(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-12
(54)【発明の名称】成形の間にコンタクトレンズ組成物の濡れ性を高める方法
(51)【国際特許分類】
G02C 13/00 20060101AFI20241105BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20241105BHJP
【FI】
G02C13/00
G02C7/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529993
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 US2022050534
(87)【国際公開番号】W WO2023091739
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508129090
【氏名又は名称】ジェレスト, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バリー・シー・アルクレス
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・ディー・ゴフ
(72)【発明者】
【氏名】リアナ・ディー・ヴフト
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BB07
2H006DA00
(57)【要約】
約90°未満の水接触角を有するコンタクトレンズの製造方法は、ポリエーテル変性ポリオレフィンを含む型成形用樹脂を準備する工程と、型成形用樹脂をモールドに形成する工程と、コンタクトレンズ組成物を調製する工程と、コンタクトレンズ組成物をモールド内に充填する工程と、コンタクトレンズ組成物を重合してコンタクトレンズを形成する工程とを含む。コンタクトレンズの水接触角を90°未満にし、表面濡れ性を改良する方法は、ポリエーテル変性ポリオレフィンを含有する型成形用樹脂から形成されるモールド内でモノマーの混合物を注型重合して約90°未満の水接触角を有するコンタクトレンズを形成する工程を含む。更に、コンタクトレンズ製造用単回使用モールドも提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約90°未満の水接触角を有するコンタクトレンズの製造方法であって、
(f)ポリエーテル変性ポリオレフィンを含む型成形用樹脂を調製する工程、
(g)型成形用樹脂をモールドに形成する工程、
(h)コンタクトレンズ組成物を調製する工程、
(i)コンタクトレンズ組成物をモールド内に充填する工程、及び
(j)コンタクトレンズ組成物を重合してコンタクトレンズを形成する工程
を含む、製造方法。
【請求項2】
型成形用樹脂中のポリオレフィンが、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー、ポリエチレンホモポリマー、及びポリメチルペンテンのうち少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)が、ポリオレフィンとポリエーテルのコポリマーを調製する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)が、ポリエーテルをポリオレフィンのマレイン化グラフトポリマーと反応させる工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
型成形用樹脂が、ポリエーテル変性ポリオレフィンと未変性ポリオレフィン樹脂とのブレンドを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ポリエーテル変性ポリオレフィンが、約5から20質量パーセントの量で未変性ポリオレフィン樹脂中に配合されている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
型成形用樹脂が、ポリエーテルアミン及びメトキシポリエチレングリコールから選択される親水性添加剤をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ポリエーテル変性ポリオレフィンが、酸無水物基若しくはカルボン酸基を含むグラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンであり、かつ、親水性添加剤が、前記グラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンの酸無水物若しくはカルボン酸の含有量に対して約0.25から1.00モル当量の量で存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
コンタクトレンズ組成物が、ベースモノマー、シリコーン含有マクロマー、及び架橋剤を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
シリコーン含有マクロマーが少なくとも2つのポリエチレンオキシ基(PEG)を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(e)が、重合を行うために、UV照射又は熱を適用する工程を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
コンタクトレンズの水接触角を90°未満にし、かつ表面濡れ性を改良する方法であって、ポリエーテル変性ポリオレフィンを含む型成形用樹脂から形成されるモールド内でモノマーの混合物を注型重合して約90°未満の水接触角を有するコンタクトレンズを形成する工程を含む、方法。
【請求項13】
型成形用樹脂中のポリオレフィンが、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー、ポリエチレンホモポリマー、及びポリメチルペンテンのうち少なくとも1種を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
型成形用樹脂が、ポリエーテルとポリオレフィンのコポリマーを含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
型成形用樹脂が、ポリオレフィンのマレイン化グラフトポリマーと反応したポリエーテルを含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
型成形用樹脂が、ポリエーテル変性ポリオレフィンと未変性ポリオレフィン樹脂とのブレンド物を含む、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ポリエーテル変性ポリオレフィンが、約5から20質量パーセントの量で未変性ポリオレフィン樹脂中に配合されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
型成形用樹脂が、ポリエーテルアミン及びメトキシポリエチレングリコールから選択される親水性添加剤さらに含む、請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ポリエーテル変性ポリオレフィンが、酸無水物基若しくはカルボン酸基を含むグラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンであり、かつ、親水性添加剤が、前記グラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンの酸無水物若しくはカルボン酸の含有量に対して約0.25から1.00モル当量の量で存在する、請求項12から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
モノマーの混合物が、ベースモノマー、シリコーン含有マクロマー、及び架橋剤を含む、請求項12から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
シリコーン含有マクロマーが少なくとも2つのポリエチレンオキシ基(PEG)を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
コンタクトレンズ製造用単回使用モールドであって、ポリエーテル変性ポリオレフィン組成物を含む、単回使用モールド。
【請求項23】
組成物中のポリオレフィンが、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー、ポリエチレンホモポリマー、及びポリメチルペンテンのうち少なくとも1種を含む、請求項22に記載の単回使用モールド。
【請求項24】
組成物が、ポリエーテルとポリオレフィンのコポリマーを含む、請求項22又は23に記載の単回使用モールド。
【請求項25】
組成物が、ポリオレフィンのマレイン化グラフトポリマーと反応したポリエーテルを含む、請求項22から24のいずれか一項に記載の単回使用モールド。
【請求項26】
組成物が、ポリエーテル変性ポリオレフィンと未変性ポリオレフィン樹脂とのブレンド物を含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の単回使用モールド。
【請求項27】
ポリエーテル変性ポリオレフィンが、約5から20質量パーセントの量で未変性ポリオレフィン樹脂中に配合されている、請求項26に記載の単回使用モールド。
【請求項28】
組成物が、ポリエーテルアミン及びメトキシポリエチレングリコールから選択される親水性添加剤をさらに含む、請求項22から27のいずれか一項に記載の単回使用モールド。
【請求項29】
ポリエーテル変性ポリオレフィンが、酸無水物基若しくはカルボン酸基を含むグラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンであり、かつ、親水性添加剤が、前記グラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンの酸無水物若しくはカルボン酸の含有量に対して約0.25から1.00モル当量の量で存在する、請求項22から28のいずれか一項に記載の単回使用モールド。
【請求項30】
モールドから製造されるコンタクトレンズが約90°未満の水接触角を有する、請求項22から29のいずれか一項に記載の単回使用モールド。
【請求項31】
コンタクトレンズが、ベースモノマー、シリコーン含有マクロマー、及び架橋剤を含む組成物から形成される、請求項30に記載の単回使用モールド。
【請求項32】
シリコーン含有マクロマーが少なくとも2つのポリエチレンオキシ基(PEG)を含む、請求項31に記載の単回使用モールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2021年11月22日に出願された米国仮特許出願第63/281,927号の優先権を主張するものであり、その開示内容はその全体において参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
現在の一般的な大容量ハイドロゲル及びシリコーン修飾ハイドロゲル(SiHy)コンタクトレンズ製造技術では、機械特性、酸素透過性、及びユーザーの快適性をもたらすそれらの性能を目的として選択された不飽和モノマーの混合物は、単回使用ポリオレフィンモールド内に注型し重合される。これらのモールドは通常、複数のキャビティ(例えば4つ以上のキャビティ)を有する。製造においては、液状のモノマー混合物又は組成物は、そのポリオレフィンモールド内に充填された後、UV光照射又は熱エネルギーと用いて、重合されてレンズを形成する。
【0003】
重合に続いて、レンズはモールドから取り外され(脱レンズされ)、モールドは廃棄される。脱レンズ後かつ使用前に、レンズは通常取り出されて残留モノマーが取り除かれた後、開始剤副生成物が生理食塩水又は生理食塩緩衝水溶液中で水和される。成形されたままのレンズの表面特性の本質的な限界のため、SiHyレンズはその後、1つ又は複数の追加の中間加工工程により修飾されなければならない。水接触角が高いことを特徴とする非修飾SiHyレンズの表面濡れ性は十分ではない。表面濡れ性は、短期間のユーザーの快適性における重要なパラメーターであるだけでなく、タンパク質吸着及び生理学的挙動に影響を及ぼすその他の因子に重要な役割を果たす。結果的に、脱レンズ後、表面濡れ性は酸素プラズマ処理により導入されるか、表面コーティングプロセスにより達成される。追加の製造工程により生じる非効率性に加えて、表面修飾は、安定性が欠如していることが多く、その効果は保管又は使用中に低下する。別のアプローチは、ポリビニルピロリジノン等のポリマー種をレンズ組成物マトリックス中に組み込むことであるが、これはレンズモノマー組成物中の制限された溶解度及び重合された最終的なレンズの機械物性及び光学物性の低下の両方により、利用が限定される。材料及び加工技術の視点からのケイ素ハイドロゲルの概要は、Musgrave("Contact Lens Materials - A Materials Science Perspective Materials," Materials; 12, 261 (2019))、Goff("Applications of Hybrid Polymers Generated by Living Anionic Ring Opening Polymerization Molecules," Macromolecules 26, 2755 (2021))、及びN. Efron(Contact-Lens-Practice 第3版、第5章 Soft-Lens-Manufacture, Elsevier 61-67ページ (2018))により提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第10,669,294号
【特許文献2】米国特許第8,772,367号
【特許文献3】米国特許第9,102,110号
【特許文献4】特開2004-299222
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Musgrave("Contact Lens Materials - A Materials Science Perspective Materials," Materials; 12, 261 (2019))
【非特許文献2】Goff("Applications of Hybrid Polymers Generated by Living Anionic Ring Opening Polymerization Molecules," Macromolecules 26, 2755 (2021))
【非特許文献3】N. Efron(Contact-Lens-Practice 第3版、第5章 Soft-Lens-Manufacture, Elsevier 61-67ページ (2018))
【非特許文献4】P. B. M. Janssen, "Reactive Extrusion Systems" Marcel Dekker, 169から178ページ (2004)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの態様では、約90°未満の水接触角を有するコンタクトレンズの製造方法であって、
(a)ポリエーテル変性ポリオレフィン(polyether modified polyolefin)を含む型成形用樹脂を準備する工程と、
(b)型成形用樹脂をモールド(型)に形成する工程と、
(c)コンタクトレンズ組成物を調製する工程と、
(d)コンタクトレンズ組成物をモールド内に充填する工程と、
(e)コンタクトレンズ組成物を重合してコンタクトレンズを形成する工程と
を含む、方法が提供される。
【0007】
本開示の別の態様では、コンタクトレンズの水接触角を90°未満にし、表面濡れ性を改良する方法であって、ポリエーテル変性ポリオレフィンを含有する型成形用樹脂から形成されるモールド内でモノマーの混合物を注型重合して約90°未満の水接触角を有するコンタクトレンズを形成する工程を含む方法が提供される。
【0008】
本開示の更なる態様では、コンタクトレンズ製造用単回使用モールド(single-use mold)が提供され、そのモールドはポリエーテル変性ポリオレフィン組成物を含む。
【0009】
まとめると、下記の実施形態は、本発明の範囲内で特に好ましいものとして提示される。
【0010】
実施形態1:約90°未満の水接触角を有するコンタクトレンズの製造方法であって、
(a)ポリエーテル変性ポリオレフィンを含む型成形用樹脂(molding resin)を準備する工程と、
(b)型成形用樹脂をモールドに形成する工程と、
(c)コンタクトレンズ組成物を調製する工程と、
(d)コンタクトレンズ組成物をモールド内に充填する工程と、
(e)コンタクトレンズ組成物を重合してコンタクトレンズを形成する工程と
を含む、方法。
【0011】
実施形態2:型成形用樹脂中のポリオレフィンが、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー、ポリエチレンホモポリマー、及びポリメチルペンテンのうち少なくとも1種を含む、実施形態1による方法。
【0012】
実施形態3:工程(a)が、ポリエーテル及びポリオレフィンのコポリマーを調製する工程を含む、実施形態1又は2による方法。
【0013】
実施形態4:工程(a)が、ポリエーテルをポリオレフィンのマレイン化グラフトポリマーと反応させる工程を含む、実施形態1から3のいずれか1つによる方法。
【0014】
実施形態5:型成形用樹脂が、ポリエーテル変性ポリオレフィンと未変性ポリオレフィン(unmodified polyolefin)樹脂とのブレンド物を含む、実施形態1から4のいずれか1つによる方法。
【0015】
実施形態6:ポリエーテル変性ポリオレフィンが、約5から20質量パーセントの量で未変性ポリオレフィン樹脂中に配合されている、実施形態5による方法。
【0016】
実施形態7:型成形用樹脂が、ポリエーテルアミン及びメトキシポリエチレングリコールから選択される親水性添加剤をさらに含む、実施形態1から6のいずれか1つによる方法。
【0017】
実施形態8:ポリエーテル変性ポリオレフィンが、酸無水物基若しくはカルボン酸基を含むグラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンであり、親水性添加剤が、グラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンの酸無水物若しくはカルボン酸含有量に対して約0.25から1.00モル当量の量で存在する、実施形態1から7のいずれか1つによる方法。
【0018】
実施形態9:コンタクトレンズ組成物が、ベースモノマー、シリコーン含有マクロマー、及び架橋剤を含む、実施形態1から8のいずれか1つによる方法。
【0019】
実施形態10:シリコーン含有マクロマーが少なくとも2つのポリエチレンオキシ基(PEG)を含む、実施形態9による方法。
【0020】
実施形態11:工程(e)が重合を達成するためにUV照射又は熱を適用する工程を含む、実施形態1から10のいずれか1つによる方法。
【0021】
実施形態12:コンタクトレンズの水接触角を90°未満にし、表面濡れ性を改良する方法であって、ポリエーテル変性ポリオレフィンを含有する型成形用樹脂から形成されるモールド内でモノマーの混合物を注型重合して、約90°未満の水接触角を有するコンタクトレンズを形成する工程を含む、方法。
【0022】
実施形態13:型成形用樹脂中のポリオレフィンが、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー、ポリエチレンホモポリマー、及びポリメチルペンテンのうち少なくとも1種を含む、実施形態12による方法。
【0023】
実施形態14:型成形用樹脂が、ポリエーテル及びポリオレフィンのコポリマーを含む、実施形態12又は13による方法。
【0024】
実施形態15:型成形用樹脂が、ポリオレフィンのマレイン化グラフトポリマーと反応したポリエーテルを含む、実施形態12から14のいずれか1つによる方法。
【0025】
実施形態16:型成形用樹脂が、ポリエーテル変性ポリオレフィンと未変性ポリオレフィン樹脂とのブレンド物を含む、実施形態12から15のいずれか1つによる方法。
【0026】
実施形態17:ポリエーテル変性ポリオレフィンが、約5から20質量パーセントの量で未変性ポリオレフィン樹脂中に配合されている、実施形態16による方法。
【0027】
実施形態18:成形用樹脂が、ポリエーテルアミン及びメトキシポリエチレングリコールから選択される親水性添加剤をさらに含む、実施形態12から17のいずれか1つによる方法。
【0028】
実施形態19:ポリエーテル変性ポリオレフィンが、酸無水物基若しくはカルボン酸基を含むグラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンであり、親水性添加剤が、グラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンの酸無水物若しくはカルボン酸の含有量に対して約0.25から1.00モル当量の量で存在する、実施形態12から18のいずれか1つによる方法。
【0029】
実施形態20:モノマーの混合物が、ベースモノマー、シリコーン含有マクロマー、及び架橋剤を含む、実施形態12から19のいずれか1つによる方法。
【0030】
実施形態21:シリコーン含有マクロマーが少なくとも2つのポリエチレンオキシ基(PEG)を含む、実施形態20による方法。
【0031】
実施形態22:コンタクトレンズ製造用単回使用モールド(single-use mold)であって、ポリエーテル変性ポリオレフィン組成物を含む、単回使用モールド。
【0032】
実施形態23:組成物中のポリオレフィンが、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー、ポリエチレンホモポリマー、及びポリメチルペンテンのうち少なくとも1種を含む、実施形態22による単回使用モールド。
【0033】
実施形態24:組成物が、ポリオレフィン及びポリエーテルのコポリマーを含む、実施形態22又は23による単回使用モールド。
【0034】
実施形態25:組成物が、ポリオレフィンのマレイン化グラフトポリマーと反応したポリエーテルを含む、実施形態22から24のいずれか1つによる単回使用モールド。
【0035】
実施形態26:組成物が、ポリエーテル変性ポリオレフィンと未変性ポリオレフィン樹脂とのブレンド物を含む、実施形態22から25のいずれか1つによる単回使用モールド。
【0036】
実施形態27:ポリエーテル変性ポリオレフィンが、約5から20質量パーセントの量で未変性ポリオレフィン樹脂中に配合されている、実施形態26による単回使用モールド。
【0037】
実施形態28:組成物が、ポリエーテルアミン及びメトキシポリエチレングリコールから選択される親水性添加剤をさらに含む、実施形態22から27のいずれか1つによる単回使用モールド。
【0038】
実施形態29:ポリエーテル変性ポリオレフィンが、酸無水物基若しくはカルボン酸基を含むグラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンであり、親水性添加剤が、グラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンの酸無水物若しくはカルボン酸の含有量に対して約0.25から1.00モル当量の量で存在する、実施形態22から28のいずれか1つによる単回使用モールド。
【0039】
実施形態30:モールドから製造されるコンタクトレンズが約90°未満の水接触角を有する、実施形態22から29のいずれか1つによる単回使用モールド。
【0040】
実施形態31:コンタクトレンズが、ベースモノマー、シリコーン含有マクロマー、及び架橋剤を含む組成物から形成されている、実施形態30による単回使用モールド。
【0041】
実施形態32:シリコーン含有マクロマーが少なくとも2つのポリエチレンオキシ基(PEG)を含む、実施形態31による単回使用モールド。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本開示は、グラフト化ポリエーテル又は共重合ポリエーテルを含む変性ポリオレフィンモールドを使用する、水接触角が低く、表面濡れ性を有するSiHyコンタクトレンズの製造方法に関する。接触角が約90°未満である表面は、一般に濡れ性があるとみなされており、コンタクトレンズ用途には接触角が約70°未満であることが好ましい。従って、本開示の目的に関し、「低水接触角」という用語は、約90°未満、好ましくは約80°未満、より好ましくは約70°未満、更により好ましくは約65°未満の接触角を指すと理解されうる。これらの変性ポリオレフィンモールド及びシリコーン含有モノマーの特定の混合物を採用することにより、酸素プラズマ処理又は表面コーティング等のいかなる中間加工工程を施すことなく、脱レンズ後かつ水和直後に所望の物性を有するコンタクトレンズが達成され得る。好ましくは、モノマーの混合物は、極性ペンダント基又はボトルブラシ構造を有するポリマーの形成を可能にする。最も好ましい極性基は、水素結合の形成を可能にするものであり、コンタクトレンズを成型するために用いられるモノマー混合物中のいずれかのモノマーの置換基であってもよい。最も好ましい実施形態では、上記混合物は、重合後に水素結合の形成が可能なペンダント基を有するケイ素含有モノマーでもある極性モノマーを含む。
【0043】
コンタクトレンズ製造用単回使用モールド
本開示の態様によるコンタクトレンズ製造用モールドは、ポリエーテル変性ポリオレフィン(polyether modified polyolefin)を含むコンタクトレンズ型成形組成物(成形用樹脂)から形成される。本開示による適切なポリオレフィンには、ポリプロピレン、プロピレンとエチレン又はその他のオレフィンとのコポリマー、ポリメチルペンテン、及びポリエチレンが含まれ、ポリプロピレン及びポリメチルペンテンが好ましい。これらの材料は、コンタクトレンズの剥離を可能にする離型性、熱硬化を可能にするために十分な高温特性、UV硬化を可能にする適度な透明性、耐加水分解性、及び経済性のため、コンタクトレンズ用の高速成形モールドのための望ましい樹脂である。
【0044】
ポリエーテル変性ポリオレフィンを製造するために、これらのポリオレフィンは、ポリエーテルの導入によって変性(修飾)される。その変性は例えば、ベース樹脂、例えばプロピレンとアリル末端化ポリエーテルとのコポリマー中のコモノマーとしてポリエーテルを導入することによって達成することができる。あるいは、変性されたベース成形用樹脂は、ポリエーテルをポリプロピレンのマレイン化グラフトポリマーと反応させることによって形成することができる。他の実施形態では、変性ポリオレフィンは、カルボン酸基で変性されたポリオレフィンベースコポリマーの、ポリエーテルによるエステル化によって調製することができ、そのカルボン酸基は、アクリレートモノマーの共重合により、又はアクリレートモノマーをグラフト化することによって導入される。
【0045】
好ましい実施形態では、ポリエーテル変性ポリオレフィンは未変性ポリオレフィン樹脂とブレンドされる。例えば、ポリエーテル変性ポリプロピレンは、コンタクトレンズの水接触角を望ましいものとするのに十分なレベルで、標準的なポリプロピレン又はその他のポリオレフィン樹脂(例えばポリプロピレンコポリマー、ポリエチレン、又はポリメチルペンテン)とブレンドされてもよい。一つの実施形態では、ポリエーテルと反応したマレイン化ポリオレフィンは、約5から20質量%の量でベースポリマー中に押出しによって配合することができる。好ましくは、相溶性のため、配合に用いられるベースポリマーは、ポリエーテル変性ポリオレフィン中のポリオレフィンと同じである。しかし、ランダムコポリマーは、接触角の若干の低減に寄与し得ると考えられている。好ましい実施形態では、ポリエーテル変性ポリオレフィンは、ポリプロピレンホモポリマー又はポリプロピレンコポリマーと配合される。ポリエーテル変性ポリオレフィンのみを用いてモールドを形成することも更に本開示の範囲内である。
【0046】
一つの実施形態では、本開示による型成形用樹脂は、マレイン化ポリオレフィン、例えばマレイン化ポリプロピレンの反応によって容易に製造することができる。本明細書で用いられているとおり、用語「マレイン化ポリプロピレン」は、一般に、エチレン等のコモノマーを最大10%含有し得るポリプロピレンの主鎖に、好ましくは共有結合によってマレイン酸無水物をグラフト化させることにより形成された反応生成物を指す。ポリオレフィンをマレイン化する溶融グラフト法は公知であり、総説がある(例えば、P. B. M. Janssen, "Reactive Extrusion Systems" Marcel Dekker, 169から178ページ (2004)を参照されたい)。マレイン化ポリオレフィンは、なかでも、例えば、Dow社(Fusabond)、SI Group社(旧Chemtura、Polybond)、Westlake社(Epolene)、Eastman社(G POLYMER)、LyondellBasell社(Plexar)、及び三菱ケミカル社(Modic)から市販されており、密着促進剤、密着層、又は相溶化剤として最も一般的に用いられている。
【0047】
マレイン化ポリオレフィン又はその他のポリエーテル変性ポリオレフィン(任意選択により場合によっては、未変性ポリオレフィン樹脂とブレンドされていてもよい)を、マレイン化ポリオレフィンの量に対して約25%から約100%モル当量の範囲、好ましくは50から75%の範囲の量の親水性添加剤、例えばポリエーテルアミン、メトキシポリエチレングリコール、又は、1つの末端にフリーのヒドロキシル基及び他の末端にブチル等のアルキル基を有するその他のポリエチレングリコールと反応させる/組み合わせることも更に本開示の範囲内である。言い換えると、仮にポリエーテル変性ポリオレフィンが、酸無水物基若しくはカルボン酸基を含むグラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンである場合、親水性添加剤は、グラフトポリオレフィン又は共重合ポリオレフィンの酸無水物若しくはカルボン酸の含有量に対して約0.25から1.00モル当量の量で存在し得る。現在のところ好ましいポリエーテルアミンは、アミン末端のPEO-PPOコポリマーである。当技術で公知のその他の添加剤、例えば、これらに限定されないが、加工助剤、酸化防止剤、及び離型剤を、追加で組み込んでもよい。
【0048】
本開示の態様によるポリエーテル変性ポリオレフィンは、通常のコポリマー、グラフトコポリマー、及びこれらの材料と未変性ポリオレフィンとのブレンド物を含みうるが、これらに限定されない。例えば、ポリプロピレンのマレイン化グラフトコポリマーと、オメガメチル末端を有するアルファ-アミン末端PEO-PPOコポリマーとのポリエーテル反応は、アルファ-ヒドロキシ、オメガ-メチル末端のポリエチレンオキシドホモポリマーで置き換えることができる。本明細書に記載されているポリエーテル変性された材料の重合度は、約2から約50、好ましくは約6から約20の範囲であってもよい。アミン末端化ポリエーテルとマレイン化ポリプロピレンとの反応生成物は、マレアメート(maleamate)又はマレアミド酸(maleamic acid)変性ポリプロピレンということができる。ヒドロキシル末端ポリエーテルとマレイン化ポリプロピレンとの反応生成物は、マレイン酸エステル変性ポリプロピレンということができる。
【0049】
一旦製造されると、ポリエーテル変性ポリオレフィンベースポリマー及び任意選択により場合によってはその他の成分を含有するコンタクトレンズ成形組成物又は樹脂は、公知の方法を用いて、典型的には、射出成形法によってモールドに形成された後、以下で更に詳細に記載するとおり、コンタクトレンズを製造するために使用される。既に説明したとおり、得られるコンタクトレンズの水接触角は約90°未満、好ましくは約85°未満、より好ましくは約80°未満、更により好ましくは約75°未満、更により好ましくは約70°未満、そして更により好ましくは約65°未満である。同時に複数のコンタクトレンズを製造するために、モールドが多数のキャビティ、例えば4つ以上のキャビティを有することは本発明の範囲内である。
【0050】
本開示による単回使用コンタクトレンズモールドの例としては、ポリエーテル変性ポリオレフィンとして、市販されているPolybond 7200、1.5から1.9質量%のマレイン酸無水物でグラフト化されたポリプロピレンを採用することができる。この材料は、25%のモル当量のアミン末端PEO-PPOコポリマー(MW約1000ダルトン)と、溶融状態で(例えば共回転二軸押出機を使用することにより)反応させることができる。このグラフト反応物は、20質量%で標準ポリプロピレン(例えば市販されているPinnacle Polymers社の1120H)と配合した後、分析のためにプラークに成形することができる。コンタクトレンズモールドよりも平坦なプラークの方が、試験及び分析を目的として採用されていることに留意されたい。Pinnacle社のポリプロピレンベースポリマーの水接触角は96°と測定されたのに対し、変性されたグラフトポリマーが配合されたPinnacle社のポリプロピレンベースポリマーの水接触角は79°であることが観測されている。
【0051】
コンタクトレンズ組成物
コンタクトレンズの組成は、最適な性能を達成するのに重要である。コンタクトレンズを形成するために用いられるモノマーの混合物は、通常、少なくとも3つの成分:ベースモノマー(例えば、これらに限定されないが、ジメチルアクリルアミド(DMA)又はヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA))、シリコーン含有マクロマー(例えば、これらに限定されないが、低分子量メタクリルオキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン(MPDMS)DP約10(Gelest MCR-M11))、及び架橋剤(例えば、これらに限定されないが、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA))を含有する。好ましくは、シリコーン含有マクロマーは、少なくとも3つのポリエチレンオキシ基(PEG)を有する。好ましい実施形態では、シロキサンと結合したポリエーテルセグメントを有する追加のモノマーは、シリコーン含有マクロマーの一部又は全てを置き換える。そのようなマクロマーの例は米国特許第10,669,294号明細書に記載されており、ポリエーテルコモノマー含有量は10から100%であり、また米国特許第8,772,367号明細書にも記載されている。これらの公知のマクロマーは、商業ベースでのコンタクトレンズの作製には用いられていない。化学構造は異なるけれども、これらの各組成物は、更に2つのポリエチレンオキシ基(PEG)を含有する。
【0052】
ポリオレフィン表面は、極めて疎水性であることが知られている。ポリプロピレンの水接触角は、105から110°の間であると観測されているが、添加剤又はコモノマーを含む商用グレードは、より典型的には、96から103°の間であり、臨界表面張力は31mN/mである。従来のコンタクトレンズ製造において採用されている注型条件下では、これらの特性は、モールドとの界面において疎水性基の蓄積を引き起こし、その結果、コンタクトレンズの接触角を高め、濡れ性を不十分にする。理論に拘束されることを望むものではないが、本明細書に記載された変性ポリオレフィンモールドの表面には、バルクよりもポリエーテル基が豊富に存在すると考えられている。結果として、コンタクトレンズ組成物中のモノマーの混合物はポリプロピレンモールドとの界面で疎水性基が蓄積する傾向が小さい。好ましい実施形態では、極性基、及び最も好ましくはポリエーテル基、又はその他の水素結合の形成が可能な基を含むモノマーの混合物が、反応性モノマー混和物中に含まれる。本記載の材料は、一般に、親水性がより高い。好ましいモノマーは、界面において高濃度で吸着すると考えられ、これは水素結合の形成を可能にするモノマーを含むポリエーテルで特に起こりうる。モールドの界面における極性基の富化のメカニズムは、反応性モノマーに限定されない。ペンダントポリエーテル基を含む重合したモノマーの場合において、そのポリエーテル基は、変性ポリオレフィンモールドとの界面において配向することによって蛇行するか、あるいは界面に収容されうる。
【0053】
明確化のため、本明細書に記載されている組成物から形成されるモールドは、モールドに対して界面活性剤を適用することによって得られるものとは異なる。モールド材料に対する化学種の適用は、その適用において余計な製造工程を生じさせるであろうし、界面活性剤の移行及び界面活性剤によるレンズの汚染に関する懸念をもたらすであろう。それとは対照的に、本明細書に記載されているコンタクトレンズ型成形組成物は、現在のコンタクトレンズの注型製造技術と一致しており、それはポリオレフィンの光学物性、熱物性、離型性、及び機械特性、並びに経済性に依拠している。より高い臨界表面張力を有するその他の樹脂が、より高い親水性をもちらしうる蓋然性がある一方で、それらは離型性が低い場合がある傾向にある。レンズ表面の濡れ性は考慮されていないが、米国特許第9,102,110号明細書には、モールドの型開き及び脱レンズの観点で、ポリビニルアルコールモールドが関与する事項が説明されている。より典型的には、例えば、ポリプロピレンを含むモノステアリン酸グリセリンが採用されている特開2004-299222(2004年)においては、モールド材料が、脱レンズプロセス中の離型性又は平滑な表面の形成性について評価されている。
【0054】
コンタクトレンズの形成方法
本開示の更なる態様は、水接触角の低い、より具体的には約90°未満、好ましくは約80°未満、より好ましくは約70°未満、更により好ましくは65°未満の、前述のとおり、表面濡れ性を可能とするコンタクトレンズの製造方法に関する。その方法は、まず、前述のとおり、ポリエーテル変性ポリオレフィンを含む型成形組成物(樹脂)を調製する工程を含む。その型成形用樹脂は、ポリエーテル変性ポリオレフィンのみを含有していてもよく、又はポリエーテル変性ポリオレフィンがその中に配合されている未変性ポリオレフィンを含むブレンド物を含有していてもよく、そして上述したように、更に添加剤を含有していてもよい。
【0055】
型成形用樹脂は、従来公知の方法を用いて、例えば射出成形法によって、キャビティを有するモールドへと形成される。
【0056】
後続の工程では、本方法は、コンタクトレンズ組成物、例えば、前述のとおり、ベースモノマー、ケイ素含有モノマー(シリコーン含有モノマー)、及び架橋剤を含有する組成物を調製する工程を含む。そのような組成物を形成する方法は、当技術において周知であり、説明を要しない。好ましくは、上記ケイ素含有モノマーは、少なくとも2つのポリエチレンオキシ基(PEG)を有する。液状のモノマー混合物を含有するコンタクトレンズ組成物は、次に、従来の方法を用いてモールドのキャビティ内に充填され、コンタクトレンズを形成するために重合される。重合は、コンタクトレンズ組成物にそれぞれ添加された光開始剤又はラジカル開始剤を用いて、UV照射により又は熱を用いて熱的に行うことができる。最終的に、コンタクトレンズは、キャビティから取り外され(脱レンズされ)、モールドは廃棄される。モールドからのレンズの離型を補助するために、水を、単独で又はアルコール若しくは界面活性剤と組み合わせて適用することを利用してもよい。
【0057】
既に説明したとおり、公知の方法とは対照的に、脱レンズ後に、コンタクトレンズに対するいかなる表面処理もコーティングプロセスも実施されない。むしろ、上述した、低い水接触角、及び向上した表面濡れ性という観測された優れた特性は、コンタクトレンズ組成物と組み合わせて、モールドを形成するために用いられる組成物の結果である。既に説明したとおり、得られるコンタクトレンズは、約90°未満、好ましくは約85°未満、より好ましくは約80°未満、更により好ましくは約75未満°、更により好ましくは約70°未満、そして更により好ましくは約65°未満の水接触角を有する。
【0058】
本明細書に記載されている型成形用樹脂の使用は、得られるコンタクトレンズの水接触角に劇的な効果をもたらす。その効果の範囲は、型成形用樹脂を形成するために用いられる材料だけでなく、コンタクトレンズを形成するために用いられる特定のケイ素含有モノマーによっても変わる。例えば、α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端ポリジメチルシロキサンホモポリマーを含有する組成物から形成され、ポリエーテルマレアメート(maleamate)変性ポリプロピレンを含有する基材上に重合されたマクロマーの水接触角は、非修飾ポリプロピレン基材上に重合された類似のマクロマーの水接触角114°に対して、99°に低下した。
【0059】
コンタクトレンズ組成物中のシリコーン含有マクロマーがジエチレンオキシド(PEG)置換を有していた場合、水接触角がより劇的に低下することが観測され、これは高い濡れ性を示唆している。例えば、α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端ポリ(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)ホモポリマーを含有する組成物から調製されたマクロマーは、未変性ポリプロピレン上で重合された場合、116°の水接触角を示したが、2つの異なるマレアメート変性ポリプロピレン基材上で重合された場合は、水接触角はそれぞれ72°及び59°であった。同様に、α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端50%(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)50%ジメチルシロキサンコポリマーを含有する組成物から調製されたマクロマーは、未変性ポリプロピレン上で重合された場合、109°の水接触角を示したが、2つの異なるマレアメート変性ポリプロピレン基材上で重合された場合は、水接触角はそれぞれ74°及び64°であった。更に、α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端25%(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)75%ジメチルシロキサンコポリマーを含有する組成物から調製されたマクロマーは、未変性ポリプロピレン上で重合された場合、97°の水接触角を示したが、2つの異なるマレアメート変性ポリプロピレン基材上で重合された場合は、水接触角はそれぞれ73°及び65°であった。
【0060】
同様の結果が、マレイン酸エステル変性ポリプロピレン基材上で重合されたマクロマーで観測される。具体的には、例えば、α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端ポリジメチルシロキサンホモポリマーを含有する組成物から形成され、ポリエーテルマレイン酸エステル変性ポリプロピレンを含有する基材上で重合されたマクロマーの水接触角は、未変性ポリプロピレン上で重合された類似のマクロマーの水接触角114°に対して、100°に低下した。
【0061】
コンタクトレンズ組成物中のシリコーン含有マクロマーがジエチレンオキシド(PEG)置換を有していた場合、水接触角がより劇的に低下したことが観測され、これは、より高い濡れ性を示唆している。例えば、α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端50%(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)50%ジメチルシロキサンコポリマーを含有する組成物から調製されたマクロマーは、未変性ポリプロピレン上で重合された場合、109°の水接触角を示したが、ポリエーテルマレイン酸エステル変性ポリプロピレン基材上で重合された場合は、水接触角は95°であった。更に、α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端25%(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)75%ジメチルシロキサンコポリマーを含有する組成物から調製されたマクロマーは、未変性ポリプロピレン上で重合された場合、97°の水接触角を示したが、ポリエーテルマレイン酸エステル変性ポリプロピレン基材上で重合された場合は、水接触角は94°であった。
【0062】
本開示の更なる態様は、前述したとおり、ポリエーテル変性ポリオレフィンで構成されたモールド内で、注型重合によってモノマー混合物を重合させることにより形成されたコンタクトレンズの水接触角を低下させ、表面濡れ性を向上させる方法に関する。既に説明したとおり、得られるコンタクトレンズの水接触角は約90°未満、好ましくは約85°未満、より好ましくは約80°未満、更により好ましくは約75未満°、更により好ましくは約70°未満、及び更により好ましくは約65°未満である。
【0063】
加えて、本開示は、上記のとおり、モールドがポリエーテル変性ポリオレフィン組成物を含むコンタクトレンズ製造用単回使用モールドを提供する。このモールドは当技術において知られているとおり、複数のキャビティ、例えば4つ以上のキャビティを有していてもよい。これらのモールドを用いて、特に前述のモノマー混合物から調製されたコンタクトレンズは、前述のとおり、水接触角が低い。
【0064】
本発明を以下の非限定的実施例と関連付けて説明する。
【実施例】
【0065】
例1:ポリエーテルマレエート変性したベース成形組成物の調製
Polybond 7200(SI Group社)、1.5から1.9質量%のマレイン酸無水物でグラフト化されたポリプロピレンをベース成形用樹脂として選択した。16mm Haake (25L/D)押出機を使用して、乾燥したPolybond 7200を、溶融状態で、25%のモル当量でアミン末端PEO-PPOコポリマー(MW約1000ダルトン、Huntsman社のJeffamine M1000)と反応させた。このグラフト反応物を20質量%で、標準ポリプロピレン、Pinnacle Polymers社の1120Hと配合した後、プラークに成形した。Pinnacle社のポリプロピレンベースポリマーの水接触角は96°と測定され、変性されたグラフトポリマーが配合されたPinnacle社のポリプロピレンベースポリマーの水接触角は79°であった。
【0066】
例2:コンタクトレンズの調製
下記成分:架橋剤としてPEG200DMA、及び光開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(Darocur 1172)と共に、MCR-M11シリコーンマクロマー、メタクリルオキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、ジメチルアクリルアミドを約1:1:2比で含む反応性モノマーの通常のベース混合物を対照として用いた。その混合物を例1に記載したプラーク上で重合させ、硬化フィルムの水接触角を測定した。重合されたコンタクトレンズ組成物のフィルムの接触角は、例1で調製された変性された材料の約99°に対し、非変性対照(Pinnacle社のプロピレンベースポリマー)は約114°を示した。この場合において、MCR-M11を含む反応性モノマー混和物は、例1のモールド樹脂を用いる利点を示している。接触角は114°から99°まで低下したが、99°は依然として90°より高いので、コンタクトレンズの許容可能な濡れ性を達成するには十分に低くはないことに注意されたい。このMCR-M11を含む混合物は、MCR-M11を実質的にPEG変性MCR-M11と置き換えている例3の対照である。これは、コンタクトレンズにより大きな表面濡れ性を導入するポリエーテル変性ポリオレフィンの能力を実証している。
【0067】
例3:コンタクトレンズの調製
DPが10であり、かつ、構造1で描かれたているとおり、ペンダントに2つのPEG単位を有するコモノマー単位を約25モル%含有する、米国特許第10,669,294号明細書に一般的に記載されたコポリマーで、MCR-M11を置き換えた以外は、例2に記載されたとおりにコンタクトレンズを調製した。
【0068】
【0069】
例1に記載されたようにして、ポリエーテル変性プラーク上で重合した場合、得られる混合物の接触角は約65°であったのに対して、未変性ポリプロピレン対照上で重合した場合は、約97°であった。同様ではあるが、約74°の若干高い接触角は、例1における20%充填で25%モル当量よりむしろ、50%モル当量のマレイン化ポリプロピレンが10%充填で配合された類似の例において観測された。
【0070】
例4:マレアミド酸変性(マレアミック酸変性)ポリプロピレン-ポリプロピレンブレンド物の調製
2段階プロセスでブレンド物を製造した。27mm Leistritz (40L/D)逆回転二軸押出機を使用して、ポリプロピレンホモポリマー(PP)を80%、1.5から1.9質量%のマレイン酸無水物でグラフト化されたポリプロピレン(SI Group社のPolybond 7200)を有するPinnacle社の1120Hを20%、のメカニカルペレットブレンド物を、約210℃において溶融配合し、ペレット化した。乾燥したペレット化されたアロイを16mm Haake TSE(25L/D)押出機内に再度供給した。0.5モル当量のα-アミン,ω-メチル末端ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドコポリマーMW1000 (Huntsman社のJeffamine M1000)の室温の液体フィードを、押出機の下流側でシリンジポンプによって注入した。ペレット化された押出物を乾燥させた。分析は、反応生成物、主にポリプロピレンのマレアミック酸誘導体の生成を示していた。次に、この材料をプラークへと形成した。プラークの静的水接触角は62°±3°と測定された。対照ポリプロピレンプラークの接触角は、96°を示した。
【0071】
例5:メチル-PEGエーテル変性マレイン酸変性ポリプロピレン-ポリプロピレンブレンド物の調製
例4と同様の条件下で、α-ヒドロキシ,ω-メチル末端ポリエチレンオキシドを、α-アミン,ω-メチル末端ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドと置き換えた。PPホモポリマー、1.5から1.9質量%のマレイン酸無水物でグラフト化されたポリプロピレン(SI Group社のPolybond 7200)を有するPinnacle社の1120Hのアロイを溶融配合し、例1と同等の条件下でペレット化した。メトキシポリエチレングリコール(TCI America社のMPEG1000)を60℃に加熱し、押出プロセスの下流側に0.25モル当量で液体として供給した。210から230°の溶融温度を、200rpmのスクリュー速度において維持した。この変性ポリプロピレンを、Polybond 7200に10質量%充填で配合した。この材料をプラークへと形成し、液滴水接触角は77°と測定された。
【0072】
例6:コンタクトレンズを形成するための実用性を有する組成物の表面濡れ性の誘起
コンタクトレンズを形成するために従来使用されていた組成物に対応する4つの組成物を、変性されたポリプロピレンのプラーク上に流し(キャストし)、UV照射によって重合させた。評価した各組成物は、21.5%のシリコーンマクロマー;21.5%の(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシプロピル)メチルビス(トリメチルシロキシ)シラン;54.0%のジメチルアクリルアミド;2.0%のポリエチレンオキシドMW200のビスメタクリレートエステル、及び1.0%のDarocur 1172光開始剤を含有していた。
【0073】
4つのシリコーンマクロマーは、α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端ポリジメチルシロキサン;α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端ポリ(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)ホモポリマー;α-メタクリルオキシω-ブチル末端50%(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)50%ジメチルシロキサンコポリマー;及びα-メタクリルオキシω-ブチル末端25%(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)75%ジメチルシロキサンコポリマーを含むものであった。未変性ポリプロピレン、及び、以下に示す成分を有し、例1に記載されたものと同様の手法で調製された2つの変性ポリプロピレン基材に対してキャストされたこれらのメタクリレート-末端化マクロマーから調製されたフィルムの水接触角を測定し、下の表にまとめた。全ての場合において、水接触角は、未変性基材よりも変性ポリプロピレンの上での方が低かった。ジエチレンオキシド(PEG)置換を有するマクロマーは、水接触角のより劇的な低下を示しており、これはより大きな濡れ性を示している。
【0074】
【0075】
例7:変性されたマレアミド酸変性ポリプロピレンの調製
三菱ケミカル社の、1.0から1.2質量%のマレイン酸を含むポリプロピレンポリマーを、100%モル当量のα-アミン,ω-メチル末端ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシドコポリマー(MW1000)で、例1と同じ一般的条件下で変性した。変性されたグラフトコポリマーを、ポリプロピレンホモポリマー(三菱ケミカル社のNovatek MA3)及びランダムプロピレン-エチレンコポリマー(日本ポリプロ社の Wintec WMG03)と共に50質量%にて、別個に再押出した。配合されていないホモポリマー及びランダムコポリマーは両方とも約97°の水接触角を示した。50%ホモポリマーブレンドの接触角は89°であったのに対し、50%コポリマーブレンドの水接触角は82°であった。赤外分析は、反応生成物は主としてポリエーテルマレアミック酸であり、かつ、観測可能ではあったが未定量のポリエーテルマレイミドを伴うものであることを示した。
【0076】
例8:コンタクトレンズを形成するための実用性を有する組成物の表面濡れ性の誘起
例6と同様に、コンタクトレンズを形成するために従来から使用されている組成物に対応する3つの組成物を、変性ポリプロピレンプラーク上にキャストし、UV照射によって重合させた。評価した各組成物は、21.5%のシリコーンマクロマー;21.5%の(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシプロピル)メチルビス(トリメチルシロキシ)シラン;54.0%のジメチルアクリルアミド;2.0%のポリエチレンオキシドMW200(EGDMA200)のビスメタクリレートエステル、及び1.0%のDarocur 1172光開始剤を含有していた。
【0077】
3つのシリコーンマクロマーは、α-メタクリルオキシ,ω-ブチル末端ポリジメチルシロキサン;α-メタクリルオキシω-ブチル末端50%(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)50%ジメチルシロキサンコポリマー;及びα-メタクリルオキシω-ブチル末端25%(メトキシジエチレン-オキシプロピル)-メチルシロキサン)75%ジメチルシロキサンコポリマーを含んでいた。未変性ポリプロピレン、及び、10%のメチル-PEGエーテル変性マレイン酸変性ポリプロピレン-90%のポリプロピレンブレンドに対してキャストされたこれらのメタクリレート-末端化マクロマーから調製されたフィルムの水接触角は、例5に記載のとおりであった。下の表に示しているとおり、重合されたコンタクトレンズ組成物のフィルムの接触角は、変性された材料に対する約100°に対し、非変性対照上で約114°の接触角を示した。メチル-PEGエーテル変性マレイン酸変性ポリプロピレンの濃度を20%に高めた場合は、他のコンタクトレンズ配合物に比して、フィルムの約10°の水接触角の更なる低下が、通常、観測された。
【0078】
【0079】
当業者には、広範な発明概念から逸脱することなく、上述した実施形態に変更を加え得ることが理解されうる。従って、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨及び範囲内での変更を包含することが意図されることが理解される。
【国際調査報告】