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特表2024-541733イリジウムクロリド水和物の製造方法、およびイリジウムクロリドの製造方法
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  • 特表-イリジウムクロリド水和物の製造方法、およびイリジウムクロリドの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-11
(54)【発明の名称】イリジウムクロリド水和物の製造方法、およびイリジウムクロリドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 55/00 20060101AFI20241101BHJP
【FI】
C01G55/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530517
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 KR2022019537
(87)【国際公開番号】W WO2023101521
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0171286
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524192867
【氏名又は名称】ヒソン カタリスツ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ホドン
(72)【発明者】
【氏名】カン、 ドンクン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ミンシク
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 ジョンミン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、 ヨンサン
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA06
4G048AB01
4G048AD03
4G048AE05
(57)【要約】
イリジウム金属粉末とアルカリ金属化合物の混合物を準備する混合段階、混合物を焼成してアルカリが含まれているイリジウム酸化物を製造する焼成段階、アルカリが含まれているイリジウム酸化物を塩酸水溶液で洗浄してイリジウム酸化物を得る塩酸水溶液洗浄段階、そしてイリジウム酸化物を加圧下で塩酸に溶解した後に反応させる塩酸溶解反応段階を含む、イリジウムクロリド水和物の製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウム金属粉末とアルカリ金属化合物の混合物を準備する混合段階、
前記混合物を焼成してアルカリが含まれているイリジウム酸化物を製造する焼成段階、
前記アルカリが含まれているイリジウム酸化物を塩酸水溶液で洗浄してイリジウム酸化物を得る塩酸水溶液洗浄段階、
前記イリジウム酸化物を加圧下で塩酸に溶解した後に反応させる塩酸溶解反応段階
を含む、イリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属化合物は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属過酸化物、またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、またはこれらの混合物を含み、
前記アルカリ金属過酸化物は、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化リチウム、またはこれらの混合物を含む、請求項2に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属水酸化物は、前記水酸化ナトリウムと前記過酸化ナトリウムの混合物を含む、請求項3に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項5】
前記混合物は、前記アルカリ金属化合物を前記イリジウム金属粉末1重量部に対して0.5重量部~1重量部で含む、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項6】
前記混合物は、前記アルカリ金属過酸化物を前記イリジウム金属粉末1重量部に対して1重量部~3重量部で含む、請求項2に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリが含まれているイリジウム酸化物は、下記化学式1で表される化合物を含む、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
[化学式1]
NaIr
(前記化学式1で、前記xは、2~4の整数であり、前記yは、1~3の整数であり、前記zは、3~8の整数である)
【請求項8】
前記アルカリが含まれているイリジウム酸化物は、NaIrO、NaIrO、NaIr、またはこれらの混合物を含む、請求項7に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項9】
前記焼成段階で、前記焼成は、750℃以上の高温で行われる、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項10】
前記焼成段階と前記塩酸水溶液洗浄段階との間に、
前記アルカリが含まれているイリジウム酸化物を水で、60℃~70℃で、2時間~4時間洗浄する水洗浄段階をさらに含む、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項11】
前記塩酸水溶液洗浄段階で、前記塩酸水溶液の濃度は、5%~10%である、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項12】
前記塩酸水溶液洗浄段階を経たイリジウム酸化物を乾燥してケーキ(cake)を得る段階をさらに含む、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項13】
前記イリジウム酸化物のケーキは、アルカリ金属の含有量が10ppm以下である、請求項12に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項14】
前記塩酸溶解反応段階で、前記イリジウム酸化物1重量部に対する前記塩酸の含有量は、5重量部~15重量部である、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項15】
前記塩酸溶解反応段階は、5圧力~10圧力の加圧下で行われる、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項16】
前記塩酸溶解反応段階は、加圧下で、130℃~170℃で2時間~6時間行われる、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項17】
前記塩酸溶解反応段階で製造されたイリジウムクロリド水和物をろ過して得る段階をさらに含む、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項18】
前記製造されたイリジウムクロリド水和物は、アルカリ金属の含有量が10ppm以下である、請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法。
【請求項19】
請求項1に記載のイリジウムクロリド水和物の製造方法で得られたイリジウムクロリド水和物を濃縮してイリジウムクロリドを製造するイリジウムクロリドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
イリジウム金属粉末からイリジウムクロリド水和物、およびイリジウムクロリドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最も一般に商用化されているイリジウムの形態は、金属粉末である。
しかし、イリジウム金属粉末は、白金、またはパラジウムとは異なり、酸溶液、アルカリ溶液、または、王水(aqua regia、濃い塩酸と濃い硝酸の混合)に溶解されない。
【0003】
イリジウム金属粉末を溶解してイリジウム水溶液を製造するために、アルカリ金属(Na、または、Kなど)と混合した後に熱処理して酸化物に転換させた後、王水に溶かして製造する。
【0004】
しかし、このような方法によってもイリジウム金属が完全に溶解され難いため、生成物の収率が高くなく、未溶解のイリジウム金属を回収して熱処理段階から同一の過程を繰り返さなければならない。
【0005】
また、イリジウム酸化物を王水に溶かす過程は、高温で行われるが、この時、王水に含まれていた硝酸が蒸気で排出されて環境汚染を誘発することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態は、イリジウム金属の転換率が高く、イリジウム金属の高い溶解度により未反応のイリジウムが存在せず、アルカリ金属の含有量も少なくて生成物の純度が高く、窒素酸化物が発生されないため環境的に有利なイリジウムクロリド水和物の製造方法を提供する。
【0007】
本発明の他の実施形態は、製造されたイリジウムクロリド水和物を利用してイリジウムクロリドを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、イリジウム金属粉末とアルカリ金属化合物の混合物を準備する混合段階、混合物を焼成してアルカリが含まれているイリジウム酸化物を製造する焼成段階、アルカリが含まれているイリジウム酸化物を塩酸水溶液で洗浄してイリジウム酸化物を得る塩酸水溶液洗浄段階、そして、イリジウム酸化物を加圧下で塩酸に溶解した後に反応させる塩酸溶解反応段階を含む、イリジウムクロリド水和物の製造方法を提供する。
【0009】
アルカリ金属化合物は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属過酸化物、または、これらの混合物を含むことができる。
【0010】
アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、または、これらの混合物を含むことができる。
【0011】
アルカリ金属過酸化物は、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化リチウム、または、これらの混合物を含むことができる。
【0012】
アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムと過酸化ナトリウムの混合物を含むことができる。
【0013】
混合物は、アルカリ金属化合物をイリジウム金属粉末1重量部に対して0.5重量部~1重量部で含むことができる。
【0014】
混合物は、アルカリ金属過酸化物をイリジウム金属粉末1重量部に対して1重量部~3重量部で含むことができる。
【0015】
アルカリが含まれているイリジウム酸化物は、下記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0016】
[化学式1]
【0017】
NaIr
【0018】
化学式1で、xは、2~4の整数であり、yは、1~3の整数であり、zは、3~8の整数である。
【0019】
アルカリが含まれているイリジウム酸化物は、NaIrO、NaIrO、NaIr、またはこれらの混合物を含むことができる。
【0020】
焼成段階で、焼成は、750℃以上の高温で行われる。
【0021】
焼成段階と塩酸水溶液洗浄段階との間に、アルカリが含まれているイリジウム酸化物を水で、60℃~70℃で、2時間~4時間洗浄する水洗浄段階を、さらに含むことができる。
【0022】
塩酸水溶液洗浄段階で、塩酸水溶液の濃度は、5%~10%である。
【0023】
塩酸水溶液洗浄段階を経たイリジウム酸化物を乾燥してケーキ(cake)を得る段階をさらに含むことができる。
【0024】
イリジウム酸化物のケーキは、アルカリ金属の含有量が10ppm以下である。
【0025】
塩酸溶解反応段階で、イリジウム酸化物1重量部に対する塩酸の含有量は、5重量部~15重量部である。
【0026】
塩酸溶解反応段階は、5圧力~10圧力の加圧下で行うことができる。
【0027】
塩酸溶解反応段階は、加圧下で、130℃~170℃で2時間~6時間行うことができる。
【0028】
塩酸溶解反応段階で製造されたイリジウムクロリド水和物をろ過して得る段階をさらに含むことができる。
【0029】
製造されたイリジウムクロリド水和物は、アルカリ金属の含有量が10ppm以下である。
【0030】
本発明の他の実施形態によれば、得られたイリジウムクロリド水和物を濃縮してイリジウムクロリドを製造するイリジウムクロリドの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一実施形態によるイリジウムクロリド水和物の製造方法は、イリジウム金属の転換率が高く、イリジウム金属の高い溶解度により未反応のイリジウムが存在せず、アルカリ金属の含有量も少なくて生成物の純度が高く、窒素酸化物が発生されないため環境的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】一実施形態によるイリジウムクロリド水和物およびイリジウムクロリドを製造する段階を示す工程フローチャートである。
【0033】
図2】実験例1で焼成温度別生成されたアルカリが含まれているイリジウム酸化物のXRD分析結果を示すグラフである。
【0034】
図3】実験例2で洗浄条件別生成されたイリジウム酸化物のXRD分析結果を示すグラフである。
【0035】
図4】実験例3で測定されたイリジウムクロリド水和物のXRD分析結果を示すグラフである。
【0036】
図5】実施例1で製造されたイリジウムクロリド水和物およびイリジウムクロリドを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下で説明する技術の利点および特徴、そしてこれらを達成する方法は、添付の図面と共に詳細に後述する実施例を参照すれば明らかになる。
しかし、具現される形態は、以下で開示される実施例に限定されるのではない。
他の定義がなければ、本明細書で使用される全ての用語(技術および科学的用語を含む)は、当該技術分野における通常の知識を有する者に共通的に理解され得る意味として使用される。
また、一般に使用される辞書に定義されている用語は、明確に特に定義されていない限り、理想的にまたは過度に解釈されない。
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という時、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0038】
また、単数型は、文句で特に言及しない限り、複数型も含む。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態によるイリジウムクロリド水和物およびイリジウムクロリドを製造する段階を示す工程フローチャートである。
【0040】
図1を参照して、イリジウムクロリド水和物およびイリジウムクロリドを製造する方法を詳細に説明する。
【0041】
イリジウムクロリド水和物の製造方法は、混合段階(S1-1)、焼成段階(S1-2)、塩酸水溶液洗浄段階(S1-4)、そして、塩酸溶解反応段階(S1-5)を含む。
【0042】
混合段階(S1-1)では、イリジウム金属粉末とアルカリ金属化合物の混合物を準備する。
【0043】
アルカリ金属化合物は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属過酸化物、または、これらの混合物を含むことができ、例えば、アルカリ金属水酸化物とアルカリ金属過酸化物の固体混合物を含むことができる。
【0044】
アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、または、これらの混合物を含むことができ、例えば、アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム(NaOH)である。
【0045】
アルカリ金属過酸化物は、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化リチウム、または、これらの混合物を含むことができ、例えば、アルカリ金属過酸化物は、過酸化ナトリウム(Na)であり得る。
【0046】
一例として、アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムと過酸化ナトリウムの混合物を含むことができる。
【0047】
混合物は、アルカリ金属化合物をイリジウム金属粉末1重量部に対して0.5重量部~1重量部、例えば、0.6重量部~0.7重量部で含むことができる。
アルカリ金属化合物の含有量がイリジウム金属粉末1重量部に対して0.5重量部未満の場合、イリジウム金属の表面にアルカリ成分の吸着量が足りなくて焼成過程で酸化が均一に行われないことがあり、1重量部を超える場合、過剰のアルカリ金属化合物がイリジウム金属の表面を覆って酸化剤がイリジウム金属と接触することを妨害することがある。
【0048】
または、混合物は、アルカリ金属化合物中のアルカリ金属過酸化物をイリジウム金属粉末1重量部に対して1重量部~3重量部、例えば、1.75重量部~2.25重量部で含むことができる。
アルカリ金属過酸化物の含有量がイリジウム金属粉末1重量部に対して1重量部未満の場合、酸化剤の不足により焼成後にも依然としてイリジウム金属が残存することがあり、3重量部を超える場合、イリジウム金属を過酸化させてイリジウムナノ粒子が形成されることで以降のろ過過程でろ過紙を通過して生成物を得ることが難しくなることがある。
【0049】
この時、アルカリ金属化合物がアルカリ金属水酸化物とアルカリ金属過酸化物の混合物を含む場合、アルカリ金属水酸化物とアルカリ金属過酸化物の重量比は、1:2~1:4、例えば、1:2.5~1:3.5である。
アルカリ金属過酸化物の重量比が2未満の場合、酸化剤の不足により焼成後にも依然としてイリジウム金属が残存することがあり、4を超える場合、イリジウム金属を過酸化させてイリジウムナノ粒子が形成されることで以降のろ過過程でろ過紙を通過して生成物を得ることが難しくなることがある。
【0050】
焼成段階(S1-2)では、混合物を焼成してアルカリが含まれているイリジウム酸化物を製造する。
【0051】
焼成は、750℃以上で行われる。
焼成温度が750℃未満の場合、未反応のイリジウム金属が残っていることがあり、750℃以上では、イリジウム金属が、完全にアルカリが含まれているイリジウム酸化物に転換され得る。
例えば、焼成は、5時間~10時間にかけて750℃以上に昇温し、750℃以上で2時間~4時間維持する過程で行われる。
【0052】
焼成により製造されたアルカリが含まれているイリジウム酸化物は、下記の化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0053】
[化学式1]
【0054】
NaIr
【0055】
化学式1で、xは、2~4の整数であり、yは、1~3の整数であり、zは、3~8の整数である。
【0056】
例えば、化学式1で表されるアルカリが含まれているイリジウム酸化物は、NaIrO、NaIrO、NaIr、または、これらの混合物を含むことができる。
【0057】
選択的に、焼成段階で得られたアルカリが含まれているイリジウム酸化物は、塩酸水溶液洗浄段階の前に、水で洗浄する段階を経ることができる(S1-3)。
【0058】
水は、脱イオン水、蒸溜水、または、超純水などであり得、例えば、脱イオン水を利用することができる。
【0059】
一例として、水洗浄段階は、アルカリが含まれているイリジウム酸化物を水で、60℃~70℃で、2時間~4時間行われ得る。
水洗浄段階の温度が60℃未満の場合、洗浄が完璧に行われず、洗浄後に残存アルカリイオンが存在することがあり、70℃を超える場合、洗浄水が蒸発して濃縮されることがある。
水洗浄段階の時間が2時間未満の場合にも、洗浄が完璧に行われないことがあり、4時間を超える場合には、作業時間が不必要に長くなることがある。
【0060】
選択的に、水洗浄段階の後に、ろ過段階をさらに含むことができる。
例えば、ろ過は、水で洗浄された溶液を紙フィルターを用いて高温状態で行われる。
【0061】
また、選択的に、ろ過段階の後に、水洗浄段階をさらに経ることができ、例えば、ろ過後に予め製造された60℃~70℃の高温水で洗浄することができる。
【0062】
水洗浄段階を通じてアルカリが含まれているイリジウム酸化物内でアルカリ金属イオンを一部除去することができ、これにより、一部イリジウム酸化物を得ることができる。
しかし、水洗浄段階の後にも、約400ppm以上のアルカリ金属成分が残存することがある。
【0063】
そこで、塩酸水溶液洗浄段階(S1-4)では、アルカリが含まれているイリジウム酸化物を塩酸水溶液で洗浄して、残存するアルカリ金属成分の含有量を10ppm以下に減らし、イリジウム酸化物を製造することができる。
【0064】
塩酸水溶液の濃度は、5%~10%であり得る。
塩酸水溶液の濃度が5%未満の場合、洗浄効果が良好に現れず、アルカリ金属が依然として残存することがあり、10%を超える場合、アルカリ金属以外に一部のイリジウム金属まで溶解させることがある。
【0065】
選択的に、塩酸水溶液洗浄段階の後に、ろ過段階をさらに含むことができる。
例えば、ろ過は、塩酸水溶液で洗浄された溶液を紙フィルターを用いて高温の状態で行われる。
【0066】
また、選択的に、塩酸水溶液洗浄段階を経たイリジウム酸化物を乾燥してケーキ(cake)を製造することができる。
【0067】
乾燥は、100℃以上で12時間~24時間行われる。
乾燥温度が100℃未満の場合、乾燥時間が長くなるだけでなく、乾燥後にも残存水分が存在することがある。
【0068】
塩酸水溶液洗浄段階を通じて、残存するアルカリ金属成分の含有量を減らすことができる。
これにより、イリジウム酸化物のケーキは、アルカリ金属の含有量が10ppm以下、例えば0ppm~5ppmであり得る。
【0069】
アルカリ金属の含有量が10ppmを超える場合、最終生成物であるイリジウムクロリドの純度が落ちることで、これを利用した触媒の製造時、触媒反応に否定的な影響を与えることがある。
【0070】
塩酸溶解反応段階(S1-5)では、イリジウム酸化物を加圧下で塩酸に溶解した後に反応させてイリジウムクロリド水和物を製造する。
【0071】
イリジウム酸化物1重量部に対する塩酸の含有量は、5重量部~15重量部、例えば、8重量部~10重量部であり得る。
イリジウム酸化物1重量部に対する塩酸の含有量が5重量部未満の場合、反応に必要なクロリドイオンの含有量の不足によりイリジウム酸化物がイリジウムクロリドに100%転換とはならないことがあり、15重量部を超える場合、後続工程である濃縮過程で塩酸水溶液の蒸発にエネルギー費用が過多に投入されることがある。
【0072】
塩酸溶解反応段階は、加圧下で行われ、一例として、加圧容器内で行われる。
加圧時の圧力は、5圧力~10圧力、例えば、6圧力~8圧力下で行われる。
圧力は、反応温度に比例して増加するため、以下の温度範囲で行えば、圧力は、別途に調節する必要がない。
【0073】
また、塩酸溶解反応段階は、加圧下、130℃~170℃で2時間~6時間、例えば、150℃~170℃で2時間~4時間行われる。
塩酸溶解反応段階で温度が、130℃未満の場合、イリジウム酸化物がイリジウムクロリドに100%転換され難いことがあり、170℃を超える場合、イリジウムクロリド転換は容易であるが、加圧容器が腐食あるいは変形が起きて商業的適用が難しいことがあり、時間が2時間未満の場合、イリジウムクロリドの転換反応率が落ちることがあり、6時間を超える場合、エネルギー費用が過多に投入されることがある。
【0074】
選択的に、塩酸溶解反応段階の後に、ろ過段階をさらに含むことができる。
【0075】
ろ過段階を通じて塩酸溶解反応段階で製造されたイリジウムクロリド水和物を得ることができる。
例えば、ろ過は、塩酸溶解反応を経た溶液を紙フィルターを用いて高温の状態で行われる。
この時、残留溶液の回収のためのリンス溶液、例えば、脱イオン水は、最小量を使用する。
【0076】
製造されたイリジウムクロリド水和物は、例えば、HIrCl・xHOで表される化合物であり得る。
塩酸溶解反応段階で得られたイリジウムクロリド水和物は、実質的に完全溶解、例えば、99.9%以上溶解され、アルカリ金属の含有量が10ppm以下である。
【0077】
一実施形態によるイリジウムクロリド水和物の製造方法は、焼成段階(S2-1)で、イリジウム金属の完全な酸化を誘導して製造収率を高めることができ、塩酸水溶液洗浄段階(S1-4)では、塩酸水溶液の単独溶媒を用いて窒素酸化物が発生されず、加圧反応前に塩酸を利用して酸化剤として使用されたアルカリ金属成分を除去して、得られたイリジウムクロリド内のアルカリ金属の含有量が10ppm以下であり、塩酸溶解反応段階(S1-5)で、加圧反応を通じて99.9%以上の溶解度を有するようになり、未反応のイリジウムが存在しないため、生成物の純度が非常に高い。
【0078】
他の実施形態によるイリジウムクロリドの製造方法は、製造されたイリジウムクロリド水和物を濃縮してイリジウムクロリドを製造する(S2-1)。
【0079】
一例として、濃縮は、減圧蒸留方法を利用することができる。
【0080】
製造されたイリジウムクロリドは、例えば、IrCl・xHOで表される化合物であり得る。
[実施例]
【0081】
以下、発明の具体的な実施例を提示する。
ただし、下記に記載された実施例は、発明を具体的に例示したり説明するためのものに過ぎず、これによって発明の範囲が制限されてはならない。
【0082】
[製造例:イリジウムクロリド水和物の製造]
【0083】
(実施例1)
【0084】
Ir金属粉末20gを基準としてNaOHパウダーおよびNaパウダーをそれぞれ13.3g、40.2gずつ添加して物理的混合(physical mixing)する。
【0085】
混合されたパウダーをルツボに入れて750℃で焼成後、徐々に冷却させる。
焼成時、750℃昇温6時間、維持2.5時間の段階で行う。
また、焼成時、ルツボの蓋は、開放させる。
【0086】
焼成された粉末を脱イオン水500mlに入れて超音波混合(sonication)を行いながら溶液を65℃まで加熱する。
65℃になった時点から2時間にかけてマグネチックスピンバー(magnetic spin bar)を用いて攪拌する。
【0087】
攪拌された溶液を紙フィルターを用いて高温の状態でろ過する。
ろ過後、予め製造された65℃の高温水2Lで洗浄する。
【0088】
また、10%のHCl溶液200g(脱イオン水180g+HCl 20g)を製造した後、追加で洗浄する。
【0089】
洗浄完了後、洗浄液に対してICP分析を行い、その結果、洗浄液内には、Ir成分が存在しないことを確認した。
【0090】
洗浄が完了したパウダーを120℃で12時間以上乾燥してNaIrOケーキを回収する。
【0091】
乾燥されたケーキを圧力容器に入れてHCl 242gを入れて混合する。
【0092】
準備された圧力容器を熱処理炉に入れ、150℃で4時間にかけて高温加圧反応後に冷却する。
【0093】
溶解された溶液を紙フィルターを用いてろ過する。
残留溶液の回収のためのリンス溶液(脱イオン水)は、最小量を使用する。
【0094】
(実施例2~11および比較例1~2)
【0095】
実施例1で反応条件を下記表1のように変更したことを除き、実施例1と同様に実施してイリジウムクロリド水和物を製造する。
【0096】
参考までに、比較例1および比較例2では、溶解反応段階で塩酸の代わりに王水(塩酸:硝酸=3:1の体積比)を使用する。
【0097】
【表1】
【0098】
[実験例1:焼成温度別生成物のXRD分析結果]
【0099】
実施例1、および、実施例4~実施例6で焼成温度がそれぞれ750℃、650℃、700℃、および800℃に変わることによって生成されたアルカリが含まれているイリジウム酸化物の状態をXRDで分析し、その結果を図2に示す。
【0100】
図2を参照すれば、750℃未満の焼成温度では、酸化剤であるNaと反応しなかったイリジウム金属が残存しており、Naイオンと結合されずに単純酸化物形態であるIrOも製造されたことを確認することができる。
【0101】
反面、750℃以上の焼成条件では、Naイオンおよび酸化剤と完璧に結合して、イリジウム金属は、完全にNaIrOに転換されることを確認することができる。
【0102】
[実験例2:洗浄条件別生成物のXRD分析結果]
【0103】
実施例1、実施例7および実施例8で洗浄条件が変わることによって生成されたイリジウム酸化物の状態をXRDで分析し、その結果を図3に示す。
【0104】
実施例1は、脱イオン水で1次洗浄し、10%塩酸水溶液で2次洗浄した結果であり、実施例8は、脱イオン水で1次洗浄し、5%塩酸水溶液で2次洗浄した結果であり、実施例7は、脱イオン水で1次洗浄し、塩酸水溶液で2次洗浄は行わなかった結果である。
【0105】
図3を参照すれば、脱イオン水に洗浄過程を経るとイリジウム酸化物に含まれている大部分のNaイオンは除去されるが、一部がイリジウム酸化物内に残存していることが分かる。
【0106】
脱イオン水洗浄後に、追加で5%~10%濃度の塩酸水溶液を利用して2次洗浄を行うようになると、最終的にイリジウム酸化物内のNaイオンは、ほとんど除去がされることが分かる。
【0107】
具体的に、XRD分析結果をみると、脱イオン水洗浄だけを行った場合、Naが含まれているNaIrOのピークが依然として存在するが、塩酸水溶液を利用した追加の洗浄後には、NaIrOピークがなくなることをみることができる。
【0108】
また、Naイオンが除去された酸化物に対して元素分析(ICP分析)を行った結果、塩酸水溶液の追加洗浄後には、イリジウム酸化物内のNaイオンは、5%塩酸水溶液で洗浄した場合は、10ppm、10%塩酸水溶液で洗浄した場合は、4ppm水準と測定された。
【0109】
[実験例3:製造されたイリジウムクロリド水和物の確認]
【0110】
実施例1で製造された生成物からイリジウムの含有量をICP分析を通じて測定する。
【0111】
その結果、初期Ir粉末に対して99.9%以上の収率を確認し、生成物内の残留Naの含有量は、4.1ppmで、ほとんど除去されたことを確認した。
【0112】
また、生成物を80℃で乾燥して水分除去後にXRD分析を行った結果を図4に示した。
図4で参考例1は、試薬グレード(アルドリッチ社製社)HIrCl・xHOに対する結果である。
図4を参照すれば、試薬グレード(アルドリッチ社製社)HIrCl・xHOと同じ結晶状を示すことを確認した。
【0113】
製造された生成物を100℃で4時間乾燥して乾燥品を回収する。
乾燥品に対してイオンクロマトグラフィー分析を通じて分析した結果、Cl/Irモル比が4.2であった。
【0114】
また、熱重量分析結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2を参照すれば、実施例1と参考例1は、900℃熱分析後、残量がほとんど類似していた。
これにより、乾燥品は、IrClで製造されたことを確認した。
【0117】
また、製造された生成品を1000倍希釈して市販される参考例1と色を比較してみた結果を図5に示す。
図5で(A)は、イリジウム金属粉末の写真であり、(B)は、生成物であるHIrCl溶液の写真であり、(B´)は、生成物であるHIrCl溶液を1000倍希釈溶解した後の写真であり、(Ref.B´)は、参考例1の写真である。
(C)は、生成物の乾燥品であるIrClの写真であり、(C´)は、生成物の乾燥品であるIrClを1000倍希釈溶解した後の写真であり、(Ref.C´)は、参考例1の写真である。
図5で参考例1は、試薬グレード(アルドリッチ社製社)HIrCl6・xHOに対する結果である。
【0118】
図5を参照すれば、生成品は、HIrCl・xHO、乾燥品は、IrCl・xHOと確認された。
【0119】
[実験例4:製造されたイリジウムクロリド水和物の収率およびNa含有量の測定]
【0120】
実施例1~11および比較例1~2で製造されたイリジウムクロリド水和物の収率およびNa含有量を測定し、その結果を表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
表3を参照すれば、実施例1~実施例3は、焼成時にアルカリ金属化合物とイリジウム金属の比率を調節して触媒を製造した場合である。
実施例2の場合、イリジウム金属の完全な酸化が行われなかったため最終酸化物の溶解反応段階で完全な溶解が行われず、実施例3の場合、アルカリ金属化合物が過度に添加されて洗浄過程でイリジウム酸化物が脱イオン水に溶けて溶出される問題があった。
【0123】
実施例1および実施例4~実施例6は、焼成時に焼成温度を異にして触媒を製造した場合である。
焼成温度が750℃未満では未酸化イリジウムが存在しており、溶解反応段階で溶解率が低くなり、750℃以上の温度で焼成した時、ようやく単独のNaIrO複合酸化物形態が作られるようになることが分かる。
【0124】
実施例1、実施例7、および、実施例8は、洗浄段階での塩酸水溶液の洗浄程度により生成物内のNaイオンの量を比較した結果である。
実施例7は、塩酸水溶液を利用した2次洗浄を実施しておらず、その結果、最終生成物内のNaイオンが多量残存していることを確認した。
実施例8は、塩酸の濃度を5%に製造された塩酸水溶液で洗浄した結果であり、少量の塩酸でも洗浄効果が優れるように現れることを確認した。
【0125】
実施例1、および、実施例9~実施例11は、溶解反応段階で溶解反応温度を異にして製造した場合である。
150℃未満の温度で加圧溶解をした場合、低い溶解率を示しており、150℃以上から完全な溶解が行われることを確認した。
【0126】
実施例1、比較例1、および、比較例2は、溶解反応段階で溶解方法を異にして製造した場合である。
王水溶解法の場合、常圧で実施して100℃以上温度を上げることができず、低い溶解度を示しており、特に、比較例1は、洗浄段階で塩酸水溶液洗浄を行わなかったため低い溶解度と共に生成物内の高いNaイオン残存率を示している。
【0127】
したがって、実施例1のように、イリジウム金属とアルカリ金属化合物の重量比率を2.6、焼成温度を750℃以上、5%~10%の塩酸水溶液を利用した追加的なNaイオン除去を通じてイリジウム酸化物を製造し、このように製造されたイリジウム酸化物に対して150℃以上での加圧反応を利用して溶解率99%以上のイリジウムクロリド溶液を製造できることが分かる。
【0128】
以上で本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲は、これに限定されるのではなく、特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者の多様な変形および改良形態も本発明の権利範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0129】
一実施形態は、イリジウム金属の転換率が高く、イリジウム金属の高い溶解度により未反応のイリジウムが存在せず、アルカリ金属の含有量も少なくて生成物の純度が高く、窒素酸化物が発生されないため環境的に有利なイリジウムクロリド水和物の製造方法を提供する。
【0130】
他の実施形態は、製造されたイリジウムクロリド水和物を利用してイリジウムクロリドを製造する方法を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】