(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-12
(54)【発明の名称】溶媒標的回収および沈殿(「STRAP」)によるプラスチックのリサイクル
(51)【国際特許分類】
C08J 11/08 20060101AFI20241105BHJP
B29B 17/02 20060101ALI20241105BHJP
B29B 17/04 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
B29B17/02
B29B17/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529945
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 US2022050363
(87)【国際公開番号】W WO2023091639
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506097988
【氏名又は名称】ウィスコンシン アルムニ リサーチ ファンデイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヒューバー、ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス-リヴェラ、ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン-レーン、レイド
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー、テッド
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、パンヂァン
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA13
4F401AA15
4F401AA16
4F401AA22
4F401AA24
4F401AB07
4F401AD01
4F401AD07
4F401BA13
4F401CA13
4F401CA14
4F401CA22
4F401CA30
4F401CA46
4F401CA49
4F401CA50
4F401CA51
4F401CA54
4F401CA57
4F401CB01
4F401CB10
4F401DB00
4F401EA46
4F401EA54
4F401EA58
4F401EA59
4F401EA60
4F401EA62
4F401EA63
4F401EA65
4F401EA68
4F401EA69
4F401FA01Z
(57)【要約】
多層プラスチックフィルムまたは混合されたプラスチック廃棄物における構成ポリマーを回収するための方法が本明細書に開示される。方法は、あるポリマーは溶解するが、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物中の他のポリマーは溶解しない温度で溶媒にあるポリマーを選択的に溶解する工程を含む。可溶化したポリマーは、その後多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチックの廃棄物から機械的ろ過により分離され、温度を変更することおよび/または共溶媒を添加することにより沈殿される。各ポリマー成分に対してプロセスが繰り返され、結果としてリサイクルが可能となる多数の分離された流れが生じる。種々のポリマーをすべての成分の中から選択的に溶解する溶媒系や温度を選択するためにコンピューターツールが使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物において構成ポリマーを回収する方法であって、
(a)ある温度でポリマーを溶媒に選択的に溶解し可溶化したポリマーを得る工程であって、前記ポリマーは溶解するが、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物における他のポリマーは溶解しない、工程;
(b)可溶化したポリマーを多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物から機械的ろ過により分離する工程;
(c)前記可溶化したポリマーを溶媒から沈殿させる工程;および
(d)工程(a)、(b)、および(c)を、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物における各異なるポリマーに対して、各異なるポリマーを選択的に溶解する溶媒および温度を用いて繰り返す工程
を含む方法。
【請求項2】
前記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物に存在する構成成分のすべての中からあるポリマーを選択的に溶解する、溶媒および温度を選択するためにコンピューターツールを使用すること、をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
コンピューターツールが、Hansen溶解度パラメータ(HSP)、分子動力学(MD)シミュレーション、ならびに量子化学および統計力学を組み合わせたモデリングを計算することを含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(a)の前に、インクを前記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物から除去するための脱インキ工程、をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記脱インキ工程が、前記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物をテトラヒドロフラン(THF)およびN,N-ジメチルフォルムアミド(DMF)において処理することにより実行される請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程(a)の前に、前記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物を1cm
2以下の細片に切断する工程、をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
工程(a)の前に、前記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物を5mm以下、4mm以下、3mm以下、または2mm以下のストリップに細断する工程、をさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項8】
工程(c)において、可溶化したポリマーは反溶媒の添加により溶媒から沈殿される請求項1記載の方法。
【請求項9】
工程(c)において、可溶化したポリマーは、溶媒の温度を変化させることにより溶媒から沈殿される請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記多層プラスチックフィルムは、ポリエチレン(PE)、エチレンビニルアルコール(EVOH)およびポリエチレンテレフタレート(PET)から本質的になる請求項1記載の方法。
【請求項11】
工程(a)において、PEが約110℃でトルエンに選択的に溶解され、かつEVOHが約95℃でジメチルスルホキシド(DMSO)に選択的に溶解される請求項10記載の方法。
【請求項12】
工程(c)において、可溶化したPEがアセトンを添加することにより沈殿され、かつ可溶化したEVOHが水を添加することにより沈殿される請求項11記載の方法。
【請求項13】
工程(a)において、PEが約110℃でトルエンまたはC
6~C
12アルカンに選択的に溶解され、かつEVOHが約95℃でDMSOおよび水を含む溶媒で選択的に溶解される請求項10記載の方法。
【請求項14】
工程(c)において、可溶化したPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、かつ可溶化したEVOHがDMSOおよび水の温度を約35℃に低下させることにより沈殿される請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記多層プラスチックフィルムが、エチレン酢酸ビニル(EVA)を含むタイ層をさらに含む請求項10記載の方法。
【請求項16】
EVAが、工程(a)において約110℃でトルエンに溶解されかつ工程(c)においてアセトンを添加することによりPEと一緒に沈殿され、およびEVAが、工程(c)の後、EVAをN-メチルピロリドン(NMP)に選択的に溶解することによりPEから分離される請求項15記載の方法。
【請求項17】
EVAが、工程(a)において約110℃でトルエンにPEと一緒に溶解され、およびEVAが、工程(c)においてトルエンの温度を約35℃に低下させてPEを沈殿させることによりPEから分離される請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記多層プラスチックフィルムが、ポリエチレンテレフタレート(PETG)、PE、EVOHおよびPETから本質的になる請求項1記載の方法。
【請求項19】
工程(a)において、PETGが、約87℃でDMFおよびTHFを含む溶媒に選択的に溶解され、PEが、約110℃でトルエンに溶解され、そしてEVOHが、約95℃でDMSOおよび水を含む溶媒に溶解される請求項18記載の方法。
【請求項20】
工程(c)において、可溶化したPETGが1-プロパノールを添加することより沈殿され、可溶化したPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、そして可溶化したEVOHがDMSOおよび水の温度を約35℃に低下させることにより沈殿される請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記混合プラスチック廃棄物が、PE、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、PETおよびポリアミド(PA)から本質的になる請求項1記載の方法。
【請求項22】
工程(a)において、PEが約100℃でドデカンに溶解され、かつPPが約110℃でトルエンに溶解される請求項21記載の方法。
【請求項23】
工程(c)において、可溶化したPEがドデカンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、そして可溶化したPPがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿される請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記多層プラスチックフィルムが、PE、EVOHおよびナイロンから本質的になる請求項1記載の方法。
【請求項25】
工程(a)において、PEが約110℃でトルエンに選択的に溶解され、そしてEVOHが約85℃でDMSOおよび水を含む溶媒に選択的に溶解される請求項24記載の方法。
【請求項26】
工程(c)において、可溶化したPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、そして可溶化したEVOHがDMSOおよび水の温度を約35℃に低下させることにより沈殿される請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記混合プラスチック廃棄物が、PVC、低密度ポリエチレン(LDPE)、PP、高密度ポリエチレン(HDPE)、PET、ナイロン6,6,6、ナイロン6、およびナイロン6,6から本質的になる請求項1記載の方法。
【請求項28】
工程(a)において、PVCが約68℃でTHFに選択的に溶解され、LDPEが約85℃でトルエンまたはC6~C12アルカンに選択的に溶解され、PPが約90℃でテトラヒドロピラン(THP)に選択的に溶解され、HDPEが約110℃でトルエンに選択的に溶解され、PETが約160℃でγ-バレロラクトン(GVL)に選択的に溶解され、ナイロン6,6,6が約135℃で1,2-プロパンジオールに溶解され、ナイロン6が約145℃でDMSOに選択的に溶解され、そしてナイロン6,6が約65℃でギ酸に溶解される請求項27記載の方法。
【請求項29】
工程(c)において、可溶化したPVCが水の添加により沈殿され、可溶化したLDPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したPPがTHPの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したPPが、THPの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したHDPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したPETがGVLの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したナイロン6,6,6が1,2-プロパンジオールの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したナイロン6がDMSOの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、そして可溶化したナイロン6,6が水の添加により沈殿される請求項28記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
2021年11月18日に出願された仮出願番号第63/280,669号に対して優先権が主張され、該出願が本明細書に参照として組み込まれる。
【0002】
[連邦政府資金提供声明]
本発明は、米国エネルギー省から授与されたDE-EE0009285に基づく政府支援によりなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
多層プラスチックフィルムは、軟質および硬質プラスチック包装業界において至るところにある(L. K. Massey, Permeability Properties of Plastics and Elastomers: A Guide to Packaging and Barrier Materials. William Andrew, Norwich, NY, 2003)。これらの複合材料は、ポリオレフィンやポリエステルなどのヘテロポリマーの異なる層から構成されており、各層は用途に応じてバルク材料に対応する特性の利点をもたらすように選択されている(O. G. Piringer, A. L. Baner, Plastic Packaging: Interactions with Food and Pharmaceuticals. Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim, 2008)。
【0004】
多層プラスチックフィルムの多用途性と手頃な価格が多くの需要を生み出している。そのため、世界では毎年1億トンより多くの多層熱可塑性プラスチックが生産されている(D. Lithner et al., Environmental and health hazard ranking and assessment of plastic polymers based on chemical composition. Sci. Total Environ. 409, 3309-3324 (2011))。しかし、製造された多層フィルムの40%までが、フィルムをテンプレート形状に切断するなどの包装製造プロセスにおける非効率性のため、最終的な包装用途で使用されていない(R. Coles, M. J. Kirwan, Food and Beverage Packaging Technology. Blackwell Publishing Ltd, 2011)。これらの未使用画分は、食品や他の不純物で汚染されていない大規模なポストインダストリアル廃棄物(PIW)源であり、容易に回収して多層フィルム製造装置に再導入することができる。しかし、多層包装材料は、異なる層が化学的に非互換性であるため、従来のプラスチックリサイクル技術(機械的リサイクルなど)ではリサイクルできない。既存のリサイクル・インフラに適合させるためには、多層プラスチック廃棄物をまず部分的または完全に分解して構成樹脂にした後、処理装置に投入して再構成多層フィルムを製造する必要がある(J. M. Garcia, M. L. Robertson, The future of plastics recycling. Science 358, 870-872 (2017))。現在のところ、商業的に実行可能な技術は存在しない。ポストコンシュマー都市廃棄物の流れに存在する多層プラスチックにも同様の問題が存在する。つまり、機械的または化学的補助法に基づく単成分プラスチックのリサイクル技術は存在する(N. A. Rorrer et al., Combining reclaimed PET with bio-based monomers enables plastics upcycling. Joule 3, 1006-1027 (2019))が、閉ループ一次リサイクルスキームにおいて多層フィルムを処理する戦略は存在しない(O. Horodytska, F. J. Valdes, A. Fullana, Plastic flexible films waste management - A state of art review. Waste Manag. 77, 413-425 (2018); P. Lacy, J. Rutqvist, Waste to Wealth: The Circular Economy Advantage. Palgrave Macmillan, New York, NY, 2016)。さらに、PIWとは対照的に、これらのポストコンシュマー廃棄物の流れは食品やその他の不純物で汚染されており、その洗浄が課題となっている。合わせて、これらの技術格差は、海洋におけるプラスチック廃棄物の蓄積、腐敗した人間の生息環境、および海洋生物の死といった結果に特徴づけられる、現在進行中の人間と環境の健康危機の重要な側面を表している(C. M. Rochman et al., Policy: Classify plastic waste as hazardous. Nature 494, 169-171 (2013))。
【0005】
混合プラスチック廃棄物から個々のポリマー成分を回収するための1つのアプローチは、溶媒系に対象となるポリマーを選択的に溶解させることである(G. Pappa et al., The selective dissolution/precipitation technique for polymer recycling: A pilot unit application. Resour. Conserv. Recycl. 34, 33-44 (2001); D. S. Achilias et al., Chemical recycling of plastic wastes made from polyethylene (LDPE and HDPE) and polypropylene (PP). J. Hazard. Mater. 149, 536-542 (2007))。この戦略に基づく技術は、多くの企業で研究され、現在実用化されている。例えば、APKのNewcyclingプロセスは、アルカン、イソオクタン、またはシクロアルカンからなる溶媒系で、多層プラスチックからポリエチレン(PE)またはポリプロピレンを優先的に溶解することに基づいており(I. Vollmer et al., Beyond mechanical recycling: Giving new life to plastic waste. Angew. Chem. Int. Ed. 59, 15402-15423 (2020)); 溶解したポリマーは溶液から回収され、押出成形によってペレット化される(M. Niaounakis, Recycling of Flexible Plastic Packaging. Plastics Design Library, William Andrew, 2020; K. Wohnig, in GPCA PlastiCon, 2018)。CreaSolvプロセスは、脂肪族炭化水素の群から選択される溶媒を用いるポリオレフィンの選択的溶解に基づく。その後、モノ/ポリヒドロキシ炭化水素、例えば1-プロパノールまたは1,3-プロパンジオールからなる反溶媒(antisolvent)が、混合物からポリオレフィンを沈殿させるために使用される(米国特許第8,138,232号明細書)。PureCycleのプロセスは、プラスチック廃棄物を独自の溶媒と高温高圧で接触させ、精製されたポリプロピレン(PP)を得るものである。ソルベイのVinyLoop(登録商標)プロセスは、ポリ塩化ビニル(PVC)をポリマーコーティングから分離するもので、機械的工程と独自の溶媒を用いた選択的溶解工程の両方を含む。上記の例は、選択的溶解が複雑なプラスチック廃棄物のリサイクルに有望なアプローチであることを示している。しかし、これらの技術は大量の廃プラスチックを処理するが、純粋な形で回収できるポリマー成分は1または2種類に過ぎない。
【0006】
Eastmanのメタノリシスプロセス(P. Muhs et al., Recycling PET bottles by depolymerization. Kunstst. Ger. Plast. 82, 289-292 (1992))、IBMのVolcatプロセス(K. Fukushima et al., Advanced chemical recycling of poly (ethylene terephthalate) through organocatalytic aminolysis. Polym. Chem. 4, 1610-1616 (2013))、およびIoniqaの触媒PETプロセス(米国特許第10,266,479号明細書)などポリエステルをモノマーユニットに変換するいくつかの化学的解重合プロセスが開発されている。これらの技術は、対応するモノマーからバージンポリマーを再構成する必要があり、より多くの分離工程を必要とするため、運用コストが高くなる可能性が高い。廃プラスチックのリサイクルにおける他の基礎的な研究努力は、多層フィルム成分を、より容易に解重合または生分解されるポリマーに置き換えることを目的としている。しかし、これらの努力は、商業化には程遠い長期的なアプローチに相当する(B. Fan et al., Polyglyoxylates: A versatile class of triggerable self-immolative polymers from readily accessible monomers. J. Am. Chem. Soc. 136, 10116-10123 (2014); E. K. Y. Chen et al., Self-immolative polymers containing rapidly cyclizing spacers: Toward rapid depolymerization rates. Macromolecules 45, 7364-7374 (2012))。
【0007】
これらの例の多様性は、複雑な多層プラスチックのリサイクルをめぐる問題のタイムリーさを示している。これらの多層包装材料は、ポストインダストリアル廃棄物やポストコンシュマー廃棄物が増加しているため、より効率的な回収、選別、分離、およびリサイクルのためのさらなる技術開発が必要である。
【発明の概要】
【0008】
本明細書で開示するのは、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物において構成ポリマーを回収する方法である。この方法は、以下の工程:
(a)ある温度でポリマーを溶媒に選択的に溶解し可溶化したポリマーを得る工程であって、上記ポリマーは溶解するが、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物における他のポリマーは溶解しない、工程;
(b)上記可溶化したポリマーを多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物から機械的ろ過により分離する工程;
(c)上記可溶化したポリマーを溶媒から沈殿させる工程;および
(d)工程(a)、(b)、および(c)を、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物における各異なるポリマーに対して、各異なるポリマーを選択的に溶解する溶媒および温度を用いて繰り返す工程
を含む。
【0009】
本方法はさらに、上記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物に存在する構成成分のすべての中からあるポリマーを選択的に溶解する、溶媒および温度を選択するためにコンピューターツールを使用することを含む。コンピューターツールが、Hansen溶解度パラメータ(HSP)、分子動力学(MD)シミュレーション、ならびに量子化学および統計力学を組み合わせたモデリングを計算することが含まれる。
【0010】
本方法は、工程(a)の前に、インクを前記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物から除去するための脱インキ工程、をさらに含む。いくつかの実施形態では、脱インキ工程が、前記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物をテトラヒドロフラン(THF)およびN,N-ジメチルフォルムアミド(DMF)において処理することにより実行される。あるいは、脱インキ工程を完全に省略するか、PETを用いて分離したポリマー画分に対してのみ実施することもできる。ポリマーに使用されるほとんどのインクは、PET画分に分離されることが判明している。
【0011】
本方法は、工程(a)の前に、前記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物を1cm2以下の細片に切断する工程、をさらに含む。あるバージョンでは、本方法は、工程(a)の前に、前記多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物を5mm以下、4mm以下、3mm以下、または2mm以下のストリップに細断する工程をさらに含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、工程(c)において、可溶化したポリマーは反溶媒の添加により溶媒から沈殿される。いくつかの実施形態では、工程(c)において、可溶化したポリマーは、溶媒の温度を変化させることにより溶媒から沈殿される。
【0013】
この方法の1つのバージョンでは、多層プラスチックフィルムは、ポリエチレン(PE)、エチレンビニルアルコール(EVOH)およびポリエチレンテレフタレート(PET)から本質的になる。工程(a)において、PEが約110℃でトルエンに選択的に溶解され、かつEVOHが約95℃でジメチルスルホキシド(DMSO)に選択的に溶解される。工程(c)において、可溶化したPEがアセトンを添加することにより沈殿され、かつ可溶化したEVOHが水を添加することにより沈殿される。
【0014】
あるいは、工程(a)において、PEが約110℃でトルエンまたはC6~C12アルカンに選択的に溶解され、かつEVOHが約95℃でDMSOおよび水を含む溶媒で選択的に溶解される。工程(c)において、可溶化したPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、かつ可溶化したEVOHがDMSOおよび水の温度を約35℃に低下させることにより沈殿される。
【0015】
この方法の1つのバージョンでは、多層プラスチックフィルムが、エチレン酢酸ビニル(EVA)を含むタイ層をさらに含む。EVAが、工程(a)において約110℃でトルエンに溶解されかつ工程(c)においてアセトンを添加することによりPEと一緒に沈殿され、およびEVAが、工程(c)の後、EVAをN-メチルピロリドン(NMP)に選択的に溶解することによりPEから分離される。あるいは、EVAが、工程(a)において約110℃でトルエンにPEと一緒に溶解され、およびEVAが、工程(c)においてトルエンの温度を約35℃に低下させてPEを沈殿させることによりPEから分離される。
【0016】
この方法の1つのバージョンでは、多層プラスチックフィルムが、ポリエチレンテレフタレート(PETG)、PE、EVOHおよびPETから本質的になる。工程(a)において、PETGが、約87℃でDMFおよびTHFを含む溶媒に選択的に溶解され、PEが、約110℃でトルエンに溶解され、そしてEVOHが、約95℃でDMSOおよび水を含む溶媒に溶解される。工程(c)において、可溶化したPETGが1-プロパノールを添加することより沈殿され、可溶化したPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、そして可溶化したEVOHがDMSOおよび水の温度を約35℃に低下させることにより沈殿される。
【0017】
この方法の別のバージョンでは、混合プラスチック廃棄物が、PE、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、PETおよびポリアミド(PA)から本質的になる。工程(a)において、PEが約100℃でドデカンに溶解され、かつPPが約110℃でトルエンに溶解される。工程(c)において、可溶化したPEがドデカンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、そして可溶化したPPがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿される。
【0018】
この方法のさらに別のバージョンでは、多層プラスチックフィルムが、PE、EVOHおよびナイロンから本質的になる。工程(a)において、PEが約110℃でトルエンに選択的に溶解され、そしてEVOHが約85℃でDMSOおよび水を含む溶媒に選択的に溶解される。工程(c)において、可溶化したPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、そして可溶化したEVOHがDMSOおよび水の温度を約35℃に低下させることにより沈殿される。
【0019】
この方法のさらなるバージョンでは、混合プラスチック廃棄物が、PVC、低密度ポリエチレン(LDPE)、PP、高密度ポリエチレン(HDPE)、PET、ナイロン6,6,6、ナイロン6、およびナイロン6,6から本質的になる。工程(a)において、PVCが約68℃でTHFに選択的に溶解され、LDPEが約85℃でトルエンまたはC6~C12アルカンに選択的に溶解され、PPが約90℃でテトラヒドロピラン(THP)に選択的に溶解され、HDPEが約110℃でトルエンに選択的に溶解され、PETが約160℃でγ-バレロラクトン(GVL)に選択的に溶解され、ナイロン6,6,6が約135℃で1,2-プロパンジオールに溶解され、ナイロン6が約145℃でDMSOに選択的に溶解され、そしてナイロン6,6が約65℃でギ酸に溶解される。工程(c)において、可溶化したPVCが水の添加により沈殿され、可溶化したLDPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したPPがTHPの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したPPが、THPの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したHDPEがトルエンの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したPETがGVLの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したナイロン6,6,6が1,2-プロパンジオールの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、可溶化したナイロン6がDMSOの温度を約35℃に低下させることにより沈殿され、そして可溶化したナイロン6,6が水の添加により沈殿される。
【0020】
本開示の目的および利点は、添付の図面と併せてなされる本開示の好ましい実施形態の以下の詳細な説明からより十分に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】溶媒標的回収および沈殿(STRAP)プロセスの概要である。3つの一般的なポリマー樹脂からなる多層プラスチックフィルムと、一連の溶媒洗浄を使用してこれらの構成樹脂を純粋なリサイクル可能な流れに分離するためのSTRAPプロセスの主要工程の略図である。
【
図2】多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物中に存在する全成分の中から、単一のポリマー成分を選択的に溶解する溶媒系と温度を選択するためのコンピューターツールを使用したフローチャートである。
【
図3A】STRAPプロセスのための溶媒選択を導くために使用したコンピューターツール。HSP、古典的MDシミュレーション、およびCOSMO-RS計算の組み合わせを用いて溶媒を選択するプロセス。PE、EVOH、およびPETの溶解度は、22種類の一般的な溶媒についてHSPを用いて推定した。その後、各ポリマーに選択的な溶媒を用いて計算を行った。古典的MDシミュレーションを行い、COSMO-RSの入力オリゴマー配置を提供し、各分子のスクリーニング電荷密度を計算するために第一原理計算法を用いた。COSMO-RSの計算では、次に溶解度などの熱力学的特性を決定する。
【
図3B】STRAPプロセスのための溶媒選択を導くために使用したコンピューターツール。HSP計算から求めたPE選択溶媒、EVOH選択溶媒、およびPET選択溶媒と反溶媒(どのポリマーも溶解しない)。DMSO ジメチルスルホキシド;DMF N,N-ジメチルホルムアミド;THFA テトラヒドロフルフリルアルコール;THF テトラヒドロフラン;NMP N-メチルピロリジノン;GVL y-バレロラクトン;IPA イソプロピルアルコール。
【
図3C】STRAPプロセスのための溶媒選択を導くために使用したコンピューターツール。COSMO-RSを用いて計算した、PE、EVOH、およびPETの純トルエン(PE選択的)およびDMSO(EVOH選択的)における温度に対する予測溶解度。図の黒い破線は、STRAPプロセスで選択した温度と質量比である。
【
図3D】STRAPプロセスのための溶媒選択を導くために使用したコンピューターツール。PE(上段)とEVOH(下段)の溶媒-反溶媒質量比に対する予測溶解度。アセトンおよび水をPEおよびEVOHの溶解のための反溶媒としてそれぞれ用いた。図の黒い破線は、STRAPプロセスで選択した温度と質量比である。
【
図4A】STRAPプロセスは、PE、EVOH、およびPET混合物を分離する。商用のアムコア多層フィルム(アムコア社、チューリッヒ、スイス連邦)を、STRAPプロセスを用いて構成樹脂に分解するプロセスの概略図。
【
図4B】STRAPプロセスは、PE、EVOH、およびPET混合物を分離する。7:2:2のPE、EVOH、およびPETからなる混合プラスチック樹脂ビーズと、
図4Aに示したのと同じ手順で回収した樹脂の写真。このプロセスのマスバランスは、物理的混合物の初期質量に対して99.40wt%であり、SEは±0.19wt%である。写真提供:テオドール W. ウォーカー(ウィスコンシン大学マディソン校)。
【
図4C】STRAPプロセスは、PE、EVOH、およびPET混合物を分離する。商用のアムコアフィルムと、
図4AのSTRAPプロセスを用いて回収した樹脂の写真。このプロセスのマスバランスは、商用フィルムの初期質量に対して100.44wt%であり、SEは±1.39wt%であった。写真提供:テオドール W. ウォーカー(ウィスコンシン大学マディソン校)。
【
図5】a)HDPE、b)EVOH、およびc)PETのATR-FTIRスペクトル。ATR-FTIRスペクトルは、バージン樹脂ビーズ(上)と、STRAPプロセスで樹脂ビーズの物理的混合物から回収された固体(中)と、STRAPプロセスで実際のアムコア商用多層フィルムから回収された固体(下)とについて示される。
【
図6】NMP洗浄後のHDPEのATR-FTIRスペクトル。PEのATR-FTIRスペクトル。各図中のサブスペクトルは、バージン樹脂(参照用)、またはSTRAPプロセスから回収された固形物のいずれかに対応する。サブスペクトルには適宜ラベルを付けている。
【
図7】STRAPプロセスを使用してアムコア商用多層フィルムから得られるリサイクルされたPE、EVOH、およびPETの流れを組み合わせた場合の総資本投資額とMSP(いずれもアムコア商用フィルムの供給能力(トン/年)の関数)(円 MSP;四角 資本投資額)。バージンPETの市場価格(2022年)を参考のため点線で示す。
【
図8】一例EVOHオリゴマー(上)とPETGオリゴマー(下)の分子構造と対応するCOSMO-RSスクリーニング電荷密度。
【
図9】アムコア社製多層フィルムA1中のポリマー成分を分離および回収のためのSTRAP-Aプロセス概略図。
【
図10】DMSO-水混合溶媒中におけるEVOHのCOSMO-RSによる溶解度予測。2つのEVOH回収プロセスを矢印で示す。STRAP-Aプロセスは、95℃で純粋なDMSOにEVOHを溶解し(予測溶解度22.77wt%)、48℃で81.5%の水にEVOHを沈殿させる(予測溶解度1.23wt%)。STRAP-Bプロセスは、EVOHを95℃で40%の水(予測溶解度10.45wt%)に溶解し、温度を35℃に下げることでEVOHを沈殿させる(予測溶解度1.72wt%)。
【
図11】アムコア社製多層フィルムA1中のポリマー成分の分離および回収のためのSTRAP-Bプロセス概略図。
【
図12A】バージン樹脂とSTRAP-AおよびSTRAP-Bによって多層フィルムA1から回収されたポリマーのATR-FTIRスペクトル。PE。
【
図12B】バージン樹脂とSTRAP-AおよびSTRAP-Bによって多層フィルムA1から回収されたポリマーのATR-FTIRスペクトル。EVOH。
【
図12C】バージン樹脂とSTRAP-AおよびSTRAP-Bによって多層フィルムA1から回収されたポリマーのATR-FTIRスペクトル。PET。
【
図13】ATR-FTIRスペクトル:(a)EVAバージン樹脂、(b)多層フィルムA1からSTRAP-Bにより回収したEVA、(c)多層フィルムA1からSTRAP-Aにより回収したPE、(d)多層フィルムA1からSTRAP-Bにより回収したPE。
【
図14】アムコア社製多層フィルムA2中のポリマー成分の分離および回収のためのSTRAP-Cプロセス概略図。
【
図15A】バージン樹脂とSTRAP-Cによって多層フィルムA2から回収されたポリマーのATR-FTIRスペクトル。PETG。
【
図15B】バージン樹脂とSTRAP-Cによって多層フィルムA2から回収されたポリマーのATR-FTIRスペクトル。PE。
【
図15C】バージン樹脂とSTRAP-Cによって多層フィルムA2から回収されたポリマーのATR-FTIRスペクトル。EVOH。
【
図15D】バージン樹脂とSTRAP-Cによって多層フィルムA2から回収されたポリマーのATR-FTIRスペクトル。EVA。
【
図15E】バージン樹脂とSTRAP-Cによって多層フィルムA2から回収されたポリマーのATR-FTIRスペクトル。PET。
【
図16】STRAP-A、STRAP-B、およびSTRAP-CのMSPと収益先の内訳。
【
図17】(A、上段)STRAP-Bプロセスと(B、下段)STRAP-Cプロセスの処理供給能力の関数としての総設備投資額とMSP。
【
図18】STRAP-Cプロセスの3つの異なる供給容量に対するポリマー販売価格の関数としての内部利益率。
【
図19】STRAP-Cプロセスのパラメータの感度分析(±30%)。
【
図20】脱インキ工程を伴う印刷された多層フィルム中のポリマー成分の分離および回収のためのSTRAPプロセス概略図。
【
図21】バージン樹脂と、
図20に示す脱インキ工程を伴うSTRAPプロセスによって多層フィルムから回収されたポリマーのATR-FTIRスペクトル。(a)=PEバージン樹脂(上)とPE STRAP印刷フィルム(下);(b)=EVOHバージン樹脂(上)とEVOH STRAP印刷フィルム(下);(c)=PETバージン樹脂(上)とPET STRAP印刷フィルム(下)。
【
図22】フィルムを2mm以下のサイズのストリップに細断することにより印刷された多層フィルム中のポリマー成分の分離および回収のためのSTRAPプロセス概略図。
【
図23】バージン樹脂と、
図22に示すように、2mm以下のサイズのストリップに適用したSTRAPプロセスにより多層フィルムから回収したポリマーのATR-FTIRスペクトル。(a)=PEバージン樹脂(上)、PE STRAP印刷フィルム803(中)、PE STRAP印刷フィルム802(下);(b)=EVOHバージン樹脂(上)、EVOH STRAP印刷フィルム803(中)、EVOH STRAP印刷フィルム802(下);(c)=PETバージン樹脂(上)、PET STRAP印刷フィルム803(中)、PET STRAP印刷フィルム802(下)。
【
図24】混合プラスチック廃棄物からPEとPPを分離および回収するためのSTRAPプロセス概略図。
【
図25】ナイロン系多層プラスチックフィルムからポリマー成分を分離および回収するためのSTRAPプロセス概略図。
【
図26】バージン樹脂と、
図25に示すSTRAPプロセスによりナイロン系多層プラスチックフィルムから回収したポリマーのATR-FTIRスペクトル。左図=ナイロン画分(上)と純ナイロン6(下)、中央図=PE画分(上)と純LDPE(下)、右図=EVOH画分(上)と純EVOH(下)。
【
図27】いくつかのPE(LDPEおよびHDPE)、ナイロン(ナイロン6,6,6、ナイロン6,6、およびナイロン6)、PP、PET、およびPVCから構成される混合プラスチック廃棄物由来のポリマー成分の分離および回収のためのSTRAPプロセス概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義および略語
ATR-FTIR=減衰全反射フーリエ変換赤外分光法。COSMO/COSMO-RS=現実的な溶媒のための導体様スクリーニングモデル。CPE=塩素化ポリエチレン。DMF=N,N-ジメチルホルムアミド。DMSO=ジメチルスルホキシド。EVA=エチレン酢酸ビニル。EVOH=エチレンビニルアルコール。GVL=γ-バレロラクトン。HDPE=高密度ポリエチレン。HDXLPE=高密度架橋ポリエチレン。HMWPE=高分子量ポリエチレン。HSP=Hansen溶解度パラメータ。IPA=イソプロピルアルコール。LDPE=低密度ポリエチレン。LLDPE=直鎖状低密度ポリエチレン。MD=分子動力学。NMP=N-メチルピロリジノン。PA=ポリアミド。PC=ポリカーボネート。PE=ポリエチレン。PEI=ポリエーテルイミド。PES=ポリエーテルスルホン。PET=ポリエチレンテレフタレート。PETG=ポリエチレンテレフタレート。PEX=架橋ポリエチレン。PIW=ポストインダストリアル廃棄物(post-industrial waste)。POM=ポリオキシメチレン。PP=ポリプロピレン。PPO=ポリフェニレンオキシド。PPS=ポリフェニレンスルフィド。PS=ポリスチレン。PTFE=ポリテトラフルオロエチレン。PVC=ポリ塩化ビニル。PVDF=ポリフッ化ビニリデン。SAN=スチレンアクリロニトリル。SMA=スチレン無水マレイン酸。STRAP=溶媒標的回収および沈殿。THF=テトラヒドロフラン。THP=テトラヒドロピラン。UHMWPE=超高分子量ポリエチレン。ULMWPE=超低分子量ポリエチレン。VLDPE=超低密度ポリエチレン。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「約」は、参照される変数の±10%を指す。
【0024】
本明細書で使用される数値範囲は、具体的に開示されているか否かにかかわらず、その範囲内に含まれるすべての数値および数値のサブセットを含むことを意図している。さらに、これらの数値範囲は、その範囲内の任意の数値または数値のサブセットに向けられた請求に対するサポートを提供するものと解釈されるべきである。例えば、1から10までの開示は、2から8まで、3から7まで、5から6まで、1から9まで、3.6から4.6まで、3.5から9.9まで、などの範囲をサポートするものと解釈されるべきである。
【0025】
本明細書で使用される場合、単数形の「a」、「an」、「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数形の指示対象を含む。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「または」は、包括的な「または」演算子であり、文脈が明確に別段の指示をしない限り、用語「および/または」と等価である。
【0027】
本明細書に記載される要素および方法工程は、明示的に記載されているか否かにかかわらず、別段の指定がない限り、または参照される組み合わせがなされる文脈によって反対のことが明確に示唆されない限り、任意の組み合わせで使用することができる。
【0028】
本明細書で使用される方法工程のすべての組み合わせは、特に指定がない限り、または参照される組み合わせがなされる文脈によって反対のことが明確に示唆されない限り、任意の順序で実行することができる。
【0029】
本明細書に開示された系は、本明細書に開示された様々な工程および要素を含むか、それらからなるか、またはそれらから本質的になる。
【0030】
本開示は、本明細書に図示および記載された特定の要素および方法工程に限定されるものではなく、特許請求の範囲に含まれるようなそれらの改変形態を包含することが理解される。
【0031】
溶媒標的回収および沈殿(STRAP)
本明細書で開示するのは、本発明者らが溶媒標的回収および沈殿(STRAP)と呼ぶアプローチで、3つ以上のポリマー成分を有する多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物を、一連の溶媒洗浄を介してそれらの構成樹脂に分解する方法である。例として
図1に示すように、STRAPプロセスの根底にある一般的な原理は、対象とするポリマー成分は溶解するが、他のポリマー成分は溶解しない溶媒系で、単一のポリマー成分を選択的に溶解することである。可溶化されたポリマー成分は、次に機械的ろ過によって多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物から分離され、温度を変更すること、および/または溶解したポリマーを不溶化する共溶媒(すなわち、反溶媒)を添加することによって沈殿させる。溶媒と反溶媒は蒸留され、このプロセスで再利用され、そして標的とされたポリマー成分は乾燥した純粋な固体として回収される。このプロセスを、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物中のポリマー成分のそれぞれについて繰り返すことにより、その後リサイクル可能な複数の分別された流れが得られる。
【0032】
本明細書で開示する方法は、3種以上のポリマー成分を有する多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物中のポリマー成分を分離して回収するために使用することができ、ポリマー成分としては、ポリエチレン(PE)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロペン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ナイロン、スチレン無水マレイン酸(SMA)、およびスチレンアクリロニトリル(SAN)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのポリマーのうち、PEはその密度と分岐によって分類されることが多く、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、超低分子量ポリエチレン(ULMWPEまたはPE-WAX)、高分子量ポリエチレン(HMWPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、高密度架橋ポリエチレン(HDXLPE)、架橋ポリエチレン(PEXまたはXLPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、および塩素化ポリエチレン(CPE)などが含まれる。これらのタイプのポリエチレンはすべて、本明細書で使用するポリエチレン(「PE」)という簡潔な単語の定義内に含まれる。
【0033】
多層プラスチックフィルムは、エチレン酢酸ビニル(EVA)などの任意の数のタイ層(接着フィルムとしても知られる)、ウェットボンド接着剤、および主要な樹脂画分と比較して少量(典型的には、全組成物の1wt%未満)で存在し得る添加剤(TiOなど)をさらに含んでいてもよい。
【0034】
本方法に使用される選択的溶媒は、任意の一般的な工業用溶媒であってよく、トルエン、ドデカン、o-キシレン、p-キシレン、ベンゼン、シクロヘキサン、n-ブタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-バレロラクトン(GVL)、アセトン、1-プロパノール、1,2-プロパンジオール、イソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、水、ギ酸、フルフラール、アセトニトリル、1,4-ジオキサン、シレン、およびジヒドロピランなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0035】
STRAPプロセスの成功実現の鍵は、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物中に存在する全成分の中から、単一のポリマー成分を選択的に溶解できる溶媒系と温度をあらかじめ選択できることである。多層プラスチックフィルムおよび混合プラスチック廃棄物は複雑で、10より多くの成分から構成されていることが多く、入手可能な工業用溶媒や混合溶媒の種類も多いため、実験的なスクリーニングだけでは溶媒の選択は困難である。実際の多層プラスチックフィルムに存在する前述のタイ層および添加剤は、それらが希釈された量(<1wt%)で存在し、かつしばしば不明瞭であるため、バルク材料を管理可能な一連の分離された流れに分解するための適切な一連の溶媒介在工程を特定する問題をさらに複雑にしている。
【0036】
したがって、本明細書では、
図2に要約するように、Hansen溶解度パラメータ(HSP)、分子動力学(MD)シミュレーション、および現実的な溶媒のための導体様スクリーニングモデルと名付けられた量子化学と統計力学を組み合わせたモデリングアプローチの計算を用いて、溶媒を合理的に選択するためのガイド付きアプローチを開示する。
【0037】
ポリマーの溶解度は、溶媒とポリマー分子間の分散相互作用(δD)、双極子-双極子相互作用(δP)、および水素結合相互作用(δH)の強さを定量化する3つのHSPによって特徴付けることができる。これら3つのパラメータは、HSP空間における化合物の位置を決める座標として使用される。各ポリマーはさらに半径パラメータR0を有し、これがHSP空間での球を定義する。広い範囲の純溶媒とポリマーに対するHSP(およびR0の値)は、経験的な測定に基づいて、自己整合的な値を得るために表になっている(S. Abbott, C. M. Hansen, Hansen Solubility Parameters in Practice (2008); Hansen-Solubility.com)。溶媒のHSPは、それらの測定された気化エンタルピーの関数として見積もられる。ポリマーのHSPは、HSP空間にまたがる参照溶媒系でのポリマーの溶解度を実験的に定量し、ポリマーのHSPを中心とした球状の部分空間を同定することにより、ポリマーの溶解を促進する溶媒が球内に入るように決定される。したがって、R0は参照溶媒系におけるポリマーの溶解度に依存する。
【0038】
参照セットに含まれない「良好な」溶媒(目的の濃度でポリマーの溶解を促進する溶媒)は、式1を用いてδ
D-δ
P-δ
H空間における溶媒(solv.)とポリマー(poly.)のHSP値間の幾何学的距離(R
a)を計算することにより同定することができる。
【数1】
【0039】
良好な溶媒とは、対応するポリマーの溶解度圏内にある溶媒(例として
図3Aを参照)、あるいは等価的にR
a/R
0比が1(1)より小さい溶媒と定義される。このようにHSP計算では、少ない実験回数のみで良好な溶媒(R
a/R
0<1の)と貧溶媒(R
a/R
0>1の)を選択することができる。また、反溶媒は、どのポリマー層も容易に溶解しない溶媒として同定することもできる。
【0040】
MDシミュレーションとCOSMO-RSは、さらに定量的な溶解度予測に使用される。MDシミュレーションは、ポリマーの構造とコンフォメーションの詳細な計算を提供する。COSMO-RSは、MDから得られたコンフォメーションを用いて、温度と液相組成の両方の関数としてポリマーの溶解度を予測することができる。COSMO-RSは、分子相互作用を考慮するために、単分子密度汎関数理論計算と統計熱力学的手法を組み合わせたもので、溶媒混合系におけるポリマーの溶解度を、温度と液相組成の両方の関数として先験的に予測することができる(A. Klamt, Conductor-like screening model for real solvents: A new approach to the quantitative calculation of solvation phenomena. J. Phys. Chem. 99, 2224-2235 (1995); A. Klamt et al., Refinement and parametrization of COSMO-RS. J. Phys. Chem. A 102, 5074-5085 (1998))。MDシミュレーションおよびCOSMO-RSを実施する例示的な方法については、実施例1および2を参照されたい。
【0041】
あるバージョンでは、本方法は、ポリマー成分を溶解する前に、印刷されたプラスチックからインクを除去する脱インキ工程をさらに含む。印刷されたプラスチックからインクを除去する方法は、水中の界面活性剤の混合物(米国特許第9,616,595号明細書)、ならびに非イオン性界面活性剤、有機溶媒、および水性鉱物塩基を含む洗浄剤(欧州特許出願公開第1419829号明細書)を使用する方法などが以前に報告されている。印刷されたプラスチックからインクを除去するのに有効な任意の試薬および方法が、本明細書に開示される方法において有用であることが企図される。好ましい実施形態において、脱インキ工程は、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物を、THFおよびDMFを含む溶媒中、83℃で処理することによって実施される。
【0042】
ポリマーを溶解するための溶媒の温度および溶解時間は、STRAPプロセスの効率を向上させるために最適化することができる。処理するプラスチックの大きさは、溶解時間に影響を与える要因の一つである。プラスチックをより小さな粒子に細断することは、ポリマー成分の溶解時間を短縮するのに役立つ。好ましくは、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物は1cm2以下の細片に切断される。より好ましくは、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物は、≦5mm、≦4mm、≦3mm、または≦2mmのストリップに細断される。一実施形態では、多層プラスチックフィルムまたは混合プラスチック廃棄物は、≦2mmのストリップに細断される。≦2mmのサイズでは、プラスチックの溶解時間を5分未満に短縮することができる。
【0043】
また、本明細書には、様々な多層プラスチックフィルムや混合プラスチック廃棄物から構成ポリマーを回収するために適用される、方法の例示的な実施形態が開示されている。例示的な実施形態は、実施例において詳細に説明される。例示的な実施形態は、本開示の範囲を限定するものではない。
【0044】
1.PE、EVOH、およびPETから本質的になる多層プラスチックフィルム中の構成ポリマーを回収する方法(実施例1参照)。本方法は、
(i)PEを約110℃でトルエンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したPEをEVOHおよびPETから分離し、そしてアセトンを添加して可溶化したPEを沈殿させる工程;および
(ii)EVOHを約95℃でDMSOに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したEVOHをPETから分離し、そして水を添加して可溶化したEVOHを沈殿させる工程
を含む。
【0045】
2.PE、EVOH、およびPETから本質的になる多層プラスチックフィルム中の構成ポリマーを回収する方法(実施例2参照)。本方法は、
(i)PEを約110℃でトルエンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したPEをEVOHおよびPETから分離し、そしてトルエンの温度を約35℃に下げることによって可溶化したPEを沈殿させる工程;および
(ii)EVOHを、約95℃でDMSOおよび水を含む溶媒に選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したEVOHをPETから分離し、そしてDMSOおよび水の温度を約35℃に下げることによって可溶化したEVOHを沈殿させる工程
を含む。
【0046】
3.PE、EVOH、PET、およびEVAのタイ層から本質的になる多層プラスチックフィルム中の構成ポリマーを回収する方法(実施例1参照)。この方法は、
(i)PEおよびEVAを約110℃でトルエンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したPEおよびEVAをEVOHおよびPETから分離し、そしてアセトンを添加して可溶化したPEおよびEVAを沈殿させる工程;
(ii)EVAを約170℃でNMPに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したEVAをPEから分離し、そしてアセトンを添加して可溶化したEVAを沈殿させる工程;および
(iii)EVOHを約95℃でDMSOに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したEVOHをPETから分離し、そして水を添加して可溶化したEVOHを沈殿させる工程
を含む。
【0047】
4.PE、EVOH、PET、およびEVAのタイ層から本質的になる多層プラスチックフィルム中の構成ポリマーを回収する方法(実施例2参照)。この方法は、
(i)PEおよびEVAを約110℃でトルエンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したPEおよびEVAをEVOHおよびPETから分離し、そしてトルエンの温度を約35℃に下げることによって可溶化したPEを沈殿させる工程;
(ii)機械的ろ過により、可溶化したEVAを沈殿したPEから分離し、アセトンを添加することにより可溶化したEVAを沈殿させる工程;および
(iii)EVOHを約95℃でDMSOおよび水を含む溶媒に選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したEVOHをPETから分離し、そしてDMSOおよび水の温度を約35℃に下げることによって可溶化したEVOHを沈殿させる工程
を含む。
【0048】
5.PETG、PE、EVOH、およびPETから本質的になる多層プラスチックフィルム中の構成ポリマーを回収する方法(実施例2参照)。本方法は、
(i)PETGを約87℃でDMFおよびTHFを含む溶媒に選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したPETGをPE、EVOHおよびPETから分離し、そして1-プロパノールを添加して可溶化したPETGを沈殿させる工程;
(ii)PEを約110℃のトルエンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化PEをEVOHおよびPETから分離し、そしてトルエンの温度を約35℃に下げることによって可溶化したPEを沈殿させる工程;および
(iii)EVOHを約95℃でDMSOおよび水を含む溶媒に選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したEVOHをPETから分離し、そしてDMSOおよび水の温度を約35℃に下げることによって可溶化したEVOHを沈殿させる工程
を含む。
【0049】
6.脱インキ工程を伴う、PE、EVOH、およびPETから本質的になる多層プラスチックフィルム中の構成ポリマーを回収する方法(実施例3参照)。本方法は、
(i)多層プラスチックフィルムを約83℃でTHFおよびDMFを含む溶媒中で処理し、多層プラスチックフィルムからインクを除去する工程;および
(ii)例示的な実施形態1または2に記載されるようにポリマーを回収する工程
を含む。
【0050】
7.PE、PP、PVC、PET、およびPAから本質的になる混合プラスチック廃棄物からPEおよびPPを回収する方法(実施例5参照)。本方法は、
(i)PEを約100℃でドデカンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したPEをPP、PVC、PETおよびPAから分離し、そしてドデカンの温度を約35℃に下げることによって可溶化したPEを沈殿させる工程;および
(ii)PPを約110℃でトルエンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したPPをPVC、PETおよびPAから分離し、そしてトルエンの温度を約35℃に下げることによって可溶化したPPを沈殿させる工程
を含む。
【0051】
8.PE、EVOH、およびナイロンから本質的になる多層プラスチックフィルムの構成ポリマーを回収する方法(実施例6参照)。本方法は、
(i)PEを約110℃でトルエンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したPEをEVOHおよびナイロンから分離し、そしてトルエンの温度を約35℃に下げることによって可溶化したPEを沈殿させる工程;および
(ii)EVOHを約85℃でDMSOおよび水を含む溶媒に選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したEVOHをナイロンから分離し、DMSOおよび水の温度を約35℃に下げることによって可溶化したEVOHを沈殿させる工程
を含む。
【0052】
9.PVC、LDPE、PP、HDPE、PET、ナイロン6,6,6、ナイロン6、ナイロン6,6から本質的になる混合プラスチック廃棄物中の構成ポリマーを回収する方法(実施例6参照)。本方法は、
(i)PVCを約68℃でTHFに選択的に溶解し、機械的ろ過により可溶化したPVCを残りの混合プラスチック廃棄物から分離し、そして水を加えて可溶化したポリ塩化ビニルを沈殿させる工程;
(ii)LDPEを約85℃でトルエンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したLDPEを残りの混合プラスチック廃棄物から分離し、そしてトルエンの温度を約35℃に下げることによって可溶化したLDPEを沈殿させる工程;
(iii)PPを約90℃でTHPに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したPPを残りの混合プラスチック廃棄物から分離し、そしてTHPの温度を約35℃に下げることによって可溶化したPPを沈殿させる工程;
(iv)HDPEを約110℃でトルエンに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したHDPEを残りの混合プラスチック廃棄物から分離し、そしてトルエンの温度を約35℃に下げることによって可溶化したHDPEを沈殿させる工程;
(v)PETを約160℃でGVLに選択的に溶解し、機械的ろ過によって残りの混合プラスチック廃棄物から可溶化PETを分離し、GVLの温度を約35℃に下げることにより可溶化PETを沈殿させる工程;
(vi)ナイロン6,6,6を約135℃で1,2-プロパンジオールに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化したナイロン6,6,6を残りの混合プラスチック廃棄物から分離し、そして1,2-プロパンジオールの温度を約35℃に下げることにより可溶化したナイロン6,6,6を沈殿させる工程;
(vii)ナイロン6を約145℃でDMSOに選択的に溶解し、機械的ろ過によって可溶化ナイロン6を残りの混合プラスチック廃棄物から分離し、そしてDMSOの温度を約35℃に下げることにより可溶化ナイロン6を沈殿させる工程;および
(viii)ナイロン6,6を約65℃でギ酸に選択的に溶解し、機械的ろ過によって残りの混合プラスチック廃棄物から可溶化ナイロン6,6を分離し、そして水を加えて可溶化ナイロン6,6を沈殿させる工程
を含む。
【0053】
本明細書に開示した具体的な実施形態は、上記の原理の適用を説明するために詳細に示し、説明してきたが、本開示は、かかる原理から逸脱することなく、他の方法で具体化してもよいことが理解されよう。
【実施例】
【0054】
実施例1.溶媒標的回収および沈殿による多層プラスチック包装材料のリサイクル
この実施例では、本発明者らは、3つの代表的なポリマー樹脂-PE、EVOH、およびPET-を、これら3つの成分を主成分とする実際のポストインダストリアル多層フィルム(アムコア・フレキシブルス(Amcor Flexibles)社製)から分離することにより、STRAPプロセスを実証する。本発明者らは、温度依存性ポリマー溶解度の分子モデリングによって特定された溶媒系で各成分を順次可溶化することにより、これらの3成分をほぼ100%の材料効率で分離し、個々の樹脂を化学的に純粋な形で回収することに成功した。詳細な技術経済分析によれば、年間5400トンの最小容量とほぼ一定のフィルム組成を特徴とする産業後の操業環境において、STRAPプロセスは、バージン材料に匹敵するコストで、アムコア多層フィルムを純粋な対応する樹脂にリサイクルできることが実証された。したがって、STRAPプロセスは、多層プラスチックをリサイクルするための溶媒システムを設計するための現実的で近い将来のアプローチである。2020年11月20日発行のWalker et al.[33]を参照、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0055】
材料と方法
材料:モデル樹脂は販売会社から入手し、そのまま使用した:ソアノールEVOH(三菱ケミカル、エチレン32モル%)、高密度PE(エクソンモービル・ケミカル(ExxonMobil Chemical);分子量7845.30Da)、Array 9921M PET(DAKアメリカス)。溶媒と反溶媒は販売会社から入手し、そのまま使用した:アセトン(フィッシャー・サイエンティフィック、組織学グレード)、水(アルファ・エイサー、高速液体クロマトグラフィーグレード)、トルエン(シグマ-アルドリッチ、>99.5%)、DMSO(シグマ-アルドリッチ、アメリカ化学会(American Chemical Society)試薬グレード)。モデル多層フィルムはアムコア・フレキシブルスから入手した(商用フィルム、独自処方(proprietary formulation))。
【0056】
ATR-FTIR分光法:ATR-FTIR分光法は、ダイヤモンドゲルマニウムATR単反射結晶を備えたBruker Optics Vertexシステムを用いて実施した。試料は、分析前に水分を除去するために真空オーブンで一晩乾燥させ、バネ付きアンビルを用いてダイヤモンド表面に均一に押し付けた。試料スペクトルは、2cm-1のスペクトル分解能で、400および4000cm-1の間の範囲にわたって128回のスキャンの平均を用いて三重で得られた。バックグラウンドには空気を用いた。
【0057】
示差走査熱量測定:PETおよびEVOHサンプルのガラス転移温度は、液体窒素冷却冷凍ユニットを備えたTA Instruments Q100熱量計を用いた示差走査熱量測定によって決定した。温度ランプは空のパン参照セルで校正した。加熱速度は5℃分-1で、各実験に20mgの試料を使用した。ガラス転移温度は、TAインスツルメント社より提供された分析ソフトウェアを用いて、標準的な方法にしたがって、観察された温度範囲における試料の見かけの熱容量の最大値を求めた。
【0058】
ヘッドスペースガスクロマトグラフィー-炎イオン化検出器試験:各試料1gを20mlのヘッドスペースバイアル内に封入。バイアルは、Teledyne Tekmar 「Versa」 ヘッドスペースオートサンプラーを使用して130℃で5分間加熱され、Rtx-1701カラムを備えたAgilent 7890 GCに送られた。得られたピークは、高沸点グリコールエーテル1ml中に各溶媒1mgを含む外部標準(ここで1mgは1g中の100ppmに相当する)と比較された。
【0059】
コンピューターおよび技術経済モデリング法:技術経済モデリングはAspen Plusパッケージソフトで行った。HSP(δD、δP、およびδH)とRoの値は、[1]から引用した。COSMO-RS計算は、COSMOtherm 19ソフトウェアを使用し、BP_TZVPD_FINE_18[2,3]というパラメータ化ファイルを用いて行った。密度汎関数理論計算はすべて TURBOMOLE 7.3 ソフトウェアを用いて行った[4]。COSMO-RS計算でポリマーのコンフォメーションを生成するために使用したすべての古典的MDシミュレーションは、GROMACS 2016を用いて行った[5]。ポリマー分子と溶媒分子は、Antechamberおよびthe Generalized AMBER force fieldsを用いてパラメータ化した[6,7]。
【0060】
STRAPプロセスを使用したアムコアの商用フィルムのPE、EVOH、PET成分の分離から得られるリサイクルされたポリマーのMSPは、Aspen Plus(V1 1.0、アスペン テクノロジー(Aspen Technology))で開発したプロセスモデルを使用して推定した。この目的のため、STRAPプロセスは、(i)PE分離プロセスセクションと(ii)EVOH/PET分離プロセスセクションの2つのセクションに分割された。ポリマー溶解ユニット(攪拌槽)、ポリマー沈殿ユニット(沈殿槽)、および溶媒/反溶媒分離ユニット(蒸留塔)のプロセスモデルは、Aspen Plusモデリングスイートで開発し、本明細書において報告される実験データに基づいて対応する性能指標を設定した。シュレッダー、フローティングタンク、摩擦洗浄機、脱水機、および熱乾燥機などの供給処理装置のプロセスモデルは、過去の研究から適合され、適切に拡大された[8]。
【0061】
結果
STRAPプロセスの溶媒選択に使用したコンピューターツール
我々は、[1]にある22種類の一般的な工業用溶媒のHSPを表にして、PE、EVOH、およびPETのHSPと比較し、3種類の物理的混合物の中から各樹脂の選択的溶解に適した溶媒を決定した(
図3B)。検討した溶媒の一部のHSPを表1に示す。これらの計算および、コスト、溶媒と反溶媒の混和性、および毒性限界に関する設計基準を考慮して、PE樹脂とEVOH樹脂をそれぞれ選択的に溶解/回収するための溶媒/反溶媒系として、トルエン/アセトン混合溶媒とジメチルスルホキシド(DMSO)/水混合溶媒を選択した。HSP分析では、PETはどの溶媒にも容易に溶解しないことが予測された。
【0062】
【0063】
次に、本発明者らは、COSMO-RS計算を実施して、効率的な材料回収のためのプロセス条件(温度と特定の混合組成)を推定した。本発明者らは、様々なポリマー配置を考慮するため、溶液中の単一オリゴマーの古典的MDシミュレーションを行った。最もエネルギーの低い配置をCOSMO-RSに入力し、HSPを計算したのと同じ22種類の溶媒に対する3種類のポリマーの溶解度を計算した。COSMO-RSで同定された良い溶媒(ポリマーの溶解度が高い溶媒)は、HSPに基づいて選択された溶媒とほぼ重なっており、両手法が同じような溶媒を選択することを示している。トルエンとDMSOは、両方の方法に基づいて、それぞれPEとEVOHを選択的に溶解する候補溶媒の上位に挙げられている。両手法とも、テトラヒドロフラン(THF)がPETを選択的に溶解する可能性があることを示しているが、COSMO-RSの計算では、室温での溶解度はまだ低いことが示唆された。
【0064】
次に、本発明者らは、室温から各溶媒の沸点までの温度で、トルエンとDMSOに対する3種類のポリマーすべての溶解度を計算し、目的の分離を促進するのに必要な温度を決定した(
図3C)。トルエン中では、PEの溶解度はPETやEVOHよりも温度とともに急速に増加し、PETやEVOHの溶解度は、検討した温度範囲では数重量%を超えることはなかった。したがって、PEの分離にはトルエンの沸点(110℃)を選択した。DMSO中では、EVOHの溶解度はPETやPEの溶解度よりもはるかに高いが、PEの溶解度は100℃付近で上昇し始める。そのため、本発明者らは、DMSO中では95℃でEVOHを分離することにした。最後に、本発明者らは、溶媒対反溶媒の質量比を変化させて、トルエン-アセトン混合溶媒中のPEと、DMSO-水混合溶媒中のEVOHの溶解度を計算した(
図3D)。両溶解度とも、反溶媒の割合が増加するにつれて減少した。本発明者らはDMSO:水の質量比は1:4とし、これは本発明者らが計算した中で最も低い質量比に近いものである。
【0065】
表1は、PE、EVOH、およびPETの選択溶媒系における正規化HSP相互作用半径(R
a/R
o)、COSMORS予測溶解度、および実験的に決定された溶解度限界を示す。予想されたように、実験的に決定された最も高い溶解度は、シミュレーションから選択された溶媒系に対して得られ、予想溶解度と実験的溶解度との間の不一致は、ポリマー試料の結晶化度の不確かさに起因している。
図3A~3Dと合わせて、表1の結果は、PE、EVOH、およびPETからなる混合物を純粋な樹脂に分離する3つの工程:
1)PE画分を110℃でトルエンに選択的に溶解し、ついで機械ろ過によってEVOHとPETから可溶化画分を分離する工程;
2)EVOH画分を95℃でDMSOに選択的に溶解し、ついで機械ろ過により可溶化画分を残りのPETから分離する工程;および
3)対応する溶液の温度を25℃に下げ、それぞれ4質量部のアセトンまたは水を加えてポリマー樹脂を固体として沈殿させることにより、可溶化したPEおよびEVOH画分を回収する工程からなるプロセスの基礎となる(
図4A)。回収されたPEとEVOHは、ろ過によってトルエン-アセトンまたはDMSO-水の混合物から分離される。このプロセスで使用された溶媒は、ついで蒸留によって分離し、再利用することができる。
【0066】
PE、EVOH、PETの分離に使用されるSTRAPプロセス
上記のプロトコルを用いたSTRAPプロセスを実証するために、まず重量比で7:2:2のPET:EVOH:PEからなる樹脂ビーズの物理的混合物の分離を試みた。
図4Bに示すように、元のポリマーのほぼ定量的な収率が回収された(PEの回収率98.5wt%、EVOHの回収率95.7wt%、およびPETの回収率100.7wt%)。このプロセスから単離された固体画分は、フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルによって表されるように、個々のPE、EVOH、またはPET成分において本質的に純粋であった(
図5)。
【0067】
次に、本発明者らは、アムコア・フレキシブルスにより製造された実際のポストインダストリアル硬質多層フィルムの分解を試みた。この多層フィルムは、PETを主成分とし、PEとEVOHで構成されている。このフィルムを1×1cm
2の細片に切り出し、110℃のトルエンからなる溶媒系中、次に95℃のDMSOからなる溶媒中で、それぞれ固液比は質量比1:4で攪拌した。95℃で真空ろ過した後、ろ過した溶液を、トルエンまたはDMSOに対して4質量%のアセトンまたは水からなる室温の反溶媒と合わせ、得られた混合物を室温まで冷却した後、析出した固体を濾別した。得られた3つの固体画分をすべて水で洗浄し、真空オーブンにおいて85℃で一晩乾燥させ、残留溶媒を除去した。純粋な樹脂のほぼ定量的な回収が達成され、全マスバランスは100.4wt%で、3回の再現実験間のSEは±1.39wt%であった(
図4C)。
【0068】
STRAPプロセスからの固形物の特性評価
図5は、上述の実験から回収された代表的な固体材料に対応する減衰全反射(ATR)-FTIRスペクトルを示している。それらのATR-FTIRスペクトルにより表すように、物理混合物から回収されたPET、EVOH、およびPEは、同じ対応するバージン樹脂と区別がつかない。これらの結果は、STRAPプロセスが、PET、EVOH、およびPEの物理的混合物を、個々の樹脂成分が本質的に純粋な3つの固体画分に分離できることを示している。同様に、バージンのPETとアムコア多層フィルムから回収されたPETリッチな固形分は互いに区別がつかず、多層フィルムからPETが完全に分離されたことを示している。多層フィルムから回収したEVOH画分についても同様の結果が得られた。
【0069】
アムコアの多層フィルムから回収されたトルエン可溶分には、主にPEが含まれ、EVA不純物が含まれていた(
図5)。このEVA成分(共重合体タイ層)の存在は事前に知られておらず、その除去はアムコアの装置でPEをリサイクルするために必要ではない。それにもかかわらず、PEが混和しないN-メチルピロリドン(NMP)にEVA成分を溶解させることにより、これら2つの成分の分離を完全なものとするために、三番目の溶媒介在分離工程が行われた。得られた固体(
図6)は、FTIRシグネチャの対応するスペクトルの特徴の減少により表されるように、EVAコンタミに目立った減少を示した。
【0070】
多層フィルムの代表的な3つのポリマー成分のほぼ完全な分離を実証し、本発明者らは、回収した固体の物性を試験し、ブローフィルム押出機のような標準的な工業用加工装置での再利用の適性を評価した。本実施例で試験したPETおよびEVOH画分のガラス転移温度(Tg)を表2に示す。PEのTgは測定が困難であるため、本実施例ではこれらの試験を実施しなかった。物理的混合物と実際の多層フィルムとから回収されたEVOH画分のTgは、バージン樹脂から変化しておらず、文献値[9~11]と同様である。多層フィルムから回収されたPEのTgは、物理的混合物から回収されたPEのTgよりもわずかに低い。しかし、物理混合物から回収されたPET画分のTgは、バージン樹脂と比較して変化しておらず、報告値[12、13]と同程度であった。これらの結果から、PETのTgは多層フィルムの製造に用いられるプロセス中でわずかに改変されるが、STRAPプロセス中には変化しないことが示唆される。本発明者らは、本実施例で検討した条件下では、PE、EVOH、およびPET樹脂の平均分子量は、溶解/再結晶化プロセス中では変化することはないと考えられる。本実施例では実施しなかったが、この挙動は、多角度レーザー光散乱を併用したゲル浸透クロマトグラフィーによって確認することができる。
【0071】
【0072】
最後に、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー-炎イオン化検出器試験を実施し、回収されたポリマー画分中における同伴溶媒の存在を調べた(表3)。その結果、表1に示したすべての材料について、回収された樹脂中に存在する残留溶媒は1000百万分率(ppm)未満であった。これらのレベルの溶媒保持率であれば、回収されたポリマーは、溶媒が最終的な再構成製品の機械的特性を損なわない限り、ほとんどの多層フィルムにおける使用に適合する。
【0073】
【0074】
詳細な分析は本実施例の範囲を超えているが、この文脈における追加的な懸念事項には、保持された溶媒の毒性、臭気、またはその他の特性が、食品包装などの用途に対する回収されたポリマーの適合性にどのように影響するかが含まれる。このような問題に対処するために、ケースバイケースで多くの解決策が考えられる。例えば、食品包装の用途で溶剤の保持が問題となる場合、リサイクルされた樹脂を使用して、リサイクルされた画分が食品に接触しない多層フィルム(すなわち、フィルムの内層)を製造することができる。しかし、どのような用途であれ、STRAPプロセスの実行可能性は、最終的には、リサイクルされたポリマー樹脂の製造がバージン材料の製造とコスト競争力を有するように、溶媒を効率的に回収および再利用しながら、使用に適したリサイクルされた樹脂を製造できるかどうかにかかっている。
【0075】
STRAPプロセスの技術経済分析
リサイクルされたポリマーは、対応するバージン樹脂の価格に匹敵するコストで生産されなければならないという点にしたがい、本発明者らは、ここで報告した実験データに基づき、STRAPプロセスの技術経済分析を行った。
図7は、総設備投資額とリサイクルされたポリマー成分の最低販売価格(MSP)を供給能力の関数として示す。
【0076】
本発明者らの試算によると、STRAPプロセスは、供給量が年間3000トンのアムコア商用フィルムの場合、組み合わせたリサイクルされた樹脂のMSPが1.19ドル/kgでアムコア商用フィルムを分離できる。供給量が15,000トン/年に増加すると、MSPは0.6ドル/kgに減少する。溶媒および反溶媒を分離するのに必要な蒸留塔および熱が、このプロセスの主要なコストドライバーであり、それぞれ総設備投資額の33.6%および可変運転コストの79.3%を占める。供給量が3800トン/年と、ドイツにあるAPK’s Newcycling plant[14]での処理量の半分未満である場合、回収されたポリマーのMSPはバージンPETの平均市場価格(1.1ドル/kg)に匹敵する[15、16]。ここで留意すべきは、アムコア商用フィルムは90.2wt%のPETからなることである。
【0077】
多層フィルムの分離に必要なエネルギーは79.13MJ/kgで、バージンPET樹脂の製造に必要なエネルギー(125MJ/kg)より約37%少ない。比較のため、廃プラスチックの燃焼から発生するエネルギー(今日、プラスチックフィルムの最も現実的な非埋立処分)は、多層フィルムの6.09MJ/kgである[17、18]が、燃焼はプラスチック廃棄物1トン当たり950kgのCO2を排出する[19]。これらの分析は、同等の溶媒ベース技術[14、20~22]の例とともに、STRAPプロセスが、多層プラスチックフィルムプラントから発生する現実的な廃棄物の流れを完全にリサイクルするために、大規模に展開できることを示している。
【0078】
考察
ここで説明した方法は、現実的な複雑さを有する多層プラスチック廃棄物を完全に分解できることが実証されている。現実的な多層フィルムに存在する、希薄だがゼロではないレベルのタイ層(例えばEVA;
図6)、ウェットボンド接着剤、およびその他の添加剤の詳細な分析は行っていないが、これらの層は化学的に適合性があるため、主要な樹脂画分と一緒にリサイクルできると考えられる。しかし、高度に架橋したポリマー(架橋ポリブタジエンなど)は、利用可能な任意の溶媒に容易に溶解しない可能性があり、目的とする樹脂から完全に分離することは不可能である。上述したように、これらの不純物、ならびに同伴溶媒(表3)が、使用に対する回収されたポリマーの適合性に及ぼす影響は、最終的に再構成された多層フィルムの用途によって異なり、特定の操作環境においてSTRAPプロセスのリスクを完全に取り除くためには、これらの不純物の詳細な分析が必要である。
【0079】
結論として、本発明者らは、STRAPプロセスにより、商用のPIWフィルムをほぼ100%の収率で3つの構成樹脂に効率的に分解できることを実証した。このプロセスは、ポリマーの溶解性に関すコンピューターモデリングに基づいて選択された溶媒における連続的な可溶化ステップを使用する。ポストインダストリアル多層プラスチック廃棄物の流れは、ポイントソース(製造プラント)に由来し、組成が既知で略一定であり、かつ実質的に大量(世界全体で年間~1000億ポンド)であるため、STRAPプロセスは、それらをターゲットとして大規模で迅速に実施できるということを本発明者らは提案する。これらの特性により、STRAP技術と組み合わせた既存の設備を用いて、大量のポストインダストリアル多層プラスチック廃棄物を処理し、リサイクルすることが可能となる。年間供給量3800トンを想定したSTRAPプロセスの詳細な経済分析によると、STRAPプロセスは、PE、EVOH、およびPETからなる多層プラスチック廃棄物の流れを、対応する未使用樹脂と同程度のコストで、対応する樹脂に完全に分解できることを示している。
【0080】
ポリマーと溶媒の相互作用の熱力学に関する基本的な理解を活用した、本発明者らの綿密な分子モデリングの枠組みは、広く適用可能であり、今後、ほとんどあらゆる組成の複雑な多層プラスチックを処理するための新しい溶媒系の合理的な設計を可能にするであろう。多層フィルムの組成は常に変化するニーズに合わせて再設計される、それらをうまくリサイクルする柔軟な技術が必要となるため、STRAPプロセスのこの迅速に適合可能な側面は、環境に蓄積される複雑なプラスチック廃棄物の問題に対処するための重要な進歩を示す。最後に、STRAPプロセスは、攪拌タンク、フィルター、および蒸留カラムのような単純な単位操作に基づいているため、よく定義されたポストインダストリアル操作環境でリスクを軽減し得、かつより複雑なポストコンシュマー廃棄物の流れを処理するためにポストコンシュマー廃棄物処理に適合され得るプラットフォーム技術と見なすことができる。これらの特徴を合わせると、STRAPプロセスは、ポストインダストリアルおよびポストコンシュマープラスチック廃棄物の短期的な削減に向けた有望な戦略であり、またこれらの廃棄物があらゆる規模で人間や動物の生息地に浸透することに関連する、進行中の環境危機に対処するための有望な戦略でもある。
【0081】
実施例2:多層プラスチックフィルムのリサイクルのための、温度制御されたポリマー溶解と沈殿を可能にすることによる、STRAPプロセスにおける反溶媒使用の削減
この実施例の目的は、STRAPプロセスで使用する反溶媒の量を削減する操作条件を特定し、より複雑な工業用多層フィルム(アムコア提供)にSTRAPをどのように適用するのかを実証することである。本発明者らは、熱力学的なコンピューターツール、ポリマー特性評価法、最新のプロセス設計ツールを組み合わせ、多層プラスチックをリサイクルするための溶媒系を設計する現実的な短期的アプローチを開発する。これらの溶媒を効率的に利用するには、廃棄物として残る溶媒の量を最小限に抑えながら、溶媒を回収して再利用できるプロセスが必要である。反溶媒の使用を削減するアプローチとして、多層フィルム中の目的ポリマーの温度制御による溶解および沈殿を可能にする溶媒または溶媒混合物を使用する方法がある。溶媒の組み合わせの使用は、特定のポリマーの溶解/沈殿法におけるオプションとして検討されてきた。いくつかの試験では、溶媒混合物を目的のプラスチックの溶解にのみ使用し、後に沈殿のために反溶媒を添加している。Hadiらは、ターペンタイン/石油エーテル(PetE)の混合溶媒を用いてポリオレフィンを溶解し、その後n-ヘキサンとPetEを用いて沈殿させる方法を研究した[23]。Weedenらは、ヘプタン/ジクロロメタンの混合溶媒を用いて電子廃棄物部品を溶解した[24]。しかし、彼らは溶媒を蒸発させることでポリマーを回収した。純粋な溶媒や溶媒の組み合わせも、さまざまなポリマーをさまざまな温度で溶解するために使用されており、各ポリマーを回収するのに必要とされる溶媒の数を減らしている。この技術を開示している特許の中には、最終的な固体ポリマーを得るために溶媒を蒸発させることに依存しているものもある[25、26]。溶媒を蒸発させたり反溶媒を添加したりする代わりに、溶媒の温度を変化させることでポリマーを沈殿させる方法は、溶解/沈殿法をより実現可能なものにする可能性がある[27]。
【0082】
本実施例では、本発明者らは、2つの異なるポリマー沈殿技術、すなわち反溶媒の添加による沈殿(STRAP-A)と溶媒温度の低下による沈殿(STRAP-B)を用いてSTRAP技術を評価および比較する。STRAPプロセスの実証に使用されるアムコア社製の2種類のポストインダストリアル硬質多層フィルム(A1とA2)を使用した。多層フィルムAlはPE、EVOH、およびPETで構成され、わずかにEVAが含まれていた。フィルムA2は、同じポリマーにグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)を加えたものである。溶媒の選択には熱力学的ツールが使用され、実験結果は、プロセスコストの見積りを可能にするプロセスモデルに使用された。2021年8月10日に発行されたSanchez-Riveraら[44]を参照、これは本明細書に参照として組み込まれる。
【0083】
材料と方法
溶媒スクリーニングのためのコンピューターモデリング:本発明者らは、STRAPプロセスの溶媒選択を導くために、ポリマーの溶解性をコンピューターにより評価した。本発明者らのアプローチでは、実施例1にしたがって、HSP、MDシミュレーション、およびCOSMO-RSを組み合わせて使用した。この例では、HSPをHSPハンドブック[28]から取得し、溶解度の定量的な予測はできないが、予備的な溶媒選択に使用した。
【0084】
MDシミュレーションとCOSMO-RSは、実施例1と比較してアップデートされたプロトコルを利用するさらなる定量的溶解度予測に使用される。オリゴマーの原子論的MDシミュレーションはCOSMO-RSの入力構造を得るために行った。MDシミュレーションは、まず希薄溶液中の単一オリゴマーについて等温-等圧アンサンブルで行った。各MDシミュレーションには、1つのオリゴマー分子(EVOHまたはPETG)と216の溶媒分子が含まれた。EVOHは水中、PETGはトルエン中でシミュレーションした。EVOHオリゴマー分子には、4つのビニルアルコール繰り返し単位と2つのエチレン繰り返し単位が含まれていた。PETGオリゴマーには、4つのエチレングリコール繰り返し単位と2つの1,4-シクロヘキサンジメタノール繰り返し単位が含まれていた。次に、オリゴマーの回転半径(Rg)と溶媒接触表面積(SASA)を、MD軌道からシミュレーション時間の関数として計算し、オリゴマーのコンフォメーションの分布を特徴付けた。Rg-SASA空間にまたがる代表的なオリゴマーコンフォメーションをMD軌道から抽出し、以下に詳述するCOSMO-RSワークフローの入力として使用した。EVOHの軌跡からは合計22のコンフォーマーが、PETGの軌跡からは18のコンフォーマーが抽出された。MDシミュレーションは、GROMACS 2016を用いて行った[5]。すべての化合物は、Antechamberおよびthe Generalized AMBER force fieldsを用いてパラメータ化した[6,7]。
【0085】
COSMO-RSは、量子力学計算と統計熱力学の手法に基づいて、多成分系の平衡特性を予測する[29]。COSMO-RSは、媒質の分極によって分子表面に生じるスクリーニング電荷密度に基づいて各分子を表現する。スクリーニング電荷密度は密度汎関数理論(DFT)計算から得られ、ヒストグラム化されてσ-プロファイルが生成される。本発明者らは、不活性化された末端基を有するオリゴマー構造に対してσ-プロファイルを生成することにより、ポリマーのσ-プロファイルを近似した[30]。スクリーニング電荷密度と結果として得られるσ-プロファイルは、特定の分子コンフォメーションに依存し;その結果、本発明者らは、可能なσ-プロファイルの範囲にまたがるように、MD(上述)を使用してオリゴマーコンフォメーションのセットを生成した。
図8は、異なるオリゴマーの2つのコンフォーマーと、それらのスクリーニング電荷分布のDFT計算結果の例である。ポリマーの化学ポテンシャルはσ-プロファイルに基づいて計算され、固液平衡計算によってポリマーの溶解度を予測することができる。スクリーニング電荷分布のDFT計算は、BVP86/TZVP/DGA1 レベルの理論でGaussian 16を用いて行った[31]。COSMO-RS溶解度計算は、BP_TZVP_19をパラメータとするCOSMOtherm 19により行った[29,32]。
【0086】
多層膜Alを用いた実験手順:STRAPプロセスの主な目的は、一連の溶媒洗浄を用いて多層プラスチックフィルム中の構成ポリマーを分離することである。実験手順を開発し実証するために、アムコア社製のモデルフィルムを使用した。このプラスチックフィルムは、PE、PET、EVA、およびEVOHを主成分とするAlフィルムであった。典型的なSTRAP実験の前に、多層フィルムを1×lcm2の細片に切断した。冷水供給ラインを備えた還流コンデンサーに接続された250mL丸底フラスコを使用した。対応する溶媒と40gバッチの多層フィルム片を入れた丸底フラスコを、熱伝導流体としてシリコーンオイルを入れた1500mLディッシュに部分的に浸した。システムは、磁気攪拌駆動装置を備えた電気ヒートプレートで所望の溶解温度に加熱され、攪拌速度は一定の混合になるように調整された。溶媒選択のためのコンピューター解析に基づき、本発明者らは、3つの処理工程を行うことにより、多層フィルムAl中の各ポリマーの回収率を実験的に評価した:(1)PE画分を110℃のトルエンに4時間選択的に溶解し、次に機械ろ過により可溶化した画分をEVOHおよびPETから分離する;(2)EVOH画分を95℃のDMSOに30分間選択的に溶解し、次に機械ろ過により可溶化した画分を残りのPETから分離する;(3)可溶化したPE画分とEVOH画分にそれぞれアセトンまたは水を加えて沈殿させる。次に、沈殿したPEとEVOHを、ろ過によってトルエン-アセトンおよびDMSO-水混合物から分離した。得られた固体画分を真空オーブン中、65℃で一晩乾燥させ、残留溶媒を除去した。この方法はSTRAP-Aと同定され、目的ポリマーを沈殿させるために反溶媒の添加を必要とする。
【0087】
溶解したポリマーを沈殿させる別の方法が検討された。これは溶媒と溶解したポリマーの温度を35℃に下げることからなる。STRAP-Bと名付けられたこの方法では、高温で目的ポリマーを溶解するために、また低温でポリマーを沈殿させるために溶媒混合物を検討し、ポリマーを沈殿させるために溶解後に多量の反溶媒を添加する必要性を減少させた。PEとEVOHの回収には、それぞれトルエン-アセトン混合溶媒とDMSO-水混合溶媒を試験した。
【0088】
多層フィルムA2による実験手順:PETG、PE、EVOH、PET、およびEVAからなる多層フィルムA2についても、同じ実験セットアップを使用した。Alと同様に、多層フィルムを1×1cm2の細片に切断した。本発明者らは、多層フィルムA2中の各ポリマーの回収率を、4つの処理工程を行うことで実験的に評価した:(1)PETG画分を60%DMF-40%THF(v/v)の混合溶媒に87℃で4時間選択的に溶解し、次に機械ろ過によりPE、EVOH、PET、およびEVAから可溶化した画分を分離する;(2)PEおよびEVA画分を110℃でトルエンに2時間選択的に溶解し、次に機械的ろ過により可溶化した画分をEVOHおよびPETから分離する;(3)EVOH画分を60%DMSO-40%水(v/v)の混合溶媒に95℃で30分間溶解し、次に機械的ろ過により可溶化した画分を残りのPETから分離する;(4)1-プロパノールを反溶媒として添加することにより可溶化したPETGを沈殿させ、かつ溶解したポリマーを含む溶媒の温度を35℃に下げることにより、PEおよびEVOH画分を沈殿させる。次に、沈殿したPETG、PE、およびEVOH固形分を、ろ過によって対応する溶媒から分離した。EVAは、PE固形分を除去した後、アセトンを反溶媒としてトルエンに加えることで回収した。得られた5つの固体画分を真空オーブンにおいて65℃で一晩乾燥させ、残留溶媒を除去した。多層フィルムA2を用いたプロセスをSTRAP-Cと名付けた。
【0089】
STRAPプロセスからの固体の特性評価:ATR-FTIR分光法を用いて、STRAPプロセスから分離したポリマー画分を特性評価し、未使用樹脂とスペクトルを比較した。装置は、液体窒素冷却水銀-カドミウム-テルル化物(MCT)検出器を備えたBruker Vertex 70であった。使用したATRセルは、ダイヤモンド結晶(ピケ テクノロジーズ(Pike Technologies))を装備したMIRacle単反射セルであった。典型的な測定では、128スキャンが平均化され、分解能は4cm-1、測定範囲は4000~400cm-1であった。
【0090】
結果と考察
多層膜Alを用いたSTRAP-A
STRAP-Aプロセスは実施例1と同じ手順で行われ、本実施例の代替プロセスと比較するためのベンチマークとして使用された。表4は、多層フィルムAlからのPE、PET、およびEVOHの回収に対して、全体の平均マスバランスは102.58wt%で、標準偏差は±0.96wt%であった。全体のマスバランスは、溶媒の取り込みのためか100wt%を超えた。同伴溶媒を最小限とするためには、乾燥条件を調整する必要がある。表4で報告された値は、実施例1と一致している。
図9は、STRAP-Aの各プロセス工程で使用された溶媒、反溶媒、温度および溶解時間を示す。PEおよびEVOHの沈殿析出には、それぞれアセトンと水を反溶媒として使用した。
【0091】
【0092】
貧溶剤を多量に使用することは、コストや環境および安全上のリスクが高くなる可能性があるため、大規模化では懸念される。STRAP-Aで使用された各溶媒と反溶媒を分離するために必要とされるエネルギーは、総資本コストの33.6%、総運転コストの79.3%を占めることが判明している[33]。STRAP-Aの蒸留塔は、このプロセスの主なコストドライバーであった。ポリマーの沈殿に反溶媒を使用する代わりに、溶解したポリマーを含む溶媒を冷却して沈殿を誘導する方法がある。この目的のために、高温で目的のポリマーを溶解し、温度を下げるとポリマーを容易に沈殿させる混合溶媒が検討された。こうすることで、本発明者らは、多層フィルム中の特定のポリマー成分を標的とするプロセスを通して、一定の溶媒組成を持つことができる。熱力学的なコンピューターツールにより、このアプローチを用いてEVOHとPEを回収するための潜在的な溶媒組成を迅速にスクリーニングすることができた。
【0093】
コンピューターモデリング結果
COSMO-RS予測は、温度依存性溶解度を把握するこの手法の能力を活用し、EVOH回収のための潜在的な溶媒組成を特定するために使用された。
図10は、温度とDMSO-水組成の関数としてのEVOH溶解度のCOSMO-RS予測を示す。比較のため、95℃での純粋なDMSOに対する予測されたEVOHの溶解度は22.77wt%であり、これは実験的に測定された溶解度24.02wt%と同様である。この比較は、EVOHの溶解度を予測するCOSMO-RSの妥当性を裏付けている。STRAP-Aプロセスでは、95℃でEVOHを純粋なDMSOに溶解する。次に、最終的に20%DMSO-80%水(v/v)混合物を低温で達成するために、反溶媒として水を添加し、EVOHの溶解度を低下させて沈殿を誘発する。これらの工程は、
図10にラベル付きの白矢印で示されている。この最初のプロセスは、2つの状態間の大きな溶解度の差(COSMO-RSで予測され、かつ実験的に測定された)を利用して、高いEVOH回収率を達成する。
【0094】
図10は、STRAP-Bプロセスが、溶媒組成を変えることなく、温度を下げることでポリマーを沈殿させるために同じ溶解度の低下を達成できることを示している。COSMO-RSの溶解度計算は、純粋なDMSOではEVOHの回収が可能であるはずであり、これは純粋なDMSOが室温でEVOHを溶解できないことと一致している。しかし、実験では冷却時のEVOHの回収率は低かった。そこで、異なる混合組成を試験した。95℃で満足のいく溶解度(10.45wt%)を示し、35℃では低い溶解度(1.72wt%)を示すと予測されたため、60%DMSO-40%水混合物(v/v)がEVOH回収のために選択された。後者の値は、STRAP-Aプロセスの最終工程で予測されるEVOH溶解度に匹敵する。実験値は、95℃で7.17wt%、35℃で0.01wt%の溶解度を示し、高いEVOH回収率につながった。本発明者らは、COSMO-RSは実験的な溶解度を予測しすぎているが、一般的な傾向は正しくとらえられている。
【0095】
同様のCOSMO-RSによる溶解度予測を、さまざまなトルエン-アセトン混合溶媒中のPEについて計算し、回収に適した混合溶媒があるかどうかを確認した。COSMO-RSの計算には、純粋なトルエンへのPEの実験的溶解度(110℃で14.56wt%)を参考入力値として用いた。計算の結果、90%トルエン-10%アセトン(v/v)に対するPEの溶解度は、55℃で0.02wt%であった。この結果は、トルエンに少量のアセトンを加えるだけで、高温でさえもPEが混合溶媒中で不溶化することを示唆しており;他の体積分率のアセトンでも同様の結果が得られた。この溶解性の低さは実験的にも確認され、試験したトルエン-アセトン混合物はいずれもPEを溶解できなかった。そのため、初期のPE溶解を確実なものとするために、純粋なトルエンをなお使用した。純粋なトルエンは、温度の低下とともにPEの沈殿を生じさせることができた。
【0096】
多層フィルムAlを用いたSTRAP-B
STRAP-Bプロセスは、前節の熱力学的洞察を用いて、EVOHおよびPEポリマーの温度誘発沈殿を可能にする溶媒組成を用いて完成した。表5は、STRAP-Aと同様のポリマー収率がSTRAP-BでPE、EVOH、およびPETについて得られ、ポリマー回収のための温度制御溶解および沈殿が、コスト削減と溶媒ベースのリサイクルプロセスをより魅力的なものにする可能性のある有望なアプローチであることが実証されたことを示す。
【0097】
【0098】
STRAPプロセス間の大きな違いの一つは、達成されたPE収率であった。PE収率は、ポリマーを沈殿させるための反溶媒としてアセトンを使用したSTRAP-Aの方が高かった。この収率の差は、多層フィルムAlのマイナー成分であるエチレン酢酸ビニル(EVA)の存在によるものであり、EVAはトルエンに可溶であり、アセトンを加えるとPEとともに沈殿する。PEからEVAを除去するために、以前はN-メチルピロリジノン(NMP)工程が検討されたが、本発明者らは、トルエンの温度を下げてPEを沈殿させることで、EVAがなお溶媒中に残っているため、この分離が容易に行えることがわかった。次に、EVAは、アセトンを反溶媒として加えて沈殿させることができる。
図11は、STRAP-Bの各プロセス工程で使用された溶媒、温度、溶解時間を示す。
【0099】
STRAP-AおよびSTRAP-Bで回収したポリマーのATR-FTIR特性評価
実施例1のフーリエ変換(FT)IRスペクトルの結果から、STRAP-Aプロセスを用いてこれらの成分の物理的混合物からおよび多層フィルムA1から回収したPE、EVOH、およびPETは、対応する未使用樹脂と区別がつかないことが示された。STRAP-AおよびSTRAP-Bで回収したPE、EVOH、およびPETのFTIRスペクトルは、ほとんどの部分で類似しており、選択的溶解後にいずれの沈殿法を用いても純粋なポリマーが得られることを示している(
図12A~12C)。STRAP-Aにより回収したポリマーには、1736、1240、1097、1018cm
-1付近に余分なピークがあった(
図12Aの中央パネル)。これらのピークは、以前はEVAに起因するものであった。STRAP-Bにより回収したPEのスペクトルでは、EVAのピークはあまり目立たなくなっていることが観察され、このプロセスによってEVAポリマーがPEから分離できることが確認された。溶媒からEVAをさらに除去するには、アセトンを貧溶媒として加える必要があった。この追加工程で回収された固形物を特性評価したところ、スペクトルは主にEVAのピークが確認された(
図13、パネル(b))。STRAP-AおよびBから回収されたPETでは、3000cm
-1付近に、PET中のPE残渣に由来すると思われる低強度のピークが見られた(
図12C)。PETの精製は、他のポリマーの溶媒量や溶解時間を変えることで改善できる可能性がある。PETに含まれるPEの量を定量的に測定することで、PETの特性に影響を与えるほどPEが有意かどうかを判断することができる。
【0100】
多層フィルムA2を用いたSTRAP-C
多層フィルムA2中のPETG成分の溶媒スクリーニング:アムコア製のA2多層フィルムを使用して、より複雑な供給組成のSTRAPプロセスを実証した。このフィルムは、追加のポリマー成分としてPETGを含んでいた。フィルムAl用に開発されたのと同じSTRAPプロセスをフィルムA2に適用すると、PETGもPEもトルエンで溶解してしまう。そこで本発明者らは、新しいSTRAPプロセス(STRAP-Cと呼ぶ)を開発するために、PETGを溶解できる代替溶媒を特定するために、コンピューターアプローチを用いた。本発明者らは、最初に850種類の溶媒のHSPを取得し、各溶媒のHSP空間におけるPETGのHSPとの距離(Ra)を計算した。そしてそれぞれのRaの値をPETGの溶解度球の半径(R0)で正規化した。Ra/R0の値が1より小さい溶媒だけがPETGを溶解すると予想される。表6には一般的で入手しやすい溶媒のHSP値を示す。トルエン、シクロヘキサノン、1,4-ジオキサン、およびトリエチルアミンはRa/R0値が0.7未満で良好な候補として認められている。一方、THF、1,1-ジクロロエタンおよび酢酸エチルはRa/R0値が0.9と1の間であり、溶解の可能性が高いことを示している。DMFとエタノールは、2より大きいRa/R0値を有する貧溶媒として特定される。しかし、PETGは、一般的にテレフタル酸(TPA)、エチレングリコール(EG)、および1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)から合成されるコポリマーであり、EG/CHDMの比率がその特性に影響する[34]。残念ながら、PETGの入手可能なHSP値からは、その組成に関する情報は与えられず[28];そのため、本発明者らは、PETGを溶解できる溶媒を特定するために、このコポリマーの構造および組成の両方を考慮するCOSMO-RS溶解度計算も行なった。この場合、PETGは、フィルムA2中のPETG成分に関する既知の情報に基づいて、EG/CHDMのモル比が2:1のランダムコポリマーとしてモデル化した。表6は、トルエン、シクロヘキサノン、1,4-ジオキサン、THF、およびエタノールでは、HSPとCOSMO-RSの結果が互いに一致しており;これらの溶媒が、高いCOSMO-RS予測溶解度と、低いRa/R0値を有することを示す。しかし、COSMO-RSの結果はまた、DMFを潜在的な良溶媒として同定している。これらの結果から、トルエン、シクロヘキサノン、ジオキサン、DMF、およびTHFはすべて、PETG溶解に適した溶媒である可能性がある。トルエンはPEも溶解するため、PETGの可能な溶媒としては除外した。また、本発明者らは、ジオキサンは健康に害を及ぼす可能性があるため除外し、シクロヘキサノンはケトンが不安定になる可能性があるため除外した。こうして、本発明者らは、THFとDMFを、さらなる実験的調査のための可能な溶媒として選択した。
【0101】
【0102】
PETG成分の溶媒選択後、STRAP-CプロセスをA2多層フィルムに実験的に適用した。PETGの溶解は、他のいかなるポリマー成分よりも前に、THFを用いて65℃で4時間行った。THFを使用してフィルムからPETGを完全に分離するのは困難であり、溶解時間終了後にポリマーがいくらか残った。これは、種々のポリマー/溶媒比や、より長い溶解時間によっても改善されなかった。この分離効率の悪さは、おそらくTHFの存在によってフィルムストリップが糊付けされたことに起因する。この挙動は、PETG分離にDMFを使用した場合には観察されなかった。DMFはEVOH成分も溶解するため、EVOHの溶解度を低下させるために、THFがEVOHに対する貧溶媒であるため(R
a/R
0は1.34およびCOSMO-RS予測溶解度は1.78wt%)、種々のTHF/DMF混合物を実験的に試験した。40%THF-60%DMF(v/v)混合溶媒は、PETGを選択的に溶解し、EVOHを溶解しないことが確認された。この混合溶媒を実際のフィルムに使用したところ、PETG収率は15.28から20.83wt%に向上した。1-プロパノールは、PETGに対する溶解度が低く、PETG回収後の溶媒リサイクルが容易であったため、PETGを沈殿させるための反溶媒として選択した。将来的には、PETG成分を溶解し、反溶媒の添加なしにPETG成分を沈殿させるための溶媒組成を検討することも可能である。STRAP-Cの結果を表7に示す。残りのポリマー成分(PE、EVOH、PET、およびEVA)については、
図14に示すように、STRAP-Bの工程を使用した。
【0103】
【0104】
STRAP-Cで回収したポリマーのATR-FTIR特性評価
STRAP-Cを用いて回収したPETG、EVOH、EVA、およびPETのFTIRスペクトルは、対応するバージン樹脂とほぼ同様であった(
図15A~15E)。PEのスペクトルには、1740、1370、1240、および1020cm
-1付近に追加のピークがあるなど、いくつかの顕著な相違が観察された。これらは、最初の溶解工程で分離されなかったPETGの残りに起因する可能性がある。PE中のPETGの量がその特性に影響を及ぼすかどうかを判断するには、定量的な測定が必要である。溶解時間と溶媒量をさらに調整することで、PEの純度を向上させ、PETGをより多く除去することができる。
【0105】
技術経済分析
技術経済分析(TEA)は、検討したSTRAPプロセスのいずれかを使用して、バージン樹脂に匹敵する価格でリサイクルされたポリマーを製造することが可能かどうかを判断するために実施した。リサイクルされた樹脂の最低販売価格(MSP)は、割引率10%、多層フィルムの自由入力流れ(割引キャッシュフロー分析を使用)で、20年間連続運転するプロセスについて計算した。本発明者らは、本発明者らの報告された実験的マスバランスに基づいて、Aspen Plus(V11 アスペン テクノロジー)でSTRAPプロセスモデルを開発した。本発明者らは、多層フィルムAlとA2を用いた3つの異なるSTRAPプロセスで必要な装置のサイズとコストを見積もった。蒸留塔、ポンプ、熱交換器の機器購入価格と可変稼働コストは、Aspen Process Economic Analyzer(V11 アスペン テクノロジー)を用いて見積もり、その他の機器価格は、本発明者らの以前の研究[33]のコストデータに基づき、比例式やべき乗則などの工学的手法を用いて見積もった。
【0106】
本発明者らは、STRAP-A、STRAP-B、およびSTRAP-CプロセスのMSPを、[44]に示されている材料収支と経済パラメータに基づいて計算した。総設備投資額(単位:百万ドル)は、STRAP-Aが$25.65、STRAP-Bが$22.42、STRAP-Cが$31.78であった。多層フィルムAlを用いたSTRAP-AとSTRAP-BプロセスのMSPは、
図16に示すように、年間3000トンの供給量で、それぞれ$2.05kg 1と$1.62kg 1と計算された。本発明者らの試算によると、STRAP-BプロセスのMSPはSTRAP-Aプロセスのものより21.0%低かった。これは、STRAP-BではSTRAP-Aと同様のポリマー収率が得られたが、蒸留による溶媒および反溶媒の分離が行われなかったためである。STRAP-BにEVA回収工程を追加してもなお、MSPはSTRAP-Aより低い。さらに、STRAPAのMSPは、本実施例で提案するSTRAPプロセスには、各リサイクルされたポリマー用の押出機を含むため、以前に報告されたSTRAPプロセス[33]よりも高い。押出機はSTRAP-Aの総設備購入費の55.22%を占める。
【0107】
STRAP-Cプロセスは、多層フィルムA2を使用した年間3000トンの供給量で$2.18kg 1のMSPを有すると見積もられた。より高いMSPは、STRAP-Cが追加のポリマーであるPETGを回収し、DMF/THFと1-プロパノールが溶媒/反溶媒のペアとして使用され、溶媒を回収してリサイクルするために蒸留工程が必要であるという事実から説明される。一般に、低沸点溶媒を選択し、かつ使用量を最小限に抑えることで、必要な蒸留塔の光熱費を削減することができる。その結果、STRAP-Cはより高い設備投資を必要とするにもかかわらず、より低い可変稼働コストで運転することができる。
【0108】
また、規模の経済の効果を評価するため、STRAP-BおよびSTRAP-Cプロセスの供給量感度分析を行った。その結果、
図17に示すように、年間供給量が1000~30000トンの間で、設備投資が増加する一方、MSPは平坦化し始めることが示された。STRAP-CプロセスのMSPは、供給能力が増加するにつれて、特に年間供給量が約7000トン以降は、STRAP-AプロセスのMSPよりも低くなる[33]。これは、年間3000トンの場合、STRAP-Cプロセスの年間設備投資が総所要コストの62.58%であるのに対し、STRAP-Aプロセスでは年間設備投資が総所要コストの53.81%を占めるためである。例えば、供給量が年間7000トンの場合、STRAP-AプロセスとSTRAP-CプロセスのMSPは、それぞれ$1.43kg 1と$1.40kg 1である。規模が大きくなるにつれて、特に年15000トン以降では、リサイクルされたポリマーのMSP(STRAP-A:$1.07kg 1、STRAP-B:$0.78kg 1、およびSTRAP-C:$0.95kg 1)は、バージン樹脂の平均市場価格($0.9~$1.2kg 1前後)に匹敵する[20、42、43]。これらの試算は、様々なポストインダストリアル多層フィルムの成分を回収し、リサイクルするために、STRAPプロセスを大規模に実施できることを示している。
【0109】
STRAP-Cプロセスからのリサイクルされたポリマーの経済分析は、
図18に示すように、3つの異なる供給能力について、ポリマー販売価格を0.8から$3.0kg 1まで変化させて実施した。予想されたように、STRAP-Cプロセスの内部収益率(IRR)は、販売価格の上昇とともに増加した。ポリマーの販売価格が$3.0kg 1の場合、STRAP-CプロセスのIRRは、年間3000トン、9000トン、および15000トンで、それぞれ16.63、32.51、および40.99%と推定される。STRAPプロセスの経済実現可能性は、規模の経済の効果により、供給能力が大きくなるほど改善されることを示している。さらに、STRAP-Cプロセスの経済性に影響を与えるパラメータを調べるために、本発明者らは、選択したパラメータの±30%を変化させる感度分析を行った(
図19)。STRAP-CのMSPは、押出機設備コストとプロジェクト寿命に敏感である。これは、STRAPプロセスのコスト構造が設備投資に支配されているためである。また、溶媒量は装置のサイズに影響を与えるため、ポリマーに対する溶媒量がMSPに影響を与えることが観察された。全体として、STRAP-BとSTRAP-CのTEAの結果は、プラスチック供給が複雑になっても、STRAPプロセスが経済的に実行可能であることを示している。温度制御された溶解と沈殿を可能にする溶媒を使用することで、溶媒回収に必要な分離装置の数を減らすことにより、資本コストを大幅に削減することができる。
【0110】
結論
本実施例では、溶媒標的回収および沈殿(STRAP)技術を実証し、アムコア社製の2種類の硬質ポストインダストリアル多層プラスチックフィルム中の構成ポリマーを分離および回収した。熱力学的コンピューター技術により、異なる溶媒や混合溶媒に対するポリマーの溶解度の初期予測が可能になり、必要な実験回数を減らすことができる。STRAPプロセスにおける主なコストドライバーは、溶媒と反溶媒のリサイクルに必要な蒸留工程であることが既に判明した。本発明者らは、本実施例では、反溶媒の使用を減少させること、およびそれらをポリマーの溶解と沈殿を温度制御できる溶媒や混合溶媒に置き換えることで、STRAPの経済的競争力を高めることができることを示す。このことは、同様の収率を示し、STRAP-Aよりもポリマーの分離においてより効率的でありながら、より少ない量の反溶媒を使用する、本発明者らのSTRAP-Bプロセスで観察された。これに加えて、多層フィルムA2を用いたSTRAP-Cで実証されたように、たとえプラスチック供給が複雑化しても、STRAPプロセスは経済的競争力を維持できることを実証した。混合溶媒は、溶媒ベースのリサイクルシステムにおいて非常に重要であり、溶媒組成を調整することは、所望のポリマー収率を得るための貴重なパラメータとなる。組成の異なるさまざまな溶媒に対するポリマーの溶解度を予測するコンピューターツールをさらに開発することは、多層プラスチックフィルムのリサイクルにこのアプローチを導入する際に役立つであろう。STRAPを用いて回収したポリマーの純度を向上させるために、溶解時間と溶媒量をさらに調整することができる。定量的な測定を行って、回収されたポリマー中の不純物がそれらの特性に影響を与えるかどうかを評価することもできる。将来的には、ポリアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、およびポリ塩化ビニルのような、本実施例で報告されていないポリマーの多層フィルムを処理するためにSTRAPを使用することにも焦点を当てる。理想的には、これは、各ポリマーの熱による溶解と沈殿を促進する溶媒や溶媒の組み合わせを見つけることである。さらに、本発明者らは、プラスチックフィルムにも存在し得る、接着剤およびインクなどの添加剤の除去を検討する。本発明者らのコンピューターモデリングフレームワークは、我々に熱力学的なポリマー-溶媒特性への理解を与え、種々の多層プラスチックフィルム中のポリマー成分を効率的に分離および回収するために使用できる溶媒系の設計を可能にする。
【0111】
実施例3:印刷された多層フィルム(PE/EVOH/PET)を用いたSTRAP
この実施例では、本発明者らは、PE、EVOHおよびPETから本質的になる印刷された多層フィルムからポリマー成分を分離および回収した。多層フィルムを1×1cm
2の細片に切断した。細片を50%THF-50%DMF(v/v)中、83℃で60分間処理することにより、最初に脱インキ工程を実施した。その後の工程は、PE画分のトルエンへの溶解を110℃で180分間行い、EVOH画分のDMSOへの溶解を95℃で45分間行った(溶解時間が異なる)以外は、実施例1および2に記載のSTRAP-Aプロセスにしたがった。
図20に、各プロセス工程で使用された印刷された多層フィルムの構造、溶媒、貧溶解、温度および溶解時間を示す。
【0112】
このプロセスにより、全体のマスバランスは91.47wt%となった(
図20)。プロセスから回収された固体物質に対応するATR-FTIRスペクトルは、フィルムから回収されたPE、EVOHおよびPETは、同じ、対応する未使用樹脂と区別がつかないことが示された(
図21)。これらの結果は、脱インク工程は、回収されたポリマー樹脂の収率や品質に大きな影響を与えることなく、印刷されたプラスチックからインクを除去するためにSTRAPプロセスと共に使用できることを示している。
【0113】
実施例4:溶解時間は、2mm以下のサイズのフィルムストリップを用いて有意に短縮することができる
この実施例では、本発明者らは、多層フィルムを2mm以下のサイズのストリップに細断することにより、STRAPプロセスの溶解時間を短縮することを試みた。多層フィルムは、PE、EVOHおよびPETから本質的になる印刷されたフィルムである。細断されたストリップは、まず50%THF-50%DMF(v/v)により83℃で5分間処理され、インクが除去された。その後の工程は、PEおよびEVOH画分の溶解時間が4時間または30分ではなく5分であったことを除き、実施例2に記載されたSTRAP-Bプロセスにしたがった。
図22は、各プロセス工程で使用された溶媒、温度、溶解時間を示す。
【0114】
このプロセスは、全体として86.02wt%のマスバランスを達成した(
図22)。収率は、実施例2に記載されているように、1×1cm
2のフィルムを用いた溶解時間の長い実験よりも相対的に低い。しかし、収率を最大化するために溶解時間をさらに最適化することができる。にもかかわらず、2mm以下のサイズのストリップを溶解するのに必要な溶解時間は、1×1cm
2フィルムよりもかなり短くなる。フィルムから回収されたPET、EVOHおよびPEは、
図23のATR-FTIRスペクトルが示すように、同じ、対応する未使用樹脂と区別がつかないが、1つのPETサンプルは、溶解していないPEに由来すると考えられる3000cm
-1付近のピークを示した(
図23、パネル(c))。これらの結果は、多層フィルムをより小さなサイズ(例えば、≦2mm)のストリップに細断することで、STRAPプロセスにおいて必要な溶解時間を効果的に短縮できることを示す。
【0115】
実施例5:混合プラスチック廃棄物を用いたSTRAP
この実施例では、本発明者らは、PE、PP、PVC、PETおよびPAから本質的になる混合プラスチック廃棄物で実験し、ポリマーの混合物からPEおよびPPを分離できる溶媒系(ドデカン/トルエン)を見出した。PPは歴史的に分離が非常に難しいポリマーであった。このプロセスは、PEを100℃でドデカンに90分間溶解し、次にPPを110℃でトルエンに90分間溶解することを含む。
図24は、各プロセス工程で使用された溶媒、温度、溶解時間を示す。可溶化したPEおよびPPは、溶媒の温度を約35℃に下げることで沈殿させることができる。
【0116】
実施例6:ナイロン系多層プラスチックフィルムおよび混合プラスチック廃棄物を用いたSTRAP
この実施例では、本発明者らは、PE、EVOHおよびナイロンから本質的になるナイロン系多層プラスチックフィルムと、数種のPE(LDPEとHDPE)、ナイロン(ナイロン6,6,6、ナイロン6,6、ナイロン6)、PP、PET、およびPVCから本質的になる混合プラスチック廃棄物からポリマー成分を分離および回収した。適切なポリマーがターゲットにされるまで、さまざまな溶媒と温度の組み合わせが試された。
【0117】
ナイロン系多層プラスチックフィルムからポリマー成分を回収するプロセスは、PEを110℃でトルエンに溶解し、次にEVOHを85℃でDMSOおよび水を含む溶媒に溶解することを含む。可溶化したPEおよびEVOHは、溶媒の温度を下げることにより沈殿させた。残った固体がナイロンである。
図25は、各プロセスに使用された溶媒、温度、および溶解時間を示す。フィルムから回収されたPE、EVOHおよびナイロンは、
図26のATR-FTIRスペクトルによって示されるように、同じ、対応する純粋な樹脂と区別がつかない。EVOHのピークにおけるわずかな違いは、フィルム中の添加剤または汚染に起因すると考えられる。このプロセスは、表8に示すように、全体として96.66%のマスバランスを達成した。
【0118】
【0119】
混合プラスチック廃棄物からポリマー成分を回収するプロセスは、順次、PVCを68℃でTHFに溶解し、LDPEを85℃でトルエンに溶解し、PPを90℃でTHPに溶解し、HDPEを110℃でトルエンに溶解し、PETを160℃でGVLに溶解し、ナイロン6,6,6を135℃で1,2-プロパンジオールに溶解し、ナイロン6を145℃でDMSOに溶解し、そしてナイロン6,6を65℃でギ酸に溶解することを含む。可溶化したポリマーの沈殿は、反溶媒の水を添加することにより沈殿させたPVCとナイロン6,6を除き、ほとんどは溶媒の温度を下げることによって行われた。
図27は、各プロセス工程で使用された溶媒、温度、溶解時間を示す。残留物にはアルミニウム、ボール紙、および溶解しきれなかった残余ポリマーが含まれている。このプロセスは、表9に示されるように、全体として95.83%のマスバランスを達成した。
【0120】
【0121】
【国際調査報告】