(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-13
(54)【発明の名称】固体電解質材料、その製造プロセスおよび使用
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20241106BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20241106BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241106BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20241106BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20241106BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241106BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241106BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C01B25/45 H
C01B25/45 T
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/54
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522505
(86)(22)【出願日】2022-10-28
(85)【翻訳文提出日】2024-06-12
(86)【国際出願番号】 EP2022080157
(87)【国際公開番号】W WO2023078790
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド アルフ
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ アントニ
(72)【発明者】
【氏名】シルビア ブランク シム
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ ダニ
(72)【発明者】
【氏名】レジナ フカス ウィンクラー
(72)【発明者】
【氏名】エリザベス ゴルマン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ハグ
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ハーイング
(72)【発明者】
【氏名】サブリナ ジュレツカ
(72)【発明者】
【氏名】ヒョング クリンク トラン
(72)【発明者】
【氏名】テレサ カステル
(72)【発明者】
【氏名】サビネ クズニク
(72)【発明者】
【氏名】フランク ロッフラー
(72)【発明者】
【氏名】ヘイコ メンネリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】アン マートリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ディルデュ シャファー
(72)【発明者】
【氏名】フランツ シュミッド
(72)【発明者】
【氏名】タンジャ セイヅ
(72)【発明者】
【氏名】トビアス スタッドミューラー
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ステナー
(72)【発明者】
【氏名】シルケ サファー
(72)【発明者】
【氏名】高田 令
(72)【発明者】
【氏名】イカロ イヨブ テクル
(72)【発明者】
【氏名】アルミン ウィエガンド
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA15
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA26
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ06
5H029AM12
5H031EE03
5H031RR02
5H050AA12
5H050DA13
5H050EA01
(57)【要約】
リン酸チタンリチウム系固体電解質材料の製造プロセスが開示され、プロセスは、(i)Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液を提供するステップであって、Mが、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される、ステップと、(ii)溶液からエアロゾルを生成するステップと、(iii)生成されたエアロゾルを火炎熱分解に供して、それから粒状前駆体材料を形成するステップと、(iv)粒状前駆体材料を電界支援焼結に供して、リン酸チタンリチウム系固体電解質材料を形成するステップと、を含む。さらに、前記製造プロセスによって得ることができる固体電解質材料およびそれを含む物品が開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸チタンリチウム系固体電解質材料の製造プロセスであって、
i)Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液を提供することであって、Mが、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される、提供することと、
ii)前記溶液からエアロゾルを生成することと、
iii)前記生成されたエアロゾルを火炎熱分解に供して、それから粒状前駆体材料を形成することと、
iv)前記粒状前駆体材料を電界支援焼結に供して、前記リン酸チタンリチウム系固体電解質材料を形成することと、
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記Li源材料、前記Ti源材料および前記金属Mの源材料が各々個別に、前記それぞれの金属の有機塩、有機錯体もしくは有機金属化合物もしくはそれらの組合せから選択され、かつ/または前記P源材料が、リンのオキソ酸のエステルもしくは塩、好ましくは有機リン酸塩を含み、かつ/または前記Si源材料が、ケイ酸塩および/もしくは有機ケイ素化合物を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記溶液が、(0.5~2):(1.5~2.5):3、好ましくは(1.3~2):(1.8~2.2):3の当量比Li:(Ti、M):(P、Si)に相当する量で、前記Li源材料、Ti源材料、P源材料ならびに任意選択で、前記Si源材料および/または金属Mの源材料を含む、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記溶液中のM:Tiの当量比が、0~1:2の範囲内であり、かつ/または前記溶液中のSi:Pの当量比が、0~1:2である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記溶液が、少なくとも1つの有機溶媒を含み、前記有機溶媒が、好ましくはアルコール、ケトン、アルデヒド、エステル、カルボン酸、炭化水素またはそれらの組合せを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記溶液からエアロゾルを生成することが、霧化ガスを使用してノズルによって前記溶液を噴霧することを含み、前記霧化ガスが、好ましくは酸素、窒素、空気またはそれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記エアロゾルを火炎熱分解に供することが、前記エアロゾルを火炎と接触させることを含み、前記火炎が、好ましくは可燃性ガスを酸化剤と燃焼させることによって生成され、より好ましくは前記可燃性ガスが水素を含み、前記酸化剤が空気を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記形成された粒状前駆体材料が、式Li
n・(1+x+y+z)M
n’・xTi
n’’・(2-x)(PO
4)
(n’’’)・(3-y)(SiO
4)
(n’’’’)・y(式中、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される金属であり、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.8であり、n、n’、n’’、n’’n’’’およびn’’’’は、各々個別に0.8~1.2の範囲の数である)による組成を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記形成された粒状前駆体材料が、Horiba製のLA-950レーザ粒径分析計を使用したレーザ回折によって測定される場合、200nm未満、好ましくは100nm未満のD
50粒径、および/または1.5未満、好ましくは1.0未満のスパン(D
90-D
10)/D
50を有する体積に基づく粒径分布を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記電界支援焼結が、一対の電極間のモールド内に前記粒状前駆体材料を提供することと、前記粒状前駆体材料に圧力を加えることと、前記モールドおよび/または前記粒状前駆体材料に前記電極によって電流を流すことと、を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記電界支援焼結が、前記粒状前駆体材料を700℃以上、例えば800℃以上、もしくは900℃以上の焼結温度に加熱すること、および/または20MPa以上、例えば30MPa以上、もしくは40MPa以上の焼結圧力を加えることを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記粒状前駆体材料が、10K/分以上、例えば25K/分以上、もしくは50K/分以上の速度で前記焼結温度に加熱され、かつ/または前記圧力が、0.5MPa/分以上、例えば1MPa/分以上、もしくは3MPa/分以上の速度で前記焼結圧力に増加され、前記温度および圧力が、好ましくは同時に増加される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記電界支援焼結が、前記粒状前駆体材料時間を前記焼結温度および焼結圧力で、10分以下、例えば8分以下、または6分以下の保持時間の間維持することを含む、請求項11または12に記載のプロセス。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセスにより得ることができる、固体電解質材料。
【請求項15】
式Li
n・(1+x+y+z)M
n’・xTi
n’’・(2-x)(PO
4)
(n’’’)・(3-y)(SiO
4)
(n’’’’)・y(式中、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される金属であり、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.8であり、n、n’、n’’、n’’n’’’およびn’’’’は、各々個別に、0.8~1.2の範囲の数である)による組成を有する、請求項14に記載の固体電解質材料。
【請求項16】
式Li
(1+x+y)M
xTi
(2-x)(PO
4)
3-y(SiO
4)
y(式中、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される金属であり、0≦x≦1および0≦y≦1である)で表される組成を有する1つ以上の相を含み、前記固体電解質材料が、好ましくは、前記固体電解質材料の総重量に基づいて、少なくとも70重量%、より好ましくは少なくとも80重量%または少なくとも90重量%の総量で、これらの相を含む、請求項14または15に記載の固体電解質材料。
【請求項17】
xが、0.2~0.7の範囲、例えば0.3~0.6であり、かつ/またはyが、0~0.8の範囲、例えば0~0.6である、請求項15または16に記載の固体電解質材料。
【請求項18】
yが0である、請求項17に記載の固体電解質材料。
【請求項19】
MがAlである、請求項15から18のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項20】
前記固体電解質材料が、200GPa以上、例えば300GPa以上、400GPa以上、500GPa以上、600GPa以上、700GPa以上、750GPa以上、800GPa以上の弾性率を有し、かつ/または前記固体電解質材料が、1・10
-5S/cm以上、好ましくは5・10
-5S/cm以上の比イオン伝導率を有する、請求項14から19のいずれか一項に記載の固体電解質材料。
【請求項21】
請求項13から20のいずれか一項に記載の固体電解質材料を含む、物品。
【請求項22】
前記物品が、固体電解質、電極、セパレータまたは膜、例えば、使用済みリチウム含有電池からのリチウムの分離およびリサイクルのためのプロセスで使用するための膜である、請求項21に記載の物品。
【請求項23】
請求項13から20のいずれか一項に記載の固体電解質材料を含む固体電解質、電極および/またはセパレータを備える、特にリチウム電池などのエネルギー貯蔵装置。
【請求項24】
前記粒状前駆体材料が、前記粒状前駆体材料を電界支援焼結に供する前に焼成処理に供される、請求項1から12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項25】
焼成が、630℃~770℃の温度で実行される、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
焼成が、4.5時間~5時間の間実行される、請求項24または25に記載のプロセス。
【請求項27】
焼成が、専用の焼成設備で実行される、請求項24、25または26に記載のプロセス。
【請求項28】
焼成された粒状前駆体材料が、前記粒状前駆体材料を電界支援焼結に供する前に解凝集ステップに供される、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
Mが、AlとGeとの組合せである、請求項1から28のいずれか一項に記載の主題。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質材料およびその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、リン酸チタンリチウム系固体電解質材料の製造プロセスであって、火炎熱分解により粒状前駆体材料を製造し、後続の電界支援焼結ステップに供することを伴う、プロセスを対象にする。本発明はさらに、そのような形成された固体電解質材料を含む物品、および例えば使用済みリチウム電池からリチウムを分離するためのプロセスにおける電解膜としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムは、今日の充電式エネルギー貯蔵装置において、電気自動車、携帯機器、ならびに太陽光および風力エネルギーのような再生可能資源からのエネルギーを貯蔵するための間欠的エネルギー貯蔵施設などの多くの用途で重要な役割を果たす。リチウム系エネルギー貯蔵装置の使用が非常に増加しており、リチウム資源が限られていることを考慮すると、そのような装置のその使用終了時のリサイクルは、商業的および環境的の両方で興味深い。使用済み電池材料からリチウムを分離するためのプロセスは、例えば、使用済み電池を破砕することから得られた材料を、浸出処理に供することを含むことができ、これはその中に含有されるとりわけリチウムのような金属を溶解する。後続のステップにおいて、そのようなリチウムは、電解プロセスを介して混合物から回収することができる。電解プロセスは、電流駆動酸化還元反応に基づき、金属含有溶液と接触し、典型的には固体電解質材料の膜によって分離されている2つの電極、すなわちアノードおよびカソードに適切な電圧差を供給することによって行われる。固体電解質材料は、リチウムイオンなどのイオンに対して選択伝導性を呈し、したがってアノードおよびカソードの半電池間のイオン交換を容易にする。産業用電解プロセスは、用いられた電解膜に対して、電気的特性および信頼性、ならびに機械的破壊に対する耐性などの高い要件を課す。そのような材料が全固体リチウム系エネルギー貯蔵装置のための電極材料または電解質として用いられる場合、同様の要求の高い特徴も必要とされる。したがって、リチウムイオンの高い伝導性と堅牢性とを一体化し、機械的破壊に対する高い信頼性を有する固体電解質材料を提供することが求められている。
【0003】
電解膜または固体電解質の製作に利用される典型的な材料は、例えばリン酸チタンリチウム(略してLTP)である。LTPは、いわゆるそのNASICON型結晶構造を有することから、リチウムイオンの優れた伝導性を有する材料として知られている。NASICONは、ナトリウム(「Na」超イオン伝導体の頭字語であり、典型的には、化学式Na1+xZr2SixP3-xO12を有し、xが0<x<3である固体の群を指す。より広い意味では、Na、Zrおよび/またはSiがLiによるNaなどの等価元素で置き換えられている同様の化合物にも使用される。結晶構造内のナトリウムまたはリチウムイオンの移動度のために、NASICON型化合物は、室温で10-5~10-3S/cm程度のイオン伝導率によって特徴付られる。それにより、ナトリウムまたはリチウムイオンは、共通の角を共有するZrO6/TiO6八面体およびSiO4/PO4四面体からなる共有結合ネットワーク内の2種類の間隙位置に位置する。これらの2つの格子間サイト間を移動するとき、ナトリウムまたはリチウムイオンは、ボトルネックを通過しなければならず、そのサイズは、それに応じてNASICON型材料のイオン伝導率に影響を及ぼす。NASICON型材料の化学組成を変更することにより、ボトルネックのサイズ変化させることができる。したがって、イオン伝導率は、とりわけ材料の特定の化学組成に依存し、他の元素のドーピングによってプラスの影響を受ける可能性がある。例えば、LTP材料では、Ti4+イオンをAl3+、V3+またはSc3+などのM3+カチオンで部分的に置換すると正電荷欠陥が生じる可能性があり、これは追加のNa+/Li+イオンによって補償することができ、したがって電荷キャリアの数の拡大のためにイオン伝導率が増加することが知られている。代替的または追加的に、PO4のSiO4基による置換も、得られるNASICON型電解質材料のイオン伝導率を潜在的に増加させる可能性がある。
【0004】
LTP固体電解質を製造するための異なる方法が文献で知られており、これらは典型的には、続いて焼結プロセスに供される粒状前駆体材料の調製を伴う。
【0005】
粒状前駆体材料を調製するために頻繁に適用される方法の1つは、例えば欧州特許第3 189 008号明細書に記載されているようなゾル-ゲル合成である。しかしながら、このようにして得られたゲルは、焼結プロセスの前に広範囲に乾燥および粉砕されなければならず、これは費用および時間の両方がかかる。さらに、欧州特許第3 189 008号明細書による方法は、得られたゲルに含まれる有機化合物を除去するために600℃での予備焼結ステップを必要とし、これは焼結ステップにかけられた粒状前駆体材料の焼結能力を確保するために必要である。
【0006】
この点に関して従来から適用されている別の方法は、例えば、リン酸アルミニウムチタン酸リチウム(略してLATP)について、WaetzigらによってJournal of Alloys and Compounds 818(2020)153237に記載されているように、個々の成分を含む溶融物の急冷である。しかしながら、この方法は、焼結フリットから焼結性粒状前駆体材料を得るために、一方では、付加物材料を溶融するための大量のエネルギーを必要とし、他方では、1つ以上の粉砕ステップを必要とする。
【0007】
従来の焼結プロセスは、典型的には、例えばYiらによってJournal of Power Sources 269(2014)577-588に記載されているように、粒状前駆体材料を含む懸濁液からキャストフィルムを調製し、それを炉内で焼結温度に供することを伴う。したがって、炉で典型的に達成される加熱速度は、数度/分程度であり、これは焼結微細構造内にかなり大きな粒度を提供することが知られている。大きな粒度は、典型的には、得られるセラミック材料の機械的破壊の可能性を増加させる可能性があるマイクロクラックの形成に寄与する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来技術の上述の欠点および制限の少なくともいくつかを克服または緩和するリン酸チタンリチウム系固体電解質の製造方法を提供することである。特に、乾燥、粉砕または予備焼結のようなステップを必要とせず、例えば電気分解およびエネルギー貯蔵用途のために、効率的かつ経済的な方法で好ましい機械的特性およびイオン伝導特性の両方を呈する固体電解質をもたらすプロセスを提供することが目的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Waetzig et al.,Journal of Alloys and Compounds 818(2020)153237
【非特許文献2】Yi et al.,Journal of Power Sources 269(2014)577-588
【発明の概要】
【0011】
本明細書に記載されるこの目的および追加の利点は、添付の独立請求項1に定義されるプロセスを提供することによって予想外に達成された。
【0012】
すなわち、本発明は、リン酸チタンリチウム系固体電解質材料の製造プロセスであって、
i)Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液を提供することであって、Mが、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される、提供することと、
ii)溶液からエアロゾルを生成することと、
iii)生成されたエアロゾルを火炎熱分解に供して、それから粒状前駆体材料を形成することと、
iv)粒状前駆体材料を電界支援焼結に供して、リン酸チタンリチウム系固体電解質材料を形成することと、
を含む、プロセスに関する。
【0013】
本発明はまた、本明細書に開示されるプロセスによって得ることができる固体電解質材料にも関心を寄せる。固体電解質材料は、特に、式
Lin・(1+x+y+z)Mn’・xTin’’・(2-x)(PO4)(n’’’)・(3-y)(SiO4)(n’’’’)・y(式中、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される金属であり、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.8であり、n、n’、n’’、n’’n’’’およびn’’’’は、各々個別に、0.8~1.2の範囲の数である)による組成を有することができる。
【0014】
本発明はさらに、本発明による固体電解質材料、例えば固体電解質、電極、セパレータまたは膜を備える物品に関する。例えば、本発明は、使用済みリチウム含有電池からのリチウムの分離およびリサイクルのためのプロセスで使用するための、本開示による固体電解質材料を含む膜に関する。
【0015】
本発明による固体電解質材料を含む固体電解質、電極および/またはセパレータを備えるエネルギー貯蔵装置、特にリチウム電池も本発明の範囲内である。
【0016】
本発明のプロセスは、粒状前駆体材料の製造のための火炎熱分解、およびそれに続く得られた粒状前駆体材料の電界支援焼結に基づいており、いくつかの恩恵および利点を提供する。したがって、火炎熱分解は、狭いサイズ分布および比較的小さい粒径、例えば100nm以下程度を有する焼結性粒子を直ちに製造する。これにより、乾燥、粉砕または予備焼結のようなさらなる加工ステップを廃止することができる。火炎熱分解はさらに、火炎熱分解に供される溶液中の前駆体材料の量を変動させることによって材料の化学量論を柔軟に制御しながら、粒状前駆体材料の連続的かつ大規模な合成を可能にする。得られたままの前駆体材料の後続の電界支援焼結は、小さな粒度を有する対応する固体電解質材料の形成を容易にし、したがってマイクロクラックの形成の傾向が低いと考えられる高い加熱速度および短い保持時間を伴う。予想外にも、本発明のプロセスによって得られた固体電解質は、向上した機械的特性、例えば非常に高い弾性率Eを示し、同時に競合的なLiイオン伝導率を呈する。これにより、本明細書に開示される固体電解質は、とりわけリチウム電池または工業電解プロセス用の膜での使用に魅力的になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1による粒状前駆体材料の電界支援焼結中の経時的な圧力および温度プロファイルならびにスタンプの経路を示す図である。
【
図2】レーザ回折によって測定した、実施例1に従って製造された粒状前駆体材料の体積に基づく粒径分布を示す図である。
【
図3】レーザ回折によって測定した、比較例1に従って使用される従来の市販の粒状前駆体材料の体積に基づく粒径分布を示す図である。
【
図4】レーザ回折によって測定した、実施例3に従って製造された粒状前駆体材料の体積に基づく粒径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、オープンエンドであり、追加の記載されていないまたは列挙されていない要素、材料、構成成分または方法ステップなどの存在を排除しないと理解される。「含む(including)」、「含有する」および同様の用語は、「含む(comprising)」と同義であると理解される。本明細書で使用される場合、「からなる」という用語は、任意の特定されていない要素、構成成分または方法ステップなどの存在を除外すると理解される。
【0019】
本明細書で使用される場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0020】
反対のことが示されない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータおよび範囲は近似値である。本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示される数値は可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、それぞれの測定における標準偏差から必然的に生じる誤差を含有する。
【0021】
また、本明細書に列挙された任意の数値範囲は、その中に包含されるすべての部分範囲を含むことが意図されていることを理解されたい。例えば、「1~10」の範囲は、列挙された最小値1と列挙された最大値10との間およびそれらを含むありとあらゆる部分範囲、すなわち、1以上の最小値で始まり10以下の最大値で終わるすべての部分範囲、およびその間のすべての部分範囲、例えば1~6.3、または5.5~10、または2.7~6.1を含むことが意図される。
【0022】
本明細書で言及されるすべての部、量、濃度などは、特に明記しない限り、重量によるものである。
【0023】
上述したように、本発明は、リン酸チタンリチウム系固体電解質材料の製造プロセスであって、
i)Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液を提供することであって、Mが、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される、提供することと、
ii)溶液からエアロゾルを生成することと、
iii)生成されたエアロゾルを火炎熱分解に供して、それから粒状前駆体材料を形成することと、
iv)粒状前駆体材料を電界支援焼結に供して、リン酸チタンリチウム系固体電解質材料を形成することと、
を含む、プロセスに関する。
【0024】
したがって、本発明は、リン酸チタンリチウム系固体電解質材料の製造プロセスを提供する。本明細書で使用される場合、固体リン酸チタンリチウム系固体電解質材料とは、リン酸チタンリチウムまたはその誘導体を含み、イオン伝導性を呈する固相の材料を指す。リン酸チタンリチウムの誘導体には、リン酸チタンリチウム(LiTi2P3O12)の置換変異体が含まれ、この置換変異体では、構成原子の一部が、例えばSiで置換されたP原子の一部および/または金属Mで置換されたTi原子の一部などの他の元素で置換されており、Mは、例えばAl、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択することができ、そのような置換は、例えばリチウム含有量によって相殺されて、全体的な電気的中性をもたらすことができる。代替的または追加的に、例えば格子間格子位置の占有に起因する過剰、例えばリチウム過剰、または格子内の空孔、例えば酸素欠損に起因する欠損などのリン酸チタンリチウムの1つ以上の構成元素の欠損または過剰が存在し得る。リン酸チタンリチウム系固体電解質材料は、特にリチウムイオンに対してイオン伝導性を呈するNASICON型結晶構造中に非置換または置換リン酸チタンリチウムの1つ以上の相を特に含み得る。
【0025】
本発明によるリン酸チタンリチウム系固体電解質材料の製造プロセスは、上記のように、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液を提供することを含み、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される。本明細書で使用される溶液は、一般的な意味での溶液、すなわち、液体担体媒体に溶解した材料(上述の源材料など)を含有する液体を指す。したがって、溶液は、いかなる溶解していない固体またはゲル状の成分または沈殿物も実質的にまたは完全に含まなくてもよい。溶液は、好ましくは経時的に安定であり、すなわち相分離も沈殿も起こらない。
【0026】
溶液は、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択で、使用される場合はSi源材料および/または金属Mの源材料を好適な溶媒に添加し、溶媒に源材料を溶解することによって提供することができる。1つまたは複数の源材料の溶液を調製し、そのような溶液を組み合わせ、任意選択でさらなる源材料または任意選択の構成成分を添加して、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液を形成することも可能である。溶液の調製は、個々の源材料(上記のように、例えばニート形態または混合物もしくは溶液で提供することができる)、溶媒および存在する場合はさらなる任意選択の成分を、溶液の調製に適したビーカーまたは任意の容器などの好適な混合装置内で室温または高温で混合することを伴い得る。混合は、典型的には、透明で均質な溶液が得られるように、すべての固体成分を溶解するのに十分な期間にわたって行われる。
【0027】
元素Xの源材料とは、指定された元素Xを含有し、リン酸チタンリチウム系固体電解質材料の製造プロセスにおいてこの元素の供給源となる材料を意味する。一般に、それぞれの溶液を調製することができる限り、任意のLi源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を用いることができる。
【0028】
したがって、本発明によるLi源材料としては、原則として、任意の可溶性Li含有材料を用いることができる。典型的には、リチウムの塩、錯体または有機金属化合物をLi源材料として利用することができる。無機リチウム塩の非限定的な例は、塩化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、リン酸リチウムおよび硫酸リチウムである。有機リチウム塩の非限定的な例には、カルボン酸リチウム、例えばC1-C20カルボン酸のリチウム塩、例えば酢酸リチウム、シュウ酸リチウムまたはネオデカン酸リチウム、リチウムアルコキシド、例えばリチウムエトキシドまたはナフテン酸リチウムが含まれる。有機リチウム化合物には、例えばブチルリチウムまたはフェニルリチウムなどのアルキルリチウムおよびアリールリチウム化合物が含まれる。リチウムの有機錯体は、2,4-ペンタンジオナト-リチウムなどのリチウムのβ-ジケトナト化合物によって例示することができる。Li源材料からの望ましくない残留物が得られた粒状前駆体材料中に実質的に残らないように、火炎熱分解ステップで除去し得るリチウム以外に有機部分を含むLi源材料を用いることが好ましい場合がある。したがって、Li源材料は、例えば、リチウムの有機塩、有機錯体または有機金属化合物から選択されてもよい。好ましくは、上述の有機塩のいずれか1つなどの有機リチウム塩を、本発明によるプロセスにおけるLi含有材料として使用することができる。
【0029】
本発明のTi源材料としては、任意の可溶性Ti含有材料を用いることができる。典型的には、チタンの塩、錯体または化合物をTi源材料として利用することができる。非限定的な例には、ハロゲン化物、例えば四塩化チタン、臭化チタン、フッ化チタン、オキシ硫酸チタン、チタンアルコキシド、例えばチタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンテトライソプロポキシドおよびチタンブトキシド、ならびにアセチルアセトナト化合物が含まれる。Ti源材料からの望ましくない残留物が得られた粒状前駆体材料中に実質的に残らないように、火炎熱分解ステップで除去し得るチタン以外に有機部分を含むTi源材料を用いることがやはり好ましい場合がある。したがって、Ti源材料は、例えば、チタンの有機塩、有機錯体または有機金属化合物から選択されてもよい。好ましくは、有機チタン塩または上記の有機塩および化合物のいずれか1つなどの化合物を、本発明によるプロセスにおけるTi源材料として使用することができる。
【0030】
本発明の実施において、任意の可溶性リン含有材料をP源材料として使用することができる。例えば、無機または有機リン含有化合物をP源材料として使用することができる。そのようなリン含有化合物の非限定的な例には、リンハロゲン化物およびリンのオキソ酸、例えばホスホン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ならびにそれらの塩およびエステルが含まれる。そのような塩およびエステルの非限定的な例には、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウムなどのリン酸塩もしくはピロリン酸塩、またはリン酸トリエチルなどのリン酸トリアルキル、またはアンモニウムもしくはアルカリ金属などの様々な対イオンを有するリン酸水素およびリン酸二水素が含まれる。得られた粒状前駆体材料中にP源材料からの望ましくない残留物が実質的に残らないように、火炎熱分解ステップで除去し得るリン以外に有機部分を含むP源材料を用いることが好ましい場合がある。したがって、P源材料は、好ましくは、有機リン酸塩またはピロリン酸塩などの有機リン含有化合物、例えばリン酸トリエチルなどのリン酸トリアルキル化合物を含み得る。
【0031】
上記のように、任意選択で金属Mの源材料が使用される。金属M源は、金属Mを含む任意の可溶性材料であり得、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される。典型的には、金属Mの塩、錯体または化合物を金属Mの供給源として利用することができる。金属源材料からの望ましくない残留物が得られる粒状前駆体材料中に実質的に残らないように、火炎熱分解ステップで除去し得る金属M以外に有機部分を含む金属Mの源材料を用いることがやはり好ましい場合がある。したがって、金属Mの源材料は、例えば、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの有機塩、有機錯体または有機金属化合物から選択されてもよい。金属Mは、好ましくはAlを含んでもよい。例示的なAl源材料には、塩化アルミニウム、アルミニウムトリ-sec-ブトキシドおよびアルミニウムエチルアセトアセテートなどの無機および有機アルミニウム化合物が含まれる。
【0032】
上記のように、任意選択でSi源材料が使用される。任意の可溶性Si含有材料を原則として、本発明の実施においてSi源材料として使用することができる。例えば、ケイ酸塩またはケイ酸のエステルもしくは他の誘導体をSi源材料として利用することができる。例示的なSi含有化合物には、例えば、ケイ酸塩および/または有機ケイ素化合物、例えば、シラノール、シロキサンおよびシリルエーテルが含まれる。Si源材料からの望ましくない残留物が得られた粒状前駆体材料中に実質的に残らないように、火炎熱分解ステップで除去し得るケイ素以外に有機部分を含むSi源材料を用いることが好ましい場合がある。
【0033】
単一の源材料、または上記のような2つ以上の源材料の組合せまたは混合物は、各々、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに金属Mの任意選択のSi源材料および任意選択の源材料のいずれかに使用することができることを理解されたい。用いられる源材料が、述べられた元素のうちの2つ以上の供給源として機能することも可能である。例えば、リン酸リチウムは、Li源材料およびP源材料を表す。しかしながら、通常、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料には、個々の源材料が用いられる。
【0034】
無機源材料は、原則として、本明細書で上述したものなどが好適であるが、用いられるいくつかまたは好ましくはすべての源材料が、それぞれの源元素(Li、Ti、P、Si、金属M)以外に有機部分のみを含む場合が好ましい。有機部分は、火炎熱分解ステップにおいて、例えば燃焼によって除去され得、その結果、例えば最終的なリン酸チタンリチウム系固体電解質材料の焼結性および/または特性に悪影響を及ぼす可能性がある、源材料からの望ましくない残留物が、得られた粒状前駆体材料中に実質的に残らない。例えば、Li源材料、Ti源材料および金属Mの源材料は、使用される場合、各々個別に、それぞれの金属の有機塩、有機錯体もしくは有機金属化合物またはそれらの組合せから選択されてもよく、かつ/またはP源材料は、リンのオキソ酸のエステルもしくは塩、好ましくは有機リン酸塩を含み、かつ/またはSi源材料は、使用される場合、ケイ酸塩および/もしくは有機ケイ素化合物を含む。
【0035】
源材料は、粒状前駆体材料を形成するための火炎熱分解ステップで添加された酸素、および最終的に本発明によるプロセスの後続のステップでリン酸チタンリチウム系固体電解質材料と共に元素を提供する。したがって、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに使用される場合には金属Mの任意選択のSi源材料および/または任意選択の源材料の相対量を変動させることによって、溶液中の粒状前駆体材料および最終的にそれから製造されるリン酸チタンリチウム系固体電解質材料の組成を柔軟に制御することができる。したがって、事前に定義された化学量論比を有する固体電解質材料は、Li、Ti、P、ならびに任意選択でSiおよび/またはMのそれぞれの比を有する溶液を調製することによって得ることができる。例えば、源材料は、式
Li(1+x+y+z)MxTi(2-x)(PO4)(3-y)(SiO4)y(式中、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される金属であり、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.8であり、NASICON型結晶構造であってもよく、Liイオン伝導性を呈する)に従うまたはそれに近い組成を有する固体電解質材料を形成するための相対量で使用することができる。例えば、提供される溶液は、(0.5~2):(1.5~2.5):3、好ましくは(1.3~2):(1.8~2.2):3の当量比Li:(Ti、M):(P、Si)に相当する量で、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属M源材料を含むことができる。溶液中のM:Tiの当量比は、例えば、0~1:2、例えば0~1:3または0~1:4の範囲であり得る。1つの変形例では、M:Tiの当量比は、0であり、すなわち、金属Mの源材料は使用されない。溶液中のSi:Pの当量比は、0~1:2、例えば0~1:3、または0~1:4、または0~1:5、または0~1:10であり得る。1つの変形例では、Si:Pの当量比は、0であり、すなわち、Si源材料は使用されない。
【0036】
上記のように、さらに、溶媒を使用して、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択で、使用される場合にはSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液を調製する。Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに使用される場合、任意選択のSi源材料および/または金属M源材料を溶解するのに有用な任意の溶媒または溶媒の混合物を用いることができる。1つ以上の溶媒の種類および濃度は、好ましくはいかなる未溶解成分または沈殿物もない均質で安定な溶液が得られるように選定することができる。可能性のある溶媒には、水などの無機物、ならびに塩酸、硫酸、リン酸またはアルカリ水酸化物などの酸または塩基、ならびに様々な有機溶媒およびそれらの混合物または組合せが含まれる。本発明の好ましい実施では、溶液は1つ以上の有機溶媒を含む。有機溶媒は、一般に可燃性であり、したがって、本発明の火炎熱分解ステップ中に追加の熱を提供する。さらに、それらの燃焼のために、それらは、典型的には、火炎熱分解によって得られた粒状前駆体材料中にいかなる望ましくない残留物も残さない。限定されないが、アルコール、ケトン、アルデヒド、エステル、エーテル、カルボン酸、炭化水素またはそれらの混合物もしくは組合せなどの任意の種類の一般的な有機溶媒を本発明に従って使用することができる。好適な有機溶媒または溶媒混合物もしくは組合せの成分の非限定的な例には、例えば、C1-C15アルコール、例えばエタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、メタノール、ジオール、例えばエタンジオール、ペンタンジオール、および2-メチル-2,4-ペンタンジオール、C1-C12カルボン酸、例えば酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、吉草酸、カプリン酸、およびラウリン酸、2-メトキシエトナール、エーテル、例えばジエチルエーテルおよびジイソプロピルエーテル、ケトン、例えばアセトンまたはエチルメチルケトン、エステル、例えば酢酸n-ブチルまたは酢酸エチル、炭化水素、例えばn-ヘキサンまたはn-ペンタンのようなアルカン、芳香族、例えばベンゼンもしくはトルエン、ナフサ、ガソリン、ミネラルスピリット、または複素環、例えばシクロヘキサン、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランもしくはピリジン、またはアセトニトリルが含まれる。一例では、溶媒は、エタノールなどのアルコールとエチルヘキサン酸などのカルボン酸との混合物を含む。好ましくは、溶液は有機溶媒系である。例えば、溶媒は、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液の溶媒の総重量に基づいて、50重量%を超えて、例えば60重量%以上、または70重量%以上、または80重量%以上、または90重量%以上、または95重量%以上、または99重量%以上、例えば100重量%の有機溶媒を含んでもよい。本発明の好ましい実施では、有機溶媒のみが、異なる源材料の溶液中の溶媒として利用される。
【0037】
任意選択で、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液中で、1つ以上の追加の成分を使用することができる。そのような追加の成分の非限定的な例には、レオロジー調整剤、錯化剤、安定化剤等などの一般的な補助剤が含まれる。例えば、1つまたは複数の錯化剤、好ましくはエチレンジアミン四酢酸などの有機錯化剤を使用して、1つまたは複数の源材料の溶解を促進することができる。そのような任意選択の追加成分は、使用される場合、従来の実施に従って有効量で用いられる。例えば、そのような任意選択の追加成分は、使用される場合、溶液の総重量に基づいて、0.001~10重量%の範囲の量で使用され得る。
【0038】
本発明による溶液は、Li、Ti、P、ならびに存在する場合にはSiおよびMの溶解源材料の濃度によって特徴付けることができる。本発明による溶液は、例えば、溶液の総重量に基づいて、0.5重量%~40重量%、例えば、1重量%~30重量%、または2重量%~20重量%、または3重量%~10重量%の範囲の溶解源材料の総濃度を有することができる。
【0039】
本発明のプロセスによれば、このようにして調製された溶液は、火炎熱分解によって寸法的および組成的に均一な粒状前駆体材料を合成することを可能にする。この目的のために、エアロゾルが溶液から生成され、これを火炎熱分解に供して、それから粒状前駆体材料を形成する。
【0040】
一般に、火炎熱分解は、高温での化学物質の化学変換を指し、それによって高温が火炎によって供給される。典型的には、これらの温度は、摂氏数百度程度である。火炎熱分解およびそれを実施するための反応器は、当技術分野で知られているものであり、例えば国際公開第2015/173114号パンフレットに記載されている。反応器は、典型的には、発火源を収容する反応室と、溶液からエアロゾルを生成するための手段と、発火源からの粒子ガス混合物流出物を冷却するための手段と、形成された粒状材料を収集するための手段と、を備える。反応室の壁は、典型的には、セラミックまたは石英のようなガラス材料などの適切な耐熱材料から形成され、少なくとも部分的に外部冷却手段を装備することができる。発火源には、例えば、ガストーチ、レーザビームまたは電気アークが含まれる。
【0041】
本発明によるプロセスでは、典型的には上述の火炎熱分解反応器のエアロゾルを生成する手段によって、Li源材料、Ti源材料、P源材料、ならびに任意選択でSi源材料および/または金属Mの源材料を含む溶液からエアロゾルが生成される。本明細書で理解されるエアロゾルは、その中に微細な液滴が分散されたガスを指す。エアロゾルの液滴の平均直径は、例えば、1μm~150μm、例えば30μm~100μmであってもよい。溶液からのエアロゾルの生成は、一成分または二成分ノズルのようなエアロゾル生成の当技術分野で知られているようなノズルに溶液を供給することによって実現することができる。溶液をノズルに供給する前に、溶液を加熱してその蒸気圧を高め、その粘度を低下させてもよい。ノズルは、一般に、火炎にそれぞれ近接して存在する温度に耐えることができる材料から形成される。溶液からエアロゾルを生成することは、特に、霧化ガスを使用してノズルによって溶液を噴霧することを含み得る。本発明の1つの好ましい実施では、溶液は、エアロゾルを得るために二成分ノズルの個々の出口によって霧化ガスと共に噴霧される。溶液の高スループットおよび安定した火炎のために、二成分ノズルが好ましい場合がある。霧化ガスは、例えば、空気、酸素、窒素またはそれらの混合物から選択することができる。
【0042】
次いで、このようにして生成されたエアロゾルは、本発明によるプロセスにおいて火炎熱分解に供され、それから粒状前駆体材料を形成する。これは、典型的には、例えば上述の火炎熱分解反応器内でエアロゾルを火炎と接触させることを含む。本発明の1つの実施では、エアロゾルは、ガストーチの安定した火炎に供給される。火炎は、可燃性ガスを酸化剤で燃焼させることによって生成され得る。可燃性ガスは、例えば、水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、天然ガスおよびそれらの混合物を含むことができる。酸化剤は、酸素または空気のような酸素含有ガス混合物を含むことができる。例えば、可燃性ガスは、水素を含み、酸化剤は、空気を含む。酸素の量は、典型的には、火炎中に導入されたエアロゾル化溶液中の可燃性ガスおよび可燃性または酸化可能な成分がそれぞれ完全に燃焼または酸化されるように選定される。本発明の火炎熱分解ステップ中に達する火炎温度は、約400℃~約2000℃であり得、好ましくは約800℃~約1400℃である。したがって、可燃性ガスなどのエアロゾルに含まれる可燃性成分、および提供された初期溶液に使用される源材料の溶媒または有機部分は、燃焼され、二酸化炭素および/または水分子などのガス状反応生成物に変換され得る。他方では、エアロゾル化溶液に含有されるLi、Ti、P、ならびに使用される場合は金属Mおよび/またはSi成分は、火炎熱分解ステップで酸化され、粒状前駆体材料を形成する。
【0043】
次いで、火炎から得られたガス粒子混合物流出物は、冷却してもよい。したがって、火炎溶射熱分解反応器は、火炎からのガス粒子混合物流出物を冷却するための手段を備えてもよい。そのような手段は、例えば、水または油などの冷却液で冷却し得る1つ以上の冷却管を備えることができる。
【0044】
次いで、形成された粒状前駆体材料は、ガス流から分離されてもよい。したがって、火炎溶射熱分解反応器は、典型的には、形成された粒状前駆体材料を収集するための手段を備える。粒状前駆体材料を収集するための好適な手段には、例えば、高温膜フィルタ、サイクロン分離器、バッグフィルタ、静電集塵器および/または熱泳動表面集電器が含まれる。
【0045】
このようにして形成された粒状前駆体材料は、一般に、使用された源材料に由来する酸化物を含む。したがって、それは、粒状リン酸チタンリチウム系材料を表す。正確な組成は、使用される異なる源材料の種類および相対量に依存する。形成された粒状前駆体材料は、特に、式Lin・(1+x+y+z)Mn’・xTin’’・(2-x)(PO4)(n’’’)・(3-y)(SiO4)(n’’’’)・y(式中、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される金属であり、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.8であり、n、n’、n’’、n’’、n’’’およびn’’’’は、各々個別に0.8~1.2の範囲の数である)による組成を有することができる。例えば、xは、0.2~0.7、例えば0.3~0.6の範囲内であり得る。加えて、または代わりに、yは、0~0.8、例えば0~0.6の範囲内であり得る。特定の変形例では、yは0であり、かつ/またはMはAlである。さらに、パラメータn、n’、n’’、n’’n’’’およびn’’’’は、各々個別に、0.8~1.2、例えば0.9~1.1または0.95~1.05、例えば約1または1に等しい範囲の数であり得る。
【0046】
得られた粒状前駆体材料は、その結晶性および/または元素組成が異なり得る複数の相を含んでもよい。そのような相は、例えば、AlPO4、TiO2、Li4P2O7、LiTi2PO4およびLiOHを含んでもよい。例えば、NASICON型結晶構造のイオン伝導性リン酸チタンリチウム相は、粒状前駆体材料中に存在してもよく、または有意な量で存在しなくてもよい。典型的には、そのようなイオン伝導相は、後続の電界支援焼結ステップにおいて大部分が形成される。
【0047】
本発明による粒状前駆体材料は、その粒径分布によって特徴付けることができる。粒径は、粒状前駆体材料から得ることができる固体電解質材料の特性に影響を及ぼし得る。傾向として、より小さい粒子は、より小さい粒度を提供し、これによりマイクロクラック形成のリスクを低減することができる。本発明による火炎熱分解から得られた粒状前駆体材料は、典型的には、小さい粒径および狭い粒径分布によって特徴付けられる。したがって、粒状前駆体材料は、200nm未満、もしくは150nm未満、もしくは好ましくは100nm未満のD50粒径、および/または1.5未満、好ましくは1.0未満、もしくは0.8未満のスパン(D90-D10)/D50を有する体積に基づく粒径分布を有することができる。D50粒径は中央粒径を示し、D50より下または上に集団の50%、すなわちすべての粒子の体積の50%が存在する。したがって、D90粒径は、D90粒径より下に集団の90%、すなわちすべての粒子の体積の90%が存在する粒径を指す。D10粒径は、D10粒径より下に集団の10%、すなわちすべての粒子の体積の10%が存在する粒径を指す。(D90-D10)/D50として計算されるスパンは、粒径分布の幅の尺度である。本発明による粒状前駆体材料の粒径分布は、典型的には単峰性である。粒径分布は、Horiba製LA-950レーザ粒径分析計を使用して、実施例の項に記載の手順に従ってレーザ回折によって測定することができる。
【0048】
火炎熱分解ステップによって形成された粒状前駆体材料は、任意選択で、本発明によるプロセスにおいて粒状前駆体材料を電界支援焼結に供する前に処理に供することができる。例えば、粒状前駆体材料は、原則として、乾燥もしくは粉砕プロセスまたは焼成処理に供することができる。焼成は、630℃~770℃の温度で実行されてもよい。焼成時間は、4.5時間~5.5時間の範囲であってもよい。焼成中の雰囲気は、それほど重要ではない:それは不活性または酸素の存在下のいずれかであってもよい。焼成は、マッフル炉などの専用の焼成設備で実行されてもよい。あるいは、焼成処理は、実際の焼結プロセスを開始する前に、焼結設備を用いて実行されてもよい。すべての場合において、焼成処理の目的は、非晶質粉末構造を結晶性粉末構造に移すことである。焼成中の結晶化が不適切な粒径の増加をもたらす場合、焼成ステップと焼結ステップとの間に解凝集ステップが実行されてもよい。
【0049】
ゾル-ゲルまたは溶融急冷プロセスによって得られた粒子とは対照的に、火炎熱分解から得られた粒状前駆体材料は、焼結に直接使用することができ、焼結プロセスの前にいかなる処理も必要としないことが本発明の利点である。特に、高い火炎温度に起因して、粒状前駆体材料の焼結能力を低下させる有機成分および他の成分が実質的に除去される。したがって、本発明による粒状前駆体材料は、好ましくは、乾燥、粉砕または焼成などのいかなるさらなる処理ステップも行わずに、電界支援焼結に供される。火炎熱分解によって得られた非晶質粉末を結晶化するために焼成ステップが必要な場合、前記焼成ステップは、後続の焼結ステップに使用されるのと同じ設備を用いて実行されてもよい。
【0050】
本発明による方法は、粒状前駆体材料を電界支援焼結に供してリン酸チタンリチウム系固体電解質材料を形成することをさらに含む。一般に、本明細書で理解される電界支援焼結は、放電プラズマ焼結(SPS)としても知られる焼結プロセスを指し、電界および圧力によって生成された熱を適用して粒状材料を焼結し、固体の圧縮された加工物を形成する。本発明による電界支援焼結は、例えばDr.Fritsch GmbH&Co.KG(フェルバッハ、ドイツ)、FCT Systeme GmbH(エフェルダー・ラウエンシュタイン、ドイツ)およびSumitomo Coal Mining Co.Ltd.(東京、日本)から市販されているような従来の電界支援焼結システムを使用して行うことができる。そのような電界支援焼結システムは、粒状前駆体材料が装填され、制御された雰囲気下に置くことができるモールド、および高出力電気回路と同時に作用する機械的装填システムを備える。したがって、電界支援焼結中、粒状前駆体材料は、高い焼結温度および数十MPa程度の圧力に同時に供することができる。電界支援焼結は、典型的に、テープキャスティングのような従来の焼結プロセスと比較していくつかの利点を有する。したがって、電界支援焼結は、得られる固体電解質材料のイオン伝導性および機械的特性の両方に正の影響を及ぼす比較的小さな粒度を有する焼結微細構造を提供することができる。粒度を決定する1つの重要な要因は、従来の炉焼結プロセスと比較して、電界支援焼結によって達成可能な比較的高い加熱速度ならびに短い保持時間およびプロセス時間で見ることができる。短い保持時間およびプロセス時間は、従来の炉加熱と比較してエネルギーコストを大幅に削減し得る。例えばオーブンによる従来の外部加熱とは対照的に、試料は、電界支援焼結の場合においてモールド内の粒状材料のオーミック抵抗に基づいて、直接加熱されてもよい。焼結プロセス前の冷間プレスと比較して、焼結温度への加熱中の圧力の印加は、細孔の量が減少するか、または実質的に存在せず、密度が増加した固体電解質を提供することができる。これは、高いイオン伝導性および高い機械的信頼性の両方を有する固体電解質材料をもたらし得る。
【0051】
したがって、本発明による電界支援焼結は、一対の電極間のモールド内に粒状前駆体材料を提供することと、粒状前駆体材料に圧力を加えることと、モールドおよび/または粒状前駆体材料に電極によって電流を流すことと、を含んでもよい。粒状前駆体材料は、任意選択で、電界支援焼結の前に1つまたは複数のさらなる物質と混合することができる。しかしながら、好ましくは、さらなる物質は、電界支援焼結に供される粒状前駆体材料に意図的に添加されない。したがって、電界支援焼結は、粒状前駆体材料を所定の温度および圧力プログラムに供することを含んでもよい。モールド内の材料の正確な温度制御は、温度測定および調整システムと組み合わせてモールド内の材料と電気的に接触している2つの互いに対向する電極に所定の電圧差を加えることによって達成され得る。加えられた電圧差から生じる電流は、交流または直流であり得る。任意選択で、電流をパルス化することができる。例えば、そのようなパルスは、1Hz~20kHzの周波数および50μs~999msの長さを有することができる。材料の電気伝導率に応じて、電気絶縁モールドを利用することができ、したがって、モールド内の材料に電流を流して、材料の効率的な内部加熱をもたらす。誘導熱源のような追加の熱源を任意選択で利用して、モールド内の材料を加熱することができる。本発明による電界支援焼結は、モールド内の粒状前駆体材料を700℃以上、例えば750℃以上、または800℃以上、または850℃以上、または900℃以上、または950℃以上の焼結温度に加熱することを含むことができる。例えば、粒状前駆体材料は、1500℃以下、例えば1300℃以下、例えば1100℃以下、または1000℃以下、または950℃以下、または900℃以下の焼結温度に加熱することができる。電界支援焼結は、粒状前駆体材料を上記の値のいずれかの間の範囲の焼結温度、例えば700℃~1100℃、例えば800℃~1000℃の範囲の焼結温度に加熱することを含むことができる。好ましくは、焼結温度は850℃~950℃である。1000℃を超える温度は、粒成長を高める場合があるため、あまり好ましくない場合がある。温度は、直線的に、すなわち一定の加熱速度で、または非線形に、例えば段階的に(ある温度または中間の温度での保持期間で)、または定常的であるが時間可変の加熱速度で、焼結温度まで上昇させることができる。最大1000K/分の加熱速度を適用することができる。しかしながら、典型的には、25K/分以上、または50K/分以上、または60K/分以上などの10K/分以上のそのような加熱速度が使用される。加熱速度は、例えば、100K/分以下、または80K/分以下などの200K/分以下であり得る。上述の値のいずれかの範囲の加熱速度、例えば10~200K/分または20K/分~100K/分の範囲の加熱速度を適用することができる。加熱速度は、焼結温度と開始温度との差および焼結温度に達するのに必要な加熱時間から計算することができる。焼結温度は、本明細書では、電界支援焼結ステップにおいて粒状前駆体材料が加熱される最高温度を意味する。
【0052】
本発明による電界支援焼結は、粒状前駆体材料に圧力を加えることをさらに含む。任意選択で、モールド内の材料は、電界支援焼結装置に装填される前に、または温度を焼結温度まで上昇させる前に予め緻密化することができる。電界支援焼結中の圧力は、電界支援焼結装置の機械的負荷システム(例えば、プレス)によってモールド内の材料に力を加えることによって発生させることができる。例えば、対向する電極のうちの1つは、移動可能であり、モールドの表面をしっかりと閉じる形態を有することができる。電極によってモールドの方向およびモールドに沿って力を加えると、モールド内の材料に圧力がかかり、これは、材料と接触している電極の接触領域の表面積および試料の方向に可動電極によって加えられる力によって決定される。例えば、モールドは、中空円筒の形態を有することができ、それによって円筒の一端が閉鎖され、すなわちモールドの基部が閉鎖され、反対側の端部が開放される。この場合、可動電極は、円筒の内径に対応する直径を有する円形の接触領域を有する。この電極は、円筒状モールドの開口側と共整列しており、したがって、他方の対向する電極を押圧することによってモールド内に充填された材料を圧縮することができる。
【0053】
電界支援焼結結中に試料に加えられる圧力は、典型的には経時的に変動する。例えば、圧力は、一定の速度で、または0から最大圧力までの異なる速度で増加させることができる。試料の温度が室温を超えて高くなる前に圧力を加えることができ、または加熱が開始された後もしくは最高温度に達した後に圧力を加えることができる。例えば、試料の温度を室温よりも高くする前に、5~15MPaの範囲の圧力などの予圧を加えることができる。次いで、試料の圧力を一定速度または可変速度で焼結圧力まで増加させると同時に、温度を焼結温度まで上昇させることができる。本発明による電界支援焼結は、粒状前駆体材料を20MPa以上、例えば30MPa以上、または40MPa以上、または50MPa以上、または60MPa以上の焼結圧力に供することを含むことができる。電界支援焼結は、粒状前駆体材料に70MPa以下、例えば60MPa以下、または50MPa以下、または40MPa以下の焼結圧力を加えることを含むことができる。電界支援焼結は、粒状前駆体材料を、上記の値のいずれかの間の範囲の焼結圧力、例えば20~70MPa、例えば30~50MPaの範囲の焼結圧力に供することを含むことができる。圧力は、直線的に、すなわち一定の速度で、または非線形に、例えば段階的に(ある圧力または中間の圧力での保持期間で)、または定常的であるが時間可変の圧力増加率で、焼結圧力まで増加させることができる。圧力は、例えば、1MPa/分以上、または2MPa/分以上、または3MPa/分以上などの0.5MPa/分以上の一定の速度で増加させることができる。圧力は、例えば、10MPa/分以下、または5MPa/分以下、または3MPa/分以下の速度で増加させることができる。圧力は、0.5MPa/分~10MPa/分または1MPa/分~5MPa/分の範囲などの上述の値のいずれかの範囲の速度で増加させることができる。圧力増加の速度は、焼結圧力と開始圧力との差および焼結圧力に達するのに必要な時間から計算することができる。焼結圧力は、本明細書では、電界支援焼結ステップにおいて粒状前駆体材料に加えられる最大圧力を意味する。典型的には、試料を焼結温度まで加熱しながら加圧する。換言すれば、温度および圧力は、好ましくは、温度および圧力プログラムの一部の間に同時に増加されてもよい。
【0054】
本発明によるプロセスにおける電界支援焼結は、粒状前駆体材料時間を焼結温度および焼結圧力で保持時間の間維持することをさらに含むことができる。焼結温度および焼結圧力での保持時間は、例えば、1分以上、例えば、2分以上、または3分以上、または4分以上、または5分以上であり得る。それは、例えば、10分以下、例えば8分以下、または6分以下であり得る。保持時間は、1分~10分、例えば2分~8分、または3分~6分などの示された値のいずれかの間であり得る。好ましくはないが、焼結温度と加えられる焼結圧力との時間的な重複がない温度および圧力プログラムを適用することも可能である。
【0055】
本発明による電界支援焼結は、一定または可変速度で焼結温度から温度を低下させることをさらに含むことができる。モールド内の材料の温度は、電極および任意選択のさらなる熱源に加えられる電流を低減またはオフにすることによって低下させることができる。さらに、焼結装置の電極は、例えば、モールドの冷却速度を増加させることができる水などの冷却液によって能動的に冷却されてもよい。圧力は、温度が焼結温度から低下する前、同時に、および/または後に低下させることができる。圧力は、一定または可変速度で焼結圧力から低下させることができる。これは、加えられた機械的力を低減または除去することによって達成することができる。
【0056】
粒状前駆体材料の電界支援焼結は、真空および/または保護ガス雰囲気下で行うことができる。保護ガス雰囲気は、例えば、窒素、アルゴンまたは任意の他のガスもしくはガス混合物を含むことができ、これは、電界支援焼結プロセス中に達する温度で本質的に不活性である。
【0057】
以上のプロセスにより、固体電解質材料をこのように得ることができる。形成された固体電解質材料は、リン酸チタンリチウム系材料である。正確な組成は、使用される異なる源材料の種類および相対量に依存する。形成された粒状前駆体材料は、特に、式Lin・(1+x+y+z)Mn’・xTin’’・(2-x)(PO4)(n’’’)・(3-y)(SiO4)(n’’’’)・y(式中、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される金属であり、0≦x≦1、0≦y≦1および0≦z≦0.8である)による組成を有することができる。パラメータn、n’、n’’、n’’n’’’およびn’’’’は、各々個別に、0.8~1.2、例えば0.9~1.1または0.95~1.05、例えば約1またはそれに等しい範囲の数であり得る。Liは、任意選択で、上記式Li(1+x+y)MxTi(2-x)(PO4)3-y(SiO4)による化学量論と比較して過剰に提供することができる。これは、上記組成式のパラメータzに反映される。パラメータzは、0≦z≦0.6、または0≦z≦0.5、0≦z≦0.3、または0≦z≦0.2、または0≦z≦0.1などの0≦z≦0.8であり得る。過剰なリチウムを使用しない場合、zは0である。
【0058】
固体リン酸チタンリチウム系電解質材料は、1つまたは複数の固相を含むことができる。したがって、本発明の固体電解質材料は、例えば、結晶性および/または元素組成が異なる複数の相を含むことができる。リン酸チタンリチウム系固体電解質材料は、特に、式Li(1+x+y)MxTi(2-x)(PO4)3-y(SiO4)y(式中、Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択される金属であり、0≦x≦1および0≦y≦1)で表される組成を有する1つ以上の相を含むことができる。そのような相の例示的な非限定的な例には、0≦x≦1のLi(1+x)AlxTi(2-x)(PO4)3、例えばLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、またはLi1.5Al0.3Ti1.7(PO4)2.8(SiO4)0.2、Li1.8Al0.4Ti1.6(PO4)2.6(SiO4)0.4、Li2.0Al0.4Ti1.6(PO4)2.4(SiO4)0.6、またはLi1.75Al0.6Ti1.4(PO4)2.85(SiO4)0.15が含まれる。そのような相は、NASICON型結晶構造中で結晶化し、固体電解質材料にLiイオン伝導性を提供することができる。任意選択で、1つ以上の相に加えて、式Li(1+x+y)MxTi(2-x)(PO4)3-y(SiO4)yで表される組成を有するさらなる相が存在することができる。例えば、本発明による形成された固体電解質材料は、固体電解質材料の総重量に基づいて、少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも80重量%または少なくとも90重量%の総量で、式Li(1+x+y)MxTi(2-x)(PO4)3-y(SiO4)yによって表される組成を有する1つ以上の相を含んでもよい。固体電解質材料中に存在する相の種類および量は、X線回折(XRD)分析によって決定することができる。
【0059】
固体電解質およびその中の特定の相の可能な組成についての上述の式中のパラメータxは、一般に0≦x≦1である。特に、固体電解質材料の組成において、xは、0.05以上、または0.10以上、または0.15以上、または0.20以上、または0.25以上、または0.30以上、または0.35以上、または0.40以上、または0.45以上、または0.50以上、または0.55以上、または0.60以上であり得る。パラメータxは、0.95以下、または0.90以下、または0.85以下、または0.80以下、または0.75以下、または0.70以下、または0.65以下、または0.60以下、または0.55以下、または0.50以下、または0.45以下、または0.40以下であり得る。パラメータxは、列挙された値のいずれかの間の範囲、例えば0.05~0.95、または0.10~0.90、または0.20~0.70、または0.30~0.60、または0.40~0.60の範囲内であり得る。
【0060】
固体電解質およびその中の特定の相の可能な組成についての上述の式中のパラメータyは、一般に、0≦y≦1である。特に、固体電解質材料の組成において、yは、0.05以上、または0.10以上、または0.15以上、または0.20以上、または0.25以上、または0.30以上、または0.35以上、または0.40以上、または0.45以上、または0.50以上であり得る。パラメータyは、例えば、0.80以下、または0.70以下、または0.60以下、または0.50以下、または0.40以下、または0.30以下、または0.20以下、または0.10以下、または0.05以下であり得る。パラメータyは、0~1、または0~0.80、または0.05~0.60、または0.10~0.60の範囲などの列挙された値のいずれかの間の範囲内であり得る。特定の変形例では、パラメータyは0であり得る。
【0061】
固体電解質材料が金属Mを含む場合、金属Mは、Al、Ga、Ge、In、Sc、V、Cr、Mn、Co、Fe、Y、ランタニドまたはそれらの組合せの群から選択することができる。金属Mは、使用される場合、特にアルミニウムを含むかまたはアルミニウムであり得る。本発明の一実施形態では、Mは、AlとGeとの組合せである。この実施形態の固体電解質材料は、LAGTPと命名されている。LAGTPの例は、Li1.45Al0.45Ge0.2Ti1.35P3O1である。
【0062】
本発明の固体電解質材料は、ヤング率としても知られるその弾性率Eによって特徴付けることができる。弾性率Eは、弾性領域における材料の応力歪み関係を表し、例えば実験の項に記載されているようにナノインデンテーションによって決定することができる。驚くべきことに、本発明による固体電解質材料は、非常に高い弾性率Eを有することができることが見出された。固体電解質材料の弾性率Eは、例えば200GPa以上、例えば300GPa以上、例えば350GPa以上、または400GPa以上、または500GPa以上、または600GPa以上、または700GPa以上、または750GPa以上、または800GPa以上であり得る。固体電解質材料は、例えば、最大1,000GPa、または最大900GPaの弾性率を有することができる。好ましくは、本発明による固体電解質材料は、700GPa以上、例えば700~1,000GPaの弾性率Eを有する。
【0063】
本発明の固体電解質材料は、さらに、その比イオン伝導率によって特徴付けることができる。比イオン伝導率は、実験の項に記載の方法に従ってインピーダンス分光法により決定することができる。本発明の固体電解質材料は、例えば、1・10-5S/cm以上、例えば2・10-5S/cm以上、または5・10-5S/cm以上の比イオン伝導率を有することができる。本発明の固体電解質材料は、例えば、0.5・10-5S/cm以上、例えば、0.5・10-5S/cm~1・10-3S/cmの範囲内の比イオン伝導率を有することができる。比イオン伝導率は、本明細書で別段の指示がない限り、室温(20℃)での比イオン伝導率を指す。
【0064】
典型的には、本明細書に開示されるプロセスによって得られる固体リン酸チタンリチウム系電解質材料は、コヒーレント体の形態である。したがって、本発明による電界支援焼結は、所定の外形寸法を有するコヒーレントな巨視的本体の形態の固体リン酸チタンリチウム系電解質材料を提供し、これは任意選択で、例えば切断または研削によって適合させることができる。また、固体電解質は、それぞれの目的用途に応じて、粉末の形成下で粉砕してもよい。
【0065】
本発明の固体電解質材料は、高密度を有することができる。したがって、本発明の固体電解質材料は、材料の理論密度に基づいて、95%以上、例えば97%以上の密度を有することができる。密度は、アルキメデスの原理によって決定することができる。
【0066】
本発明により得られる固体リン酸チタンリチウム系電解質材料は、一般に、固体イオン伝導性材料、特にリチウムイオン伝導性材料が従来から使用されているかまたは有用である任意の用途に使用することができる。本開示の固体リン酸チタンリチウム系電解質材料は、例えば、Liイオン伝導体、固体電解質、電極、または例えば全固体もしくはハイブリッドLiイオン電池用のセパレータとして用いられ得るか、またはそれらに含まれ得る。固体リン酸チタンリチウム系電解質材料は、塩水電池および浸透プロセスにおいても用途を見出すことができる。
【0067】
したがって、本発明はまた、本明細書に開示される固体電解質材料を含む物品にも関係する。物品は、例えば、固体電解質、電極、セパレータまたは膜であり得る。
【0068】
本発明による固体電解質材料は、その非常に高い弾性率に起因して、産業電解プロセスなどの産業用途に特に好適である。したがって、本発明はまた、リチウム含有電池などの使用済みリチウム含有装置からのリチウムの分離およびリサイクルのためのプロセスで使用するための、本明細書に開示される固体リン酸チタン系電解質材料を含むか、またはそれからなる、セラミック膜などの膜を対象とする。
【0069】
本開示はまた、本発明によって提供される固体電解質材料を含む固体電解質、電極および/またはセパレータを備える特にリチウム電池などのエネルギー貯蔵装置に関する。
【0070】
上記で本発明を一般的に説明したが、以下の具体例を参照することによってさらなる理解を得ることができる。これらの実施例は、例示のみを目的として本明細書に提供されており、本発明を限定することを意図するものではなく、むしろ、その任意の均等物を含む添付の特許請求の範囲の全範囲が与えられるべきである。
【実施例】
【0071】
実施例1
源材料の溶液の調製
ネオデカン酸リチウムの形態の2重量%のLiを有する1949gの市販溶液(Borchers GmbH(ランゲンフェルト、ドイツ)製のBorchers(登録商標)デカリチウム2)、アルミニウム-エチルアセトアセテートの形態の4.5重量%のAlを有する558gの市販溶液(TIB Chemicals AG(マンハイム、ドイツ)製のTIB KAT 851)、テトラプロピルオルトチタネートの形態の16.5重量%のTiを有する1529gの市販溶液(TIB Chemicals AG(マンハイム、ドイツ)製のTIB KAT 530)、リン酸トリエチルの形態の16.66重量%のPを有する1729gの市販溶液(Alfa Aesar(ヘイシャム、英国)製の4001)を含有する8.26kgの溶液と、50重量%のエチルヘキサン酸および50重量%のエタノールを含有する2500gの溶液とを合わせ、室温で混合した。結果は、目に見える沈殿物のない透明な溶液であった。
【0072】
火炎熱分解
続いて、得られた溶液から火炎熱分解により粒状前駆体材料を調製した。この目的のために、粒状前駆体材料の形成下で、二成分ノズルを介して15Nm
3/hの空気と共に2.5kg/hの処理量で溶液を管状反応室内の火炎に噴霧することによって、エアロゾルを形成した。8.0Nm
3/hの速度で供給された水素を75Nm
3/hの速度で供給された空気で燃焼させることによって、火炎を生成した。さらに、25Nm
3/hの二次空気を管状反応室に導入した。管状反応室を出る粒状前駆体材料を含む反応ガスを冷却し、次いで粒状前駆体材料を濾過によって反応ガスから分離した。このようにして得られた粒状前駆体材料は、
火炎熱分解に供された溶液中のLi源材料、Ti源材料、P源材料およびアルミニウム源材料の相対量によって決定されるLi
1.82Al
0.3Ti
1.7P
3O
12に相当する組成を有していた。
得られた粒状前駆体材料の粒径分布は、ソフトウェアバージョン8.3(P2001793B)を用いて、HORIBA Europe GmbH(オーバーラッセル、ドイツ)製のHoriba LA-950-V2レーザ粒径分析計を使用したレーザ回折分析によって決定した。この目的のために、5つの液滴Dolapix CE64(Zschimmer&Schwarz Chemie GmbH(ラーンシュタイン、ドイツ))が添加された水の分散媒体を装置の流体系に提供した。分散媒体を撹拌し(速度設定6)、ポンプを用いてインライン超音波プローブ(30W)およびフローセルに循環させた。次いで、分析される粒状前駆体材料のスパチュラの先端について、撹拌された分散媒体に添加した。超音波を一定に加えながら試料を添加してから5分後に粒径測定を開始した。体積に基づく粒径分布は、測定データに基づいてMie理論を使用し、溶媒については1.333、粒子については1.590~0.000iの屈折率をそれぞれ使用して、機器ソフトウェアによって決定した。測定された粒径分布を
図2に示し、それに由来するD
10、D
50およびD
90値を以下の表1に報告する。
【0073】
焼成処理
次いで、上記火炎熱分解プロセスから得られた粒状前駆体材料を、不活性雰囲気下、700℃で追加の焼成処理に供した。焼成された前駆体材料が得られた。
【0074】
電界支援焼結
次いで、上記焼成処理から得られた焼成前駆体材料を電界支援焼結に供して、それからリン酸チタンリチウム系固体電解質材料を形成した。Dr.Fritsch GmbH&Co.KG(フェルバッハ、ドイツ)のDSP515-725を使用して電界支援焼結を行った。この目的のために、5gの前駆体材料を、一端に円形の開口部を有する円筒状のグラファイトモールドに充填した。モールドの開口部を円形のスタンプによってしっかりと閉じた。このようにして調製したモールドを、電界支援焼結装置の炉室に移した。炉室を窒素雰囲気下に設定した。次いで、モールド内に収容された試料にスタンプによって増加する圧力を加え、電界支援焼結装置の一対の電極を介してモールド内に収容された試料に交流電流を加えた。試料の加熱は、電極によって供給される電流によってのみ得られた。スタンプの経路と共に試料に適用される時間分解圧力および加熱プログラムを
図1に示す。したがって、プログラムの開始時に、試料を室温から約900℃の焼結温度まで約50K/分の加熱速度で加熱した。初期圧力を10MPaに設定し、次いで約3MPa/分の速度で最大圧力約40MPaまで増加させた。約17分後に約900℃の最高温度に達し、約13分後に最大圧力に達した。最高温度および最高圧力の両方に達したとき、温度および圧力を約5分の保持時間の間一定に保った。その後、電極に加える電圧をオフにし、電極を水冷しながら、試料を減圧し、20分以内に室温まで冷却した。冷却後、コヒーレント体の形態で形成した固体電解質材料をグラファイトモールドから分離した。
【0075】
実施例2
粒状前駆体材料を追加の焼成処理にかけなかったことを除いて、実施例1について上述したように粒状前駆体材料を調製した。このようにして、火炎熱分解によって得られた粒状前駆体を、実施例1に関して上述した手順に従って電界支援焼結に供して、それからリン酸チタンリチウム系固体電解質材料を形成した。
【0076】
比較例1
市販のLATP粒状前駆体材料を、Toshima Manufacturing Co.,Ltd.(埼玉、日本)(ロット00081034)から入手した。材料は、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7P
3O
12に相当する組成を有していた。この粒状前駆体材料の粒径分布は、1.980~0.100iの粒子の屈折率を使用することを除いて、実施例1について上述した手順に従ってレーザ回折分析によって決定した。測定された粒径分布を
図3に示し、それに由来するD
10、D
50およびD
90値を以下の表1に報告する。この前駆体材料から、実施例1に関連して上述した手順に従って実行される電界支援焼結によって、固体電解質材料を調製した。
【0077】
実施例1、実施例2および比較例1により得られた固体電解質材料の機械的特性および電気的特性を以下のようにして分析した:
【0078】
ナノインデンテーションによる機械的特性の分析
固体電解質材料の機械的特性は、ナノインデンテーション測定を使用して分析した。ナノインデンテーション測定のために、固体電解質材料の試料を、研磨なしの電界支援焼結から得られたものとして使用した。ナノインデンテーション測定は、ビッカースダイヤモンド先端(θ=68°の半角で対向する面を有し、したがって平坦な試験片表面と角度β=22°をなす角錐圧子)を装備した標準的なPicodentor HM500(Helmut Fischer GmbH(ジンデルフィンゲン、ドイツ))を用いて実行した。すべての試料を、10mN、50mN、100mNおよび500mNの最大荷重で力制御モードで圧子圧入した。個々のインデントは、20秒の荷重時間、5秒の最大荷重での保持時間、および20秒の除荷時間によって定義される台形荷重関数を適用することによって行った。各荷重について、100×100μm2の面積の2×2のインデントを記録した。熱ドリフトを測定し、各圧痕について補正した。
【0079】
力変位曲線は、Journal of Materials Research,Volume 7,Issue 6,June 1992,pp.1564-1583,doi:https://doi.org/10.1557/JMR.1992.1564に記載されているOliver-Pharr法に基づくソフトウェアを使用して分析した。まず、曲線を第1の接触点にシフトさせた。0変位は、接近/装填中の反発力の開始として定義した。減少した弾性率E
rは、式
に従って決定され、Sは初期除荷剛性であり、Aはピーク荷重での投影接触面積である。この目的のために、記録された力変位曲線の実験的に測定された除荷曲線に線形フィットを適用し、
を利用することによってSを決定し、式中、dPは適用された力差であり、dhは変位差である。上側および下側の適合範囲は、除荷曲線の95~60%に設定された。Aは、
(理想的なビッカース圧子)を利用して計算し、それによって、h
cは
で与えられ、h
maxおよびP
maxはそれぞれ最大変位および最大印加荷重である。試料の弾性率Eは、
(式中、E
iおよびv
iはそれぞれ圧子の弾性率およびポアソン比である)に従って計算した。利用された圧子について、弾性率E
iは、1140GPaであり、ポアソン比v
iは、0.07であった。vは、試料のポアソン比であり、これは本明細書で分析された試料について0.3として定義された。硬度を
として計算し、降伏強度σ
yを
として計算した。次いで、各試料の複数の実行された圧痕についてこのように決定された弾性率、降伏強度および硬度を平均した(算術平均)。表1は、調査した固体電解質材料の決定された平均弾性率、降伏強度および硬度値ならびに標準偏差を報告する。
【0080】
インピーダンス分光法
得られた固体電解質材料の電気化学インピーダンス分光法を以下のようにして行った:
【0081】
測定配置は、2つの円筒電極を備え、その間に試料を置いた。電極との最適な接触および再現可能な収縮圧力を確保するために、試料の上に重りを置いた。ポテンショスタット(ZAHNER-elektrik I.Zahner-Schiller GmbH&Co.KG(クローナハ-グンデルスドルフ、ドイツ))を電極に接続し、Thalesソフトウェア(ZAHNER)によって制御した。測定は、研磨され、Auの薄い伝導層でスパッタリングされた試料に対して、5mVの振幅を使用して1Hz~4MHzの周波数範囲で行った。
【0082】
測定結果をナイキスト線図の形状でプロットし、ソフトウェアAnalysis(ZAHNER)を使用して分析した。電気抵抗は、ナイキスト線図の曲線最大値で読み取った。次いで、比伝導率σ[mS/cm]を式
に基づいて計算し、hはmm単位のプレートの高さであり、RはΩ単位の測定された電気抵抗であり、dはmm単位の直径である。決定した比伝導率σを、調査した固体電解質材料について表1に報告する。
【0083】
【0084】
表1に示す結果から明らかなように、本発明によるプロセスにおける火炎熱分解と電界支援焼結との組合せは、従来の市販の粒状前駆体材料に基づく参照材料と比較して機械的特性が向上した固体電解質材料を提供する。特に、実施例1および2の固体電解質材料は、比較例と比較して非常に高い弾性率によって特徴付けられる。いかなる理論にも拘束されることを意図するものではないが、これに対する1つの理由は、比較例1の従来の粒状材料(表1ならびに
図2および
図3を参照されたい)と比較して、本明細書に開示される火炎熱分解によって得られる粒状前駆体材料の有意に小さい粒径およびより狭い粒径分布にあり得ると考えられる。粒子が小さいほど、固体電解質材料の粒度が低減され、これによりマイクロクラックの形成確率が低下し、したがって機械的破壊に対する信頼性が向上し得ると考えられる。実施例1および2の弾性率E、硬度および降伏強度の比較はさらに、電界支援焼結の前の粒状前駆体材料の焼成処理が、得られた固体電解質材料の機械的特性をさらに改善しないことを実証している。したがって、火炎熱分解から得られた粒状前駆体材料は、いかなる中間処理ステップもなしに電界支援焼結に供することができ、それでもなお有益な機械的特性、特に非常に高い弾性率を有する固体電解質材料を提供することができる。さらに、本発明によるプロセスによって製造された固体電解質材料の比伝導率は、典型的には10
-5~10
-3S/cm程度の比伝導率を呈する同様の組成を有する従来の固体電解質材料に匹敵する大きさである。したがって、本発明のプロセスは、非常に高い弾性率を含む向上した機械的特性を呈すると同時に、競争力のある伝導性を有する固体電解質材料を提供する。
【0085】
さらに、実施例1および比較例1により得られた固体電解質材料を、1.5406nmになる波長でX線回折によりその結晶構造について分析した。半定量分析の結果を表2に示す。
【0086】
【0087】
表2において、化合物LiTi2P3O12は、LATPおよびLiTi2P3O12の結晶構造が同一であるので、イオン伝導性LATP(リチウム-アルミニウム-チタン-リン酸塩)を表す。
【0088】
実施例3
ネオデカン酸リチウムの形態の2重量%のリチウムを含む1336gの市販溶液(Borchers(登録商標)Deca Lithium2)、アルミニウム-エチルアセトアセテートの形態の4.5重量%のAlを含む699gの市販溶液(TIB KAT 851)、オルトチタン酸テトラプロピルの形態の16.5重量%のTiを含む1014gの市販溶液(TIB KAT 530)、テトラエトキシドの形態の28.7重量%のGeを含む131gの溶液、およびリン酸トリエチルの形態の16.66重量%の亜リン酸塩を含む1444gの市販溶液(Alfa Aesar)を含有する6.62kgの溶液と、50重量%のエチルヘキサン酸および50重量%のエタノールを含有する2000gの溶液とを混合して、透明な溶液を得た。この溶液は、Li1.45Al0.45Ge0.2Ti1.35P3O1(LAGTP)の組成に対応する。
【0089】
2.5kg/hのこの溶液と15Nm3/hの空気とのエアロゾルを二成分ノズルを介して形成し、燃焼炎を用いて管状反応物に噴霧した。火炎の燃焼ガスは、8.0Nm3/hの水素および75Nm3/hの空気からなる。さらに、25Nm3/hの二次空気を使用した。反応器の後、反応ガスを冷却し、濾過した。
【0090】
実施例3で得られたLAGTP前駆体材料を、前述と同じHoriba製のLA-950レーザ粒径分析計を使用して、レーザ散乱による粒径分布分析に供した。結果を
図4に示す。LAGTP前駆体の平均粒径は、d
50=90nmである。粒径分布は、単峰性である。
【0091】
実施例4
実施例3で得られた前駆体粉末は、非晶質である。より良好な焼結結果のために、アモルファス粉末は、700℃で5時間の追加の温度処理で結晶化される。温度処理の後、解凝集ステップが続く。得られたナノ粉末を放電プラズマ焼結する。焼結中、粉末を高温および高圧に供した。45MPaの圧力を加えた。温度レジームは、いくつかのセグメントを含む。第1の区間では、60K/分の加熱速度で300℃まで温度を上昇させる。第2のセグメントでは、40~50K/分の様々な加熱速度で650~950℃の焼結温度まで温度を上昇させる。1~30分の滞留時間の後、圧力を解放し、冷却相が開始する。
【0092】
実施例4で得られたLAGTP型焼結材料を、実施例1、2および比較例1と同じ方法および設備を使用して、粒径分布、機械的特性および比伝導率の測定に供した。結果を表3に示す。
【0093】
【国際調査報告】