができる。当然のことながら、この時、トランジスタスイッチQエミッタの電圧は高電圧に等しい。これにより、パルス回路から出力される電圧は、高電圧と接地0V電圧との間に切り替わり、高電圧パルスが発生する。
【0093】
図7および
図8の実施形態は、高電圧が電気レベルで接地電圧よりも高い場合を例に示している。実際には、イオン選択回路から出力される高電圧パルスは、より高いレベルを有する接地電圧と、より低いレベルを有する負高電圧(すなわち、接地電圧よりも低いか電圧大きさが大きい)から生じ得る。このような場合、
図7および
図8の電源HVは接地電圧に置き換えられ、また、
図7および
図8の接地端子は、負高電圧を出力する電圧源に置き換えることができる。
【0094】
さらに、イオンを選択する回路によって出力される高電圧パルスは、より高いレベルを有する高電圧と、より低いレベルを有する負高電圧とから生じ得る。この時、
図7および
図8の接地端子は、負高電圧を出力する電圧源に置き換えることができる。当然のことながら、この実施形態に対応するイオン選択回路は、偏向導体が集束電極4または金属管状シェル5である実施形態にも適用可能である。
【0095】
図8を例に挙げる。コントローラがトランジスタスイッチQの制御端子に高レベルを出力すると、トランジスタスイッチQはオンになり、コントローラがトランジスタスイッチQの制御端子に低レベル信号を出力すると、トランジスタスイッチQはオフになる。高電圧電源HVは数十ボルトから1000ボルトの範囲の電圧を供給し、トランジスタスイッチQを介して分圧器R2の第1端子に印加される。当該分圧器R2とトランジスタスイッチQが接続されるノードは、高耐圧コンデンサC2の第1端子に接続される。高耐圧コンデンサC2の第2端子は、高耐圧抵抗器R3の第1端子に接続される。当該高耐圧抵抗器R3は、フィルターと同等であり、高電力耐久性も備えている場合がある。高耐圧抵抗器R3は、分圧器R2の抵抗よりもはるかに小さくなる。高耐圧抵抗器R3の第2端子は接地される。また、分圧器R2の第2端子も接地される。分圧器R2、トランジスタスイッチQ、高耐圧コンデンサC2が接続された共通端子は、イオン選択回路の出力端子として機能する。
【0096】
コントローラがトランジスタスイッチQの制御端子に高レベル信号を出力すると、トランジスタスイッチQがオンになり、電気経路が形成される。高電圧電源HVは、トランジスタスイッチQと分圧器R2を介して、直接に接地される。分圧器R2と高耐圧コンデンサC2が接続されたトランジスタスイッチQの端子がイオン選択回路の出力端子OUTとなり、高電圧を出力する。
【0097】
コントローラがトランジスタスイッチQの制御端子に低レベル信号を出力すると、トランジスタスイッチQがオフになり、電気経路が切断される。イオン選択回路の出力端子は、分圧器R2を介して、接地され、低電圧を出力する。高耐圧コンデンサC1と高耐圧抵抗器R3で構成されるRC直列回路は、高圧パルス信号の電圧変化時に充放電とフィルタリングを行うことができるため、出力される高圧パルス信号は数ナノ秒のスケールで急激に立ち上がりと立ち下がり、高電圧パルス信号での電圧と低電圧の切り替えの精度が確保される。
【0098】
前述のように、コントローラは、低電圧パルス信号を出力することによりトランジスタのオンとオフを切り替え、イオン選択回路が出力する高電圧パルス信号を制御する。つまり、本発明は、コントローラが出力する低電圧パルス信号によって、出力される高電圧パルス信号を制御する。回路の安全性を確保するために、コントローラとトランジスタの制御端子との間に絶縁回路がさらに設けられる。特定の実施形態では、コントローラとRC並列回路の間に絶縁チップを接続して、コントローラへの高電圧パルスによる干渉を回避することができる。
【0099】
本発明に係る高電圧パルス回路とは、高電圧と低電圧とを切り替える方形波パルス信号を出力するように構成された回路を指し、高電圧と低電圧の間には大きな電圧差がある。理論的には、高電圧と低電圧の切り替えは、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジで瞬時に実行される。実際には、このような立ち上がりエッジと立ち下がりエッジとの間の瞬時の切り替えは難しく、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジには一定の遅延が生じる。高電圧と低電圧の電圧差が大きいほど、当該遅延は長くなる。
【0100】
よって、本発明の一実施形態によれば、高電圧パルス回路が提供される。出力される高電圧と低電圧の電圧差が大きい高電圧パルスでは、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの遅延が短くなる。
【0101】
当業者の理解を深めるために、本発明の実施形態における技術的解決策を、本発明の実施例の図面と併せて、以下で明確かつ完全に説明する。記載された実施例は、本発明の実施形態の一部にすぎず、すべての実施形態ではないことが明らかである。当業者が本発明の実施例に基づいて、いかなる創造的な努力もなしに得た他の実施例は、本発明の保護範囲に含まれる。
【0102】
図9と
図10に示すように、
図9は本発明の実施例によって提供される高電圧パルス回路の概略構造図である。
図10は本発明の実施例によって提供される別の高電圧パルス回路の概略構造図である。当該高電圧パルス回路は、第1の電圧源HV+と第2の電圧源HV-を含む。
【0103】
高電圧パルス回路から出力される高電圧と低電圧との間には大きな電圧差があるため、本実施例に係る第1の電圧源HV+から出力される電圧と第2の電圧源HV-から出力される電圧との電圧差は所定の電圧差以上となる。つまり、第1の電圧源HV+から出力される電圧と第2の電圧源HV-から出力される電圧との間にも大きな電圧差がある。当該電圧差の具体的な振幅は、高圧パルス回路が出力する高圧パルス信号における高電圧と低電圧との間の必要な電圧差に比例する。
【0104】
選択的に、第1の電圧源HV+は高電圧電源であり、第2の電圧源HV-から出力される電圧は接地電圧である。
【0105】
または、第1の電圧源HV+は高電圧電源であり、第2の電圧源HV-は負高電圧電源である。
【0106】
または、第1の電圧源HV+から出力される電圧は接地電圧であり、第2の電圧源HV-は負高電圧電源である。
【0107】
本実施例に係る高電圧電源とは、数十ボルトから千ボルトの範囲の電圧を指す。同様に、負高電圧電源、数十ボルトから千ボルトの範囲の振幅を持つ負の電圧を指す。
【0108】
当該高電圧パルス回路は、パルス回路およびRC直列回路をさらに含む。
【0109】
ここで、パルス回路は、直列に接続される分圧器R2とトランジスタスイッチQとを含む。
【0110】
パルス回路の一端は、第1の電圧源HV+に接続され、パルス回路の他端は第2の電圧源HV-に接続される。分圧器R2とトランジスタスイッチQとが接続されたノードは、高電圧パルス回路の出力端子OUTである。トランジスタスイッチQの制御端子は、スイッチ制御信号を受信するように構成され、当該スイッチ制御信号に応じてトランジスタスイッチQのオンとオフを制御する。
【0111】
RC直列回路の第1端子は、高電圧パルス回路の出力端子OUTに接続され、RC直列回路の第2端子は、第2の電圧源HV-に接続される。
【0112】
選択的に、トランジスタスイッチQの制御端子は、RC並列回路と直列に接続されてもよい。当該RC並列回路の第1端子は、スイッチ制御信号を受信するように構成され、RC並列回路の第2端子は、トランジスタスイッチQの制御端子に接続される。スイッチ制御信号はトランジスタスイッチQのオンとオフを切り替えるために使用される。
【0113】
図9と
図10に示すように、RC並列回路は、並列接続された抵抗器R1とコンデンサC1を含んでもよい。
【0114】
パルス回路内の分圧器R2は、分圧抵抗器または一定の抵抗を有する他の回路部品であってもよい。トランジスタスイッチQは、三極管、MOSトランジスタなどの半導体スイッチング素子であってもよい。
【0115】
パルス回路は、第1の電圧源HV+と第2の電圧源HV-との間に接続された直列分岐回路であり、高電圧パルスを出力する主回路として機能する。さらに、パルス回路内の分圧器R2およびトランジスタスイッチQは、2つの異なる構成で第1の電圧源HV+と第2の電圧源HV-との間に直列に接続され得る。
【0116】
図9に示すように、選択可能な一実施形態では、分圧器R2の第1端子は第1の電圧源に接続され、第2端子はトランジスタスイッチQの第1端子に接続される。トランジスタスイッチQの第2端子は第2の電圧源に接続される。トランジスタスイッチQの制御端子はRC並列回路の第2端子に接続される。
【0117】
パルス回路におけるトランジスタスイッチQの制御端子は、RC並列回路を介してスイッチ制御信号を受信する。当該スイッチ制御信号は、コントローラまたは他のパルス源によって生成される低電圧パルス信号であってもよい。
図9に示すように、第1の電圧源HV+は高電圧電源であり、第2の電圧源HV-は接地電圧源であり、トランジスタスイッチQQはNPNトランジスタである。トランジスタスイッチQの制御端子はNPNトランジスタのベースであり、第1端子はNPNトランジスタのコレクタであり、第2端子はNPNトランジスタのエミッタである。
【0118】
トランジスタスイッチQの制御端子に低レベル電圧が印加されると、トランジスタスイッチQの第1端子と第2端子は互いに電気的に切断される。トランジスタスイッチQの第1端子に接続された分圧器R2は、トランジスタスイッチQの第2端子に接続された第2の電圧源HV-から電気的に切断されている。この時、分圧器R2の第1端子は高電圧電源に接続されているとみなすことができ、第2端子は高電圧パルス回路の出力端子として機能する。この時、分圧器R2の第2端子電圧は、高電圧電源が出力する電圧信号であり、高電圧が出力される。
【0119】
トランジスタスイッチQの制御端子に高電圧が印加されると、トランジスタスイッチQの第1端子と第2端子は互いに電気的に接続される。トランジスタスイッチQの第1端子に接続された分圧器R2は、トランジスタスイッチQの第2端子に接続された第2の電圧源に接続される。当然のことながら、この時、分圧器R2の第1端子は第1の電圧源HV+に接続され、第2端子は第2の電圧源HV-に接続され、分圧器R2の第2端子は高電圧パルス回路の出力端子として機能する。この時、分圧器R2の第2端子の電圧は、第2の電圧源HV-から出力される電圧以上である。第2の電圧源HV-は接地電圧源である。この時、高電圧パルス回路の出力端子から出力される電圧信号は、接地電圧、すなわち0Vである。
【0120】
これにより、制御信号が高レベルと低レベルとの間で切り替わると、高電圧パルス回路によって出力される電圧は、第1の電圧源によって出力される第1の電圧と第2の電圧源によって出力される第2の電圧との間で切り替わり、高電圧パルスが生成される。
【0121】
図10に示すように、本発明の別の選択可能な実施形態では、トランジスタスイッチQの第1端子は第1の電圧源HV+に接続され、第2端子は分圧器R2の第1端子に接続され、トランジスタスイッチQの制御端子はRC並列回路の第2端子に接続される。分圧器R2の第2端子は、第2の電圧源HV-に接続される。
【0122】
図10に示すように、第1の電圧源HV+は、高電圧電源であり、第2の電圧源HV-は接地電圧源であり、トランジスタスイッチQはPNPトランジスタである。同様に、トランジスタスイッチQの制御端子はPNPトランジスタのベースであり、トランジスタスイッチQの第1端子はPNPトランジスタのコレクタであり、第2端子はPNPトランジスタのエミッタである。
図9に示す回路構成の動作原理と同様に、スイッチ制御信号が高レベルのときはトランジスタQの第1の端子と第2の端子とは電気的に分離され、スイッチ制御信号が低レベルのときはトランジスタQの第1の端子と第2の端子とは電気的に接続される。
【0123】
図9および
図10に示す両方の実施形態において、本発明のパルス回路は、第1の電圧源HV+と第2の電圧源HV-との間に接続された直列分岐であり、高電圧パルスを出力するための高電圧パルス回路の主要部分である。当該高電圧パルス回路の出力端子OUTから出力される電圧は、パルス回路におけるトランジスタスイッチQと分圧器R2が接続されるノードの電圧である。
【0124】
直列分岐における分圧器R2とトランジスタスイッチQの順序に関係なく、第1の電圧源HV+と第2の電圧源HV-との間に直列に接続されたパルス回路は、トランジスタスイッチQの接合コンデンサと分圧器R2で形成されるRC直列回路とみなすことができる。トランジスタスイッチQの接合コンデンサは、トランジスタスイッチQのオンとオフを切り替えるときに遅延を導入し、したがって、最終的に出力される高電圧パルスの立ち上がりエッジと立ち下がりエッジに遅延が生じる。
【0125】
イオン選択回路が高電圧と低電圧とを切り替える際の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの遅延を減らすために、本実施形態に係るRC直列回路は、イオン選択回路において出力端子OUTと第2電源HV-との間に接続された並列分岐として設けられてもよい。
【0126】
当該RC直列回路は、直列に接続された高耐圧コンデンサC2と高耐圧抵抗器R3とを含む。当該高耐圧抵抗器R3には大きな電力が加わるため、抵抗器R3の抵抗値は分圧器の抵抗値よりも小さくする必要がある。高耐圧コンデンサC2と高耐圧抵抗器R3とから構成されるRC直列回路は、高電圧パルス信号の電圧変化時に充放電経路を形成し、フィルタリングを行いる。RC直列回路の高耐圧コンデンサC2は、トランジスタスイッチQがオンのときにトランジスタスイッチQを充電し、トランジスタスイッチQがオフのときにトランジスタスイッチQを放電する。したがって、出力される高電圧パルス信号の立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジの遅延が短縮され、出力される高電圧パルス信号の高電圧と低電圧との高速な切り替えが実現される。出力される高電圧パルス信号の立ち上がりと立ち下がりは数ナノ秒オーダーの極めて短い時間で実現できる。これにより、高電圧パルス信号における高電圧と低電圧との切り替えがより正確になる。さらに、RC回路はフィルタリング機能を備えており、高次高調波を除去して高電圧パルス信号の波形を規則化する。
【0127】
また、スイッチ制御信号はRC並列回路を介してトランジスタスイッチQの制御端子にさらに入力され、RC並列回路におけるコンデンサC1の充放電機能により、スイッチ制御信号に応じてトランジスタQがオンとオフするまでの時間が短縮される。
【0128】
高電圧パルス回路から出力される高電圧パルス信号は、高電圧と低電圧の切り替え時に、立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの遅延を数ナノメートルまで短縮することができる。立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの遅延を大幅に短縮する。当該高電圧パルス回路を各種制御システムに適用すると、システムの制御精度を向上させることができる。
【0129】
要約すると、本発明によって提供される高電圧パルス回路は、2つの電圧源間に直列に接続された分圧器とトランジスタを利用しており、2つの電圧源によって供給される電圧間には大きな差がある。受信側トランジスタの制御端子に入力されるスイッチ制御信号により、トランジスタのオンとオフが制御される。出力される高電圧パルス信号は、レベルが切り替わるスイッチ制御信号に応じて、高電圧と低電圧との間で切り替わる。RC並列回路はさらにトランジスタスイッチの制御端子に接続されており、高電圧と低電圧の切り替え時に立ち上がりエッジと立ち下がりエッジでの遅延が大幅に短縮される。高電圧パルス信号の幅広い応用が容易になり、各種機器に適用される高電圧パルス回路の制御精度が向上する。
【0130】
上記実施形態に基づいて、前述の高電圧パルス回路は、質量分析計に適用され、ターゲットイオンと非ターゲットイオンとを以下のようにスクリーニングする。本発明の特定の実施形態によれば、本発明は、質量分析計に適用されるイオン選択回路をさらに提供する。当該質量分析計内に、非ターゲットイオンを偏向させるための導体が配置される。当該イオン選択回路は、コントローラと前述の高電圧パルス回路とを含む。前記高電圧パルス回路の出力端子は導体に接続され、コントローラの出力端子は、高電圧パルス回路のトランジスタスイッチの制御端子に接続される。
【0131】
ここで、前記コントローラは、スイッチ制御信号を出力し、高電圧パルス回路によって出力される高電圧パルス信号が2つの異なる電圧間で切り替わるように、スイッチ制御信号を2つの異なるレベル間で切り替えるように構成される。
【0132】
高電圧パルス回路の前述の実施形態を参照する。本実施例に係るコントローラから出力される2つの異なるレベルに切り替えられるスイッチ制御信号は、高電圧パルス回路におけるトランジスタスイッチの制御端子に入力される2つの異なる状態を有するスイッチ制御信号である。当該コントローラから出力されるスイッチ制御信号が低電圧パルス信号である場合を例に挙げる。2つの異なるレベルを有するスイッチ制御信号は、低レベルと高レベルを有する低電圧パルス信号であってもよい。コントローラが高電圧パルス回路に1つのレベルを出力すると、高電圧パルス回路は対応する電圧をパルス信号で出力する。例えば、コントローラが高電圧パルス回路におけるトランジスタスイッチの制御端子に低レベルを入力すると、高電圧パルス回路は、高電圧パルス信号の高電圧を出力する。一方、コントローラが高電圧パルス回路におけるトランジスタスイッチの制御端子に高レベルを入力すると、高電圧パルス回路は、高電圧パルス信号の低電圧を出力する。すなわち、高電圧パルス回路によって導体に印加される電圧は、コントローラがスイッチ制御信号の1つのレベルを出力するときに、導体が非ターゲットイオンを偏向させる電界を生成することを可能にし、コントローラがスイッチ制御信号の別のレベルを出力するときに、高電圧パルス回路によって導体に印加される電圧は、導体がターゲットイオンを偏向させる電界を生成不能にする。
【0133】
コントローラがスイッチ制御信号の高レベルおよび低レベルを出力した後、高電圧パルス信号内の対応する電圧を出力する高電圧パルス回路の動作は、前述の高電圧パルス回路の実施形態を参照すればよく、詳細はここでは繰り返さない。
【0134】
また、選択的に、コントローラは絶縁回路を介してパルス回路に接続される。
【0135】
図3に示すように、
図3は、本発明の実施例によって提供される質量分析計の断面を示す概略構造図である。質量分析計では、レーザー源2aから発せられるパルスレーザーは、イオン源であるサンプル01を励起し、異なる分子量を有するイオンを生成する。異なる分子量を持つイオンは、加速電界U内で異なる速度に加速される。分子量が小さいイオンほどより大きな速度に加速されるため、加速電界Uから先に離れて無電界領域に早めに進入し、イオン検出器1に向かって飛行する。逆に、分子量が大きいイオンはより低い速度に加速され、加速電界Uから離れて無電界領域により遅く入り、イオン検出器1に向かって飛行する。
【0136】
一般的に、実際のイオン検出では、特定の範囲内の分子量を持つターゲットイオンのみを検出する必要がある。他の分子量のイオンは非ターゲットイオンと呼ばれる。当該非ターゲットイオンは、イオン検出器1に到達して検出された場合、イオン検出器1の寿命が短くなるだけでなく、ターゲットイオンの検出結果がぼやけてしまう。
【0137】
ターゲットイオンと非ターゲットイオンとの間の質量の差は、ターゲットイオンと非ターゲットイオンが無電界領域を通過する時間の差をもたらし、これは、ターゲットイオンと非ターゲットイオン間のスクリーニングのために本明細書で利用される。質量分析計の無電界領域には導体が配置される。また、ターゲットイオンと非ターゲットイオンがそれぞれ無電界領域を通過するとき、ターゲットイオンと非ターゲットイオンに異なる電気信号が印加され、導体は、ターゲットイオンと非ターゲットイオンがそれぞれ無電界領域を通過するとき、異なる電界を生成する。ターゲットイオンが導体に近い場合、飛行方向は変わらず、ターゲットイオンはイオン検出器に向かって飛行し続ける。非ターゲットイオンが導体に近づくと、導体によって生成された電界力の影響を受けて偏向されてしまい、イオン検出器1に到達できなくなる。これにより、ターゲットイオンと非ターゲットイオンがスクリーニングされる。
【0138】
導体が第1の導体板31と第2の導体板32とを含む例に挙げると、2つの導体板はそれぞれイオン飛行経路の両側に配置される。第1の導体板31は接地され、第2の導体板32は、イオン選択回路の出力端子に接続される。
【0139】
ターゲットイオンが無電界領域を通過する場合、コントローラはイオン選択回路を制御して接地電圧を出力することができる。この場合、第1の導体板31と第2の導体板32との間に電界は存在せず、ターゲットイオンは干渉を受けることなく無電界領域を通過し、イオン検出器1に到達できる。
【0140】
非ターゲットイオンが無電界領域を飛行する場合、コントローラは、高電圧パルス回路を制御して高電圧を出力することができる。この場合、第1の導体板31と第2の導体板32との間に電界が発生し、当該電界の電界線の方向は、非ターゲットイオンの飛行方向と垂直である。その結果、当該電界を通過する際に、非ターゲットイオン飛行が偏向され、イオン検出器1に到達できないため、ターゲットイオンと非ターゲットイオンのスクリーニングが行われる。
【0141】
実際には、導体は2枚の導体板である必要はなく、金属管として実施されてもよい。イオンは金属管の中心軸に平行な方向に沿って金属管を流れる。このような場合、使用する必要がある高電圧パルス回路の第1の電圧源HV+は、高電圧電圧源であり、第2の電圧源HV+は負高電圧を出力する電圧源であってもよい。高電圧および負高電圧は、それぞれ、高電圧パルス回路によって出力される高電圧および低電圧を誘導することができる。
【0142】
正イオンを例に挙げる。ターゲットイオンが金属管内を飛行する場合、コントローラは高電圧パルス回路を制御して金属管に高電圧を印加し、金属管内の電界が飛行するターゲットイオンの飛行軌道を調整し、金属管の中心軸に向かって収束し、ターゲットイオンがイオン検出器1に到達できるようになる。非ターゲットイオンが金属管を飛行する場合、コントローラは高電圧パルス回路を制御して金属管に低電圧を印加し、金属管内の電界が非ターゲットイオンの飛行軌道を金属管の壁に向かって偏向させる。従って、非ターゲットイオンは検出器に到達できない。これにより、ターゲットイオンと非ターゲットイオンのスクリーニングが行われる。負イオンの場合、ターゲットイオンが金属管中を飛行するときは金属管に低電圧が印加され、非ターゲットイオンが金属管中を飛行するときは金属管に高電圧が印加される。
【0143】
ターゲットイオンと非ターゲットイオンは異なる時間に無電界領域を通過し、特定の順序はターゲットイオンと非ターゲットイオンの分子量に依存する。ターゲットイオンが無電界領域を通過する時間と、非ターゲットイオンが無電界領域を通過する時間との間の時間差は比較的小さいため、導体に印加された2つの異なる電圧が切り替わる時の電圧の急激な上昇と下降に対応できる必要がある。本発明によって提供される高電圧パルス回路は、高電圧と低電圧の切り替え時の遅延を大幅に短縮できるため、ターゲットイオンと非ターゲットイオンをスクリーニングするための2つの電圧の切り替え時の遅延が小さいという要件を満たすことができる。質量分析計でのイオンスクリーニングの精度が向上され、イオン検出器の耐用年数が延長され、検出結果により示される鮮明度が向上される。
【0144】
本発明の明細書では、「第1」や「第2」などの関係用語は、あるエンティティの操作を別のエンティティの操作から区別するためにのみ使用されており、これらのエンティティまたは操作が実際に、それらの間に関係または順序が存在することを必ずしも要求または暗示するものではないことに注意されたい。さらに、用語「含む」、「含む」という用語、およびその変形例は、プロセス、方法、物品、または装置が、そのプロセス、方法、または装置に固有の要素の範囲を含むような、非排他的な包含をカバーすることを意図している。さらなる制限なしに、「…を含む」という記述によって定義される要素は、記載された要素を含むプロセス、方法、物品、または装置における追加の同一要素の存在を排除するものではない。さらに、本発明の実施形態によって提供される上記の技術的解決策のうち、従来技術における対応する技術的解決策の実施原理と一致する部分については、過度の冗長を避けるために詳細には説明されていない。
【0145】
本発明の明細書では、この記事では、本発明の原理と実施方法を説明するために特定の例を使用する。上記の実施形態の説明は、本発明の方法とその中心となる概念を理解するためにのみ使用される。当業者は、本発明の原理から逸脱することなく、本発明にいくつかの改良および修正を加えることができ、これらの改良および修正も本発明の特許請求の範囲に含まれることに留意されたい。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計における加速電界とイオン検出器との間のイオン飛行経路側に偏向導体が配置される、質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法であって、
前記偏向導体に偏向電界を生成させ、前記イオンが前記偏向電界を飛行する際に、前記イオン検出器に到達しないように飛行方向を偏向させるために、前記偏向導体に第1の電圧を印加するステップと、
レーザーに同期したパルスが出力されたことを検出したことに応じて、前記加速電界から飛び出すイオンのうちのターゲットイオンを偏向させるために、前記偏向導体に印加される第1の電圧を維持するステップと、
前記ターゲットイオンを偏向させる偏向電界を発生せず、前記ターゲットイオンが前記イオン検出器に到達できるようにするために、前記ターゲットイオンが前記加速電界から飛び出される際に、前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップと、
前記ターゲットイオンすべてが前記偏向導体を通過する際に、前記偏向導体に前記第1の電圧を印加するステップと、を
含む、ことを特徴とする質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法。
【請求項2】
前記偏向導体は、前記イオン飛行経路の両側に配置された少なくとも1対の導体板を含み、前記少なくとも1対の導体板のそれぞれは、第1の導体板および第2の導体板を含み、前記第1の導体板は接地されており、
前記偏向導体に第1の電圧を印加するステップは、
前記第2の導体板に接地電圧よりも
高い電圧を印加するステップを含むか、
または、前記第2の導体板に接地電圧よりも
低い電圧を印加するステップと、を含み、
前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップは、
前記第2の導体板に接地電圧と等しい電圧を印加するステップを含む、ことを特徴とする
請求項1に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法。
【請求項3】
前記偏向導体は、前記質量分析計に配置される集束電極であるか、または前記質量分析計の無電界領域に配置される金属管状シェルであり、
前記偏向導体に第1の電圧を印加するステップは、
前記偏向導体に前記イオンとは逆極性の
電圧を印加するステップを含み、
前記偏向導体に第2の電圧を印加するステップは、
前記偏向導体接通前記イオンとは同じ極性の
電圧を印加するステップを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法。
【請求項4】
前記第1の電圧と前記第2の電圧を前記偏向導体に複数のサイクルにわたって交互に印加するステップをさらに含み、
ここで、複数のサイクルのそれぞれにおいて、前記第1の電圧を印加する持続時間と前記第2の電圧を印加する持続時間は、偏向されるべき非ターゲットイオンおよび偏向されないターゲットイオンの分子量によって決定される、ことを特徴とする
請求項1から3のいずれか一項に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法。
【請求項5】
質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステムであって、
入力端子がレーザーパルスを出力するためのレーザーパルス源に接続される、コントローラと、
出力端子が前記質量分析計に配置される偏向導体に接続され、入力端子が前記コントローラに接続される、イオン選択回路と、を含み、
前記コントローラは、請求項1から3のいずれか一項の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするための方法を実施するために、前記第1の電圧と前記第2の電圧を交互に前記偏向導体に出力するように前記イオン選択回路を制御するように構成される、ことを特徴とする質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項6】
前記偏向導体は、前記イオン飛行経路の両側に配置された少なくとも1対の導体板を含み、前記少なくとも1対の導体板のそれぞれは、
第1の導体板および
第2の導体板を含み、前記第1の導体板は接地されており、
前記第2の導体板は、前記イオン選択回路の出力端子に接続され、前記イオン選択回路は、
電源、パルス回路およびRC直列回路を含み、
前記パルス回路は、直列に接続される分圧器およびトランジスタスイッチを含み、前記パルス回路の一端は、
前記電源の出力端子に接続され、前記パルス回路の他端は接地され、前記分圧器と前記トランジスタスイッチとが接続されるノードは、前記イオン選択回路の出力端子として機能され、前記RC直列回路の第1端子は、前記イオン選択回路の出力端子に接続され、前記RC直列回路の第2端子は接地され、
前記コントローラは、前記トランジスタスイッチの制御端子に接続され、前記コントローラは、前記トランジスタスイッチのオンとオフを切り替えるように構成される、ことを特徴とする
請求項5に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項7】
前記分圧器の第1端子は、
前記電源に接続され、第2端子は、前記トランジスタスイッチの第1端子に接続され、前記トランジスタスイッチの第2端子は接地され、
前記コントローラが電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断され、
前記コントローラが
別の電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続される、ことを特徴とする
請求項6に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項8】
前記トランジスタスイッチの第1端子は、
前記電源に接続され、前記トランジスタスイッチの第2端子は前記分圧器の第1端子に接続され、前記分圧器の第2端子は接地され、
前記コントローラが電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断され、
前記コントローラが
別の電気レベルを出力することに応答して、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続される、ことを特徴とする
請求項6に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項9】
前記イオン選択回路はRC並列回路をさらに含み、前記トランジスタスイッチの制御端子は、前記RC並列回路を介して前記コントローラに接続される、ことを特徴とする
請求項6に記載の質量分析計におけるイオンをスクリーニングするためのシステム。
【請求項10】
高電圧パルス回路であって、
第1の電圧源、第2の電圧源、パルス回路およびRC直列回路を含み、前記第1の電圧源が出力する電圧と前記第2の電圧源が出力する電圧との間の電圧差は、所定の電圧以上であり、
前記パルス回路は、直列に接続される分圧器およびトランジスタスイッチを含み、前記パルス回路の一端は、前記第1の電圧源に接続され、前記パルス回路の他端は前記第2の電圧源に接続され、前記分圧器と前記トランジスタスイッチとが接続されるノードは、高電圧パルス回路の出力端子であり、
前記RC直列回路の第1端子は、前記高電圧パルス回路の出力端子に接続され、前記RC直列回路の第2端子は前記第2の電圧源に接続され、
前記トランジスタスイッチは、前記トランジスタスイッチの制御端子によって受信されるスイッチ制御信号に従ってオンとオフとの間で切り替わるように構成される、ことを特徴とする高電圧パルス回路。
【請求項11】
前記分圧器の第1端子は前記第1の電圧源に接続され、第2端子は、前記トランジスタスイッチの第1端子に接続され、前記トランジスタスイッチの第2端子は前記第2の電圧源に接続され、
前記スイッチ制御信号が電気レベルである際に、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続され、
前記スイッチ制御信号が
別の電気レベルである際に、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断される、ことを特徴とする
請求項10に記載の高電圧パルス回路。
【請求項12】
前記トランジスタスイッチの第1端子は、前記第1の電圧源に接続され、第2端子は前記分圧器の第1端子に接続され、前記分圧器の第2端子は前記第2の電圧源に接続され、
前記スイッチ制御信号が電気レベルである際に、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に接続され、
前記スイッチ制御信号が前記電気レベルよりも低い別の電気レベルである際に、前記トランジスタスイッチの第1端子と第2の端子は電気的に切断されことを特徴とする
請求項10に記載の高電圧パルス回路。
【請求項13】
前記第1の電圧源は
正電圧を出力する電源であり、前記第2の電圧源が出力する電圧は接地電圧であり、
または、前記第1の電圧源は
正電圧を出力する電源であり、前記第2の電圧源は
負電圧を出力する電源であり、
または、前記第1の電圧源が出力する電圧は接地電圧であり、前記第2の電圧源は
負電圧を出力する電源である、ことを特徴とする
請求項10に記載の高電圧パルス回路。
【請求項14】
前記トランジスタスイッチの制御端子に接続されるRC並列回路をさらに含み、前記トランジスタスイッチの制御端子は、前記RC並列回路を介して前記スイッチ制御信号を受信するように構成される、ことを特徴とする
請求項10に記載の高電圧パルス回路。
【請求項15】
質量分析計に適用するイオン選択回路であり、
前記質量分析計は、非ターゲットイオンを偏向させるための導体を含み、
前記イオン選択回路は、コントローラと、
請求項10から14のいずれか一項に記載の高電圧パルス回路とを含み、
前記高電圧パルス回路の出力端子は、前記導体に接続され、前記コントローラの出力端子は、前記高電圧パルス回路上の前記トランジスタスイッチの制御端子に接続され、
ここで、前記コントローラは、前記高電圧パルス回路によって出力される高電圧パルス信号を2つの異なる電圧の間で切り替えるために、前記スイッチ制御信号を前記高電圧パルス回路に出力し、前記スイッチ制御信号を2つの異なるレベル間で切り替える、ことを特徴とするイオン選択回路。
【国際調査報告】