(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ペースメーカ及び同ペースメーカの動作方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/362 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
A61N1/362
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506644
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2022082967
(87)【国際公開番号】W WO2023094442
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】512158181
【氏名又は名称】バイオトロニック エスエー アンド カンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】BIOTRONIK SE & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Woermannkehre 1 12359 Berlin Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ク、ミン
(72)【発明者】
【氏名】キブラー、アンドリュー ビー.
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053KK01
4C053KK10
(57)【要約】
本発明は、活動に基づくペーシングを提供し、且つ電流消費を低減する患者の心臓20用のペースメーカ10を対象とし、ペースメーカは、処理ユニット120と、検出器126と、ペーシング信号発生器124と、を備え、処理ユニット、検出器、及びペーシング信号発生器は、電気的に相互接続されており、検出器は、患者の活動信号を決定し、そして活動信号を処理ユニットに提供するように構成されており、処理ユニットは、検出器の現在受信されている活動信号と、適応モード又は安定化モードにあるゲイン値とに基づいて、ペーシング・レートを決定するように構成されており、処理ユニットは、決定されたペーシング・レートに基づいてペース制御信号を生成し、そしてペース制御信号をペーシング信号発生器に提供するように構成されており、適応モードにおいて、処理ユニットは、ゲイン値を特定の患者に適応させるように構成されており、処理ユニットは、少なくとも1つの安定性基準が満たされない限り適応モードに留まり、また処理ユニットが少なくとも1つの安定性基準が満たされたことを識別する場合に安定化モードに移行するように構成されており、安定化モードにおいて、処理ユニットは、ペーシング・レートを決定するために、直近に適応されたゲイン値に基づいて決定されたロックされたゲイン値を使用するように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓(20)用のペースメーカ(10)であって、処理ユニット(120)と、検出器(126)と、ペーシング信号発生器(124)と、を備え、前記処理ユニット、前記検出器、及び前記ペーシング信号発生器が、電気的に相互接続されており、前記検出器が、前記患者の活動信号を決定し、そして前記活動信号を前記処理ユニットに提供するように構成されており、前記処理ユニットが、前記検出器の現在受信されている前記活動信号と、適応モード又は安定化モードにあるゲイン値とに基づいて、ペーシング・レートを決定するように構成されており、前記処理ユニットが、前記決定されたペーシング・レートに基づいてペース制御信号を生成し、そして前記ペース制御信号を前記ペーシング信号発生器に提供するように構成されており、前記適応モードにおいて、前記処理ユニットが、前記ゲイン値を前記特定の患者に適応させるように構成されており、前記処理ユニットが、少なくとも1つの安定性基準が満たされない限り前記適応モードに留まり、また前記処理ユニットが前記少なくとも1つの安定性基準が満たされたことを識別する場合に前記安定化モードに移行するように構成されており、前記安定化モードにおいて、前記処理ユニットが、前記ペーシング・レートを決定するために、直近に適応されたゲイン値に基づいて決定されたロックされたゲイン値を使用するように構成されている、ペースメーカ(10)。
【請求項2】
前記ゲイン値が、一次元値又は多次元値である、請求項1に記載のペースメーカ。
【請求項3】
前記安定性基準は、第1の時間期間内に決定された前記適応されたゲイン値の第1の平均値と、第2の時間期間内に決定された前記適応されたゲイン値の第2の平均値との差の絶対値が予め決定された安定性閾値よりも小さい場合、及び/又は、前記ペーシング・レートが予め定義された適応時間期間中に前記適応モードにおいて決定される場合に、満たされる、請求項1又は2に記載のペースメーカ。
【請求項4】
前記第1の時間期間及び前記第2の時間期間が、直接隣接する、直近に評価された時間期間である、請求項1から3までのいずれか一項に記載のペースメーカ。
【請求項5】
前記安定化モードにおいて、前記処理ユニット(120)が、前記検出器(126)による前記活動信号の検出を中断又は低減するように構成されており、前記処理ユニットが、前記低減された活動信号から運動信号を決定するように構成されている、請求項1から4までのいずれか一項に記載のペースメーカ。
【請求項6】
前記処理ユニット(120)は、前記処理ユニットがそれぞれの要求を受信する場合、及び/又は予め定義された第3の時間期間が前記安定化モードへの前記移行から経過した場合に、前記安定化モードから前記適応モードへ移行する、請求項1から5までのいずれか一項に記載のペースメーカ。
【請求項7】
前記ペースメーカ(10)が、前記VDDモードで働く、請求項1から6までのいずれか一項に記載のペースメーカ。
【請求項8】
患者の心臓(20)用のペースメーカ(10)の動作方法であって、前記ペースメーカが、処理ユニット(120)と、検出器(126)と、ペーシング信号発生器(124)と、を備え、前記処理ユニット、前記検出器、及び前記ペーシング信号発生器が、電気的に相互接続されており、前記患者の活動信号が、前記検出器によって決定され、そして前記処理ユニットに送信され、ペーシング・レートが、前記処理ユニットによって、前記検出器の現在の活動信号に基づいて、及び適応モード又は安定化モードにあるゲイン値に基づいて決定され、ペース制御信号が、前記処理ユニットによって、前記決定されたペーシング・レートに基づいて生成され、そして前記ペーシング信号発生器に送信され、前記適応モードにおいて、前記ゲイン値が、前記特定の患者に適応され、前記処理ユニットが、少なくとも1つの安定性基準が満たされない限り前記適応モードに留まり、また前記処理ユニットが前記少なくとも1つの安定性基準が満たされたことを識別する場合に前記安定化モードに移行し、前記安定化モードにおいて、前記処理ユニットが、前記ペーシング・レートを決定するために、直近に適応されたゲイン値に基づいて決定されたロックされたゲイン値を使用する、動作方法。
【請求項9】
前記ゲイン値が、一次元値又は多次元値である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記安定性基準は、第1の時間期間内に決定された前記適応されたゲイン値の第1の平均値と、第2の時間期間内に決定された前記適応されたゲイン値の第2の平均値との差の絶対値が予め決定された安定性閾値よりも小さい場合、及び/又は、前記ペーシング・レートが予め定義された適応時間期間中に前記適応モードにおいて決定される場合に、満たされる、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の時間期間及び前記第2の時間期間が、直接隣接する、直近に評価された時間期間である、請求項8から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記安定化モードにおいて、前記検出器(126)による前記活動信号の検出が、前記処理ユニットによって中断又は低減され、前記処理ユニット(120)が、前記低減された活動信号から運動信号を決定する、請求項8から11までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記安定化モードから前記適応モードへの移行は、前記処理ユニットがそれぞれの要求を受信する場合、及び/又は予め定義された第3の時間期間が前記安定化モードへの前記移行から経過した場合に、前記処理ユニット(120)によって提供される、請求項8から12までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
処理ユニットによって実行されると、請求項8から13までのいずれか一項に記載の方法のステップを前記処理ユニット(120)に実施させる命令を含むコンピュータ・プログラム製品。
【請求項15】
請求項14に記載のコンピュータ・プログラム製品を記憶するコンピュータ可読データ・キャリア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、患者の心臓用のペースメーカ及びそのようなペースメーカの動作方法、それぞれのコンピュータ・プログラム製品、並びにコンピュータ可読データ・キャリアを対象とする。
【背景技術】
【0002】
患者の心臓用のペースメーカ(又は人工ペースメーカ)は、医療デバイスであり、ペースメーカに接続又は固定された電極によって送達される電気パルスを発生させて、患者の心筋室(すなわち、心房及び/又は心室)を収縮させ、これにより血液を送り出す。そうすることによって、このデバイスは心臓の電気伝導系の機能を代替及び/又は調節する。ペースメーカの1つの目的は、適切な心拍数を維持することであり、これは、心臓の本来のペースメーカの速度が十分でないこと、又は心臓の電気伝導系に障害があることのいずれかによるものである。追加又は代替として、ペースメーカは、心室内の異なる位置を刺激して、心室のそれらの同期を改善するか、又は生命を脅かす不整脈を治療するために除細動機能を提供し得る。最新のペースメーカは、外部からプログラム可能であり、医療従事者(HCP)が個々の患者に最適なペーシング・モードを選択することを可能にする。
【0003】
従来のペースメーカは、患者の心臓の外部にある処理ユニット及び電源と、心臓の筋肉内に埋め込まれる電極と、を備える制御及び発生器デバイスを備える。電極は、リードとデバイスに配置されているヘッダとを介してデバイスに接続されている。ほとんどの場合、デバイスは、左肩又は右肩の領域内の胸の前面に皮膚を通して埋め込まれる。埋め込み型心臓内ペースメーカ(埋め込み型リードレス・ペースメーカ-(ILP:implantable leadless pacemaker)とも呼ばれる)は、患者の心臓の心室(V)又は心房(A)に完全に埋め込まれるよく知られた小型ペースメーカである。ILPは、心臓ペーシングの未来形であると考えられている。従来の又は心臓内ペースメーカの代替又は追加の機能は、心臓又はその周囲の組織に他の電気信号又は電磁信号を提供することと、電気信号又は電磁信号(例えば、電気的脱分極場からの信号)、又は心臓及び/若しくはその周囲の組織の他の生理学的パラメータ、例えば、本来の(すなわち、心臓の自然な)心房収縮若しくは本来の(すなわち、心臓の自然な)心室収縮を検知することと、を含む。サイズが非常に制限されているため、ILPは、小さいバッテリ容量を有する。自己完結型埋め込み型デバイスとして、ILPのサイズは、1cm3と小さく、リードレス・ペースメーカのバッテリ体積及び容量は、従来のペースメーカに比べて大幅に小さくなる(1/10未満)。ILPの寿命が従来のペースメーカと同等(約10年以上)であることを確実にするには、ILPの全てのモジュール/ユニットの電流消費を最低限に保つことが重要である。
【0004】
従来のペースメーカ内又はILP内で使用され得るVDDモードでは、ペースメーカは、心室又は心房の収縮がいつ起こるかを検知することによって、心室ペーシングを本来の心室又は心房のタイミングと同期させる。次に、必要に応じて、心室ペーシングがペーシング・レートに基づいて計算され、活動に基づくレート応答ペーシング・アルゴリズムでは、実際のペーシング・レートは、患者の現在の活動を考慮する。このようなアルゴリズムは、ペースメーカに依存している患者が活動している場合、関連するより高い代謝要件を満たすためにペーシング・レートを増加させる必要があるという発見を実現する。したがって、患者が活動していない場合は、ペーシング・レートを下げる必要がある。
【0005】
運動センサを有する従来のペースメーカの活動に基づくレート応答アルゴリズムでは、スケール係数、つまり、ゲイン値を使用して、運動センサ(患者の活動を検知する)の運動信号から導出される肉体労作信号を目標労作変調型ペーシング・レートに変換する。ゲイン値は患者特有であり、発生した目標レートが各々の個々の患者の代謝要件を確実に満たすように、何日もかけてゆっくりと自動的に調整される。従来のペースメーカでは、自動ゲイン機能が有効化されている場合、デバイスのペーシングが抑制されている場合でも、レート適応アルゴリズムが継続的に実行され、レート適応アルゴリズムのスケール係数が、患者の固有のニーズに合わせて調整される。ペースメーカが肉体労作に基づくレート適応モードで働いていない場合でも、運動センサ及びアルゴリズムの一部は、ゲイン値の更新をサポートするために依然として実行される。
【0006】
上記の方法は、無駄な電流消費を引き起こす。具体的には、非常に厳しいサイズ及び電力消費の要件を有するILPは、レート適応アルゴリズムの継続的な実行が課題となる。運動センサ及びレート適応アルゴリズムの電流消費は、寿命に対する大きな影響を有する。更に、既知の方法は、活動レベルにおけるランダム・ノイズの影響を受けやすい。活動が極端に低い又は高い予期せぬ又は異常な日、つまりランダム・ノイズが発生する日がある場合、自動ゲイン値はそれに応じて調整される。そして翌日には、ゲイン値が再調整されるまで、異常ノイズに対応するゲイン値が、レート適応アルゴリズムに適用されることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、活動に基づくペーシングを提供するが、低電力消費で働くペースメーカの必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題は、請求項1の特徴を含むペースメーカ及び請求項8の特徴を含む動作方法、並びに請求項14の特徴を含むコンピュータ・プログラム製品及び請求項15の特徴を含むコンピュータ可読データ・キャリアによって解決される。
【0009】
具体的には、処理ユニットと、検出器と、ペーシング信号発生器と、を備え、処理ユニット、検出器、及びペーシング信号発生器が、電気的に相互接続されている、患者の心臓用のペースメーカが開示されている。検出器は、患者の活動信号を決定し、その活動信号を処理ユニットに送信又は提供するように構成されている。処理ユニットは、現在受信されている検出器の活動信号、及び適応モード又は安定化モードにおけるゲイン値に基づいて、ペーシング・レートを決定するように構成されており、処理ユニットは、決定されたペーシング・レートに基づいてペース制御信号を生成し、そしてペース制御信号をペーシング信号発生器に送信又は提供するように構成されている。適応モードでは、処理ユニットは、ゲイン値を特定の患者に継続的又は段階的に適応させるように構成されており、処理ユニットは、少なくとも1つの安定性基準が満たされない限り適応モードに留まり、また処理ユニットが少なくとも1つの安定性基準が満たされていることを識別する場合に安定化モードに移行するように構成されている。安定化モードでは、処理ユニットは、ペーシング・レートを決定するために、直近に適応されたゲイン値に基づいて決定されたロックされたゲイン値を使用するように構成されている。
【0010】
処理ユニットは、検出器から受信された信号データ、例えば、経時的に検出される活動信号を処理する。これらの信号から、処理ユニットは、以下で詳細に説明される運動信号を決定し得る。
【0011】
ペースメーカは、従来の心臓ペースメーカ、又は上に示したような一般的な構造を有するILPであり得る。
【0012】
ILP又は従来のペースメーカは、VDDペーシング・モード(すなわち、心房活動及びAV伝導モニタリングに従って心室が刺激されるペーシング・モード)で動作し得る。VDDモードでは、ペースメーカは、心房収縮がいつ起こるかを検知することによって、心室ペーシングを本来の心房タイミングと同期させる。右心室に埋め込まれたILPでは、心房収縮情報を遠距離場信号として検出できるが、右心室だけでなく右心房にもリードがある二腔ペースメーカ(dual chamber pacemaker)よりも信頼性及び精度が低くなる。VDDモードでは、心房ペースがないため、ペースメーカは、DDDペーシング・モード(心房、心室がペーシングされる)で行われ得るように、両方の室でタイミングを制御することができるのではなく、心臓の状態に同期することに完全に依存する。処理ユニットは、例えば、電気信号及び/又は電磁信号、例えば、電気的脱分極場からの信号を検知するように構成され得る検出器によって、心房検知イベント(すなわち、検知された自然な心房収縮)及び/又は心室検知イベント(すなわち、検知された自然な心室収縮)を検出するように構成され得る。
【0013】
本発明に関して、処理ユニットは、概して、命令制御ユニットと、算術及び論理ユニットと、を備える、命令を解釈し実行するペースメーカの機能ユニットと見なされる。処理ユニットは、マイクロプロセッサ、コントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、ディスクリート論理回路、又は任意のそれらの組み合わせを備え得る。更に、処理ユニットは、カウンタ及びクロックを備え得る。カウンタは、クロックのクロック信号をカウントするために使用され得る。カウンタは、心房又は心室イベントが検知されるたびに開始され、心室検知イベントが決定されるか、又は心室ペース信号がペーシング信号発生器によって提供されるまで、クロック信号の数をカウントし得る。処理ユニットによって決定された実際のペーシング・レートは、ペーシング制御信号(例えば、心室ペース制御信号)をペーシング信号発生器に提供するために使用される。ペーシング・レートは、最後に検知された心房若しくは心室イベント、又は最後の心房又は心室ペーシング制御信号を使用して計算され、カウンタによってカウントされたクロック信号を使用し得る。
【0014】
ペーシング制御信号に基づいて、ペーシング信号発生器は、電気ペーシング信号を電極に転送するために電気ペーシング信号を生成し、電極は、信号を電極に隣接する心臓の組織に印加する。
【0015】
ペースメーカは、データ・メモリを備え得、データ・メモリは、任意の揮発性、不揮発性、磁気、又は電気媒体、例えば、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、不揮発性RAM(NVRAM)、電気的消去可能なプログラム可能なROM(EEPROM)、フラッシュ・メモリ、又は任意のその他のメモリ・デバイスを含み得る。
【0016】
検出器は、加速度計、振動センサ、音響センサ(超音波を含む)、並びに/又は任意の他の機械、電気、及び/若しくは磁気センサ(すなわち、運動センサ)を備え、これらのセンサは、時間に依存する患者の活動、例えば、患者が動いているか若しくは動いていないか、例えば、横になっているか、寝ているか、座っているか、速く動いているか、又はゆっくり動いているか(労作を含む)を検出することができる。検出器は、患者の活動信号を収集し、そしてこれらの活動信号を電気信号に変換する。更に、検出器は、アナログ信号をデジタル化するか、又は平滑化し得る。いくつかの前処理ステップも同様に、検出器によって提供され得る。検出器によって生成された時間に依存する活動信号は、直接又は予め定義された時間遅延後に、処理ユニットに送信され得る。更に、検出器は、上に示したように、ECG信号を検出する手段を備え得る。
【0017】
ペーシング信号発生器は、電極を介して心臓の組織に印加されるペーシング信号を生成する。ペーシング信号は、所望の時点で始まり、且つ所望の強度及び長さを有するパルスである。更に、パルスの形状は変化し得る。正しいペーシング信号を生成するために必要なペーシング信号に関する情報は、処理ユニットのペース制御信号によって提供される。
【0018】
ペースメーカは、リモート・コンピュータと通信するための通信ユニット及びバッテリなどの電源などの更なるモジュールを備え得る。通信ユニットは、外部(少なくとも部分的に体外)のリモート・コンピュータと、例えば、一方向又は双方向でメッセージを交換し得る。通信は、電磁波、例えば、無線周波数領域では、Bluetooth、WLAN、ZigBee、NFC、Wibree、若しくはWiMAXを使用して、又は赤外線若しくは光周波数領域ではIrDA若しくは自由空間光通信(FSO)を使用して、或いは有線(電気通信及び/又は光通信)によって、患者の身体及び/又は空気を介してワイヤレスで提供され得る。リモート・コンピュータは、多数の算術演算及び論理演算を含む、実質的な計算を人間の介入を伴わずに実施できる機能ユニット、例えば、パーソナル・モバイル・デバイス(PMD)、デスクトップ・コンピュータ、サーバ・コンピュータ、クラスタ/ウェアハウス・スケール・コンピュータ、又は組み込みシステムなどである。ペースメーカのユニット及び構成要素は、密閉されたハウジング内に収容され得る。
【0019】
一実施例では、ペースメーカは、ペーシング信号発生器によって提供される電気ペーシング信号を印加するための電極を備える。電極は、ペースメーカのヘッダを介してペーシング信号発生器に電気的に接続されている。一実施例では(すなわち、ペースメーカが従来のペースメーカである場合)、電極は、ヘッダにおいてそれぞれのコネクタに取り外し可能に接続され得るリードを備え得る。ILPに関して、1つの電極は、ILPが患者の心臓の組織内、例えば、心室の内部組織内に固定される固定部材の近くの、ILPの遠位端に配置され得る。第2の電極は、ILPの近位端又はILPハウジングの一部に配置され得、例えば、対電極として機能し得る。更に、電極は、電位を拾うことによって本来の心室信号又は本来の心房信号を検出するように適応され得る。したがって、電極はペースメーカの検出器の一部となり得る。
【0020】
本発明によれば、例えば、VDDモードにおいて動作するペースメーカの処理ユニットは、検出器の現在受信されている時間に依存する活動信号、例えば、上に示したように、検出器によって提供される生の加速度計信号及びゲイン値に基づいて、ペーシング・レートを決定するように構成されている。ゲイン値は、検出器の活動信号から導出される運動信号をペーシング・レートに変換するためのスロープとして使用されるスケール係数であり、それによって、ペーシング・レートは、現在検知されている患者の活動に好適であるように適応される。経時的な活動信号の振幅は、まず処理ユニットによって活動閾値と比較される。運動閾値を上回っている活動のみが、ペーシング・レートの計算に使用される。活動が運動閾値を下回っている場合、ペーシング・レートは更新されず、ゲイン値は影響を受けない。次のステップでは、予め決定された時間期間(次の積分時間期間)、例えば、1秒又は1分にわたる閾値を上回っている活動信号の積分値が計算され、その積分値が上に述べた運動信号となる。活動が運動閾値を下回っている場合、それらの信号は積分されず、ペーシング・レートは更新されない。次に、スケールされた活動値が運動信号から導出され、ここで、運動信号は、ゲイン値の第1の成分(スロープ)と乗算され、該当する場合、この積がゲイン値の第2の成分(オフセット)に加算され得る。そのように計算されたスケールされた活動値は、患者の活動に基づくペーシング・レートを取得するために、予め決定された基本ペーシング・レートに加算される。上に示したように、ゲイン値は、2つの成分、すなわち、スロープ値及びオフセット値を含み得る。代替として、ゲイン値は、スロープ値のみ、及び/又は三次元空間の各活動方向に対して1つの値を含み得、それによって、空間の各方向に対してスケールされた活動を別個に計算する。更なる代替として、ゲイン値は、異なる時間期間タイプ、例えば、休息日、労作日、睡眠時間期間、又は活動時間期間に対して決定され得る。スケールされた活動の最終値は、三次元にわたる絶対値である。時間期間のタイプが異なる場合、スケールされた活動は、時間期間の各タイプに対して別個に計算される。次に、決定されたスケールされた活動を使用して、上に示したように、活動に基づくペーシング・レートを決定する。したがって、ゲイン値は、一次元値又は多次元値であり得る。更に、ゲイン値は、各ゲイン値の次元に対して1つの成分(スロープのみ)又は2つの成分(スロープ及びオフセット)を有し得る。
【0021】
適応モード中、ゲイン値は、上記の計算を使用し、且つ以下の説明に基づいて、処理ユニットによって特定の患者に継続的又は段階的に適応される。
【0022】
一実施例では、安定性基準は、第1の時間期間(以下、第1の窓とも呼ばれる)内で決定された適応されたゲイン値の第1の平均値と、第2の時間期間又は次の時間期間(以下、第2の窓とも呼ばれる)内で決定された適応されたゲイン値の第2の平均値との差の絶対値が、予め決定された安定性閾値よりも小さい場合に満たされる。これは、安定性基準が、2つの隣接する窓間のゲイン値の第1の平均値とゲイン値の第2の平均値との間のデルタを評価することを意味する。ここで、一実施例では、第1の時間期間及び第2の時間期間は、直接隣接する、直近に評価された時間期間である。第1の時間期間及び第2の時間期間は、数時間、1日、又は数日であり得、上述した複数の積分時間期間をカバーし得る。第1の時間期間及び第2の時間期間の長さは、同一であり得る。平均値は、それぞれ、第1の窓内又は第2の窓内で決定されるゲイン値の算術平均、幾何平均、又は調和平均又は中央値であり得る。代替又は追加として、安定性基準は、ペーシング・レートが、予め定義された適応時間期間、例えば、60日間にわたって適応モードにおいて更新される場合に満たされ得る。予めプログラムされた又はユーザが適応可能な(例えばプログラマによる)適応時間期間は、ゲイン値の完全な適応を可能にするために十分な長さであり、複数の積分時間期間をカバーし得る。一実施例では、両方の安定性基準が継続的にチェックされ得、両方の基準のうちの一方が充足された場合、処理ユニットによって安定化モードへの移行が提供される。
【0023】
詳細には、従来のペースメーカが埋め込まれた後の初期モードである適応モードにおいて、ゲイン値は、予め定義された初期値に設定される。安全性を考慮し、過度に高いレートでのペーシングを避けるために、ゲインの初期値は最低設定値に近い。レート適応アルゴリズムが適応モードで実行されている場合、ペーシング・レートは、上に示したように、活動信号及び実際のゲイン値を使用して計算される。したがって、適応モードにおいて、目標ペーシング・レート及びゲイン値が同時に適応される。ペーシング・レートの統計が、計算され、予め定義された時間期間ごとに、例えば毎日、ゲイン値を自動的に調整するために使用される。ここで、一実施例では、活動レートが予め定義された最大レート閾値を上回っている場合の持続時間を記録するために、持続時間カウンタが使用される。これは、患者のペーシング・レートが高く、持続時間カウンタの期間中、増加した代謝要件を満たすことができることを意味する。バランスの取れたシナリオでは、持続時間カウンタは、予め定義された範囲内、例えば、毎日30分~60分以内に収まる必要がある。持続時間カウンタが予め定義されたバランスを下回っている場合(ペーシング・レートが最大レート閾値を上回って短すぎる場合)、ゲインが低すぎるため、1つ又は複数の設定ステップを増分する必要がある。一方、持続時間カウンタが予め定義されたバランスを上回っている場合(ペーシング・レートが長時間にわたって最大レート閾値を上回っている場合)、ゲインが高すぎるため、1つ又は複数の設定ステップで減分する必要がある。調整の目的は、ある一定期間にわたるペーシング・レートの分布が、定義されたバランス、つまり、持続時間カウンタの予め定義されたレート・バランスを確実に満たすようにすることである。
【0024】
上に説明した安定性基準に達した場合、すなわち、処理ユニットが平均ゲイン値が安定したことを示した場合、例えば、上に記載したように、処理ユニットは、安定化モードに入り、安定化モードでは、ロックされたゲイン値が、検出器によって提供される活動信号から、ペーシング・レートを決定するために使用される。安定化モードでは、ロックされたゲイン値は、直近に決定された平均ゲイン値(適応モードにおいて計算された)であり得る。安定性モードでは、ゲイン値は変化しない。
【0025】
一実施例では、安定化モードにおいて、処理ユニットは、検出器による活動信号の検出を中断又は低減するように構成されており、処理ユニットは、低減された活動信号から運動信号を決定するように構成されている。例えば、活動信号は検出器によってそれほど頻繁には決定されず、例えば、毎秒分にのみ決定される。更に、活動に基づくアルゴリズムがペースメーカで現在使用されていない場合、検出器による活動信号の検出は中断される。これはプログラマによって設定され得る。
【0026】
一実施例では、処理ユニットは、例えば、処理ユニットが、プログラマによってそれぞれの要求を受信する場合、及び/又は予め定義された第3の時間期間、例えば6か月が、安定化モードに移行してから経過した場合に、安定化モードから適応モードに移行する。適応モードの動作(このモードに戻った後)は、ペースメーカの埋め込み後の適応モードの最初の使用と同様である。ただし、この場合、適応モードの初期ゲイン値として、ロックされたゲイン値が使用される。
【0027】
上記の問題は、更に心臓ペースメーカの動作方法によって解決され、ペースメーカは、処理ユニットと、検出器と、ペーシング信号発生器と、を備え、処理ユニット、検出器、及びペーシング信号発生器は、電気的に相互接続されており、患者の活動信号は、検出器によって決定され、そして処理ユニットに送信され、ペーシング・レートは、処理ユニットによって、検出器の現在の活動信号に基づいて、及び適応モード又は安定化モードにあるゲイン値に基づいて決定され、ペース制御信号は、処理ユニットによって、決定されたペーシング・レートに基づいて生成され、そしてペーシング信号発生器に送信され、適応モードにおいて、ゲイン値は、特定の患者に継続的又は段階的に適応され、処理ユニットは、少なくとも1つの安定性基準が満たされない限り適応モードに留まり、また処理ユニットが少なくとも1つの安定性基準が満たされたことを識別する場合に安定化モードに移行し、安定化モードにおいて、処理ユニットは、ペーシング・レートを決定するために、直近に適応されたゲイン値に基づいて決定されたロックされたゲイン値を使用する。
【0028】
上に示したように、ゲイン値は、一次元値又は多次元値であり得、1つの成分又は2つの成分を有し得る。
【0029】
動作方法の一実施例では、安定性基準は、第1の時間期間内に決定された適応されたゲイン値の第1の平均値と第2の時間期間内に決定された適応されたゲイン値の第2の平均値との差の絶対値が、予め決定された安定性閾値よりも小さい場合に満たされ、第1の時間期間及び第2の時間期間は、直接隣接する、直近に評価された時間期間であり得る。
【0030】
一実施例では、安定化モードにおいて、検出器による活動信号の検出は、処理ユニットによって中断又は低減され、処理ユニットは、低減された活動信号から、上に示したような運動信号を決定する。
【0031】
一実施例では、上に記載したように、安定化モードから適応モードへの移行は、処理ユニットがそれぞれの要求を受信する場合、及び/又は予め定義された第3の時間期間、例えば6か月が、安定化モードへの移行から経過した場合に、処理ユニットによって提供される。
【0032】
動作方法の上記の実施例は、上記のペースメーカと同じ利点を有する。上に示したペースメーカの実施例は、同様の動作方法で実現され得る。この点については、ペースメーカに関する上の説明を参照されたい。
【0033】
上記の方法は、例えば、実行されると、上記の方法のステップを処理ユニット(プロセッサ)に実施させる(ペースメーカによって、具体的にはそのプロセッサにおいて実行される)命令を含むコンピュータ・プログラムとして実現され、このプログラムは、コンピュータハードウェアが計算機能若しくは制御機能を実施することを可能にする、上記及び下記に指定されるコンピュータ命令及びデータ定義の組み合わせであるか、或いはこのプログラムは、特定のプログラミング言語の規則に適合し、上記及び下記に指定される機能、タスク、若しくは問題解決に必要な宣言及びステートメント又は命令から構成される構文ユニットである。
【0034】
更に、処理ユニットによって実行されると、上に定義した方法のステップを処理ユニットに実施させる命令を含む、コンピュータ・プログラム製品が開示される。したがって、そのようなコンピュータ・プログラム製品を記憶するコンピュータ可読データ・キャリアが開示される。
【0035】
本開示では、厳しい電流消費要件を満たし、なお且つゲイン値の自動適応をサポートするために、ゲイン値の自動ロック方法が提案される。通常、適応モードにおいて、ゲイン値は、適応アルゴリズムが十分に長い期間実行された後に安定化されることになる。この期間の後に活動レベルに大きな変化がない限り、ゲイン値は、小さい変動で安定したままになる。適応されたゲイン値を安定値にロックする方法が提案される。こうすることによって、検出器及び適応アルゴリズムをバックグラウンドで継続的に実行する必要がなくなり、これによりペースメーカの寿命を延ばすことができる。
【0036】
次に、添付の概略図を参照して本発明を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】患者の心臓の断面内のペースメーカの第1の実施例を示す。
【
図2】
図1に示されるペースメーカの機能ブロック図を描く。
【
図3】本発明の動作方法の一実施例のフローチャートを示す。
【
図4】安定性基準に達する前及び後のゲイン値(適応モードにおける)の変動性を示す図を描く。
【
図5】安定性基準に達する前及び後のゲイン値(適応モードにおける)の変動性を示す図を描く。
【
図6】安定性基準に達する前及び後のゲイン値(適応モードにおける)の変動性を示す図を描く。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下では、本発明の実施例は、ILPタイプのペースメーカを指す。しかしながら、本発明は、従来のペースメーカにおいても同様に実現することができる。
図1は、患者30の心臓20内に埋め込まれた例示的なリードレス心室ペースメーカ(ILP)10を示している。ILP10は、心臓20の右心室21内に埋め込まれ、VDDモードにおいてこの心室をペーシングし、本来の心室脱分極及び心房(例えば、右心房22)の脱分極を検知し、検出された心室脱分極に応答して心室ペーシングを抑制するように構成され得る。プログラマ(図示せず)が、ILP10をプログラムし、ILP10からデータを取り出すために使用され得る。
【0039】
図2は、心室21(
図1)内に埋め込むように構成されたILP10の機能ブロック図を示している。従来のペースメーカの場合、ユニットは、電極がリードを介して接続される制御及び発生器デバイス内に格納されている。ILP10は、クロック及びクロック信号用の少なくとも1つのカウンタを備えた処理ユニット120と、データ・メモリ122と、ペーシング信号発生器124と、検出器126と、通信ユニット128と、電源132と、を備える。電源132は、バッテリ、例えば、充電式又は非充電式バッテリを含み得る。電源は、ILP10の全てのユニット及び構成要素、具体的には、上に述べた全てのユニットに電気エネルギーを提供し、したがって、これらのユニット及び構成要素に電気的に接続されている。ILP10に含まれるユニットは、それらのそれぞれの機能を表している。類似又は同一のユニット及び機能もILP10に含まれることがある。本開示のユニットは、本明細書のユニットに帰属する機能を生成することができるアナログ及び/又はデジタル回路を実装する任意の個別及び/又は集積電子回路構成要素を含み得る。例えば、ユニットは、アナログ回路、例えば、増幅回路、フィルタリング回路、及び/又は他の信号調整回路を含み得る。ユニットは、デジタル回路、例えば、組み合わせ論理回路又は順序論理回路、メモリ・デバイスなどを含み得る。データ・メモリ122は、上で述べた任意の揮発性、不揮発性、磁気、又は電気媒体も含み得る。更に、処理ユニット120は、1つ又は複数の処理回路によって実行されると、本明細書のこれらのユニットに帰属する様々な機能をユニットに実施させる命令を含み得る。本明細書のユニットに帰属する機能は、1つ又は複数のプロセッサ、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は任意のそれらの組み合わせとして実現され得る。異なる機能のユニットとしての描画は、異なる機能の態様を強調することを意図しており、そのようなユニットが別個のハードウェア又はソフトウェア構成要素によって実現されなければならないことを必ずしも意味するものではない。むしろ、1つ又は複数のユニットに関連付けられた機能は、別個のハードウェア又はソフトウェア構成要素によって実施され得るか、又は共通若しくは別個のハードウェア又はソフトウェア構成要素内に統合され得る。データ・メモリ122は、処理ユニット120によって実行されると、本明細書において処理ユニット120に帰属する様々な機能を処理ユニット120に実施させるコンピュータ可読命令を含み得る。更に、データ・メモリ122は、これらの機能のためのパラメータ、例えば、ペーシング信号パラメータを記憶し得る。例えば、データ・メモリ122は、予め定義されたプログラム可能なAV遅延を記憶し得る。ペーシング命令及びペーシング信号パラメータは、通信ユニット128を使用してプログラマによって更新され得る。通信ユニット128は、アンテナ又はトランシーバを備え得る。
【0040】
処理ユニット120は、ペーシング信号発生器124及び検出器126と通信し、それによって信号を送信し得る。ペーシング信号発生器124及び検出器126は、ILP10の電極111、112に電気的に結合されている。検出器126は、心臓20の電気活動を監視するために、電極111、112からの信号を監視するように構成されている。更に、検出器126は、加速度計、音響センサ、及び/又は圧力センサを含み得る運動センサを備える。ペーシング信号発生器124は、電極111、112を介して、電気刺激信号を心室21に送達するように構成されている。
【0041】
ILP10は、ハウジングと、固定用尖叉と、電極111、112と、を含み得る。ハウジングは、いくつかの実例では、錠剤形の円筒形の形状因子を有し得る。固定用尖叉は、ILP10を心臓20に接続(例えば、係留)するように構成されている。固定用尖叉は、ニチノールなどの形状記憶材料から製造され得る。いくつかの実例では、固定用尖叉は、心臓20の室のうちの1つ内でILP10を心臓20に接続し得る。例えば、
図1に関して本明細書で図示及び説明するように、固定用尖叉は、ILP10を右心室21内の心臓20に係留するように構成され得る。ILP10は、ILP10を右心室の心臓組織に係留するように構成される複数の固定用尖叉を含むが、本開示によるペースメーカは、他のタイプの固定機構を使用して、患者の心臓20の他の室の心臓組織に固定され得ることが企図される。
【0042】
通信ユニット128は、ILP10がプログラマ又は他の外部患者モニタなどの他の電子デバイスと通信できるようにし得る。いくつかの実例では、ハウジングはワイヤレス通信用のアンテナを収容し得る。ハウジングは、電源132も含み得る。
【0043】
ILP10は、2つの電極111、112を含み得るが、他の実例ではペースメーカに2つよりも多い電極が含まれることがある。電極111、112は、心房によって発生させられるP波及び心室によって発生させられるQRS群など、心臓20によって発生させられる様々な電気信号を検出することができるのに十分な距離だけ離間され得る。ハウジングは、ILP10の電子構成要素を収容する。電子構成要素は、上に記載したILP10に帰属する機能を生成することができるアナログ及び/又はデジタル回路を実装する任意の個別及び/又は集積電子回路構成要素を含み得る。
【0044】
処理ユニット120は、ペーシング信号発生器124を制御して、電気刺激を生成し、電極111、112を介して心室21に送達し得る。電気刺激は、ペーシング・パルスを含み得る。処理ユニット120は、ペーシング信号発生器124を制御して、データ・メモリ122に記憶され得るペーシング・パラメータを含む1つ又は複数の治療プログラムに従って、電気刺激治療を送達し得る。
【0045】
検出器126は、本来の心室信号及び/又は本来の心房信号などの本来の心臓信号を含む電気信号(例えば、電気的脱分極信号)を心臓から取得する回路を含み得る。更に、検出器126は、経時的に患者30の活動信号を決定するための運動センサとしての加速度計を備える。検出器126は、取得した電気信号をフィルタリングし、増幅し、デジタル化して、生のデジタルデータを生成し得る。
【0046】
処理ユニット120は、検出器126によって生成された時間依存デジタル化データ、具体的には、検出器126によって提供されるデジタル化活動信号を受信し得る。活動信号から、処理ユニット120は、ILP10がプログラマによって設定され得る活動に基づくレート応答ペーシング・モードにある場合、ペーシング・レートを決定する。活動に基づくレート応答ペーシング・モードでは、処理ユニット120は、2つの異なるモード、すなわち適応モード及び安定化モードにおいて働き得る。これについて、
図3に示すフローチャートを参照して以下に説明する。
【0047】
処理ユニット120は、検出器126から受信された生の加速度計信号(活動信号)を評価し得、ILP10が埋め込まれた後、ゲイン値を最低設定に近い、データ・メモリ122に記憶された予め定義された初期値に設定するように構成されている(
図3のステップ201を参照)。処理ユニット120は、最初は適応モードにある。埋め込み後、適応モードのゲイン値適応アルゴリズムが実行され(
図3のステップ202を参照)、そこでペーシング・レートが計算され、ゲイン値(成分のスロープ及び(該当する場合)オフセットを伴う)が決定され、上に示したように適応される。
【0048】
提案された適応モードでは、上に説明したペーシング・レート及びゲイン値の適応アルゴリズムが実行されているとき、ゲイン値の平均値がユーザ定義の(又はプログラム可能な)窓サイズから計算され、追跡され(
図3のステップ203を参照)、すなわち平均値(例えば、算術平均値)が、予め定義された時間期間、例えば10日間のゲイン値から決定される。次に、隣接する窓における平均化されたゲイン値間のデルタが、例えば、10日間の2つの隣接する時間期間に対して計算され(
図3のステップ204を参照)、予め定義された安定性閾値(データ・メモリ122に記憶されている。
図3のステップ205を参照)と比較される。デルタが安定性閾値よりも小さい場合、決定されたゲイン値は、ほぼ安定化されており、且つ小さい変動内でのみ変化する。この場合、ゲイン値は安定値(
図3のステップ206参照)、例えば、直近の窓内で決定された平均ゲイン値にロックされ、平均ゲイン値は、患者30の活動レベルに対してほぼ適切なゲイン値であると考えられる。このロックされたゲイン値は、データ・メモリ122に記憶され、レート/ゲイン適応アルゴリズムは、それ以上バックグラウンドで実行する必要がなくなる。最終ステップ(ステップ207)に到達する。ペースメーカがレート適応ペーシング・モードで働くようにプログラムされている場合、ロックされたゲイン値は、上に示したように決定された運動信号をペーシング・レートに変換するためのスケール係数、及び該当する場合にはオフセット値として安定化モードで使用される。ゲイン値の安定化を決定するために平均ゲイン値間のデルタを使用することに加えて、
図3に更に描かれているように、このアルゴリズムは、ゲイン値が安定段階に確実に到達するように(
図3のステップ208を参照)、予め定義された適応時間期間(ユーザ定義及び/又はプログラム可能)に実行され、その後、ゲイン値を安定化されたゲイン値にロックすることもできる(
図3のステップ206を参照)。次に、処理ユニット120は、安定化モードに移行する。
【0049】
デルタが安定性閾値以上である場合(
図3のステップ205を参照)、
図3のステップ204などにおいて、次の隣接する窓の平均のデルタ値が計算される。
【0050】
更に、ロックされたゲイン値の安定性は、定期的な間隔、例えば6か月ごと、又は患者の要求ごとにチェック及び更新され得る。ロックされたゲイン値の更新は、ゲイン値の初期適応及びロックと同様である。唯一の違いは、更新手順では、初期ゲイン値が初期ゲイン値ではなく、以前にロックされた値であることである。これは、アルゴリズムが
図3のステップ202から再開されることを意味し、ここで、初期ゲイン値は、以前にロックされたゲイン値である。タイマ、臨床医の手動設定、ペーシング・レートが高心拍数又は低心拍数の範囲内に収まっている時間の期間の満了、代謝、行動、又は投薬傾向の変化の検出、及びその他の臨床的に関連する信号を含む、様々なトリガーがゲイン値のロックを解除することを誘発し得る。
【0051】
処理ユニット120は、上に説明したように、検出器126から受信された活動信号に基づいて、実際のゲイン値を使用して(適応モードにおいて)、又はロックされたゲイン値を使用して(安定化モードにおいて)計算されたペーシング・レートに基づいて、活動に基づくレート応答ペーシング・アルゴリズムにおいて、例えば心室ペーシングのためのペーシング制御信号を継続的に決定する。ペーシング制御信号は、ペーシング信号発生器124に送信され、ペーシング信号発生器124は、対応する電気ペーシング・パルスを生成し、電気ペーシング・パルスは、次に、電極111、112によって患者の心臓20、例えば右心室21に印加される。
【0052】
ゲイン値は、安定化モードにロックされ、ILP10の電流バジェットを満たすようにレート適応をオフにすることができる。
図4は、埋め込み後の患者の経時的なゲイン値(スロープ成分)の実例を示している。更に、
図5は、2つの隣接する窓間の平均ゲイン値のデルタを示している。
図4から、ゲイン値が、適応モードにおいて初期の予め定義された値から、ある一定期間増加し、その後、小さい変動で安定したままであることが導出され得る。これは、埋め込み型ペースメーカの適応されたゲイン値の典型的な傾向を表している。この実例では、ゲイン設定は、およそ12.5%のステップ・サイズを有する。
図5から、ゲイン値の適応期間中(すなわち適応モード中)、平均ゲイン値は、25%を超えて変化する(2ステップ・サイズ)ことが導出され得る。一方、ゲイン値が安定期間に入ると、隣接する窓の平均ゲイン値のデルタは、ほぼ12.5%(1ステップ・サイズ)以内になる。したがって、平均ゲイン値は、ゲイン値の安定化を決定するための優れたパラメータである。次に、ゲイン値が安定化された後、ゲイン値をロックしてデバイスのレジスタに記憶することができ(すなわち、処理ユニット120が安定化モードに移行する)、一方、レート適応アルゴリズム及び運動センサは、ゲイン値の更新をサポートするためにバックグラウンドで実行する必要がない。安定化モードへの移行は、
図4及び
図5には示されていない。
図4及び
図5では、時間窓が長方形210で表されている。
【0053】
ロックされたゲイン値が患者の活動レベルに対応する適切なゲイン値を確実に表現できるように、VVIR従来型ペースメーカからのデータを使用して、安定化モードへの移行後のゲイン値の変動性を分析した。その実例を
図6に示す。変動性は、ロックされたゲインの値と適応モードからのゲインの期待値との差によって計算した。変動性は、ロックされたゲインを評価するために使用され得、適応モードが実行され続ける場合に実際のゲイン値を表し得る。したがって、ロックされたゲインは、適応モードからのゲインの期待値と比較される。
図6は、ロックされたゲイン値に対してゲイン値が変化する場合の数と変化間隔とを示している。この実例では、ゲイン値設定のステップ・サイズは12.5%であることに注意されたい。したがって、ほとんどの患者において、ロック点(つまり、適応モードから安定化モードへの移行)の後、継続的に実行されているレート適応から取得されたゲイン値は、ロックされたゲイン値と1ステップのみ異なっている。したがって、提案された方法を使用すると、ロックされたゲイン値は、真に患者の活動レベルに対応する適切なゲイン値を表すことができる。
【0054】
上に記載した本発明のペースメーカ及び動作方法は、以下の一般的な特徴によって更に説明され得る。
・平均ゲインが安定性基準を満たすまで、すなわち、デルタが十分に小さくなるまで、及び/又はアルゴリズムがある一定期間に実行されるまで、適応モードにおいて平均ゲインを追跡すること。
・適応モードにおいて計算された隣接する窓の平均ゲイン値間のデルタは、ゲイン値の安定化を示す。
・ゲイン値が安定化された後、処理ユニット120は、安定化モードに移行し、ゲイン値は、最後の窓の平均ゲイン値にロックされる。このゲイン値は、ロックされたゲイン値とも呼ばれる。
・安定化モードにおいて、ペースメーカがレート適応ペーシング・モードにないとき、検出器126(例えば、加速器)の運動センサ及びレート適応アルゴリズムはオフになり、電流消費が低減され、ILP又は従来のペースメーカの寿命が向上する。ペースメーカがレート適応ペーシング・モードにあるとき、ペーシング・レートを計算するために、ロックされたゲイン値が使用される。
・安定化されたゲイン値は、要求ごとに、又はスケジュールされた経過観察時に更新され得る。
・臨床的な経過観察又はタイマ、その他の臨床的に関連するイベントによっても、ペーサが適応モードに戻り、更なる適応及び新しい安定化されたゲイン値の決定が可能になり得る。
・多次元のゲイン値、例えば、典型的な休息日及び/若しくは典型的な労作日、並びに/又は典型的な睡眠期間及び典型的な活動期間に対して、1つのゲイン値にロックすることも可能である。患者の選択により、レート適応アルゴリズムをサポートするために、異なるロックされたゲイン値が使用され得る。
【0055】
上に記載したペースメーカ及び動作方法により、以下のような利点が実現する。
・ペースメーカは電流消費を低減し、リードレス・ペーサの電流バジェットを満たし、寿命を延ばす。
・ロックされたゲイン値は、活動レベルのランダム・ノイズの影響を受けにくい堅牢なゲイン値であることが証明されている。
・ゲイン値を平均化するための時間窓をプログラムすることによって、ロック戦略は柔軟になり、異なる活動パターンを有する患者に対して、最も適切なゲイン値にロックされる。
・上記の方法は簡単にカスタマイズできる。例えば、多次元ゲイン値は、上に示したようにロックされ得る。更に、2つの成分(スロープ及びオフセット)を有するゲイン値もロックされ得る。患者の選択により、レート適応アルゴリズムをサポートするために、異なるロックされた値が使用され得る。
・本発明の動作方法は実装が簡単である。
【国際調査報告】